(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】走行車両の走行制御装置
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20220511BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20220511BHJP
【FI】
A01B69/00 303V
G05D1/02 N
(21)【出願番号】P 2018166531
(22)【出願日】2018-09-06
【審査請求日】2020-12-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター「革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】000100469
【氏名又は名称】みのる産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108958
【氏名又は名称】須田 英一
(72)【発明者】
【氏名】陶山 純
(72)【発明者】
【氏名】飯田 一博
【審査官】宮本 昭彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-252087(JP,A)
【文献】特開2012-157334(JP,A)
【文献】特開平01-215207(JP,A)
【文献】特開平04-126003(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0006759(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01B 69/00 - 69/08
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
栽培エリア内に条植えされた作物の苗列に沿って走行する走行動作と、該走行動作後に次の走行動作の対象とする苗列の先端に向けて旋回する旋回動作とを行うように構成された走行車両の走行制御装置であって、
前記走行車両の旋回方向の現状角度を検出する旋回方向センサーと、
与えられる目標角度及び前記現状角度
の角度差分が無くなるようにフィードバック制御を行い、その結果として前記走行車両の
旋回方向を制御する姿勢制御信号を出力する
ように構成されており、さらに、前記走行車両の走行における一定距離間隔で前記現状角度を保存するとともに、定期的に、直前の所定回数分の該現状角度の平均値を算出するように構成されている姿勢制御部と、
前記走行車両の進行方向前方の苗列を撮像する撮像部と、
該撮像部により撮像した画像に基づいて前記苗列の存在を検出するとともに、該苗列に沿って走行するための目標旋回方向を検出し、それらの検出結果を出力する画像処理部と、
前記走行動作中に、前記画像処理部により前記苗列の存在及び
前記目標旋回方向が検出されたときは、該目標旋回方向に基づ
く前記目標角度を前記姿勢制御部に与え、前記苗列の存在及び
前記目標旋回方向が検出されなかったときは、前記姿勢制御部からの
前記現状角度の平均値を前記走行動作における前記走行車両の進行方向を示す角度であり且つ該走行車両の現在位置における前記苗列の方向を示す角度であるものとして用いることによって得られる前記目標角度を前記姿勢制御部に与え、その結果として前記姿勢制御部から出力された前記姿勢制御信号に基づいて前記走行車両の
旋回方向を制御するように構成されている
走行制御部と
を備える走行車両の走行制御装置。
【請求項2】
前記走行制御部は、前記姿勢制御部で検出された前記現状角度の前記平均値を前記旋回動作の開始時の基準角度として用いる
請求項1に記載の走行車両の走行制御装置。
【請求項3】
前記画像処理部は、前記苗列の存在位置と前記走行車両の中央との左右方向における位置ズレ量が所定量以上の場合に左右方向への
前記目標旋回方向を出力するように構成されている
請求項1又は2に記載の走行車両の走行制御装置。
【請求項4】
前記走行車両の走行距離を測定する走行距離検出部を備え、
前記走行制御部は、該走行距離に基づいて検出される前記苗列の先端及び終端付近において、前記
走行車両の走行速度を低減させるように構成されている
請求項1~3のいずれか一項に記載の走行車両の走行制御装置。
【請求項5】
前記走行車両前方にある物体を検出する対物センサーを有し、該対物センサーにより栽培エリアの終端を検出する終端検出部を備え、
前記走行制御部は、該終端検出部により該終端を検出すると、前記走行車両に前記旋回動作をさせるように構成されている
請求項4に記載の走行車両の走行制御装置。
【請求項6】
前記走行制御部は、前記苗列の先端から終端付近に至るまでの所定距離を走行したことが前記走行距離検出部によって検知されるまでは、前記終端検出部からの終端検出情報を無効化するように構成されている
請求項5に記載の走行車両の走行制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両幅が条間より狭く構成されており条間を走行するように構成されていたり、少数の苗列を跨いで走行するように構成されていたりするような小型の走行車両の走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明の第一の背景技術としては、特許文献1に記載された田植機を例示する。この田植機は、走行機体の前方の既植苗列を撮影する第1カメラ、後方の既植苗列と移植直後の苗列とを同時に撮影する第2カメラ夫々を備え、第1カメラで撮影された既植苗列を表示する第1ディスプレイの表示面の目標位置と表示される既植苗列とで走行機体と既植苗列との位置関係を判定可能に構成し、第2カメラで撮影された既植苗列と移植直後の苗列とを表示するディスプレイの表示によって既植苗列と、移植直後の苗列との位置関係を判定可能に構成する。
【0003】
また、本発明の第二の背景技術としては、特許文献2に記載された走行制御装置を例示する。この走行制御装置では、画像処理部は、車両走行中に撮像部により異なる位置で撮像した複数の撮像画像を処理し、車両走行の目標となる目標追従ラインを導出する。走行制御部は、目標追従ラインに沿って走行するように車両の走行を制御する。画像処理部の基準領域設定部は、撮像画像において複数の画素値から構成されて直線状に並ぶ複数の基準領域を設定する。基準領域追跡部は、基準領域が設定された撮像画像とは異なる位置で新たに撮像された撮像画像において基準領域と実空間上で同じ領域であると判定された参照領域の撮像画像上の位置情報を算出する。凹凸検出部は、参照領域の複数の位置情報にもとづいて実空間上の地面の凹凸を検出する。目標追従ライン生成部は、検出された凹凸にもとづいて目標追従ラインを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-154313号公報
【文献】特開2013-201958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の田植機や特許文献2の走行制御装置が搭載される車両は、いずれも大型な乗用型車両であるため、カメラを圃場面から上方に高く離れた高所に設置できるので、一定の俯角で苗列を構成する多数の苗を上から見下ろして撮影することができる。しかしながら、車両幅が条間より狭く構成されており条間を走行するように構成されていたり、少数の苗列を跨いで走行するように構成されていたりするような小型の走行車両では、前記乗用型車両のようにカメラを高所に設置すると重心が高くなり走行時や強風時等の機体の安定性を損なうため、カメラをそのような高所に設置することができない。そして、圃場面から低所に設置されたカメラによれば一定の俯角のもとでは少数の苗しか撮影できない。そのため、苗列の途中に欠株が存在していると、苗列を見失ってしまうことがあるという課題がある。仮にそのような低所にあるカメラの俯角を小さく設定すると多数の苗が撮影可能になるが、その反面、各苗の上端の抽出が困難になり、特に、苗列が曲がっている場合に苗列が抽出できなくなってしまうという課題が生じる。
【0006】
また、特許文献1の田植機では、走行機体の前方を撮影する第1カメラと、後方を撮影する第2カメラとの2台のカメラを装備しているとともに、2台のカメラの画像を処理するために高性能な制御装置を用いる必要があり、コストがかかるという課題がある。
【0007】
さらに、特許文献2の走行制御装置では、目標追従ラインの導出のために、車両走行中に撮像部により異なる位置で撮像した複数の撮像画像を処理しなければならないだけでなく、撮像画像において複数の画素値から構成されて直線状に並ぶ複数の基準領域を設定する処理、新たに撮像された撮像画像において基準領域と実空間上で同じ領域であると判定された参照領域の撮像画像上の位置情報を算出することによって基準領域を追跡する処理、参照領域の複数の位置情報に基づいて実空間上の地面の凹凸を検出する処理、検出された凹凸に基づいて目標追従ラインを生成する処理等の多くの画像処理を含んでいるので、処理負荷が高く、高性能な制御装置を用いる必要があり、コストがかかるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、第1の発明の走行車両の走行制御装置は、
栽培エリア内に条植えされた作物の苗列に沿って走行する走行動作と、該走行動作後に次の走行動作の対象とする苗列の先端に向けて旋回する旋回動作とを行うように構成された走行車両の走行制御装置であって、
前記走行車両の旋回方向の現状角度を検出する旋回方向センサーと、
与えられる目標角度及び前記現状角度の角度差分が無くなるようにフィードバック制御を行い、その結果として前記走行車両の旋回方向を制御する姿勢制御信号を出力するように構成されており、さらに、前記走行車両の走行における一定距離間隔で前記現状角度を保存するとともに、定期的に、直前の所定回数分の該現状角度の平均値を算出するように構成されている姿勢制御部と、
前記走行車両の進行方向前方の苗列を撮像する撮像部と、
該撮像部により撮像した画像に基づいて前記苗列の存在を検出するとともに、該苗列に沿って走行するための目標旋回方向を検出し、それらの検出結果を出力する画像処理部と、
前記走行動作中に、前記画像処理部により前記苗列の存在及び前記目標旋回方向が検出されたときは、該目標旋回方向に基づく前記目標角度を前記姿勢制御部に与え、前記苗列の存在及び前記目標旋回方向が検出されなかったときは、前記姿勢制御部からの前記現状角度の平均値を前記走行動作における前記走行車両の進行方向を示す角度であり且つ該走行車両の現在位置における前記苗列の方向を示す角度であるものとして用いることによって得られる前記目標角度を前記姿勢制御部に与え、その結果として前記姿勢制御部から出力された前記姿勢制御信号に基づいて前記走行車両の旋回方向を制御するように構成されている走行制御部と
を備える。
【0009】
前記平均値としては、例えば、過去における直近の所定数の現状角度と、最新の現状角度との平均値(単純な平均値でもよいし、新しさに応じて重み付けを変更(例えば新しいほど重み付けを重く)した平均値でもよい。)を用いることを例示する。
この構成によれば、前記苗列に欠株が存在していることにより前記画像処理部による画像処理の結果、前記苗列の存在及び目標旋回方向が検出されなかったときでも、前記姿勢制御部による前記現状角度の平均値に基づいて前記走行車両の走行を制御するように構成されている。そのため、前記欠株があっても走行が停止せず、前記走行車両の安定した自律走行が実現できる。
【0012】
また、この構成によれば、前記走行車両の進行方向又は前記苗列の方向として、保存された過去の前記現状角度と最新の現状角度との平均値を採用することにより、前記現状角度の一時的なぶれの影響を低減することができ、前記走行車両の安定した自律走行が実現できる。
【0013】
第2の発明の走行車両の走行制御装置としては、
前記第2の発明において、
前記走行制御部は、前記姿勢制御部で検出された前記現状角度の前記平均値を前記旋回動作の開始時の基準角度として用いる態様を例示する。
【0014】
この構成によれば、前記苗列の終端部における湾曲に合わせて前記旋回動作を前記走行車両に行わせることができる。
【0015】
第3の発明の走行車両の走行制御装置としては、
前記第1~3のいずれかの発明において、
前記画像処理部は、前記苗列の存在位置と前記走行車両の中央との左右方向における位置ズレ量が所定量以上の場合に左右方向への前記目標旋回方向を出力するように構成されている態様を例示する。
【0016】
この構成によれば、シンプルな画像処理で前記走行車両の走行制御を実現できる。
【0017】
第4の発明の走行車両の走行制御装置としては、
前記第1~4のいずれかの発明において、
前記走行車両の走行距離を測定する走行距離検出部を備え、
前記走行制御部は、該走行距離に基づいて検出される前記苗列の先端及び終端付近において、前記走行車両の走行速度を低減させるように構成されている態様を例示する。
【0018】
この構成によれば、前記走行速度を低減させることにより、前記苗列の先端又は終端付近において、前記画像処理部に確実に苗列を認識させることができ、前記走行車両の安定した自律走行が実現できる。
【0019】
第5の発明の走行車両の走行制御装置としては、
前記第5の発明において、
前記走行車両前方にある物体を検出する対物センサーを有し、該対物センサーにより栽培エリアの終端を検出する終端検出部を備え、
前記走行制御部は、該終端検出部により該終端を検出すると、前記走行車両に前記旋回動作をさせるように構成されている態様を例示する。
【0020】
この構成によれば、前記終端の撮像画像に対する画像処理のみにより該終端を検出する場合よりも、確実に終端を検出することができる。そのように画像処理のみにより前記終端を検出しようとすると、畦畔の上の雑草等を苗と誤検出して終端検出を失敗することがあるからであり、また、それを防止するために、畦畔を管理したり、畔波シートなどにより畦畔を安定した形状に保ったりする必要があるからである。
【0021】
第6の発明の走行車両の走行制御装置としては、
前記第6の発明において、
前記走行制御部は、前記苗列の先端から終端付近に至るまでの所定距離を走行したことが前記走行距離検出部によって検知されるまでは、前記終端検出部からの終端検出情報を無効化するように構成されている態様を例示する。
【0022】
この構成によれば、前記苗列の終端付近以降のみ、前記終端検出部からの終端検出情報を利用することにより、それ以前における前記栽培エリアの終端の誤検出を排除することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る走行車両の走行制御装置によれば、小型の走行車両の安定した自律走行が実現できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明を具体化した一実施形態に係る走行制御装置を備えた走行車両を示す図であり、(a)は側面図、(b)は正面図である。
【
図2】同走行制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】同走行制御装置の姿勢制御部の機能を示すブロック図である。
【
図5】同走行制御装置の画像処理部の画像処理例を示す図であり、(a)は苗列が走行車両の中心より右にずれている場合、(b)は苗列が同中心と一致している場合、(c)は苗列が同中心より左にずれている場合である。
【
図6】同画像処理部での検知結果に基づく走行制御装置による走行車両の制御例を示す図である。
【
図7】苗列の途中部における同走行制御装置による走行制御例を示す平面図である。
【
図8】苗列の先端及び終端付近における同走行制御装置による走行制御例を示す平面図である。
【
図9】苗列の終端検出に関する同走行制御装置による走行制御例を示す平面図である。
【
図10】走行動作開始時に角度ズレしている場合の同走行制御装置による走行制御例を示す平面図である。
【
図11】苗列の終端付近が湾曲している場合の同走行制御装置による走行制御例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1~
図11は本発明を具体化した一実施形態の走行車両1及びその走行制御装置5を示している。
【0026】
本例の走行車両1は、
図1に示すように、水田や畑等の圃場に植設された稲や野菜等の作物の苗列Nを跨ぐ門型に形成された機体フレーム2と、該機体フレーム2の両側部に設けられた一対の走行手段としてのクローラ3と、該各クローラ3にそれぞれ駆動力を供給する一対の駆動部4と、該一対の駆動部4を制御する走行制御装置5と、駆動部4及び走行制御装置5に電力を供給する電池6とを備えており、栽培エリア内に条植えされた作物の苗列Nに沿って走行する走行動作と、該走行動作後に次の走行動作の対象とする苗列Nの先端に向けて旋回する旋回動作とを自律的に繰り返し行うように構成されている。
図1において矢印Fは機体前側を指し示している。
【0027】
本例の走行制御装置5は、
図2に示すように、旋回方向センサー11、姿勢制御部12、撮像部13、画像処理部14、エンコーダー15、走行距離検出部16、対物センサー17、終端検出部18、及び走行制御部19を備えている。
【0028】
姿勢制御部12は、走行車両1の旋回方向(上下軸まわりの回転角度であるヨー角)の現状角度ωfを検出する旋回方向センサー11が接続されている。そして、
図3及び
図4に示すように、姿勢制御部12は、一定距離間隔で現状角度ωfを保存するとともに、定期的に、直前の所定回数分の現状角度ωfの平均値Ωを算出する。後述する走行制御部19は、それを走行動作における走行車両1の進行方向であって、走行車両1の現在位置における苗列Nの方向を示す角度として用いる。また、
図3及び
図4に示すように、姿勢制御部12は、走行制御部19から与えられた目標角度ωrefと、現状角度ωfとの角度差分ωeが無くなるようにフィードバック制御を行い、その結果を姿勢制御信号として出力するように構成されている。目標角度ωrefとしては、後述する走行制御部19により、走行動作時はΩが与えられ、旋回動作時は90°が2回与えられる。
【0029】
撮像部13は、走行車両1の進行方向前方の苗列Nを撮像するカメラを備えている。撮像部は、走行車両1の高所に一定の俯角で設置されている。本例の撮像部の撮影範囲は、該走行車両1の前方5~6mまでの範囲に設定されている。撮像部による撮影範囲はカメラの設置高さ、苗列Nを構成する苗の高さや間隔等に応じて適宜変更することができる。
【0030】
画像処理部14は、該撮像部13が接続されており、該撮像部13により撮像した画像に基づいて苗列Nに沿って走行するための目標旋回方向を検出する。本例の画像処理部14は、苗列Nと走行車両1の中央との左右方向における位置ズレ量を検出し、それに基づいて目標旋回方向を決定するように構成されている。具体的には、植物は赤外光の反射率が高いことから、撮像画像から赤外光を抽出し(
図5における各画像の上段参照)、苗列Nを撮像画像上で縦方向に延びる赤外光の線形状であるものとし、撮像画像の横方向における一定範囲ごとに縦方向の赤外光の積算値を求め(
図5における各画像の下段参照)、その積算値が最大となる横方向の位置Pに苗列Nが存在していると判定し、機体フレーム2の中心位置C(
図5における各画像の中段参照)とのズレに応じて目標旋回方向を出力するように構成されている。具体的には、
図6に示すように、その苗列Nの存在位置Pと、機体フレーム2の中心位置Cとが右又は左方向に所定の閾値以上ずれているときは、該右又は左方向への旋回するように目標旋回方向を出力し、該閾値未満のずれのときは、直進するように目標旋回方向を出力するように構成されている。赤外光の積算値が所定の閾値未満であるときは、撮影範囲内の苗列Nに欠株が発生していると判定し、それが検知されたことを出力する。
【0031】
走行距離検出部16は、クローラ3の駆動軸の回転を検出するエンコーダー15が接続されており、該エンコーダー15で検出した回転に基づいて走行車両1の走行距離を測定するように構成されている。
【0032】
終端検出部18は、走行車両1前方にある物体を検出する対物センサー17が接続されており、該対物センサー17により栽培エリアの終端にある物理的な境界(畦畔、壁、柵、ビニールハウスの端等)又は該終端に設置された境界を示す境界物Eを検出する。対物センサー17としては特に限定されないが、境界物Eを非接触で検出する超音波センサー、TOF(Time of Flight)センサーを採用することを例示するが、接触式センサーを採用することもできる。また、本例では、対物センサー17の取付角度と高さは、境界物Eに応じて調節可能に構成されている。
【0033】
走行制御部19は、姿勢制御部12での制御結果及び画像処理部14での画像処理結果に基づいて走行車両1の走行を制御し、走行車両1に走行動作、終端検出、及び旋回動作を行わせるように構成されている。
【0034】
走行動作に関する走行制御部19の動作について説明すると、
図7に示すように、走行制御部19は、画像処理部14により欠株の発生が検知されていないときは、該画像処理部14から出力される右又は左方向への旋回指示に応じて走行車両1の走行を制御し、同欠株の発生が検知されているときは、姿勢制御部12により検出された走行車両1の進行方向Ωを目標角度ωrefとして姿勢制御部12に与え、その結果、姿勢制御部12から出力された姿勢制御信号に基づいて走行車両1の走行を制御するように構成されている。画像処理部14から出力される右又は左方向への旋回指示に対する具体的な走行制御としては、特に限定されないが、本例では、
図6に示すように、旋回方向側のクローラ3の駆動速度を減速することにより実現しているが、これに限定されず、例えば走行手段が操舵装置により進行方向を変更するように構成されているときは操舵装置を制御することにより実現することができる。
【0035】
また、走行制御部19は、
図8に示すように、該走行距離に基づいて検出される苗列Nの先端及び終端付近において、走行車両1の走行速度を低減させるように構成されている。その理由は、苗列Nでは、その一部で、苗の植付不良や生育不良等により株が欠損する欠株が発生することがあるが、苗列Nの先端又は終端の付近で欠株が発生した場合、赤外光の積算値が小さくなり、通常の走行速度では欠株により断続した苗列Nの画像処理が行えないため直進走行を継続できず、列に対して斜めに走行したり、停止したり、隣の列に移行したりすることがあるためである。そこで、走行速度を通常よりも低減させることにより、苗列Nを確実に認識させて、画像処理の精度を上げるようにしているのである。苗列Nの強度が全体的に小さい場合は、苗列Nの先端及び終端付近における減速区間を長くし、走行速度を低く低減させるように調整し、同強度が全体的に大きい場合はその逆に調整することが好ましい。減速の程度としては、特に限定されないが、10~50%の範囲で低減させることを例示し、具体的には40%低減させることを例示する。苗列Nの先端及び終端付近において速度を低減させる区間の長さは、撮像部13の撮影範囲や、苗列Nの全長等に応じて適宜変更することが好ましい。本例では、撮像部13の撮影範囲を基準に、先端及び終端の区間の長さをそれぞれ5~10mの範囲で設定することを例示し、具体的には5mに設定することを例示する。苗列Nの全長が短い(例えば20m以下)場合は、全体の速度低減防止のため、先端及び終端の区間の長さを前記全長の約5%に設定することを例示する。
【0036】
終端検出に関する走行制御部19の動作について説明すると、
図9に示すように、走行制御部19は、苗列Nの先端から終端付近に至るまでの所定距離を走行したことが走行距離検出部16によって検知されるまでは、終端検出部18からの終端検出情報を無効化するように構成されている。そして、所定距離を走行したことが検知されると、終端検出部18からの終端検出情報を有効化し、終端検出部18からの終端検出情報をチェックし始める。そして、走行制御部19は、終端検出情報を検知すると、走行車両1に旋回動作を開始させる。
【0037】
旋回動作に関する走行制御部19の動作について説明すると、走行制御部19は、
図10及び
図11に示すように、姿勢制御部12に対し、走行車両1の進行方向Ωを旋回開始時の基準角度として与えるとともに、目標角度ωrefを与え、その結果、該姿勢制御部12からの信号に応じて走行車両1の走行を制御する。旋回動作は、目標角度ωrefが90°の旋回を2回行うことにより、合計180°旋回するようになっている。このとき、目標角度ωrefに到達する前(例えば目標角度ωrefの10°前)より減速を開始し、S字減速とすることで、スムーズな停止制動を実現し、旋回方向センサー11による旋回方向角度の測定を確実に行わせるように構成されている。旋回開始時の基準角度をΩとしているので、
図10に示すように走行動作開始時に角度ズレしていても終端付近の苗列Nの方向に対応して旋回し、
図11に示すように終端付近の苗列Nの方向が湾曲していてもそれに対応して旋回するようになっている。
【0038】
以上のように構成された本例の走行車両1の走行制御装置5によれば、走行制御部19は、前記走行動作中に、画像処理部14により苗列Nの存在及び目標旋回方向が検出されたときは、該目標旋回方向に基づいて走行車両1の走行を制御し、苗列Nの存在及び目標旋回方向が検出されなかったときは、姿勢制御部12からの姿勢制御信号に基づいて走行車両1の走行を制御するように構成されている。この構成によれば、苗列Nに欠株が存在していることにより画像処理部14による画像処理の結果、苗列Nの存在及び目標旋回方向が検出されなかったときでも、姿勢制御部12による姿勢制御信号に基づいて走行車両1の走行を制御するように構成されている。そのため、欠株があっても走行が停止せず、走行車両1の安定した自律走行が実現できる。
【0039】
また、姿勢制御部12は、一定距離間隔で現状角度ωfを保存するとともに、該保存された過去の現状角度ωfと最新の現状角度ωfとの平均値を走行車両1の進行方向又は苗列Nの方向として採用する。この構成によれば、走行車両1の進行方向又は苗列Nの方向として、保存された過去の現状角度ωfと最新の現状角度ωfとの平均値Ωを採用することにより、現状角度ωfの一時的なぶれの影響を低減することができ、走行車両1の安定した自律走行が実現できる。
【0040】
また、走行制御部19は、姿勢制御部12で検出された現状角度ωfの平均値Ωを旋回動作の開始時の基準角度として用いる。この構成によれば、苗列Nの終端部における湾曲に合わせて前記旋回動作を走行車両1に行わせることができる。
【0041】
また、画像処理部14は、苗列Nの存在位置と走行車両1の中央との左右方向における位置ズレ量が所定量以上の場合に目標旋回方向を検出するように構成されている。この構成によれば、シンプルな画像処理で走行車両1の走行制御を実現できる。
【0042】
また、走行車両1の走行距離を測定する走行距離検出部16を備え、走行制御部19は、該走行距離に基づいて検出される苗列Nの先端及び終端付近において、走行車両1の走行速度を低減させるように構成されている。この構成によれば、走行速度を低減させることにより、苗列Nの先端又は終端付近において、画像処理部14に確実に苗列Nを認識させることができ、安定した自律走行が実現できる。
【0043】
また、走行車両1前方にある物体を検出する対物センサー17を有し、該対物センサー17により栽培エリアの終端を示す境界物Eを検出する終端検出部18を備え、走行制御部19は、該終端検出部18により該終端を検出すると、走行車両1に前記旋回動作をさせるように構成されている。この構成によれば、前記終端の撮像画像に対する画像処理のみにより該終端を検出する場合よりも、確実に終端を検出することができる。そのように画像処理のみにより前記終端を検出しようとすると、畦畔の上の雑草等を苗と誤検出して終端検出を失敗することがあるからであり、また、それを防止するために、畦畔を管理したり、畔波シートなどにより畦畔を安定した形状に保ったりする必要があるからである。
【0044】
さらに、走行制御部19は、苗列Nの先端から終端付近に至るまでの所定距離を走行したことが走行距離検出部16によって検知されるまでは、終端検出部18からの終端検出情報を無効化するように構成されている。この構成によれば、苗列Nの終端付近以降のみ、終端検出部18からの終端検出情報を利用することにより、それ以前における栽培エリアの終端の誤検出を排除することができる。
【0045】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のように、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。
(1)走行車両1を、2以上の苗列Nを跨いで走行するように構成したり、条間を走行するように構成したりすること。
(2)走行車両1の走行手段としてのクローラ3を他の走行手段(例えば車輪)に変更すること。
(3)カメラ、旋回方向センサー11、対物センサー17、エンコーダー等の各センサーを、それぞれ実質的に同一機能を有する他の方式のセンサーに変更すること。
【符号の説明】
【0046】
1 走行車両
2 機体フレーム
3 クローラ
4 駆動部
5 走行制御装置
6 電池
11 旋回方向センサー
12 姿勢制御部
13 撮像部
14 画像処理部
15 エンコーダー
16 走行距離検出部
17 対物センサー
18 終端検出部
19 走行制御部
C 機体フレームの中心位置
E 境界物
F 矢印
N 苗列
Ns 苗列の先端
Ne 苗列の終端
P 苗列の存在位置P
ωe 角度差分
ωf 現状角度
ωref 目標角度
Ω 現状角度の平均値