(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】材料試験機、及び材料試験機の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20220511BHJP
G01N 3/20 20060101ALI20220511BHJP
G01N 3/32 20060101ALI20220511BHJP
G05B 5/01 20060101ALI20220511BHJP
G05B 13/02 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N3/08
G01N3/20
G01N3/32 H
G05B5/01
G05B13/02 B
(21)【出願番号】P 2020557549
(86)(22)【出願日】2019-06-10
(86)【国際出願番号】 JP2019022931
(87)【国際公開番号】W WO2020110354
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2018221910
(32)【優先日】2018-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 融
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-164463(JP,A)
【文献】特開平07-093002(JP,A)
【文献】米国特許第5124626(US,A)
【文献】米国特許第6597146(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/08
G01N 3/20
G01N 3/32
G05B 5/01
G05B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象に負荷を与える負荷機構と、
前記試験対象に与えられている負荷を測定する負荷測定器と、
前記負荷の測定値と当該負荷の目標値との偏差に基づいて、前記負荷機構をフィードバック制御する制御装置と、を備え、
前記負荷によって前記試験対象に生じた物理量の変化を測定する材料試験機において、
前記制御装置は、
前記測定値、及び前記目標値の時系列データのそれぞれを変換した周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の時系列データのそれぞれを変換した周波数スペクトルの比較に基づいてハンチングを検出するハンチング検出部を備える
ことを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
前記ハンチング検出部は、
前記フィードバック制御の制御系のノイズ、及び/又は、前記負荷と前記物理量との測定系のノイズの影響を前記測定値から除いて、当該測定値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較し、又は、
前記フィードバック制御の制御系のノイズの影響を前記フィードバック制御の指令値から除いて、当該指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較する、
ことを特徴とする請求項1に記載の材料試験機。
【請求項3】
前記ハンチング検出部は、
前記フィードバック制御の制御系のノイズ、及び/又は、前記負荷と前記物理量との測定系のノイズを測定して得られた当該ノイズの周波数スペクトルを前記測定値の周波数スペクトルから除いた状態で、前記測定値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較し、又は、
前記フィードバック制御の制御系のノイズを測定して得られた当該ノイズの周波数スペクトルを前記フィードバック制御の指令値の周波数スペクトルから除いた状態で、前記指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較する
ことを特徴とする請求項2に記載の材料試験機。
【請求項4】
前記ハンチング検出部は、
前記ハンチングの周波数を含み得ない低周波数領域を除いた周波数領域について、前記測定値、及び前記目標値の周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較する
ことを特徴とする請求項2に記載の材料試験機。
【請求項5】
前記ハンチング検出部は、
前記フィードバック制御の制御系のノイズが存在する高周波数領域を除いた周波数領域について、前記測定値、及び前記目標値の周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較する
ことを特徴とする請求項2または4に記載の材料試験機。
【請求項6】
前記フィードバック制御の制御系によって前記フィードバック制御の指令値の指令信号にディザ信号が付加されており、
前記ハンチング検出部は、
前記測定値の周波数スペクトルを前記目標値の周波数スペクトルと比較するときには、前記測定値の周波数スペクトルから前記ディザ信号が存在する高周波数領域を除いた周波数領域について比較する
ことを特徴とする請求項5に記載の材料試験機。
【請求項7】
前記ハンチング検出部は、
ノイズを含まないことが保証されている所定の周波数領域内で、前記測定値、及び前記目標値の周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較する
ことを特徴とする請求項5に記載の材料試験機。
【請求項8】
前記ハンチング検出部は、
前記測定値の周波数スペクトル、又は前記指令値の周波数スペクトルにおける振幅の累積値が、前記目標値の周波数スペクトルにおける振幅の累積値に対して所定値以上であるか否かに基づいて前記ハンチングの有無を判断する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の材料試験機。
【請求項9】
前記測定値、又は前記指令値と、前記目標値とのそれぞれの周波数スペクトルは、
前記測定値、又は前記指令値と、前記目標値とのそれぞれの時系列データから切り出された所定時間分のデータを変換して得られており、
前記所定時間は、
前記フィードバック制御におけるフィードバック制御サイクルの周期に基づいて設定されている
ことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の材料試験機。
【請求項10】
前記ハンチングが検出された場合に、前記フィードバック制御の制御系の制御パラメータを変更して前記ハンチングを抑えるハンチング対処処理部を備える
ことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の材料試験機。
【請求項11】
試験対象に負荷を与える負荷機構と、
前記試験対象に与えられている負荷を測定する負荷測定器と、
前記負荷の測定値と当該負荷の目標値との偏差に基づいて、前記負荷機構をフィードバック制御する制御装置と、を備え、
前記負荷によって前記試験対象に生じた物理量の変化を測定する材料試験機の制御方法において、
前記制御装置が、前記測定値、及び前記目標値の時系列データのそれぞれを変換した周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の時系列データのそれぞれを変換した周波数スペクトルの比較に基づいてハンチングを検出する
ことを特徴とする材料試験機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料試験機、及び材料試験機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の機械的な特性や性質を調べるための材料試験を行う材料試験機として、引張試験機や、硬さ試験機、疲労試験機といった各種の試験機が知られている。
材料試験機は、一般に、試験対象に負荷として試験力を与える負荷機構と、負荷機構を制御する制御装置と、試験片に与えられている試験力を測定する試験力測定器と、試験片に生じた所定の物理量の変化を測定する物理量測定器と、を備え、材料試験中には、制御装置が時々刻々とかわる目標値あるいは目標速度に追従させるため、試験力の測定値あるいは試験片に生じた物理量変換の測定値と、その目標値との偏差に基づいて、負荷機構をフィードバック制御する。また、かかるフィードバック制御においては、各種の要因により、例えば試験力の測定値などの制御目標値が発振する現象、いわゆるハンチングが発生することがある。
【0003】
ハンチングを検出する手法には、次のようなものが知られている。すなわち、ハンチング検出対象信号の時系列データにおける振幅に基づいて検出する手法(例えば、特許文献1、特許文献2、及び特許文献3参照)や、ハンチング検出対象信号の時系列データをFFT解析して検出する手法(例えば、特許文献4、及び特許文献5参照)などである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-221430号公報
【文献】特開2000-320383号公報
【文献】特開平10-105201号公報
【文献】特開2013-145692号公報
【文献】特開平04-274725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、目標値の時系列データが時間軸上で変動する場合、ハンチング検出対象信号からハンチングを精度良く検出することは困難であった。
本発明は、ハンチングを精度良く検出できる材料試験機、及び材料試験機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書には、2018年11月28日に出願された日本国特許出願・特願2018-221910の全ての内容が含まれる。
第1の発明は、試験対象に負荷を与える負荷機構と、前記試験対象に与えられている負荷を測定する負荷測定器と、前記負荷の測定値と当該負荷の目標値との偏差に基づいて、前記負荷機構をフィードバック制御する制御装置と、を備え、前記負荷によって前記試験対象に生じた物理量の変化を測定する材料試験機において、前記制御装置は、前記測定値、及び前記目標値の時系列データのそれぞれを変換した周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の時系列データのそれぞれを変換した周波数スペクトルの比較に基づいてハンチングを検出するハンチング検出部を備えることを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、第1の発明において、前記フィードバック制御の制御系のノイズ、及び/又は、前記負荷と前記物理量との測定系のノイズの影響を前記測定値から除いて、当該測定値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較し、又は、前記フィードバック制御の制御系のノイズの影響を前記フィードバック制御の指令値から除いて、当該指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較する、ことを特徴とする。
【0008】
第3の発明は、第2の発明において、前記ハンチング検出部は、前記フィードバック制御の制御系のノイズ、及び/又は、前記負荷と前記物理量との測定系のノイズを測定して得られた当該ノイズの周波数スペクトルを前記測定値の周波数スペクトルから除いた状態で、前記測定値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較し、又は、前記フィードバック制御の制御系のノイズを測定して得られた当該ノイズの周波数スペクトルを前記フィードバック制御の指令値の周波数スペクトルから除いた状態で、前記指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較することを特徴とする。
【0009】
第4の発明は、第2の発明において、前記ハンチング検出部は、前記ハンチングの周波数を含み得ない低周波数領域を除いた周波数領域について、前記測定値、及び前記目標値の周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較することを特徴とする。
【0010】
第5の発明は、第2または第4の発明において、前記ハンチング検出部は、前記フィードバック制御の制御系のノイズが存在する高周波数領域を除いた周波数領域について、前記測定値、及び前記目標値の周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較することを特徴とする。
【0011】
第6の発明は、第5の発明において、前記フィードバック制御の制御系によって前記フィードバック制御の指令値の指令信号にディザ信号が付加されており、前記ハンチング検出部は、前記測定値の周波数スペクトルを前記目標値の周波数スペクトルと比較するときには、前記測定値の周波数スペクトルから前記ディザ信号が存在する高周波数領域を除いた周波数領域について比較することを特徴とする。
【0012】
第7の発明は、第5の発明において、前記ハンチング検出部は、ノイズを含まないことが保証されている所定の周波数領域内で、前記測定値、及び前記目標値の周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の周波数スペクトルを比較することを特徴とする。
【0013】
第8の発明は、第1から第7のいずれかに記載の発明において、前記ハンチング検出部は、前記測定値の周波数スペクトル、又は前記指令値の周波数スペクトルにおける振幅の累積値が、前記目標値の周波数スペクトルにおける振幅の累積値に対して所定値以上であるか否かに基づいて前記ハンチングの有無を判断することを特徴とする。
【0014】
第9の発明は、第1から第8のいずれかに記載の発明において、前記測定値、又は前記指令値と、前記目標値とのそれぞれの周波数スペクトルは、前記測定値、又は前記指令値と、前記目標値とのそれぞれの時系列データから切り出された所定時間分のデータを変換して得られており、前記所定時間は、前記フィードバック制御におけるフィードバック制御サイクルの周期に基づいて設定されていることを特徴とする。
【0015】
第10の発明は、第1から第9のいずれかに記載の発明において、前記ハンチングが検出された場合に、前記フィードバック制御の制御系の制御パラメータを変更して前記ハンチングを抑えるハンチング対処処理部を備えることを特徴とする。
【0016】
第11の発明は、試験対象に負荷を与える負荷機構と、前記試験対象に与えられている負荷を測定する負荷測定器と、前記負荷の測定値と当該負荷の目標値との偏差に基づいて、前記負荷機構をフィードバック制御する制御装置と、を備え、前記負荷によって前記試験対象に生じた物理量の変化を測定する材料試験機の制御方法において、前記制御装置が、前記測定値、及び前記目標値の時系列データのそれぞれを変換した周波数スペクトル、又は、前記フィードバック制御の指令値、及び前記目標値の時系列データのそれぞれを変換した周波数スペクトルの比較に基づいてハンチングを検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、第1の発明によれば、負荷の目標値の時間波形が変動する場合でもハンチングを精度よく検出できる。
第2の発明によれば、フィードバック制御の制御系、及び/又は、測定系のノイズの影響を除いて比較するので、ハンチングの検出精度が高められる。
第3の発明によれば、フィードバック制御の制御系、及び/又は、測定系のノイズを測定して得られた当該ノイズの周波数スペクトルを測定値の周波数スペクトルから除くので、実測されたノイズの影響を確実に取り除くことができる。
第4から第7の発明によれば、フィードバック制御の制御系、及び/又は、測定系のノイズを測定せずとも、低周波数領域に含まれるノイズの影響を受けることなく、ハンチングを検出できる。
第8の発明によれば、測定値の周波数スペクトルにおける振幅の累積値と、目標値の周波数スペクトルにおける振幅の累積値との差が所定値以上となるような規模のハンチングが発生していることを検出できる。
第9の発明によれば、目標値の時間軸波形が振動成分を含む場合でも、その振動状況に応じて所定時間をフィードバック制御サイクルの1周期分から複数周期分の間で適宜に設定することで、妥当な検出精度、及び検出速度でハンチングを検出できる。
第10の発明によれば、検出されたハンチングが抑えられるので、材料試験の精度低下を防止できる。
第11の発明によれば、第1の発明と同様な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る材料試験機の構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、制御回路ユニットの機能的構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、ハンチング検出処理のフローチャートである。
【
図4】
図4は、試験力目標値、及び試験力測定値の時間軸波形の一例を示す図である。
【
図5】
図5は、試験力測定値の時系列データに対し3次元曲線近似補正を用いて前処理した後の時系列データを示す図である。
【
図6】
図6は、試験力測定値の周波数スペクトルを示す図である。
【
図7】
図7は、測定値振幅累積値の時間変化を示す図である。
【
図8】
図8は、試験力目標値及び試験力測定値の時間軸波形の他の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、試験力測定値と試験力目標値との差分の時間変化を示す図である。
【
図10】
図10は、一般的なPI制御におけるステップ応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る材料試験機1の構成を模式的に示す図である。
本実施形態の材料試験機1は、引張り試験や、圧縮試験、曲げ試験を実行できる、いわゆる万能試験機である。かかる材料試験機1は、試験対象である試験片TPに負荷を与えて材料試験を行う試験機本体2と、当該試験機本体2による材料試験動作を制御する制御ユニット4と、を備える。試験対象は、各種材料や工業製品、当該工業製品の部品又は部材などであり、試験片TPは、材料試験のために所定の規格に基づいて作成されている。
【0020】
試験機本体2は、テーブル6と、このテーブル6上に鉛直方向を向く状態で回転可能に立設された一対のねじ棹8、9と、これらのねじ棹8、9に沿って移動可能なクロスヘッド10と、このクロスヘッド10を移動させて試験片TPに負荷を与える負荷機構12と、ロードセル14と、を備える。ロードセル14は、試験片TPに与えられる荷重である試験力Fを測定し、試験力測定信号A1を出力するセンサである。
【0021】
一対のねじ棹8、9は、ボールねじから成り、クロスヘッド10は、各ねじ棹8、9に対して図示を省略したナットを介して連結されている。
負荷機構12は、各ねじ棹8、9の下端部に連結されるウォーム減速機16、17と、各ウォーム減速機16、17に連結されるサーボモータ18と、ロータリエンコーダ20と、を備える。ロータリエンコーダ20は、サーボモータ18の回転を測定し、回転量に応じたパルス数の回転測定信号A2を制御ユニット4に出力するセンサである。
そして負荷機構12は、ウォーム減速機16、17を介して、一対のねじ棹8、9にサーボモータ18の回転を伝達し、各ねじ棹8、9が同期して回転することにより、クロスヘッド10がねじ棹8、9に沿って昇降する。
【0022】
クロスヘッド10には、試験片TPの上端部を把持するための上つかみ具21が付設され、テーブル6には、試験片TPの下端部を把持するための下つかみ具22が付設されている。試験機本体2は、材料試験の際、試験片TPの両端部をこれらの上つかみ具21および下つかみ具22により把持した状態で、制御ユニット4の制御の下、クロスヘッド10を上昇させることにより、試験片TPに試験力Fを与える。
【0023】
制御ユニット4は、制御装置30と、表示装置32と、試験プログラム実行装置34と、を備える。
制御装置30は、当該試験機本体2を中枢的に制御する装置であり、試験機本体2との間で信号を送受信可能に接続される。試験機本体2から受信する信号は、ロードセル14が出力する試験力測定信号A1やロータリエンコーダ20が出力する回転測定信号A2、制御や試験に要する適宜の信号などである。
表示装置32は、制御装置30から入力される信号に基づいて各種情報を表示する装置であり、例えば、制御装置30は、材料試験の間、試験力測定信号A1に基づいて試験片TPに与えられている試験力Fの測定値である試験力測定値Fdを表示装置32に表示する。
【0024】
試験プログラム実行装置34は、材料試験の試験条件といった各種設定パラメータの設定操作や実行指示操作などのユーザ操作を受け付け、制御装置30に出力する機能や、試験力測定値Fdのデータを解析する機能などを備えた装置である。本実施形態の試験プログラム実行装置34はコンピュータを備え、このコンピュータは、CPUやMPUなどのプロセッサと、ROMやRAMなどのメモリデバイスと、HDDやSSDなどのストレージ装置と、制御装置30や各種の周辺機器などを接続するためのインターフェース回路と、を備える。そして、プロセッサがメモリデバイス又はストレージ装置に記憶されたコンピュータログラムである材料試験プログラムを実行することで、上述の各種の機能を実現する。
【0025】
次いで、本実施形態の制御装置30について、更に詳述する。
制御装置30は、
図1に示すように、信号入出力ユニット40と、制御回路ユニット50と、を備える。
信号入出力ユニット40は、試験機本体2との間で信号を送受する入出力インターフェース回路を構成するものであり、本実施形態では、センサアンプ42と、カウンタ回路43と、サーボアンプ44と、を有する。
センサアンプ42はロードセル14が出力する試験力測定信号A1を増幅して制御回路ユニット50に入力する増幅器である。
カウンタ回路43は、ロータリエンコーダ20が出力する回転測定信号A2のパルス数を計数し、サーボモータ18の回転量、すなわち当該サーボモータ18の回転によって昇降するクロスヘッド10の変位量xを示す変位測定信号A3を制御回路ユニット50にデジタル信号で出力する。材料試験の実行中においては、変位量xによって試験片TPに生じた変位が示される。なお、試験力Fの印加によって試験片TPに生じた変位を測定する変位センサなどの物理量測定器を試験機本体2に設けてもよい。
サーボアンプ44は、制御回路ユニット50の制御の下、サーボモータ18を制御する装置である。
【0026】
図2は、制御回路ユニット50の機能的構成を示すブロック図である。
制御回路ユニット50は、通信部52と、試験制御部54と、を備える。
制御回路ユニット50は、CPUやMPUなどのプロセッサと、ROMやRAMなどのメモリデバイスと、HDDやSSDなどのストレージ装置と、信号入出力ユニット40とのインターフェース回路と、試験プログラム実行装置34と通信する通信装置と、表示装置32を制御する表示制御回路と、各種の電子回路と、を備えたコンピュータを備え、プロセッサがメモリデバイス又はストレージ装置に記憶されたコンピュータログラムを実行することで、
図2に示す各機能部を実現する。また信号入出力ユニット40のインターフェース回路にはA/D変換器が設けられており、アナログ信号の試験力測定信号A1がA/D変換器によってデジタル信号に変換される。
なお、制御回路ユニット50は、コンピュータに限らず、ICチップやLSIなどの集積回路といった1又は複数の適宜の回路によって構成されてもよい。
【0027】
通信部52は、試験プログラム実行装置34との間で通信し、試験条件の設定や各種設定パラメータの設定値、材料試験の実行指示や中断指示などを試験プログラム実行装置34から受信する。また通信部52は、試験力測定信号A1に基づく試験力測定値Fdを適宜のタイミングで試験プログラム実行装置34に送信する。
【0028】
試験制御部54は、試験機本体2のサーボモータ18をフィードバック制御して材料試験を実行するものであり、フィードバック制御回路60と、制御クロック回路62と、目標データ記憶部64と、ハンチング検出部66と、ハンチング対処処理部68と、を備える。
フィードバック制御回路60は、サーボモータ18のフィードバック制御を実行する回路である。すなわち、フィードバック制御回路60は、試験力測定値Fdと、試験力Fの目標値である試験力目標値Ftとの偏差に基づいて、この試験力測定値Fdを試験力目標値Ftに一致させる変位量xの指令値dxを演算し、当該指令値dxを示す指令信号B1(
図1)をサーボアンプ44に出力する。本実施形態では、フィードバック制御にはPID(Proportional-Integral-Differential)制御が用いられており、フィードバック制御回路60は、いわゆるPID制御器を備える。指令値dxの算出には、材料の弾性(変位量xと試験力Fとの関係)に基づいて定められた適宜の制御則が用いられる。
また、フィードバック制御回路60は、信号ノイズ対策として、高周波数のディザ信号(高周波小振幅信号)を指令信号B1に付加するディザ信号付加機能を備え、かかる指令信号B1がサーボアンプ44に出力される。
【0029】
制御クロック回路62は、フィードバック制御における制御サイクルを規定するタイミング信号を出力するクロック回路であり、フィードバック制御回路60は、当該制御クロック回路62のタイミング信号に同期して、フィードバック制御を実行する。このタイミング信号は、あくまでも制御サイクルを規定するものであり、少なくともハンチング検出部66、及びハンチング対処処理部68は、このタイミング信号よりも高速なクロック信号に同期して制御サイクルよりも高速に動作する。
【0030】
目標データ記憶部64は、目標データを予め記憶するメモリデバイスを備える。目標データは、材料試験における試験力目標値Ftの時間的変動(試験力目標値Ftと時間との関係)を示す時系列データであり、フィードバック制御における制御波形に対応する。この目標データは、試験プログラム実行装置34に対するユーザ設定操作に応じて制御回路ユニット50によって変更記憶される。これにより、材料試験に際し、ユーザ設定に応じた時間的変動で試験力Fが試験片TPに与えられるようになる。
【0031】
ハンチング検出部66は、材料試験の間、ハンチングを検出し、ハンチングを検出した場合に、その旨をハンチング対処処理部68に出力する。本実施形態のハンチング検出部66は、試験力目標値Ft及び試験力測定値Fdの各々の周波数スペクトルの比較に基づいてハンチングを検出する。
ハンチング対処処理部68は、ハンチングがハンチング検出部66によって検出された場合に、ハンチングを抑制するためのハンチング対処処理を実行する。ハンチングが抑制されることで、材料試験の精度低下を防止し、高品質な試験を実現できる。
【0032】
以下、本実施形態の動作として、ハンチング発生検出に係る動作を説明する。
【0033】
図3は、ハンチング検出処理のフローチャートである。
ハンチング検出処理は、材料試験の間(少なくとも試験力Fのフィードバック制御が行われている間)、ハンチングの発生を速やかに検出するために、ハンチング検出部66によって継続的に繰り返し行われる。また材料試験が開始されると、試験力F目標値Ftの時系列データ(すなわちフィードバック制御における制御波形)、及び、試験力測定値Fdの時系列データ(すなわちフィードバック制御における応答波形)が、例えば、ハンチング検出部66が備えるRAMなどのメモリデバイスに逐次にバッファリングされる。
【0034】
図3に示すように、ハンチング検出部66は、先ず、試験力目標値Ft、及び試験力測定値Fdの両方の所定短時間Tの分の時系列データをバッファリングされているデータから切り出す(ステップSa1)。本実施形態では、この所定短時間Tは、制御クロック回路62の制御クロックの1に設定されているが、これについては後述する。
【0035】
次いで、ハンチング検出部66は、試験力目標値Ft、及び試験力測定値Fdのそれぞれの時系列データを前処理した後、離散フーリエ変換し、所定短時間Tの時系列データの周波数スペクトルを求める(ステップSa2)。そして、ハンチング検出部66は、試験力目標値Ft、及び試験力測定値Fdのそれぞれの周波数スペクトルを比較し、この比較結果に基づいて、ハンチングの有無を判断する(ステップSa3)。そして、ハンチングが発生している場合には(ステップSa3:ハンチングあり)、ハンチング検出部66は、その旨を、ハンチング対処処理部68に出力する(ステップSa4)。
【0036】
ステップSa2における前処理は、時系列データに同じ時系列データを次々に繋げて周期拡張した際に、各繋ぎ目での不連続性が抑制された波形となるように、所定短時間T分の時系列データを調整する処理である。この前処理には、窓関数処理、或いは、3次元曲線近似補正処理が用いられる。
【0037】
窓関数処理は、離散フーリエ変換対象の所定短時間T分の時系列データに窓関数を乗じることで当該時系列データを調整する処理であり、この窓関数には、ハミング窓やハン窓(ハニング窓)、ブラックマン窓などの適宜の窓関数を用いることができる。
【0038】
3次元曲線近似補正は、日本国特許出願:特願2017-243754に開示された処理であり、窓関数に代えて基準関数を用いて、離散フーリエ変換対象の所定短時間T分の時系列データを調整する。
基準関数は、所定短時間T分の時系列データの開始点を接点とする接線の傾きが当該時系列データの開始位置付近の近似直線の傾きと一致し、当該時系列データの終了点を接点とする接線の傾きが終了位置付近の近似直線の傾きとに一致する関数である。
そして、所定短時間T分の時系列データから基準関数を減算することにより、時系列データの波形の両端が滑らかにゼロに収束するデータに、当該時系列データが調整される。
【0039】
基準関数には、次数3以上の多項式関数が好適に用いられ、例えば、次式(2)の係数a、b、c、dを持つ次式(1)の3次曲線(y)を用いることができる。
なお、式(1)、式(2)において、所定短時間T分の時系列データの時間軸の開始位置をt1、値をy1、開始点(t1,y1)で接する接線である開始位置付近での近似直線の傾きをk1とし、所定短時間T分の時系列データの時間軸の終了位置をtend、値をyend、終了点(tend,yend)で接する接線である終了位置付近での近似直線の傾きをkendとしている。
【0040】
【0041】
【0042】
またハンチング検出処理のステップSa3において、ハンチング検出部66は、試験力目標値Ft、及び試験力測定値Fdのそれぞれの周波数スペクトルを次のように比較してハンチング発生を判断する。すなわち、ハンチング検出部66は、試験力測定値Fdの周波数スペクトルにおける振幅の振幅累積値(以下、「測定値振幅累積値」といい、符号Ddを付す)が、試験力目標値Ftの周波数スペクトルにおける振幅の振幅累積値(以下、「目標値振幅累積値」といい、符号Dtを付す)に対して所定値Gth以上である場合に、ハンチングが発生していると判断する。
またステップSa3においては、ハンチング検出部66は、フィードバック制御系に生じるノイズ成分と、試験力F及び変位量xを測定する測定系(例えばロードセル42を含む測定系)に生じるノイズ成分と、のそれぞれを試験力測定値Fdの周波数スペクトルから除いた後、測定値振幅累積値Ddと目標値振幅累積値Dtとを比較している。
【0043】
かかるハンチング検出処理について、試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの波形の具体例を参照しながら更に説明する。
【0044】
[試験力目標値Ftが時間軸上で単調に変化する場合(非振動の場合)]
図4は、試験力目標値Ft、及び試験力測定値Fdの時間軸波形の一例を示す図である。
例えば材料試験の一態様である引張試験では、図示のように、時間軸上で試験力目標値Ftが試験開始時(t=0)から所定の傾きで単調に増加するようにフィードバック制御される(すなわち、時間軸上で試験力目標値Ftは振動成分を含まない。)
そして図示例のように、試験力測定値Fdは試験力目標値Ftに合わせて増加する一方で、試験開始から約2秒後にハンチングが発生し始めると、当該ハンチングがハンチング検出処理により検出される。
【0045】
ハンチング検出処理では、上述の通り、試験力目標値Ft、及び試験力測定値Fdの各々の時系列データの所定短時間T分の抜き出し(ステップSa1)、それぞれの時系列データに対する前処理、及び離散フーリエ変換(ステップSa2)、及び、試験力目標値Ft、及び試験力測定値Fdのそれぞれの周波数スペクトルの比較に基づくハンチング発生の有無の判定(ステップSa3)の一連の処理が行われる。
【0046】
本例では、
図4に示すように、試験開始の直後taから1秒が経過するタイミングCkのそれぞれで、かかるハンチング検出処理が実行され、各ハンチング検出処理のステップSa1において、所定短時間Tとして2秒分の時系列データが切り出されている。そして続くステップSa2では、試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの時系列データに対して上述の前処理が行われる。
【0047】
図5は、ハンチングが発生し始めた時刻tb(=約2秒)の点で切り出された試験力測定値Fdの時系列データに対し、3次元曲線近似補正を用いて前処理した後の時系列データを示す図である。
この図に示すように、前処理が行われることで、時系列データは、波形の開始点t1と終了点tendとで、振幅値(測定値Fd)が滑らかにゼロに収束するデータに調整される。
かかる前処理の後、ステップSa2では、試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの時系列データのそれぞれの離散フーリエ変換により、試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftのそれぞれの周波数スペクトルが求められる。
【0048】
図6は、試験力測定値Fdの周波数スペクトルを示す図である。
本例の場合、試験力目標値Ftの時間軸波形(時系列データ)には振動成分が含まれないため、どの所定短時間Tで抜き出されたとしても、その周波数スペクトルに相対的に過度に強いピークが含まれることはない。したがって、ハンチングが発生していなければ、試験力測定値Fdの周波数スペクトルにも相対的に過度に強いピークは含まれることはない。換言すれば、
図6に示すように、試験力測定値Fdの周波数スペクトルに相対的に過度に強いピークPa、Pbが生じている場合には、それらのピークPa、Pbはハンチングによって生じたものと言える。
【0049】
したがって、本例の場合、試験力目標値Ftの周波数スペクトルに含まれることがない過度に強いピークが、試験力測定値Fdの周波数スペクトルに含まれているか否かに基づいて、ハンチングの有無を判断できる。試験力F測定値Fdの周波数スペクトルに過度に強いピークが含まれているか否かは、測定値振幅累積値Ddが所定値Gth以上か否かに基づいて判断できる。この所定値Gthは、例えば目標値振幅累積値Dtにマージンを加えた値に基づいて設定される。
【0050】
以上のことから、ステップSa3では、測定値振幅累積値Ddが所定値Gth以上であるか否かが判断され、所定値Gth以上の場合には(ステップSa3:ハンチングあり)、ハンチング発生の旨が出力されることとなる。なお、この判断において、所定値Gthは目標値振幅累積値Dtに基づいて設定されているので、実質的には、測定値振幅累積値Ddが目標値振幅累積値Dtと比較されたことになる。
【0051】
図7は、測定値振幅累積値Ddの時間変化を示す図である。
本例では、試験開始の直後から1秒が経過するタイミングCkごとにハンチング検出処理が実行され、それぞれのハンチング検出処理において、直近の所定短時間T(本例では2秒)に亘る試験力測定値Fdについて測定値振幅累積値Ddが算出される。
本例では、試験開始から約2秒が経過した時点からハンチングが発生し始めているので、
図7に示すように、その直後のハンチング検出処理のタイミングCkである約3秒の時点で、測定値振幅累積値Ddが所定値Gthを越える。これにより、測定値振幅累積値Ddが所定値Gthを越えるような規模のハンチングの発生が正確、かつ速やかに検出される。
【0052】
[試験力目標値Ftが時間軸上で変動する場合(振動する場合)]
図8は、試験力目標値Ft、及び試験力測定値Fdの時間軸波形の他の一例を示す図である。
例えば材料試験の一態様である疲労試験では、時間軸において試験力目標値Ftが時々刻々と変化する。
本例では、時間軸において試験力目標値Ftが試験開始時(t=0)から複数の周波数成分で振動し、これに伴い試験力測定値Fdも時間軸においても複雑に振動している。同図から明らかなように、時間軸における試験力測定値Fdの振幅(変動)からハンチングを見分けることは困難である。また試験力目標値Ftが振動する場合、この振動の周波数成分が試験力測定値Fdの周波数スペクトルに出現するため、試験力測定値Fdの周波数スペクトルだけではハンチングを精度良く判断することは困難である。
【0053】
これに対して、本実施形態のハンチング検出処理では、試験力測定値Fdだけでハンチング発生を判断するのではなく、試験力測定値Fd及び試験力目標値Ftのそれぞれの周波数スペクトルの比較に基づいてハンチング発生を判断するので(ステップSa3)、精度よくハンチングを検出できる。具体的には、ステップSa3において、試験力測定値Fd及び試験力目標値Ftのそれぞれの周波数スペクトルに基づいて、測定値振幅累積値Ddと目標値振幅累積値Dtとが算出され、測定値振幅累積値Ddから目標値振幅累積値Dtを引いた差分Eが所定値Gth以上の場合に、ハンチングが発生していると判断される。
【0054】
図9は、試験力測定値Fdと試験力目標値Ftとの差分Eの時間変化を示す図である。
本例では、試験開始の直後から0.5秒が経過するタイミングCkごとにハンチング検出処理が実行され、それぞれのハンチング検出処理において、直近の所定短時間T(本例では1秒)に亘る試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftに基づいて、測定値振幅累積値Ddと目標値振幅累積値Dtとの差分Eが算出されている。
本例では、
図9に示されるように、差分Eの値が試験開始から3秒後の時点で所定値Gthを越えて大きく増加し、これにより、この時点で、差分Eが所定値Gthを越えるような規模のハンチングの発生が精度良く、速やかに検出される。
【0055】
ここで、試験力目標値Ftが時間軸上で複雑に振動する波形の場合、その試験力目標値Ftの時系列データの切り出し時間である所定短時間Tが長くなるほど、切り出し後の時系列データには多くの周波数成分が含まれることから、目標値振幅累積値Dtも増大する傾向にある。この結果、ハンチングが発生していたとしても測定値振幅累積値Ddと目標値振幅累積値Dtとの差分Eが増大し難くなり、ハンチングの検出精度が低下し、またハンチングの検出タイミングが遅れることになる。
このような理由から、所定短時間Tは短いほど好ましい。そこで、本実施形態では、上述の通り、制御クロック回路62のクロック信号の1周期分に所定短時間Tを設定することで、所定短時間Tをフィードバック制御サイクルの最小周期とし、ハンチングの検出精度、及び検出速度を向上させている。
なお、所定短時間Tを、妥当な検出精度、及び検出速度が得られる範囲で、より長い時間(例えば、フィードバック制御サイクルの複数周期分など)に設定しても良いことは勿論である。
【0056】
ところで、フィードバック制御系と、試験力F及び変位量xを測定する測定系とには、センサやデジタル信号処理に起因する各種のノイズが含まれている。そこで、本実施形態では、ステップSa3において、ハンチング検出部66が試験力測定値Fdの周波数スペクトルを試験力目標値Ftの周波数スペクトルと比較する際には、試験力測定値Fdの周波数スペクトルから、これらフィードバック制御系、及び測定系のそれぞれのノイズを除いた状態で比較することで、ハンチングの検出精度を向上させている。
【0057】
具体的には、本実施形態では、フィードバック制御系、及び測定系のそれぞれに内在するノイズを予め計測した計測ノイズの周波数スペクトルのデータを試験制御部54が例えばメモリデバイスなどに記憶している。そして、ハンチング検出部66は、試験力測定値Fdについて測定値振幅累積値Ddを算出する場合、試験力測定値Fdの周波数スペクトルからノイズの周波数スペクトルを除いて測定値振幅累積値Ddを算出する。
【0058】
さて、ハンチング検出処理においてハンチングが検出されると、ハンチング対処処理部68がハンチング対処処理を実行する。
具体的には、ハンチング対処処理において、ハンチング対処処理部68は、フィードバック制御回路60のPID制御における制御ゲイン(例えば比例ゲインや積分ゲイン、微分ゲインなど)を適宜に変更して(本実施形態では下げて)ハンチングを抑える。
【0059】
図10は一般的なPI制御におけるステップ応答を示し、
図11は
図10についての極零点配置図である。
図10に示すように、制御ゲインとして積分ゲインだけを半分の値まで下げた場合、
図11に示すように、極配置では虚数解が現れて制御系が振動的になり、或いは、極がプラス領域に配置されて制御系が発散し、制御システムが不安定になることがある。これに対し、積分ゲインを半減させる場合には、極配置において虚数値がゼロとなる比例ゲインの値を求め、その値に比例ゲインも変更することで、制御システムが不安定になることを回避できる。
【0060】
そこで、ハンチング対処処理部68は、制御ゲインを変更する場合、必要に応じて、フィードバック制御系が不安定にならないように、他の調整可能な制御ゲインも、例えば上述の極配置に基づいて適宜に変更する。
【0061】
ただし、制御ゲインを急激に変更すると、指令値dx(指令信号B1)に極端な不連続が生じることがある。そこで、
図12に示すように、測定値振幅累積値Ddと目標値振幅累積値Dtとの差分Eが所定値Gthを越えることでハンチングが検出された場合、ハンチング対処処理部68は、制御ゲインJの変更値として、制御システムの安定性を維持しつつ、ハンチングが抑えられる値を算出する。そして、制御ゲインJを、この変更値を下限として、差分Eが所定値Gthを下回るまで(ハンチングが検出されなくなるまで)、徐々に(すなわち滑らかに)値を変化させる。
【0062】
なお、本実施形態では、微分器にローパスフィルタ回路が組み込まれることでフィードバック制御回路60(PID制御器)がフィルタ回路を含んでいる。そこで、ハンチング対処処理部68は、上述の制御ゲインに加え、ローパスフィルタ回路のフィルタ強度を適宜に変更して(本実施形態では強くして)ハンチング現象を抑え、又は解消してもよい。
また制御ゲイン、及びフィルタ強度に限らず、変更可能な制御パラメータであって、変更によりハンチング現象を抑え、又は解消できる制御パラメータであれば、ハンチング対処処理部68は、それらの制御パラメータをハンチング対処処理において変更してもよいことは勿論である。
【0063】
また制御ゲインJなどの制御パラメータを所定値まで変更し終えてもハンチングが検出され続ける場合、或いは、差分Eが所定値Gthを過度に越えて大きくなった場合(すなわち、振幅が非常に大きなハンチングが発生している場合)には、ハンチング対処処理部68は、材料試験を強制的に中断し、及び/又は、ユーザに警告を出力してもよい。
【0064】
本実施形態によれば、次の効果を奏する。
【0065】
本実施形態の材料試験機1は、フィードバック制御の応答波形に対応する試験力測定値Fdの時系列データと、制御波形に対応する試験力目標値Ftの時系列データとのそれぞれを変換した周波数スペクトルの比較に基づいてハンチングを検出するようにした。
これにより、試験力目標値Ftの時間軸波形が変動する場合でもハンチングを精度よく検出できる。
【0066】
本実施形態の材料試験機1は、フィードバック制御の制御系のノイズの影響を除いて試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの周波数スペクトルを比較するので、ハンチングの検出精度を高めることができる。
【0067】
本実施形態の材料試験機1は、試験力測定値Fdの周波数スペクトルからフィードバック制御の制御系のノイズを測定して得られた周波数スペクトルを除いた状態で、試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの周波数スペクトルを比較するので、制御系のノイズの影響を確実に取り除くことができる。
【0068】
本実施形態の材料試験機1は、試験力測定値Fdの周波数スペクトルにおける測定値振幅累積値Ddが、試験力目標値Ftの周波数スペクトルにおける目標値振幅累積値Dtに対して所定値Gth以上であるか否かに基づいてハンチング発生の有無を判断する。
これにより、測定値振幅累積値Ddと目標値振幅累積値Dtとの差分Eが所定値Gth以上となるような規模のハンチングが発生していることを検出できる。
【0069】
本実施形態の材料試験機1において、試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの周波数スペクトルは、試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftのそれぞれの時系列データから切り出された所定短時間T分のデータを変換して得られている。そして、当該所定短時間Tは、フィードバック制御におけるフィードバック制御サイクルの周期に基づいて設定されている。
これにより、試験力目標値Ftの時間軸波形が振動成分を含む場合でも、その振動状況に応じて所定短時間Tをフィードバック制御サイクルの1周期分から複数周期分の間で適宜に設定することで、妥当な検出精度、及び検出速度でハンチングを検出できる。
【0070】
本実施形態の材料試験機1は、ハンチングが検出された場合に、フィードバック制御の制御系の制御パラメータを変更してハンチングを抑えるので、材料試験の精度低下を防止できる。
【0071】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を例示するものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、および応用が可能である。
【0072】
上述した実施形態において、ハンチング検出部66は、フィードバック制御の制御系のノイズの周波数スペクトルを試験力測定値Fdの周波数スペクトルから除くことで、当該ノイズの影響を除いたが、これに限らない。
詳述すると、ハンチングが含み得る周波数は低周波数領域よりも高いため、ハンチングの周波数が入らない低周波数領域(例えば1Hz以下)をハンチング検出に用いる必要はない。したがって、この低周波数領域を除いた周波数数領域について試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの周波数スペクトルを比較してもハンチングを検出することができる。
これにより、フィードバック制御の制御系のノイズを測定せずとも、低周波数領域に含まれるノイズの影響を受けることなく、ハンチングを検出できる。
【0073】
また試験力目標値Ftの波形が時間軸上で振動成分を含まない場合、高周波数領域を除いた周波数領域の比較だけでも十分にハンチングを検出できる。したがって、この場合には、制御系、及び測定系の高周波ノイズが存在する高周波数領域、及び、指令信号B1に重畳されるディザ信号の周波数領域を除いた周波数領域について試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの周波数スペクトルを比較してハンチングを検出してもよい。
これにより、制御系、及び測定系の高周波ノイズ、及びディザ信号の影響を受けることなくハンチングを検出できる。
【0074】
上述した実施形態において、材料試験機1の制御系、及び測定系のノイズを含まないことが保証されている所定の周波数領域が既知の場合、ハンチング検出部66は、この所定の周波数領域の範囲に限って、試験力測定値Fd、及び試験力目標値Ftの周波数スペクトルを比較してもよい。
これにより、ノイズの影響を受けることなく簡単にハンチングを検出できる。
【0075】
上述した実施形態において、ハンチング検出部66は、試験力測定値Fdの所定短時間T分の時系列データと、試験力目標値Ftの所定短時間T分の時系列データの両方を、その都度、周波数スペクトルに変換した。しかしながら、ハンチング検出部66は、試験力目標値Ftの周波数スペクトルについては、あらかじめ計算されたものを用いてもよい。
【0076】
上述した実施形態において、ハンチング検出部66は、試験力測定値Fdと試験力目標値Ftとのそれぞれのパワースペクトルを比較してハンチングの有無を判断してもよい。
【0077】
上述した実施形態、及び各変形例において、ハンチング検出部66は、試験力測定値Fdと試験力目標値Ftとのそれぞれの周波数スペクトルを比較したが、これに限らず、フィードバック制御の制御信号である指令信号B1と試験力目標値Ftとの周波数スペクトルを比較してハンチングを検出してもよい。この場合において、指令信号B1にディザ信号が重畳されている場合、ハンチング検出部66は、当該ディザ信号を指令信号B1から除去せずに、指令信号B1と試験力目標値Ftとの周波数スペクトルを比較する。
【0078】
上述した実施形態において、材料試験機1が備える負荷機構12の駆動源は、サーボモータ18に限らず、例えば油圧源などの他の動力源でもよい。
【0079】
上述した実施形態において、
図2に示す機能ブロックは、本願発明を理解容易にするために構成要素を主な処理内容に応じて分類して示した概略図であり、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0080】
本発明が適用される材料試験機1は、万能試験機に限らず、目標値が単調に変化する引張試験機、及び、目標値が時々刻々と変化する疲労試験機(油圧疲労試験機や電磁式疲労試験機など)や耐久試験機などに好適に適用できる。
また本発明は、試験対象に負荷を与える負荷機構と、前記試験対象に与えられている負荷を測定する負荷測定器と、前記負荷の測定値と当該負荷の目標値との偏差に基づいて、前記負荷機構をフィードバック制御する制御装置と、を備え、前記負荷によって前記試験対象に生じた物理量の変化を物理量測定器で測定する材料試験機であれば、任意の材料試験機に適用できる。
【符号の説明】
【0081】
1 材料試験機
2 試験機本体
4 制御ユニット
12 負荷機構
14 ロードセル(負荷測定器)
30 制御装置
50 制御回路ユニット
54 試験制御部
60 フィードバック制御回路
62 制御クロック回路
64 目標データ記憶部
66 ハンチング検出部
68 ハンチング対処処理部
Dd 測定値振幅累積値
Dt 目標値振幅累積値
E 測定値振幅累積値と目標値振幅累積値の差分
F 試験力(負荷)
Fd 試験力測定値
Ft 試験力目標値
Gth 所定値
T 所定短時間(所定時間)
TP 試験片(試験対象)
x 変位量(物理量)