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特許7070700吸音用部材、吸音用ユニットおよび吸音構造体
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  • 特許-吸音用部材、吸音用ユニットおよび吸音構造体 図1
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  • 特許-吸音用部材、吸音用ユニットおよび吸音構造体 図16
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  • 特許-吸音用部材、吸音用ユニットおよび吸音構造体 図18
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  • 特許-吸音用部材、吸音用ユニットおよび吸音構造体 図20
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】吸音用部材、吸音用ユニットおよび吸音構造体
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20220511BHJP
   G10K 11/172 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G10K11/16 120
G10K11/172
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020556373
(86)(22)【出願日】2018-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2018040992
(87)【国際公開番号】W WO2020095344
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】特許業務法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨松 清行
(72)【発明者】
【氏名】本地 由和
【審査官】大石 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-15972(JP,A)
【文献】特開2001-92468(JP,A)
【文献】特開2000-10569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 11/16
G10K 11/172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状またはシート状の基材に設けられる孔に挿入して用いる筒状の吸音用部材であって、
第1端面と、前記第1端面とは反対側の端面である第2端面と、前記第1端面と前記第2端面との間に設けられる側面と、を含み、
前記第1端面には、第1開口部が設けられ、
前記側面には、1以上の第2開口部が設けられる、
吸音用部材。
【請求項2】
前記1以上の第2開口部は、前記第1端面よりも前記第2端面に近い位置に配置される、
請求項1に記載の吸音用部材。
【請求項3】
前記第2端面は、当該吸音用部材の一端を塞ぐ底部である、
請求項1または2に記載の吸音用部材。
【請求項4】
前記第2端面には、第3開口部が設けられる、
請求項1または2に記載の吸音用部材。
【請求項5】
前記側面には、前記第1端面の外周に沿ってフランジ部が設けられる、
請求項1から4のいずれか1項に記載の吸音用部材。
【請求項6】
前記1以上の第2開口部は、前記側面の周方向に並んで配置される複数の第2開口部である、
請求項1から5のいずれか1項に記載の吸音用部材。
【請求項7】
前記1以上の第2開口部の開口面積は、前記第1開口部の開口面積以上である、
請求項1から6のいずれか1項に記載の吸音用部材。
【請求項8】
複数の吸音用部材と、
前記複数の吸音用部材が挿入される複数の第1孔を有する板状またはシート状の基材と、を有し、
前記複数の吸音用部材のそれぞれは、請求項1から7のいずれか1項に記載の吸音用部材である、
吸音用ユニット。
【請求項9】
前記基材の前記第1端面側の面上に配置され、平面視で前記複数の第1孔に重なる複数の第2孔を有する板状またはシート状の多孔質材を有する、
請求項8に記載の吸音用ユニット。
【請求項10】
前記複数の第2孔のそれぞれの開口面積は、前記複数の第1孔のそれぞれの開口面積よりも大きく、
前記多孔質材における前記複数の第2孔の開口率は、50%以下である、
請求項9に記載の吸音用ユニット。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか1項に記載の吸音用ユニットと、
前記複数の吸音用部材を介して前記基材を支持する壁体と、を有する、
吸音構造体。
【請求項12】
前記壁体は、前記複数の吸音用部材を固定する複数の凹部または凸部を有する、
請求項11に記載の吸音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音用部材、吸音用ユニットおよび吸音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルムホルツ共鳴を用いる吸音構造体が知られている。例えば、特許文献1に記載の吸音構造体は、複数の開口部を有する板状部材を備え、当該板状部材と壁体との間に空気層を設ける。特許文献1に記載の吸音構造体は、板状部材の開口部に接続される延長部材をさらに備える。延長部材の少なくとも一部は、空気層内に壁体と離間する状態で収容される。特許文献1では、板状部材として石膏ボードが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-008012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の吸音構造体では、次の課題aおよびbがある。課題a.板状部材が実質的な剛体であるため、壁面が曲面状をなす場合、壁面に沿って設置することができない。課題b.延長部材と壁体とを離間させる必要があるため、仮に板状部材を柔軟な部材で構成すると、板状部材と壁体との間の距離を均一にすることが難しく、所望の吸音効果を得ることが難しい。ここで、仮に延長部材が壁体に接触すると、延長部材の空気層側の開口が塞がってしまい、吸音効果を得ることできない。
【0005】
以上の事情を考慮して、本発明は、壁体の壁面が曲面である場合であっても、所望の吸音効果を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本発明の好適な態様に係る吸音用部材は、板状またはシート状の基材に設けられる孔に挿入して用いる筒状の吸音用部材であって、第1端面と、前記第1端面とは反対側の端面である第2端面と、前記第1端面と前記第2端面との間に設けられる側面と、を含み、前記第1端面には、第1開口部が設けられ、前記側面には、1以上の第2開口部が設けられる。
【0007】
本発明の好適な態様に係る吸音用ユニットは、複数の吸音用部材と、前記複数の吸音用部材が挿入される複数の第1孔を有する板状またはシート状の基材と、を有し、前記複数の吸音用部材のそれぞれは、上記のいずれかの態様に係る吸音用部材である。
【0008】
本発明の好適な態様に係る吸音構造体は、上記のいずれかの態様に係る吸音用ユニットと、前記吸音用部材を介して前記基材を支持する壁体と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る吸音構造体の平面図である。
図2図1中のA1-A1線断面図である。
図3】第1実施形態における吸音用部材の縦断面である。
図4図3中のB-B線断面図である。
図5】第1実施形態における吸音用部材と壁体との固定状態を示す図である。
図6】典型的なヘルムホルツ共鳴器を概念的に示す図である。
図7】第2実施形態に係る吸音構造体における吸音用部材と壁体との固定状態を示す図である。
図8】第3実施形態に係る吸音構造体における吸音用部材と壁体との固定状態を示す図である。
図9】第4実施形態に係る吸音構造体の平面図である。
図10図9中のA2-A2線断面図である。
図11】スピーカーシステムに吸音構造体を設置する場合の応用例を模式的に示す斜視図である。
図12】スピーカーシステムの筐体の右壁と左壁との間に発生する定在波の状態を模式的に示す図である。
図13】スピーカーシステムの筐体の前壁と後壁との間に発生する定在波の状態を模式的に示す図である。
図14】スピーカーシステムの筐体の天壁と底壁との間に発生する定在波の状態を模式的に示す図である。
図15】車両用のドアに吸音構造体を設置する場合の応用例を模式的に示す断面図である。
図16】変形例1に係る吸音構造体の断面図である。
図17】変形例2に係る吸音構造体の平面図である。
図18図17中のA3-A3線断面図である。
図19】変形例3に係る吸音構造体の断面図である。
図20】変形例4に係る吸音構造体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.第1実施形態
以下、本発明の第1実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面において各部の寸法及び縮尺は実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に記載する実施形態は、本発明の好適な具体例である。このため、本実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0011】
1-1.吸音構造体の構成
図1は、第1実施形態に係る吸音構造体100の平面図である。図2は、図1中のA1-A1線断面図である。図1および図2に示す吸音構造体100は、ヘルムホルツ共鳴を用いて吸音する構造体である。吸音構造体100は、壁体200と、壁体200に設置される吸音用ユニット10と、を有する。吸音用ユニット10は、板状またはシート状の基材20と、基材20を貫通する筒状の複数の吸音用部材1と、を有する。基材20は、複数の吸音用部材1を介して壁体200に支持される。壁体200と基材20との間には、空間S0が形成される。空間S0は、各吸音用部材1内を介して外部空間に通じる。ここで、空間S0は、吸音用部材1に対応する空間S1ごとに、典型的なヘルムホルツ共鳴器の容器として機能する。以下、吸音構造体100の各部を順に説明する。
【0012】
なお、図1および図2に図示されるように、以下の説明では、壁体200の壁面200aに沿う任意の一方向(図1中左右方向)をX方向と表記し、壁面200aに沿ってX方向に直交する方向(図1中上下方向)をY方向と表記し、壁面200aの法線方向をZ方向と表記する。図1中右側がX方向の正側であり、左側がX方向の負側である。また、図1中上側がY方向の正側であり、下側がY方向の負側である。また、図1中紙面手前側がZ方向の正側であり、奥側がZ方向の負側である。また、以下の説明では、Z方向からみる状態を平面視という。
【0013】
壁体200は、吸音用ユニット10を支持する構造体である。例えば、壁体200は、スピーカーシステム等の音響装置が有する筐体、車両等の移動体のドア等に用いられるパネル、建物の内壁、またはこれらのいずれかに固定される構造体等である。なお、スピーカーシステムまたは車両用のドアに吸音構造体100を設置する場合の応用例については、後述する。
【0014】
基材20は、複数の孔21を有する板状またはシート状をなす部材である。基材20は、柔軟であること、言い換えると、可撓性を有することが好ましい。基材20が柔軟であることにより、壁体200の壁面200aが曲面であっても、基材20を壁面200aに沿って変形させて配置することができる。基材20の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、エラストマー材料、樹脂材料および金属材料等が挙げられる。また、基材20は、吸音構造体100がヘルムホルツ共鳴を生じさせることが可能であれば、緻密体で構成してもよいし、多孔質体で構成してもよい。また、基材20の厚さtは、基材20に必要な強度および取り扱い易さ等に応じて決められ、特に限定されないが、基材20を柔軟にする観点から、例えば、1mm以上10mm以下であることが好ましい。なお、基材20の平面視での形状または大きさは、図1に示す例に限定されず、吸音構造体100の設置場所および吸音特性等に応じて適宜に設定される。
【0015】
複数の孔21のそれぞれは、吸音用部材1が挿入される孔である。図1に示す例では、複数の孔21は、平面視で行列状に規則的に配置される。図1に例示される各孔21の平面視形状は、円形である。なお、複数の孔21の数、行数、列数、行ピッチまたは列ピッチは、吸音構造体100の大きさおよび吸音特性等に応じて決められ、図1に示す例に限定されない。また、複数の孔21の配置は、図1に示す例に限定されず、例えば、千鳥配置等の他の規則的な配置でもよい。さらに、各孔21の平面視形状は、吸音用部材1の外形等に応じて決められ、円形に限定されず、例えば、四角形、五角形または六角形等の多角形等でもよい。
【0016】
吸音用部材1は、前述の基材20の孔21に挿入され、空間S0と外部空間とを連通させる筒状の部材である。吸音用部材1の構成材料としては、特に限定されず、例えば、樹脂材料、炭素材料、金属材料、セラミックス材料およびこれらの2種以上からなる複合材料等が挙げられる。中でも、樹脂材料は、他の材料に比べて、成形性がよく、かつ、軽量でコストも安価あることから好ましい。
【0017】
図3は、第1実施形態における吸音用部材1の縦断面である。図4は、図3中のB-B線断面図である。図3に示すように、吸音用部材1は、中空部2を有する筒状をなす。ここで、吸音用部材1は、第1端面E1と、第1端面E1とは反対側の端面である第2端面E2と、第1端面E1と第2端面E2との間に設けられる側面FSと、を含む。
【0018】
吸音用部材1の第1端面E1には、中空部2に連通する第1開口部3が設けられる。また、吸音用部材1の側面FSの第1端面E1よりも第2端面E2に近い位置には、中空部2に連通する複数の第2開口部4が設けられる。したがって、複数の第2開口部4のぞれぞれは、中空部2を介して第1開口部3に連通する。このため、吸音用部材1は、典型的なヘルムホルツ共鳴器の管として機能する。
【0019】
ここで、複数の第2開口部4が側面FSに設けられるため、第2端面E2を壁体200に接触させても、各第2開口部4が壁体200により塞がれることなく、この機能が維持される。また、この機能を好適に発揮させる観点から、複数の第2開口部4の開口面積の合計は、第1開口部3の開口面積以上であることが好ましい。図4に示すように、複数の第2開口部4は、側面FSの周方向に並んで配置される。この配置は、第2開口部4の数が1つである場合に比べて、第2開口部4の必要な開口面積を確保しても、吸音用部材1の機械的強度を高くしやすいという利点がある。また、複数の第2開口部4は、第1端面E1よりも第2端面E2に近い位置に配置されるため、そうでない場合に比べて、吸音用部材1における典型的なヘルムホルツ共鳴器の管に相当する部分の長さlを長くすることができる。このため、吸音用部材1の長さL1を短くしつつ、吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域を低くすることができる。なお、第2開口部4の数は、図4に示す例では4つであるが、これに限定されず、例えば、3つ以下または5つ以上でもよい。
【0020】
吸音用部材1には、側面FSから突出するフランジ部5が第1端面E1の外周に沿って設けられる。フランジ部5は、基材20の一方の面(図2中上側の面)に接触することにより、基材20に対する位置を規制する。すなわち、フランジ部5を用いて基材20に対する吸音用部材1の位置決めを行うことができる。このため、基材20に対する吸音用部材1の位置ずれに起因する吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域の変動を低減することができる。また、フランジ部5の基材20側の面は、基材20との接合のための接合面として用いることができる。したがって、フランジ部5は、必要に応じて、接着剤または粘着剤により基材20に固定される。本実施形態のフランジ部5の平面視での外形は、円形である。フランジ部5の外側への突出量は、特に限定されないが、例えば、0.1mm以上5mm以下の範囲内である。また、フランジ部5の厚さは、特に限定されないが、0.1mm以上5mm以下の範囲内である。なお、フランジ部5の平面視での外形は、円形に限定されず、例えば、四角形、五角形または六角形等の多角形でもよい。なお、フランジ部5は、省略してもよい。
【0021】
本実施形態の吸音用部材1の第2端面E2は、吸音用部材1の一端を塞ぐ底部6である。すなわち、吸音用部材1は、一端が開口する有底筒状をなす。第2端面E2は、壁体200に対して固定される。ここで、吸音用部材1は、基材20と壁体200との間の距離Lを規定するスペーサーとして機能する。このため、壁体200の壁面200aが曲面であっても、基材20と壁体200との間の距離Lを均一にすることができ、この結果、吸音構造体100の所望の吸音効果を得ることができる。
【0022】
図5は、第1実施形態における吸音用部材1と壁体200との固定状態を示す図である。図5に示すように、本実施形態では、底部6は、接合剤300により壁体200に固定される。ここで、吸音用部材1が底部6を有することにより、後述する第3実施形態のような第2端面E2に開口部が設けられる場合に比べて、第2端面E2の面積を大きくすることができる。このため、第2端面E2を壁体200に接合剤300により接合することにより吸音用部材1を壁体200に固定する場合、当該接合の強度を高めやすいという利点がある。また、第2端面E2に開口部が設けられる場合では、第2端面E2を壁体200に接合剤により接合して固定すると、当該接合剤が当該開口部に入り込んでしまい、当該接合剤が第2開口部4を部分的に塞ぐ可能性がある。したがって、この場合、第2開口部4の開口面積の変動に伴って吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域が変動しやすいという問題がある。これに対し、本実施形態の構成では、当該問題の発生を防止できるという利点もある。接合剤300は、公知の接着剤または粘着剤である。なお、複数の吸音用部材1のうちの1つまたは複数が壁体200に対して固定されていればよく、複数の吸音用部材1のうちの一部が壁体200に対して固定されなくてもよい。
【0023】
1-2.吸音構造体の作用
図6は、典型的なヘルムホルツ共鳴器100Xを概念的に示す図である。ヘルムホルツ共鳴器100Xは、容器101と、容器101に接続される管102と、を有する。ヘルムホルツ共鳴器100Xでは、容器101内および管102内の空気は、管102内の空気を質量とし、容器101内の空気をバネとする振動系を構成する。この振動系が共振すると、管102内の空気が激しく振動するため、管102内の空気の摩擦損失により吸音作用が生じる。ここで、容器101内の体積をVとし、管102の長さをlとし、管102内の横断面積をsとするとき、ヘルムホルツ共鳴器100Xの共振周波数fは、以下の式(1)で表される。
【数1】
【0024】
この式(1)において、cは、空気中の音速である。また、δは、開口端補正値であり、管102内の横断面形状が円形である場合、管102内の直径をdとするとき、δ≒0.8×dで表される。
【0025】
一方、前述の構成の吸音構造体100において、空間S0は、複数の吸音用部材1からの圧力の均衡により区分けされ、この区分けの部分が壁WAとして機能する。したがって、空間S0は、壁WAにより吸音用部材1ごとの複数の空間S1に区画される。各空間S1は、前述の容器101内の空間に相当する。また、中空部2の第1開口部3と第2開口部4との間の部分が前述の管102に相当する。したがって、当該部分の長さが前述の長さlに相当する。また、基材20上における複数の第1開口部3の開口率をPとし、基材20と壁体200との間の距離をLとするとき、P/Lは、前述のs/Vに近似される関係にある。したがって、この関係および前述の式(1)から、吸音構造体100の共振周波数fは、以下の式(2)で表される。
【数2】
【0026】
この式(2)から理解される通り、開口率P、距離Lおよび長さlに応じて、吸音構造体100が吸音可能な周波数である共振周波数fを調整できる。ここで、距離Lまたは長さlを大きくすることにより、共振周波数fを低くすることができる。
【0027】
以上の吸音構造体100では、吸音用部材1の大部分が空間S0内に配置されるため、距離Lまたは長さlを大きくしても、吸音用部材1を用いずに孔21を管102として用いる場合に比べて、吸音構造体100の厚さを薄くすることができる。したがって、吸音構造体100では、薄型化を図りつつ、吸音可能な周波数を低くすることができる。なお、開口率Pを小さくすることによっても共振周波数fを低くすることができるが、この場合、吸音構造体100が有するヘルムホルツ共鳴器の単位面積あたりの数が少なくなり、吸音効果が低下する。
【0028】
また、吸音用部材1は、壁体200に対して基材20を支持するため、壁体200と基材20との間の距離を規定するスペーサーとして機能する。このため、前述の距離Lが吸音構造体100の面方向での位置によってばらつくことを低減することができる。この結果、吸音構造体100は、所望の吸音効果を発揮できる。
【0029】
2.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0030】
図7は、第2実施形態に係る吸音構造体100Aにおける吸音用部材1Aと壁体200Aとの固定状態を示す図である。図7に示す吸音構造体100Aは、吸音用ユニット10Aと壁体200Aとを有する。吸音用ユニット10Aは、前述の第1実施形態の吸音用部材1に代えて、吸音用部材1Aを有する以外は、第1実施形態の吸音用ユニット10と同様である。また、吸音用部材1Aは、底部6に代えて底部6Aを有する以外は、第1実施形態の吸音用部材1と同様である。底部6Aは、第2端面E2側に向かうに従い幅が狭くなる部分を有する。壁体200Aは、底部6Aの当該部分と嵌め合う凹部201が設けられる以外は、第1実施形態の壁体200と同様である。凹部201は、吸音用部材1Aを固定する凹部の一例である。なお、図7に示す例では、壁体200Aが単一部材であるが、これに限定されず、例えば、2以上の部材を互いに接合して壁体200Aを構成してもよい。
【0031】
以上の吸音構造体100Aでは、壁体200Aが吸音用部材1Aを固定する凹部201を有することにより、接合剤を用いずに吸音用部材1Aを壁体200Aに対して固定することができる。また、前述の第1実施形態のように接合剤を用いる場合に比べて、吸音用部材1Aを壁体200Aに対して着脱しやすく、吸音用部材1Aを必要に応じて特性の異なる他の吸音部材等に交換することができる。このため、吸音構造体100Aの吸音特性の変更を容易に行うことができる。なお、第1実施形態と同様の接着剤または粘着剤を併用して吸音用部材1Aを壁体200Aに対して固定してもよい。
【0032】
3.第3実施形態
以下、本発明の第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0033】
図8は、第3実施形態に係る吸音構造体100Bにおける吸音用部材1Bと壁体200Bとの固定状態を示す図である。図8に示す吸音構造体100Bは、吸音用ユニット10Bと壁体200Bとを有する。ここで、吸音用ユニット10Bは、前述の第1実施形態の吸音用部材1に代えて、吸音用部材1Bを有する以外は、第1実施形態の吸音用ユニット10と同様である。また、吸音用部材1Bは、底部6に代えて第3開口部9が設けられる以外は、第1実施形態の吸音用部材1と同様である。壁体200Bは、吸音用部材1Bの第3開口部9と嵌め合う凸部202が設けられる以外は、第1実施形態の壁体200と同様である。凸部202は、吸音用部材1Bを固定する部の一例である。なお、図8に示す例では、壁体200Bが単一部材であるが、これに限定されず、例えば、2以上の部材を互いに接合して壁体200Bを構成してもよい。
【0034】
以上の吸音構造体100Bでは、壁体200Bが吸音用部材1Bを固定する凸部202を有することにより、前述の第2実施形態における凹部201と同様の効果を奏する。ここで、第2端面E2に第3開口部9が設けられることにより、第3開口部9と凸部202とを嵌め合わせて吸音用部材1Bを壁体200Bに固定することができる。なお、前述の第1実施形態のような有底の吸音用部材1の底部6に凸部202に嵌め合う凹部を設ける構成でも、吸音用部材1を壁体200Bに固定することが可能である。ただし、当該構成に比べて、本実施形態の構成は、射出成形等により簡単に製造できるという利点がある。また、第1実施形態と同様の接着剤または粘着剤を併用して吸音用部材1Bを壁体200Bに対して固定してもよい。
【0035】
4.第4実施形態
以下、本発明の第4実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0036】
図9は、第4実施形態に係る吸音構造体100Cの平面図である。図10は、図9中のA2-A2線断面図である。図9に示す吸音構造体100Cは、吸音用ユニット10Cと壁体200とを有する。吸音用ユニット10Cは、多孔質材30を有する以外は、前述の第1実施形態の吸音用ユニット10と同様である。多孔質材30は、基材20の壁体200とは反対側の面上、すなわち、基材20の前述の第1端面E1側の面上に配置される。多孔質材30は、平面視で基材20の複数の孔21に重なる複数の孔31を有する板状またはシート状の多孔質体である。ここで、孔21は、第1孔の一例であり、孔31は、第2孔の一例である。また、多孔質材30は、柔軟であること、言い換えると、可撓性を有することが好ましい。多孔質材30が柔軟であることにより、壁体200の壁面200aが曲面であっても、多孔質材30を壁面200aに沿って配置することができる。多孔質材30は、例えば、ガラス繊維、フェルトまたはウレタンフォーム等の多孔質体で構成される。当該多孔質体で構成される多孔質材30は、ヘルムホルツ共鳴で吸音可能な周波数帯域よりも高い周波数帯域での吸音が可能である。このため、多孔質材30を用いない場合に比べて、吸音構造体100Cの吸音可能な周波数帯域を広くすることができる。
【0037】
複数の孔31は、基材20の複数の孔21に対応して配置され、平面視で、対応する孔21に重なる。図9に示す例では、複数の孔31は、複数の孔21に対応して、平面視で行列状に規則的に配置される。また、孔31の開口面積は、孔21の開口面積よりもよりも大きい。このため、多孔質材30が吸音構造体100Cのヘルムホルツ共鳴による吸音を阻害するのを低減できる。
【0038】
ここで、多孔質材30における複数の孔31の開口率は、50%以下であることが好ましく、1%以上50%以下であることがより好ましい。当該開口率がこの範囲内にある場合、孔31がない場合と同程度に多孔質材30による吸音効果を発揮させることができる。これに対し、当該開口率が大きすぎると、多孔質材30による吸音効果が急激に減少する傾向を示す。一方、当該開口率が小さすぎると、孔21の開口率によっては、孔31の開口面積を孔21の開口面積よりもよりも大きくすることが難しい。
【0039】
また、孔31の開口面積は、孔21の開口面積よりもよりも大きければよいが、孔21の開口面積に対して、1.5倍以上であることが好ましい。この場合、ヘルムホルツ共鳴による吸音効果を好適に発揮させることができる。これは、第1開口部3の周囲の空気の粘性抵抗を多孔質材30に阻害されることなく利用することができ、この結果、ヘルムホルツ共鳴の吸音効果が好適に発揮されるからである。
【0040】
5.応用例
以下、前述の吸音構造体100、100A、100Bまたは100Cの応用例について説明する。
【0041】
5-1.スピーカーシステム
図11は、スピーカーシステム400に吸音構造体100を設置する場合の応用例を模式的に示す斜視図である。スピーカーシステム400は、筐体401と、筐体401に取り付けられるスピーカーユニット402および吸音構造体100と、を有する。筐体401は、スピーカーユニット402が取り付けられる開口部を有する中空の直方体である。すなわち、筐体401は、右壁401Rと左壁401Lと前壁401Fと後壁401Bと天壁401Tと底壁401Sとを有する。ここで、右壁401Rおよび左壁401Lは、X1方向に互いに対向する。前壁401Fおよび後壁401Bは、Y1方向に互いに対向する。天壁401Tおよび底壁401Sは、Z1方向に互いに対向する。なお、図11に示すX1方向、Y1方向およびZ1方向は、互いに直交する。
【0042】
図12は、右壁401Rと左壁401Lとの間に発生する定在波GX1およびGX2の状態を模式的に示す図である。図13は、前壁401Fと後壁401Bとの間に発生する定在波GY1およびGY2の状態を模式的に示す図である。図14は、天壁401Tと底壁401Sとの間に発生する定在波GZ1およびGZ2の状態を模式的に示す図である。図12から図14に示す定在波GX1、GY1、GZ1、GX2、GY2およびGZ2のそれぞれは、1次元(軸波)の定在波である。定在波GX1は、X1方向における1次の定在波である。定在波GY1は、Y1方向における1次の定在波である。定在波GZ1は、Z1方向における1次の定在波である。定在波GX2は、X1方向における2次の定在波である。定在波GY2は、Y1方向における2次の定在波である。定在波GZ2は、Z1方向における2次の定在波である。なお、図12から図14では、定在波GX1、GY1およびGZ1のそれぞれが破線で示され、定在波GX2、GY2およびGZ2のそれぞれが一点鎖線で示される。
【0043】
前述の筐体401の6つの壁のうち1つまたは複数の内面には、その一部または全部の領域にわたって、吸音構造体100が設置される。例えば、右壁401Rおよび左壁401Lのうちの一方または両方の内面に吸音構造体100が設置される場合、吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域を前述の定在波GX1またはGX2の周波数に応じて設定することにより、定在波GX1またはGX2を低減することができる。同様に、前壁401Fおよび後壁401Bのうちの一方または両方の内面に吸音構造体100が設置される場合、吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域を前述の定在波GY1またはGY2の周波数に応じて設定することにより、定在波GY1またはGY2を低減することができる。また、前壁401Fおよび後壁401Bのうちの一方または両方の内面に吸音構造体100が設置される場合、吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域を前述の定在波GZ1またはGZ2の周波数に応じて設定することにより、定在波GZ1またはGZ2を低減することができる。以上の通り、定在波GX1、GY1、GZ1、GX2、GY2およびGZ2のうちの1つまたは複数を低減することにより、スピーカーシステム400の音質を向上させることができる。
【0044】
なお、吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域を2次元(接線波)または3次元(斜め波)の定在波の周波数に応じて設定してもよい。この場合、筐体401内の2次元または3次元の定在波を低減することができる。また、吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域を3次以上の高次の定在波の周波数に応じて設定してもよい。この場合、筐体401内の3次以上の高次の定在波を低減することができる。また、図11では、吸音構造体100をスピーカーシステム400に設置する場合が例示されるが、吸音構造体100に代えて、吸音構造体100A、100Bまたは100Cを用いてもよい。
【0045】
5-2.車両用のドア
図15は、車両用のドア500に吸音構造体100を設置する場合の応用例を模式的に示す断面図である。図15に示すドア500は、アウターパネルと称される第1パネル501と、ドアトリムと称される第2パネル502と、インナーパネルと称される第3パネル503と、第3パネル503に取り付けられるスピーカーユニット504と、第2パネル502に取り付けられる吸音構造体100と、を有する。
【0046】
第1パネル501および第3パネル503のそれぞれは、一般に、鋼板で構成される。また、第1パネル501および第3パネル503は、互いに溶接等により接合される。第1パネル501と第3パネル503との間には、空間S10が形成される。空間S10には、スピーカーユニット504の一部、図示しない窓ガラス、窓ガラス昇降機構およびドアロック機構等が配置される。なお、第1パネル501または第3パネル503は、例えば、アルミニウム合金または炭素材を用いて構成してもよい。
【0047】
第3パネル503には、開口部503aおよび503bが設けられる。開口部503aは、スピーカーユニット504を第3パネル503に取り付けるための取付孔である。開口部503bは、例えば前述の空間S10での作業等に用いる孔である。なお、開口部503bは、吸音構造体100で塞がれてもよいし、単なる樹脂製のシートで塞がれてもよい。
【0048】
第2パネル502は、例えば樹脂を用いて構成される。第2パネル502は、第3パネル503に対し、複数の連結機構505により固定される。なお、連結機構505は、第2パネル502を第3パネル503に対して固定することができれば、いかなる構成でもよい。
【0049】
第2パネル502と第3パネル503との間には、空間S11が形成される。空間S11には、スピーカーユニット504の空間S10に配置されない部分が配置される。ここで、第2パネル502と第3パネル503との間には、第2パネル502の外周に沿って、ゴム等で構成されるパッキン506が配置される。
【0050】
吸音構造体100は、第2パネル502の内面に設置される。ここで、吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域は、例えば、前述の空間S10またはS11の定在波の周波数に応じて設定される。この設定により、スピーカーユニット504の音質を高めることができる。また、吸音構造体100の吸音可能な周波数帯域を適宜設定することにより、外部から車両内へのロードノイズ等の侵入を低減することもできる。なお、吸音構造体100が有する壁体200は、第2パネル502と一体でも別体でもよい。壁体200が第2パネル502と別体である場合、壁体200は、例えば接着剤または粘着剤等により第2パネル502に固定される。
【0051】
スピーカーユニット504は、例えば、スピーカー本体504aと、スピーカー本体504aを収容する筒状のハウジング504bと、を有する。スピーカー本体504aは、ねじ止め等によりハウジング504bに固定される。ハウジング504bは、第3パネル503の開口部503aを貫通する状態で、ねじ止め等により第3パネル503に固定される。
【0052】
なお、図15では、吸音構造体100をドア500に設置する場合が例示されるが、吸音構造体100に代えて、吸音構造体100A、100Bまたは100Cを用いてもよい。また、図15では、ドア500が例示されるが、車両のドア以外の部分、例えば、ルーフパネルまたはフロアパネル等に吸音構造体100を設置してもよい。また、車両以外の移動体に吸音構造体100を設置してもよい。
【0053】
6.変形例
本発明は前述の各実施形態に限定されるものではなく、以下に述べる各種の変形が可能である。また、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0054】
6-1.変形例1
前述の形態では、基材20の複数の孔21のそれぞれに吸音用部材1、1Aまたは1Bが挿入される構成が例示されるが、これに限定されず、複数の孔21のうちの一部の孔21に吸音用部材1、1Aおよび1Bのいずれとも異なる部材を挿入してもよい。なお、当該一部の孔21に何ら部材を挿入しなくても、孔21をヘルムホルツ共鳴器の管として機能させることも可能である。
【0055】
図16は、変形例1に係る吸音構造体100Dの断面図である。図16に示す吸音構造体100Dは、吸音用ユニット10Dと壁体200とを有する。吸音用ユニット10Dは、基材20の複数の孔21のうちの一部の複数の孔21のそれぞれに、吸音用部材1に代えて、吸音用部材1Dが挿入される以外は、第1実施形態の吸音用ユニット10と同様である。すなわち、吸音用ユニット10Dは、複数の孔21を有する基材20と、複数の孔21に挿入される複数の吸音用部材1および複数の吸音用部材1Dと、を有する。複数の吸音用部材1Dのそれぞれは、長さlが異なる以外は、吸音用部材1と同様である。吸音用部材1Dの長さlは、吸音用部材1の長さlよりも短い。このため、吸音用部材1Dを用いるヘルムホルツ共鳴器の共振周波数は、吸音用部材1を用いるヘルムホルツ共鳴器の共振周波数よりも高い。
【0056】
図16に示す例では、吸音構造体100Dは、複数の吸音用部材1が配置される領域R1と、複数の吸音用部材1Dが配置される領域R2と、に区分される。この区分により、吸音構造体100Dは、吸音用部材1を用いるヘルムホルツ共鳴による吸音の周波数帯域だけでなく、吸音用部材1Dを用いるヘルムホルツ共鳴による吸音の周波数帯域においても吸音効果を発揮する。このため、吸音用部材1または1Dのいずれかのみを用いる場合に比べて、吸音可能な周波数帯域を広くすることができる。なお、領域R1およびR2の平面視形状または配置は、吸音構造体100Dに必要な吸音特性に応じて決められ、任意である。
【0057】
6-2.変形例2
図17は、変形例2に係る吸音構造体100Eの平面図である。図18は、図17中のA3-A3線断面図である。図17および図18に示す吸音構造体100Eは、吸音用ユニット10Eと壁体200とを有する。吸音用ユニット10Eは、基材20の複数の孔21のうちの一部の複数の孔21のそれぞれに、吸音用部材1に代えて、栓部材40が挿入される以外は、第1実施形態の吸音用ユニット10と同様である。すなわち、吸音用ユニット10Eは、複数の孔21を有する基材20と、複数の孔21に挿入される複数の吸音用部材1および複数の栓部材40と、を有する。複数の栓部材40のそれぞれは、孔21を塞ぐ部材である。図18に示す栓部材40は、中実である以外は、吸音用部材1と同様である。
【0058】
図17に示すように、複数の吸音用部材1と複数の栓部材40とはX方向およびY方向のそれぞれの方向において交互に並んで配置される。したがって、図17に示す複数の第1開口部3の開口率Pは、前述の第1実施形態における複数の第1開口部3の開口率Pよりも小さい。したがって、吸音構造体100Eのヘルムホルツ共鳴による吸音の周波数帯域は、前述の第1実施形態の吸音構造体100のヘルムホルツ共鳴による吸音の周波数帯域よりも低い。ここで、基材20と壁体200との間の空間S0には、複数の吸音用部材1からの圧力の均衡による壁WBが形成される。したがって、空間S0は、壁WBにより吸音用部材1ごとの複数の空間S2に区画される。空間S2は、前述の第1実施形態の空間S1よりも大きい。
【0059】
6-3.変形例3
図19は、変形例3に係る吸音構造体100Fの断面図である。図19に示す吸音構造体100Fは、吸音用ユニット10Fと壁体200とを有する。吸音用ユニット10Fは、栓部材40に代えて、栓部材50が挿入される以外は、前述の変形例2の吸音用ユニット10Eと同様である。すなわち、吸音用ユニット10Fは、複数の孔21を有する基材20と、複数の孔21に挿入される複数の吸音用部材1および複数の栓部材50と、を有する。図19に示す栓部材50は、長さが前述の栓部材40よりも短い以外は、栓部材40と同様である。以上の吸音構造体100Fにおいても、前述の吸音構造体100Eと同様の周波数帯域での吸音が可能である。
【0060】
6-4.変形例4
図20は、変形例4に係る吸音構造体100Fの断面図である。図20に示す吸音構造体100Gは、吸音用ユニット10Gと壁体200とを有する。吸音用ユニット10Gは、支持部材40を有する以外は、前述の第1実施形態の吸音用ユニット10と同様である。すなわち、吸音用ユニット10Gは、基材20と、複数の吸音用部材1と、基材20は、複数の吸音用部材1を介して基材20を支持する支持部材40と、を有する。支持部材40は、板状またはシート状をなす部材である。支持部材40は、基材20と同様、柔軟であることが好ましく、例えば、エラストマー材料、樹脂材料または金属材料等で構成される。支持部材40の一方の面には、各吸音用部材1の底部7が接着剤または粘着剤等により固定される。支持部材40の他方の面は、壁体200の壁面200aに対して、例えば接着剤または粘着剤等により接合される。以上の吸音ユニット10Gによれば、壁面200aに対する設置が容易である。
【0061】
7.付記
以上に例示する形態または変形例から、例えば以下の態様が把握される。
【0062】
本発明の好適な態様(第1態様)に係る吸音用部材は、板状またはシート状の基材に設けられる孔に挿入して用いる筒状の吸音用部材であって、第1端面と、前記第1端面とは反対側の端面である第2端面と、前記第1端面と前記第2端面との間に設けられる側面と、を含み、前記第1端面には、第1開口部が設けられ、前記側面には、1以上の第2開口部が設けられる。以上の態様によれば、第2開口部が吸音用部材の側面に設けられるため、第2開口部が壁体により塞がれることなく、吸音用部材を基材と壁体との間の距離を規定するスペーサーとして用いることができる。このため、壁体の壁面が曲面であっても、基材と壁体との間の距離を均一にすることができ、この結果、所望の吸音効果を得ることができる。
【0063】
第1態様の好適例(第2態様)において、前記1以上の第2開口部は、前記第1端面よりも前記第2端面に近い位置に配置される。以上の態様によれば、第2開口部が第2端よりも第1端に近い位置に配置される場合に比べて、吸音用部材における典型的なヘルムホルツ共鳴器の管に相当する部分の長さを長くすることができる。このため、吸音用部材の長さを短くしつつ、吸音構造体の吸音可能な周波数帯域を低くすることができる。
【0064】
第1態様または第2態様の好適例(第3態様)において、前記第2端面は、当該吸音用部材の一端を塞ぐ底部である。以上の態様によれば、第2端面に開口部が設けられる場合に比べて、第2端面の面積を大きくすることができる。このため、第2端面を壁体に接合剤により接合することにより吸音用部材を壁体に固定する場合、当該接合の強度を高めやすいという利点がある。また、第2端面に開口部が設けられる場合では、第2端面を壁体に接合剤により接合して固定すると、当該接合剤が当該開口部に入り込んでしまい、当該接合剤が第2開口部を部分的に塞ぐ可能性がある。したがって、この場合、第2開口部の開口面積の変動に伴って吸音構造体の吸音可能な周波数帯域が変動しやすいという問題がある。これに対し、この態様では、当該問題の発生を防止できるという利点もある。
【0065】
第1態様または第2態様の好適例(第4態様)において、前記第2端面には、第3開口部が設けられる。以上の態様によれば、壁体に第3開口部に嵌め合う凸部を設けることにより、接合剤を用いずに吸音用部材を壁体に固定することができる。
【0066】
第1態様から第4態様のいずれかの好適例(第5態様)において、前記側面には、前記第1端面の外周に沿ってフランジ部が設けられる。以上の態様によれば、フランジ部を用いて基材に対する吸音用部材の位置決めを行うことができる。このため、基材に対する吸音用部材の位置ずれに起因する吸音構造体の吸音可能な周波数帯域の変動を低減することができる。
【0067】
第1態様から第5態様のいずれかの好適例(第6態様)において、前記1以上の第2開口部は、前記側面の周方向に並んで配置される複数の第2開口部である。以上の態様によれば、第2開口部の数が1つである場合に比べて、第2開口部の必要な開口面積を確保しても、吸音用部材の機械的強度を高くしやすいという利点がある。
【0068】
第1態様から第6態様のいずれかの好適例(第7態様)において、前記1以上の第2開口部の開口面積は、前記第1開口部の開口面積以上である。以上の態様によれば、吸音用部材を典型的なヘルムホルツ共鳴器の管として好適に機能させることができる。
【0069】
本発明の好適な態様(第8態様)に係る吸音用ユニットは、複数の吸音用部材と、前記複数の吸音用部材が挿入される複数の第1孔を有する板状またはシート状の基材と、を有し、前記複数の吸音用部材のそれぞれは、前述のいずれかの態様の吸音用部材である。以上の態様によれば、吸音用ユニットを壁体に設置することにより、吸音用部材を用いる吸音構造体を実現することができる。
【0070】
第8態様の好適例(第9態様)において、前記基材の前記第1端面側の面上に配置され、平面視で前記複数の第1孔に重なる複数の第2孔を有する板状またはシート状の多孔質材を有する。以上の態様によれば、多孔質材は、ヘルムホルツ共鳴で吸音可能な周波数帯域よりも高い周波数帯域での吸音が可能である。このため、多孔質材を用いない場合に比べて、吸音構造体の吸音可能な周波数帯域を広くすることができる。
【0071】
第9態様の好適例(第10態様)において、前記複数の第2孔のそれぞれの開口面積は、前記複数の第1孔のそれぞれの開口面積よりも大きく、前記多孔質材における前記複数の第2孔の開口率は、50%以下である。以上の態様によれば、第2孔の開口面積が第1孔の開口面積よりも大きいことにより、多孔質材が吸音構造体のヘルムホルツ共鳴による吸音を阻害するのを低減できる。また、多孔質材における第2孔の開口率が50%以下であることにより、第2孔がない場合と同程度に多孔質材による吸音効果を発揮させることができる。
【0072】
本発明の好適な態様(第11態様)に係る吸音構造体は、前述のいずれかの態様の吸音用ユニットと、前記複数の吸音用部材を介して前記基材を支持する壁体と、を有する。以上の態様によれば、壁体の壁面が曲面である場合であっても、所望の吸音効果を得ることが可能な吸音構造体を提供することができる。
【0073】
第11態様の好適例(第12態様)において、前記壁体は、前記複数の吸音用部材を固定する複数の凹部または凸部を有する。以上の態様によれば、接合剤を用いずに吸音用部材を壁体に対して固定することができる。また、吸音用部材を壁体に対して着脱しやすく、吸音用部材を必要に応じて特性の異なる他の吸音部材等に交換することができる。このため、吸音構造体の吸音特性の変更を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0074】
1…吸音用部材、1A…吸音用部材、1B…吸音用部材、1D…吸音用部材、3…第1開口部、4…第2開口部、5…フランジ部、6…底部、6A…底部、9…第3開口部、10…吸音用ユニット、10A…吸音用ユニット、10B…吸音用ユニット、10C…吸音用ユニット、10D…吸音用ユニット、10E…吸音用ユニット、10F…吸音用ユニット、10G…吸音用ユニット、20…基材、21…孔、30…多孔質材、31…孔、100…吸音構造体、100A…吸音構造体、100B…吸音構造体、100C…吸音構造体、100D…吸音構造体、100E…吸音構造体、100F…吸音構造体、200…壁体、200A…壁体、200B…壁体、201…凹部、202…凸部、E1…第1端面、E2…第2端面、FS…側面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20