(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】電気回路遮断装置
(51)【国際特許分類】
H01H 39/00 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
H01H39/00 C
(21)【出願番号】P 2018106640
(22)【出願日】2018-06-04
【審査請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000204044
【氏名又は名称】太平洋精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】特許業務法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 剛尚
(72)【発明者】
【氏名】近藤 祐介
【審査官】北岡 信恭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103854921(CN,A)
【文献】特開平08-279327(JP,A)
【文献】特開2013-239412(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、当該ハウジング内に配置され、電気回路の一部を構成する被切断部と、当該被切断部を切断する切断部材と、前記ハウジングの第一端部側に配置される動力源と、を備えた、電気回路遮断装置であって、
前記切断部材を有する移動体を備え、
前記ハウジングは、前記移動体を、前記第一端部と、当該第一端部の反対側の第二端部との間で移動させることができる筒部を備え、
前記移動体は、前記動力源によって、前記第一端部から前記第二端部に向けて移動しつつ、当該移動体に備えられた前記切断部材が、前記被切断部の分離片を切断するように構成されており、
前記ハウジングは、当該ハウジングの一部が、前記分離片との境界である
本体部の端部を前記第一端部及び前記第二端部側から挟み込むと共に、前記筒部及び前記ハウジングの一部の外側に外側消弧空間を備え、
当該外側消弧空間は、前記切断部材が前記被切断部を切断した際に、切断されずに前記ハウジング内に残る前記被切断部の本体部を、内部に挿通させて収容しており、
前記外側消弧空間は、前記本体部の端部に隣接すると共に、内部で発生したアークを消弧し、外部に漏らさないように構成されていることを特徴とする電気回路遮断装置。
【請求項2】
前記被切断部の本体部の一部が前記外側消弧空間内で曲がった曲がり部を備えることを特徴とする請求項1に記載の電気回路遮断装置。
【請求項3】
前記外側消弧空間に、消弧材が収納されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気回路遮断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主に自動車等の電気回路に使用することができる電気回路遮断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電気回路遮断装置は、自動車等に搭載されている電気回路や、電気回路に接続されている各種電装品を保護するために用いられてきた。詳しくは、電気回路に異常が生じた場合に、電気回路遮断装置は電気回路の一部を切断して、物理的に電気回路を遮断していた。
【0003】
そして、この電気回路遮断装置は様々な種類があり、例えば、
図10に示す、特許文献1の電気回路遮断装置700では、電気回路の一部を構成する誘導体710を、ハウジング720内の切断室721に挿通させて収容しておき、パンチ730によって物理的に切断するというものである。このパンチ730は、筒状の切断室721内において誘導体710を横断するように打ち抜くもので、打ち抜かれた導電体710は、分離された状態となっている。また、誘導体710が打ち抜かれた後は、ハウジング内に残っている両側の導電体710の間でアークが発生し、更にアークにより高温に熱せられた導電体710が溶けてガスが発生する。そして、当該ガスによって切断室721の内圧が高くなると、切断室721が破損する虞がある。
【0004】
そこで、この特許文献1の電気回路遮断装置700では、ガスによって内圧が上昇すると、外部に圧力を逃すことのできる通気部740を備えている。ただ、内圧を逃す際に、通気部740から外部へアークも漏れてしまう可能性があり、漏れたアークが外部の他の機器に損傷を与えるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明は、上記問題に鑑み、電気回路の遮断後において、上昇した内圧による破損を防ぎ、外部にアークが漏れることを防止する電気回路遮断装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明の電気回路遮断装置は、ハウジングと、当該ハウジング内に配置され、電気回路の一部を構成する被切断部と、当該被切断部を切断する切断部材と、前記ハウジングの第一端部側に配置される動力源と、を備えた、電気回路遮断装置であって、前記切断部材を有する移動体を備え、前記ハウジングは、前記移動体を、前記第一端部と、当該第一端部の反対側の第二端部との間で移動させることができる筒部を備え、前記移動体は、前記動力源によって、前記第一端部から前記第二端部に向けて移動しつつ、当該移動体に備えられた前記切断部材が、前記被切断部の分離片を切断するように構成されており、前記ハウジングは、前記筒部の外側に外側消弧空間を備え、当該外側消弧空間は、前記切断部材が前記被切断部を切断した際に、切断されずに前記ハウジング内に残る前記被切断部の本体部を、内部に挿通させて収容していることを特徴とする。
【0008】
上記特徴によれば、外側消弧空間内に被切断部の本体部を挿通させて収容しているので、外側消弧空間は、本体部から周囲に向けて発生したアークを消弧し、外部へ漏れさせない。また、本体部から発生したガスは、周囲の外側消弧空間へと分散していくので、ガスによる内圧の上昇を抑えることができ、その結果、電気回路遮断装置の破損を防止することが出来る。
【0009】
本願発明の電気回路遮断装置は、前記被切断部の本体部の一部が前記外側消弧空間内で曲がった曲がり部を備えることを特徴とする。
【0010】
上記特徴によれば、本体部から発生するアークをより多く、外側消弧空間内へ放出できるので、消弧性能が高くなるのである。
【0011】
本願発明の電気回路遮断装置は、前記外側消弧空間に、消弧材が収納されていることを特徴とする。
【0012】
上記特徴によれば、より効果的にアークを消弧することが出来る。
【発明の効果】
【0013】
上記のように、本願発明の電気回路遮断装置によれば、電気回路の遮断後において、上昇した内圧による破損を防ぎ、外部にアークが漏れることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は、本願発明の実施形態1に係る電気回路遮断装置のハウジングを構成する下側ハウジングの全体斜視図、(b)は、下側ハウジングの平面図である。
【
図2】(a)は、本願発明の実施形態1に係る電気回路遮断装置のハウジングを構成する上側ハウジングを上面側から見た斜視図、(b)は、上側ハウジングを下面側から見た斜視図、(c)は、上側ハウジングの底面図である。
【
図3】(a)は本願発明の実施形態1に係る電気回路遮断装置の移動体の斜視図、(b)は移動体の正面図、(c)は移動体の側面図である。
【
図4】(a)は本願発明の実施形態1に係る電気回路遮断装置の被切断部の斜視図、(b)は被切断部の平面図である。
【
図5】本願発明の実施形態1に係る電気回路遮断装置の分解斜視図である。
【
図6】
図5に示す電気回路遮断装置が組み立てられた状態でのA―A断面図である。
【
図7】
図6に示す状態から移動体が移動した様子を示す断面図である。
【
図8】
図7に示す状態から移動体が更に移動した様子を示す断面図である。
【
図9】(a)は、本願発明の実施形態2に係る電気回路遮断装置の被切断部の全体斜視図、(b)は、電気回路遮断装置の断面図である。
【符号の説明】
【0015】
300 ハウジング
310 筒部
320 第一端部
330 第二端部
400 被切断部
420 分離片
430 本体部
500 移動体
511 切断部材
P 動力源
X1 第一消弧空間
M 消弧材
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本願発明の各実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下で説明する実施形態における電気回路遮断装置の各部材の形状や材質等は、一例を示すものであって、これらに限定されるものではない。
【0017】
<実施形態1>
まず、本願発明の実施形態1に係るハウジング300を構成する下側ハウジング100を、
図1に示す。
図1(a)は、下側ハウジング100の全体斜視図、
図1(b)は、下側ハウジング100の平面図である。この下側ハウジング100は、合成樹脂で形成された略四角柱体であり、内部に円筒状の下側筒部110と、当該下側筒部110の周囲に環状に形成された外側消弧空間X3を備える。この下側筒部110は、下側ハウジング100の上面120から下面130に向けて延びており、後述する移動体500を収容できるように構成されている。また、下側筒部110の内面111は、移動体500が内部を上下方向にスライドできるように、滑らかな曲面となっている。さらに、下側筒部110の上端の一部には、後述する被切断部400の本体部430を載置できるように、本体部430の形状に合わせて窪んだ載置部113を備える。この、載置部113は、下側筒部110の両側に相対する様に配置されており、載置部113は、直線状に延びる被切断部400を両側で支えることになる。
【0018】
また、外側消弧空間X3は、下側ハウジング100の上面120から下面130に向けて延びる溝の形状をしており、下側筒部110の外側を環状に囲んでいる。この外側消弧空間X3は、後述する消弧材を収納できるように構成されている。なお、外側消弧空間X3は、下側筒部110の周囲を囲むように環状に形成されているが、これに限定されることはなく、例えば、下側筒部110の載置部113に隣接する部分のみに部分的に形成してもよい。後述するように、アークは、被切断部400の分離片420との境界である、本体部430の端部431を起点に発生するため、本体部430が収容される箇所である載置部113に隣接する部分に、外側消弧空間X3を設けておけば、当該外側消弧空間X3内の消弧材がアークを消弧できるのである。
【0019】
また、下側ハウジング100の上面120には、後述する被切断部400の本体部430を載置できるように、本体部430の形状に合わせて窪んだ載置部121を備える。この載置部121は、上面120の両側に相対する様に配置されると共に、載置部113と直線状に並んでいる。そのため、載置部121は、直線状に延びる被切断部400を両側で支えることができる。また、下側ハウジング100の上面120の四隅には連結孔B1が形成されており、この連結孔B1は、後述する上側ハウジング200の連結孔B2と上下に一致するように配置されている。
【0020】
次に、本願発明の実施形態1に係るハウジング300を構成する上側ハウジング200を
図2に示す。
図2(a)は、上側ハウジング200を上面220側から見た斜視図、
図2(b)は、上側ハウジング200を下面230側から見た斜視図、
図2(c)は、上側ハウジング200の底面図である。
【0021】
この上側ハウジング200は、合成樹脂で形成された略四角柱体であり、
図1に示す下側ハウジング100と対をなすものである。そして、内部に円筒状の上側筒部210と、当該上側筒部210の周囲に環状に形成された外側消弧空間X3を備える。この上側筒部210は、上側ハウジング200の下面230から上面220に向けて延びており、後述する移動体500を収容できるように構成されている。また、上側筒部210の内面211は、移動体500が内部を上下方向にスライドできるように、滑らかな曲面となっている。この上側筒部210は、後述するように、下側ハウジング100の下側筒部110と上下に配置されて、直線状に延びる筒部310を構成するものであり、上側筒部210の内径は下側筒部110の内径と一致している。そのため、移動体500は、筒部310内を上下に滑らかに移動できるのである。
【0022】
さらに、上側筒部210の端部の一部は、後述する被切断部400の本体部430の形状に合わせて窪んだ載置部213を備える。この載置部213は、上側筒部210の両側に相対する様に配置されると共に、下側ハウジング100の載置部113と対応する位置に配置されている。そのため、載置部213は、下側ハウジング100の載置部113に載置された被切断部400の本体部430に上方から嵌め合わせられる。
【0023】
また、外側消弧空間X3は、上側ハウジング200の下面230から上面220に向けて延びる溝の形状をしており、上側筒部210の外側を環状に囲んでいる。この外側消弧空間X3は、消弧材を収納できるように構成されている。なお、上側ハウジング200の外側消弧空間X3は、下側ハウジング100の外側消弧空間X3と対応する位置に配置されており、下側ハウジング100と上側ハウジング200を連結固定すると、下側ハウジング100の外側消弧空間X3と上側ハウジング200の外側消弧空間X3とが互いに連通するようになる。
【0024】
また、上側ハウジング200の下面230は、後述する被切断部400の本体部430の形状に合わせて窪んだ載置部231を備える。この、載置部231は、下面230の両側に相対する様に配置されると共に、載置部213と直線状に並んでいる。また、載置部231は、下側ハウジング100の載置部121と対応する位置に配置されている。そのため、載置部231は、下側ハウジング100の載置部121上に載置された被切断部400の本体部430に上方から嵌め合わせられる。
【0025】
さらに、上側ハウジング200の上面220の一部には、動力源Pが収容される動力源収納部221が形成されている。そして、動力源収納部221の底面側には、上側筒部210の上面と連通する連通孔222が形成されている。詳しくは、後述するが、動力源収納部221内に収容された動力源Pから生じた空気圧等の動力が、連通孔222を介して上側筒部210内に伝わり、上側筒部210内の移動体500を移動させるのである。さらに、上面220には貫通孔B3が形成されており、この貫通孔B3は、上側ハウジング200内部の外側消弧空間X3へと連通している。そのため、ハウジング300を組み立てた後に、貫通孔B3を介して外部から外側消弧空間X3に消弧材を流入させることができる。なお、下側ハウジング100及び上側ハウジング200は、合成樹脂で形成された略四角柱体となっているが、これに限定されず、絶縁性が高く、使用に耐えうる強度を備えていれば、他の材料で任意の形状としてもよい。
【0026】
では次に、本願発明の実施形態1に係る移動体500を、
図3に示す。
図3(a)は移動体500の斜視図、
図3(b)は移動体500の正面図、
図3(c)は移動体500の側面図である。この移動体500は、上面560と下面520を備えた、合成樹脂製の略円柱体である。移動体500の外径は筒部310の内径以下となっており、さらに、移動体500の外面530は筒部310の内面形状に対応する滑らかな表面となっているので、移動体500は、筒部310の内側を隙間無く滑らかにスライドできる。
【0027】
また、移動体500の下面520側には、一方の外面530から反対側の外面530まで、つまり、移動体500を正面から背面まで貫通する貫通部540が設けられており、この貫通部540は、下壁541、側壁542、側壁543、及び上壁544で囲まれている。さらに、貫通部540の内部には、突出部510が上壁544から下壁541に向けて突出している。この突出部510の根元側には、外面530より内側に窪んだ第一消弧空間X1が形成されている。なお、貫通部540の切断部材511と下壁541の間の空間は、後述するように、被切断部400の分離片420及び本体部430を挿通させることが出来るように、被切断部400より大きくなっている。
【0028】
また、突出部510の先端側には、切断部材511が形成されている。この切断部材511は、
図3(b)に示すように、縦断面が略コ字状になっており、被切断部400の分離片420の表面に当接する当接面512と、当該当接面512の両側から突出して分離片420の側面423を挟み込む挟持面513から構成されている。
【0029】
また、第一消弧空間X1は、切断部材511を挟んで分離片420の反対側において、切断部材511に隣接するように配置され、移動体500の外面530よりも内側に窪んだ形状をしている。そして、この第一消弧空間X1には消弧材を任意で収納することができる。さらに、切断部材511と下壁541の間の第二消弧空間X2にも任意で消弧材を収納することができる。同様に、突出部510と側壁542及び側壁543のそれぞれの間の第四消弧空間X4にも消弧材を任意で収納することができる。そのため、切断部材511に当接するように配置された被切断部400の分離片420の周囲を、消弧材で囲むことができる。
【0030】
また、移動体500の上面560側には、外面530から内側に窪んだ絶縁空間550が形成されている。この絶縁空間550は、外面530の相対する位置にそれぞれ形成されている。この絶縁空間550は、下壁551、側壁552、側壁553、上壁554、及び後壁555で囲まれている。そして、
図3(c)に示すように、相対するように配置された絶縁空間550同士は互いに後壁555で遮断されており、互いに絶縁された空間となっている。そして、絶縁空間550には、消弧材を収納しておらず、後述するようにアークを閉じ込めて遮断している。また、絶縁空間550と貫通部540は、互いに下壁551及び上壁544によって遮断されており、互いに絶縁された独立した空間となっている。同様に、絶縁空間550と第一消弧空間X1も、互いに下壁551及び上壁544によって遮断されており、互いに絶縁された独立した空間となっている。
【0031】
なお、移動体500は、合成樹脂製の円柱形状をしているが、これに限定されず、絶縁性が高く、使用に耐えうる強度を備えていれば、他の材料で任意の形状としてもよい。
【0032】
では次に、本願発明の実施形態1に係る電気回路遮断装置600が遮断する電気回路の一部を構成する被切断部400を、
図4に示す。
図4(a)は被切断部400の斜視図、
図4(b)は被切断部400の平面図である。この被切断部400は、電気回路と電気的に接続するために全体が金属製の導電体となっており、両端に電気回路と接続するための本体部430と、略中央に切断されて分離される分離片420とを備える。本体部430の端部には、電気回路と接続する際に利用する接続孔410が形成されている。また、分離片420の両側には、分離片420が切断されて分離されやすいように、切り込み421が形成されている。この分離片420の表面422には、
図3に示す移動体500の切断部材511の当接面512が当接し、両側の側面423には切断部材511の挟持面513が当接することになる。なお、後述するように、アークが発生すると、本体部430は高温に熱せられて溶融してしまい、溶融による金属製のガスも発生する。
【0033】
では次に、本願発明の電気回路遮断装置600の組み立て方について、
図5を参照して説明する。この
図5は、電気回路遮断装置600の分解斜視図を示している。
【0034】
まず、移動体500の貫通部540において、切断部材511と下壁541の間に被切断部400の本体部430を挿入し、被切断部400の分離片420が移動体500の切断部材511に向かい合うまで被切断部400を挿通させてゆく。すると、
図5に示すように、移動体500の内部に被切断部400の分離片420を挿通させて収容した状態となる。
【0035】
次に、移動体500を下面520側から下側ハウジング100の下側筒部110に挿入する。すると、被切断部400の本体部430が、下側ハウジング100の載置部113と載置部121に嵌められるように載置され、移動体500が下側筒部110内で固定されることになる。次に、上側ハウジング200の上側筒部210内に移動体500の上面560が挿入されるように、上側ハウジング200を下側ハウジング100の上から嵌め合わせてゆく。そして、上側ハウジング200を下側ハウジング100に向けて押し込んでゆけば、上側ハウジング200の載置部213と載置部231が、被切断部400の本体部430に嵌め合わせられる。そして、上下に並んだ連結孔B1及び連結孔B2を連結具等によって連結固定することで、下側ハウジング100及び上側ハウジング200から成るハウジング300は、内部に被切断部400及び移動体500を収容した状態で組み付けられる。
【0036】
さらに、上側ハウジング200の動力源収納部221には、動力源Pが取り付けられている。この動力源Pは、電気回路の異常を検知した際に外部から異常信号が入力されると、例えば、動力源Pの内部の火薬を爆発させて、その爆発による空気圧によって、移動体500を筒部310内で瞬時に押し出して移動させるものである。なお、動力源Pは、移動体500を移動させる動力を発生させるものであれば、火薬を用いた動力源に限られず、その他の既知の動力源を用いても良い。
【0037】
では次に、本願発明の実施形態1に係る電気回路遮断装置600の内部構造について、
図6を参照して説明する。この
図6は、
図5に示す電気回路遮断装置600が組み立てられた状態でのA―A断面図である。
【0038】
図6に示すように、移動体500は、直線状に並んだ下側筒部110及び上側筒部210から構成される筒部310内部に、収容されている。この筒部310は、ハウジング300の第一端部320から、第一端部320の反対側の第二端部330まで延びている。そして、移動体500は、動力源Pが配置された第一端部320側に配置されているので、筒部310の第二端部330側は空洞になっている。そのため後述するように、移動体500は、分離片420を切断して分離しながら、第二端部330側へと移動できるのである。また、移動体500の上面560は、動力源収納部221内に取り付けられた動力源Pに隣接している。そして、後述するように動力源P内の火薬の爆発による空気圧は、連通孔222を介して移動体500の上面560へと伝達される。
【0039】
また、被切断部400の分離片420は移動体500内部を挿通して収容されており、被切断部400の本体部430は外側消弧空間X3内部に挿通して収容されている。また、第二消弧空間X2は、切断部材511を挟んで第一消弧空間X1とは反対側に配置されている。
図6に示すように、第一消弧空間X1、及び外側消弧空間X3には粒状の消弧材Mが収納されている。また、移動体500の貫通部540には消弧材Mが充填されているので、貫通部540の第二消弧空間X2及び第四消弧空間X4(
図3参照)にも消弧材Mが収納されることになる。なお、
図6から
図8では、第一消弧空間X1、第二消弧空間X2、外側消弧空間X3、及び第四消弧空間X4内に、消弧材Mが充填されているが、図面上は見やすさを考慮して、消弧材Mの一部しか表示していない。
【0040】
なお、第一消弧空間X1には消弧材Mを収容していたが、これに限定されず、消弧材Mを収容しなくてもよい。第一消弧空間X1は内側に窪んだ空間であり、後述するように、本体部430の端部431から発生するアークは、第一消弧空間X1内へ放出される。そして、アークは、第一消弧空間X1内の空中を進む際にエネルギーを消費して、やがて消弧するのである。そのため、第一消弧空間X1に消弧材Mを収容しなくても、第一消弧空間X1はアークを十分に消弧できるのである。同様に、第二消弧空間X2、及び第四消弧空間X4内に、消弧材Mを収容していたが、これに限定されず、消弧材Mを収容しなくてもよい。
【0041】
また、外側消弧空間X3には消弧材Mを収容していたが、これに限定されず、消弧材Mを収容しなくてもよい。後述するように、本体部430の端部431周辺から発生するアークは、周囲の外側消弧空間X3へ広がる。そして、アークは、外側消弧空間X3内の空中を進む際にエネルギーを消費して、やがて消弧するのである。そのため、外側消弧空間X3に消弧材Mを収容しなくても、外側消弧空間X3はアークを十分に消弧できるのである。
【0042】
さらに、第一消弧空間X1、第二消弧空間X2、外側消弧空間X3、又は第四消弧空間X4に消弧材Mを収容する場合、消弧材Mは、珪砂等の粒状の固体の消弧材に限定されず、窒素ガス等のアークを効果的に消弧することができる気体状の消弧材を各空間に充填してもよい。
【0043】
では次に、本願発明の実施形態1に係る電気回路遮断装置600の使用態様について、
図7を参照して説明する。
図7は、
図6に示す状態から移動体500が移動した様子を示す断面図である。
図7に示すように、電気回路に過電流が流れる等の異常が検知された場合には、異常信号が動力源Pに入力され、動力源P内の火薬が爆発する。すると、その爆発による空気圧が連通孔222を介して瞬時に移動体500の上面560に伝わる。すると、この空気圧によって、移動体500は第一端部320から第二端部330に向けて勢いよく吹き飛ばされ、筒部310内を第二端部330に向けて瞬時に移動する。
【0044】
すると、移動体500の切断部材511は、移動体500が第二端部330に向けて押し出される力によって、分離片420を切断して本体部430から分離させる。そして、分離片420は、移動体500と共に第二端部330へ向けて移動し、本体部430から離れていくのである。また、
図7に示すように、移動体500が筒部310内を第二端部330へ向けて移動すると、切断部材511より上方に隣接して形成されている第一消弧空間X1が、本体部430と向かい合う位置にまで移動してくる。そのため、移動体500の切断部材511が分離片420を切断した直後に、第一消弧空間X1は、分離片420と本体部430との間に位置するように構成されているのである。そして、移動体500の切断部材511が分離片420を切断した直後においては、分離片420と本体部430との物理的な距離が近いため、分離片420と、当該分離片420との境界である本体部430の端部431との間にアークが発生する場合がある。しかし、
図7に示すように、本体部430の端部431から発生するアークは、分離片420と本体部430の間に位置している第一消弧空間X1へ放出されて、消弧されるのである。さらに、第一消弧空間X1内には消弧材Mが収容されているので、アークをより一層効果的に消弧できるのである。
【0045】
次に、移動体500が第二端部330に向けて更に移動した様子について、
図8を参照して説明する。
図8は、
図7に示す状態から移動体500が更に移動した様子を示す断面図である。
図8に示すように、移動体500が筒部310内を第二端部330に向けて移動すると、第一消弧空間X1の上方に形成されている絶縁空間550が、本体部430と向かいあって、隣接する位置にまで移動してくる。そして、両側の本体部430間に高電圧がかかり、本体部430の端部431からアークが発生しても、当該アークは絶縁空間550内に閉じ込められる。両側の本体部430間で発生したアークは、絶縁空間550内に閉じ込められて互いに絶縁されるので、両側の本体部430間でアークがつながり、電気回路に電流が流れてしまうことを防止できるのである。なお、アークが絶縁空間550内に閉じ込められて絶縁されるとは、具体的には、絶縁空間550が、下壁551、側壁552、側壁553、上壁554、及び後壁555によって周囲が囲まれた窪みとなっているので(
図3を参照)、一方の本体部430の端部431から発生したアークは、絶縁空間550に進行を阻まれて、反対側の本体部430に向けて進むことができない状態のことである。
【0046】
なお、絶縁空間550内には、消弧材Mを収納しないのが望ましい。絶縁空間550内に消弧材Mを収容すると、本体部430から発生したアークによって消弧材Mが、高温に晒され炭化する虞がある。そして、当該炭化した部分は、電流が流れることのできる経路となり、アークが絶縁空間550から漏れやすくなる。そして、絶縁空間550から漏れ出たアークが、移動体500の外面530に沿って進んでゆき、反対側の本体部430から発生したアークと繋がってしまう可能性がある。そのため、絶縁空間550内には、消弧材Mを収納しないのが望ましい。また、絶縁空間550内には、消弧材Mの代わりに、アークによって炭化しない絶縁材料を収納してもよい。
【0047】
このように、本願発明の電気回路遮断装置600によれば、移動体500自体が被切断部400を切断する切断部材511と、第一消弧空間X1を備えており、当該第一消弧空間X1は、切断部材511が分離片420を切断して、電気回路を遮断した直後に、切断されて分離される分離片420と、分離されずにハウジング300内に残る本体部430との間に位置するように構成されている。そのため、電気回路の遮断直後において、本体部430から発生したアークを、第一消弧空間X1内に放出し消弧できるのである。
【0048】
さらに、第一消弧空間X1内に消弧材Mを収容した場合は、本体部430から発生したアークをより一層効果的に消弧できるのである。
【0049】
なお、
図10に示す従来技術において、アークを消弧するために、切断室721内に粒状の固体の消弧材を封入することも考えられるが、切断室721内に消弧材を封入すると、パンチ730の打ち抜き動作を妨げる虞があり、切断室721内に消弧材を封入することは困難であった。ただ、本願発明では、従来技術と異なり、消弧材Mを、筒部310内ではなく、切断部材511と共に移動体500自体に収納することができるので、移動体500が筒部310内で移動して分離片420を切断する動作を邪魔することがないのである。また、分離片420は移動体500に収容され、当該移動体500と共に移動するので、従来技術のようにパンチの打ち抜き動作を妨げる虞がない。そして、消弧材Mと分離片420は共に移動体500に収容されて、当該移動体500と共に移動するので、従来技術と異なり、移動体500内に消弧材Mを大量に収容することができるのである。さらに、第一消弧空間X1は、移動体500内部の体積に応じて拡張できるので、消弧材Mを大量に収容することができ、アークの消弧性能が極めて高いのである。
【0050】
さらに、本願発明の電気回路遮断装置600によれば、移動体500が更に移動した後に、絶縁空間550が、ハウジング300内に残る被切断部400の本体部430に向かい合うように構成されているので、両側の本体部430に高電圧がかかり、本体部430からアークが発生しても、当該アークは絶縁空間550内に閉じ込められて互いに絶縁されるので、本体部430間でアークがつながり、電気回路に電流が流れてしまうことを防止できるのである。
【0051】
さらに、本願発明の電気回路遮断装置600によれば、切断部材511を挟んで第一消弧空間X1とは反対側に、第二消弧空間X2を備えているので、分離片420から第二端部330に向けて進むアークは、第二消弧空間X2内に放出されて、消弧されるのである。さらに、第二消弧空間X2内に消弧材Mを収容した場合は、アークをより効果的に消弧出来る。また、第二消弧空間X2は分離片420の下面側に位置しているので、分離片420で発生したアークは、第二消弧空間X2内の消弧材Mによって広範囲にわたって消弧されるのである。
【0052】
さらに、本願発明の電気回路遮断装置600によれば、外側消弧空間X3内に被切断部400の本体部430を挿通させて収容しているので、外側消弧空間X3は、本体部430から周囲に向けて発生したアークを消弧することができる。
【0053】
具体的には、被切断部400の両側の本体部430には、回路遮断後も高電圧がかかる場合があり、本体部430の端部431周辺から周囲に向けてアークが発生する。そして、そのアークによって高温に熱せられた本体部430は、端部431側から溶融すると共に周囲にガスを放出していく。しかしながら、本体部430から発生したアークは、周囲の外側消弧空間X3へと広がり、外側消弧空間X3の空中を進む際にエネルギーを消費して、やがて消弧するのである。また、外側消弧空間X3は、アークが発生する箇所である本体部430に近接しているため、発生したアークを素早く消弧することもできる。そのため、本体部430から発生したアークは、外側消弧空間X3で素早く消弧されて、外部へ漏れることはないのである。また、本体部430から発生したガスは、周囲の外側消弧空間X3へと分散していくので、ガスによる内圧の上昇を抑えることができ、その結果、電気回路遮断装置600の破損を防止することが出来る。特に、筒部310内は、動力源Pの爆発によって内圧が上昇しているので、本体部430から発生したガスの圧力が更にかかると、筒部310の破損の危険性が高まる。しかしながら、本体部430から発生したガスは、周囲の外側消弧空間X3へと分散していくので、筒部310の破損を効果的に防ぐことが出来るのである。
【0054】
さらに、外側消弧空間X3内に消弧材Mを収納した場合は、より効果的にアークを消弧することが出来る。なお、外側消弧空間X3内に消弧材Mを収納していたが、これに限定されず、消弧材Mを収納しなくてもよい。さらに、消弧材Mの他にも、移動体500の移動による衝撃やガスの発生による衝撃等を緩和するために、外側消弧空間X3内に衝撃吸収材を収納したり、その他にも、適宜用途に応じて任意の材料を収納してもよい。
【0055】
なお、本体部430から発生したアークは、第一消弧空間X1によって消弧することができるが、消弧性能を高める場合は、第一消弧空間X1を拡大して消弧面積を増大させる必要がある。しかし、第一消弧空間X1を広げるとなると、第一消弧空間X1を含む移動体500、及び移動体500を移動させる筒部310周辺の構造も大きくなってしまう。ただ、筒部310及び移動体500のような駆動部分は、電気回路遮断装置600の性能や安全上、できるだけ小型化するのが望ましい。そこで、移動体500を移動させる筒部310の外側に、被切断部400の本体部430を収容する外側消弧空間X3を備えたことで、筒部310及び移動体500を大型化することなく、本体部430から発生するアークの消弧性能を高めたのである。
【0056】
なお、外側消弧空間X3は、被切断部400の本体部430の上下に配置されているので、本体部430から発生したアークは、広範囲に放出されて効果的に消弧される。ただ、外側消弧空間X3は、被切断部400の本体部430の上下に配置される場合に限定されず、本体部430の上側又は下側の一方のみに配置されてもよい。
【0057】
なお、
図1から
図8に示す実施形態1では、第一消弧空間X1の上方の隣接する位置に絶縁空間550を設けていたが、これに限定されず、絶縁空間550を設けなくてもよい。その場合は、第一消弧空間X1が絶縁空間550の位置まで延長されることになる。
【0058】
<実施形態2>
では次に、実施形態2に係る本願発明の電気回路遮断装置600Aについて、
図9を参照して説明する。なお、
図9(a)は、実施形態2に係る本願発明の電気回路遮断装置600Aの被切断部400Aの全体斜視図、
図9(b)は、
図8に示す実施形態1に係る電気回路遮断装置600の断面図と同様に、実施形態2に係る電気回路遮断装置600Aの断面図を示したものである。また、実施形態2に係る電気回路遮断装置600Aの構成は、被切断部400Aの構成を除き、実施形態1に係る電気回路遮断装置600の構成と基本的に同一なので、同一の構成については説明を省略する。
【0059】
図9に示すように、電気回路遮断装置600Aの被切断部400Aは、中央の分離片420Aと、当該分離片420Aの両側に本体部430Aを備えている。さらに、本体部430Aの一部が、分離片420Aから立ち上がるように曲がった曲がり部440Aとなっている。そして、
図9(b)に示すように、被切断部400Aの曲がり部440Aは、ハウジング300Aの外側消弧空間X3A内で、外側消弧空間X3Aが拡がる上下方向に沿って曲がっている。そのため、外側消弧空間X3A内に存在する本体部430Aの長さは、
図6に示す外側消弧空間X3内に存在する直線状の本体部430の長さに比べて、長くなる。その結果、本体部430Aから発生するアークをより多く、外側消弧空間X3A内へ放出できるので、消弧性能が高くなるのである。さらに、外側消弧空間X3A内に消弧材Mを収容する場合は、消弧性能がより高くなるのである。
【0060】
なお、
図9では、被切断部400Aの曲がり部440Aは、分離片420Aから立ち上がり、外側消弧空間X3Aが拡がる上下方向に沿って曲がる形状であるが、これに限定されない。曲がり部440Aは、外側消弧空間X3A内に存在する部分の長さを増やすように、外側消弧空間X3A内で曲がっていれば、どのような形状であってもよい。
【0061】
また、本願発明の電気回路遮断装置は、上記の実施例に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲、実施形態の範囲で、種々の変形例、組み合わせが可能であり、これらの変形例、組み合わせもその権利範囲に含むものである。