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特許7071178ゲル化食品用粉末油脂およびこれを含有するゲル化食品
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  • 特許-ゲル化食品用粉末油脂およびこれを含有するゲル化食品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】ゲル化食品用粉末油脂およびこれを含有するゲル化食品
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20220511BHJP
【FI】
A23D9/00 518
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018049336
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2018153179
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2017051527
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114318
【氏名又は名称】ミヨシ油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 利夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174702
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 拓
(72)【発明者】
【氏名】伊野 大記
(72)【発明者】
【氏名】北谷 友希
(72)【発明者】
【氏名】高松 優
(72)【発明者】
【氏名】浜本 絵梨子
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 宜隆
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-242638(JP,A)
【文献】特開2016-146801(JP,A)
【文献】特開平05-209190(JP,A)
【文献】国際公開第2015/076164(WO,A1)
【文献】特開昭55-150845(JP,A)
【文献】特開2015-195749(JP,A)
【文献】特開2002-294275(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025354(WO,A1)
【文献】香川芳子,七訂食品成分表2016本表編,2016年04月01日,p.184
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23G
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、乳蛋白質および乳化剤を含有する粉末油脂であって、乳蛋白質/油脂の質量比が0.0330.250であり、前記乳蛋白質の含有量が5.56質量%以下であり、乳蛋白質/乳化剤の質量比が0.2~5.0である、ゲル化食品用粉末油脂。
【請求項2】
前記乳蛋白質の含有量が4.61質量%以下である請求項1に記載のゲル化食品用粉末油脂。
【請求項3】
前記乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載のゲル化食品用粉末油脂。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のゲル化食品用粉末油脂を含有するゲル化食品。
【請求項5】
請求項1からのいずれか一項に記載のゲル化食品用粉末油脂を用いて、ゲル化食品の保形性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲル化食品用粉末油脂およびこれを含有するゲル化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゼリー、プリンなどのゲル化食品は、その製造工程において、各種原料を混合、加熱してなる流動性をもったゾル状のゼリー液をカップなどの容器に流し込み、冷却、ゲル化させることにより製造されている。近年、これらのゲル化食品は、冷菓、料理としての利用以外に、高齢者をはじめとする咀嚼・嚥下困難者向けの栄養食品にも応用されている。このようなゲル化食品の喫食時には、カップやパウチなどの容器に入れたまま喫食するだけでなく、外観上の満足感を得るために、容器からゲル化食品を取り出して皿などの別の器に盛りつけた上で喫食することがある。そのため、ゲル化食品には、型から外した後も、型に対応する形状から崩れることなく、その形状を保持することができる性質、すなわち保形性を備えていることが求められる。
【0003】
一般に、保形性はゲル化食品の軟度と密接に関わっており、軟度調節には、ゼラチン、グァーガム、キサンタンガムなどのゲル化剤が使用されている。例えば、ゲル化剤としてゼラチンを用いる場合、保形性を向上させるために、ゼリー液におけるゼラチンの添加量を多くすると、得られるゲル化食品が硬くなり、高齢者をはじめとする咀嚼困難者がゲル化食品を喫食した際に、飲み込みが難しいという問題があった。また、飲み込み易くするために、ゼリー液におけるゼラチンの添加量を少なくすると、保形性の低下により、ゲル化食品を喫食する際に、外観上の満足感が得られ難いものとなったり、ゲル化食品の流動性が増大しすぎるため、高齢者をはじめとする嚥下困難者がゲル化食品を喫食した際に、むせる虞もあった。
【0004】
そのため、ゼラチンなどのゲル化剤を含有するゼリー液に、飲み込み易さの向上や保形性の向上を目的として、ゲル化剤の検討がなされており、3~5質量%の粉末油脂を添加して製造されたゲル化食品も開示されている(特許文献1-4)。特許文献1-3のゲル化食品は、特に、咀嚼・嚥下困難者用ゼリーに用いられるゲル化剤およびこれを用いたゲル化食品である。
【0005】
ただ、特許文献1-4に記載されたゲル化食品では、流動性は良好であったが、保形性については必ずしも満足のゆくものが得られてはいなかった。
【0006】
一方、起泡性粉末油脂を47~50質量%含有するデザートミックス(特許文献5)や、食用油脂に乳蛋白質や乳化剤を添加混合して得られる粉末油脂(特許文献6-9)などが用いられている。
【0007】
しかしながら、特許文献5-9に記載の粉末油脂を含有するゲル化食品では、特許文献1-4と同様に、保形性については必ずしも満足のゆくものが得られてはいなかった。そのため、ゲル化剤の含有量を低く抑えつつ、ゲル化食品に優れた保形性、飲み込み易い食感を付与することのできるゲル化食品用粉末油脂が望まれていた。
【0008】
特許文献10、11には、油脂を粉末油脂として配合し、ゲル化剤でゲルの固さを特定の範囲としたゼリー飲料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2005-13134号公報
【文献】特開2008-220362号公報
【文献】特開2009-278968号公報
【文献】特開2011-142834号公報
【文献】特開2007-54021号公報
【文献】特開昭55-150845号公報
【文献】特開2000-135070号公報
【文献】特開平2-242638号公報
【文献】特開平5-209190号公報
【文献】特開2016-146801号公報
【文献】特許第6198995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ゼリー飲料は、柔らかいゼリーを崩しながら飲用する飲料であり、主に小型の包装袋に吸引口を取り付けたスパウトパウチに収容される濃厚流動食品である。特許文献10、11は、ゼリーが崩壊し易く飲料として飲み易いことを課題とし、ゼリーが崩れ、流動性が生じる場合を良評価としているが、一定形状の容器に入れた状態や、その容器から取り出した後にも形状を保つことが、特に外観が視認される用途には求められている。
【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、ゲル化食品の保形性を向上させつつ、飲み込み易い食感を付与することのできるゲル化食品用粉末油脂およびこれを用いたゲル化食品を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ゲル化食品用粉末油脂における乳蛋白質と油脂の配合比率に着目し、これらを特定の比率で配合することによって上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のゲル化食品用粉末油脂は、以下の点を特徴とする。
(1)油脂および乳蛋白質を含有する粉末油脂であって、乳蛋白質/油脂の質量比が0.031~0.280であることを特徴とする。
(2)上記発明(1)において、乳蛋白質の含有量が4.61質量%以下であることが好ましく考慮される。
(3)上記発明(1)または(2)において、さらに乳化剤を含有することが好ましく考慮される。
(4)上記発明(3)において、さらに乳化剤を含有し、乳蛋白質/乳化剤の質量比が0.20~5.0であることが好ましく考慮される。
(5)上記発明(3)または(4)において、乳化剤が、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましく考慮される。
本発明のゲル化食品は、以下の点を特徴とする。
(6)上記発明(1)から(5)のいずれかに記載のゲル化食品用粉末油脂を含有することを特徴とする。
本発明のゲル化食品の保形性を向上させる方法は、以下の点を特徴とする。
(7)上記発明(1)から(5)のいずれか一項に記載のゲル化食品用粉末油脂を用いて、ゲル化食品の保形性を向上させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ゲル化食品の保形性を向上させつつ、飲み込み易い食感を付与することのできるゲル化食品用粉末油脂およびこれを用いたゲル化食品が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のゲル化食品用粉末油脂を用いて作製したゲル化食品の外観を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明について詳細に説明する。
1.油脂
本発明のゲル化食品用粉末油脂は、油脂および乳蛋白質を含有する粉末油脂であって、乳蛋白質/油脂の質量比が0.031~0.280であることを特徴としている。
【0017】
本発明のゲル化食品用粉末油脂に使用される油脂は、構成脂肪酸として飽和脂肪酸および/または不飽和脂肪酸を含む。
【0018】
飽和脂肪酸(以下、Sとも表記する。)は、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)などが挙げられる。なお、上記飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0019】
不飽和脂肪酸(以下、Uとも表記する。)は、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つまたは3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)などが挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0020】
油脂中のトリグリセリドは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有する。本発明のゲル化食品用粉末油脂に使用される油脂は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリド(SSS)を含んでいてもよく、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位および3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)を含んでいてもよく、1位と2位、または2位と3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位または1位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU、USS)を含んでいてもよい。また、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリド(SUU、UUS、USU))を含んでいてもよく、1位、2位、3位のすべてに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリド(UUU)を含んでいてもよい。ここでトリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。
【0021】
このような油脂は、液体、固体の動植物油脂、硬化した動植物油脂、動植物油脂のエステル交換油、分別した液体油または固体脂など、食用に適するものであれば特に限定されない。具体的には、例えば、ナタネ油、コーン油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、サフラワー油、パーム油、ヤシ油、米油、マンゴー油、ゴマ油、シア脂、サル脂、イリッペ脂、カカオ脂、オリーブ油、パーム核油、ピーナツ油、アーモンド油、レモン油、ライム油、オレンジ油、オリーブ油、ジンジャー油などの植物性油脂、魚油、豚脂、牛脂、鶏脂、乳脂などの動物性油脂、およびこれらの油脂の水素添加油またはエステル交換油、あるいはこれらの油脂の分別油や脱臭油、これらの油脂の硬化油や極度硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を併用してもよい。これらの油脂の中でも、ピーナツ油、アーモンド油、レモン油、ライム油、オレンジ油、オリーブ油、ジンジャー油、乳脂、ゴマ油などの呈味性を有する油脂を用いると、ゲル化食品の風味をさらに向上させることができるため好ましい。
【0022】
本発明のゲル化食品用粉末油脂に使用される油脂は、油脂の構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血液中におけるLDLコレステロール量が増加しうる。よって、これを抑制しやすい点から、本発明においては、油脂の構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることが最も好ましい。
【0023】
本発明のゲル化食品用粉末油脂における油脂の含有量は、ゲル化食品用粉末油脂全体に対して好ましくは41.0~80.0質量%、より好ましくは56.0~77.0質量%、さらに好ましくは58.0~75.0質量%である。油脂の含有量が、ゲル化食品用粉末油脂全体に対して41.0質量%以上であると、ゼリーなどのゲル化食品のコク味を向上させることができる。また、得られるゲル化食品のカロリー量を向上させることができるため、咀嚼・嚥下困難者の栄養状態を改善させることができる。油脂の含有量が、ゲル化食品用粉末油脂全体の80.0質量%以下であると、乳化安定性が向上し、しかもゲル化食品の表面に分離した脂肪分が浮くオイルアップが起こりにくくなる。
【0024】
2.乳蛋白質
本発明のゲル化食品用粉末油脂は、前記のとおり乳蛋白質を必須の成分として含有している。乳蛋白質は、粉末油脂の賦形剤であるとともに、乳化安定剤として機能する。本発明のゲル化食品用粉末油脂は、乳蛋白質/油脂の質量比が0.031~0.280であることにより、ゲル化食品の保形性を向上させつつ、飲み込み易い食感を付与することができる。乳蛋白質/油脂の質量比のより好ましい範囲は、0.033~0.250、さらに好ましい範囲は、0.035~0.210である。なお、乳蛋白質/油脂の質量比の好ましい範囲内において、乳蛋白質および油脂の含有量を適宜選択することが好ましく考慮される。
【0025】
このような乳蛋白質としては、例えば、酸カゼイン、レンネットカゼイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウムなどのカゼイン塩、ホエイタンパク、それらの酵素分解物である乳ペプチド、ミルクプロテインコンセントレート、トータルミルクプロテイン、それらの乳蛋白質を含む全脂粉乳、脱脂粉乳、ホエイパウダー、バターミルクパウダーなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、カゼインナトリウム、カゼインカリウムなどのカゼイン塩、ホエイタンパク、乳ペプチド、酸カゼインなどの非ミセル状態であるものは、乳化安定性が向上する点で好ましい。乳蛋白質の含有量は、特に制限されないが、ゲル化食品用粉末油脂全量に対して1.0~16.0質量%が好ましく、1.5~14.0質量%がより好ましく、2.0~10.0質量%がさらに好ましい。乳蛋白質の含有量が上記の範囲内であれば、乾燥粉末化前の乳化液の粘度が高くなりすぎず、良好な粉末油脂を得ることが容易となる。
【0026】
特に、乳蛋白質の含有量が4.61質量%以下であることが、乾燥粉末化前の乳化液の粘度が高くなりすぎず、良好な粉末油脂を得ることや、保形性がありながら飲み込み易いゲル化食品用粉末油脂が得られる点で好ましい。乳蛋白質の含有量が多くなると、融点の高い固体脂を用いた場合などにおいて飲み込みにくくなる虞がある。
【0027】
3.乳化剤
本発明のゲル化食品用粉末油脂においては、さらに乳化剤を含有することが好ましい。乳蛋白質/乳化剤の質量比は、0.2~5.0であることが好ましく、0.3~4.5であることがより好ましく、0.7~4.0がさらに好ましい。乳化剤を用いることで、再溶解後の乳化安定性が向上し、オイルアップを抑制することができる。粉末油脂に乳化剤を配合する場合、通常は、油溶性乳化剤は油相に、水溶性乳化剤は水相に配合する。なお、乳蛋白質/乳化剤の質量比の好ましい範囲内において、乳蛋白質および乳化剤の含有量を適宜選択することが好ましく考慮される。
【0028】
乳化剤は、食品用であれば特に限定されることなく、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウムなどを用いることができる。これらの中でも、風味や乳化安定性の面で、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルおよびショ糖脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましく考慮される。グリセリン脂肪酸エステルとしては、油脂から得られる脂肪酸とグリセリンを反応させて製造されるモノエステルやジエステルなどが挙げられる。これらの乳化剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、粉末油脂全量に対して0.1~25質量%が好ましく、0.5~22質量%がより好ましく、0.7~20質量%がさらに好ましい。
【0029】
本発明においては、上記乳化剤として、市販のものを用いることができる。上記グリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、理研ビタミン株式会社製のエマルジーMS、エマルジーP-100、エマルジーMOなど、上記グリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、例えば、理研ビタミン株式会社製のポエムB-10、ポエムW-60、ポエムK-30など、上記ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムS-60V、ポエムS-65V、ポエムS-300Vなど、上記ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとしては、例えば、CR-200、CR-500、CR-EDなど、上記ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、阪本薬品工業(株)製のSYグリスターPS-3S、SYグリスターPS-5Sなど、上記プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、例えば、理研ビタミン株式会社製のリケマールPS-M、リケマールPB-100など、上記プロピレングリコール脂肪酸エステルとしては、例えば、三菱化学フーズ株式会社製のS-170などが挙げられる。
【0030】
4.ゲル化食品用粉末油脂
以下に、本発明のゲル化食品用粉末油脂の一例について説明する。
【0031】
粉末油脂は、賦形剤を含む水相に、上記のような油脂を含む油相を添加し、ホモミキサーなどで攪拌後、ホモジナイザーなどで均質化することにより、水中油型乳化物とし、その後、乾燥粉末化して得ることができる。
【0032】
水中油型乳化物を乾燥粉末化する方法としては、一般的に知られている噴霧乾燥法、真空凍結乾燥法、真空乾燥法などを用いることができる。
【0033】
賦形剤は、被覆材として機能し、乾燥後の本発明のゲル化食品用粉末油脂は、油脂が賦形剤で覆われた(カプセル化した)形状となっている。
【0034】
賦形剤としては、例えば、上記した乳蛋白質以外に、大豆タンパク、小麦タンパク、コラーゲン、ゼラチンなどのタンパク、これらタンパクの分解物、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなどの単糖類、ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロースなどの二糖類、オリゴ糖、デキストリン、デンプンなどの多糖類、増粘多糖類、糖アルコールなどが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
デキストリンは、澱粉を化学的または酵素的方法により低分子化した澱粉部分加水分解物であり、市販品などを使用できる。澱粉の原料としては、コーン、キャッサバ、米、馬鈴薯、甘藷、小麦などを挙げることができる。デキストリンとして具体的には、水あめ、粉あめ、マルトデキストリン、サイクロデキストリン、焙焼デキストリン、分岐サイクロデキストリン、難消化性デキストリンなどが挙げられる。
【0036】
デンプンとしては、例えば、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦デンプン、米デンプン、甘藷デンプン、タピオカデンプン、緑豆デンプン、サゴデンプンなどの天然デンプン、および天然デンプンを原料とする加工デンプン、例えば、エーテル化処理したカルボキシメチルデンプン、ヒドロキシプロピルデンプンや、エステル化処理したリン酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、酢酸デンプンや、湿熱処理デンプン、酸処理デンプン、架橋処理デンプン、α化処理デンプンなどが挙げられる。
【0037】
増粘多糖類としては、例えば、プルラン、アラビアガム、キサンタンガム、トラガントガム、ジェランガム、グァーガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、寒天、LMペクチン、HMペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが挙げられる。
【0038】
賦形剤は、ゲル化食品用粉末油脂中の割合が、10.0~60.0質量%となるように配合することが好ましく、15.0~50.0質量%がより好ましく、20.0~40.0質量%がさらに好ましい。また、本発明のゲル化食品用粉末油脂に使用される油脂は、粉末油脂中の割合が、41.0~80.0質量%となるように配合することが好ましく、45.0~70.0質量%がより好ましく、50.0~65.0質量%がさらに好ましい。
【0039】
ゲル化食品用粉末油脂は、必要に応じて、上記した成分の他に、従来の粉末油脂に用いられる公知の成分として、酸化防止剤、着色料、フレーバーなどを適宜に配合してもよい。
【0040】
以下に、本発明のゲル化食品用粉末油脂の製造方法の一例について説明する。
【0041】
攪拌工程では、前記の各原材料を攪拌機の撹拌槽に投入して撹拌混合した後、圧力式ホモジナイザーで均質化する。
【0042】
原材料の配合比は、特に限定されるものではないが、例えば、油脂と賦形剤の合計量100質量部に対して水50~200質量部の範囲内にすることができる。
【0043】
配合手順は、特に限定されるものではないが、例えば、賦形剤を水に室温で分散後、加熱下に攪拌し、あるいは賦形剤を加熱した水に分散、攪拌して完全に溶解させた後、ホモミキサーで攪拌しながら、油脂を加熱溶解させたものを滴下して乳化することができる。
【0044】
得られた乳化液は、圧力式ホモジナイザーに供給することによって油滴サイズが微細化される。例えば、市販の圧力式ホモジナイザーを用いて、10~250kgf/cmの程度の圧力をかけて均質化し、油滴サイズを微細化することができる。
【0045】
次に、均質化した乳化液を高圧ポンプで噴霧乾燥機の入口に供給し、高温熱風を吹き込み、噴霧乾燥機の槽内に上方から噴霧する。噴霧乾燥された粉末は槽内底部に堆積される。噴霧乾燥機としては、例えば、ロータリーアトマイザー方式やノズル方式で噴霧するスプレードライヤーを用いることができる。
【0046】
次に、噴霧乾燥された粉末を噴霧乾燥機の槽内から取り出した後、振動流動槽などにより搬送しながら冷風で冷却することによって、粉末油脂を製造することができる。なお、適宜のときに加熱殺菌工程などを設けることもできる。
【0047】
なお、本発明のゲル化食品用粉末油脂は、ゼリー液への分散性、溶解性を考慮すると、造粒されていることが好ましい。ゲル化食品用粉末油脂を造粒することにより、ゼリー液への分散性、溶解性が向上し、得られるゲル化食品の物性が安定するだけでなく、例えば、機械攪拌を用いず、人手で攪拌した場合であっても、ダマを生じることなくゲル化食品用粉末油脂を溶解させることができる。そのため、食品工場などでの大規模なゲル化食品の製造に限らず、一般家庭や介護施設、病院などにおいても簡便にゲル化食品の調理、作製が可能となり、咀嚼・嚥下困難者、高齢者および介護者などが簡便に粉末油脂を取り扱うことができる。ゲル化食品用粉末油脂の造粒は、従来公知の方法を適宜適用することが可能であり、例えば、回転式滴下型造粒装置、流動層造粒装置、転動造粒装置などの装置によって造粒する方法などが例示される。これらの中でも、時に、流動層造粒装置によって造粒する方法が好ましく用いられる。なお、造粒時に用いられるバインダーは、特に制限されることはなく、例えば、前記の賦形剤を用いることができる。
【0048】
このような本発明のゲル化食品用粉末油脂は水中油型乳化物を乾燥したものであり、水に添加すると元の水中油型乳化物となり、油滴が再分散した状態となる。水に再分散した油滴のメディアン径は、例えば0.1~2.5μmであり、好ましくは、0.3~2μmであり、より好ましくは、0.5~1.2μmである。
【0049】
5.ゲル化食品
本発明のゲル化食品は、上記のゲル化食品用粉末油脂を含有するゲル化食品である。ゲル化食品用粉末油脂は、ゲル化食品の原材料であるゼリー液や液状食品に配合して用いられる。ゲル化食品に配合する本発明のゲル化食品用粉末油脂の配合量としては、製品の種類や目的によっても異なるが、例えば、1.0~16.0質量%が挙げられ、4.0~12.5質量%が好ましく、7.0~9.0質量%がより好ましい。
【0050】
ゲル化食品としては、特に限定されるものではないが、例えば、ゼリー、プリン、ムース、ババロアなどの冷菓類、および飲料・スープ類をゲル化させたゼリー状食品などが挙げられる。
【0051】
本発明のゲル化食品用粉末油脂をゼリー液や、ゲル化剤とともに液状食品に添加することにより、保形性、飲み込み易さが良好なゲル化食品を作製することができるが、ゼリー液やゲル化させる液状食品としては、特に限定されず、液状食品の具体例としては、例えば、牛乳、乳性飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、オレンジジュースなどの果汁飲料、茶飲料、コーヒー飲料、ココア飲料、スポーツドリンクなどの飲料や、コンソメ、ポタージュ、とんこつスープなどのラーメンスープ、トムヤムクン、酸辣湯等の中華スープ、カレースープ、味噌汁などのスープ類、酢、醤油、ソース、ドレッシングなどの液状調味料などが例示される。
【0052】
本発明のゲル化食品用粉末油脂を配合することで、ゲル化食品の保形性を向上させつつ、飲み込み易い食感を付与することができる。また、ゼリー液や液状食品に風味やコク味、例えば味(酸味、塩味、および苦味など)のカドがとれたまろやかな風味を付与することもできる。そして、高齢者などの咀嚼・嚥下困難者用のゼリー状食品のカロリー量を向上させることができるため、咀嚼・嚥下困難者の栄養状態を改善することが可能である。
【0053】
本発明のゲル化食品用粉末油脂は、ゲル化食品の保形性を向上させつつ、飲み込み易い食感を付与することができることから、外観が求められる次のような使用態様に好ましく用いることができる。
i) 製品や、一般家庭や介護施設、病院などにおいてゲル化食品を調理、作製した際における最終形態として、ゲル化食品の外観が視認し得る使用態様
ii) 成形容器などの一定形状の容器に入れ、上面などの容器の一部が開口しゲル化食品の外観が視認し得るか、容器が透明で内部に収容されたゲル化食品の外観が視認し得る使用態様
iii) 容器から取り出した後にも形状を保つこと、例えば容器内での形状を保ったまま器などに取り出して使用することが可能な使用態様
【0054】
本発明のゲル化食品の保形性を向上させる方法においては、本発明のゲル化食品用粉末油脂を用いる。例えば、上記i)からiii)のような、ゲル化食品の形状を保つことが求められる用途などを対象とし、指標の一つとして、20℃で1時間もしくは3時間静置した後、ゼリーなどのゲル化食品を容器から取り出して静置後、立体的な形状が崩れずに、立体的な形状をほぼ保っていることは、当該方法として例示される。
【実施例
【0055】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細かつ具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
(1)ゲル化食品用粉末油脂の作製
表1に記載の油脂を単独でまたは乳化剤を添加し70℃に加熱し撹拌後、油相とした。表1の合計質量と同量の温水(60℃)に比較例1以外は乳蛋白質、および糖質を添加し70℃に加熱し、水相とした。水相と油相をホモミキサーで攪拌混合し予備乳化した後、圧力式ホモジナイザーを用いて150kgf/cmの圧力で均質化し、水中油型乳化物を得た。得られた水中油型乳化物を、ノズル式スプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、水分1.5質量%の粉末油脂を得た(噴霧乾燥条件:入口温度210℃)。
【0056】
(2)ゲル化食品用粉末油脂を用いたゼリーの評価
各実施例および比較例の粉末油脂を用いて、下記に示す配合で、混合し撹拌しながらIHヒーターで85℃に加熱して調製したゼリー液に、蒸発分の水(湯)を加えた後、70gずつゼリー型である樹脂製カップに分注した。粗熱を取った後、冷蔵庫(5℃)で一晩静置、保管することによりゼリーを得た。
水 240質量部
上白糖 33質量部
粉末油脂 24質量部
ゼラチン 3質量部
合計 300質量部
【0057】
なお、ゼラチンとしてGBL-250(新田ゼラチン株式会社製)を用いた。
作製したゼリーについて外観、保形性および食感について試験、評価した。
【0058】
[外観の評価]
得られたゼリーを冷蔵庫から取り出し、ゼリーの表面のオイルアップや油分の分離による層分離を目視にて以下の基準により評価した。
評価基準
◎:ゼリーの表面にオイルアップまたは油分の分離がほとんどない。
○:ゼリーの表面にオイルアップまたは油分の分離がわずかにある。
△:ゼリーの表面にオイルアップまたは油分の分離が見られる。
×:ゼリーの表面にオイルアップまたは油分の分離が目立つ。
【0059】
[保形性の評価]
得られたゼリーを冷蔵庫から取り出し、このゼリーを容器から取り出して、20℃で1時間および3時間静置した後、ゼリーの保形性を目視にて以下の基準により評価した。
評価基準
◎:ゼリーを容器から取り出して静置後、立体的な形状をほぼ保っている。
○:ゼリーを容器から取り出して静置後、立体的な形状がわずかにゆがむ。
△:ゼリーを容器から取り出して静置後、立体的な形状が崩れ始めている。
×:ゼリーを容器から取り出して静置後、立体的な形状をほとんど保っていない。
【0060】
[食感の評価]
得られたゼリーを冷蔵庫から取り出し、パネル20名により喫食し、適度な硬さを有する食塊の有無と、飲み込み易さが良好であるかどうかについて以下の基準で官能評価した。
パネルは、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20~40代の男性10名、女性10名を選抜した。
評価基準
◎:20名中16名以上が、適度な硬さの食塊があり、しかもノドゴシが滑らかがあるため、食感が良好であると評価した。
○:20名中10名~15名が、適度な硬さの食塊があり、しかもノドゴシが滑らかがあるため、食感が良好であると評価した。
△:20名中6名~9名が、適度な硬さの食塊があり、しかもノドゴシが滑らかがあるため、食感が良好であると評価した。
×:20名中5名以下が、適度な硬さの食塊があり、しかもノドゴシが滑らかがあるため、食感が良好であると評価した。
【0061】
(3)結果
実施例1~10および比較例1~3のゲル化食品用粉末油脂を用いたゼリーについて、以上の各評価の結果を表1に示した。
また、実施例1および比較例1のゲル化食品用粉末油脂を用いたゼリーの外観について、図1に示した。
【0062】
【表1】
【0063】
[粉末油脂製造時におけるカゼインナトリウムの溶解性の評価]
前記(1)のゲル化食品用粉末油脂の作製において、実施例2~4の乳蛋白質であるカゼインナトリウムを水相タンクに仕込んだ後、完全に溶解する時間を目視にて以下の基準により評価した。
評価基準
◎:原料投入後、5分以上の攪拌が必要。
〇:原料投入後、10分以上の攪拌が必要。
△:原料投入後、15分以上の攪拌が必要。
×:原料投入後、20分以上の攪拌が必要。
【0064】
[粉末油脂製造時におけるノズル先端付着量の評価]
前記(1)のゲル化食品用粉末油脂の作製において、60%固形分に調整した実施例2~4のスラリーの噴霧乾燥時における、ノズル先端へのスラリーの付着し難さを目視にて以下の基準により評価した。
評価基準
◎:ノズル先端にスラリーの付着がほとんどない。
〇:ノズル先端にスラリーの付着が僅かにある。
△:ノズル先端にスラリーの付着が見られる。
×:ノズル先端にスラリーの付着が目立つ。
【0065】
以上の各評価の結果を表2に示した。カゼインナトリウムのような乳蛋白質の含有量が実施例4のような一定量以下であれば、乾燥粉末化前の乳化液の粘度が高くなりすぎず、良好な粉末油脂を得ることが容易となる。
【0066】
【表2】
図1