(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】試料の製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2202 20180101AFI20220511BHJP
G01N 23/223 20060101ALI20220511BHJP
G01N 1/36 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N23/2202
G01N23/223
G01N1/36
(21)【出願番号】P 2018237042
(22)【出願日】2018-12-19
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】秋山 剛志
(72)【発明者】
【氏名】大和 亮介
【審査官】今浦 陽恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-108778(JP,A)
【文献】特開2006-242600(JP,A)
【文献】特開平10-068684(JP,A)
【文献】特開平11-174004(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - 23/2276
G01N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光X線分析で用いられる試料の製造方法であって、
環状に形成された型内に、試料粉末を供給する工程と、
押圧具を前記型内に挿入することによって前記押圧具で前記試料粉末をプレスする工程と、
前記押圧具を前記型内から抜き出すことによって前記押圧具による前記試料粉末のプレスを解除する工程と、を備え
、
前記試料粉末を供給する工程では、前記型として、円環状でかつその径方向に弾性変形可能なものが用いられ、
前記試料粉末をプレスする工程では、前記試料粉末が前記型を前記径方向の外向きに弾性変形させるように前記型内において前記押圧具によって前記試料粉末がプレスされる、試料の製造方法。
【請求項2】
前記試料粉末を供給する工程では、前記試料粉末として単一の組成からなるものを前記型内に供給する、請求項
1に記載の試料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光X線分析に用いられる試料の製造方法として、試料粉末に荷重を加えることによって当該試料粉末を押し固める方法が知られている。例えば、特許第3727252号公報(以下、「特許文献1」という。)には、リング状の試料保持部材を固定台上に置き、試料保持部材の中心部分に、試料保持部材の厚みよりも厚く試料粉末を充填した後、加圧装置で試料保持部材と試料粉末とをまとめて上からプレスすることによってペレット上に一体成形し、蛍光X線分析用試料を製造する方法が記載されている。加圧装置によるプレス後、試料保持部材の厚さは、プレス前の試料保持部材の厚さには戻らないものの、プレス中の試料保持部材の厚さよりは大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載される試料の製造方法では、試料粉末として、硫酸バリウム(BaSO4)の粉末等、プレス後における保形成の比較的低いものが用いられると、輸送時の振動等に起因して試料粉末に割れが生じるおそれがある。換言すれば、特許文献1に記載される試料の製造方法では、輸送中の振動等に耐え得る程度の強度を有する試料粉末を備える試料を製造することが困難である。
【0005】
本発明の目的は、外力が作用した際における試料粉末の割れを抑制可能な試料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に従った試料の製造方法は、蛍光X線分析で用いられる試料の製造方法であって、環状に形成された型内に試料粉末を供給する工程と、押圧具を前記型内に挿入することによって前記押圧具で前記試料粉末をプレスする工程と、前記押圧具を前記型内から抜き出すことによって前記押圧具による前記試料粉末のプレスを解除する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
以上に説明したように、この発明によれば、外力が作用した際における試料粉末の割れを抑制可能な試料の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態の試料の製造方法の粉末供給工程後の状態を示す断面図である。
【
図3】プレス解除工程後における試料の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
この発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0010】
本実施形態の試料1の製造方法は、粉末供給工程と、プレス工程と、プレス解除工程と、を含んでいる。
図1は、本発明の一実施形態の試料の製造方法の粉末供給工程後の状態を示す断面図である。
図2は、プレス工程を示す断面図である。
図3は、プレス解除工程後における試料の断面図である。この製造方法により製造された試料1(
図3を参照)は、蛍光X線分析装置で分析される。
【0011】
粉末供給工程では、環状に形成された型10内に、試料粉末20が供給される。本実施形態では、試料粉末20として、硫酸バリウム(BaSO4)が用いられている。なお、試料粉末20として、硫酸バリウムの他、比較的保形成の低い組成からなるもの(酸化アルミニウムの微粉末や、炭酸カルシウム等)が用いられることも可能である。
【0012】
型10は、円環状に形成されている。型10は、当該型10の径方向に弾性変形可能である。本実施形態では、型10は、硬質の塩化ビニル(PVC)で形成されている。型10の外径は、42mmに設定されており、型10の内径は、35mmに設定されている。また、型10の高さ(型10の軸方向の寸法)、16mmに設定されている。ただし、型10の径や高さは、これに限られない。型10は、固定台11上に載置されている。
【0013】
プレス工程では、押圧具30を型10内に挿入することによって押圧具30で試料粉末20がプレスされる。換言すれば、この工程では、押圧具30によって型10はプレスされない。具体的に、押圧具30は、円柱状に形成されており、押圧具30の外径は、型10の内径と同じかそれよりも小さく設定されている。本実施形態では、
図2に示されるように、プレス工程では、試料粉末20が型10をその径方向の外向きに弾性変形させるように、型10内において押圧具30によって試料粉末20が型10の軸方向に沿ってプレスされる。押圧具30によるプレス荷重は、例えば数kNに設定される。
【0014】
プレス解除工程では、押圧具30を型10内から抜き出すことによって押圧具30による試料粉末20のプレスが解除される。このとき、型10は、当該型10の復元力によってその径方向の内向きに収縮する。この収縮により、型10から試料粉末20に対して力F(
図3を参照)が作用した状態が維持される。このようにして、型10と、型10内において押し固められた状態の試料粉末20と、を有する試料1が製造される。
【0015】
以上のように、本実施形態の試料の製造方法では、型10内に挿入された押圧具30によって試料粉末20がプレスされるため、換言すれば、押圧具30によって型10がプレスされないため、押圧具30によるプレスが解除された状態において、型10から試料粉末20に対して作用する力Fが確保される。具体的に、試料粉末20がプレスされると、試料粉末20から型10に対してプレス方向と直交する方向(型10の径方向)に力が作用するとともに、その反力が型10から試料粉末20に作用する。この反力は、型10内における試料粉末20の保持ないし保形に寄与している。ここで、従来のように試料粉末と型とをまとめてプレスする製造方法では、プレス後の型の厚さは、プレス前における型の厚さよりも小さくなることから、プレス後における型の径はプレス前におけるそれよりも大きくなっており、そのためにプレス後において型から試料粉末に作用する反力も低減している。これに対し、本製造方法では、型10がプレスされずに試料粉末20がプレスされるため、つまり、プレスによって型10の外形が大きくなるように当該型10が塑性変形することが回避されるため、プレスの解除後において型10から試料粉末20に対して作用する反力が大きく確保される。よって、試料粉末20が型10内において有効に押し固められた状態に維持されるため、輸送時の振動等に起因して試料粉末20に割れ等が発生することが抑制される。
【0016】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0017】
例えば、試料粉末20として、硫酸バリウムのみからなるものではなく、硫酸バリウムに対してバインダーとしてホウ酸が添加されたものが用いられてもよい。ただし、上記実施形態のように試料粉末20が硫酸バリウムのみからなる場合、ホウ酸が添加されることによるバリウムの蛍光X線の強度低下が回避されるため、感度係数の精度が高まる。
【0018】
また、型10は、円筒状(円環状)に限らず、多角筒状に形成されてもよい。
【0019】
以上に説明した上記実施形態は、例えば以下の開示を含む。なお、以下の記載は、説明のためになされるものであり、本発明を限定するものではない。
【0020】
[第1の態様]
蛍光X線分析で用いられる試料1の製造方法であって、環状に形成された型10内に試料粉末20を供給する工程と、押圧具30を前記型10内に挿入することによって前記押圧具30で前記試料粉末20をプレスする工程と、前記押圧具30を前記型10内から抜き出すことによって前記押圧具30による前記試料粉末20のプレスを解除する工程と、を備える。
【0021】
本実施形態の製造方法では、型内に挿入された押圧具によって粉末試料がプレスされるため、換言すれば、押圧具によって型がプレスされないため、押圧具によるプレスが解除された状態において、型から試料粉末に対して作用する力が確保される。よって、試料粉末が型内において有効に押し固められた状態に維持されるため、輸送時の振動等に起因して試料粉末に割れ等が発生することが抑制される。
【0022】
[第2の態様]
前記第1の態様に係る実施形態おいて、前記試料粉末20を供給する工程では、前記型10として、円環状でかつその径方向に弾性変形可能なものが用いられ、前記試料粉末20をプレスする工程では、前記試料粉末20が前記型10を前記径方向の外向きに弾性変形させるように前記型10内において前記押圧具30によって前記試料粉末20がプレスされる。
【0023】
このようにすれば、押圧具によるプレスが解除された際に、型がその径方向の内向きに収縮する。この収縮によって型から試料粉末に作用する反力が大きくなるため、試料粉末がより強固に固まる。
【0024】
[第3の態様]
前記第1の態様または前記第2の態様に係る実施形態おいて、前記試料粉末20を供給する工程では、前記試料粉末20として単一の組成からなるものを前記型10内に供給する。
【0025】
このようにすれば、試料粉末に他の組成からなるものがバインダーとして添加される場合に比べ、試料の感度係数の精度が高まる。
【符号の説明】
【0026】
1 試料、10 型、11 固定台、20 試料粉末、30 押圧具。