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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】二次電池正極用スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/1397 20100101AFI20220511BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20220511BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20220511BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
H01M4/1397
H01M4/58
C01B25/45 Z
H01M4/62 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019551448
(86)(22)【出願日】2018-03-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 KR2018003257
(87)【国際公開番号】W WO2018174538
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2019-09-18
(31)【優先権主張番号】10-2017-0037052
(32)【優先日】2017-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0031616
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ビョン・フン・アン
(72)【発明者】
【氏名】サン・フン・チョイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ワン・ク
(72)【発明者】
【氏名】ヒョン・チュル・ハ
【審査官】佐宗 千春
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-266400(JP,A)
【文献】特開2009-064564(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0037071(KR,A)
【文献】特開2009-187819(JP,A)
【文献】特開2014-209463(JP,A)
【文献】特開2013-008485(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0016852(KR,A)
【文献】特開2015-153529(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043818(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸鉄リチウム系正極活物質、導電材、バインダー、溶媒、および分散剤を投入してペースト状の第1混合物を形成するステップと、
前記ペースト状の第1混合物に溶媒をさらに投入しながら混合することで、正極用スラリーを製造するステップと、を含み、
前記分散剤が水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)を含み、
前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)を含む分散剤は、水素化ブタジエン(HBD)の割合が下記式1を満たし、
[式1]
1(%)≦HBDwt%/(BD+HBD)wt%×100≦30(%)
前記式1中、HBDwt%は、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)の全重量に対する、水素化ブタジエン(HBD)由来の繰り返し単位の重量%であり、(BD+HBD)wt%は、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)の全重量に対する、ブタジエン(BD)由来の繰り返し単位と水素化ブタジエン(HBD)由来の繰り返し単位の重量%である、二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項2】
前記第1混合物の固形分の含量が50~75重量%である、請求項1に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項3】
前記第1混合物の固形分の含量が60~70重量%である、請求項1に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項4】
前記第1混合物のせん断速度10-1/sでのせん断粘性率が1,000~5,000Pa・s(23℃)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項5】
前記第1混合物のせん断速度1/sでのせん断粘性率が100~500Pa・s(23℃)である、請求項1から4のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記第1混合物のせん断速度10-1/sでのせん断粘性率が2,000~3,000Pa・s(23℃)であり、前記第1混合物のせん断速度1/sでのせん断粘性率が200~300Pa・s(23℃)である、請求項1から3のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質は、平均粒径(D50)が1μm未満の一次粒子である、請求項1から6のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項8】
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質が下記化学式1で表され、
[化学式1]
Li1+aFe1-xPO4-b
前記化学式1中、Mは、Mn、Ni、Co、Cu、Sc、Ti、Cr、V、およびZnからなる群から選択される何れか一つ以上であり、Aは、S、Se、F、Cl、およびIからなる群から選択される何れか一つ以上であり、-0.5<a<0.5、0≦x<0.5、0≦b≦0.1である、請求項1から7のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【請求項9】
前記分散剤は、リン酸鉄リチウム系正極活物質100重量部に対して0.8~1.5重量部で混合される、請求項1から8のいずれか一項に記載の二次電池正極用スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年3月23日付けの韓国特許出願第10-2017-0037052号および2018年3月19日付けの韓国特許出願第10-2018-0031616号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、二次電池正極用スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に関する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池の中でも、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化されて広く用いられている。
【0004】
従来のリチウム二次電池は、正極活物質の主成分として、作用電圧が高く、容量特性に優れたリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)を使用していたが、前記リチウム含有コバルト酸化物は、脱リチウムによる結晶構造の不安定化によって熱的特性が非常に悪く、高価であるため、リチウム二次電池を大量生産することが困難であるという問題があった。
【0005】
近年、リチウムに比べて、~3.5Vの電圧、約3.6g/cmの高い容積密度、約170mAh/gの理論容量を有し、且つコバルトに比べて高温安定性に優れるだけでなく、価格も安いリン酸鉄リチウム(LiFePO)系化合物が、リチウム二次電池の正極活物質として注目されている。
【0006】
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質は、構造的に非常に安定した正極活物質であるが、電気伝導度およびイオン伝導度が低いという欠点がある。そこで、リン酸鉄リチウム系正極活物質の表面に炭素をコーティングして電気伝導度を改善し、リン酸鉄リチウム系正極活物質の粒子サイズを減少させてイオン伝導度を改善して適用している。
【0007】
しかし、正極活物質の粒子サイズの減少により比表面積が増加し、正極活物質粒子同士の凝集が激しく発生して分散しにくくなるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、粒子サイズを減少させたリン酸鉄リチウム系正極活物質の凝集を抑え、分散性を向上させることができる二次電池正極用スラリーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、リン酸鉄リチウム系正極活物質、導電材、バインダー、および溶媒を投入してペースト状の第1混合物を形成するステップと、前記ペースト状の第1混合物に溶媒をさらに投入しながら混合(mixing)することで、正極用スラリーを製造するステップと、を含む、二次電池正極用スラリーの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、粒子サイズを減少させたリン酸鉄リチウム系正極活物質の凝集を抑え、分散性を向上させることで分散粒度を低めることができ、本発明による正極スラリーをコーティングして製造された正極は、表面に粒が形成されることなく均一なコーティングが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1による正極用スラリーで製造された正極の表面写真である。
図2】比較例1による正極用スラリーで製造された正極の表面写真である。
図3】比較例2による正極用スラリーで製造された正極の表面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明が容易に理解されるように、本発明をより詳細に説明する。この際、本明細書および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0013】
本発明の二次電池正極用スラリー組成物の製造方法は、リン酸鉄リチウム系正極活物質、導電材、バインダー、および溶媒を投入してペースト状の第1混合物を形成するステップと、前記ペースト状の第1混合物に溶媒をさらに投入しながら混合(mixing)することで、正極用スラリーを製造するステップと、を含む。
【0014】
リン酸鉄リチウム系正極活物質は、構造的に非常に安定した正極活物質であるが、電気伝導度およびイオン伝導度が低いという欠点がある。そこで、リン酸鉄リチウム系正極活物質の表面に炭素をコーティングして電気伝導度を改善し、リン酸鉄リチウム系正極活物質の粒子サイズを減少させてイオン伝導度を改善して適用している。
【0015】
従来は、このようにリン酸鉄リチウム系正極活物質の粒子サイズを減少させていたため、正極活物質粒子同士の凝集が激しく発生し、分散が困難であった。
【0016】
そこで、本発明は、リン酸鉄リチウム系正極活物質、導電材、バインダー、および溶媒を混合してペースト状の第1混合物を製造し、ペースト状の第1混合物に溶媒をさらに投入しながら混合(mixing)することで、正極用スラリーを製造することにより、粒子サイズを減少させたリン酸鉄リチウム系正極活物質の分散性の問題を解決した。第1混合物がペーストである状態で溶媒をさらに投入しながら混合(mixing)を行うと、混合(mixing)工程で加えられるせん断応力(shear stress)(せん断速度(shear rate)およびせん断粘性率(shear viscosity)に比例する)を効率的に伝達することができるため、粒子サイズの減少によって比表面積が増加したリン酸鉄リチウム系正極活物質であっても、分散性を向上させることができる。
【0017】
前記ペースト状の第1混合物は、固形分の割合を調節して形成してもよい。具体的に、前記第1混合物は、固形分の含量が50~75重量%であってもよい。第1混合物は、固形分の含量が、より好ましくは60~70重量%、最も好ましくは65~70重量%であってもよい。前記第1混合物の固形分の含量が50重量%未満である場合には、混合物が、粘度の低い液状の形態となるが、この場合、混合(mixing)過程でせん断速度(shear rate)の増加効果は十分に伝達できるとしても、せん断粘性率(shear viscosity)が低いため、せん断応力(shear stress)の向上には限界があって、分散性が低下し得る。また、第1混合物の固形分の含量が75重量%を超える場合には、混合物が、非常に高い粘度の凝集体を形成することになるが、この場合、せん断粘性率(shear viscosity)が非常に高くても、混合(mixing)過程で伝達されるせん断速度(shear rate)の増加効果が低下し、分散性が低下し得る。したがって、前記第1混合物の固形分の含量を本発明の範囲内に調節し、ペーストを形成した状態で混合(mixing)を開始することで、せん断応力(shear stress)を効率的に伝達することができ、分散性を著しく向上させることができる。
【0018】
より具体的に、前記第1混合物は、せん断速度10-1/sでのせん断粘性率が1,000~5,000Pa・s(23℃)であってもよく、また、前記第1混合物は、せん断速度1/sでのせん断粘性率が100~500Pa・s(23℃)であってもよい。また、前記第1混合物は、せん断速度10-1/sでのせん断粘性率が2,000~3,000Pa・s(23℃)であり、1/sでのせん断粘性率が200~300Pa・s(23℃)であってもよい。
【0019】
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質は、下記化学式1で表されてもよい。
【0020】
[化学式1]
Li1+aFe1-xPO4-b
【0021】
前記化学式1中、Mは、Mn、Ni、Co、Cu、Sc、Ti、Cr、V、およびZnからなる群から選択される何れか一つ以上であり、Aは、S、Se、F、Cl、およびIからなる群から選択される何れか一つ以上であり、-0.5<a<0.5、0≦x<0.5、0≦b≦0.1であってもよい。
【0022】
例えば、前記リン酸鉄リチウム系正極活物質はLiFePOであってもよい。また、前記リン酸鉄リチウム系正極活物質は、電気伝導度を向上させるために、粒子表面に炭素系物質がコーティングされてもよい。
【0023】
前記リン酸鉄リチウム系正極活物質は、平均粒径(D50)が1μm未満の一次粒子であってもよく、より好ましくは0.9μm未満、最も好ましくは0.8μm未満の一次粒子であってもよい。従来は、平均粒径(D50)1μm未満のリン酸鉄リチウム系正極活物質は、比表面積が大きいため、凝集が激しく発生して分散が困難であったが、本発明は、ペースト状の混合物を混合(mixing)することで、せん断応力(shear stress)を効率的に伝達することにより、分散性を向上させることができる。
【0024】
前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられるものであって、構成される二次電池において、化学変化を引き起こすことなく、且つ電気伝導性を有するものであれば特に制限されずに使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;およびポリフェニレン誘導体などの導電性高分子からなる群から選択される何れか一つ以上が挙げられる。前記導電材は、正極用スラリーの総重量に対して1~30重量%で含まれてもよい。
【0025】
前記バインダーは、正極活物質粒子同士の付着、および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDP)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴムからなる群から選択される何れか一つ以上またはこれらの共重合体が挙げられる。前記バインダーは、正極用スラリーの総重量に対して1~30重量%で含まれてもよい。
【0026】
前記溶媒としては、当技術分野において一般に用いられる溶媒が使用可能であり、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)、または水などが挙げられ、これらのうち一種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてもよく、より好ましくはN‐メチルピロリドン(NMP)が使用できる。
【0027】
一方、前記第1混合物の形成時に、分散剤をさらに投入してもよい。前記分散剤としては、通常用いられる分散剤が使用可能であり、必ずしも制限されるものではないが、より好ましくは、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)を用いてもよい。
【0028】
前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)は、ニトリルブタジエンゴム(NBR)を水素添加反応させることで、本来にニトリルブタジエンゴム(NBR)に含まれていた二重結合が単結合となったものを意味する。
【0029】
前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)分散剤は、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)の全重量に対して、アクリロニトリル(Acrylonitrile、AN)由来の繰り返し単位の含有量が20~50重量%であってもよく、より好ましくは25~45重量%、最も好ましくは30~40重量%であってもよい。
【0030】
前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)分散剤は、水素化ブタジエン(Hydrogenated butadiene、HBD)の割合が下記式1を満たしてもよい。
【0031】
[式1]
1(%)≦HBDwt%/(BD+HBD)wt%×100≦30(%)
【0032】
前記式1中、HBDwt%は、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)の全重量に対する、水素化ブタジエン(HBD)由来の繰り返し単位の重量%であり、(BD+HBD)wt%は、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)の全重量に対する、ブタジエン(BD)由来の繰り返し単位と水素化ブタジエン(HBD)由来の繰り返し単位の重量%である。
【0033】
より好ましくは、前記式1の水素化ブタジエン(HBD)の割合は5~25%であり、最も好ましくは10~25%であってもよい。
【0034】
前記式1の水素化ブタジエン(HBD)の割合が1%未満である場合には、正極活物質の表面にコーティングされた炭素コーティング表面との結合力が低下し、分散液の製造時に湿潤が円滑になされないため、分散性が低下し得る。また、前記式1の水素化ブタジエン(HBD)の割合が30%を超える場合には、水素化ニトリルブタジエンゴムの分散媒に対する溶解度が減少し得る。
【0035】
前記水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)分散剤は、重量平均分子量(MW)が10,000~700,000であり、より好ましくは25,000~600,000、最も好ましくは300,000~500,000であってもよい。
【0036】
前記分散剤は、前記リン酸鉄リチウム系正極活物質100重量部に対して、0.8~1.5重量部で含まれてもよく、より好ましくは0.8~1.3重量部、最も好ましくは1~1.2重量部で含まれてもよい。
【0037】
前記混合(mixing)は、通常の混合(mixing)方法により行われてもよく、例えば、ホモジナイザ、ビーズミル、ボールミル、バスケットミル、アトリションミル、万能撹拌機、クリアミキサ、またはTKミキサなどのような混合(mixing)装置を用いて行われてもよい。
【0038】
このように、本発明の一実施形態に従って、リン酸鉄リチウム系正極活物質、導電材、バインダー、および溶媒を含む混合物をペースト状態で混合(mixing)することで、リン酸鉄リチウム系正極活物質の分散性を改善することができ、上記の正極用スラリーでコーティングして製造された正極は、表面に粒が形成されることなく均一なコーティンが可能である。
【0039】
上記の二次電池正極用スラリー組成物を用いて二次電池用正極を製造することができる。
【0040】
具体的に、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、上記の正極用スラリー組成物を用いて形成した正極活物質層と、を含む。
【0041】
前記正極集電体としては、電池に化学的変化を誘発することなく、且つ導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが用いられてもよい。また、前記正極集電体は、通常、3~500μmの厚さを有し、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成することで正極活物質の接着力を高めてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態が可能である。
【0042】
前記正極は、上記の正極用スラリー組成物を使用することを除き、通常の正極の製造方法により製造されることができる。具体的に、上記の正極用スラリー組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されることができる。
【0043】
また、他の方法として、前記正極は、上記の正極用スラリー組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0044】
また、本発明のさらに他の一例によると、前記正極を含む電気化学素子が提供される。前記電気化学素子は、具体的に、電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的にはリチウム二次電池であってもよい。
【0045】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質と、を含み、前記正極は上述のとおりである。また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器と、前記電池容器を密封する密封部材と、を選択的にさらに含んでもよい。
【0046】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層と、を含む。
【0047】
前記負極集電体としては、電池に化学的変化を誘発することなく、且つ高い導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3μm~500μmの厚さを有し、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成することで、負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態が可能である。
【0048】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的にバインダーおよび導電材を含む。
【0049】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的な挿入および脱離が可能な化合物が使用可能である。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金、またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープできる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのうち何れか一つまたは二つ以上の混合物が使用可能である。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料としては、低結晶性炭素および高結晶性炭素などが何れも使用可能である。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)およびハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、麟片状、球状、または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso-carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)、および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0050】
また、前記バインダーおよび導電材は、上述の正極についての説明と同様である。
【0051】
前記負極活物質層は、一例として、負極集電体上に、負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布して乾燥するか、または、前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0052】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、且つリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、リチウム二次電池でセパレータとして通常用いられるものであれば特に制限されずに使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対する抵抗が低く、且つ電解液含浸能に優れたものが好適である。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、およびエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体が使用可能である。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するために、セラミック成分または高分子物質がコーティングされたセパレータが用いられてもよく、選択的に、単層または多層構造として用いられてもよい。
【0053】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0054】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含んでもよい。
【0055】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たすことができるものであれば特に制限されずに使用可能である。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、炭素数2~20の直鎖状、分岐状、または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてもよい。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなど)との混合物がより好ましい。この際、環状カーボネートと直鎖状カーボネートは、約1:1~約1:9の体積比で混合して用いることが、電解液の性能に優れてよい。
【0056】
前記リチウム塩としては、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供できる化合物であれば特に制限されずに使用可能である。具体的に、前記リチウム塩としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが用いられてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1~2.0Mの範囲内で用いることが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲内である場合、電解質が適切な伝導度および粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0057】
前記電解質には、上記の電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノール、または三塩化アルミニウムなどの添加剤が一種以上さらに含まれてもよい。この際、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1~5重量%で含まれてもよい。
【0058】
上記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性、および容量維持率を安定して示すため、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle、HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0059】
これにより、本発明の他の態様によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール、およびそれを含む電池パックが提供される。
【0060】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムの何れか一つ以上の中大型デバイスの電源として利用されることができる。
【0061】
本発明のリチウム二次電池の外形は特に制限されないが、缶を用いた円筒形、角形、パウチ(pouch)形、またはコイン(coin)形などが可能である。
【0062】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに使用可能であるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールにおける単位電池としても好適に使用可能である。
【0063】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0064】
[実施例1]
正極活物質として平均粒径(D50)1.2μmのLiFePO、導電材としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを、N‐メチルピロリドン溶媒に、93:3:4の割合(重量比)でホモディスパー(Homo‐disper)を用いて3000rpmで60分間混合することで、第1混合物を製造した。この際、第1混合物の固形分の含量は68重量%であった。このように製造されたペースト状の第1混合物にN‐メチルピロリドン溶媒をさらに投入しながら、ホモミキサー(Homo mixer)を用いて3,000rpmで20分間混合(mixing)して正極用スラリー(固形分の含量48重量%)を製造した。
【0065】
[実施例2]
正極活物質として平均粒径(D50)1.2μmのLiFePO、導電材としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを、N‐メチルピロリドン溶媒に93:3:4の割合(重量比)で混合し、さらにHNBR分散剤(AN37重量%、HBDの割合21%)を前記正極活物質100重量部に対して1重量部で混合することで第1混合物(固形分の含量68重量%)を製造したことを除き、実施例1と同様に行って正極用スラリー(固形分の含量48重量%)を製造した。
【0066】
[比較例1]
第1混合物の固形分の含量を79重量%とし、このように製造された凝集体状態の第1混合物にN-メチルピロリドン溶媒をさらに投入しながら混合したことを除き、実施例1と同様に行って正極用スラリーを製造した。
【0067】
[比較例2]
第1混合物の固形分の含量を48重量%とし、このように形成された液状の第1混合物をホモミキサー(Homo mixer)を用いて3,000rpmで80分間混合したことを除き、実施例1と同様に行って正極用スラリーを製造した。
【0068】
[実験例1:せん断粘性率(Shear viscosity)の測定]
前記実施例1、2、および比較例1、2の正極用スラリーの製造時に、混合物の23℃でのせん断粘性率(shear viscosity)を測定した。TAインスツルメント社のレオメーター(DHR2)を用いてせん断粘性率を測定した。測定方法としては、DHR2装備の二重円筒(Concentric cylinder)タイプのアクセサリを用いて、前記混合物10mlを投入した後、せん断粘性率を測定した。その結果を下記表1に示した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1を参照すると、混合物の固形分の含量が68重量%である実施例1および2は、せん断速度10-1/sでのせん断粘性率がそれぞれ約2,500Pa・s、2,100Pa・sであり、1/sでのせん断粘性率がそれぞれ約270Pa・s、210Pa・sであるのに対し、混合物の固形分の含量が79重量%である比較例1は、せん断粘性率が非常に増加しており、比較例2は、せん断粘性率が著しく減少した。せん断粘性率が非常に増加した比較例1は、せん断粘性率(shear viscosity)は非常に高いものの、混合物が凝集体を形成するため、混合(mixing)過程でせん断速度(shear rate)の増加効果を伝達しにくく、分散性が低下し得る。また、比較例2は、混合(mixing)過程でせん断速度(shear rate)の増加効果は十分に伝達できるとしても、せん断粘性率(shear viscosity)が非常に低いため、せん断応力(shear stress)の向上には限界があって、分散性が低下し得る。
【0071】
[実験例2:粒度の測定]
前記実施例1、2、および比較例1、2で製造された正極用スラリー中の粒子の粒度分布を確認するために、粒ゲージ(Grind gauge)を用いて粒子の粒サイズを測定した。その結果を下記表2に示した。
【0072】
【表2】
【0073】
表2を参照すると、固形分の含量が68重量%であるペースト状の混合物を混合(mixing)して正極用スラリーを製造した実施例1および2は、スラリー中の粒子の粒度が、比較例1および2に比べて著しく減少していることを確認することができる。分散剤を投入して混合(mixing)した実施例2は、実施例1よりもさらに粒子の粒度が減少していた。
【0074】
[実験例3:電極表面の観察]
前記実施例1および比較例1、2で製造された正極スラリーをそれぞれアルミニウム集電体に塗布し、130℃で乾燥した後、圧延することで正極を製造した。
【0075】
前記実施例1および比較例1、2で製造された正極スラリーを用いて製造された正極の表面を目視観察し、その写真を図1(実施例1)、図2(比較例1)、および図3(比較例2)に示した。
【0076】
図1図3を参照すると、実施例1は、正極の表面に粒が観察されなかったのに対し、比較例1および2は、正極の表面に多数の粒が存在することを確認することができた。これは、せん断応力(shear stress)が効率的に伝達された実施例1は、1μm未満のLiFePO正極活物質が十分に分散されたため、正極用スラリー中の粒子の粒度が小さく、粒が形成されることなく正極が均一にコーティングされたが、比較例1および2は、せん断応力(shear stress)が効率的に伝達されないため、1μm未満のLiFePO正極活物質が十分に分散されず、正極用スラリー中の粒子の粒度が大きくなり、正極の表面に粒が形成されたと考えられる。
図1
図2
図3