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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20220511BHJP
   C09D 183/04 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D183/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020164873
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056889
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000116301
【氏名又は名称】亜細亜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 聡志
(72)【発明者】
【氏名】森山 明祐
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201778(JP,A)
【文献】国際公開第2012/128223(WO,A1)
【文献】特許第4906219(JP,B2)
【文献】特許第5910775(JP,B1)
【文献】特許第6607269(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)Si含量が15質量%以上である式(1)で表されるアルコキシ基含有有機シラン化合物、またはSi含量が15質量%以上である式(1)で表されるアルコキシ基含有有機シラン化合物の縮合物、
【化1】
(式中、R1は、アルキル基を表し、R2~R4は、それぞれ独立して、OR1(R1は、前記と同じ意味を表す。)、アルキル基またはアリール基を表し、R2~R4のうち少なくとも1つがアルキル基またはアリール基である。)
(b)テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種、
(c)アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂、またはアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂とアルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂との双方、および
(d)溶剤として有機溶剤のみを含み、
加水分解性シリル基含有フッ素樹脂を含まず、
前記(a)成分100質量部に対し、前記(b)成分が、20~200質量部(固形分)含まれ、前記(c)成分のうち前記アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂が、108質量部(固形分)以上含まれ、前記(c)成分が、200~2,000質量部(固形分)含まれることを特徴とする1液型塗料組成物。
【請求項2】
前記アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂が、(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物と、アルコキシシリル基および水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合体である請求項1記載の1液型塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノポリシロキサン系樹脂を主成分とした塗料は、耐候性や塗膜硬度に優れることから、建築や土木構造物の分野で汎用されている。
このオルガノポリシロキサン系塗料は、上記利点を有している反面、硬化速度が遅く、また得られた塗膜が耐クラック性に劣るという欠点も有している。
【0003】
この問題を解決すべく、本出願人は、塗膜の硬度や耐候性を保持した上で、耐屈曲性および耐クラック性に優れた塗膜を与える常温硬化可能な2液硬化型のオルガノポリシロキサン塗料組成物をすでに報告している(特許文献1参照)。
【0004】
しかし、特許文献1の塗料においても、建築分野においてサイディング材等の継ぎ目部分に施工されるシーリング材上に塗装した場合に、下地追従性が不足するため経時的にクラックが生じる場合があることがわかってきた。
この問題を解決すべく、本出願人は、耐候性および耐汚染性を保持しながら、優れた下地追従性を有する塗膜を与える常温硬化可能な2液硬化型のオルガノポリシロキサン塗料組成物をすでに報告している(特許文献2参照)。
【0005】
この2液硬化型のオルガノポリシロキサン塗料組成物は、塗装業者が塗装現場において所定の割合で正確に混合し、十分に撹拌する必要があることや、使用可能な時間に制限があるなど、その取り扱い性や作業性という点で大きな問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4906219号公報
【文献】特許第6607269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、耐候性および耐汚染性を保持しながら、取り扱い性や作業性に優れる1液硬化型の塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、所定の有機シラン化合物、所定のアルコキシシランの部分加水分解縮合物、所定のアクリル樹脂を、それぞれ所定割合で含む組成物が、耐候性および耐汚染性を有する塗膜を与え得る1液型塗料として好適であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. (a)Si含量が15質量%以上である式(1)で表されるアルコキシ基含有有機シラン化合物、またはその縮合物、
【化1】
(式中、R1は、アルキル基を表し、R2~R4は、それぞれ独立して、OR1(R1は、前記と同じ意味を表す。)、アルキル基またはアリール基を表し、R2~R4のうち少なくとも1つがアルキル基またはアリール基である。)
(b)テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種、
(c)アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂、またはアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂とアルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂との双方、および
(d)有機溶剤を含み、
前記(a)成分100質量部に対し、前記(b)成分が、20~200質量部(固形分)含まれ、前記(c)成分が、200~2,000質量部(固形分)含まれることを特徴とする1液型塗料組成物、
2. 前記アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂が、(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物と、アルコキシシリル基および水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合体である1の1液型塗料組成物
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗料組成物は、(a)~(d)成分という特定の成分を組み合わせるとともに、(a)~(c)成分の配合量を特定量とした1液型の組成物であるから、取り扱い性や作業性に優れるとともに、オルガノポリシロキサン系塗料本来の耐候性および耐汚染性を損なわない塗膜を与え得る。
また、塗料用溶剤として石油炭化水素系溶剤を配合した場合、旧塗膜や基材を侵しにくい塗料となるため、旧塗膜や基材の塗り替えが容易に行えるのみならず、低臭気であるため作業環境を大幅に改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る塗料組成物は、(a)Si含量が15質量%以上である式(1)で表されるアルコキシ基含有有機シラン化合物、またはその縮合物、(b)テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種、(c)アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂、またはアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂とアルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂との双方、および(d)有機溶剤を含み、(a)成分100質量部に対し、(b)成分が、20~200質量部(固形分)含まれ、(c)成分が、200~2,000質量部(固形分)含まれる1液硬化型の塗料組成物である。
【0012】
【化2】
(式中、R1は、アルキル基を表し、R2~R4は、それぞれ独立して、OR1(R1は、前記と同じ意味を表す。)、アルキル基またはアリール基を表し、R2~R4のうち少なくとも1つがアルキル基またはアリール基である。)
【0013】
以下、本発明の塗料組成物に含まれる各成分について説明する。
(a)成分のアルコキシ基含有有機シラン化合物は、塗膜の耐候性能および耐汚染性能の点から、Si含量の下限が15質量%のものが用いられるが、好ましくは16質量%であり、より好ましくは17質量%である。一方、Si含量の上限については特に制限はないが、一般的に50質量%程度であり、好ましくは40質量%、より好ましくは35質量%である。
なお、Si含有量は、例えば、特許第4906219号公報記載の方法で測定することができる。
【0014】
(a)成分の有機シラン化合物として、本発明では、上記式(1)で示される有機シラン化合物またはその縮合物が用いられる。なお、縮合物である場合、その縮合度としては2~100の範囲が一般的であり、相溶性の点からは、縮合度が2~15である液状のものが好ましい。また、本発明において、(a)成分の有機シラン化合物は、単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記式(1)において、R1は、アルキル基を表し、R2~R4は、それぞれ独立して、OR1(R1は、前記と同じ。)、アルキル基またはアリール基を表し、R2~R4のうち少なくとも1つがアルキル基またはアリール基である。
上記アルキル基の炭素数としては、特に限定されるものではないが、本発明においては、1~10が好ましく、1~5がより好ましい。また、その構造は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよい。
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等が挙げられる。
【0016】
アリール基の炭素数としては、特に限定されるものではないが、本発明においては、6~20が好ましく、6~14がより好ましい。
アリール基の具体例としては、フェニル、α-ナフチル、β-ナフチル、o-ビフェニリル、m-ビフェニリル、p-ビフェニリル、1-アントリル、2-アントリル、9-アントリル、1-フェナントリル、2-フェナントリル、3-フェナントリル、4-フェナントリル、9-フェナントリル基等が挙げられる。
【0017】
特に(a)成分としては、R1がメチル基であり、R2~R4がそれぞれ独立にメトキシ基、メチル基、またはフェニル基である化合物を用いることがより好ましい。
【0018】
有機シラン化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;フェニルトリメトキシシラン等のアリールトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン;メチルフェニルジメトキシシラン等のアルキルアリールジアルコキシシラン;ジフェニルジメトキシシラン等のジアリールジアルコキシシラン;トリメチルメトキシシラン等のトリアルキルアルコキシシラン;ジメチルフェニルメトキシシラン等のジアルキルアリールアルコキシシラン;メチルジフェニルメトキシシラン等のアルキルジアリールアルコキシシラン;トリフェニルメトキシシラン等のトリアリールアルコキシシラン、およびこれら各有機シラン化合物の縮合物等が挙げられる。
なお、縮合物は、例えば、上記有機シラン化合物の単一物または2種以上の混合物に水を添加し、(部分)加水分解縮合させて得ることができる。
【0019】
また、本発明の有機シラン化合物としては、市販品を用いることもでき、その具体例としては、東レ・ダウコーニング(株)製のDC3074(Si含量25質量%)およびSR2402(Si含量30質量%)、信越化学工業(株)製のKR-510(Si含量20.5質量%)、KR-213(Si含量17.7質量%)、KR-500(Si含量29.4質量%)、KC-89S(Si含量27.5質量%)、X-40-9225(Si含量31.3質量%)、X-40-9246(Si含量33.6質量%)、X-40-9250(Si含量34.1質量%)、KR-401N(Si含量26.1質量%)、X-40-9227(Si含量27.5質量%)、X-40-9247(Si含量21.5質量%)、KR-9218(Si含量18.7質量%)、X-40-2308(Si含量23.8質量%)およびX-40-9238(Si含量21質量%)などが挙げられる。
【0020】
(b)成分のテトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、およびテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物から選ばれる少なくとも1種は、テトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランを上述した手法で部分加水分解縮合したシリケートオリゴマーであればその縮合度等は任意のものを使用できるが、平均で4~10量体程度のオリゴマーが好ましい。
【0021】
また、これらのシリケートオリゴマーは、市販品を使用してもよい。
テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(メチルシリケートオリゴマー)の市販品としては、例えば、メチルシリケート51、メチルシリケート53A(いずれもコルコート(株)製)、MKC(登録商標)シリケートシリーズ(MS51、MS56、MS57、MS56S、三菱ケミカル(株)製)、
テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(エチルシリケートオリゴマー)の市販品としては、例えば、エチルシリケート40、エチルシリケート48(いずれもコルコート(株)製)等が挙げられる。
また、メチルシリケートオリゴマーとエチルシリケートオリゴマーの混合物であるEMS-485(コルコート(株)製)を用いることもできる。
【0022】
(c)成分で用いるアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂は、(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物の単独重合体、またはこれと、アルコキシシリル基および水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物等との共重合体を用いることができるが、(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物と、アルコキシシリル基および水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合体が好ましい。
この場合、(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物としては、公知の化合物から適宜選択して用いることができるが、下記式(2)で示される化合物が好ましい。
【0023】
【化3】
(式中、R5は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基を表し、R6は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、または炭素数7~10のアラルキル基を表し、R7は、水素原子またはメチル基を表し、aは、0~2の整数を表す。)
【0024】
炭素数1~10のアルキル基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、シクロプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、シクロブチル、n-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル基等が挙げられる。
炭素数6~10のアリール基の具体例としては、フェニル、α-ナフチル、β-ナフチル基等が挙げられる。
炭素数7~10のアラルキル基の具体例としては、ベンジル、フェニルエチル基等が挙げられる。
【0025】
(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物の具体例としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシジアルコキシシラン;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリプロポキシシラン等の(メタ)アクリロキシトリアルコキシシランなどが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、アルコキシシリル基は(部分)加水分解縮合物であってもよい。
(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物の縮合物としては、市販品を用いることもでき、その具体例としては、KR-513(Si含量14.0質量%、信越化学工業(株)製)、X-40-2655A(Si含量16.8質量%、信越化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0026】
同じくアルコキシシリル基および水酸基を有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ヘプチル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸イソボニル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物と、その他の(メタ)アクリル酸エステル化合物とを共重合させる場合、その使用比率は特に限定されるものではないが、得られる塗膜の耐候性と耐汚染性という点から、(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物/その他の(メタ)アクリル酸エステル化合物=1/99~90/10(質量比)が好ましく、1/99~80/20がより好ましく、1/99~50/50がより一層好ましく、1/99~30/70がさらに好ましい。
【0028】
上記アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂は、常法に従い、(メタ)アクリレート基含有アルコキシシラン化合物を含むモノマーを溶剤中においてラジカル重合開始剤を用いて単独または共重合して得られる。
【0029】
重合反応用溶媒としては、溶液重合が可能であり、使用するモノマーおよび得られるポリマーの溶解能を有するものであれば特に制限はない。具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル等のエステル系溶媒;イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶媒が挙げられ、これらは、単独で用いても2種以上組み合わせて用いてもよい。
なお、石油炭化水素系溶媒を用いる場合、上記モノマーとして、炭素数4~8のアルキル基を有するアクリル系モノマー、特にn-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートを含むモノマーを用いることが好ましい。
【0030】
重合開始剤としては、熱または還元性物質などによって分解してラジカル種を発生するものであれば、特に限定はなく、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキシド、t-ブチルパーベンゾエート、t-ブチルハイドロパーオキシド、ジ-t-ブチルパーオキシド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、クメンハイドロパーオキシド等の過酸化物などが挙げられ、これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、得られる重合物の分子量の調節のため、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等の連鎖移動剤を添加することもできる。
【0031】
具体的な重合方法としては、ラジカル重合開始剤を含む溶媒に、モノマー(の混合物)を滴下するモノマー滴下法;溶媒、ラジカル重合開始剤、およびモノマーからなる混合物のラジカル重合を行う一浴重合法(モノマー等を一括装入して重合する方法)などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
特に、安全性および分子量の制御の点から、モノマー滴下法が好ましい。
【0032】
本発明で用いるアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂の分子量としては特に限定されるものではないが、重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が3,000~100,000が好ましく、5,000~50,000がより好ましい。
また、アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂の粘度としても特に限定されるものではないが、25℃で500~10,000mPa・sが好ましく、1,000~5,000mPa・sがより好ましい。なお、粘度は、Brookfield製 Viscometer DV-Eを用いた測定値(以下、同様)である。
【0033】
また、(c)成分で用いるアルコキシシリル基を有するアクリル樹脂は、アルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂と併用することもできる。
このアルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を上述した手法で(共)重合して得ることができるが、水酸基を1つ有する(メタ)アクリレートと上述した水酸基およびアルコキシシリル基を有しない(メタ)アクリル酸エステル化合物との共重合体が好ましい。水酸基を1つ有する(メタ)アクリレートの具体例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等の水酸基含有1官能(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明で用いるアルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂の分子量としては特に限定されるものではないが、GPCによる重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が5,000~100,000が好ましく、10,000~80,000がより好ましい。
また、アルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂の粘度としても特に限定されるものではないが、25℃で500~50,000mPa・sが好ましく、1,000~40,000mPa・sがより好ましい。
【0035】
アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂(以下、アクリル樹脂Aという)とアルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂(以下、アクリル樹脂Bという)とを併用する場合、それらは別々に組成物に配合しても、混合物として配合してもよい。
また、併用する場合、アクリル樹脂Aとアクリル樹脂Bとの使用比率に特に制限はないが、組成物の取り扱い性や作業性、および得られる塗膜の耐候性および耐汚染性という点から、質量比でアクリル樹脂A:アクリル樹脂B=1:1~1:5が好ましく、1:1~1:3がより好ましく、1:1~1:2がより一層好ましい。
【0036】
(d)成分の有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤;ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤などが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、旧塗膜や基材を侵しにくく、また、低臭気であるため作業環境の改善に大きく役立つという点から、ミネラルスピリット等の石油炭化水素系溶剤が好ましい。
【0037】
本発明の塗料組成物には、上記した必須成分である(a)~(d)成分に加えて、(e)成分として、着色顔料および体質顔料を適宜含んでいてもよい。
着色顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、酸化第二鉄(ベンガラ)、黄鉛、黄色酸化鉄、オーカー、群青、コバルトグリーン等の無機系顔料;アゾ系、ナフトール系、ピラゾロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンゾイミダゾール系、フタロシアニン系、キノフタロン系等の有機顔料が挙げられる。
体質顔料としては、重質炭酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウム、ホワイトカーボン、珪藻土等が挙げられる。
【0038】
なお、本発明の塗料組成物には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、可塑剤、防腐剤、防かび剤、防藻剤、消泡剤、レベリング剤、顔料分散剤、沈降防止剤、たれ防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、増粘剤、光安定剤、触媒等の各種添加剤を組成物中に、0.1~30質量%配合してもよい。
【0039】
上述のとおり、本発明の塗料組成物において、(b)成分は、(a)成分100質量部に対して、20~200質量部(固形分)含まれる。
(b)成分の配合量が20質量部未満では、塗膜の耐候性、耐汚染性が低下し、200質量部を超えると、塗膜の下地追従性が低下する。
また、(c)成分は、(a)成分100質量部に対して、200~2,000質量部(固形分)含まれる。
(c)成分の配合量が200質量部未満では、塗膜の下地追従性が低下し、2,000質量部を超えると、塗膜の耐候性、耐汚染性が低下する。
【0040】
(d)成分の有機溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、組成物中の総固形分量が10~70質量%程度となる量が好ましい。
また、任意成分である(e)成分は、塗膜の用途等に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で配合すればよい。
例えば、着色顔料や体質顔料の配合量は、(a)成分100質量部に対し、1~1,000質量部程度であるが、好ましくは、50~500質量部程度である。
【0041】
本発明の塗料組成物は、1液型の塗料組成物であり、上述した各種成分を任意の順序で混合して調製することができる。
混合手法としても特に限定されるものではなく、従来公知の手法から適宜選択して用いればよいが、一例を挙げると、上記各成分およびガラスビーズを混合容器に仕込み、ペイントシェーカーで0.5~5時間程度分散させた後、ガラスビーズを除去する手法がある。
【0042】
以上説明した塗料組成物の使用法としては、例えば、基材表面に直接本発明の組成物を塗布し、これを常温にて乾燥する手法が挙げられる。
この場合、本発明の組成物の塗布法は特に限定されるものではなく、刷毛塗り、ローラ塗り、スプレー塗布などの公知の手法から適宜選択すればよい。また、塗布量、塗膜の厚み、乾燥時間などは、基材の材質や被覆品の用途などに応じて適宜なものとすればよい。
【0043】
本発明の組成物を適用する基材としては、金属基材、プラスチック基材、ガラス基材等任意であるが、本発明の塗料組成物から得られた塗膜は、耐候性に優れていることから、特に、外壁、窓ガラス、ヘッドランプカバー等の外装材用途に、好適に用いることができる。
より具体的には、機械、船舶、車両、航空機、土木、建築、重防食、インキ、その他一般工業分野において好適に用いられる。特に、本発明の塗料組成物を用いると、下地追従性に優れた塗膜を得ることが可能となるため、フレキシビリティーに富んだ部材が多い建築および土木構造物用の素材に対して好適である。また、本発明の塗料組成物は、長期にわたる塗膜性能の維持が求められている戸建て住宅の窯業系や金属系サイディング材に対しても好適に用いることができる。
【実施例
【0044】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。また、使用した装置は以下のとおりである。
(1)粘度
装置:Brookfield製 Viscometer DV-E
(2)重量平均分子量
装置:東ソー(株)製 高速GPC装置 HLC-8320GPC
カラム:東ソー(株)製 TSK-GEL SUPER MULTIPORE HZの2個連結
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折計
溶離液:THF
カラム流速:0.35ml/min
【0045】
[合成例1]アルコキシシリル基を有するアクリル樹脂の合成
撹拌装置、温度計、冷却管および窒素ガス導入管、滴下装置を備えた反応器に、LAWS(石油炭化水素系溶剤、シェルケミカルズジャパン(株)製)370部を仕込み、撹拌しながら120℃まで昇温した。そこに、i-ブチルメタクリレート297部、n-ブチルメタクリレート217部、KBM-503(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業(株)製)16部、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート4部、LAWS47部からなる混合物1を4時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で1時間反応させた。さらに、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート2部、LAWS47部からなる混合物2を1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で3時間反応させ、不揮発分(固形分)54%、粘度3,000mPa・s(25℃)、重量平均分子量25,000のアクリル樹脂Aを得た。
【0046】
[合成例2]アルコキシシリル基を有しないアクリル樹脂の合成
各成分の組成を表1に従って変更した以外は、合成例1と同様の方法で、不揮発分(固形分)60%、粘度27,000mPa・s(25℃)、重量平均分子量55,000のアクリル樹脂Bを得た。
【0047】
【表1】
【0048】
[実施例1]
(1)塗料組成物の調製
(a)成分であるKR-510(Si含量20.5%、信越化学工業(株)製)100.0部、(b)成分であるエチルシリケート48(テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物、コルコート(株)製)64.0部、(c)成分である合成例1で得られたアクリル樹脂A400.0部、合成例2で得られたアクリル樹脂B710.0部、(d)成分であるLAWS318.0部、(e)成分である酸化チタン(TIPAQUE CR-90、石原産業(株)製)370.0部、およびガラスビーズ1962.0部を混合容器に仕込み、ペイントシェーカーで1時間分散を行った後、ガラスビーズを除去し、塗料組成物を得た。
【0049】
[実施例2~9,比較例1~7]
下記表2および表3の組成に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料組成物を得た。
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
なお、使用した各成分は以下のとおりである。
KR-510 信越化学工業(株)製、アルコキシ基含有有機シラン化合物(Si含量20.5%)
KR-213 信越化学工業(株)製、アルコキシ基含有有機シラン化合物(Si含量17.7%)
KR-217 信越化学工業(株)製、アルコキシ基含有有機シラン化合物(Si含量11.6%)
メチルシリケート コルコート(株)製、メチルシリケート51(テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物)
エチルシリケート コルコート(株)製、エチルシリケート48(テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物)
EMS-485 コルコート(株)製、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物とテトラエトキシシランの部分加水分解縮合物との混合物
N-プロピルシリケート コルコート(株)製、テトラプロポキシシラン
LAWS シェルケミカルズジャパン(株)製、石油炭化水素系溶剤
酸化チタン 石原産業(株)製、TIPAQUE CR-90
【0053】
上記各実施例および比較例で調製した塗料組成物について、以下の評価を行った。その結果を表4に示す。
(1)下地追従性
下地追従性は、JIS K5600-7-4(耐湿潤冷熱繰返し性)に準じ、試験片を20℃の水に18時間浸水し、その後-20℃の冷凍庫で3時間冷却し、さらに50℃で3時間加温した。この繰り返しを50サイクル行い、試験終了後の塗膜の状態を目視にて観察し、塗膜における割れ、膨れの程度を以下の3段階で評価した。
なお、試験片は、300×150×4mmのフレキシブルボードに膜厚が10mmとなるようにシーリング材(サンスター技研(株)製、ペンギンシール2550LM)を打設し、23℃,50%RHの条件下で2日間養生後、膜厚が50μmとなるように塗料組成物をスプレーで塗装し、23℃,50%RHの条件下で7日間養生して作製した。
○:塗膜に変化がみられない。
△:塗膜の一部に割れ、膨れが認められる。
×:塗膜に著しい割れ、膨れが認められる。
(2)促進耐候性
促進耐候性試験は、超促進耐候試験機(岩崎電気(株)製、アイスーパーUVテスター)を用いて行った。また、試験片は、50×50×4mmのフレキシブルボードに乾燥塗膜厚が50μmになるように塗料組成物をスプレーで塗装し、23℃,50%RHの条件下で7日間乾燥して作製した。試験条件としては、波長295~450nm、紫外線照射度100mW/cm2、ブラックパネル温度63℃,50%RH、1サイクルを照射4時間、結露4時間とし、125サイクル(1,000時間)試験した。試験終了後、塗膜の初期60度鏡面光沢値に対する光沢保持率を求め、以下の3段階で評価した。
○:光沢保持率70%以上
△:光沢保持率50%以上70%未満
×:光沢保持率50%未満
(3)耐汚染性
150×70×0.8mmのアルミ板に乾燥塗膜厚が50μmになるように塗料組成物をスプレーで塗装し、23℃,50%RHの条件下で14日間乾燥し、試験片を作製した。得られた試験片に、カーボン懸濁水(デグサ社製、カーボンブラック Color Black FW200)5部と脱イオン水95部にガラスビーズを加えペイントシェーカーで2時間分散した分散液)をエアスプレーで隠ぺいするまで塗布し、直ちに60℃で1時間乾燥させた。乾燥後、室温まで放冷し、試験片の表面を流水下にてガーゼを使用して、汚れ物質が落ちなくなるまで洗浄した。洗浄後、室温で3時間乾燥し、汚れの程度を色差計にて測定して、試験前後における塗膜の明度差(ΔL*)を求め、以下の3段階で評価した。なお、明度差が小さいものほど、耐汚染性に優れた塗料であることを示している。
明度差(ΔL*)=[試験後の塗膜明度(L*1)-試験前の塗膜明度(L*0)]
○:明度差-5以上
△:明度差-10以上-5未満
×:明度差-10未満
【0054】
【表4】
【0055】
表4に示されるように、実施例1~9で調製した塗料組成物から得られた塗膜は、下地追従性、耐候性および耐汚染性に優れていることがわかる。
これに対し、比較例1~7で調製した塗料組成物では、(a)~(c)成分のいずれかが本発明の規定を満たしていないため、下地追従性、耐候性および耐汚染性のすべてを満足するような塗膜が得られていないことがわかる。