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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】イオンサプレッサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/02 20060101AFI20220511BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N30/02 E
G01N30/88 H
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021508556
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2019013389
(87)【国際公開番号】W WO2020194609
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】坂本 勝正
(72)【発明者】
【氏名】藤原 理悟
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/43721(WO,A1)
【文献】特開昭55-99308(JP,A)
【文献】特開2013-195301(JP,A)
【文献】国際公開第19/21352(WO,A1)
【文献】特開平06-50951(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 - 30/96
B01J 20/281- 20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンクロマトグラフの分離カラムからの溶離液と電極液との間でイオン交換を行うイオンサプレッサであって、
第1および第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置される第1および第2の電極液シール部材と、
前記第1の電極液シール部材と前記第2の電極液シール部材との間に配置される第1および第2のイオン交換膜と、
前記第1のイオン交換膜と前記第2のイオン交換膜との間に配置され、溶離液を通過させるための溶離液流路を有する溶離液シール部材とを備え、
前記第1の電極液シール部材は、電極液を通過させるための第1の電極液流路を有し、
前記第2の電極液シール部材は、電極液を通過させるための第2の電極液流路を有し、
前記第1の電極液シール部材の前記第1の電極液流路内には、電荷量が異なる複数の第1のメッシュ部材が積層され、
前記複数の第1のメッシュ部材の各々は、複数の第1の線材からなる第1の線材群と、前記第1の線材群に交差する複数の第2の線材からなる第2の線材群とにより構成され、
前記複数の第1のメッシュ部材の複数の第1の線材群はそれぞれ異なる方向に延び、前記複数の第1のメッシュ部材の複数の第2の線材群はそれぞれ異なる方向に延びかつ前記複数の第1の線材群と異なる方向に延びる、イオンサプレッサ。
【請求項2】
前記複数の第1のメッシュ部材の前記複数の第1の線材群は、5度以上85度以下の角度で互いに交差し、
前記複数の第1のメッシュ部材の前記複数の第2の線材群は、5度以上85度以下の角度で互いに交差する、請求項1記載のイオンサプレッサ。
【請求項3】
前記複数の第1のメッシュ部材は、電荷量が小さい第1のメッシュ部材ほど前記溶離液流路に近い位置に配置された状態で積層される、請求項1または2記載のイオンサプレッサ。
【請求項4】
前記第2の電極液シール部材の前記第2の電極液流路内には、電荷量が異なる複数の第2のメッシュ部材が積層され、
前記複数の第2のメッシュ部材の各々は、複数の第3の線材からなる第3の線材群と、前記第3の線材群に交差する複数の第4の線材からなる第4の線材群とにより構成され、
前記複数の第2のメッシュ部材の複数の第3の線材群はそれぞれ異なる方向に延び、前記複数の第2のメッシュ部材の複数の第4の線材群はそれぞれ異なる方向に延びかつ前記複数の第3の線材群と異なる方向に延びる、請求項1または2記載のイオンサプレッサ。
【請求項5】
前記複数の第2のメッシュ部材の前記複数の第3の線材群は、5度以上85度以下の角度で互いに交差し、
前記複数の第2のメッシュ部材の前記複数の第4の線材群は、5度以上85度以下の角度で互いに交差する、請求項4記載のイオンサプレッサ。
【請求項6】
前記複数の第2のメッシュ部材は、電荷量が小さい第2のメッシュ部材ほど前記溶離液流路に近い位置に配置された状態で積層される、請求項4記載のイオンサプレッサ。
【請求項7】
前記第1の電極は、正の電圧が印加される陽極であり、
前記第2の電極は、負の電圧が印加される陰極であり、
前記第2の電極液シール部材の前記第2の電極液流路内には、1または複数の第2のメッシュ部材が配置または積層され、
前記第1の電極液流路内に積層される第1のメッシュ部材の数は、前記第2の電極液流路内に配置または積層される第2のメッシュ部材の数よりも多い、請求項1または2記載のイオンサプレッサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンサプレッサに関する。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフにおいては、分析対象の試料が溶離液とともに分離カラムに導入される。試料は、分離カラムを通過することによりイオン種成分ごとに分離され、溶離液とともに検出器のフローセルに導入される。フローセルに導入された試料の電気伝導度が順次検出されることによりクロマトグラムが生成される。分離カラムと検出器との間には、イオンサプレッサが配置されることがある。
【0003】
特許文献1に記載されたイオンサプレッサにおいては、第一再生液流路支持体と第二再生液流路支持体との間に一対のイオン交換膜が配置され、一対のイオン交換膜の間に溶離液流路支持体が配置される。溶離液流路支持体、第一再生液流路支持体および第二再生液流路支持体には、溶離液流路、第一再生液流路および第二再生液流路がそれぞれ形成される。溶離液流路、第一再生液流路および第二再生液流路の各々には、固有の電荷量を有するメッシュ材が充填される。
【0004】
分離カラムからの溶離液は、溶離液流路に導入された後、電気伝導計に到達する。電気伝導計を通過した溶離液は、再生液として第一再生液流路および第二再生液流路にそれぞれ導入される。溶離液流路の溶離液と、第一再生液流路および第二再生液流路との間で電気透析によるイオン交換が行われることにより、溶離液の電気伝導率が低下する。これにより、クロマトグラムのバックグラウンドが減少し、試料の分析精度が向上する。
【文献】国際公開第2019/21352号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、第一再生液流路または第二再生液流路に電荷量が異なる複数のメッシュ材を積層して配置することが記載されている。また、この構成により、電気透析における電流効率を向上させつつ、当該再生液流路と溶離液流路との間のイオン交換膜の劣化を抑制し、イオンサプレッサを長寿命化することができることが記載されている。しかしながら、複数のメッシュ材を積層すると、メッシュ材に目詰まりが発生しやすくなるので、メッシュ材の耐久性が低下し、メッシュ材の劣化が促進されることがある。この場合、イオンサプレッサを長寿命化することが困難になる。
【0006】
本発明の目的は、容易に長寿命化することが可能なイオンサプレッサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に従う態様は、イオンクロマトグラフの分離カラムからの溶離液と電極液との間でイオン交換を行うイオンサプレッサであって、第1および第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置される第1および第2の電極液シール部材と、前記第1の電極液シール部材と前記第2の電極液シール部材との間に配置される第1および第2のイオン交換膜と、前記第1のイオン交換膜と前記第2のイオン交換膜との間に配置され、溶離液を通過させるための溶離液流路を有する溶離液シール部材とを備え、前記第1の電極液シール部材は、電極液を通過させるための第1の電極液流路を有し、前記第2の電極液シール部材は、電極液を通過させるための第2の電極液流路を有し、前記第1の電極液シール部材の前記第1の電極液流路内には、電荷量が異なる複数の第1のメッシュ部材が積層され、前記複数の第1のメッシュ部材の各々は、複数の第1の線材からなる第1の線材群と、前記第1の線材群に交差する複数の第2の線材からなる第2の線材群とにより構成され、前記複数の第1のメッシュ部材の複数の第1の線材群はそれぞれ異なる方向に延び、前記複数の第1のメッシュ部材の複数の第2の線材群はそれぞれ異なる方向に延びかつ前記複数の第1の線材群と異なる方向に延びる、イオンサプレッサに関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イオンサプレッサを容易に長寿命化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は本発明の一実施の形態に係るイオンサプレッサを備えるイオンクロマトグラフの構成を示す図である。
図2図2図1のイオンサプレッサの構成を示す分解斜視図である。
図3図3図2の一方の電極液シール部材の平面図である。
図4図4図3の電極液シール部材のA-A線断面図である。
図5図5はメッシュ部材の配置を説明するための図である。
図6図6図2の他方の電極液シール部材の平面図である。
図7図7は参考例におけるメッシュ部材の配置を説明するための図である。
図8図8図2のイオンサプレッサの動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)イオンクロマトグラフの構成
以下、本発明の実施の形態に係るイオンサプレッサについて図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の一実施の形態に係るイオンサプレッサを備えるイオンクロマトグラフの構成を示す図である。図1に示すように、イオンクロマトグラフ200は、イオンサプレッサ100、溶離液供給部110、試料供給部120、分離カラム130、検出器140および処理部150を備える。
【0011】
溶離液供給部110は、例えば薬液ボトル、送液ポンプおよび脱気装置を含み、水溶液等の溶離液を移動相として供給する。試料供給部120は、例えばインジェクタであり、分析対象の試料を溶離液供給部110により供給された溶離液とともに分離カラム130に導入する。分離カラム130は、図示しないカラム恒温槽の内部に収容され、所定の一定温度に調整される。分離カラム130は、導入された試料をイオン種成分ごとに分離する。
【0012】
検出器140は、電気伝導度検出器であり、イオンサプレッサ100を通過した分離カラム130からの試料および溶離液の電気伝導度を順次検出する。処理部150は、検出器140による検出結果を処理することにより、各イオン種成分の保持時間と電気伝導度との関係を示すクロマトグラムを生成する。
【0013】
イオンサプレッサ100は、溶離液流路1および電極液流路2,3を有し、分離カラム130と検出器140との間に配置される。分離カラム130を通過した試料および溶離液は、溶離液流路1を通して検出器140に導かれる。また、検出器140を通過した溶離液は、電極液として電極液流路2,3を通過した後、廃棄される。イオンサプレッサ100においては、電気透析によるイオン交換が行われることにより、溶離液流路1を通過した溶離液の電気伝導度が低減される。イオンサプレッサ100の詳細は後述する。
【0014】
(2)イオンサプレッサの構成
図2は、図1のイオンサプレッサ100の構成を示す分解斜視図である。図2に示すように、イオンサプレッサ100は、溶離液シール部材10、一対のイオン交換膜20,30、一対の電極液シール部材40,50、一対の電極60,70および一対の支持部材80,90を含む。溶離液シール部材10、イオン交換膜20,30、電極液シール部材40,50、電極60,70および支持部材80,90の各々は、一方向(以下、流路方向と呼ぶ。)に延びる長尺形状を有する。
【0015】
溶離液シール部材10は、貫通孔11,12および開口部13を有する。貫通孔11,12は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。開口部13は、流路方向に延びるように貫通孔11と貫通孔12との間に配置される。開口部13内の空間が溶離液流路1となる。本実施の形態においては、溶離液流路1にメッシュ部材14が設けられる。
【0016】
イオン交換膜20,30は、測定対象イオンが陰イオンである場合には陽イオン交換膜であり、測定対象イオンが陽イオンである場合には陰イオン交換膜である。イオン交換膜20は、貫通孔21~24を有する。貫通孔21,23は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔22,24は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。イオン交換膜30は、貫通孔31,32を有する。貫通孔31,32は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。
【0017】
電極液シール部材40は、貫通孔41~44および開口部45を有する。貫通孔41,43は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔42,44は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。開口部45は、流路方向に延びるように貫通孔43と貫通孔44との間に配置される。開口部45内の空間が電極液流路2となる。電極液流路2には、互いに異なる電荷量を有するメッシュ部材46,47が設けられる。
【0018】
電極液シール部材50は、貫通孔51,52および開口部53を有する。貫通孔51,52は、流路方向における一端部および他端部にそれぞれ配置される。開口部53は、流路方向に延びるように貫通孔51と貫通孔52との間に配置される。開口部53内の空間が電極液流路3となる。電極液流路3に、互いに異なる電荷量を有するメッシュ部材54,55が設けられる。電極液シール部材40,50の詳細については後述する。
【0019】
電極60は、例えば陽極であり、貫通孔61~66を有する。貫通孔61,63,65は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔62,64,66は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。電極70は、例えば陰極であり、貫通孔71~74を有する。貫通孔71,73は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔72,74は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0020】
支持部材80は、例えば樹脂材料により形成され、貫通孔81~86を有する。貫通孔81,83,85は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔82,84,86は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。支持部材90は、支持部材80と同様の材料により形成され、貫通孔91~94を有する。貫通孔91,93は、流路方向における一端部において、一端部から他端部に向かってこの順で配置される。貫通孔92,94は、流路方向における他端部において、他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0021】
上方から下方に向かって、支持部材80、電極60、電極液シール部材40、イオン交換膜20、溶離液シール部材10、イオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90がこの順で上下方向に積層される。この場合、イオンサプレッサ100の一端部において、貫通孔81,61,41,21,11,31,51,71,91が重なる。イオンサプレッサ100の他端部において、貫通孔82,62,42,22,12,32,52,72,92が重なる。
【0022】
また、溶離液流路1と電極液流路2とがイオン交換膜20を挟んで対向し、溶離液流路1と電極液流路3とがイオン交換膜30を挟んで対向する。貫通孔83,63,43,23および溶離液流路1の一端部が重なり、貫通孔84,64,44,24および溶離液流路1の他端部が重なる。貫通孔85,65および電極液流路2の一端部が重なり、貫通孔86,66および電極液流路2の他端部が重なる。貫通孔93,73および電極液流路3の一端部が重なり、貫通孔94,74および電極液流路3の他端部が重なる。
【0023】
ここで、上方から下方にねじ部材101が貫通孔81,61,41,21,11,31,51,71,91に挿通され、上方から下方にねじ部材102が貫通孔82,62,42,22,12,32,52,72,92に挿通される。ねじ部材101,102の下端部には、ナット103,104がそれぞれ取り付けられる。これにより、溶離液シール部材10、イオン交換膜20,30、電極液シール部材40,50および電極60,70が支持部材80,90により一体的に支持された状態でイオンサプレッサ100が組み立てられる。
【0024】
(3)電極液シール部材
図3は、図2の一方の電極液シール部材40の平面図である。図4は、図3の電極液シール部材40のA-A線断面図である。また、図3には、電極液シール部材40の一部の拡大図が示されている。図3に示すように、電極液シール部材40は、樹脂材料またはゴム材料により形成され、流路方向に延びる矩形状を有する。
【0025】
上記のように、電極液シール部材40の流路方向における一端部には、貫通孔41,43が形成される。電極液シール部材40の流路方向における他端部には、貫通孔42,44が形成される。貫通孔41,43は一端部から他端部に向かってこの順で配置され、貫通孔41,43は他端部から一端部に向かってこの順で配置される。
【0026】
貫通孔43と貫通孔44との間には、流路方向に延びるように開口部45が形成される。本実施の形態においては、流路方向における中央部近傍の開口部45の幅は、一端部および他端部近傍の開口部45の幅よりも大きい。開口部45の空間が電極液流路2となる。図4に示すように、開口部45内の空間にメッシュ部材46およびメッシュ部材47が積層された状態で設けられる。メッシュ部材46の電荷量は、メッシュ部材47の電荷量よりも大きい。
【0027】
図3の左の拡大部分に示すように、メッシュ部材46は、互いに交差する線材群46A,46Bにより構成される。線材群46Aは第1の方向D1に平行に延びる複数の線材46aを含み、線材群46Bは第2の方向D2に平行に延びる複数の線材46bを含む。複数の線材46aと複数の線材46bとにより取り囲まれた領域の各々が孔部46cとなる。本実施の形態では、第1の方向D1と第2の方向D2とは90度で交差し、各孔部46cは正方形状を有するが、実施の形態はこれに限定されない。各孔部46cは長方形状を有してもよいし、第1の方向D1と第2の方向D2とは90度以外の角度で交差してもよい。
【0028】
図3の右の拡大部分に示すように、メッシュ部材47は、互いに交差する線材群47A,47Bにより構成される。線材群47Aは、第3の方向D3に平行に延びる複数の線材47aを含み、線材群47Bは第4の方向D4に平行に延びる複数の線材47bを含む。複数の線材47aと複数の線材47bとにより取り囲まれた領域の各々が孔部47cとなる。本実施の形態では、第3の方向D3と第4の方向D4とは90度で交差し、各孔部47cは正方形状を有するが、実施の形態はこれに限定されない。各孔部47cは長方形状を有してもよいし、第3の方向D3と第4の方向D4とは90度以外の角度で交差してもよい。
【0029】
図5は、メッシュ部材46,47の配置を説明するための図である。図5の上段の図においては、メッシュ部材46の視認を容易にするために、メッシュ部材47の図示が省略されている。図5の中段の図においては、メッシュ部材47の視認を容易にするために、メッシュ部材46の図示が省略されている。図5の下段の図においては、メッシュ部材46,47の両方が図示されている。
【0030】
図5の上段および中段に示すように、メッシュ部材46,47は、第1の方向D1と第3および第4の方向D3,D4とが交差し、かつ第2の方向D2と第3および第4の方向D3,D4とが交差するように積層される。第1の方向D1と第3および第4の方向D3,D4との交差角度は、例えば5度以上85度以下である。同様に、第2の方向D2と第3および第4の方向D3,D4との交差角度は、例えば5度以上85度以下である。
【0031】
上記のメッシュ部材46,47の配置によれば、線材群46A,46B,47A,47Bは、それぞれ異なる方向に延びる。この場合、図5の下段に示すように、一方のメッシュ部材の孔部が他方のメッシュ部材の線材により塞がれることが抑制される。そのため、メッシュ部材46とメッシュ部材47とを精密に位置合わせして積層する必要がない。これにより、メッシュ部材46,47に目詰まりが発生することを容易に防止することができる。
【0032】
なお、本実施の形態では、各々が開口部を有する2枚の基材(電極液シール部材40の前駆体)が準備され、これらの基材がメッシュ部材46,47を挟んだ状態で加熱および押圧される。これにより、電極液シール部材40が製造されるとともに、開口部45内にメッシュ部材46,47が配置される。この製造方法においては、メッシュ部材46,47の一部が2枚の基材の間に残存してもよい。メッシュ部材46,47の配置方法は実施の形態に限定されない。例えば、電極液シール部材40が製造された後に、開口部45の形状に加工されたメッシュ部材46,47が開口部45の内壁に接合されてもよい。
【0033】
他方の電極液シール部材50は、一方の電極液シール部材40と同様の構成を有するので、電極液シール部材50については詳細な説明を省略し、簡単に説明する。図6は、図2の他方の電極液シール部材50の平面図である。また、図6には、電極液シール部材50の一部の拡大図が示されている。図6に示すように、電極液シール部材50は、電極液シール部材40と同様の材料および形状を有する。
【0034】
上記のように、電極液シール部材50の流路方向における一端部および他端部には、貫通孔51,52がそれぞれ形成される。貫通孔51と貫通孔52との間には、開口部53が形成される。開口部53の形状は、電極液シール部材40の開口部45の形状と同様である。開口部53の空間が電極液流路3となる。開口部53内の空間にメッシュ部材54およびメッシュ部材55が積層された状態で設けられる。メッシュ部材54の電荷量は、メッシュ部材55の電荷量よりも大きい。
【0035】
図6の左の拡大部分に示すように、メッシュ部材54は、互いに交差する線材群54A,54Bにより構成される。線材群54Aは第5の方向D5に平行に延びる複数の線材54aを含み、線材群54Bは第6の方向D6に平行に延びる複数の線材54bを含む。複数の線材54aと複数の線材54bとにより取り囲まれた領域の各々が孔部54cとなる。
【0036】
図6の右の拡大部分に示すように、メッシュ部材55は、互いに交差する線材群55A,55Bにより構成される。線材群55Aは、第7の方向D7に平行に延びる複数の線材55aを含み、線材群55Bは第8の方向D8に平行に延びる複数の線材55bを含む。複数の線材55aと複数の線材55bとにより取り囲まれた領域の各々が孔部55cとなる。
【0037】
メッシュ部材54,55は、第5の方向D5と第7および第8の方向D7,D8とが交差し、かつ第6の方向D6と第7および第8の方向D7,D8とが交差するように積層される。第5の方向D5と第7および第8の方向D7,D8との交差角度は、例えば5度以上85度以下である。同様に、第6の方向D6と第7および第8の方向D7,D8との交差角度は、例えば5度以上85度以下である。
【0038】
上記の配置によれば、線材群54A,54B,55A,55Bはそれぞれ異なる方向に延びる。この場合、一方のメッシュ部材の孔部が他方のメッシュ部材の線材により塞がれることが抑制される。そのため、メッシュ部材54とメッシュ部材55とを精密に位置合わせして積層する必要がない。これにより、メッシュ部材54,55に目詰まりが発生することを容易に防止することができる。
【0039】
(4)参考例
図7は、参考例におけるメッシュ部材46,47の配置を説明するための図である。図7の上段の図においては、メッシュ部材46の視認を容易にするために、メッシュ部材47の図示が省略されている。図7の中段の図においては、メッシュ部材47の視認を容易にするために、メッシュ部材46の図示が省略されている。図7の下段の図においては、メッシュ部材46,47の両方が図示されている。
【0040】
図7の上段および中段に示すように、参考例においては、メッシュ部材46,47は、第1の方向D1と第3の方向D3とが平行となり、かつ第2の方向D2と第4の方向D4とが平行となるように積層される。この場合、メッシュ部材46とメッシュ部材47とを精密に位置合わせしない限り、図7の下段に示すように、一方のメッシュ部材の孔部の大部分が他方のメッシュ部材の線材により塞がれる。そのため、メッシュ部材46,47に目詰まりが発生しやすくなる。
【0041】
(5)イオンサプレッサの動作
図8は、図2のイオンサプレッサ100の動作を説明するための図である。図1の分離カラム130を通過した試料を含む溶離液は、図8のイオンサプレッサ100の一端部から貫通孔83,63,43,23を通して溶離液流路1に導かれた後、他端部に向かって溶離液流路1を流れる。その後、溶離液は、イオンサプレッサ100の他端部から貫通孔24,44,64,84を通して図1の検出器140に導かれる。上記のように、検出器140においては、試料および溶離液の電気伝導度が順次検出される。
【0042】
検出器140を通過した溶離液は、電極液として2つに分岐される。一方の電極液は、イオンサプレッサ100の他端部から貫通孔86,66を通して電極液流路2に導かれた後、一端部に向かって電極液流路2を流れる。その後、一方の電極液は、イオンサプレッサ100の一端部から貫通孔65,85を通して外部に排出される。他方の電極液は、イオンサプレッサ100の他端部から貫通孔94,74を通して電極液流路3に導かれた後、一端部に向かって電極液流路3を流れる。その後、他方の電極液は、イオンサプレッサ100の他端部から貫通孔73,93を通して外部に排出される。
【0043】
電極60に正の電圧が印加され、電極70に負の電圧が印加される。この場合、水の電気分解により、電極液流路2において水素イオンおよび酸素分子が生成され、電極液流路3において水酸化物イオンおよび水素分子が生成する。電極液流路2で生成された水素イオンは、イオン交換膜20を透過して溶離液流路1に移動し、溶離液流路1において溶離液中のナトリウムイオンまたはカリウムイオン等の陽イオンと置換される。水素イオンと置換された陽イオンは、イオン交換膜30を透過して電極液流路3に移動し、電極液流路3において水酸化物イオンと結合した後、電極液とともに排出される。
【0044】
上記の動作によれば、溶離液流路1を移動する溶離液と、電極液流路2,3を移動する電極液との間でイオン交換が行われることにより、溶離液流路1を通過した溶離液の電気伝導度が低減される。これにより、図1の処理部150により生成されるクロマトグラムのバックグラウンドが減少する。その結果、試料の分析精度を向上させることができる。
【0045】
また、本実施の形態においては、より大きい電荷量を有するメッシュ部材46がメッシュ部材47よりも電極60に近い側に配置され、より大きい電荷量を有するメッシュ部材54がメッシュ部材55よりも電極70に近い側に配置される。これにより、イオンサプレッサ100の積層方向(上下方向)について、好適な電荷量分布が形成される。具体的には、電極60,70付近の電荷量が高くなり、溶離液流路1付近の電荷量が低くなる。
【0046】
この配置によれば、電極60,70付近で酸化還元反応が効率よく促進される。そのため、イオンを濃度のムラがない状態で生成することができる。一方、電極液流路2を流れる電極液と溶離液流路1を流れる溶離液との間、および溶離液流路1を流れる溶離液と電極液流路3を流れる電極液との間のイオンの伝導の抵抗が大きくなる。この場合、過剰な電流が流れることが防止されることにより、電極液流路2,3において局所的に気泡が発生することが抑制される。その結果、イオン交換膜20,30の局所的な劣化が抑制され、イオンサプレッサ100がより長寿命化される。
【0047】
(6)効果
本実施の形態に係るイオンサプレッサ100においては、電極液シール部材40,50が、電極60と電極70との間に配置される。イオン交換膜20,30が、電極液シール部材40と電極液シール部材50との間に配置される。溶離液シール部材10が、イオン交換膜20とイオン交換膜30との間に配置される。電極液シール部材40の電極液流路2内には、電荷量が異なる複数のメッシュ部材46,47が積層される。電極液シール部材50の電極液流路3には、電荷量が異なる複数のメッシュ部材54,55が積層される。
【0048】
メッシュ部材46は、複数の線材46aからなる線材群46Aと、線材群46Aに交差する複数の線材46bからなる線材群46Bとにより構成される。メッシュ部材47は、複数の線材47aからなる線材群47Aと、線材群47Aに交差する複数の線材47bからなる線材群47Bとにより構成される。線材群46A,46B,47A,47Bはそれぞれ異なる方向に延びる。
【0049】
この構成によれば、複数のメッシュ部材46,47が積層された場合でも、メッシュ部材46,47のうち一方のメッシュ部材の孔部が他方のメッシュ部材の線材群により塞がれることが抑制される。この場合、メッシュ部材46,47を精密に位置合わせして積層する必要がないので、各メッシュ部材46,47に目詰まりが発生することを容易に防止することができる。また、各メッシュ部材46,47に過剰な圧力が加わらないので、各メッシュ部材46,47の耐久性が向上し、各メッシュ部材46,47が劣化しにくくなる。
【0050】
同様に、メッシュ部材54は、複数の線材54aからなる線材群54Aと、線材群54Aに交差する複数の線材54bからなる線材群54Bとにより構成される。メッシュ部材55は、複数の線材55aからなる線材群55Aと、線材群55Aに交差する複数の線材55bからなる線材群55Bとにより構成される。線材群54A,54B,55A,55Bはそれぞれ異なる方向に延びる。
【0051】
この構成によれば、複数のメッシュ部材54,55が積層された場合でも、メッシュ部材54,55のうち一方のメッシュ部材の孔部が他方のメッシュ部材の線材群により塞がれることが抑制される。この場合、メッシュ部材54,55を精密に位置合わせして積層する必要がないので、各メッシュ部材54,55に目詰まりが発生することを容易に防止することができる。また、各メッシュ部材54,55に過剰な圧力が加わらないので、各メッシュ部材54,55の耐久性が向上し、各メッシュ部材54,55が劣化しにくくなる。これらの結果、イオンサプレッサ100を容易に長寿命化することができる。
【0052】
(7)他の実施の形態
(a)上記実施の形態において、電極液シール部材40の電極液流路2内に2枚のメッシュ部材46,47が積層されるが、実施の形態はこれに限定されない。電極液流路2内に3枚以上のメッシュ部材が積層されてもよい。この場合、電極液流路2内において、複数のメッシュ部材の複数の線材がそれぞれ異なる方向に延びるように複数のメッシュ部材が積層される。
【0053】
同様に、上記実施の形態において、電極液シール部材50の電極液流路3内に2枚のメッシュ部材54,55が積層されるが、実施の形態はこれに限定されない。電極液流路3内に3枚以上のメッシュ部材が積層されてもよい。この場合、電極液流路3内において、複数のメッシュ部材の複数の線材がそれぞれ異なる方向に延びるように複数のメッシュ部材が積層される。
【0054】
また、電極液流路2内に積層されるメッシュ部材の枚数と、電極液流路3内に積層されるメッシュ部材の枚数とは、同じでもよいし、異なってもよい。さらに、電極液流路2,3内のいずれか一方に複数のメッシュ部材が積層され、電極液流路2,3内の他方に1枚のメッシュ部材が配置されてもよい。
【0055】
ここで、陰極側流路である電極液流路3における水素分子の生成量は、陽極側流路である電極液流路2における酸素分子の生成量の約2倍である。すなわち、電極液流路3においては、電極液流路2よりも多量のガス(気泡)が発生する。本発明者らは、種々の実験および考察を行った結果、このような多量の気泡が電極液流路3において電極液を逆流させる場合には、透析効率が低下する可能性があるという知見を得た。
【0056】
そこで、電極液流路2内に積層されるメッシュ部材の枚数を電極液流路3内に配置または積層されるメッシュ部材の枚数よりも多くしてもよい。この場合、電極液流路3における流路抵抗が電極液流路2における流路抵抗よりも小さくなるので、電極液流路3に電極液流路2よりも多い量の電極液を供給することが容易になる。そのため、電極液流路3において多量の気泡が発生した場合でも、電極液が逆流することが抑制される。これにより、電極液流路3における電極液の逆流による透析効率の低下を防止することができる。
【0057】
(b)上記実施の形態において、溶離液流路1に溶離液を導入するための貫通孔24,44,64,84がイオン交換膜20、電極液シール部材40、電極60および支持部材80にそれぞれ形成されるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液流路1に溶離液を導入するための複数の貫通孔がイオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90にそれぞれ形成されてもよい。
【0058】
同様に、上記実施の形態において、溶離液流路1から溶離液を排出するための貫通孔23,43,63,83がイオン交換膜20、電極液シール部材40、電極60および支持部材80にそれぞれ形成されるが、実施の形態はこれに限定されない。溶離液流路1から溶離液を排出するための複数の貫通孔がイオン交換膜30、電極液シール部材50、電極70および支持部材90にそれぞれ形成されてもよい。
【0059】
(c)上記実施の形態において、検出器140から排出される溶離液が電極液として電極液流路2,3に供給されるが、実施の形態はこれに限定されない。別途準備された溶離液が電極液として電極液流路2,3に供給されてもよい。
【0060】
(d)上記実施の形態において、2つのねじ部材101,102によりイオンサプレッサ100の一端部および他端部が固定されるが、実施の形態はこれに限定されない。例えば4つのねじ部材によりイオンサプレッサ100の四隅の近傍が固定されてもよい。また、支持部材90の貫通孔91,92がねじ孔である場合には、ねじ部材101,102にナット103,104が取り付けられなくてもよい。
【0061】
(8)態様
(第1項)一態様に係るイオンサプレッサは、
イオンクロマトグラフの分離カラムからの溶離液と電極液との間でイオン交換を行うイオンサプレッサであって、
第1および第2の電極と、
前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置される第1および第2の電極液シール部材と、
前記第1の電極液シール部材と前記第2の電極液シール部材との間に配置される第1および第2のイオン交換膜と、
前記第1のイオン交換膜と前記第2のイオン交換膜との間に配置され、溶離液を通過させるための溶離液流路を有する溶離液シール部材とを備え、
前記第1の電極液シール部材は、電極液を通過させるための第1の電極液流路を有し、
前記第2の電極液シール部材は、電極液を通過させるための第2の電極液流路を有し、
前記第1の電極液シール部材の前記第1の電極液流路内には、電荷量が異なる複数の第1のメッシュ部材が積層され、
前記複数の第1のメッシュ部材の各々は、複数の第1の線材からなる第1の線材群と、前記第1の線材群に交差する複数の第2の線材からなる第2の線材群とにより構成され、
前記複数の第1のメッシュ部材の複数の第1の線材群はそれぞれ異なる方向に延び、前記複数の第1のメッシュ部材の複数の第2の線材群はそれぞれ異なる方向に延びかつ前記複数の第1の線材群と異なる方向に延びてもよい。
【0062】
このイオンサプレッサにおいては、第1および第2の電極液シール部材が、第1の電極と第2の電極との間に配置される。第1および第2のイオン交換膜が、第1の電極液シール部材と第2の電極液シール部材との間に配置される。溶離液シール部材が、第1のイオン交換膜と第2のイオン交換膜との間に配置される。第1の電極液シール部材の第1の電極液流路内には、電荷量が異なる複数の第1のメッシュ部材が積層される。
【0063】
複数の第1のメッシュ部材の各々は、複数の第1の線材からなる第1の線材群と、第1の線材群に交差する複数の第2の線材からなる第2の線材群とにより構成される。複数の第1のメッシュ部材の複数の第1の線材群はそれぞれ異なる方向に延び、複数の第1のメッシュ部材の複数の第2の線材群はそれぞれ異なる方向に延びかつ複数の第1の線材群と異なる方向に延びる。
【0064】
この構成によれば、複数の第1のメッシュ部材が積層された場合でも、いずれかの第1のメッシュ部材の目(第1および第2の線材群により形成される孔部)が他の第1のメッシュ部材の第1または第2の線材群により塞がれることが抑制される。この場合、複数の第1のメッシュ部材を精密に位置合わせして積層する必要がないので、各第1のメッシュ部材に目詰まりが発生することを容易に防止することができる。また、各第1のメッシュ部材に過剰な圧力が加わらないので、各第1のメッシュ部材の耐久性が向上し、各第1のメッシュ部材が劣化しにくくなる。その結果、イオンサプレッサを容易に長寿命化することができる。
【0065】
(第2項)第1項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記複数の第1のメッシュ部材の前記複数の第1の線材群は、5度以上85度以下の角度で互いに交差し、
前記複数の第1のメッシュ部材の前記複数の第2の線材群は、5度以上85度以下の角度で互いに交差してもよい。
【0066】
この場合、いずれかの第1のメッシュ部材の目が他の第1のメッシュ部材の第1または第2の線材群により塞がれることをより容易に抑制することができる。
【0067】
(第3項)第1または2項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記複数の第1のメッシュ部材は、電荷量が小さい第1のメッシュ部材ほど前記溶離液流路に近い位置に配置された状態で積層されてもよい。
【0068】
この場合、第1および第2の電極のうち一方の電極付近の電荷量が高くなるので、当該電極付近で酸化還元反応が効率よく促進される。そのため、イオンを濃度のムラがない状態で生成することができる。
【0069】
一方、溶離液流路付近の電荷量が低くなるので、第1の電極液流路を流れる電極液と溶離液流路を流れる溶離液との間のイオンの伝導の抵抗が大きくなる。この場合、過剰な電流が流れることが防止されることにより、第1の電極液流路において局所的に気泡が発生することが抑制される。これにより、一方のイオン交換膜の局所的な劣化が抑制される。その結果、イオンサプレッサを長寿命化することができる。
【0070】
(第4項)第1または2項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記第2の電極液シール部材の前記第2の電極液流路内には、電荷量が異なる複数の第2のメッシュ部材が積層され、
前記複数の第2のメッシュ部材の各々は、複数の第3の線材からなる第3の線材群と、前記第3の線材群に交差する複数の第4の線材からなる第4の線材群とにより構成され、
前記複数の第2のメッシュ部材の複数の第3の線材群はそれぞれ異なる方向に延び、前記複数の第2のメッシュ部材の複数の第4の線材群はそれぞれ異なる方向に延びかつ前記複数の第3の線材群と異なる方向に延びてもよい。
【0071】
この構成によれば、複数の第2のメッシュ部材が積層された場合でも、いずれかの第2のメッシュ部材の目(第3および第4の線材群により形成される孔部)が他の第2のメッシュ部材の第3または第4の線材群により塞がれることが抑制される。この場合、複数の第2のメッシュ部材を精密に位置合わせして積層する必要がないので、各第2のメッシュ部材に目詰まりが発生することを容易に防止することができる。また、各第2のメッシュ部材に過剰な圧力が加わらないので、各第2のメッシュ部材の耐久性が向上し、各第2のメッシュ部材が劣化しにくくなる。その結果、イオンサプレッサを容易により長寿命化することができる。
【0072】
(第5項)第4項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記複数の第2のメッシュ部材の前記複数の第3の線材群は、5度以上85度以下の角度で互いに交差し、
前記複数の第2のメッシュ部材の前記複数の第4の線材群は、5度以上85度以下の角度で互いに交差してもよい。
【0073】
この場合、いずれかの第2のメッシュ部材の目が他の第2のメッシュ部材の第3または第4の線材群により塞がれることをより容易に抑制することができる。
【0074】
(第6項)第4項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記複数の第2のメッシュ部材は、電荷量が小さい第2のメッシュ部材ほど前記溶離液流路に近い位置に配置された状態で積層されてもよい。
【0075】
この場合、第1および第2の電極のうち他方の電極付近の電荷量が高くなるので、当該電極付近で酸化還元反応が効率よく促進される。そのため、イオンを濃度のムラがない状態で生成することができる。
【0076】
一方、溶離液流路付近の電荷量が低くなるので、第2の電極液流路を流れる電極液と溶離液流路を流れる溶離液との間のイオンの伝導の抵抗が大きくなる。この場合、過剰な電流が流れることが防止されることにより、第2の電極液流路において局所的に気泡が発生することが抑制される。これにより、他方のイオン交換膜の局所的な劣化が抑制される。その結果、イオンサプレッサをさらに長寿命化することができる。
【0077】
(第7項)第1または2項に記載のイオンサプレッサにおいて、
前記第1の電極は、正の電圧が印加される陽極であり、
前記第2の電極は、負の電圧が印加される陰極であり、
前記第2の電極液シール部材の前記第2の電極液流路内には、1または複数の第2のメッシュ部材が配置または積層され、
前記第1の電極液流路内に積層される第1のメッシュ部材の数は、前記第2の電極液流路内に配置または積層される第2のメッシュ部材の数よりも多くてもよい。
【0078】
陰極側流路である第2の電極液流路における水素分子の生成量は、陽極側流路である第1の電極液流路における酸素分子の生成量の約2倍である。すなわち、第2の電極液流路においては、第1の電極液流路よりも多量のガス(気泡)が発生する。本発明者らは、種々の実験および考察を行った結果、このような多量の気泡が第2の電極液流路において電極液を逆流させる場合には、透析効率が低下する可能性があるという知見を得た。
【0079】
上記の構成によれば、第2の電極液流路における流路抵抗が第1の電極液流路における流路抵抗よりも小さくなるので、第2の電極液流路に第1の電極液流路よりも多い量の電極液を供給することが容易になる。そのため、第2の電極液流路において多量の気泡が発生した場合でも、電極液が逆流することが抑制される。これにより、第2の電極液流路における電極液の逆流による透析効率の低下を容易に防止することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8