(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】加熱能を有するSOECシステム
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20220511BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20220511BHJP
C25B 13/07 20210101ALI20220511BHJP
C25B 11/053 20210101ALI20220511BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220511BHJP
H01M 8/1253 20160101ALN20220511BHJP
H01M 8/126 20160101ALN20220511BHJP
【FI】
C25B9/00 Z
C25B1/02
C25B13/07
C25B11/053
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
H01M8/1253
H01M8/126
(21)【出願番号】P 2018562590
(86)(22)【出願日】2017-06-08
(86)【国際出願番号】 EP2017063960
(87)【国際公開番号】W WO2017216031
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-06-03
(32)【優先日】2016-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】590000282
【氏名又は名称】ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ブレノウ・ベンクト・ペテル・グスタフ
(72)【発明者】
【氏名】ハイレデール-クラウスン・トマス
(72)【発明者】
【氏名】ノルビュ・トビアス・ホルト
(72)【発明者】
【氏名】キュンガス・ライナー
(72)【発明者】
【氏名】ラス-ハンセン・イェッペ
(72)【発明者】
【氏名】スカフテ・タイス・レイエ
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特許第5584796(JP,B1)
【文献】Asif Mahmood et al.,High-performance solid oxide electrolysis cell based on ScSZ/GDC bi-layered electrolyte and LSCF oxygen electrode,Energy,2015年,Vol.90,pp.344-350
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
C25B 1/02
C25B 13/04
C25B 11/053
H01M 8/12
H01M 8/1253
H01M 8/126
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各セルが、酸化電極の層、還元電極の層および電解質の層を含む、複数の固体酸化物電解セルを含む平坦な固体酸化物電解セルスタック
である固体酸化物電解
セルスタックの製造方法において、該電解質の層が、第1の電解質層、第2の電解質層および第1の電解質層と第2の電解質層との相互拡散によって形成された層を含み
、700℃で測定した電解質の面積比抵抗が0.2Ωcm
2より高く、かつ、電解質の総厚さが25μm未満であり、第1の電解質の材料が、主に、(Y
2O
3)
x(ZrO
2)
1-x(式中、0.02≦x≦0.10)であるか、または、(Y
2O
3)
y(L
2O
3)
z(ZrO
2)
1-y-z(式中、0.0≦y≦0.12、0≦z≦0.06、かつ、Lは、Ce、Gd、Ga、Y、Al、Yb、BiまたはMn)であ
り、
第1電解質層が、主に安定化ジルコニアからなり、第2の電解質層が、主にドープされたセリアからなり、かつ、相互拡散(相互拡散層)によって上記層間に第3の層が形成されており、
相互拡散層が、1250℃超かつ1350℃未満の温度で前記電解質層を焼結することによって得られる、
上記の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項2】
電解質の総厚さが5μm~25μmである、請求項1に記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項3】
第2の電解質の材料が、主に、(Ln
2O
3)
x(CeO
2)
1-x(式中、0.02≦x≦0.30であり、かつ、Lnはランタニドまたは二つのランタニドの混合物である。)である、請求項
1に記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項4】
相互拡散層の厚さが、少なくとも
330nmである、請求項1~
3のいずれか一つに記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項5】
電解質の面積比抵抗の少なくとも65%が相互拡散層に由来する、請求項1~
4のいずれか一つに記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項6】
空気中において700℃で測定した酸化電極の面内導電率が、30S/cmより高い、請求項1~
5のいずれか一つに記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項7】
酸化電極が、二つまたは三つ以上の層を含む、請求項1~
6のいずれか一つに記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項8】
電解質に最も近い酸化電極層が、ドープされたセリアおよびLn
1-x-aSr
xMO
3±δ(式中、Lnはランタニドまたはその混合物であり、MはMn、Co、Fe、Cr、Ni、Ti、Cuまたはそれらの混合物であり、0≦x≦0.95,0≦a≦0.05および0≦δ≦0.25である。)の複合体であり、かつ、電解質から最も遠い酸化電極層が、主としてLn
1-x-aSr
xMO
3±δ、Ln
1-aNi
1-yCo
yO
3±δまたはLn
1-aNi
1-yFe
yO
3±δ(式中、0≦y≦1)、またはそれらの混合物である、請求項
7に記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項9】
動作温度が、650℃~900℃の範囲である、請求項1~
8のいずいれか一つに記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項10】
還元電極中で起こる反応が、CO
2のCOへの電気化学的還元を含む、請求項1~
9のいずれか一つに記載の固体酸化物電解
セルスタックの製造方法。
【請求項11】
電解質の層を含む燃料電池の製造方法において、該電解質の層が、第1の電解質層、第2の電解質層および第1の電解質層と第2の電解質層との相互拡散によって形成された層を含み、700℃で測定した電解質の面積比抵抗が0.2Ωcm
2
より高く、かつ、電解質の総厚さが25μm未満であり、第1の電解質の材料が、主に、(Y
2
O
3
)
x
(ZrO
2
)
1-x
(式中、0.02≦x≦0.10)であるか、または、(Y
2
O
3
)
y
(L
2
O
3
)
z
(ZrO
2
)
1-y-z
(式中、0.0≦y≦0.12、0≦z≦0.06、かつ、Lは、Ce、Gd、Ga、Y、Al、Yb、BiまたはMn)であり、
第1電解質層が、主に安定化ジルコニアからなり、第2の電解質層が、主にドープされたセリアからなり、かつ、相互拡散(相互拡散層)によって上記層間に第3の層が形成されており、
相互拡散層が、1250℃超かつ1350℃未満の温度で前記電解質層を焼結することによって得られる、
上記の燃料電池の製造方法。
【請求項12】
電解質の総厚さが5μm~25μmである、請求項11に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項13】
第2の電解質の材料が、主に、(Ln
2
O
3
)
x
(CeO
2
)
1-x
(式中、0.02≦x≦0.30であり、かつ、Lnはランタニドまたは二つのランタニドの混合物である。)である、請求項11に記載の燃料電池の製造方法。
【請求項14】
相互拡散層の厚さが、少なくとも330nmである、請求項11~13のいずれか一つに記載の燃料電池の製造方法。
【請求項15】
電解質の面積比抵抗の少なくとも65%が相互拡散層に由来する、請求項11~14のいずれか一つに記載の燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱能を有するSOEC(固体酸化物形電解セル(Solid Oxide Electrolysis Cell))システムに関する。特に、本発明は、電解質の厚さに対する電解質の面積比抵抗が高いSOECセルを含むSOECシステムに関し、該システムは、加熱に必要な構成要素を減らし、かつ、配管および外部のヒータ表面からのシステムの熱損失を最小限に抑えることによってSOECシステムの効率を改善する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形セルは、異なる燃料からの発電(燃料電池モード)および水および二酸化炭素(電解セルモード)からの合成ガス(CO+H2)の生成の両方を含む幅広い目的に使用することができる。
【0003】
固体酸化物形セルは、600℃~1000℃を超える範囲の温度で動作し、それ故、固体酸化物形セルシステムを、例えば室温から始動させるとき、動作温度に達するために熱源が必要とされる。
【0004】
この目的のために、外部ヒータが広く使用されている。これらの外部ヒータは、通常、固体酸化物電池システムの空気入力側に接続され、固体酸化物形セルが動作開始可能な、600℃超の温度をシステムが得るまで使用される。
【0005】
固体酸化物形セルの電気化学的動作の間、熱は、典型的に、次のオーム損失に関連して生成される。
【0006】
Q=R*I2 (1)
(式中、Qは生成される熱であり、ジュールで表され、Rは、オームで測定した固体酸化物セル(スタック)の電気抵抗であり、かつ、Iはアンペアで測定された動作電流である。)
さらに、次の電気化学プロセスによって、熱が生成または消費される:
Q=-(ΔH*I*t)/(n*F) (2)
(式中、ΔHは、J/molで表される、動作温度における所与の「燃料」(例えば、所与の燃料についてのより低い発熱値)についての化学エネルギーであり、tは秒単位の時間であり、nは、反応物1モルあたりの反応で生成または使用される電子の数であり、かつ、Fはファラデー定数96 485C/molである。)
「燃料」は、ここでは関連する、燃料電池モードで酸化され得る供給原料(例えばH2またはCO)であるか、または、電解モードで還元され得るその他の種(例えば、H2OまたはCO2)である生成物(同じく、例えば、H2またはCO)であると理解される。
【0007】
式(2)において、燃料電池モード(電流の正符号)で熱が発生し、そして、電解モード(電流の負の符号)では熱が消費される。
【0008】
定電流モードで動作する場合、固体酸化物形セル(SOFC)モードにおいて全ての動作電圧で熱が生成される。SOECモードでは、固体酸化物形セルがいわゆる熱中性(thermoneutral)電圧より下で運転されると、セル内のオーム加熱により発生する熱が、電気化学反応で吸収される熱よりも小さいため、全体のプロセスは吸熱性である。逆に、SOECモードの固体酸化物形セルが熱中性電圧を超えて運転されると、セル内のオーム加熱からの寄与は、電気化学反応で吸収される熱よりも大きいため、全体のプロセスは発熱性である。
【0009】
熱中性電位(電圧)は、電気化学セルが断熱的に作用する電位として定義され、次のように定義される。
【0010】
V_tn=-ΔH/(n*F)
換言すれば、V_tnは、熱の正味の流入または流出(inflow or outflow)がなければ、完全に絶縁された電解槽が動作する最小の熱力学的電圧である。例えば、25℃で行われる水の電気分解の場合、V_tnは1.48Vであるが、850℃ではV_tnは1.29Vである。CO2の電気分解では、V_tnは25℃で1.47V、850℃で1.46Vである。実際の、不完全に絶縁されたスタックの実際の熱中性電圧は、熱力学的に決定されたV_tnとは異なることに留意することが重要である。
【0011】
一般的なSOFC、およびV_tnより上で動作するSOECシステムでは、固体酸化物形セルシステムの所望の動作温度を維持するために、一般に、追加の加熱要素は必要とされない。
【0012】
しかし、V_tnより低い電圧に対応する電流によりSOECモードで動作するシステムの場合、プロセス中に熱が消費されるため、必要な動作温度を維持するために、スタック動作温度に近いかまたはそれより高い温度で動作する追加の熱源が必要とされる。
【0013】
動作中のスタック全体の温度プロファイルは一定ではない。燃料燃焼反応の発熱性のために、燃料の入口が配置されているスタックの側面は、燃料の出口が配置されているスタックの側面よりも一般に低温である。逆に、熱中電圧未満の電解モードで動作するスタックは、一般に、燃料の入口を有する側が燃料の出口を有する側より高温になる。スタック全体にわたる温度勾配の大きさは、スタックの幾何学的形状、流れの構成(並流、交差流、向流など)、ガス流速、電流密度などに依存する。例えば、燃料電池モードで動作するとき、スタックを冷却して、入口から出口への温度勾配を減少させるためには、大流量の(比較的冷たい)空気が典型的に必要であり、一方、V_tnより低い電解モードでは、大流量の熱風を用いてスタックを加熱することができる。しかし、高いガス流量を使用してスタックを加熱または冷却することは、スタック温度を制御するための高価な方法である。というのも、システム全体の効率を大幅に低下させる大きなブロワーやヒータが必要だからである。
【0014】
一般に、燃料電池および電解操作のために、同一またはわずかに変更されたセルおよびスタックが共通して使用されている。例えば、欧州特許第1984972B1号明細書(特許文献1)は、イオン伝導性電解質によって分離された第一の電極および第二の電極を有する可逆性燃料電池を含む熱および蓄電システムを記載している。このようなセルは、電解モードでは水素および酸素のような化学物質を生成することができ、そして、燃料電池モードでは生成された燃料で稼働させることもできる。同じセルまたは同じスタックが燃料電池および電解操作の両方に使用されるシステムの欠点は、以下に示すように、燃料電池モードにおいて最適性能を有するセルは、必ずしも電解モードにおいて最適に機能するとは限らない点である。
【0015】
温度勾配に加えて、反応して形成する種の濃度勾配も、稼働中の固体酸化物形セルスタック中には存在する。例えば、水蒸気電解モードで作動する(すなわち、H2OをH2に変換する)電解スタックは、燃料の入口付近で高濃度の蒸気を有し、かつ、燃料の出口付近で低濃度の蒸気を有する。形成された水素ガスの濃度は、入口から出口に、低から高へと、応じて変化する。化学反応器と同様に、化学物質がスタックを通って流れるときにできるだけ多くの出発材料を所望の生成物に変換する、すなわち、パスごとに可能な限り高い変換率を実現することが望ましい。より高い転化率は、より少ないガスをリサイクルする必要があることを意味するか、あるいはまた、セルまたはスタックの下流のガス精製システムをより効率的に操作することができることを意味し、両方ともコストを削減することができる。しかし、転化率が高いほど、燃料の入口から出口への濃度勾配が大きくなる。
【0016】
CO2電解モード(CO2をCOに変換する)、または共電解モード(CO2およびH2Oを同時にCOおよびH2に変換する)で動作するセルまたはスタックでは、燃料の入口は比較的高濃度のCO2に曝される一方で、燃料出口は一酸化炭素、COに富む。高い変換操作は、COの濃度が高すぎると、セル内で炭素が生成される可能性のある、次のBoudouard反応によって複雑になる。
【0017】
2CO=CO2+C
セル内の炭素形成は、セル内の細孔の閉塞、Niリッチな電極構造の破壊、かつ、場合によっては電解質と還元電極との間の剥離を招くことから、非常に望ましくない。これらの現象はすべて、電解スタックの故障を招く可能性があるため、炭素形成を避ける必要がある。さらに、一旦発生すると、炭素形成による損傷は不可逆的であるように思われ、それ故、炭素形成の防止は、セルおよびスタックの長寿命を達成するために重要である。
【0018】
Boudouard反応による炭素形成の可能性は、熱力学によって支配される。本質的に、CO/CO2比が高ければ高いほど、絶対圧が高ければ高い程、そして運転温度が低ければ低い程、炭素形成の可能性はより高くなる。例えば、1気圧において、CO/CO2の平衡モル比(これより上では、炭素の形成が熱力学的に好ましく、そして、これより下では、それは熱力学的に不利である)は、800℃で89:11、700℃で63:37、600℃で28:72である。換言すれば、Boudouard反応は、750℃以下の燃料の入口温度で運転される電解スタックで達成され得る最大転化率を著しく制限し得る。このようなスタックが熱中性電圧を下回って稼働させると、吸熱性のCO2還元反応によってスタックはさらに冷却されて、スタックの中央部および燃料の出口付近の局所的な温度がさらに低くなってしまう。
【0019】
この分野における共通する理解は、固体酸化物形セルはできるだけ低い面積比抵抗(ASR)を有するべきであるということである。したがって、すべての燃料電池および燃料電池スタック製造業者は、セルおよびスタックのASRを減少させるべく努力している。
【0020】
しかしながら、本発明の基礎の一部を形成する検索結果によれば、セルのASRの問題はより複雑である。なぜなら、電気分解は吸熱プロセスであり、反応を実行している電極は強力なヒートシンクとして機能するからである。電流がセルおよびスタック構成要素を通過する際に発生する熱によってこのプロセスに熱を提供するいくつかの方法-例えば、炉を使用することにより、ガスがスタックに到達する前にそのガスを加熱することにより、そして、重要なことには、オーム加熱により-がある。セル内のオーム加熱の大きさは、セル内の電解質の電気抵抗に正比例し、-抵抗が高ければ高い程、より多くの熱が発生する。
【0021】
驚くべきことに、そして意外にも、我々は、高温ではBoudouardの炭素形成の危険性が低いことから、CO2の電気分解においてセル(またはスタック)を稼働させるときに、高い電解質抵抗を有するセルが特に有益であることを発見した。スタックを全体的により高い温度に曝すことなく必要な場所に熱を正しく供給することが、スタックの寿命を長くするのに役立つ。それと同時に、他のすべてのセルの構成要素のASRを低下させること、電気化学的プロセスに関連する抵抗、並びに空気側および燃料側の両方のセル層のオーミック面内抵抗が依然として関連する。
【0022】
電解質の抵抗を増加させる(それをより厚くし、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)中のY2O3含有量を減少させるなど)いくつかの方法があるが、いくつかの方法は他に比べてより優れていてより簡単である。本発明者等は、二層YSZドープセリア電解質の焼結温度を上げることがASRを増加させる最も簡単な方法であることを見出した。最近のスタック試験およびモデル化の結果は、これが電解中のスタック内の温度電流分布を改善することを示している。
【0023】
単相電解質層のオーム抵抗は、一般に、前記層の厚さに比例して直線的に増加するため、層の厚さを増加させることは、電解質のASRを増加させる方法である。しかし、電池の機械的強度が電解質由来でないセル、すなわち、カソードまたはアノード支持セル、電解質の厚さを増加させると、典型的には、セルのキャンバー(曲げ)が増加する結果を招く。キャンバーは、カソード支持セル中のカソードと電解質との間、または、アノード支持セル中のアノードと電解質との間の熱膨張係数の差による内部応力の蓄積の結果である。電解質が厚ければ厚い程、応力はより大きくなり、そしてキャンバーはより深刻になる。増加した電解質厚さを有するセルと比較した本発明の利点は、電解質の厚さを増加させることなく高いASRを達成することができるという点であり、それ故、キャンバーが増大しない。
【0024】
より共通して使用されている電解質材料のいくつかのイオン伝導率は、該文献中に見出すことができる。例えば、温度の関数としての8YSZ(8mol%Y2O3安定化ZrO2)の酸素イオン伝導度は、
logσ=-4.418*(1000/T)+2.805,700K≦T≦1200K
で与えられる(V.V. Kharton et al., Solid State Ionics, 174 (2004) 135(非特許文献1))。それ故、25μmの8YSZ電解質の面積比抵抗は、空気中700℃で0.14Ωcm2である。
【0025】
温度の関数としての10ScSZ(10mol%Sc2O3-安定化ZrO2)の酸素イオン伝導率は、
logσ=-6.183*(1000/T)+3.365,573K≦T≦773K
で与えられる(J.H. Joo et al., Solid State Ionics, 179 (2008) 1209(非特許文献2))。それ故、25μmの10ScSZ電解質の面積比抵抗は、空気中700℃で0.03Ωcm2である。
【0026】
温度の関数としてのCGO10(10モル%Gd2O3ドープCeO2)の酸素イオン伝導率は、
logσ=-2.747*(1000/T)+1.561,673K≦T≦973K
で与えられる(A. Atkinson et al., Journal of The Electrochemical Society, 151 (2004) E186(非特許文献3))。それ故、空気中700℃で25μmのCGO10電解質の面積比抵抗は0.05Ωcm2である。
【0027】
上記に基づいて、純粋な8YSZ、10ScSZまたはCGO10、またはこれらの組み合わせが電解質として使用される場合、厚さ25ミクロンの厚さの層において700℃以上で0.20Ωcm2の電解質ASRを得ることは不可能であることは明らかである。
【0028】
しかしながら、YSZやScSZなどのジルコニアベースの電解質材料の組み合わせを、CGOなどのセリアベースの電解質材料と、十分に長い時間の間、十分に高い温度で密着させると、材料が相互拡散し始めて、著しく低い酸素イオン伝導度を有する固溶体を形成する。例えば、V. Ruehrup et al. (Z. Naturforsch. 61b, 916 - 922 (2006))は、広い範囲の可能なYSZ-CGO固溶体、すなわち、(Ce1-xZrx)0.8Gd0.2O1.9(式中、0≦x≦0.9)のイオン伝導度の温度依存性を提供している。これらの固溶体のイオン伝導率は、一般に、純粋な相の伝導率よりもかなり低い。残念ながら、この文献では600℃までのイオン伝導率データしか提供されていない。しかし、log(σ*T)対1/Tデータは優れた線形傾向に従うので、データは700℃に外挿することができる。外挿された値によると、(Ce0.5Zr0.5)0.8Gd0.2O1.9のイオン伝導率は700℃で0.0011S/cmであり、すなわち、純粋な8YSZよりも16倍超も低く、かつ、純粋なCGO10よりもほぼ約50倍低い。したがって、純粋な(Ce0.5Zr0.5)0.8Gd0.2O1.9からなる25ミクロンの電解質のASRは2.27Ωcm2と推定される。この材料からなる400nmの層は、700℃で0.036Ωcm2のASRを有する。
【0029】
米国特許出願第2015368818号明細書(特許文献2)は、SOECスタックに直接組み込まれた固体酸化物形電解システムのための一体型ヒータを記載している。それは、電解プロセスとは独立して稼働して、スタックを加熱することができる。
【0030】
米国特許出願20100200422号明細書(特許文献3)は、複数の基本的な電解セルのスタックを含み、各セルがカソード、アノード、およびカソードとアノードとの間に設けられた電解質を含む電解槽を記載している。基本的なセルの各アノードと後続の基本的なセルのカソードとの間に相互接続プレートが介在し、該相互接続プレートはアノードおよびカソードに電気的に接触している。気体の流体(pneumatic fluid)をカソードに接触させ、そして、電解槽は、電解槽内の気体の流体の循環を確実にして、該気体がカソードと接触する前にそれを加熱するための機構をさらに含む。したがって、米国特許出願第20100200422号明細書(特許文献3)は、熱がSOECスタックから除去されなければならない状況を記載しているが、本発明は反対の状況に関する。これは、熱交換器(冷却)機能がセルの間に埋め込まれている発明を記載している。米国特許出願第20100200422号明細書(特許文献3)は、スタックの外側に配置されているが、スタックおよびヒータの高温領域を減少させるためにスタック機構内に配置された追加のヒータブロックに関する。
【0031】
欧州特許第1602141号明細書(当業者許文献4)は、モジュール式に構築された高温燃料電池システムに関し、該システムにおいて、付加的な構成要素は、高温燃料電池スタック内に有利かつ直接的に配置される。構成要素の幾何学形状はスタックに整合されている。これにより、追加の配管加工がもはや不要であり、構築方法のスタイルは非常に小型であるため、構成要素をスタックに直接接続することにより、熱をより効率的に使用することができる。しかしながら、欧州特許第1602141号明細書(特許文献4)は、SOECの技術分野およびSOECに関連する特定の問題にはない。特に、SOECから独立したプロセスであり、スタック運転温度に近いかまたはそれより高い温度で運転され、加熱ユニットを用いて、運転中にセルスタックを連続的かつ能動的に加熱する必要性は開示されていない。
【0032】
米国特許出願第2002098401号明細書(特許文献5)は、炭素の堆積を伴わずにより低い温度でより大きな電力密度を生成するための、固体酸化物形燃料電池における炭化水素の直接電気化学的酸化を記載している。得られる性能は、水素に使用される燃料電池の性能に匹敵し、新規のアノード複合材を低い運転温度で使用することによって達成される。このような固体酸化物形燃料電池は、燃料供給源または操作にかかわらず、米国特許出願第2002098401号明細書(特許文献5)の構造的形状を有利に使用して構成することができる米国特許出願第2002098401号明細書(特許文献5)の直列接続された設計または構成は、有意な損失なしに各セルを横切って電流を輸送するのに十分に低いシート抵抗Rsを有する電極を含むことができる。各電極のオーム損失が、スタック抵抗の<~10%であることを要求することによって、電極から目標とする面積比抵抗(ASR)寄与分<0.05Ocm2が得られ、そして、0.5 Ocm2セルのASR(電解質のオーム損失および電極分極抵抗)が仮定されている。電極抵抗の標準式ASR=RsL2/2(式中、Lは0.1cmの電極幅である。)を用いて、Rs<~10
O/平方が得られる。上記の数値が与えられると、アレイの最大出力密度は、活性セル面積に基づいて計算して~0.5W/cm2になる。Lを0.2cmに増加させることにより、所望のRsが<~2.5O/平方に減少することに留意されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【文献】欧州特許第1984972B1号明細書
【文献】米国特許出願第2015368818号明細書
【文献】米国特許出願20100200422号明細書
【文献】欧州特許第1602141号明細書
【文献】米国特許出願第2002098401号明細書
【非特許文献】
【0034】
【文献】V.V. Kharton et al., Solid State Ionics, 174 (2004) 135
【文献】J.H. Joo et al., Solid State Ionics, 179 (2008) 1209
【文献】A. Atkinson et al., Journal of The Electrochemical Society, 151 (2004) E186
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
上記の参照文献に記載された公知の解決策にもかかわらず、SOECシステムのためのよりエネルギー効率が良い上に経済的な加熱システムが必要とされている。この問題は、請求項の実施形態による本発明によって解決される。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明の一実施形態によれば、固体酸化物形電解システムは、燃料電池および電解セルからの当該技術分野において知られている平坦な固体酸化物形電解セルスタックを含む。スタックは、複数の固体酸化物形電解セルを含み、各セルは、酸化電極の層、還元電極の層および電解質の層を含む。電解質は、第1の電解質層、第2の電解質層、および第1の電解質層および第2の電解質層の相互拡散によって形成された層を含む。電解質は、700℃で測定された電解質の面積比抵抗が0.2Ωcm2よりも高いという点で、電解質モード、特にCOの生成のためのCO2の電解に適合されており、そして、電解質の総厚さは25μm未満である。すなわち、高抵抗であるが、同時に、当分野でよく知られている電解質と比較して薄い電解質である。より具体的には、電解質の厚さは、強度、セルスタックの全体積およびオーム抵抗に関して最適な性能を有するために、5μm~25μm、好ましくは10μm~20μmであり得る。
【0037】
本発明のさらなる実施形態では、電解質の第1の層は、主に安定化ジルコニアからなる。ジルコニアは、酸化イットリウムの添加により、より広い温度範囲で二酸化ジルコニウムの結晶構造が安定化されたセラミックである。これらの酸化物は、一般に「ジルコニア」(ZrO2)および「イットリア」(Y2O3)と呼ばれている。電解質の第2の層は、主としてドープされたセリア(例えば、ガドリアドープセリア)から構成され、そして、第1層と第2層との間の第3層は相互拡散層であり、第1層と第2層との相互拡散によって形成される。
【0038】
本発明の一実施形態では、相互拡散層は少なくとも300nmである。さらに、本発明の実施形態では、合計で電解質の面積比抵抗の少なくとも65%が相互拡散層から生じる。
【0039】
本発明のさらに別の実施形態では、相互拡散層は、1250℃を超える温度、好ましくは1350℃未満の温度で電解質層を焼結することによって製造される。層を焼結することは、液状化の点まで、溶融させることなく、熱および圧力によって材料の固体の塊を圧縮し形成することによって行われる。
【0040】
本発明のさらなる実施形態では、酸化電極は、大気中において700℃で測定した場合に、30S/cmより高い、好ましくは50S/cmより高い面内導電率を有する。一実施形態では、酸化電極は二つまたは三つ以上の層を含む。
【0041】
本発明のさらなる別の実施形態では、固体酸化物形電解システムの運転温度は650℃~900℃の範囲内であり、還元電極で生じる反応はCO2のCOへの電気化学的還元を含む。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図1】
図1は、-50 Aおよび-85 Aの電解電流値に対応するスタック内部温度プロファイルを示す。
【
図2】
図2は、入口温度、出口温度、最大温度、および最小温度ならびに関連する温度差を要約して示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
実施例
【0044】
実施例1(比較例)
実施例は、75個のセルおよび76個の金属相互接続プレートを含む平坦な固体酸化物形電解セルスタックの性能を示す。セルは、8YSZの第1の電解質の層、CGOの第2の電解質の層、および第1の電解質層および第2の電解質層の相互拡散により形成される層を含む、LSCF/CGOベースの第1の酸化電極、LSMベースの第2の酸化電極、Ni/YSZ還元電極、Ni/YSZ支持体および電解質を含む。
【0045】
8YSZ電解質の層の厚さは約10ミクロンであり、そして、CGO電解質の層の厚さは約4ミクロンであった。該二層型の電解質の焼結温度は1250℃であり、走査型電子顕微鏡検査に基づいて、厚さが約300nmの相互拡散層が得られる。セルは12cm×12cmの大きさであった。相互接続プレートは、Crofer22ステンレス鋼製であった。
【0046】
スタックに使用されたセルは、空気がカソードに供給され、加湿されたH2がアノードに供給される炉内の燃料電池モードでの単一セル試験装置で試験された。0.3125A/cm2の一定電流密度でのこのような電池の総ASRは、750℃で0.372Ωcm2であり、720℃で0.438Ωcm2であると推定された。
【0047】
上述のスタックを、セルの空気側に供給される空気およびセルの燃料側に供給されるCO
2混合物中の5%H
2を用いてCO
2電気分解モードで試験した。スタックは、並流モードで750℃の一定温度に保持された炉内で操作された。電解電流は0から-85Aまで変化させた。得られた温度プロファイルは、スタックの入口(「0cm」)からスタックの出口(「12cm」)まで流れ方向に沿って配置された内部熱電対を使用して記録した。-50 Aおよび-85 Aの電解電流値に対応するスタック内部温度プロファイルを
図1に示す。入口温度、出口温度、最大温度、および最小温度ならびに関連する温度差を
図2に要約する。
実施例2
実施例は、同様に、75個のセルおよび76個の金属の相互接続プレートを含む、別の平坦な固体酸化物形電解セルスタックの性能を示す。二層型電解質の焼結温度が1300℃であることを除いて、他の点ではセルは実施例1のセルと同一であり、走査型電子顕微鏡検査に基づいて、厚さ約360nmの相互拡散層が得られる。相互接続プレートは実施例1のものと同一であった。
【0048】
スタックに使用されたセルは、空気がカソードに供給され、加湿されたH2がアノードに供給される炉内の燃料電池モードでの単一セル試験装置で試験された。このようなセルの、0.3125A/cm2における定電流密度での全ASRは、750℃で0.446Ωcm2であり、そして、720℃で0.515Ωcm2であると推定された。
【0049】
スタックを実施例1と同じ条件下で試験した。得られた温度プロファイルは、スタックの入口(「0cm」)からスタックの出口(「12cm」)まで流れの方向に沿って配置された内部熱電対を使用して記録した。-50Aおよび-85Aの電解電流値に対応するスタックの内部温度プロファイルを
図1に示す。入口温度、出口温度、最大温度、および最小温度ならびに関連する温度差を
図2に要約する。
【0050】
入口温度-出口温度の差および最大温度-最小温度の差は、-50Aおよび-85Aであり、いずれも実施例1よりも実施例2のほうが低い。この改善は、実施例1と比較して、電解質のASRが高く、それにより実施例2で使用されたセルの加熱能力が高いことに起因する。
【0051】
本発明は、第1の電解質の材料が、主に、(Y
2
O
3
)
x
(ZrO
2
)
1-x
(式中、0.02≦x≦0.10)であるか、または、(Y
2
O
3
)
y
(L
2
O
3
)
z
(ZrO
2
)
1-y-z
であるか、または、(Sc
2
O
3
)
y
(L
2
O
3
)
z
(ZrO
2
)
1-y-z
(式中、0.0≦y≦0.12、0≦z≦0.06、かつ、Lは、Ce、Gd、Ga、Y、Al、Yb、BiまたはMn)である、燃料電池または固体酸化物電解セルスタックとその製造方法に関し、相互拡散層の厚さが、少なくとも300nm、好ましくは330nm、好ましくは350nmである、燃料電池または固体酸化物電解セルスタックとその製造方法に関し、空気中において700℃で測定した酸化電極の面内導電率が、30S/cmより高く、好ましくは50S/cmより高い、燃料電池または固体酸化物電解セルスタックとその製造方法に関する。