(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】搬送カート
(51)【国際特許分類】
B64D 11/00 20060101AFI20220511BHJP
A47B 31/00 20060101ALI20220511BHJP
A47B 31/06 20060101ALI20220511BHJP
A47B 91/06 20060101ALI20220511BHJP
B62B 3/00 20060101ALI20220511BHJP
B62B 3/02 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B64D11/00
A47B31/00 H
A47B31/06
A47B91/06
B62B3/00 B
B62B3/02 H
(21)【出願番号】P 2018074931
(22)【出願日】2018-04-09
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176201
【氏名又は名称】小久保 篤史
(72)【発明者】
【氏名】北野 斉
(72)【発明者】
【氏名】岩城 翔
【審査官】川村 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-323896(JP,A)
【文献】特開2004-261363(JP,A)
【文献】特開2004-1705(JP,A)
【文献】特開2007-376(JP,A)
【文献】実開平3-72751(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 11/04
A47B 31/06
B62B 3/00
B62B 3/02
A47B 31/00
A47B 91/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の収容物を収容した状態で搬送可能な搬送カートであって、
前記所定の収容物を収容する筐体部と、
前記筐体部の下方に設けられ、前記搬送カートが搬送される搬送面の上を走行するための複数の車輪を含む搬送支持部と、
前記搬送カートの重心位置を前記搬送面に投影した場合の、該重心位置の該搬送面における投影位置である投影重心位置を算出する算出部と、
前記算出部によって算出された前記投影重心位置に基づいて、前記搬送支持部が有する前記複数の車輪の相対位置を制御する制御部と、
を備える、搬送カート。
【請求項2】
前記制御部は、前記投影重心位置が、前記搬送面において前記複数の車輪によって囲まれて画定されるカート支持領域に含まれるように、該複数の車輪の相対位置を制御する、
請求項1に記載の搬送カート。
【請求項3】
前記搬送支持部は、
一台のモータと、
前記モータで駆動される一対の脚部と、
を有し、
前記一対の脚部のそれぞれは、
前記複数の車輪のうち少なくとも1つの車輪と、
前記少なくとも1つの車輪が設けられる脚部本体と、
を有し、
前記モータが駆動すると、前記一対の脚部のそれぞれが互いに異なる回転方向に同時に回転されるように、前記搬送支持部は構成され、
前記制御部は、前記投影重心位置に基づいて前記モータの駆動を制御することで、前記複数の車輪の相対位置を制御する、
請求項1又は請求項2に記載の搬送カート。
【請求項4】
前記制御部は、前記投影重心位置に基づいて、前記複数の車輪の相対位置と共に、前記搬送面に対する前記筐体部の傾きを制御する、
請求項1又は請求項2に記載の搬送カート。
【請求項5】
前記搬送支持部は、
一台のモータと、
前記モータで駆動される一対の脚部と、
を有し、
前記一対の脚部のそれぞれは、
前記複数の車輪のうち少なくとも1つの車輪と、
前記少なくとも1つの車輪が設けられる脚部本体と、
を有し、
前記モータが駆動すると、前記一対の脚部のそれぞれが互いに異なる回転方向に同時に回転され、且つ、該モータの駆動により該一対の脚部のそれぞれが回転されると、該脚部の回転位置に応じて該脚部の高さを変動させて前記筐体部の傾きが変化するように、前記搬送支持部は構成され、
前記制御部は、前記投影重心位置に基づいて前記モータの駆動を制御することで、前記複数の車輪の相対位置を制御する、
請求項4に記載の搬送カート。
【請求項6】
前記一対の脚部が、前記搬送カートの所定方向において該搬送カートの前記筐体部を挟んだそれぞれの位置に配置される、
請求項5に記載の搬送カート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の収容物を収容した状態で搬送可能な搬送カートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、搬送カートは、その内部に所定のサービス提供のために収容物を収容して搬送するカートであり、例えば、航空機の機内、病院や福祉施設内で使用され、飲食物等の提供サービスに供される。例えば、特許文献1や特許文献2に示す搬送カートは、箱状の筐体を有し、そこに4輪の車輪が設けられて、内部に飲食物が収納されると共に、操作者が手で押して搬送される。このとき収容物が収容された搬送カートの重量は比較的重くなり得るため、操作者の操作負荷を軽減するために、操作者の力に応じて車輪をモータ駆動するパワーアシスト機構が設置されている。
【0003】
また、搬送カートが使用される環境によっては、搬送カートに不測の力が作用する場合がある。例えば、搬送カートが航空機内で使用される場合、乱気流等の要因で機体の急な姿勢変化によって搬送カートの姿勢が不安定となり搬送カートの転倒が生じ得る。また、航空機が上昇飛行又は下降飛行をしている場合にも、機内の床面の傾斜により搬送カートの転倒が生じる。そこで、例えば、特許文献3に示す技術では、航空機内で使用される搬送カートにおいて、機体が急激に上下動したことを検出すると搬送カートの左右からプレートを突出させて周囲の座席とプレートを係合させてその転倒防止を図っている。また、特許文献4に示す技術では、搬送カートの下面から針を移動面に突出させて差し込み、その転倒防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-201899号公報
【文献】特許第4256156号公報
【文献】特開2005-59628号公報
【文献】特許第4507218号公報
【文献】国際公開第2015/133339号
【文献】米国特許第5927423号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
搬送カートに収容物を収容すると、その重量は比較的大きくなり、場合によっては、操作者の重量を超えるものとなり得る。例えば、航空機内で搬送カートが使用される場合、収容物である食事等の搬送を行う前は、所定の空間(ギャレー内)に配置、固定されているため、搬送カートの転倒のおそれはないものの、そこから搬送カートを取り出し食事等の提供を行う段階では、搬送カートの転倒の可能性が高まる。航空機では、その上昇飛行又は下降飛行によって機内の床面が傾斜したり、航空機が乱気流等に巻き込まれ機体が大きく揺れたりする場合があり、このように搬送カートの搬送面の傾きが時々刻々変化し得る場所で搬送カートが使用される場合には、特にその転倒が危惧される。搬送カートの操作者や、その周辺にいる人物の安全性を確保するためにも、搬送カートの転倒は十分に回避されなければならない。
【0006】
例えば、上記の従来技術によれば、搬送カートの下部から突出するプレートや針等を利用して、搬送カートを固定された構造物(座席や床等)に連結させることで、搬送カートの転倒防止が図られている。これらの従来技術は、いわば搬送カートを連結対象と物理的
に連結することでその転倒防止を図るものである。そのため、プレートを利用する場合には、その連結対象となる座席が存在しない場所では搬送カートの固定は難しくなる。また針を利用する場合でも、搬送カート下の床面が、針が差し込まれる形態のものに限られる。そのため、プレート利用の場合と同様に、搬送カートの十分な転倒防止を図ることは容易ではない。
【0007】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、所定の収容物を収容した状態で搬送可能な搬送カートの十分な転倒防止を図るための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、上記課題を解決するために、本発明の搬送カートでは、当該搬送カートの重心位置に応じて、搬送カートを支持する複数の車輪の相対位置を制御する構成を採用した。このように搬送カート自身の構成である複数の車輪の相対位置を制御することで、搬送カートに作用する外力に対して十分に抗することが可能となるとともに、その際に搬送カートを連結等するための構造物を必要としないため、搬送カートの使用場所にかかわらずその転倒を十分に防ぐことができる。
【0009】
詳細には、本発明は、所定の収容物を収容した状態で搬送可能な搬送カートであって、前記所定の収容物を収容する筐体部と、前記筐体部の下方に設けられ、前記搬送カートが搬送される搬送面の上を走行するための複数の車輪を含む搬送支持部と、前記搬送カートの重心位置を前記搬送面に投影した場合の、該重心位置の該搬送面における投影位置である投影重心位置を算出する算出部と、前記算出部によって算出された前記投影重心位置に基づいて、前記搬送支持部が有する前記複数の車輪の相対位置を制御する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
搬送カートの十分な転倒防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例に係る搬送カートの概略構成を示す図である。
【
図2A】
図1に示す搬送カートにおいて搬送支持ユニットの脚部を開いた状態を、側方(ZX平面)と下方(XY平面)からの視点で示した図である。
【
図2B】
図2Aと同じ状態にある搬送カートを、側方(ZX平面)からの視点で示した図である。
【
図3A】
図1に示す搬送カートにおいて搬送支持ユニットの脚部を閉じた状態を、側方(ZX平面)と下方(XY平面)からの視点で示した図である。
【
図3B】
図3Aと同じ状態にある搬送カートを、側方(ZX平面)からの視点で示した図である。
【
図4】実施例に係る搬送カートにおいて形成される機能部をイメージ化した機能ブロック図である。
【
図5】実施例に係る搬送カートの重心位置の算出方法を説明するための図である。
【
図6】実施例に掛かる搬送カートにおけるカート支持領域とその重心位置の相関を示す図である。
【
図7】実施例に係る搬送カートにおいて実行される転倒防止制御に関するフローチャートである。
【
図8】変形例に係る搬送カートの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施形態の搬送カートは、筐体部に所定の収容物が収容されて、その搬送を可能とす
る。筐体部における所定の収容物の収容形態については、筐体部の内部に所定の収容物を収容してもよく、別法として、筐体部の上部や側部に所定の収容物を配置して収容するようにしてもよい。すなわち、所定の収容物の収容目的に応じて、筐体部における収容状態は適宜決定されればよい。また、所定の収容物の数、大きさ、重さ等については、特段の数値範囲に限られるものではなく、例えば、搬送カートの使用が阻害されない程度に所定の収容物に関する諸元は決定されればよい。
【0013】
ここで、当該搬送カートは、複数の車輪を含む搬送支持部を筐体部の下方に備えている。複数の車輪により筐体部が支持され、搬送カートの搬送面の走行が可能となる。したがって、搬送支持部に含まれる複数の車輪については、筐体部の支持の観点から好適に決定されればよい。また、搬送カートにおいて、複数の車輪はアクチュエータから駆動力が供給されて自律的に又は補助的に駆動される駆動輪であってもよく、別法として、搬送カートを操作する操作者から受ける力によって回転する車輪であってもよい。
【0014】
そして、上記搬送カートでは、算出部によって搬送カートの投影重心位置が算出される。この投影重心位置は、搬送カートの重心位置を、鉛直方向に沿って搬送面に投影した場合の投影位置である。したがって、投影重心位置は、搬送支持部の複数の車輪によって筐体部が支持されている状態において、その支持状態の安定性と強い相関性を有するパラメータと考えられる。例えば、投影重心位置が、搬送面において複数の車輪によって囲まれて画定されるカート支持領域から離れるほど、搬送支持部による支持状態の安定性は低下していくことになる。そこで、制御部がその投影重心位置に基づいて搬送支持部が有する複数の車輪の相対位置を制御する。これにより、カート支持領域の大きさや形状が変化し、カート支持領域と投影重心位置との相関を変化させることができ、以て、搬送カートの安定性を高めその転倒を防止することができる。また、このように複数の車輪の相対位置を制御することで搬送カートの安定性の確保を図る場合、搬送カートをその周囲にある構造物と物理的に連結、固定等する必要がない。そのため、周囲の構造物の有無や当該連結等に関する適否に影響されることなく、搬送カートの安定性の確保を図ることができる。
【0015】
また、前記制御部は、前記投影重心位置が、前記搬送面において前記複数の車輪によって囲まれて画定されるカート支持領域に含まれるように、該複数の車輪の相対位置を制御してもよい。このような制御により、搬送カートの安定性は常に好適な状態に維持されることになる。更に、好ましくは、カート支持領域の内部に属し、より高い安定性が見込まれる所定領域に投影重心位置が含まれるように上記制御を行ってもよい。
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0017】
<実施例>
ここで、本実施例の搬送カート1について、
図1及び
図2A、
図2B、
図3A、
図3Bに基づいて説明する。
図1は、搬送カート1の特に下部(搬送カート1が搬送面に接触する部位の近傍)の構造を示している。なお、本実施例においては、基本的な搬送カート1の進行方向(操作者により押されて進むことが想定されている方向)をX軸、そのX軸に直交し搬送カート1の左右方向(幅方向)をY軸、X軸及びY軸に直交し搬送カート1が水平面に配置されたときの鉛直方向をZ軸と設定する。したがって、X軸回りの回転方向がロール方向となり、そのロール回転面がYZ平面となる。また、Y軸回りの回転方向がピッチ方向となり、そのピッチ回転面がZX平面となる。
【0018】
図2Aは、後述する搬送支持ユニット3の脚部32が最も開いた第1状態にあるときの、搬送支持ユニット3の側方視図(ZX平面図)と下方視図(XY平面図)であり、
図2
Bは、その脚部32が第1状態にある搬送カート1の側方視図(ZX平面図)である。また、
図3Aは、後述する搬送支持ユニット3の脚部32が最も閉じた第2状態にあるときの、搬送支持ユニット3の側方視図(ZX平面図)と下方視図(XY平面図)であり、
図3Bは、その脚部32が第2状態にある搬送カート1の側方視図(ZX平面図)である。通常、水平な搬送面上を搬送カート1が移動する場合には、脚部32は第1状態とされて
図2Bに示すように筐体部2が搬送面に対して概ね平行とされる。そして、例えば、
図3Bに示すように搬送面が傾斜してきた場合、搬送カート1の安定性の低下を防止するために脚部32が第2状態とされる。以下に、この安定性の低下防止のための技術について説明する。
【0019】
先ず、搬送カート1は、その前方側と後方側のそれぞれに搬送支持ユニット3が設けられている。各搬送支持ユニット3は、基本的には同一の構成を有している。搬送支持ユニット3は、一対の脚部32、すなわち2本の脚部32を有しており、各脚部32には、搬送カート1が搬送面を搬送するための車輪31が一輪設けられている。したがって、搬送支持ユニット3には2輪の車輪31が含まれ、搬送カート1としては4輪の車輪31が含まれることになる。更に搬送支持ユニット3には、車輪31に制動力を付与しその回転を弱め、又は停止させるブレーキ34が設けられている。また、搬送支持ユニット3においては、支持胴体部33に2つの脚部32と1台のモータ35が、後述する動力伝達機構を介して設けられるとともに、モータ35による駆動力が当該動力伝達機構を介して2本の脚部32に伝えられ、
図2Aや
図3Aに示すように脚部32が開閉駆動される。
【0020】
ここで、
図2A及び
図3Aに基づいて、モータ35と脚部32との間の上記動力伝達機構を中心に説明する。上記の通り、搬送支持ユニット3は、2本の脚部32を有している。そして、一本の脚部32においては、脚部本体321の先端側に1輪の車輪31が回転可能に取り付けられている。ここで、上記動力伝達機構は、一本の左右ねじ41と、2つの移動ブロック42と、各移動ブロック42に対応する回転軸43と、各移動ブロック42に対応するピニオン44と、アウターレール45と、ラック46を有している。左右ねじ41は、モータ35の出力軸に接続されている。左右ねじは、ねじ本体に、それぞれ回転方向の異なるねじ部、すなわち右回りのねじ部と左回りのねじ部が形成されているねじである。そして、その左右ねじ41の右回りのねじ部と左回りのねじ部のそれぞれに取り付けられたボールねじナット(不図示)を介して、2つの移動ブロック42が一本の左右ねじ41上に配置されている。なお、各移動ブロック42は、その側方をアウターレール45に挟まれるように配置されている。移動ブロック42とアウターレール45との間には、複数の転動体(不図示)が移動ブロック42側の転動面とアウターレール45側の転動面との間に介在するように配置されることで、各移動ブロック42がアウターレール45に対して移動可能に支持されている。このような構成により、モータ35により左右ねじ41が駆動されると、それぞれの移動ブロック42が近接したり離間したりするように移動する。
【0021】
また、各移動ブロック42には、Z軸方向に延在するように回転軸43が設けられるとともに、その回転軸43を中心にピニオン44が、XY平面で回転可能となるように回転軸43に取り付けられている。更に、脚部本体321が、回転軸43とともにXY平面で回転可能となるように当該回転軸43に取り付けられ、且つ、XY平面に直交する方向(すなわち、Z軸方向)に回転可能となるようにその基端側322が、回転軸43に直交するように取り付けられた回転軸323で軸支されている。このように脚部本体321は、XY平面に沿った回転と、Z軸方向への回転との両方が可能となるように、上記伝達機構に取り付けられている。
【0022】
また、
図2Aの下段(b)に示すように、上記伝達機構においては、Y軸方向に沿ってラック46が設けられている。このラック46のピッチはピニオン44のピッチに対応し
ており、搬送支持ユニット3において、ピニオン44とラック46とは噛み合った状態となっている。
【0023】
そして、モータ35が駆動されるとその駆動力が左右ねじ41に伝達される。その結果、右回りのねじ部側に配置された移動ブロック42と左回りのねじ部側に配置された移動ブロック42には、Y軸に沿った異なる方向に同時に駆動力が付与されることになる。ここで、各移動ブロック42においては、それぞれのピニオン44がラック46と噛み合い、且つ回転軸43で軸支されている。そのため、モータ35により上記駆動力が付与されると、回転軸43を中心とした、XY平面での2本の脚部32の回転が同時に行われ、それぞれの回転方向は異なる方向となる。本実施例では、脚部32が最も開いた第1状態になった状況を
図2Aに示し、脚部32が最も閉じた第2状態になった状況を
図3Aが示している。両図を比較して理解できるように、脚部32の開き具合が変化することで、各脚部32の車輪31の位置が変化している。
【0024】
また、支持胴体部33の前方は、
図1に示すように搬送カート1の幅方向(Y軸方向)の中央で最も下方に突出し、側方に進むほどその突出量が小さくなる形状を有している。すなわち、支持胴体部33の前方は、搬送カート1の幅方向の位置によって下方への傾斜が異なっている。ここで、
図2Aの上段(a)や
図3Aの上段(a)に示すように、脚部32の脚部本体321の上面は、支持胴体部33の前方の内側斜面331、332とガイド36を介して接続されている。この構成により、上述したようにモータ35によって2本の脚部32が開閉駆動されるとき、それぞれの脚部本体321は支持胴体部33の内側斜面331、332にならって移動する。
【0025】
そして、支持胴体部33が上述した形状を有することから、幅方向での側方寄りの内側斜面331の傾斜は、幅方向での中央寄りの内側斜面332の傾斜よりも緩やかとなる。この結果、
図2Aに示すように2本の脚部32が第1状態に置かれると、それぞれの先端側は搬送カート1の幅方向の側方寄りに位置する。その結果、内側斜面331の傾斜にならって脚部32が回転軸323を中心に回転し、脚部32の高さ(Z軸方向の寸法)が決定される。一方で、
図3Aに示すように2本の脚部32が第2状態に置かれると、それぞれの先端側は搬送カート1の幅方向の中央寄りに位置する。その結果、内側斜面332の傾斜にならって脚部32が回転軸323を中心に回転し、その脚部32の回転位置に応じて脚部32の高さ(Z軸方向の寸法)が決定される。したがって、
図2Aの上段(a)と
図3Aの上段(a)とを比較して分かるように、モータ35により2本の脚部32が開閉駆動されると、各脚部32は、第2状態に置かれている場合の方が、第1状態に置かれている場合よりも脚部32の高さが高くなる。
【0026】
このような搬送支持ユニット3が取り付けられた搬送カート1における、搬送時の当該搬送カート1の姿勢について、
図2B及び
図3Bに基づいて説明する。
図2Bは、水平な搬送面を搬送している搬送カート1の姿勢を示しており、
図3Bは、搬送方向の前方で下方に傾斜している搬送面を搬送している搬送カート1の姿勢を示している。上記の通り、搬送カート1においては、その前方に1つの搬送支持ユニット3が取り付けられるとともにその後方にも1つの搬送支持ユニット3が取り付けられており、各搬送支持ユニット3において2本の脚部32は搬送カート1の搬送方向側(進行又は後退する方向側)となっている。
【0027】
搬送カート1が水平な搬送面を搬送している場合、
図2Bに示すように、前後両方の搬送支持ユニット3において、2本の脚部32は同じ開閉状態、好ましくはともに第1状態とされる。上述したように、脚部32の高さは、第1状態の方が第2状態よりも低くなる。脚部32の高さが高くなると搬送カート1の重心位置も高くなるため、搬送時の安定性の観点に立てば上記の通り第1状態の方が好ましい。一方で、搬送カート1が
図3Bに示
す傾斜した搬送面を搬送している場合、前方の搬送支持ユニット3においては2本の脚部32を第2状態とするとともに、後方の搬送支持ユニット3においては2本の脚部32を第1状態とする。このため、搬送カート1の前方の高さが後方の高さよりも高くなり、結果として、搬送カート1の筐体部2の傾きを抑えて(場合によっては、概ね筐体部2を水平状態に維持したまま)、傾斜面での搬送を実現することができる。
【0028】
なお、前後両方の搬送支持ユニット3において、それぞれの脚部32を第1状態、第2状態の何れかにするかは、安定した搬送の実現の観点から適宜選択できる。また、脚部32の開閉状態を第1状態と第2状態の間の開閉状態にすることもでき、以て、筐体部2の傾きを好適に調整できるように搬送カート1は構成されている。
【0029】
<搬送カート1の制御部>
次に、このように構成される搬送カート1における制御構造について、
図4に基づいて説明する。
図4は、搬送カート1が有する制御装置10に含まれる各機能部を示している。制御装置10は、演算処理装置及びメモリを有するコンピュータであり、機能部として、重心算出部110、車輪位置制御部111および走行アシスト部112を有している。各機能部は、制御装置10において所定の制御プログラムが実行されることで形成される。更に、搬送カート1には、加速度センサ11X、11Y、11Z、角速度センサ12ZX、12YZ、バッテリ13、車輪駆動部14、ブレーキ駆動部15、脚駆動部16が備えられている。加速度センサについては、搬送カート1におけるX軸方向、Y軸方向、Z軸方向の加速度検出する加速度センサを、それぞれ11X、11Y、11Zと参照する。また、角速度センサについては、ピッチ回転、すなわちZX平面上の回転における角速度を検出する角速度センサを12ZXと参照し、ロール回転、すなわちYZ平面上の回転における角速度を検出する角速度センサを12YZと参照する。各センサの検出値は、制御装置10に引き渡される。
【0030】
また、バッテリ13は、脚駆動部16に含まれるモータ35の駆動のための電力や、車輪31を後述の車輪駆動部14で駆動するための電力等を蓄電している。バッテリ13からの電力供給は、制御装置10によって制御される。車輪駆動部14は、搬送支持ユニット3の2本の脚部32のそれぞれに設けられている車輪31を、電気的に回転駆動するための構成である。具体的には、車輪駆動部14は、操作者の手元に設けられている操作ボタンを含み、その操作内容に基づいて車輪31を回転駆動させるアクチュエータや当該アクチュエータの駆動力を車輪31に伝達する伝達機構も含む。ブレーキ駆動部15は、搬送支持ユニット3の2本の脚部32のそれぞれに設けられているブレーキ34を駆動し、車輪31に対して制動力を付与する。具体的には、ブレーキ駆動部15は、操作者の手元に設けられている操作ボタンや、車輪31へのブレーキ34による制動を調整する機構等を含む。脚駆動部16は、モータ35及び上述の動力伝達機構を含み、脚部32を開閉駆動(第1状態から第2状態の間での開閉駆動)するための機構である。
【0031】
ここで、制御装置10が有する各機能部について説明する。先ず、重心算出部110は、搬送カート1の重心位置の搬送面への投影位置である投影重心位置を算出する機能部であり、当該算出においては、加速度センサ11X~11Z、角速度センサ12YZ、12ZXの検出値が利用される。投影重心位置の算出について、
図5に基づいて説明する。
図5は、搬送カート1をYZ平面(幅方向の断面)でモデル化した図であり、その重心Wは、搬送カート1が水平な搬送面上に静止している場合には、その幅方向の中央部位の直上に位置しているものとする。なお、
図5では、搬送面上で搬送カート1の筐体部2を支持している構成を緩衝部と表している。これは、搬送カート1のYZ平面上で外力が作用したときに、車輪31や脚部32等による生じる微小な弾性変形等を考慮したものである。
【0032】
ここで、加速度センサ11Zによって搬送カート1の重心WのZ軸方向の往復運動がZ
軸方向の縦揺れとして検出されるとともに、角速度センサ12YZによって重心WのX軸を中心とした回転運動がその回転方向の横揺れとして検出され、それぞれの検出値が重心算出部110に引き渡される。重心算出部110は、加速度センサ11Zの検出結果から縦揺れの周波数v’を求めるとともに、角速度センサ12YZの検出結果から横揺れの周波数V’を算出する。次に、重心算出部110は、下記の式1に従い、縦揺れの周波数v’に基づいて、搬送カート1がY軸方向で転倒に至る重心Wの限界高さLmaxを算出する。この限界高さLmaxは、搬送カート1の重心Wが限界高さ「Lmax」以上に位置する場合には、搬送カート1が転倒してしまう高さである。
【数1】
更に、重心算出部110は、下記の式2を用いて横揺れの周波数V’に基づいて、筐体部2の底部からの重心Wの高さLを算出する。
【数2】
【0033】
そして、重心算出部110は、以下の式3に従い、上記限界高さLmaxと重心高さLに基づいて、搬送カート1のロール傾斜角θ(YZ平面での搬送カート1の傾き)を算出する。
【数3】
ただし、qは、搬送カート1に作用する外力のうち重心Wの接線方向に加わる力fの、重力加速度gに対する比である重力比を表す。この重力比qは、加速度センサ11Xの検出値を利用して算出できる。
【0034】
そして、重心算出部110は、重心Wの高さLとロール傾斜角θに基づいて、Y軸方向における重心Wの投影重心位置Wxpを、下記の式4に従って算出する。
Wxp = L×sinθ ・・・(式4)
【0035】
更に、搬送カート1のZX平面(前後方向の断面)でも同様の算出手法に従い、重心算出部110は、X軸方向における重心Wの投影重心位置Wypを算出する。具体的には、加速度センサ11Zによって搬送カート1の重心WのZ軸方向の往復運動がZ軸方向の縦揺れとして検出されるとともに、角速度センサ12ZXによって重心WのY軸を中心とした回転運動がその回転方向の横揺れとして検出される。そして、この縦揺れの周波数と横揺れの周波数に従って、式1及び式2を参考に、ZX平面での限界高さLmax及び重心高さLが算出されるとともに、式3を参考に、ZX平面での搬送カート1の傾きθが算出される。この結果、重心算出部110は、式4を参考に、X軸方向における重心Wの投影重心位置Wypを算出する。このように重心算出部110によって算出されたWxp及びWypが、重心Wが搬送面に投影された場合の投影重心位置となる。
【0036】
次に、車輪位置制御部111について、
図6に基づいて説明する。車輪位置制御部111は、脚駆動部16により搬送カート1が備える4輪の車輪31の相対位置を制御して、カート支持領域を調整する機能部である。ここで、
図6の上段(a)では、搬送カート1が備える2つの搬送支持ユニット3のうち、前方の搬送支持ユニット3において2つの脚部32を第1状態(実線で記載)と第2状態(破線で記載)とに変化させた場合を重ね、且つ、後方の搬送支持ユニット3においては2つの脚部32を第1状態のままとして表記している。そして、下段(b)では、上段(a)に対応したカート支持領域が表記されている。具体的には、前方の脚部32が第1状態に置かれている場合のカート支持領域は実線で表され、参照番号はR1で参照される。この場合、前後方向における車輪31の配置が概ね対称となっているため、カート支持領域R1は概ね矩形状となっている。また、前方の脚部32が第2状態に置かれると、第1状態と比べて、前方の2本の脚部32では車輪31間の距離が狭まるとともに車輪31がより前方に飛び出した位置に至る。そのため、この場合のカート支持領域R2(破線で表されている領域)は、カート支持領域R1と比べて、前方に飛び出した台形状となる。
【0037】
このように車輪位置制御部111によりカート支持領域が調整されると、搬送カート1の搬送時の安定性を調整することができる。すなわち、搬送カート1の投影重心位置がカート支持領域を逸脱してしまうと、搬送カート1がその逸脱した方向に転倒するおそれが生じる。例えば、カート支持領域がR1で参照される状態の場合に、搬送カート1の投影重心位置がP1で参照される位置にあるときは、搬送カート1の安定性は比較的高く、転倒のおそれはない。一方で、何らかの理由で搬送カート1の投影重心位置がP2で参照される位置に至ると、投影重心位置がそのときのカート支持領域R1を逸脱してしまうため搬送カート1の安定性が低下し転倒のおそれが生じる。このような場合には、車輪位置制御部111が脚駆動部16を介して4輪の車輪31の相対位置を調整し、カート支持領域をR2で参照する形態に変更し投影重心位置P2がそこに含まれるようにすることで、搬送カート1の安定性を高めその転倒を防止することができる。
【0038】
次に、走行アシスト部112について説明する。走行アシスト部112は、操作者が搬送カート1を搬送させる際の、操作者の労力を可及的に軽減するために、搬送に必要な車輪31の回転駆動をアシストする機能部である。具体的には、操作者の搬送操作(例えば、手元での操作ボタンの押下等)があると、走行アシスト部112は、車輪駆動部14を介して車輪31を回転駆動させる。この結果、操作者は、実質的に搬送カート1に搬送のための力を掛けなくても、又は、その力をより抑えた状態で搬送カート1を搬送させることができる。なお、走行アシスト部112による車輪31の駆動で搬送カート1の速度が過度に上昇した場合には、走行アシスト部112はブレーキ駆動部15を介してブレーキ34を作動させてもよい。
【0039】
<転倒防止制御>
ここで、
図7に基づいて、搬送カート1において実行される転倒防止制御について説明する。当該転倒防止制御は、制御装置10で所定の制御プログラムが実行されることで実現され、且つ、制御装置10において所定間隔で繰り返し実行される。
【0040】
先ず、S101では、搬送カート1の投影重心位置が算出される。当該処理は、重心算出部110によって行われる。次に、S102では、S101で算出された投影重心位置が、その時点の4輪の車輪31で画定されるカート支持領域を逸脱しているか否かが判定される。カート支持領域は、モータ35によって開閉駆動される脚部32の開閉状態に基づいて決定される。すなわち、脚部32がモータ35の駆動によって第1状態と第2状態との間の開閉状態に置かれることを考慮して、モータ35の出力軸の位置等に基づいて、S102の処理が行われる時点のカート支持領域を把握することができる。S102で肯定判定されると処理はS103へ進み、否定判定されると本制御を終了する。
【0041】
次に、S103では、カート支持領域を逸脱してしまった搬送カート1の投影重心位置が、新たなカート支持領域に含まれるように、その新たなカート支持領域を画定する、4輪の車輪31の新たな位置が決定される。例えば、
図6の下段(b)に基づいて説明したように、逸脱した投影重心位置P2をR2で参照されるカート支持領域に含めるように、そのカート支持領域R2を画定する車輪31の位置がS103で決定されることになる。続いて、S104では、脚部32が駆動されてその車輪31がS103で決定された新たな位置に配置されるようにモータ35が制御される。なお、S102~S103の処理は、車輪位置制御部111によって行われる。
【0042】
このように
図7に示す転倒防止制御によれば、何らかの理由で搬送カート1に外力が作用しても、その投影重心位置をカート支持領域内に収めるべく車輪31の位置が調整される。そのため、搬送カート1を可及的に安定した状態に維持でき、操作者はより安全に搬送カート1を利用することができる。また、転倒防止制御では、従来技術と異なり、搬送カート1を安定に維持するためにその周囲の構造物に対する固定等の物理的な連結作業は行われない。そのため、連結作業の対象となる構造物の有無にかかわらず搬送カート1を安定な状態に維持でき、搬送カート1の転倒防止をより効果的に図ることができる。
【0043】
また、本実施例の搬送カート1では、
図2A及び
図3Aで示したようにモータ35により脚部32を開閉駆動すると、脚部32の高さも変動する。そして、その脚部32の高さの変動は筐体部2の傾きを変動させるため、最終的には重心算出部110により算出される投影重心位置に反映される。このように脚部32の高さが変動させると、投影重心位置を円滑に変化させることができる。したがって、車輪31の相対位置を制御するとともに脚部32の高さを変動させることで、投影重心位置をカート支持領域に収めやすくなり、以て、搬送カート1の転倒をより好適に防止することができる。
【0044】
なお、搬送カート1の転倒を防止する観点に立てば、カート支持領域を調整してそこに投影重心位置を収めることができれば、脚部32を開閉駆動した際にその高さは必ずしも変動する必要はない。したがって、支持胴体部33の内側斜面は、脚部32の開閉動作にかかわらず脚部32の高さが一定となるように形成されてもよい。
【0045】
また、別法について、
図8に示す搬送カート1の変形例に基づいて説明する。
図8の上段(a)は搬送カート1の側方視の状態を表し、下段(b)は搬送カート1の下方視の状態を表している。ここで、
図8に示す変形例の搬送カート1では、搬送支持ユニット3は、上述までの実施例のように筐体部2を支持する脚部32を有しておらず、その代わりに筐体部2の下方に取り付けられたベース40を有している。そして、4輪の車輪31が、このベース40に対して図示しない変位機構を介して繋がれている。このような構成により、搬送カート1の前方(
図8中のX軸の左手方向)に配置されている2つの車輪31は、そのX軸方向に沿って変位可能であり(その変位方向の例を白抜き矢印で表している)、同じように搬送カート1の後方に配置されている2つの車輪31も、そのX軸方向に沿って変位可能である。このように構成されている搬送カート1では、ベース40に対する車輪31を変位させ、以て4輪の車輪31を相対位置を変化させることで、カート支持領域を変化させることができる。そして、上述の転倒防止制御を
図8に示す搬送カート1にも適用でき、以て、その転倒防止が実現される。
【0046】
更に別法として、
図1に示す搬送カート1において2組の搬送支持ユニット3を取り付ける場合、それぞれの脚部32がY軸方向側で開閉するように取り付けて、上述の転倒防止制御を適用してもよい。また、
図8に示す搬送カート1においては、車輪31がY軸方向に沿って変位可能となるように当該車輪31がベース40に変位機構を介して繋がれて、上述の転倒防止制御を適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1・・・搬送カート、2・・・筐体部、3・・・搬送支持ユニット、10・・・制御装置、11X、11Y、11Z・・・加速度センサ、12YZ、12ZX・・・角速度センサ、31・・・車輪、32・・・脚部、33・・・支持胴体部、35・・・モータ、40・・・ベース