(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ターンバックル用締付工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/00 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
B25B21/00 H
(21)【出願番号】P 2019185812
(22)【出願日】2019-10-09
【審査請求日】2021-07-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 令和元年10月8日・9日に東京ビッグサイト青海展示棟で開催された「ハイウェイテクノフェア2019」において、末陰産業株式会社及び株式会社ネクスコ・メンテナンス新潟を代表して株式会社ネクスコ・メンテナンス新潟が、本願発明を公開した。
(73)【特許権者】
【識別番号】595072664
【氏名又は名称】末陰産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509185446
【氏名又は名称】株式会社ネクスコ・メンテナンス新潟
(74)【代理人】
【識別番号】100165755
【氏名又は名称】藤田 典彦
(72)【発明者】
【氏名】末陰 孝博
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晴夫
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-254773(JP,A)
【文献】特開昭57-149167(JP,A)
【文献】特開平05-069343(JP,A)
【文献】特開2001-138255(JP,A)
【文献】特開平05-177559(JP,A)
【文献】特開平02-235572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体と、該工具本体の先端に設けられたソケット差込部内に配設され、ターンバックルの被嵌合部と嵌合するソケットと、前記ソケットに回転駆動力を伝動して回転させる伝動ギヤを備えた駆動力伝動機構と、前記ソケットの軸部を回動自在に軸受するとともに前記ソケット差込部に対して回動自在に軸支される軸受体を備えたソケット回転安定機構と、からなり、
前記軸受体は、全体が略短筒状体であり、その内周面上に前記ソケットの軸部を回動自在に軸受するソケット軸受部と、前記ソケット差込部の外側面上に位置させるための前記軸受体の外周面上に延設して形成された鍔状部と、を有することを特徴とするターンバックル用締付工具。
【請求項2】
ソケット回転安定機構は、軸受体を回動動作させるため、前記軸受体の外側面に一端が固定された操作部を有することを特徴とする請求項1に記載のターンバックル用締付工具。
【請求項3】
ソケット回転安定機構は、軸受体の鍔状部をソケット差込部の外側面上に回動自在に配設するための押え部材を有することを特徴とする請求項1又は2のいずれか一項に記載のターンバックル用締付工具。
【請求項4】
ソケット回転安定機構は、押え部材及びソケット差込部との間に介挿され、軸受体の鍔部の厚みと同程度の厚みと、前記鍔部全体を内包しうる開口部と、を備えた
スペーサーを有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のターンバックル用締付工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープ間を連結するためのターンバックル用締付工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、道路等の中央分離帯に車両の衝突時の衝撃に抵抗するために複数の支柱及び支柱間に張設されたワイヤロープを有するワイヤロープ式防護柵が設置されており、このワイヤロープ間を連結するためのターンバックルが備えられている。
【0003】
ターンバックルは、設置工事や事故処理等でワイヤロープ同士を強い張力で緊張状態を保つように連結するために用いられるものであり、ターンバックルの中央部分に設けられた略四角柱状の被嵌合部にオープンレンチ型の締付工具を嵌合させた後にソケットを回転させることで、ターンバックルの両端に固定されたワイヤロープ同士を張設するためのものである。このターンバックルは、ワイヤロープ同士の張力を容易に調節することができる一方で、このターンバックルが宙に浮いた状態のまま、このターンバックルの被嵌合部をオープンレンチ型のターンバックル用締付工具のソケットで嵌合保持した状態で連結又は取り外し作業を迅速に行う必要がある。
【0004】
そのため、特許文献1によれば、オープンレンチ型のターンバックル用締付工具は、ワイヤロープを緊締する際にターンバックル自体を押さえて離脱することを防止する保持機構を備えたものが開示されている。また、本出願人らは、ターンバックルの供回り等を押えることや、ターンバックルの被嵌合部に締付工具の嵌合した状態を保持すること、などを適切に行うためにターンバックル用締付工具による作業を補助するための連結解除装置を提案した(特願2019-15662、出願日:平成31年1月31日参照)。
【0005】
しかしながら、上述したオープンレンチ型の締付工具は、迅速にターンバックルの被嵌合部にターンバックル用締付工具のソケット(加力円盤22(特許文献1))を嵌合せしめるために、締付工具の先端側の開口端(スロット20(特許文献1))の幅をソケットの被嵌合部の幅と同程度またはそれ以上の大きさにするものであり、締付工具の先端側の開放端の幅を大きくするとターンバックルの被嵌合部に嵌合保持するためのターンバックル用締付工具のソケットのガタツキが生じて一定の回転中心の位置で安定して回転させづらく、ターンバックルの被嵌合部に十分にトルクを効率よく伝動することが難しいものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、迅速にターンバックルを被嵌合部に締付工具を嵌合させることができるとともに、ターンバックルの被嵌合部に嵌合しうるソケット及びターンバックルの被嵌合部に対して十分にトルクが伝動され、ソケットの回転動作がガタツキなく連結作業や取り外し作業を行うことが可能なターンバックル用締付工具が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、工具本体と、該工具本体の先端に設けられたソケット差込部内に配設され、ターンバックルの被嵌合部と嵌合するソケットと、前記ソケットに回転駆動力を伝動して回転させる伝動ギヤを備えた駆動力伝動機構と、前記ソケットの軸部を回動自在に軸受するとともに前記ソケット差込部に対して回動自在に軸支される軸受体を備えたソケット回転安定機構と、からなり、
前記軸受体は、全体が略短筒状体であり、その内周面上に前記ソケットの軸部を回動自在に軸受するソケット軸受部と、前記ソケット差込部の外側面上に位置させるために前記軸受体の外周面上に延設して形成された鍔状部と、を有することを特徴とするものである。
【0009】
また、上述した構成に加え、ソケット回転安定機構は、軸受体を回動動作させるため、前記軸受体の外側面に一端が固定された操作部を有することが好ましい。
【0010】
また、上述した構成に加え、ソケット回転安定機構は、軸受体の鍔状部をソケット差込部の外側面上に回動自在に配設するための押え部材を有することが好ましい。
【0011】
また、上述した構成に加え、ソケット回転安定機構は、押え部材及びソケット差込部との間に介挿され、軸受体の鍔部の厚みと同程度の厚みと、前記鍔部全体を内包しうる開口部と、を備えたスペーサーを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
請求項1-4記載の発明によれば、迅速にターンバックルを締付工具の被嵌合部に嵌合させることができるとともに、とりわけ、宙に浮いた状態のターンバックルに対しても、ターンバックルの被嵌合部に対して十分にトルクが伝動され、ガタツキなく連結作業や取り外し作業を行うことが可能なターンバックル用締付工具を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係るターンバックル用締付工具を示す斜視図である。
【
図2】
図1のソケット差込部周辺を示す分解斜視図である。
【
図3】
図1のソケット回転安定機構における軸受体、押え部材、及び、
スペーサー、の構造を示す拡大斜視図である。
【
図4】ソケット回転安定機構におけるソケット差込部の開口状態を示す(a)ソケット差込部周辺の拡大平面図、及び、(b)A-A線断面図である。
【
図5】ソケット回転安定機構におけるソケット差込部の閉口状態を示す(a)ソケット差込部周辺の拡大平面図、及び、(b)B-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態)
本発明の実施形態について
図1-5に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態のターンバックル用締付工具を使用するターンバックル70は、所定の長さを有する金属材を主体としてなる略棒状体であり、この中央に断面が略多角形状の被嵌合部71(約32mm程度の幅)と、その左右両端にはワイヤロープ80、80の端部に設けられた雄ねじ形状の連結部をねじ込んで螺着するための雌ねじ形状の被連結部、とを備えたものである。
【0015】
本発明のターンバックル用締付工具は、
図1-2に示すように、工具本体10と、工具本体10の先端に設けられたソケット差込部12a、12a内に配設されたソケット30と、ソケット30に回転駆動力を伝動して回転させる伝動ギヤ21を備えた駆動力伝動機構と、ソケット30の軸部32を回動自在に軸受するとともにソケット差込部12a、12aに対して回動自在に軸支される軸受体40、40を備えたソケット回転安定機構と、を主要部として構成されるものである。
【0016】
工具本体10は、柄11と、柄11の一端に固定され、伝動ギヤ21やソケット30を内部に配設するための一対のフレーム部材12、12とからなるものである。このフレーム部材12、12は、工具本体10の先端にソケット30を差し込むために略C字状に先端が開口して形成された開口端12bからなるソケット差込部12a、12aを有するものである。この開口端12bの開口幅W1(約34mm程度)は、少なくとも後述するソケット30の開口端31aの開口幅W2(約30mm程度)よりも大きくすることで、ターンバックル70の被嵌合部71に対してソケット30の嵌合部31に迅速に差し込みやすくするものである。
【0017】
ソケット30は、ターンバックル70の被嵌合部71に嵌合し得るよう略U字状に先端が開口して形成された嵌合部31と、後述のする軸受体40のソケット軸受部41に軸受されるようにソケット30の両側面からフレーム部材12の両側面まで達する程度に略長円筒状に突出して形成された軸部32、32と、ソケット30の外周面に形成され第二ギヤ21b、21bと噛合する歯部33と、を有するものである。このソケット30の開口端31aから嵌合部31に至るまでの一定の開口幅W2(約30mm程度)で形成されたものである。
【0018】
駆動力伝動機構は、一方のフレーム部材12の外側面に一体化するように設けられ、電動工具である電動ドライバーのビットを差し込んで回転駆動力を入力するための入力部20と、入力部20から入力された回転駆動力の回転方向の向きをソケット差込部12a、12a内に配設されたソケット30の回転方向へと変換するためにボックス内に配設されウォームギヤと、該ウォームギヤと噛合するため一対のフレーム部材12、12の内部に軸支された複数の伝動ギヤ21と、を備えてなるものである。
【0019】
伝動ギヤ21は、少なくとも、ウォームギヤと噛合する大径の第一ギヤ21aと、第一ギヤ21a及びソケット30の外周面上に形成された歯部33に噛合する一対の小径の第二ギヤ21b、21bと、を有するものである。また、このウォームギヤは、入力部20に固定された電動工具のビットの回転駆動力を伝動するために用いられているものであり、第1ギヤ21aが歯部を傾斜した歯車(ウォームホイール)である場合、入力部21にビットの回転駆動力を伝動するために、細長い円筒状で周囲にねじ状の歯車を備えたものである。また、この第二ギヤ21b、21bの回転軸間の距離は、ソケットの回転動作を安定させるために少なくとも上述しソケット差込部12a、12aの開口幅W1(約34mm程度)よりも大きい間隔(約56mm程度)にすることが好適である。
【0020】
次に、ソケット回転安定機構について
図2-4に基づいて詳細に説明する。
ソケット回転安定機構は、ソケット30の軸部32、32を回動自在に軸受するとともにソケット差込部12a、12a対して回動自在に軸支される軸受体40と、軸受体40、40を回動操作するための操作部43と、を備えてなるものである。この軸受体40、40は、一対のフレーム部材12、12のソケット差込部12a、12a近傍にそれぞれ配設させるとともに、それぞれの軸受体40、40に固定された操作部43を連結して棒体43aで連結することが好適である。
【0021】
軸受体40、40は、全体が略短円筒体形状であり、その中心付近から先端方向にかけて略U字状に開口して形成され、この外周面上にフレーム部材12、12の外側面上に位置させるために放射方向に延設された鍔状部42と、ソケット30側の内周面上にソケット30の軸部32を軸受するため形成されたソケット軸受部41と、を有するものである。また、この軸受体40、40は、後述する押え部材50よりも外側面方向に突出する程度の厚みを備え、その突出した部分の外側面上に操作部43の一端が固定されているものである。
【0022】
押え部材50は、板状体であり、軸受体40、40の鍔状部42、42をソケット差込部12a、12aの外側面上に回動自在に挟持するために、軸受体40、40と同様に、略U字状に開口して形成され、フレーム部材12、12にねじで固定するための貫通した複数の小孔51、51と、を備えたものである。なお、この押え部材50とソケット差込部12a、12a間には軸受体40、40の鍔状部42を適切な摩擦力等を加えてより一層回動操作しやすくするためのスペーサー60を介挿されている。
【0023】
スペーサー60は、少なくとも鍔状部42と同程度以上の厚みの薄板状体であり、軸受体40、40の鍔状部42よりも一回り大きくして、鍔状部42全体を内包しうる開口部63を有するものであり、また、押え部材50に固定ねじを差し込むための小孔51、51と同様の位置に複数の小孔61、61を有するものである。
【0024】
また、上述した押え部材50及びスペーサー60には、軸受体40、40が回動せずに工具本体10の先端が開口した開口状態、及び、軸受体40、40が先端方向に180度回動して工具本体10の先端が閉口した閉口状態と、をそれぞれ維持するために、操作部43の一部に貫通するように固定された止めピン43bと、該止めピン43bを差し込んでフレーム部材12、12の側面に操作部43を固定するための止め孔52、52、62、62が押え部材50及びスペーサー60の上下の一対に形成されている。
【0025】
次に、上述したソケット回転安定機構によってソケット30の回転中心の位置を安定させて、ワイヤロープ80、80間に張設され、宙に浮いた状態のターンバックル70の被嵌合部71にトルクを効率よく伝動する方法について
図4-5に基づいて説明する。
【0026】
始めに、
図4に示すように、ソケット差込部12aを開口させた状態にしてソケット30の嵌合部31をターンバックル70の被嵌合部71に嵌合させた後、
図5に示すように
、操作部43をソケット差込部12a、12aの先端方向に180度回動操作することで、軸受体40、40の開口端12b、12b側に露出させ、ソケット差込部12a、12aを閉口状態にしたものである。
【0027】
この閉口状態において、従来の回転駆動力伝動機構で伝動された電動工具の回転駆動力によってソケット30を回転させた際に、ソケット差込部12a、12aの開口端12b、12b近傍において、軸受体40のソケット軸受部44とソケット30の軸部32とをしっかりと摺接させることが可能である。そのため、ソケット差込部12a、12aの先端の開口端12b、12bはソケット30の開口端31aより大きいことよって、回転駆動力の伝動(とりわけ、ソケット30の歯部33と回転する第二ギヤ21b、21bとの回転駆動力の伝動)によって生じるソケット30が先端方向に対して外れようとする力(従来のソケット30のガタツキの要因のひとつ)に軸受体40、40で抗するようことができ、ソケット30の回転中心の位置を安定させることが可能である。
【0028】
したがって、本実施形態に示すように、ソケット30の回転中心の位置が安定するため、効率よくトルクをソケット30に伝動することができ、とりわけ、ワイヤロープ80、80間に張設され、宙に浮いた状態のターンバックル70の連結作業や取り外し作業を迅速に行うことが可能である。
【0029】
上記の実施形態では本発明の好ましい実施形態を例示したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で改善や変更が可能である。例えば、軸受体40、40は、ソケット差込部12a、12aの少なくとも一方のみに配設し、他方の軸受体を省くことでターンバックル用締付工具を小型化してもよい。
【符号の説明】
【0030】
10…工具本体、11…柄、12…フレーム部材、12a…ソケット差込部、12b…開口端、W1…開口幅、
20…入力部、21…伝動ギヤ、21a…第一ギヤ、21b…第二ギヤ、
30…ソケット、31…嵌合部、31a…開口端、32…軸部、33…歯部、W2…開口幅、
40…軸受体、41…ソケット軸受部、42…鍔状部、43…操作部、43a…棒体、43b…止めピン、
50…押え部材、51…小孔、52…止め孔、
60…スペーサー、61…小孔、62…止め孔、63…開口部
70…ターンバックル、71…被嵌合部、
80…ワイヤロープ。