(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】液体送液方法および液体送液装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20220511BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20220511BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N1/00 101F
G01N37/00 101
(21)【出願番号】P 2017035564
(22)【出願日】2017-02-27
【審査請求日】2020-01-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】蔡 坤鵬
(72)【発明者】
【氏名】山脇 幸也
(72)【発明者】
【氏名】川本 泰子
(72)【発明者】
【氏名】中西 克実
(72)【発明者】
【氏名】田川 礼人
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】蔵田 真彦
【審判官】井上 博之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/069449(WO,A1)
【文献】特開2004-061320(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0116601(US,A1)
【文献】特表2010-506136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N1/00-1/44, 35/00-35/10
B01J10/00-12/02, 14/00-19/32
B01L1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路が形成された検体処理チップ
を受け入れ、蓋によって前記検体処理チップを上方から覆うことによって、前記蓋の下面に設けられたコネクタを介して前記検体処理チップの収容部に接続される液体送液装置を用いた、前記検体処理チップへの液体送液方法であって、
前記検体処理チップ内の流路に導入する第1の液体とは異なる第2の液体
であって、前記コネクタを介して前記収容部に送液される前記第2の液体の流れを計測し、
計測した流れに基づいて前記第2の液体の流れを一定の流量である第1流量に制御し、
前記第1流量に制御された前記第2の液体により
、前記第2の液体に直接接触した状態の前記第1の液体を
前記収容部から前記流路に押し出すことで、前記第1流量よりも多い第2流量に制御された第3の液体が流れる前記流路に前記第1の液体を一定の流量で導入
して、前記第1の液体を分散質とし、前記第3の液体を連続相とするエマルジョンを形成する、液体送液方法。
【請求項2】
前記第2の液体の流れの制御によって、前記検体処理チップ内の流路に導入される前記第1の液体の流れを制御する、請求項1に記載の液体送液方法。
【請求項3】
流れを計測することは、流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを計測することである、請求項1または2に記載の液体送液方法。
【請求項4】
前記第2の液体は、前記第1の液体に対して非混和性を有する液体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項5】
前記第1の液体は、水相および油相のうち一方の液体であり、
前記第2の液体は、水相および油相のうち他方の液体である、請求項4に記載の液体送液方法。
【請求項6】
前記第2の液体は、前記第1の液体と比重が異なる液体である、請求項4または5に記載の液体送液方法。
【請求項7】
前記第2の液体は、前記検体処理チップにより複数の検体を処理する場合の各検体の処理に共通して使用される液体である、請求項1~6のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項8】
前記第1の液体は、前記検体処理チップにより複数の検体を処理する場合に、各検体毎に液体の組成または対象成分の由来が互いに異なる液体である、請求項1~7のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項9】
前記第1の液体は、検体、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む溶液である、請求項1~8のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項10】
前記第1の液体は、血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む溶液である、請求項9に記載の液体送液方法。
【請求項11】
前記第2の液体は、室温において液体状態である油類を含む液体である、請求項1~10のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項12】
前記第1の液体を、0.1μL/分以上5mL/分以下の流量で前記検体処理チップ内の流路に導入する、請求項1~11のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項13】
前記第1の液体を、0.1μL/分以上1mL/分以下の流量で前記検体処理チップ内の流路に導入する、請求項12に記載の液体送液方法。
【請求項14】
前記検体処理チップ内の前記第3の液体としての分散媒が流れる流路に、前記第1の液体を導入してエマルジョンの形成を行い、エマルジョンの形成では、前記第1の液体を分散質として600個/分以上6億個/分以下の割合で形成する、請求項1~13のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項15】
エマルジョンの形成では、前記第1の液体を分散質として3000個/分以上1800万個/分以下の割合で形成する、請求項14に記載の液体送液方法。
【請求項16】
前記検体処理チップ内の前記第3の液体としての分散媒が流れる流路に、前記第1の液体を導入してエマルジョンの形成を行い、エマルジョンの形成では、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の分散質を前記第1の液体により形成する、請求項1~15のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項17】
エマルジョンの形成では、平均粒径が0.1μm以上200μm以下の分散質を前記第1の液体により形成する、請求項16に記載の液体送液方法。
【請求項18】
前記検体処理チップ内に形成された流路は、断面積が0.01μm
2以上10mm
2以下である、請求項1~17のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項19】
前記検体処理チップ内に形成された流路は、断面積が0.01μm
2以上1mm
2以下である、請求項18に記載の液体送液方法。
【請求項20】
前記検体処理チップ内に形成された流路は、高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下である、請求項19に記載の液体送液方法。
【請求項21】
前記検体処理チップ内に形成された流路は、高さが1μm以上250μm以下であり、幅が1μm以上250μm以下である、請求項20に記載の液体送液方法。
【請求項22】
前記検体処理チップ内の流路へは、前記第1の液体を含む複数種類の液体が導入される、請求項1~21のいずれか1項に記載の液体送液方法。
【請求項23】
流路が形成された検体処理チップ
を受け入れ、蓋によって前記検体処理チップを上方から覆うことによって、前記蓋の下面に設けられたコネクタを介して前記検体処理チップの収容部へ液体を送液するための液体送液装置であって、
前記検体処理チップ内の流路に導入する第1の液体とは異なる
とともに、前記コネクタを介して前記収容部に送液される前記第2の液体の流れを計測するためのセンサと、
計測した流れに基づいて前記第2の液体の流れを一定の流量である第1流量に制御する制御部と、
前記第1流量に制御された前記第2の液体により
、前記第2の液体に直接接触した状態の前記第1の液体を
前記収容部から前記流路に押し出すことで、前記第1流量よりも多い第2流量に制御された第3の液体が流れる前記流路に前記第1の液体を一定の流量で導入
して、前記第1の液体を分散質とし、前記第3の液体を連続相とするエマルジョンを形成する送液部と、を備える、液体送液装置。
【請求項24】
前記制御部は、前記送液部による前記第2の液体の流れを制御することにより、前記検体処理チップ内の流路に導入される前記第1の液体の流れを制御する、請求項23に記載の液体送液装置。
【請求項25】
前記センサは、流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを計測して、流れを計測する、請求項23または24に記載の液体送液装置。
【請求項26】
前記第2の液体は、前記第1の液体に対して非混和性を有する液体である、請求項23~25のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項27】
前記第1の液体は、水相および油相のうち一方の液体であり、
前記第2の液体は、水相および油相のうち他方の液体である、請求項26に記載の液体送液装置。
【請求項28】
前記第2の液体は、前記第1の液体と比重が異なる液体である、請求項26または27に記載の液体送液装置。
【請求項29】
前記第2の液体は、前記検体処理チップにより複数の検体を処理する場合の各検体の処理に共通して使用される液体である、請求項23~28のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項30】
前記第1の液体は、前記検体処理チップにより複数の検体を処理する場合に、各検体毎に液体の組成または対象成分の由来が互いに異なる液体である、請求項23~29のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項31】
前記第1の液体は、検体、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む溶液である、請求項23~30のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項32】
前記第1の液体は、血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む溶液である、請求項31に記載の液体送液装置。
【請求項33】
前記第2の液体は、室温において液体状態である油類を含む液体である、請求項23~32のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項34】
前記送液部は、前記第1の液体を0.1μL/分以上5mL/分以下の流量で前記検体処理チップ内の流路に導入する、請求項23~33のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項35】
前記送液部は、前記第1の液体を0.1μL/分以上1mL/分以下の流量で前記検体処理チップ内の流路に導入する、請求項34に記載の液体送液装置。
【請求項36】
前記検体処理チップ内の前記第3の液体としての分散媒が流れる流路に、前記第1の液体が導入されてエマルジョンの形成が行われ、前記第1の液体が分散質として600個/分以上6億個/分以下の割合で形成される、請求項23~35のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項37】
前記検体処理チップ内の前記第3の液体としての分散媒が流れる流路に、前記第1の液体が導入されてエマルジョンの形成が行われ、前記第1の液体が分散質として3000個/分以上1800万個/分以下の割合で形成される、請求項36に記載の液体送液装置。
【請求項38】
前記検体処理チップ内の前記第3の液体としての分散媒が流れる流路に、前記第1の液体が導入されてエマルジョンの形成が行われ、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の分散質が前記第1の液体により形成される、請求項23~37のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項39】
前記検体処理チップ内の前記第3の液体としての分散媒が流れる流路に、前記第1の液体が導入されてエマルジョンの形成が行われ、平均粒径が0.1μm以上200μm以下の分散質が前記第1の液体により形成される、請求項38に記載の液体送液装置。
【請求項40】
前記検体処理チップ内に形成された流路は、断面積が0.01μm
2以上10mm
2以下である、請求項23~39のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項41】
前記検体処理チップ内に形成された流路は、断面積が0.01μm
2以上1mm
2以下である、請求項40に記載の液体送液装置。
【請求項42】
前記検体処理チップ内に形成された流路は、高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下である、請求項41に記載の液体送液装置。
【請求項43】
前記検体処理チップ内に形成された流路は、高さが1μm以上250μm以下であり、幅が1μm以上250μm以下である、請求項42に記載の液体送液装置。
【請求項44】
前記検体処理チップ内の流路へは、前記第1の液体を含む複数種類の液体が導入される、請求項23~43のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項45】
前記センサと前記検体処理チップの流路入口との間の導入経路上に配置され、前記第1の液体を収容する第1容器を備え、
前記送液部は、前記第2の液体を前記第1容器に流入させることにより、前記第1の液体を前記検体処理チップ内の流路へ導入する、請求項23~44のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項46】
前記送液部と前記センサとの間の導入経路上に配置され、前記第2の液体を収容する第2容器を備え、
前記送液部は、前記第2容器に圧力を付加することにより、前記第2の液体を送液する、請求項23~45のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項47】
前記第1の液体は、検体を含む溶液であり、
前記第1の液体を収容する検体容器および前記検体処理チップが複数設けられている、請求項23~46のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項48】
前記検体処理チップの流路入口に接続され、前記第1の液体を収容するリザーバを備え、
前記送液部は、前記第2の液体を前記リザーバに流入させることにより、前記第1の液体を流路入口より前記検体処理チップ内の流路へ導入する、請求項23~47のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項49】
前記第1の液体は、検体を含む溶液であり、
前記第1の液体を収容するリザーバが配置された前記検体処理チップが複数設けられている、請求項23~48のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【請求項50】
前記センサは、前記第2の液体の流路に埋め込まれている、請求項23~49のいずれか1項に記載の液体送液装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
流路が形成された検体処理チップへ液体を送液する液体送液方法および液体送液装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路が形成された検体処理チップを用いて正確な処理を行う場合には、流路を流れる液体の流量を精度よく制御する必要がある。従来、流量センサを流路上に設置し、流路に導入する検体溶液を送液する方法が知られている(たとえば、非特許文献1参照)。この非特許文献1の送液方法では、
図60に示すように、センサ506により検体溶液の流量を測定し、測定した検体溶液の流量を制御部501がフィードバック制御することにより流路505への検体溶液の流量制御が行われている。
【0003】
非特許文献1のような送液方法では、複数の検体を処理するときには、検体が変わるごとに流量センサを含めて検体導入系統の洗浄を十分行うか、または、流量センサを含む検体導入系統を未使用のものに取り換えるか(ディスポーザブル)などの対策が必要である。洗浄が不十分である場合にはコンタミネーションが発生するという不都合がある。
【0004】
そこで、流路に導入する液体に空気圧を作用させて送液する方法が知られている(たとえば、非特許文献2参照)。この非特許文献2の送液方法では、
図61に示すように、ポンプ502が出力した空気圧をセンサ503により測定し、測定した空気圧を制御部501がフィードバック制御することにより流路505へ導入する液体の流量制御が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】AUTEBERT,Julien,et al. Convection-Enhanced Biopatterning with Recirculation of Hydrodynamically Confined Nanoliter Volumes of Reagents. Analytical chemistry,2016,88.6:3235-3242.
【文献】YUN, Hoyoung,et al. Sequential Multi-Molecule Delivery Using Vortex-Assisted Electroporation. Lab on a Chip 2013.13.14: 2764-2772.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2の送液方法では、検体が変わるごとに流量センサを含めて検体導入系統の洗浄を十分行うか、または、流量センサを含む検体導入系統を未使用のものに取り換えるか(ディスポーザブル)などの対策を行わなくても、コンタミネーションの発生を防止することができるものの、流量の測定対象の流体が気体であることから、僅かな圧変動で体積変化が生じるため、流路に導入する液体の流れを精度よく制御することが困難であるという問題点がある。
【0007】
この発明は、流路が形成された検体処理チップにより液体の処理を行う場合に、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの発生を防止しつつ、検体試料や試薬などのチップ内流路へ導入する液体の流れを精度よく制御する液体送液方法および液体送液装置を提供することに向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の第1の局面による液体送液方法は、流路(201)が形成された検体処理チップ(200)を受け入れ、蓋によって検体処理チップを上方から覆うことによって、蓋の下面に設けられたコネクタを介して検体処理チップの収容部に接続される液体送液装置を用いた、検体処理チップへの液体送液方法であって、検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する第1の液体(21)とは異なる第2の液体(22)であって、コネクタを介して収容部に送液される第2の液体の流れを計測し、計測した流れに基づいて第2の液体(22)の流れを一定の流量である第1流量に制御し、第1流量に制御された第2の液体(22)により、第2の液体に直接接触した状態の第1の液体(21)を収容部から流路に押し出すことで、第1流量よりも多い第2流量に制御された第3の液体が流れる流路(201)に第1の液体を一定の流量で導入して、第1の液体を分散質とし、第3の液体を連続相とするエマルジョンを形成する。
【0009】
第1の局面による液体送液方法では、上記のように、計測した第2の液体(22)の流れに基づいて第2の液体(22)の流れを制御し、流れが制御された第2の液体(22)により第1の液体(21)を検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する。これにより、第1の液体(21)が第2の液体(22)により送液されるので、第1の液体(21)を気体の圧力を作用させて送液する場合と異なり、第2の液体(22)が圧縮されるのを抑制することができる。これにより、第1の液体(21)の流れを精度よく制御することができる。また、第2の液体(22)の流れを計測して、フィードバック制御することができるので、第1の液体(21)の流路中にセンサを設ける必要がない。これにより、複数の第1の液体(21)に対して検体処理チップ(200)により処理を行う場合でも、処理毎にセンサが設けられた流路を洗浄したり、交換したりする必要がない。その結果、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの問題を効果的に解決することができる。これらにより、流路(201)が形成された検体処理チップ(200)により液体の処理を行う場合に、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの発生を防止しつつ、検体試料や試薬などのチップ内流路(201)へ導入する液体の流れを精度よく制御することができる。このような効果は、流れの制御が細かくなるマイクロ流路に第1の液体(21)を供給して処理する場合に、特に有効である。
【0010】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、第2の液体(22)の流れの制御によって、検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入される第1の液体(21)の流れを制御する。このように構成すれば、気体に比べて圧縮されにくい液体である第2の液体(22)の流れの制御により、第1の液体(21)の流れを制御することができるので、第1の液体(21)の流路(201)に流れを計測するセンサを設けることなく、第1の液体(21)の流れを精度よく制御することができる。
【0011】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、流れを計測することは、流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを計測することである。なお、流量は、単位時間あたりに通過する液体の体積または質量である。また、流速は、液体の代表する線速度である。代表する線速度は、たとえば、平均速度、最大速度などである。圧力は、液体の圧力である。このように構成すれば、第2の液体(22)の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れを制御して、第1の液体(21)の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れを精度よく制御することができる。
【0012】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、第2の液体(22)は、第1の液体(21)に対して非混和性を有する液体である。なお、第2の液体(22)が第1の液体(21)に対して非混和性を有している場合、第2の液体(22)が第1の液体(21)に接した場合に、境界が生じ、2つの相が形成される。たとえば、第2の液体(22)は、第1の液体(21)に対して、1体積%未満の溶解性を有している。つまり、非混和性とは、完全に混ざらない状態の性質のみならず、略混ざらない状態の性質も含む。つまり、第2の液体(22)は、第1の液体(21)に対して僅かであれば混ざってもよい。このように構成すれば、第1の液体(21)に対して第2の液体(22)を接触させた場合でも、第1の液体(21)に第2の液体(22)が混ざって第1の液体(21)が希釈されたり、不純物が混入したりするのを抑制することができる。
【0013】
この場合、好ましくは、第1の液体(21)は、水相および油相のうち一方の液体であり、第2の液体(22)は、水相および油相のうち他方の液体である。このように構成すれば、第1の液体(21)と第2の液体(22)とのうち、一方を油相にして、他方を水相にすることによって、第1の液体(21)と第2の液体(22)とを容易に混ざりにくくすることができる。
【0014】
上記第2の液体(22)が第1の液体(21)に対して混ざりにくい液体である場合において、好ましくは、第2の液体(22)は、第1の液体(21)と比重が異なる液体である。このように構成すれば、第1の液体(21)が収容された容器に第2の液体(22)を導入した場合でも、比重の違いにより、第1の液体(21)と第2の液体(22)とを上下に分離することができる。
【0015】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、第2の液体(22)は、検体処理チップ(200)により複数の検体を処理する場合の各検体の処理に共通して使用される液体である。このように構成すれば、第2の液体(22)の流れを計測するセンサ(12)を設ける流路を、検体毎に洗浄したり、交換したりする必要がない。これにより、センサ(12)を設ける数を最小限にすることができるとともに、作業を簡素化することができる。
【0016】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、第1の液体(21)は、検体処理チップ(200)により複数の検体を処理する場合に、各検体毎に液体の組成または対象成分の由来が互いに異なる液体である。このように構成すれば、成分が互いに異なる第1の液体(21)の流路(201)を検体毎に異なるようにすることにより、異なる検体が混ざり合うのを抑制することができる。
【0017】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、第1の液体(21)は、検体、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む溶液である。このように構成すれば、検体、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む溶液の流れを精度よく制御して送液することができる。
【0018】
この場合、好ましくは、第1の液体(21)は、血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む溶液である。このように構成すれば、血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む溶液の流れを精度よく制御して送液することができる。
【0019】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、第2の液体(22)は、室温において液体状態である油類を含む液体である。なお、室温とは、約20℃の温度であり、0℃以上40℃以下の範囲の温度を含む。このように構成すれば、室温において、第1の液体(21)を処理する場合に、液体状態の第2の液体(22)により、第1の液体(21)を容易に送液することができる。
【0020】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、第1の液体(21)を、0.1μL/分以上5mL/分以下の流量で検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する。このように構成すれば、0.1μL/分以上5mL/分以下の第1の液体(21)の流量を精度よく制御することができる。
【0021】
この場合、好ましくは、第1の液体(21)を、0.1μL/分以上1mL/分以下の流量で検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する。このように構成すれば、1mL/分以下の流量で第1の液体(21)を送液することにより、IVDにおける高いスループットを実現することができる。
【0022】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、検体処理チップ(200)内の第3の液体としての分散媒が流れる流路(201)に、第1の液体(21)を導入してエマルジョンの形成を行い、エマルジョンの形成では、第1の液体(21)を分散質として600個/分以上6億個/分以下の割合で形成する。なお、エマルジョンは、液体の微粒子が分散質として、非混和の他の液体に分散した乳状の液体である。また、エマルジョンは、分散媒と、分散質とを含む。分散媒は、分散質を取り囲み連続相を形成する。分散質は、分散媒に対して液滴状に分散している。このように構成すれば、第1の液体(21)の流れを精度よく制御して第1の液体(21)を分散質としてエマルジョンを形成することができるので、分散質の粒径のばらつきを抑制することができる。また、600個/分以上6億個/分以下の割合で、粒径の揃ったエマルジョンを効率よく形成することができる。
【0023】
この場合、好ましくは、エマルジョンの形成では、第1の液体(21)を分散質として3000個/分以上1800万個/分以下の割合で形成する。このように構成すれば、3000個/分以上1800万個/分以下の割合で、粒径の揃ったエマルジョンをより効率よく形成することができる。
【0024】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、検体処理チップ(200)内の第3の液体としての分散媒が流れる流路(201)に、第1の液体(21)を導入してエマルジョンの形成を行い、エマルジョンの形成では、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の分散質を第1の液体(21)により形成する。このように構成によれば、第1の液体(21)の流れを精度よく制御して第1の液体(21)を分散質としてエマルジョンを形成することができるので、分散質の粒径のばらつきを抑制することができる。また、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の粒径の揃ったエマルジョンを効率よく形成することができる。
【0025】
この場合、好ましくは、エマルジョンの形成では、平均粒径が0.1μm以上200μm以下の分散質を第1の液体(21)により形成する。このように構成すれば、バイオ測定に適した平均粒径が200μm以下の分散質のエマルジョンを効率よく形成することができる。
【0026】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)は、断面積が0.01μm2以上10mm2以下である。なお、流路(201)における断面積とは、流路(201)における液体の流通方向に直交する断面における断面積である。このように構成すれば、小さい流れで一定に保つのが困難である場合でも、流れを細かく制御して送液することができるので、断面積が0.01μm2以上10mm2以下の小さい断面積の流路(201)に小さい流れの第1の液体(21)を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。
【0027】
この場合、好ましくは、検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)は、断面積が0.01μm2以上1mm2以下である。このように構成すれば、断面積が1mm2以下の流路(201)により小さい流れの第1の液体(21)を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。
【0028】
上記検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)の断面積が0.01μm2以上1mm2以下である構成において、好ましくは、検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)は、高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下である。このように構成すれば、高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下の小さい流路(201)に第1の液体(21)を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。
【0029】
この場合、好ましくは、検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)は、高さが1μm以上250μm以下であり、幅が1μm以上250μm以下である。このように構成すれば、高さが1μm以上250μm以下であり、幅が1μm以上250μm以下のより小さい流路(201)に第1の液体(21)を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。
【0030】
上記第1の局面による液体送液方法において、好ましくは、検体処理チップ(200)内の流路(201)へは、第1の液体(21)を含む複数種類の液体が導入される。このように構成すれば、検体処理チップ(200)内に導入される他の液体と第1の液体(21)との相対量を精度よく制御することができるので、検体処理チップ(200)における処理を精度よく行うことができる。
【0031】
この発明の第2の局面による液体送液装置(100)は、流路(201)が形成された検体処理チップ(200)を受け入れ、蓋によって検体処理チップを上方から覆うことによって、蓋の下面に設けられたコネクタを介して検体処理チップの収容部へ液体を送液するための液体送液装置(100)であって、検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する第1の液体(21)とは異なるとともに、コネクタを介して収容部に送液される第2の液体(22)の流れを計測するためのセンサ(12)と、計測した流れに基づいて第2の液体(22)の流れを一定の流量である第1流量に制御する制御部(10)と、第1流量に制御された第2の液体(22)により、第2の液体に直接接触した状態の第1の液体(21)を収容部から流路に押し出すことで、第1流量よりも多い第2流量に制御された第3の液体が流れる流路(201)に第1の液体を一定の流量で導入して、第1の液体を分散質とし、第3の液体を連続相とするエマルジョンを形成する送液部(11)と、を備える。
【0032】
第2の局面による液体送液装置(100)では、上記のように、検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する第1の液体(21)とは異なる第2の液体(22)の流れを計測するためのセンサ(12)と、計測した流れに基づいて第2の液体(22)の流れを制御する制御部(10)と、制御された流れに基づいて送液する第2の液体(22)により第1の液体(21)を検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する送液部(11)とを設ける。これにより、第1の液体(21)が第2の液体(22)により送液されるので、第1の液体(21)を気体の圧力を作用させて送液する場合と異なり、第2の液体(22)が圧縮されるのを抑制することができる。これにより、第1の液体(21)の流れを精度よく制御することができる。また、第2の液体(22)の流れを計測して、フィードバック制御することができるので、第1の液体(21)の流路中にセンサを設ける必要がない。これにより、複数の第1の液体(21)に対して検体処理チップ(200)により処理を行う場合でも、処理毎にセンサが設けられた流路を洗浄したり、交換したりする必要がない。その結果、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの問題を効果的に解決することができる。これらにより、流路(201)が形成された検体処理チップ(200)により液体の処理を行う場合に、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの発生を防止しつつ、検体試料や試薬などのチップ内流路(201)へ導入する液体の流れを精度よく制御することができる。このような効果は、流れの制御が細かくなるマイクロ流路に第1の液体(21)を供給して処理する場合に、特に有効である。
【0033】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、制御部(10)は、送液部(11)による第2の液体(22)の送液の流れを制御することにより、検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入される第1の液体(21)の流れを制御する。このように構成すれば、気体に比べて圧縮されにくい液体である第2の液体(22)の流れの制御により、第1の液体(21)の流れを制御することができるので、第1の液体(21)の流路(201)に流れを計測するセンサを設けることなく、第1の液体(21)の流れを精度よく制御することができる。
【0034】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、センサは、流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを計測して、流れを計測する。なお、流量は、単位時間あたりに通過する液体の体積または質量である。また、流速は、液体の代表する線速度である。代表する線速度は、たとえば、平均速度、最大速度などである。圧力は、液体の圧力である。このように構成すれば、第2の液体(22)の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れを制御して、第1の液体(21)の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れを精度よく制御することができる。
【0035】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、第2の液体(22)は、第1の液体(21)に対して非混和性を有する液体である。なお、第2の液体(22)が第1の液体(21)に対して非混和性を有している場合、第2の液体(22)が第1の液体(21)に接した場合に、境界が生じ、2つの相が形成される。たとえば、第2の液体(22)は、第1の液体(21)に対して、1体積%未満の溶解性を有している。つまり、非混和性とは、完全に混ざらない状態の性質のみならず、略混ざらない状態の性質も含む。つまり、第2の液体(22)は、第1の液体(21)に対して僅かであれば混ざってもよい。このように構成すれば、第1の液体(21)に対して第2の液体(22)を接触させた場合でも、第1の液体(21)に第2の液体(22)が混ざって第1の液体(21)が希釈されたり、不純物が混入したりするのを抑制することができる。
【0036】
この場合、好ましくは、第1の液体(21)は、水相および油相のうち一方の液体であり、第2の液体(22)は、水相および油相のうち他方の液体である。このように構成すれば、第1の液体(21)と第2の液体(22)とのうち、一方を油相にして、他方を水相にすることによって、第1の液体(21)と第2の液体(22)とを容易に混ざりにくくすることができる。
【0037】
上記第2の液体(22)が第1の液体(21)に対して混ざりにくい液体である場合において、好ましくは、第2の液体(22)は、第1の液体(21)と比重が異なる液体である。このように構成すれば、第1の液体(21)が収容された容器に第2の液体(22)を導入した場合でも、比重の違いにより、第1の液体(21)と第2の液体(22)とを上下に分離することができる。
【0038】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、第2の液体(22)は、検体処理チップ(200)により複数の検体を処理する場合の各検体の処理に共通して使用される液体である。このように構成すれば、第2の液体(22)の流れを計測するセンサ(12)を設ける流路を、検体毎に洗浄したり、交換したりする必要がない。これにより、センサ(12)を設ける数を最小限にすることができるとともに、作業を簡素化することができる。
【0039】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、第1の液体(21)は、検体処理チップ(200)により複数の検体を処理する場合に、各検体毎に液体の組成または対象成分の由来が互いに異なる液体である。このように構成すれば、成分が互いに異なる第1の液体(21)の流路(201)を検体毎に異なるようにすることにより、異なる検体が混ざり合うのを抑制することができる。
【0040】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、第1の液体(21)は、検体、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む溶液である。このように構成すれば、検体、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む溶液の流れを精度よく制御して送液することができる。
【0041】
この場合、好ましくは、第1の液体(21)は、血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む溶液である。このように構成すれば、血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む溶液の流れを精度よく制御して送液することができる。
【0042】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、第2の液体(22)は、室温において液体状態である油類を含む液体である。なお、室温とは、約20℃の温度であり、0℃以上40℃以下の範囲の温度を含む。このように構成すれば、室温において、第1の液体(21)を処理する場合に、液体状態の第2の液体(22)により、第1の液体(21)を容易に送液することができる。
【0043】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、送液部(11)は、第1の液体(21)を0.1μL/分以上5mL/分以下の流量で検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する。このように構成すれば、0.1μL/分以上5mL/分以下の第1の液体(21)の流量を精度よく制御することができる。
【0044】
この場合、好ましくは、送液部(11)は、第1の液体(21)を0.1μL/分以上1mL/分以下の流量で検体処理チップ(200)内の流路(201)に導入する。このように構成すれば、1mL/分以下の流量で第1の液体(21)を送液することにより、IVDにおける高いスループットを実現することができる。
【0045】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、検体処理チップ(200)内の第3の液体としての分散媒が流れる流路(201)に、第1の液体(21)が導入されてエマルジョンの形成が行われ、第1の液体(21)が分散質として600個/分以上6億個/分以下の割合で形成される。なお、エマルジョンは、液体の微粒子が分散質として、非混和の他の液体に分散した乳状の液体である。このように構成すれば、第1の液体(21)の流れを精度よく制御して第1の液体(21)を分散質としてエマルジョンを形成することができるので、分散質の粒径のばらつきを抑制することができる。また、600個/分以上6億個/分以下の割合で、粒径の揃ったエマルジョンを効率よく形成することができる。
【0046】
この場合、好ましくは、検体処理チップ(200)内の第3の液体としての分散媒が流れる流路(201)に、第1の液体(21)が導入されてエマルジョンの形成が行われ、第1の液体(21)が分散質として3000個/分以上1800万個/分以下の割合で形成される。このように構成すれば、3000個/分以上1800万個/分以下の割合で、粒径の揃ったエマルジョンをより効率よく形成することができる。
【0047】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、検体処理チップ(200)内の第3の液体としての分散媒が流れる流路(201)に、第1の液体(21)が導入されてエマルジョンの形成が行われ、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の分散質が第1の液体(21)により形成される。このように構成すれば、第1の液体(21)の流れを精度よく制御して第1の液体(21)を分散質としてエマルジョンを形成することができるので、分散質の粒径のばらつきを抑制することができる。また、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の粒径の揃ったエマルジョンを効率よく形成することができる。
【0048】
この場合、好ましくは、検体処理チップ(200)内の第3の液体としての分散媒が流れる流路(201)に、第1の液体(21)が導入されてエマルジョンの形成が行われ、平均粒径が0.1μm以上200μm以下の分散質が第1の液体(21)により形成される。このように構成すれば、バイオ測定に適した平均粒径が200μm以下の分散質のエマルジョンを効率よく形成することができる。
【0049】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)は、断面積が0.01μm2以上10mm2以下である。なお、流路(201)における断面積とは、流路(201)における液体の流通方向に直交する断面における断面積である。このように構成すれば、小さい流れで一定に保つのが困難である場合でも、流れを細かく制御して送液することができるので、断面積が0.01μm2以上10mm2以下の小さい断面積の流路(201)に小さい流れの第1の液体(21)を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。
【0050】
この場合、好ましくは、検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)は、断面積が0.01μm2以上1mm2以下である。このように構成すれば、断面積が1mm2以下の流路(201)により小さい流れの第1の液体(21)を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。
【0051】
上記検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)の断面積が0.01μm2以上1mm2以下である構成において、好ましくは、検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)は、高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下である。このように構成すれば、高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下の小さい流路(201)に第1の液体(21)を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。
【0052】
この場合、好ましくは、検体処理チップ(200)内に形成された流路(201)は、高さが1μm以上250μm以下であり、幅が1μm以上250μm以下である。このように構成すれば、高さが1μm以上250μm以下であり、幅が1μm以上250μm以下のより小さい流路(201)に第1の液体(21)を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。
【0053】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、検体処理チップ(200)内の流路(201)へは、第1の液体(21)を含む複数種類の液体が導入される。このように構成すれば、検体処理チップ(200)内に導入される他の液体と第1の液体(21)との相対量を精度よく制御することができるので、検体処理チップ(200)における処理を精度よく行うことができる。
【0054】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、センサ(12)と検体処理チップ(200)の流路(201)入口との間の導入経路上に配置され、第1の液体(21)を収容する第1容器(14a)を備え、送液部(11)は、第2の液体(22)を第1容器(14a)に流入させることにより、第1の液体(21)を検体処理チップ(200)内の流路(201)へ導入する。このように構成すれば、第1容器(14a)内において第2の液体(22)により第1の液体(21)を押し出すことにより送液することができるので、検体処理チップ(200)の流路(201)に第1の液体(21)を精度よく送液することができる。
【0055】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、送液部(11)とセンサ(12)との間の導入経路上に配置され、第2の液体(22)を収容する第2容器(13)を備え、送液部(11)は、第2容器(13)に圧力を付加することにより、第2の液体(22)を送液する。このように構成すれば、送液部(11)に第2の液体(22)を通して圧力を付加する場合と異なり、送液部(11)に気体が通るので、停止時に送液部(11)に第2の液体(22)が残って汚れるのを抑制することができる。
【0056】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、第1の液体(21)は、検体を含む溶液であり、第1の液体(21)を収容する検体容器および検体処理チップ(200)が複数設けられている。このように構成すれば、複数の検体を複数の検体処理チップ(200)により効率よく処理することができる。
【0057】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、検体処理チップ(200)の流路(201)入口に接続され、第1の液体(21)を収容するリザーバ(14b)を備え、送液部(11)は、第2の液体(22)をリザーバ(14b)に流入させることにより、第1の液体(21)を流路(201)入口より検体処理チップ(200)内の流路(201)へ導入する。このように構成すれば、リザーバ(14b)内において第2の液体(22)により第1の液体(21)を押し出すことにより送液することができるので、検体処理チップ(200)の流路(201)に第1の液体(21)を精度よく送液することができる。
【0058】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、第1の液体(21)は、検体を含む溶液であり、第1の液体(21)を収容するリザーバ(14b)が配置された検体処理チップ(200)が複数設けられている。このように構成すれば、検体毎にリザーバ(14b)が設けられた検体処理チップ(200)を用意して処理を行うことができるので、異なる検体が混ざるのを抑制しながら、複数の検体を効率よく処理することができる。
【0059】
上記第2の局面による液体送液装置(100)において、好ましくは、センサ(12)は、第2の液体(22)の流路に埋め込まれている。このように構成すれば、第2の液体(22)の流れを流路に埋め込まれたセンサ(12)により精度よく計測することができる。
【発明の効果】
【0060】
流路が形成された検体処理チップにより液体の処理を行う場合に、検体試料や試薬などのチップ内流路へ導入する液体の流れを精度よく制御するとともに、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図5】液体送液方法の第1の液体の容器の第1例を示した図である。
【
図6】液体送液方法の第1の液体の容器の第2例を示した図である。
【
図7】液体送液方法の第1の液体の容器の第3例を示した図である。
【
図8】液体送液方法の第1の液体の容器の第4例を示した図である。
【
図10】第1の液体が担体を含む例を示す図である。
【
図11】第1の液体が核酸の増幅産物と結合した担体を含む例を示す図である。
【
図12】流路の構成例を示した模式的な平面図である。
【
図13】
図12の流路のチャネルの断面を示した模式的な拡大斜視断面図である。
【
図14】検体処理チップの構成例を示す斜視図である。
【
図15】検体処理チップの基板の構成例を示す平面図である。
【
図16】流体モジュールの構成例を示す平面図である。
【
図17】検体処理チップの構成例を示す縦断面図である。
【
図18】液体送液装置の構成例を示すブロック図である。
【
図19】液体送液装置の他の構成例を示すブロック図である。
【
図20】液体送液装置のさらに他の構成例を示すブロック図である。
【
図21】液体送液装置の構成例を示した斜視図である。
【
図23】液体送液装置と検体処理チップとを接続する構成の例を示した縦断面図である。
【
図25】検体保持部の構成例を示す縦断面図である。
【
図30】検体処理チップを固定した状態の固定器具を示す図である。
【
図31】
図30における固定器具の上面図(A)および下面図(B)である。
【
図32】ヒーターユニットの配置例を示す下面図(A)および設置部におけるヒーターユニットの配置例を示す模式的な断面図(B)である。
【
図33】検出ユニットの配置例を示す上面図(A)および設置部における検出ユニットの配置例を示す模式的な断面図(B)である。
【
図34】磁石ユニットの配置例を示す下面図(A)および設置部における検出ユニットの配置例を示す模式的な断面図(B)である。
【
図35】エマルジョンPCRアッセイの一例を示すフローチャートである。
【
図36】エマルジョンPCRアッセイにおける反応の進行過程を説明する図である。
【
図37】エマルジョンPCRアッセイに用いられる検体処理チップの構成例を示す図である。
【
図38】Pre-PCRに用いられる流体モジュールの構成例を示す図である。
【
図39】エマルジョン形成に用いられる流体モジュールの構成例を示す図である。
【
図40】エマルジョンが形成される交差部分の第1例を示した拡大図である。
【
図41】エマルジョンが形成される交差部分の第2例を示した拡大図である。
【
図42】エマルジョンPCRに用いられる流体モジュールの構成例を示す図である。
【
図43】エマルジョンブレークに用いられる流体モジュールの構成例を示す図である。
【
図44】洗浄工程(1次洗浄)で用いられる流体モジュールの構成例を示す図である。
【
図45】流体モジュールにより磁性粒子を洗浄・濃縮する動作例を示す図である。
【
図46】単一細胞解析に用いられる検体処理チップの構成例を示す図である。
【
図47】免疫測定に用いられる検体処理チップの構成例を示す図である。
【
図48】免疫測定における反応の進行過程を説明する図である。
【
図49】各工程と第1の液体および第2の液体との対応の一例を示した表である。
【
図50】実施例1および2における液体送液装置を示した図である。
【
図53】実施例1の実験結果を説明するための図である。
【
図54】実施例2の実験結果を説明するための図である。
【
図55】比較例1および2における液体送液装置を示した図である。
【
図58】比較例1の実験結果を説明するための図である。
【
図59】比較例2の実験結果を説明するための図である。
【
図60】従来技術における液体送液方法を説明するための図である。
【
図61】従来技術における他の液体送液方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0063】
[液体送液方法の概要]
図1を参照して、本実施形態による液体送液方法の概要について説明する。
【0064】
本実施形態による液体送液方法は、流路201が形成された検体処理チップ200へ液体を送液する方法である。
【0065】
検体処理チップ200は、液体送液装置100に設置され、液体送液装置100により供給される第1の液体21の対象成分に対して、1または複数の処理工程を含む検体処理を実行するためのチップである。検体処理チップ200は、対象成分を含む第1の液体21を受け入れ可能に構成されており、液体送液装置100にセットされることにより、液体送液装置100による検体処理を行えるようにするためのカートリッジ型の検体処理チップである。また、検体処理チップ200は、後述するように、所望の処理工程を実施するための微細な流路を備えたマイクロ流体チップである。流路は、たとえば、断面寸法(幅、高さ、内径)が0.1μm~1000μmのマイクロ流路である。
【0066】
検体処理チップ200には、患者から採取された体液や血液(全血、血清または血漿)などの液体、または、採取された体液や血液に所定の前処理を施して得られた検体が注入される。対象成分は、たとえば、DNA(デオキシリボ核酸)などの核酸、細胞および細胞内物質、抗原または抗体、タンパク質、ペプチドなどである。たとえば対象成分が核酸である場合、血液などから所定の前処理によって核酸を抽出した抽出液が検体処理チップ200に注入される。
【0067】
検体処理チップ200に注入された対象成分を含む検体は、液体送液装置100によって検体処理チップ200内を送液される。検体が送液される過程で、1または複数の工程による対象成分の処理が所定の順序で実施される。対象成分の処理の結果、検体処理チップ200内では、検体を分析するのに適した測定用試料、または、別の装置を用いた後続の処理に適した液体試料が生成される。
【0068】
本実施形態の液体送液方法は、液体送液装置100により第1の液体21を検体処理チップ200内の流路201に送液する。液体送液装置100は、
図1に示すように、制御部10と、送液部11と、センサ12と、第2容器13と、第1容器14aとを備える。
【0069】
液体送液装置100は、第1の液体21の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れを精度よく制御して検体処理チップ200内の流路201に送液する。検体処理チップ200の流路201は、マイクロ流路であり、流入する液体の流量も小さくなる。本実施形態の液体送液方法、このような流量を精度よく制御する。
【0070】
本実施形態では、検体処理チップ200内の流路201に導入する第1の液体21とは異なる第2の液体22の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れを取得する。具体的には、第2の液体22の流路15bに設けられたセンサ12により、第2の液体22の流れを計測する。具体的には、センサ12は、流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを計測して、流れを計測する。計測した流れに基づいて第2の液体22の流れを制御する。具体的には、制御部10により、取得した第2の液体22の流れに基づいて、送液部11をフィードバック制御する。そして、制御された流れに基づいて送液される第2の液体22により第1の液体21を検体処理チップ200内の流路201に導入する。
【0071】
これにより、第1の液体21が第2の液体22により送液されるので、第1の液体21を気体の圧力を作用させて送液する場合と異なり、第2の液体22が圧縮されるのを抑制することができる。これにより、第1の液体21の流れを精度よく制御することができる。また、第2の液体22の流れを計測して、フィードバック制御することができるので、第1の液体21の流路中にセンサを設ける必要がない。これにより、複数の第1の液体21に対して検体処理チップ200により処理を行う場合でも、処理毎にセンサが設けられた流路を洗浄したり、交換したりする必要がない。その結果、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの問題を効果的に解決することができる。これらにより、流路201が形成された検体処理チップ200により液体の処理を行う場合に、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの発生を防止しつつ、検体試料や試薬などのチップ内流路201へ導入する液体の流れを精度よく制御することができる。このような効果は、流れの制御が細かくなるマイクロ流路に第1の液体21を供給して処理する場合に、特に有効である。
【0072】
また、第2の液体22の流れの制御によって、検体処理チップ200内の流路201に導入される第1の液体21の流れを制御する。これにより、気体に比べて圧縮されにくい液体である第2の液体22の流れの制御により、第1の液体21の流れを制御することができるので、第1の液体21の流路201に流れを計測するセンサを設けることなく、第1の液体21の流れを精度よく制御することができる。
【0073】
第2の液体22は、第1の液体21に対して非混和性を有する液体である。なお、非混和性とは、完全に混ざらない状態の性質のみならず、略混ざらない状態の性質も含む。つまり、第2の液体(22)は、第1の液体(21)に対して僅かであれば混ざってもよい。これにより、第1の液体21に対して第2の液体22を接触させた場合でも、第1の液体21に第2の液体22が混ざって第1の液体21が希釈されたり、不純物が混入したりするのを抑制することができる。
【0074】
たとえば、第1の液体21は、水相および油相のうち一方の液体であり、第2の液体22は、水相および油相のうち他方の液体である。これにより、第1の液体21と第2の液体22とのうち、一方を油相にして、他方を水相にすることによって、第1の液体21と第2の液体22とを容易に混ざりにくくすることができる。
【0075】
また、たとえば、第2の液体22は、第1の液体21と比重が異なる液体である。これにより、第1の液体21が収容された容器に第2の液体22を導入した場合でも、比重の違いにより、第1の液体21と第2の液体22とを上下に分離することができる。
【0076】
第2の液体22は、検体処理チップ200により複数の検体を処理する場合の各検体の処理に共通して使用される液体である。これにより、第2の液体22の流れを計測するセンサ12を設ける流路を、検体毎に洗浄したり、交換したりする必要がない。これにより、センサ12を設ける数を最小限にすることができるとともに、作業を簡素化することができる。
【0077】
第2の液体22は、室温において液体状態である油類を含む液体である。なお、室温とは、約20℃の温度であり、0℃以上40℃以下の範囲の温度を含む。室温において、第1の液体21を処理する場合に、液体状態の第2の液体22により、第1の液体21を容易に送液することができる。
【0078】
具体的には、第2の液体22は、チップ流路へ導入する第1の液体21と異なる液体である。第1の液体21としての検体溶液、試薬溶液は、通常親水性であるため、第2の液体22としては、疎水性の液体が挙げられる。たとえば、第2の液体22としては、油が挙げられ、鉱物油、合成炭化水素油、ジエステル油、ポリオールエステル油、ポリグリコール油、フェニルエーテル油、シリコーン油、フッ素油などを用いることができる。なかでも、第2の液体22として、n-ヘキサデカン、鉱物油、炭素数10以上20以下のオレフィン系炭化水素およびシリコーン油を用いることが好ましい。第1の液体21として、親油性の液体が用いられる場合は、第2の液体22として、親水性の液体が用いられてもよい。
【0079】
また、第2の液体22により、第1の液体21を押し出すようにして送液する。この場合、第2の液体22と、第1の液体21との間に気体の相が無いことが好ましい。つまり、第1の液体21と、第2の液体22が接触して境界層が形成されていることが好ましい。ただし、第1の液体21と第2の液体22との間に空気、他の液体などが存在し、非連続的あってもよい。つまり、第1の液体21と第2の液体22との間に少しの空気が存在したとしても、圧力により圧縮される量は、小さく、かつ、常に一定量圧縮されるため、第1の液体21の流れは、第2の液体22の流れと略等しくなる。また、第1の液体21と、第2の液体22との間に他の液体があったとしても、液体は圧縮されにくいため、第1の液体21の流れは、第2の液体22の流れと略等しくなる。
【0080】
第1の液体21は、検体処理チップ200により複数の検体を処理する場合に、各検体毎に液体の組成または対象成分の由来が互いに異なる液体である。つまり、第1の液体21は、他の検体とのコンタミネーションが起こらないことが好ましい液体である。成分が互いに異なる第1の液体21の流路201を検体毎に異なるようにすることにより、異なる検体が混ざり合うのを抑制することができる。
【0081】
また、第1の液体21は、検体、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む溶液である。検体、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む溶液の流れを精度よく制御して送液することができる。これにより、試薬および粒子のうち少なくとも1つを含む第1の溶液を精度よく処理することができる。
【0082】
また、第1の液体21は、血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む溶液である。患者から採取された血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む溶液の流れを精度よく制御して送液することができる。これにより、患者から採取された血液に由来する核酸、磁性粒子およびポリメラーゼ連鎖反応用試薬を含む第1の溶液を精度よく処理することができる。
【0083】
図1に示す液体送液方法の例では、第2の液体22は、第2容器13に収容される。第2容器13には、流路15aを介して送液部11により空気が圧送される。そして、空気が圧送されることにより、第2容器13から、第2の液体22が流路15bを介して第1容器14aに送液される。第2の液体22が送液される場合に、流路15bに設けられたセンサ12により、第2の液体22の流れが計測される。計測された第2の液体22の流れは、制御部10に送信される。制御部10は、第2の液体22の流れに基づいて、送液部11をフィードバック制御する。
【0084】
第1の液体21は、第1容器14aに収容される。第1容器14aには、流路15bを介して第2容器13から第2の液体22が流入される。そして、第2の液体22が流入する量だけ、第1容器14aから、第1の液体21が流路15cを介して検体処理チップ200の流路201に送液される。
【0085】
図2に示す液体送液方法の例では、第2の液体22は、第2容器13に収容される。第2容器13には、流路15aを介して送液部11により空気が圧送される。そして、空気が圧送されることにより、第2容器13から、第2の液体22が流路15bを介してリザーバ14bに送液される。第2の液体22が送液される場合に、流路15bに設けられたセンサ12により、第2の液体22の流れが計測される。計測された第2の液体22の流れは、制御部10に送信される。制御部10は、第2の液体22の流れに基づいて、送液部11をフィードバック制御する。
【0086】
第1の液体21は、リザーバ14bに収容される。リザーバ14bには、流路15bを介して第2容器13から第2の液体22が流入される。そして、第2の液体22が流入する量だけ、リザーバ14bから、第1の液体21が検体処理チップ200の流路201に送液される。
【0087】
図3に示す液体送液方法の例では、第2の液体22は、第2容器13に収容される。第2容器13の第2の液体22は、送液部11により吸引されて流路15bに送液される。第2の液体22が送液される場合に、流路15bに設けられたセンサ12により、第2の液体22の流れが計測される。計測された第2の液体22の流れは、制御部10に送信される。制御部10は、第2の液体22の流れに基づいて、送液部11をフィードバック制御する。
【0088】
第1の液体21は、第1容器14aに収容される。第1容器14aには、流路15bを介して第2容器13から第2の液体22が流入される。そして、第2の液体22が流入する量だけ、第1容器14aから、第1の液体21が流路15cを介して検体処理チップ200の流路201に送液される。
【0089】
図4に示す液体送液方法の例では、第2の液体22は、第2容器13に収容される。第2容器13には、流路15aを介して送液部11により空気が圧送される。そして、空気が圧送されることにより、第2容器13から、第2の液体22が流路15bを介して第1容器14aに送液される。第2の液体22が送液される場合に、流路15bに設けられたセンサ12により、第2の液体22の流れが計測される。計測された第2の液体22の流れは、制御部10に送信される。制御部10は、第2の液体22の流れに基づいて、バルブ16をフィードバック制御する。これにより、第2の液体22の流れが制御される。つまり、フィードバック制御によりバルブ16の開度を調整することにより、バルブ16を通過する第2の液体22の流れが制御される。
【0090】
第1の液体21は、第1容器14aに収容される。第1容器14aには、流路15bを介して第2容器13から第2の液体22が流入される。そして、第2の液体22が流入する量だけ、第1容器14aから、第1の液体21が流路15cを介して検体処理チップ200の流路201に送液される。
【0091】
図5~
図8を参照して、液体送液方法の第1の液体21の送液方法について説明する。
【0092】
図5に示す例では、第1の液体21は、第1容器14aに収容される。第1の液体21は、第2の液体22よりも比重が大きく、第1容器14aの下側に配置される。この場合、第2の液体22を第1容器14aの上部から供給するとともに、第1の液体21を第1容器14aの下部から流出させる。これにより、第1の液体21および第2の液体22が混ざるのを抑制するとともに、第1の液体21を検体処理チップ200の流路201にスムーズに送液することができる。
【0093】
図6に示す例では、第1の液体21は、第1容器14aに収容される。第1の液体21は、第2の液体22よりも比重が小さく、第1容器14aの上側に配置される。この場合、第2の液体22を第1容器14aの下部から供給するとともに、第1の液体21を第1容器14aの上部から流出させる。これにより、第1の液体21および第2の液体22が混ざるのを抑制するとともに、第1の液体21を検体処理チップ200の流路201にスムーズに送液することができる。
【0094】
図7に示す例では、第1の液体21は、検体処理チップ200上方に設けられたリザーバ14bに収容される。第1の液体21は、第2の液体22よりも比重が大きく、リザーバ14bの下側に配置される。この場合、第2の液体22をリザーバ14bの上部から供給するとともに、第1の液体21をリザーバ14bの下部から流出させる。これにより、第1の液体21および第2の液体22が混ざるのを抑制するとともに、第1の液体21を検体処理チップ200の流路201にスムーズに送液することができる。
【0095】
図8に示す例では、第1の液体21は、検体処理チップ200下方に設けられたリザーバ14bに収容される。第1の液体21は、第2の液体22よりも比重が小さく、リザーバ14bの上側に配置される。この場合、第2の液体22をリザーバ14bの下部から供給するとともに、第1の液体21をリザーバ14bの上部から流出させる。これにより、第1の液体21および第2の液体22が混ざるのを抑制するとともに、第1の液体21を検体処理チップ200の流路201にスムーズに送液することができる。
【0096】
検体処理チップ200内の流路201へは、第1の液体21を含む複数種類の液体が導入される。たとえば、検体処理チップ200内の流路201に、第1の液体21の導入に加えてエマルジョン形成のための分散媒23が導入される。検体処理チップ200内に導入される他の液体と第1の液体21との相対量を精度よく制御することができるので、検体処理チップ200における処理を精度よく行うことができる。
【0097】
(第1の液体)
第1の液体21は、処理の内容に応じて様々な成分を含む。第1の液体21の送液は、このような様々な成分を含む第1の液体21に対して実施されうる。
【0098】
たとえば、
図9に示すように、第1の液体21は、液滴24を含む。液滴24の内部には、処理対象の成分20が包含されている。
【0099】
また、たとえば、
図10に示すように、第1の液体21は、担体25を含む。担体25は、処理対象の成分20が表面に結合した固体状の担体である。
【0100】
また、たとえば、
図11に示すように、第1の液体21は、成分20として核酸を含む。核酸を含む担体25は、核酸を増幅する処理が行われることにより、増幅産物である核酸が表面を覆うように結合した担体である。
【0101】
(流路)
検体処理チップ200は、たとえば、流路201が形成された流体モジュール220と、基板210とを含む。検体処理チップ200の流路201には、対象の成分20を含んだ液体の他、対象の成分20の処理に用いる液体や、その他の気体などの各種流体が導入され得る。流路201は、内壁面に囲まれた管状形状を有する。
【0102】
検体処理チップ200の流路201は、検体処理チップ200の入口部分から注入された液体を流すことができればどのような構造であってもよい。流路201は、その流路内で行う処理に応じた形状を有する。流路201は、その流路内で行う処理に応じた流路幅、流路高さあるいは流路深さ、流路長さ、容積を有するように形成される。流路201は、たとえば細長い管状の通路あるいはチャネルにより構成される。チャネルは、直線状、曲線状、ジグザグ形状などの形状とすることができる。流路201は、たとえば流路幅や高さなどの流路寸法が変化する形状(
図12参照)、流路の一部または全部が平面状に拡がる形状(
図38参照)、流入する液体を貯留可能なチャンバ形状(図示せず)などであってもよい。
【0103】
図12に示すように、流路201は、たとえば、一端側に設けられる接続部202と、第1の液体21の処理を行うためのチャネル203と、他端側に設けられる接続部204とを有する。接続部202、チャネル203および接続部204の数は、いくつでもよい。
【0104】
たとえば、接続部202は、液体を流入させるための流入口である。第1の液体21は、接続部202からチャネル203内へ流入する。チャネル203において、第1の液体21の処理が行われる。処理を終えた第1の液体21は、チャネル203から接続部204に流入する。第1の液体21は、接続部204を介して、次の処理を行うための別の流路201や、検体処理チップ200の外部に送り出される。
【0105】
チャネル203は、たとえば、接続部202または接続部204における流路幅W2より大きい流路幅W1を有する。つまり、チャネル203は、流路201内で相対的に流路幅が大きい幅広形状を有する。この構成によれば、第1の液体21をチャネル203に幅広く分布させることができるので、第1の液体21の処理を効率的に行うことができる。
【0106】
また、
図13に示すように、たとえば、チャネル203の断面は、高さ方向寸法H1よりも幅方向寸法W1が大きい。すなわち、幅方向に大きい扁平なチャネル203が構成される。これにより、第1の液体21をチャネル203に平面的に分布させて処理液体と効率的に接触させることができるので、第1の液体21の処理を効率的に行うことができる。
【0107】
たとえば、チャネル203(流路201)は、断面積Acが0.01μm2以上10mm2以下である。なお、「チャネル203の断面積」とは、チャネル203内の液体の流通方向に直交する断面における断面積である。小さい流れで一定に保つのが困難である場合でも、流れを細かく制御して送液することができるので、断面積が0.01μm2以上10mm2以下の小さい断面積の流路201に小さい流れの第1の液体21を送液する場合でも、精度よく流量を制御して送液することができる。好ましくは、チャネル203(流路201)は、断面積Acが0.01μm2以上1mm2以下である。より好ましくは、チャネル203(流路201)は、断面積Acが0.01μm2以上0.25mm2以下である。
【0108】
検体処理チップ200内に形成された流路201は、たとえば、高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下である。高さが1μm以上500μm以下であり、幅が1μm以上500μm以下の小さい流路201に第1の液体21を送液する場合でも、精度よく流れを制御して送液することができる。好ましくは、流路201は、高さが1μm以上250μm以下であり、幅が1μm以上250μm以下である。より好ましくは、流路201は、高さが1μm以上100μm以下であり、幅が1μm以上100μm以下である。
【0109】
流路201は、たとえば、樹脂やガラスなどにより形成されたブロック体に流路201が形成された流体モジュールの一部として構成される。流路201あるいは流体モジュールを構成する材料は、その流路201において実施される処理に適したものを採用するのが好ましい。たとえば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)は疎水性を有する材料として好ましい。ポリカーボネート(PC)は耐熱性を有する材料として好ましい。ポリカーボネート、ポリスチレン(PS)などは、耐薬品性を有する材料として好ましい。シクロオレフィンコポリマー(COC)、シクロオレフィンポリマー(COP)は、自家蛍光の低い材料として、蛍光検出等に用いるのに好ましい。ガラス、ポリカーボネートなどは、親水性が高いか、親水処理が容易である点で好ましい。
【0110】
流路201内の流体の流れは、層流と乱流とに大別される。本実施形態では、たとえば、第1の液体21の処理を行う際、流路201内の流れを層流とする。
【0111】
流路201内の流れは、レイノルズ数Reによって表すことができる。レイノルズ数Reは、下式(1)により定義される。
Re=V×d/ν ・・・(1)
ここで、V[m/s]は、流路201内の流れの平均速度、d[m]は流路201の内径、ν[m2/s]は流体の動粘性係数である。
一般に、レイノルズ数Reが2300以下の場合に層流になるとされる。また、レイノルズ数が小さいほど、流路201の内径および流速が共に小さい傾向にある。
【0112】
たとえば、第1の液体21の処理を行う際、流路201内の流れのレイノルズ数が2000以下である。好ましくは、第1の液体21の処理を行う際、流路201内の流れのレイノルズ数が100以下である。より好ましくは、第1の液体21の処理を行う際、流路201内の流れのレイノルズ数が10以下である。さらに好ましくは、第1の液体21の処理を行う際、流路201内の流れのレイノルズ数が1以下である。
【0113】
流路201内に第1の液体21を流す際には、たとえば、第1の液体21は、0.1μL/分以上5mL/分以下の流量で検体処理チップ200内の流路201に導入される。流量は、この範囲内で一定でもよいし、変動してもよい。このように本実施形態の液体送液方法は、0.1μL/分以上5mL/分以下の第1の液体21の流量を精度よく制御することができる。つまり、0.1μL/分以上5mL/分以下の範囲において第2の液体22の流量をセンサ12により精度よく測定することが可能であるので、第1の液体21の流量を0.1μL/分以上5mL/分以下の範囲で精度よく制御することができる。好ましくは、第1の液体21は、0.1μL/分以上1mL/分以下の流量で検体処理チップ200内の流路201に導入される。これにより、IVDにおいて高いスループットを実現することが可能である。より好ましくは、第1の液体21は、0.1μL/分以上200μL/分以下の流量で検体処理チップ200内の流路201に導入される。これにより、エマルジョン形成の際に、安定して液滴を形成することが可能である。
【0114】
[検体処理チップの構成例]
図14は、本実施形態の検体処理チップ200の構成例を示す。基板210上には、機能が異なる複数種類の流体モジュール220が設置される。
図14の例では、第1の液体21等が、流体モジュール220a、220b、220cを順次流れることにより、複数種類の流体モジュールの組み合わせに対応したアッセイが実行される。流体モジュール220a、220b、220cは、それぞれ、異なる種類の流体モジュールである。基板210に設置する流体モジュール220の組み合わせを変更することにより、組み合わせに応じた様々なアッセイが実施可能である。基板210に設置する流体モジュール220の数に制限はない。流体モジュール220の形状が種類毎に異なっていてもよい。
【0115】
図15は、基板210の構成例を示す。基板210は、複数の基板流路211を有する。基板210は、平板形状を有し、主表面である第1面および第2面を有する。第2面は、第1面とは反対の面である。たとえば、基板210は樹脂またはガラスにより形成されている。
【0116】
基板210の厚さdは、たとえば、1mm以上5mm以下である。これにより、流体モジュール220に形成される流路201の流路高さ(およそ10μm~500μmのオーダー)と比較して、基板210を十分大きな厚みを有するように形成できる。その結果、容易に、基板210に十分な耐圧力性能を確保できる。
【0117】
基板流路211は、たとえば、基板210を厚み方向に貫通する貫通孔である。基板流路211は、流体モジュール220の流路201と接続される他、検体処理チップ200内に液体や試薬を供給するためのポートや、検体処理チップ200内から液体を回収するためのポートとして機能できる。
【0118】
図15の例では、基板210は、4行×6列の基板流路211を2組有する。基板210に設けられる基板流路211の個数および組数は、
図15の例に限定されない。
【0119】
基板流路211は、たとえば、所定のピッチで配置される。
図15の例では、各基板流路211は、縦方向のピッチV、横方向のピッチHで配列されている。この場合、流体モジュール220を、基板210上にピッチ単位の任意の位置に配置して、流路201を任意の基板流路211に接続できる。基板流路211は、基板210上に配置される各種流体モジュール220と接続するために必要な位置にのみ形成されていてもよい。
【0120】
図16は、流体モジュール220の構成例を示す。接続部202、204および205は、基板210の基板流路211のピッチと一致するように、流体モジュール220上に配置される。すなわち、接続部202、204および205は、基板210の基板流路211のピッチVおよびHの整数倍のピッチで、流体モジュール220上に配置される。チャネル203は、所定のピッチで配置された接続部202、204および205の間を接続するように配置される。所定のピッチで配置された接続部202、204および205と、チャネル203とが、流体モジュール220に複数組配置されてもよい。
【0121】
各流体モジュール220a~220cは、それぞれ異なる流路形状を有してよい。各流体モジュール220は、第1面のみならず第2面にも配置されてよいし、第2面のみに配置されてもよい。
【0122】
図17の構成例では、検体処理チップ200は、流体モジュール220dをさらに備える。流体モジュール220dは、流体モジュール220dが配置される基板210の第1面とは反対の第2面に配置されている。流体モジュール220dは、流路221を備え、流体モジュール220同士を接続する機能を有する接続モジュールである。接続モジュールとしての流体モジュール220dには、第1の液体21の処理工程を実施するための流路が設けられていない。接続モジュールに相当する流路構造を基板210に形成してもよい。
【0123】
各流体モジュール220(接続モジュールを含む)は、たとえば、基板210と固相接合により接続される。固相接合は、たとえば、接合面をプラズマ処理してOH基を形成し、接合面同士を水素結合により接合する方法や、真空圧接などの方法を採用することができる。固相接合により、流体モジュール220と基板210とを強固に接合できる。流体モジュール220は、接着剤等によって基板210と接続されてもよい。
【0124】
図17の例では、基板210の基板流路211が、液体を注入するためのポートとして機能する。また、基板210の基板流路211が、液体を回収するためのポートとして機能する。ポートは、いくつ設けられてもよい。
【0125】
第1の液体21は、コネクタ等の冶具を介して基板流路211に注入される。コネクタ等の冶具は、基板流路211のうち、流路201側の端部とは反対側の端部に接続される。コネクタにプラグを挿入することで、任意の基板流路211を封止できる。
【0126】
[液体送液装置の構成例]
図18は、液体送液装置100の概略を示す。
【0127】
液体送液装置100は、流路201が形成された検体処理チップ200に、液体を送液するための液体送液装置である。検体処理チップ200では、第1の液体21の検体処理が行われる。検体処理の内容は、使用する検体処理チップ200により決まる。液体送液装置100は、使用する検体処理チップ200の種類によって異なる種類の検体処理を行うことが可能である。
【0128】
液体送液装置100は、制御部10と、送液部11と、センサ12と、第2容器13と、第1容器14aとを備える。
【0129】
制御部10は、検体処理チップ200の流路201内に第1の液体21を供給し、第1の液体21の処理が実施されるように各部を制御する。
【0130】
各種処理工程に用いる処理ユニットが液体送液装置100に設置される場合、制御部10がそれらの処理ユニットを制御してもよい。各種処理工程に用いるユニットは、たとえば、液体の温度を制御するヒーターユニットまたは冷却ユニット、液体に磁力を作用させる磁石ユニット、液体の撮像を行うカメラユニット、液体中の検体や標識の検出を行う検出ユニットなどである。これらの処理ユニットは、複数の流体モジュール220の少なくともいずれかに対応して設けられ、対応する流体モジュール220により処理工程を実施する際に作動するように構成される。
【0131】
本実施形態では、制御部10は、流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れの計測結果に基づいて、第2の液体22の流れを制御する。具体的には、制御部10は、検体処理チップ200内の流路201に導入する第1の液体21とは異なる第2の液体22の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れをセンサ12により計測し、計測結果に基づいて、送液部11を制御する。つまり、制御部10は、センサ12の計測結果に基づいて、第2の液体22の流れが所望の値になるようにフィードバック制御する。フィードバック制御は、比例制御、積分制御および微分制御のうち少なくとも1つを用いて行ってもよい。
【0132】
これにより、第1の液体21が第2の液体22により送液されるので、第1の液体21を気体の圧力を作用させて送液する場合と異なり、第2の液体22が圧縮されるのを抑制することができる。これにより、第1の液体21の流れを精度よく制御することができる。また、第2の液体22の流れを計測して、フィードバック制御することができるので、第1の液体21の流路中にセンサを設ける必要がない。これにより、複数の第1の液体21に対して検体処理チップ200により処理を行う場合でも、処理毎にセンサが設けられた流路を洗浄したり、交換したりする必要がない。その結果、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの問題を効果的に解決することができる。これらにより、流路201が形成された検体処理チップ200により液体の処理を行う場合に、検体試料や試薬などのチップ内流路201へ導入する液体の流れを精度よく制御することができるとともに、複数の検体を処理する場合の検体コンタミネーションの問題を解決することができる。このような効果は、流れの制御が細かくなるマイクロ流路に第1の液体21を供給して処理する場合に、特に有効である。
【0133】
また、制御部10は、送液部11による第2の液体22の送液の流れを制御することにより、検体処理チップ200内の流路201に導入される第1の液体21の流れを制御する。これにより、気体に比べて圧縮されにくい液体である第2の液体22の流れの制御により、第1の液体21の流れを制御することができるので、第1の液体21の流路201に流れを計測するセンサを設けることなく、第1の液体21の流れを精度よく制御することができる。
【0134】
制御部10は、各送液部11の動作を個別に制御できる。制御部10は、各送液部11を個別に制御することで、検体処理チップ200に搭載された流体モジュール220の組み合わせに応じた送液制御が可能となる。
【0135】
送液部11は、制御された流れに基づいて送液する第2の液体22により第1の液体21を検体処理チップ200内の流路201に導入する。送液部11は、たとえば、ポンプである。また、送液部11は、気体に圧力を送ることにより、第2の液体22を送液してもよいし、第2の液体22を気体を介さずに送ってもよい。
【0136】
送液部11は、第2の液体22に対して、圧力を付与する。送液部11が陽圧または陰圧を付与することで、第2容器13から第2の液体22が送出される。送液部11は、たとえば、空気圧を供給するプレッシャーポンプである。この他、送液部11として、シリンジポンプ、ダイアフラムポンプなどが採用できる。
【0137】
センサ12は、検体処理チップ200内の流路201に導入する第1の液体21とは異なる第2の液体22の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れを計測する。センサ12は、第2の液体22の流路に埋め込まれていてもよい。これにより、第2の液体22の流れを流路に埋め込まれたセンサ12により精度よく計測することができる。
【0138】
図18の構成ではセンサ12は、第2の液体22の流量(単位の例:μL/分)を検出する。センサ12は、流量の検出結果を送液部11にフィードバックする。送液部11は、センサ12からのフィードバックに応じて、圧力を制御する。具体的には、センサ12は、制御部10にフィードバックする。制御部10は、センサ12により計測された流量に基づいて、液体を移送するための送液部11の圧力を制御する。センサ12は、第2の液体22の流速を計測してもよい。また、センサ12は、第2の液体22の圧力を計測してもよい。
【0139】
第2容器13は、第2の液体22を収容するように構成されている。また、第2容器13は、送液部11とセンサ12との間の導入経路上に配置されている。そして、送液部11は、第2容器13に圧力を付加することにより、第2の液体22を送液する。これにより、送液部11に第2の液体22を通して圧力を付加する場合と異なり、送液部11に気体が通るので、停止時に送液部11に第2の液体22が残って汚れるのを抑制することができる。
【0140】
第1容器14aは、第1の液体21を収容するように構成されている。また、第1容器14aは、センサ12と検体処理チップ200の流路201入口との間の導入経路上に配置されている。そして、送液部11は、第2の液体22を第1容器14aに流入させることにより、第1の液体21を検体処理チップ200内の流路201へ導入する。これにより、第1容器14a内において第2の液体22により第1の液体21を押し出すことにより送液することができるので、検体処理チップ200の流路201に第1の液体21を精度よく送液することができる。
【0141】
第1の液体21は、検体を含む溶液である。また、第1容器14aは、第1の液体21を収容する検体容器である。検体容器および検体処理チップ200は、複数設けられている。これにより、複数の検体を複数の検体処理チップ200により効率よく処理することができる。送液部11、第2容器13、センサ12および第1容器14aは、複数の検体処理チップ200毎に設けられている。なお、
図19に示す液体送液装置100aのように、送液部11、第2容器13およびセンサ12は、複数の第1容器14aおよび複数の検体処理チップ200に共通に設けられていてもよい。この場合、バルブ16aの開閉により、第2の液体22を送る先の第1容器14aが選択可能に構成されている。
【0142】
この他、液体送液装置100は、モニタ17、入力部18、および、読取部19などを備えることができる。モニタ17には、制御部10により、液体送液装置100の動作に応じた所定の表示画面が表示される。液体送液装置100が外部のコンピュータ(図示せず)と接続され、コンピュータのモニタ上に画面表示をしてもよい。入力部18は、たとえばキーボードやマウスなどからなり、情報入力を受け付ける機能を有する。読取部19は、たとえばバーコードや2次元コードなどのコードリーダ、RFIDタグなどのタグリーダからなり、検体処理チップ200に付与された情報を読み取る機能を有する。読取部19は、第1の液体21を収容する検体容器(図示せず)などの情報も読み取り可能である。
【0143】
図20に示すさらに他の例の液体送液装置100bでは、第1容器14aの代わりに第1の液体21を収容するリザーバ14bを備えている。リザーバ14bは、検体処理チップ200の流路入口に接続されている。リザーバ14bは、検体処理チップ200に一体的に設けられていてもよい。リザーバ14bは、第1の液体21が注入されるポート上に筒状の液体リザーバとして設けられる。
【0144】
送液部11は、第2の液体22をリザーバ14bに流入させることにより、第1の液体21を流路201入口より検体処理チップ200内の流路201へ導入するように構成されている。これにより、リザーバ14b内において第2の液体22により第1の液体21を押し出すことにより送液することができるので、検体処理チップ200の流路201に第1の液体21を精度よく送液することができる。
【0145】
第1の液体21は、たとえば、検体を含む溶液である。また、第1の液体21を収容するリザーバ14bが配置された検体処理チップ200は、複数設けられている。これにより、検体毎にリザーバ14bが設けられた検体処理チップ200を用意して処理を行うことができるので、異なる検体が混ざるのを抑制しながら、複数の検体を効率よく処理することができる。送液部11、第2容器13、センサ12およびリザーバ14bは、複数の検体処理チップ200毎に設けられている。なお、送液部11、第2容器13およびセンサ12は、複数のリザーバ14bおよび複数の検体処理チップ200に共通に設けられていてもよい。
【0146】
図21は、液体送液装置100の外観を示した模式図である。
図21において、液体送液装置100は、検体処理チップ200が設置される設置部と、設置部に対応する蓋330とを備える。液体送液装置100は、装置本体と、装置本体と接続された蓋330とを含む。箱状の装置本体の上面に、設置部が配置されている。
【0147】
蓋330は、ヒンジ331と、コネクタ332とを含む。すなわち、コネクタ332は、検体処理チップ200のリザーバ14bとの接続口を含んでいる。設置部に設置された検体処理チップ200のリザーバ14bに対して、それぞれコネクタ332を接続することにより、第2の液体22をリザーバ14bに対して送液することが可能となる。
【0148】
これにより、装置内に検体処理チップ200を設置して、蓋330側のコネクタ332によって容易かつ確実に液体送液装置100と検体処理チップ200との接続を行うことができる。また、装置内に検体処理チップ200を設置することにより、送液を行うための送液管や圧力経路などが不必要に長くなることを抑制して、送液処理の応答を速くし制御性を高めることができる。コネクタ332は、蓋330に着脱可能に取り付けられてもよいし、蓋330に固定されていてもよい。コネクタ332は、複数設けられていてもよい。
【0149】
図21では詳細な図示を省略するが、複数チャンネル備えた検体処理チップ200が、設置部にセットされる。コネクタ332は、蓋330の下面に設けられている。コネクタ332は、複数チャンネルの単位流路構造の各々に設けられたリザーバ14bに一括で接続可能なマニホールドとして構成されている。つまり、コネクタ332は、検体処理チップ200のチャンネル数分の複数のリザーバ14bとの接続口を、一体で含んでいる。蓋330を閉じることにより、コネクタ332と、複数チャンネルの単位流路構造の各々に設けられたリザーバ14bとが、一括で接続される。
【0150】
このように、
図21の例では、蓋330は、設置部に対して開閉可能に構成され、設置部に対して蓋330が閉じられることにより、コネクタ332がリザーバ14bの各々と接続される。
図21の例では、蓋330は、ヒンジ331により装置本体と接続され、ヒンジ331を中心に回動することにより開閉される。
【0151】
(第1の液体の供給)
第1の液体21として用いる液体は、検体処理チップ200における検体処理に利用される液体であれば特に限定されない。第1の液体21は、検体処理チップ200のリザーバ14bに供給することが好ましい。
【0152】
たとえば、
図22の例では、注入器具700によって第1の液体21を、検体処理チップ200のリザーバ14bに供給する。すなわち、
図22に示すように、第1の液体21の送液に先立って、リザーバ14bに、第1の液体21が注入器具700によって注入される。注入器具700は、たとえばピペット、シリンジ、ディスペンサー装置などである。これにより、一般的なウェルプレートなどへの液体の注入と同じように、作業者がピペットなどの注入器具700を用いて、第1の液体21をリザーバ14bへ容易に注入することができる。そのため、作業者にとっての利便性が向上する。また、この際、リザーバ14bの上方に空気を含まないように、第1の液体21を注入することが好ましい。これにより、送液時に第1の液体21と、第2の液体22との間に空気の層が挟まられるのを抑制することが可能である。なお、第1の液体21の注入は、検体処理チップ200を、液体送液装置100の設置部に設置してから行ってもよいし、設置前に行ってもよい。
【0153】
(検体処理チップとの接続構造)
図23は、設置部に設置された検体処理チップ200と、設置部に対応する蓋330に設けられたコネクタ332とを示す。
図23は、たとえば、検体処理チップ200における単位流路構造の1つを示している。マニホールド型のコネクタ332には、複数の送液管および圧力経路が設けられている。蓋330を閉じた状態では、送液管および各圧力経路と、検体処理チップ200の各リザーバ14bとが、コネクタ332を介して一括で接続される。
【0154】
図23に示す例では、コネクタ332には、バルブ16bおよびセンサ12が設けられている。なお、バルブ16bおよびセンサ12は、コネクタ332とは別個に設けられていてもよい。
【0155】
図23では、コネクタ332とリザーバ14bの上面との間は、たとえばOリングやガスケットのようなシール部材によりシールされる。
【0156】
(センサの構成例)
図24は、第2の液体22の流量、流速および圧力のうち少なくとも1つを含む流れを計測するセンサ12の構成例を示す。
【0157】
図24に示す例では、センサ12は、たとえば、熱式流量計を含む。センサ12は、第2の液体22の流路15bに埋め込まれている。センサ12は、熱源121と、熱測定部122aおよび122bとを含む。熱測定部122aおよび122bは、液体の流れ方向に沿って、熱源121を挟み込むように配置されている。つまり、熱測定部122aおよび122bは、熱源121に対して一方が上流側に配置され、他方が下流側に配置されている。センサ12は、熱測定部122aおよび122bにより測定された温度の温度差に基づいて、流路15bを流れる液体の流量を測定する。つまり、上流から下流に液体が流れるため、熱源121により発せられた熱量も流れに沿って移動する。このため、上流では熱が伝わりにくく、下流では熱が伝わりやすくなる。また、流量が大きくなるほど、この上流の温度と下流の温度との差が大きくなる。なお、流路15bを流れる液体は、層流であることが望ましい。なお、センサ12は、熱式流量計のほか、差圧式の流量計でもよい。また、センサ12は、音波やレーザを用いた流量計でもよい。また、センサ12は、電磁式の流量計でもよい。また、計測した流量は、密度を用いて体積流量と質量流量とを相互に変換したり、流路の断面積を用いて流速に変換することができる。また、計測した流量をベルヌーイの式などを用いて圧力に変換することができる。
【0158】
(検体保持部の構成例)
図25は、検体保持部320の構成例を示す。
【0159】
検体や試薬等の液体容器301は、検体保持部320内の容器設置部302に配置される。
図25のように、容器設置部302が複数配置されてもよいし、容器設置部302は単一であってもよい。
【0160】
容器設置部302の蓋303に設けられた送液管304は、バルブ400を介して、検体処理チップ200と接続される。検体保持部320内の圧力を高めてバルブ400を開放すれば、液体容器301内の液体が検体処理チップ200側に供給される。
【0161】
(バルブの構成例)
バルブ400は、流体を流路201内に導入するためのバルブとして機能する。バルブ400は、流路毎に複数設けられていてもよい。
【0162】
図26は、バルブ400の構成例を示す。バルブ400は、たとえば、電磁バルブである。バルブ400は、弁401、コイル402、プランジャ403を備える。弁401が送液管304を開閉する。バルブ400は、液体送液装置100に複数配置されている。制御部10は、各バルブ400の開閉を個別に制御できる。
【0163】
(検体処理チップの設置部の蓋の構成例)
検体処理チップ200の設置部には、設置部に対応する蓋330を設けてもよい。
図27は、設置部の蓋330の構成例を示す。蓋330は、設置部にセットされる検体処理チップ200を覆うように設けられる。
【0164】
蓋330は、ヒンジ331により液体送液装置100と接続される。蓋330は、ヒンジ331の回転により開閉される。蓋330は、コネクタ332を含んでもよい。設置部の蓋330を閉じるだけで、設置部に設置された検体処理チップ200とコネクタ332とが接続される。蓋330は、液体送液装置100に対して着脱可能であってもよい。この場合ヒンジ331は設けなくてよい。
【0165】
(コネクタの構成例)
図28は、コネクタ332の構成例を示す。コネクタ332は、蓋330に設けられている。コネクタ332は、基板210の基板流路211にアクセスするための穴332aを有する。コネクタ332は、基板210の基板流路211に対応する位置に設置される。コネクタ332は、任意の基板流路211に対応する位置にのみ設置されてもよい。コネクタ332は、複数の送液管304が形成されたマニホールドとして構成されてもよい。この場合、蓋330を閉じることにより、各送液管304と、検体処理チップ200のすべてのポートとが、コネクタ332を介して一括で接続される。
【0166】
検体や試薬等の液体は、穴332aを介して、送液管304から検体処理チップ200に注入される。検体処理チップ200を流れる液体は、穴332aを介して、検体処理チップ200から回収される。コネクタ332は、検体処理チップ200との接触面にガスケット333などの液漏れや異物混入を抑止するシール材を有する。
【0167】
(固定器具の構成例)
図29~
図31は、検体処理チップ200を液体送液装置100に設置するために用いる固定器具450の例を示す。
【0168】
図29に示すように、検体処理チップ200は、たとえば、固定器具451および452によって固定される。固定器具451と452とは、嵌合部材453によって固定される。位置決め部454により、検体処理チップ200と固定器具451および452との相対位置が決まる。検体処理チップ200が、
図30のように、固定器具で固定される。
【0169】
図31(A)に示されるように、固定器具452は、基板210に対応する箇所に貫通穴からなる開口部455を有する。液体送液装置100のコネクタ332などは、開口部455を介して基板210に上方からアクセス可能である。また、
図31(B)に示されるように、固定器具451は、基板210および流体モジュール220に対応する箇所に貫通穴からなる開口部456を有しており、開口部456を介して基板210および流体モジュール220に下方からアクセス可能である。
【0170】
固定器具452を設置部の蓋330に固定してもよい。固定器具451および452は、液体送液装置100に設けられる各種処理ユニットを配置するための取付穴457を有していてもよい。
【0171】
(各種処理ユニットの設置例)
図32~
図34は、液体送液装置100の各種処理工程に用いる処理ユニットの設置例を示す。
【0172】
たとえば、流体モジュール220内の液体を加温するためのヒーターユニット(ヒーター460)、流体モジュール220内の液体に磁力を作用させるための磁石ユニット480(
図34参照)、流体モジュール220内の液体を冷却するための冷却ユニット(図示せず)、検体処理チップ200内で対象成分の検出を行うための検出ユニット(検出部470、
図33参照)、流体モジュール220内の液体の流れを撮影するためのカメラユニット(図示せず)などが、取付穴457を介して固定器具451または452に取り付けられる。コネクタ332を固定器具451または452に取り付けてもよい。ユニットは、これらのうち複数の機能を備えた複合型のユニットであってもよい。たとえば、液体を加温する機能と、液体に磁力を作用させる機能とを備えたユニットが用いられてもよい。
【0173】
(ヒーターユニット)
図32は、液体送液装置100におけるヒーター460の配置例を示す。
【0174】
ヒーター460は、検体処理チップ200の温度を調整する。たとえば、流体モジュール220内でDNAをPCRにより増幅するために、ヒーター460が検体処理チップ200を加温する。
【0175】
ヒーター460は、設置部に設けられる。たとえば、ヒーター460は、検体処理チップ200の下面側の固定器具451に取り付けられる。ヒーター460は、設置部510に設置された検体処理チップ200の下面側から、検体処理チップ200の温度を調節する。ヒーター460は、蓋330または上面側の固定器具452に取り付けられてもよい。ヒーター460は、温度調節の対象となる流体モジュール220に対応する位置に配置される。ヒーター460は、移動可能であってもよい。
【0176】
(検出ユニット)
図33は、液体送液装置100の検出部470の構成例を示す。
【0177】
検出部470は、たとえば、対象成分に結合した標識物質の蛍光を検出する。検出部470は、たとえば、フォトマルチプライヤーである。検出部470は、たとえば、検体処理チップ200の上面側の固定器具452に取り付けられる。検出部470を蓋330に設けてもよい。検出部470は、検体処理チップ200に接続されたコネクタ332の間から蛍光を検出する。検出部470は、検体処理チップ200の下面側の固定器具451や、液体送液装置100に設けられてもよい。この場合、検出部470は、検体処理チップ200の下面側から蛍光を検出する。
【0178】
(磁石ユニット)
図34は、検体処理チップ200内の液体中に含まれる磁性粒子の制御に用いられる磁石ユニット480の構成例を示す。
【0179】
磁石ユニット480は、たとえば、検体処理チップ200の下面側の固定器具451に取り付けられる。磁石ユニット480は、液体送液装置100に設けられてもよい。磁石ユニット480は、蓋330または上面側の固定器具452に取り付けられてもよい。磁石ユニット480は、磁石481を含む。磁石481は、検体処理チップ200内の液体に含まれる磁性粒子に磁力を作用させる。磁石ユニット480は、たとえば、検体処理チップ200の長手方向に磁石481を移動可能である。
【0180】
図示は省略するが、カメラユニットや冷却ユニットについても同様である。
【0181】
[検体処理チップを用いたアッセイの例]
次に、検体処理チップ200を用いた具体的なアッセイの例を説明する。
【0182】
(エマルジョンPCRアッセイ)
上述の検体処理チップ200を用いてエマルジョンPCRアッセイを実施する例を説明する。
【0183】
図35は、エマルジョンPCRアッセイのフローの例を示す。
図36は、エマルジョンPCRアッセイにおける反応の進行過程を説明する図である。
【0184】
ステップS1において、前処理により、血液等の試料からDNAが抽出される(
図36(A)参照)。前処理は、専用の核酸抽出装置を用いて行ってもよいし、液体送液装置100に前処理機構を設けてもよい。
【0185】
ステップS2において、抽出されたDNAは、Pre-PCR処理によって増幅される(
図36(A)参照)。Pre-PCR処理は、前処理後の抽出液に含まれるDNAを、後続するエマルジョン作成処理が可能となる程度に予備増幅する処理である。Pre-PCR処理では、抽出されたDNAと、ポリメラーゼやプライマーを含むPCR増幅用の試薬とが混合され、サーマルサイクラによる温度制御によって、混合液中のDNAが増幅される。サーマルサイクラは、混合液に対して、複数の異なる温度に変化させる1つのサイクルを複数回繰り返すサーマルサイクル処理を行う。
【0186】
ステップS3は、対象成分である核酸(DNA)と、核酸の増幅反応のための試薬と、核酸の担体との混合液を含む液滴を分散媒体中に形成するエマルジョン形成工程である。核酸の増幅反応のための試薬は、DNAポリメラーゼなどのPCRに必要な物質を含んでいる。ステップS3において、磁性粒子やポリメラーゼ等を含む試薬とDNAとを包含するエマルジョンが形成される(
図36(B)参照)。エマルジョンとは、分散媒体中に、分散媒体とは混合しない液体が分散した分散系溶液のことである。つまり、ステップS3では、磁性粒子やポリメラーゼ等を含む試薬とDNAとの混合液を内部に含む液滴が形成され、多数の液滴が分散媒体中に分散される。液滴内に閉じ込められる磁性粒子は、表面に核酸増幅用のプライマーが付与されている。液滴は、磁性粒子とターゲットDNA分子とが液滴内にそれぞれ1個程度含まれるように形成される。分散媒体は混合液に対して非混和性を有する。この例では、混合液は水系であり、分散媒体は油系である。分散媒体は、たとえば、オイルである。
【0187】
ステップS4は、エマルジョン形成工程により形成された液滴中の核酸(DNA)を増幅するエマルジョンPCR工程である。ステップS4において、サーマルサイクラによる温度制御によって、エマルジョンの各液滴内で、DNAが磁性粒子上のプライマーと結合し、増幅される(エマルジョンPCR)(
図36(C)参照)。これにより、個々の液滴内で、ターゲットDNA分子が増幅する。すなわち、各液滴内で核酸の増幅産物が形成される。増幅された核酸は、液滴内でプライマーを介して担体に結合する。
【0188】
ステップS5は、エマルジョンPCR工程による核酸(DNA)の増幅産物を担持した担体(磁性粒子)を含む液滴を破壊するエマルジョンブレーク工程である。すなわち、ステップS4において磁性粒子上でDNAを増幅後、ステップS5において、エマルジョンが破壊され(解乳化され)、増幅されたDNAを含む磁性粒子が液滴から取り出される(エマルジョンブレーク)。エマルジョンの破壊には、アルコールや界面活性剤などを含む1または複数種類のエマルジョン破壊試薬が用いられる。
【0189】
ステップS6は、エマルジョンブレーク工程における破壊により液滴から取り出された担体(磁性粒子)を集める洗浄工程である。ステップS6において、液滴から取り出された磁性粒子は、BF分離工程により洗浄される(1次洗浄)。BF分離工程は、増幅されたDNAを含む磁性粒子を磁力によって集磁した状態で洗浄液中を通過させることにより、磁性粒子に付着した不要な物質を除去する処理工程である。1次洗浄工程では、たとえば、アルコールを含む洗浄液が用いられる。アルコールは、磁性粒子上の油膜を除去し、かつ、増幅された二本鎖DNAを一本鎖に変性させる。
【0190】
ステップS7は、洗浄工程により集められた担体(磁性粒子)上の増幅産物と標識物質とを反応させるハイブリダイゼーション工程である。洗浄後、ステップS7において、磁性粒子上で一本鎖に変性したDNAが、検出用の標識物質とハイブリダイズされる(ハイブリダイゼーション)(
図36(D)参照)。標識物質は、たとえば、蛍光を発する物質を含む。標識物質は、検出対象のDNAに特異的に結合するように設計されている。
【0191】
ステップS8において、標識物質と結合した磁性粒子は、BF分離工程により洗浄される(2次洗浄)。2次BF分離工程は、1次BF分離工程と同様の処理により行われる。2次洗浄工程では、たとえば、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)が洗浄液として用いられる。PBSは、DNAと結合しなかった未反応の標識物質(磁性粒子に非特異的に吸着している標識物質を含む)を除去する。
【0192】
ステップS9において、ハイブリダイズされた標識物質を介して、DNAが検出される。DNAは、たとえば、フローサイトメーターで検出される。フローサイトメーターにおいて、標識物質と結合したDNAを含む磁性粒子がフローセルを流れ、磁性粒子にレーザー光が照射される。照射されたレーザー光によって発せられた標識物質の蛍光が検出される。
【0193】
DNAは、画像処理によって検出されてもよい。たとえば、標識物質と結合したDNAを含む磁性粒子が平板スライド上に分散され、分散された磁性粒子がカメラユニットにより撮像される。撮像された画像に基づいて、蛍光を発している磁性粒子数がカウントされる。
【0194】
[検体処理の例]
以下、各種の検体処理チップ200を用いた検体処理のアッセイ例を説明する。以下の説明において、検体処理チップ200への検体、各種試薬、第1の液体21などの流体の輸送および検体処理チップ200中での流れ制御は、検体処理チップ200が設置された液体送液装置100の制御部10の制御により行われる。
【0195】
(エマルジョンPCRアッセイ)
図37は、エマルジョンPCRアッセイに用いられる検体処理チップ200の構成例を示す。
【0196】
図37の検体処理チップ200は、機能が異なる複数種類の流体モジュール(220A~220E)の組み合わせにより構成されている。具体的には、流体モジュール220Aにおいて、対象成分の処理としてPre-PCR処理が行われる。流体モジュール220Bにおいて、対象成分の処理として液滴形成処理が行われる。流体モジュール220Cにおいて、対象成分の処理としてエマルジョンPCR処理が行われる。流体モジュール220Dにおいて、対象成分の処理として液滴破壊処理が行われる。流体モジュール220Eにおいて、対象成分の処理として洗浄(1次洗浄)処理が行われる。流体モジュール220Aにおいて、対象成分の処理としてハイブリダイゼーション処理および洗浄(2次洗浄)処理が行われる。対象成分であるDNAや試薬等の液体が検体処理チップ200上の各流体モジュール内を順次流れることにより、エマルジョンPCRアッセイが実行される。流体モジュール220A~220Eを一体化して、単一の流体モジュール220にそれぞれの処理を実施するための流路201を形成してもよい。
【0197】
(Pre-PCR)
図38は、Pre-PCRに用いられる流体モジュール220Aの構成例を示す。流体モジュール220Aの流路201は、チャネル203と、試薬や検体を注入する接続部205aおよび205bと、液体を排出する接続部205cとを有する。チャネル203は、液体の流速制御のため、たとえば菱形に成形されている。
【0198】
流体モジュール220Aは、たとえばポリカーボネートなどの耐熱性の高い材料により形成される。チャネル203の高さは、たとえば、50μm~500μmに形成される。
【0199】
たとえば、接続部205aから、前処理で抽出されたDNAが注入され、接続部205bからPCR増幅用試薬が注入される。DNAと試薬の混合液は、チャネル203を流れる過程で、ヒーター460により温度が制御される。温度制御によって、DNAと試薬が反応し、DNAが増幅される。増幅されたDNAを含む液体は、接続部205cを介して、隣接する流体モジュール220に移送される。
【0200】
(エマルジョン形成)
図39は、エマルジョン形成に用いられる流体モジュール220Bの構成例を示す。流体モジュール220Bの流路201は、チャネル203と、検体や試薬等の液体が注入される接続部205a、205bおよび205cと、液体が排出される接続部205dとを有する。チャネル203は、少なくとも2つのチャネルが交差する交差部分206を有する。交差部分206を形成する各チャネルの幅は、数十μmである。たとえば、チャネルの幅は20μmである。なお、流体モジュール220Bには、接続部205bまたは205cのいずれかのみが設けられてもよい。
【0201】
つまり、検体処理チップ200内の流路201に、第1の液体21の導入に加えてエマルジョン形成のための分散媒23を導入してエマルジョンの形成を行う。
【0202】
流体モジュール220Bのチャネル203の高さは、たとえば10μm~20μmである。オイルに対する濡れ性を良くするため、たとえば、チャネル203の壁面は疎水性の材料やフッ素により処理されている。流体モジュール220Bの材料は、たとえばPDMSやPMMA等である。
【0203】
たとえば、Pre-PCRで増幅されたDNAを含む液体は接続部205bから注入され、磁性粒子とPCR増幅用の試薬とを含む液体が接続部205cから注入される。接続部205bと205cからそれぞれ注入された液体は、チャネル203中で混合され、交差部分206に流入する。磁性粒子の粒径は、たとえば、平均粒子径で0.5μm以上20μm以下の範囲から選択される。平均粒子径は、たとえば、光散乱法により測定された個数平均径を意味する。接続部205bおよび205cに送液するために、接続部205bと205cからそれぞれ注入された液体の流量が一定となるように制御される。
【0204】
たとえば、エマルジョンの形成では、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の分散質の液滴を第1の液体21により形成する。第1の液体21の流れを精度よく制御して第1の液体21を分散質の液滴としてエマルジョンを形成することができるので、液滴の粒径のばらつきを抑制することができる。また、平均粒径が0.1μm以上500μm以下の液滴の粒径の揃ったエマルジョンを効率よく形成することができる。好ましくは、エマルジョンの形成では、平均粒径が0.1μm以上200μm以下の分散質の液滴を第1の液体21により形成する。より好ましくは、エマルジョンの形成では、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の分散質の液滴を第1の液体21により形成する。これにより、バイオ測定に適したエマルジョンを形成することが可能である。
【0205】
たとえば、エマルジョン形成用のオイルが、接続部205aから注入される。注入されたオイルは、たとえば、チャネル203で複数の経路に分岐され、分岐された複数経路から交差部分206に流入する。接続部205aにオイルを送液するために、接続部205aから注入された液体の流量が一定となるように制御される。また、分散質を形成する液体の流量に応じて、分散媒23としてのオイルの流量が制御される。
【0206】
図40は、交差部分206でエマルジョンが形成される例を示す。たとえばDNAと試薬の混合液を含む第1の液体21は、
図40の上下方向からオイルが流入する交差部分206に流れ込む。第1の液体21は、交差部分206においてオイルによって挟まれることにより生じたせん断力によって、液滴状に分断される。分断された液滴が交差部分206に流入したオイルに包まれることで、エマルジョンが形成される。エマルジョンとなった試料流は、接続部205dを介して、隣接する流体モジュール220に移送される。
【0207】
たとえば、分散質を形成する第1の液体21は、0.4μL/分~7μL/分の範囲内から選択される一定の流量で交差部分206に流入し、オイルは、1μL/分~50μL/分の範囲内から選択される一定の流量で交差部分206に流入する。流量は、制御部10により制御される。たとえば、第1の液体21を2μL/分(約5200mbar)、オイルを14μL/分(約8200mbar)の流量でそれぞれ交差部分206に流入させることで、約1千万個/分の液滴が形成される。
【0208】
たとえば、エマルジョンの形成では、第1の液体21を分散質の液滴として600個/分以上6億個/分以下の割合で形成する。第1の液体21の流れを精度よく制御して第1の液体21を分散質の液滴としてエマルジョンを形成することができるので、液滴の粒径のばらつきを抑制することができる。また、600個/分以上6億個/分以下の割合で、液滴の粒径の揃ったエマルジョンを効率よく形成することができる。好ましくは、エマルジョンの形成では、第1の液体21を分散質の液滴として1000個/分以上6億個/分以下の割合で形成する。より好ましくは、エマルジョンの形成では、第1の液体21を分散質の液滴として3000個/分以上1800万個/分以下の割合で形成する。さらに好ましくは、エマルジョンの形成では、第1の液体21を分散質の液滴として5000個/分以上900万個/分以下の割合で形成する。
【0209】
なお、
図40の例では、交差部分206は、混合液の流入するチャネル203aが1つ、オイルの流入するチャネル203bが2つ、エマルジョンが流出するチャネル203cが1つの、合計4つのチャネル203により十字に形成されている。交差部分206としては、
図41に示すように、3つのチャネル203によりT字状に形成されていてもよい。
【0210】
(PCR)
図42は、エマルジョンPCRに用いられる流体モジュール220Cの構成例を示す。流体モジュール220Cの流路201は、チャネル203と、液体が流入する接続部205aと、液体が排出される接続部205bとを有する。
【0211】
流体モジュール220Cは、たとえばポリカーボネートのような耐熱性の高い材料で形成される。チャネル203の高さは、たとえば、50μm~500μmに形成される。
【0212】
チャネル203は、ヒーター460により形成される複数の温度ゾーンTZ1~TZ3を複数回経由するような構造を有する。温度ゾーンTZは、3つ以外の他の数でもよい。チャネル203が各温度ゾーンTZ1~TZ3を経由する回数は、サーマルサイクル数に対応する。
図42では簡略化して図示しているが、エマルジョンPCRのサーマルサイクル数は、たとえば、40サイクル程度に設定される。チャネル203は、サイクル数に応じた回数分の往復形状あるいは蛇行形状に形成される。
図42に示すように、それぞれの液滴内のDNAは、チャネル203を流れる過程で増幅される。
【0213】
(エマルジョンブレーク)
図43は、エマルジョンのブレークに用いられる流体モジュール220Dの構成例を示す。流体モジュール220Dの流路201は、チャネル203と、エマルジョンやエマルジョンブレーク用の試薬が流入する接続部205a、205bおよび205cと、液体が排出される接続部205dとを含む。
【0214】
流体モジュール220Dは、たとえば、ポリカーボネートやポリスチレンのように耐薬品性の高い材料により形成される。チャネル203の高さは、たとえば、50μm~500μmで形成される。
【0215】
たとえば、エマルジョンPCR工程を経たエマルジョンが接続部205bから流入し、エマルジョンブレーク用の試薬が接続部205aおよび205cから流入する。エマルジョンと、エマルジョンブレーク用の試薬は、チャネル203を流れる過程で混合され、エマルジョン中の液滴が破壊される。すなわち、対象成分の処理において、核酸の増幅産物が結合した担体を含む液滴と、液滴を破壊するための試薬を混合することにより、液滴が破壊される。これにより、液滴と液滴を破壊するための試薬とを混合するだけで容易に液滴を破壊することができる。チャネル203は、液体の混合が促進されるような形状で構成される。たとえば、チャネル203は、液体が検体処理チップ200の幅方向に複数回往復するように形成される。液滴から取り出された磁性粒子は、接続部205dを介して、隣接の流体モジュール220に移送される。
【0216】
流体モジュール220Dにおいて、対象成分の処理として液滴破壊処理が行われる結果、チャネル203中には、処理液体中に、粒子および担体としての磁性粒子が分散される。磁性粒子は、破壊により液滴中から取り出されたものであり、核酸の増幅産物である核酸が結合している。チャネル203中の処理液体は、オイル、エマルジョンブレーク用の試薬、破壊により液滴中から流出した液体(PCR増幅用の試薬やDNAとともに液滴中に包含された液体)などを含む混合液である。
【0217】
(洗浄(1次洗浄))
図44は、洗浄工程(1次洗浄)で用いられる流体モジュール220Eの構成例を示す。流体モジュール220Eの流路201は、液体が流入する接続部205a、205bと、液体が排出される接続部205c、205dと、チャネル203とを含む。チャネル203は、たとえば、略長方形の形状など、所定方向に直線状に延びる形状を有する。また、チャネル203は、磁性粒子の集磁や分散が十分にできるように幅広形状を有する。流入側の接続部205a、205bがチャネル203の一端側に配置され、排出側の接続部205c、205dがチャネル203の他端側に配置される。
【0218】
流体モジュール220Eは、たとえば、ポリカーボネートやポリスチレンのように耐薬品性の高い材料で形成される。チャネル203の高さは、たとえば、50μm~500μmで形成される。
【0219】
図45は、流体モジュール220Eにより磁性粒子を洗浄・濃縮する動作例を示す。接続部205aから205cに向けて、磁性粒子を含む液体が流れる。液体中の磁性粒子は、磁石481の磁力により濃縮される。磁石481は、チャネル203の長手方向に往復移動できる。磁性粒子は、磁石481の往復運動に追従し、チャネル203内を往復移動しながら凝集される。
【0220】
接続部205bからは、洗浄液が供給される。洗浄液は、接続部205bから205dに向けて連続的に流れる。接続部205dは、洗浄液を排出するためのドレーンとして機能する。
【0221】
1次洗浄工程では、アルコールを含む洗浄液が用いられる。洗浄液を用いた1次洗浄により、磁性粒子上の油膜が除去され、増幅された二本鎖DNAが一本鎖に変性する。
【0222】
(ハイブリダイゼーション)
磁性粒子は、
図38と同様の構成の流体モジュール220Aにおいて、標識物質を含む試薬と混合され、サーマルサイクルに供される。たとえば、接続部205aから磁性粒子を含む液体が移送され、接続部205bから標識物質を含む試薬が注入される。サーマルサイクルによって、磁性粒子上のDNAと標識物質が結合する。
【0223】
(洗浄(2次洗浄))
標識物質とのハイブリダイゼーション(結合)後の2次洗浄工程は、流体モジュール220Aで行うようにしてもよい。たとえば
図38において、磁石481(
図45参照)によって磁性粒子をチャネル203内に集磁した状態で、接続部205bから洗浄液が注入される。2次洗浄工程では、PBSが洗浄液として用いられる。洗浄液を用いた2次洗浄により、DNAと結合しなかった未反応の標識物質(磁性粒子に非特異的に吸着している標識物質を含む)が除去される。2次洗浄後の標識物質を含む磁性粒子は、接続部205cから排出される。この場合、流体モジュール220E(
図44参照)と同様に、流体モジュール220Aにもドレーン用の排出側の接続部205を設けるのがよい。
【0224】
なお、ハイブリダイゼーションを行う流体モジュール220Aの下流側に、2次洗浄を行う流体モジュール220Eを追加してもよい。
【0225】
(1次洗浄、ハイブリダイゼーションおよび2次洗浄の変形例)
他の構成例として、1つの流体モジュール220E(
図44参照)において、1次洗浄、ハイブリダイゼーションおよび2次洗浄を実施するように構成してもよい。この場合、接続部205aからエマルジョンブレーク後の試料をチャネル203に導入して磁石481により集磁しておく。接続部205bから、1次洗浄用のアルコール含有洗浄液、ハイブリダイゼーション用の標識試薬、2次洗浄用の洗浄液(PBS)を順番に注入して、各工程の処理を実行する。この場合、流体モジュール220Eの下流側の流体モジュール220Aを設ける必要はない。
【0226】
(検出)
2次洗浄後の標識物質を含む磁性粒子は、たとえばフローサイトメーターや画像解析により検出される。フローサイトメーターで検出するため、標識物質を含む磁性粒子は、たとえば、液体送液装置100から回収された後、別個に設けられたフローサイトメーターに移送される。また、標識物質を含む磁性粒子は、液体送液装置100の検出部470によって標識に基づく蛍光などが検出される。また、標識物質を含む磁性粒子は、液体送液装置100のカメラユニットによって撮像され、液体送液装置100又は液体送液装置100に接続されたコンピュータによって撮像された画像が解析される。
【0227】
(単一細胞解析(Single Cell Analysis))
上述の検体処理チップ200を用いて単一細胞解析を実施する例を説明する。血液などの試料に含まれる個々の細胞を解析対象として、細胞単位での解析を行う手法である。
図46は、単一細胞解析に用いられる検体処理チップ200の構成例を示す。
【0228】
検体処理チップ200は、たとえば、液体混合用の流体モジュール220D、エマルジョン形成用の流体モジュール220B、PCR増幅用の流体モジュール220Cの組み合わせにより構成される。
【0229】
単一細胞解析は、対象成分である細胞と、細胞中の核酸の増幅反応のための試薬とを混合する工程(第1工程)、第1工程により混合された液体と、細胞溶解試薬との混合液を含む液滴を分散媒体中に形成する工程(第2工程)、第2工程によって液滴中で細胞から溶出した核酸を液滴中で増幅する工程(第3工程)、を含む。
【0230】
流体モジュール220Dの構成(材質やチャネル高さ等)は、
図43に例示された構成と同様であり、詳細な説明は省略する。血液等の検体が流体モジュール220Dの接続部205bから注入され、PCR増幅用試薬が接続部205aおよび205cから注入される。検体に含まれる細胞とPCR増幅用試薬がチャネル203を流れる過程で混合される。
【0231】
流体モジュール220Bの構成(材質やチャネル高さ等)は、
図39に例示された構成と同様であり、詳細な説明は省略する。細胞とPCR増幅用試薬、蛍光色素の混合液が、流体モジュール220Bの接続部205bから注入される。細胞溶解試薬が、接続部205cから注入される。接続部205aから、エマルジョン形成用のオイルが注入される。細胞、PCR増幅用試薬および細胞溶解試薬の混合液は、交差部分206においてオイルに包まれた液滴になり、エマルジョンが形成される。混合液を包み込んだ液滴は、接続部205cを介して、隣接する流体モジュール220Cに移送される。液滴内の細胞は、エマルジョンが流体モジュール220Cに移送される過程で、細胞溶解試薬によって溶解される。溶解された細胞から、細胞内のDNAがPCR増幅用試薬を含む液滴内に溶出する。
【0232】
流体モジュール220Cの構成(材質やチャネル高さ等)は、
図42に例示された構成と同様であり、詳細な説明は省略する。流体モジュール220Cに移送されたエマルジョンは、流体モジュール220Cのチャネル203を流れる過程でサーマルサイクルに供される。サーマルサイクルによって、液滴内で細胞から溶出したDNAが増幅される。液滴内で細胞から溶出されたタンパク質を酵素と変更/基質の反応等によって検出しても良い。
【0233】
(免疫測定(Digital ELISA))
上述の検体処理チップ200を用いて免疫測定を実施する例を説明する。免疫測定は、血液などに含まれる抗原や抗体などのタンパク質を対象成分とする。
図47は、Digital ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)に用いられる検体処理チップ200の構成例を示す。
【0234】
検体処理チップ200は、温度制御用の流体モジュール220A、BF分離用の流体モジュール220E、エマルジョン形成用の流体モジュール220B、温度制御用の流体モジュール220Aの組み合わせにより構成される。
【0235】
図48は、Digital ELISAの概要を示す。ELISAは、対象成分となる抗原(抗体でもよい)および標識物質を磁性粒子に担持させることにより免疫複合体を形成し、免疫複合体中の標識に基づいて対象成分の検出を行う手法である。Digital ELISAは、限界希釈(各微小区画に対象成分が1または0となるような希釈)したサンプルを微小区画内に分散させ、標識に基づく信号がポジティブとなる微小区画の数を直接カウントすることにより、サンプル中の対象成分濃度を絶対的に測定する手法である。
図48の場合、エマルジョン中の個々の液滴が微小区画となる。検体処理チップ200により、
図48の例に示されるアッセイが実行される。
【0236】
より具体的には、Digital ELISAアッセイは、抗原抗体反応により対象成分(抗原または抗体)と担体とを結合させた免疫複合体を形成する工程(第1工程)、第1工程により形成された免疫複合体と、標識物質とを反応させる工程(第2工程)、第2工程により標識物質が結合した免疫複合体と、標識物質の検出のための基質とを含む液滴を分散媒体中に形成する工程(第3工程)、第3工程により形成された液滴中の標識物質に対して基質を反応させる工程(第4工程)、を含む。
【0237】
流体モジュール220Aの構成(材質やチャネル高さ等)は、
図38に例示された構成と同様であり、詳細な説明は省略する。流体モジュール220Aの接続部205aから抗原を含む検体が注入され、接続部205bから一次抗体および磁性粒子を含む試薬が注入される。検体と試薬は、チャネル203で混合される。混合液は、チャネル203で温度制御に供され、抗原、一次抗体および磁性粒子を含む免疫複合体が生成される。温度は、約40℃~約50℃、より好ましくは約42℃に制御される。生成された複合体を含む液体は、接続部205cを介して、隣接する流体モジュール220Eに移送される。
【0238】
流体モジュール220Eの構成(材質やチャネル高さ等)は、
図44に例示された構成と同様であり、詳細な説明は省略する。流体モジュール220Eのチャネル203において、磁性粒子を含む複合体は磁石481により集磁され、洗浄される(1次BF分離)。1次BF分離後、磁石481による磁力の影響を排除し、免疫複合体を分散させる。分散された免疫複合体を、酵素標識抗体と反応させる。反応後、再度、免疫複合体を磁石481により集磁し、洗浄する(2次BF分離)。洗浄後、免疫複合体は、隣接する流体モジュール220Bに移送される。
【0239】
流体モジュール220Bの構成(材質やチャネル高さ等)は、
図39に例示された構成と同様であり、詳細な説明は省略する。複合体は、流体モジュール220Bの接続部205bから注入され、蛍光/発光基質を含む試薬が接続部205cから注入される。エマルジョン形成用のオイルは、接続部205aから注入される。免疫複合体を含む液体と、蛍光/発光基質を含む試薬とは、交差部分206において、オイルに包み込まれて液滴となることにより、エマルジョンを形成する。エマルジョンは、接続部205cから、隣接する流体モジュール220Aに移送される。
【0240】
流体モジュール220Aに移送されたエマルジョンは、チャネル203において加温され、個々の液滴内で基質と免疫複合体が反応し、蛍光が発生する。液体送液装置100の検出部470は、蛍光を検出する。この結果、個々の液滴に包含された対象成分の一分子単位の検出が可能となる。
【0241】
流体モジュール220Aでは、粒子である磁性粒子が、対象成分である抗原または抗体と結合し、処理液体としての検体および試薬の混合液中に分散される。流体モジュール220Eでは、粒子である磁性粒子が、処理液体としての洗浄液中に分散される。流体モジュール220Bでは、粒子である液滴が、処理液体としてのオイル中に分散される。流体モジュール220Aでは、粒子である液滴が、処理液体としてのオイル中に分散される。
【0242】
(第1の液体と第2の液体の組合せ)
図49を参照して、各工程と第1の液体21および第2の液体22との対応の一例について説明する。
【0243】
図49に示すように、Pre-PCRの工程では、第1の液体21として、DNA検体、PCR増幅用の試薬を含む混合液が用いられる。この場合、第1の液体21は、たとえば、2μL/分の流量により検体処理チップ200の流路201に送液される。また、Pre-PCRの工程では、第2の液体22として、ミネラルオイルを含む混合液が用いられる。Pre-PCRの工程では、第1の液体21は、水相であり、第2の液体22は、油相である。
【0244】
エマルジョン形成およびエマルジョンPCRの工程では、第1の液体21として、Pre-PCRの工程により増幅されたDNA、磁性粒子およびPCR増幅用の試薬を含む混合液が用いられる。この場合、第1の液体21は、たとえば、2μL/分の流量により検体処理チップ200の流路201に送液される。また、エマルジョン形成およびエマルジョンPCRの工程では、第2の液体22として、ミネラルオイルを含む混合液が用いられる。エマルジョン形成およびエマルジョンPCRの工程では、第1の液体21は、水相であり、第2の液体22は、油相である。
【0245】
エマルジョンブレークおよびハイブリダイゼーションの工程では、第1の液体21として、エマルジョンPCRの工程により増幅されたDNA検体を含む液滴の混合液が用いられる。この場合の第1の液体21は、たとえば、2μL/分の流量により検体処理チップ200の流路201に送液される。また、エマルジョンブレークおよびハイブリダイゼーションの工程では、第1の液体21として、標識プローブを含む試薬が用いられる。この場合の第1の液体21は、たとえば、20μL/分の流量により検体処理チップ200の流路201に送液される。エマルジョンブレークおよびハイブリダイゼーションの工程では、第2の液体22として、ミネラルオイルを含む混合液が用いられる。
【0246】
(実施例の説明)
次に、本実施形態の液体送液方法の効果を確認するために行った実施例について説明する。本実施例では、第1の液体21を分散質として、分散媒23とともに検体処理チップ200の流路201に導入してエマルジョンを形成する実験を行った。
【0247】
実施例に用いた構成を
図50に示す。実施例1および2では、第1の液体21としてPre-PCRにより増幅されたDNA、磁性粒子およびPCR増幅用の試薬を含む混合液をチャネル203aに供給した。第1の液体21は、第2の液体22としてのミネラルオイルを含む混合液により押し出すことによりチャネル203aに供給した。また、実施例1および2では、
図51および
図52に示すように、エマルジョンを形成する連続相として、ミネラルオイルを含む混合液をチャネル203bに供給した。チャネル203aと、チャネル203bとは、交差部分206により交差している。交差部分206の断面積は、400μm
2(20μm×20μm)である。形成されたエマルジョンは、チャネル203cを通した。形成したエマルジョンは、KEYENCE BZ-X700 Fluorescence Microscopeにより観察した。
【0248】
実施例1では、第1の液体21は、検体容器としての第1容器14aから供給した。つまり、第1の液体21が収容された第1容器14aに、流量が制御された第2の液体22を流入させて、第1の液体21の流量を制御した。また、実施例1では、第1の液体21の流量を3.25μL/分となるように、第2の液体22の流量を3.25μL/分に制御した。連続相の流量は、6.5μL/分となるように制御した。連続相の流量の制御は、第2の液体22の流量の制御と同様に、センサ12aを用いてフィードバック制御により行った。つまり、連続相が容器13aに収容され、容器13aに送液部11aにより圧力が付加されることにより、連続相が送液される。そして、連続相の流量をセンサ12aにより計測し、送液部11aをフィードバック制御した。
【0249】
実施例2では、第1の液体21は、検体処理チップ200上のリザーバ14bから供給した。つまり、第1の液体21が収容されたリザーバ14bに、流量が制御された第2の液体22を流入させて、第1の液体21の流量を制御した。また、実施例2では、第1の液体21の流量を3.6μL/分となるように、第2の液体22の流量を3.6μL/分に制御した。連続相の流量は、3.9μL/分となるように制御した。連続相の流量の制御は、第2の液体22の流量の制御と同様に、センサ12aを用いてフィードバック制御により行った。
【0250】
実施例1では、
図53に示すように、約15μmの粒径の分散質を有するエマルジョンを形成することができた。また、実施例1では、分散質の粒径がばらつくことなくエマルジョンを形成することができた。つまり、第1の液体21の流量を精度よく制御することにより、分散質の粒径の揃ったエマルジョンを形成することができた。
【0251】
実施例2では、
図54に示すように、約8μmの粒径の分散質を有するエマルジョンを形成することができた。また、実施例2では、分散質の粒径がばらつくことなくエマルジョンを形成することができた。つまり、第1の液体21の流量を精度よく制御することにより、分散質の粒径の揃ったエマルジョンを形成することができた。
【0252】
(比較例)
比較例では、第1の液体を分散質として、分散媒とともに検体処理チップ200の流路201に導入してエマルジョンを形成する実験を行った。
【0253】
比較例に用いた構成を
図55に示す。比較例1および2では、第1の液体としてPre-PCRにより増幅されたDNA、磁性粒子およびPCR増幅用の試薬を含む混合液をチャネル505aに供給した。第1の液体は、ポンプ502により供給される空気により押し出すことによりチャネル505aに供給した。また、比較例1および2では、
図56および
図57に示すように、エマルジョンを形成する連続相として、ミネラルオイルを含む混合液をチャネル505bに供給した。チャネル505aと、チャネル505bとは、交差部分507により交差している。交差部分507の断面積は、400μm
2(20μm×20μm)である。形成されたエマルジョンは、チャネル505cを通した。形成したエマルジョンは、KEYENCE BZ-X700 Fluorescence Microscopeにより観察した。
【0254】
また、比較例1および2では、第1の液体は、検体容器504から供給した。つまり、第1の液体が収容された検体容器504に、圧力が制御された空気を流入させて、第1の液体の流量を制御した。つまり、センサ503を用いてフィードバック制御して、検体容器504に流入する空気の圧力を制御した。また、連続相の流量の制御は、第1の液体の流量の制御と同様に、センサ503aを用いて連続相を押し出す空気の圧力をフィードバック制御して行った。つまり、連続相が容器504aに収容され、容器504aにポンプ502aにより圧力が付加されることにより、連続相が送液される。そして、連続相を押し出す空気の圧力をセンサ503aにより計測し、ポンプ502aをフィードバック制御した。
【0255】
比較例1では、第1の液体の圧力を1500mbarとなるように制御した。また、連続相の流体の圧力を1500mbarとなるように制御した。ただし、液体の流量を制御できないため、第1の液体の流量は、不安定であった。また、連続相の流量は、不安定であった。
【0256】
比較例2では、第1の液体の圧力を1000mbarとなるように制御した。また、連続相の流体の圧力を1500mbarとなるように制御した。ただし、液体の流量を制御できないため、第1の液体の流量は、不安定であった。また、連続相の流量は、不安定であった。
【0257】
比較例1および2では、第1の液体および連続相の流量の測定対象の流体が気体であり、僅かな圧変動で体積変化が生じるため、導入する第1の液体および連続相の流速を精度よく制御することができなかった。比較例1および2では、導入する液体の流量の制御ができないため、エマルジョンが形成しない場合もあった。また、
図58および
図59に示すように、エマルジョンが形成した場合でも、分散質の粒径が不均一であった。比較例1および2により、エマルジョンを形成すると、形成した分散質の液滴の大きさの均一性が悪く、圧力値への依存性も弱いとの結果が得られた。
【0258】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【符号の説明】
【0259】
10:制御部、11:送液部、12:センサ、13:第2容器、14a:第1容器、14b:リザーバ、21:第1の液体、22:第2の液体、23:分散媒、100、100a、100b:液体送液装置、200:検体処理チップ、201:流路