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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】無機物質粉末充填樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/12 20060101AFI20220511BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20220511BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20220511BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20220511BHJP
   C08K 5/524 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C08L23/12
C08K3/00
C08K3/26
C08K5/13
C08K5/524
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021187029
(22)【出願日】2021-11-17
【審査請求日】2021-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】多田 貴則
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0068185(US,A1)
【文献】特開2020-111642(JP,A)
【文献】特開2020-050831(JP,A)
【文献】特開2019-127518(JP,A)
【文献】特開2009-275087(JP,A)
【文献】特開2003-020371(JP,A)
【文献】特開2020-164736(JP,A)
【文献】特開2003-301078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/12
C08K 3/00
C08K 3/26
C08K 5/13
C08K 5/524
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比45:55~10:90の割合で含有する無機物質粉末充填樹脂組成物において、
前記熱可塑性樹脂は、前記熱可塑性樹脂に対して90質量%以上のプロピレンホモポリマー(ただし、メソペンタッド分率(mmmm)が0.2~0.6であり、かつ、ラセミペンタッド分率(rrrr)と(1-mmmm)が下記の関係:[rrrr/(1-mmmm)]≦0.1を満たすものを除く。)を含むポリプロピレン系樹脂であり、
前記無機物質粉末充填樹脂組成物100質量部に対して、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.01質量%以上0.10質量%以下、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.02質量%以上0.20質量%以下の割合で含有し、
前記無機物質粉末充填樹脂組成物100質量部に対して、前記トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.08質量%以上0.17質量%以下の割合で含有する、
無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機物質粉末充填樹脂組成物100質量部に対して、前記テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが0.01質量%以上0.07質量%以下の割合で含有されている、請求項1に記載の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項3】
前記テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンと前記トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトとを、質量比1.0:1.5~1.0:8.0の割合で含有する、請求項1又は2に記載の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項4】
前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムである、請求項1~の何れかに記載の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項5】
前記無機物質粉末が、重質炭酸カルシウムである、請求項1~の何れかに記載の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項6】
前記重質炭酸カルシウムが、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下の重質炭酸カルシウム粒子である、請求項に記載の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~の何れかに記載の無機物質粉末充填樹脂組成物からなる成形品。
【請求項8】
前記成形品が射出成形品である請求項に記載の成形品。
【請求項9】
前記成形品が押出成形品である請求項に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物質粉末充填樹脂組成物及び成形品に関する。詳しく述べると、本発明は、熱可塑性樹脂中に無機物質粉末が高充填されているにも拘らず、成形加工性に優れて表面外観の良好な成形品を製造することができ、良好な機械的特性、特に耐衝撃性を備えて優れた柔軟性を示す樹脂組成物、及びそうした樹脂組成物からなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂は、工業用及び家庭用の各種成形品、食品包装や一般用品の成形包装等の材料として、森林資源を源とする紙資材と共に広く用いられてきたが、環境保護が国際的な問題となって来た現在、これらを無毒で、リサイクル可能とする、焼却できるといった観点と並行して、熱可塑性樹脂ならびに紙資材の消費量を低減することも大いに検討されている。このような点から、炭酸カルシウムを始めとする無機物質粉末を熱可塑性樹脂中に高充填してなる、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が提唱され、実用化されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
しかしながら、無機物質粉末を高充填した樹脂組成物は、樹脂単品に比べ、概して成形加工性が低く、機械強度(引張強度、伸び)も劣る傾向がある。特に、フィルム等の薄肉シートに成形した場合や射出成形した場合は生産効率が低く、しかも成形品に縞模様のフローマーク(タイガーストライプ)等の外観不良が生じる場合があった。また、耐衝撃強度が著しく低下する傾向にあり、使用時に支障が生じ得る等の課題を有していた。
【0004】
樹脂組成物の成形性を改善する手段として、滑剤や可塑剤を配合する技術が知られている。例えば特許文献2には、滑剤としてアルカンスルホン酸塩を添加した無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物が開示されている。また、特許文献3には、重質炭酸カルシウム粒子を高充填し、乳酸オリゴマー等の可塑剤を配合した生分解性樹脂組成物が開示されている。
【0005】
上記の他、樹脂組成物の機械的特性や成形性を改善する手段として、変性ポリマーやエラストマー成分を配合する技術が知られている。例えば特許文献4には、ポリプロピレン樹脂、極性官能基を有するエラストマー、及び充填材を含むポリプロピレン樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-10931号公報
【文献】特開2020-50831号公報
【文献】特開2020-66721号公報
【文献】特開2019-99807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら滑剤を配合すると、樹脂組成物の強度が低下する場合がある。また、滑剤としては、飽和脂肪酸アミドやステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸系のものが一般的に用いられるが、こうした滑剤からは臭気が発生する。そのため、滑剤を配合した樹脂組成物は、特に食品用成形品等の用途においては不適切である。特許文献2記載の樹脂組成物では、滑剤としてアルカンスルホン酸塩を使用した上で、例えば酸化防止剤を0.3質量部強配合して臭気を低減しているが、完全に無臭とすることは困難である。
【0008】
可塑剤を配合して成形性を改善する場合、可塑剤の一部が樹脂組成物やその成形体の表面にブリードすることがある。そのため、可塑剤を含有する樹脂組成物は、医療・食品用材料としてあまり好ましくない。ブリードにより、外観が悪化する場合もある。可塑剤はまた、柔軟性や伸び特性を改善する一方で、引張強度等の機械強度を低下させる場合がある。
【0009】
変性ポリマーや共重合体の配合においても、配合するポリマーが不適切だと、高充填樹脂組成物はむしろ脆くなり、あるいはタイガーストライプ等の成形不良が発生することがある。エラストマー成分についても同様で、配合する品種を選定しないと、樹脂組成物の機械的特性は充分に改善されない。また、これらポリマーはしばしば高価であり、配合によるコスト上昇が避けがたい短所もある。
【0010】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、成形加工性に優れて表面外観の良好な成形品を製造することができ、良好な機械的特性、特に耐衝撃性を備えて柔軟性に優れた無機物質粉末充填樹脂組成物、及びこうした樹脂組成物からなる成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決する上で鋭意検討を行った結果、高充填樹脂組成物において、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン系樹脂を用い、かつ特定のフェノール系化合物と特定のホスファイト系化合物とを組み合わせて少量ずつ配合することにより、成形性に優れ、表面外観が良好な成形品が製造でき、柔軟でかつ優れた耐衝撃性等の機械的特性を備える無機物質粉末充填樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する無機物質粉末充填樹脂組成物において、
前記熱可塑性樹脂はポリプロピレン系樹脂であり、
前記無機物質粉末充填樹脂組成物100質量部に対して、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.01質量%以上0.10質量%以下、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.02質量%以上0.20質量%以下の割合で含有することを特徴とする無機物質粉末充填樹脂組成物である。
【0013】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記無機物質粉末充填樹脂組成物100質量部に対して、前記テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが0.01質量%以上0.07質量%以下の割合で含有されている無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0014】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが0.08質量%以上0.17質量%以下の割合で含有されている無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0015】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンと前記トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトとを、質量比1.0:1.5~1.0:8.0の割合で含有する無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0016】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムである無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0017】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記無機物質粉末が、重質炭酸カルシウムである無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0018】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記重質炭酸カルシウムが、JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が0.7μm以上6.0μm以下の重質炭酸カルシウム粒子である、無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0019】
上記課題を解決する本発明はまた、上記の無機物質粉末充填樹脂組成物からなる成形品である。
【0020】
本発明に係る成形品の一態様においては、成形品が射出成形品である。
【0021】
本発明に係る成形品の一態様においては、成形品が押出成形品である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、成形加工性に優れて表面外観の良好な成形品を製造することができ、良好な機械的特性、特に耐衝撃性を備えて優れた柔軟性を示す無機物質粉末充填樹脂組成物、及びこうした樹脂組成物からなる成形品を提供することができる。本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中に無機物質粉末が高充填されているにも拘らず、加工性改善のための滑剤や可塑剤の添加を必要としないので、それら添加剤に起因する臭気やブリード等のリスクを避けることができ、医療・食品等の用途に好適である。また、高価な変性ポリマーや共重合体の配合も不要なため、ポリマーの相分離による物性低下や、コスト上昇等を回避することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0024】
≪無機物質粉末充填樹脂組成物≫
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有するものであり、熱可塑性樹脂はポリプロピレン系樹脂であって、無機物質粉末充填樹脂組成物100質量部に対して、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.01質量%以上0.10質量%以下、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.02質量%以上0.20質量%以下の割合で含有する。以下、本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物(以下で「樹脂組成物」と略す場合がある。)を構成する各成分につき、それぞれ詳細に説明する。
【0025】
<ポリプロピレン系樹脂>
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の成分となり得るポリプロピレン系樹脂としては、特に限定されるものではなく、当該組成物の用途、機能等に応じて、各種のポリマーを使用し得る。ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単位を主成分とする樹脂であり、その構造や分子量、製造方法に特に制限はない。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等の何れによって得られたものであっても良い。なお、上記「主成分とする」とは、プロピレン単位が樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。例として、プロピレン単独重合体、又はプロピレンと共重合可能な他のモノマーとの共重合体等が挙げられる。特に、ポリプロピレン単独重合体(ホモポリマー)が好ましい。
【0026】
<プロピレンホモポリマー>
プロピレンホモポリマー(以下、「PP」と略す場合がある。)は、実質的にプロピレンのみを重合したポリマーであり、剛性や耐熱性に優れている。様々な製品が市販されており、例として日本ポリプロ株式会社のウィンテック(登録商標)及びノバテック(登録商標)、住友化学株式会社のノーブレン(登録商標)、株式会社プライムポリマーのプライムポリプロ(登録商標)、東レ株式会社のトレカ(登録商標)、SABICペトロケミカルズのSABIC(登録商標)PP、並びにサンアロマー株式会社のサンアロマー(登録商標)等が挙げられるが、本発明においてはこれらに限定されず、どのようなPPが含まれていても良い。複数種のPPを併用することもできる。
【0027】
プロピレンホモポリマーは、立体規則性の違いにより、アイソタクチックPP、シンジオタクチックPP、アタクチックPP、ヘミアイソタクチックPP等に分類される。本発明の樹脂組成物はこれらのいずれを含んでいても良く、これらを複数種併用することもできる。また、ホモポリマー中に、重合時に副生する微量成分を含んだものや、分岐構造を有するものであっても良い。例えば、重合の結果としてヘキセン等のα-オレフィンが共重合したかのような構造が5質量%以下、特に1質量%以下程度含まれる場合があるが、本発明においてはそうした重合体をも、広くプロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)として包含する。
【0028】
プロピレンホモポリマーの分子量にも特に制限はない。しかしながら本発明においては、PPとして質量平均分子量が50,000以上500,000以下程度、特に100,000以上400,000以下程度のものを使用するのが好ましい。一般に分子量が高いほど強度等の機械特性に優れ、分子量が低いほど成形性に優れる。質量平均分子量が50,000以上200,000未満程度のものと200,000以上500,000以下程度のものとを、併用することもできる。異なる分子量のPPを併用することにより、成形性を改善し、成形品の外観不良を低減させることも可能となる。
【0029】
<プロピレンコポリマー>
本発明の樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂としてプロピレン共重合体を含有するものであっても良い。プロピレンとの共重合成分としては、エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン、1-オクテン、シクロオレフィン等のオレフィン;酢酸ビニルや(メタ)アクリル酸(エステル)、アクリロニトリル、アクリルアミド等のビニル化合物;塩化ビニル、テトラフロロエチレン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化物等が挙げられるが、これらに限定されない。共重合成分を複数種含む、三元、四元共重合体等であっても良い。共重合の形態にも制限はなく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、さらにはグラフト共重合体等、種々の形態の共重合体を使用することができる。上記のように本発明におけるポリプロピレン系樹脂としてはプロピレンホモポリマーが好ましいが、プロピレンとα-オレフィンとの共重合体やブロックポリプロピレンも好適である。また、プロピレンホモポリマーと共重合体の両者を併用することもできる。
【0030】
<プロピレンブロックコポリマー>
プロピレンブロックコポリマーは、プロピレンモノマーが連続したブロックと、他のモノマー成分が連続したブロックとからなる共重合体である。プロピレンとα-オレフィンとのブロックコポリマーは公知であり、種々の品種が市販されている。例として日本ポリプロ株式会社のノバテック(登録商標)、株式会社プライムポリマーのプライムポリプロ(登録商標)、三洋化成工業株式会社のユーメックス(登録商標)、サンアロマー株式会社のサンアロマー(登録商標)等が挙げられるが、本発明においてはこれらに限定されず、どのようなプロピレンブロックコポリマーが含まれていても良い。プロピレンブロックコポリマーとは、広義にはホモポリプロピレン連鎖とエチレン-プロピレン共重合体連鎖が化学的に結合されていない、海島構造を有するブレンドポリマーをも包含し、本発明でもそうしたポリマーを使用することができる。2種以上のブロックコポリマーを併用することも可能である。共重合比や分子量についても特に制限はないが、共重合モノマーであるα-オレフィン由来の構成単位が好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、特に好ましくは8質量%以上の共重合体、また、同構成単位が好ましくは35質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは18質量%以下等の共重合体を使用することができる。また、質量平均分子量が20,000~5,000,000、典型的には50,000~1,000,000、特に70,000~400,000程度の範囲のポリマーが好ましい。これらブロックコポリマーは柔軟性に富み、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物に配合された際に、特に優れた機械的特性や成形性を発現する。
【0031】
プロピレンとα-オレフィンとのブロックコポリマーはまた、ジエンやカルボン酸(エステル)変性オレフィン等の第三成分由来の構成単位を含んでいても良い。ジエン成分としては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、ノルボルナジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン等が;カルボン酸(エステル)変性オレフィンとしては、カルボキシル基含有オレフィン等が、それぞれ挙げられるが、これらに限定されない。これら第三成分由来の構成単位を、例えば0.1~10質量%、特に0.5~8質量%、中でも1~5質量%含む共重合体は、第三成分不含の上記ブロックコポリマーとは異なった溶融挙動や相溶性を示すことがあり、その配合によって本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物の物性や加工性を制御することも可能である。ジエン由来の構成単位は架橋サイトにもなり得るので、過酸化物等の架橋剤と共に混合することによって、上記ブロックコポリマーを部分的に架橋させ、加工性を改変することもできる。また、カルボン酸基等の官能基を有する上記ブロックコポリマーの使用により、無機物質粉末との混和性が高められ、物性や成形性が改善される場合もある。
【0032】
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物において、熱可塑性樹脂は上記のポリプロピレン系樹脂であるが、さらに他の樹脂成分を含んで構成されていても良い。例としてポリ(メタ)アクリル酸(エステル)、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、石油炭化水素樹脂、クマロンインデン樹脂等の熱可塑性樹脂;さらにはスチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-エチレン共重合体、スチレン-イソプレン-エチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、フッ素系エラストマー等のエラストマーが挙げられる。これら樹脂成分の配合により、無機物質粉末充填樹脂組成物の物性や加工性が、改善される場合がある。
【0033】
しかしながら本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物においては、各成分の相溶性等の観点から、熱可塑性樹脂成分の好ましくは90質量%以上、より好ましくは97質量%以上、特に好ましくは実質的に全量が、上記のポリプロピレン系樹脂から成る。これら以外の樹脂成分を実質的に不含の無機物質粉末充填樹脂組成物であれば、樹脂成分の一部が分離するおそれがなく、機械的特性や成形性の低下を防ぐことができる。
【0034】
<無機物質粉末>
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、上記の熱可塑性樹脂と共に、無機物質粉末を含有する。無機物質粉末としては、特に限定されず、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、タルクやカオリン等のクレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、ウォラストナイト、ドロマイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであっても良く、また、これらは単独又は2種類以上併用して含有されても良い。
【0035】
さらに、無機物質粉末の形状としても、特に限定されるわけではなく、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。また、粒子状としても、一般的に合成法により得られるような球形のものであっても、あるいは、採集した天然鉱物を粉砕にかけることにより得られるような不定形状のものであっても良い。
【0036】
これらの無機物質粉末として、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、タルクやカオリン等のクレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等であり、特に炭酸カルシウムを含むものが好ましい。さらに炭酸カルシウムとしては、合成法により調製されたもの、いわゆる軽質炭酸カルシウムと、石灰石等CaCOを主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる、いわゆる重質炭酸カルシウムの何れであっても良く、これらを組合わせたものであっても良い。
【0037】
しかしながら本発明においては、重質炭酸カルシウムを含む無機物質粉末を使用するのが好ましい。ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石等を機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、乾式法によるものが好ましい。
【0038】
重質炭酸カルシウム粒子は、例えば、合成法による軽質炭酸カルシウムとは異なり、粒子形成が粉砕処理によって行われたことに起因する、表面の不定形性、比表面積の大きさに特徴を有する。重質炭酸カルシウム粒子がこの様に不定形性、比表面積の大きさを有するため、熱可塑性樹脂中に配合した場合に重質炭酸カルシウム粒子は、熱可塑性樹脂に対してより多くの接触界面を有し、均一分散に効果がある。
【0039】
特に限定されるわけではないが、重質炭酸カルシウム粒子の比表面積としては、その平均粒子径によっても左右されるが、3,000cm/g以上35,000cm/g以下程度であることが望まれる。ここでいう比表面積は空気透過法によるものである。比表面積がこの範囲内にあると、得られる成形品の加工性低下が抑制される傾向がある。
【0040】
また、重質炭酸カルシウム粒子の不定形性は、粒子形状の球形化の度合いが低いことで表わすことが出来、特に限定されるわけではないが、具体的には、真円度が0.50以上0.95以下、より好ましくは0.55以上0.93以下、さらに好ましくは0.60以上0.90以下である。重質炭酸カルシウム粒子の真円度がこの範囲内にあると、成形品の強度や成形加工性も適度なものとなる。なお、ここで、真円度とは、(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)で表せるものである。真円度の測定方法は特に限定されず、例えば顕微鏡写真から粒子の投影面積と粒子の投影周囲長とを測定しても良く、一般に商用されている画像解析ソフトを用いても良い。
【0041】
また、無機物質粉末の分散性又は反応性を高めるために、表面が常法に従い表面改質されていても良い。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するもの等が例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであっても良く、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。これらとは逆に、表面処理のされていない無機物質粉末が含有されていても構わない。
【0042】
重質炭酸カルシウム粒子等の無機物質粉末としては、特に限定される訳ではないが、その平均粒子径が、0.5μm以上9.0μm以下が好ましく、0.7μm以上6.0μm以下がより好ましく、1.0μm以上4.0μm以下がさらに好ましく、1.2μm以上3.0μm以下が特に好ましい。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所製の比表面積測定装置SS-100型を好ましく用いることができる。平均粒子径が9.0μmよりも大きくなると、例えばシート状の成形品を形成した場合に、その成形品の層厚にもよるが、成形品表面より無機物質粉末が突出して、当該粉末が脱落したり、表面性状や機械強度等を損なうおそれがある。特に、その粒径分布において、粒子径45μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形品の製造が困難になる虞れがある。こうしたリスクを低減する上で、無機物質粉末の平均粒子径を上記範囲内とすることは有効である。
【0043】
上記のように、本発明においては無機物質粉末として炭酸カルシウムを使用することが好ましい。所望により、該炭酸カルシウムが、JIS M-8511による空気透過法により測定した平均粒子径が0.5μm以上2.0μm未満、特に0.7μm以上2.0μm未満である第1の炭酸カルシウムと、JIS M-8511による空気透過法により測定した平均粒子径が2.0μm以上9.0μm未満、特に2.0μm以上6.0μm未満である第2の炭酸カルシウムとを含有しても良い。このことによって、成形品の表面性状や、印刷性、ブロッキング性等の物性を改善することができる。また、炭酸カルシウムの偏在が抑制され、外観及び、破断伸び等の機械的特性が良好な成形品を得ることができ、樹脂組成物成形品からの炭酸カルシウムの脱落を低減することも可能となる。特に限定されるわけではないが、第1の炭酸カルシウムの平均粒子径をaとし、第2の炭酸カルシウムの平均粒子径をbとした場合に、a/b比率が0.85以下、より好ましくは0.10~0.70、さらに好ましくは0.10~0.50程度となるように大別できるものであることが望ましい。このようなある程度明確な平均粒子径の差をもったものを併用することで、特に優れた効果が期待できるためである。また、第1の炭酸カルシウムと第2の炭酸カルシウムのそれぞれは、その粒子径(μm)の分布の変動係数(Cv)が0.01~0.10程度であることが望ましく、特に0.03~0.08程度であることが望ましい。変動係数(Cv)で規定される粒子径のばらつきがこの程度であれば、各粉末群がより相補的に効果を与え得ると考えられる。第1の炭酸カルシウムと第2の炭酸カルシウムとの質量比は、90:10~98:2、特に92:8~95:5程度とすることが好ましい。平均粒子径分布が異なる炭酸カルシウム群として、3つ以上のものを使用しても良い。また、前記第1の炭酸カルシウム及び前記第2の炭酸カルシウムが、何れも表面処理された重質炭酸カルシウムであっても良い。
【0044】
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物においては、上記した熱可塑性樹脂と無機物質粉末とが、50:50~10:90の質量比で含有される。無機物質粉末の含有量が少ないと、樹脂組成物の質感や強度等の物性が得難く、多すぎると混練や成形加工が困難となり、柔軟性も不十分となるためである。熱可塑性樹脂と無機物質粉末との合計質量に占める無機物質粉末の比率は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、特に好ましくは70質量%以上である。同比率の上限値に関しては、好ましくは85質量%以下、より好ましくは82質量%以下、特に好ましくは80質量%以下とする。
【0045】
<無機物質粉末充填樹脂組成物の配合>
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、上記の熱可塑性樹脂及び無機物質粉末と共に、特定量のテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン及びトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを含有する。これら両者を少量ずつ配合することにより、無機物質粉末が多量に充填されているにも拘らず、成形性に優れ、表面外観が良好な成形品が製造でき、柔軟でかつ優れた耐衝撃性等の機械的特性を備える無機物質粉末充填樹脂組成物とすることが可能となる。
【0046】
テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン自体は公知であり、市販もされている。例えばBASF社のIrganox(登録商標)1010、株式会社ADEKAのアデカスタブ(登録商標)AO-60等が挙げられるが、これらに限定されない。この化合物は[HO-C1420-C-COO-CHCの構造を有し、ペンタエリトリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]とも呼ばれる。フェノール性水酸基の両隣にt-ブチル基を有する、いわゆるヒンダードフェノール化合物であり、他のヒンダードフェノールと同様に、樹脂の熱酸化劣化や変色を防止する作用を示す。
【0047】
トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトも公知であり、市販されている。例えばBASF社のIrgafos(登録商標)168、株式会社ADEKAのアデカスタブ(登録商標)2112等が挙げられるが、これらに限定されない。この化合物は(C1421-O)Pの構造を有し、他のホスファイト化合物と同様、過酸化物分解能や変色防止効果を有する。
【0048】
以上のように、多くのヒンダードフェノール化合物やホスファイト化合物は樹脂の劣化や変色を防止する作用を示すので、種々の化合物が例えばポリマー塗膜の劣化・変色防止剤として使用されている(例えば特表2016-531962号公報参照)。
【0049】
本発明者らは、これら数多くのヒンダードフェノール化合物及びホスファイト化合物の内、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの組み合わせを、特定量配合することによって、高充填樹脂組成物の加工性や柔軟性、機械特性が改善されることを見出した。後記する実施例にも示すように、高充填樹脂組成物においては、他の種類の汎用ヒンダードフェノール化合物やホスファイト化合物を用いても、本発明が目的とする加工性や機械特性の改善はなされ難い。一方でテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトとを組み合わせると、樹脂の劣化や変色を防止するだけでなく、高充填樹脂組成物の加工性や機械特性をも改善することができる。
【0050】
本発明の樹脂組成物においては、目的とする効果を得る上で、ヒンダードフェノール化合物及びホスファイト化合物の含有量も重要である。すなわち本発明の樹脂組成物は、無機物質粉末充填樹脂組成物100質量部に対して、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.01質量%以上0.10質量%以下、好ましくは0.01質量%以上0.08質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上0.06質量%以下、さらに好ましくは0.02質量%以上0.05質量%以下、特に好ましくは0.03質量%以上0.05質量%未満、例えば0.04質量%以下の割合で;トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.02質量%以上0.20質量%以下、好ましくは0.05質量%以上0.18質量%以下、より好ましくは0.08質量%以上0.17質量%以下、さらに好ましくは0.10質量%以上0.17質量%以下、特に好ましくは0.12質量%以上0.16質量%以下の割合で含有する。こうした配合量であれば、高充填樹脂組成物の加工性、例えば溶融流動性やウェルド特性を改善し、タイガーストライプやフローマーク、表面の肌荒れ等の外観不良を抑制し、耐衝撃性等の機械特性や柔軟性も向上させることができる。また、配合した成分のブリードによる外観の悪化や接着性の低下、臭気発生のリスク等を回避することも可能となる。
【0051】
本発明の樹脂組成物はまた、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトとを、好ましくは質量比1.0:1.5~1.0:8.0、より好ましくは1.0:2.0~1.0:6.0、さらに好ましくは1.0:2.1~1.0:5.0、特に好ましくは1.0:2.5~1.0:4.0の割合で含有する。こうした配合比であれば、高充填樹脂組成物の加工性及び機械特性をより確実に改善することができる。
【0052】
<その他の添加剤>
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物には、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、滑剤、可塑剤、色剤、カップリング剤、流動性改良材(流動性調整剤)、架橋剤、分散剤、紫外線吸収剤、難燃剤、発泡剤、帯電防止剤、上記以外の酸化防止剤及び安定剤等を配合しても良い。これらの添加剤は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、これらは、後述の混練工程において配合しても良く、混練工程の前にあらかじめ原料成分中に配合していても良い。本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物において、これらのその他の添加剤の添加量は、所望の物性及び加工性を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、無機物質粉末充填樹脂組成物全体の質量を100%とした場合に、これらその他の添加剤はそれぞれ約0~10質量%程度、特に0.04~5質量%程度の割合で、かつ当該その他の添加剤全体で10質量%以下となる割合で配合されることが望まれる。
【0053】
以下に、これらのうち、重要と考えられるものについて例を挙げて説明するが、これらに限られるものではない。
【0054】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系滑剤;脂肪族アルコール系滑剤;ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、複合型アミド等の脂肪族アマイド系滑剤;ステアリン酸-n-ブチル、ヒドロキシステアリン酸メチル、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス等の脂肪族エステル系滑剤;脂肪酸金属石鹸系滑剤、例えばジンクステアレート;さらにはアルカンスルホン酸ナトリウムのようなスルホン酸塩等を挙げることができる。これら滑剤を、上記のヒンダードフェノール化合物及びホスファイト化合物と共に配合して、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物の加工性をさらに改善することも可能である。
【0055】
ただし、上記した臭気のリスクを低減する上で、こうした脂肪族アマイド系やスルホン酸塩の滑剤の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して0.2質量部未満、例えば0.01~0.1質量部程度に留めるのが好ましく、さらには配合しないことが好ましい。
【0056】
可塑剤としては、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチル・トリエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、酒石酸ジブチル、o-ベンゾイル安息香酸エステル、ジアセチン、エポキシ化大豆油等が挙げられる。これら可塑剤は通常、熱可塑性樹脂に対して数質量%程度配合されるが、その量はこれら範囲に限定されず、成形品の目的によってはエポキシ化大豆油等を20~50質量部程度配合することも可能である。しかしながら本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物においては、成形品の外観改善の観点から、可塑剤を配合する場合も、その配合量は熱可塑性樹脂100質量部に対し0.5~10質量部、特に1~5質量部程度とするのが好ましい。より好ましくは、可塑剤無添加の配合とする。本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物では、上記のヒンダードフェノール化合物とホスファイト化合物のみで加工性の改善が図れるため、可塑性、さらには上記滑剤不含の配合とすることが可能である。
【0057】
色剤としては、公知の有機顔料又は無機顔料あるいは染料の何れをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。
【0058】
酸化防止剤としては、上記以外のリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤を併用することができる。リン系、より具体的には亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系酸化防止安定剤が好ましく用いられる。亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0059】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらリン系酸化防止剤は単独で併用しても良く、二種以上を組み合わせて併用することもできる。
【0060】
フェノール系の酸化防止剤としては、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2-t-ブチル-6-(3'-t-ブチル-5'-メチル-2'-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル等が例示され、これらは単独で又は2種以上を組合せて併用することができる。
【0061】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤や、あるいはリン系難燃剤や金属水和物などの非リン系ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルエーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノール-ビス(アルキルエーテル)系化合物等が、またリン系難燃剤としては、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2、6-キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が、金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、二水酸化マグネシウム又はこれらの組み合わせ等がそれぞれ例示でき、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。難燃助剤として働き、より効果的に難燃効果を向上させることが可能となる。さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用することも可能である。
【0062】
発泡剤は、溶融混練機内で溶融状態にされている原料である無機物質粉末充填樹脂組成物に混合、又は圧入し、固体から気体、液体から気体に相変化するもの、又は気体そのものであり、主として発泡シートの発泡倍率(発泡密度)を制御するために使用される。発泡剤は、常温で液体のものは樹脂温度によって気体に相変化して溶融樹脂に溶解し、常温で気体のものは相変化せずそのまま溶融樹脂に溶解する。溶融樹脂に分散溶解した発泡剤は、溶融樹脂を押出ダイからシート状に押出した際に、圧力が開放されるのでシート内部で膨張し、シート内に多数の微細な独立気泡を形成して発泡シートが得られる。発泡剤は、副次的に原料樹脂組成物の溶融粘度を下げる可塑剤として作用し、原料樹脂組成物を可塑化状態にするための温度を低くする。
【0063】
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロジフルオロメタン、ジフロオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロジフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどのハロゲン化炭化水素類;二酸化炭素、チッ素、空気などの無機ガス;水などが挙げられる。
【0064】
発泡剤としては、さらに、例えば、キャリアレジンに発泡剤の有効成分が含まれるものを好ましく用いる事ができる。キャリアレジンとしては、結晶性オレフィン樹脂等が挙げられる。これらのうち、結晶性ポリプロピレン樹脂が好ましい。また、有効成分としては、炭酸水素塩等が挙げられる。これらのうち、炭酸水素塩が好ましい。結晶性ポリプロピレン樹脂をキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む発泡剤コンセントレートであることが好ましい。
【0065】
成形工程において発泡剤に含まれる発泡剤の含有量は熱可塑性樹脂及び無機物質粉末の量等に応じて、適宜設定することができ、無機物質粉末充填樹脂組成物の全質量に対して0.04~5.00質量%の範囲とすることが好ましい。
【0066】
流動性調整剤としても、種々の慣用のものを使用することができる。例としてジアルキルパーオキサイド等の過酸化物、例えば1,4-ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン等が挙げられるが、これらに限定されない。使用する熱可塑性樹脂の種類によっては、これら過酸化物は架橋剤としても作用する。過酸化物の添加量に特に制限はないが、無機物質粉末充填樹脂組成物の全質量に対して0.04~2.00質量%、特に0.05~0.50質量%程度の範囲とすることが好ましい。
【0067】
帯電防止剤としては、例えばラウリルジエタノールアミド、ステアリルジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド、アルコールアミン系化合物を始めとする水酸基含有化合物等を用いることが可能である。特に、アルコールアミン類、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が好ましい。2種以上の帯電防止剤を併用することもできる。これら帯電防止剤は、ケイ酸カルシウムや炭酸カルシウム等に担持されていても良い。なお、脂肪酸ジエタノールアミドのアシル基の炭素数の範囲としては8~22程度が、十分な帯電防止効果を発揮し得る上から望ましい。このような帯電防止剤の配合量としては、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に、0.01~8.00質量%程度、より好ましくは0.02~4.00質量%、さらに好ましくは0.05~3.00質量%、特に0.10~1.50質量%程度となる割合で配合されることが望まれる。この範囲内で用いることにより、十分な帯電防止効果が得られることに加え、樹脂表面がべとついたり樹脂物性への悪影響が生じる虞れも少ない。
【0068】
≪無機物質粉末充填樹脂組成物の製造方法≫
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物の製造方法としては、通常の方法を使用することができ、成形方法(押出成形、射出成形、真空成形等)に応じて適宜設定し、例えば熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを溶融混練しても良い。溶融混練は、各成分を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましい。混合装置としても、一般的な押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等種々のものを用いることができるが、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。
【0069】
本発明の製造方法において、熱可塑性樹脂、無機物質粉末、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、及びトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの混練順序に特に制限はない。例えばこれら4者を同時に混練することもでき、熱可塑性樹脂以外の成分のドライブレンド物を熱可塑性樹脂と混練することも可能である。また、熱可塑性樹脂の一部、例えば1/2~3/4と他の原材料とを混練して第1の樹脂組成物を調製した後、この樹脂組成物と残り1/2~1/4の熱可塑性樹脂とを混練しても良い。なお、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトは、樹脂組成物中に同時に混練されても良く、別々に混練されても良い。
【0070】
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物の製造方法において、無機物質粉末充填樹脂組成物はペレットの形態であっても良く、ペレットの形態でなくても良いが、ペレットの形態である場合、ペレットの形状は特に限定されず、例えば、円柱、球形、楕円球状等のペレットを成形しても良い。
【0071】
ペレットのサイズは、形状に応じて適宜設定すれば良いが、例えば、球形ペレットの場合、直径1~10mmであって良い。楕円球状のペレットの場合、縦横比0.1~1.0の楕円状とし、縦横1~10mmであって良い。円柱ペレットの場合は、直径1~10mmの範囲内、長さ1~10mmの範囲内であって良い。これらの形状は、後述する混練工程後のペレットに対して成形させて良い。ペレットの形状は、常法に従って成形させて良い。
【0072】
≪成形品≫
本発明に係る成形品は、上記した無機物質粉末充填樹脂組成物からなる成形品である。
【0073】
本発明に係る成形品の形状等においては特に限定されるものではなく、各種の形体のものであっても良い。本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は成形性に優れるので、様々な形状、例えば、シート、特に紙や合成紙の代替品、ブラシや靴ベラ等の日用品、リモコンや電話等における筐体、並びに食品容器及びその他の容器体等の各種成形品等として成形され得る。本発明の成形品は、柔軟性に優れるので、組み立て時や使用時に力が加わる筐体やシート、日用品等として好適である。本発明の成形品はまた、滑剤に起因する臭気や可塑剤のブルームがないので、医療用、食品用等の種々の用途に使用することができる。
【0074】
本発明に係る成形品の肉厚としては特に限定されるものではなく、その成形品の形態に応じて、薄肉のものから厚肉のものまで種々のものであり得るが、例えば、肉厚40μm~40mm、より好ましくは肉厚50μm~30mmの成形品が示される。この範囲内の肉厚であれば、成形性、加工性の問題なく、偏肉を生じることなく均質で欠陥のない成形品を形成することが可能である。
【0075】
特に、成形品の形態が、シートである場合には、より好ましくは、肉厚50μm~1,000μm、さらに好ましくは肉厚50μm~400μmであることが望ましい。このような範囲内の肉厚を有するシートであれば、一般的な印刷・情報用、及び包装用の用途の紙あるいは合成紙に代えて、好適に使用できるものである。
【0076】
≪成形品の製造方法≫
本発明の成形品の製造方法としては、所望の形状に成形できるものであれば特に限定されず、従来公知の押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、カレンダー成形等の何れの方法によっても成形加工可能である。特に、射出成形及び押出成形が好ましい。さらにまた、本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物が発泡剤を含有し、発泡体である態様の成形品を得る場合においても、所望の形状に成形できるものであれば発泡体の成形方法として従来公知の、例えば、射出発泡,押出発泡,発泡ブロー等の液相発泡法、あるいは、例えば、ビーズ発泡,バッチ発泡,プレス発泡,常圧二次発泡等の固相発泡法の何れを用いることも可能である。前記した、結晶性ポリプロピレンをキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む熱可塑性組成物の一態様においては、射出発泡法及び押出発泡法が望ましく用いられ得る。
【0077】
<射出成形品の製造方法>
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、上記のように成形性にも優れるので、射出成形によって様々な形状の物品に成形することができる。本発明はまた、上記の無機物質粉末充填樹脂組成物の成形品、特に射出成形品を包含する。こうした本発明の成形品には、タイガーストライプ等の外観不良がなく、また、柔軟性を始めとする機械的特性に優れる利点がある。こうした効果は、無機物質粉末充填樹脂組成物の原料の一部が市場や工場からの回収品においても発現するので、本発明の成形品はリサイクル品であっても良好な特性を示す。
【0078】
<押出成形品の製造方法>
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物はまた、押出成形によって、シート、ロッド、パイプ、チューブ、ストランド等の種々の形状の物品に成形することができる。本発明はまた、上記の無機物質粉末充填樹脂組成物の押出成形品を包含する。押出成形方法に特に制限はなく、汎用の一軸押出、二軸押出等の手法を用いることができる。また、各成分を混練する工程と、シート等に成形する工程とを連続的に行う直接法を用いても良く、例えば、Tダイ方式の二軸押出し成形機を使用する方法を用いても良い。
【0079】
シート状に成形する場合においては、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又は二軸方向に、ないしは、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。二軸延伸の場合には、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸であっても良い。成形後のシートに対し、延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)を行うと、シート内に微小な空隙が生じる。シート内に微小な空隙が生じることにより、シートの白色度が良好なものとなる。
【0080】
なお、射出成形、押出成形等における成形温度としては、その成形方法や使用するポリプロピレン系樹脂の種類等によってもある程度異なるため、一概には規定できるものではないが、例えば、180~260℃、より好ましくは190~230℃の温度であれば、本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物が、良好なドローダウン特性、延展性を持って、かつ組成物が局部的にも変性を生じることなく所定形状に成形できる。
【実施例
【0081】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0082】
以下の実施例においては、下記の原材料を用いて、各種無機物質粉末充填樹脂組成物を調製し、試験片へと成形した。
・ポリプロピレン系樹脂
PR1:株式会社プライムポリマー製のプロピレンホモポリマー(MFR:0.5g/10min、融点160℃)
PR2:株式会社プライムポリマー製のプロピレンホモポリマー(MFR:2.0g/10min)
PR3:株式会社プライムポリマー製のポリプロピレン(ランダムタイプ、MFR:0.5g/10min)
PR4:株式会社プライムポリマー製のポリプロピレン(ブロックタイプ、MFR:0.9g/10min、融点:160~165℃)
・炭酸カルシウム
CC1:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理なし) 平均粒子径:0.7μm、BET比表面積3.2m/g、真円度:0.53
CC2:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理なし) 平均粒子径:1.1μm、BET比表面積:3.2m/g、真円度:0.55
CC3:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理なし) 平均粒子径:2.2μm、BET比表面積:1.0m/g、真円度:0.85
CC4:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理なし) 平均粒子径:3.6μm、BET比表面積:0.6m/g、真円度:0.90
CC5:重質炭酸カルシウム粉末(表面処理品) 上記CC2のステアリン酸処理品
CC6:軽質炭酸カルシウム(表面処理なし) 平均粒子径:1.5μm、BET比表面積:0.1m/g、真円度:1.00
・その他無機物質粉末
K1:カオリンクレイ 体積平均粒子径:1.50μm、比重2.6
T1: タルク 体積平均粒子径:3.3μm
・ヒンダードフェノール化合物(フェノール)
HP1:テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン 株式会社ADEKA製のアデカスタブ(登録商標)AO-60
HP2:オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート 株式会社ADEKA製のアデカスタブ(登録商標)AO-50
HP3:イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート BASF社製のIrganox(登録商標)1135
・ホスファイト化合物
P1:トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト 株式会社ADEKAのアデカスタブ(登録商標)2112
P2:トリフェニルホスファイト 株式会社ADEKAのアデカスタブ(登録商標)TPP
P3:トリデシルホスファイト 株式会社ADEKAのアデカスタブ(登録商標)3010
・その他添加剤
S:アルカンスルホン酸ナトリウム(アルキル基の炭素数(平均値)=12) 滑剤
DOP:ジオクチルフタレート 汎用可塑剤
A1:トリエタノールアミン
A2:ラウリルジエタノールアミド
A3:ラウリルジエタノールアミドとジエタノールアミンを含有する帯電防止剤 花王株式会社製HS15N
【0083】
無機物質粉末充填樹脂組成物の調製及び試験片への成形に際しては、樹脂組成物の溶融流れ性及び成形後試料の外観等を、以下の基準に従い評価した。
(流れ性)
・◎:混練・押出操作が極めてスムーズに進行し、射出成形時にも厚みの均一な試験片を容易に成形することができた。
・○:無機物質粉末の偏在がなく、厚みの均一な試験片を成形することができた。
・△:無機物質粉末の偏在が観察されたか、あるいは均一な試験片を成形することが困難であった。
・×:混練時の粘度上昇が著しく、押出成形ができなかった。
(試料外観等)
・○:試験片の表面に肌荒れ(細かい皺や突起)、凹凸、傷、原材料成分の浮き出し(ブリード)等が全く観察されずに良好な平滑性を有していた。
・△:表面に肌荒れや凹凸、又はブリードが僅かに生じていた。
・×:表面に肌荒れや凹凸、又はブリードが目立った。
【0084】
成形した各試験片を用い、下記の方法によって可撓性(柔軟性)及び引張特性を、一部の実施例ではさらに、シャルピー衝撃強度を評価した。
(可撓性試験)
上記の試験片を手で折り曲げ、以下の基準に従って柔軟性を評価した。
・◎:試験片を160°前後まで5回折り曲げたが、破断しなかった。
・〇:試験片を160°前後まで2~3回折り曲げない限り、破断しなかった。
・△:試験片を120°程度以上折り曲げると、1回で破断してしまった。
・×:試験片を90~120°程度折り曲げると、1回で破断してしまった。
(引張特性)
引張弾性率及び破断点伸び率を、JIS K 7161-2:2014に準じて23℃、50%RHの条件下で、オートグラフAG-100kNXplus(株式会社島津製作所)を用いて測定した。延伸速度は10mm/分であった。
(シャルピー衝撃強度)
80mm×10mmの試験片を、上記ダンベル形状の試験片と同様にして射出成形し、ISO179/1eAに従い測定した。
【0085】
[実施例1]
上記のPR1(プロピレンホモポリマー)25質量部、CC1(重質炭酸カルシウム)75質量部、A1(帯電防止剤)0.3質量部、及びHP1(ヒンダードフェノール化合物)0.04質量部とP1(ホスファイト化合物)0.10質量部を、(株)パーカーコーポレーション製同方向回転二軸混錬押出機HK-25D(φ25mm、L/D=41)に投入し、シリンダー温度190~200℃でストランド押出後、冷却、カットすることでペレットを作製した。次いで、このペレットを射出成型機に投入し、ダンベル形状の試験片を成形して、各種評価試験に付した。評価結果を、後記する表1に示す。
【0086】
[実施例2~3、比較例1~12]
原材料の種類及び量を後記する表1のように変化させた以外は、実施例1と同様の配合及び条件により樹脂組成物等を作製し、試験片へと成形して各種評価試験に付した。また、帯電防止剤としてA1の代わりにA2を0.3質量部使用し、実施例1及び比較例1と同様の操作を行った(実施例3、比較例12)。各試料の組成及び評価結果を、表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
重質炭酸カルシウムCC1は、粒子径が細かいために補強性を有する半面、樹脂組成物の溶融粘度を高めるきらいがある。そのため比較例1では、混練時の粘度上昇が著しく、押出自体ができなかった。一方で本発明に従い、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトとを少量ずつ含有する実施例1及び2の樹脂組成物は、成形性が良く、可撓性に優れ、引張特性も良好であった。ヒンダードフェノール化合物又はホスファイト化合物として化学構造の異なるHP2やHP3、又はP2やP3を配合した比較例2~9の組成物では、HP1とP1とを組み合わせた組成物のような、優れた加工性や物性は発現しなかった。加工性や物性は、アルカンスルホン酸ナトリウムSの配合によっても改善することができたが、実施例1及び2の樹脂組成物に比べると劣り、また、成形後の試料から僅かに臭気が感知された(比較例10)。また、可塑剤DOPの配合によって成形時の流れ性や可撓性は改善されたが、DOPのブリードによる外観の悪化や引張特性の低下がみられた(比較例11)。なお、帯電防止剤としてトリエタノールアミンA1を用いると、ラウリルジエタノールアミドA2を配合した場合(実施例3)よりも良好な評価結果が得られた。
【0089】
[実施例4~16、比較例13~17]
ポリプロピレン系樹脂としてPR1を20質量部、無機物質粉末として重質炭酸カルシウムCC3を80質量部、帯電防止剤としてA3を0.5質量部使用し、ヒンダードフェノール化合物HP1とホスファイト化合物P1の比率を表2のように変動させた以外は、実施例1と同様の操作を行った。各樹脂組成物の組成及び評価結果を、表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
本発明に従い、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.01質量%以上0.10質量%以下、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.02質量%以上0.20質量%以下の割合で含有する実施例4~16の無機物質粉末充填樹脂組成物は、いずれも加工性、柔軟性(可撓性)、及び衝撃強度等の機械特性の点で優れていた。特に、ヒンダードフェノール化合物の含有量が0.01質量%以上0.07質量%以下で、かつホスファイト化合物の含有量が0.08質量%以上0.17質量%以下の実施例11~13及び実施例15~16では、極めて優れた加工性が発現した。一方で、ヒンダードフェノール化合物とホスファイト化合物とを合計で0.3質量部前後使用した比較例16及び17では、成形性や柔軟性(可撓性)に劣る結果となった。ヒンダードフェノール化合物やホスファイト化合物の含有量は、多ければ良いというものではないことが明らかとなった。
【0092】
[実施例17、比較例18]
PR1(ポリプロピレン系樹脂)20質量部、CC2(重質炭酸カルシウム)70質量部、A3(帯電防止剤)0.5質量部、並びに、HP1(ヒンダードフェノール化合物)0.04又は0質量部、及びP1(ホスファイト化合物P1)0.12又は0質量部を、実施例1と同様の操作で溶融混練して第1のペレットを調製した。さらに、この第1のペレット90.66質量部又は90.5質量部と、10質量部のPR1とを、実施例1と同様の条件で溶融混練・射出成形して試験片を調製し、各種評価試験を行った。各樹脂組成物の組成及び評価結果を、表3に示す。
【0093】
[実施例18~26、比較例19~27]
表3に記載の原材料を用い、最終的な配合量をポリプロピレン系樹脂30質量部、無機物質粉末70質量部、A3(帯電防止剤)0.5質量部とした上で、ヒンダードフェノール化合物HP1を0.04又は0質量部、ホスファイト化合物P1を0.12又は0質量部として、実施例17と同様の操作を行った。各樹脂組成物の組成及び評価結果を、表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
本発明に従い、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトとを配合することにより、ポリプロピレン系樹脂や無機物質粉末の種類がどのようなものであっても、無機物質粉末充填樹脂組成物の加工性や物性が改善されることが明らかとなった。特に、プロピレン系樹脂がポリプロピレンホモポリマーの実施例17~18等、無機物質粉末が重質炭酸カルシウムである実施例17~24、中でも重質炭酸カルシウムとして平均粒子径が異なる2品種を配合した実施例24の樹脂組成物では、加工性、物性共に極めて優れていた。
【0096】
以上より、無機物質粉末が高充填された樹脂組成物であっても、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトとを少量ずつ含有することにより、成形加工性に優れて表面外観の良好な成形品を製造することができ、良好な機械的特性、特に耐衝撃性を備えて柔軟性に優れた無機物質粉末充填樹脂組成物、及びこうした樹脂組成物からなる成形品が提供されることが明らかとなった。
【要約】
【課題】成形加工性に優れて表面外観の良好な成形品を製造することができ、良好な機械的特性、特に耐衝撃性を備えて柔軟性に優れた無機物質粉末充填樹脂組成物、及びこうした樹脂組成物からなる成形品を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する無機物質粉末充填樹脂組成物において、前記熱可塑性樹脂はポリプロピレン系樹脂であり、前記無機物質粉末充填樹脂組成物100質量部に対して、テトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを0.01質量%以上0.10質量%以下、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを0.02質量%以上0.20質量%以下の割合で含有することを特徴とする無機物質粉末充填樹脂組成物。
【選択図】なし