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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】クライストロン
(51)【国際特許分類】
   H01J 23/12 20060101AFI20220511BHJP
   H01J 23/087 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01J23/12 Z
H01J23/087
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018076947
(22)【出願日】2018-04-12
(65)【公開番号】P2019186083
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】宗本 尚也
(72)【発明者】
【氏名】大久保 良久
【審査官】井海田 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-149617(JP,A)
【文献】特開平05-325802(JP,A)
【文献】特開2000-067767(JP,A)
【文献】特表2002-520772(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0071681(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 23/12
H01J 23/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生する電子銃と、
前記電子ビームの進行方向に沿って設置された複数の共振空胴と、
前記共振空胴を通過した前記電子ビームを捕捉するコレクタと、
前記電子銃と前記共振空胴との間に設けられる電子銃側ポールピース、前記共振空胴と前記コレクタとの間に設けられるコレクタ側ポールピース、前記共振空胴の周囲に設置される主コイル、前記コレクタの周囲に配置される出力側コイル、前記電子銃側ポールピースに接して前記主コイルの周囲に配置される主ヨーク、および前記コレクタ側ポールピースと前記主ヨークに接して前記出力側コイルの周囲に配置される出力側ヨークを有する集束磁場装置と
を具備し、
前記出力側ヨークは、前記コレクタ側ポールピースに接して前記出力側コイルの内周側に配置される内周部、この内周部の先端側から外径方向に向けて設けられて前記出力側コイルの端面側に配置される端面部、この端面部から前記主ヨークに向けて設けられているとともに前記主ヨークに接して前記出力側コイルの外周側に配置される外周部、および前記内周部と前記端面部との間で前記出力側コイルに対向する内面側に拡大して設けられる内周側の断面積拡大部を有する
ことを特徴とするクライストロン。
【請求項2】
前記出力側ヨークの前記端面部と前記外周部との間で前記出力側コイルと対向する内面側に拡大した外周側の断面積拡大部が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載のクライストロン。
【請求項3】
前記断面積拡大部は、テーパー状に設けられている
ことを特徴とする請求項1または2記載のクライストロン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、マイクロ波を増幅するクライストロンに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波を増幅するマイクロ波電子管であるクライストロンは、電子銃部より発生・加速された電子ビームを複数の共振空胴に生じる磁場で除々にバンチングした後に出力空胴で減速させ、電子ビームの運動エネルギーをマイクロ波に付与し、マイクロ波を増幅している。
【0003】
クライストロンでは、外部からの集束磁場による電子ビームの集束が必要となっている。この集束磁場の発生のために、電子銃部および共振空胴の周囲に集束磁場装置が配置されている。
【0004】
集束磁場装置は、電子銃部および共振空胴の周囲に配置されるコイル、およびコイルを囲むように配置されるヨークを備えている。コイルが発生する磁束によって電子ビームを集束する。磁束はコレクタ側ポールピース内に侵入し、このコレクタ側ポールピースからヨーク内に侵入し、ヨーク内を伝播する。
【0005】
そして、磁束が通過するヨークに磁束密度が高くなりやすい箇所があると、クライストロンの小径化を進めたり、高磁場化を進めたりする場合に、ヨーク材質の固有の飽和磁束密度を超過する虞があり、クライストロンの小径化や高磁場化に対応できないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-149617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、小径化や高磁場化に対応できるクライストロンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態のクライストロンは、電子銃、複数の共振空胴、コレクタおよび集束磁場装置を備える。電子銃は、電子ビームを発生する。複数の共振空胴は、電子ビームの進行方向に沿って設置される。コレクタは、共振空胴を通過した電子ビームを捕捉する。集束磁場装置は、電子銃と共振空胴との間に設けられる電子銃側ポールピース、共振空胴とコレクタとの間に設けられるコレクタ側ポールピース、共振空胴の周囲に設置される主コイル、コレクタの周囲に配置される出力側コイル、電子銃側ポールピースに接して主コイルの周囲に配置される主ヨーク、およびコレクタ側ポールピースと主ヨークに接して出力側コイルの周囲に配置される出力側ヨークを有する。出力側ヨークは、コレクタ側ポールピースに接して出力側コイルの内周側に配置される内周部、内周部の先端側から外径方向に向けて設けられて出力側コイルの端面側に配置される端面部、端面部から主ヨークに向けて設けられているとともに主ヨークに接して出力側コイルの外周側に配置される外周部、および内周部と端面部との間で出力側コイルに対向する内面側に拡大して設けられる内周側の断面積拡大部を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態を示すクライストロンの概略断面図である。
図2】同上クライストロンの軸上位置に対する磁束密度分布のグラフである。
図3】同上クライストロンのコイル印加電流に対するヨーク内最大磁束密度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
図1に、クライストロン10を示す。クライストロン10は、クライストロン本体11、およびこのクライストロン本体11の周囲に配設される集束磁場装置12を備える。
【0012】
そして、クライストロン本体11は、電子ビームを発生する電子銃20、電子ビームとマイクロ波との相互作用によりマイクロ波を増幅する相互作用部21、およびこの相互作用部21を通過した電子ビームを捕捉するコレクタ22を備えている。
【0013】
電子銃20は、電子ビームを生成する陰極、電子ビームを加速する陽極、およびこれら陰極と陽極との高圧絶縁を行うセラミックなどを備えている。
【0014】
相互作用部21は、電子銃20が発生する電子ビームが通過するドリフト管23、およびこのドリフト管23に電子ビームの進行方向に沿って配設された複数の共振空胴24を備えている。共振空胴24は、電子ビームの進行方向に沿って、入力空胴24a、複数の中間空胴24b,24c,24d、および出力空胴24eを備えている。入力空胴24aには、所定の動作周波数のマイクロ波が入力される入力部25が接続されている。出力空胴24eには、増幅されたマイクロ波を出力する導波管26が接続されている。
【0015】
クライストロン本体11には、電子銃20と相互作用部21との間に電子銃側ポールピース27が配設されているとともに、相互作用部21とコレクタ22との間にコレクタ側ポールピース28が配設されている。これら電子銃側ポールピース27およびコレクタ側ポールピース28にはドリフト管23が貫通されている。これら電子銃側ポールピース27およびコレクタ側ポールピース28は、集束磁場装置12の一部であるが、クライストロン10の組み立て上、クライストロン本体11側に取り付けられている。
【0016】
また、集束磁場装置12は、クライストロン本体11の周囲に配置され、電子ビームを集束するための磁場を発生する例えば電磁石である。
【0017】
集束磁場装置12は、相互作用部21の周囲に配置される複数の主コイル30、電子銃20の周囲に配置される電子銃側コイル31、およびコレクタ22の周囲に配置される出力側コイル32を備えている。
【0018】
集束磁場装置12は、さらに、電子銃20と相互作用部21との間に配置される電子銃側ポールピース27、相互作用部21とコレクタ22との間に配置されるコレクタ側ポールピース28、電子銃側ポールピース27に接して主コイル30の周囲に配置される主ヨーク33、この主ヨーク33に接して電子銃側コイル31の周囲に配置される電子銃側ヨーク34、およびコレクタ側ポールピース28と主ヨーク33に接して出力側コイル32の周囲に配置される出力側ヨーク35を備えている。
【0019】
出力側ヨーク35は、コレクタ側ポールピース28に接して出力側コイル32の内周側に配置される内周部36、この内周部36の先端側から外径方向に向けて設けられて出力側コイル32の端面側に配置される端面部37、およびこの端面部37から主ヨーク33に向けて設けられているとともに主ヨーク33に接して出力側コイル32の外周側に配置される外周部38を備えている。
【0020】
出力側ヨーク35の内周部36と端面部37との間で、つまり内周部36と端面部37とが直角に交わる角部で、出力側コイル32に対向する内面側に、その内面側に拡大することによって出力側ヨーク35の断面積を拡大する内周側の断面積拡大部39が設けられている。この断面積拡大部39は、内周部36と端面部37との間でテーパー状に設けられている。
【0021】
出力側ヨーク35の端面部37と外周部38との間で、つまり端面部37と外周部38とが直角に交わる角部で、出力側コイル32と対向する内面側に、その内面側に拡大することによって出力側ヨーク35の断面積を拡大する外周側の断面積拡大部40が設けられている。この断面積拡大部40は、端面部37と外周部38との間でテーパー状に設けられている。
【0022】
なお、各断面積拡大部39,40は、テーパー状に限らず、曲面状等に設けられていてもよい。
【0023】
主ヨーク33の内側には、主コイル30を収納する主コイル収納空間41が形成されている。出力側ヨーク35の内周部36と端面部37と外周部38との間には、出力側コイル32を収納する出力側コイル収納空間42が形成されている。出力側ヨーク35の主ヨーク33側の端面は開口され、つまり出力側コイル収納空間42の主ヨーク33側の端面は開口され、出力側コイル収納空間42が主ヨーク33の主コイル収納空間41に連通されている。したがって、主コイル30と出力側コイル32とが直接対向されている。
【0024】
なお、主コイル30および主ヨーク33の内側にクライストロン本体11が挿入された後、これら主コイル30および主ヨーク33に出力側コイル32および出力側ヨーク35が組み合わされて、集束磁場装置12が組み立てられている。出力側コイル32および出力側ヨーク35は、ボルト等の固定具で着脱可能に組み立てられている。
【0025】
そして、このように構成されたクライストロン10では、電子銃20が発生する電子ビームが、複数の共振空胴24を通ってこれら複数の共振空胴24の電界との相互作用により徐々にバンチングされて集群される。集群された電子ビームが出力空胴24eにおいて減速されることで、入力空胴24aから入力されているマイクロ波に電子ビームの運動エネルギーが付与されてマイクロ波が増幅され、この増幅されたマイクロ波が導波管26から出力される。複数の共振空胴24を通過した電子ビームはコレクタ22で捕捉される。
【0026】
このとき、集束磁場装置12の各コイル30,31,32による集束磁場によって電子ビームが集束される。この集束磁場の強度は空胴中心部で0.1~0.3Tesla程度である。
【0027】
集束磁場装置12では、電子ビームが電子銃20からコレクタ22側に到達するまでの間、電子ビームには空間電荷力により半径方向に拡散する力が働くため、この空間電荷力とローレンツ力がバランスするように静磁場を発生させることにより、電子ビームを集束している。
【0028】
電子ビームは、出力空胴24eへ近付くほど、電子ビームのパンチングによる集群が密となり、空間電荷による発散力が強くなる。空間電荷による発散力は、次の式のように電流密度に比例して上昇する。
【0029】
Fr=(e・iB/2ε0・c・β・γ2)r
e:素電荷、ε0:真空の誘電率、iB:ビーム電流密度、r:ビーム半径方向距離、c:光速度、β:相対論的ベータ、γ:相対論的ガンマ(非線系項を無視した一様連続ビームの条件を仮定した発散力である)
【0030】
このように、電子ビームは出力空胴24eへ近付くほど空間電荷による発散力が強くなるため、出力空胴24eへ近付くほど集束磁場の磁束密度を増加させることが望ましい。ただし、出力空胴24eの付近で電子ビームと出力空胴24eとのカップリング特性を良好にするために、出力空胴24eでは電子ビームの径を大きくすることが必須となるため、出力空胴24eで集束磁場の最大磁束密度を減少させる分布をとっている。
【0031】
出力空胴24eの付近には、導波管26が存在するため、主コイル30を配置できない。そのため、主コイル30のみによって出力空胴24eで必要な集束磁場の磁束密度を生成しようとすると、図2のBに示すように相互作用部21の中央付近で過剰な磁束密度となる集束磁場の生成が必要となる。
【0032】
本実施形態では、出力側コイル32を用いるため、図2のAに示すように、出力空胴24eの前で主コイル30による過剰な磁束密度を与えずとも、出力空胴24eで必要な集束磁場の磁束密度を生成することができる。これにより、主コイル30で生成させる集束磁場の磁束密度を低減できるため、主コイル30のコイル巻き数の削減が可能となり、主コイル30の設置面積の削減や使用電力の削減も可能となる。
【0033】
また、出力側コイル32を用いる場合、出力側ヨーク35が用いられる。この出力側ヨーク35は、コレクタ側ポールピース28に接して出力側コイル32の内周側に配置される内周部36、この内周部36の先端側から外径方向に向けて設けられて出力側コイル32の端面側に配置される端面部37、およびこの端面部37から主ヨーク33に向けて設けられているとともに主ヨーク33に接して出力側コイル32の外周側に配置される外周部38を備えている。
【0034】
電子ビームを集束した磁束は、コレクタ側ポールピース28に侵入し、このコレクタ側ポールピース28から出力側ヨーク35内を通過して主ヨーク33に伝播する。
【0035】
出力側ヨーク35の内周部36と端面部37との間、つまり内周部36と端面部37とが直角に交わる角部では、径が小さく、屈曲しているため、磁束が集中しやすく、断面積拡大部39が設けられていない場合、図3のDに示すように、出力側ヨーク35内での磁束密度が高くなりやすい。そのため、クライストロン10の小径化を進めたり、高磁場化を進める場合に、出力側ヨーク35のヨーク材質の固有の飽和磁束密度を超過する虞がある。
【0036】
本実施形態では、出力側ヨーク35の内周部36と端面部37との間で、つまり内周部36と端面部37とが直角に交わる角部で、出力側コイル32に対向する内面側に、その内面側に拡大することによって出力側ヨーク35の断面積を拡大する内周側の断面積拡大部39が設けられているため、図3のCに示すように、出力側ヨーク35内での磁束密度を低減することができる。そのため、クライストロン10の小径化を進めたり、高磁場化を進める場合でも、出力側ヨーク35のヨーク材質の固有の飽和磁束密度を超過するのを防止できる。
【0037】
また、出力側ヨーク35の端面部37と外周部38との間で、つまり端面部37と外周部38とが直角に交わる角部で、出力側コイル32と対向する内面側に、その内面側に拡大することによって出力側ヨーク35の断面積を拡大する外周側の断面積拡大部40が設けられているため、出力側ヨーク35内での磁束密度を低減することができる。出力側ヨーク35の端面部37と外周部38との間は、内周部36と端面部37との間に対して、径が大きく、断面積が周方向に拡大しているため、外周側の断面積拡大部40を必ずしも設ける必要はないが、外周側の断面積拡大部40を設けることで、出力側ヨーク35内での磁束密度を低減することができる。
【0038】
このように、本実施形態のクライストロン10によれば、出力側ヨーク35の内周部36と端面部37との間に断面積拡大部39を設けることにより、クライストロン10の小径化を進めたり、高磁場化を進める場合でも、出力側ヨーク35のヨーク材質の固有の飽和磁束密度を超過するのを防止でき、小径化や高磁場化に対応できる。
【0039】
さらに、出力側ヨーク35の端面部37と外周部38との間にも断面積拡大部39を設けることにより、出力側ヨーク35のヨーク材質の固有の飽和磁束密度を超過するのを防止できる。
【0040】
また、断面積拡大部39,40をテーパー状の形状とすることにより、磁束の通過を円滑にし、断面積拡大部39,40による断面積拡大の効果を高めることができる。
【0041】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10 クライストロン
12 集束磁場装置
20 電子銃
22 コレクタ
24 共振空胴
27 電子銃側ポールピース
28 コレクタ側ポールピース
30 主コイル
32 出力側コイル
33 主ヨーク
35 出力側ヨーク
36 内周部
37 端面部
38 外周部
39,40 断面積拡大部
図1
図2
図3