(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】におい嗅ぎ装置
(51)【国際特許分類】
G01N 30/54 20060101AFI20220511BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20220511BHJP
G01N 30/78 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N30/54 F
G01N30/88 A
G01N30/78
(21)【出願番号】P 2021079761
(22)【出願日】2021-05-10
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2018-07-11
【審査請求日】2021-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【氏名又は名称】江口 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【氏名又は名称】岸本 雅之
(72)【発明者】
【氏名】木下 太生
(72)【発明者】
【氏名】喜多 純一
(72)【発明者】
【氏名】赤丸 久光
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌之
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-207982(JP,A)
【文献】特開2013-178155(JP,A)
【文献】米国特許第9188568(US,B2)
【文献】特開2014-134554(JP,A)
【文献】登録実用新案第3176327(JP,U)
【文献】特開2008-170333(JP,A)
【文献】喜多幸司 他,ニオイ分析総合システム その1 ニオイ嗅ぎガスクロマトグラフ質量分析計,Technical sheet,No.13007,大阪府立産業技術総合研究所,2013年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00-30/96
G01N 1/00-1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラムオーブン内に配置した分離カラムで分離された成分ガスを、検出器とカラムオーブン外に配置されたにおい嗅ぎポートへ分岐する分岐素子を有し、分岐素子とにおい嗅ぎポート間を加熱ヒータで被覆された加熱導管からなるトランスファーラインで接続したにおい嗅ぎ装置において、 前記トランスファーラインには加熱導管温度制御手段を備えるとともに、前記カラムオーブン内に温度センサーを配置し、前記温度センサーからの温度検出信号に基づき、前記加熱導管温度制御手段を介してカラムオーブン温度と前記トランスファーラインの温度を同期させるようにしたことを特徴とするにおい嗅ぎ装置。
【請求項2】
請求項1記載のにおい嗅ぎ装置において、前記トランスファーライン近傍に温度センサーを配置し、前記カラムオーブン内の前記温度センサーからの温度検出信号と前記トランスファーライン近傍に配置した前記温度センサーからの温度検出信号に基づき、前記加熱導管温度制御手段を介して前記トランスファーラインの前記加熱導管の加熱用ヒータへの給電を制御するようにしたことを特徴とするにおい嗅ぎ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、においを分析するにおい嗅ぎガスクロマトグラフィ(GC)又はにおい嗅ぎガスクロマトグラフィ質量分析計(GCMS)などのにおい嗅ぎ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
におい嗅ぎ装置とは、試料ガスをキャリアガスボンベから供給されるキャリアガスにより試料気化室などの試料導入部を経て分離カラムへ導入し、分離カラムで成分を分離した後、水素炎イオン化検出器(FID)や質量分析計(MS)などの検出器へ導かれる成分ガスの一部を分岐し、検出器による検出と同時に実際にヒトの嗅覚によりにおいを嗅ぐ機器として、食品などのキーとなる香気成分の同定、材料や環境からの異臭分析など幅広い用途で使用されている。
【0003】
におい嗅ぎ装置によりにおいの分析を行う場合、通常、ヒトの嗅覚では感じない物質も検出してしまうため、実際に分離された成分ガスがヒトの嗅覚でにおうか、におわないかを判定する必要がある。
このため検出器へ導かれる前段で分岐された成分ガスは、ヒトがにおいを嗅ぐにおい嗅ぎポートへトランスファーライン(加熱導管)によって導入され、リテンションタイムと検出器の信号から、実際にヒトがにおいを嗅いでヒトの嗅覚で感じるガス(物質)として同定することが行われる。
【0004】
通常、におい嗅ぎ装置によるにおいの分析は、におい嗅ぎ装置の操作を行う分析担当者と、におい嗅ぎポートでにおいを嗅いで官能評価を行う評価担当者によって実施される。
官能評価は、妨害となるようなにおいのない環境下で評価に集中できるように配慮する必要がある。そのためにおい嗅ぎポートの高さや配置などは、楽な姿勢で官能評価ができるよう配慮され、カラムオーブン内の分岐素子からカラムオーブン外にあるにおい嗅ぎポートまでのトランスファーラインの配管長はある程度の長さ(少なくとも1m前後)が求められる。
また、におい嗅ぎ装置の分離分析ではカラムオーブンが40℃~200℃程度の温度となるため、トランスファーラインの加熱導管は加熱用ヒータにより約200℃程度に設定して、分離カラムで分離された成分ガスがトランスファーラインの加熱導管内で吸着されたり凝縮したりすることがないようにしている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】喜多幸司・山下怜子(2013)「ニオイ分析総合システム その1 ニオイ嗅ぎガスクロマトグラフ質量分析計」(「テクニカルシート」2013年9月10日発行、No.13007、大阪府立産業技術総合研究所)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
におい嗅ぎガスクロマトグラフィ(GC)又はにおい嗅ぎガスクロマトグラフィ質量分析装置(GCMS)による分離分析では、カラムオーブン(分離カラム)の温度が、例えば40℃~200℃の範囲において10℃/分の割合で昇温されるのに対して、カラムオーブン内の分岐素子とカラムオーブン外のにおい嗅ぎポート間のトランスファーライン(加熱導管)は加熱ヒータにより約200℃程度の一定温度に固定されているが、カラムオーブン温度とトランスファーラインの温度が異なっている場合、以下の通り、いくつかの不都合が生じることがある。
【0007】
(1)昇温プログラムの比較的低い温度範囲域で分離カラムから溶出する成分ガスが高い温度のトランスファーラインで熱分解され変質する可能性がある。
(2)カラムオーブンの低い温度と高い温度の場合で相対的なトランスファーラインの成分ガス流量抵抗が変化し、分岐素子における分岐流量比に変動が生じて検出器への流量が変わり検出器での感度換算ができなくなる。
(3)分岐素子での分岐流量比がカラムオーブン温度で変わるため成分ガスの線速度も変化し、検出器とにおい嗅ぎポートへの成分ガスの到達時間にずれが生じる。あらかじめある温度で調整しておいても別の温度でずれてくることは避けられない。
本発明は、カラムオーブン温度とトランスファーラインの温度の不一致に伴う不都合を解決したにおい嗅ぎ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明のにおい嗅ぎ装置は、カラムオーブン内に配置された分離カラムで分離された成分ガスを、検出器とカラムオーブン外に配置されたにおい嗅ぎポートへ分岐する分岐素子を有し、分岐素子とにおい嗅ぎポート間を加熱ヒータで被覆された加熱導管からなるトランスファーラインで接続したにおい嗅ぎ装置であって、トランスファーラインには加熱導管温度制御手段を備えるとともに、カラムオーブン内に温度センサーを配置し、温度センサーからの温度検出信号に基づき、加熱導管温度制御手段を介してカラムオーブン温度とトランスファーラインの温度を同期させるよう
にしたものである。 カラムオーブン温度とトランスファーラインの温度を同期させる場合、広範な温度域で分岐流量比や時間ずれを微調整するため、トランスファーラインの温度はカラムオーブン温度にオフセットを与えて同期させることも可能である。
【0009】
また、請求項2記載の本発明のにおい嗅ぎ装置は、請求項1記載のにおい嗅ぎ装置であって、トランスファーライン近傍に温度センサーを配置し、カラムオーブン内の温度センサーからの温度検出信号とトランスファーライン近傍に配置した温度センサーからの温度検出信号に基づき、加熱導管温度制御手段を介してトランスファーラインの加熱導管の加熱用ヒータへの給電を制御するようにしたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のにおい嗅ぎ装置によれば、分離カラムで分離された成分ガスがトランスファーラインで熱分解により変質が起こる可能性がなく、昇温分析の場合でもにおい成分を精度よく嗅ぐことができる。
また、カラムオーブンの低い温度と高い温度の場合で相対的なトランスファーラインを流れる成分ガス流量抵抗が変化し、分岐素子における分岐流量比に変動が生じて検出器への流量が変わることがないので、検出器での感度換算も精度よく行うことが可能となる。
さらに、検出器とにおい嗅ぎポートへの成分ガスの到達時間にずれが生じることもないので、実際にヒトがにおいを嗅いでヒトの嗅覚で感じるガス(物質)としてリテンションタイムと検出器の信号から整合よく同定することができる。
すなわち、分析条件(例えば、昇温プログラム)の変更によっても分析技術者の操作を煩わせることなくトランスファーライン(加熱導管)の温度が最適に制御されるので、精度よくにおい嗅ぎ分析を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のにおい嗅ぎ装置の基本構成を示す図である。
【
図2】本発明のにおい嗅ぎ装置におけるトランスファーラインの詳細構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明のにおい嗅ぎ装置を説明する。
図1は、本発明のにおい嗅ぎ装置の基本構成を示す図である。このにおい嗅ぎガスクロマトグラフィ(GC)1では、キャリアガスボンベ(図示せず)から供給されるキャリアガスが試料気化室などの試料導入部2を経てカラムオーブン10内に配置されている分離カラム3に流れる。キャリアガスは分離カラム3から出て、主流路4を通って、例えば質量分析計などの検出器5に導入される。
分離カラム3の出口に設けられた四方分岐素子6により主流路4から分岐されたキャピラリ副流路7の末端には、におい嗅ぎポート8が設けられている。また、四方分岐素子6にはメイクアップガス供給部9に通じる流路が接続されている。メイクアップガスは四方分岐素子6の内部圧力を一定にし、検出器5が質量分析計の場合、におい嗅ぎポート8から大気を吸引しないようにする。
【0013】
におい嗅ぎポート8は、評価担当者自身の嗅覚によりにおい成分を検知するための漏斗状の器具である。評価担当者は、四方分岐素子6にて分岐され、加湿空気(図示せず)とともににおい嗅ぎポート8へ導かれ、におい嗅ぎポート8から吐出される成分ガスのにおいを嗅ぐが、加湿空気はにおい嗅ぎの途中で評価担当者の鼻腔内の粘膜が乾燥することを防止する。
【0014】
四方分岐素子6とにおい嗅ぎポート8間は、加熱ヒータ13で被覆された加熱導管からなるトランスファーライン11で接続されている。
トランスファーライン11(加熱導管)は、
図2に示す通り、キャピラリ副流路7とその周りの保護用細管12からなるが、保護用細管12の周りに加熱ヒータ13が巻かれている。加熱ヒータ13の周りは図示しないが断熱材で被覆されている。
保護用細管12の一部にはキャピラリ副流路7に近接して温度センサー14が取り付けられている。温度センサー4は熱電対などの測温体で、キャピラリ副流路7の温度を測定する。
また、カラムオーブン10内には、カラムオーブン10内の温度を測定するための温度センサー15が適宜の位置に配置されている。
【0015】
2つの温度センサー14、15は、トランスファーライン11を構成する加熱導管の加熱導管温度制御手段16に接続されており、両温度センサー14、15からの温度検出信号に基づき、加熱ヒータ13への給電を制御する。すなわち、加熱導管温度制御手段16は、カラムオーブン10内の温度にキャピラリ副流路7の温度を同期させるように制御する。
【0016】
このような構成により、試料ガスが試料導入部2から注入され分析が開始されるが、通常、カラムオーブン10内の温度があらかじめ設定されたプログラム、例えば40℃~200℃(10℃/分)に従って昇温される。
カラムオーブン10内の温度の上昇に応じて、カラムオーブン10内の温度センサー15とキャピラリ副流路7に近接して配置した温度センサー14の温度検出信号に基づき、加熱導管温度制御手段16を介してカラムオーブン10内の温度に加熱導管(トランスファーライン)の温度が同期するように加熱ヒータ13への給電を加減する。この場合、加熱導管温度制御手段16によりカラムオーブン10内の温度に合わせて加熱導管の温度を昇温できるよう、加熱導管の昇温速度が求められる。実用的には、1℃~40℃/分に対応できることが望ましい。
【0017】
トランスファーライン11の温度は、カラムオーブン10内の温度に対してオフセットを与えてもよい。このようにすることにより、広い温度領域でカラムオーブン10内の温度に応じて変動する四方分岐素子6における分岐流量比や時間ずれを微調整することができる。
なお、17はカラムオーブン外壁である。
【符号の説明】
【0018】
1 ・・・におい嗅ぎ装置
2 ・・・試料導入部
3 ・・・分離カラム
4 ・・・主流路
5 ・・・検出器
6 ・・・四方分岐素子
7 ・・・キャピラリ副流路
8 ・・・におい嗅ぎポート
9 ・・・メイクアップガス供給部
10 ・・・カラムオーブン
11 ・・・トランスファーライン(加熱導管)
12 ・・・保護用細管
13 ・・・加熱ヒータ
14、15 ・・・温度センサー
16 ・・・加熱導管温度制御手段