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特許7070846電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物、電子材料用樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、積層板、金属箔張積層板、及びプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物、電子材料用樹脂組成物、プリプレグ、樹脂シート、積層板、金属箔張積層板、及びプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20220511BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20220511BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20220511BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220511BHJP
   B32B 5/10 20060101ALI20220511BHJP
   C07F 3/06 20060101ALN20220511BHJP
   C07F 11/00 20060101ALN20220511BHJP
   C07F 19/00 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/19
B32B27/18 Z
B32B27/20 Z
B32B5/10
C07F3/06
C07F11/00 B
C07F19/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021555617
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(86)【国際出願番号】 JP2021019698
【審査請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2020095711
(32)【優先日】2020-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 博章
(72)【発明者】
【氏名】高村 達郎
(72)【発明者】
【氏名】志田 典浩
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-194345(JP,A)
【文献】特開2015-091949(JP,A)
【文献】特開昭49-096033(JP,A)
【文献】国際公開第2016/010033(WO,A1)
【文献】特開2012-025845(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105504686(CN,A)
【文献】Journal of Solid State Chemistry,183,2010年,198頁~207頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B32B 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の化学式で表される構造を有するモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物を含む電子材料用樹脂組成物
(H3O)(NH4)Zn2Mo29
【請求項2】
前記モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物の平均粒子径が0.1~10μmである、請求項1に記載の電子材料用樹脂組成物
【請求項3】
プリント配線板材料用である、請求項1又は2に記載の電子材料用樹脂組成物
【請求項4】
硬化性化合物をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の電子材料用樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱硬化性化合物は、シアン酸エステル化合物(C)、マレイミド化合物(D)、エポキシ化合物(E)、フェノール化合物(F)、アルケニル置換ナジイミド化合物(K)、オキタセン樹脂(G)、ベンゾオキサジン化合物(H)、及び重合可能な不飽和基を有する化合物(I)からなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項4記載の電子材料用樹脂組成物。
【請求項6】
充填材(B)をさらに含む、請求項4又は5に記載の電子材料用樹脂組成物。
【請求項7】
前記充填材(B)が、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、及び酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上の無機充填材である、請求項6に記載の電子材料用樹脂組成物。
【請求項8】
機溶剤をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項記載の電子材材料樹脂組成物
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の電子材料用樹脂組成物を含む、プリプレグ。
【請求項10】
請求項のいずれか一項に記載の電子材料用樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
【請求項11】
基材と、前記基材に含浸又は塗布された請求項のいずれか一項に記載の電子材料用樹脂組成物と、を有するプリプレグ。
【請求項12】
請求項のいずれか一項に記載の電子材料用樹脂組成物をシート状に成形した樹脂シート。
【請求項13】
支持体と、前記支持体上に配された請求項のいずれか一項に記載の電子材料用樹脂組成物と、を有する支持体付き樹脂シート。
【請求項14】
請求項11に記載のプリプレグ、請求項12に記載の樹脂シート、及び請求項13に記載の支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる1種以上が積層された積層板。
【請求項15】
請求項11に記載のプリプレグ、請求項12に記載の樹脂シート、及び請求項13に記載の支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる1種以上と、
前記プリプレグ、樹脂シート、及び支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の片面又は両面に配された金属箔と、
を有する金属箔張積層板。
【請求項16】
請求項のいずれか一項に記載の電子材料用樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層の表面に形成された導体層と、を有するプリント配線板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物、及びそれを含む電子材料用樹脂組成物、並びに該樹脂組成物を用いたプリプレグ、樹脂シート、積層板、金属箔張積層板、及びプリント配線板等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や通信機、パーソナルコンピューター等に広く用いられている半導体の高集積化・高機能化・高密度実装化はますます加速している。そのため、以前にもまして、半導体プラスチックパッケージ用積層板における、低熱膨張性、ドリル加工性、耐熱性、及び難燃性等の高性能化の要求が高まっている。
【0003】
これらに加えて、特に近年では、積層板の面方向の熱膨張率の低減が強く求められている。これは半導体素子と半導体プラスチックパッケージ用プリント配線板の熱膨張率の差が大きいと、熱衝撃が加わったときにその熱膨張率の差により半導体プラスチックパッケージに反りが発生し、半導体素子と半導体プラスチックパッケージ用プリント配線板間や、半導体プラスチックパッケージと実装されるプリント配線板間で接続不良が生じるためである。
【0004】
従来、積層板に求められる様々な特性を満足しつつ熱膨張率を低下させるために、樹脂組成物に無機充填材を比較的に高配合する手法が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。しかし、これらの手法では、樹脂組成物の硬化物が硬く脆くなるため、これを用いて得られる積層板のドリル加工の際、孔位置精度が低下する、ドリルビットの摩耗が早くなりドリルビットの交換の頻度が増える、ドリルビットの折損が生じ易くなる等、ドリル加工性を悪化させるという問題があった。
【0005】
上記問題を解決するために、特許文献3には、積層板のドリル加工性を向上させる手法として、モリブデン酸亜鉛やモリブデン酸カルシウム等のモリブデン化合物を樹脂組成物に配合するという手法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-059643号公報
【文献】特開2009-120702号公報
【文献】特開2011-137054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3に記載されたモリブデン化合物を含む樹脂組成物は、ドリル加工性と外観性の両立の観点から未だ十分であるとはいえない。
また、樹脂組成物を硬化する際の硬化時間については、短すぎると積層板の成形性や外観に悪影響を及ぼし、また、ボイドの発生も起こり易くなるため、適度な樹脂硬化時間を有するものが求められている。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、ドリル加工性と外観性を両立し、且つ、適度な樹脂硬化時間を有する樹脂組成物、及びそれを用いたプリプレグ、樹脂シート、積層板、金属箔張積層板、プリント配線板等の成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる問題点の解決のため鋭意検討した結果、特定の構造を有するモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物を用いることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
以下の化学式で表される構造を有する、電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物。
(HO)(NH)ZnMo
[2]
平均粒子径が0.1~10μmである、上記[1]に記載の電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物。
[3]
プリント配線板材料用である、上記[1]又は[2]に記載の電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物。
[4]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物と、熱硬化性化合物と、を含む、電子材料用樹脂組成物。
[5]
前記熱硬化性化合物は、シアン酸エステル化合物(C)、マレイミド化合物(D)、エポキシ化合物(E)、フェノール化合物(F)、アルケニル置換ナジイミド化合物(K)、オキタセン樹脂(G)、ベンゾオキサジン化合物(H)、及び重合可能な不飽和基を有する化合物(I)からなる群より選ばれる1種以上を含む、上記[4]記載の電子材料用樹脂組成物。
[6]
充填材(B)をさらに含む、上記[4]又は[5]に記載の電子材料用樹脂組成物。
[7]
前記充填材(B)が、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、及び酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上の無機充填材である、上記[6]に記載の電子材料用樹脂組成物。
[8]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物と、有機溶剤と、を含むスラリー。
[9]
上記[1]~[3]のいずれかに記載の電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物を含む、プリプレグ。
[10]
上記[4]~[7]のいずれかに記載の電子材料用樹脂組成物を硬化させてなる硬化物。
[11]
基材と、前記基材に含浸又は塗布された上記[4]~[7]のいずれかに記載の電子材料用樹脂組成物と、を有するプリプレグ。
[12]
上記[4]~[7]のいずれかに記載の電子材料用樹脂組成物をシート状に成形した樹脂シート。
[13]
支持体と、前記支持体上に配された上記[4]~[7]のいずれかに記載の電子材料用樹脂組成物と、を有する支持体付き樹脂シート。
[14]
上記[11]に記載のプリプレグ、上記[12]に記載の樹脂シート、及び上記[13]に記載の支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる1種以上が積層された積層板。
[15]
上記[11]に記載のプリプレグ、上記[12]に記載の樹脂シート、及び上記[13]に記載の支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる1種以上と、
前記プリプレグ、樹脂シート、及び支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の片面又は両面に配された金属箔と、
を有する金属箔張積層板。
[16]
上記[4]~[7]のいずれかに記載の電子材料用樹脂組成物の硬化物を含む絶縁層と、前記絶縁層の表面に形成された導体層と、を有するプリント配線板。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ドリル加工性と外観性を両立させた樹脂組成物、及びそれを用いたプリプレグ、樹脂シート、積層板、金属箔張積層板、プリント配線板等の成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
[電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物]
本実施形態の電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物は、以下の化学式を有する化合物である。
(HO)(NH)ZnMo
【0014】
上記化学式で表されるモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物は、従来から公知の化合物であるが、これを電子材料分野に用いることについては知られていなかった。本発明は、この特定の化合物を電子材料用の添加剤として用いることで、ドリル加工性と外観性を両立させた電子材料用樹脂組成物、及びそれを用いたプリプレグ等が得られることを見出したものである。
【0015】
本実施形態におけるモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物の合成方法としては特に限定されず、モリブデンや亜鉛を含む原料を用いて、共沈法、焼成法等で合成でき、例えば、実施例に記載した方法で合成できる。
【0016】
本実施形態におけるモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物の平均粒子径は、所望の性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。ドリル加工性や分散性を考慮すると、その平均粒子径(D50粒子径)は、0.1~10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5~8μm、さらに好ましくは1~4μm、特に好ましくは1~3μmである。ここで本明細書において、平均粒子径(D50粒子径)とは、メジアン径(メディアン径)を意味し、測定した粉体の粒度分布を2つに分けたときの大きい側の体積と小さい側の体積が等量となる値である。この平均粒子径は、レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置により分散媒中に所定量投入された粉体の粒度分布を測定し、小さい粒子から体積積算して全体積の50%に達したときの値を意味する。平均粒子径は、例えば、実施例に記載した方法で測定できる。
【0017】
また、本実施形態のモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物は、表面の少なくとも一部が無機酸化物で被覆されていてもよい。より具体的には、モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物からなるコア粒子と、このコア粒子の表面の少なくとも一部に形成された無機酸化物とを有するものである。モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物が、表面の少なくとも一部が無機酸化物で被覆されている場合、コア粒子表面に存在する無機酸化物により耐熱性が向上する傾向にある。
【0018】
モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物の表面を被覆する無機酸化物としては耐熱性に優れるものが好ましく、その種類は特に限定されないが、金属酸化物が好ましい。金属酸化物の具体例としては、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al等)、チタニア(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In、酸化スズ(SnO等)、酸化ニッケル(NiO)、酸化コバルト(CoO)、酸化バナジウム(V)、酸化銅(CuO等)、酸化マグネシウム(MgO)、ジルコニア(ZrO等)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で或いは2種以上組み合わせて用いることができる。これらのなかでも、耐熱性、絶縁特性、コスト等の点から、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニアが好ましく、より好ましくはシリカである。
【0019】
ここで、無機酸化物は、モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物からなるコア粒子の表面の少なくとも一部に付与されていればよい。つまり、無機酸化物は、コア粒子の表面に部分的に付与されていても、コア粒子の表面のすべてを覆うように付与されていてもよい。一方、ドリル加工性及び耐熱性の両立の観点から、無機酸化物は、コア粒子の表面のすべてを覆うように略均一に付与されている、すなわち、コア粒子の表面に無機酸化物の被膜が略均一に形成されていることが好ましい。
【0020】
モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物からなるコア粒子の表面を被覆する無機酸化物の厚みは、所望の性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されない。均一な無機酸化物の被膜を形成する観点から、さらにはドリル加工性の改善効果をより顕著に発揮させるとともに、より高い耐熱性を付与する観点から、その厚みは3~500nmであることが好ましく、より好ましくは10~200nmであり、さらに好ましくは15~100nmである。
【0021】
無機酸化物で表面処理されたモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物の製造方法は、特に限定されない。例えば、ゾルゲル法、液相析出法、浸漬塗布法、スプレー塗布法、印刷法、無電解メッキ法、スパッタリング法、蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法等の各種公知の手法を適宜採用して、無機酸化物又はその前駆体をモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物からなるコア粒子の表面に付与することで得ることができる。また、無機酸化物又はその前駆体をモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物からなるコア粒子の表面に付与する方法は、湿式法或いは乾式法のいずれで構わない。
【0022】
無機酸化物で表面処理されたモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物の好適な製造方法としては、例えば、ケイ素アルコキシド(アルコキシシラン)、アルミニウムアルコキシドなどの金属アルコキシドを溶解したアルコール溶液に、モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物からなるコア粒子を分散させ、撹拌しながら水とアルコール及び触媒の混合溶液を滴下し、アルコキシドを加水分解することにより、コア粒子表面に低屈折率被膜として酸化ケイ素あるいは酸化アルミニウム等の被膜を形成し、その後、得られた粉体を固液分離し、真空乾燥後、熱処理を施す方法が挙げられる。この他の好適な製造方法として、例えば、ケイ素アルコキシド、アルミニウムアルコキシドなどの金属アルコキシドを溶解したアルコール溶液に、モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物からなるコア粒子を分散させ、高温低圧下で混合処理をして、コア粒子表面に酸化ケイ素あるいは酸化アルミニウム等の被膜を形成し、その後、得られた粉体を真空乾燥し、解砕処理する方法が挙げられる。これらの方法により、表面にシリカやアルミナ等の金属酸化物の被膜を有するモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物が得られる。
【0023】
無機酸化物で表面処理されたモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物は、均一な無機酸化物の被膜を形成してドリル加工性及び耐熱性をより高いレベルで両立させる観点から、モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物を85.0~99.5質量%含むことが好ましく、より好ましくは90.0~99.5質量%、さらに好ましくは95.0~99.0質量%である。換言すれば、無機酸化物を0.5~15質量%含むことが好ましく、より好ましくは1.0~10.0質量%、さらに好ましくは1.0~5.0質量%である。
【0024】
本実施形態のモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物は、電子材料用途として好適に用いることができる。ここで、「電子材料」とは、特に限定されるものではないが、例えば、プリプレグ、樹脂シート、ビルドアップ材料、非伝導性フィルム、金属箔張積層板、及びプリント配線板など、電子部品や電気部品に用いられている材料をいう。これらの中でも、プリプレグ、樹脂シート、金属箔張積層板など、プリント配線板用途により好適に用いることができる。すなわち、本実施形態のモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物は、プリント配線板材料用途としてより好適に用いることができる。
【0025】
[電子材料用樹脂組成物]
本実施形態における電子材料用樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」ともいう。)は、上述したモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物と、熱硬化性化合物と、を含む。熱硬化性化合物としては、熱硬化性の化合物であれば特に限定されないが、例えば、シアン酸エステル化合物(C)、マレイミド化合物(D)、エポキシ化合物(E)、フェノール化合物(F)、アルケニル置換ナジイミド化合物(K)、オキタセン樹脂(G)、ベンゾオキサジン化合物(H)、重合可能な不飽和基を有する化合物(I)等が挙げられる。これらの熱硬化性化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
本実施形態の電子材料用樹脂組成物におけるモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物の含有量は、目的とする用途や性能に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、耐熱性、難燃性、及びドリル加工性の観点から、モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形成分の合計100質量部に対し、0.2~30質量部であることが好ましく、より好ましくは1~10質量部である。なお、本実施形態において、「樹脂組成物中の樹脂固形分」とは、特に断りのない限り、樹脂組成物における、溶剤及び充填材を除いた成分をいう。また、「樹脂固形分100質量部」とは、樹脂組成物における溶剤及び充填材を除いた成分の合計が100質量部であることをいうものとする。
【0027】
〔シアン酸エステル化合物(C)〕
シアン酸エステル化合物(C)は、1分子中に芳香環に直接結合したシアン酸エステル基(シアナト基)を2個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができる。
【0028】
このようなシアン酸エステル化合物(C)としては、特に制限されないが、例えば、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフチレンエーテル型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、キシレン樹脂型シアン酸エステル化合物、ビスフェノールM型シアン酸エステル化合物、ビスフェノールA型シアン酸エステル化合物、及びジアリルビスフェノールA型シアン酸エステル化合物が、成形性及び表面硬度の観点から好ましい化合物として挙げられる。シアン酸エステル化合物(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。このなかでも、成形性、表面硬度に加え、耐熱性、難燃性、低誘電性(低誘電率、低誘電正接)等の観点から、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物が好ましい。
【0029】
ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物としては、特に限定されないが、例えば、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0030】
【化1】
【0031】
(上記式(1)中、Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、この中でも水素原子が好ましい。また、上記式(1)中、n3は1~10である。)
【0032】
本実施形態の電子材料用樹脂組成物が、シアン酸エステル化合物(C)を含む場合、シアン酸エステル化合物(C)の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分の合計100質量部に対して、好ましくは1~99質量部であり、より好ましくは3~90質量部であり、さらに好ましくは5~80質量部であり、10~70質量部、20~60質量部、30~50質量部であってもよい。シアン酸エステル化合物(C)の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性、低誘電率、低誘電正接等により優れる傾向にある。
【0033】
なお、樹脂組成物が、シアン酸エステル化合物(C)に加えて後述するマレイミド化合物(D)を含む場合、シアン酸エステル化合物(C)の含有量は、シアン酸エステル化合物(C)及びマレイミド化合物(D)の総量100質量部に対して、好ましくは30~90質量部であり、より好ましくは40~80質量部であり、さらに好ましくは50~70質量部である。シアン酸エステル化合物(C)の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性、低誘電率、低誘電正接等に加え、成形性、銅箔ピール強度がより向上する傾向にある。
【0034】
〔マレイミド化合物(D)〕
マレイミド化合物(D)は、1分子中にマレイミド基を1個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。マレイミド化合物(D)の1分子当たりのマレイミド基の数は、1以上であり、好ましくは2以上である。
【0035】
マレイミド化合物(D)としては、特に制限されないが、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-マレイミドフェニル)メタン、下記式(2)で表されるマレイミド化合物、及び下記式(3)で表されるマレイミド化合物、これらマレイミド化合物のプレポリマー、及び、上記マレイミド化合物とアミン化合物のプレポリマーなどが挙げられる。マレイミド化合物(D)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。このようなマレイミド化合物(D)を含むことにより、得られる硬化物の熱膨張率がより低下し、耐熱性がより向上する傾向にある。
【0036】
このなかでも、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、下記式(2)で表されるマレイミド化合物、及び下記式(3)で表されるマレイミド化合物からなる群より選択される1種以上が、熱膨張率、耐熱性の観点から好ましい。
【0037】
【化2】
【0038】
(式(2)中、Rは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n1は1~10である。)
【0039】
【化3】
【0040】
(式(3)中、複数存在するRは、各々独立に、水素原子、炭素数1~5のアルキル基又はフェニル基を表し、n2は、平均値であり、1<n2≦5を表す。)
【0041】
本実施形態の電子材料用樹脂組成物がマレイミド化合物(D)を含む場合、マレイミド化合物(D)の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分の合計100質量部に対して、好ましくは1~99質量部であり、より好ましくは3~90質量部であり、さらに好ましくは5~80質量部であり、10~70質量部、20~60質量部であってもよい。マレイミド化合物(D)の含有量が上記範囲内であることにより、熱膨張率、耐熱性等により優れる傾向にある。
【0042】
また、本実施形態の電子材料用樹脂組成物がシアン酸エステル化合物(C)及びマレイミド化合物(D)を含む場合、マレイミド化合物(D)の含有量は、シアン酸エステル化合物(C)及びマレイミド化合物(D)の総量100質量部に対して、好ましくは10~70質量部であり、より好ましくは20~60質量部であり、さらに好ましくは30~50質量部である。マレイミド化合物(D)の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性に加え、成形性、及び銅箔ピール強度がより向上する傾向にある。
【0043】
〔エポキシ化合物(E)〕
エポキシ化合物(E)は、1分子中にエポキシ基を1個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。エポキシ化合物(E)の1分子当たりのエポキシ基の数は、1以上であり、好ましくは2以上である。
【0044】
エポキシ化合物(E)としては、特に限定されず、従来公知のエポキシ化合物及びエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビフェニルアラルキル型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、ビスナフタレン型エポキシ化合物、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、キシレンノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格変性ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド型エポキシ化合物、アントラキノン型エポキシ化合物、アントラセン型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ化合物、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ザイロック型エポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、フェノール型エポキシ化合物、ビフェニル型エポキシ樹脂、アラルキルノボラック型エポキシ樹脂、トリアジン骨格エポキシ化合物、トリグリシジルイソシアヌレート、脂環式エポキシ樹脂、ポリオール型エポキシ樹脂、グリシジルアミン、グリシジル型エステル樹脂、ブタジエン等の二重結合含有化合物の二重結合をエポキシ化した化合物、及び、水酸基含有シリコーン樹脂類とエピクロルヒドリンとの反応により得られる化合物等が挙げられる。これらのなかで、成形性及び表面硬度の観点からビフェニルアラルキル型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物、及びナフチレンエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ化合物(E)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0045】
本実施形態の電子材料用樹脂組成物がエポキシ化合物(E)を含む場合、エポキシ化合物(E)の含有量は、樹脂組成物中の樹脂固形分の合計100質量部に対して、好ましくは1~99質量部であり、より好ましくは3~90質量部であり、さらに好ましくは5~80質量部であり、10~70質量部、20~60質量部、30~50質量部であってもよい。エポキシ化合物(E)の含有量が上記範囲内であることにより、接着性や可撓性等により優れる傾向にある。
【0046】
本実施形態における電子材料用樹脂組成物が後述するフェノール化合物(F)及びエポキシ化合物(E)を含む場合、エポキシ化合物(E)の含有量は、フェノール化合物(F)及びエポキシ化合物(E)の総量100質量部に対して、好ましくは20~80質量部であり、より好ましくは30~70質量部であり、さらに好ましくは40~60質量部である。エポキシ化合物(E)の含有量が上記範囲内であることにより、接着性や可撓性等に加え、耐熱性がより向上する傾向にある。
【0047】
〔フェノール化合物(F)〕
フェノール化合物(F)は、1分子中にフェノール性水酸基を2個以上有する化合物であれば、公知のものを適宜用いることができ、その種類は特に限定されない。
【0048】
フェノール化合物(F)としては、特に制限されないが、例えば、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、下記式(4)で表されるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、下記式(5)で表されるナフトールアラルキル型フェノール樹脂、アミノトリアジンノボラック型フェノール樹脂、ナフタレン型フェノール樹脂、フェノールノボラック樹脂、アルキルフェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ザイロック型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、及びポリビニルフェノール類等が挙げられる。フェノール化合物(F)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0049】
これらのなかでも、成形性及び表面硬度の観点から、クレゾールノボラック型フェノール樹脂、下記式(4)で表されるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、下記式(5)で表されるナフトールアラルキル型フェノール樹脂、アミノトリアジンノボラック型フェノール樹脂、及びナフタレン型フェノール樹脂が好ましく、下記式(4)で表されるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、及び下記式(5)で表されるナフトールアラルキル型フェノール樹脂がより好ましい。
【0050】
【化4】
【0051】
(式(4)中、複数存在するRは、各々独立して、水素原子又はメチル基を表し、n4は1~10である。)
【0052】
【化5】
【0053】
(式(5)中、複数存在するRは、各々独立に、水素原子又はメチル基を表し、n5は1~10である。)
【0054】
本実施形態の電子材料用樹脂組成物がフェノール化合物(F)を含む場合、フェノール化合物(F)の含有量は、樹脂組成物の樹脂固形分の合計100質量部に対して、好ましくは1~99質量部であり、より好ましくは3~90質量部であり、さらに好ましくは5~80質量部であり、10~70質量部、20~60質量部、30~50質量部であってもよい。フェノール化合物(F)の含有量が上記範囲内であることにより、接着性や可撓性等により優れる傾向にある。
【0055】
本実施形態における樹脂組成物がフェノール化合物(F)及びエポキシ化合物(D)を含む場合、フェノール化合物(F)の含有量は、フェノール化合物(F)及びエポキシ化合物(D)の総量100質量部に対して、好ましくは20~80質量部であり、より好ましくは30~70質量部であり、さらに好ましくは40~60質量部である。フェノール化合物(F)の含有量が上記範囲内であることにより、接着性や可撓性等に加え、銅箔ピール強度がより向上する傾向にある。
【0056】
〔アルケニル置換ナジイミド化合物(K)〕
アルケニル置換ナジイミド化合物(K)は、1分子中に1つ以上のアルケニル置換ナジイミド基を有する化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記式(2d)で表される化合物が挙げられる。本実施形態の樹脂組成物はアルケニル置換ナジイミド化合物(K)を含有することにより、耐熱性が向上する傾向にある。
【0057】
【化6】
【0058】
式中、複数のRは、各々独立に水素原子、又は炭素数1~6のアルキル基(例えば、メチル基又はエチル基)を表し、Rは、炭素数1~6のアルキレン基、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、又は下記式(6)若しくは下記式(7)で表される基を表す。
【0059】
【化7】
【0060】
式(6)中、Rは、メチレン基、イソプロピリデン基、CO、O、S又はSOを表す。
【0061】
【化8】
【0062】
式(7)中、複数のRは、各々独立に炭素数1~4のアルキレン基、又は炭素数5~8のシクロアルキレン基を表す。
【0063】
式(6)又は式(7)で表されるアルケニル置換ナジイミド化合物は、市販品を用いてもよく、公知の方法に準じて製造した製造品を用いてもよい。市販品としては、丸善石油化学株式会社製品の「BANI-M」、及び「BANI-X」が挙げられる。
【0064】
本実施形態の電子材料用樹脂組成物がアルケニル置換ナジイミド化合物(K)を含む場合、アルケニル置換ナジイミド化合物の含有量は、樹脂組成物の樹脂固形分の合計100質量部に対して、好ましくは1~99質量部であり、より好ましくは3~90質量部であり、さらに好ましくは5~80質量部であり、10~70質量部、20~60質量部、30~50質量部であってもよい。アルケニル置換ナジイミド化合物(K)の含有量が上記範囲内であることにより、耐熱性等により優れる傾向にある。
【0065】
〔オキセタン樹脂(G)〕
オキセタン樹脂(G)としては、特に限定されず、一般に公知のものを使用できる。オキセタン樹脂の具体例としては、例えば、オキセタン、2-メチルオキセタン、2,2-ジメチルオキセタン、3-メチルオキセタン、3,3-ジメチルオキセタン等のアルキルオキセタン、3-メチル-3-メトキシメチルオキセタン、3,3-ジ(トリフルオロメチル)パーフルオロオキセタン、2-クロロメチルオキセタン、3,3-ビス(クロロメチル)オキセタン、ビフェニル型オキセタン、OXT-101(東亞合成製商品名)、OXT-121(東亞合成製商品名)等が挙げられる。これらのオキセタン樹脂(G)は、1種を単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0066】
〔ベンゾオキサジン化合物(H)〕
ベンゾオキサジン化合物(H)としては、1分子中に2個以上のジヒドロベンゾオキサジン環を有する化合物であれば特に限定されず、一般に公知のものを用いることができる。ベンゾオキサジン化合物の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型ベンゾオキサジンBA-BXZ(小西化学製商品名)ビスフェノールF型ベンゾオキサジンBF-BXZ(小西化学製商品名)、ビスフェノールS型ベンゾオキサジンBS-BXZ(小西化学製商品名)等が挙げられる。これらのベンゾオキサジン化合物(H)は、1種を単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0067】
〔重合可能な不飽和基を有する化合物(I)〕
重合可能な不飽和基を有する化合物(I)としては、特に限定されず、一般に公知のものを使用できる。重合可能な不飽和基を有する化合物の具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル等のビニル化合物、メチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の1価又は多価アルコールの(メタ)アクリレート類、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ(メタ)アクリレート類、ベンゾシクロブテン樹脂等が挙げられる。これらの重合可能な不飽和基を有する化合物(I)は、1種を単独で又は2種以上混合して用いることができる。
【0068】
〔充填材(B)〕
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、充填材(B)を含んでいてもよい。ここで用いられる充填材(B)は、目的とする用途や性能に応じて、公知のものを適宜選択して用いることができ、種類及び使用量は特に限定されない。
【0069】
充填材(B)としては、特に限定されないが、例えば、無機充填材及び有機充填材が挙げられる。充填材(B)は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0070】
無機充填材としては、特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ベーマイト、水酸化アルミニウム、及び酸化チタンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。これらの中でも、低熱膨張の観点からはシリカを用いることが好ましく、高熱伝導性の観点からはアルミナや窒化アルミニウムを用いることが好ましい。
【0071】
有機充填材としては、特に限定されないが、例えば、スチレン型パウダー、ブタジエン型パウダー、アクリル型パウダーなどのゴムパウダー;コアシェル型ゴムパウダー;シリコーンレジンパウダー;シリコーンゴムパウダー;シリコーン複合パウダーなどが挙げられる。上記の中でも、低熱膨張性、耐燃性の観点から、シリコーンゴムパウダー及びシリコーン複合パウダーからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0072】
充填材(B)の含有量は、電子材料用樹脂組成物中の樹脂固形分の合計100質量部に対して、好ましくは10~500質量部であり、より好ましくは50~300質量部であり、さらに好ましくは75~250質量部であり、特に好ましくは100~200質量部である。
【0073】
〔硬化促進剤〕
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含んでもよい。硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルイミダゾール等のイミダゾール類;過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、パラクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ-tert-ブチル-ジ-パーフタレートなどの有機過酸化物;アゾビスニトリルなどのアゾ化合物;N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチルトルイジン、2-N-エチルアニリノエタノール、トリ-n-ブチルアミン、ピリジン、キノリン、N-メチルモルホリン、トリエタノールアミン、トリエチレンジアミン、テトラメチルブタンジアミン、N-メチルピペリジンなどの第3級アミン類;フェノール、キシレノール、クレゾール、レゾルシン、カテコールなどのフェノール類;ナフテン酸鉛、ステアリン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オクチル酸マンガン、オレイン酸錫、ジブチル錫マレート、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸コバルト、アセチルアセトン鉄などの有機金属塩;これら有機金属塩をフェノール、ビスフェノールなどの水酸基含有化合物に溶解してなるもの;塩化錫、塩化亜鉛、塩化アルミニウムなどの無機金属塩;ジオクチル錫オキサイド、その他のアルキル錫、アルキル錫オキサイドなどの有機錫化合物などが挙げられる。これらのなかでも、トリフェニルイミダゾールが硬化反応を促進し、ガラス転移温度がより向上する傾向にあるため、特に好ましい。
【0074】
〔シランカップリング剤及び湿潤分散剤〕
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、シランカップリング剤や湿潤分散剤をさらに含んでもよい。
シランカップリング剤としては、一般に無機物の表面処理に使用されているシランカップリング剤であれば、特に限定されないが、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノシラン系化合物;γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどのエポキシシラン系化合物;γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのアクリルシラン系化合物;N-β-(N-ビニルベンジルアミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン塩酸塩などのカチオニックシラン系化合物;フェニルシラン系化合物などが挙げられる。シランカップリング剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
湿潤分散剤としては、塗料用に使用されている分散安定剤であれば、特に限定されないが、例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製のDISPERBYK-110、111、118、180、161、BYK-W996、W9010、W903等が挙げられる。
【0075】
〔溶剤〕
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、溶剤をさらに含んでもよい。溶剤を含むことにより、樹脂組成物の調製時における粘度が下がり、ハンドリング性がより向上するとともに後述する基材への含浸性がより向上する傾向にある。溶剤としては、樹脂組成物中の樹脂成分の一部又は全部を溶解可能なものであれば、特に限定されないが、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルセルソルブなどのケトン類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;プロピレングリコールモノメチルエーテル及びそのアセテートなどが挙げられる。溶剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0076】
ここで、本実施形態におけるモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物は、樹脂組成物にそのまま加えて混合してもよく、あらかじめ有機溶剤中に分散させてスラリー化してから加えて混合してもよいが、分散性の観点からは、モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物を有機溶剤中に分散させたスラリーとして加えることが好ましい。
【0077】
〔その他成分〕
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、所期の特性が損なわれない範囲において、上記以外の成分を含有していてもよい。このような任意の配合物としては、例えば、上記以外の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂及びそのオリゴマー、エラストマー類などの種々の高分子化合物、難燃性化合物、各種添加剤等が挙げられる。これらは、一般に使用されているものであれば、特に限定されるものではない。例えば、難燃性化合物としては、4,4’-ジブロモビフェニル等の臭素化合物、リン酸エステル、リン酸メラミン、リン含有エポキシ樹脂、メラミンやベンゾグアナミンなどの窒素含有化合物、オキサジン環含有化合物、シリコン系化合物等が挙げられる。また、各種添加剤としては、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光重合開始剤、蛍光増白剤、光増感剤、染料、顔料、増粘剤、滑剤、消泡剤、分散剤、レベリング剤、光沢剤、重合禁止剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これら任意の配合物は、1種を単独で或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0078】
[電子材料用樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の電子材料用樹脂組成物の製造方法は、特に限定されないが、例えば、モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物と、熱硬化性化合物と、上述した任意成分とを混合し、十分に攪拌する方法が挙げられる。この際、各成分を均一に溶解或いは分散させるため、攪拌、混合、混練処理などの公知の処理を行うことができる。具体的には、適切な攪拌能力を有する攪拌機を付設した攪拌槽を用いて攪拌分散処理を行うことで、樹脂組成物における充填材の分散性を向上させることができる。上記の攪拌、混合、混練処理は、例えば、ボールミル、ビーズミルなどの混合を目的とした装置、又は、公転又は自転型の混合装置などの公知の装置を用いて適宜行うことができる。
【0079】
また、電子材料用樹脂組成物の調製時においては、必要に応じて溶剤を使用することができる。溶剤の種類は、樹脂組成物中の樹脂を溶解可能なものであれば、特に限定されない。その具体例は、上述したとおりである。
【0080】
[用途]
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、硬化物、プリプレグ、フィルム状アンダーフィル材、樹脂シート、積層板、ビルドアップ材料、非伝導性フィルム、金属箔張積層板、プリント配線板、繊維強化複合材料、又は半導体装置として好適に用いることができる。以下、これらについて説明する。
【0081】
〔硬化物〕
本実施形態の硬化物は、上記電子材料用樹脂組成物を硬化させてなるものである。硬化物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、樹脂組成物を溶融又は溶媒に溶解させた後、型内に流し込み、熱や光などを用いて通常の条件で硬化させることにより得ることができる。熱硬化の場合、硬化温度は、特に限定されないが、硬化が効率的に進み、かつ得られる硬化物の劣化を防止する観点から、120℃から300℃の範囲内が好ましい。光硬化の場合、光の波長領域は、特に限定されないが、光重合開始剤等により効率的に硬化が進む100nmから500nmの範囲で硬化させることが好ましい。
【0082】
〔プリプレグ〕
本実施形態のプリプレグは、基材と、該基材に含浸又は塗布された本実施形態の電子材料用樹脂組成物と、を有する。プリプレグの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、本実施形態における樹脂組成物を基材に含浸又は塗布させた後、100~200℃の乾燥機中で1~30分加熱するなどして半硬化(Bステ-ジ化)させることで、本実施形態のプリプレグを作製することができる。
【0083】
プリプレグにおける本実施形態の樹脂組成物の含有量は、プリプレグの総量に対して、好ましくは30~90質量%であり、より好ましくは35~85質量%であり、さらに好ましくは40~80質量%である。樹脂組成物の含有量が上記範囲内であることにより、成形性がより向上する傾向にある。
【0084】
基材としては、特に限定されず、各種プリント配線板材料に用いられている公知のものを、目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。基材を構成する繊維の具体例としては、特に限定されないが、例えば、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス、球状ガラス、NEガラス、Lガラス、Tガラスなどのガラス繊維;クォーツなどのガラス以外の無機繊維;ポリパラフェニレンテレフタラミド(ケブラー(登録商標)、デュポン(株)製)、コポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド(テクノーラ(登録商標)、帝人テクノプロダクツ(株)製)などの全芳香族ポリアミド;2,6-ヒドロキシナフトエ酸・パラヒドロキシ安息香酸(ベクトラン(登録商標)、(株)クラレ製)、ゼクシオン(登録商標、KBセーレン製)などのポリエステル;ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(ザイロン(登録商標)、東洋紡績(株)製)、ポリイミドなどの有機繊維が挙げられる。これら基材は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0085】
これらのなかでも、Eガラスクロス、Tガラスクロス、Sガラスクロス、Qガラスクロス、及び有機繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0086】
基材の形状としては、特に限定されないが、例えば、織布、不織布、ロービング、チョップドストランドマット、サーフェシングマットなどが挙げられる。織布の織り方としては、特に限定されないが、例えば、平織り、ななこ織り、綾織り等が知られており、これら公知のものから目的とする用途や性能により適宜選択して使用することができる。また、これらを開繊処理したものやシランカップリング剤などで表面処理したガラス織布が好適に使用される。基材の厚さや質量は、特に限定されないが、通常は0.01~0.3mm程度のものが好適に用いられる。とりわけ、強度と吸水性との観点から、基材は、厚み200μm以下、質量250g/m以下のガラス織布が好ましく、Eガラス、Sガラス、及びTガラスのガラス繊維からなるガラス織布がより好ましい。
【0087】
〔樹脂シート〕
本実施形態の樹脂シートは、金属箔張積層板やプリント配線板等の絶縁層を形成するために用いることができ、樹脂シート及び支持体付き樹脂シートのいずれも含まれる。
【0088】
本実施形態の樹脂シートは、本実施形態の電子材料用樹脂組成物をシート状に成形してなるものである。樹脂シートの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、後述する支持体付き樹脂シートから、支持体を剥離又はエッチングすることにより得ることができる。または、本実施形態の樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、シート状のキャビティを有する金型内に供給し乾燥する等してシート状に成形することで、支持体等のシート基材を用いることなく樹脂シートを得ることもできる。
【0089】
本実施形態の支持体付き樹脂シートは、支持体と、該支持体上に配された、上記樹脂組成物と、を有する。支持体付き樹脂シートは、例えば、銅箔や樹脂フィルムなどの支持体に、直接、樹脂組成物を塗布及び乾燥して製造することができる。
【0090】
支持体としては、特に限定されないが、各種プリント配線板材料に用いられている公知の物を使用することができる。例えば、ポリイミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリカーボネートフィルム、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体フィルム、並びにこれらのフィルムの表面に離型剤を塗布した離型フィルム等の有機系のフィルム基材、銅箔などの導体箔、ガラス板、SUS板、FPR等の板状の無機系フィルムが挙げられる。その中でも電解銅箔、PETフィルムが好ましい。
【0091】
塗布方法としては、例えば、本実施形態の電子材料用樹脂組成物を溶剤に溶解させた溶液を、バーコーター、ダイコーター、ドクターブレード、ベーカーアプリケーター等で支持体上に塗布する方法が挙げられる。
【0092】
支持体付き樹脂シートは、上記樹脂組成物を支持体に塗布後、半硬化(Bステージ化)させたものであることが好ましい。具体的には、例えば、上記樹脂組成物を銅箔などの支持体に塗布した後、100~200℃の乾燥機中で、1~60分加熱させる方法などにより半硬化させ、支持体付き樹脂シートを製造する方法などが挙げられる。支持体に対する樹脂組成物の付着量は、支持体付き樹脂シートの樹脂厚で1~300μmの範囲が好ましい。
【0093】
〔積層板〕
本実施形態の積層板は、上記プリプレグ、樹脂シート、支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる1種以上が積層されたものである。積層板は、例えば、プリプレグと、他層とを組み合わせて積層成形することにより、得ることができる。他層としては、特に限定されないが、例えば、別途作製した内層用の配線板が挙げられる。
【0094】
〔金属箔張積層板〕
本実施形態の金属箔張積層板は、上記プリプレグ、樹脂シート、支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる1種以上と、前記プリプレグ、樹脂シート、及び支持体付き樹脂シートからなる群より選ばれる少なくとも1種以上の片面又は両面に配された金属箔と、を有する。本実施形態の金属箔張積層板は、例えば、上記プリプレグと、銅箔とを積層して硬化して得られる銅箔張積層板である。
【0095】
ここで使用する銅箔は、プリント配線板材料に用いられるものであれば、特に限定されないが、圧延銅箔や電解銅箔などの公知の銅箔が好ましい。また、導体層の厚みは、特に限定されないが、1~70μmが好ましく、より好ましくは1.5~35μmである。
【0096】
金属箔張積層板の成形方法及びその成形条件は、特に限定されず、一般的なプリント配線板用積層板及び多層板の手法及び条件を適用することができる。例えば、金属箔張積層板の成形時には多段プレス機、多段真空プレス機、連続成形機、オートクレーブ成形機などを用いることができる。また、金属箔張積層板の成形において、温度は100~350℃、圧力は面圧2~100kgf/cm、加熱時間は0.05~5時間の範囲が一般的である。さらに、必要に応じて、150~350℃の温度で後硬化を行うこともできる。また、上述のプリプレグと、別途作成した内層用の配線板とを組み合わせて積層成形することにより、多層板とすることも可能である。
【0097】
〔プリント配線板〕
本実施形態のプリント配線板は、絶縁層と、該絶縁層の表面に形成された導体層とを含み、前記絶縁層が上記樹脂組成物の硬化物を含む。上記の金属箔張積層板は、所定の配線パターンを形成することにより、プリント配線板として好適に用いることができる。そして、上記の金属箔張積層板は、良好な成形性及び耐薬品性を有し、そのような性能が要求される半導体パッケージ用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【0098】
本実施形態のプリント配線板は、具体的には、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、上述の銅箔張積層板を用意する。銅箔張積層板の表面にエッチング処理を施して内層回路の形成を行い、内層基板を作製する。この内層基板の内層回路表面に、必要に応じて接着強度を高めるための表面処理を施し、次いでその内層回路表面に上述のプリプレグを所要枚数重ね、更にその外側に外層回路用の銅箔を積層し、加熱加圧して一体成形する。このようにして、内層回路と外層回路用の銅箔との間に、基材及び樹脂組成物の硬化物からなる絶縁層が形成された多層の積層板が製造される。次いで、この多層の積層板にスルーホールやバイアホール用の穴あけ加工を施した後、硬化物層に含まれている樹脂成分に由来する樹脂の残渣であるスミアを除去するためデスミア処理が行われる。その後この穴の壁面に内層回路と外層回路用の銅箔とを導通させるめっき金属皮膜を形成し、更に外層回路用の銅箔にエッチング処理を施して外層回路を形成し、プリント配線板が製造される。
【0099】
上記の製造例で得られるプリント配線板は、絶縁層と、この絶縁層の表面に形成された導体層とを有し、絶縁層が上述した本実施形態の樹脂組成物を含む構成となる、すなわち、上述のプリプレグ(基材及びこれに添着された上述の樹脂組成物)、金属箔張積層板の樹脂組成物層(上述の樹脂組成物からなる層)が、上述の樹脂組成物を含む絶縁層を構成することになる。
【0100】
また、金属箔張積層板を用いない場合には、上記プリプレグ、上記樹脂シート、又は上記樹脂組成物からなるものに、回路となる導体層を形成しプリント配線板を作製してもよい。この際、導体層の形成に無電解めっきの手法を用いることもできる。
【0101】
本実施形態のプリント配線板は、上述の絶縁層が熱伝導率の等方性に優れることから、半導体パッケージ用プリント配線板として、殊に有効に用いることができる。
【0102】
〔ビルドアップ材料〕
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、ビルドアップ材料として使用することができる。ここで、「ビルドアップ」とは、プリプレグ又は樹脂シートを積層すると共に、一層毎に孔あけ加工、配線形成などを繰り返すことによって、多層構造のプリント配線板を作製することを意味する。
【0103】
より具体的には、本実施形態の電子材料用樹脂組成物を用いた、プリプレグ、樹脂シート、支持体付き樹脂シート、または金属箔張積層板を、プリント配線板のビルドアップ材料として使用することができる。本実施形態のプリプレグや樹脂シートを用いて形成されたプリント配線板においては、そのプリプレグや樹脂シートが、絶縁層を構成することになる。また、金属箔張積層板を用いて形成されたプリント配線板においては、金属箔張積層板を作製する際に用いたプリプレグ(基材及びこれに添着された樹脂組成物)や樹脂シートが、絶縁層を構成することになる。
【0104】
具体的には、本実施形態のプリプレグをビルドアップ材料として用いる場合は、上記金属箔張積層板の製造方法によりプリプレグを用いて金属箔張積層板を作製してから、上記方法により本実施形態のプリント配線板を得ることができる。或いは、多層プリント配線板の材料として、プリプレグをそのままビルドアップ材料として使用してもよい。
【0105】
本実施形態の樹脂シートをビルドアップ材料として用いる場合は、常法により、当該樹脂シートの樹脂組成物層(絶縁層)を表面処理し、絶縁層表面にめっきにより配線パターン(導体層)を形成することにより、本実施形態のプリント配線板が得られる。
【0106】
また、本実施形態の金属箔張積層板をビルドアップ材料として用いる場合は、常法により、金属箔張積層板の金属箔をエッチングした後、プリプレグからなる層(絶縁層)を表面処理し、絶縁層表面にめっきにより配線パターン(導体層)を形成することにより、本実施形態のプリント配線板を得ることができる。
【0107】
なお、何れの場合も、必要に応じてその他の各種の工程(例えば、ビアホール、スルーホール等を形成する穴加工処理等)を加えてもよい。
【0108】
〔非伝導性フィルム〕
本実施形態の電子材料用樹脂組成物は、非伝導性フィルム(NCF)として使用することができる。ここで、「非伝導性フィルム」とは、接着・絶縁の機能を同時に持つフィルム状接続材料であり、電子素子または部品をパッケージングする際に使用されるフィルム型接着剤の一つである。例えば、非伝導性フィルムは、半導体チップの電極面と基板の回路面の接着に用いることができ、アンダーフィルの機能を兼ねてもよい。
【0109】
非伝導性フィルムの態様としては、特に制限されないが、例えば、本実施形態の樹脂組成物を含む樹脂シートや、本実施形態の樹脂組成物を含む層を備える支持体付き樹脂シートが挙げられる。非伝導性フィルムの製造方法は、常法にしたがって行うことができ、特に限定されない。例えば、支持体上に樹脂組成物を含む層を形成し、この支持体を除去することにより得ることができる。
【0110】
〔フィルム状アンダーフィル材〕
本実施形態のフィルム状アンダーフィル材は、上記電子材料用樹脂組成物を含む層を有する。フィルム状のアンダーフィル材を用いることにより、フリップチップ実装等の半導体チップの実装において、半導体チップと回路基板とを接続する際に、半導体チップと回路基板の間の空間にアンダーフィル材を充填することができる。特に、液状のアンダーフィル材を用いる場合と比較して、フィルム状アンダーフィル材を用いることで半導体チップと回路基板の間に気泡が発生しにくい。そのため、近年のバンプ数の増大や、バンプの狭ピッチ化、バンプの高さの狭ギャップ化においても、フィルム状アンダーフィル材を用いることで、半導体チップと回路基板の間に気泡が発生することを抑制することができる。
【0111】
フィルム状アンダーフィル材は、上記樹脂組成物を含む層の他、当該層に積層された離型層を有してもよい。離型層は、半導体実装プロセスに使用されるまで樹脂組成物を含む層を保護する保護材としての機能を有し、例えばアンダーフィル用絶縁フィルム上に半導体素子を貼着する際に剥がされる。
【0112】
〔半導体装置〕
本実施形態の半導体装置は、上記硬化物又はフィルム状アンダーフィル材を備える。本実施形態の半導体装置は、上記プリント配線板の導通箇所に、半導体チップを実装することにより製造することができる。ここで、導通箇所とは、多層プリント配線板における電気信号を伝える箇所のことであって、その場所は表面であっても、埋め込まれた箇所であってもいずれでも構わない。また、半導体チップは半導体を材料とする電気回路素子であれば特に限定されない。
【0113】
本実施形態の半導体装置を製造する際の半導体チップの実装方法は、半導体チップが有効に機能しさえすれば、特に限定されないが、具体的には、ワイヤボンディング実装方法、フリップチップ実装方法、バンプなしビルドアップ層(BBUL)による実装方法、異方性導電フィルム(ACF)による実装方法、非導電性フィルム(NCF)による実装方法、などが挙げられる。
【実施例
【0114】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、各物性の測定及び各評価は以下にしたがって行った。
【0115】
<平均粒子径>
粒度分布測定装置によりモリブデン化合物粒子の粒度分布を測定し、平均粒子径(D50粒子径)を算出した。
測定機:マイクロトラック・ベル(株)製 マイクロトラックMT3300EXII
測定溶媒:イソプロパノール
【0116】
<樹脂ワニスの評価方法>
(樹脂硬化時間測定)
マイクロピペットを用いて固形分濃度75質量%の樹脂ワニスを測定機に注入し、樹脂が硬化するまでの時間を測定した。樹脂硬化時間は、300秒以上を合格と判断することができる。
測定機;松尾産業(株)製 自動硬化時間測定装置 まどか
熱板温度;170℃
トルク判定値;15%
回転速度;190rpm
公転速度;60rpm
ギャップ値:0.3mm
平均化点数:50
注入量:500μL
【0117】
<金属箔張積層板の評価方法>
(外観評価)
実施例又は比較例で作製した金属箔張積層板両面の銅箔をエッチング除去して、表面の銅箔がすべて除去された評価用サンプルを得た。このサンプルを目視で観察し、ボイドが発生していないものを「〇」、ボイドが発生したものを「×」と評価した。
【0118】
(ドリルビットライフ(ドリルビット折損孔数))
下からバックアップボード、実施例又は比較例で作製した金属箔張積層板、エントリーシートの順に積層配置して評価用サンプルを得た。このサンプルを下記のドリル孔あけ加工条件にて、サンプル上部から5000hit加工した後、金属箔張積層板の裏面を、ホールアナライザ(ビアメカニクス(株)製)にて測定し、統計孔数をカウントした。
加工機;ビアメカニクス(株)ND-1 V212
エントリーシート;三菱瓦斯化学(株)製 LE900
バックアップボード:日本デコラックス(株)製 SPB-W
ドリルビット:ユニオンツール(株)製 MC L517AW 0.105(ビット径)×1.8(長さ)
【0119】
(孔位置精度)
上記と同じドリル加工条件にて5000hit加工後、金属箔張積層板の裏面における孔位置と指定座標との位置ズレ量を、ホールアナライザ(ビアメカニクス(株)製)にて測定した。ドリル1本当たりの加工孔に対して位置ズレ量を全数測定し、その平均値と標準偏差(σ)を計算し、位置ズレ量の平均値+3σを算出した。
【0120】
(合成例1)1-ナフトールアラルキル型シアン酸エステル樹脂(SNCN)の合成
α-ナフトールアラルキル樹脂(SN495V、OH基当量:236g/eq.、新日鐵化学(株)製)300g(OH基換算1.28mol)及びトリエチルアミン194.6g(1.92mol)(ヒドロキシ基1molに対して1.5mol)をジクロロメタン1800gに溶解させ、これを溶液1とした。
【0121】
塩化シアン125.9g(2.05mol)(ヒドロキシ基1molに対して1.6mol)、ジクロロメタン293.8g、36%塩酸194.5g(1.92mol)(ヒドロキシ基1molに対して1.5mol)、水1205.9gを、撹拌下、液温-2~-0.5℃に保ちながら、溶液1を30分かけて注下した。溶液1注下終了後、同温度にて30分撹拌した後、トリエチルアミン65g(0.64mol)(ヒドロキシ基1molに対して0.5mol)をジクロロメタン65gに溶解させた溶液(溶液2)を10分かけて注下した。溶液2注下終了後、同温度にて30分撹拌して反応を完結させた。
【0122】
その後反応液を静置して有機相と水相を分離した。得られた有機相を水1300gで5回洗浄し、水洗5回目の廃水の電気伝導度は5μS/cmであり、水による洗浄により除けるイオン性化合物は十分に除去されていることを確認した。
【0123】
水洗後の有機相を減圧下で濃縮し、最終的に90℃で1時間濃縮乾固させて目的とする1-ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物(SNCN)(橙色粘性物)331gを得た。得られたSNCNの重量平均分子量Mwは600であった。また、SNCNの赤外吸収スペクトルは2250cm-1(シアン酸エステル基)の吸収を示し、且つ、ヒドロキシ基の吸収は示さなかった。
【0124】
(合成実施例1)モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物((NH)ZnMo・(HO))の合成
純水100gにモリブデン酸アンモニウム0.015mol(30.0g)と塩化亜鉛0.105mol(14.3g)を溶解した。この溶液に、20℃で撹拌しながら、10mol/LのNaOH水溶液0.5gを滴下して、沈殿を得た。
生成した沈殿をメンブレンフィルターでろ過後、120℃で1時間乾燥して、白色の粉末を得た。得られた粉末を粉末X線回折装置(Rigaku MiniFlex600)で分析したところ、(HO)(NH)ZnMoであった。
得られた粉末に対して、ジェットミル粉砕機(日清エンジニアリング(株)、スーパージェットミル SJ-500)を用いて粉砕処理を行い、粉砕処理で得られた粉末をレーザー散乱式粒度分布計(Microtrac MT3300EXII)で測定したところ、平均粒子径(D50粒子径)は2.2μmであった。
【0125】
(実施例1)
合成例1で得られたα―ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物(シアネート当量:261g/eq.)35質量部、ポリフェニルメタンマレイミド(BMI-2300、大和化成工業(株)製)25質量部、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂(HP-6000、エポキシ当量:250g/eq.、DIC(株)製)40質量部、溶融球状シリカ(SC4053-SQ、アドマテックス(株)製)60質量部、溶融球状シリカ(SFP-330MC、デンカ(株)製)を140質量部、合成実施例1で得られたモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物(平均粒子径2.2μm)3質量部、シランカップリング剤(KBM-403、信越化学工業(株)製)5質量部、湿潤分散剤(ビックケミー・ジャパン(株)製)3質量部、表面調整剤(ビックケミー・ジャパン(株)製)1質量部、2,4,5-トリフェニルイミダゾール(東京化成工業(株)製)1質量部を混合して、樹脂ワニスを得た。得られた樹脂ワニスの熱硬化時間測定を行った。得られた結果を表1に示した。
【0126】
得られた樹脂ワニスをさらにメチルエチルケトン(溶媒)で希釈し、これを厚さ90μmのEガラスクロスに含浸塗工し、140℃で5分間加熱乾燥することにより、厚さ0.1mmのプリプレグを得た(樹脂含有量50%)。次に、得られたプリプレグを8枚重ね合わせ、得られた積層体の上下面に厚さ12μmの電解銅箔(3EC-VLP、三井金属鉱業(株)製)を配置し、圧力20kgf/cm及び温度220℃で120分間の真空プレスを行って積層成形することで、厚さ0.8mmの金属箔張積層板(両面銅張積層板)を作製した。
【0127】
得られた金属箔張積層板の樹脂硬化時間、外観評価、ドリルビットライフ、及び孔位置精度の評価を行った。得られた結果を表1に示した。
【0128】
(比較例1)
合成実施例1で得られたモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物3質量部を用いなかった以外は、実施例1と同様にして樹脂ワニスを得た。樹脂ワニスをさらにメチルエチルケトンで希釈し、これをEガラスクロスに含浸塗工し、160℃で10分間加熱乾燥することにより、厚さ0.1mmのプリプレグを得た。得られたプリプレグを用いて実施例1と同様に厚さ0.8mmの金属箔張積層板を得た。得られた樹脂ワニスおよび金属箔張積層板の物性測定結果を表1に示した。
【0129】
(比較例2)
合成実施例1で得られたモリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物3質量部の代わりに、モリブデン酸亜鉛(ZnMoO、純度99.9%、(株)高純度化学研究所製)をジェットミル粉砕機(日清エンジニアリング(株)、スーパージェットミル SJ-500)を用いて平均粒子径2.4μmとなるまで粉砕処理を行ったものを3質量部使用した以外は実施例1と同様にして、樹脂ワニスを得た。樹脂ワニスをさらにメチルエチルケトンで希釈し、これをEガラスクロスに含浸塗工し、130℃で3分間加熱乾燥することにより、厚さ0.1mmのプリプレグを得た。得られたプリプレグを用いて実施例1と同様に厚さ0.8mmの金属箔張積層板を得た。得られた樹脂ワニスおよび金属箔張積層板の物性測定結果を表1に示した。
【0130】
【表1】
【0131】
表1から明らかなように、実施例1の樹脂組成物を用いて得られた金属箔張積層板は、ドリル加工性と外観評価が共に優れることが確認された。
【0132】
なお、本出願は、2020年6月1日に日本国特許庁に出願された日本特許出願(特願2020-95711号)に基づく優先権を主張しており、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明の樹脂組成物は、プリプレグ等の材料としての産業上の利用可能性を有する。
【要約】
以下の化学式で表される構造を有する、電子材料用モリブデン酸亜鉛アンモニウム水和物。
(HO)(NH)ZnMo