(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】畦塗り機
(51)【国際特許分類】
A01B 35/00 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
A01B35/00 E
(21)【出願番号】P 2018147035
(22)【出願日】2018-08-03
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000188009
【氏名又は名称】松山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田副 隼
(72)【発明者】
【氏名】大村 英昭
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-121987(JP,A)
【文献】特開2008-301786(JP,A)
【文献】特開2014-045731(JP,A)
【文献】特開2006-094763(JP,A)
【文献】特許第137680(JP,C2)
【文献】米国特許第04295531(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 33/00 - 33/16
A01B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車に連結され、その走行車の走行により移動しながら畦塗り作業をする畦塗り機であって、
元畦の畦上面を削る畦上面削りロータリーを有する畦上面削り部と、
土を耕耘して元畦上に盛り上げる盛土体と、
この盛土体による盛土を締め固めて新畦を形成する畦形成体とを備え、
前記畦上面削りロータリーは、この畦上面削りロータリーに過負荷が作用した際に、前上がり傾斜状の回動中心軸線を中心として上方回動することにより、後方側に向かって退避する
ことを特徴とす
る畦塗り機。
【請求項2】
畦上面削り部は、
前上がり傾斜状の回動中心軸線を中心として上下方向に回動可能に設けられ、畦上面削りロータリーを回転可能に支持する伝動ケースと、
この伝動ケース内に設けられ、前記畦上面削りロータリーを回転させる伝動手段とを有する
ことを特徴とする請求項
1記載の畦塗り機。
【請求項3】
畦上面削り部の伝動ケース内の伝動手段には、前上がり傾斜状の傾斜回転軸が接続されている
ことを特徴とする請求項
2記載の畦塗り機。
【請求項4】
盛土体は、前後方向の回転軸と、この回転軸に取り付けられた複数の耕耘爪とを有し、
前記回転軸の前端部には、前上がり傾斜状の傾斜回転軸の後端部が接続されている
ことを特徴とする請求項
3記載の畦塗り機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車に連結され、その走行車の走行により移動しながら畦塗り作業をする畦塗り機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記の特許文献1に記載された畦塗り機が知られている。
【0003】
この従来の畦塗り機は、元畦の畦上面を削る畦上面削りロータリーを有する畦上面削り部と、土を耕耘して元畦上に盛り上げる盛土体と、この盛土体による盛土を締め固めて新畦を形成する畦形成体とを備えている。
【0004】
そして、畦上面削り部(天場処理部)は、左右方向長手状の天場処理動力伝達ケースと、この天場処理動力伝達ケースの右端部に連結された前下がり傾斜状のロータ支持部材と、このロータ支持部材の前端部に回転可能に設けられた畦上面削りロータリー(天場処理ロータ)とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の畦塗り機では、畦塗り作業時において、畦上面削り部の畦上面削りロータリーに過負荷が作用した際には、力が逃げにくく畦上面削りロータリーが破損するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、畦上面削りロータリーの破損を防止できる畦塗り機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の畦塗り機は、走行車に連結され、その走行車の走行により移動しながら畦塗り作業をする畦塗り機であって、元畦の畦上面を削る畦上面削りロータリーを有する畦上面削り部と、土を耕耘して元畦上に盛り上げる盛土体と、この盛土体による盛土を締め固めて新畦を形成する畦形成体とを備え、前記畦上面削りロータリーは、この畦上面削りロータリーに過負荷が作用した際に、後方側に向かって退避するものである。
【0009】
請求項2記載の畦塗り機は、請求項1記載の畦塗り機において、畦上面削りロータリーは、この畦上面削りロータリーに過負荷が作用した際に、前上がり傾斜状の回動中心軸線を中心として上方回動することにより、後方側に向かって退避するものである。
【0010】
請求項3記載の畦塗り機は、請求項2記載の畦塗り機において、畦上面削り部は、前上がり傾斜状の回動中心軸線を中心として上下方向に回動可能に設けられ、畦上面削りロータリーを回転可能に支持する伝動ケースと、この伝動ケース内に設けられ、前記畦上面削りロータリーを回転させる伝動手段とを有するものである。
【0011】
請求項4記載の畦塗り機は、請求項3記載の畦塗り機において、畦上面削り部の伝動ケース内の伝動手段には、前上がり傾斜状の傾斜回転軸が接続されているものである。
【0012】
請求項5記載の畦塗り機は、請求項4記載の畦塗り機において、盛土体は、前後方向の回転軸と、この回転軸に取り付けられた複数の耕耘爪とを有し、前記回転軸の前端部には、前上がり傾斜状の傾斜回転軸の後端部が接続されているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、畦上面削り部の畦上面削りロータリーの破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る畦塗り機の側面図である。
【
図5】
図1におけるA矢視図(上面削り部の正面図)である。
【
図6】同上畦塗り機の上面削り部が障害物に当たって上動した状態の正面図である。
【
図7】同上畦塗り機の上面削り部が障害物に当たって上動した状態の側面図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係る畦塗り機の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の第1の実施の形態について
図1ないし
図7を参照して説明する。
【0016】
図中の1は畦塗り機で、この畦塗り機1は、走行車であるトラクタ(図示せず)の後部に連結され、そのトラクタの走行により進行方向に移動しながら畦塗り作業をするものである。
【0017】
畦塗り機1は、
図1ないし
図3に示すように、トラクタの後部の3点リンク部に脱着可能に連結される機体2と、この機体2に設けられ、トラクタの走行により進行方向に移動しながら畦塗り作業をする作業手段3とを備えている。
【0018】
作業手段3は、元畦の畦上面を削る回転可能な畦上面削りロータリー(畦上面削り用回転体)5を有する畦上面削り部6と、所定方向(例えばアップカット方向)に回転しながら田面及び元畦の土を耕耘して元畦上に盛り上げる盛土体7と、所定方向に回転しながら盛土体7による盛土を締め固めて新畦を形成する畦形成体8とを有している。そして、畦上面削り部6は盛土体7の前方(進行方向前方)に配置され、かつ、畦形成体8は盛土体7の後方(進行方向後方)に配置されている。
【0019】
機体2は、トラクタの後部の3点リンク部に脱着可能に連結される固定機枠11と、この固定機枠11に回動フレーム12,13を介して連結された左右方向にオフセット可能な可動機枠15とを有し、この可動機枠15によって作業手段3が支持されている。また、この可動機枠15には、ゲージ輪16が上下位置調整可能に設けられている。
【0020】
固定機枠11は、入力軸17を保持した軸保持部18を有し、その入力軸17にはトラクタのPTO軸がジョイント(図示せず)を介して接続される。可動機枠15は、中間入力軸19を保持した軸保持部20を有し、その中間入力軸19には入力軸17がジョイント10を介して接続されている。そして、作業手段3による畦塗り作業時には、中間入力軸19に入力された動力に基づいて、作業手段3を構成する畦上面削りロータリー5、盛土体7及び畦形成体8がそれぞれ駆動回転して作業を行う。
【0021】
盛土体(盛土用回転体)7は、例えばアッパー回転ロータリー式のもので、左右方向の回転軸(耕耘軸)21と、この回転軸21に取り付けられた複数の盛土用の耕耘爪22とを有している。また、この盛土体7は、盛土体カバー23によって覆われており、この盛土体カバー23の外側方にはサイドカバー24が配置されている。
【0022】
畦形成体(畦形成用回転体)8は、盛土体7の回転軸21と平行に位置する左右方向の回転軸26と、この回転軸26に取り付けられた畦形成部材27とを有している。この畦形成部材27は、傾斜状の畦側面を形成する円錐台状の畦側面形成部27aと、水平状の畦上面を形成する円筒状の畦上面形成部27bとによって構成されている。なお、畦形成体8は、畦形成体カバー28によって覆われている。
【0023】
ここで
図3に示す如く、機体2の可動機枠15は、左右方向の軸ケース部31を有し、この軸ケース部31によって畦形成体8の回転軸26が回転可能に支持されている。この畦形成体8の回転軸26には、スパーギア32,33を介して伝動軸35が接続されており、この伝動軸35は、中間入力軸19側からの動力によって回転する。
【0024】
また、機体2の可動機枠15は、左右方向の水平状の伝動軸35を中心として上下方向に回動可能なチェーンケース部36を有し、このチェーンケース部36の前端部にはミッションケース部37が連結され、このミッションケース部37によって盛土体7の回転軸21が回転可能に支持されている。この盛土体7の回転軸21には、チェーン38及びスプロケット39,40を介して伝動軸35が接続されている。なお、チェーンケース部36は、ハンドル34の回転操作によって伝動軸35を中心として所定範囲内において上下方向に回動調整可能となっている(
図1参照)。
【0025】
さらに、機体2の可動機枠15は、ミッションケース部37に連結された軸ケース部41を有し、この軸ケース部41によって前上がり傾斜状の傾斜回転軸(畦上面削り部6の伝動手段52に動力を供給する伝動軸)42が回転可能に支持されている。この前高後低の傾斜状の傾斜回転軸42には、ベベルギア43,44を介して回転軸21が接続されている。なお、軸ケース部41は、例えば固定筒41aと、この固定筒41aに対して回動可能な回動筒41bとで構成されている。
【0026】
畦上面削り部6は、畦上面削りロータリー5によって元畦の畦上面の土を削って耕耘するとともに当該畦上面に植生した草等の雑物を細断除去する畦上面処理部(天場処理部)である。そして、畦上面削り部6の畦上面削りロータリー5は、この畦上面削りロータリー5に元畦の畦上面側から過負荷が作用した際に、コイルばね50の付勢力に抗して、前上がり傾斜状の回動中心軸線(傾斜回転軸42の軸芯を通る直線)Xを中心として上方回動することにより、後方側に向かって退避する。
【0027】
畦上面削りロータリー5の回動中心(畦上面削り部6の回動中心)である当該回動中心軸線Xは、平面視で前後方向に沿った直線であり、かつ、側面視で前高後低の傾斜状の直線である。なお、側面視で、前高後低の傾斜状の回動中心軸線Xと、水平状の前後方向の線aとがなす角度αは、例えば1度~45度に設定される(
図1参照)。
【0028】
この畦上面削り部6は、
図4ないし
図7にも示すように、所定の回転方向に回転可能な畦上面削りロータリー5と、前上がり傾斜状の回動中心軸線(傾斜回転軸42)Xを中心として上下方向に回動可能に設けられ、先端側(側端側)で畦上面削りロータリー5を回転可能に支持する伝動ケース(例えばチェーンケース)51と、この伝動ケース51内に設けられ、傾斜回転軸42からの動力を畦上面削りロータリー5へ伝達してこの畦上面削りロータリー5を回転させる伝動手段52と、畦上面削りロータリー5を覆うカバー体53とを有している。
【0029】
畦上面削りロータリー5は、回動中心軸線(傾斜回転軸42)Xと平行に位置する前上がり傾斜状の回転軸55と、この回転軸55に取り付けられた複数の畦上面削り用の耕耘爪(削り爪)56とを有している。そして、回転軸55のうち、伝動ケース51内に位置する部分には、スプロケット57が固着されている。同様に、傾斜回転軸42のうち、伝動ケース51内に位置する部分にもスプロケット58が固着され、これら左右の両スプロケット57,58には無端状の無端部材であるチェーン59が回行可能に掛け渡されている。
【0030】
なお、これらチェーン59及び両スプロケット57,58によって、傾斜回転軸42からの動力を畦上面削りロータリー5まで伝達する伝動手段52が構成されている。つまり、この伝動手段52には、前上がり傾斜状の傾斜回転軸42が接続されている。
【0031】
伝動ケース51は、左右方向に細長い箱形状に形成されたもので、右高左低の傾斜状となるように設けられている。そして、伝動ケース51は、低い方の左端側(基端側)の回動中心軸線Xを中心として、高い方の右端側(先端側)が昇降するように上下方向に回動可能となっている。この伝動ケース51の左端部には、可動機枠15の軸ケース部41の回動筒41bが連結固定されており、この伝動ケース51と回動筒41bとが補強用の連結部材60で連結されている。なお、上述の角度αの大きさによっては、伝動ケース51が右低左高の傾斜状となることもある。
【0032】
また、伝動ケース51には立上りフレーム61が固着され、この立上りフレーム61のタンブラ取付部62には、円筒状の固定用タンブラ(第1回動部材)63が回動可能に取り付けられている。可動機枠15のタンブラ取付部65には、固定用タンブラ63よりも短い円筒状のタンブラ(第2回動部材)66が回動可能に取り付けられている。
【0033】
そして、互いに離間して位置する両タンブラ63,66には、複数のピン挿入用孔69が形成された調整ロッド70が摺動可能に挿通され、この調整ロッド70の外周側には畦上面削り部6を下方側に向けて付勢する付勢手段であるコイルばね50が設けられている。また、調整ロッド70の端部には抜止め部材71が固着され、この抜止め部材71には緩衝ゴム72が取り付けられている。
【0034】
さらに、複数のピン挿入用孔69の中から選択した一のピン挿入用孔69及び固定用タンブラ63の孔(図示せず)には、脱着ピン73が脱着可能に挿入されている。この脱着ピン73を挿入するピン挿入用孔69の選択により、畦上面削りロータリー5の高さを調整可能である。
【0035】
次に、畦塗り機1の作用等を説明する。
【0036】
畦塗り機1をトラクタの後部に連結してそのトラクタの走行により前方へ移動させると、畦上面削りロータリー5が元畦の畦上面を耕耘して削り、その後方で盛土体7が田面及び元畦の土を耕耘して元畦上に盛り上げ、さらにその後方で畦形成体8が盛土を締め固めて新畦を形成する。
【0037】
このような畦塗り作業時において、畦上面削りロータリー5の耕耘爪56に石等の障害物Sが当たって過負荷が作用した際には、その畦上面削りロータリー5は、コイルばね50の付勢力に抗して、前上がり傾斜状の回動中心軸線Xを中心として上方回動することにより、進行方向に対して後方側(上方かつ後方)に向かって退避する(
図7参照)。
【0038】
換言すると、畦上面削りロータリー5は、これを支持した伝動ケース51が前上がり傾斜状の回動中心軸線Xを中心として上方へ回動することで、上斜め後方(
図7の矢印方向)に向かって上動する。それゆえ、耕耘爪56に作用する力は逃げやすく、畦上面削りロータリー5の破損が防止される。
【0039】
なお、石等の障害物Sとの衝突により一旦上動した畦上面削りロータリー5は、自重及びコイルばね50の付勢力によって下動して元の作業高さに復帰する。
【0040】
そして、このような畦塗り機1によれば、畦上面削り部6の畦上面削りロータリー5は、この畦上面削りロータリー5に過負荷が作用した際に後方側に向かって退避するので、畦上面削りロータリー5には畦上面側から無理な力が働かず、畦上面削りロータリー5の破損を防止できる。
【0041】
次に、本発明の第2の実施の形態について
図8及び
図9を参照して説明する。
【0042】
この第2の実施の形態に係る畦塗り機1の盛土体7は、上述した第1の実施の形態のものとは異なり、前後方向の水平状の回転軸(耕耘軸)81と、この回転軸81に取り付けられた複数の盛土用の耕耘爪82とを有している。
【0043】
そして、盛土体7の回転軸81の前端部には、前上がり傾斜状の傾斜回転軸42の後端部が十字状のクロスピン83を介して回動可能に接続されている。それゆえ、平面視で、これら傾斜回転軸42及び回転軸81は、前後方向(進行方向)に沿った一直線上に位置する(
図9参照)。また、盛土体7の回転軸81の後端部には、左右方向の水平状の伝動軸35がジョイント84及びベベルギア85,86を介して接続されている。
【0044】
この第2の実施の形態に係る畦塗り機1であっても、上述した第1の実施の形態と同様、畦上面削りロータリー5の破損を防止でき、しかも、畦上面削り部6の伝動ケース51内の伝動手段52を駆動するための傾斜回転軸42の後端部が盛土体7の回転軸81の前端部に接続された構成であるから、構成が簡単で、組立ても容易である。
【0045】
なお、上記いずれの実施の形態においても、畦上面削りロータリーを回転可能に支持する伝動ケースは、チェーン等を収納したチェーンケースには限定されず、例えば伝動軸等を収納した軸ケース等でもよい。
【0046】
また、畦上面削りロータリーは、畦上面側から過負荷が作用した際に、前上がり傾斜状の回動中心軸線を中心として上方回動して後方側に向かって退避する構成には限定されず、例えば上下方向の回動中心軸線を中心として後方回動して後方側に向かって退避する構成等でもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 畦塗り機
5 畦上面削りロータリー
6 畦上面削り部
7 盛土体
8 畦形成体
42 傾斜回転軸
51 伝動ケース
52 伝動手段
81 回転軸
82 耕耘爪
X 回動中心軸線