(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】光散乱検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/02 20060101AFI20220511BHJP
G01N 21/49 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N15/02 A
G01N21/49 A
(21)【出願番号】P 2021521673
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2019021431
(87)【国際公開番号】W WO2020240755
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晃
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-012946(JP,U)
【文献】特表2020-530560(JP,A)
【文献】特許第4805417(JP,B2)
【文献】国際公開第2013/145836(WO,A1)
【文献】特開2019-020233(JP,A)
【文献】特開2008-032548(JP,A)
【文献】特開2007-024783(JP,A)
【文献】特開昭64-018043(JP,A)
【文献】特表平01-502533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0313737(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/02
G01N 21/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料が流通する円筒状の流路を有する試料セルと、
前記流路に向けて該流路の軸に垂直な方向からレーザ光を照射する光源と、
前記軸に垂直な面内で該軸を取り囲むように配置された複数の光検出器とを備える光散乱検出装置において、
前記試料セルの外周が、前記軸に垂直な断面において該軸を中心とする円となっているとともに、該円の径が前記軸に沿って異なる寸法となっており、
前記軸に沿う方向における、前記試料セルに対する前記光源および前記複数の光検出器の相対位置を変更する位置変更手段を備える、光散乱検出装置。
【請求項2】
流体試料が流通する円筒状の流路を有する試料セルと、
前記流路に向けて該流路の軸に垂直な方向からレーザ光を照射する光源と、
前記軸に垂直な面内で該軸を取り囲むように配置された複数の光検出器とを備える光散乱検出装置において、
前記試料セルの外周が、前記軸に垂直な断面において該軸を中心とする円となっているとともに、該円の径が前記軸に沿って異なる寸法となっており、
前記試料セルが、
円管状のセル本体と、
前記セル本体の外周部に、前記軸に沿う方向に移動可能に装着される、円錐台状の光学部材とを備える、光散乱検出装置。
【請求項3】
請求項
2に記載の光散乱検出装置において、
前記光学部材が、前記光源からのレーザ光が入射する面であって、該レーザ光の光軸と垂直な平坦面を有する、光散乱検出装置。
【請求項4】
請求項
2に記載の光散乱検出装置において、
前記光学部材が、前記光源からの前記レーザ光が通過する部分が切り欠かれ平面となっている、光散乱検出装置。
【請求項5】
流体試料が流通する円筒状の流路を有する試料セルと、
前記流路に向けて該流路の軸に垂直な方向からレーザ光を照射する光源と、
前記軸に垂直な面内で該軸を取り囲むように配置された複数の光検出器とを備える光散乱検出装置において、
前記試料セルの外周が、前記軸に垂直な断面において該軸を中心とする円となっているとともに、該円の径が前記軸に沿って異なる寸法となっており、
前記試料セルが、
円管状のセル本体と、
前記セル本体の外周部に、前記軸に沿う方向に移動可能に装着される、外径寸法が異なる複数の円柱状部から成る光学部材とを備える、光散乱検出装置。
【請求項6】
流体試料が流通する円筒状の流路を有する試料セルと、
前記流路に向けて該流路の軸に垂直な方向からレーザ光を照射する光源と、
前記軸に垂直な面内で該軸を取り囲むように配置された複数の光検出器とを備える光散乱検出装置において、
前記試料セルが、
円管状のセル本体と、
前記セル本体の外周部に交換可能に装着される、外径寸法が異なる複数の円柱状の光学部材とを備えている、光散乱検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体試料中に分散しているタンパク質やポリマー等の比較的大きな分子量の微粒子を分離する手法として、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)、ゲルろ過クロマトグラフィ(GPC)が知られている。これらの手法により分離された微粒子の検出器の一つに多角度光散乱検出装置(以下、MALS検出装置という)がある。
【0003】
MALS検出装置は、SEC、GPC等の液体クロマトグラフから導入される液体試料を保持するセルと、複数の検出器と、該セルに保持された液体試料にレーザ光を照射する光源を備えている。MALS検出装置では通常、円筒形のセルが用いられ、該セルに保持された液体試料に対して、該セルの中心軸と垂直な方向から光源からの光が照射される。光源からの光が液体試料を通過することにより、該通過経路においてその光が、液体試料に含まれる微粒子に依存する散乱断面積を以て輻射され、セルから出てくる。この、液体試料(セル)から出てくる複数の方位の散乱断面積を同時に検出することができるように、セルを中心を取り囲むように複数の検出器が配置される。そして、複数の検出器によって得られた散乱光の強度から、散乱光強度と散乱角との関係が求められ、この関係から液体試料中の未知物質の分子量やサイズ(回転半径)が算出される。
【0004】
MALS検出装置で用いられるセルには大きく分けて2つのタイプがある。第1のタイプのセルは、液体試料を保持するための貫通孔が円柱形の該セルの直径に沿って形成されており、光源からの光は、貫通孔の一方の端部から他方の端部に向かって貫通孔内を通過するようにセルに照射される(特許文献1参照)。一方、第2のタイプのセルは、液体試料を保持するための貫通孔が円筒状のセルの中心軸に沿って形成されており、光源からの光は、該貫通孔を横切るように、セルに照射される(特許文献2参照)。
【0005】
第1タイプのセルは、照射光の経路において液体試料(に含まれる微粒子)で散乱された光に対してシリンドリカルレンズとして機能する。したがって、このセルを用いたMALS検出装置では、散乱光の各角度成分はセルによって集光される。各角度成分の集光位置に検出器が配置されているため、各角度成分の強度は、それに対応する検出器によって検出することができる。
【0006】
しかしながら、第1タイプのセルは、貫通孔に沿って光源からの光を通過させるため、クロマトグラフから貫通孔に液体試料を導入する流路および該貫通孔から液体試料を排出する流路が光源からの光と干渉しないように、該貫通孔の両端部付近で直角に折れ曲がる屈曲部位を導入流路及び排出流路に設ける必要がある。屈曲部位では流路を流れる液体試料のコンダクタンスが大きな変調を受ける。このようなコンダクタンスの変調はクロマトグラフの測定精度の低減を招く。
【0007】
また、第1タイプのセルでは、散乱光の発生領域が該セルの直径に相当するため、球面収差が大きい。収差が大きい角度成分の散乱光がノイズとしてその近傍の角度成分の散乱光に加わると、角度分解能が低減するという問題がある。
【0008】
これに対して、第2タイプのセルを用いたMALS検出装置では、光源からの光が、貫通孔を横切るようにセルに照射されるため、セルの貫通孔の両端側に設けられる導入流路及び排出流路が光源からの光と干渉することはない。また、第2タイプのセルは、外周および内周(つまり貫通孔の外周)断面が円形状であり、貫通孔を流れる液体試料とセルとの界面、およびセルと空気との界面は光学的にシリンドリカルレンズとして機能することは第1タイプと同様である。しかし、発光領域がセルの中心近傍の狭い領域に限定されるため、第2タイプのセルを用いた場合には、球面収差の問題が遥かに小さい。したがって、第2タイプのセルを用いたMALS検出器は、クロマトグラフィで分離された微粒子の検出器として有用である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平07-072068号公報
【文献】特開2008-032548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
通常、セルの材料には光学部材の一般的な材料である石英ガラスが用いられる。石英ガラスの屈折率(1.46)は空気の屈折率(1.0)よりも大きいため、セルと空気の界面は常に収束作用を有する。一方、クロマトグラフィでは様々な種類の溶媒が移動相として用いられるため、クロマトグラフから導入される液体試料の溶媒の屈折率は広範囲にわたる。したがって、液体試料(溶媒)の屈折率とセルの屈折率との大小関係によって、液体試料とセルの界面は、収束作用を有する高屈折率/低屈折率界面、発散作用を示す低屈折率/高屈折率界面のいずれにも成り得る。つまり、液体試料とセルの界面が収束作用、分散作用のいずれを有するかは、液体試料の溶媒の屈折率に依存する。
【0011】
液体試料とセルの界面が発散作用を有する場合は、セルと空気の界面の収束作用と相殺することにより、液体試料で生じた散乱光を平行光としてセルから取り出すことができる。一方、液体試料とセルの界面が収束作用を有する場合は、セルと空気の界面の収束作用と重畳されることにより散乱光はより強く収束され、セルのごく近傍に焦点を形成する。焦点を通過した後の散乱光は発散の一途を辿るため、平行光化することができない。試料セルと検出器の間にレンズや回折素子、曲面鏡等の結像素子を配置すれば発散する光をある程度集光することができるが、溶媒とセルの屈折率差が大きくなると、結像素子によっても集光することができない。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、光散乱検出装置において、液体試料の溶媒の屈折率に関係なく、該液体試料で生じた散乱光の強度を検出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様は、
流体試料が流通する円筒状の流路を有する試料セルと、
前記流路に向けて該流路の軸に垂直な方向からレーザ光を照射する光源と、
前記軸に垂直な面内で該軸を取り囲むように配置された複数の光検出器とを備える光散乱検出装置であって、
前記試料セルの外周が、前記軸に垂直な断面において該軸を中心とする円となっているとともに、該円の径が前記軸に沿って異なる寸法となっており、
前記光源からのレーザ光の前記試料セルの外周への入射位置が変更可能に構成されている。
【0014】
また、上記課題を解決するために成された本発明の第2の態様は、
流体試料が流通する円筒状の流路を有する試料セルと、
前記流路に向けて該流路の軸に垂直な方向からレーザ光を照射する光源と、
前記軸に垂直な面内で該軸を取り囲むように配置された複数の光検出器とを備える光散乱検出装置であって、
前記試料セルが、
円管状のセル本体と、
前記セル本体の外周部に交換可能に装着される、外径寸法が異なる複数の円柱状の光学部材とを備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る光散乱検出装置では、光源からのレーザ光が試料セルの流路に向けて照射されると、流路を流通する流体試料の内部に含まれる微粒子によって該レーザ光は散乱され、試料セルから輻射される。流路内で発生した散乱光は試料セルから出てくるまでの間に流体試料の溶媒と試料セルの界面、および試料セルと該試料セルの外部空間との界面を通過する。各界面は、そこを通過する散乱光に対して収束レンズ又は発散レンズとして機能し、各界面における収束と発散のバランスによって、試料セルから出てくる散乱光が平行光、発散光、および収束光のいずれになるかが決まる。各界面における収束と発散のバランスは、流体試料、試料セルおよび外部空間それぞれの屈折率、試料セルの内径(つまり、流路の直径)と外径の比によって決まる。
【0016】
本発明の第1の態様では、試料セルの外周が、流路の軸に垂直な断面において該軸を中心とする円となっているとともに、該円の径が前記軸に沿って異なる寸法となっており、
前記光源からのレーザ光の前記試料セルの外周への入射位置が変更可能に構成されているため、光源からのレーザ光の入射位置における試料セルの外径を変更することができる。したがって、流体試料の屈折率に応じて光源からのレーザ光を試料セルの適宜な位置に入射させることにより、各界面における収束と発散のバランスを調整して、試料セルから出てくる散乱光を光検出器に集光させることができる。
【0017】
また、本発明の第2の態様では、試料セルが、円管状のセル本体と、該セル本体の外周部に交換可能に装着される、外径寸法が異なる複数の円柱状の光学部材とを備えている。このため、セル本体に装着する光学部材を変更することにより、試料セルの内径と外径の比を調整することができる。したがって、流体試料の屈折率に応じた適宜の外径寸法の光学部材をセル本体に装着することによって、各界面における収束と発散のバランスを調整して、試料セルから出てくる散乱光を光検出器に集光させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る光散乱検出装置の一実施形態である多角度光散乱検出装置の概略的な全体構成図。
【
図2】ビームスプリッタ、試料セル、結像光学系、及び検出器の位置関係を示す図。
【
図3】液体試料に平行光が入射したときの散乱光の発生領域の説明図。
【
図4】散乱光発生領域から出射する散乱光の平行成分の説明図。
【
図5】溶媒の屈折率が異なる液体試料における散乱光発生領域から法線方位に出射した散乱光の光線図。
【
図6A】発光領域から出射する散乱光の方位角θ0、および試料セルから出射する光の方位角θ2の説明図。
【
図6B】発光領域から出射する散乱光の方位角θ0と該散乱光束の幅の関係を説明する図。
【
図7】試料セルから出射する光の方位角θ2と光強度分布の関係を示すグラフ。
【
図8】発光領域から出射する散乱光の方位角θ0と試料セルから出射する方位角θ2の半値全幅(Δθ2)との関係を示すグラフ。
【
図9】表1の条件下における方位角θ0が90°の散乱光の光線図。
【
図10】表1の条件下における方位角θ0が90°の散乱光の光強度分布図。
【
図11A】本発明の実施形態1の試料セルの斜視図。
【
図11B】実施形態1の試料セルに対して光源部からの光が入射する様子を示す図。
【
図11C】実施形態1の試料セルに対して別の高さ位置に光源部からの光が入射する様子を示す図。
【
図12A】本発明の実施形態2の試料セルの斜視図。
【
図12B】本発明の実施形態2の試料セルの円錐台状部材を移動させたときの斜視図。
【
図13A】溶媒の屈折率n0が1.26のときに、実効径が表2に示す外径の値になるように、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図13B】溶媒の屈折率n0が1.33のときに、実効径が表2に示す外径の値になるように、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図13C】溶媒の屈折率n0が1.492のときに、実効径が表2に示す外径の値になるように、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図13D】溶媒の屈折率n0が1.56のときに、実効径が表2に示す外径の値になるように、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図13E】溶媒の屈折率n0が1.66のときに、実効径が表2に示す外径の値になるように、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図14】実施形態2の試料セルに対するレーザ光源、結像光学系、および光検出器の配置を示す図。
【
図15A】表4に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.26のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図15B】表4に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.33のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図15C】表4に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.492のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図15D】表4に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.56のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図15E】表4に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.66のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図16A】表6に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.26のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図16B】表6に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.33のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図16C】表6に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.492のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図16D】表6に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.56のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図16E】表6に示す条件を満たし、且つ、溶媒の屈折率n0が1.66のときに、実施形態2の試料セルに対してレーザ光源からのレーザ光を照射したときの光線図。
【
図17】本発明の実施形態3の試料セルの光学部材を示す図。
【
図18】本発明の実施形態4の試料セルの光学部材を示す図。
【
図19】本発明の実施形態5の試料セルの光学部材を示す図。
【
図20】本発明の実施形態6の一部の円柱状部を断面にて示す試料セルの図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係る光散乱検出装置について、図面を参照して説明する。
【0020】
<1.光散乱検出器の構成>
図1は、本発明に係る光散乱検出装置の一実施形態である多角度光散乱検出装置(MALS検出装置)の概略的な全体構成図である。このMALS検出装置100は、液体試料71が収容される、円筒状の透明な試料セル7と、該試料セル7を中心にした円周E上に、該試料セル7を取り囲んで所定角度θに配置された複数の光検出器8、9と、試料セル7に光を照射する、レーザ光源1とインコヒーレント光源2とを備えている。レーザ光源1からはコヒーレント光であるレーザ光が出射され、インコヒーレント光源2からはインコヒーレント光又は部分コヒーレント光が出射される。
【0021】
レーザ光源1から出射され光路L1に沿って進むレーザ光と、インコヒーレント光源2から出射されて光路L2に沿って進むインコヒーレント光とは、セクタ鏡3により交互に選択されて、試料セル7に向かう同一光軸を有する光路L3へと送られる。セクタ鏡3は、例えば反射部と透過部とが交互に配置された回転板から成る。回転板はモータ等の駆動機構4により所定速度で同一方向に回転駆動され、光路L1とL2の交差部に透過部が来るタイミングではレーザ光が光路L3に送られ、反射部が来るタイミングではインコヒーレント光が光路L3に送られる。レーザ光とインコヒーレント光とは共に、光検出器8、9が配置されている同一平面に垂直な方向が電気ベクトルの偏光方位である。
【0022】
光路L3上にはビームスプリッタ5が配置され、試料セル7に照射される光の一部がビームスプリッタ5で分割・反射されて強度モニタ用検出器6に導入される。この強度モニタ用検出器6の検出信号はデータ処理部11に入力され、光源1、2の発光強度の変動を補正するために利用される。
【0023】
円周E上に配置された複数の光検出器のうち、平面視で光路L3の延長上に配置された光検出器8は透過吸光度測定用検出器であり、そのほかの光検出器9は全て多角度散乱測定用検出器である。光検出器8による検出信号はデータ処理部11に機能として含まれる濃度算出部13に入力され、一方、複数の光検出器9による検出信号はデータ処理部11に機能として含まれる粒子情報演算部12に入力される。
【0024】
上記構成のMALS検出装置100においては、光源1から出射されるレーザ光は光路L1に沿って進み、光源2から出射されるインコヒーレント光は光路L2に沿って進む。これらの光束はセクタ鏡3により周期的に交互に選択されて光路L3に送られるため、試料セル7内の液体試料71にはレーザ光とインコヒーレント光が交互に照射される。セクタ鏡3を駆動する駆動機構4は制御部10により制御される。制御部10は、セクタ鏡3の回転位置に同期して、レーザ光、インコヒーレント光のいずれが試料71に照射されている期間であるのかを示すタイミング制御信号をデータ処理部11に送る。
【0025】
試料セル7にインコヒーレント光が照射された場合、その透過光の強度は試料71による吸光(角度ゼロの散乱)を反映したものとなる。そこで、データ処理部11では、インコヒーレント光が照射される期間において光検出器8の検出信号を読み込む。濃度算出部13は、この検出信号に基づいて試料71による吸光度を算出し、試料71中の微粒子の濃度を計算する。算出された濃度値は粒子情報演算部12に送られる。
【0026】
一方、試料セル7にレーザ光が照射された場合、そのレーザ光が液体試料71を通過する際に該液体試料71に含まれる微粒子により異なる複数の角度で以て散乱され、試料セル7から出てくる。そこで、データ処理部11は、試料71にレーザ光が照射されている期間において複数の光検出器9の検出信号を同時に読み込む。粒子情報演算部12は、これらの検出信号に基づき各角度位置での散乱光強度を計算する。粒子情報演算部12では、各角度位置での散乱光強度と試料中の微粒子の濃度値に基づいて、試料71に含まれる微粒子の分子量や回転半径などを計算する。
【0027】
図2は、上記MALS検出装置100におけるビームスプリッタ5と試料セル7と検出器9の位置関係を示す概略図である。
図2では、便宜上、光路L3の延長上に検出器9が位置しているが、実際は、複数の検出器9はいずれも光路L3の延長上から外れた位置にある。また、
図2に描かれている試料セル7は、MALS検出装置において従来一般的に使用されているものである。
【0028】
図2に示すように、試料セル7と光検出器9の間には、散乱光制限用のスリットを有するスリット板21および平凸レンズ22から成る結像光学系20が配置されている。スリット板21のスリットは、水平方向の散乱角を制限し、且つ、鉛直方向の光束を多く取り込むために、縦長の長方形状を有している。
【0029】
MALS検出装置100では、試料セル7から様々な方向に出射する散乱光の各角度成分が、対応する光検出器9の受光面に集光するように、試料セル7、結像光学系20、及び光検出器9の配置が設定されている。試料セル7から出射された散乱光の各角度成分が結像光学系20を通過した後、光検出器9の受光面に集光するためには、各角度成分はできるだけ平行光に近い状態で結像光学系20に入射することが望ましい。
【0030】
試料セル7は、中心軸に沿って形成された断面円形状の貫通孔(流路)を内部に有しており、該貫通孔に液体試料71が収容されている。試料セル7に照射されたレーザ光は、貫通孔を横切る際に液体試料71に含まれる微粒子により散乱され、液体試料71(溶媒)と試料セル7との界面、及び試料セル7とその外部(一般的には空気)との界面を通過した後、試料セル7から出射する。液体試料71中で発生した散乱光の各角度成分が平行光として試料セル7から出射するか否かは、これら界面の光学的な機能に依る。そこで、まずは、MALS検出装置において従来一般的に使用されている試料セル7について、前記界面の光学的な機能について検証した。以下、検証結果について説明する。
【0031】
<2.試料セルの界面の光学的な機能に関する検証>
<2.1 散乱光発生領域の特定>
まず、液体試料71における散乱光の発生領域を特定した。
図3は、外径が8mm、内径が1.6mmの合成石英(屈折率n1=1.46)製の円筒状の試料セルに対して、半導体レーザ光源から波長が660nmで且つ、幅が50μmの平行光を、該試料セルの中心を貫くように入射させたときの光線図である。
図3の左側の試料セルには溶媒の屈折率n0が1.26の液体試料が保持されており、右側の試料セルには溶媒の屈折率n0が1.66の液体試料が保持されている。
【0032】
図3より、溶媒の屈折率n0が試料セルの屈折率n1よりも小さい場合(左側)、大きい場合(右側)のいずれであっても、試料セルから液体試料に入射した光線は大きく収束されることも発散されることもなく、ほぼ平行性を保った状態で液体試料中を通過することが分かる。光線の幅と試料セルの内径および外径の比とから、また、励起光と散乱光の強度比とからボルン近似が成立し、多重散乱の影響は除外することができる。そこで、試料セルの内径に相当する長さを持った幅のない線分を、試料セルに保持された液体試料に平行光(レーザ光)が入射したときの散乱光の発光領域(光源領域)として近似する。
【0033】
<2.2 試料セルの内外の界面における収束および発散>
上述した発光領域からは様々な方向に散乱光が出射するが、ここでは、
図4に示すように、発光領域の片側から法線方位(試料セルに入射するレーザ光の方位角を0°、散乱光の方位角をθ0と定義すると、θ0=90°となる方位)に等間隔で出射する散乱光を考える。そして、このような散乱光が各界面を通過した後、試料セルから出射されるまでの光路を追跡した。なお、以下の説明では、便宜上、法線方位に出射する散乱光の半分のみを扱うこととする。
【0034】
図5は、溶媒の屈折率n0が1.26((a)、例えば蛍光溶媒)、1.36((b)、例えばエタノール)、1.46((c)、例えばフルオロベンゼン)、1.56((d)、例えばニトロベンゼン)、1.66((e)、例えばキノリン)である液体試料の発光領域から法線方位に出射した散乱光の光線図である。以下、特に断らない限り、試料セルの外部空間には空気が存在し、その屈折率n2は1.0とする。液体試料と試料セルとの界面(以下「溶媒/セル界面」という)では、n0<n1のとき(
図5(a)、(b)のとき)は発散レンズとして機能し、n0>n1のとき((d)、(e)のとき)は収束レンズとして機能する。また、n0=n1のとき((c)のとき)は、溶媒/セル界面では光線は屈折せず直進する。
【0035】
一方、試料セルの屈折率n1と外部空間の屈折率n2との関係は常にn1>n2であるため、試料セルと外部間の界面(以下「セル/空気界面」という)は常に収束レンズとして機能する。そのため、
図5に示すように、溶媒/セル界面が発散レンズとして機能する、(a)および(b)の場合は発散と収束が相殺され、特に(b)の場合は、散乱光の平行成分の多くがほぼ平行な光線として試料セルから出射する。
【0036】
これに対して、溶媒/セル界面がレンズとして機能しない(c)の場合は、セル/空気界面の収束作用によって、また、溶媒/セル界面が収束レンズとして機能する(d)および(e)の場合は収束作用が重畳されることによって、試料セルから出射する光は所定の焦点に集光する。ただし、収束作用の強い(e)の場合は、試料セルのごく近傍で焦点を結び、その先は発散の一途を辿る。
【0037】
以上より、溶媒の屈折率n0と試料セルの屈折率n1の大小関係によって、試料セルから出射する光線が発散光、平行光、収束光のいずれになるか、収束光の場合にその焦点がどこに位置するかが決まることが分かる。
【0038】
<2.3 散乱光の強度分布>
次に、長さが1.6mmの発光領域から各方位に出射する散乱角が平行光として試料セルから出射すると仮定した場合における、空気中の方位角と光強度との関係を調べた。
図6Aに示すように、発光領域から出射する散乱光の方位角をθ0、試料セルから出射する光の方位角をθ2とし、発光領域から0.01mm間隔で計161本の散乱光が出射すると仮定した。そして、散乱光が試料セルから出射するまでに通過する各界面における透過率を考慮に入れ、さらに試料セルから出射する光線の密度に比例する重みづけを行って、光強度の方位分布を算出した。その結果を
図7に示す。
図7中、(a)は溶媒の屈折率n0が1.26(蛍光溶媒)、(b)は溶媒の屈折率n0が1.333(水)、(c)は溶媒の屈折率n0が1.46(フルオロベンゼン)、(d)は溶媒の屈折率n0が1.56(ニトロベンゼン)、(e)は溶媒の屈折率n0が1.66(キノリン)の液体試料が試料セルに保持されているときの強度分布図である。
図7の(a)~(e)にはそれぞれ9個のスペクトルが描かれているが、これらは方位角θ0が10°から90°まで10°間隔の9個の平行成分の方位分散スペクトルに相当する。
図7より、溶媒の屈折率n0の大きさに関係なく、方位角θ0が90°のときの光の方位分散(拡がり)が最大となることが分かる。
【0039】
図6Bに示すように、試料セルの内径(半径)をRとすると、発光領域から方位角θ0で出射する散乱光の幅は、2R・sinθ0で表されることから、方位角θ0が90°のときの散乱光の幅は試料セルの内径(直径)2Rと等しく、最大となる。したがって、試料セルから出射する光のうち方位角θ0が90°の散乱光に由来する光の方位分散(拡がり)が最大になることが予想されるが、実際にその通りとなった。
【0040】
図8は、
図6Aに示すモデルにおける、方位角θ0と方位角θ2の半値全幅(Δθ2)との関係を示している。
図8において、横軸は方位角θ0、縦軸は半値全幅Δθ2である。また、
図8の(a)~(e)は、それぞれ
図7の(a)~(e)に対応している。
図7および
図8より、溶媒が水(n0=1.333)のときは、いずれの方位角θ0であっても、溶媒/セル界面の発散作用とセル/空気界面の収束作用がほぼ完全に相殺されるため、半値全幅が非常に小さく、試料セルからは平行性が良好な光線が出射することが分かった。試料セルから平行光線が出射する場合は、標準的なレンズを用いて収差の少ない焦点を形成することができる。一方、溶媒の屈折率n0が試料セルの屈折率(n2=1.46)を上回る場合((d)、(e)の場合)は、方位角θ0が大きくなるにつれて半値全幅が大きくなり、(d)の場合は方位角θ0が約15°のとき、(e)の場合は方位角θ0が10°のときの半値全幅が5°となった。このことは、散乱光の各角度成分の多くが料セルから出射する際の分散幅が10°を超え、散乱光の各角度成分を集光させることが困難であることを意味する。
【0041】
なお、上述したように、
図7に示す散乱光の光強度は、散乱光が試料セルから出射するまでに通過する各界面における透過率を考慮し試料セルから出射する光線の密度に比例する重み係数を掛けて算出したものである。ここでは、各散乱角の散乱光が試料セルから出射する光線のうち中心の光線の重み係数が「1」となるよう、全体の重み係数を規格化した。ところが、溶媒の屈折率n0が1.46のモデルでは、散乱光が正(又は負)方位分散から負(又は正)方位分散に転移するところがあり、ここでは光線が密集するため、重み係数が「1」を超える。そのため、溶媒の屈折率n0が1.46のモデルでは、
図7(c)に示すように、散乱光強度が「1」を超える場合が生じたのであって、演算のエラーではない。
【0042】
<2.4 平行化条件>
以上説明したように、
図2に示す従来一般的な形状の試料セルを用いたMALS検出装置では、溶媒の屈折率n0と試料セルの屈折率n1の大小関係によって、発光領域で生じた散乱光が溶媒/セル界面およびセル/空気界面を通過するときの挙動が異なる結果、散乱光を集光させることが困難となるケースが存在する。このことは、測定対象となる液体試料の溶媒の屈折率によっては、散乱光強度を正確に測定できない、もしくは全く測定できないことを意味する。
【0043】
試料セルから出射する散乱光を集光させるためには、溶媒/セル界面およびセル/空気界面における収束作用と発散作用のバランスが重要になる。本発明者は、これらの界面における収束作用と発散作用のバランスを決める因子の一つとして、試料セルの内径と外径の比に着目した。例えば、表1は、屈折率n1が1.46、内径(半径)r1が0.8mmの合成石英製の試料セルに、この試料セルよりも屈折率が低い溶媒(屈折率n0が1.26の蛍光溶媒、屈折率n0が1.333の水)からなる液体試料を収容したときの最適な外径(半径)r2を示している。ここで、「最適な外径(半径)r2」を、試料セルから出射する光線の角度広がり(半値全幅)Δθ2(光線強度が0.5以上の領域)が最小となるときの外径(半径)と定義する。表1には、各溶媒における外径(半径)r2の最適値と、そのときの角度広がりΔθ2、および該角度広がり角度Δθ2の範囲に集中するエネルギー比率を示している。
【表1】
【0044】
また、
図9は、表1の条件下における方位角θ0が90°の散乱光の光線図、
図10は、同条件下での光強度分布図である。なお、
図7と同様、
図10においても、界面での透過率および光線密度の重み係数を反映させて光強度を算出した。さらに、表2は、屈折率n1が1.91、内径(半径)r1が0.8mmの高屈折率材料から成る試料セルに、溶媒の屈折率n0が1.26、1.333、1.492、1.56、1.66の液体試料を収容したときの最適な外径(直径)r2を示している。なお、屈折率が1.91の高屈折率材料としては、株式会社住田光学ガラスの高屈折率ガラス(品番K-LaSFn23)が挙げられる。この高屈折率ガラスは、波長が589nmの光(ナトリウムのD線)において、1.91の屈折率を有する。表2より、溶媒の屈折率n0によって最適な外径r2が異なることが分かる。
【表2】
【0045】
表1および表2に示す条件を満たすとき、発光領域で生じた散乱光は、その平行性を保持したまま試料セルから出射することになる。このことは、試料セルに保持されている液体試料の溶媒の屈折率に応じて試料セル外径を変化させることができれば、発光領域で生じた散乱光の平行成分を、該散乱光が試料セルから出射するときに再び平行化できることを意味する。
【0046】
そこで、溶媒の屈折率n0に応じて外径r2を連続可変とすることができる試料セルとして、
図11Aに示すような試料セル107を考える。この試料セル107は本発明の実施形態1である。前記試料セル107は、円錐台状の部分(円錐台状部)110と、その上下の円柱状部111、112を同軸上に有している。試料セル107には、その中心軸に沿って該試料セル107を貫通する、内径r1が一定の孔113が形成されており、該孔113に液体試料が収容される。従って、孔113が本発明の流路となる。
【0047】
レーザ光源1からの光は孔113を貫通するように円錐台状部110に照射される。
図11B及び11Cに示すように、レーザ光源1は駆動機構115(本発明の位置変更手段に相当)により上下方向に移動できるようになっており、試料セル107に対してレーザ光が入射する高さ位置を変更できるようになっている。尚、図示しないが、駆動機構115は、レーザ光源1と同期して光検出器9も上下方向に移動させるようになっている。孔113の内径r1は一定であるため、レーザ光源1からの光が入射する高さ位置が変化しても、発光領域の長さは孔の内径直径(2×r1)と等しく一定である。
【0048】
なお、試料セル107は、円錐台状部110と円柱状部111、112を一体的に形成しても良いが、
図12A、12Bに示す実施形態2のように、円管状のセル本体121とその外周に装着される上下動可能な円錐台状の光学部材122とから試料セル120を構成しても良い。試料セル107の場合は、レーザ光源1からの光の円錐台状部110に対する入射位置を変えるためには、
図11B、11Cに示すように、レーザ光源1(および検出器9)の高さ位置を変更することになる。これに対して、試料セル120の場合は、
図12A、12Bに示すように、レーザ光源1および検出器9の高さ位置はそのままで光学部材122を上下動させることで、該レーザ光源1からの光の光学部材122に対する入射位置を変えることができる。したがって実施形態2の場合は、光学部材122を上下動させる移動機構125を備える。
ただし、実施形態1の試料セル107においても、レーザ光源1および検出器9の高さ位置はそのままで、試料セル107の高さ位置を変更できるようにしても良い。実施形態1の試料セル120においては、手動で光学部材122を上下動させるようにしても良い。この場合、移動機構125は不要となる。
【0049】
図13A~13Eは、以下の表3に示す条件を満たす試料セル120および試料セル120と結像レンズ22の配置に対してレーザ光源1からのレーザ光を照射したときの実効径が表2に示す外径(半径)の値になるように、光学部材122を上下させたときの光線図を示している。
【表3】
【0050】
ここで実効径とは、試料セル120の内部を通過するレーザ光を含む水平面における該試料セル120(光学部材122)の外径(半径)を指す。なお、レーザ光源1からの光が試料セル120に入射したときにその光路が水平になるように、
図14に示すように、試料セル120に対して仰角α(=10.69°)でレーザ光を入射させている。また、発光領域で生じる散乱光の水平成分を光検出器9で検出するものと仮定し、この水平成分が試料セル120から出るときの屈折角を考慮して、結像光学系20(集光光学系)および光検出器9の光軸と水平面とのなす角度βが-10.69°となるように、結像光学系20(集光光学系)および光検出器9を配置した。
【0051】
図13A~13Eから明らかなように、上記条件を満たす試料セル120、結像レンズ22を用いることにより、溶媒の屈折率に関係なく、光検出器9の受光面に散乱光を集光させることができることが分かる。
【0052】
図13A~13Eは、セル本体121と光学部材122の屈折率が等しく(n11=n12)、かつ、セル本体121および光学部材122の屈折率が溶媒の屈折率よりも大きい(n11=n12>n0)ときに、溶媒の屈折率に関係なく、光検出器9の受光面に散乱光を集光させることができることを示すものである。そこで、この条件を満たしていないときであっても、溶媒の屈折率に関係なく、光検出器9の受光面に散乱光を集光させることができるか否かについて検証した。
【0053】
試料セル120の外側を空気(屈折率n2=1.0)とすると、セル本体121(屈折率n11)、光学部材122(屈折率n12)、溶媒(屈折率n0、液体試料71)、および空気の屈折率の間には、以下の(1)~(6)に示す関係が考えられる。
(1)n12>n11>n0>n2
(2)n12>n0>n11>n2
(3)n11>n12>n0>n2
(4)n11>n0>n12>n2
(5)n0>n11>n12>n2
(6)n0>n12>n11>n2
【0054】
屈折率n11、n12、n0、n2が(1)~(6)の関係を満たすとき、液体試料とセル本体121の界面(以下「第1界面」という)、セル本体121と光学部材122の界面(以下「第2界面」という)、および光学部材122と空気の界面(以下「第3界面」という)の機能(第1界面の機能→第2界面の機能→第3界面の機能)は以下の通りとなる。
(1)発散→発散→収束
(2)収束→発散→収束
(3)発散→収束→収束
(4)発散→収束→収束
(5)収束→収束→収束
(6)収束→発散→収束
【0055】
そこで、測定対象となる液体試料の溶媒の屈折率として考えられる最大値(n0=1.66)を基準に、(1)~(6)の各関係を満たす試料セル120を構成し、そのような試料セル120を用いたときに、溶媒の屈折率n0を変化させても、同一点に焦点を形成することができるか否かを検証した。
【0056】
図15A~15Eは、以下の表4に示す条件を満たす場合にレーザ光源1からのレーザ光を試料セル120に照射したときに、該試料セル120から出射した光が光検出器の受光面に焦点を形成するように、光学部材122を上下させたときの光線図を示している。表4に示す関係は(2)の関係に相当する。
【表4】
【0057】
また、
図15A~15Eに示す光線図における、溶媒の屈折率n0と試料セルの実効径(外径(半径)r2)との関係を表5に示す。
【表5】
【0058】
また、
図16A~16Eは、以下の表6に示す条件を満たす場合にレーザ光源1からのレーザ光を試料セル120に照射したときに、該試料セル120から出射した光が光検出器の受光面に焦点を形成するように、光学部材122を上下させたときの光線図を示している。表6に示す関係は(5)の関係に相当する。
【表6】
【0059】
また、
図16A~16Eに示す光線図における、溶媒の屈折率n0と試料セルの実効径(外径(半径)r2)との関係を表5に示す。
【表7】
【0060】
図15A~15E、
図16A~16Eより、(2)の関係、および(5)の関係を満たす試料セル120を用いたときは、溶媒の屈折率n0を変化させても、同一点に焦点を形成することができることが確認された。ひたすら収束作用のみが複合するもっとも厳しい条件である(5)において屈折率n0に依存する所望の特性が得られる構成が存在することから、収束作用と発散作用とが相殺することできる(1)、(3)、(4)及び(6)においては、より容易に集光条件が達成できることは自明である。
【0061】
また、
図15A~
図15Eと
図16A~16Eの比較から分かるように、表4に示す条件では、試料セル120から出射した光線は、平行状態を保持したままレンズに向かうのに対して、表6に示す条件では、試料セル120から射出した光は、該試料セル120の近傍で一度、焦点を形成した後、レンズに向かう。焦点は球面波源とみなすことができるため、焦点からレンズに向かう光線群は発散光(球面波(発散波面))となり、その散乱角に対応する結像光学系だけでなく、それに隣接する結像光学系にも入射する。したがって、表4に示す条件に比べると、角度分解能が低くなる。
【0062】
次に、試料セルの別の実施形態について説明する。
【0063】
図17は、実施形態3の試料セルの光学部材130を示している。この光学部材130は外周部の一部が欠損した、ほぼ円錐台形状を有しており、実施形態2のセル本体121の外周部に上下動可能に装着される。この光学部材130は、セル本体121が挿入される孔131を有している。又、光学部材130の外周面には、孔131と平行な平坦面132を有している。この平坦面132は、レーザ光源1からのレーザ光LTが入射する面となる。
【0064】
図17に示すように、光学部材130の平坦面132から入射したレーザ光LTはそのまま直進し、出射するときは水平面よりもやや下方位に向かう。したがって、この実施形態3においては、試料セルに対するレーザ光源1の位置関係を容易に選定することができる。一方、
図17に二点差線で示した方位D1と方位D2の間から出てくる散乱光は検出できないという欠点がある。
【0065】
図18は、実施形態4の試料セルの光学部材140を示している。この光学部材140は、外周部の一部が欠損した、ほぼ円錐台形状を有しており、実施形態2のセル本体121の外周部に上下動可能に装着される。この光学部材140は、セル本体121が挿入される孔141を有している。また、光学部材140外周面に孔141を挟んで2箇所の欠損箇所があり、そこがレーザ光LTの入射部142及び出射部143となっている。
【0066】
実施形態4の光学部材140を用いた試料セルでは、入射部142から入射したレーザ光LTは水平方向に進み、出射部143から水平方向に出射する。したがって、実施形態4においては、試料セルに対するレーザ光源1および検出器8の位置関係を容易に選定することができる。ただし、
図18に二点差線で示した方位D1と方位D2の間、方位D3と方位D4の間から出てくる散乱光は検出できないという欠点がある。
【0067】
図19は、実施形態5の試料セル150を示している。この試料セル150は、内部に円錐台状の孔152を有する円柱状部材151から構成されている。レーザ光源1からの光は孔152の中心を通過するように円柱状部材151に照射される。この実施形態5においても、実施形態1と同様、レーザ光源1は駆動機構115により上下方向に移動できるようになっている。
【0068】
実施形態5においては、レーザ光源1が上下動されて該光源1からの光が円柱状部材151に入射する高さ位置が変更されたとき、該円柱状部材151の外径(半径)は変化しないのに対して、孔152の内径(半径)は変化する。このため、レーザ光源1からの光の入射位置によって、試料セル150の内径と外径の比が変化する。したがって、この実施形態においても、試料セル150に保持される液体試料の溶媒の屈折率に応じた適宜の高さ位置で、レーザ光源1からの光を試料セル150に入射させることにより、試料セル150の発光領域で生じた散乱光の平行成分を、該試料セル150から散乱光が出射する際に再び平行化することができる。
【0069】
図20は、実施形態6の試料セル160を示している。この試料セル160は、円筒状のセル本体161と、その外周部に上下動可能に装着された、外径寸法が異なる複数の円柱状部1621~1624が積層された形状の光学部材162を有している。レーザ光源1からのレーザ光は、円柱状部1621~1624のいずれかの外周面に入射する。この構成では、レーザ光が入射する箇所を変更することにより、試料セル160の外径を変更することができる。また、この構成では、外周面がセル本体162の流路と平行になるため、流路と垂直な方向からレーザ光を入射させることができ、レーザ光源1および光検出器8、9の配置を容易に設定することができる。
【0070】
図21は、実施形態7の試料セル170を示している。この試料セル170は、円筒状のセル本体171と、その外周部に着脱自在に装着される複数の光学部材172、173とを備えている。光学部材172、173はそれぞれ2個の分割できるようになっており、セル本体171に装着するとき、及びセル本体171から取り外すときは、光学部材172、173を2個に分割する。光学部材172、173はそれぞれ外径寸法が異なっており、セル本体171に光学部材172のいずれを装着するかによって、試料セル170の外径寸法を変更することができる。
【0071】
以上、図面を参照して本発明における実施形態を詳細に説明したが、該実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0072】
(第1項)第1項に係る光散乱検出装置は、
流体試料が流通する円筒状の流路を有する試料セルと、
前記流路に向けて該流路の軸に垂直な方向からレーザ光を照射する光源と、
前記軸に垂直な面内で該軸を取り囲むように配置された複数の光検出器とを備えている装置であって、
前記試料セルの外周が、前記軸に垂直な断面において該軸を中心とする円となっているとともに、該円の径が前記軸に沿って異なる寸法となっており、
前記光源からのレーザ光の前記試料セルの外周への入射位置が変更可能に構成されている。
【0073】
第1項に記載の光散乱検出装置では、流体試料の屈折率に応じて光源からのレーザ光を試料セルの適宜な位置に入射させることにより、各界面における収束と発散のバランスを調整して、試料セルから出てくる散乱光を光検出器に集光させることができる。
【0074】
(第2項)第1項の光散乱検出装置において、
前記軸に沿う方向における、前記試料セルに対する前記光源および前記複数の光検出器の相対位置を変更する位置変更手段を備える。
【0075】
第2項に記載の光散乱検出装置において、前記位置変更手段は、前記試料セルの移動機構から構成しても良く、前記光源および前記複数の光検出器の移動機構から構成しても良い。移動機構は、前記試料セル、または前記光源と前記複数の光検出器の組を自動的に移動させることができる機構でも良く、手動で移動させることができる機構でも良い
【0076】
(第3項)第1項又は第2項の光散乱検出装置において、
前記試料セルが、
円管状のセル本体と、
前記セル本体の外周部に装着される、前記軸に沿う方向に移動可能な円錐台状の光学部材とを備える。
【0077】
第3項に記載の光散乱検出装置においては、前記円錐台状の光学部材を上下動させるだけで、前記流路内で発生した散乱光がこれから輻射される光束の拡がりを制御できる。
【0078】
(第4項)第3項の光散乱検出装置において、
前記光学部材が、前記光源からのレーザ光が入射する面であって、該レーザ光の光軸と垂直な平坦面を有する。
【0079】
第4項に記載の光散乱検出装置においては、前記平坦面を通して試料セルにレーザ光が入射するため、流路の軸と垂直な方向から試料セルに向けてレーザ光を照射したときに、外部空間と試料セルの界面で該レーザ光が屈折することがない。したがって、試料セルと光源との位置関係を容易に設定することができる。また、界面が平坦であるため、ノイズとなる界面における光散乱を抑制することができる。
【0080】
(第5項)第3項の光散乱検出装置において、
前記光学部材が、前記光源からの前記レーザ光が通過する部分が切り欠かれている。
【0081】
第5項に記載の光散乱検出装置においては、切りかかれた部分をレーザ光が通過するため、レーザ光が試料セルに入射するとき、及び試料セルから出射するときに、該レーザ光が屈折しないため、試料セルと光源及び光検出器との位置関係を容易に設定することができる。また、界面が平坦であるため、ノイズとなる界面における光散乱を抑制することができる。
【0082】
(第6項)第1項又は第2項の光散乱検出装置において、
前記試料セルが、
円管状のセル本体と、
前記セル本体の外周部に装着される、外径寸法が異なる複数の円柱状部から成る、前記軸に沿う方向に移動可能な光学部材とを備える。
【0083】
第6項に記載の光散乱検出装置では、試料セルに対してレーザ光が入射する面および出射する面におけるレーザ光のセル流路平行成分の屈折を考慮する必要がない。また、試料セルから散乱光が出射する面における該散乱光のセル流路平行成分の屈折を考慮する必要がない。このため、試料セルに対する光源および光検出器の位置関係を容易に選定することができる。
【0084】
(第7項)第7項に係る光散乱検出装置は、
流体試料が流通する円筒状の流路を有する試料セルと、
前記流路に向けて該流路の軸に垂直な方向からレーザ光を照射する光源と、
前記軸に垂直な面内で該軸を取り囲むように配置された複数の光検出器とを備える光散乱検出装置であって、
前記試料セルが、
円管状のセル本体と、
前記セル本体の外周部に交換可能に装着される、外径寸法が異なる複数の円柱状の光学部材とを備えている。
【0085】
第7項に記載の光散乱検出装置では、流体試料の屈折率に応じて適宜の外径寸法の光学部材をセル本体に装着することで、試料セルから出射する散乱光を光検出器で検出することができる。
【0086】
1…レーザ光源
107、120、150、160、170…試料セル
110…円錐台状部
111…円柱状部
115、125…移動機構(位置変更手段)
121、161、171…セル本体
122、130、140、162、172、173…光学部材
20…結像光学系
9…光検出器
100…多角度光散乱検出装置