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特許7071302被験者の呼吸モニタリングのためのシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-18
(54)【発明の名称】被験者の呼吸モニタリングのためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20220511BHJP
   A61B 5/0531 20210101ALI20220511BHJP
【FI】
A61B5/08 ZDM
A61B5/0531
【請求項の数】 14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019014547
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2019146960
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】18155993.1
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508223789
【氏名又は名称】スティヒティング・イメック・ネーデルラント
【氏名又は名称原語表記】Stichting IMEC Nederland
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ウィレメイン・フルーネンダール
(72)【発明者】
【氏名】ルーベン・デ・フランシスコ・マルティン
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-183980(JP,A)
【文献】特開2016-179187(JP,A)
【文献】国際公開第2004/112606(WO,A1)
【文献】HOUTVEEN Jan H. et al.,Validation of the thoracic impedance derived respiratory signal using multilevel analysis,International Journal of Psychophysiology,ELSEVIER,2006年02月,Vol. 59, no. 2,97-106
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08-5/097、5/05-5/0538、5/24-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の呼吸モニタリングのためのシステム(100)であって、
前記被験者に関連する配置のために構成され、生体インピーダンス信号を取得する生体インピーダンス計測センサ(110)と、
前記被験者に関連する配置のために構成され、前記被験者の呼吸努力又は前記被験者の呼吸気流を示す基準信号を取得する基準計測センサ(130)と、
前記取得された生体インピーダンス信号を受信し、基準信号を受信するように構成された処理ユニット(120)とを備え、
前記基準信号は、前記生体インピーダンス信号の取得の時点における前記被験者の呼吸努力又は呼吸気流を表現し、
前記処理ユニット(120)は、前記受信した生体インピーダンス信号及び前記受信した基準信号に基づいて、前記生体インピーダンス信号を、前記被験者の呼吸努力を示す努力成分及び前記被験者の呼吸気流を示す気流成分に分解するようにさらに構成される、
システム(100)。
【請求項2】
前記基準計測センサ(130)は、前記被験者の呼吸努力を示す基準信号を取得するように構成された、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記処理ユニット(120)は、前記被験者の前記呼吸努力を示す前記取得された基準信号を受信するように構成され、
前記処理ユニット(120)は、前記取得された生体インピーダンス信号及び前記取得された基準信号に基づいて前記努力成分の推定値を決定し、かつ前記決定された努力成分の推定値及び前記取得された生体インピーダンス信号に基づいて、前記気流成分の推定値を決定するように構成された、
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記基準計測センサ(130)は、前記被験者の呼吸気流を示す基準信号を取得するように構成された、
請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記処理ユニット(120)は、前記被験者の前記呼吸気流を示す前記取得された基準信号を受信するように構成され、
前記処理ユニット(120)は、前記取得された生体インピーダンス信号及び前記取得された基準信号に基づいて前記気流成分の推定値を決定し、かつ決定された前記気流成分の推定値及び前記取得された生体インピーダンス信号に基づいて、前記努力成分の推定値を決定するように構成された、
請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記基準信号は第1の基準信号であり、
前記処理ユニット(120)は、前記被験者の呼吸努力を示すか又は前記被験者の呼吸気流を示す第2の基準信号を受信するようにさらに構成された、
請求項1~5のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項7】
前記処理ユニット(120)は、異常な呼吸を示す呼吸イベント信号を受信するようにさらに構成され、
前記処理ユニット(120)は、さらに前記呼吸イベント信号に基づいて、前記生体インピーダンス信号を前記努力成分及び前記気流成分に分解する、
請求項1~6のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項8】
前記処理ユニット(120)は、前記生体インピーダンス信号にブラインド信号源分離アルゴリズムを適用して、前記生体インピーダンス信号を前記努力成分及び前記気流成分に分解するように構成された、
請求項1~7のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項9】
前記処理ユニット(120)は、適応フィルタを用いて、前記生体インピーダンス信号を前記努力成分及び前記気流成分に分解するように構成された、
請求項1~7のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項10】
前記処理ユニット(120)は、前記生体インピーダンス信号を前記努力成分及び前記気流成分に分解する前に、前記生体インピーダンス信号を前処理するように構成された、
請求項1~9のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項11】
前記生体インピーダンス計測センサ(110)は、前記被験者の胸郭領域に配置されて構成された搬送体上に配置される、
請求項1~10のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項12】
前記生体インピーダンス計測センサ(110)は、少なくとも2つ又は少なくとも4つの電極を備え、生体インピーダンスの2極又は4極計測のために構成された、
請求項1~11のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項13】
処理装置により実行される、被験者の呼吸モニタリングのための方法であって、
前記被験者の生体インピーダンスを示す取得された生体インピーダンス信号を受信するステップと、
前記被験者の呼吸努力を示すか、又は前記被験者の呼吸気流を示す、取得された基準信号を受信するステップであって、前記生体インピーダンス信号及び前記基準信号は同時に取得されかつ前記基準信号は基準計測センサによって取得されるステップと、
前記受信した生体インピーダンス信号と、前記受信した基準信号とに基づいて、前記生体インピーダンス信号を、前記被験者の呼吸努力を示す努力成分及び前記被験者の呼吸気流を示す気流成分に分解するステップとを含む、
方法。
【請求項14】
コンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品であって、
前記コンピュータ可読媒体は、処理ユニット上で実行されるときに前記処理ユニットに請求項13に記載の方法を実行させるように、コンピュータ可読な命令を格納する、
コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の要旨は、被験者の呼吸モニタリングのためのシステム及び方法に関する。特に、本発明の要旨は、生体インピーダンス信号に基づく呼吸モニタリングに関する。
【背景技術】
【0002】
生体インピーダンス信号は、被験者の健康状態のモニタリングへの使用のために注目を集めている。生体インピーダンス信号は、例えば被験者の呼吸により変調され、従って生体インピーダンス信号は被験者の呼吸モニタリングのために用いられ得る。これは例えば睡眠モニタリングに用いられることができる。
【0003】
生体インピーダンスの計測は、比較的シンプルな設備で実行することができるため、生体インピーダンスの計測が行われている被験者への不便は、最低限に、又は少なくとも低くなる。従って、生体インピーダンスの計測は、特に健康状態及び/又は条件の長期モニタリング、及び/又は家庭環境(病院の設備の外の)モニタリングの興味深い選択肢の1つである。
【0004】
国際公開第2004/112606号は、生体インピーダンスの計測結果を用いて睡眠時無呼吸を検出するための方法を開示している。方法は、予め決められた期間にわたって、患者から頭蓋経由の生体インピーダンス信号を得るための電極のセットを患者に取り付けるステップと、当該期間にわたって患者の呼吸イベントについての情報を提供するために頭蓋経由の生体インピーダンス信号を計測するステップと、呼吸信号を推定するための手段及び睡眠時無呼吸の存在を検出するために得られた呼吸イベントの推定結果を用いて呼吸信号を推定するステップとを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、生体インピーダンス計測に基づいて、呼吸のより広い情報を得ることが望まれる。
【0006】
本発明概念の課題は、生体インピーダンス信号を用いた呼吸モニタリングを改善することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明概念の上記及びそれ以外の課題が、独立請求項において画定される発明により、少なくとも部分的に達成される。
【0008】
第1の態様によれば、被験者の呼吸モニタリングのためのシステムが提供される。当該システムは、被験者と関連する配置のために構成され、生体インピーダンス信号を取得する生体インピーダンス計測センサと、取得された生体インピーダンス信号を受信し、基準信号を受信するように構成された処理ユニットを備え、当該基準信号は生体インピーダンス信号の取得時点における被験者の呼吸努力又は呼吸気流を示し、当該処理ユニットは受信した生体インピーダンス信号及び受信した基準信号に基づいて、生体インピーダンス信号を、被験者の呼吸努力を示す努力成分と被験者の呼吸気流を示す気流成分とに分解するようにさらに構成される。
【0009】
システムは、呼吸努力を示す努力成分と呼吸気流を示す気流成分の両方を含む生体インピーダンス信号を取得するように構成される。しかしながら、被験者の呼吸をよりよく分析するためには、システムの処置ユニットは取得された生体インピーダンス信号と基準信号の両方を受信するように構成される。従って処理ユニットは生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分解してよく、これにより、取得された生体インピーダンス信号は呼吸努力の表示値及び呼吸気流の表示値の両方を提供し得る。
【0010】
処理ユニットは、例えば各成分のさらなる分析を可能にし、又は努力成分及び気流成分を表示するのを可能にするために、努力成分及び気流成分を出力してよい。これにより、例えば成分の自動的な分析、又は表示された成分の手動的な分析による、被験者の呼吸のより詳細な分析が可能となる。
【0011】
生体インピーダンス計測が被験者の胸郭に配置された電極に基づいて行われる時、胸部の拡張が電極間の現在のパスの変化を引き起こし、これにより生体インピーダンスは呼吸努力に関連して変化する。また、空気は組織と異なるインピーダンスを有する。呼吸サイクルを通して肺中の空気量は変化するため、生体インピーダンスは呼吸気流に関連しても変化する。従って、生体インピーダンス計測センサは、呼吸努力及び呼吸気流の両方の情報を含む生体インピーダンスの取得を可能にするために、被験者の胸郭上に配置されて構成されてもよい。
【0012】
生体インピーダンス計測センサは、被験者上の配置のために構成されてよく、生体インピーダンス計測センサは被験者の表皮との直接接触のために構成されてもよい。
【0013】
しかしながら、生体インピーダンス計測センサは代替的に、被験者に関連する配置のために構成され、例えば生体インピーダンス計測センサ及び被験者との間の静電容量結合を用いて、生体インピーダンス信号を非接触的に取得できるようにされてもよい。例えば、生体インピーダンス計測センサは、ベッドの例えばマットレスに埋め込まれ、ベッドに横たわる被験者の生体インピーダンス信号を取得するように構成されてよい。同様に、生体インピーダンス計測センサは、椅子又はシートの内部に、又は被験者が着用する衣服に埋め込まれていてよい。
【0014】
呼吸努力及び呼吸気流の表現は、被験者の呼吸動作の分析に用いられ得る。さらに、呼吸努力及び呼吸気流の表現は、呼吸イベントの検出、及び呼吸イベント同士の区別のために用いられ得る。例えば、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、中枢性睡眠時無呼吸(CSA)、閉塞性低呼吸、及び中枢性低呼吸のうちの2つ以上の間で区別が行われ得る。
【0015】
処理ユニットは、取得された生体インピーダンス信号及び基準信号をリアルタイムに受信し、処理ユニットが信号を処理して努力成分及び気流成分をリアルタイムで出力するようにしてもよい。
【0016】
しかしながら、本代替例によれば、処理ユニットは生体インピーダンス信号の処理を、生体インピーダンス信号及び基準信号の取得に関連してどのタイミングで行ってもよい。例えば、生体インピーダンス信号及び基準信号は、例えば被験者の夜間睡眠時の間のような特定の期間に、取得及び収集されてよい。その後、期間全体の信号は処理ユニットに提供され、処理ユニットは生体インピーダンス信号を基準信号と同期させた後、信号を処理して努力成分及び気流成分を出力する。処理ユニットは、例えば「クラウド上の」処理を採用する等、どのような場所に配置されてもよい。
【0017】
生体インピーダンス信号(及び基準信号)は、信号の順序的な部分へと分離され得る。各部分は、生体インピーダンス信号を努力成分と気流成分に分解するために、個別に処理され得る。しかしながら、生体インピーダンス信号を分解するために直前の部分からの情報が用いられてもよい。信号の順序的な部分への分離は、例えば被験者の姿勢の変化のような、信号取得条件の変化に基づくか、又は部分の固定長が用いられてよい。
【0018】
さらなる代替例では、生体インピーダンス信号が取得される期間の全体は同等に扱われる。これは呼吸努力及び呼吸気流の対応する寄与は期間全体を通して一定であるという推定を用いているものである。
【0019】
ある実施形態によれば、システムは被験者の呼吸努力又は被験者の呼吸気流を表現する基準信号を取得するために、被験者に関連する配置に構成された基準計測センサをさらに備える。
【0020】
生体インピーダンス計測センサと同様、基準計測センサは被験者の表面上の配置に構成されてもよいが、代替的に基準計測センサは、基準計測センサが被験者と直接接触することなく基準信号が取得できる限り、被験者に関連する配置に構成され得る。
【0021】
従って、システムは基準信号を取得するための基準計測センサを含み得る。ゆえに、システムは、有線又は無線接続で接続されかつシステム中の異なる部品間で信号を通信できるようにセットアップされた部分の一式として提供されてよい。さらに、もし処理ユニットが信号をリアルタイムに処理するのでなければ、処理ユニットは生体インピーダンス信号及び基準信号を個別に受信してもよい。これによりシステムが要求するセットアップは最低限となる。
【0022】
しかしながら、ユーザがシステムを組み立てて、例えば異なる部品間の信号の通信を提供するために、異なる部品を互いに接続することができるのであれば、システムの複数の部品は異なる供給元から提供されてよいということは認識されるべきである。
【0023】
ある実施形態によれば、基準計測センサは被験者の呼吸努力を表現する基準信号を取得するように構成される。
【0024】
これは基準計測センサが提供し得る情報が、呼吸気流から独立し、主として呼吸努力により呼吸を表現し得ることを暗に示す。
【0025】
呼吸努力を表現する基準信号を取得するように構成された基準計測センサは、呼吸努力の表現を取得するように構成され得る任意のセンサであってよい。例えば、基準計測検査は、食道マノメータ、呼吸インダクタンスプレチスモグラフィ(RIP)ベルト、胸腹ポリフッ化ビニレン(PVDF)ベルト、加速度計、又は筋電計(EMG)センサを含む。
【0026】
呼吸努力を表現する基準信号は代替的に、被験者と直接接触になくとも被験者の胸部の移動を呼吸努力の尺度として計測可能なセンサを用いても取得され得る。例えば、被験者と相互作用するレーダー信号を取得するセンサ、被験者を撮影するカメラ、又は圧力センサが用いられ得る。従って、基準計測センサは、例えば被験者が横たわるベッド/座る椅子に埋め込まれて構成されてよく、又は、基準計測センサはベッド/椅子に関連する所定の位置に搭載されてよい。
【0027】
ある実施形態によれば処理ユニットは、被験者の呼吸努力を表現する取得された基準信号を受信するように構成され、ここで、処理ユニットは取得された生体インピーダンス信号及び取得された基準信号に基づいて努力成分の推定値を決定して、努力成分の決定された推定値及び取得された生体インピーダンス信号に基づいて気流成分の推定値を決定するように構成される。
【0028】
これは処理ユニットが、受信された生体インピーダンス信号における呼吸努力の寄与の推定値として基準信号を用い得ることを暗に示す。基準信号は、生体インピーダンス信号に基づいて呼吸気流の推定値を導いて気流成分とし、基準信号により提供される呼吸努力と同様に呼吸努力の推定値も導いて、努力成分とする。
【0029】
ある実施形態によれば、基準計測センサは、被験者の呼吸気流を表現する基準信号を取得するように構成される。
【0030】
これは基準計測センサが提供し得る情報が、呼吸努力から独立し、主として呼吸気流により呼吸を表現し得ることを暗に示す。
【0031】
呼吸気流を表現する基準信号を取得するように構成された基準計測センサは、呼吸気流の表現を取得するように構成され得る任意のセンサであり得る。例えば基準計測センサは、サーミスタなどの口腔鼻温度センサ、ポリフッ化ビニレンセンサ、又は熱電対、鼻圧トランスデューサ、呼吸気流センサ、又はスピロメータを含む。
【0032】
ある実施形態によれば、処理ユニットは被験者の呼吸気流を表現する取得された基準信号を受信するように構成され、ここで、処理ユニットは、取得された生体インピーダンス信号及び取得された基準信号に基づいて気流成分の推定値を決定し、かつ気流成分の決定された推定値及び取得された生体インピーダンス信号に基づいて努力成分の推定値を決定するように構成される。
【0033】
これは処理ユニットが基準信号を、受信された生体インピーダンス信号の呼吸気流の寄与の推定値として用い得ることを暗に示す。基準信号は、生体インピーダンス信号に基づいて呼吸努力の推定値を導いて努力成分とし、基準信号により提供される呼吸気流と同様に呼吸気流の推定値も導いて、気流成分とする。
【0034】
ある実施形態では、上述の基準信号は第1基準信号であり、ここで、処理ユニットは第2基準信号を受信するようにさらに構成され、第2基準信号は被験者の呼吸努力を表現するか、又は被験者の呼吸気流を表現する。
【0035】
これは処理ユニットが、例えば2つ以上の基準信号のような複数の基準信号を受信するように構成され得ることを暗に示す。
【0036】
基準信号は全て同種の呼吸情報に関連してよい。ゆえに、基準信号は全て呼吸努力を表現してよいし、又は全て呼吸気流を表現してもよい。しかしながら、第1基準信号は呼吸努力を表現し、一方で第2基準信号が呼吸気流を表現してもよい。
【0037】
処理ユニットは、生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分解するために、呼吸努力及び/又は呼吸気流の1つ以上の表現を、生体インピーダンス信号と組み合わせて用いることができる。もし呼吸努力及び呼吸気流の両方を表現する基準信号が利用可能であるならば、各基準信号は努力成分及び気流成分を決定するために、生体インピーダンス信号に関連して重み付けされてよい。例えば、もし呼吸努力及び呼吸気流を表現する基準信号が、努力及び気流の両方の寄与を有する生体インピーダンス信号と一致しない場合、努力成分及び気流成分を形成するために各信号の精度が考慮される。
【0038】
呼吸努力を表現する基準信号は、生体インピーダンス信号の処理に用いられ得る、呼吸努力を表現する単一の信号を形成するために組み合わせられてよい。単一の信号の形成は、例えば基準信号の(重み付き)平均を取る関数を基準信号に適用するか、又は、基準信号の中から例えば最も高い信頼度/精度を有する1つを選択することにより実現される。
【0039】
同様に、呼吸気流を表現する基準信号は、生体インピーダンス信号の処理に用いられ得る、呼吸気流を表現する単一の信号を形成するために組み合わせられてよい。単一の信号の形成は、例えば基準信号の(重み付き)平均を取る関数を基準信号に適用するか、又は、基準信号の中から例えば最も高い信頼度/精度を有する1つを選択することにより実現される。
【0040】
ある実施形態によれば、処理ユニットは、呼吸イベント信号を受信するようにさらに構成される。呼吸イベント信号は異常な呼吸を示し、ここで、処理ユニットは、生体インピーダンス信号を努力成分と気流成分とに、呼吸イベント信号にさらに基づいて分解するように構成される。
【0041】
呼吸イベントは、異常を来している呼吸気流か、呼吸気流及び呼吸努力と関係づけられる。従って、呼吸イベントの発生の知識は、生体インピーダンス信号における努力成分及び/又は気流成分の寄与の結論を引き出すために用いられ得る。これは、呼吸イベントの発生期間の間、生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分解するための簡単化されたアルゴリズムが用いられ得ることを暗に示す。
【0042】
本明細書で用いられるに際し、呼吸イベントは、呼吸の休止(無呼吸)又は異常に狭い呼吸(低呼吸)を指す。呼吸イベントは、呼吸気流の減少又は終止に起因し、それは呼吸努力の減少又は休止と関係づけられていても、又はそうでなくてもよい。
【0043】
呼吸イベント信号は呼吸イベントが発生していることの指標を提供する。加えて、呼吸イベント信号は呼吸イベントの種類の指標を提供しても、そうしなくてもよい。
【0044】
呼吸イベント信号は、1つ以上の生体インピーダンス信号及び/又は基準信号の処理結果に基づいて提供され得る。ゆえに、基準信号と組み合わせられた生体インピーダンス信号が、例えば呼吸イベント検出ユニットにより、呼吸イベントの発生を検出するために処理されてよい。検出された発生は呼吸イベント信号の形で処理ユニットへと送信され得る。処理ユニットは、生体インピーダンスが努力成分及び気流成分に分解されるときにこの情報を用いる。代替的に、呼吸イベントの発生を検出するために基準信号が処理されてもよい。
【0045】
さらに別の代替例によれば、処理ユニットは、被験者に行われるさらなる計測の結果に基づいて呼吸イベントを検出するように構成され得る個別のユニットから、呼吸イベント信号を受信してよい。実際、呼吸イベント信号は、被験者の呼吸のモニタリング中における呼吸イベントの、例えば看護士による手動アノテーションを通じて提供さえされ得る。
【0046】
ある実施形態によれば、処理ユニットは、生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分解するために、ブラインド信号源分離アルゴリズムを生体インピーダンス信号に適用するように構成される。
【0047】
これは、生体インピーダンス信号中の呼吸努力及び呼吸気流の混合が、ロバストな手法で努力成分及び気流成分へと分離され得ることを暗に示す。ブラインド信号源分離アルゴリズムは、生体インピーダンス信号中に潜む努力成分及び気流成分を推定するための既知の変数として、基準信号を用い得る。
【0048】
ブラインド信号源分離アルゴリズムは、信号を表現するために線形モデルを用いてよい。しかしながら、ブラインド信号源分離アルゴリズムは、代替的に、努力成分及び気流成分のより正確な推定を可能にする非線形モデルを用いてもよい。
【0049】
別の実施形態によれば、処理ユニットは、生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分解するために適応フィルタを用いるように構成される。
【0050】
適応フィルタの使用は、ブラインド信号源分離の使用と比較して複雑度が低い処理を可能にし得る。しかしながら、ブラインド信号源分離アルゴリズムは、努力成分及び気流成分のより正確な分離を提供することが可能であり得る。
【0051】
適応フィルタは例えばウィナーフィルタ又はカルマンフィルタを用いることができる。
【0052】
ある実施形態によれば、処理ユニットは生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分解する前に、生体インピーダンス信号を前処理するように構成される。
【0053】
生体インピーダンス信号の前処理は、例えばノイズ除去及び/又は生体インピーダンス信号における心臓活動の寄与を除去するために、生体インピーダンス信号をフィルタにかけるように構成されてよい。
【0054】
生体インピーダンス信号の前処理は、追加又は代替的に、生体インピーダンス信号のデータクリーニング、再サンプリング、シフトのうち1つ以上を実行するように構成され得る。
【0055】
処理ユニットは、受信した信号の処理を提供するために、1つ以上のプロセススレッドを実行する単一のプロセッサとして提供され得るということは認識されるべきである。しかしながら、処理ユニットは複数の物理ユニットに分配されてもよい。例えば、前処理はあるハウジングに配置されかつ生体インピーダンス計測センサが設置された1プロセッサ上で実行され、当該プロセッサは中央プロセッサに前処理された生体インピーダンス信号を送信し、当該中央プロセッサはさらに基準信号を受信して、生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分解するように構成され得る。
【0056】
ある実施形態によれば、生体インピーダンス計測センサは、被験者の胸郭領域に配置されて構成された搬送体上に配置されてよい。
【0057】
搬送体は例えば、接着パッチ、被験者により着用される繊維/衣服、又はベルトを含んでよく、被験者の胴体のまわりに取り付けられるように構成され得る。
【0058】
特に接着パッチは、被験者の胸郭領域において生体インピーダンス計測センサの堅固かつよく制御された設置を可能にし得る。
【0059】
処理ユニットは、生体インピーダンス計測センサとともに搬送体上に配置されてよい。従って処理ユニットは、生体インピーダンス信号を生体インピーダンス計測センサから直接受信するように構成され得る。
【0060】
基準計測センサも、搬送体上に配置されてよい。これは例えば、基準計測センサは呼吸努力を示す基準信号を取得するように構成される場合に有用で、結果として基準信号は胸郭領域の位置から有利に取得され得る。
【0061】
しかしながら、処理ユニットは代替的に、被験者が着用しているとは限らない中央ユニットに配置されてもよい。中央ユニットは、生体インピーダンス信号及び基準信号を受信するために、生体インピーダンス計測センサ及び基準計測センサに有線又は無線で接続されていてよい。
【0062】
従ってシステムは、被験者の異なる体部位に個別に取り付け可能な複数のユニットを含み得る複数のユニットを備えてよい。処理ユニットは上述のように、これらの被験者に取り付けられた複数のユニットのうちの1つか、又は中央ユニットの中に配置され得る。
【0063】
システムは1つ以上の通信ユニットを含み得るということも認識されるべきである。通信ユニットは、例えば遠隔通信ネットワーク又はコンピュータネットワークを通じて、遠隔地に位置し得る処理ユニットに、生体インピーダンス信号及び基準信号を通信する。生体インピーダンス信号及び基準信号は、連続又は個別に処理ユニットに送信されてよい。
【0064】
ある実施形態によれば、生体インピーダンス計測センサは、少なくとも2つ又は少なくとも4つの電極を備え、生体インピーダンスの2極又は4極の計測のために構成されていてよい。
【0065】
2極計測では、刺激信号を提供するために、及び生体インピーダンス信号を取得するために、同じ2つの電極が使用され得る。これは、生体インピーダンス計測センサが少数の電極のみ含み得ることを暗に示す。
【0066】
4極計測では、刺激信号を提供するのに2つの電極が用いられ、生体インピーダンス信号を取得するためには他の2つの電極が用いられる。
【0067】
第2の態様によれば、被験者の睡眠モニタリングのための方法が提供される。方法は、被験者の生体インピーダンスを表現する取得された生体インピーダンス信号を受信するステップと、
被験者の呼吸努力を表現するか又は被験者の呼吸気流を表現する取得された基準信号を受信するステップと、
受信した生体インピーダンス信号及び受信した基準信号に基づいて、生体インピーダンス信号を、被験者の呼吸努力を表現する努力成分及び被験者の呼吸気流を表現する気流成分とに分離するステップとを含み、
生体インピーダンス信号及び基準信号は同時に取得される。
【0068】
この第2の態様の効果及び特徴は、第1の態様に触れて上述したものと大いに類似している。第1の態様に関連して言及された実施形態は、第2の態様とも大いに適合する。
【0069】
被験者から同時に取得された生体インピーダンス信号及び基準信号の受信結果は、被験者の呼吸の包括的な情報を提供するために、生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分離するのに用いられる。
【0070】
第3の態様によれば、コンピュータ可読命令を格納するコンピュータ可読媒体を含むコンピュータプログラム製品が提供される。コンピュータ可読命令が処理ユニットにより実行されると、コンピュータプログラム製品は処理ユニットに、第2の態様に係る方法を実行させる。
【0071】
この第3の態様の効果及び特徴は、第1及び第2の態様に触れて上述したものと大いに類似している。第1及び第2の態様に関連して言及された実施形態は、第3の態様とも大いに適合する。
【0072】
従ってコンピュータプログラム製品は、生体インピーダンス信号から努力成分及び気流成分の両方が提供されて被験者の呼吸の詳細分析が可能となるような呼吸モニタリングの方法を実行するように、処理ユニットを制御することができる。
【0073】
上述に加え、本発明概念の追加の目的、特徴及び利点は、添付の図面を参照しながら、以下の図示的かつ非限定的な詳細説明を通じて、よりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】実施形態に係るシステムの模式図である。
図2】生体インピーダンスを努力成分及び気流成分に分解する、生体インピーダンス信号の処理の模式図である。
図3】生体インピーダンス信号の処理において用いられ得るウィナーフィルタの模式図である。
図4】呼吸イベント信号を受信して、生体インピーダンス信号を処理する処理ユニットの模式図である。
図5】呼吸イベントの発生に基づいて、生体インピーダンス信号を処理する簡単化された処理ユニットの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
図1は、被験者の呼吸モニタリングのためのシステム100を示す。システム100は、被験者に適用される電流信号S1を生成するように構成され、被験者の生体インピーダンスの情報を提供する生体インピーダンス信号S2を計測する生体インピーダンス計測センサ110を備え、生体インピーダンス信号S2は、被験者の呼吸をモニタリングするためにさらに処理され得る。生体インピーダンス信号S2は、基準信号S3とともに、処理ユニット120へと提供されてよい。処理ユニット120は生体インピーダンス信号S2を、努力成分S4及び気流成分S5に分解し得る。
【0076】
図1に示すように、システム100は電流信号挿入モジュール112を備える。電流信号挿入モジュール112は、被験者に適用される電流信号S1を生成して出力するように構成され得る。電流信号挿入モジュール112は、電流信号S1を生成するための電流源を備える。電流信号挿入モジュール112は、交流電流信号を出力するように構成され得る。
【0077】
システム100は、生体インピーダンス計測センサ110をさらに備える。生体インピーダンス計測センサ110は、被験者に適用される電流信号S1により生成される電圧を表現する電圧入力信号を受信するように構成され得る。生体インピーダンス計測センサ110は、受信した電圧入力信号から、計測された生体インピーダンス信号S2を抽出するように構成され得る。
【0078】
生体インピーダンス計測センサ110は、例えば、関連する情報を抽出するために入力信号をフィルタリングすることで、受信した電圧入力信号を処理するように構成され得る。
【0079】
生体インピーダンス計測センサ110は、被験者の皮膚に接触して配置され得る2つ以上の電極114を備えてよい。電極114は、電流信号S1を受信し、被験者の組織を通じて電流信号を提供するために、電流信号挿入モジュール112と接続されてよい。電極114は、生体インピーダンス信号S2を計測するために用いられ得る電圧入力信号を提供する生体インピーダンス計測センサ110にも接続されてよい。
【0080】
電極114は、2極配置に配置されてよい。この場合、被験者に電流信号S1を提供するために、及び電圧入力信号を取得するために、同じ組の電極114が用いられ得る。しかしながら、電極114は代替的に、4極配置に配置されてもよい。この場合、被験者に電流信号S1を提供するために2つの電極が用いられ、電圧入力信号を取得するために他の2つの電極が用いられる。
【0081】
2つ以上(又は4つ)の電極114が提供され、最も高品質の生体インピーダンス信号S2を提供する電極114の組が選択されるように、計測に用いられる電極の選択を可能にし得る。計測に用いられる電極114の選択は、システム100のセットアップ時に実行されるか、又は信号取得の間、例えば生体インピーダンス信号を取得するための条件が変化した時に、動的に変更され得る。
【0082】
電極114を伴う生体インピーダンス計測センサ110は、被験者の胸郭領域に取り付けられるように構成され得る。生体インピーダンス計測センサ110は搬送体116上に配置されてよく、搬送体116は被験者の胸郭領域上に配置されるように構成される。この場合、電極114は搬送体116上に露出するように搭載され、これにより電極114は被験者の皮膚と接触して配置され得る。
【0083】
搬送体116は例えば、粘着パッチ、被験者により着用される繊維/衣服、又はベルトを含んでよく、被験者の胴体のまわりに取り付けられるように構成され得る。
【0084】
被験者の胸郭上に配置された電極114に基づいて生体インピーダンスの計測が行われる時、胸部の拡張が電極114同士の間の電流経路の変化を引き起こし、それにより生体インピーダンスは、呼吸努力に関連して変化する。また、空気も組織とは異なるインピーダンスを有する。呼吸サイクルの間に肺の中にある空気量が変動するに際し、生体インピーダンスは、呼吸気流にも関連して変化する。従って、生体インピーダンス計測センサ110は、呼吸努力及び呼吸気流の両方の情報を担持する生体インピーダンス信号S2の取得のために構成されてよい。
【0085】
処理ユニット120は、生体インピーダンス計測センサ110から生体インピーダンス信号S2を受信するように構成される。処理ユニット120は、基準計測センサ130から基準信号S3を受信するようにさらに構成され得る。
【0086】
基準信号S3は、例えば、呼吸努力又は呼吸気流のいずれかによってのみ影響される信号を取得するために配置又は構成されたセンサを用いることにより、呼吸努力を呼吸気流から独立させるように取得され得る。従って、基準信号S3は呼吸努力又は呼吸気流を表現する。
【0087】
処理ユニット120は、生体インピーダンス信号S2を、呼吸努力を表現する努力成分S4及び呼吸気流を表現する気流成分S5に分解するために、生体インピーダンス信号S2及び基準信号S3を処理するように構成される。
【0088】
処理ユニット120は、ハードウェアとして、又はソフトウェア及びハードウェアの任意の組み合わせとして実装され得る。処理ユニット120は、例えば、一般用途向けコンピュータ上で実行されるソフトウェアとして実装されてよい。従ってシステム100は、例えば中央処理ユニット(CPU)のような1つ以上の物理プロセッサを備え、物理プロセッサは処理ユニット120の機能を実装するために、1つ以上のコンピュータプログラムの命令を実行し得る。従って、システム120は、例えば処理ユニット120内の個別のスレッド等の、複数の機能を提供可能な単一の処理ユニットを備えてよい。
【0089】
処理ユニット120は代替的に、例えば組み込みシステム中のファームウェアとして、又は、例えば特定用途向け集積回路(ASIC)若しくはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)のような、特別に設計された処理ユニットとして、実装され得る。
【0090】
基準計測センサ130は、システム100の一部分であり、かつシステム100と同時に提供されてよい。従ってシステム100は、基準計測センサ130及び処理ユニット120の間の通信のためにセットアップされていてよい。
【0091】
しかしながら、基準計測センサ130は代替的に、例えばシステム100を提供するベンダとは異なるベンダにより、個別に提供されてよい。従ってユーザは、例えば基準計測センサ130と処理部120が配置されたハウジングのポートの間を有線で接続することにより、基準計測センサ130を処理ユニット120に接続すればよい。これにより処理ユニット120及び基準計測センサ130は、互いの通信を自動的にセットアップするためのセットアップメッセージを交換できる。代替的に、基準計測センサ130及び処理ユニット120の間の無線通信を確立し、再度自動的に基準計測センサ130及び処理ユニット120の間の通信を自動的にセットアップすることを可能にするための、探索の手続きを、ユーザが始動させてもよい。
【0092】
さらなる代替例では、基準計測センサ130及び生体インピーダンス計測センサ110は、例えば「クラウド上」に配置された処理ユニット120のような遠隔に配置された処理ユニット120に、基準信号S3及び生体インピーダンス信号S2を個別に通信するように構成されてよい。これらの信号は、例えば被験者の夜間睡眠中に取得された信号のような信号を収集する期間の全体の後に通信されてよい。処理ユニット120はその後、処理の前に信号同士を同期させてよい。
【0093】
呼吸努力を表現する基準信号を取得するように構成された基準計測センサ130は、呼吸努力の表現を取得するように構成され得る任意のセンサでありってよい。例えば、基準計測センサ130は、食道マノメータ、呼吸インダクタンスプレチスモグラフィ(RIP)ベルト、胸腹ポリフッ化ビニレン(PVDF)ベルト、加速度計、又は筋電計(EMG)センサを含む。
【0094】
呼吸気流を表現する基準信号を取得するように構成された基準計測センサは、呼吸気流の表現を取得するように構成され得る任意のセンサであってよい。例えば、基準計測センサは、サーミスタなどの口腔鼻温度センサ、ポリフッ化ビニレンセンサ、又は熱電対、鼻圧トランスデューサ、呼吸気流センサ、又はスピロメータを含む。
【0095】
処理ユニット120は、複数の基準計測センサ130からの基準信号S3を受信するように構成され得る。複数の基準計測センサ130は、呼吸努力を表現する基準信号S3を取得するように構成されたセンサのみを含むか、呼吸気流を表現する基準信号S3を取得するように構成されたセンサのみを含むか、又は、呼吸努力を表現する基準信号S3を取得する呼吸気流を表現する基準信号S3を取得するように構成された1つ以上のセンサを含む。これらの選択肢を図示するために、基準計測センサ130は、図1では点線で示されている。
【0096】
システム100は、1つ以上のハウジングを含み、その中には生体インピーダンス計測センサ110、処理ユニット120、及び基準計測センサ130が配置されてよい。ハウジング同士は、センサと処理ユニット120との間の通信を可能にするために、配線により接続されてよい。代替的に、1つ以上のセンサ110,130及び処理ユニット120は、無線通信のためにセットアップされてよい。従ってシステム100は、使用準備ができた状態で、例えば、互いに通信するように既にセットアップされたシステム100のすべての部品を備える1つのパッケージで、配達されてよい。
【0097】
処理ユニット120は、ハウジング内の搬送体116上に配置されてよい。同じ搬送体116上に、基準計測センサ130も配置され得る。
【0098】
しかしながら、代替的な実施形態において、処理ユニット120は、搬送体116とは別個の中央ハウジング内に配置され得る。中央ハウジングは、努力成分S4及び気流成分S5をさらに処理するためにそれらの成分を受信する外部ユニットに接続するための、出力ポートをさらに備えてよい。代替的又は追加で、中央ハウジングは、努力成分S4及び気流成分S5を外部ユニットと無線通信するための通信ユニットを備えてよい。
【0099】
中央ハウジングは、努力成分S4及び気流成分S5がディスプレイ上に出力されるのを可能にするためのディスプレイと接続されていてもよい。また、ディスプレイ上に基準信号S3が出力されてもよい。これにより、医師、看護師又は他のいかなる人も、例えば呼吸の手動分析のために、被験者の呼吸を表現する信号を手動で検査することができる。
【0100】
図2を参照して、生体インピーダンス信号S2及び1つ又は複数の基準信号S3の処理がさらに説明される。
【0101】
生体インピーダンス信号S2は、まず前処理ユニット200に供給される。前処理ユニット200は、生体インピーダンス信号S2に前処理を適用してもよい。これは例えば、ノイズ除去のために、及び/又は生体インピーダンス信号S2における心不全の寄与を除去するために、生体インピーダンス信号S2をフィルタリングするように構成されていてよい。
【0102】
生体インピーダンス信号S2の前処理は、追加的又は代替的に、生体インピーダンス信号S2に1つ以上のデータクリーニング、サンプリング及びシフトを行うように構成され得る。
【0103】
前処理ユニット200は、呼吸努力及び呼吸気流の合成された表現である、クリーニングされた生体インピーダンス信号S2’を出力してよい。
【0104】
クリーニングされた生体インピーダンス信号S2’は、信号分離器202に提供され得る。信号分離器202は、基準信号S3を受け取ってもよい。基準信号S3は、信号分離器202に受信されるより前に、例えばノイズを除去する前処理の対象となったものであってもよい。
【0105】
信号分離器202は、まず生体インピーダンス信号S2’に変換を適用してもよいし、そうしなくともよい。以下で例示されるように、生体インピーダンス信号S2’の処理は、生体インピーダンス信号S2’に直接実行されてもよいし、生体インピーダンス信号S2’の導関数Z’、又は生体インピーダンスの導関数Z’及び生体インピーダンスの平方Zを用いた変換形(Z’/Z)に実行されてもよい。生体インピーダンス信号S2’の変換が定数K1による乗算及び別の定数K2による加算も含んでよいことは認識すべきである。
【0106】
信号分離器202はその後、基準信号S3からの情報を用いて、変換された可能性がある生体インピーダンス信号S2’を、呼吸努力からの寄与及び呼吸気流からの寄与へと分解するためのアルゴリズムを適用してよい。
【0107】
信号分離器202は、生体インピーダンス信号S2’の分解の後に、さらに処理する可能性があってもよい。信号分離器202はその後、呼吸努力からの寄与を示す努力成分S4と、呼吸気流からの寄与を示す気流成分S5とを出力してよい。
【0108】
呼吸気流の寄与は、オプションで信号変換器204へと提供されてもよい。信号変換器204は、肺容積の推定された寸法を提供するために、気流成分S5を積分して、可能であれば定数を加算することにより気流成分S5を処理する。
【0109】
努力成分S4及び気流成分S5は、例えば信号をさらにクリーニングするために等、受信された成分の処理のために特に適応された、独立した別の処理ステップにさらに提供されてもよい。
【0110】
ブラインド信号源分離(BSS)アルゴリズムを用いる第一の実施形態に係る信号分離器202により行われる処理が後述される。
【0111】
この例では、努力の寄与及び気流の寄与の間の関係を示すために用いられるモデルは、以下のように記述される。
【0112】
1/Z=1/Z+1/Z+1/Z
【0113】
ここで、各変数は以下の通りである。
Z:結合された計測された生体インピーダンス
:胸壁のインピーダンス
:肺のインピーダンス
:他の組織及び心臓/血管のインピーダンス
【0114】
加えて、Z及びZの導関数を適用すると、
Z’は呼吸努力を示す。
Z’は呼吸気流を示す。
【0115】
ブラインド信号源分離アルゴリズムはその後、(1つ又は複数の)基準信号を、基準努力及び/又は基準気流を提供するための観測可能な変数として用いてよい。これは、潜在する努力ソース信号及び気流ソース信号を推定するために用いられ得る。
【0116】
例えば他の組織のインピーダンスZ等の不要なノイズ及び、例えば心臓活動のような他の生理学的プロセスからの干渉を、前処理がフィルタリングして除去すると仮定すると、モデルは以下のように記述される。
【0117】
Z=Z×Z/(Z+Z
【0118】
ただし、Zは観測された生体インピーダンスである。
【0119】
導関数を適用すると、気流及び努力の尺度、Z’及びZ’が獲得される。これらは観測された生体インピーダンスZ’の導関数と次のような関係を有する。
【0120】
Z’/(Z)=Z’/(Z )+Z’/(Z
【0121】
気流の尺度Z’は、BSSアルゴリズムが推定及び分離しようとするソース信号である気流成分sflの関数であり、すなわち次式が成り立つ。
【0122】
Z’=F(sfl
【0123】
ここで、FはZ’を気流成分sflに関係づける関数である。
【0124】
同様に、導関数の努力の尺度Z’は、BSSアルゴリズムが推定及び分離しようとするソース信号である努力成分seffの関数であり、すなわち次式が成り立つ。
【0125】
Z’=F(seff
【0126】
ここで、FはZ’を努力成分seffに関係づける関数である。
【0127】
さらに、各基準信号はソース信号の変換信号であり、以下のように表され得る。
【0128】
ref,fl=Gfl(sfl
ref,eff=Geff(seff
【0129】
ここで、Xref,flは呼吸気流を表す基準信号であり、GflはXref,flを気流成分Sflに関係づける関数を示す。また、ここで、Xref,effは呼吸努力を示す基準信号であり、GeffはXref,effを努力成分Seffに関係づける関数を示す。
【0130】
ブラインド信号源分離アルゴリズムは、観測された変数からソース信号を抽出するために異なるアプローチを用い得る。
【0131】
得られた生体インピーダンス信号は、努力成分及び気流成分と同様に、典型的には正弦波(特定の周期及び位相を有し、時間変化する)である。
【0132】
もし複数の基準信号が有効であれば、それらの各々がブラインド信号源分離アルゴリズムにより、基準信号を信号源成分に関係づけるそれぞれの関数とともに用いられ得る。
【0133】
しかしながら、代替例によれば、複数の基準信号に基づいて、単一の基準信号が形成され得る。
【0134】
第二の実施形態に係る信号分離器202による、適応フィルタを用いる処理が以下説明される。
【0135】
この実施形態では、努力成分及び気流成分の代替成分(すなわち、それぞれ努力成分及び気流成分に関係する信号)が用いられる。その後、生体インピーダンス信号の努力及び気流成分の代替成分に対する加法モデルが用いられ、生体インピーダンス信号を努力成分及び気流成分に分解するために、より複雑でない信号処理が用いられ得る。従って、信号分離器202の処理はより高速となり、かつ要求されるコンピュータリソースはより少なくなる。しかしながら、少なくともいくつかの場合においては、上述の第1の実施形態で説明されたようなブラインド信号源分離アルゴリズムを用いれば、努力及び気流成分をより正確に抽出することができる。
【0136】
この実施形態では、上述したような生体インピーダンス信号Zを形成するための適切な処理の後に、次の関係が用いられ得る。
【0137】
Z’/Z=Z’/Z +Z’/Z
【0138】
Zの計測の後、生体インピーダンス信号の変換信号BioZがBioZt=Z’/Zとして計算される。
【0139】
さらに、努力成分及び気流成分に対応して変換された信号が、代替信号として用いられ得る。すなわち、直接の気流推定値(Z’)及び直接の努力推定値(Z’)のかわりに、Z’/Z は気流成分の代替成分として、かつZ’/Z は努力成分の代替成分として用いられ得る。従って、カルマンフィルタリング又はウィナーフィルタリング等のより簡単な信号処理方法を適用することも可能である。
【0140】
例えば、ウィナーフィルタリングは、概して図3に示されるように用いられ得る。
【0141】
この場合では、入力信号(図3ではx[n]で示される)は、生体インピーダンス信号BioZの変換信号である。基準信号(図3ではd[n]で示される)は、処理ユニット120により受信された基準信号であり、Xref,fl(呼吸気流を表す基準が受信された場合)又はXref,eff(呼吸努力を表す基準が受信された場合)である。基準信号は代替的に、例えばX’ref/Xref のような、処理ユニットにより受信された信号の変換された尺度であり得る。簡単化のために、以下では基準信号Xref,fl又はXref,effのみを考える。
【0142】
このモデルに基づいて、ウィナーフィルタ(fで示す)は、ウィナーフィルタが誤差(図3ではe[n]で示される)の特定のコスト関数を最小化するように計算される必要がある。典型的には、平均二乗誤差がコスト関数として用いられ得る。その後、入力信号BioZの自己相関(推定値)並びに、BioZとXref,eff又はXref,flとの相互相関(有限サンプルによる相互相関の推定値)に基づいてウィナーフィルタが計算される。
【0143】
フィルタ係数(任意のあるフィルタ長)が計算されると、フィルタリング後の変換された生体インピーダンスからある成分を得ることが可能となる。すなわち、次式が成り立つ。
【0144】
BioZtf=BioZ×f
【0145】
基準信号が呼吸努力Xref,effを表す場合、フィルタは次のような呼吸努力の代替推定値を提供する。
【0146】
SurrBioZeff=BioZtf
【0147】
これはZ’/Z の尺度であり、かつ生体インピーダンス信号の努力成分である。
【0148】
その後、呼吸気流の代替推定値も、以下のように計算することができる。
【0149】
SurrBioZfl=BioZ-BioZtf
【0150】
同様に、基準信号が呼吸気流Xref,flの表現ならば、フィルタは以下の呼吸気流の代替推定値を提供する。
【0151】
すなわち、Z’/Z の指標であり、かつ変換された生体インピーダンス信号の気流成分である、SurrBioZfl=BioZtfを提供する。
【0152】
また、呼吸努力の代替推定値を計算することも可能である。
【0153】
SurrBioZeff=BioZ-BioZtf
【0154】
代替推定値が胸壁インピーダンス変数(努力)及び肺インピーダンス変数(気流)に比例するのであれば、計算された呼吸努力及び呼吸気流の代替推定値は、信号表現のために十分であり得る。従って、代替推定値は努力成分及び気流成分の表現として出力され得る。
【0155】
しかしながら、推定されたZ’及びZ’の信号を生成することも可能である(代替推定値Z’/Z 及びZ’/Z の推定から始める)。生成は以下のステップ、すなわち、代替推定値を積分するステップと、直流成分を取り除くステップと、負の反転を適用して信号を導くステップとを含み、これにより推定されたZ’及びZ’の信号が得られる。
【0156】
抽出された努力成分及び気流成分は、呼吸イベントの検出に用いられ得る。努力成分及び気流成分は、呼吸イベントが発生していることを示す受信された指示子に基づいて、呼吸イベントの分類にも用いられ得る。
【0157】
図4に示すように、処理ユニット120は、1つ以上の基準信号S3に加えて、呼吸イベント信号を受信するように構成され得る。呼吸イベント信号は、呼吸イベントの1つ以上のカテゴリへの分類を提供し、かつ呼吸イベントが発生している/していた時間長の指標も提供する。
【0158】
呼吸イベント信号は、呼吸イベントディテクタ400により受信されてもよい。呼吸イベントディテクタ400は、生体インピーダンス信号S2、1つ以上の基準信号S3、又は呼吸イベントを決定するための他の信号を処理し得る。呼吸イベント信号は代替的に、例えば看護師が呼吸のモニタリングの間に得られた信号の手動アノテーション(注釈)を提供することにより、手動入力を通じて提供されてもよい。
【0159】
次に図5を参照して、生体インピーダンス信号S2を努力成分及び気流成分に分解するための生体インピーダンス信号S2の処理は、簡単化され得る。
【0160】
従って、セレクタ500は、生体インピーダンス信号S2がどのように処理されるかを、発生している呼吸イベントの種類に基づいて選択してよい。セレクタ500は、生体インピーダンス信号S2を、呼吸イベントに対応する信号分離器へと送信し得る。
【0161】
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)イベントが発生すれば、信号分離器502が生体インピーダンス信号を操作し得る。その後、生体インピーダンス信号、すなわちBioZは、OSA期間内では呼吸努力と等価であると判断され得る。つまり、BioZ≒BioZeffが成り立つ。この場合、OSA中は気流が生じないため、気流成分BioZflは0である。
【0162】
OSA期間は、呼吸努力の関数feffを、次式のようにパラメータ化するために用いられ得る。
【0163】
BioZeff=feff(Xref,eff
【0164】
これはその後、努力成分を推定するために、OSA期間外でも用いられ得る。さらに、OSA期間外において、気流成分は次式のように推定される。
【0165】
BioZfl=BioZ-feff(Xref,eff
【0166】
中枢性睡眠時無呼吸(CSA)が発生しているとき、呼吸努力及び呼吸気流はどちらも生じない。この場合、信号分離器504は、BioZ=0であるとして生体インピーダンス信号を表現する。
【0167】
閉塞性低呼吸(HA)が生じているとき、信号分離器506が生体インピーダンス信号を操作し得る。この場合、生体インピーダンス信号は、次式で表される(ただし、b<b)。
【0168】
BioZ=a×BioZeff+b×BioZfl
【0169】
ここで、aは呼吸イベントが発生していない期間における努力成分の重み係数である。
【0170】
また、bは呼吸イベントが発生していない期間における気流成分の寄与の重み係数である。
【0171】
は閉塞性HA期間中の努力成分の重み係数である。
【0172】
また、bは閉塞性HA期間中の気流成分の寄与の重み係数である。
【0173】
及びbの推定に用いられる仮定を行うことが可能であり得る。例えば、努力成分の係数aは、係数aと等しい値に設定され得る。気流成分の係数bは、例えば0.1×b≦b≦0.3×b等の範囲の仮定に基づいて選択され得る。この範囲内の、例えばb=0.2×b等の関係が用いられ得る。
【0174】
もし中枢性低呼吸(HA)イベントが発生しているならば、信号分離器508が生体インピーダンスを操作し得る。この場合、生体インピーダンス信号は、次式で表される(ただし、b<b、かつa<a)。
【0175】
BioZ=a×BioZeff+b×BioZfl
【0176】
ここで、aは中枢性HA期間中の努力成分の重み係数である。
【0177】
また、bは中枢性HA期間中の気流成分の寄与の重み係数である。
【0178】
閉塞性HAイベントについての議論と同様、呼吸イベントがない期間における努力成分及び気流成分の係数を、中枢性HA期間中に決定される係数と関係づけることができる。
【0179】
何もイベントが発生していない場合、図2を参照して上述した信号分離器202が生体インピーダンス信号を操作し得る。
【0180】
以上において、限られた数の例を参照しながら、発明概念が主に説明された。しかしながら、当業者には既に明らかであるように、続く特許請求の範囲により画定された発明概念の保護範囲内において、上記で開示されたもの以外の例も等しく存在し得る。
図1
図2
図3
図4
図5