(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ヒト尿酸代謝モデル動物
(51)【国際特許分類】
A01K 67/027 20060101AFI20220511BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220511BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220511BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20220511BHJP
【FI】
A01K67/027
C12Q1/02
C12N5/10
C12N15/54
(21)【出願番号】P 2017157930
(22)【出願日】2017-08-18
【審査請求日】2020-08-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年2月21日掲載、http://top-researchers.com/?p=388 一般社団法人日本痛風・核酸代謝学会、痛風と核酸代謝,Vol.41(2017)No.1、平成29年7月25日発行
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】細山田 真
【審査官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-213453(JP,A)
【文献】Hypoxanthine-guanine phosphoribosyltransferase [Fundulus heteroclitus].,2016年05月31日,[online] Accession No.JAQ25164, <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/JAQ25164.1>
【文献】Biol. Pharm. Bull,2016年,Vol.39,P.1081-1084
【文献】Circ Res.,2004年,Vol.95,P.1118-1124
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12Q 1/02
C12N 5/10
C12N 15/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンチンデヒドロゲナーゼ遺伝子の機能を喪失し、且つ、N末から2番目のアミノ酸がアラニンである
ヒト又は野ネズミのヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼをコードする遺伝子を有する、げっ歯類またはその一部。
【請求項2】
更に、ウリカーゼ遺伝子の機能を喪失した、請求項1に記載のげっ歯類またはその一部。
【請求項3】
更に、ヒト由来のキサンチンデヒドロゲナーゼ遺伝子を有する、請求項2に記載のげっ歯類またはその一部。
【請求項4】
更に、ウリカーゼ遺伝子の機能を喪失し、前記キサンチンデヒドロゲナーゼ遺伝子として、プロモーターの活性を低下させたキサンチンデヒドロゲナーゼ遺伝子を有する、請求項1に記載のげっ歯類またはその一部。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のげっ歯類またはその一部の、ヒト尿酸代謝モデル動物としての使用。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載のげっ歯類またはその一部を使用することを特徴とする、ヒト尿酸代謝に関連する疾患に対する治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項7】
ヒト尿酸代謝に関連する疾患が発症する環境下において、請求項1~4のいずれか一項に記載のげっ歯類またはその一部に被験物質を接触させ、対照と比較することにより、前記疾患に対する治療剤または予防剤の候補を選択する、請求項6に記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト尿酸代謝モデル動物に関する。
【背景技術】
【0002】
高尿酸血症の罹患患者数は増大しており、痛風や尿路結石の原因となるだけではなく、心血管障害や腎障害の独立した危険因子でもあるため、高尿酸血症の発症メカニズムを明らかにする研究の重要性が高まっている。しかしながら、ヒトでは進化に伴い偽遺伝子化したために尿酸分解酵素ウリカーゼの機能が喪失しているのに対し、ウリカーゼ遺伝子(Uox)が保存されているために血清尿酸値がヒトの25分の1しかないマウスは高尿酸血症の研究に用いることができなかった。
【0003】
ヒト尿酸代謝モデルとなるマウスを作出するために、ウリカーゼ遺伝子ノックアウトマウス(Uox-KOマウス:非特許文献1)を導入した。Uox-KOマウスの血清尿酸値はヒトの2分の1に上昇したが、Uox-KOマウスの尿中尿酸排泄量は体重当たりヒトの25倍と過剰であるという問題点が明らかになった。アロプリノールやフェブキソスタットなどキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)阻害薬を投与しても尿中尿酸排泄量はヒトの10倍、ヒポキサンチン、キサンチンを含めた尿中プリン体排泄量はヒトの25倍と不変であり、過剰な尿中尿酸排泄による腎機能の低下が問題であった。
【0004】
尿中プリン体排泄量の過剰はヒポキサンチンを変換するヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)の欠損症(レッシュ=ナイハン症候群)で認めることから、マウスのHPRTについて検討したところ、HPRTタンパク質のN末から2番目のアミノ酸がアラニンであるヒトおよび野ネズミとは異なり、プロリンであるC57BL/6系統などの研究用マウスではHPRTタンパク質の分解亢進によりHPRT活性が野ネズミの30分の1と低活性であると報告されていた(非特許文献2)。そこで、HPRT遺伝子座位のあるX染色体中央部分のみ野ネズミ由来で、他の染色体はC57BL/6由来であるB6コンソミック系統MSMマウス(B6-ChrXCMSMマウス:非特許文献3)を導入し、同マウスがHPRT高活性であることを確認した(非特許文献4)。
【0005】
本発明者は、前記Uox-KOマウスと前記B6-ChrXCMSMマウスとを交配させることにより、HPRT高活性-Uox-KOマウスを作出した。このHPRT高活性-Uox-KOマウスにXDH阻害薬を投与すると、尿中尿酸排泄量がヒトの25倍から3倍へと減少し、HPRTによるプリン体生合成基質であるホスホリボシルピロリン酸(PRPP)の消費に伴い尿中プリン体排泄量もヒトの25倍から15倍へと6割に減少した(未発表データ)。しかし、過剰量のXDH阻害薬を投与してもこれ以上は減少しなかった。
【0006】
ところで、キサンチンデヒドロゲナーゼ(Xdh)遺伝子の機能を消失させたXdh-KOマウスが知られており、ヘテロ接合体は野生型と差がなく生存するが、ホモ接合体は10日齢~14日齢頃より成長が止まり、1か月齢で死亡する(非特許文献5)。ヒトのキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)遺伝子欠損によるキサンチン尿症では、無尿酸血症および無尿酸尿症である以外は無症状で生存に全く問題がないこととは大きな違いである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Wu X, Wakamiya M, Vaishnav S, Geske R, Montgomery C Jr, Jones P, Bradley A, Caskey CT: Hyperuricemia and urate nephropathy in urate oxidase-deficient mice. Proc Natl Acad Sci U S A 91(2):742-746. 1994
【文献】Johnson GG, Kronert WA, Bernstein SI, Chapman VM, Smith KD: Altered turnover of allelic variants of hypoxanthine phosphoribosyltransferase is associated with N-terminal amino acid sequence variation. J. Biol. Chem., 263, 9079-9082. 1988
【文献】Takada T, Mita A, Maeno A, Sakai T, Shitara H, Kikkawa Y, Moriwaki K, Yonekawa H, Shiroishi T:Mouse inter-subspecific consomic strains for genetic dissection of quantitative complex traits. Genome Res. 18: 500-508. 2008
【文献】Watanabe T, Tomioka NH, Watanabe T, Suzuki Y, Tsuchiya M, Hosoyamada M: The Mechanism of False in Vitro Elevation of Uric Acid Level in Mouse Blood. Biol. Pharm. Bull. 39, 1081-1084. 2016
【文献】Ohtsubo T, Rovira II, Starost MF, Liu C, Finkel T: Xanthine oxidoreductase is an endogenous regulator of cyclooxygenase-2. Circ Res. 2004 Nov 26;95(11):1118-24. 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、高等霊長類を除く、げっ歯類等の哺乳動物では、ヒトでは機能が喪失しているウリカーゼ遺伝子が保存されているため、高尿酸血症の研究に用いることができなかった。本発明の課題は、環境要因による高尿酸血症の発症メカニズムや痛風発作の発症メカニズムの研究に有用な、ヒト健常者と同等のヒト尿酸代謝モデル動物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題は、本発明による、
[1]キサンチンデヒドロゲナーゼ(Xdh)遺伝子の機能を喪失または低活性で発現し、且つ、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を高活性で発現する、非ヒト動物またはその一部、
[2]前記キサンチンデヒドロゲナーゼ(Xdh)遺伝子の機能を喪失した、[1]の非ヒト動物またはその一部(HPRT高活性-Xdh-KO)、
「3」更に、ウリカーゼ(Uox)遺伝子の機能を喪失した、[2]の非ヒト動物またはその一部(HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO)、
[4]更に、ヒト由来のキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)遺伝子を有する、[3]の非ヒト動物またはその一部(HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現)、
[5]更に、ウリカーゼ(Uox)遺伝子の機能を喪失し、前記キサンチンデヒドロゲナーゼ(Xdh)遺伝子として、プロモーターの活性を低下させたキサンチンデヒドロゲナーゼ(Xdh)遺伝子を有する、[1]の非ヒト動物またはその一部(HPRT高活性-Uox-KO-非ヒトXdh低発現)、
[6]非ヒト動物がげっ歯類である、[1]~[5]のいずれかの非ヒト動物またはその一部、
[7][1]~[6]のいずれかの非ヒト動物またはその一部の、ヒト尿酸代謝モデル動物としての使用、
[8][1]~[6]のいずれかの非ヒト動物またはその一部を使用することを特徴とする、ヒト尿酸代謝に関連する疾患に対する治療剤または予防剤のスクリーニング方法、
[9]ヒト尿酸代謝に関連する疾患が発症する環境下において、[1]~[6]のいずれかの非ヒト動物またはその一部に被験物質を接触させ、対照と比較することにより、前記疾患に対する治療剤または予防剤の候補を選択する、[8]のスクリーニング方法
により解決することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ヒトでは機能が喪失しているウリカーゼ遺伝子が保存されている非ヒト動物であっても、環境要因による高尿酸血症の発症メカニズムや痛風発作の発症メカニズムの研究に有用な、ヒト健常者と同等のヒト尿酸代謝モデル動物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非ヒト動物は、キサンチンデヒドロゲナーゼ(Xdh)遺伝子の機能を喪失または低活性で発現し、且つ、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を高活性で発現する、非ヒト動物である。
【0012】
本発明において、「非ヒト動物」とは、ヒト尿酸代謝モデルとなることができる、ヒト以外の動物であれば、特に限定されるものではないが、非ヒト哺乳動物が好ましい。非ヒト哺乳動物としては、例えば、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、モルモット)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウシ、ウマ、サルを挙げることができ、げっ歯類が好ましく、マウスが特に好ましい。
【0013】
本発明において、「非ヒト動物の一部」とは、非ヒト動物由来の器官、組織、細胞、体液、及びこれらの破砕物または抽出物を意味する。
【0014】
本発明において、「遺伝子の機能を喪失する」とは、遺伝子の全部または一部が欠損することによって、遺伝子の発現が抑制されるか、あるいは、遺伝子が発現してもその遺伝子産物の活性が失われている状態を意味する。
また、本発明において、「遺伝子が低活性で発現する」とは、ある態様では、非ヒト動物が本来有する遺伝子にコードされるタンパク質の活性が、当該非ヒト動物の野生型と比較して低下している状態を意味し、また、別の態様では、非ヒト動物が本来有する遺伝子に対応する外来性遺伝子(例えば、ヒト由来遺伝子)にコードされるタンパク質の活性が、非ヒト動物が本来有する遺伝子にコードされるタンパク質の活性と比較して低い状態を意味する。
【0015】
本発明において、「HPRTを高活性で発現する」とは、ある態様では、非ヒト動物の異なる系統のHPRT活性を比較した場合に、相対的に高い活性を示す系統と同程度の活性を示すことを意味する。あるいは、別の態様では、ヒトと同程度のHPRT活性を示すことを意味する。
背景技術欄で示したように、野ネズミ又はヒトでは、HPRTタンパク質のN末から2番目のアミノ酸がアラニンであるのに対して、研究用マウスでは、同アミノ酸がプロリンであるため、HPRTタンパク質の分解亢進によりHPRT活性は野ネズミの30分の1と低活性を示す。N末から2番目のアミノ酸がアラニンであるHPRTタンパク質をコードする遺伝子を非ヒト動物に導入することにより、HPRTを高活性で発現させることができる。
【0016】
キサンチンデヒドロゲナーゼ(Xdh)遺伝子の機能を喪失または低活性で発現し、且つ、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を高活性で発現する、本発明の非ヒト動物には、Xdh遺伝子の状態や、Xdh遺伝子、HPRT遺伝子以外の遺伝子の状態に基づいて、以下の非ヒト動物(1)~(4)が含まれる:
(1)前記Xdh遺伝子の機能を喪失した非ヒト動物、すなわち、非ヒト動物が本来有するXdh遺伝子の機能を喪失し、且つ、HPRTを高活性で発現する、非ヒト動物(以下、HPRT高活性-Xdh-KO非ヒト動物と称することがある)、
(2)前記(1)の非ヒト動物において、更に、ウリカーゼ(Uox)遺伝子の機能を喪失した非ヒト動物、すなわち、Uox遺伝子及びXdh遺伝子の機能を共に喪失し、且つ、HPRTを高活性で発現する、非ヒト動物(以下、HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO非ヒト動物と称することがある)、
(3)前記(2)の非ヒト動物において、更に、ヒト由来のキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)遺伝子を有する非ヒト動物、すなわち、Uox遺伝子及び前記Xdh遺伝子の機能を共に喪失し、HPRTを高活性で発現し、ヒト由来のキサンチンデヒドロゲナーゼ(XDH)遺伝子を有する、非ヒト動物(以下、HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物と称することがある)、
(4)前記(1)の非ヒト動物において、更に、Uox遺伝子の機能を喪失し、前記Xdh遺伝子として、プロモーターの活性を低下させたXdh遺伝子を有する非ヒト動物、すなわち、Uox遺伝子の機能を喪失し、HPRTを高活性で発現し、且つ、プロモーターの活性を低下させた非ヒト動物由来のXdh遺伝子を有する、非ヒト動物(以下、HPRT高活性-Uox-KO-非ヒトXdh低発現非ヒト動物と称することがある)。
【0017】
前記(1)のHPRT高活性-Xdh-KO非ヒト動物は、非ヒト動物が本来有するXdh遺伝子の機能を喪失し、且つ、HPRTを高活性で発現する非ヒト動物であれば、特に限定されるものではなく、それ自体公知の各種作出方法若しくはそれらの変法、又はそれらの組合せにより作出することができる。例えば、キサンチンデヒドロゲナーゼノックアウト非ヒト動物(例えば、Xdh-KOマウス:非特許文献5)とヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ高活性非ヒト動物(例えば、HPRT高活性-Uox-KOマウス:後述する実施例1、B6-ChrXCMSMマウス:非特許文献3)とを交配することにより、HPRT高活性-Xdh-KO非ヒト動物を作出することができる。より具体的には、交配により得られた産仔から、Hprt、Xdhの各遺伝子のジェノタイピングによりHprt(a/b)/Xdh(-/+)[但し、Hprt-aアレルは高活性型、Hprt-bアレルは低活性型]を得たのち、交配を重ねてHprt(a/a)/Xdh(-/-)であるHPRT高活性-Xdh-KO非ヒト動物を得ることができる。
【0018】
キサンチンデヒドロゲナーゼは、キサンチンを基質として尿酸を生成する酵素であり、HPRT高活性-Xdh-KO非ヒト動物では、キサンチンデヒドロゲナーゼ遺伝子の機能の全部または一部が失われているため、例えば、キサンチン尿症のモデル動物として使用することができる。また、キサンチン尿症、又はキサンチン尿症による尿路結石の治療薬または予防薬のスクリーニング方法に使用することができる。
【0019】
前記(2)のHPRT高活性-Uox-Xdh-DKO非ヒト動物は、非ヒト動物が本来有するUox遺伝子及びXdh遺伝子の機能を共に喪失し、且つ、HPRTを高活性で発現する非ヒト動物であれば、特に限定されるものではなく、それ自体公知の各種作出方法若しくはそれらの変法、又はそれらの組合せにより作出することができる。例えば、キサンチンデヒドロゲナーゼノックアウト非ヒト動物(例えば、Xdh-KOマウス:非特許文献5)とヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ高活性非ヒト動物(例えば、HPRT高活性-Uox-KOマウス:後述する実施例1)とを交配することにより、HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO非ヒト動物を作出することができる。より具体的には、交配により得られた産仔から、Hprt、Xdh、Uoxの各遺伝子のジェノタイピングによりHprt(a/b)/Xdh(-/+)/Uox(-/+)[但し、Hprt-aアレルは高活性型、Hprt-bアレルは低活性型]を得たのち、交配を重ねてHprt(a/a)/Xdh(-/-)/Uox(-/-)であるHPRT高活性-Uox-Xdh-DKO非ヒト動物を得ることができる。
【0020】
HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO非ヒト動物では、キサンチンデヒドロゲナーゼ遺伝子の機能の全部または一部が失われているため、例えば、キサンチン尿症のモデル動物として使用することができる。また、キサンチン尿症、又はキサンチン尿症による尿路結石の治療薬または予防薬のスクリーニング方法に使用することができる。
また、前記(3)のHPRT高活性-Uox-Xdh-DKO非ヒト動物を作出するための交配用非ヒト動物として使用することができる。
【0021】
前記(3)のHPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物は、非ヒト動物が本来有するUox遺伝子及びXdh遺伝子の機能を共に喪失し、HPRTを高活性で発現し、ヒト由来のXDH遺伝子を有する非ヒト動物であれば、特に限定されるものではなく、それ自体公知の各種作出方法若しくはそれらの変法、又はそれらの組合せにより作出することができる。例えば、ヒトXDH遺伝子を導入したヒトキサンチンデヒドロゲナーゼ低発現トランスジェニック非ヒト動物(例えば、ヒトXDH低発現Tgマウス:後述する実施例2-1)を予め作出し、このヒトXDH低発現Tg非ヒト動物と、前記(2)のHPRT高活性-Uox-Xdh-DKO非ヒト動物(例えば、HPRT高活性Uox-Xdh-DKOマウス:後述の実施例1)とを交配することにより、HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物を作出することができる。
【0022】
なお、HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物における「低発現」とは、ノックアウトする前の非ヒト動物が本来有するXdh遺伝子の発現量と比べて、導入したヒトXDHの発現量が相対的に低いことを意味する。例えば、マウスでは、マウスXdh転写量に比べてヒトXDH転写量が1/50~1/200であることが好ましい。
HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物では、導入するヒトXDH遺伝子のプロモーターとして、ヒトXDH遺伝子のプロモーターをそのまま利用することもできるし、それ以外のプロモーターを利用することもできるが、ヒトXDH遺伝子のプロモーターをそのまま利用すると、ヒト健常者と同等の発現量が期待できるため、好ましい。
【0023】
HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物は、ヒト健常者と同等のヒト尿酸代謝モデル動物として使用することができ、例えば、環境要因による高尿酸血症の発症メカニズムや痛風発作の発症メカニズムの研究に有用である。例えば、高脂肪食摂取、利尿薬投与、アルコール摂取などが高尿酸血症を引き起こすことは良く知られているが、HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物に高脂肪食、利尿薬、アルコールなどを投与することにより、高尿酸血症の発症メカニズムを解析することができる。
【0024】
前記(4)のHPRT高活性-Uox-KO-非ヒトXdh低発現非ヒト動物は、Uox遺伝子の機能を喪失し、HPRTを高活性で発現し、且つ、プロモーターの活性を低下させた非ヒト動物由来のXdh遺伝子を有する非ヒト動物であれば、特に限定されるものではなく、それ自体公知の各種作出方法若しくはそれらの変法、又はそれらの組合せにより作出することができる。例えば、マウスXdhプロモーター領域のゲノム編集によりマウスキサンチンデヒドロゲナーゼ低発現非ヒト動物(例えば、マウスXdh低発現マウス:後述する実施例3-1)を予め作出し、このマウスXdh低発現非ヒト動物と、HPRT高活性-Uox-KO非ヒト動物(例えば、HPRT高活性-Uox-KOマウス:後述の実施例1)とを交配することにより、HPRT高活性-Uox-KO-非ヒトXdh低発現非ヒト動物を作出することができる。
【0025】
なお、HPRT高活性-Uox-KO-非ヒトXdh低発現非ヒト動物における「低発現」とは、非ヒト動物が本来有するXdh遺伝子の発現量と比べて、ゲノム編集後のXdhの発現量が相対的に低いことを意味する。例えば、マウスでは、元のマウスXdh転写量に比べて編集後のXdh転写量が1/50~1/200であることが好ましい。
【0026】
HPRT高活性-Uox-KO-非ヒトXdh低発現非ヒト動物は、HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物と同様に、ヒト健常者と同等のヒト尿酸代謝モデル動物として使用することができ、例えば、環境要因による高尿酸血症の発症メカニズムや痛風発作の発症メカニズムの研究に有用である。例えば、高脂肪食摂取、利尿薬投与、アルコール摂取などが高尿酸血症を引き起こすことは良く知られているが、HPRT高活性-Uox-KO-非ヒトXdh低発現非ヒト動物に高脂肪食、利尿薬、アルコールなどを投与することにより、高尿酸血症の発症メカニズムを解析することができる。
【0027】
本発明の非ヒト動物またはその一部は、ヒト尿酸代謝に関連する疾患に対する治療剤または予防剤のスクリーニング方法に使用することができる。
【0028】
本発明において、「ヒト尿酸代謝に関連する疾患」としては、ヒト尿酸代謝に関連する疾患であれば特に限定されるものではないが、例えば、高尿酸血症またはキサンチン尿症、及びそれらに関連する疾患を挙げることができる。具体的には、高尿酸血症、痛風、尿路結石、心血管障害(例えば、動脈硬化)、腎障害(例えば、家族性若年性高尿酸血症性腎症、進行性慢性腎不全)、腎性低尿酸血症を挙げることができる。
【0029】
前記(1)のHPRT高活性-Xdh-KO非ヒト動物、あるいは、前記(2)のHPRT高活性-Uox-Xdh-DKO非ヒト動物は、キサンチン尿症のモデル動物として使用することができるため、キサンチン尿症、又はキサンチン尿症による尿路結石の治療薬または予防薬のスクリーニング方法に使用することに適している。
例えば、前記非ヒト動物またはその一部に被験物質を接触させ、対照と比較して、キサンチン尿症又はその指標に緩和が認められた被験物質を、キサンチン尿症、又はキサンチン尿症による尿路結石の治療剤または予防剤の候補物質として選択することができる。
【0030】
前記(3)のHPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現非ヒト動物、あるいは、前記(4)のHPRT高活性-Uox-KO-非ヒトXdh低発現非ヒト動物は、ヒト健常者と同等のヒト尿酸代謝モデル動物として使用することができるため、ヒト尿酸代謝に関連する疾患(特には高尿酸血症)を発症する環境下(例えば、高脂肪食摂取飼育下、利尿薬投与飼育下、アルコール摂取飼育下)におくと、ヒト尿酸代謝に関連する疾患(特には高尿酸血症)のモデル動物として使用できる。
【0031】
例えば、ヒト尿酸代謝に関連する疾患(特には高尿酸血症)において、前記非ヒト動物またはその一部に被験物質を接触させ、対照と比較して、ヒト尿酸代謝に関連する疾患(特には高尿酸血症)又はその指標に緩和が認められた被験物質を、同疾患の治療剤または予防剤の候補物質として選択することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0033】
《実施例1:HPRT高活性-Xdh-KOマウス及びHPRT高活性-Uox-Xdh-DKOマウスの作出》
本実施例では、以下に述べる手順に従って、キサンチンデヒドロゲナーゼノックアウトマウス(Xdh-KOマウス:非特許文献5)とヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ高活性ウリカーゼノックアウトマウス(HPRT高活性-Uox-KOマウス)とを交配することにより、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ高活性キサンチンデヒドロゲナーゼノックアウトマウス(HPRT高活性-Xdh-KOマウス)及びヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ高活性ウリカーゼ・キサンチンデヒドロゲナーゼダブルノックアウトマウス(HPRT高活性-Uox-Xdh-DKOマウス)を作出する。
なお、前記HPRT高活性-Uox-KOマウスは、ウリカーゼノックアウトマウス(Uox-KOマウス:非特許文献1)とヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ高活性マウス(B6-ChrXCMSMマウス:非特許文献3)とを交配することにより作出した。
【0034】
具体的には、Xdh-KOマウスとHPRT高活性-Uox-KOマウスとを交配し、産仔の耳パンチ片よりHprt(TaqMan MGBプローブ法による:非特許文献4)、Xdh、Uox各遺伝子のジェノタイピングによりHprt(a/b)/Xdh(-/+)/Uox(-/+)[但し、Hprt-aアレルは高活性型、Hprt-bアレルは低活性型]を得たのち、交配を重ねてHPRT高活性-Xdh-KOマウス(Hprt(a/a)/Xdh(-/-))及びHPRT高活性-Uox-Xdh-DKOマウス(Hprt(a/a)/Xdh(-/-)/Uox(-/-))を得る。
Hprt(a/a)/Xdh(-/-)マウス及びHprt(a/a)/Xdh(-/-)/Uox(-/-)を得た後、尿中ヒポキサンチン、キサンチン濃度をクレアチニン濃度と共にHPLCを用いて測定し、尿中プリン体排泄量がヒトの尿中尿酸排泄量である0.3(モル/モルCr)に近いものを選別する。
【0035】
比較例としてのHPRT高活性-Uox-KOマウスと、得られたHPRT高活性-Xdh-KOマウスについて、尿中プリン体排泄量を測定したところ、HPRT高活性-Uox-KOマウスが7.09±0.37(モル/モルCr)であるのに対して、HPRT高活性-Xdh-KOマウスでは3.04±0.04(モル/モルCr)と、HPRT高活性-Uox-KOマウスの約4割まで減弱した。
背景技術欄で先述したとおり、比較例のHPRT高活性-Uox-KOマウスはXDH阻害薬を投与した状態で、尿中プリン体排泄量がHPRT低活性Uox-KOマウスに対して6割まで減弱したが、本発明のHPRT高活性-Xdh-KOマウスは、XDH阻害薬の投与なしでHPRT低活性Uox-KOマウスに対して4割の減弱を達成した。
【0036】
《実施例2:HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現マウスの作出》
本実施例では、以下に述べる手順に従って、ヒトキサンチンデヒドロゲナーゼ低発現トランスジェニックマウス(ヒトXDH低発現Tgマウス)を作出した後、このヒトXDH低発現Tgマウスと、実施例1のHPRT高活性-Uox-Xdh-DKOマウスとを交配することにより、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ高活性ウリカーゼ・キサンチンデヒドロゲナーゼダブルノックアウト・ヒトキサンチンデヒドロゲナーゼ低発現マウス(HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現マウス)を作出する。
【0037】
<実施例2-1:ヒトXDH低発現Tgマウスの作出>
ヒトXDH遺伝子プロモーターは-463bp~-842bpの間に抑制配列があるため、ヒトゲノムDNAを鋳型に、ヒトXDHプロモーターの-842bp~0bpの842bpの領域のPCRクローニングを行い、DNAクローンを得る。一方、ヒト肝臓トータルRNAから作製したヒト肝臓RT産物を鋳型に、ヒトXDH cDNA(翻訳配列)のPCRクローニングを行い、cDNAクローンを得る。ミニサークルparentプラスミドに対して、5’-ヒトXDHプロモーター配列-ヒトXDH cDNA(翻訳配列)-3’となるように、ギブソン・アセンブリー法にて挿入し、ヒトXDHプロモーター-ヒトXDH cDNA-MC easyベクターを作製する。ミニサークル化した後、制限酵素にて線状化し、PCR精製キットにて精製し、トランスジェニックマウス作製用トランスジーンとする。
導入遺伝子のマウス受精卵への注入とトランスジェニックマウスの作製は外部機関に委託し、トランスジェニックマウスを得る。
トランスジェニックマウスが得られたら、交配により子孫伝達を確認し、Xu.2000の方法に従って、トランスジェニックマウスの肝臓よりトータルRNAを抽出して逆転写反応を行い、マウスXdh cDNA量及びヒトXDH cDNA量を定量PCRにより測定する。マウス肝臓のXdh転写量はヒト肝臓のXDH転写量の100倍であることが報告されており、マウスXdh転写量に比べてヒトXDH転写量が約100分の1である系統を選別し、ヒトXDH低発現Tgマウスとする。
【0038】
<実施例2-2:HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現マウスの作出>
実施例1のHPRT高活性Uox-Xdh-DKOマウスと、実施例2-1のヒトXDH低発現Tgマウスとを交配させて、HPRT高活性-Uox-Xdh-DKO-ヒトXDH低発現マウスを作出する。導入されたヒトXDH遺伝子は、定量PCRを用いてゲノム内量を定量してホモ接合体とヘテロ接合体とを識別し、ホモ接合体を繁殖維持することにより健常者のヒト尿酸代謝モデルマウスを樹立する。
【0039】
《実施例3:HPRT高活性-Uox-KO-マウスXdh低発現マウスの作出》
本実施例では、以下に述べる手順に従って、マウスキサンチンデヒドロゲナーゼ低発現マウス(マウスXDH低発現マウス)を作出した後、このマウスXDH低発現マウスと、実施例1のHPRT高活性-Uox-KOマウスとを交配することにより、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ高活性ウリカーゼノックアウト・マウスキサンチンデヒドロゲナーゼ低発現マウス(HPRT高活性-Uox-KO-マウスXdh低発現マウス)を作出する。
【0040】
<実施例3-1:マウスXdh低発現マウスの作出>
本実施例では、マウスXdhプロモーター領域のゲノム編集によりマウスXdh低発現マウスを作出する。
マウスゲノムDNAを鋳型に、マウスXdhプロモーターDNAをPCRクローニングする。ガイドRNA選別用に、ミニサークルparentプラスミドに対して、マウスXdhプロモーター下流に緑色蛍光タンパク質(GFP)が結合するように、ギブソン・アセンブリー法にて挿入し、マウスXdhプロモーター-GFP cDNA-MC easyベクターを作製する。ミニサークル化した後、制限酵素にて線状化し、PCR精製キットにて精製し、ガイドRNA選別用遺伝子とする。LipofectaminTM3000を用いてマウス正常肝細胞株AML-12に遺伝子導入し、GFP陽性細胞をクローニングする。
【0041】
ヒトXDHプロモーターのシスエレメント活性は-228~-138の間にあることが報告されているので、マウスXdhプロモーターも同様の部位を中心にガイドRNAを設計する。前記GFP陽性細胞に、核移行シグナル付き野生型Cas9タンパク質発現ベクターと、ガイドRNA(crRNA及びtracrRNA)とを、LipofectamineTM CRISPRMAXTM Cas9 Transfection Reagentを用いて導入する。GFPシグナルが減弱するガイドRNA(crRNA)を選別する。
外部機関に委託し、ガイドRNAを用いてマウス受精卵にCas9 mRNAと共にマイクロインジェクションし、ゲノム編集されてマウスXdh発現が約100分の1に減弱したマウスをマウスXdh低発現マウスとする。
【0042】
<実施例3-2:HPRT高活性-Uox-KO-マウスXdh低発現マウスの作出>
実施例1で用いたHPRT高活性-Uox-KOマウスと、実施例3-1のマウスXdhとを交配することにより、HPRT高活性-Uox-KO-マウスXdh低発現マウスを作出する。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、ヒト健常者と同等のヒト尿酸代謝モデル動物を提供することができ、前記モデル動物を用いることにより、ヒト尿酸代謝に関連する疾患に対する治療剤または予防剤をスクリーニングすることができる。