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特許7071259自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/06 20060101AFI20220511BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20220511BHJP
   G06F 9/50 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
B60W50/06
G08G1/16 C
G06F9/50 150Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018515564
(86)(22)【出願日】2016-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-01-24
(86)【国際出願番号】 DE2016200468
(87)【国際公開番号】W WO2017076405
(87)【国際公開日】2017-05-11
【審査請求日】2019-08-02
(31)【優先権主張番号】102015221481.8
(32)【優先日】2015-11-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399023800
【氏名又は名称】コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(72)【発明者】
【氏名】グレーヴェ・ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】シャーク・シュテフェン
(72)【発明者】
【氏名】リューケ・シュテファン
【審査官】菅家 裕輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-089691(JP,A)
【文献】特表2012-507088(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0121880(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
G06F 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置であって、以下を包含することを特徴とする装置(100):
計算されるべき全車両周辺モデルの、第一予測範囲に基づいた静的な車両周辺モデルと第一予測範囲より広い第二予測範囲に基づいた動的な車両周辺モデルへの分割を提供するように構成された分離装置(10);
最長応答時間内の第一の応答時間で第一予測範囲に基づいて動的な車両周辺モデルを計算すように構成されている第一リアルタイム計算装置(20);
特徴的応答時間内の第二の応答時間で第二予測範囲に基づいて静的な車両周辺モデルを計算すように構成されている第二リアルタイム計算装置(30);並びに、
全車両周辺モデルの分析に基づいて分割を変更すように構成されている状況分析装置(40)。
【請求項2】
状況分析装置(40)が、該分割を、第一リアルタイム計算装置(20)の前記第一応答時間と最長応答時間用の第一閾値との比較に基づいて、及び/或いは、第二リアルタイム計算装置(30)の前記第二応答時間と特徴的応答時間用の第二閾値との比較に基づいて、変更すように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の装置(100)。
【請求項3】
第一リアルタイム計算装置(20)が、複数の制御ブロックを有している;及び/或いは、第二リアルタイム計算装置(30)が、複数の制御ブロックを有している
ことを特徴とする請求項1または2に記載の装置(100)。
【請求項4】
第一リアルタイム計算装置(20)の該複数の制御ブロックがチェーンとして構成されている;及び/或いは、第二リアルタイム計算装置(30)の該複数の制御ブロックが、チェーンとして構成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の装置(100)。
【請求項5】
第一リアルタイム計算装置(20)が、3s以内、乃至、5s以内、乃至、10s以内の最長応答時間内において、50m以内、乃至、100m以内、乃至、200m以内の第一予測範囲に基づいて、動的な車両周辺モデルを計算するように構成されている
ことを特徴とする請求項1から4のうち何れか一項に記載の装置(100)。
【請求項6】
第一リアルタイム計算装置(20)が、1s以内の、乃至、2.5s以内の、乃至、5s以内の第一計算サイクルで、動的な車両周辺モデルを基にして計算された走行軌道策定のハード・リアルタイム対応可能部を出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項1から5のうち何れか一項に記載の装置(100)。
【請求項7】
第二リアルタイム計算装置(30)が、3s以内の、乃至、6s以内の、乃至、10s以内の第二計算サイクルと200m以内、乃至、500m以内、乃至、1000m以内の到達範囲で、静的な車両周辺モデルを基にして計算された走行軌道策定の非ハード・リアルタイム対応可能部を出力するように構成されている
ことを特徴とする請求項1から6のうち何れか一項に記載の装置(100)。
【請求項8】
第一リアルタイム計算装置(20)が、動的な車両周辺モデルを、ASILの第一安全性要求レベルに従って計算するように構成されていること、並びに、第二リアルタイム計算装置(30)が、静的な車両周辺モデルをASILの第二安全性要求レベルに従って計算するように構成され
第一安全性要求レベルで要求される安全性は、第二安全性要求レベルで要求されるものよりも高い
ことを特徴とする請求項1から7のうち何れか一項に記載の装置(100)。
【請求項9】
自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための方法であって、以下の方法ステップを包含していることを特徴とする方法:
計算されるべき全車両周辺モデルの、第一予測範囲に基づいた静的な車両周辺モデルと第一予測範囲より広い第二予測範囲に基づいた動的な車両周辺モデルへの分離装置(10)を用いた分割を提供するステップ(S1);
最長応答時間内の第一の応答時間で、第一予測範囲に基づいて動的な車両周辺モデルを、第一リアルタイム計算装置(20)を用いて計算するステップ(S2);並びに、
特徴的応答時間内の第二の応答時間で、第二予測範囲に基づいて静的な車両周辺モデルを、第二リアルタイム計算装置(30)を用いて計算するステップ(S3);並びに、
状況分析装置(40)を用いた全車両周辺モデルの分析を基に、計算されるべき全車両周辺モデルの分割を変更するステップ(S4)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のドライバー・アシスタント・システムに関する。
【0002】
特に、本発明は、自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置と方法に関する。
【背景技術】
【0003】
リアルタイム・システムは、「ハードな」リアルタイム・システムと「ソフトな」リアルタイム・システムに区別されている。ハードなリアルタイム・システムは、予め定められている最長応答時間内に、正しい結果の出力を保証し、これを供給する。
【0004】
そのため、システムのベース、例えば、オペレーティングシステム等に対して、リアルタイム対応性能(対応可能性)に関連する高い要求が課せられる。
【0005】
しかしこれには、特別なリアルタイム・オペレーティングシステムが必須であり、著名な例としては、OSEK(独「Offene Systeme und deren Schnittstellen fur die Elektronik im Kraftfahrzeug」 = 車載電子機器用のオープン・システムとインターフェース)やOSEK-OS(車載システム用のリアルタイム・オペレーティングシステムのOSEKコンソーシアムで採用された仕様)などが、挙げられる。
【0006】
他のリアルタイム・オペレーティングシステムとしては、QNX(固有ポータブルインタフェースUNIX標準規格のリアルタイム・オペレーティングシステム)、或いは、vxWorks(これも、リアルタイム対応可能のオペレーティングシステム)なども、使用することができる。
【0007】
一方、ソフトなリアルタイム・システムは、平均的に許容できる応答時間を達成するが、これを全ての場合に保証できるわけではない。これにより、オペレーティングシステムに課せられる要求は、かなり低減されることになるため、普及しているシステム、例えば、Linuxなどや、Windowsですらも採用することが可能になる。
【0008】
ハードなリアルタイム・オペレーティングシステムと比較して、ソフトなリアルタイム・システムは、通常、非常に多くのAPIを提供しており、例えば、ライブラリや抽象化規格、例えば、OpenCV, Eigen, OpenGL, OpenCLなどのサポートも優れている。
【0009】
これにより、効率的かつ迅速なアルゴリズムやフレームワーク・ソフトウェアの開発が可能となり、現在では、例えば、ラピッド・プロトタイピング用の研究プロジェクトなどにおいて採用されている。
【0010】
アドバンスト・ドライバー・アシスタント・システム(先進運転支援システム)(独「Fahrerassistenzsysteme」=FAS、英「Advanced Driver Assistance Systems」=ADAS)は、特定の走行シチュエーションにおいてドライバーをサポートするために、自動車内に付加的に搭載される電子装置類である。
【0011】
今日のADASシステムは、通常、ハードなリアルタイム・システム仕様になっている。例えば、緊急ブレーキ・アシスタントなどのシステムでは、このような仕様は、タイムリーに、即ち、システムの限界内において、起こっている走行シチュエーションの変化に反応できることを保障するために、必要不可欠である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
よって、本発明の課題は、改善された、自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題は、独立特許請求項に記載されている対象によって達成される。尚、実施形態、並びに、発展形態は、従属特許請求項、明細書、並びに、図面によって示される。
【0014】
本発明の第一アスペクトは、自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置に関するものであるが、該装置は、計算されるべき全車両周辺モデルを、第一予測範囲に基づいた静的な車両周辺モデルと第二予測範囲に基づいた動的な車両周辺モデルへの分割を提供するように構成された分離装置を包含している。
【0015】
該装置は、更に、最長応答時間内において第一予測範囲に基づいて動的な車両周辺モデルを計算すように構成された第一リアルタイム計算装置も包含している。
【0016】
該装置は、更に、特徴的応答時間において第二予測範囲に基づいて静的な車両周辺モデルを計算すように構成された第二リアルタイム計算装置も包含している。
【0017】
該装置は、更に、全車両周辺モデルの分析に基づいて分割を変更すように構成された状況分析装置も包含している。
【0018】
言い換えれば、これにより次の事が有利に達成される。冗長性にとって必要な安全パスとメイン・パス、並びに、対応する機能形態を分ける(分割する)ことで、周辺モデルの大部分、並びに、軌道策定に対するリアルタイム要件が或る程度緩和されるようにし、その緩和される程度は、その要件によれば、ソフトなリアルタイム要件のシステムの使用も可能になるようなものである。
【0019】
尚、ソフトなリアルタイム要件は、例えば、予め定められている偏差内において超えることが許される特徴的応答時間によって定義され、ハードなリアルタイム要件は、例えば、厳守されなければならない最長応答時間によって定義されている。
【0020】
本発明は、車両周辺モデルの一部がハード・リアルタイム対応可能に計算されなくてもよいようにでき、それにもかかわらず、システムの保証された応答時間を確実なものにできることを可能にしている。
【0021】
本発明は、ハード・リアルタイム対応可能でない部分を監視し、且つ、必要に応じて、それを修正する状況分析が用いられ、保証された応答時間を、クリティカルな状況においても確実なものとすることを有利に可能にしている。
【0022】
言い換えれば、例えば次の事が有利に達成される。少なくとも(非常に)動的な周辺把握部、状況分析部並びに制御部における保証された最長応答時間無しで、低周波数で実行している周辺把握アルゴリズム及び処理アルゴリズムからのデータの処理と補正のための方法が提供される。
【0023】
これにより、システム全体の高周波数と保証された応答時間を、例え、低周波数の処理部内のデータの処理が遅延したとしても、確実なものとすることを有利に可能にしている。
【0024】
本件発明等で用いられる「低周波数」と言う概念は、保証されない応答時間の判断条件に関連する。即ち、結果を提供する際に周期的な変動がある。
【0025】
本発明では、必ずしも絶対に「低周波数」を意味する訳ではないが、ハード・リアルタイム対応可能ではないシステムは、特徴的な下限を有し、この下限より下では、応答時間は、アルゴリズム・ランタイムによってではなく、むしろ「システム効果」によって決まる。
【0026】
これは、Windowsシステムでは、特徴的に、例えば10msであり、これから、最大決定性「制御周波数」は、安全率無しに、100HZ以下と求められる。一方、Linuxシステムでは、この本発明において低周波数とされる周波数は、特徴的に、少しだけ高く、例えば、200Hzである。
【0027】
本件発明において用いられる「高周波数」と言う概念は、例えば、500Hz以上の周波数を指すものである。
【0028】
本発明は、例えば、特に、多くのリソースと開発の手間を必要とするアルゴリズムが、静的周辺部を捕捉するため及び並列的に長距離の経路策定をするために、低周波数部において実行可能であることを有利に可能にしている。
【0029】
この低周波数部へのシフトが可能とされるのは、例えば、静的周辺モデルは、特徴的な期間乃至時間枠内において変化せず、その結果、システムから見てそれに対して「動的な」応答を必要としないからである。
【0030】
これとは対照的に、高周波数部では、例えば、動いているオブジェクトのトラッキング、歩行者認識、或いは、信号認識など動的な車両周辺部を捕捉するアルゴリズムにおいて、例えば、前車両の緊急ブレーキの必要性を捕捉できることを保証するために、保証された最長応答時間が、厳守されなければならない。
【0031】
状況分析と制御は、例えば高周波数部において実行され、軌道は、通常は横方向には低周波数部からたどられるが、進行方向の誘導は例えば、広い予測範囲による静的な周辺モデルからのデータを考慮しながら、全て高周波数部において実行され、この構成によって、動的な交通参加者に対するシステムの保証された最長応答時間が得られている。
【0032】
これは、例えば、突然の車線変更や緊急ブレーキの際に実施される。この静的な周辺モデルを有効利用した場合、緊急ブレーキ、及び/或いは、緊急回避を実施すべきか否かが決断できる。
【0033】
その際、例えば、周辺モデルの計算は実施されず、その代わりに、例えば、低周波数部からの最新のデータセット、即ち、例えば、レーン推移や周辺建造物が、分析中、合せて考慮される。
【0034】
本発明は、例えば、高周波数部における状況分析が、更に、予め定められているパスに、横方向に修正を重ねることができることを有利に可能にしている。
【0035】
該修正はここで、動的な交通シチュエーションの分析から、低周波数部からの静的な周辺モデル、即ち、例えば、レーンマークなどを考慮しながら、得ることができ、これによって、例えば、隣車線における並走車両の「蛇行」に対して、保証された最長応答時間内に応答できるようにする。
【0036】
言い換えれば、静的な車両周辺部と動的な車両周辺部への分割を提供し、且つ、静的な周辺部に対するより広げられた(広範囲とされた)予測を用いることで、この部分を、ASILレベルまたは機能的安全性要求が低いソフト・リアルタイム対応可能システムによっても計算できるようにすることが、有利に達成されている。
【0037】
即ち、例えば、静的な車両周辺部と動的な車両周辺部への、言い換えれば、ソフトなリアルタイム対応可能のシステムとハードなリアルタイム対応可能のシステムへの分割が行なわれ、つまりは、ドライバー・アシスタント・システムのために、二つの異なるタイプのリアルタイム対応可能システムによる、いわばハイブリッド的な計算が行なわれる。
【0038】
これが、より大きな予測範囲と冗長的システムによる安全コンセプトの提供を有利に可能にしている。
【0039】
ここで言う、より広い予測範囲とは、例えば10sまでの数秒間の軌道を、前もって策定し、その上を制御によってたどりながら走ることができると言う意味である。
【0040】
軌道策定及び後からそれをたどりながら走ることを可能にするため、静的な車両周辺モデルに関する多くの情報が存在している。例えば、車両周辺部における走行レーンの推移や該走行レーンに対する或る配置を伴う、その走行レーンに大切な識別された交通標識ないし信号などである。
【0041】
この情報を、周辺部センサー類と、例えば、地図など周辺データの融合から信頼性高く、且つ、堅牢に得ると共に、該地図に基づいて軌道を策定するためには、多大なアルゴリズム的コストが、必要である。
【0042】
本発明の更なる第二のアスペクトは、自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための方法に関する。
【0043】
該方法は、以下の方法ステップを包含している:
【0044】
計算されるべき全車両周辺モデルを、第一予測範囲に基づいた静的な車両周辺モデルと第二予測範囲に基づいた動的な車両周辺モデルへの分離装置を用いた分割を提供するステップ;
【0045】
最長応答時間内において、第一予測範囲に基づいて動的な車両周辺モデルを、第一リアルタイム計算装置を用いて計算するステップ;
【0046】
特徴的応答時間内において、第二予測範囲に基づいて静的な車両周辺モデルを、第二リアルタイム計算装置を用いて計算するステップ;並びに、
【0047】
状況分析装置を用いた全車両周辺モデルの分析を基に、計算されるべき全車両周辺モデルの分割を変更するステップ。
【0048】
この際、該方法は、更に、軌道策定を、大きな - 例えば、100mや200mにも及ぶ - 予測範囲の非ハード・リアルタイム対応可能部と、ハード・リアルタイム対応可能部に、分割することもできる。
【0049】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0050】
本発明のある好ましい実施形態においては、該状況分析装置が、第一リアルタイム計算装置の、先行して計算された応答時間と、最長応答時間用の閾値との比較、及び/或いは、第二リアルタイム計算装置の、先行して計算された応答時間と、特徴的応答時間用の閾値との比較に基づいて分割を変更すように構成されていることが想定されている。これにより、発生する負荷ピークに対応し、予め定められている応答時間を守ることが有利に可能になっている。
【0051】
言い換えれば、該状況分析装置は、例えば、該分割を、第一リアルタイム計算装置の、先行して計算された第一応答時間と最長応答時間用の第一閾値との比較に基づいて、及び/或いは、第二リアルタイム計算装置の、先行して計算された第二応答時間と特徴的応答時間用の第二閾値との比較に基づいて、変更すように構成されている。
【0052】
本発明のある更なる好ましい実施形態においては、第一リアルタイム計算装置が、複数の制御ブロックを有している、及び/或いは、第二リアルタイム計算装置が、複数の制御ブロックを有していることが想定されている。これにより、該装置のモジュール的構成の実現が、有利に可能になっている。
【0053】
本発明のある更なる好ましい実施形態においては、第一リアルタイム計算装置の該複数の制御ブロックがチェーンとして構成される、及び/或いは、場合によっては、第二リアルタイム計算装置の該複数の制御ブロックが、チェーンとして構成されることが想定されている。これにより、該装置のモジュール的構成の実現が、有利に可能になっている。
【0054】
本発明のある更なる好ましい実施形態においては、該第一リアルタイム計算装置が、3s以内、乃至、5s以内、乃至、10s以内の最長応答時間内において、50m以内、乃至、100m以内、乃至、200m以内の第一予測範囲に基づいて、200m以内、乃至、500m以内、乃至、1000m以内の到達範囲を有する動的な車両周辺モデルを計算するように構成されていることが想定されている。
【0055】
本発明のある更なる好ましい実施形態においては、該第一リアルタイム計算装置が、1s以内の、乃至、2.5s以内の、乃至、5s以内の第一計算サイクルで、動的な車両周辺モデルを基にして、計算された全車両周辺モデル、及び/或いは、計算された軌道策定を出力するように構成されていることが想定されている。
【0056】
本発明のある更なる好ましい実施形態においては、該第二リアルタイム計算装置が、3s以内の、乃至、6s以内の、乃至、10s以内の第二計算サイクルで、静的な車両周辺モデルを基にして、計算された全車両周辺モデル、及び/或いは、計算された軌道策定を出力するように構成されていることが想定されている。
【0057】
本発明のある更なる好ましい実施形態においては、該第一リアルタイム計算装置が、動的な車両周辺モデルを、第一安全水準において、計算するように構成され、他方では、第二リアルタイム計算装置が、静的な車両周辺モデルを第二安全水準において、計算するように構成されていることが想定されている。
【0058】
これにより、異なる安全水準のもとでのシステム機能の調整された分割、並びに、十分な予測の使用によって、ソフト・リアルタイム対応可能システムを、少なくとも、残りの部分と比較して、機能的安全性に課せられる要求が低い制御チェーンの部分に対して、使用することが有利に可能になっている。
【0059】
本発明のある更なる好ましい実施形態においては、第一安全水準が、第二安全水準よりもより高いことが想定されている。
【0060】
上記の実施形態やその発展形態は、互いに自由に組み合わせることが可能である。
【0061】
更なる可能な形態や発展形態、並びに、本発明の実施形態には、上記の本発明に係る特徴や以下に実施形態と関連して述べる本発明に係る特徴の具体的には記述されない組み合わせも包含される。
【0062】
添付した図面は、本発明の実施形態の更なる理解を提供することを意図している。添付した図面は、実施形態を説明し、明細書との組合せによって、本発明のコンセプトを説明する役割を担っている。
【0063】
他の実施形態と上記の多くの利点は、図面の描写を参照すれば、明らかになるであろう。図面の描写に描かれているエレメントは、必ずしも、それぞれ同じ縮尺で描かれているものではない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
図1】本発明のある実施例に係る自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置の模式的な図である。
図2】本発明のある実施例に係る自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置の模式的な図である。
図3】本発明のある実施例に係る自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための方法のフローチャートの概略的な図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図面の描写では、同じ符号が、同じ、乃至、機能的に同じエレメント、部品、コンポーネント、或いは、方法ステップを、これと異なる記載がない限り、示している。
【0066】
自動車(動力車両)、乃至、車両(乗り物)とは、例えば、二輪車、乗用車、バス、乃至、トラックなどの自動車乃至ハイブリッド自動車のことであるか、或いは、鉄道車両、船舶、ヘリコプターや飛行機など航空機のことであるか、或いは、例えば、自転車のことである。
【0067】
図1は、本発明のある実施例に係る自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置の模式的な描写を示している。
【0068】
自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置100は、分離装置10、第一リアルタイム計算装置20、第二リアルタイム計算装置30、並びに、状況分析装置40を包含している。
【0069】
該分離装置10は、計算されるべき全車両周辺モデルを、第一予測範囲に基づいた静的な車両周辺モデルと第二予測範囲に基づいた動的な車両周辺モデルへの分割を提供するように構成されている。
【0070】
該第一リアルタイム計算装置20は、最長応答時間内において第一予測範囲に基づいて動的な車両周辺モデルを計算するように構成されている。
【0071】
該第二リアルタイム計算装置30は、特徴的応答時間内において第二予測範囲に基づいて静的な車両周辺モデルを計算するように構成されている。
【0072】
該状況分析装置40は、全車両周辺モデルの分析に基づいて、分割を変更すように構成されている。
【0073】
図2は、本発明のある実施例に係る自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための装置の模式的な描写を示している。
【0074】
図2は、装置1の模式的概要を示している。点線によって示されているものは、ハードなリアルタイム要求のブロックを、実線によって示されているものは、ソフトなリアルタイム要求のブロックである。装置1は、二つの異なるリアルタイム計算装置が用いられていることから、ドライバー・アシスタント・システム用のハイブリッド計算システムであると言える。
【0075】
これらのブロック、乃至、制御ブロックは、この際、例えば、以下の機能を有している:
【0076】
周辺部センサー1は、計算されるべき全車両周辺モデル用のデータ、例えば、センサーデータを捕捉し、提供する。
【0077】
計算されるべき全車両周辺モデルは、速い安全パスにおいては、最小限の周辺モデル3を有していることができる。
【0078】
ブロック4として示されている状況分析装置は、全車両周辺モデルの分析に基づいて分割を変更すように構成されている。
【0079】
ブロック5として示されている制御ブロックは、ブロック4として示されている状況分析装置40と結合することができ、計算されるべき全車両周辺モデルの、静的車両周辺モデルと動的車両周辺モデルへの分割に介入するように構成することができる。
【0080】
要するに、状況分析装置40は、ハードなリアルタイム・システムを用いて最長応答時間を厳守するために、計算されるべき部分(複数)をどのようにリアルタイム計算装置(複数)に配分するようにシフトさせるのか、或いは、どのように変更するのかが得られるように構成することができる。
【0081】
言い換えれば、手間をかけて計算されるべき且つ広範囲の、ハードなリアルタイム対応可能ではない第二リアルタイム計算装置30の結果の代わりに、ハードなリアルタイム対応可能ではない第二リアルタイム計算装置30の計算可能な結果、乃至、第一リアルタイム計算装置20の保存された結果が用いられる。
【0082】
ブロック6として示されている監視ブロックは、この変更を監視できる。
【0083】
該状況分析ブロック9は、より広げられた予測範囲の軌道の動的な制御を提供する様に構成されていることができる。
【0084】
今日のADASシステム用の機能チェーン、例えば、動的オブジェクトのみに基づくEBA機能などは、全てがハード・リアルタイム要求を満たさなければならないブロック1,3,4,5及び6から構成され、これらの計算は、最長応答時間内において実施されなければならないため、第一リアルタイム計算装置20に対して設けられている。
【0085】
この際、ブロックの組合せが変更されたものを用いることができるか或いは第二パスの、乃至、第二チェーンの静的な周辺情報に切りかえることが可能である。
【0086】
高い自動化率を有する機能用には、ブロック1,2,7,8,9,6の標準パスが構成される。
【0087】
ブロック1,2,7,8からは、数秒間の時間的予測、乃至、数100mの空間的予測を有する軌道が計算される、乃至、策定される。
【0088】
この軌道は、例えば、その後、状況分析ブロック9として示されているハードなリアルタイム要求を有する制御によってたどられる。
【0089】
この機能チェーンの目的は、例えば、快適な緊急走行機能を提供することである。この際、例えば、多くのケースにおいては、快適な軌道は、縦方向と横方向の双方において、例えば、10s、或いは、1000mまでの広い予測を用いて策定できるということを前提としている。
【0090】
そのために、他の交通参加者の挙動が例えば予測され、加速度が低い、即ち安全性に大分ゆとりがある車両応答が計算される。例えば、この挙動は、例えば快適に及び/或いは経済的にドライブする人間のドライバーに対応する。
【0091】
ブロック3と7では、例えば、周辺モデルの規模が異なっている。ブロック3の周辺モデルは、例えば最小限に抑えられており、ADAS機能の他には緊急作動しか可能とされない一方、大きな規模と予測範囲のブロック7は、例えば、車線変更を含む、全機能セットアップをサポートしている。
【0092】
ブロック8から出力された軌道は、予測が広範囲である(高い)ため、通常、時間的にさほどクリティカルではない。制御ブロック9において、特に、付加的にハードなリアルタイム対応可能のブロック3からの動的なオブジェクトも受け取るような構成とされている場合、ハイブリッドではないドライバー・アシスタント・システムと比較して、特別なシステム・コンスタレーション(システム構成)を実現できる:
【0093】
周辺モデル7と軌道策定8の双方とも、例えば、大きな予測に基づくとともに、主に静的な内容に基づき、制御9のような一つのブロックにおいて、良好に予測可能であり、そのため、例えば、EBA介入と比較して、時間的にさほどクリティカルではない。
【0094】
例えば、5sの予測では、軌道策定の軌道は、1sサイクルで出力され、この様な構成では、50ms程遅れた出力も問題とはならないかもしれないことがあり得る。
【0095】
この場合、コントローラのための更新は、例えば、4000msではなく、3950msだけの予測で行なわれることとなり、これによれば、コントローラの入力データが空になることに対して十分な安全マージンが得られる。
【0096】
通常の状況では、例えば、ブロック9は、得られた軌道をただ単に調節している。動的な状況、例えば、突然ブレーキをかけた車両に対してなどに対応できるようにするために、ブロック9は、付加的に動的なオブジェクト用の状況分析も包含している。
【0097】
これは、例えば、ブロック3を介したハードなリアルタイム対応可能なパスから提供されるので、例えば、他の自動車の急ブレーキや突然の車線変更の場合など、走行状況の動的な変化に十分に迅速に反応できることが、確実なものとされている。
【0098】
ブロック6は、例えば、システムの監視と、メイン・パスにおいて誤動作があった場合や想定外の事象が発生した場合の緊急パスへの切り替えとを担っている。その目的のため、ブロック6は、ブロック9から制御値の他、例えば、制御基準値の基になっている軌道実際長も受け取る。
【0099】
軌道長が、第一閾値、例えば、3.5sを下回った場合、モニターが、警告を発する。これは、例えば、ドライバーにHMIを介して、引き継ぎを要請する。軌道が、第二閾値を下回った場合、例えば、モニターブロック6は、2sの期間の後に、安全パスに切り替える。
【0100】
ブロック4とブロック5による安全パスは、例えば-場合によっては、その作動中ずっと-アクティブな状態にされ、これは、「ホット・スタンバイ」とも呼ばれる。更に、ブロック6である監視部(モニター)により、安全パスは、ブロック9から得られた軌道長が、ある閾値を下回った場合に、起動されるが、閾値としては、例えば、3.5sが用いられる。
【0101】
これにより、ブロック2,7と8が、ソフトなリアルタイム要求のシステムによっても実施できるようになり、その結果、例えば、「embedded Linux」などのオペレーティングシステムも用いることが可能になる。
【0102】
これは、例えば、ネットワーク・スタックやコミュニケーション・スタック、永続的データストレージ用のファイルシステム、自動アップデートの手段など、実行時に使用可能な、オペレーティングシステムの機能範囲による然るべき長所及び開発コスト面における然るべき長所を提供する。
【0103】
ブロック2,7と8の計算は、特徴的応答時間で実施されさえすればよいため、ブロック2,7と8は、例えば、第二リアルタイム計算装置30に対して設けられる。
【0104】
快適でないかもしれない制御と引き換えに、ハードなリアルタイム対応可能なチェーン1,3,4,5,6が事故の発生を保証するように当該チェーンが構成されることによって、ソフトなリアルタイム対応可能なチェーンに対しては機能的安全性に対する要求を低くすることができる。
【0105】
周辺モデル7の静的な情報は、その際、状況分析4に付加的に提供されることができる。周辺モデル7が、作動停止した場合であっても、状況分析4は、比較的広い予測範囲のデータをそれでもまだ使用することができる。
【0106】
例えば、装置100は、例えば、200ms以上遅れてデータを受け取った場合、周辺モデル7が作動停止したと想定することができる。この様なケースでは、チェーン1,3,4,5,6の緊急パスが引き継ぐ。
【0107】
残りの例えば3800msの予測範囲は、ドライバーが引継ぐまで、或いは、安全な状態に到達するまで、残りのパスの小さい予測範囲を用いることによってもなお安全な車両制御が可能になるぐらいにまで車両速度を減速させるのに用いられる。
【0108】
図3は、本発明のある実施例に係る自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための方法のフローチャートの概略的な描写を示している。
【0109】
該方法は、自動車用のドライバー・アシスタント・システムのために周辺モデリングを実施するための方法であって、以下の方法ステップを包含している:
【0110】
該方法の第一ステップとしては、計算されるべき全車両周辺モデルの、第一予測範囲に基づいた静的な車両周辺モデルと第二予測範囲に基づいた動的な車両周辺モデルへの、分離装置10を用いた分割を提供するステップS1が、実施される。
【0111】
該方法の第二ステップとしては、最長応答時間内において、第一予測範囲に基づいて動的な車両周辺モデルを、第一リアルタイム計算装置20を用いて計算するステップS2が、実施される。
【0112】
該方法の第三ステップとしては、特徴的応答時間内において、第二予測範囲に基づいて静的な車両周辺モデルを、第二リアルタイム計算装置30を用いて計算するステップS3が実施される。
【0113】
該方法の第四ステップとしては、状況分析装置40を用いた全車両周辺モデルの分析を基に、計算されるべき全車両周辺モデルの分割を変更するステップS4が実施される。
【0114】
好ましい実施例によって上記のごとく説明されはしたが、本発明は、これらに制限されるものではなく、多種多様な方法や構成によって変更することが可能である。特に、本発明は、本発明の趣旨から逸脱することなく、多種多様に変更や修正することが可能である。
【0115】
尚、ここで使われている用語「包含する(原文=”umfassend“)」と「有する(原文=”aufweisend“)」は、他のエレメントや他のステップが含まれないと言う意味で使われているのではなく、また、原文における”eine“や”ein“(対訳=「ひとつの」)によって、複数が排除されるものではないことを、捕捉として指摘しておく。
【0116】
更に、ひとつの、或いは、上述の実施例への参照と共に記述されている特徴やステップは、他の上述の実施例の他の特徴やステップとの組み合わせで使用されてもよいことも指摘しておく。請求項内の符号は、制限をかけるものではない。
図1
図2
図3