(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】分析装置の評価方法、分析装置の較正方法、分析方法、分析装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20220511BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N27/62 D
G01N30/86 V
(21)【出願番号】P 2020560659
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2018046378
(87)【国際公開番号】W WO2020129129
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭彦
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-318983(JP,A)
【文献】特開2009-14522(JP,A)
【文献】特開2014-235088(JP,A)
【文献】特開2015-197370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 30/86
H01J 49/26
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる複数の化合物をそれぞれ検出可能な分析装置の評価方法であって、
第1化合物を含む前記試料を前記分析装置に導入して測定を行い、前記第1化合物および前記第1化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物を検出することと、
検出された前記第1化合物の強度および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、前記第1化合物および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、前記分析装置が分析に適している状態か否かを示す情報を取得することとを備える分析装置の評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分析装置の評価方法において、
検出された前記第1化合物の強度と検出された前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度との比、および前記相対応答係数に基づいて、前記情報を取得する分析装置の評価方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分析装置の評価方法において、
前記第1化合物の強度および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、前記相対応答係数とに基づいて、前記第1化合物が前記反応生成物に変化した割合を算出する分析装置の評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の分析装置の評価方法において、
前記割合が所定の閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、前記分析装置が分析に適している状態か否かを示す情報を取得する分析装置の評価方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の分析装置の評価方法において、
前記割合の経時的変化を示すグラフを表示することを備える分析装置の評価方法。
【請求項6】
請求項3から5までのいずれか一項に記載の分析装置の評価方法において、
前記割合は、前記第1化合物の強度をA’
Sとし、nを反応生成物の種類の数、kを自然数としてk番目の反応生成物の強度をA’
Pk(kは1以上n以下の整数)とし、前記k番目の反応生成物に対する前記第1化合物の相対応答係数をRRF
S/Pkとすると、前記割合(Pr)は、以下の式(A)
Pr=(RRF
S/P1/(A’
S/A’
P1)+RRF
S/P2/(A’
S/A’
P2)+…RRF
S/Pk/(A’
S/A’
Pk)+…RRF
S/Pn/(A’
S/A’
Pn))/(1+RRF
S/P1/(A’
S/A’
P1)+ RRF
S/P2/(A’
S/A’
P2) +…RRF
S/Pk/(A’
S/A’
Pk)+…RRF
S/Pn/(A’
S/A’
Pn)) …式(A)
で表される、分析装置の評価方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか一項に記載の分析装置の評価方法において、
少なくとも前記分析装置が分析に適している状態にない場合に、通知を出力することを備える分析装置の評価方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか一項に記載の分析装置の評価方法において、
前記第1化合物または前記反応生成物の絶対的な濃度の定量を行わない分析装置の評価方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか一項に記載の分析装置の評価方法において、
前記分析装置は、質量分析計およびクロマトグラフの少なくとも一つを備える、分析装置の評価方法。
【請求項10】
請求項9に記載の分析装置の評価方法において、
前記分析装置は、ガスクロマトグラフ-質量分析計、熱分解ガスクロマトグラフ-質量分析計、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、液体クロマトグラフ-質量分析計またはイオン付着質量分析計である、分析装置の評価方法。
【請求項11】
請求項1から10までのいずれか一項に記載の分析装置の評価方法により分析装置の評価を行うことと、
前記評価に基づいて前記分析装置を較正することとを備える分析装置の較正方法。
【請求項12】
請求項1から10までのいずれか一項に記載の分析装置の評価方法により分析装置を評価することと、
評価された前記分析装置を用いて分析を行うこととを備える分析方法。
【請求項13】
請求項12に記載の分析方法において、
前記情報に基づいて、前記分析装置により得られたデータを補正する分析方法。
【請求項14】
試料に含まれる複数の化合物をそれぞれ検出可能な分析装置であって、
第1化合物を含む前記試料を前記分析装置に導入して測定を行い、前記第1化合物および前記第1化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物を検出する測定部と、
検出された前記第1化合物の強度および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、前記第1化合物および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、前記分析装置が分析に適している状態か否かを示す情報を取得する装置情報取得部とを備える分析装置。
【請求項15】
試料に含まれる複数の化合物をそれぞれ検出可能な分析装置に、第1化合物を含む前記試料が導入され測定が行われ、前記第1化合物および前記第1化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物が検出されて得られた測定データを取得する測定データ取得処理と、
検出された前記第1化合物の強度および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、前記第1化合物および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、前記分析装置が分析に適している状態か否かを示す情報を取得する装置情報取得処理とを処理装置に行わせるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置の評価方法、分析装置の較正方法、分析方法、分析装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析計等の分析装置が分析を行うために適切な状態にないと、導入された特定の化合物の意図せぬ分解が起こり、分析対象の試料における当該化合物や分解により生じた化合物等の量が適切に測定できない場合がある。例えば、難燃剤であるデカブロモジフェニルエーテル(Decabromodiphenyl ether;Deca-BDE)は、質量分析の際、質量分析計の汚染や劣化に伴い、分解されて生成した反応生成物が検出される。この反応生成物は、Deca-BDEから臭素が1つ脱離したノナブロモジフェニルエーテル(Nonabromodiphenyl ether;Nona-BDE)や、臭素が2つ脱離したオクタブロモジフェニルエーテル(Octabromodiphenyl ether;Octa-BDE)等である(
図1参照)。
【0003】
このため、分析対象の試料の分析を行う前に、分析装置に評価用化合物としてのDeca-BDEを導入してDeca-BDEおよび上記反応生成物を検出し、当該分析装置が分析を行うために適切な状態であるかを評価することが行われている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】国際電気標準会議、”DETERMINATION OF CERTAIN SUBSTANCES IN ELECTROTECHNICAL PRODUCTS - Part 6: Polybrominated biphenyls and polybrominated diphenyl ethers in polymers by gas chromatography-mass spectrometry (GC-MS)”、第1版、(スイス連邦)、国際電気標準会議、2015年6月、p. 22-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の分析装置の評価方法では、評価精度の低下を防ぐため、評価用化合物と反応生成物のそれぞれに対して予め検量線を作成したり、評価用化合物の標準試料と反応生成物の標準試料とを別々に測定する等、煩雑な操作が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によると、分析装置の評価方法は、試料に含まれる複数の化合物をそれぞれ検出可能な分析装置の評価方法であって、第1化合物を含む前記試料を前記分析装置に導入して測定を行い、前記第1化合物および前記第1化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物を検出することと、検出された前記第1化合物の強度および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、前記第1化合物および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、前記分析装置が分析に適している状態か否かを示す情報を取得することとを備える。
本発明の第2の態様によると、第1の態様の分析装置の評価方法において、検出された前記第1化合物の強度と検出された前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度との比、および前記相対応答係数に基づいて、前記情報を取得することが好ましい。
本発明の第3の態様によると、第1または第2の態様の分析装置の評価方法において、前記第1化合物の強度および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、前記相対応答係数とに基づいて、前記第1化合物が前記反応生成物に変化した割合を算出することが好ましい。
本発明の第4の態様によると、第3の態様の分析装置の評価方法において、前記割合が所定の閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、前記分析装置が分析に適している状態か否かを示す情報を取得することが好ましい。
本発明の第5の態様によると、第3または第4の態様の分析装置の評価方法において、前記割合の経時的変化を示すグラフを表示することを備えることが好ましい。
本発明の第6の態様によると、第3から第5までのいずれかの態様の分析装置の評価方法において、前記割合は、前記第1化合物の強度をA’Sとし、nを反応生成物の種類の数、kを自然数としてk番目の反応生成物の強度をA’Pk(kは1以上n以下の整数)とし、前記k番目の反応生成物に対する前記第1化合物の相対応答係数をRRFS/Pkとすると、前記割合(Pr)は、以下の実施形態中の式(A)で表されることが好ましい。
本発明の第7の態様によると、第1から第6までのいずれかの態様の分析装置の評価方法において、少なくとも前記分析装置が分析に適している状態にない場合に、通知を出力することを備えることが好ましい。
本発明の第8の態様によると、第1から第7までのいずれかの態様の分析装置の評価方法において、前記第1化合物または前記反応生成物の絶対的な濃度の定量を行わないことが好ましい。
本発明の第9の態様によると、第1から第8までのいずれかの態様の分析装置の評価方法において、前記分析装置は、質量分析計およびクロマトグラフの少なくとも一つを備えることが好ましい。
本発明の第10の態様によると、第9の態様の分析装置の評価方法において、前記分析装置は、ガスクロマトグラフ-質量分析計、熱分解ガスクロマトグラフ-質量分析計、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、液体クロマトグラフ-質量分析計またはイオン付着質量分析計であることが好ましい。
本発明の第11の態様によると、分析装置の較正方法は、第1から第10までのいずれかの態様の分析装置の評価方法により分析装置の評価を行うことと、前記評価に基づいて前記分析装置を較正することとを備える。
本発明の第12の態様によると、分析方法は、第1から第10までのいずれかの態様の分析装置の評価方法により分析装置の評価を行うことと、評価された前記分析装置を用いて分析を行うこととを備える。
本発明の第13の態様によると、第12の態様の分析方法において、前記情報に基づいて、前記分析装置により得られたデータを補正することが好ましい。
本発明の第14の態様によると、分析装置は、試料に含まれる複数の化合物をそれぞれ検出可能な分析装置であって、第1化合物を含む前記試料を前記分析装置に導入して測定を行い、前記第1化合物および前記第1化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物を検出する測定部と、検出された前記第1化合物の強度および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、前記第1化合物および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、前記分析装置が分析に適している状態か否かを示す情報を取得する装置情報取得部とを備える。
本発明の第15の態様によると、プログラムは、試料に含まれる複数の化合物をそれぞれ検出可能な分析装置に、第1化合物を含む前記試料が導入され測定が行われ、前記第1化合物および前記第1化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物が検出されて得られた測定データを取得する測定データ取得処理と、検出された前記第1化合物の強度および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、前記第1化合物および前記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、前記分析装置が分析に適している状態か否かを示す情報を取得する装置情報取得処理とを処理装置に行わせるためのものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、分析装置が分析に適した状態にあるかについての評価を煩雑な操作を必要とせず行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(A)は、Deca-BDEの化学式を示す図であり、
図1(B)は、Nona-BDEの化学式を示す図であり、
図1(C)は、Octa-BDEの化学式を示す図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る分析装置の構成を示す概略図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る分析方法の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、反応比率の経時的変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、プログラムを説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
-第1実施形態-
本実施形態の分析装置の評価方法では、評価用化合物を分析装置に導入して測定を行い、評価用化合物と、評価用化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物を検出する。その後、検出された評価用化合物および上記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、評価用化合物および上記少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、分析装置が分析に適した状態にあるか否かについての情報が得られる。
【0011】
(評価用化合物について)
評価用化合物は、分析装置の評価を行うために当該分析装置に試料として導入され、測定に供される化合物である。評価用化合物は、分析装置による分析により、評価用化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物が生成される可能性があれば、特に限定されない。ここで、反応生成物とは、分析装置による分析において評価用化合物を検出しようとした場合に生成される生成物であって、当該反応生成物の生成が評価用化合物を検出する精度に影響を及ぼす分子である(以下、単に「反応生成物」と記載した際には、当該分子を指す)。反応生成物は分析装置による評価用生成物の分析において意図せず生成される分子である。ここで、評価用化合物または反応生成物を「検出する」とは、試料に含まれているこれらの分子を定量するための検出を行うことを指し、イオン化された分子、解離された分子、または分子の誘導体等の、これらの分子由来の物質を直接検出するが分子自体を直接検出しない場合も含む。
【0012】
評価用化合物は、分析装置の汚染や劣化の際、分析装置による評価用化合物の分析において生成される反応生成物の量が増加する分子であることが好ましい。これにより、本実施形態の分析装置の評価方法を用いて分析装置の汚染や劣化を検出することができ、精度の低い分析を行うことを避けることができる。
【0013】
評価用化合物は、評価用化合物または、評価用化合物に由来する反応生成物の少なくとも一つが工業的に生産され流通されている化学物質であることが好ましく、少なくとも一つが人間等の生物や環境への影響から規制の対象となっている規制対象物質であることがより好ましい。評価用化合物や反応生成物と分析対象の化合物が同一または類似の構造を有すると、評価の精度が高まる。従って、規制の対象となる化学物質が増え正確な定量の重要性が増す中で、分析装置による上記化学物質や規制対象物質の分析を行う際に、事前に本実施形態の分析装置の評価方法を行うことで、より精度よく分析装置が当該分析に適した状態にあるかについての情報を得ることができる。
【0014】
好ましくは、評価用化合物は、Deca-BDEであり、反応生成物はDeca-BDEを除くポリブロモジフェニルエーテル(Polybrominated diphenyl ether;PBDE)の少なくとも一つである。これにより、難燃剤として工業的に生産され流通しているDeca-BDEや、規制対象となっているまたはなり得るPBDE等の重要な分子の分析の前に、分析装置が当該分析に適した状態にあるかについての情報を得ることができる。反応生成物はNona-BDEおよびOcta-BDEの少なくとも一つであることがより好ましい。これにより、Deca-BDEを分析する際に生成しやすい反応生成物を用いて、より精度よく上記情報を得ることができる。
【0015】
図1(A)、(B)および(C)は、Deca-BDE、Nona-BDEおよびOcta-BDEの化学式をそれぞれ示した。Nona-BDEはDeca-BDEから臭素が1つ脱離した分子であり、Octa-BDEはDeca-BDEから臭素が2つ脱離した分子である。以下の実施形態において、Nona-BDEおよびOcta-BDEにおける臭素が脱離した位置は特に限定されない。
【0016】
(分析対象について)
本実施形態の分析装置の評価方法は、当該分析装置を用いた任意の分析対象の分子の分析の前に行うことができる。上述の通り、分析対象の分子は工業的に生産され流通されている化学物質や、人間等の生物や環境への影響から規制の対象となっている規制対象物質を含むことが好ましいが、特に限定されない。分析対象の分子は、少なくとも一種類のPBDEが好ましく、Deca-BDE、Nona-BDEおよびOcta-BDEからなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0017】
(分析装置について)
図2は、本実施形態に係る分析装置の構成を示す概念図である。分析装置1は、ガスクロマトグラフ-質量分析計(以下、GC-MSと呼ぶ)であり、測定部100と情報処理部40とを備える。測定部100は、ガスクロマトグラフ10と、質量分析部30とを備える。
なお、本実施形態の分析装置は、試料に含まれる複数の化合物をそれぞれ検出可能であり、評価用化合物の分析の際に評価用化合物に由来する反応生成物が生成される可能性があれば特に限定されない。分析装置は、ガスクロマトグラフ(GC)若しくは液体クロマトグラフ等のクロマトグラフ、熱分解ガスクロマトグラフ-質量分析計(Py-GC-MS)若しくは液体クロマトグラフ-質量分析計(以下、LC-MSと呼ぶ)等のクロマトグラフを含む質量分析計、または、イオン付着質量分析計若しくはその他のクロマトグラフを含まない質量分析計でもよい。Deca-BDE等の分子は、ガスクロマトグラフのガラスインサート、クロマトグラフのカラムまたはイオン付着質量分析計のイオン化室等において汚れている部位や酸化された部位が増加すると、当該部位を反応点として分解による反応生成物が増加する。従って、これらの装置に好適に本発明を適用することができる。
【0018】
ガスクロマトグラフ10は、キャリアガス流路11、分析対象の試料または評価用化合物(以下、「試料等」と呼ぶ)が導入される試料導入部12、カラム温度調節部13、分離カラム14および試料ガス導入管15を備える。質量分析部30は、真空容器31と、排気口32と、試料等をイオン化してイオンInを生成するイオン化部33と、イオン調整部34と、質量分離部35と、検出部36とを備える。イオン化部33は、イオン化室331と、熱電子生成用フィラメント332と、トラップ電極333とを備える。
【0019】
情報処理部40は、入力部41と、通信部42と、記憶部43と、出力部44と、制御部50とを備える。制御部50は、装置制御部51と、データ処理部52と、出力制御部53とを備える。データ処理部52は、強度算出部521と、比率算出部522と、判定部523とを備える。出力制御部53は、通知部530を備える。
【0020】
測定部100は、分離分析により試料等の各成分を分離し、試料等を検出する。
【0021】
ガスクロマトグラフ10は、試料等に含まれる成分を物理的または化学的特性に基づいて分離する。分離カラム14に導入される際に、試料等はガスまたはガス状となっているが、これを試料ガスと呼ぶ。
【0022】
キャリアガス流路11は、ヘリウム等のキャリアガスの流路であり、キャリアガスを試料導入部12に導入する(矢印A1)。試料導入部12は、試料気化室等の試料等を導入する室を備え、不図示のシリンジやオートサンプラー等の注入器により注入された試料等を一時的に収容し、試料等が液体の場合は気化させて、試料ガスを分離カラム14に導入する(矢印A2)。試料等の導入法は特に限定されず、スプリットレス導入法やスプリット導入法等を適宜用いることができる。
【0023】
分離カラム14は、キャピラリーカラム等のカラムを備える。分離カラム14は、カラムオーブン等を備えるカラム温度調節部13により数百℃以下等に温度制御されている。試料ガスの各成分は、移動相と、分離カラム14の固定相との間の分配係数等に基づいて分離され、分離された試料ガスの各成分は異なる時間に分離カラム14から溶出し、試料ガス導入管15を通って質量分析部30のイオン化室331に導入される。
【0024】
質量分析部30は、質量分析計を備え、イオン化部33に導入された試料等をイオン化し、質量分離して検出する。イオン化部33で生成されたイオンInの経路を矢印A3で模式的に示した。
なお、クロマトグラフから溶出された試料等の検出方法は評価用化合物および反応生成物の強度を取得できれば特に限定されず、吸光度検出器等を用いてもよい。また、以下では質量分析部30として1つの四重極マスフィルタにより質量分離を行うシングル四重極質量分析計を用いる例を用いて説明する。しかし、試料等に対応するイオンInを所望の精度で質量分析して検出することができれば、質量分析部30を構成する質量分析計の種類は特に限定されない。当該質量分析計はタンデム質量分析計または多段階質量分析計としてもよい。
【0025】
質量分析部30の真空容器31は、排気口32を備える。排気口32は、ターボ分子ポンプ等の、10
-2Pa以下等の高真空が実現可能なポンプおよびその補助ポンプを含む不図示の真空排気系と接続されている。
図2では、真空容器31の内部の気体が排出される点を矢印A4で模式的に示した。
【0026】
質量分析部30のイオン化部33は、イオン源を備え、イオン化部33に導入された試料等を電子イオン化によりイオン化する。イオン化部33は、熱電子生成用フィラメント332で生成された熱電子を、トラップ電極333に印加された数十eV等の電圧で加速し、イオン化室331の内部の試料等に照射してイオンInを生成する。イオン化の際に試料等は解離されるため、イオンInは、試料等が解離されて得られたフラグメントイオンを含む。イオン化部33で生成されたイオンInはイオン調整部34に導入される。
なお、イオン化部33によるイオン化の方法は、所望の効率でイオン化を行うことができれば特に限定されない。GC-MSの場合、化学イオン化等を用いてもよい。LC-MSの場合はエレクトロスプレー法等を適宜用いることができる。
【0027】
質量分析部30のイオン調整部34は、レンズ電極やイオンガイド等のイオン輸送系を備え、電磁気学的作用により、イオンInを収束させる等して調整する。イオン調整部34から出射されたイオンInは質量分離部35に導入される。
【0028】
質量分析部30の質量分離部35は、四重極マスフィルタを備え、導入されたイオンInを質量分離する。質量分離部35は、四重極マスフィルタに印加された電圧により、m/zの値に基づいてイオンInを選択的に通過させる。質量分離部35で質量分離されたイオンInは検出部36に入射する。
なお、質量分離部を構成する質量分析器は特に限定されず、イオントラップや飛行時間型等の質量分析器を用いてもよい。
【0029】
質量分析部30の検出部36は、イオン検出器を備え、入射したイオンInを検出する。検出部36は、入射したイオンInの検出により得られた検出信号を、不図示のA/D変換器によりA/D変換し、デジタル化された検出信号を測定データとして情報処理部40に出力する(矢印A5)。
【0030】
情報処理部40は、電子計算機等の情報処理装置を備え、分析装置1のユーザー(以下、単に「ユーザー」と呼ぶ)とのインターフェースとなる他、様々なデータに関する通信、記憶、演算等の処理を行う。
なお、情報処理部40は、測定部100と一体となった一つの装置として構成してもよい。また、分析装置1が用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよく、分析装置1が行う演算処理の一部は遠隔のサーバ等で行ってもよい。
【0031】
入力部41は、マウス、キーボード、各種ボタンまたはタッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部41は、測定部100の制御や制御部50の処理に必要な情報等を、ユーザーから受け付ける。通信部42は、インターネット等の無線や有線接続により通信可能な通信装置を含んで構成され、測定部100の制御や制御部50の処理に関するデータ等を適宜送受信する。
【0032】
記憶部43は、不揮発性の記憶媒体で構成され、測定データ、制御部50が処理を実行するためのプログラム、データ処理部52が処理を行うために必要なデータおよび当該処理により得られたデータ等を記憶する。
【0033】
記憶部43には、予め算出された反応生成物に対する評価用化合物の相対応答係数が記憶されている。検出する反応生成物が複数の場合、記憶部43には複数の相対応答係数が記憶され、複数の相対応答係数のそれぞれは、評価用化合物に対するそれぞれの反応生成物の相対応答係数に対応する。この相対応答係数は、分析装置1の状態が分析を行うに適した状態のときに評価用化合物の標準試料と少なくとも一つの反応生成物の標準試料とが測定されて得られたものである。さらに、記憶部43には、後述する反応比率判定の閾値(以下、判定閾値と呼ぶ)を示す数値が記憶されている。
【0034】
出力部44は、液晶モニタ等の表示装置やプリンター等を含んで構成される。出力部44は、本実施形態の分析装置の評価方法により、分析装置1が分析に適した状態でないと判定された旨の通知や、データ処理部52の処理により得られたデータ等を、表示装置に表示したり、プリンターにより印刷したりして出力する。
【0035】
制御部50は、CPU等のプロセッサを備え、測定部100の各部の動作を制御したり、測定データを処理する。
【0036】
制御部50の装置制御部51は、測定部100の各部の動作を制御する。例えば、装置制御部51は、質量分離部35で通過させるイオンのm/zを連続的に変化させるスキャンモードや、特定のm/zを有する複数のイオンを通過させるSIM(Selective Ion Scannning)モードによりイオンInの検出を行うことができる。この場合、装置制御部51は、入力部41からの入力等に基づいて設定されたm/zを有するイオンInが質量分離部35を選択的に通過するように、質量分離部35の電圧を変化させる。さらに、装置制御部51は、感度の調整や質量較正等の較正において、分析装置1の各部の電圧値等を制御する。
【0037】
制御部50のデータ処理部52は、測定データを処理し、解析する。データ処理部52は、測定データと、記憶部43に記憶された少なくとも一つの相対応答係数から、分析装置1が分析に適した状態であるかについての情報を取得する装置情報取得部として機能する。その他、データ処理部52は、分析対象の試料の定量等の様々な解析を行うことができる。
【0038】
強度算出部521は、測定データから、検出された評価用化合物の強度と、検出された少なくとも一つの反応生成物の強度とを算出する。本実施形態では、「強度」とは、検出されて得られた信号の強度を示す。SIMモードにより質量分析が行われた場合、強度算出部521は、設定された各m/zに対応する評価用化合物または反応生成物の強度を、当該m/zに対応して検出された強度として算出する。スキャンモードにより質量分析が行われた場合、強度算出部521は、測定データから、マススペクトルに対応するデータを生成し、評価用化合物または反応生成物に対応するピークのピーク強度やピーク面積を評価用化合物または反応生成物の強度として算出する。
【0039】
比率算出部522は、検出された評価用化合物の強度、検出された少なくとも一つの反応生成物の強度、ならびに、評価用化合物および各反応生成物についての各相対応答係数に基づいて、評価用化合物のうち少なくとも一つの反応生成物へと変化した比率(以下、反応比率と呼ぶ)を算出する。
【0040】
<検出された強度と相対応答係数からの反応比率の算出について>
反応生成物が一つの場合を考える。反応比率Prは、試料中の評価用化合物Sの濃度をC’S、試料中の反応生成物Pの濃度をC’P とすると、以下の式(1)で定義される。
Pr=C’P/(C’S+C’P) …(1)
【0041】
反応生成物Pに対する評価用化合物Sの相対応答係数(Relative Response Facter;RRF)をRRFS/Pとする。RRFは2つの化合物の応答係数(Response Factor)RFの比率で表される。RFは分析した化合物の重量をM、分析して得られた強度をAとすると以下の式(11)で表される。
RF=A/M …(11)
分析した評価用化合物Sの重量をMS、分析して得られた強度をAS、分析した反応生成物Pの重量をM
P
、分析して得られた強度をA
P
、とするとRRFS/Pは以下の式(12)で表される。
RRFS/P=(AS/MS)/(AP/MP) …(12)
RRFS/Pを取得する際に使用した評価用化合物Sの濃度がCs、反応生成物Pの濃度がCPのとき、分析した試料の体積をVとするとMS=CS×V、MP=CP×Vであることと上記の式(12)からRRFS/Pは以下の式(2)により定義される。
RRFS/P= (AS/CS×V) / (AP/CP×V)
= (AS/CS) / (AP/CP) …(2)
【0042】
ここで、分析装置1の相対応答係数RRFS/Pは、一定とする。この場合、濃度C’Sの評価用化合物Sを分析して得られた強度をA’S、濃度C’Pの反応生成物Pを分析して得られた強度をA’Pとすると、以下の式(3)が成り立つ。
RRFS/P=(AS/CS) / (AP/CP)=(A’S/C’S) / (A’P/C’P) …(3)
なお、評価用化合物Sに対する反応生成物Pの相対応答係数を用いて反応比率Prを算出してもよい。この場合の相対応答係数の値は(3)式の逆数となる。
【0043】
式(3)から、C’P/C’S=RRFS/P/(A’S/A’P)となるから、これを利用して、反応比率Prを以下の式(4)により算出することができる。
Pr=C’P/(C’S+C’P)
=(C’P/C’S) /(1+C’P/C’S)
=(RRFS/P/(A’S/A’P))/(1+RRFS/P/(A’S/A’P)) …(4)
【0044】
同様に、反応生成物がn個(nは1以上の整数)ある場合について述べる。評価用化合物Sに対する、反応生成物P1、P2、…Pk…、Pnのいずれかとなった評価用化合物Sの比率(反応比率)Prは、試料中の反応生成物P1、P2、…Pk…、Pnの各濃度をC’P1,C’P2,…C’Pk…C’Pnとして以下の式(5)のように定義される。
Pr=(C’P1+C’P2+…+C’Pk+…+C’Pn)/(C’S+C’P1+C’P2+…+C’Pk+…+C’Pn) …(5)
【0045】
反応生成物P1、P2、…Pk…、Pnの検出された強度をそれぞれA’P1,A’P2,…A’Pk…A’Pnとし、反応生成物P1、P2、…Pk…、Pnのそれぞれに対する評価用化合物Sの相対応答係数をそれぞれRRFS/P1,RRFS/P2,…RRFS/Pk…RRFS/Pnとする。この場合、式(4)の場合と同様の計算により、反応比率Prは、以下の式(A)で表される。式(A)は式(4)の場合を含む式となっている。
Pr=(RRFS/P1/(A’S/A’P1)+RRFS/P2/(A’S/A’P2)+…RRFS/Pk/(A’S/A’Pk)+…RRFS/Pn/(A’S/A’Pn))/(1+RRFS/P1/(A’S/A’P1)+ RRFS/P2/(A’S/A’P2) +…RRFS/Pk/(A’S/A’Pk)+…RRFS/Pn/(A’S/A’Pn)) …(A)
【0046】
式(A)が、評価用化合物と各反応生成物との検出された強度の比に基づいていることから理解されるように、検量線等を作成して評価用化合物または反応生成物の絶対的な濃度の定量を行う必要がなく、評価用化合物を分析装置1に導入する際の濃度は既知である必要はない。また、分析装置1で過去に相対応答係数を測定してなくても、相対応答係数が略等しいと考えられる分析装置で過去に得られた相対応答係数を用いて反応比率を算出できるため、操作をさらに低減できる。相対応答係数が互いに略等しいと考えられる分析装置の例としては、同一メーカーの同一機種等が挙げられる。
【0047】
比率算出部522は、式(A)を用いて、反応比率を算出する。比率算出部522は、評価用化合物Sと各反応生成物P1、P2、…Pk…、Pnのそれぞれとの比率A’P1,A’P2,…A’Pk…A’Pnを算出する。比率算出部522は、算出されたこれらの比率を式(A)に代入し、反応比率を算出する。パーセント表示にする場合には、反応比率に100を掛ければよい。算出された反応比率は、記憶部43に記憶される。
【0048】
判定部523は、算出された反応比率に基づいて、分析装置1が分析に適した状態にあるか否かを判定する。判定部523は、記憶部43等に記憶されている、上述の判定閾値を参照し、算出された反応比率が閾値より小さいか否かを判定(以下、反応比率判定と呼ぶ)する。上記判定閾値は、過去の測定例や理論値等に基づいて4%等の値に予め適宜設定される。
【0049】
出力制御部53は、データ処理部52の処理により得られた、反応比率判定の結果を示す情報等を含む出力画像を生成し、出力部44を制御して当該出力画像を出力させる。
【0050】
出力制御部53の通知部530は、反応比率判定の結果、分析装置1が分析に適した状態にない場合に、その旨をユーザーに伝えるための通知を出力する。例えば、通知部530は、判定部523の反応比率判定の結果、分析装置1は分析に適した状態にないと判定された場合、「試料が分解されやすい状態にあります」「不合格」「精度の高い分析ができない可能性があります」「FAIL」等の文字を出力部44に出力させ、警告することができる。このような警告の表示方法は特に限定されないが、例えば画面にポップアップメッセージとして表示してもよい。また、通知部530は、イオン調整部34や質量分離部35等の電圧の感度等のオートチューニングやm/z値の較正等、装置の再較正を促したり、消耗品の交換等の必要がある旨を出力部44に出力させてもよい。通知部530は、反応比率判定の結果、分析装置1が分析に適した状態であると判定された場合にも、「合格」「PASS」等の文字を出力部44に出力させてもよい。
【0051】
(分析方法について)
図3は、本実施形態に係る分析方法の流れを示すフローチャートである。ステップS1001において、情報処理部40は、評価用化合物に対する少なくとも一つの反応生成物の各相対応答係数を取得する。相対応答係数は入力部41や通信部42を介して取得され、記憶部43に記憶される。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。ステップS1003において、評価用化合物を含む試料を分析装置1により分析して情報処理部40が測定データを取得し、強度算出部521は、検出された評価用化合物および少なくとも一つの反応生成物のそれぞれに対応する強度を算出する。ステップS1003が終了したらステップS1005が開始される。
【0052】
ステップS1005において、比率算出部522は、ステップS1001で取得した各相対応答係数と、ステップS1003で算出された評価用化合物および少なくとも一つの反応生成物のそれぞれに対応する強度とに基づいて、反応比率を算出する。ステップS1005が終了したら、ステップS1007が開始される。ステップS1007において、判定部523は、反応比率が判定閾値に基づく条件を満たすかを判定する。反応比率が判定閾値未満の場合、判定部523はステップS1007を肯定判定しステップS1009が開始される。反応比率が判定閾値以上の場合、判定部523はステップS1007を否定判定しステップS1011が開始される。
【0053】
ステップS1009において、分析装置1は、分析対象の試料の分析を行う。この分析で得られた情報は、出力部44等から出力される。ステップS1009が終了したら、処理が終了される。
【0054】
ステップS1011において、通知部530は、分析装置1が分析に適した状態にない旨を示す通知を出力部44に出力させる。ステップS1011が終了したら、ステップS1013が開始される。ステップS1013において、装置制御部51が測定部100を制御し分析装置1の較正を行ったり、ユーザーが、分析装置1の修理や調整を行う。ステップS1013が終了したら、処理が終了される。
【0055】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態の分析装置の評価方法または分析装置1は、測定部100が、評価用化合物を含む試料を分析装置1に導入して測定を行い、評価用化合物および評価用化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物を検出することと、データ処理部52が、検出された評価用化合物の強度および少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、評価用化合物および少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、分析装置1が分析に適している状態か否かを示す情報を取得することとを備える。これにより、分析装置1が分析に適した状態にあるかについての評価を煩雑な操作を必要とせず行うことができる。
【0056】
(2)本実施形態の分析装置の評価方法において、検出された評価用化合物の強度と検出された少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度との比、および上記相対応答係数に基づいて、上記情報を取得する。これにより、導入する評価用化合物の量に依存せず、上記評価を行うことができる。また、本実施形態において、「比」とはA、Bの二者間のA:B、B:AまたはA/B、B/A等で表される関係とし、「比率」(A/B)を含むものとする。
【0057】
(3)本実施形態の分析装置の評価方法において、評価用化合物の強度および少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、上記相対応答係数とに基づいて、評価用化合物が反応生成物に変化した割合である反応比率を算出する。これにより、分析装置1が分析に適した状態にあるかについての指標を数値で表し、数値を用いた比較等を行うことができる。
【0058】
(4)本実施形態の分析装置の評価方法において、反応比率が判定閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、分析装置1が分析に適している状態か否かを示す情報を取得する。これにより、判定閾値を用いて、より客観的な上記評価を行うことができる。
【0059】
(5)本実施形態の分析装置の評価方法において、反応比率Prは、上記式(A)で表される。これにより、定量的に上記評価を行うことができる。
【0060】
(6)本実施形態の分析装置の評価方法は、少なくとも、分析装置1が分析に適している状態にない場合に、通知を出力することを備える。これにより、分析装置1についての情報をユーザーにわかりやすく伝えることができる。
【0061】
(7)本実施形態の分析装置の評価方法において、評価用化合物または反応生成物の絶対的な濃度の定量を行う必要がないか、行わない。従って、評価用化合物および反応生成物についての検量線を作成する必要が無く、行う操作の量を低減することができる。
なお、評価用化合物または反応生成物の絶対的な濃度の定量を行ってもよい。
【0062】
(8)本実施形態の分析装置の評価方法において、分析装置1は、質量分析計およびクロマトグラフの少なくとも一つを備える。これらの装置では汚れや劣化により導入した化合物が分解される場合があるため、本発明を好適に適用することができる。
【0063】
(9)本実施形態の分析装置の評価方法において、分析装置1は、ガスクロマトグラフ-質量分析計、熱分解ガスクロマトグラフ-質量分析計、ガスクロマトグラフ、液体クロマトグラフ、液体クロマトグラフ-質量分析計またはイオン付着質量分析計である。これらの装置では汚れや劣化により導入した化合物が分解される場合がより顕著に観察されるため、本発明をより好適に適用することができる。
【0064】
(10)本実施形態に係る分析装置の較正方法は、上述の分析装置の評価方法により分析装置1の評価を行うことと、この評価に基づいて分析装置1を較正することを備える。これにより、煩雑な操作を低減し、効率よく分析装置1の較正をすることができる。
【0065】
(11)本実施形態に係る分析方法は、上述の分析装置の評価方法により分析装置1を評価することと、評価された分析装置1を用いて分析を行うこととを備える。これにより、煩雑な操作を低減し、効率よく分析を行うことができる。
【0066】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位等に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
(変形例1)
上述の実施形態において、分析装置1により分析対象の試料の分析を行う際、反応比率を用いて当該分析で得られた値を補正してもよい。例えば、比率算出部522は、評価用化合物をDeca-BDEとし、反応生成物をNona-BDEとして反応比率を算出し、その後、分析対象をDeca-BDEおよびNona-BDEとして分析を行ったとする。この場合、当該分析で得られたDeca-BDEの検出量を、反応比率から示されるDeca-BDEの分解される割合に基づいて補正することができる。また、当該分析で得られたNona-BDEの検出量を、反応比率から示されるNona-BDEの生成される割合に基づいて補正することができる。
【0067】
本変形例の分析方法では、分析装置1が分析に適している状態か否かを示す情報に基づいて、分析装置1により得られた測定データを補正する。これにより、分析装置1の評価に基づいて、より正確な測定データを提供することができる。
【0068】
(変形例2)
上述の実施形態において、分析装置1について上述の実施形態の分析装置の評価方法が複数回行われた場合に、データ処理部52は、算出された反応比率の経時的変化を示すグラフに対応するデータを生成することができる。出力制御部53は、当該グラフを示す出力画像を出力部44に出力させることができる。
【0069】
図4は、反応比率の経時的変化を示すグラフの一例を示す図である。横軸にデータの取得時期を日付で示し、縦軸に反応比率を示している。横軸の時間間隔や縦軸の数値は適宜設定することができる。
【0070】
本変形例の分析装置の評価方法において、反応比率の経時的変化を示すグラフが表示される。これにより、グラフに対応する期間について、分析装置1が分析に適した状態にあるかについての情報をユーザに分かりやすく示すことができる。
【0071】
(変形例3)
分析装置1の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述したデータ処理部52の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0072】
また、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROM、DVD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。
図5はその様子を示す図である。PC950は、CD-ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0073】
上述した情報処理機能を実現するためのプログラムは、試料に含まれる複数の化合物をそれぞれ検出可能な分析装置に評価用化合物を含む試料が導入され測定が行われ、評価用化合物および評価用化合物に由来する少なくとも一つの反応生成物が検出されて得られた測定データを取得する測定データ取得処理(
図3のフローチャートにおけるステップS1003に対応)と、検出された評価用化合物の強度および少なくとも一つの反応生成物のそれぞれの強度と、評価用化合物および少なくとも一つの反応生成物のそれぞれについての相対応答係数とに基づいて、分析装置1が分析に適している状態か否かを示す情報を取得する装置情報取得処理(S1005に対応)とをコンピュータなどを含む処理装置に行わせるためのプログラムである。これにより、分析装置1が分析に適した状態にあるかについての評価を煩雑な操作を必要とせず実現することができる。
【0074】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1…分析装置、10…ガスクロマトグラフ、12…試料導入部、14…分離カラム、30…質量分析部、33…イオン化部、35…質量分離部、36…検出部、40…情報処理部、44…出力部、50…制御部、52…データ処理部、100…測定部、521…強度算出部、522…比率算出部、523…判定部、530…通知部、In…イオン。