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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】モータビルトイン方式のスピンドル装置
(51)【国際特許分類】
   B23B 19/02 20060101AFI20220511BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20220511BHJP
   B24B 41/04 20060101ALI20220511BHJP
   B24B 47/12 20060101ALI20220511BHJP
   F16C 33/80 20060101ALI20220511BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20220511BHJP
   F16C 35/12 20060101ALI20220511BHJP
   H02K 5/20 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B23B19/02 A
B23Q11/00 E
B24B41/04
B24B47/12
F16C33/80
F16C19/16
F16C35/12
H02K5/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018205653
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020069605
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小栗 翔一郎
(72)【発明者】
【氏名】松永 恭平
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-010204(JP,A)
【文献】特開2017-158240(JP,A)
【文献】国際公開第2013/100099(WO,A1)
【文献】特開2014-046408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 19/02
B23Q 11/00
B24B 41/04
B24B 47/12
F16C 33/80
F16C 19/16
F16C 35/12
H02K 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸をハウジングに対して回転自在にそれぞれ支持する前側軸受及び後側軸受と、
該前側軸受及び後側軸受との間で前記回転軸と一体回転可能に配置されるロータと、該ロータの周囲に配置されるステータと、を有するモータと、
を備えるモータビルトイン方式のスピンドル装置であって、
前記回転軸の前端部側に、前記回転軸に外嵌・固定されるボス部と、前記ボス部から径方向外方に延設された円盤部と、前記円盤部の外周部分から前記回転軸の後端部側に向かって延設された円環部とを有するフリンガーを備え、
前記円盤部及び円環部に対向する前記ハウジングの面と前記フリンガーとの間にはラビリンスシールを有し、
前記ハウジングは、前記後側軸受より後方に形成された後方空間に、前記スピンドル装置の外部から空気を流入させる開口孔を有し、
前記空気が、前記開口孔、前記後側軸受、前記モータが配置されるモータ室、及び前記前側軸受を経て前記ラビリンスシールに流れる空気流路を有している、モータビルトイン方式のスピンドル装置。
【請求項2】
回転軸と、
前記回転軸をハウジングに対して回転自在にそれぞれ支持する前側軸受及び後側軸受と、
該前側軸受及び後側軸受との間で前記回転軸と一体回転可能に配置されるロータと、該ロータの周囲に配置されるステータと、を有するモータと、
を備えるモータビルトイン方式のスピンドル装置であって、
前記回転軸の前端部側に、前記回転軸に外嵌・固定されるボス部と、前記ボス部から径方向外方に延設された円盤部と、前記円盤部の外周部分から前記回転軸の後端部側に向かって延設された円環部とを有するフリンガーを備え、
前記円盤部及び円環部に対向する前記ハウジングの面と前記フリンガーとの間にはラビリンスシールを有し、
前記ハウジングは、前記後側軸受より後方に形成された後方空間に、前記スピンドル装置の外部から空気を流入させる開口孔と、前記モータが配置されるモータ室と前記後方空間とを連通する連通孔とを備え、
前記空気が、前記開口孔、前記連通孔、前記モータ室、及び前記前側軸受を経て前記ラビリンスシールに流れる空気流路を有している、モータビルトイン方式のスピンドル装置。
【請求項3】
工作機械主軸用である、請求項1又は2に記載のモータビルトイン方式のスピンドル装置。
【請求項4】
研削盤主軸用である、請求項1又は2項に記載のモータビルトイン方式のスピンドル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータビルトイン方式のスピンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械等に適用されるスピンドル装置は、回転軸の先端に刃具を備え、高速回転して被加工物の切削加工や研削加工を行っている。一般的に加工に際しては、刃具および加工部位の潤滑や冷却を目的として、多量の加工液が加工部位に供給される。即ち、加工液の潤滑効果により、被削特性の向上、加工刃先の摩耗抑制、工具寿命の延長などが図られる。また、加工液の冷却効果により、刃具及び被加工物の熱膨張を抑制して、加工精度の向上や、加工部位の熱溶着を防止して加工効率の向上や加工面の表面性状の向上が図られる。
【0003】
しかしながら、スピンドル装置と加工部位との距離が近いこともあり、加工液がスピンドル装置の前面にも多量にかかることで問題が発生する場合がある。即ち、多量に供給される加工液が回転軸を支持する軸受内部に浸入することがあり、加工液が軸受内部に浸入した場合、軸受の潤滑不良や焼付きなどの原因となる。そのためスピンドル装置の防水性を高め、軸受内部への加工液浸入を防止する目的で様々な防水機構が、スピンドル装置に適用される。
【0004】
特に、工作機械に使用されるスピンドル装置では、軸受のdmn値が40万以上(より好ましくは50万以上)で使用される場合、スピンドル装置の前端部(工具側)に、回転軸と一体回転するフリンガーと呼ばれる非接触の防水機構が適用されることが多い。フリンガーは、当該フリンガーとハウジングとの間のすきまを狭くして、所謂ラビリンスシールを構成して防水性の向上を図るものである。これは、オイルシールやVシールなどの接触シールでは、高速回転時にシール接触部からの発熱が大きく、シール部材が摩耗して防水性能を長期間にわたって維持することが難しいためである。また、ラビリンスシール近傍から強制的にエアを吐出させて、エアシール効果により加工液の軸受内部への浸入を防止している。
【0005】
また、近年の工作機械用主軸においては、加工効率を向上させるために主軸回転数の高速化が進んできており、それに伴い、モータビルトイン方式のスピンドル装置が採用されてきている。例えば、特許文献1には、フリンガーを備えるモータビルトイン構造のスピンドル装置が開示されている。
【0006】
図8は、フリンガーを備える従来のモータビルトイン構造のスピンドル装置の一例を示す断面図である。このスピンドル装置100は、スピンドル装置100の内部にモータ101を有し、このモータ101を駆動させて回転軸102を回転させる。また、フリンガー105は、スピンドル装置100の前端部に、回転軸102と一体回転するように固定され、ハウジング103の前側外輪押さえ107との間にラビリンスシール部108を形成している。これにより、フリンガー105は、回転軸102とともに高速で一体回転するため、上記のラビリンス効果とともに、フリンガー105にかかる加工液を遠心力で径方向外方に振り飛ばして、スピンドル装置100の内部、特に、前側軸受109の内部への加工液の浸入を抑制する効果も有している。また、ハウジング103に穿孔されたエアシール経路111の一端111aをラビリンスシール部108に開口すると共に、該エアシール経路111の他端111bからエアを強制的に供給してラビリンスシール部108へ吐出させることで、エアシール効果を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-26900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、スピンドル装置は、高速回転に伴い、小型化が求められている。しかしながら、小型のスピンドル装置100では、図8に示すようなエアシール経路111をハウジング103に設けることが困難である。また、0.05MPa以上の強制的なエアを噴出するための設備も必要となり、近年要求されている省エネルギー化も満足することが難しい。
【0009】
また、小型化により、スピンドル装置100内部の空間容積が小さくなるため、前側及び後側軸受109、110やモータ101から発生する熱で、スピンドル装置100内部の温度が高くなりやすい。高温の空気は、潤滑オイルの粘度低下、グリースの固化等によりスピンドル装置100の寿命を低下させる可能性がある上、スピンドル装置100の熱膨張による加工精度の不安定化や、モータ101の熱損失による出力の低下が懸念される。モータ101の熱損失を低減するため、一般的には、スピンドル装置100の外径側を油または水で冷却する方式が採用されているが、スピンドル装置100の内部空気が熱い場合は、外径からの冷却だけでは十分に冷却できない虞がある。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、エアシール経路を設置することが難しい、比較的小型のスピンドルにおいても、加工精度が向上し、且つ、モータの熱損失を低減できるモータビルトイン方式のスピンドル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 回転軸と、
前記回転軸をハウジングに対して回転自在にそれぞれ支持する前側軸受及び後側軸受と、
該前側軸受及び後側軸受との間で前記回転軸と一体回転可能に配置されるロータと、該ロータの周囲に配置されるステータと、を有するモータと、
を備えるモータビルトイン方式のスピンドル装置であって、
前記回転軸の前端部側に固定されて、前記ハウジングとの間にラビリンスシールを形成するフリンガーを備え、
前記ハウジングは、前記後側軸受より後方に形成された後方空間に、前記スピンドル装置の外部からのエアを流入させる開口孔を有する、モータビルトイン方式のスピンドル装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモータビルトイン方式のスピンドル装置によれば、後側軸受より後方の後方空間に、スピンドル装置の外部からスピンドル装置の内部よりも低い温度の外部エアを流入させて、フリンガーとハウジングとの間のラビリンスシールから吐出させる空気循環を形成して、スピンドル装置の内部の温度を低下させることで、スピンドル装置の寿命を向上させと共に、加工精度の安定化や、モータの熱損失を低減させる。さらに、エアシール経路を設置することが難しい、比較的小型のスピンドル装置においても、専用のエアシール経路やエア供給装置を必要としない空気循環を形成することができ、安価で信頼性の高いスピンドル装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係るモータビルトイン方式のスピンドル装置の断面図である。
図2】第1実施形態の第1変形例に係るモータビルトイン方式のスピンドル装置の断面図である。
図3】第1実施形態の第2変形例に係るモータビルトイン方式のスピンドル装置の断面図である。
図4】第1実施形態の第3変形例に係るモータビルトイン方式のスピンドル装置の断面図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るモータビルトイン方式のスピンドル装置の断面図である。
図6】本発明の第2実施形態の第1変形例に係るモータビルトイン方式のスピンドル装置の断面図である。
図7】本発明の第2実施形態の第2変形例に係るモータビルトイン方式のスピンドル装置の断面図である。
図8】従来のスピンドル装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るモータビルトイン方式のスピンドル装置の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明においては、回転軸の工具が取り付けられる側(工具側)を前側、工具側と反対側を後側とも言う。
【0015】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のモータビルトイン方式のスピンドル装置の断面図である。
図1に示すように、工作機械主軸用のモータビルトイン方式のスピンドル装置10(以下、単に「スピンドル装置10」とも言う)では、回転軸11が、その工具側(図1において左側)に配置される2列の前側軸受50,50と、反工具側(図1において右側)に配置される2列の後側軸受60,60とによって、ハウジングHに回転自在に支持されている。ハウジングHは、工具側から順に、前側ハウジング12、外筒13、後側ハウジング14、及び後蓋15によって主に構成されており、不図示のボルトによってそれぞれ締結固定されている。
【0016】
各前側軸受50は、外輪51と、内輪52と、接触角を持って配置される転動体としての玉53と、図示しない保持器と、をそれぞれ有するアンギュラ玉軸受であり、各後側軸受60は、外輪61と、内輪62と、接触角を持って配置される転動体としての玉63と、図示しない保持器と、を有するアンギュラ玉軸受である。前側軸受50,50(並列組合せ)と後側軸受60,60(並列組合せ)とは、互いに協働して背面組み合わせとなるように配置されている。
【0017】
前側軸受50,50の外輪51,51は、前側ハウジング12に内嵌されており、また、前側ハウジング12に形成された雌ねじ27に螺合固定された前側外輪押さえ16によって、外輪間座54を介して前側ハウジング12に対し軸方向に位置決め固定されている。なお、雌ねじ27は、前側ハウジング12の外輪51、51が内嵌される部分の前端面12aから前方に突出して、後述するフリンガー40と対向する前側筒部12bの内周面に形成されている。
【0018】
また、前側軸受50,50の内輪52,52は、回転軸11に外嵌されており、回転軸11に締結されたナット17によって、後述するフリンガー40及び内輪間座55を介して回転軸11に対し軸方向に位置決め固定されている。
【0019】
後側軸受60,60の外輪61,61は、後側ハウジング14に対して軸方向に摺動自在に内嵌するスリーブ18に内嵌すると共に、このスリーブ18に不図示のボルトで一体的に固定された後側外輪押さえ19によって、外輪間座64を介してスリーブ18に対し軸方向に位置決め固定されている。
【0020】
後側軸受60,60の内輪62,62は、回転軸11に外嵌されており、また、回転軸11に締結された他のナット21によって、内輪間座65、65を介して回転軸11に対し軸方向に位置決め固定されている。後側ハウジング14と後側外輪押さえ19との間にはコイルばね23が配設され、このコイルばね23のばね力が、後側外輪押さえ19をスリーブ18と共に後方に押圧する。これにより、前側軸受50、50及び後側軸受60,60に予圧が付与される。
【0021】
回転軸11の工具側には、軸中心を通り軸方向に形成された不図示の工具取付孔及び雌ねじが設けられている。工具取付孔及び雌ねじは、刃具などの不図示の工具を回転軸11に取付けるために使用される。なお、工具取付孔及び雌ねじの代わりに、回転軸11の軸芯に従来公知のドローバー(図示せず)を摺動自在に挿嵌するようにしてもよい。ドローバーは、いずれも不図示の工具ホルダを固定するコレット部を備え、皿ばねの力によって反工具側方向に付勢する。
【0022】
回転軸11の前側軸受50,50と後側軸受60,60間の軸方向略中央には、回転軸11と一体回転可能に配置されるロータ31と、ロータ31の周囲に配置されるステータ32とを備えるモータ30が配設されている。ステータ32は、ステータ32に焼き嵌めされた冷却ジャケット33を、ハウジングHを構成する外筒13に内嵌することで、外筒13に固定される。
【0023】
ステータ32のコイルに接続されてステータ32に電力を供給する電線35は、後側ハウジング14、及び後蓋15に設けられた配索孔36a、36bに挿通されて外部電源に接続されている。モータ30は、電線35を介してステータ32に電力を供給することでロータ31に回転力を発生させて回転軸11を回転させる。モータ30は、回転軸11の周囲で、前側ハウジング12、外筒13、後側ハウジング14及びスリーブ18によって囲まれた空間であるモータ室34内に収容されている。
【0024】
後蓋15は、後端部に形成された開口部分15aを塞ぐ開口カバー28を有し、回転軸11の後方には、主に、後側ハウジング14、後蓋15、及びスリーブ18で形成された後方空間45が設けられている。開口カバー28には、後方空間45とスピンドル装置10の外部とを接続する開口孔71が形成されている。開口孔71は、スピンドル装置10の外部からのエアを流入させるための孔である。
【0025】
フリンガー40は、上述したように、前側軸受50,50より工具側(図中左側)で、回転軸11の前端部側に外嵌し、ナット17で内輪52,52と共に回転軸11に固定されている。
【0026】
フリンガー40は、回転軸11に外嵌されるボス部41と、ボス部41から径方向外方に延設された円盤部42と、該円盤部42の外周部から後方に向かってリング状に延設された円環部43と、を有する。
【0027】
円盤部42の軸方向内側面は、前側ハウジング12、及び前側外輪押さえ16の前端面と、僅かな軸方向隙間、例えば0.5mm程度の隙間を介して軸方向に対向配置され、円環部43の内周面が、前側ハウジング12の外周面と、僅かな径方向隙間、例えば0.5mm程度の隙間を介して径方向に対向配置される。これにより、フリンガー40は、前側ハウジング12及び前側外輪押さえ16との間で、所謂ラビリンスシール44を構成する。
【0028】
上記により、前側ハウジング12の外周部には、フリンガー40によってエアカーテンが形成され、被加工物を加工する際、スピンドル装置10に降りかかる加工液が前側軸受50,50側に入ることを抑制するための防水機構を構成する。また、ラビリンスシール44に加工液や粉塵が侵入したとしても、フリンガー40の遠心力による振り切り効果で、円環部43から外部に排出することができ、回転軸11の内部に加工液や粉塵が侵入するのを防止することができる。
【0029】
ところで、このようなスピンドル装置10では、モータ駆動時に発生する種々の損失によりモータ30において熱エネルギーが発生する。また、回転軸11が高速回転することで、前側軸受50及び後側軸受60の温度も上昇する。この熱エネルギーによって、ハウジングHの内部では、特に、モータ30が収容されるモータ室34の空気が加熱されて高温の空気となる。さらに、スピンドル装置10は、外部から空気や水分、ゴミ等が極力入り込まないように設計されるのが一般的なため、回転軸11の前部に設けられたラビリンスシール44を除いては、スピンドル装置10の内部空間が外部と繋がるような穴等が開いていないことが多い。そのため、上記の高温空気によりスピンドル装置10の内部空間(特に、モータ室34)は、外部に比べて圧力が高くなる。
【0030】
一方、フリンガー40の近傍は、回転軸11の回転中に最も周速が速くなる部分であり、フリンガー40近傍の空気はフリンガー40の回転に連れ回る。ベルヌーイの定理によると、流体の速度が増加するとその圧力は低下する。すなわち、スピンドル装置10中で最も周速の速いフリンガー40の回転に連れ回る空気は、スピンドル装置10の近傍の空気中で最も速度が高くなるため、その圧力も最も低くなる。
【0031】
上記のように、モータ30で発生した熱エネルギーによりモータ室34内の空気の圧力が高くなる一方、フリンガー40の回転によりフリンガー40近傍の空気の圧力が低くなることで、スピンドル装置10の内部においては、モータ室34からスピンドル装置10の前面方向(フリンガー40に向かう方向)に空気が流れる現象が発生する。
【0032】
また、この場合、スピンドル装置10の内部空間とラビリンスシール44とをつなぐ空間の途中には前側軸受50が位置しているため、回転軸11の回転中にモータ室34の高温空気が前側軸受50内の隙間を通過する。この高温空気の通過、つまり、高温の空気が前側軸受50内部を通過することにより軸受50の内部温度が上昇して、軸受50の使用環境が苛酷なものとなる。特に、最高回転数での使用頻度が多い高速回転主軸などにおいては、軸受内部の昇温による潤滑剤の熱的劣化や粘度低下による潤滑剤の流出が進展し易く、潤滑寿命が短くなるので、軸受の早期損傷につながる可能性があった。
【0033】
しかしながら、本実施形態では、開口カバー28には、後方空間45とスピンドル装置10の外部と接続する開口孔71が形成されるため、フリンガー40近傍の空気の圧力が低くなる。これにより、スピンドル装置10には、矢印Aで示すように、開口孔71、後側軸受60,60、モータ室34、前側軸受50,50、ラビリンスシール44を通る空気流路が形成されて、開口孔71から導入された外部の空気(スピンドル内部より低い温度の空気)がスピンドル装置10の後方から前方に向かって流れるので、上述の熱的劣化の不具合を解消することができる。
なお、電線35が挿通される、後側ハウジング14の配索孔36aを介して、開口孔71から導入された外部の空気がモータ室34に流通してもよい。
【0034】
また、本実施形態のフリンガー40は、円環部43が前側ハウジング12の外周面を覆うように形成されており、図8に示す従来のスピンドル装置100のフリンガー105より大きい直径を有している。このため、円環部43の周速が大きく、フリンガー40近傍の圧力も従来のフリンガー105近傍の圧力より低くなって、多くの空気がスピンドル装置10内を後方から前方に向かって流れる。また、これにより、フリンガー105近傍に形成されるエアカーテンによりエアシール効果が得られる。
【0035】
即ち、スピンドル装置10の外部からスピンドル装置10の内部よりも低い温度の外部エアを流入させてラビリンスシール44から吐出させることで、前側軸受50を含むスピンドル装置10の内部(特に、モータ室34)を冷却することができる。この結果、前側軸受50の異常温度上昇を抑制して前側軸受50の早期損傷を抑制すると共に、温度上昇に伴う加工精度の不安定化を抑制し、モータの熱損失を低減させることができる。
【0036】
また、スピンドル装置10内を後方から前方に向かう空気の流れは、フリンガー40の回転によりラビリンスシール44に発生する圧力低下によって生じるので、エアを強制的に送るためのエア供給装置を必要とせず、省エネルギであると共に構造が簡素化される。さらに、エアシール経路を設置することが難しい、比較的小型のスピンドル装置においても、空気循環を形成することができ、安価に信頼性の高いスピンドル装置が得られる。
【0037】
なお、本実施形態の第1変形例として、図2に示すように、開口カバー28には、管用テーパねじタップや、メートルねじタップなどの雌ねじ72によって開口孔が形成されてもよい。
また、本実施形態の第2変形例として、図3に示すように、この雌ねじ72には、サイレンサなどのフィルタ部材73が取り付けられて、スピンドル装置10内にゴミやミストなどの異物の侵入が防止されてもよい。
【0038】
さらに、本実施形態の第3変形例では、図4に示すように、この雌ねじ72に、工作機械の外部のエアを取り込むように樹脂製チューブ74が接続されて、スピンドル装置10内にゴミやミストなどの異物の侵入が防止されてもよい。
【0039】
(第2実施形態)
次に、スピンドル装置の第2実施形態について図5を参照して説明する。図5に示すように、本実施形態のスピンドル装置10Aは、第1実施形態のスピンドル装置10の構成に加えて、後側ハウジング14に、モータ室34と後方空間45とを連通する連通孔24が設けられている。したがって、フリンガー40の回転によりラビリンスシール44に発生する圧力低下によって、より多くの外部エアをモータ室34に供給することができ、効率的にモータ室34を冷却できる。
なお、本実施形態、及び図6及び図7に示す変形例では、図示しない位相に、後側ハウジング14と後側外輪押さえ19との間のコイルばね23が配設されている。
その他の構成及び作用については、本発明の第1実施形態と同様である。
【0040】
また、モータ室34内の高温空気は、上方になるほど温度が高い空気が滞留する。このため、回転軸11が水平状態で使用されるスピンドル装置10の場合、連通孔24をモータ室34の上方部分に接続することで、モータ室34内の高温空気を外部エアにより効率よく冷却することが好ましい。
なお、連通孔24は、円周方向に複数形成されてもよい。
【0041】
なお、本実施形態の第1変形例として、図6に示すように、後側ハウジング14に形成される連通孔24の代わりに、スリーブ18及び後側外輪押さえ19に、モータ室34と後方空間45とを連通する連通孔25,26が設けられてもよい。この場合も、フリンガー40の回転によりラビリンスシール44に発生する圧力低下によって、より多くの外部エアをモータ室34に供給することができ、効率的にモータ室34を冷却できる。
【0042】
また、本実施形態の第2変形例として、図7に示すように、後側ハウジング14にモータ室34と後方空間45とを連通する連通孔24が設けられると共に、スリーブ18及び後側外輪押さえ19にモータ室34と後方空間45とを連通する連通孔25,26が設けられてもよい。
【実施例
【0043】
以下、本発明の効果を確認するため、実施例として図1に示すスピンドル装置と、比較例として、開口カバー28に開口孔71を備えない点以外は、実施例と同一構成のスピンドル装置例とを用いて、試験を行った。
【0044】
(評価方法)
評価方法としては、研削液をフリンガー40とハウジングHとのすきまに直接振り掛けて、スピンドル装置10の内部への研削液の浸入の有無を確認した。フリンガー40とハウジングHとのすきまに振り掛ける研削液の量は、3L/min、5L/min、10L/minの3種類とした。実施例と比較例の結果を比較して表1に示す。ラビリンスシール及び軸受内に研削液が浸入した場合を×とし、ラビリンスシール及び軸受内に研削液が浸入しない場合を〇としている。
【0045】
【表1】
【0046】
表1から分かるように、比較例のスピンドル装置では、ラビリンスシールにかける研削液の量が3L/minでも、ラビリンスシール及び軸受内に研削液が浸入したが、実施例のスピンドル装置では、10L/minの研削液を振り掛けてもラビリンスシール及び軸受内への研削液の浸入は認められなかった。従って、本発明の有効性が実証された。
【0047】
尚、本発明は、前述した各実施形態及び変形例に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。
例えば、本発明のモータビルトイン方式のスピンドル装置は、研削盤主軸用としても好適に使用できる。
【0048】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 回転軸と、
前記回転軸をハウジングに対して回転自在にそれぞれ支持する前側軸受及び後側軸受と、
該前側軸受及び後側軸受との間で前記回転軸と一体回転可能に配置されるロータと、該ロータの周囲に配置されるステータと、を有するモータと、
を備えるモータビルトイン方式のスピンドル装置であって、
前記回転軸の前端部側に固定されて、前記ハウジングとの間にラビリンスシールを形成するフリンガーを備え、
前記ハウジングは、前記後側軸受より後方に形成された後方空間に、前記スピンドル装置の外部からのエアを流入させる開口孔を有する、モータビルトイン方式のスピンドル装置。
この構成によれば、後側軸受より後方の後方空間に、スピンドル装置の外部からスピンドル装置の内部よりも低い温度の外部エアを流入させてラビリンスシールから吐出させる空気循環を形成することができ、スピンドル装置の内部の温度を低下させて、スピンドル装置の寿命を向上させることができる。また、これにより、加工精度の安定化や、モータの熱損失を低減させることができる。さらに、エアシール経路を設置することが難しい、比較的小型のスピンドル装置においても、専用のエアシール経路やエア供給装置を必要としない空気循環を形成することができ、安価に信頼性の高いスピンドル装置が得られる。
【0049】
(2) 前記ハウジングは、前記モータが配置されるモータ室と、前記後方空間とを連通する連通孔をさらに備える、(1)に記載のモータビルトイン方式のスピンドル装置。
この構成によれば、スピンドル装置の外部から流入する温度の低い外部エアを積極的にモータ室に供給することができ、モータ室の温度を効果的に低下させることができる。
【0050】
(3) 前記ハウジングは、前記前側軸受の外輪が内嵌される前側ハウジングと、前記前側ハウジングに固定されて前記外輪を軸方向に位置決めする前側外輪押さえと、を有し、
前記フリンガーは、前記前側ハウジングの外周面又は前記前側外輪押さえの外周面との間にラビリンスシールを形成する円環部を有する、(1)又は(2)に記載のモータビルトイン方式のスピンドル装置。
この構成によれば、フリンガーの外径を大きくすることでフリンガー近傍の圧力をより低下させて、多量の外部エアをスピンドル装置の内部に循環させることができる。またこれによって、スピンドル装置の内部温度を低下させることができる。
【0051】
(4) 工作機械主軸用である、(1)~(3)のいずれかに記載のモータビルトイン方式のスピンドル装置。
この構成によれば、工作機械主軸用として好適に使用できる。
【0052】
(5) 研削盤主軸用である、(1)~(3)のいずれかに記載のモータビルトイン方式のスピンドル装置。
この構成によれば、研削盤主軸用として好適に使用できる。
【符号の説明】
【0053】
10,10A モータビルトイン方式のスピンドル装置
11 回転軸
12 前側ハウジング
16 前側外輪押さえ
24,25,26 連通孔
30 モータ
31 ロータ
32 ステータ
34 モータ室
40 フリンガー
41 ボス部
42 円盤部
43 円環部
44 ラビリンスシール
45 後方空間
50 前側軸受
51 外輪
52 内輪
53 玉
60 後側軸受
61 外輪
62 内輪
63 玉
71 開口孔
H ハウジング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8