(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】開先溶接方法および開先溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20220511BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B23K9/095 501C
B23K9/095 501F
B23K9/095 510E
B23K9/12 350G
B23K9/095 501G
B23K9/095 505C
B23K9/12 350A
B23K9/12 350B
(21)【出願番号】P 2018009417
(22)【出願日】2018-01-24
【審査請求日】2020-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】井 上 浩 良
(72)【発明者】
【氏名】田 中 良 一
(72)【発明者】
【氏名】佐 藤 茂
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-010939(JP,A)
【文献】特開昭62-176673(JP,A)
【文献】特開2004-268098(JP,A)
【文献】特開2016-010810(JP,A)
【文献】特開平4-305370(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開先形状に基づいて溶接パス数および各パス溶接条件を自動生成し生成した各パス溶接条件で自動的に各パスの溶接を行う自動溶接において、
開先線上の1点目の開先断面積と2点目の開先断面積に基づいて該1点目と2点目との中間の開先断面積を演算し、該中間の開先断面積を埋めるパス数を算出し、算出したパス数値を小数値を切り上げて整数値としてこれを溶接パス数に決定し、1点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に1点目の溶接速度を決定し、2点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する前記決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に2点目の溶接速度を決定し、
決定した1点目と2点目の溶接速度を用いて、1点目から2点目までの各領域の溶接速度を線形補完により決定し、
前記決定した溶接速度で1点目から2点目までを前記溶接パス数で自動溶接する、ことを特徴とする自動溶接方法。
【請求項2】
決定した溶接速度に従い各領域オシレート条件を設定して溶接中に溶接トーチをオシレートする、請求項1に記載の自動溶接方法。
【請求項3】
Y方向に延びる開先に平行に配置されるガイドレール;
該ガイドレールに沿ってY方向に移動する電動のY走行台車;
Y走行台車上にあって溶接トーチをX方向に駆動する電動のX駆動機構;
Y走行台車上にあって該溶接トーチをZ方向に駆動する電動のZ駆動機構;および、
開先線上の1点目の開先断面積と2点目の開先断面積に基づいて該1点目と2点目との中間の開先断面積を演算し、該中間の開先断面積を埋めるパス数を算出し、算出したパス数値を小数値を切り上げて整数値としてこれを溶接パス数に決定し、1点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に1点目の溶接速度を決定し、2点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する前記決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に2点目の溶接速度を決定し、決定した1点目と2点目の溶接速度を用いて、1点目から2点目までの各領域の溶接速度を線形補完により決定し、前記Y
走行台車、X駆動機構およびZ駆動機構の駆動を制御して、前記溶接トーチにより開先を前記決定した溶接速度で前記決定した溶接パス数で溶接する制御手段;
を備える自動溶接装置。
【請求項4】
前記制御手段は、決定した溶接速度に従い各領域オシレート条件を設定して溶接中に溶接トーチをオシレートする、請求項3に記載の自動溶接装置。
【請求項5】
更に、前記溶接トーチをX方向に延びる軸回りに首振り回動駆動するT軸駆動機構を備え、前記制御手段は、T軸駆動機構の駆動を制御して前記溶接トーチを、開先先端に指向する傾斜姿勢並びに開先終端に指向する傾斜姿勢に設定する、請求項
3又は4に記載の自動溶接装置。
【請求項6】
更に、前記溶接トーチをX方向に延びる軸回りに首振り回動駆動するT軸駆動機構を備え、前記制御手段は、T軸駆動機構の駆動を制御して前記溶接トーチを、開先先端である1点目に指向する傾斜姿勢並びに開先終端である2点目に指向する傾斜姿勢に設定する、請求項3又は4に記載の自動溶接装置。
【請求項7】
前記制御手段は全自動計測が指示されると、T軸駆動機構の駆動を制御して前記溶接トーチを前記1点目に指向する傾斜姿勢にしてY走行台車のY往方向走行を開始して前記1点目を検出しそこの開先形状を計測し、次にT軸駆動機構の駆動を制御して前記溶接トーチを前記2点目に指向する傾斜姿勢にしてY走行台車のY復方向走行を開始して前記2点目を検出しそこの開先形状を計測する、請求項6に記載の自動溶接装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記1点目と2点目の間の前記Y復方向走行の走行距離を計測して溶接する溶接長に定める、請求項
7に記載の自動溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開先の自動溶接に関し、特に、作業員の操作が簡易な開先溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接対象材の溶接線例えばT継手、レ型平継手、の開先の溶接では、Y方向に延びる溶接線に沿って溶接トーチがY方向に走行する。通常、このY走行中に溶接トーチは開先の幅方向Xに往復動し(ウィービング又はオシレート)、このような溶接の数パスで開先の横断面が埋められる。溶接施工の省力化、品質向上のためにセンサおよびコンピュータを用いて、予めコンピュータに登録された溶接条件に基づいて、開先を自動検出し溶接トーチを自動駆動する溶接ロボットが開発され使用されている。
【0003】
例えば特許文献1には、予め、開先始端から終端までの溶接対象区間を複数領域に区分して各領域宛てに溶接条件を算出してメモリに記憶し、その後開先溶接を開始して、開先溶接の進行に伴って順次にメモリ上の各領域宛ての溶接条件を読み出してそれに従って開先溶接条件を変更する自動溶接装置が記載されている。該自動溶接装置の溶接制御装置(制御盤)は、作業者が溶接長(溶接線の長さ)、ならびに、開先始端と終端の各開先底面幅、各開先角度及び各開先高さ(板厚t)を入力すると、余盛高さが所定の範囲内に収まるように、板厚tから溶接層の数(所要パス数)と各パスの溶接層の厚さを決定し、分割した各領域毎に、開先横断面を算出してこれを該所要パス数で埋める各パスの溶接断面積を算出し、所定算出式に基づいて各パスの溶接断面積をもたらす各パスの溶接速度を算出する。算出した各領域各パス宛て溶接速度はメモリに記憶される。記憶されたデータは、溶接トーチによる溶接が領域区分点を通過する毎に取り出され、モータ速度(溶接速度)の指令値となる。
【0004】
特許文献2に記載の溶接制御装置(制御盤)は、今回の溶接対象材の形状(開先角度、開先深さ、ギャップ等)と溶接機のスペックに対応して、過去の溶接の実績である同様な溶接材の溶接条件をデータベースから自動読み出して、今回の溶接対象材の溶接条件(溶接速度、溶接電流/電圧、溶接ワイヤ送給速度)およびウィービング条件(振幅、ピッチ、周波数)を自動的に算出する。
【0005】
特許文献3には、非接触式形状計測センサを備えて溶接ワーク(溶接対象材)の溶接長手方向の予め設定された間隔ごとに開先形状を計測し、データベースから読み出した溶接条件を、計測値に対応する補正を加えて開先溶接に用いる自動溶接装置が記載されている。
【0006】
開先始端及び終端に溶融プールを堰止めるセラミックタブ、スチールタブ等のフェイス板がある場合には、溶接トーチを開先の長手方向に倒して溶接ワイヤ先端を溶接母材とフェイス板との接合隅に対向させて開先端部の溶接残しを無くすことが行われるが、特許文献4には、このトーチの傾倒を電動駆動で行うトーチ角度変動機構、が記載されている。この機構によって溶接トーチは、開先の長手方向Yと直交する方向Xに延びる軸(T軸)回りに首振り回動駆動される。このトーチ角度変動機構を自動溶接装置に備えることにより、フェイス板が付いた開先始端に自動的にまたは手動で溶接トーチの溶接点を定めて、開先溶接を開始し、開先終端の直前でもトーチを傾けて開先終端まで自動的に溶接することができる。すなわち、自動溶接でも、開先始端および終端の溶接残しを無くすことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平08-15665号公報
【文献】特開2015-229169号公報
【文献】特開平09-155543号公報
【文献】特開昭51-12011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の自動溶接では、板厚tから所要パス数と各パスの溶接層の厚さを決定し、開先始端から終端までを仮想分割した各領域宛てに、領域始端の開先形状(開先底面幅、開先角度、板厚)から開先断面積を算出し、これを該所要パス数で埋める各パスの溶接断面積を算出し、所定算出式に基づいて各パスの溶接断面積をもたらす各パスの溶接速度を算出する。所要パス数の決定方法は特許文献1に記載がない。決定したパス数がエラーであると各パスの溶接断面積もエラーとなり従って各パスの溶接速度もエラーとなる。所要パス数は整数でなければならず、所要パス数の算定が煩わしい。特に、参照すべき実績データが少ない新規溶接対象材の場合は、所要パス数の算定に試行錯誤の労力が多くなる。特許文献2に記載の溶接条件導出は、既にデータベースが構築された過去の溶接対象材と類似性が高い今回の溶接対象材については、該データベースを用いて容易に溶接条件を算定することができるが、類似性が低い場合、算定は複雑で過大な労力を費やすことになる。特許文献3に記載の自動溶接では、開先形状計測センサを用いて開先形状を計測し開先形状に基づいて溶接層(パス)数を算出し、算出値を四捨五入によって整数値として各パスの溶接条件を計算する(
図14)。四捨五入によってパス数を整数にするので、各パスの計算された溶接条件には、算出したパス数の端数分による計算誤差を含むが、各パス毎に開先形状計測センサを用いて開先形状を計測し開先形状に基づいて先に計算した溶接条件を補正するので、全パスの溶接を終了したときには、算出したパス数に含まれる端数に相応する溶接誤差は実質的に消滅すると考えられる。しかしながら、各パス毎に各仮想分割領域の開先形状を計測することならびに計測した開先形状に基づく各領域の溶接条件の補正は煩雑で計測エラーを生じやすく溶接条件設定エラーを生じやすい。溶接状態の監視および調整を行う作業者の労務が過大になりやすい。
【0009】
概略で表現すると従来は、整数の溶接パス数を定めて開先断面を埋める各パスの溶着量を決定して各パス溶着量に基づいて各パスの溶接条件(溶接電流、電圧、溶接速度)を決定するので、溶接条件のパラメータが多く各パス各パラメータの算定が複雑で煩雑である。
【0010】
本発明は、溶接条件設定が容易で作業者が簡易に使用できる自動溶接方法および自動溶接装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)
開先形状に基づいて溶接パス数および各パス溶接条件を自動生成し生成した各パス溶接条件で自動的に各パスの溶接を行う自動溶接において、
開先線上の1点目の開先断面積と2点目の開先断面積に基づいて該1点目と2点目との中間の開先断面積を演算し、該中間の開先断面積を埋めるパス数を算出し、算出したパス数値を小数値を切り上げて整数値としてこれを溶接パス数に決定し、1点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に1点目の溶接速度を決定し、2点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する前記決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に2点目の溶接速度を決定し、
決定した1点目と2点目の溶接速度を用いて、1点目から2点目までの各領域の溶接速度を線形補完により決定し、
前記決定した溶接速度で1点目から2点目までを前記溶接パス数で自動溶接する、ことを特徴とする自動溶接方法。
(2)
決定した溶接速度に従い各領域オシレート条件を設定して溶接中に溶接トーチをオシレートする、上記(1)に記載の自動溶接方法。
(3)
Y方向に延びる開先に平行に配置されるガイドレール;
該ガイドレールに沿ってY方向に移動する電動のY走行台車;
Y走行台車上にあって溶接トーチをX方向に駆動する電動のX駆動機構;
Y走行台車上にあって該溶接トーチをZ方向に駆動する電動のZ駆動機構;および、
開先線上の1点目の開先断面積と2点目の開先断面積に基づいて該1点目と2点目との中間の開先断面積を演算し、該中間の開先断面積を埋めるパス数を算出し、算出したパス数値を小数値を切り上げて整数値としてこれを溶接パス数に決定し、1点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に1点目の溶接速度を決定し、2点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する前記決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に2点目の溶接速度を決定し、決定した1点目と2点目の溶接速度を用いて、1点目から2点目までの各領域の溶接速度を線形補完により決定し、前記Y走行台車、X駆動機構およびZ駆動機構の駆動を制御して、前記溶接トーチにより開先を前記決定した溶接速度で前記決定した溶接パス数で溶接する制御手段;
を備える自動溶接装置。
(4)
前記制御手段は、決定した溶接速度に従い各領域オシレート条件を設定して溶接中に溶接トーチをオシレートする、上記(3)に記載の自動溶接装置。
(5)
更に、前記溶接トーチをX方向に延びる軸回りに首振り回動駆動するT軸駆動機構を備え、前記制御手段は、T軸駆動機構の駆動を制御して前記溶接トーチを、開先先端に指向する傾斜姿勢並びに開先終端に指向する傾斜姿勢に設定する、上記(3)又は(4)に記載の自動溶接装置。
(6)
更に、前記溶接トーチをX方向に延びる軸回りに首振り回動駆動するT軸駆動機構を備え、前記制御手段は、T軸駆動機構の駆動を制御して前記溶接トーチを、開先先端である1点目に指向する傾斜姿勢並びに開先終端である2点目に指向する傾斜姿勢に設定する、上記(3)又は(4)に記載の自動溶接装置。
(7)
前記制御手段は全自動計測が指示されると、T軸駆動機構の駆動を制御して前記溶接トーチを前記1点目に指向する傾斜姿勢にしてY走行台車のY往方向走行を開始して前記1点目を検出しそこの開先形状を計測し、次にT軸駆動機構の駆動を制御して前記溶接トーチを前記2点目に指向する傾斜姿勢にしてY走行台車のY復方向走行を開始して前記2点目を検出しそこの開先形状を計測する、上記(6)に記載の自動溶接装置。
(8)
前記制御手段は、前記1点目と2点目の間の前記Y復方向走行の走行距離を計測して溶接する溶接長に定める、上記(7)に記載の自動溶接装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、開先線上の1点目の開先断面積と2点目の開先断面積に基づいて該1点目と2点目との中間の開先断面積を演算し、該中間の開先断面積を埋めるパス数を算出し、算出したパス数値を小数値を切り上げて整数値としてこれを溶接パス数に決定し、1点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に1点目の溶接速度を決定し、2点目の開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する前記決定した溶接パス数による溶着量の超過分、の溶着量減少をもたらす速度に2点目の溶接速度を決定し、決定した1点目と2点目の溶接速度を用いて、1点目から2点目までの各領域の溶接速度を線形補完により決定し、前記決定した溶接速度で1点目から2点目までを前記溶接パス数で自動溶接するので、設定された溶接電流および電圧は調整することなく各パス溶接条件を決定することもでき、溶接条件設定が容易で作業者が簡易に開先自動溶接を実施できる。
【0013】
小数値を切り下げる場合は、開先断面積を埋めるに必要な総溶着量に対する決定した溶接パス数による溶着量の不足分の溶着量増加をもたらす速度に溶接速度を減速すればよいが、溶接速度を減速すると開先に対する入熱量が増加し熱影響が大きくなる。本発明では小数値を切り上げてパス数を整数値にし、これによる溶着量の超過分を溶接速度を上げることにより補償するので、入熱量は抑制され、開先に対する熱影響は少ない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の自動溶接装置を用いる溶接システムの概要を示す斜視図。Y方向が溶接線が延びる方向、X方向が溶接線に直交する水平方向、Zが上下(垂直)方向、そしてTは、開先が延びるY方向に溶接トーチが首振りする回動方向である。
【
図2】
図1に示すロボット本体10を上から見下ろした平面図。
【
図3】
図1に示すロボット本体10をその前方から見た正面図。
【
図5】
図1に示すロボット本体10に装備したY走行台車20,Z駆動機構30およびX駆動機構40の概要を示すX-Z断面図。
【
図6】
図2に示した、ロボット本体10の外側ケース12の外にある手動のトーチ姿勢調整機構50を上から見下ろした拡大平面図。
【
図7】
図1に示す制御盤および無線ペンダントに対する作業者の入力操作に従って制御盤内のコンピュータが実行する機能の概要を示すフローチャート。
【
図8】制御盤に表示された教示モード設定画面上の「1.全自動計測」を作業者が指示すると制御盤内コンピュータが実行する「全自動計測溶接」の概要を示すフローチャート。
【
図9】
図7に示す「条件生成(s13)」および
図8に示す「条件生成(s29)の機能概要を示すフローチャート。
【
図10】
図8上の教示モード設定画面(s3)上の「2.自動計測」を作業者が指示すると制御盤内コンピュータが実行する「自動計測溶接」の概要を示すフローチャート。
【
図11】教示モード設定画面(s3)上の「3.手動計測」を作業者が指示すると制御盤内コンピュータが実行する「手動計測溶接」の概要を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施例である溶接システムの概要を示す
図1を参照すると、溶接ロボット本体10は、溶接対象の開先4と平行に配置されたガイドレール9に装着されている。
ガイドレール9
ガイドレール9は4個の吸着具7で支持されて溶接対象材5上に固定されている。
図2を参照すると、ガイドレール9の一辺にラック8があり、
図5に示されるように、ラック8に、Y走行台車20の台車基台21で回転自在に支持されたピニオン23が、噛みあっている。
【0016】
Y走行台車20
台車基台21の底面下に4個の倣いローラ22があり、それらの中の1対はガイドレール9の、ラック8がある辺を受け入れ、該1対の倣いローラのY方向中間点に、該ラック8と噛みあうピニオン23がある。他の1対の倣いローラは、ガイドレール9の、ラック8がある辺と対向する辺を受け入れている。ピニオン23が回転すると台車基台21がY方向に移動する。
【0017】
台車基台21には、4角筒形の内側ケース11の下端が固定されている。内側ケース11にはそれを内部に受け入れる逆さ箱型の外側ケース12が被さっており、外側ケース12は内側ケース11に対してZ方向に昇降できる。台車基台21上に、出力軸にピニオン23が結合した減速機構25が搭載されており、減速機構25の入力軸を電気モータ24が回転駆動する。
電気モータ24はステッピングモータであり、
図1に示す制御盤内のコンピュータはモータ24を駆動するモータドライバに駆動指令パルスを与えてモータの動作を制御し回転量(Y移動量)を把握してY位置を把握する。
【0018】
Z駆動機構30
台車基台21には、Z駆動機構30のねじ棒31の下端が固定されている。ねじ棒31の上端は、U形の回転支持具32の底辺部に固定されている。回転支持具32は内側ケース11に固定されている。ねじ棒31にナット33が螺合しておりこのナット33を支持ベアリング34が回転自在に支持しており、これによりナット33はねじ棒31を中心に回転できる。ナット33と一体の歯車35に駆動歯車36が噛み合っており、駆動歯車36は電気モータ37で回転駆動される。この回転駆動によってナット33が回転して上昇又は降下する。支持ベアリング34および電気モータ37は外ケース12に装着されているので、電気モータ37が正転又は逆転するとナット33が正転又は逆転して上昇又は降下し、これによって外側ケース12が上昇又は降下する。電気モータ37もステッピングモータであり、
図1に示す制御盤内のコンピュータがモータ37を駆動するモータドライバに駆動指令パルスを与えてモータの動作を制御し回転量(Z移動量)を把握してZ位置を把握する。
【0019】
X駆動機構40
外側ケース12には、軸受42及び電気モータ48が装着されている。軸受42でX方向に延びるねじ棒41が回転自在に支持され、ねじ棒41の一端に被駆動歯車45があり、ねじ棒41にはナット43が螺合している。ナット43にはX駆動バー44aが固着されており、X駆動バー44aにトーチ駆動バー44bが連結されている。被駆動歯車45には中間歯車46が噛合い、中間歯車46に駆動歯車47が噛合っている。駆動歯車47は電気モータ48の出力軸に固着されている。電気モータ48が正転又は逆転すると、歯車47、46および45を介してねじ棒41が正転又は逆転しこれによりナット43が、X方向でトーチ駆動バー44bを外側ケース12から外方に突き出す方向又は外側ケース12内に引き込む方向に移動する。電気モータ48もステッピングモータであり、
図1に示す制御盤内のコンピュータがモータ48を駆動するモータドライバに駆動指令パルスを与えてモータの動作を制御し回転量(X移動量)を把握してX位置を把握する。
【0020】
トーチ姿勢調整機構50
図4に示すように、トーチ駆動バー44bの先端に、垂直アーム51の上端が固着されており、垂直アーム51の下部に、垂直アーム51を挟むように(
図6)、水平アーム52、53が固着されている。昇降ガイドアーム55を貫通する傾動ロックねじ56が水平アーム53にねじ込まれており、傾動ロックねじ56を時計方向に回すことにより昇降ガイドアーム55が水平アーム53に圧接して昇降ガイドアーム55を水平アーム53に固定する。傾動ロックねじ56を反時計方向に回すことにより昇降ガイドアーム55が水平アーム53に対して回動可能となり、水平アーム53に対する昇降ガイドアーム55の昇降方向の傾斜角度を調整可能になる。昇降ガイドアーム54も同様に、水平アーム52に対して傾斜角度を調整することができる。手操作(手動)による傾斜角度調整により、溶接トーチ70を、
図4上に2点鎖線で示す、前方傾斜姿勢70wfおよび後方傾斜姿勢70wrならびにそれらの間の任意の傾斜に設定することができる。
【0021】
昇降ガイドアーム54、55の先端部には、昇降板57が昇降スライド可能に装着されており、昇降板57の昇降を拘止する昇降ロックねじ58、59が昇降ガイドアーム54、55に装着されている。作業者は、昇降ロックねじ58、59を緩めて昇降板57の高さ(Z位置)を調整することができる。この調整も作業者の手操作(手動)によるものである。
【0022】
T軸駆動機構60
昇降板57には、T軸駆動機構60のモータケース61及び軸受ケース62が装着されている。T軸駆動機構60は、特許文献4に記載のトーチ角度変動機構による溶接トーチの首振り回動と同様に、溶接トーチを電動で首振り回動させるものである。軸受ケース62内軸受で回転可能に支持されたT軸63は、モータケース61内の減速機構付き電気モータの出力軸に結合している。T軸63にはトーチホルダ64が結合しており、このトーチホルダ64で溶接トーチ70が保持されている。モータケース61内電気モータの正転で溶接トーチ70を
図3上に2点鎖線で示す右傾斜姿勢70Trに、逆転で左傾斜姿勢70Tlに定めることができる。この電気モータもステッピングモータであり、
図1に示す制御盤内のコンピュータが該モータを駆動するモータドライバに駆動指令パルスを与えてモータの動作を制御し回転量(T軸回転量)を把握して首振り回動の傾斜を把握する。
【0023】
制御盤および無線ペンダント
図1に示す制御盤には、コンピュータ、ディスプレイ、入力キー、操作スイッチおよび表示灯がある。無線ペンダントにもコンピュータ、ディスプレイ、入力キー、操作スイッチおよび表示灯がある。また制御盤および無線ペンダントは、両者のコンピュータ間の通信を行う各無線通信装置を内蔵している。
【0024】
制御盤内のコンピュータは、制御盤および無線ペンダントに対する作業者の入力操作に応答して、溶接条件の設定、開先端検出、開先形状検出、溶接条件の算出、補正、溶接データの蓄積、編集などの電子的処理、ならびに、ロボット本体10、ワイヤ送給装置、溶接電源及び電磁開閉器の自動制御をおこなう。
【0025】
無線ペンダントは、溶接開始前の作業者の、溶接トーチの位置および姿勢の設定又は調整を容易にし、溶接開始後は溶接ロボット10の動作を見ながらの各種調整もしくは修正を容易にするために、作業者が携帯する入出力端末であるとともに、上記電子的処理および自動制御の一部を負担する。溶接開始前に無線ペンダントの入力キーは、トーチのT軸回動調整、X方向位置調整、Y方向調整およびZ方向位置調整に自動的に割り付けられているが、溶接開始後は電流・電圧調整、切換え、オシレート幅調整、狙い位置X方向調整、Z方向調整およびY方向走行速度調整(溶接速度調整)に割り付けが自動的に変更される。
【0026】
メイン制御フロー
図7には、制御盤および無線ペンダント(の各コンピュータ)の協同処理によるメイン制御機能と制御の流れを示す。制御盤の電源スイッチがONになると、制御盤は、溶接システムのメニュー画面を表示する(ステップs1)。以下ではカッコ内ではステップNo.のみを表記する。無線ペンダントも電源ONであれば、同様なメニュー画面を表示する。そして、作業者がメニュー画面上の機能を指定すると、該機能を実行する。
【0027】
全自動計測溶接作業(
図8)
全自動計測溶接を行おうとするとき、作業者は、メニュー画面(s1)上の「3.溶接パターンの設定」を指定し、これに制御盤が応答して継手の形態指定(s2)-「教示モードの設定」(s3)-「タブ種類選択」(s4)に進み、この過程での作業者の選択結果を保存する。そして作業者がメニュー画面(s1)上の「1.溶接作業」を指示すると、制御盤は溶接トーチ70の溶接ワイヤ先端のX、Y、Z位置を定める「原点調整」(s5~s7)を経て、教示モード「1.全自動計測」をディスプレイに表示して、「溶接作業」(s9)に進み、
図8に示す「全自動計測溶接」に進む。
【0028】
「全自動計測溶接」で制御盤は、ロボット本体10のY往方向走行と走行距離計測を開始して1点目(開先左端)の開先を検出し1点目の開先形状を計測し、そしてY復方向走行と走行距離計測を開始して2点目(開先右端)の開先を検出し2点目の開先形状を計測する(s21~s25)。開先の第1点目は、制御盤はT軸駆動機構60の駆動を制御して溶接トーチ70を、開先左端に指向する傾斜姿勢に定めてY走行台車をY往方向走行駆動して、溶接ワイヤ先端の開先左端(終端)にあるフェイス板に対する接触を検知することにより検知する。
【0029】
開先の第2点目は、制御盤はT軸駆動機構60の駆動を制御して溶接トーチ70を、開先右端に指向する傾斜姿勢に定めてY走行台車20をY復方向走行駆動して、溶接ワイヤ先端の開先右端(始端)にあるフェイス板に対する接触を検知することにより検知する。この時の第1点目から第2点目までのY走行台車20の走行距離を溶接長さとする。制御盤は、計測した開先形状と同様な開先の溶接データを保存していると(s26)、それを利用して必要なら補正を加えて溶接条件に設定するが(s27)、近似開先の溶接データがないと、「条件生成」(s29)で、計測した1点目および2点目開先形状に基づいてパス数および溶接速度を算定し、これらを溶接条件に加える。溶接条件の中の溶接電流および電圧は、先にメニュー画面(s1)を用いて作業者が設定しているものである。
【0030】
条件生成(s29)(
図9)
図9には条件生成(s29)の処理概要を示す。ここで制御盤はまず、計測又は算出した1点目開先形状から1点目開先断面積を、2点目開先形状から2点目開先断面積を演算し、1点目と2点目の開先断面積の平均値を算出して1、2点間の中間点の開先断面積とみなす。そして、この中間点開先断面積を埋めるに必要な中間点総溶着量を算出する(s41)。次に、設定されている溶接電流、溶接電圧及び溶接速度の1パス溶接の溶着量と中間点総溶着量からパス数値を算出し(s42)、このパス数値を小数値の切り上げによって整数値とし、これを溶接パス数と決定する(s43)。そして、決定した溶接パス数で1点目開先断面を埋めるに必要な1点目各溶接速度を決定し、かつ、決定した溶接パス数で2点目開先断面を埋めるに必要な2点目各溶接速度を決定する(s44)。これら1点目各溶接速度および2点目各溶接速度は、s43での小数値切り上げによる溶着量の増加分を相殺する速度分をs42の設定溶接速度に加えたものとなる。
【0031】
次に、1点目から2点目までを領域区分し、1点目各パス溶接速度を第1領域始端の各パス溶接速度に、2点目各パス溶接速度を最後の領域の終端の各パス溶接速度に決定し、第2領域の始端から最後の領域の始端の各パス溶接速度を、1点目溶接速度と2点目溶接速度の間の線形補完により算出する(s45)。次いで各領域各パスのオシレート条件を算出する(s46)。このように決定したパス数,溶接速度およびオシレート条件に、溶接条件を変更(補正)する。
【0032】
図8を再度参照する。全自動計測溶接では制御盤は次に、無線ペンダントに溶接開始か溶接条件再生成の指示を促す入力催告画面を表示し(s30)、溶接開始が指示されると、開先2点目(開先右端)から1点目に向かう溶接を開始する(s31、S33)。1点目に到達するとY走行を反転して2点目に向かう溶接を行い、2点目に達すると反転して1点目に向かい、このような溶接パスを先に決定したパス数まで実行する。
【0033】
例えば、開先各端部に溶融金属の流出を防ぐ各フェイス板がある場合の全自動溶接(
図8)において操作盤内コンピュータは、溶接トーチ70を左傾斜姿勢70Tlに定めY走行台車20を往移動駆動して溶接ワイヤ先端の左側フェイス板への接触を自動検出して開先の左端位置を求めかつ、溶接ワイヤの先端を開先断面に沿う所定軌跡で振って開先左端の開先形状(1点目の開先形状)を計測し、次いで溶接トーチ70を右傾斜姿勢70Trに定めY走行台車20を復移動駆動して溶接ワイヤ先端の右側フェイス板への接触を自動検出して開先の右端位置を求め、かつ、溶接ワイヤの先端を開先断面に沿う所定軌跡で振って開先右端の開先形状(2点目の開先形状)を計測して、計測した2点の開先形状と、設定されている溶接条件(溶接電流,電圧,溶接速度)と、計測した開先形状から開先断面を埋めるに必要なパス数(溶接層数)を算出し、算出したパス数値をその小数値の切り上げによって整数としてこれを溶接パス数とし、設定されている溶接速度を、小数値の切り上げによって増加する溶着量を相殺する速度分高く変更(補正)してから、該溶接パス数および変更された溶接速度の開先自動溶接を実行する。
【0034】
自動計測溶接作業(
図10)
作業者が
図7上のs3で表示された「2自動計測」を指定した場合は、制御盤は
図10に示す自動計測溶接を実行する。この自動計測溶接では、作業者が無線ペンダントを操作して操作盤に溶接長を入力し(s22)、そして1点目(開先左端)に溶接トーチ70の溶接ワイヤ先端を位置決めして(s38)開先形状の計測を指示する。この指示に応じて制御盤は1点目の開先形状を計測する(s24)。次に作業者は2点目(開先右端)に溶接トーチ70の溶接ワイヤ先端を位置決めして(s39)開先形状の計測を指示する。この指示に応じて制御盤は2点目の開先形状を計測する(s25)。これを終えた後の制御盤の動作は、前述の全自動計測溶接の場合(
図8)と同様である。
【0035】
手動計測溶接作業(
図11)
作業者が
図7上のs3で表示された「3手動計測」を指定した場合は、制御盤は
図11に示す手動計測溶接を実行する。この手動計測溶接では、作業者が無線ペンダントを操作して1点目(開先左端)に溶接トーチ70の溶接ワイヤ先端を位置決めして(s38)、作業者がそこの板厚および開先形状を入力する(s52)。次に作業者は2点目(開先右端)に溶接トーチ70の溶接ワイヤ先端を位置決めしてそこの板厚および開先形状を入力する(s54)。これを終えた後の制御盤の動作は、前述の全自動計測溶接の場合(
図8)と同様である。
【符号の説明】
【0036】
4:開先 5,6:溶接対象材
7:吸着具 8:ラック
9:ガイドレール 10:溶接ロボット本体
11:内側ケース 12:外側ケース
20:Y走行台車 21:台車基台
22:倣いローラ 23:ピニオン
24:電気モータ 25:減速機構
30:Z駆動機構 31:ねじ棒
32:U形回転支持具 33:ナット
34:支持ベアリング 35,36:歯車
37:電気モータ 40:X駆動機構
41:ねじ棒 42:軸受
43:ナット 44a:X駆動バー
44b:トーチ駆動バー 45、46、47:歯車
48:電気モータ 50:トーチ姿勢調整機構(手動)
51:垂直アーム 52、53:水平アーム
54、55:昇降ガイドアーム 56:傾動ロックねじ
57:昇降板 58、59:昇降ロックねじ
60:T軸駆動機構 61:モータケース
62:軸受ケース 63:T軸
64:トーチホルダ