(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 5/00 20060101AFI20220511BHJP
B60C 9/18 20060101ALI20220511BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20220511BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220511BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B60C5/00 F
B60C9/18 M
B60C11/00 B
B60C11/00 D
B60C1/00 A
B60C9/22 C
(21)【出願番号】P 2019086336
(22)【出願日】2019-04-26
(62)【分割の表示】P 2018513041の分割
【原出願日】2017-12-12
【審査請求日】2020-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2017010922
(32)【優先日】2017-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雅子
(72)【発明者】
【氏名】河地 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】山田 亜由子
(72)【発明者】
【氏名】中寺 恵一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博
(72)【発明者】
【氏名】大野 秀一朗
(72)【発明者】
【氏名】向口 大喜
(72)【発明者】
【氏名】田中 健宏
(72)【発明者】
【氏名】前川 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】遠矢 昴
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139084(WO,A1)
【文献】特開2006-306302(JP,A)
【文献】特開2016-094552(JP,A)
【文献】特開2004-285152(JP,A)
【文献】国際公開第2003/103989(WO,A1)
【文献】特開平06-297909(JP,A)
【文献】特開平02-234807(JP,A)
【文献】特開平08-142606(JP,A)
【文献】特開2009-161072(JP,A)
【文献】特開2013-112062(JP,A)
【文献】特開2000-080205(JP,A)
【文献】特開平11-286566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 5/00
B60C 9/18
B60C 11/00
B60C 1/00
B60C 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、
前記カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるベルト層と、
前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側に配されたトレッドゴムとを備えた空気入りタイヤであって、
周波数10Hz、初期伸張歪10%、及び、動歪の振幅±2%の条件で測定された0℃での前記トレッドゴムの損失正接tanδが0.4以上であり、
前記トレッド部の内腔面に配された多孔質状の制音体を有し、
前記制音体のガラス転移温度が
-55℃~-45℃であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記制音体の密度は、10~40kg/m
3である請求項1記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記制音体の体積V1は、タイヤ内腔の全体積V2の0.4~30%である請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記制音体の引張強さは、70~115kPaである請求項1乃至3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
タイヤ軸方向の幅W1が、前記ベルト層のタイヤ軸方向の幅W2の60~130%である制振ゴム体を、前記トレッド部の内部に有する請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記制振ゴム体は、前記カーカスと前記ベルト層の間に配されている請求項5記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記ベルト層の半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるバンド層を有し、
前記制振ゴム体は、前記ベルト層と前記バンド層の間に配されている請求項5記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記ベルト層の半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるバンド層を有し、
前記制振ゴム体は、前記バンド層のタイヤ半径方向の外側に配されている請求項5記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記制振ゴム体のタイヤ半径方向の厚さは、0.3mm以上である請求項5乃至8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記制振ゴム体の硬度H1と前記トレッドゴムの硬度H2との関係は、0.5 ≦ H1/H2 ≦ 1.0である請求項5乃至9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記トレッドゴムの0℃での損失正接tanδは、0.4以上であり、かつ、70℃での損失正接tanδは、0.2以下である請求項1乃至10のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記トレッドゴムは、(1.4×カーボンブラック含有量(phr)+シリカ含有量(phr))/硫黄含有量(phr)の値が20以上のゴム組成体である請求項1乃至11のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部の内腔面に制音体が配された空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、空気入りタイヤの走行ノイズを抑制する技術として、特許文献1に示されるように、トレッド部の内腔面にスポンジ材からなる制音体が配された空気入りタイヤが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、寒冷時の走行にあっては、上記制音体が硬化して、空気の振動エネルギーを熱エネルギーに十分に変換できなくなり、走行ノイズの低減効果が制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、寒冷時の走行にあっても、走行ノイズを抑制できる空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部からサイドウォール部を経てビード部のビードコアに至るカーカスと、前記カーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるベルト層とを備えた空気入りタイヤであって、前記トレッド部の内腔面に配された多孔質状の制音体を有し、前記制音体のガラス転移温度が-55℃~-45℃であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制音体の密度は、10~40kg/m3であることが望ましい。
【0008】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制音体の体積V1は、タイヤ内腔の全体積V2の0.4~30%であることが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制音体の引張強さは、70~115kPaであることが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、タイヤ軸方向の幅W1が、前記ベルト層のタイヤ軸方向の幅W2の60~130%である制振ゴム体を、前記トレッド部の内部に有することが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制振ゴム体は、前記カーカスと前記ベルト層の間に配されていることが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層の半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるバンド層を有し、前記制振ゴム体は、前記ベルト層と前記バンド層の間に配されていることが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層の半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されるバンド層を有し、前記制振ゴム体は、前記バンド層のタイヤ半径方向の外側に配されていることが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制振ゴム体のタイヤ半径方向の厚さは、0.3mm以上であることが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記制振ゴム体の硬度H1と前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側に配されたトレッドゴムの硬度H2との関係は、0.5 ≦ H1/H2 ≦ 1.0であることが望ましい。
【0016】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側に配されたトレッドゴムの0℃での損失正接tanδは、0.4以上であり、かつ、70℃での損失正接tanδは、0.2以下であることが望ましい。
【0017】
本発明に係る前記空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層のタイヤ半径方向の外側に配されたトレッドゴムは、(1.4×カーボンブラック含有量(phr)+シリカ含有量(phr))/硫黄含有量(phr)の値が20以上のゴム組成体であることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の空気入りタイヤによれば、トレッド部の内腔面に制音体が配されているので、タイヤ内腔での空洞共鳴が抑制され、空気入りタイヤの走行ノイズが低減される。さらに本発明では、制音体のガラス転移温度が-55℃~-45℃であるので、低温下での制音体の柔軟性が維持される。これにより、寒冷時の走行にあっても、制音体が空気の振動エネルギーを熱エネルギーに効果的に変換し、走行ノイズが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明の空気入りタイヤの別の実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明の空気入りタイヤの別の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。ここで、正規状態とは、タイヤを正規リムRMにリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0021】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim"、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0022】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。タイヤが乗用車用である場合、現実の使用頻度などを考慮して一律に200kPaとする。
【0023】
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある)1は、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内方に配されるベルト層7とを備える。本実施形態では乗用車用のものが示されている。
【0024】
カーカス6は、例えば、1枚のカーカスプライ6Aにより構成されている。このカーカスプライ6Aは、ビードコア5、5間を跨る本体部6aの両端に、ビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されることによりビードコア5に係止される折返し部6bを一連に具えている。カーカスプライ6Aには、例えば、芳香族ポリアミド、レーヨンなどの有機繊維コードがカーカスコードとして採用されている。カーカスコードは、タイヤ赤道Cに対して、例えば、70~90°の角度で配列されている。複数のカーカスコードがトッピングゴムで被覆されることにより、カーカスプライ6Aが構成される。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外方に向かって先細状にのびるビードエーペックスゴム8が配されている。
【0025】
カーカス6の外側には、接地面を形成するトレッドゴムTg、サイドウォール部3の外面を形成するサイドウォールゴムSg、ビード部4の外面を形成するビードゴムBgなどが配されている。一方、カーカス6の内側には、タイヤ内圧を保持するためのインナーライナーゴムLgなどが配されている。
【0026】
ベルト層7は、本実施形態では、ベルトコードがタイヤ赤道Cに対して、例えば、15~45゜の角度で傾斜して配列された2枚のベルトプライ7A、7Bを、ベルトコードが互いに交差する向きにタイヤ半径方向で重ね合わされてなる。このベルトコードには、例えば、スチール、アラミド又はレーヨン等が好適に採用されている。複数のベルトコードがトッピングゴムで被覆されることにより、ベルトプライ7A、7Bが構成される。
【0027】
本実施形態の空気入りタイヤ1では、ベルト層7のタイヤ半径方向の外側に、バンド層9が配されている。バンド層9は、有機繊維のバンドコード、本例ではナイロンコードをタイヤ周方向に対して10度以下、好ましくは5度以下の角度で螺旋状に巻回させたバンドプライ9Aを含む。
【0028】
空気入りタイヤ1は、トレッド部2の内腔面に配された制音体20を有する。制音体20は、例えば、多孔質状のスポンジ材により構成される。スポンジ材は、海綿状の多孔構造体であり、例えばゴムや合成樹脂を発泡させた連続気泡を有するいわゆるスポンジそのものの他、動物繊維、植物繊維又は合成繊維等を絡み合わせて一体に連結したウエブ状のものを含むものとする。また「多孔構造体」には、連続気泡のみならず独立気泡を有するものを含む。本例の制音体20には、ポリウレタンからなる連続気泡のスポンジ材が用いられる。
【0029】
上述のようなスポンジ材は、表面乃至内部の多孔部が振動する空気の振動エネルギーを熱エネルギーに変換して消費させることにより、音(空洞共鳴エネルギー)を小さくし、空気入りタイヤ1の走行ノイズを低減する。またスポンジ材は、収縮、屈曲等の変形が容易であるため、走行時のタイヤの変形に、実質的な影響を与えない。このため、操縦安定性が悪化するのを防止できる。しかもスポンジ材は、比重が非常に小さいため、タイヤの重量バランスの悪化を防止できる。
【0030】
スポンジ材として、好ましくはエーテル系ポリウレタンスポンジ、エステル系ポリウレタンスポンジ、ポリエチレンスポンジなどの合成樹脂スポンジ、クロロプレンゴムスポンジ(CRスポンジ)、エチレンプロピレンゴムスポンジ(EDPMスポンジ)、ニトリルゴムスポンジ(NBRスポンジ)などのゴムスポンジを好適に用いることができ、とりわけエーテル系ポリウレタンスポンジを含むポリウレタン系又はポリエチレン系等のスポンジが、制音性、軽量性、発泡の調節可能性、耐久性などの観点から好ましい。
【0031】
制音体20は、トレッド部2の内腔面に固着される底面を有する長尺帯状をなし、タイヤ周方向にのびる。このとき周方向の外端部を互いに突き合わせて略円環状に形成しうる他、外端部間を周方向に離間させてもよい。
【0032】
制音体20は、外端部を除く周方向の各位置で、実質的に同じ断面形状を有する。この断面形状として、走行時の倒れや変形を防止するために、タイヤ軸方向の巾に対して高さを小とした偏平横長のものが好ましい。特に本例の如く、半径方向内面側に周方向に連続してのびる凹溝21を備えるものが好ましい。この凹溝21は、制音体20の表面積を増加させ、より多くの共鳴エネルギーを吸収しうるとともに、放熱性を高めてスポンジ材の温度上昇を抑えうる。
【0033】
制音体20のガラス転移温度は、-55℃~-45℃である。上記ガラス転移温度が-55℃未満の場合、常温での硬度が低下しやすくなり、耐久性に影響を及ぼすおそれがある。上記ガラス転移温度が-45℃を超える場合、低温下での制音体20の柔軟性が損なわれ、上述した走行ノイズの低減が小さくなるおそれがある。空気入りタイヤ1では、制音体20のガラス転移温度が-55℃~-45℃の範囲内に設定されているので、低温下での制音体の柔軟性が維持される。これにより、寒冷時の走行にあっても、制音体20が空気の振動エネルギーを熱エネルギーに効果的に変換し、走行ノイズが十分に低減される。
【0034】
本実施形態では、トレッド部2の内部に制振ゴム体30が配されている。制振ゴム体30は、カーカス6とベルト層7との間に配されている。制振ゴム体30は、カーカスプライ6A及びベルトプライ7Aに含まれるトッピングゴムとは別のゴムによって構成される。制振ゴム体30のタイヤ軸方向の幅W1は、ベルト層7のタイヤ軸方向の幅W2の60~130%である。より望ましい制振ゴム体30の幅W1は、ベルト層7の幅W2の70~120%である。このような制振ゴム体30は、空気入りタイヤ1の重量増加を招くことなく、カーカス6及びベルト層7の振動を抑制し、特に160Hz付近の走行ノイズの低減に寄与する。なお、制音体20によって十分な走行ノイズの低減効果が得られる場合、制振ゴム体30は省略されていてもよい。
【0035】
制振ゴム体30のタイヤ半径方向の厚さT1は、0.3mm以上が望ましい。上記厚さT1が0.3mm以上に設定されることにより、トレッド部2の振動がより一層効果的に抑制される。また、制振ゴム体30のタイヤ半径方向の最大厚さをトレッド部2の最大厚さの4~20%とすることにより、空気入りタイヤ1の走行ノイズの抑制と操縦安定性能との両立を容易に図ることができる。
【0036】
制振ゴム体30の硬度H1とベルト層7のタイヤ半径方向の外側に配されたトレッドゴムTgの硬度H2との関係は、0.5≦ H1/H2 ≦1.0が望ましい。ここで、「ゴム硬度」とは、JIS-K6253に準拠し、23℃の環境下におけるデュロメータータイプAによるゴム硬さとされる。上記硬度H1の制振ゴム体30によって、トレッド部2の耐久性能を確保しつつ、トレッド部2の振動がより一層効果的に抑制される。
【0037】
制振ゴム体30の硬度H1とカーカスプライ6A及びベルトプライ7Aに含まれるトッピングゴムの硬度H3との関係は、0.4≦ H1/H3 ≦1.2が望ましい。上記硬度H1の制振ゴム体30によって、トレッド部2の耐久性能を確保しつつ、トレッド部2の振動がより一層効果的に抑制される。
【0038】
より具体的な制振ゴム体30の望ましい硬度H1は、30゜~73゜である。このような硬度H1の制振ゴム体30によって、空気入りタイヤ1の製造コストを抑制しつつ、容易に走行ノイズを抑制し、操縦安定性能を高めることができる。また、より具体的なトレッドゴムTgの望ましい硬度H2は、55゜~75゜である。このような硬度H2のトレッドゴムTgによって、トレッド部2の剛性が最適化され、操縦安定性能を向上させることが可能となる。
【0039】
トレッド部2の内腔面に制音体20が設けられた空気入りタイヤ1では、パンク修理液を用いたパンク修理の際、パンク修理液が制音体20に局所的に吸収され、修理後のユニフォミティ性能が悪化するおそれがある。ここでいうユニフォミティは、空気入りタイヤ1、制音体20、及び、パンク修理液を含めた重量の均一性のことである。このような均一性が損なわれると、走行ノイズが大きくなりやすいという問題がある。パンク修理後のユニフォミティ性能を考慮すると、制音体20の密度は、10kg/m3以上が望ましい。一方、密度が40kg/m3以下の制音体20により、空気入りタイヤ1の重量増加を招くことなく、特に250Hz付近の走行ノイズを低減することが可能となる。
【0040】
制音体20の体積V1は、タイヤ内腔の全体積V2の0.4~30%が望ましい。制音体20の体積V1とは、制音体20の見かけの全体積であって、内部の気泡を含めた外形から定められる体積を意味する。タイヤ内腔の全体積V2は、空気入りタイヤを正規リムにリム組みしかつ正規内圧を充填した無負荷の正規状態において下記式で近似的に求めるものとする。
V2=A×{(Di-Dr)/2+Dr}×π
ここで、上記式中、"A " は前記正規状態のタイヤ・リム組立体をCTスキャニングして得られるタイヤ内腔の横断面積、" Di " は正規状態でのタイヤの内腔面の最大外径、" Dr " はリム径、" π " は円周率である。
【0041】
上記体積V1が全体積V2の0.4%未満の場合、空気の振動エネルギーの変換が十分に行えないおそれがある。上記体積V1が全体積V2の30%を超える場合、空気入りタイヤ1の重量及び製造コストが大きくなる。また、パンク修理液を用いたパンク修理の際、修理後のユニフォミティ性能が悪化するおそれがある。
【0042】
制音体20の引張強さは、70~115kPaが望ましい。制音体20の引張強さが70kPa未満の場合、制音体20の耐久性能が低下するおそれがある。制音体20の引張強さが115kPaを超える場合、トレッド部2の制音体20を含む領域に釘等の異物が刺さった場合、制音体20が異物に引っ張られてトレッド部2の内腔面から剥がれるおそれがある。
【0043】
トレッドゴムTgの0℃での損失正接tanδは、0.4以上が望ましい。これにより、空気入りタイヤ1のウェットグリップ性能が向上する。従って、例えば、トレッド部2の接地面に形成される溝の容積を小さく設定する等により、走行ノイズのさらなる低減を図ることができる。トレッドゴムTgの70℃での損失正接tanδは、0.2以下が望ましい。これにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗を抑制し、制音体20及び制振ゴム体30を備えることによる燃費性能の悪化を抑制する。なお、0℃での損失正接tanδ及び70℃での損失正接tanδは、JIS-K6394の規定に準じ、(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用い、各測定温度(0℃又は70℃)、周波数10Hz、初期伸張歪10%、及び、動歪の振幅±2%の条件で測定した値である。
【0044】
トレッドゴムTgは、(1.4×カーボンブラック含有量(phr)+シリカ含有量(phr))/硫黄含有量(phr)の値が20以上であることが望ましい。これにより、耐摩耗性能が向上する。従って、例えば、トレッド部2の接地面に形成される溝を浅く設定する等により、走行ノイズのさらなる低減を図ることができる。また、パンク修理液の分布に偏りが生じた場合であっても、偏摩耗の発生が抑制される。
【0045】
以上、本発明の空気入りタイヤが詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【0046】
例えば、
図2は、本発明の別の実施形態である空気入りタイヤ1Aを示している。空気入りタイヤ1Aは、制振ゴム体30が、ベルト層7とバンド層9の間に配されている点で、上記空気入りタイヤ1とは異なる。空気入りタイヤ1Aのうち、以下で説明されてない部分については、空気入りタイヤ1の構成が採用されうる。空気入りタイヤ1Aでは、制振ゴム体30によってベルト層7及びバンド層9の振動が抑制され、ひいてはトレッド部2の振動が抑制される。
【0047】
図3は、本発明のさらに別の実施形態である空気入りタイヤ1Bを示している。空気入りタイヤ1Bは、制振ゴム体30が、バンド層9のタイヤ半径方向の外側に配されている点で、上記空気入りタイヤ1とは異なる。空気入りタイヤ1Bのうち、以下で説明されてない部分については、空気入りタイヤ1の構成が採用されうる。空気入りタイヤ1Bでは、制振ゴム体30によってバンド層9及びトレッドゴムTgの振動が抑制され、ひいてはトレッド部2の振動が抑制される。
【実施例】
【0048】
図1の基本構造をなすサイズ165/65R18の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、低温環境下でのノイズ性能がテストされた。各実施例及び比較例に共通する仕様は、以下の通りである。
(1)トレッドゴム
・配合は以下の通りである。
天然ゴム(TSR20):15(phr)
SBR1(結合スチレン量:28%、ビニル基含有量60%、ガラス転移点-25℃、末端変性):45(phr)
SBR2(結合スチレン量:35%、ビニル基含有量45%、ガラス転移点-25℃、末端変性):25(phr)
BR(BR150B、宇部):15(phr)
カーボンブラックN220:5(phr)
シリカ(VN3):35(phr)
シリカ(1115MP):20(phr)
シランカップリング剤Si266:4(phr)
レジン(アリゾナケミカル社 SYLVARES SA85):8(phr)
オイル:4(phr)
Wax:1.5(phr)
老化防止剤(6C):3(phr)
ステアリン酸:3(phr)
酸化亜鉛:2(phr)
硫黄:2(phr)
加硫促進剤(NS):2(phr)
加硫促進剤(DPG):2(phr)
・加硫後のタイヤにおけるトレッドゴムの硬度は、64゜である。
・トレッドゴムの最大厚みは、10mmである。
(2)制振ゴム体
・配合は以下の通りである。
天然ゴム(TSR20):65(phr)
SBR(Nipol 1502):35(phr)
カーボンブラックN220:52(phr)
オイル:15(phr)
ステアリン酸:1.5(phr)
酸化亜鉛:2(phr)
硫黄:3(phr)
加硫促進剤(CZ):1(phr)
・加硫後のタイヤにおける制振ゴム体の硬度は、58゜である。
・制振ゴム体の最大厚みは、1mmである。
(3)制音体
・体積は、タイヤ内腔の全体積の15%である。
・密度は27kg/m
3である。
(4)ベルトコード
・タイヤ赤道に対するベルトコードの角度は、41゜である。
テスト方法は、以下の通りである。
【0049】
<ノイズ性能>
各試供タイヤが、リム18×7JJに装着され、室温が-50℃に設定された試験室に持ち込まれた。各試供タイヤは、内圧320kPa、荷重4.8kNの条件で直径3.3mのレプリカ路面を有したドラム上を時速60km/hにて走行され、接地入りのトレッド表面から前方に25mm、高さ25mm離間した位置における音圧レベル(dB)がマイクロホンによって測定された。結果は、実施例1を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0050】
【0051】
表1から明らかなように、実施例1乃至3の空気入りタイヤは、比較例1及び2に比べて低温環境下でのノイズ性能が、有意に向上していることが確認できた。
【0052】
さらに、表2に示されるように、実施例4乃至8の空気入りタイヤが試作され、低温環境下でのノイズ性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0053】
<ノイズ性能>
上記と同じ方法により、音圧レベルが測定された。結果は、実施例5を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0054】
【0055】
さらに、表3に示されるように、実施例9乃至12の空気入りタイヤが試作され、低温環境下でのノイズ性能及び操縦安定性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0056】
<ノイズ性能>
上記と同じ方法により、音圧レベルが測定された。結果は、実施例11を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0057】
<操縦安定性能>
各試供タイヤが、リム18×7JJに装着され、内圧320kPaの条件にて車両(国産2500ccのFR車)の全輪に装着され、ドライアスファルトのテストコースを走行し、ハンドル応答性、剛性感、グリップ等に関する特性がドライバーの官能評価により評価された。評価は、実施例11を100とする評点でされ、数値が大きいほど良好である。
【0058】
【0059】
さらに、表4に示されるように、制振ゴム体のゴム硬度が異なる実施例13乃至17の空気入りタイヤが試作され、低温環境下でのノイズ性能がテストされ、製造コストが計算された。テスト方法及び計算方法は、以下の通りである。
【0060】
<ノイズ性能>
上記と同じ方法により、音圧レベルが測定された。結果は、実施例15を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0061】
<製造コスト>
タイヤ1本を製造するのに要した製造コストが計算された。結果は、実施例15を100とする指数で表され、数値が大きいほど製造コストが小さく良好である。
【0062】
【0063】
さらに、表5に示されるように、実施例18乃至22の空気入りタイヤが試作され、パンク修理後のユニフォミティ性能及び低温環境下でのノイズ性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0064】
<ユニフォミティ性能>
各試供タイヤが、リム18×7JJに装着され、パンク修理を想定してパンク修理材が充填された後、内圧320kPaの条件にて、JASO C607:2000のユニフォミティ試験条件に準拠して、ラジアルフォースバリエーション(RFV)が測定された。評価速度は、10km/hである。結果は、実施例20を100とする指数で表され、数値が大きいほどRFVが小さく良好である。
【0065】
<ノイズ性能>
上記と同じ方法により、音圧レベルが測定された。結果は、実施例20を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0066】
【0067】
さらに、表6に示されるように、実施例23乃至27の空気入りタイヤが試作され、パンク修理後のユニフォミティ性能及び低温環境下でのノイズ性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0068】
<ユニフォミティ性能>
上記と同じ方法により、RFVが測定された。結果は、実施例25を100とする指数で表され、数値が大きいほどRFVが小さく良好である。
【0069】
<ノイズ性能>
上記と同じ方法により、音圧レベルが測定された。結果は、実施例25を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0070】
【0071】
さらに、表7に示されるように、実施例28乃至32の空気入りタイヤが試作され、制音体の耐久性能及び釘踏み時の制音体の耐剥がれ性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0072】
<制音体の耐久性能>
各試供タイヤが、リム18×7JJに装着され、ドラム試験機を用いて、内圧320kPa、荷重4.8kN、速度80km/hの条件下で、制音体及びその近傍が損傷するまでの距離が測定された。結果は、実施例30の値を100とする指数で表示されている。評価は、数値が大きいほど耐久性能が高く良好である。
【0073】
<釘踏み時の制音体の耐剥がれ性能>
リム18×7JJに装着された各試供タイヤが釘踏みによってパンクされ、その損傷箇所を解体することにより、釘によって引っ張られた制音体が、トレッド部の内腔面から剥がれている面積が測定された。結果は、実施例30の値を100とする指数で表示され、評価は、数値が大きいほど耐剥がれ性能が高く良好である。
【0074】
【0075】
さらに、表8に示されるように、実施例33乃至35の空気入りタイヤが試作され、低温環境下でのノイズ性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0076】
<ノイズ性能>
上記と同じ方法により、音圧レベルが測定された。結果は、実施例1を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0077】
【0078】
さらに、表9に示されるように、実施例36乃至40の空気入りタイヤが試作され、パンク修理後のユニフォミティ性能及び低温環境下でのノイズ性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0079】
<ユニフォミティ性能>
上記と同じ方法により、ラジアルフォースバリエーション(RFV)が測定された。結果は、実施例20を100とする指数で表され、数値が大きいほどRFVが小さく良好である。
【0080】
<ノイズ性能>
上記と同じ方法により、音圧レベルが測定された。結果は、実施例20を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0081】
【0082】
さらに、表10に示されるように、実施例41乃至45の空気入りタイヤが試作され、パンク修理後のユニフォミティ性能及び低温環境下でのノイズ性能がテストされた。テスト方法は、以下の通りである。
【0083】
<ユニフォミティ性能>
上記と同じ方法により、ラジアルフォースバリエーション(RFV)が測定された。結果は、実施例25を100とする指数で表され、数値が大きいほどRFVが小さく良好である。
【0084】
<ノイズ性能>
上記と同じ方法により、音圧レベルが測定された。結果は、実施例25を100とする指数で表され、数値が大きいほど走行ノイズが小さく良好である。
【0085】
【符号の説明】
【0086】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
5 ビードコア
6 カーカス
20 制音体
30 制振ゴム体