(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】すべり軸受構造およびこの軸受構造を用いた回転陽極X線管
(51)【国際特許分類】
H01J 35/10 20060101AFI20220511BHJP
F16C 17/02 20060101ALI20220511BHJP
F16C 33/10 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01J35/10 N
F16C17/02 A
F16C33/10 Z
(21)【出願番号】P 2017140346
(22)【出願日】2017-07-19
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 光央
【審査官】井海田 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-078918(JP,A)
【文献】特開2014-170677(JP,A)
【文献】特開2005-321005(JP,A)
【文献】特開2000-081028(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0355743(US,A1)
【文献】特開2011-060517(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 35/10
F16C 17/02
F16C 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、このシャフトより高温になるターゲットをこのシャフトに回転可能に軸支するすべり軸受構造において、
前記シャフトが内部に挿通され前記ターゲットと一体に形成された軸受回転部と、
前記シャフトと前記軸受回転部との間の隙間に存在する液体金属とをさらに備え、
前記シャフトは、このシャフトの軸長方向に複数のグルーブパターンを持つすべり軸受を備え、
前記すべり軸受を構成する複数の軸受部の1つは、前記シャフトの軸長方向に外側グルーブパターンと内側グルーブパターンを含み、これらのグルーブパターンの間にプレーン部を含み、
前記シャフトの軸長方向に見た場合において、前記内側グルーブパターンの幅は前記外側グルーブパターンの幅より大きく、前記内側グルーブパターンの位置は前記外側グルーブパターンの位置よりも前記ターゲットに近い位置にあり、
前記プレーン部の位置が前記ターゲットからみて前記内側グルーブパターンの位置よりも離れた位置にくるように構成され、
前記外側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第1の角度をなす複数の溝で構成され、
前記内側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第2の角度をなす複数の溝で構成され、
各々の前記溝の方向は、前記シャフトの回転に伴い、前記液体金属が前記プレーン部に掻き込まれる方向であり、
前記第1の角度は前記第2の角度以上に設定されている、
すべり軸受構造。
【請求項2】
シャフトと、このシャフトより高温になるターゲットをこのシャフトに回転可能に軸支するすべり軸受構造において、
前記シャフトが内部に挿通され前記ターゲットと一体に形成された軸受回転部と、
前記シャフトと前記軸受回転部との間の隙間に存在する液体金属とをさらに備え、
前記シャフトは、このシャフトの軸長方向に複数のグルーブパターンを持つすべり軸受を備え、
前記すべり軸受は第1のすべり軸受部および第2のすべり軸受部を含み、
前記第1のすべり軸受部は、前記シャフトの軸長方向に第1の外側グルーブパターンと第1の内側グルーブパターンを含み、これらのグルーブパターンの間に第1のプレーン部を含み、
前記第2のすべり軸受部は、前記シャフトの軸長方向に第2の外側グルーブパターンと第2の内側グルーブパターンを含み、これらのグルーブパターンの間に第2のプレーン部を含み、
前記シャフトの軸長方向に見た場合において、前記第1の内側グルーブパターンの幅は前記第1の外側グルーブパターンの幅より大きく、前記第2の内側グルーブパターンの幅は前記第2の外側グルーブパターンの幅より大きく、
前記シャフトの軸長方向に見た場合において、前記第1の内側グルーブパターンの位置は前記第1の外側グルーブパターンの位置よりも前記ターゲットに近い位置にあり、前記第2の内側グルーブパターンの位置は前記第2の外側グルーブパターンの位置よりも前記ターゲットに近い位置にあり、
前記第1のプレーン部の位置は前記ターゲットからみて前記第1の内側グルーブパターンの位置よりも離れた位置にあり、
前記第2のプレーン部の位置は前記ターゲットからみて前記第2の内側グルーブパターンの位置よりも離れた位置にあり、
前記シャフトの軸長方向に見た場合において、前記第1の内側グルーブパターンと前記第2の内側グルーブパターンの間に、前記ターゲットの重心がくるように構成され、
前記第1の外側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第1の角度をなす複数の溝で構成され、
前記第1の内側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第2の角度をなす複数の溝で構成され、
前記第2の内側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第3の角度をなす複数の溝で構成され、
前記第2の外側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第4の角度をなす複数の溝で構成され、
前記第1のすべり軸受部の各々の前記溝の方向は、前記シャフトの回転に伴い、前記液体金属が前記第1のプレーン部に掻き込まれる方向であり、
前記第2のすべり軸受部の各々の前記溝の方向は、前記シャフトの回転に伴い、前記液体金属が前記第2のプレーン部に掻き込まれる方向であり、
前記第1の角度は前記第2の角度以上に設定され、
前記第4の角度は前記第3の角度以上に設定されている、
すべり軸受構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のすべり軸受構造において、
前記シャフトの表面のうち、前記ターゲットの重心を含むエリアにおける前記シャフトと前記軸受回転部との間の隙間が、前記すべり軸受を構成する複数の軸受部の1つのエリアにおける前記シャフトと前記軸受回転部との間の隙間よりも大きい。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のすべり軸受構造を用い、回転する前記ターゲットに電子ビームを衝突させてX線を発生するように構成したX線管。
【請求項5】
回転する陽極ターゲットと、この陽極ターゲットに電子ビームを衝突させる陰極と、軸受回転部と、液体金属と、を具備するX線管において、
前記陽極ターゲットは、すべり軸受のシャフトに形成された2つのすべり軸受部の間に回転可能に軸支され、
前記2つのすべり軸受部各々は、外側グルーブパターンと内側グルーブパターンとこれらのグルーブパターンの間にプレーン部を持ち、
各々の前記すべり軸受部において、前記シャフトの軸長方向に見た場合、前記内側グルーブパターンの位置は前記外側グルーブパターンの位置よりも前記陽極ターゲットに近い位置にあり、
各々の前記すべり軸受部において、前記プレーン部の位置は前記陽極ターゲットからみて前記内側グルーブパターンの位置よりも離れた位置にあり、
前記陽極ターゲットからの熱を前記2つのすべり軸受部を介して前記シャフト側に放熱するように構成し、
前記軸受回転部は、前記シャフトが内部に挿通され前
記陽極ターゲットと一体に形成され、
前記液体金属は、前記シャフトと前記軸受回転部との間の隙間に存在し、
各々の前記すべり軸受部において、前記シャフトの軸長方向に見た場合、前記内側グルーブパターンの幅は前記外側グルーブパターンの幅より大きく、
前記2つのすべり軸受部のうち一方のすべり軸受部において、
前記外側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第1の角度をなす複数の溝で構成され、
前記内側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第2の角度をなす複数の溝で構成され、
前記2つのすべり軸受部のうち他方のすべり軸受部において、
前記内側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第3の角度をなす複数の溝で構成され、
前記外側グルーブパターンは、前記シャフトの表面において前記シャフトの軸方向と第4の角度をなす複数の溝で構成され、
前記一方のすべり軸受部の各々の前記溝の方向は、前記シャフトの回転に伴い、前記液体金属が前記一方のすべり軸受部の前記プレーン部に掻き込まれる方向であり、
前記他方のすべり軸受部の各々の前記溝の方向は、前記シャフトの回転に伴い、前記液体金属が前記他方のすべり軸受部の前記プレーン部に掻き込まれる方向であり、
前記第1の角度は前記第2の角度以上に設定され、
前記第4の角度は前記第3の角度以上に設定されている、
回転陽極X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の実施形態は、すべり軸受構造およびこの軸受構造を用いた回転陽極X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
X線システムは、医用CT装置(診断/治療)、工業用非破壊検査、材料分析など、多くの用途に利用される。X線システムで用いられるX線管は、陽極ターゲットに陰極フィラメントからの電子ビームを衝突させてX線を発生する構成となっている。
【0003】
X線管には、回転する陽極ターゲットに電子ビームを衝突させてX線を発生するタイプがあり、この回転陽極ターゲットを軸支する軸受として、すべり軸受(通常は動圧軸受)が用いられている。X線管内は、電子ビームの走行を妨げないよう高真空となっており、回転陽極ターゲットの電子ビーム衝突部付近は数千度の高温になる。真空内で高温となった回転陽極ターゲットの熱は、輻射熱として放熱されるほか、回転陽極の構造部材を介してすべり軸受側に放熱される。これにより、回転陽極ターゲットが高熱で破損することを防いでいる。
【0004】
すべり軸受を有する回転陽極X線管の具体例としては、例えば特許文献1に記載されるような高冷却構造の回転陽極X線管がある。この回転陽極X線管では、回転陽極ターゲット15は、回転体(モータロータ20と一体的に回転するシール)21に断熱構造を介さず直接接続されている。具体的には、回転体21とそれをすべり軸支する固定軸13との間に非断熱性の液体金属(動圧すべり軸受の潤滑剤)が配備され、固定軸13内には冷却穴(流路30、冷却層31)が設けられている。この冷却穴を通過する冷媒により、すべり軸受を介して直接ターゲット15を冷却する構造となっている。この冷却構造により、熱輻射のみによる冷却よりも遥かに高い陽極冷却率を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しなしながら、特許文献1の構造では、高温となる回転陽極ターゲット15が直接回転体21に接合されているため、回転陽極ターゲット15の熱応力により回転体21が変形するという問題がある。すなわち、ターゲット15の熱応力によりターゲット付近の回転体21の軸受内径が広がり、軸受隙間が不均一化する。すると、軸受隙間が広くなった部分の偏心率が大きくなり、その偏心に起因して、高速回転する回転体21内部の軸受面が固定軸13に振動接触するようになる。その結果、軸受の耐G性能が劣化する。
【0007】
耐G性能劣化に対する一つの解決策として、軸受面をターゲットから十分離し、熱変形の影響を受けない位置に軸受面を配置する方法が考えられる。しかし、この場合は、軸受面を介したターゲットの冷却性能が低下するので、回転体21の熱変形がより発生し易くなる。熱変形した回転体21が陽極ターゲット15とともに高速回転すると、その回転に伴う振動が増えて、すべり軸受への負荷が大きくなる。そうすると、すべり軸受には、回転体21の熱変形が発生しても十分な負荷能力を維持できることが要求されるようになる。
【0008】
一方、すべり軸受の中には、固定軸を水平にみたとき、固定軸の軸長方向の左右位置に液体金属(熱を通し易い潤滑材)を掻き込むためのグルーブ(溝)を配置し、左右のグルーブの中間部に負荷荷重を受けるプレーン面を配置するものがある。そのすべり軸受部は、軸長方向の左右に離れて独立した2つの部分で構成され、離れた2つのすべり軸受面で回転体を左右から軸支している。これにより、回転体に取り付けられた陽極ターゲットの安定した回転を可能としている。
【0009】
このとき、2つのすべり軸受それぞれに設けられたグルーブのパターンは、負荷荷重を受けるプレーン面の左右で対称・同形に構成される(特許文献1の
図2に示される溝34を参照)。これにより、固定軸とともに回転するグルーブに掻き込まれる液体金属の量を左右で同一とし、左右での圧力差を発生させずに、液体金属が軸受内で偏在しないようにしている。
【0010】
この場合、回転陽極ターゲットの負荷荷重を受けるプレーン面の左右対称位置に液体金属が掻き込まれるグルーブが存在していることから、負荷荷重を受けるプレーン面を陽極ターゲットから十分離すことができない。つまり、この構造では、陽極ターゲットからの熱による回転体の熱変形に起因した耐G性能の低下には、対応が困難である。
【0011】
まとめると、負荷荷重を受けるプレーン面の左右対称位置にグルーブが形成される従来のすべり軸受では、そのプレーン面を陽極ターゲットから離すことができず、耐G性能の低下に対応することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
実施形態に係るすべり軸受構造(
図1~
図8)は、シャフト(112)と、このシャフトより高温になるターゲット(106)をこのシャフトに回転可能に軸支するすべり軸受(110)を備える。このすべり軸受(110)は、前記シャフト(112)の軸長方向に複数のグルーブパターン(L1a,L1b;L2a,L2b)を持つ複数の軸受部(110a、110b)で構成される。
【0013】
前記軸受部の1つ(例えば110a)は、前記シャフト(112)の軸長方向に外側グルーブパターン(L1a)と内側グルーブパターン(L1b)を含み、これらのグルーブパターンの間にプレーン部(L1c)を含む。
【0014】
前記シャフト(112)の軸長方向に見た場合において、前記内側グルーブパターン(L1b)の幅は前記外側グルーブパターン(L1a)の幅より大きく、前記内側グルーブパターン(L1b)の位置は前記外側グルーブパターン(L1a)の位置よりも前記ターゲット(106)に近い位置にある。
【0015】
このすべり軸受構造では、前記プレーン部(L1c)の位置が前記ターゲット(106)からみて前記内側グルーブパターン(L1b)の位置よりも離れた(例えばD1aだけ離れた)位置にくるように構成される。
【0016】
すなわち、前記プレーン部(L1c)の位置は、高温となる前記ターゲット(106)から、幅広な内側グルーブパターン(L1b)が介在する分だけ遠くにずれる。そうすると、回転する前記ターゲット(106)の負荷荷重を受ける前記プレーン部(L1c)は前記ターゲット(106)の熱応力を受け難くなり、熱変形に起因した耐G性能の低下に対処し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、一実施の形態に係るX線管の内部構造の一例を説明する部分断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のX線管から回転陽極ターゲット106とすべり軸受110の部分を取り出して示す部分断面図である。
【
図3】
図3は、
図1または
図2のすべり軸受110の構成を模式的に説明する図である。
【
図4】
図4は、
図3のすべり軸受構造と
図1または
図2の回転陽極ターゲット106との関係例(その1:ターゲット106が部分的に軸受110bと対向する例)を説明する図である。
【
図5】
図5は、
図4の変形例(グルーブパターンの角度違い)を説明する図である。
【
図6】
図6は、
図3のすべり軸受構造と
図1または
図2の回転陽極ターゲット106との関係例(その2:ターゲット106が軸受110bと対向しない例)を説明する図である。
【
図7】
図7は、
図4の比較例(グルーブパターンの幅違い)を説明する図である。
【
図8】
図8は、他の実施の形態に係るX線管の内部構造の一例を説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、実施形態に係るX線管装置を説明する。なお、以下の説明中で挙げた数値は単なる例示であり、本願の実施形態を束縛するものではない。
【0019】
図1は、一実施の形態に係るX線管100の内部構造の一例を説明する部分断面図である。このX線管100は、真空容器102(真空度は、例えば10
-5~10
-6Pa程度)と電子銃104および、モータステータ111とモータロータ115を具備している。電子銃104は電子ビームを発生する陰極として機能する。真空容器102内には、すべり軸受110と、回転陽極ターゲット106が設けられる。回転陽極ターゲット106は、軸受回転部113と一体に形成され、軸受回転部113の外周面側に位置している。例えば、回転陽極ターゲット106は、軸受回転部113の外周面に接合されている。回転陽極ターゲット106は、すべり軸受110のシャフト(固定軸)112に挿通された軸受回転部113で回転自在に軸支される。
【0020】
回転陽極ターゲット106は、X線管100に内装したモータステータ111からの回転磁界で回転するモータロータ115により、回転駆動される。前記回転磁界により回転陽極ターゲット106に対して例えば180Hzの高周波駆動を行った場合、すべり軸受110には、例えば70G位のG(遠心加速度)が生じ得る。一実施の形態に係るすべり軸受構造(詳細は
図3等を参照して後述)は、このような高Gへの対応も考慮されている。
【0021】
回転駆動された陽極ターゲット106に電子銃104からの電子ビームを衝突させることにより、X線が出力される。この電子ビームの衝突により高温(ビーム衝突箇所は局部的に数千℃)となった陽極ターゲット106の熱は、輻射熱として放熱されるほか、相対的に温度が低い(例えば100~300℃)すべり軸受け110側に放熱される。
【0022】
図2は、
図1のX線管100から回転陽極ターゲット106とすべり軸受110の部分を取り出して示す部分断面図である。また、
図3は、
図1または
図2のすべり軸受110の構成を模式的に説明する図である。
【0023】
すべり軸受110のシャフト112には、すべり軸受部110a、110bが形成される。すべり軸受部110a、110b各々の表面には溝切り方向が異なる1対のグルーブパターン(
図3のL1a,L1b;L2a,L2b)が形成される。これらのグルーブパターンの複数溝内に、熱伝導性を持つ潤滑剤としての液体金属LMが掻き込まれるようになっている。
【0024】
この液体金属LMとしては、GaIn(ガリウム・インジウム)合金やGaInSn(ガリウム・インジウム・錫)合金を用いることができる。この液体金属LMには、すべり軸受110が回転していない状態で10-3Pa・s位の粘度のものを使用できる。
【0025】
例えばGaInSn合金の具体例として、ガリウム68.5%、インジウム21.5%、錫10%の共晶合金があり、この合金は常温で液体である。このGaInSn合金は多くの材料に対して高い濡れ性と付着性を持つ。その物性の一例としては、以下のものがある:
沸点:>1300 ℃
融点:-19 ℃
比重:6.44 g/cm
3
粘度:0.0024 Pa・s(20℃にて)
熱伝導率:16.5 W・m
-1・K
-1
各々がグルーブパターン(
図3等のL1a,L1b;L2a,L2b)を持つすべり軸受部110aとすべり軸受部110bの間には、プレーン部110cが形成される。プレーン部110cの表面と軸受回転部113の内周面との間の隙間g2は、すべり軸受部110aの表面と軸受回転部113の内周面との間の隙間より大きく、すべり軸受部110bの表面と軸受回転部113の内周面との間の隙間より大きくなっている。
【0026】
図3に示すように、隙間g2(例えば100μm位)は、すべり軸受部110aのプレーン部L1cの表面と軸受回転部113の内周面との間の隙間g1(例えば10μm位)およびすべり軸受部110bのプレーン部L2cの表面と軸受回転部113の内周面との間の隙間g1(例えば10μm位)よりも、大きくなっている。そのため、回転陽極ターゲット106からの熱により軸受回転部113が多少熱変形して偏心が生じても、偏心(例えば最大90μm以下)を伴って回転する回転部113の内面がプレーン部110cに接触することを防止できる。このことから、すべり軸受110の耐G性能を向上させることができる。
【0027】
図4は、
図3のすべり軸受構造と
図1または
図2の回転陽極ターゲット106との関係例(その1:ターゲット106が部分的に軸受110bと対向する例)を説明する図である。
図4では、シャフト112の表面のうち、回転陽極ターゲット106の重心Gを含むプレーン部エリアの幅(La1;例えば10mm)を、回転陽極ターゲット106の厚み(例えば15mm)よりも小さくしている。これにより、回転陽極ターゲット106が内側グルーブパターンL2bと部分的にオーバーラップできるようになる。このオーバーラップ部分を介して、回転陽極ターゲット106からの熱をすべり軸受110のシャフト112側へ効率的に逃がすことができる。
【0028】
なお、
図4以降の実施形態では、シャフト112の表面のうち、回転陽極ターゲット106の重心Gを含むエリア(幅La1のエリア:
図1~
図3の110cに対応)に存在する隙間(
図3のg2:例えば100μm)を、すべり軸受110を構成する複数の軸受部(110a,110b)の1つ(または両方)に存在する隙間(
図3のg1:例えば10μm)よりも大きくすることができる。そうすると、プレーン部110cの周囲の回転部(
図1または
図2の113)に熱変形による偏心が多少生じても、プレーン部110cに偏心した回転部の内面が直接ぶつからず、その部分の耐負荷能力の劣化を防止できる。
【0029】
一実施の形態に係るすべり軸受110の機械的な数値例を
図4に当てはめてみると、例えば次のようになる。まず、全体的なサイズをイメージできるよう、すべり軸受110部分のシャフト径(
図3のΦ)が40mmであるとする。
【0030】
すべり軸受110は、第1のすべり軸受部110aと第2のすべり軸受部110bを含む。第1のすべり軸受部110aは、シャフト112の軸長方向に第1の外側グルーブパターンL1a(例えば幅5mm)と第1の内側グルーブパターンL1b(例えば幅10mm)を含み、これらのグルーブパターンの間に第1のプレーン部L1c(えば幅6mm)を含む。
【0031】
第2のすべり軸受部110bは、シャフト112の軸長方向に第2の外側グルーブパターンL2a(例えば幅8mm)と第2の内側グルーブパターンL2b(例えば幅16mm)を含み、これらのグルーブパターンの間に第2のプレーン部L2c(例えば幅6mm)を含む。
【0032】
シャフト112の軸長方向に見た場合において、第1の内側グルーブパターンL1bの幅(10mm)は第1の外側グルーブパターンL1aの幅(5mm)より大きく、第2の内側グルーブパターンL2bの幅(16mm)は第2の外側グルーブパターンL2aの幅(8mm)より大きい。
【0033】
シャフト112の軸長方向に見た場合において、第1の内側グルーブパターンL1bの位置は、第1の外側グルーブパターンL1aの位置よりも回転陽極ターゲット106に近い位置にあり、第2の内側グルーブパターンL2bの位置は第2の外側グルーブパターンL2aの位置よりも回転陽極ターゲット106に近い位置にある。
【0034】
第1のプレーン部L1cの位置は回転陽極ターゲット106からみて第1の内側グルーブパターンL1bの位置よりも離れた(距離D1a)位置にあり、第2のプレーン部L2cの位置は回転陽極ターゲット106からみて第2の内側グルーブパターンL2bの位置よりも離れた(距離D2a)位置にある。ここで、距離D1aは、シャフト112の軸長方向において、回転陽極ターゲット106の第1のプレーン部L1c側の端から第1のプレーン部L1cの中央の位置までの距離である。距離D2aは、シャフト112の軸長方向において、回転陽極ターゲット106の第2のプレーン部L2c側の端から第2のプレーン部L2cの中央の位置までの距離である。
【0035】
シャフト112の軸長方向に見た場合において、第1の内側グルーブパターンL1bと第2の内側グルーブパターンL2bの間に、回転陽極ターゲット106の重心Gがくるように構成される。すべり軸受110では、回転陽極ターゲット106を軸支する負荷は、この重心Gの左右に離れて配置されたすべり軸受部110a、110bに分散される。
【0036】
第1の外側グルーブパターンL1aは、シャフト112の軸長方向に垂直な軸に対し第1の回転方向(反時計回り)に第1の角度θ1a(例えば65°)を持つ複数の平行な溝で構成され、第1の内側グルーブパターンL1bは、シャフト112の軸長方向に垂直な軸に対し前記第1の回転方向とは反対の第2の回転方向(時計回り)に第2の角度θ1b(例えば30°)を持つ複数の平行な溝で構成される。
【0037】
同様に、第2の内側グルーブパターンL2bは、シャフト112の軸長方向に垂直な軸に対し前記第1の回転方向(反時計回り)に第3の角度θ2b(例えば30°)を持つ複数の平行な溝で構成され、第2の外側グルーブパターンL2aは、シャフト112の軸長方向に垂直な軸に対し前記第2の回転方向(時計回り)に第4の角度θ2a(例えば65°)を持つ複数の平行な溝で構成される。
【0038】
この実施形態では、ターゲット106から離れた幅狭の外側グルーブパターン(L1a,L2a)の溝角度(θ1a、θ2a)を、ターゲット106に近い幅広の内側グルーブパターン(L1b,L2b)の溝角度(θ1b、θ2b)より大きくしている。逆に言えば、幅狭の外側グルーブパターン(L1a,L2a)の溝角度(θ1a、θ2a)よりも、幅広の内側グルーブパターン(L1b,L2b)の溝角度(θ1b、θ2b)を小さくしている。(具体的には、2倍の幅の違いに対して凡そ2倍の角度の違いを設けている。)一般化していうと、プレーン部(L1cまたはL2c)の左右のグルーブパターン(L1a,L1bまたはL2a,L2b)に関して、各グルーブパターン内の複数溝の幅、深さ、並びピッチ、溝内の表面状態などが均一であるとして、N倍のグルーブパターン幅の増加に対して凡そ1/Nの溝角度減少を設定している。
【0039】
これは、シャフト112の回転に伴い幅狭外側グルーブパターン(L1aまたはL2a)の溝に掻き込まれる液体金属LMの総量と、幅広内側グルーブパターン(L1bまたはL2b)の溝に掻き込まれる液体金属LMの総量を、実質同等とするためである。そうすると、プレーン部(L1cまたはL2c)の左右に設けられた幅の異なるグルーブパターン(L1a,L1bまたはL2a,L2b)の複数溝に掻き込まれる液体金属LMの総量が、プレーン部(L1cまたはL2c)の左右でバランスするようになる。これにより、左右のすべり軸受部110aおよび110b各々における動圧軸受動作が安定する。
【0040】
図5は、
図4の変形例(グルーブパターンの角度違い)を説明する図である。
図4ではプレーン部(L1c;L2c)の左右に設けられた幅の異なるグルーブパターン(L1a,L1b;L2a,L2b)の溝角度を変えている(例えば、θ1a=65°、θ1b=30°;θ2a=65°、θ2b=30°)。これに対し、
図5では、これらの溝角度を同じにしている(例えば、θ1a=60°、θ1b=60°;θ2a=60°、θ2b=60°)。そうすると、プレーン部(L1cまたはL2c)の左右に設けられた幅の異なるグルーブパターン(L1a,L1bまたはL2a,L2b)の複数溝に掻き込まれる液体金属LMの総量がプレーン部(L1cまたはL2c)の左右でバランスしなくなる。しかし、液体金属掻き込み総量のアンバランスが実用上問題ない程度に小さいとき(例えば、すべり軸受内の何処にも液体金属の枯渇が生じないとき)は、
図5のすべり軸受構造でも、回転陽極ターゲット106をその左右のすべり軸受部110a、110bで安定に軸支する設計製作は可能である。
【0041】
図6は、
図3のすべり軸受構造と
図1または
図2の回転陽極ターゲット106との関係例(その2:ターゲット106が軸受110bと対向しない例)を説明する図である。
図6の構造では、左右のすべり軸受部110a、110bの位置が、
図4または
図5の構造と比べて、回転陽極ターゲット106の重心Gの位置からより遠くへ等間隔(または同率)にずれている。この等間隔(または同率)な位置ずれにより、回転陽極ターゲット106に対する左右すべり軸受部110a、110bの軸支バランスを維持したまま、回転陽極ターゲット106に対する軸支安定性がより高くなる。
【0042】
図6では、回転陽極ターゲット106が内側グルーブパターンL1b,L2bとオーバーラップしていない。このため、プレーン部L1c及びプレーン部L2cは、ターゲット106の熱応力を一層受け難くなる。
図4または
図5の構造では、オーバーラップ部分が回転陽極ターゲット106からの熱をすべり軸受110のシャフト112側に逃がす熱流路となっている。このような熱流路がない分、
図6の構造ではターゲット106に対する冷却能力が落ちるが、それでも、左右のすべり軸受部110a、110bの極薄(
図3のg1相当)な液体金属層を介した別の熱流路は確保されている。したがい、回転陽極ターゲット106の発熱状況によっては、
図6の構造でも必要十分な冷却性能を持ったすべり軸受110を設計製作可能である。
【0043】
図7は、
図4の比較例(グルーブパターンの幅違い)を説明する図である。
図7の構造では、左右のすべり軸受部110aおよび110bそれぞれにおいて、外側グルーブパターンと内側グルーブパターンの幅が等しく(L1a=L1b;L2a=L2b)外側グルーブパターンと内側グルーブパターンの溝角度が等しく(θ1a=θ1b; θ2a=θ2b)なっている。
図7の構造は、回転陽極ターゲット106と内側グルーブパターンL2bの間に、
図4または
図5と同様なオーバーラップ部分を持ち、このオーバーラップ部分が回転陽極ターゲット106からの熱をすべり軸受110のシャフト112側に逃がす熱流路となっている。
図7のすべり軸受構造でも、回転陽極ターゲット106をその左右のすべり軸受部110a、110bで安定に軸支する設計製作は可能である。
【0044】
図7のプレーン部L1cは、
図4や
図5のプレーン部L1cと等しい。また、
図7のプレーン部L2cは、
図4や
図5のプレーン部L2cと等しい。
ところで、
図7の距離D1aは、
図4や
図5の距離D1aより短い。同様に、
図7の距離D2aは、
図4や
図5の距離D2aより短い。上記のことから、
図7のすべり軸受構造より、
図4や
図5のすべり軸受構造の方が、プレーン部L1c及びプレーン部L2cは、ターゲット106の熱応力を受け難い。
【0045】
図8は、他の実施の形態に係るX線管の内部構造の一例を説明する部分断面図である。
【0046】
この実施形態の回転陽極X線管100は、真空容器102と、真空容器102内に収納された回転陽極ターゲット106の構造体と、この構造体を回転自在に軸支するすべり軸受の軸受回転部113と、すべり軸受のシャフト112と同軸的に連結された固定軸118と、回転陽極ターゲット106に向けて電子ビームを放出する陰極104と、真空容器102の外側に設けられ回転磁界を発生するステータコイル11とを備えている。ステータコイルからの磁界を受けるモータロータ115は導電体の外筒15aと磁性体(軟鉄)の内筒15bの積層構造を持ち、コイル11との組み合わせで渦電流型モータを形成している。
【0047】
回転陽極ターゲット106の傘状外面には、電子ビームが衝突する陽極ターゲット層が形成されている。回転陽極ターゲット106および陽極ターゲット層は高融点金属でできており、例えば、モリブデン、タングステン若しくはこれらの各合金が使用されている。
【0048】
図8の軸受回転部113の内部に、
図3~
図7のいずれかに示すようなすべり軸受110の構造を適用することができる。
【0049】
本発明の実施形態を説明したが、上記の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、第1の内側グルーブパターンL1bの幅が第1の外側グルーブパターンL1aの幅より大きく設定され(L1a<L1b)、かつ、第2の内側グルーブパターンL2bの幅が第2の外側グルーブパターンL2aの幅より大きく設定されている(L2a<L2b)場合、第1の外側グルーブパターンL1aの幅と第2の外側グルーブパターンL2aの幅が等しく(L1a=L2a)、第1の内側グルーブパターンL1bの幅と第2の内側グルーブパターンL2bの幅が等しく(L1b=L2b)ともよい。
【0050】
<実施形態のまとめ>
液体金属すべり軸受を有する回転陽極X線管において、すべり軸受の固定シャフト(112)側に設けられたグルーブパターン(L1a,L1b;L2a,L2b)が非対称に構成され、すべり軸受中間に設けられたプレーン部(L1c;L2c)が軸受中心(G)からずれて構成される。これにより、回転陽極ターゲット(106)からの熱応力に起因したすべり軸受回転部(113)の変形による負荷能力低下を緩和し、高耐G性能を持った高冷却型回転陽極X線管を提供する。
【0051】
回転陽極ターゲット(106)とすべり軸受回転部(113)が一体的に形成され、回転陽極ターゲット(106)をすべり軸受回転部(113)を介して冷却する回転陽極X線管において、回転陽極ターゲット(106)を支持するために、シャフト(112)に2つの分割されたすべり軸受部(110a,110b)を形成する円筒面が構成されている。シャフト(112)に形成された2つのすべり軸受部(110a,110b)の円筒面には、それぞれ、左右に液体金属を掻きこむための複数溝が形成されたグルーブパターン(L1a,L1b;L2a,L2b)と、この左右グルーブパターンの中間に回転陽極ターゲット(106)を主体的に支持するためのプレーン部(L1c,L2c)が形成されている。回転陽極ターゲット(106)は、このように構成された2つのすべり軸受部(110a,110b)の間に位置するよう構成され、回転陽極ターゲット(106)に発生する熱をすべり軸受部(110a,110b)を介して冷却する高冷却構造となっている。ここで、すべり軸受部(110a,110b)に形成されている左右のグルーブパターン(L1a,L1b;L2a,L2b)のシャフト軸長方向の幅を、回転陽極ターゲット(106)の位置からみて、外側を狭く、内側を広くする。これにより、中間のプレーン部(L1c,L2c)を、幅広な内側グルーブパターンよりも外側に配置する。このような構成において、回転陽極ターゲット(106)が高温で膨張してすべり軸受回転部(113)の中間が膨らみ、回転部(113)内の隙間径が偏心を伴って広がっても、それによる負荷能力低下の防止を図る。そのために、プレーン部(L1c,L2c)を、通常の構成よりもターゲット位置(G)から離して、ターゲット(106)の熱変形の影響を受けない位置に配置する。これにより、高耐G性能を持った高冷却型回転陽極X線管を提供できる。
【0052】
この発明の実施形態に係るすべり軸受構造を用いた回転陽極X線管は、各種のX線システムに適用可能である。例えば、X線ステレオ撮影システムやX線ステレオシネ撮影システム、ステレオパルス透視システム等の各種のシステムに適用可能である。
【0053】
この発明の実施形態に係るすべり軸受構造によれば、高温になる回転体を冷却しつつ軸支し、かつ耐G性能を併せ持つすべり軸受を提供できる。高温になる回転体は、必ずしもX線を発生するターゲットには限定されず、例えば機械加工時の摩擦熱で高温となるドリル(あるいは回転砥石)の冷却軸支にも応用できる。この発明の実施形態に係るすべり軸受構造をドリル等の冷却軸支に応用する場合は、その軸受構造を真空容器に収納しなくてもよい。
【0054】
<実施形態の要点>
実施形態に係るすべり軸受構造によれば、すべり軸受部(110a,110b)のプレーン部(L1c,L2c)を高温となる回転陽極ターゲット(106)から離すことが可能となり、耐G性能の低下を防止することができる。
【0055】
また、回転陽極ターゲット(106)に近い側のグルーブグルーブパターン(L1b;LL2b)でも、熱を通しやすい潤滑剤としての液体金属を介して、回転陽極ターゲット(106)からの熱を逃がすことが可能である。すなわち、耐G性能と高冷却機能を両立できる。
【0056】
なお、グルーブパターン(L1a,L1bまたはL2a,L2b)の形状を左右非対称とした場合、液体金属の描きこみ量が変わるため、液体金属が掻き込み量の少ない側に移動して液体金属が軸受内で偏在する恐れがある。その結果、すべり軸受部(110a,110b)内の一部で液体金属が枯渇して、すべり軸受けの機能が阻害され得る。この問題に対しては、シャフトの軸方向で幅の狭い、陽極ターゲットから離れた側のグルーブパターン(L1a,L2a)の溝の掻き込み角度(θ1a,θ2a)を、陽極ターゲットに近い側の幅広グルーブパターン(L1b,L2b)の溝の掻き込み角度(θ1b,θ2b)より大きくし、左右のグルーブパターン(L1b,L2b)の液体金属掻き込み量を同一とする方法を提案する。計算では、たとえばグルーブパターンの軸方向の幅を2倍としたとき、掻き込み角度を2倍以上に大きくすることにより、掻き込み量を同一にできることが分かっており、このような構成により前記問題に対処可能である。
【0057】
<出願当初請求項に対応する付記>
[1] 一実施の形態に係るすべり軸受構造は、シャフト(112)と、このシャフトより高温になるターゲット(106)をこのシャフトに回転可能に軸支する構造を持つ。このすべり軸受構造において、前記シャフト(112)は、このシャフトの軸長方向に複数のグルーブパターン(L1a,L1b;L2a,L2b)を持つすべり軸受(110)を備える。
【0058】
前記すべり軸受(110)を構成する複数の軸受部(110a,110b)の1つ(例えば110a)は、前記シャフトの軸長方向に外側グルーブパターン(L1a)と内側グルーブパターン(L1b)を含み、これらのグルーブパターンの間にプレーン部(L1c)を含む。
【0059】
前記シャフト(112)の軸長方向に見た場合において、前記内側グルーブパターン(L1b)の幅は前記外側グルーブパターン(L1a)の幅より大きく、前記内側グルーブパターン(L1b)の位置は前記外側グルーブパターン(L1a)の位置よりも前記ターゲット(106)に近い位置にある。そして、前記プレーン部(L1c)の位置が、前記ターゲット(106)からみて前記内側グルーブパターン(L1b)の位置よりも離れた(例えばD1a離れた)位置にくるように構成される。
【0060】
[2] 他の実施形態に係るすべり軸受構造は、シャフト(112)と、このシャフトより高温になるターゲット(106)をこのシャフトに回転可能に軸支する構造を持つ。このすべり軸受構造において、前記シャフト(112)は、このシャフトの軸長方向に複数のグルーブパターン(L1a,L1b;L2a,L2b)を持つすべり軸受(110)を備える。このすべり軸受(110)は、第1のすべり軸受部(110a)および第2のすべり軸受部(110b)を含む。
【0061】
前記第1のすべり軸受部(110a)は、前記シャフトの軸長方向に第1の外側グルーブパターン(L1a)と第1の内側グルーブパターン(L1b)を含み、これらのグルーブパターンの間に第1のプレーン部(L1c)を含む。また、前記第2のすべり軸受部(110b)は、前記シャフトの軸長方向に第2の外側グルーブパターン(L2a)と第2の内側グルーブパターン(L2b)を含み、これらのグルーブパターンの間に第2のプレーン部(L2c)を含む。
【0062】
前記シャフト(112)の軸長方向に見た場合において、前記第1の内側グルーブパターン(L1b)の幅は前記第1の外側グルーブパターン(L1a)の幅より大きく、前記第2の内側グルーブパターン(L2b)の幅は前記第2の外側グルーブパターン(L2a)の幅より大きい。また、前記シャフト(112)の軸長方向に見た場合において、前記第1の内側グルーブパターン(L1b)の位置は前記第1の外側グルーブパターン(L1a)の位置よりも前記ターゲット(106)に近い位置にあり、前記第2の内側グルーブパターン(L2b)の位置は前記第2の外側グルーブパターン(L2a)の位置よりも前記ターゲット(106)に近い位置にある。
【0063】
前記第1のプレーン部(L1c)の位置は前記ターゲット(106)からみて前記第1の内側グルーブパターン(L1b)の位置よりも離れた(D1a)位置にあり、前記第2のプレーン部(L2c)の位置は前記ターゲット(106)からみて前記第2の内側グルーブパターン(L2b)の位置よりも離れた(D2a)位置にある。そして、前記シャフト(112)の軸長方向に見た場合において、前記第1の内側グルーブパターン(L1b)と前記第2の内側グルーブパターン(L2b)の間に、前記ターゲット(106)の重心(G;
図4~
図7)がくるように構成される。
【0064】
[3] [1]のすべり軸受構造では、前記外側グルーブパターン(L1a)は前記シャフト(112)の軸長方向に垂直な軸に対し第1の回転方向(反時計回り)に第1の角度(θ1a)を持つ複数の溝で構成され、前記内側グルーブパターン(L1b)は前記シャフト(112)の軸長方向に垂直な軸に対し前記第1の回転方向とは反対の第2の回転方向(時計回り)に第2の角度(θ1b)を持つ複数の溝で構成される。
【0065】
前記シャフト(112)の軸長方向(プレーン部の軸径φは、例えば40mm)に見た場合において、前記内側グルーブパターン(L1b)の幅(例えば8mm~10mm)が前記外側グルーブパターン(L1a)の幅(例えば5mm~8mm)より大きく設定され(L1a<L1b)、前記第1の角度(θ1a;例えば60°~65°)が前記第2の角度(θ1b;例えば30°~60°)以上に設定される(θ1b≦θ1a)。
【0066】
[4] [2]のすべり軸受構造では、前記第1の外側グルーブパターン(L1a)は前記シャフト(112)の軸長方向に垂直な軸に対し第1の回転方向(反時計回り)に第1の角度(θ1a)を持つ複数の溝で構成され、前記第1の内側グルーブパターン(L1b)は前記シャフト(112)の軸長方向に垂直な軸に対し前記第1の回転方向とは反対の第2の回転方向(時計回り)に第2の角度(θ1b)を持つ複数の溝で構成される。
【0067】
また、前記第2の内側グルーブパターン(L2b)は前記シャフト(112)の軸長方向に垂直な軸に対し前記第1の回転方向(反時計回り)に第3の角度(θ2b)を持つ複数の溝で構成され、前記第2の外側グルーブパターン(L2a)は前記シャフト(112)の軸長方向に垂直な軸に対し前記第2の回転方向(時計回り)に第4の角度(θ2a)を持つ複数の溝で構成される。
【0068】
前記シャフト(112)の軸長方向(第1および第2プレーン部の軸径φは、例えば40mm)に見た場合において、前記第1の内側グルーブパターン(L1b)の幅(例えば8mm~10mm)が前記第1の外側グルーブパターン(L1a)の幅(例えば5mm~8mm)より大きく設定され(L1a<L1b)、前記第2の内側グルーブパターン(L2b)の幅(例えば12mm~16mm)が前記第2の外側グルーブパターン(L2a)の幅(例えば8mm~12mm)より大きく設定され(L2a<L2b)、前記第1の角度(θ1a;例えば60°~65°)が前記第2の角度(θ1b;例えば30°~60°)以上に設定され(θ1b≦θ1a)、前記第4の角度(θ2a;例えば60°~65°)が前記第3の角度(θ2b;例えば30°~60°)以上に設定される(θ1b≦θ1a)。
【0069】
[5] [1]~[4]のすべり軸受構造では、
前記シャフトが内部に挿通され前記ターゲットと一体に形成された軸受回転部と、
前記シャフトと前記軸受回転部との間の隙間に存在する液体金属(LM)とをさらに備え、
前記シャフト(112)の表面のうち、前記ターゲット(106)の重心(G)を含むエリア(例えば幅La1のエリア)における前記シャフトと前記軸受回転部との間の隙間(g2:例えば100μm)が、前記すべり軸受(110)を構成する複数の軸受部(110a,110b)の1つ(例えば110a)のエリアにおける前記シャフトと前記軸受回転部との間の隙間(g1:例えば10μm)よりも大きい。
【0070】
[6] [1]~[5]のすべり軸受構造は、回転する前記ターゲット(106)に電子ビームを衝突させてX線を発生するX線管において、前記ターゲットの回転軸支に適用できる。
【0071】
[7] 一実施の形態に係る回転陽極X線管(100)は、回転する陽極ターゲット(106)と、この陽極ターゲット(106)に電子ビームを衝突させる陰極(104)を具備する。このX線管(100)において、前記陽極ターゲット(106)は、すべり軸受のシャフト(112)に形成された2つのすべり軸受部(110a、110b)の間に回転可能に軸支される。
【0072】
前記2つのすべり軸受部(110a、110b)各々は、外側グルーブパターン(L1a,L2a)と内側グルーブパターン(L1b,L2b)とこれらのグルーブパターンの間にプレーン部(L1c,L2c)を持つ。
【0073】
前記内側グルーブパターン(L1b,L2b)の存在により前記プレーン部(L1c,L2c)が前記陽極ターゲット(106)から離れる(D1a,D2aまたはD1b,D2b)ように構成され、前記陽極ターゲット(106)からの熱を前記2つのすべり軸受部(110a、110b)の少なくとも一方を介して前記シャフト(112)側に放熱するように構成する。
【0074】
[8] [7]の回転陽極X線管(100)では、前記シャフト(112)の軸長方向にみて前記内側グルーブパターン(L1b,L2b)の幅を前記外側グルーブパターン(L1a,L2a)の幅より大きくし、前記外側グルーブパターン(L1a,L2a)の溝角度(60°~65°)を前記内側グルーブパターン(L1b,L2b)の溝角度(30°~60°)以上とする。
【符号の説明】
【0075】
100…X線管;102…真空容器;104…電子銃(陰極);106…回転陽極ターゲット;110…すべり軸受;110a、110b…左右のすべり軸受部;111…モータステータ;112…すべり軸受のシャフト;113…軸受回転部;115…モータロータ。