(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】フーリエ変換型赤外分光光度計
(51)【国際特許分類】
G01J 3/45 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
G01J3/45
(21)【出願番号】P 2019513516
(86)(22)【出願日】2017-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2017015475
(87)【国際公開番号】W WO2018193499
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2019-08-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【氏名又は名称】江口 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【氏名又は名称】岸本 雅之
(72)【発明者】
【氏名】和久田 真也
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-142527(JP,A)
【文献】特開2006-214736(JP,A)
【文献】特開昭59-230105(JP,A)
【文献】特開平07-301561(JP,A)
【文献】特開昭62-063816(JP,A)
【文献】特開2016-090473(JP,A)
【文献】特開2004-170302(JP,A)
【文献】特開平09-162267(JP,A)
【文献】米国特許第04799001(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 3/00 - G01J 3/52
G01N 21/00 - G01N 21/61
G01B 9/00 - G01B 9/10
G01B 11/00 - G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光源、ビームスプリッタ、移動鏡、及び固定鏡を含み、前記赤外光源から発せられる赤外光の干渉光である干渉赤外光を生成する主干渉計と、レーザ光源、前記ビームスプリッタ、前記移動鏡、及び前記固定鏡を含み、前記レーザ光源から発せられるレーザ光の干渉光である干渉レーザ光を生成するコントロール干渉計と、を具備するフーリエ変換型赤外分光光度計であって、
印加電圧により前記移動鏡を直線的に往復動させる移動鏡駆動手段と、
受光面を有する光位置センサと、
前記受光面に対して光を照射する光源と、
前記移動鏡と共に移動し、その移動範囲の少なくとも一端において前記受光面と前記光源との間に進入する遮光部と、
前記移動鏡の移動範囲の端部において、前記遮光部の移動に伴う、前記受光面における前記光源からの入射光の重心位置の変化に基づいて前記移動鏡の移動方向を特定
し、前記移動鏡の移動範囲の端部を除く範囲において、前記移動鏡駆動手段に印加する電圧の向きに基づき前記移動鏡の移動方向を特定する移動方向特定手段と、
前記干渉レーザ光を検出する光検出器と、
前記光検出器からの検出信号をパルス信号に変換する波形整形器と、
前記波形整形器から出力される前記パルス信号のカウント数に基づいて所定の位置からの前記移動鏡の移動距離を特定する移動距離特定手段と、
を有し、
前記移動方向及び前記移動距離から前記移動鏡の現在位置を特定することを特徴とするフーリエ変換型赤外分光光度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フーリエ変換型赤外分光光度計に関する。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換型赤外分光光度計(以下「FT-IR」とよぶ)では、固定鏡及び移動鏡を含むマイケルソン型干渉計により時間的に振幅が変動する干渉赤外光を生成し、これを試料に照射してその透過光又は反射光を検出する。そして、その検出信号を記録したグラフ(インターフェログラム)をフーリエ変換することにより、横軸に波数、縦軸に強度(例えば吸光度)を取ったパワースペクトル(例えば吸収スペクトル)を得ることができる。
【0003】
図14に一般的なFT-IRの概略構成を示す。同図に示すようにFT-IRは、通常、主干渉計及びコントロール干渉計が収容された気密室310と、試料Sが収容される試料室340とを有している。
【0004】
主干渉計は、赤外光源311、集光鏡312、コリメータ鏡313、ビームスプリッタ314、固定鏡315、移動鏡316等から構成され、スペクトル測定を行うための干渉赤外光を発生させる。すなわち、赤外光源311から出射された赤外光は、集光鏡312、コリメータ鏡313を介してビームスプリッタ314に照射され、ここで固定鏡315に向かう方向と移動鏡316に向かう方向の2方向に分割される。固定鏡315及び移動鏡316にてそれぞれ反射した光はビームスプリッタ314によって再び合一され、放物面鏡317へ向かう光路に送られる。このとき、移動鏡316は前後(ビームスプリッタ314に近づく方向と遠ざかる方向)に往復動しているため、合一された光は時間的に振幅が変動する干渉光となる。放物面鏡317にて集光された光は試料室340に導入され、試料室340に配置された試料Sを通過した後、楕円面鏡318により光検出器319に集光される。光検出器319で得られた受光信号は、アンプ320で増幅され、サンプルホールド回路(S/H)321にて所定のタイミングでサンプリングされた後にA/D変換器(A/D)322によりデジタルデータに変換される。データ処理部323では、このデータに対しフーリエ変換を実行してパワースペクトルを作成する。
【0005】
FT-IRにおいて移動鏡316の位置を変化させるための手段としては、例えば
図15に示すような、レール361及びスライダ362を備えたリニアガイド360とボイスコイルモータ350とを利用した移動鏡駆動機構が知られている(例えば特許文献1を参照)。なお、
図15は移動鏡駆動機構を上方から見た状態を示している。この移動鏡駆動機構では、スライダ362上に移動鏡316が載置され、この移動鏡316の裏面にボイスコイルモータ350の駆動軸351が連結されている。ここで、ボイスコイル352に電流が流れると電磁力が発生してボイスコイル352が移動し、それに伴って移動鏡316が直線上を往復動する。このときの移動鏡316の移動方向、すなわち移動鏡316が前方(ビームスプリッタ314に近づく方向)に移動するか、後方(ビームスプリッタ314から遠ざかる方向)に移動するかは、ボイスコイル352に印加する電圧の向き(正負)によって決まる。
【0006】
但し、移動鏡316の移動範囲の両端、すなわち移動鏡316の往復動の折り返し位置付近においては、ボイスコイル352への印加電圧の向きと移動鏡316の移動方向とが一致しない場合がある。これは、前記折り返し位置付近で、移動鏡316の移動方向が例えば前方から後方に変化するように前記印加電圧の向きを切り替えたとしても、該移動方向は直ちに切り替わらず、暫くは慣性によって移動鏡316が前方に移動し、その後に後方に移動し始めるためである。従って、ボイスコイル352に印加する電圧の正負だけでは該移動鏡316の移動方向を正確に求めることはできない。そこで、従来のFT-IRでは、コントロール干渉計を利用したクアドラチャー・コントロールとよばれる手法により、移動鏡316の移動方向の特定や移動鏡316の駆動制御が行われている(例えば特許文献2を参照)。
【0007】
コントロール干渉計は、He-Neレーザ等のレーザ光源325、ミラー326、及びλ/8板などの位相板327、並びに前記主干渉計と共通のビームスプリッタ314、固定鏡315、及び移動鏡316とを含んでおり、干渉縞信号を得るための干渉レーザ光を発生させる。レーザ光源325から出射され、非常に小さな径の光束となって進行するレーザ光は、ミラー326を介してビームスプリッタ314に照射され、上記赤外光と同様に固定鏡315及び移動鏡316を経て干渉光となって放物面鏡317の方向に送られる。このとき、ビームスプリッタ314から固定鏡315の方向に送られ、固定鏡315で反射されて再びビームスプリッタ314に戻るレーザ光は、ビームスプリッタ314と固定鏡315の間に配置された位相板327によって直線偏光から円偏光に変換される。また、ビームスプリッタ314によって合一させて放物面鏡317の方向に送られた干渉レーザ光は、その光路中に挿入されたミラー328により反射されて偏光ビームスプリッタ329に導入され、各偏光成分(平行成分であるp波と垂直成分であるs波)に分離される。分離されたp波とs波は、それぞれの別の光検出器(例えばフォトダイオード)330、331で検出される。両光検出器330、331からの検出信号はそれぞれ波形整形器332、333によってパルス信号に変えられ、得られた二つのパルス信号(信号a及び信号b)はアップ/ダウン・カウンタ334へ送られる。
【0008】
アップ/ダウン・カウンタ334は、入力された信号aと信号bとの位相関係から移動鏡316の移動方向を特定する。具体的には、移動鏡316がビームスプリッタ314に近づく方向に移動している状態(これを「アップモード」とよぶ)では、一方のパルス信号(例えば信号a)の位相が他方のパルス信号(例えば信号b)の位相に対して90°進み、逆に移動鏡316がビームスプリッタから遠ざかる方向に移動している状態(これを「ダウンモード」とよぶ)では前記一方のパルス信号の位相が前記他方のパルス信号の位相に対して90°遅れる。従って、こうした信号aと信号bの位相関係から前記アップ/ダウンのモードを求めることができる。アップ/ダウン・カウンタ334は、更に入力信号(信号a、b)のパルス数を計数し、前記アップ/ダウンのモードの情報と共にデータ処理部323に送出する。
【0009】
データ処理部323では、前記アップ/ダウンのモードとパルス数の情報から移動鏡316の現在位置が特定される。データ処理部323で特定された移動鏡316の現在位置の情報はインターフェログラムの作成に利用されるほか、制御部324に送られ、移動鏡316の駆動制御などに利用される。
【0010】
なお、波形整形器332からの信号(信号a)は、サンプルホールド回路321にも入力され、光検出器319で受光された干渉赤外光の受光信号をサンプリングする際のサンプリングタイミングの決定に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2007-114017号公報([0003],
図5(a))
【文献】特開平7-301561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記の通り、従来のFT-IRでは、干渉レーザ光を平行成分であるp波と垂直成分であるs波に分離し、両者の位相関係から移動鏡の進行方向を特定していた。しかしながら、こうした手法(クアドラチャー・コントロール)を実現するためには、位相板や偏光ビームスプリッタなどの比較的高価な光学部品が必要であった。また、無偏光(ランダム偏光)のレーザ光では平行成分と垂直成分に分離できないため、上記手法で使用できるレーザ光源は直線偏光で消光比の高いものに限られていた。
【0013】
本発明は上記の点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、比較的安価な部品を用いて移動鏡の進行方向を特定することができ、且つコントロール干渉計におけるレーザ光源として種々のものを適用可能なFT-IRを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された第1発明に係るフーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)は、
a)移動鏡を直線的に往復動させる移動鏡駆動手段と、
b)受光面を有する光位置センサと、
c)前記受光面に対して光を照射する光源と、
d)前記移動鏡と共に移動し、その移動範囲の少なくとも一端において前記受光面と前記光源との間に進入する遮光部と、
e)前記遮光部の移動に伴う、前記受光面における前記光源からの入射光の重心位置の変化に基づいて前記移動鏡の移動方向を特定する移動方向特定手段と、
を有することを特徴としている。
【0015】
光位置センサ(Position Sensitive Detector:PSD)は、一定の面積を有する受光面を備え、該受光面における入射光の光量の重心位置を求めることのできるセンサである。前記受光面を構成する膜物質に光が入射すると、該光の入射位置において電圧が発生する。このとき前記膜物質の抵抗により、前記受光面の両端における電位は前記入射位置からの距離に応じて変化するため、該受光面の両端に接続された出力端子における電圧の比から前記受光面における光量の重心位置を求めることができる。
【0016】
上記構成から成る本発明のフーリエ変換型赤外分光光度計では、前記移動鏡の移動に伴って前記遮光部が移動し、該遮光部が前記光位置センサの受光面と前記光源との間に進入することによって、該光源から該光位置センサの受光面へと向かう光の少なくとも一部が遮断される。これにより、該受光面における入射光の重心位置が移動するため、この重心位置の移動方向に基づいて前記移動鏡の移動方向を特定することができる。
【0017】
光位置センサは比較的安価であるため、本発明に係るフーリエ変換型赤外分光光度計は、上記従来のクアドラチャー・コントロールを行うものに比べて低コストに製造することができる。更に、本発明によれば、前記クアドラチャー・コントロールのためにコントロール干渉計においてレーザ光を平行成分と垂直成分に分離する必要がないため、レーザ光源として直線偏光で消光比の高いものに限らず、種々のものを利用することが可能となる。
【0018】
なお、光位置センサではアナログの電圧値を利用して測定を行うため、前記受光面における光の重心位置を高い分解能で求めることができる。上記本発明に係るフーリエ変換型赤外分光光度計において、該受光面における光の重心位置はそのときの遮光部の位置を反映しているため、該光位置センサを利用して移動鏡の位置を特定することも可能である。
【0019】
すなわち、前記第1発明に係るフーリエ変換型赤外分光光度計は、更に、
f)前記受光面における前記光源からの入射光の重心位置に基づいて前記移動鏡の現在位置を特定する位置特定手段、
を有するものとすることもできる。
【0020】
また、上記課題を解決するために成された第2発明に係るフーリエ変換型赤外分光光度計は、
a)移動鏡を直線的に往復動させる移動鏡駆動手段と、
b)前記移動鏡と共に移動する反射部と、
c)前記反射部に向けて光を照射する光源と、
d)受光面を有し、少なくとも前記移動鏡がその移動範囲の一端の所定の範囲に位置している状態において、前記光源から出射されて前記反射部で反射された光が前記受光面に入射するよう配置された光位置センサと、
e)前記反射部の移動に伴う、前記受光面における前記反射部からの反射光の重心位置の変化に基づいて前記移動鏡の移動方向を特定する移動方向特定手段と、
を有することを特徴としている。
【0021】
上記構成から成る第2発明のフーリエ変換型赤外分光光度計では、前記移動鏡と共に前記反射部が移動し、少なくともその移動範囲の一端の所定の範囲において、前記光源から照射されて前記反射部で反射された光が前記光位置センサの前記受光面に入射する。このとき、該受光面における入射光の重心位置は前記反射部の位置に応じて変化するため、該重心位置の移動方向から前記移動鏡の移動方向を特定することができる。
【0022】
なお、このような構成から成るフーリエ変換型赤外分光光度計においても、前記光位置センサを利用して移動鏡の位置を特定することが可能である。
【0023】
すなわち、上記第2発明に係るフーリエ変換型赤外分光光度計は、更に、
f)前記受光面における前記反射部からの反射光の重心位置に基づいて前記移動鏡の現在位置を特定する位置特定手段、
を有するものとすることもできる。
【発明の効果】
【0024】
以上の通り本発明によれば、比較的安価な部品を用いて移動鏡の進行方向を特定することができ、且つコントロール干渉計におけるレーザ光源として種々のものを適用可能なフーリエ変換型赤外分光光度計を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1実施形態によるFT-IRの概略構成図。
【
図2】同実施形態において移動鏡の周辺を上方から見た状態を示す模式図。
【
図3】同実施形態において移動鏡の周辺を側方から見た状態を示す模式図。
【
図4】同実施形態において移動鏡の周辺を前方から見た状態を示す模式図。
【
図5】同実施形態における検知部及び遮光部の別の例を示す模式図であって、移動鏡の周辺を前方から見た状態を示している。
【
図6】PSDの受光面における光量重心の移動を説明するための模式図であって、(a)は受光面が遮光部で覆われていない状態を示し、(b)は受光面の一部が遮光部で覆われた状態を示している。
【
図7】同実施形態における移動方向検知機構の別の構成例を示す模式図であって、移動鏡の周辺を上方から見た状態を示している。
【
図8】同実施形態における移動方向検知機構の更に別の構成例を示す模式図であって、移動鏡の周辺を上方から見た状態を示している。
【
図9】本発明の第2実施形態において移動鏡の周辺を上方から見た状態を示す模式図。
【
図10】同実施形態において移動鏡の周辺を側方から見た状態を示す模式図。
【
図11】同実施形態におけるPSD及び反射部の配置の別の例を示す模式図であって、移動鏡の周辺を上方から見た状態を示している。
【
図12】同実施形態における移動方向検知機構の別の構成例を示す模式図であって、移動鏡の周辺を側方から見た状態を示している。
【
図13】同実施形態における移動方向検知機構の更に別の構成例を示す模式図であって、移動鏡の周辺を側方から見た状態を示している。
【
図15】従来のFT-IRにおける移動鏡駆動機構の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0027】
[実施形態1]
図1は、本発明の第1の実施形態によるフーリエ変換型赤外分光光度計(FT-IR)の概略構成図である。なお、既に
図14で示したものと同一又は対応する構成要素については下二桁が共通する符号を付し、適宜説明を省略する。
【0028】
このFT-IRは、
図14で示したものと同じく、主干渉計及びコントロール干渉計が収容された気密室110と、試料Sが収容される試料室140とを有している。但し、本実施形態のFT-IRではクアドラチャー・コントロールを行わないため、
図14に示したような、レーザ光を直線偏光から円偏光に変換するための位相板327、干渉レーザ光をp波とs波に分離するための偏光ビームスプリッタ329、前記p波とs波を検出するための二つの光検出器330、331、両光検出器330、331からの検出信号をパルス信号に変換する波形整形器332、333、及び前記p波とs波に由来するパルス信号の位相関係から移動鏡316の移動方向を特定するアップ/ダウン・カウンタ334を有しておらず、これに代わり、1組の光検出器130及び波形整形器132と、移動鏡116の移動方向を検知するための移動方向検知機構170とを備えている。
【0029】
この移動方向検知機構170について
図2~
図4を参照しつつ説明する。これらの図は本実施形態のFT-IRにおける移動鏡116の周辺部の構成を示す模式図であり、
図2は該周辺部を上方から見た状態を示し、
図3は側方から見た状態を、
図4は前方(すなわちビームスプリッタ114の方向)から見た状態を示している。
【0030】
移動鏡116を駆動させるための機構としては、従来のFT-IRで採用されているものと同様のリニアガイド160やボイスコイルモータ150を利用した駆動機構を用いることができる。なお、
図2~
図4ではボイスコイルモータ150のみを断面で示している。ボイスコイルモータ150は、磁石やヨーク(継鉄)を含んだ固定部153と、ボイスコイル152と、一端がボイスコイル152に固定された駆動軸151とから成り、該駆動軸151の他端は移動鏡116の裏面に連結される。リニアガイド160はレール161と該レール161に沿って摺動するスライダ162とを含んでおり、該スライダ162の上面には移動鏡116が固定される。このような構成において、ボイスコイル152に電流が流れると電磁力が発生してボイスコイル152及び駆動軸151が移動し、これに伴って移動鏡116がレール161に沿って移動する。
【0031】
この移動鏡116の移動方向を検知するための移動方向検知機構170は、レール161の前端部(ビームスプリッタ114に近い側)と後端部(ビームスプリッタ114から遠い側)の側方にそれぞれ配置された検知部171a、171bと、スライダ162に固定された遮光部177とを含んでいる。
【0032】
検知部171a、171bは、いずれも
図4(但し同図では検知部171aのみを図示している)に示すように、水平且つ上下に離間して設けられた2枚の板状の水平部172a、173a(検知部171bの場合、172b、173b)と該水平部172a、173a(172b、173b)を互いに連結する連結部174a(174b)とから成る支持部材と、該支持部材の上側の水平部172a(172b)の下面に取り付けられたLED175a(175b)と、下側の水平部173a(173b)の上面に取り付けられたPSD176a(176b)とを備えている。なお、LED175a(175b)とPSD176a(176b)の位置関係は上下逆であっても構わない。
【0033】
一方、遮光部177は、スライダ162の側面に水平に取り付けられた遮光性の板であり、検知部171a、171bにおけるLED175a、175bの高さ位置とPSD176a、176bの高さ位置の間に相当する高さに固定されている。
【0034】
なお、本実施形態における移動方向検知機構170は、
図2~
図4に示した構成に限定されるものではなく、検知部171a、171bにおいてLED175a、175bとPSD176a、176bとが対向配置され、遮光部177がLED175a、175bとPSD176a、176bとの間の空間に進入可能に構成されていればよい。従って、検知部171a、171bを、例えば
図5(但し同図では検知部171aのみを図示している)に示すように、鉛直に立設され互いに離間して設けられた2枚の板状の鉛直部178a、179a(検知部171bの場合、178b、179b)を備えたものとし、鉛直方向に延びる板状の遮光部177を水平方向に延びる連結部材180を介してスライダ162に固定した構成としてもよい。
【0035】
この移動方向検知機構170による移動鏡116の移動方向検知の原理について、
図6を用いて説明する。なお、同図は
図4のA-A矢視断面図に相当する。移動方向検知機構170において、スライダ162がレール161の中間部に位置しているときには、
図6(a)に示すように、遮光部177がPSD176aから水平方向に離間した位置に存在するため、LED175aから出射した光は遮光部177によって遮られることなくPSD176aの受光面に入射する。このとき、PSD176aの受光面における光量の重心Cは該受光面の中心付近となる。一方、スライダ162がレール161の前端付近に移動してくると、遮光部177がLED175aとPSD176aの間に進入する。これにより、
図6(b)に示すように、PSD176aの受光面の一部が遮光部177で覆われ、LED175aから出射した光の一部が遮断されてPSD176aに届かなくなる。その結果、PSD176aの受光面における光量の重心Cは、
図6(a)の状態よりも前方(図中の矢頭方向)に移動する。このように、PSD176aの受光面における光量の重心Cの位置はスライダ162及び移動鏡116の位置を反映しているため、重心Cの位置の変化に基づいてレール161の前端付近における移動鏡116の移動方向を検知することができる。また、レール161の後端付近における移動鏡116の移動方向も、検知部171bのPSD176bにおける重心Cの位置変化に基づいて上記と同様の方法で求めることができる。
【0036】
このような構成のFT-IRによって試料の測定を行う際には、制御部124の制御の下に、まず常法によりセンターバースト位置を決定する。センターバースト位置はインターフェログラムの強度が最大となるときの移動鏡116の位置であり、この位置が試料測定時におけるデータ収集の開始点となる。次にセンターバースト位置からユーザが指定した波長分解能を満たすために必要な距離Lが求められる。そして、試料室140に試料Sがセットされた状態で移動鏡116が前記センターバースト位置を基点として距離Lだけ往復動し、その間に光検出器119により受光された干渉赤外光の検出信号がアンプ120、サンプルホールド回路121、及びA/D変換部122を経てデータ処理部123に送られる。データ処理部123では、該検出信号に基づいて信号強度を縦軸に、移動鏡116の位置を横軸に取ったインターフェログラムが作成される。
【0037】
ここで正確なインターフェログラムを作成するためには、上記試料測定の各時点における移動鏡116の位置を正確に求める必要がある。このとき、試料測定時における移動鏡116の移動範囲のうち中間部(すなわち両端の折り返し位置付近を除く範囲)については、ボイスコイルモータ150に印加する駆動電圧の正負から移動鏡116の移動方向を特定できる。また、波形整形器132から出力されるパルス信号(すなわちコントロール干渉計で生成された干渉レーザ光の検出信号)のカウント数に基づいて、所定の位置(例えばセンターバースト位置)からの移動鏡の移動距離を求めることもできる。従って、前記中間部では、該移動距離及び前記移動方向から移動鏡116の現在位置を特定することができる。
【0038】
一方、移動鏡116の移動範囲の両端(折り返し位置付近)においては、上述したようにボイスコイルモータ150への印加電圧の正負から移動鏡116の移動方向を正しく求めるのは困難である。そこで、本実施形態におけるFT-IRでは、移動鏡116が前記移動範囲の両端付近に位置している間は、上記のPSD176a又はPSD176bからの出力信号に基づいて、データ処理部123にて移動鏡116の移動方向が特定される。なお、この場合も、移動鏡116の移動距離については前記パルス信号のカウント数から求めることができるため、該移動距離及び前記移動方向から移動鏡116の現在位置を特定することができる。
【0039】
あるいは、前記パルス信号のカウント数を利用せず、PSD176a又はPSD176bからの出力信号のみから前記移動範囲の両端付近における移動鏡116の移動方向と移動距離の両方を求めるようにしてもよい。この場合、移動鏡116が前記移動範囲の中間部から前端部(すなわちPSD176aによる検出可能領域)又は後端部(すなわちPSD176bによる検出可能領域)に移行する際に、該中間部と前端部(又は前端部)との境界位置X0におけるPSD176a(又は176b)の出力電圧を基準値V0として記憶しておく。そして、以降に得られるPSD176a(又は176b)の出力電圧Vと前記基準値V0との差(VΔ=V-V0)の値をデータ処理部123で算出する。これにより、前記VΔの正負に基づいて移動鏡116の移動方向を特定することができ、VΔの絶対値に基づき前記境界位置X0からの移動鏡116の移動距離を知ることができる。
【0040】
なお、上記の例では、二つの検知部171a、171bを移動鏡116の移動範囲の両端に配置する構成としたが、これに限らず、例えば
図7に示すように、該移動範囲の全域をカバーするように一つの検知部171を配置した構成としてもよい。この場合、該検知部171には前記移動範囲と同一又はそれ以上の長さを有するPSD176を取り付ける。これにより、前記移動範囲の全域においてPSD176による移動鏡の移動方向及び移動距離の検出が可能となる。
【0041】
一方、試料測定において、前記移動範囲のうちセンターバースト位置から遠い領域で収集されたデータはパワースペクトルの作成には用いられないため、該領域については、移動鏡116の位置検出精度が多少低くても構わない。そこで、本実施形態に係るFT-IRは、
図8に示すように移動鏡116の移動範囲の一端(センターバースト位置に近い側)のみに検知部171aを配置した構成としてもよい。
【0042】
[実施形態2]
続いて、本発明の第2の実施形態によるFT-IRについて説明する。
図9及び
図10は本実施形態のFT-IRにおける移動鏡216の周辺部の構成を示す図であって、
図9は該周辺部を上方から見た状態を示し、
図10は側方から見た状態を示している。なお、既に説明した
図2~
図4で示したものと同一又は対応する構成要素については下二桁が共通する符号を付し、適宜説明を省略する。また、本実施形態によるFT-IRでは、移動方向検知機構以外の構成は
図1で示したものと同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0043】
本実施形態における移動方向検知機構270は、リニアガイド260のスライダ262に固定された反射部283と、リニアガイド260のレール261の前方に固定され、反射部283に向けて光を照射するピンスポット光源(例えばレーザ光源)281と、受光面を上方に向けた状態でレール261の側方に配置された二つのPSD282a、282bとを含んでいる。反射部283は例えば平面鏡から成り、前方から入射した光を下方に反射するように反射面を傾斜させた状態でスライダ262に固定されている。また、PSD282a、282bは該反射部283の移動範囲の前端部(ビームスプリッタ114に近い側)と後端部(ビームスプリッタ114から遠い側)に配置されている。
【0044】
ピンスポット光源281から出射した光は常に反射部283に入射してその直下に反射される。スライダ262がレール261の中間部に位置している際は、この反射光はいずれのPSD282a、282bにも入射しないが、スライダ262がレール261の前端付近に移動してくると、反射部283からの反射光がPSD282aに入射するようになり、スライダ262が更に前方に移動するにつれ、PSD282aの受光面上における光量重心の位置も前方に移動する。同様に、スライダ262がレール261の後端付近に移動してくると、反射部283からの反射光がPSD282bに入射するようになり、スライダ262が更に後方に移動するにつれ、PSD282bの受光面上における光量重心の位置も後方に移動していく。このように、本実施形態における移動方向検知機構270においても、PSD282a、282bの受光面における光量の重心位置は移動鏡216の位置を反映しているため、該PSD282a、282bからの出力信号に基づいて移動鏡216の移動範囲の前端付近及び後端付近における移動鏡216の移動方向を検知することができる。
【0045】
なお、本実施形態における移動方向検知機構270は、
図9及び
図10に示した構成に限定されるものではなく、反射部283が移動鏡216と共に移動し、該反射部283の移動に伴ってPSD282a、282bに入射する光の重心位置が変化するように構成されていればよい。従って、例えば
図11(移動鏡216周辺部を上方から見た図)に示すように、前方から反射部283に入射した光が側方に向けて反射されるように該反射部283を傾斜させ、更に、PSD282a、282bを、その受光面をリニアガイド260の方向に向けた状態で反射部283の移動範囲の前端及び後端に立設した構成としてもよい。
【0046】
また、上記の例では、二つのPSD282a、282bを移動鏡216(及び反射部283)の移動範囲の両端に配置する構成としたが、これに限らず、例えば
図12に示すように、該移動範囲の全域をカバーするように一つのPSD282を配置した構成としてもよい。この場合、該PSD282としては前記移動範囲と同一又はそれ以上の長さを有するものを使用する。これにより、前記移動範囲の全域においてPSD282による移動鏡216の移動方向及び移動距離の検出が可能となる。
【0047】
一方、試料測定において、前記移動範囲のうちセンターバースト位置から遠い領域で収集されたデータはパワースペクトルの作成には用いられないため、該領域については、移動鏡216の位置検出が精度が多少低くても構わない。そこで、本実施形態に係るFT-IRは、
図13に示すように移動鏡216(及び反射部283)の移動範囲の一端(センターバースト位置に近い側)のみにPSD282aを配置した構成としてもよい。
【0048】
また、上記の例では、いずれもピンスポット光源281をレール261の前方に固定する構成としたが、ピンスポット光源281の位置はこれに限定されるものではない。例えば、ピンスポット光源281をレール261の後方に固定し、該ピンスポット光源281から反射部283に入射した光をPSDに向けて反射させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0049】
110…気密室310…気密室
111、311…赤外光源
114、314…ビームスプリッタ
115、315…固定鏡
116、216、316…移動鏡
119、130、319、330、331…光検出器
123、323…データ処理部
125、325…レーザ光源
132、332、333…波形整形器
140、340…試料室
150、250、350…ボイスコイルモータ
151、251、351…駆動軸
152、252、352…ボイスコイル
160、260、360…リニアガイド
161、261、361…レール
162、262、362…スライダ
170、270…移動方向検知機構
171、171a、171b…検知部
175、175a、175b…LED
176、176a、176b、282、282a、282b…PSD
177…遮光部
281…ピンスポット光源
283…反射部
327…位相板
329…偏光ビームスプリッタ
334…アップ/ダウン・カウンタ