(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】可撓管支持構造、海底への貯留物の貯留方法
(51)【国際特許分類】
F16L 1/12 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
F16L1/12 L
F16L1/12 F
(21)【出願番号】P 2017112352
(22)【出願日】2017-06-07
【審査請求日】2020-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】517200669
【氏名又は名称】株式会社KSI技研
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】特許業務法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107951
【氏名又は名称】山田 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【氏名又は名称】富崎 曜
(74)【代理人】
【識別番号】100166176
【氏名又は名称】加美山 豊
(72)【発明者】
【氏名】石井 健一
(72)【発明者】
【氏名】井上 哲夫
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-084630(JP,A)
【文献】実開昭63-015397(JP,U)
【文献】特開平05-164271(JP,A)
【文献】特開2006-158160(JP,A)
【文献】特開平03-143216(JP,A)
【文献】米国特許第04650431(US,A)
【文献】米国特許第05044297(US,A)
【文献】特開平02-072100(JP,A)
【文献】特開平02-072099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海中での可撓管の支持構造であって、
海底に敷設される第1の可撓管と、
前記第1の可撓管と接続される第2の可撓管と、
前記第1の可撓管と前記第2の可撓管との接続部が固定され、
海中の浅海部に設けられて、海底に係留された海中浮体と、
を具備し、
前記第2の可撓管の端末部が、前記海中浮体から
海底方向の海中に吊り下げられた状態で支持され、
前記第2の可撓管の端末部には、目印である第1のブイが接続されて、前記第1のブイが海上に浮遊することを特徴とする可撓管支持構造。
【請求項2】
前記第2の可撓管の端末部には、海底に設置されたガイド部に対して移動可能に挿通された係留索を介して第2のブイが接続され、
前記第2のブイは海中に浮遊することを特徴とする請求項1記載の可撓管支持構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の可撓管支持構造を用いた、海底への貯留物の貯留方法であって、
前記第1のブイを目印に、前記海中浮体から
海底方向の海中に吊り下げられた状態で支持されている前記第2の可撓管の端末部を海上に引き上げる工程と、
前記第2の可撓管を貯留物の輸送船に接続する工程と、
貯留物を地下に圧送後、前記第2の可撓管を前記輸送船から取り外し、前記第2の可撓管の端末部を、海中に沈め、前記第2の可撓管の端末部を、前記海中浮体から
海底方向の海中に吊り下げる工程と、
を具備することを特徴とする海底への貯留物の貯留方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化二酸化炭素等の流体を海底に貯留する際や、海底から流体を洋上に輸送する際に使用される可撓管支持構造及びこれを用いた海底への貯留物の貯留方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば、温室効果ガスとしての二酸化炭素に対し、大気中への排出量の低減が急務となっている。二酸化炭素の排出量を低減するためには、二酸化炭素自体の発生量を抑える方法の他に、二酸化炭素を地中へ貯留する方法が検討されている。
【0003】
例えば、海底へ二酸化炭素を貯留するためには、液化二酸化炭素を輸送船で運搬後、輸送船から可撓管を繰り出して注入井と接続して、海底へ二酸化炭素を圧送することで、海底へ二酸化炭素を注入する方法がある。しかし、輸送船から可撓管を繰り出すためには、大型の繰り出し機が必要となり、作業も容易ではない。
【0004】
これに対し、可撓管をあらかじめ海底に敷設しておき、使用時に海底から可撓管の端末部を海上に引き上げ、可撓管と輸送船とを接続して、海底へ二酸化炭素を注入する方法が提案されている(例えば特許文献1)。
【0005】
また、洋上に係留した浮体と輸送船の間をU字状の可撓管で結び、浮体から更に海底までは単純なカテナリー状に懸垂したライザー管に接続して流体輸送を行う方法がある(例えば、非特許文献1)。
【0006】
この場合、通常は荷役が終了した後は、可撓管を輸送船から切り離して、浮体上のリールによって可撓管を巻き取り、次の荷役まで待機する。しかし、この方法では、荷役待機時に浮体の上に可撓管を巻取り、保管するための大口径リールを搭載する必要がある。このため、浮体の規模が大掛かりとなり、浮体上の設備や浮体係留設備に巨額な費用が発生する。
【0007】
これに対し、海底に延線した可撓管の端末部を輸送船に引き上げて、輸送船の上の配管設備に接続して荷役作業を行う方法がある(例えば、非特許文献2)。
【0008】
この場合、可撓管は輸送船上から海底まで緩い傾斜度のカテナリー形に保持される。荷役待機時には可撓管の端末部が海底に落とされる。また、洋上から端末部の海底位置がわかるように、端末部には、洋上での標識用のブイが接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】「Development and Qualification of a Tandem FLNG Loading Terminal for Conventional LNG Carriers」(OTC-25980-MS),OFFSHORE TECHNOLOGY CONFERENCE,4-7 May 2015.
【文献】「Ship-Based Carbon Dioxide Capture and Storage for Enhanced Oil Recovery」(OTC-25861-MS),OFFSHORE TECHNOLOGY CONFERENCE,4-7 May 2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図10は、従来提案された可撓管支持構造100を示す概念図である。海底に設置された注入部101には、可撓管103が接続される。通常時は、可撓管103は、海底に配置され、可撓管103の端末部109には、ブイ107が接続される(図中点線)。
【0012】
輸送船105が到着すると、輸送船105は、ブイ107を目印として、端末部109を引き上げながら移動し、端末部109を輸送船105に接続する。その後、二酸化炭素を注入部101に圧送することで、図示を省略した注入井を介して、海底へ二酸化炭素を注入することができる。二酸化炭素の注入が終了すると、再び、端末部109を輸送船105から取り外し、可撓管103を海底へ沈める。以上により、二酸化炭素の貯留作業が終了する。
【0013】
しかし、この方法は、荷役作業性に大きな問題がある。まず、海底から可撓管103を安全に引き上げるためには、可撓管103を、水深に対して2倍程度まで長くし、遠くの海底から輸送船105を操作しながら可撓管103を徐々に巻き上げていく必要がある。また、荷役作業後には輸送船105を移動させながら遠方の海底まで可撓管103を落とし込んでいく必要があり、これらの作業には多くの時間を要す。
【0014】
また、この間、可撓管103に過大な張力や曲げ変形が発生しないよう、十分な安全性の確保が要求される。例えば、可撓管103の先端部近傍は、鉛直方向に対して大きな傾きで大きな張力を与えたまま輸送船105上まで引き上げられるため、輸送船105の上下揺動を抑制する高価な制御装置(ヒーブコンペンセーター)が必要である。また、可撓管103の端末部109を、輸送船105に対して目標とする角度範囲で立ち上げるためには、特殊な構造の端末嵌合装置が必要になり、これらの装置が新たに大きなコストアップを招く。
【0015】
また、荷役作業は複数の輸送船105を用いて一昼夜をサイクルとする頻繁な繰り返しで実施されるが、毎回の可撓管103の引き上げおよび引き下ろしの準備作業に多くの時間が取られて、荷役作業の稼働率が大きく低下し、ランニングコストが問題となる。したがって、従来の案に代わる低コストで荷役稼働率や荷役作業時の安全性に優れた新しい荷役設備と方法が要求されている。
【0016】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、低コストで、流体の輸送船からの流体荷役作業の稼働率を高め、荷役作業時および荷役準備作業時にも可撓管を安全に保持する事が可能な可撓管支持構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前述した目的を達成するため、第1の発明は、海中での可撓管の支持構造であって、海底に敷設される第1の可撓管と、前記第1の可撓管と接続される第2の可撓管と、前記第1の可撓管と前記第2の可撓管との接続部が固定され、海中の浅海部に設けられて、海底に係留された海中浮体と、を具備し、前記第2の可撓管の端末部が、前記海中浮体から海底方向の海中に吊り下げられた状態で支持され、前記海中浮体から吊り下げられる部位の、前記第2の可撓管の端末部には、目印である第1のブイが接続されて、前記第1のブイが海上に浮遊することを特徴とする可撓管支持構造である。
【0018】
前記第2の可撓管の端末部には、海底に設置されたガイド部に対して移動可能に挿通された係留索を介して第2のブイが接続され、前記第2のブイは海中に浮遊することが望ましい。
【0019】
前記第2の可撓管は、曲げ規制防護体で覆われて、所定以上の曲率での曲げが規制されることが望ましい。
【0020】
前記海中浮体は、上面が略円弧状の部材であり、前記第1の可撓管と前記第2の可撓管との接続部は、前記海中浮体の上面に固定され、少なくとも、前記海中浮体の縁部近傍における前記第1の可撓管に、曲げ規制保護部材が設けられてもよい。
【0021】
前記海中浮体は、上面が略円弧状の部材であり、複数の前記第1の可撓管と複数の前記第2の可撓管とがそれぞれ接続され、併設された、前記第1の可撓管と前記第2の可撓管とのそれぞれの接続部は、前記海中浮体の上面に固定され、少なくとも、前記海中浮体の縁部近傍における前記第1の可撓管に、曲げ規制保護部材が設けられてもよい。
【0022】
前記海中浮体は、複数の小型ブイで構成され、前記小型ブイによって、前記第1の可撓管と前記第2の可撓管の接続部近傍が海中に浮遊してもよい。
【0023】
第1の発明によれば、第1の可撓管と第2の可撓管とが海中で接続され、接続部が海中浮体に固定されるため、第2の可撓管の端末部を引き揚げる際、遠くの海底から輸送船を操作しながら可撓管を徐々に巻き上げていく必要がない。また、第1の可撓管の重量は海中浮体が支持するため、第2の可撓管の引き上げが容易である。
【0024】
また、第2の可撓管の端末部を、海中浮体から海中に吊り下げられた状態で支持すれば、端末部の引き上げ作業が容易である。特に、第2の可撓管の端末部に係留索を介して第2のブイに接続され、係留索が、海底に設置されたガイド部に対して移動可能であれば、端末部が海中で振れ動くことを抑制することができる。
【0025】
また、少なくとも、海中浮体から吊り下げられる部分の第2の可撓管が、曲げ規制防護体で覆われるため、第2の可撓管には、所定以上の曲げが付与されることがない。このため、第2の可撓管が許容曲げ以上の曲げによって損傷することがない。
【0026】
また、海中浮体が、上面が略円弧状の部材の場合において、海中浮体の縁部近傍における第1の可撓管に、曲げ規制保護部材が設けられれば、第1の可撓管に対して、局所的な曲げが付与されることを抑制することができる。
【0027】
また、円弧状の海中浮体に、複数の第1の可撓管と第2の可撓管とを併設することで、複数の可撓管を効率よく支持することができる。
【0028】
また、同様の効果は、海中浮体として、複数の小型ブイによって、第1の可撓管と第2の可撓管の接続部近傍を海中に浮遊させることでも得ることができる。
【0029】
第2の発明は、第1の発明にかかる可撓管支持構造を用いた、海底への貯留物の貯留方法であって、前記第1のブイを目印に、前記海中浮体から海底方向の海中に吊り下げられた状態で支持されている前記第2の可撓管の端末部を海上に引き上げる工程と、前記第2の可撓管を貯留物の輸送船に接続する工程と、貯留物を地下に圧送後、前記第2の可撓管を前記輸送船から取り外し、前記第2の可撓管の端末部を、海中に沈め、前記第2の可撓管の端末部を、前記海中浮体から海底方向の海中に吊り下げる工程と、を具備することを特徴とする海底への貯留物の貯留方法である。
【0030】
第2の発明によれば、作業性が良好で、効率よく、二酸化炭素などの貯留物を海底へ貯留することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、低コストで、輸送船からの流体荷役作業の稼働率を高め、荷役作業時および荷役準備作業時にも可撓管を安全に保持する事が可能な可撓管支持構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図3】(a)は海中浮体7近傍の側面図、(b)は海中浮体7近傍の平面図。
【
図4】海中浮体7の縁部近傍における可撓管3aを示す図。
【
図5】(a)は曲げ規制防護体41が取り付けられた可撓管3bを示す図、(b)は曲げ規制防護体41が取り付けられた可撓管3bが曲げられた状態を示す図。
【
図6】可撓管支持構造1を用いた、海底への貯留物の貯留方法を示す図。
【
図8】可撓管支持構造1bの海中浮体7a近傍を示す概略斜視図。
【
図9】可撓管支持構造1bの海中浮体7a近傍を示す概略平面図。
【
図10】従来の可撓管支持構造100を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態にかかる可撓管支持構造1について説明する。
図1は、可撓管支持構造1を示す図である。可撓管支持構造1は、海中での可撓管の支持構造であって、主に、第1の可撓管である可撓管3a、第2の可撓管である可撓管3b、海中浮体7、ブイ9a、9b等から構成される。
【0034】
可撓管3aは、いわゆるライザー管である。可撓管3aは、海底に敷設され、可撓管3aの一方の端部は、海底に設置された注入部11から海底井(図示せず)に接続される。なお、可撓管3aと注入部11の間に、必要に応じて、他のパイプライン等を接続してもよい。
【0035】
図2は、可撓管3aの軸方向の部分断面図である。可撓管3aは、主に、インターロック管23、樹脂層25、耐内圧補強層27、軸力補強層29、保護層31等から構成される。
【0036】
インターロック管23は、可撓管3aの最内層に位置し、外圧に対する座屈強度に優れ、耐食性も良好なステンレス製である。インターロック管23の外周部には、樹脂層25が設けられる。樹脂層25は、インターロック管23内を流れる流体を遮蔽する。なお、インターロック管23と樹脂層25との間に座床層35aを設けてもよい。
【0037】
樹脂層25の外周部には、耐内圧補強層27が設けられる。耐内圧補強層27は、主にインターロック管23内を流れる流体の内圧等に対する補強層である。
【0038】
耐内圧補強層27の外周には、軸力補強層29が設けられる。軸力補強層29は、主にインターロック管23が可撓管3aの軸方向へ変形する(伸びる)ことを抑えるための補強層である。軸力補強層29は、平型断面形状の補強条をロングピッチで(補強条の幅に対して巻きつけピッチが十分に長くなるように)2層交互巻きして形成される。なお、必要に応じて、耐内圧補強層27と軸力補強層29の間にポリエチレン製等の樹脂テープである座床層35bを設けてもよく、また、逆向きに螺旋状に巻きつけられる2層の補強条の間に、座床層35cを設けてもよい。
【0039】
軸力補強層29の外周部には、保護層31が設けられる。保護層31は、例えば海水等が補強層へ浸入することを防止するための層である。なお、軸力補強層29の外周には、必要に応じて座床層35dが設けられる。以上のように、可撓管3aを構成する各層は、それぞれ可撓管3aの曲げ変形等に追従し、可撓性を有する。
【0040】
可撓管3aの他方の端部は、可撓管3bと接続部5で接続される。可撓管3bは、使用時に、パイプライン全体の中で、特に常時曲げ変形を繰り返す箇所に用いられる、いわゆるジャンパーホースである。なお、可撓管3bの構造は、可撓管3aの構造とほぼ同様である。可撓管3aと可撓管3bの接続部5は、海中浮体7上に固定される。
【0041】
図3(a)は、海中浮体7の側面図であり、
図3(b)は平面図である。海中浮体7は、海中の比較的浅海部に設けられ、海底に係留索13によって係留され、海中に浮遊する。海中浮体7は、例えば鋼材で形成され、上面が略円弧状の半ドーム状の部材であり、海中浮体7の上面には、例えば溝状の凹部39が形成される。可撓管3a、3b、および接続部5は、凹部39に沿って配置され、接続部5は、海中浮体7の上面に固定される。
【0042】
海中浮体7の内部には、複数の内蔵浮体37が収容される。内蔵浮体37は、発泡体や内部にエアが封入された部材であり、海中浮体7を海中に浮遊させるものである。なお、海中浮体7の構造は、図示した例には限られず、係留索13によって海底に係留され、海中に浮遊可能であれば、その構造は限定されない。
【0043】
可撓管3a、3bは、海中浮体7の上面の円弧状の形状に沿って配置される。すなわち、海中浮体7の上面の曲率半径は、可撓管3a、3bの許容曲率半径よりも大きい。可撓管3bの端末部2は、海中浮体7から海中に吊り下げられた状態で支持される(
図1参照)。また、海中浮体7の縁部近傍における可撓管3aには、曲げ規制保護部材19が設けられる。
【0044】
図4は、海中浮体7の縁部近傍における可撓管3aを示す図である。曲げ規制保護部材19は、曲げ剛性補強用のいわゆるベンドスティフナーである。曲げ規制保護部材19は、例えばポリウレタン樹脂等のコーン型の筒状体であり、内部に可撓管3aが挿通される。曲げ規制保護部材19は、太さ方向と曲げ剛性が長さ方向に徐々に変化するように設計される。このため、可撓管3aの極度曲げが発生し易い箇所に曲げ規制保護部材19装着することで、可撓管3aに曲げ力が付与された際(図中矢印B)、可撓管3aの急激な曲げ変形を緩和することができる。
【0045】
可撓管3bは、曲げ規制防護体で覆われてもよい。前述したように、可撓管3bは、海中浮体7からの長さが短く、可撓管3bは海底までは落とされずに海中浮体7から宙吊りに懸垂されるものである。このように、可撓管3bの長さが短いと、後述する荷役作業時に極度曲げが発生し易い。このため、これを防止するために可撓管3bの全長(少なくとも、海中浮体7から吊り下げられる部位)は曲げ規制防護体で覆われる。
【0046】
図5(a)は、曲げ規制防護体41の一例を示す図である。曲げ規制防護体41は、いわゆる、極度曲げ防止用のベンドリストリクターである。曲げ規制防護体41は、例えば鎧型構造の成形品であり、海底ケーブルや可撓性パイプライン用として現在、多く使用されている。曲げ規制防護体41は、鎧型構造を形成する金属等で成型したユニットで、これらの内部に可撓管3bが挿通され、端部は可撓管3bの端末部2に固定される。
【0047】
図5(b)に示すように、曲げ規制防護体41に挿通された可撓管3bを曲げると(図中矢印A)、鎧型構造の曲げ規制防護体41は、各ユニット間が多少スライドして曲がる事で、曲げ規制防護体41の許容曲率までの変形が可能となる。なお、曲げ規制防護体41としては、蛇腹構造のベンドリストリクターで、蛇腹の谷部の伸びと山部同士の突き当りによって一定曲率までの変形を許容するものであってもよい。このように、曲げ規制防護体41によって、可撓管3bが、所定以上の曲率で曲げられることが規制される。なお、他の図においては、曲げ規制防護体41の図示を省略する。
【0048】
前述したように、可撓管3bの端末部2は、海中に吊り下げられた状態で支持される。すなわち、端末部2は、海底よりも上方に配置される。端末部2には、第1のブイであるブイ9aが接続される。ブイ9aは、海上に浮遊する。ブイ9aは、洋上からの位置確認のためと、端末部2と引き上げ用のピックアップワイヤーとを繋ぎ止めるためのものである。
【0049】
一方、海中にも波浪や潮流の影響がある場合には可撓管3bが横振れし、可撓管3bの端末部2が分銅のように振れ回って、他の係留索13等に絡まったりする恐れがある。また、洋上のブイ9aが波風によって大きく移動する場合にも同様の問題が考えられる。
【0050】
このため、可撓管支持構造1では、端末部2に、ブイ9aとは別に、横振れ防止用の係留索15が接続される。係留索15は、海底に設置されたガイド部17に挿通され、他端に第2のブイであるブイ9bが接続される。すなわち、可撓管3bの端末部2には、海底に設置されたガイド部17に対して移動可能に挿通された係留索15を介してブイ9bが接続される。
【0051】
ブイ9bは、海中に浮遊する。係留索15は、ガイド部17に対して移動可能であるため、端末部2は海中で移動可能であるが、可撓管3bは、ブイ9bの浮力によって、海底のガイド部17方向に張力が付与された状態となり、揺動が抑制される。なお、ガイド部17は、例えば複数個所に配置される。例えば、海中浮体7の中心から径方向に、複数のガイド部17が略直線状に配置される。
【0052】
次に、流体輸送船から可撓性パイプラインに流体を移し替える(以降荷役と称す)方法について説明する。
図6は、可撓管支持構造1を用いた、海底への貯留物の貯留方法を示す図である。まず、ブイ9aを目印にして、端末部2を洋上に引き上げ(図中矢印C)、液化二酸化炭素などの貯留物を輸送する輸送船43と接続する。この際、端末部2の上昇に伴い、ブイ9bはガイド部17側に引き込まれる(図中矢印D)。
【0053】
ここで、待機時におけるガイド部17からブイ9bまでの係留索15の長さは、端末部2の引き上げ長さ(待機時の端末部2の待機深さ)よりも十分に長い。このため、ブイ9bは、ガイド部17と干渉することがない。このように、係留索15、ガイド部17、ブイ9bは、荷役作業時において、端末部2を輸送船43まで吊り上げたり、輸送船43から吊り下げたりする際に、端末部2の上下動を妨げる事が無い。
【0054】
この状態で、輸送船43から貯留物が可撓管3a、3bを介して、注入部11へ圧送され、海底井へ貯留物が貯留される。貯留物を地下に圧送後、可撓管3bの端末部2を輸送船43から取り外し、端末部2を、海中に沈め、海中浮体7に吊り下げる。以上により、海底への貯留物の貯留の1サイクルが終了する。
【0055】
このように、可撓管3bは、輸送船43との接続時と海中への吊り下げ時に、繰り返しの曲げにより、極度曲げが発生し易い。しかし、前述したように、可撓管3bを曲げ規制防護体41で覆うことで、極度曲げが発生することを防止することができる。
【0056】
以上のように、本実施形態によれば、端末部2が海中で吊り下げられた状態で支持されるため、端末部2を海底に沈める場合と比較して、端末部2を輸送船43へ引き揚げる際に、遠くの海底から輸送船43を操作しながら可撓管3bを徐々に巻き上げていく必要がない。このため、より短時間に可撓管3bを引き上げることができる。
【0057】
また、可撓管3aの重量は海中浮体7が支持するため、輸送船43にかかる重量は、洋上から海中浮体7までの可撓管3bの重量のみであり、可撓管3bの引き上げが容易であるとともに、可撓管3bに要求される軸力を小さくすることができる。このため、より軽量な可撓管3bとすることができる。
【0058】
また、可撓管3bの繰り返し曲げ等による劣化に対して、可撓管3bのみを交換すればよいため、交換作業が容易であり、全長にわたって可撓管3a、3bを全交換する必要がない。
【0059】
また、海中浮体7の縁部近傍における可撓管3aに、曲げ規制保護部材19が設けられるため、海中で可撓管3aが揺動した際にも、可撓管3aの局所的な曲げが生じやすい部位における極度曲げを抑制することができる。
【0060】
また、可撓管3bが、曲げ規制防護体41で覆われるため、荷役作業時においても、可撓管3bに、所定以上の曲げが付与されることがない。このため、可撓管3bが許容曲げ以上の曲げによって損傷することがない。
【0061】
また、可撓管3bの端末部2に係留索15を介してブイ9bが接続され、係留索15が、海底に設置されたガイド部17に対して移動可能に挿通されるため、端末部2が海中で振れ動くことを抑制することができるとともに、端末部2の引き揚げ作業の妨げとなることがない。
【0062】
次に、第2の実施形態について説明する。
図7は、第2の実施形態にかかる可撓管支持構造1aを示す図である。なお、以下の説明において、可撓管支持構造1と同様の機能を奏する構成については、
図1等と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0063】
可撓管支持構造1aは、可撓管支持構造1とほぼ同様の構成であるが、海中浮体7に代えて、小型のブイ9c、9dが用いられる点で異なる。すなわち、可撓管支持構造1aにおける海中浮体は、複数の小型のブイ9c、9dで構成され、ブイ9c、9dによって、可撓管3aと可撓管3bの接続部5近傍が海中に浮遊する。
【0064】
可撓管支持構造1aは、ブイ9c、9dの浮力で支持されて海中に大きな波型を描く、レイズイウェイブ(Lazy wave)方式である。レイズイウェイブは海中の潮流や波浪の影響を受けて、形状が不安定で大きく変形し易い。これを出来るだけ防止するため、可撓管3a側を支持するブイ9cの多くは海底から係留索13で接続される。
【0065】
一方で可撓管3bを支持する区間は、荷役時の輸送船43の揺動を吸収するために、その自由な変形が可能なように、ブイ9dは非係留である。すなわち、可撓管3bには係留索13が接続されず、前述したように、端末部2に係留索15を介してブイ9bが接続される。可撓管3bの端末部2は、ブイ9dによって浮遊している部位から吊り下げられた状態となる。すなわち、可撓管3bの端末部2は、吊り下げられた位置から洋上までを移動可能である。
【0066】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。このように、可撓管3a、3bを海中に浮遊させる海中浮体の構成は、特に限定されない。
【0067】
次に、第3の実施形態について説明する。
図8は、第3の実施形態にかかる可撓管支持構造1bの海中浮体7a近傍の概略斜視図、
図9は、可撓管支持構造1bの海中浮体7a近傍の概略平面図である。
【0068】
可撓管支持構造1bは、可撓管支持構造1とほぼ同様の構成であるが、海中浮体7に代えて、海中浮体7aが用いられる点で異なる。海中浮体7aは、半球状ではなく、平面視における短辺方向に対しては、上面が円弧状に形成され、これと直交する長辺方向は、直線状に一定の形状で形成される。すなわち、海中浮体7aは、略半円柱形状である。
【0069】
海中浮体7aの上面は、海中浮体7の上面とほぼ同様の構造であり、例えば、短辺方向に複数の凹部39が形成される。なお、海中浮体7aでは、凹部39が、所定の間隔で複数併設される。それぞれの凹部39には、可撓管3a、3bとこれらの接続部5が配置される。すなわち、複数の可撓管3a、3bが海中浮体7aの長手方向に所定の間隔で併設されて、それぞれの接続部が、海中浮体7aに固定される。なお、図では3列の凹部39の例を示すが、これには限られない。
【0070】
海中浮体7aの下端部近傍において、可撓管3aには、それぞれ曲げ規制保護部材19が配置される。また、前述したように、可撓管3bには、曲げ規制防護体41が配置されてもよい。
【0071】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、海中浮体7aを用いれば、複数の可撓管3a、3bを支持することができる。
【実施例】
【0072】
以下、可撓管支持構造1について、具体的な数値を用いた設計例を説明する。荷役作業海域の水深は500mとし、海中浮体7は潜水作業が可能な水深35m、海底からは465mの高さに係留させた。海中浮体7の直径は約10mで、可撓管3a、3bがその球形表面を添って曲げられても曲率半径はそれぞれの許容曲率半径以上に保持される。
【0073】
海中浮体7が、可撓管3a、3bおよびこれらの接続部5の重量を十分に支持可能なように、海中浮体7の浮力を50トン程度とし、この場合、係留索13は安全率も考慮すると200トン以上の抗張力が必要である。なお、係留索13として、鋼製ワイヤーを4本使用する場合、ワイヤー径は約40mmとなる。
【0074】
可撓管3bの長さは荷役作業中の輸送船43の移動を考慮して120m長とした。可撓管3bの曲げ規制防護体41は、外径250~300mm、水中重量約40kg/mとした。ブイ9aと接続されるピックアップワイヤーの長さは約280mで、海中に懸垂した可撓管3bと端末部2の約7トンの重量を引き上げる抗張力を要する。これに対し、直径約24mmのポリエステル繊維ロープを使用することで、10トン以上の抗張力を得ることができる。ブイ9aについては、長さ160mのポリエステル繊維ロープの重量分である50kg以上の浮力があれば良いが、ブイ9a径が小さ過ぎると、洋上での標識には不向きとなることから、直径0.8m、浮力が1トン程度の球形プラスチックブイとした。
【0075】
海中に懸垂する可撓管3bおよびその端末部2の海中潮流による水平方向流体力は、潮流流速0.5m/secの場合、約2.0kNで算定される。また、可撓管3bが表層潮流によって受ける水平方向漂流力は表層速度2.0m/secで約2.0kNなので合計4.0kN程度の水平方向張力で端末部2の横振れを防止する必要がある。この場合、海底から係留索15で斜め方向から牽引する張力は約70kN必要となり、ブイ9bの浮力も70kN以上必要となる。ブイ9bに、比重0.5の球形プラスチックブイを使用すれば、その直径は約1.5mとなる。
【0076】
係留索13のベースとこれに近い方のガイド部17の距離は、潮流でブイ9bが流される範囲にもよるが、ここでは約30mとした。2つのガイド部17同士の間隔もブイ9bの移動次第で決まり、ブイ9bが大きく移動して他の係留索と絡まり合う可能性が低くければガイド部17同士の距離を短くしてもよく、ガイド部17を一つだけにしても良い。更に静穏な環境であれば係留索15やガイド部17、ブイ9bは全て省略することも可能である。
【0077】
可撓管3bの内径と外径はそれぞれ約150mm、約200mmで水中重量(内部水入り)は15kg/m程度である。曲げ剛性は約30kN・mm2で可撓性に優れ、許容曲率半径は約2mである。可撓管3aの内径と外径はそれぞれ約150mm、約250mmで水中重量(内部水入り)は約25kg/mである。曲げ剛性は約40kN・mm2で、許容曲率半径は約2.5mである。可撓管3aと可撓管3bの上記数値が異なる理由は、可撓管3bが耐久年数5年程度の消耗品であるのに対して、可撓管3aは30年以上の長期使用品であり、内部の補強構造がそれぞれ異なる事による。
【0078】
以上の構成によれば、地球温暖性ガスである二酸化炭素を回収、液化して輸送船43で適正海域まで船舶輸送し、洋上から可撓性パイプラインで海底井に圧入する装置として利用することができる。なお、可撓管支持構造1は、前述したように、二酸化炭素の貯留に用いられるのみでなく、石油、液化天然ガス等の洋上での浮体とパイプライン相互の荷役作業を行うための設備としても利用可能である。
【0079】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0080】
1、1a、1b………可撓管支持構造
2………端末部
3a、3b………可撓管
5………接続部
7、7a………海中浮体
9a、9b、9c、9d………ブイ
11………注入部
13、15………係留索
17………ガイド部
19………曲げ規制保護部材
23………インターロック管
25………樹脂層
27………耐内圧補強層
29………軸力補強層
31………保護層
35a、35b、35c、35d………座床層
37………内蔵浮体
39………凹部
41………曲げ規制防護体
43………輸送船
100………可撓管支持構造
101………注入部
103………可撓管
105………輸送船
107………ブイ
109………端末部