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特許7070965心筋細胞製剤及びその製造方法、並びに応用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】心筋細胞製剤及びその製造方法、並びに応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220511BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20220511BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220511BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220511BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20220511BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220511BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20220511BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/34
A61P9/00
A61K9/10
A61L27/38 300
A61L27/54
A61K35/545
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021517103
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 CN2019126486
(87)【国際公開番号】W WO2020135199
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-12-02
(31)【優先権主張番号】201811642451.X
(32)【優先日】2018-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520467198
【氏名又は名称】ヘルプ・ステム・セル・イノベイションズ・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HELP STEM CELL INNOVATIONS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ワン・ジアシエン
(72)【発明者】
【氏名】ワン・チエン
(72)【発明者】
【氏名】ツイ・ヤット・ピン
(72)【発明者】
【氏名】シュイ・シャオ
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/010544(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155651(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
A61K 35/00-36/068
A61K 9/10
A61L 27/00-27/60
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から分化した心筋細胞及び線維芽細胞を含む心筋細胞注射液であって、前記心筋細胞注射液中の心筋細胞濃度は0.5×10 ~1.2×10 cells/mLであり、前記心筋細胞の含有量は80%より高くなり、且つ前記線維芽細胞の含有量は、20%以下である、ことを特徴とする心筋細胞注射液
【請求項2】
前記心筋細胞注射液中の多能性幹細胞の残存量は1%以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の心筋細胞注射液
【請求項3】
前記心筋細胞注射液中の多能性幹細胞の残存量は0.3%以下である、ことを特徴とする請求項に記載の心筋細胞注射液
【請求項4】
前記心筋細胞は、多能性幹細胞から以下の手順で調製される。
多能性幹細胞の前処理:前記多能性幹細胞を0.9×10~3.0×10cells/cmで多能性幹細胞培養用培地に播種し、5%CO、37℃条件下で密度が40%以上を超えるまで培養すること;
心筋細胞の分化:前記多能性幹細胞培養用培地を吸引除去し、濃度が0.01~0.09mMのCHIR99021を含む心筋細胞分化誘導用培地を加えて48時間培養し、その培地を濃度が0.01~0.05mMのIWR-1を含む心筋細胞分化誘導用培地に交換し、48時間培養し続け、さらに、心筋細胞分化誘導用培地で培養し続け、しかも、細胞増殖状態に応じて心筋細胞分化誘導用培地を交換すること;
心筋細胞の精製:観察可能な拍動が見られるまで心筋細胞の分化を経た細胞を培養し続け、細胞を心筋細胞分化誘導用培地に6.0×10~9.0×10cells/cmの密度で播種し、線維芽細胞の含有量を心筋細胞の精製液で20%未満に調整することである、ことを特徴とする請求項1に記載の心筋細胞注射液の製造方法。
【請求項5】
前記多能性幹細胞は、誘導多能性幹細胞及び胚性幹細胞を含む、ことを特徴とする請求項に記載の心筋細胞注射液の製造方法。
【請求項6】
前記心筋細胞の精製は、さらに、濃度が0.75~5μMのSTF-31を含む心筋細胞培地で細胞を2~5日間培養することを含む、ことを特徴とする請求項に記載の心筋細胞注射液の製造方法。
【請求項7】
心筋細胞の精製で得られた細胞及び生理食塩水は、無菌条件下で心筋細胞の濃度が0.5×10 ~1.2×10 cells/mLの細胞懸濁液に調製される、ことを特徴とする請求項4~6のいずれか1項に記載の心筋細胞注射液の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の心筋細胞注射液を含む、心不全治療するための組成物
【請求項9】
前記心筋細胞注射液が駆出率が低下した心不全(HFrEF)を治療するために用いれる、ことを特徴とする請求項に記載の心不全を治療するための組成物
【請求項10】
前記心筋細胞注射液が、注射器により外科心外膜を通して瘢痕領域または心筋壁の菲薄化した領域に注射される、ことを特徴とする請求項に記載の心不全を治療するための組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞製剤の技術分野に関し、具体的には、心筋細胞製剤及びその製造方法、並びに応用に関する。
【背景技術】
【0002】
心不全とは、心臓のさまざまな病気が後期に進行することによって引き起こされる心不全状態の病理学的現象を意味し、心臓の収縮機能又は拡張機能の障害によって心室充満または駆出能力が損なわれる臨床症候群であり、臨床的には、駆出率及び左室内径短縮率の低減、心筋内圧力の増加、心腔内径の増大、左心室拡張期及び収縮期容積の増加が表される。
ACC/AHAは、心不全をA、B、C、及びDの4つの段階に分けられ、段階A及びBとは、患者は心不全の初期症状がないが、危険因子または心臓異常があることを指し、これらの異常は、心臓の形態および構造の改変を含み、段階Cとは、患者が現在または以前に心不全の症状、例えば、息切れなどがあり、段階Dとは、末期心不全または難治性心不全と呼ばれる重度の心不全の段階を指す。
【0003】
中国の心不全の疫学調査によると、現在の中国の男性の発生率は0.7%、女性の発生率は1%であり、しかも、加齢とともに心不全の発生率は徐々に増加してきて、心不全が発生すると、患者には悪循環を形成し、これも高齢者の死亡率が非常に高い疾患であり、中国の高齢化社会の深刻化する現象に伴い、心不全は国民の体力を深刻に危険にさらす理由の1つになる。
現在、心不全(heart failure)の治療法は、主に、化学的医薬品により神経内分泌系の活動を低下させ、AT1Rの過剰興奮によって引き起こされる悪影響を遮断または改善するか、又は心不全時の水分及びナトリウム貯留を排除することにより心不全の治療の役割を果たすが、臨床的実践では、これらの化学的医薬品は、心不全の治療においていずれも、例えば、低血圧や腎機能の低下などさまざまな副作用があることを示す。
幹細胞技術の発展に伴い、この分野の学者は、幹細胞移植によるさまざまな心疾患に起因する末期心不全の治療方法の研究に取り組んでいるが、心臓機能を改善する効果は明らかではなく、フォローアップの安全性研究では、体内への注射後の幹細胞は腫瘍形成能があり、臨床的研究や治療には適さない。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その目的の一態様は、心不全患者の心機能を効果的に高めることができ、且つ安全で信頼性の高い心筋細胞製剤を提供することであり、前記心筋細胞製剤は、多能性幹細胞から分化した心筋細胞及び線維芽細胞を含み、ここで、前記心筋細胞製剤中の心筋細胞濃度は0.75×10~1.0×10cells/mLであり、前記心筋細胞の含有量は、80%より高くなり、且つ前記線維芽細胞の含有量は、20%以下である。
前記心筋細胞は、多能性幹細胞から直接分化した心筋細胞であってもよく、凍結保存によって蘇生された心筋細胞であってもよくい。
本発明の実施例で提供される心筋細胞製剤中の心筋細胞の濃度は、0.75×10~1.0×10cells/mLに限定され、該濃度は、心筋細胞製剤中での細胞生存率を高めるだけでなく、前記心筋細胞製剤が心不全患者の駆出率及び左室内径短縮率を効果的に向上させ、心室壁の厚さを増加させ、心不全患者の心機能を改善することができる。また、本発明者らは、大量の実験を通じて、心筋細胞製剤に一定量の線維芽細胞を含ませることで心不全患者の心機能を改善するのに役立ち、心筋細胞製剤中の線維芽細胞の含有量が20%未満である場合には、前記心筋細胞製剤は、心臓の駆出率を効果的に向上させることができ、線維芽細胞の含有量が20%より高くなる場合には、駆出率の改善は明らかではなく、線維芽細胞の含有量が増加するにつれて減少することを発見した。
【0005】
本発明の実施例は、心筋細胞製剤中の心筋細胞の含有量を80%より高く制限するため、心筋細胞製剤中での多能性幹細胞の含有量がある程度低減するように制限され、多能性幹細胞の腫瘍形成能を低下させ、、心筋細胞製剤による心不全患者の心機能を改善することを保証するとともに、細胞製剤の安全性も向上させる。
好ましくは、前記心筋細胞製剤において、前記心筋細胞の濃度は、0.5×10~1.2×10cells/mLである。心筋細胞製剤中の心筋細胞濃度はこの範囲にある場合には、前記心筋細胞製剤は、心不全患者の心機能を改善するより良い作用を有する。
好ましくは、前記心筋細胞製剤において、多能性幹細胞の残存量は1%以下であり、具体的には、前記心筋細胞製剤においてNanog、SSea4及びOct3/4が陽性に発現する細胞の含有量は、1%以下である。
【0006】
本発明の実施例で提供される多能性幹細胞の残存量が30%を超える心筋細胞製剤は、腫瘍形成能を有する可能性があり、心筋細胞製剤の使用中の潜在的なリクスを排除するために、大量のin vivo及びin vitro実験データから、心筋細胞製剤中の多能性幹細胞の含有量を1%以内に制御することにより心筋細胞製剤の腫瘍形成能を効果的に排除することができる。
さらに好ましくは、前記心筋細胞製剤において、多能性幹細胞の残存量は0.3%以下であり、具体的には、前記心筋細胞製剤においてNanog、SSea4、Oct3/Oct4が陽性に発現する細胞の含有量は、0.3%以下である。
他の一態様、本発明の実施例は、多能性幹細胞から以下の手順で調製される前記心筋細胞製剤の製造方法を提供する。
多能性幹細胞の前処理:前記多能性幹細胞を0.9×10~3.0×10cells/cmで多能性幹細胞培養用培地に播種し、5% CO、37℃条件下で密度が40%以上を超えるまで培養すること;
心筋細胞の分化:前記多能性幹細胞培養用培地を吸引除去し、濃度が0.01~0.09 mMのCHIR99021を含む心筋細胞分化誘導用培地を加えて48時間培養し、その培地を濃度が0.01~0.05mMのIWR-1を含む心筋細胞分化誘導用培地に交換し、48時間培養し続け、さらに、心筋細胞分化誘導用培地で培養し続け、細胞増殖状態に応じて心筋細胞分化誘導用培地を交換すること;
【0007】
心筋細胞の精製:観察可能な拍動が見られるまで心筋細胞の分化を経た細胞を培養し続け、細胞を心筋細胞分化誘導用培地に6.0×10~9.0×10cells/cmの密度で播種し、線維芽細胞の含有量を心筋細胞の精製液で20%未満に調整することである。
好ましくは、前記心筋細胞製剤の製造方法において、前記多能性幹細胞は、誘導多能性幹細胞及び胚性幹細胞を含む。
さらに好ましくは、前記心筋細胞製剤の製造方法において、前記心筋細胞の精製は、さらに、濃度が0.75~5μMのSTF-31を含む心筋細胞培地で細胞を2~5日間培養することを含む。STF-31は、心筋細胞の分化での未分化の多能性幹細胞を除去し、心筋細胞の純度を向上させることができ、STF-31の濃度又は精製時間を変えることにより細胞中の多能性幹細胞の含有量を制御することができる。
【0008】
さらにより好ましくは、前記心筋細胞製剤の製造方法において、心筋細胞の精製で得られた細胞と生理食塩水を無菌条件下で心筋細胞濃度0.75×10~1.0×10cells/mLの細胞懸濁液に調製する。
多能性幹細胞から調製された心筋細胞は、それぞれ心筋細胞、多能性幹細胞及び線維芽細胞の含有量が検出された後、心筋細胞の濃度を制御するために必要に応じて生理食塩水の添加量を選択する。
他の一態様、本発明の実施例は、さらに、心不全治療薬の調製における心筋細胞製剤の応用を提供する。
【0009】
好ましくは、前記心不全治療薬の調製における心筋細胞製剤の応用において、前記心筋細胞製剤は、HFrEFの治療に用いられる。本発明の実施例で提供される心筋細胞製剤は、HFrEF型心不全患者の心機能に対する改善がHFpEF型心不全患者の心機能に対する改善よりも優れた。
さらに好ましくは、前記心不全治療薬の調製における心筋細胞製剤の応用において、前記心筋細胞製剤が注射器により外科心外膜を通して瘢痕領域または心筋壁の菲薄化した領域に注射される。
本発明の実施例で提供される心筋細胞製剤は、以下の有益な効果を有する。即ち、本発明の実施例で提供される濃度範囲内の心筋細胞製剤は、心不全患者の心臓駆出率の低減を効果的に緩和し、左室内径短縮率を向上させ、心室壁の厚さを増加させ、心機能を改善させることができるとともに、腫瘍形成能を持たない。本発明の実施例で提供される心筋細胞製剤の製造方法は、手順が簡単で、反復率が高く、大規模な生産に適する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例3の対照群及び実験群の、それぞれ心不全モデルを構築した前(ベースライン)、D0及びD28の左室短軸Mモード超音波結果を示す。ここで、対照群の心不全モデルは、左室前壁は経時的に薄くなり、D28の実験群はD28の対照群の左室前壁厚よりも大きくなる。
図2図2Aは、実施例3の対照群及び実験群の、それぞれ心不全モデルを構築した前(ベースライン)、D0及びD28という3つの時点の駆出率を示し、図2Bは、それぞれ実験群及び対照群の、D0に対するD28の駆出率の変化量を示し、実験群はD28の駆出率が、D0よりも増加し、駆出率の変化量が8.31%である。
図3図3は、実施例3の対照群及び実験群の、それぞれ心不全モデルを構築した前(ベースライン)、D0及びD28といった3つの時点の的左室内径短縮率を示し、実験群は対照群よりもD28の左室内径短縮率が増加する。
図4図4Aは、実施例3の対照群及び実験群の、心不全モデルを構築した前(ベースライン)、D0及びD28という3つの時点の左室収縮末期径を示し、図4Bは、実施例3の対照群及び実験群の、それぞれ心不全モデルを構築した前(ベースライン)、D0及びD28といった3つの時点の左室収縮末期容積を示し、実験群の左室収縮末期径及び左心室収縮期容積は、対照群よりもD0からD28において増加し続けず、心不全の程度が抑制される。
図5図5は、実施例3の対照群及び実験群の、それぞれ心不全モデルを構築した前(ベースライン)、D0及びD28という3つの時点の収縮末期左室前壁厚を示し、対照群のD28の収縮末期左室前壁厚はD0よりも薄くなるが、実験群のD28の収縮末期左室前壁厚は、D0よりも増加する。
図6図6は、実施例7の対照群及び実験群の、それぞれ心不全モデルを構築した前(ベースライン)、D0及びD28という3つの時点の駆出率を示し、ここで、対照群のD28の駆出率はD0よりも低減するが、実験群のD28の駆出率は、D0よりも高くなり、駆出率の変化量は22.99%である。 本発明の実施例に記載のベースラインは、心不全モデリング構築前のラットの心機能状況であり、ラットの正常な心機能状況を反映する。 D0は、対照群又は実験群の心不全モデルの注射前のデータであり、心不全モデルラットの心機能を反映する。 D28は、対照群又は実験群の心不全モデルの注射後28日目のデータであり、心不全モデルラットの心機能を反映し、D0のデータと組み合わせて心不全モデル心機能の変化を評価する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
別に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明の実施形態が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
本発明をより明らかに説明するために、以下の用語を定義する。
多能性幹細胞培養用培地とは、多能性幹細胞(誘導多能性幹細胞及び胚性幹細胞を含む)の培養及び増殖に用いれる培地。多能性幹細胞の最初に用いれる培養条件は、ゼラチンコート及びフィーダー層として使用されるマウス胚線維芽細胞(MEF)が必要であり、伝統的な培地は、さらに成分が複雑なノックアウト血清代替物(KOSR)を主な培地添加剤として使用する。技術の継続的な最適化に伴い、基本培地を添加剤被と組み合わせて多能性幹細胞の培養に用いられ、基本培地は、DMEM/F12を含むが、これに限定されなく、一定の濃度のグルコースを含み、干細胞の増殖に必要な必須アミノ酸がある培地も基本培地として使用でき、添加剤は、炭酸水素ナトリウム、組換え型ヒト塩基性線維芽細胞成長因子、組換えヒトラクトフェリン、インスリン、アスコルビン酸、組換えヒト形質転換成長因子などを含むが、これらに限定されなく、本発明の実施例で使用される多能性幹細胞培養用培地は、前記の様々な培地に限定されなく、当業者に周知のすべての多能性幹細胞の培養に適用できる培地は、いずれも本発明の保護範囲に含まれるべきである。
【0012】
心筋細胞培地とは、心筋細胞に栄養を供与し、心筋細胞の機能を維持するために使用される培地である。
本発明における心筋細胞とは、多能性幹細胞から分化した、cTnTを特異的に発現できる細胞を意味する。
多能性幹細胞の残存量とは、本発明において、多能性幹細胞から心筋細胞を分化した細胞産物において、未分化の多能性幹細胞の数量が細胞総量に占める比率%を意味する。
駆出率(EF)とは、心拍ごとに心臓が放出する血液量を心臓が拡張 したときの容積で除した値であり、容積の観点から心室の駆出機能を反映し、カラードップラー心臓超音波で検査でき、駆出率は、心筋の収縮性に関連し、心筋収縮力が強いほど、駆出率が高くなる。
【0013】
本発明の実施例において、各々の心不全モデルラットは心筋細胞製剤を注射する場合、心機能状態(評価指標として駆出率を選択する)が異なり、心筋細胞製剤が心機能に与える影響を客観的に評価するために、駆出率の変化量の概念を組み込まれる。
駆出率の変化量=心筋細胞製剤治療後の駆出率-注射心筋細胞製剤前の駆出率
HFrEFとは、駆出率が低下した心不全であり、このタイプの心不全患者は、主な診断指標として身体症状及び左室駆出率(LVEF)に基づいて判定され、LVEF40であるを指す。
HFpEFとは、駆出率が維持された心不全であり、左室拡張期能動的弛緩能が損なわれ、心筋のコンプライアンスが低下するので、左室拡張期充満が障害され、心拍出量が低減し、左室拡張末期圧が上昇し、心不全の症状及び身体症状が発生し、左室駆出率(LVEF)はほぼ正常であり、LVEF50であることを指す。
【0014】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面によりさらに説明するが、本発明は、異なる形態で具体化することができ、且つ本明細書に記載の実施形態に限定されると理解すべきではない。逆に、これらの実施形態は、本発明をさらに完全にし、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるために提供される。
一、心筋細胞製剤の製造方法
1、多能性幹細胞から心筋細胞への分化
多能性幹細胞の前処理:胚性幹細胞(ESC)又は誘導多能性幹細胞(iPSC)をそれぞれ0.9×10cells/cm、1.5×10cells/cm及び3.0×10cells/cmで多能性幹細胞培養用培地に播種し、5%CO、37℃条件下で密度超が40%以上を超えるまで培養した。ここで、多能性幹細胞培養用培地は、TeSRTM-E8TM培地である。多能性幹細胞の播種密度は、多能性幹細胞の増殖速度に影響を与え、多能性幹細胞の全体的な分化効率を向上させるため、本発明の実施例では、0.9×10~3.0×10の播種密度を使用した。
【0015】
多能性幹細胞培養用培地は、さらに、DMEM/F12基本培地に組換えヒトインスリン、組換えトランスフェリン、トアルブミン、クエン酸第二鉄、bFGF、EGF、TGF-β、L-アスコルビン酸及びβ-メルカプトエタノールを適量添加して多能性幹細胞の増殖に適した環境を作製してもよい。
心筋細胞の分化:多能性幹細胞の密度が40%以上を超える場合には、多能性幹細胞培養用培地を吸引除去し、CHIR99021を含む心筋細胞分化誘導用培地を加えて48時間後培養し、その培地をIWR-1を含む心筋細胞分化誘導用培地に交換し、48時間培養後に心筋細胞分化誘導用培地で培養し続け、48時間ごとに培地を交換し、拍動が観察されるまで細胞を培養する際にその心筋細胞及線維芽細胞の含有量を検出し、ここで、本発明の実施例で提供される心筋細胞分化誘導用培地は、RPMI1640培地にインスリンが含まれていないB27(RPMI1640培地とB27の量は100:2)を添加し、本発明の実施例に係る心筋細胞培地は、多能性幹細胞を心筋細胞に分化させるために使用できる他の培地であってもよい。
CHIR99021の最終濃度が0.01~0.09mM、IWRの最終濃度が0.01~0.05mMになる場合には、心筋細胞の分化効率は比較的に高くなり、心筋細胞の分化効率をさらに向上させるために、心筋細胞が6日間分化した後に成熟促進因子、例えば、インスリン含有B27を添加してもよい。多能性幹細胞の培養密度が40%を超える場合には、心筋細胞の分化効率に明らかな影響を与えなく、生産コストを削減するために、本発明の実施例は、多能性幹細胞の培養密度が40%になる際に心筋細胞の分化を行うことを使用してもよい。
【0016】
心筋細胞の精製:心筋細胞分化誘導用培地中での細胞の培養時間の延長に伴い、多能性幹細胞の含有量が低減するが、心筋細胞及び線維芽細胞の含有量が増加する。線維芽細胞の含有量をさらに制御するために、上記手順で調製された細胞を精製する必要があった。上記手順で調製された細胞をアキュターゼ(Accutase)で消化し、遠心分離した後に以上のステップでの心筋細胞分化誘導用培地を加え、濃度が6.0×10~9.0×10cells/mLである細胞懸濁液を調製し、6.0×10~9.0×10cells/cmの密度で心筋細胞分化誘導用培地を含むMatrigelでコートされた細胞培養皿に播種し、心筋細胞の精製液で精製し、48時間ごとに心筋細胞の精製液を交換し、ここで、心筋細胞の精製液は、最終濃度で1μMのシトシンβ-D-アラビノフラノシド及び0.02Mの乳酸ナトリウムを含むDMEM無糖培地であり、精製時間の延長に伴い、線維芽細胞の含有量は徐々に減少し、線維芽細胞の含有量が本発明の実施例の心筋細胞製剤の要求を満たす場合、精製を終了することができた。
【0017】
以上の精製工程には、さらに、多能性幹細胞の含有量に応じて心筋細胞分化工程又は心筋細胞精製工程で調製された細胞を濃度が0.75~5μMのSTF-31を含む心筋細胞培地で2~5日間培養し、STF-31を含む心筋細胞培地での精製時間の延長に伴い、多能性幹細胞の含有量は徐々に減少し、必要に応じて適合なSTF-31の濃度及び精製時間を選択した。
調製された細胞を免疫蛍光法により同定し、以上の操作はいずれも無菌条件下で行った。
当業者に知られている他の多能性幹細胞から心筋細胞への分化方法及び心筋細胞中の多能性幹細胞又は線維芽細胞の精製方法も同様に本発明に適用できる。
【0018】
2、心筋細胞製剤の調製方法
本発明の実施例において、多能性幹細胞から分化した細胞を注射液として異なる濃度の心筋細胞を有する心筋細胞製剤に調製した。具体的な方法は、以下の通りである。
心筋細胞分化及び精製工程で心筋細胞の純度、線維芽細胞の純度及び多能性幹細胞の残存量の検出により、必要に応じて心筋細胞分化及び精製工程のパラメーターを制御して心筋細胞及び線維芽細胞の含有量を調整し、多能性幹細胞の残存量をできるだけ低減させた。本発明の実施例はフローサイトメトリーを使用して上記の3つの細胞の含有量を検出した。
【0019】
心筋細胞の純度の検出:被験細胞をカウントした後に4%PFAで固定し、さらに、DPBSで濃度が1×10cells/mLの細胞懸濁液100μLに調製し、遠心分離後、濃度が1%のBSA 70μL及びFCR Blocking Reagent 20μLを加えて室温で30分間ブロッキングした後、Anti-Cardiac Troponin T-FITC 10μLを加えて均一に混合し、室温、暗所で30分間インキュベートし、DPBSで洗浄して遠心分離した後、フローサイトメーターで分析した。ここで、対照群は、濃度が1%のBSA 80μL及びFCR Blocking Reagent 20μLでインキュベートした。
線維芽細胞の純度の検出:被験細胞をカウントした後、4% PFAで固定し、さらにDPBSで100μL濃度が1×10cells/mLの細胞懸濁液に調製し、遠心分離後、75μL濃度が1%のBSA及び20μLのFCR Blocking Reagentを加え、室温で30分間ブロッキングした後、5μLのAnti-human Vimentin Alexa 488を加えて均一に混合した後、室温、暗所で30分間インキュベートし、DPBS洗浄して遠心分離した後、フローサイトメーター分析を行い、ここで、対照群は、80μL濃度が1%のBSA及び20μLのFCR Blocking Reagentでインキュベートした。
【0020】
多能性幹細胞残存量の検出:被験細胞をカウントした後に4%PFAで固定し、さらにDPBSで濃度が1×10cells/mLの細胞懸濁液100μLを調製し、遠心してブロッキングした後、それぞれ希釈された抗体であるAnti-SSEA-4-PE、PE Mouse anti-human Nanog及びPE Mouse anti-Oct3/4でインキュベートし、フローサイトメーターで分析した。
本発明の実施例で提供される心筋細胞精製工程によれば、心筋細胞の精製液における精製の7日目的心筋細胞の純度は71.49%であり、線維芽細胞の純度は22.38%であり、多能性幹細胞の残存量は4.2%であり、心筋細胞の精製液での細胞の精製時間を12日間に延長して精製後の細胞を濃度が0.75~5μMのSTF-31を含む心筋細胞培地で2日間培養し、それぞれ心筋細胞の純度、線維芽細胞の純度及び多能性幹細胞の残存量をフローサイトメトリーにより検出し、ここで、心筋細胞の純度は94.42%であり、線維芽細胞の含有量は3.15%であり、誘導多能性幹細胞の残存量は0.53%であった。
【0021】
上記細胞を注射用生理食塩水で細胞懸濁液に調製し、細胞懸濁液中の心筋細胞をカウントし、生理食塩水の添加量の調整により細胞懸濁液中の心筋細胞の濃度を制御し、適合な心筋細胞濃度の細胞懸濁液を心筋細胞製剤として選択した。
本発明の実施例は、注射液として生理食塩水を使用した以外は、心筋細胞製剤の調製のために以下の注射液も提供した。即ち
(1)濃度が5%のヒト血清アルブミン;
(2)DMSOとHASと15%グルコースとブドウ糖加デキストラン40注射液と生理食塩水が7.5:20:30:10:32.5の体積比で均一に混合された混合溶液。
【0022】
ここで、本発明の実施例で使用されるヒト血清アルブミンはBaxterから購入され、DMSOはSigmaから購入され、HASは貴州邦泰から購入され、ブドウ糖加デキストラン40注射液は四川科倫から購入された。心筋細胞製剤の調製は、どのような溶液を使用する場合でも、心筋細胞が主な有効成分であった。
3、異なる濃度の心筋細胞製剤中の細胞生存率
心筋細胞製剤のサンプルの調製:上記分化工程による細胞から細胞懸濁液を調製した後、心筋細胞、多能性幹細胞及び線維芽細胞の含有量を検出し、心筋細胞の含有量が80%超え、線維芽細胞の含有量が20%以下且つ多能性幹細胞の残存量が1%以下であることを満たす細胞を心筋細胞の数量に応じて生理食塩水にて無菌条件下で心筋細胞の濃度が0.5×10、0.75×10、0.3×10、0.5×10、1.2×10、0.75×10、1.0×10及び3.0×10(cells/mL)である心筋細胞製剤を調製した。
【0023】
細胞生存率の検出:それぞれ上記濃度の心筋細胞製剤5mLを採取し、0.2%トリパンブルーで染色した後、Countstarを使用して細胞生存率を測定し、上記濃度の心筋細胞製剤を冷蔵庫に4℃で4h保存し、同様の方法を使用して細胞生存率を測定した結果は、表1に示した。
細胞生存率に対する心筋細胞濃度の影響
【表1】

表1には、それぞれ調製された異なる濃度の心筋細胞製剤の細胞生存率、及び異なる濃度の心筋細胞製剤が4℃で4h保存された後の細胞生存率を示し、表1から、心筋細胞の濃度が細胞生存率に影響を与え、濃度が高いほど、細胞生存率の低下が大きくなることが分かり、4時間以内の心筋細胞製剤での細胞生存率により、心筋細胞製剤の調製から使用までの過程中に、心筋細胞の損失をできるだけ回避するために、心筋細胞の濃度が1.0×10以下に選択する必要があった。
【0024】
二、動物実験
1、ラット心不全モデルの構築
ラット心筋梗塞後心不全モデルの作製原理は、ラットに心筋を壊死させ、心室壁運動およびコンプライアンスを低下させ、心機能が代償から代償不全へ変換し、最終的に心不全になることであり、現在、最も一般的に使用される方法は、冠動脈結紮法であるが、但し、結紮位置が高すぎてラットの死亡を引き起こしやすく、低すぎると梗塞領域が小さくなった。
本発明の実施例において、以下のように心不全モデルを構築した。ラットが麻酔された後、小動物呼吸換気装置が経口的にカニューレを介して接続され、開胸した視野下で冠動脈前下行枝を結紮した。手術後、160 IU/kgのペニシリンを3~5日間、毎日腹腔内注射する必要があった。
心エコー検査は、動物の心機能を動的に観察できる心機能の非侵襲的評価法であり、本発明の実施例では、左室収縮末期径(LVESD)、左室収縮末期容積(LVESV)、収縮末期左室前壁厚(LVAW)、左室駆出率(EF)及び左室短軸短縮率(FS)を心機能評価指標として選択した。
冠動脈結紮後のラットを2~6週間飼育し、その左室駆出率(EF)を心エコー検査で測定し、EF<40%のラットは実験選択基準を満たし、成功した心不全モデルとして使用できた。
【0025】
2、異なる濃度の心筋細胞製剤による心機能の改善作用
本発明に係る心筋細胞製剤は、心不全の対象に応じて、同種異体由来の多能性幹細胞から調製された。研究によると、心不全モデルに同じ数量の心筋細胞を注入することを前提として、心機能の改善程度は、心筋細胞製剤中の心筋細胞の濃度によって異なることを発見し、心筋細胞の濃度が治療效果に及ぼす影響をさらに理解するために、上記の生理食塩水による心筋細胞製剤の調製方法に従い、表2に示す心筋細胞製剤を選択してラットの心外膜を通して瘢痕領域または心筋壁の菲薄化した領域に注射された後、免疫拒絶反応を防ぐためにラット15mg/kgのシクロスポリンA及び2mg/kgのメチルプレドニゾロンを毎日胃内投与し、心エコー検査により心不全モデルの心機能の回復を観察した。
本発明の実施例に係る中心筋細胞製剤は、誘導多能性幹細胞から分化してもよく、胚性幹細胞から分化してもよく、2つの由来源の心筋細胞製剤は、心不全モデルの心機能に対する改善に有意差はなく、次の実施例では、誘導多能性幹細胞から分化した心筋細胞を使用して心筋細胞製剤を調製した。
心不全モデル駆出率の変化量に対する異なる心筋細胞製剤の影響
【表2】
【0026】
ここで、心不全モデルラットの心臓に実験群(実施例1~12)と同じ用量の生理食塩水を同様の注射方式で注射し、同様の注射方式で免疫抑制薬を投与して対照群とし、対照群及び実験群は、同時に心エコー検査により心機能を反映する様々なパラメーターを測定し、本発明の実施例において、駆出率の変化量は、D28駆出率とD0駆出率の差を選択した。
ここで、実験群において、各々の実施例で注射される細胞総量が同じであり、且つ各実施例中の心筋細胞の濃度に応じて適合な注射量を選択し、例えば、各実施例で注射される細胞総量は1.2×10個であり、実施例6中の心筋細胞濃度は1.2×10cells/mLであり、実施例6では心筋細胞製剤10μlを注射して総注射量で1.2×10個の細胞に達した。
表2中の駆出率の変化量は、注射される心筋細胞総量が1.2×10個である実験群に心筋細胞製剤を注射してから28日後の駆出率と心筋細胞が注射される前の駆出率の差であり、図1は、対照群では時間とともに左室前壁が薄くなり、左心室内径と左心室容積がいずれも時間とともにある程度増加し、心機能が低下するが、実験群のD28での心機能は対照群のD28での心機能よりも優れたことを示した。本発明の実施例で提供される心筋細胞製剤は、心機能低下の程度を効果的に低減することができた。
【0027】
図2及び6は、それぞれ表2の実施例3及び7の心筋細胞製剤が駆出率に与える影響を示し、表2は、異なる濃度の心筋細胞製剤による心機能の改善の程度が異なり、ここで、実施例7の心筋細胞濃度が1.2×10cells/mLであり、且つ線維芽細胞の含有量が10%である心筋細胞製剤は駆出率への改善効果が最高であることを示した。図3より、対照群の左室内径短縮率は時間とともに低減するが、実験群では心筋細胞注射28日後の左室内径短縮率は心筋細胞注射前よりも高くなることを示し、心筋細胞製剤注射後に心機能が回復することが明らかになった。
図4及び5は、それぞれ細胞療法を受けていない心不全モデルが時間とともに左室収縮末期径及び左室収縮末期容積が大きくなり、収縮末期左室前壁厚が薄くなるが、実験群で心筋細胞製剤による治療を受けてから28日後に左室収縮末期径及び左室収縮末期容積が拡大し続けず、しかも、収縮末期左室前壁厚が細胞治療後にある程度増加することを示すため、心機能を評価するためのさまざまな指標の観察によると、心筋細胞製剤は心筋収縮力をある程度高め、心室壁張力を増加させ、心機能を改善することができることが分かった。
本発明の実施例は、さらに、それぞれ心不全モデルに投与する心筋細胞総量7.5×10個及び心筋細胞総量2.0×10個の実験中の心筋細胞濃度が心機能に与える影響を研究した。ここで、各実験群あたりの各心不全モデルへの総注射量が特定される前提下で(同じ心筋細胞総量を注射する実施例は1群である)、心筋細胞製剤の注射方式は、1回の注射であってもよく、複数回の注射であってもよく、複数群の実験結果は、いずれも心筋細胞の濃度が心機能の改善に影響を与えることを示し、異なる群の実験において心機能の改善が心筋細胞濃度に伴う変化及び心筋細胞の総注射量が1.2×10個の心筋細胞である実験群の結果と一致し、実際の心不全治療過程中に、心不全の対象及び心不全の重症度に応じて適合な注射量及び適合な心筋細胞濃度の心筋細胞製剤を選択する必要があった。
【0028】
三、心筋細胞製剤の腫瘍形成能の検出
腫瘍形成能とは、細胞が動物に播種された後、播種細胞が動物体内で腫瘍を形成する過程を意味し、本発明の実施例では、それぞれヌードマウス体内腫瘍形成能実験及び軟寒天コロニー形成試験を使用して心筋細胞製剤の腫瘍形成能を評価し、本発明の実施例では、それぞれ誘導多能性幹細胞に由来する心筋細胞製剤及び胚性幹細胞に由来する心筋細胞製剤の腫瘍形成能の検出を研究し、ここで、Hela細胞は、陽性対照とした。腫瘍形成能の被験試料のパラメーターはそれぞれ表3、4に示した。
誘導多能性幹細胞に由来する心筋細胞製剤の腫瘍形成能検出用試料のパラメーター
【表3】


胚性幹細胞に由来する心筋細胞製剤中の残存多能性幹細胞も腫瘍形成能を有する可能性があり、表4には、心筋細胞製剤中の異なる残存量の多能性幹細胞の腫瘍形成能の実験試料を示した。
胚性幹細胞に由来する心筋細胞製剤の腫瘍形成能を検出するための試料のパラメーター
【表4】

以上の実施例では心筋細胞製剤中の線維芽細胞の含有量はいずれも10%であった。
【0029】
1、ヌードマウスによる腫瘍形成実験
ヌードマウスを無作為に実験群、空白対照群及び陽性対照群に分け、表3及び4に示される実験試料を実験群とし、生理食塩水を空白対照群とし、濃度が1.8×10cells/mLのHelaを陽性対照とし、ヌードマウスの背中皮下に細胞を播種し、播種量はいずれも0.2mLであり、各実施例あたり5群の並行実験が行われ、播種されたヌードマウスの播種部位を定期的に観察した。
結果は、空白対照群、実施例13~22、実施例24~33では播種後6か月以内にいずれも腫瘍形成を認めず、接種部位に結節が形成されず、腫瘍形成率が0であり、実施例23の5群の並行実験において、1匹のヌードマウスが接種後28日目に播種部位で小さくて硬い小結節が触れ、播種2か月後に、そのヌードマウスの背中に明らかなしこりが見られ、その心筋細胞製剤の腫瘍形成率が1/5であることを示した。
【0030】
2、軟寒天コロニー形成試験
1.2%アガロースと多能性幹細胞培養液を1:1で混合し、6cm培養皿に5mLを加えて底層寒天とし、0.5%アガロースと多能性幹細胞培養液を1:1で混合して上層寒天とし、実施例13~33の心筋細胞製剤について細胞計数及び生細胞検出を行い、それぞれ実施例13~33の心筋細胞製剤1mLを取り出して上層寒天5mLを加え、徐々に培養皿へ注入し、空白対照及び濃度が1.8×10cells/mLのHela細胞を陽性対照として設定し、2層軟寒天培養皿を37℃、5%COのインキュベーターに置いて30日目培養し、顕微鏡下で細胞クローンの形成を観察し、細胞コロニーのクローン率を計算した。
細胞コロニーのクローン率=(細胞コロニー数÷各ウェルに加えた細胞の数)×100%
【0031】
軟寒天細胞コロニー形成実験は、細胞外マトリックスの半固体増殖環境をin vivoで模擬し、in vitroで細胞コロニ形成能を検出する通常の実験方法であり、腫瘍細胞は無期限に増殖可能であり、強いクローン能力を示すが、分化成熟した細胞はコロニーを形成できなかった。この特徴によれば、本発明の実施例は、異なる残存量の多能性幹細胞に由来する心筋細胞製剤の細胞コロニーのクローン率を比較することにより心筋細胞製剤の腫瘍形成能を評価した。
陽性対照群の細胞コロニーのクローン率は5.1%であり、空白対照群及び実施例16、17、21、22、26、27、31、32、33はコロニーを形成していないが、残りの実施例は、いずれも異なる細胞コロニー数があり、細胞コロニーのクローン率は、多能性幹細胞の残存量が増加するにつれて高くなった。
【0032】
ヌードマウス体内腫瘍形成実験及び軟寒天コロニー形成試験に基づいて、筋細胞製剤の安全性を確保するために心筋細胞製剤中の多能性幹細胞の残存量を1%以内に制御する必要があった。
以上の実施例は、本発明をさらに説明するためにのみ使用されるが、本発明の実施形態が上記の実施例によって限定されなく、本発明に基づいて加えた本発明と本質的に同じである他の変更、修飾、置換、組合せは、同等の交換手段とみなされ、本発明の保護範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6