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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】接着剤組成物、封止シート、及び封止体
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20220511BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20220511BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20220511BHJP
   C09J 7/10 20180101ALI20220511BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20220511BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J163/00
C09J11/06
C09J7/10
H05B33/04
H05B33/14 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018551660
(86)(22)【出願日】2017-11-15
(86)【国際出願番号】 JP2017041074
(87)【国際公開番号】W WO2018092800
(87)【国際公開日】2018-05-24
【審査請求日】2020-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2016225402
(32)【優先日】2016-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 樹
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 健太
(72)【発明者】
【氏名】樫尾 幹広
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-037963(JP,A)
【文献】特開2016-040369(JP,A)
【文献】特開2000-007861(JP,A)
【文献】国際公開第2016/042837(WO,A1)
【文献】特開2015-059198(JP,A)
【文献】特開2008-163344(JP,A)
【文献】国際公開第2011/062167(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/024843(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/094591(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 123/26
C09J 7/10
C09J 11/06
C09J 163/00
H05B 33/04
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分
(A)成分:変性ポリオレフィン系樹脂
(B)成分:多官能エポキシ化合物
(C)成分:硬化促進剤
(D)成分:下記式(2)で示されるシランカップリング剤
【化1】
(R は炭素数4~15のアルキレン基を表し、R は炭素数1~10の1価の炭化水素基を表し、R は炭素数1~4のアルキル基を表す。Zはエポキシ基を有する基を表し、nは0又は1である。)
を含有する接着剤組成物であって、この接着剤組成物を用いて得られた試験片について180°剥離試験を行ったときに、下記式(1)で算出されるx値が、1.3以下であることを特徴とする接着剤組成物。
【数1】
(式中、aは、温度23℃、相対湿度50%の条件下で180°剥離試験を行って得られた接着力を表し、bは、試験片を温度60℃、相対湿度90%の条件下に100時間、次いで、温度23℃、相対湿度50%の条件下に24時間静置させた後に、温度23℃、相対湿度50%条件下で180°剥離試験を行って得られた接着力を表す。これらの180°剥離試験の試験片は、接着剤組成物を用いて得られた厚み20μmの接着剤層と厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムから成る封止シートを、前記接着剤層のもう一方の側をガラス板に重ねて、温度60℃、圧力0.2MPa、速度0.2m/分の条件でラミネートさせ、次いで、得られた圧着体を100℃で2時間加熱して、その接着剤層を硬化して得られた幅25mmの積層体である。)
【請求項2】
前記(A)成分が、酸変性ポリオレフィン系樹脂である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して10~50質量部である、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記(C)成分が、イミダゾール系硬化促進剤である、請求項1~3のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.1~10質量部である、請求項1~4のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記(D)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.05~5質量部である、請求項1~のいずれかに記載の接着剤組成物。
【請求項7】
2枚の剥離フィルムと、これらの剥離フィルムに挟持された接着剤層とからなる封止シートであって、
前記接着剤層が、請求項1~のいずれかに記載の接着剤組成物を用いて形成されたものである封止シート。
【請求項8】
剥離フィルム、ガスバリア性フィルム、及び、前記剥離フィルムとガスバリア性フィルムに挟持された接着剤層からなる封止シートであって、
前記接着剤層が、請求項1~のいずれかに記載の接着剤組成物を用いて形成されたものである封止シート。
【請求項9】
前記ガスバリア性フィルムが、金属箔、樹脂製フィルム、又は薄膜ガラスである請求項に記載の封止シート。
【請求項10】
接着剤層の厚みが1~50μmである、請求項のいずれかに記載の封止シート。
【請求項11】
被封止物が、請求項10のいずれかに記載の封止シートを用いて封止されてなる封止体。
【請求項12】
前記被封止物が、有機EL素子、有機ELディスプレイ素子、液晶ディスプレイ素子、又は太陽電池素子である、請求項11に記載の封止体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分遮断性及び接着強度に優れる接着剤組成物、この接着剤組成物を用いて形成された接着剤層を有する封止シート、及び被封止物が前記封止シートで封止されてなる封止体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機EL素子は、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。
しかし、有機EL素子には、時間の経過とともに、発光輝度、発光効率、発光均一性等の発光特性が低下し易いという問題があった。
この発光特性が低下する問題の原因として、酸素や水分等が有機EL素子の内部に浸入し、電極や有機層を劣化させることが考えられる。
そして、この対処方法として、封止材を用いる方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1には、融解熱量と重量平均分子量が特定の範囲内にあるオレフィン重合体と、40℃における動粘度が特定の範囲内にある炭化水素系合成油とを含むシート状封止材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-137333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のシート状封止材は、必要に応じて剥離が可能であるという特徴を有するものである。しかしながら、このシート状封止材は、接着強度に劣る傾向があった。
有機EL素子等の被封止物には、屋外や車内等の過酷な条件で使用される場合も多い。従って、優れた水分遮断性に加えて、接着強度にも優れる封止シートや、このような封止シートの原料として好適に用いられる接着剤組成物が要望されていた。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、水分遮断性及び接着強度に優れる接着剤組成物、この接着剤組成物を用いて形成された接着剤層を有する封止シート、及び被封止物が前記封止シートで封止されてなる封止体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、変性ポリオレフィン系樹脂、多官能エポキシ化合物、硬化促進剤、及びシランカップリング剤を含有する接着剤組成物を用いて形成された接着剤層は、水分遮断性及び接着強度に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔7〕の接着剤組成物、〔8〕~〔11〕の封止シート、及び〔12〕、〔13〕の封止体、が提供される。
〔1〕下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分
(A)成分:変性ポリオレフィン系樹脂
(B)成分:多官能エポキシ化合物
(C)成分:硬化促進剤
(D)成分:シランカップリング剤
を含有する接着剤組成物であって、この接着剤組成物を用いて得られた試験片について180°剥離試験を行ったときに、下記式(1)で算出されるx値が、1.3以下であることを特徴とする接着剤組成物。
【0008】
【数1】
【0009】
(式中、aは、温度23℃、相対湿度50%の条件下で180°剥離試験を行って得られた接着力を表し、bは、試験片を温度60℃、相対湿度90%の条件下に100時間、次いで、温度23℃、相対湿度50%の条件下に24時間静置させた後に、温度23℃、相対湿度50%条件下で180°剥離試験を行って得られた接着力を表す。これらの180°剥離試験の試験片は、接着剤組成物を用いて得られた厚み20μmの接着剤層と厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる封止シートを、前記接着剤層のもう一方の側をガラス板に重ねて、温度60℃、圧力0.2MPa、速度0.2m/分(min)の条件でラミネートさせ、次いで、得られた圧着体を100℃で2時間加熱して、その接着剤層を硬化して得られた幅25mmの積層体である。)
【0010】
〔2〕前記(A)成分が、酸変性ポリオレフィン系樹脂である、〔1〕に記載の接着剤組成物。
〔3〕前記(B)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して10~50質量部である、〔1〕又は〔2〕に記載の接着剤組成物。
〔4〕前記(C)成分が、イミダゾール系硬化促進剤である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の接着剤組成物。
〔5〕前記(C)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.1~10質量部である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の接着剤組成物。
〔6〕前記(D)成分が、下記式(2)で示される化合物である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の接着剤組成物。
【0011】
【化1】
【0012】
(Rは炭素数3以上のアルキレン基を表し、Rは炭素数1~10の1価の炭化水素基を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。Zは反応性基を含有する基を表し、nは0又は1である。)
〔7〕前記(D)成分の含有量が、前記(A)成分100質量部に対して0.05~5質量部である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の接着剤組成物。
〔8〕2枚の剥離フィルムと、これらの剥離フィルムに挟持された接着剤層とからなる封止シートであって、前記接着剤層が、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の接着剤組成物を用いて形成されたものである封止シート。
〔9〕剥離フィルム、ガスバリア性フィルム、及び、前記剥離フィルムとガスバリア性フィルムに挟持された接着剤層からなる封止シートであって、
前記接着剤層が、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の接着剤組成物を用いて形成されたものである封止シート。
〔10〕前記ガスバリア性フィルムが、金属箔、樹脂製フィルム、又は薄膜ガラスである〔9〕に記載の封止シート。
〔11〕接着剤層の厚みが1~50μmである、〔8〕~〔10〕のいずれかに記載の封止シート。
〔12〕被封止物が、〔8〕~〔11〕のいずれかに記載の封止シートを用いて封止されてなる封止体。
〔13〕前記被封止物が、有機EL素子、有機ELディスプレイ素子、液晶ディスプレイ素子、又は太陽電池素子である、〔12〕に記載の封止体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、水分遮断性及び接着強度に優れる接着剤組成物、この接着剤組成物を用いて形成された接着剤層を有する封止シート、及び被封止物が前記封止シートで封止されてなる封止体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、1)接着剤組成物、2)封止シート、及び、3)封止体、に項分けして詳細に説明する。
【0015】
1)接着剤組成物
本発明の接着剤組成物は、下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分
(A)成分:変性ポリオレフィン系樹脂
(B)成分:多官能エポキシ化合物
(C)成分:硬化促進剤
(D)成分:シランカップリング剤
を含有する接着剤組成物であって、上記式(1)で算出されるX値が、1.3以下であることを特徴とする。
【0016】
(A)成分:変性ポリオレフィン系樹脂
本発明の接着剤組成物は、(A)成分として、変性ポリオレフィン系樹脂を含有する。
本発明の接着剤組成物は、変性ポリオレフィン系樹脂を含有することで、接着強度に優れたものとなる。また、変性ポリオレフィン系樹脂を含有する接着剤組成物を用いることで、後述する厚みの接着剤層を効率よく形成することができる。
【0017】
変性ポリオレフィン系樹脂は、前駆体としてのポリオレフィン樹脂に、変性剤を用いて変性処理を施して得られる、官能基が導入されたポリオレフィン樹脂である。
【0018】
ポリオレフィン樹脂は、オレフィン系単量体由来の繰り返し単位を含む重合体である。ポリオレフィン樹脂は、オレフィン系単量体由来の繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、オレフィン系単量体由来の繰り返し単位と、オレフィン系単量体と共重合可能な単量体由来の繰り返し単位とからなる重合体であってもよい。
【0019】
オレフィン系単量体としては、炭素数2~8のα-オレフィンが好ましく、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、又は1-ヘキセンがより好ましく、エチレン又はプロピレンがさらに好ましい。
オレフィン系単量体と共重合可能な単量体としては、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
【0020】
ポリオレフィン樹脂としては、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体、オレフィン系エラストマー(TPO)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。
【0021】
ポリオレフィン樹脂の変性処理に用いる変性剤は、分子内に、官能基、すなわち、後述する架橋反応に寄与し得る基を有する化合物である。
官能基としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、水酸基、エポキシ基、アミド基、アンモニウム基、ニトリル基、アミノ基、イミド基、イソシアネート基、アセチル基、チオール基、エーテル基、チオエーテル基、スルホン基、ホスホン酸基、ニトロ基、ウレタン基、アルコキシシリル基、シラノール基、ハロゲン原子等が挙げられる。これらの中でも、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、カルボン酸エステル基、水酸基、アンモニウム基、アミノ基、イミド基、イソシアネート基、アルコキシシリル基が好ましく、カルボン酸無水物基、アルコキシシリル基がより好ましく、カルボン酸無水物基が特に好ましい。
官能基を有する化合物は、分子内に2種以上の官能基を有していてもよい。
【0022】
変性ポリオレフィン系樹脂としては、酸変性ポリオレフィン系樹脂、シラン変性ポリオレフィン系樹脂が挙げられ、本発明のより優れた効果が得られる観点から、酸変性ポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0023】
酸変性ポリオレフィン系樹脂とは、ポリオレフィン樹脂に対して酸でグラフト変性したものをいう。例えば、ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸を反応させて、カルボキシル基を導入(グラフト変性)したものが挙げられる。なお、本明細書において、不飽和カルボン酸とは、カルボン酸無水物の概念を含むものである。
【0024】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、例えば、有機過酸化物や脂肪族アゾ化合物等のラジカル重合開始剤の存在下で、ポリオレフィン樹脂に不飽和カルボン酸をグラフト重合させる方法等により得ることができる。
【0025】
ポリオレフィン樹脂に反応させる不飽和カルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸、テトラヒドロフタル酸、アコニット酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、ノルボルネンジカルボン酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物等が挙げられる。
これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、接着強度により優れる接着剤組成物が得られ易いことから、無水マレイン酸が好ましい。
【0026】
ポリオレフィン樹脂に反応させる不飽和カルボン酸の量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1~5質量部、より好ましくは0.2~3質量部、さらに好ましくは0.2~1質量部である。反応させる不飽和カルボン酸の量が上記の範囲にあることで、得られる酸変性ポリオレフィン系樹脂を含有する接着剤組成物は、接着強度により優れるものとなる。
【0027】
酸変性ポリオレフィン系樹脂は、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、アドマー(登録商標)(三井化学社製)、ユニストール(登録商標)(三井化学社製)、BondyRam(Polyram社製)、orevac(登録商標)(ARKEMA社製)、モディック(登録商標)(三菱化学社製)等が挙げられる。
【0028】
シラン変性ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン樹脂に対して不飽和シラン化合物でグラフト変性したものである。シラン変性ポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン樹脂に不飽和シラン化合物がグラフト共重合した構造を有する。
【0029】
不飽和シラン化合物をポリオレフィン樹脂にグラフト重合させる場合の条件は、公知のグラフト重合の常法を採用すればよい。例えば、ポリオレフィン樹脂、不飽和シラン化合物及びラジカル発生剤を高温で溶融混合し、グラフト重合する方法が挙げられる。
【0030】
上記ポリオレフィン樹脂に反応させる不飽和シラン化合物としては、ビニルシラン化合物が好ましく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリカルボキシシラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
ポリオレフィン樹脂に反応させる不飽和シラン化合物の量としては、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、0.3~7質量部であることがより好ましく、0.5~5質量部であることがさらに好ましい。反応させる不飽和シラン化合物の量が上記の範囲にあることで、得られるシラン変性ポリオレフィン系樹脂を含有する接着剤組成物は、接着強度により優れるものとなる。
【0032】
シラン変性ポリオレフィン系樹脂としては、シラン変性ポリエチレン樹脂及びシラン変性エチレン-酢酸ビニル共重合体が挙げられる。なかでも、シラン変性低密度ポリエチレン、シラン変性直鎖状低密度ポリエチレン、シラン変性超低密度ポリエチレン等のシラン変性ポリエチレン樹脂が好ましい。
【0033】
シラン変性ポリオレフィン系樹脂は、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、リンクロン(登録商標)(三菱化学社製)等が挙げられ、中でも、低密度ポリエチレン系のリンクロン、直鎖状低密度ポリエチレン系のリンクロン、超低密度ポリエチレン系のリンクロン、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体系のリンクロンを好ましく使用することができる。
【0034】
変性ポリオレフィン系樹脂は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
変性ポリオレフィン系樹脂の質量平均分子量(Mw)は10,000~2,000,000、好ましくは、20,000~1,500,000である。
変性ポリオレフィン系樹脂の質量平均分子量(Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒として用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを行い、標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0036】
(B)成分:多官能エポキシ化合物
本発明の接着剤組成物は、(B)成分として、多官能エポキシ化合物を含有する。
多官能エポキシ化合物は、(A)成分と反応して架橋構造を形成するものであるため、本発明の接着剤組成物の硬化物は水蒸気遮断性に優れる。
【0037】
多官能エポキシ化合物とは、分子内に少なくともエポキシ基を2つ以上有する化合物をいう。
エポキシ基を2つ以上有するエポキシ化合物としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラック型エポキシ樹脂(例えばフェノール・ノボラック型エポキシ樹脂、クレゾール・ノボラック型エポキシ樹脂、臭素化フェノール・ノボラック型エポキシ樹脂)、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、2,2-ビス(3-グリシジル-4-グリシジルオキシフェニル)プロパン、ジメチロールトリシクロデカンジグリシジルエーテル等が挙げられる。
これらの多官能エポキシ化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
多官能エポキシ化合物の分子量は、通常、100~10,000、好ましくは200~5,000である。
多官能エポキシ化合物のエポキシ当量は、好ましくは100~2000g/eq、より好ましくは150~1500g/eqである。
【0039】
接着剤組成物中の多官能エポキシ化合物の含有量は、前記(A)成分100質量部に対して、好ましくは10~50質量部、より好ましくは15~40質量部である。多官能エポキシ化合物の含有量がこの範囲内にある接着剤組成物の硬化物は、水蒸気遮断性により優れる。
【0040】
(C)成分:硬化促進剤
本発明の接着剤組成物は、(C)成分として、硬化促進剤を含有する。
硬化促進剤を含有する接着剤組成物を用いることで、高温時(例えば、60℃)においても優れた接着性を有する硬化物が得られ易くなる。
硬化促進剤は、多官能エポキシ化合物等が関与する架橋反応を促進するものであれば特に限定されない。
【0041】
硬化促進剤としては、イミダゾ-ル系硬化促進剤、第3級アミン系硬化促進剤、ホスフィン系硬化促進剤、第4級アンモニウム塩系硬化促進剤、第4級ホスホニウム塩系硬化促進剤、金属化合物系硬化促進剤等が挙げられる。
これらの中でも、より優れた接着強度を有する硬化物が得られる観点から、イミダゾール系硬化促進剤が好ましい。
【0042】
イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
第3級アミン系硬化促進剤としては、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、シクロヘキシルジメチルアミン、トリエチルアミン及び1,8-ジアザ-ビシクロ[5.4.0]ウンデセン-7(DBU)等が挙げられる。
ホスフィン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等が挙げられる。
【0043】
第4級アンモニウム塩系硬化促進剤としては、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラアルキルアンモニウムカルボン酸塩、ベンジルトリフェニルアンモニウムカルボン酸塩等が挙げられる。
第4級ホスホニウム塩系硬化促進剤としては、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラ-n-ブチルホスホニウムブロマイド等が挙げられる。
金属化合物系硬化促進剤としては、三フッ化ホウ素、トリフェニルボレート、塩化亜鉛、塩化第二錫、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、マグネシウムビス(アセチルアセトネート)、マグネシウムビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート等が挙げられる。
【0044】
これらの硬化促進剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
接着剤組成物中の硬化促進剤の含有量は、前記(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.2~5質量部である。
硬化促進剤の含有量がこの範囲内にある接着剤組成物の硬化物は、高温時(例えば、60℃)においても優れた接着性を有する。
【0045】
(D)成分:シランカップリング剤
本発明の接着剤組成物は、(D)成分として、シランカップリング剤を含有する。
シランカップリング剤を含有する接着剤組成物を用いることで、常温(通常、20~30℃)及び高温高湿環境(例えば、60℃、相対湿度90%)下における接着性により優れた硬化物が得られ易くなる。
【0046】
シランカップリング剤は、一般的には、分子内に有機材料と反応結合する官能基、及び無機材料と反応結合する官能基(ハロゲン原子、アルコキシ基等)を同時に有する有機ケイ素化合物である。シランカップリング剤としては特に限定されず、従来公知のシランカップリング剤を用いることができる。なかでも、より接着力に優れる樹脂組成物が得られる観点から、下記式(2)で示されるシラン化合物が好ましい。
【0047】
【化2】
【0048】
式(2)中、Rは炭素数3以上のアルキレン基を表し、Rは炭素数1~10の1価の炭化水素基を表し、Rは炭素数1~4のアルキル基を表す。Zは反応性基を含有する基を表し、nは0又は1である。
【0049】
で表されるアルキレン基の炭素数は、3以上であり、3~20が好ましく、4~15がより好ましい。
アルキレン基の炭素数が3以上であることで、架橋反応がより起こり易くなる。
で表されるアルキレン基としては、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基等が挙げられる。
【0050】
で表される1価の炭化水素基の炭素数は、1~10であり、1~6が好ましく、1~4がより好ましい。
で表される1価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等のアルキル基;ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、ブチニル基等のアルキニル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等のアリール基;等が挙げられる。
【0051】
で表されるアルキル基の炭素数は、1~4であり、1~3が好ましく、1又は2がより好ましい。
で表されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基が挙げられる。
【0052】
Zに含まれる反応性基としては、アミノ基、水酸基、チオール基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基等が挙げられ、エポキシ基が好ましい。
エポキシ基を含有するZとしては、エポキシ基、グリシジル基、3,4-エポキシシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0053】
式(2)で示されるシランカップリング剤としては、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0054】
シランカップリング剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
接着剤組成物中のシランカップリング剤の含有量は、前記(A)成分100質量部に対して、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~3質量部である。
シランカップリング剤の含有量がこの範囲内にある接着剤組成物の硬化物は、高温時(例えば、60℃)においても優れた接着性を有する。
【0055】
本発明の接着剤組成物は、前記(A)~(D)成分以外の成分を含有してもよい。
(A)~(D)成分以外の成分としては、溶媒、各種添加剤が挙げられる。
溶媒としては、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;等が挙げられる。
これらの溶媒は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
溶媒の使用量は、塗工性等を考慮して適宜決定することができる。
【0056】
添加剤としては、粘着付与剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、酸化防止剤、樹脂安定剤、充填剤、顔料、増量剤、軟化剤等が挙げられる。
これらは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の接着剤組成物がこれらの添加剤を含有する場合、その含有量は、目的に合わせて適宜決定することができる。
【0057】
本発明の接着剤組成物は、所定の成分を、常法に従って適宜混合・攪拌することにより調製することができる。
【0058】
本発明の接着剤組成物は、水分遮断性に優れるものである。本発明の接着剤組成物から形成された接着剤層を硬化処理して得られる層(硬化処理後の接着剤層)の水蒸気透過率は、通常、0.1~200g・m-2・day-1、好ましくは1~150g・m-2・day-1である。
接着剤層の水蒸気透過率は、JIS K 7129:2008記載の乾湿センサー法(Lyssy法)にて測定することができる。
【0059】
本発明の接着剤組成物は、接着強度に優れるものである。特に、接着後、高温高湿条件下に置かれた場合であっても、接着力の低下が生じにくいという特徴を有する。
例えば、本発明の接着剤組成物を用いて得られた試験片について180°剥離試験を行ったときに、下記式(1)で算出されるx値が1.3以下であり、より好ましくは1.2以下であり、特に好ましくは1.0未満である。x値の下限は0.6以上が好ましく0.8以上がより好ましい。
【0060】
【数2】
【0061】
式(1)中、aは、温度23℃、相対湿度50%の条件下で180°剥離試験を行って得られた接着力を表し、bは、試験片を温度60℃、相対湿度90%の条件下に100時間、次いで、温度23℃、相対湿度50%の条件下に24時間静置させた後に、温度23℃、相対湿度50%条件下で180°剥離試験を行って得られた接着力を表す。
【0062】
aの値は、通常、1~100N/25mm、好ましくは10~50N/25mmである。
bの値は、通常、1~100N/25mm、好ましくは10~50N/25mmである。
aの値とbの値の関係は、b>aであることが好ましい。
【0063】
これらの180°剥離試験の試験片は、接着剤組成物を用いて得られた厚み20μmの接着剤層と厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムからなる封止シートを、前記封止シートの接着剤層のもう一方の側を(ポリエチレンテレフタレートフィルムに隣接していない側の面がガラス板に対向するように)ガラス板に重ねて、温度60℃、圧力0.2MPa、速度0.2m/分の条件でラミネートさせ、次いで、得られた圧着体を100℃で2時間加熱して、その接着剤層を硬化して得られた幅25mmの積層体である。
Xが1.3以下の接着剤組成物は、接着時に接着剤組成物と被着体の界面強度が強く、水の浸入を防ぐことができる。
前記試験片の作製に用いるガラス板の材質は特に限定されないが、通常、無アルカリガラスを用いる。また、その厚みも特に限定されないが、例えば、0.7mm厚のものを使用することができる。
【0064】
このような物性を有する接着剤組成物は、(A)成分中の官能基、(B)成分中のエポキシ基、(C)成分中の反応性基のバランスをとることで得られ易くなる。
(A)成分中の官能基はエポキシ樹脂と反応可能な反応性基で、特にカルボン酸無水物基が好ましい。
また、(B)成分中のエポキシ基は、(A)成分の反応性基と反応して架橋することで強固な構造を形成する。従って、(A)成分の反応性基に対して十分な量のエポキシ基が必要となる。具体的には、(A)成分の反応性基に対してエポキシ基が10~100当量になるように(B)成分の量を調整することが好ましい。
(C)成分は、(A)成分と(B)成分の架橋構造中に取り込まれることによって、接着剤組成物と被着体を強く密着させるものである。従って、(C)成分の反応性基は(B)成分と同様の反応性を持つグリシジル基であることが好ましい。
【0065】
本発明の接着剤組成物は、水分遮断性及び接着強度に優れるため、本発明の接着剤組成物は、封止材を形成する際に好適に用いられる。
【0066】
2)封止シート
本発明の封止シートは、下記の封止シート(α)又は封止シート(β)である。
封止シート(α):2枚の剥離フィルムと、これらの剥離フィルムに挟持された接着剤層とからなる封止シートであって、前記接着剤層が、本発明の接着剤組成物を用いて形成されたものであることを特徴とするもの
封止シート(β):剥離フィルムと、ガスバリア性フィルムと、前記剥離フィルムと前記ガスバリア性フィルムに挟持された接着剤層とからなる封止シートであって、前記接着剤層が、本発明の接着剤組成物を用いて形成されたものであることを特徴とするもの
なお、これらの封止シートは使用前の状態を表したものであり、本発明の封止シートを使用する際は、通常、剥離フィルムは剥離除去される。
【0067】
〔封止シート(α)〕
封止シート(α)を構成する剥離フィルムは、封止シート(α)の製造工程においては支持体として機能するとともに、封止シート(α)を使用するまでの間は、接着剤層の保護シートとして機能する。
【0068】
剥離フィルムとしては、従来公知のものを利用することができる。例えば、剥離フィルム用の基材上に、剥離剤により剥離処理された剥離層を有するものが挙げられる。
剥離フィルム用の基材としては、グラシン紙、コート紙、上質紙等の紙基材;これらの紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂等のプラスチックフィルム;等が挙げられる。
剥離剤としては、シリコーン系樹脂、オレフィン系樹脂、イソプレン系樹脂、ブタジエン系樹脂等のゴム系エラストマー、長鎖アルキル系樹脂、アルキド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0069】
封止シート(α)における2枚の剥離フィルムは同一であっても、相異なっていてもよいが、2枚の剥離フィルムは異なる剥離力を有するものが好ましい。2枚の剥離フィルムの剥離力が異なることで、封止シートの使用時に問題が発生し難くなる。例えば、2枚の剥離フィルムとして剥離力が異なるものを用い、最初に剥離力の弱い剥離フィルムを剥離するようにして、剥離フィルムを剥離する工程をより効率よく行うことができる。
【0070】
封止シート(α)の接着剤層の厚みは、通常、1~50μmであり、好ましくは5~30μmである。厚みが上記範囲内にある接着剤層は、封止材として好適に用いられる。
【0071】
封止シート(α)の接着剤層は、本発明の接着剤組成物を用いて形成されたものであるため熱硬化性を有する。
封止シート(α)を使用する場合、例えば、次のようにして封止体を得ることができる。まず、封止シート(α)から剥離フィルムを剥離して、接着剤層を露出させ、次いで、露出した接着剤層を未硬化の状態で被着体を覆うように圧着させ、その後、得られた積層物を所定温度に加熱して、前記接着剤層を熱硬化させることで封止体を得ることができる。
なお、得られた封止体上に別の層を更に積層する場合には、前記封止シート(α)の残された剥離シートを剥離して、露出した接着剤層上に別の層を積層させればよい。この操作は、接着剤層が未硬化の状態で実施しても、硬化させた後に実施してもよい。
【0072】
被着体に接着剤層を圧着させる条件は特に限定されない。
温度は、通常、23~100℃、好ましくは40~80℃である。
圧力は、通常、0.1~0.5MPa、好ましくは0.2~0.3MPaである。
【0073】
接着剤層を熱硬化させる際の条件は特に限定されない。
加熱温度は、通常、80~200℃、好ましくは90~150℃である。
加熱時間は、通常、30分から12時間、好ましくは1~6時間である。
【0074】
硬化処理後の接着剤層について、180°剥離試験を23℃で行った場合、接着力は、通常、1~100N/25mm、好ましくは、10~50N/25mmである。この180°剥離試験は、実施例に記載の方法にしたがって行うことができる。
また、硬化処理後の接着剤層は水分遮断性に優れる。硬化処理後の接着剤層の水蒸気透過率は、通常、0.1~200g・m-2・day-1、好ましくは1~150g・m-2・day-1である。
接着剤層の水蒸気透過率は、JIS K 7129:2008記載の乾湿センサー法(Lyssy法)にて測定することができる。
【0075】
封止シート(α)の製造方法は特に限定されない。例えば、キャスト法を用いて、封止シート(α)を製造することができる。
封止シート(α)をキャスト法により製造する場合、公知の方法を用いて、本発明の接着剤組成物を剥離フィルムの剥離処理面に塗工し、得られた塗膜を乾燥することで、剥離フィルム付接着剤層を製造し、次いで、もう1枚の剥離フィルムを接着剤層上に重ねることで、封止シート(α)を得ることができる。
【0076】
接着剤組成物を塗工する方法としては、例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等が挙げられる。
塗膜を乾燥するときの乾燥条件としては、例えば80~150℃で30秒~5分間が挙げられる。
【0077】
〔封止シート(β)〕
封止シート(β)は、剥離フィルムと、ガスバリア性フィルムと、前記剥離フィルムと前記ガスバリア性フィルムに挟持された接着剤層とからなる封止シートであって、前記接着剤層が、本発明の接着剤組成物を用いて形成されたものであることを特徴とする。
なお、これらの封止シートは使用前の状態を表したものであり、本発明の封止シートを使用する際は、通常、剥離フィルムは剥離除去される。
【0078】
封止シート(β)における2枚の剥離フィルムは同一であっても、相異なっていてもよいが、2枚の剥離フィルムは異なる剥離力を有するものが好ましい。2枚の剥離フィルムの剥離力が異なることで、封止シートの使用時に問題が発生し難くなる。例えば、最初に剥離力の弱い剥離フィルムを剥離すれば、剥離フィルムを剥離する工程をより効率よく行うことができる。
【0079】
ガスバリア性フィルムは、水分遮断性を有するフィルムであれば特に限定されない。
ガスバリア性フィルムは、温度40℃、相対湿度90%(以下、「90%RH」と略記する。)の環境下における水蒸気透過率が0.1g/m/day以下であることが好ましく、0.05g/m/day以下であることがより好ましく、0.005g/m/day以下であることがさらに好ましい。
ガスバリア性フィルムの温度40℃、90%RHの環境下における水蒸気透過率が0.1g/m/day以下であることで、透明基板上に形成された有機EL素子等の素子内部に酸素や水分等が浸入し、電極や有機層が劣化することを効果的に抑制することができる。
ガスバリア性フィルムの水蒸気等の透過率は、公知のガス透過率測定装置を使用して測定することができる。
【0080】
ガスバリア性フィルムとしては、金属箔、樹脂製フィルム、薄膜ガラス等が挙げられる。これらの中でも、樹脂製フィルムが好ましく、樹脂製フィルム(基材)とガスバリア層とを有するガスバリア性フィルムがより好ましい。
【0081】
金属箔の金属としては、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム等の金属材料;ステンレス又はアルミニウム合金等の合金材料;等が挙げられる。
【0082】
薄膜ガラスの成分・組成は特に限定されないが、より安定なフレキシブル性が得られる点で、無アルカリのホウケイ酸ガラスが好ましい。
薄膜ガラスは、薄膜ガラスを単体として用いてもよいが、アルミ箔等の金属箔や樹脂フィルムを、薄膜ガラスに積層あるいはラミネートしたものを用いてもよい。
また、薄膜ガラスとしては、厚みが10~200μm程度のフレキシブル性を有するものが好ましい。
【0083】
基材とガスバリア層とを有するガスバリア性フィルムにおいて、基材を構成する樹脂成分としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体、ポリウレタン系ポリマー等が挙げられる。
基材の厚みは、特に制限はないが、取り扱い易さの観点から、好ましくは0.5~500μm、より好ましくは1~200μm、さらに好ましくは5~100μmである。
【0084】
ガスバリア層は、所望のガスバリア性を付与することができるものであれば、その材質等は特に限定されない。ガスバリア層としては、無機膜や、高分子化合物を含む層に改質処理を施して得られる層等が挙げられる。これらの中でも、厚みが薄く、ガスバリア性に優れる層を効率よく形成できることから、ガスバリア層は、無機膜からなるガスバリア層、及び高分子化合物を含む層にイオンを注入して得られるガスバリア層が好ましい。
【0085】
無機膜としては、特に制限されず、例えば、無機蒸着膜が挙げられる。
無機蒸着膜としては、無機化合物や金属の蒸着膜が挙げられる。
無機化合物の蒸着膜の原料としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化スズ等の無機酸化物;窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン等の無機窒化物;無機炭化物;無機硫化物;酸化窒化ケイ素等の無機酸化窒化物;無機酸化炭化物;無機窒化炭化物;無機酸化窒化炭化物等が挙げられる。
金属の蒸着膜の原料としては、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、及びスズ等が挙げられる。
【0086】
無機膜の形成方法としては、真空蒸着法、EB蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ラミネート法、プラズマ気相成長法(CVD法)等が挙げられる。
無機膜の厚みは、無機材料の種類や構成により適宜選択されるが、通常、1~500であり、好ましくは、2~300nmである。
【0087】
高分子化合物を含む層(以下、「高分子層」ということがある)にイオン注入して得られるガスバリア層において、用いる高分子化合物としては、ポリオルガノシロキサン、ポリシラザン系化合物等のケイ素含有高分子化合物、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、アクリル系樹脂、シクロオレフィン系ポリマー、芳香族系重合体等が挙げられる。これらの高分子化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組合せて用いることができる。
これらの中でも、優れたガスバリア性を有するガスバリア層を形成できる観点から、ケイ素含有高分子化合物が好ましく、ポリシラザン系化合物がより好ましい。
【0088】
ポリシラザン系化合物は、分子内に-Si-N-結合(シラザン結合)を含む繰り返し単位を有する高分子化合物である。具体的には、式(3)
【0089】
【化3】
【0090】
で表される繰り返し単位を有する化合物が好ましい。また、用いるポリシラザン系化合物の数平均分子量は、特に限定されないが、100~50,000であるのが好ましい。
【0091】
前記式(3)中、rは任意の自然数を表す。
Rx、Ry、Rzは、それぞれ独立して、水素原子、無置換若しくは置換基を有するアルキル基、無置換若しくは置換基を有するシクロアルキル基、無置換若しくは置換基を有するアルケニル基、無置換若しくは置換基を有するアリール基又はアルキルシリル基等の非加水分解性基を表す。これらの中でも、Rx、Ry、Rzとしては、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又はフェニル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。前記式(3)で表される繰り返し単位を有するポリシラザン系化合物としては、Rx、Ry、Rzが全て水素原子である無機ポリシラザン、Rx、Ry、Rzの少なくとも1つが水素原子ではない有機ポリシラザンのいずれであってもよい。
【0092】
ポリシラザン系化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明においては、ポリシラザン系化合物として、ポリシラザン変性物を用いることもできる。また、本発明においては、ポリシラザン系化合物としては、ガラスコーティング材等として市販されている市販品をそのまま使用することもできる。
【0093】
前記高分子層は、上述した高分子化合物の他に、本発明の目的を阻害しない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、硬化剤、他の高分子、老化防止剤、光安定剤、難燃剤等が挙げられる。
高分子層中の高分子化合物の含有量は、より優れたガスバリア性を有するガスバリア層が得られることから、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0094】
高分子層の厚みは特に制限されないが、好ましくは50~300nm、より好ましくは50~200nmの範囲である。
本発明においては、高分子層の厚みがナノオーダーであっても、充分なガスバリア性を有する封止シートを得ることができる。
【0095】
高分子層を形成する方法としては、例えば、高分子化合物の少なくとも1種、所望により他の成分、及び溶剤等を含有する層形成用溶液を、スピンコーター、ナイフコーター、グラビアコーター等の公知の装置を使用し、塗布し、得られた塗膜を適度に乾燥して形成する方法が挙げられる。
【0096】
高分子層の改質処理としては、イオン注入処理、プラズマ処理、紫外線照射処理、熱処理等が挙げられる。
イオン注入処理は、後述するように、高分子層にイオンを注入して、高分子層を改質する方法である。
プラズマ処理は、高分子層をプラズマ中に晒して、高分子層を改質する方法である。例えば、特開2012-106421号公報に記載の方法に従って、プラズマ処理を行うことができる。
紫外線照射処理は、高分子層に紫外線を照射して高分子層を改質する方法である。例えば、特開2013-226757号公報に記載の方法に従って、紫外線改質処理を行うことができる。
これらの中でも、高分子層の表面を荒らすことなく、その内部まで効率よく改質し、よりガスバリア性に優れるガスバリア層を形成できることから、イオン注入処理が好ましい。
【0097】
高分子層に注入されるイオンとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガスのイオン;フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のイオン;
メタン、エタン等のアルカン系ガス類のイオン;エチレン、プロピレン等のアルケン系ガス類のイオン;ペンタジエン、ブタジエン等のアルカジエン系ガス類のイオン;アセチレン等のアルキン系ガス類のイオン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系ガス類のイオン;シクロプロパン等のシクロアルカン系ガス類のイオン;シクロペンテン等のシクロアルケン系ガス類のイオン;金属のイオン;有機ケイ素化合物のイオン;等が挙げられる。
これらのイオンは1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、より簡便にイオンを注入することができ、特に優れたガスバリア性を有するガスバリア層が得られることから、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガスのイオンが好ましい。
【0098】
イオンを注入する方法としては、特に限定されない。例えば、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオン(プラズマ生成ガスのイオン)を注入する方法等が挙げられ、簡便にガスバリア層が得られることから、後者のプラズマイオンを注入する方法が好ましい。プラズマイオン注入法は、例えば、プラズマ生成ガスを含む雰囲気下でプラズマを発生させ、イオンを注入する層に負の高電圧パルスを印加することにより、該プラズマ中のイオン(陽イオン)を、イオンを注入する層の表面部に注入して行うことができる。
【0099】
前記ガスバリア性フィルムは、基材とガスバリア層との間にプライマー層を設けたものであってもよい。プライマー層を設けることにより、基材とガスバリア層との密着性を高めることができる場合がある。
【0100】
プライマー層を構成する材料としては、特に限定されず、公知のものが使用できる。例えば、ケイ素含有化合物;光重合性モノマー及び/又は光重合性プレポリマーからなる光重合性化合物、及び少なくとも可視光域の光でラジカルを発生する重合開始剤を含む光重合性組成物;ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂(特にポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等とイソシアネート化合物との2液硬化型樹脂)、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、ニトロセルロース系樹脂等の樹脂類;アルキルチタネート;ポリエチレンイミン;等が挙げられる。これらの材料は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
プライマー層は、プライマー層形成用溶液の塗布方法、及び得られた塗膜の乾燥、加熱方法としては、それぞれ、高分子層を形成する方法として先に示したものを用いることができる。プライマー層を形成する場合、プライマー層の厚みは、通常、10~1000nmである。
【0101】
封止シート(β)の製造方法は特に限定されない。例えば、先に説明した封止シート(α)の製造方法において、剥離フィルムの1枚をガスバリア性フィルムに置き換えることで封止シート(β)を製造することができる。
また、封止シート(α)を製造した後、その1枚の剥離フィルムを剥離し、露出した接着剤層とガスバリア性フィルムとを貼着することにより、封止シート(β)を製造することもできる。この場合、封止シート(α)が、異なる剥離力を有する2枚の剥離フィルムを有する場合には、取扱い性の観点から、剥離力の小さい方の剥離フィルムを剥離するのが好ましい。
【0102】
本発明の封止シートの接着剤層は、接着強度及び水分遮断性に優れる。このため、本発明の封止シートを用いて有機EL素子を封止することで、その劣化を効率よく抑えることができる。
【0103】
3)封止体
本発明の封止体は、被封止物が、本発明の封止シートを用いて封止されてなるものである。
「本発明の封止シートを用いて封止されてなる」とは、本発明の封止シートを構成する剥離フィルムを除去して接着剤層を露出させ、その接着剤層を被封止物に密着させて、被封止物を覆うことをいう。
本発明の封止体としては、例えば、透明基板と、該透明基板上に形成された素子(被封止物)と、該素子を封止するための封止材とを備えるものであって、前記封止材が、本発明の封止シート(α)又は(β)の接着剤層により封止されてなるものが挙げられる。
【0104】
本発明の封止体の層構成の具体例としては、次のものが挙げられるが、以下のものに限定されるものではない。なお、以下においては、剥離フィルムを剥離除去した態様で記載する。
(i)透明基板/該透明基板上に形成された素子(被封止物)/接着剤層
(ii)透明基板/該透明基板上に形成された素子(被封止物)/接着剤層/ガスバリア層
(iii)透明基板/該透明基板上に形成された素子(被封止物)/接着剤層/ガスバリア層/基材フィルム
(iv)透明基板/該透明基板上に形成された素子(被封止物)/接着剤層/ガスバリア層/プライマー層/基材フィルム
【0105】
透明基板は、特に限定されるものではなく、種々の基板材料を用いることができる。特に可視光の透過率が高い基板材料を用いることが好ましい。また、素子外部から浸入しようとする水分やガスを阻止する遮断性能が高く、耐溶剤性や耐候性に優れている材料が好ましい。具体的には、石英やガラス等の透明無機材料;ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフッ化ビニリデン、アセチルセルロース、ブロム化フェノキシ、アラミド類、ポリイミド類、ポリスチレン類、ポリアリレート類、ポリスルホン類、ポリオレフィン類等の透明プラスチック、前述したガスバリア性フィルム;が挙げられる。
透明基板の厚みは特に制限されず、光の透過率や、素子内外を遮断する性能を勘案して、適宜選択することができる。
【0106】
被封止物としては、有機EL素子、有機ELディスプレイ素子、液晶ディスプレイ素子、太陽電池素子等が挙げられる。
【0107】
本発明の封止体の製造方法は特に限定されない。例えば、本発明の封止シートの接着剤層を被封止物上に重ねた後、加熱することにより、封止シートの接着剤層と被封止物を接着させる。
次いで、この接着剤層を硬化させることにより、本発明の封止体を製造することができる。
【0108】
封止シートの接着剤層と被封止物を密着させる際、及び接着剤層を硬化させる際の硬化条件としては、先に説明した条件を利用することができる。
【0109】
本発明の封止体は、被封止物が、本発明の封止シートで封止されてなるものである。
したがって、本発明の封止体においては、長期にわたって被封止物の性能が維持される。
【実施例
【0110】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
各例中の部及び%は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0111】
実施例又は比較例で用いた化合物は以下のとおりである。
酸変性ポリオレフィン系樹脂(1):変性α-オレフィン重合体、質量平均分子量:52,000、三井化学株式会社製、商品名:ユニストールH-200
多官能エポキシ化合物(1):水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、共栄社化学株式会社製、商品名:エポライト4000、分子量:470、エポキシ当量:235g/eq
多官能エポキシ化合物(2):ジメチロールトリシクロデカンジグリシジルエーテル、株式会社ADEKA製、商品名:アデカレジン、EP-4088L、分子量:330、エポキシ当量:165g/eq
多官能エポキシ化合物(3):水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、三菱化学株式会社製、商品名:jER YX8034、分子量:540、エポキシ当量:270g/eq
イミダゾール系硬化促進剤(1):2-エチル-4-メチルイミダゾール、四国化成株式会社製、商品名:キュアゾール2E4MZ
シランカップリング剤(1):8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名:KBM4803
シランカップリング剤(2):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学工業株式会社製、商品名:KBM403
【0112】
〔実施例1〕
酸変性ポリオレフィン系樹脂(1)100部、多官能エポキシ化合物(1)25部、イミダゾール系硬化促進剤(1)0.25部、及び、シランカップリング剤(1)0.1部をメチルエチルケトンに溶解し、固形分濃度18%の接着剤組成物(1)を調製した。
この接着剤組成物(1)を剥離フィルム(リンテック株式会社製、商品名:SP-PET382150)の剥離処理面上に塗工し、得られた塗膜を100℃で2分間乾燥し、厚みが20μmの接着剤層を形成し、その上に、もう1枚の剥離フィルム(リンテック株式会社製、商品名:SP-PET381031)の剥離処理面を貼り合わせて封止シート(1)を得た。
【0113】
〔実施例2〕
実施例1において、多官能エポキシ化合物(1)に代えて、多官能エポキシ化合物(2)を使用したことを除き、実施例1と同様にして封止シート(2)を得た。
【0114】
〔実施例3〕
実施例1において、多官能エポキシ化合物(1)に代えて、多官能エポキシ化合物(3)を使用したことを除き、実施例1と同様にして封止シート(3)を得た。
【0115】
〔実施例4〕
実施例1において、シランカップリング剤(1)に代えて、シランカップリング剤(2)を使用したことを除き、実施例1と同様にして封止シート(4)を得た。
【0116】
〔比較例1〕
実施例1において、シランカップリング剤を使用しない点を除き、実施例1と同様にして封止シート(5)を得た。
【0117】
〔比較例2〕
実施例2において、シランカップリング剤を使用しない点を除き、実施例2と同様にして封止シート(6)を得た。
【0118】
〔比較例3〕
実施例1において、多官能エポキシ化合物とイミダゾール系硬化触媒を使用しない点を除き、実施例1と同様にして封止シート(7)を得た。
【0119】
実施例1~4、比較例1~3で得た封止シート(1)~(7)について、以下の試験を行った。
〔試験片の作製〕
幅が25mmの封止シートの剥離フィルムを1枚剥がして露出させた接着剤層を、厚みが50μm、幅が25mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡株式会社製、商品名「コスモシャイン PET50A4300)に重ねた。次いで、もう1枚の剥離フィルムを剥がして露出させた接着剤層をガラス板に重ねて、温度60℃、圧力0.2MPa、速度0.2m/分の条件でラミネートして圧着体を得た。得られた圧着体を100℃で2時間加熱して、その接着剤層を硬化させ、試験片をそれぞれ2枚ずつ得た。
〔接着力測定〕
剥離試験(a)として、試験片を、温度23℃、相対湿度50%の条件下で180°剥離試験を行った。
剥離試験(b)として、試験片を、温度60℃、相対湿度90%の条件下に100時間、次いで、温度23℃、相対湿度50%の条件下に24時間静置させた後に、温度23℃、相対湿度50%条件下で180°剥離試験を行った。
この剥離試験において、上述した試験条件以外は、JIS Z0237:2000に記載の粘着力の測定方法に準じて行った。
【0120】
〔有機EL素子の評価試験〕
酸化インジウムスズ(ITO)膜(厚み:100nm、シート抵抗:50Ω/□:ohms per square)が成膜されたガラス基板を陽極として有する有機EL素子を、以下の方法により作製した。
まず、前記ガラス基板のITO膜上に、N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン)(Luminescence Technology社製)を50nm、トリス(8-ヒドロキシ-キノリネート)アルミニウム(Luminescence Technology社製)を50nm、0.1~0.2nm/分の速度で順次蒸着させ、発光層を形成した。
得られた発光層上に、電子注入材料として、フッ化リチウム(LiF)(高純度化学研究所社製)を0.1nm/分の速度で4nm、次いでアルミニウム(Al)(高純度化学研究所社製)を0.1nm/分の速度で100nm蒸着させて陰極を形成し、有機EL素子を得た。
なお、蒸着時の真空度は、全て1×10-4Pa以下であった。
【0121】
実施例又は比較例で得た封止シートの剥離フィルムを1枚剥がし、露出した接着剤層を金属箔フィルム上に重ね、ヒートラミネーターを用いてこれらを60℃で接着した。次いで、もう1枚の剥離フィルムを剥離し、露出した接着剤層を、ガラス基板上に形成された有機EL素子を覆うように重ね、ヒートラミネーターを用いてこれらを60℃で接着した。次いで、100℃で2時間加熱して接着剤層を硬化させ、有機EL素子が封止されたボトムエミッション型の電子デバイスを得た。
この電子デバイスを、温度60℃、相対湿度90%の環境下に250時間静置させた後、有機EL素子を起動させ、ダークスポット(非発光箇所)の有無を観察し、以下の基準で評価した。
◎:ダークスポットが発光面積の40%未満
○:ダークスポットが発光面積の40%以上50%未満
×:ダークスポットが発光面積の50%以上
【0122】
【表1】
【0123】
第1表から以下のことがわかる。
実施例1~4の封止シートは、高温高湿条件静置(60℃、相対湿度90%、100時間静置)後においても優れた接着強度が維持され、また、封止性に優れている。
一方、比較例1~3の封止シートは、高温高湿条件に置く(60℃、相対湿度90%、100時間静置)と、接着強度が大きく低下し、また、封止性に劣っている。