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特許7071519単一粒子を包んだ液滴のマイクロ流体チップでの形成およびそれぞれ導出される方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】単一粒子を包んだ液滴のマイクロ流体チップでの形成およびそれぞれ導出される方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/08 20060101AFI20220511BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
G01N35/08 B
G01N37/00 101
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020545423
(86)(22)【出願日】2018-11-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 CN2018114807
(87)【国際公開番号】W WO2019096070
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-10-15
(31)【優先権主張番号】201711130429.2
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520168712
【氏名又は名称】チンタオ インスティテュート オブ バイオエナジー アンド バイオプロセス テクノロジー、チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
【氏名又は名称原語表記】QINGDAO INSTITUTE OF BIOENERGY AND BIOPROCESS TECHNOLOGY,CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
【住所又は居所原語表記】No.189 Songling Road,Laoshan District,Qingdao,Shandong 266101,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】シュー,テン
(72)【発明者】
【氏名】マ,ボー
(72)【発明者】
【氏名】シュー,ジアン
【審査官】三好 貴大
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105944775(CN,A)
【文献】特開2010-029790(JP,A)
【文献】特開2010-025911(JP,A)
【文献】特開2007-330202(JP,A)
【文献】特表2013-524171(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0170665(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体チップであって、
カバーシート層および基質層を含み、前記基質層は、少なくとも1つのサンプル通路を含み、前記サンプル通路は、マイクロ流体通路および検出プール(5)を含み、前記カバーシート層は、サンプル注入穴(1)およびオイル貯蔵プール穴(6)を含み、前記オイル貯蔵プール穴(6)と前記基質層は、オイル貯蔵プールを形成し、前記サンプル通路の入口端(7)はサンプル注入穴(1)に連結され、前記サンプル通路の出口端(8)はオイル貯蔵プールに連結される、前記マイクロ流体チップ。
【請求項2】
マイクロ流体通路が、直線通路(2)および少なくとも1段の湾曲通路(3)を含む、請求項1に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項3】
検出プール(5)とオイル貯蔵プール穴(6)が、通路(23)を介して連結され、前記通路(23)が直線通路である、請求項1または2に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項4】
サンプル通路が、少なくとも1つの液体貯蔵プール(4)をさらに含み、検出プール(5)が、前記液体貯蔵プール(4)とオイル貯蔵プール穴(6)との間に位置し、前記液体貯蔵プール(4)と前記検出プール(5)が、通路(22)を介して連結され、前記液体貯蔵プール(4)と湾曲通路(3)が、通路(21)を介して連結され、前記通路(21、22)が、少なくとも1段の直線通路または少なくとも1段の湾曲通路を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップの製造方法であって、
サンプル通路の設計に従って基質層をエッチングするステップ(1)と、カバーシート層にサンプル注入穴とオイル貯蔵プール穴を開けるステップ(2)と、カバーシート層と基質層を合わせ、低温で結合するステップ(3)と、および表面疎水化処理するステップ(4)とを含む、前記マイクロ流体チップの製造方法。
【請求項6】
単一粒子を包んだ液滴を形成するためのマイクロ流体チップ装置であって、
前記マイクロ流体チップ装置が、請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップおよび液体サンプルのサンプル注入装置を含み、前記液体サンプルのサンプル注入装置がサンプル注入穴(1)と連通し、前記液体サンプルのサンプル注入装置が、重力駆動調節サンプル注入装置、注射器、蠕動ポンプ、注射ポンプ、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、前記マイクロ流体チップ装置。
【請求項7】
重力駆動調節サンプル注入装置が、高さ調整可能なサンプルホルダー、サンプル容器、カテーテルを含み、前記サンプル容器は、前記カテーテルを介して前記サンプル注入穴(1)と連通し、前記サンプル容器は、前記高さ調整可能なサンプルホルダーで上下に移動できる、請求項6に記載のマイクロ流体チップ装置。
【請求項8】
単一粒子を包んだ液滴を形成するためのマイクロ流体操作システムであって、
請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップまたは請求項6または7に記載のマイクロ流体チップ装置、および粒子捕獲装置を含み、前記粒子捕獲装置が、光ピンセット、磁気ピンセットから選択される、前記マイクロ流体操作システム。
【請求項9】
単一粒子を包んだ液滴の形成および導出方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップ、請求項6または7に記載のマイクロ流体チップ装置または請求項8に記載のマイクロ流体操作システムを使用し、オイル貯蔵プール内に油相を注入するステップ(1)と、サンプル注入を介して粒子相溶液をマイクロ流体チップサンプル通路内に注入するステップ(2)と、サンプル通路の液体の流れを調節し、粒子相とオイル貯蔵プール油相の界面をサンプル通路の出口付近で安定静止させるステップ(3)と、粒子捕獲装置を使用してターゲット粒子を捕獲し、マイクロ流体チップを移動し、ターゲット粒子を水相と油相の界面付近にドラッグするステップ(4)と、サンプル通路の液体の流れを調節して、ターゲット粒子をオイル貯蔵プールに入れ、単一ターゲット粒子を包んだ液滴を形成するステップ(5)と、および単一ターゲット粒子を包んだ液滴を導出するステップ(6)とを含み、前記サンプル通路の液体の流れを調節する方法が、重力駆動調節方法、注射ポンプ駆動調節方法、蠕動ポンプ駆動調節方法、またはこれらの組み合わせからなる群から選択され、前記単一ターゲット粒子を包んだ液滴の導出方法が、キャピラリー導出方法、ピペット導出方法、またはこれらの組み合わせからなる群から選択される、前記単一粒子を包んだ液滴の形成および導出方法。
【請求項10】
請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップ、請求項6または7に記載のマイクロ流体チップ装置または請求項8に記載のマイクロ流体操作システムの応用であって、
単一粒子のスクリーニング、単一粒子を包んだ液滴の形成または単一粒子を包んだ液滴の導出のために使用される、前記請求項1~4のいずれか一項に記載のマイクロ流体チップ、請求項6または7に記載のマイクロ流体チップ装置または請求項8に記載のマイクロ流体操作システムの応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体技術分野に関し、具体的に、単一細胞のスクリーニング、単一細胞の分離、単一細胞のシーケンシング、単一細胞の形態解析、単一細胞の培養、薬物スクリーニングなどの分野に使用できる単一粒子を包んだ液滴のマイクロ流体チップでの形成およびそれぞれ導出される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、細胞多様性は、細菌、酵母、哺乳動物細胞など、さまざまな細胞群に遍在する。同じ母細胞から分割された娘細胞であっても、個々の細胞間で違いがある。単一細胞分析(single-cell analysis)は、細胞群で細胞サイズ、成長速度、化学組成(リン脂質、タンパク質、代謝産物、DNA/RNA)を含む細胞間の違いなどの研究、および細胞間の違いの原因とメカニズムを指す。その研究内容は、腫瘍生物学、幹細胞、微生物学、神経学、免疫学の分野などの分野に関する。
【0003】
単一細胞分析における最大の課題は、細胞サイズが小さいことと、およびその小さいサイズによってもたらされる複雑な化学組成とコンポーネントのトレースなどである。単一細胞のサイズは主にマイクロメートルスケールで分布し、前記スケールでの単一細胞の操作と分析は、機器の精度と感度などに非常に高い要件を課する。したがって、単一細胞分析を実現するには、まず単一細胞の捕獲、分離、抽出と、単一細胞信号の取得との2つの問題を解決する必要がある。
【0004】
蛍光顕微鏡、単一細胞ラマン、電気化学技術、質量分析および過去2年間に出現したqPCR技術の開発により、単一細胞成分の複数の分析を実現した。しかし、単一細胞の捕獲、分離、抽出の進歩は遅く、現在、マイクロ流体チップ技術は、単一細胞アレイの捕獲と流動法に大別できる。アレイの捕獲方法は単一細胞のリアルタイムモニタリングを実現でき、実験条件を変更して単一細胞に対するさまざまな培養条件の影響を調べるのに便利であるが、スループットは低い。フロー法は通常、単一細胞液滴技術に基づいており、検出スループットが高く、細胞分離が便利であるという利点があるが、検出時間が短いため、単一細胞の詳細情報を取得することは一般に困難であり、現在、それらのほとんどは蛍光フロースクリーニングに基づいている。しかし、マイクロ流体チップで分析およびスクリーニングされた細胞を個別に分離して抽出し、その後ダウンストリーム分析を実行する方法は、依然として現在の困難である。単一細胞遺伝子プロファイリングなどの場合、ターゲット細胞を捕獲アレイまたはチップから試験管に移す必要があり、移動プロセス中で細胞への損傷および外部環境の汚染を回避する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ターゲット単一粒子を分離および導出する技術を提供することであり、本発明は、マイクロ流体チップにおける単一ターゲット粒子の検出および捕獲、およびマイクロ流体チップから外部試験管への移送を実現する。
本発明で言及される「粒子」は、非有機相溶液(例えば、水相)に懸濁され、真核細胞、原核細胞、単細胞生物、ウイルス粒子、オルガネラ、生体高分子によって形成された粒子、薬物粒子、薬物担体粒子、リポソーム、ポリマー粒子などの生物由来および非生物由来の粒子を含む本発明のマイクロ流体チップを通過することができる粒子を指す。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様では、マイクロ流体チップを提供し、前記マイクロ流体チップは、カバーシート層および基質層を含み、前記基質層は、少なくとも1つのサンプル通路を含み、前記サンプル通路は、マイクロ流体通路および検出プール5を含み、前記カバーシート層は、サンプル注入穴1およびオイル貯蔵プール穴6を含み、前記オイル貯蔵プール穴6と前記基質層は、オイル貯蔵プールを形成し、前記サンプル通路の入口端7はサンプル注入穴1に連結され、前記サンプル通路の出口端8はオイル貯蔵プールに連結される。
別の好ましい例では、前記カバーシート層の材料は、石英、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ホウケイ酸ガラス、フッ化カルシウムから選択されるが、これらに限定されず、前記基質層の材料は、石英、PDMS、PMMA、ホウケイ酸ガラス、フッ化カルシウムから選択されるが、これらに限定されない。
【0007】
別の好ましい例では、前記オイル貯蔵プールの表面は、疎水性で親油性の表面である。
別の好ましい例では、前記サンプル注入穴1は、サンプル注入カテーテルインターフェースと連結される。
別の好ましい例では、前記マイクロ流体通路は、直線通路2および少なくとも1段の湾曲通路3を含む。
【0008】
本発明における湾曲通路は、直線型でないマイクロ流体通路を指す。好ましい例では、前記マイクロ流体通路の幅は、30~300μmであり、高さは、15~50μmである。
別の好ましい例では、前記検出プール5と前記オイル貯蔵プール穴6は、通路23を介して連結され、前記通路23は直線通路である。
【0009】
別の好ましい例では、前記サンプル通路は、少なくとも1つの液体貯蔵プール4をさらに含み、より好ましくは、別の好ましい例では、前記検出プール5の容量は、前記液体貯蔵プール4の容量より少ない。
別の好ましい例では、前記検出プール5は、前記液体貯蔵プール4と前記オイル貯蔵プール穴6との間に位置し、前記液体貯蔵プール4と前記検出プール5は、通路22を介して連結され、前記液体貯蔵プール4と前記湾曲通路3は、通路21を介して連結され、前記通路21、22は、少なくとも1段の直線通路または少なくとも1段の湾曲通路を含む。
【0010】
本発明における検出プールは、粒子特性信号の収集または単一粒子の捕獲のために使用することができ、本発明における液体貯蔵プールは、試験されるサンプル液体を貯蔵するために使用される。
別の好ましい例では、前記通路22の幅は、前記通路21の幅より小さい。
別の好ましい例では、前記通路23の幅は、前記通路22の幅より小さい。
【0011】
別の好ましい例では、前記通路21の幅は、200~300μmであり、好ましくは200μmである。
別の好ましい例では、前記通路22の幅は、45~230μmであり、好ましくは100μmである。
別の好ましい例では、前記通路23の幅は、30~100μmであり、好ましくは45μmである。
別の好ましい例では、前記サンプル通路の高さは15~50μmである。
【0012】
本発明の別の態様は、サンプル通路の設計に従って基質層をエッチングするステップ(1)と、カバーシート層にサンプル注入穴とオイル貯蔵プール穴を開けるステップ(2)と、カバーシート層と基質層を合わせし、低温で結合するステップ(3)と、および表面疎水化処理するステップ(4)とを含む本発明の第1の態様で提要されたマイクロ流体チップの製造方法を提供する。好ましい例では、前記サンプル通路の高さは、15~50μmである。
【0013】
本発明の別の態様は、単一粒子を包んだ液滴を形成するためのマイクロ流体チップ装置を提供し、前記装置は、本発明の第1の態様で提供されたマイクロ流体チップおよび液体サンプルのサンプル注入装置を含み、前記液体サンプルのサンプル注入装置は前記サンプル注入穴1と連通し、前記液体サンプルのサンプル注入装置は、重力駆動調節サンプル注入装置、注射器、蠕動ポンプ、注射ポンプから選択されるが、これらに限定されない。
好ましい例では、前記重力駆動調節サンプル注入装置は、高さ調整可能なサンプルホルダー、サンプル容器、カテーテルを含み、前記サンプル容器は、前記カテーテルを介して前記サンプル注入穴1と連通し、前記サンプル容器は、前記高さ調整可能なサンプルホルダーで上下に移動できる。
【0014】
別の好ましい例では、前記サンプル容器が上下に移動する方法は、手動調節である。
別の好ましい例では、前記サンプル容器が上下に移動する方法は、電気的調節である。
別の好ましい例では、前記高さ調整可能なサンプルホルダーは、スライドレールとして設計され、スライドレールは、サンプル容器を固定するための電気的に可動なスライダーを有し、より好ましくは、前記高さ調整可能なサンプルホルダーは、スライダーを制御してスライドレールで上下に移動するようにする高さ調節コントローラーをさらに含む。
【0015】
本発明の別の態様は、本発明によって提供されるマイクロ流体チップまたはマイクロ流体チップ装置、および光ピンセット、磁気ピンセットから選択される粒子捕獲装置を含む単一粒子を包んだ液滴を形成するためのマイクロ流体操作システムを提供する。
本発明で使用される光ピンセットおよび磁気ピンセット装置は、当技術分野で先行技術である。
本発明における捕獲は、光ピンセットおよび磁気ピンセットを含む粒子捕獲装置を使用してターゲット粒子を固定することにより、本発明のマイクロ流体チップを移動する時に、ターゲット粒子がチップと共に動かないようにすることを指す。
【0016】
別の好ましい例では、前記マイクロ流体操作システムは、サンプル検出装置をさらに含み、前記サンプル検出装置は、ラマン検出装置、光学顕微鏡、蛍光顕微鏡を含むが、これらに限定されない。
別の好ましい例では、前記マイクロ流体操作システムは、単一粒子を包んだ液滴を導出するための装置をさらに含み、前記単一粒子を包んだ液滴を導出するための装置は、キャピラリー、ピペットチップから選択される。
【0017】
本発明の別の態様は、単一粒子を包んだ液滴の形成および導出方法を提供し、前記方法は、本発明によって提供されるマイクロ流体チップまたはマイクロ流体チップ装置またはマイクロ流体操作システム使用し、オイル貯蔵プール内に油相を注入するステップ(1)と、サンプル注入口を介して粒子相溶液をマイクロ流体チップサンプル通路内に注入するステップ(2)と、サンプル通路の液体の流れを調節し、粒子相とオイル貯蔵プール油相の界面をサンプル通路の出口付近で安定静止させるステップ(3)と、粒子捕獲装置を使用してターゲット粒子を捕獲し、マイクロ流体チップを移動し、ターゲット粒子を水相と油相の界面付近にドラッグするステップ(4)と、サンプル通路の液体の流れを調節して、ターゲット粒子をオイル貯蔵プールに入れ、単一ターゲット粒子を包んだ液滴を形成するステップ(5)と、および単一ターゲット粒子を包んだ液滴を導出するステップ(6)とを含み、前記サンプル通路の液体の流れを調節する方法は、重力駆動調節方法、注射ポンプ駆動調節方法、蠕動ポンプ駆動調節方法から選択されるが、これらに限定されない。
【0018】
好ましい例では、前記粒子捕獲装置は、前記検出プールからターゲット粒子を捕獲する。
別の好ましい例では、前記油相は、鉱油、シリコーン油、フルオロカーボン油、植物油、および石油エーテルから選択される。
別の好ましい例では、前記粒子相は、粒子およびオイル貯蔵プールの油相液体と非相溶性である液体を含み、好ましくは、前記粒子相は非有機相であり、より好ましくは、前記粒子相は、水相または非有機緩衝液である。
【0019】
別の好ましい例では、前記単一粒子を包んだ液滴の形成および導出方法は、サンプル検出ステップをさらに含み、前記サンプル検出ステップは、ステップ(4)の前に配置され、前記サンプル検出ステップで使用される方法は、ラマンスペクトル分析、蛍光検出、光学顕微鏡検出、導電率検出を含むが、これらに限定されない。
別の好ましい例では、前記単一ターゲット粒子を包んだ液滴の導出方法は、キャピラリー導出方法、ピペット導出方法を含む。
別の好ましい例では、前記単一粒子を包んだ液滴の形成および導出方法は、導出されたターゲット粒子に対してさらなる操作を実行することをさらに含み、前記操作は、単一細胞シーケンシング、単一細胞形態解析、および単一細胞培養を含む。
【0020】
別の好ましい例では、前記単一粒子を包んだ液滴の形成および導出方法は、オイル貯蔵プール内に油相を注入するステップ(1)と、サンプル注入口を介して粒子相溶液をサンプル通路内に注入し、サンプル容器の高さ調整可能なサンプルホルダーでの高さをh0に調節して、粒子相とサンプル出口の油相の界面をサンプル通路出口の出口付近で安定静止させるステップ(2)と、検出プール5で単一粒子の特性信号を収集し、光ピンセットでターゲット粒子を捕獲し、マイクロ流体チップを移動し、目的のターゲット粒子を水相と油相の界面付近にドラッグするステップ(3)と、サンプル容器の高さ調整可能なサンプルホルダーでの高さをhに調節して、粒子と一部の水を重力で油相に押し込み、油中水滴を作り、その後サンプル容器の高さをh0に戻して、粒子相と油相との間の界面をサンプル通路の出口付近で再び安定させるステップ(4)と、およびキャピラリーを粒子を包んだ液滴に接触させ、油相のキャピラリーに対する良好な湿潤効果を有するので、毛管力により、液滴はオイルの一部とともに自動的にキャピラリーに入るステップ(5)を含む。
【0021】
別の好ましい例では、前記サンプル注入口を介して粒子相溶液をサンプル通路内に注入する方法は、静圧注入法である。
別の好ましい例では、前記サンプル通路で単一粒子の特性信号を収集する方法は、ラマン信号収集、蛍光検出、光学顕微鏡検出から選択され、より好ましくは、単一粒子の特性信号を収集する位置は検出プールである。
別の好ましい例では、前記光ピンセットのレーザー波長は1064nmである。
【0022】
本発明の別の態様は、単一粒子のスクリーニング、単一粒子を包んだ液滴の形成または単一粒子を包んだ液滴の導出のために使用されるマイクロ流体チップ、マイクロ流体チップ装置またはマイクロ流体操作システムの応用を提供する。
本発明の範囲内で、本発明の上記の技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に記載される各技術的特徴を互いに組み合わせることができ、それにより新しいまたは好ましい技術的解決策を形成できる。スペースの制限のため、ここでは繰り返しない。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、以下の技術的利点を有する。
1.数十ミクロンの酵母細胞や1ミクロン程度の細菌細胞のさまざまなサイズの粒子のラマン検出および導出に適用される。
2.単一細胞の選択と分離導出を実現し、前記プロセスは、細胞活性への影響が低く、ダウンストリームの単一細胞シーケンスとうまくドッキングできる。
3.単一粒子のスクリーニングと除去の速度は速く、チップから試験管への単一粒子除去の操作時間は1~2分である。
4.チップは再利用できるため、操作コストを削減できる。
5.操作が簡単である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】マイクロ流体チップ設計の模式図である。
図2】マイクロ流体チップの実物図である。
図3】単一粒子を包んだ液滴を形成するマイクロ流体チップ装置図である。Aは、液体サンプルのサンプル注入装置とマイクロ流体チップで構成されるマイクロ流体チップ装置の模式図を示す。Bは、マイクロ流体チップを顕微鏡プラットフォームに配置し、マイクロ流体チップ装置および粒子捕獲装置と共同に単一粒子を包んだ液滴を形成するためのマイクロ流体操作システムを構成する実物図を示す。
【0025】
図4】単一の粒子を包んだ液滴の形成プロセスである。
図5】マイクロ流体チップ装置で単一細胞を選択するプロセスは細胞活性への影響が低い。Aは、細胞を包んで形成されたばかりの液滴で、キャピラリーを使用して開いたオイル貯蔵プールから液滴を吸引することを示し、このプロセスでは、外因性の動力は必要なく、キャピラリー内の油相のキャピラリー作用による。キャピラリーを通路出口Bに配置すると、油相はキャピラリー作用によってキャピラリーに流れ込み、油相の単一細胞を包んだ液滴は油相とともにキャピラリーに流れ込むことを示し、C~Fは、このプロセスのビデオのスクリーンショットである。G、Hは、50X対物レンズの視野で細胞を包む液滴であり、それぞれ大腸菌細胞と酵母細胞をモデル細胞として使用し、2つの異なるサイズの細胞液滴にうまく包まれて導出できることが分かる。
【0026】
図6】DNA増幅の結果である。AとCはMDA増幅の結果であり、BとDは16S検定結果であり、ここでNはMDA(多重置換)増幅のネガティブコントロールである。実験は、液滴が細胞をうまく包んで導出できることを示し、導出された後の細胞は、ダウンストリームの増幅とシーケンス解析に正常に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明によって提供されるマイクロ流体チップ、マイクロ流体チップ装置、マイクロ流体操作システムおよび単一粒子を包んだ液滴の形成および導出方法は、真核細胞(例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞など)、原核細胞(例えば、細菌細胞など)、単細胞生物、ウイルス粒子、オルガネラ、生体高分子によって形成された粒子、薬物粒子、薬物担体粒子、リポソーム、ポリマー粒子、他の天然または合成粒子の単一粒子などの生物由来および非生物由来の単一粒子を分離するために使用される。
【0028】
以下、具体的な実施例に結び付けて、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を制限しないことを理解されたい。下記の実施例で具体的な実験条件を明示していない実験方法は通常の条件、例えばSambrookら、分子クローン:実験室ハンドブック(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)に基づく条件、または製造メーカーで提案される条件に従う。他に示されない限り、パーセンテージおよび部数は重量で計算される。
【0029】
実施例1
1、マイクロ流体チップの製造
(1)超音波穴あけ法を用いて上層石英ガラスにサンプル注入穴と液体貯蔵プール穴を開け、穴の間隔は通路の長さに応じる。上層石英ガラスは滑らかな平面であり、厚さは0.5~1mmで、エッチングパターンがない。(上下の石英ガラスの順番は光ピンセットの光路に依存し、本実験で使用される顕微鏡は直立型の顕微鏡であるため、光ピンセットの光路はチップを上から下に通過するので、チップの上面が滑らかな光学面であることを保証する必要があり、そのため、上層は滑らかな石英ガラスであり、通路付きの石英ガラスは下層にある)
【0030】
(2)下層石英ガラスの表面は通路設計によりエッチングされ、通路高さは約15~50ミクロンである。
(3)2層のガラスを整列させ、低温で結合する。
(4)表面疎水化処理(シリル化試薬を使用)して、オイル貯蔵プール位置に疎水性で親油性表面を形成する。
(5)単一粒子液滴包まれている場合、油相は鉱油である(2 %wtの表面活性剤Span 80を含む)。前記油相の密度が水よりも低いため、生成された液滴は、オイル貯蔵プールの底部にあるマイクロ通路の出口に配置され、観察と導出に便利である。
マイクロ流体チップの設計模式図と実物図をそれぞれ図1図2に示した。
【0031】
2、単一粒子を包んだ液滴を形成するためのマイクロ流体チップ装置とシステムの製造
ここで選択した液体サンプルのサンプル注入装置は、サンプル容器を高さ調整可能なサンプルホルダーに吊る重力駆動調節サンプル注入装置であり、サンプル容器は、カテーテルを介してマイクロ流体チップのサンプル注入穴と連結する。液体サンプルのサンプル注入装置およびマイクロ流体チップから構成されるマイクロ流体チップ装置の模式図は、図3Aに示す。マイクロ流体チップを顕微鏡プラットフォームに配置し、マイクロ流体チップ装置と粒子捕獲装置は一緒になって、単一粒子を包んだ液滴を形成するためのマイクロ流体操作システムを構成し、実物図は、図3Bに示す。
【0032】
実施例2
ターゲット単一粒子を包んだ液滴の形成および導出のステップの模式図は、図4に示す。
(1)サンプル通路出口端のオイル貯蔵プール内に油相(通常、界面活性剤を含む鉱油を使用する)を注入する。
(2)静圧注入法を使用して、粒子相(本実施例では細胞相を使用)溶液をサンプル注入口を介してチップ通路に注入し、サンプルホルダーの高さをh0に調節して、細胞相とサンプル出口の油相の界面をサンプル出口の付近で安定静止させる。
【0033】
(3)検出プール内で単一細胞の特徴マップ(例えば、ラマンスペクトラム、532nm レーザー)を収集し、光ピンセット(例えば、1064nmレーザー)を介してターゲット細胞を捕獲し、マイクロ流体チップを移動して、ターゲット細胞を水相と油相界面の付近にドラッグする。
(4)サンプルホルダーの高さをhに調節し、細胞と一部の水を重力で押して油相に推進して、油中水滴を形成し、その後サンプルホルダーの高さをh0に戻し、細胞液と油相との間の界面が通路の開口部で再び安定するようにする。
【0034】
(5)キャピラリーを使用して細胞を包んだ液滴を接触する。キャピラリーに対する油相の良好な湿潤効果により、毛管力に従って、液滴は一部の油とともに自動的にキャピラリーに入る。図5A図5Fは、単一細胞を包んだ液滴がキャピラリーによって正常に導出できることを示す。
サンプルホルダーの高さは、石英チップの内部流体抵抗に依存するが、本実験で使用される石英チップ通路のサイズと顕微鏡プラットフォームの高さに応じて、高さ1mのサンプルホルダーを選択した。サンプルホルダーは、図3Bに示したように、サンプル容器を固定するために電気的に移動できるスライダー付きのスライドレールとして設計されている。
【0035】
実施例3
分離した単一細胞に対してDNA増幅と電気泳動検出を行う。
実施例2で分離された液滴は50倍の対物レンズの下で観察し、単一細胞が液滴にうまく包まれていることがわかる。この方法は、約1ミクロンから約数十ミクロンまでのさまざまなサイズの細胞に適し、図5G図5Hにそれぞれ示されたように、大腸菌細胞と酵母細胞をこの方法で液滴に包んだ状況である。この方法で使用されるミネラルオイルの密度は細胞懸濁液(水)の密度よりも低いため、液滴は、液滴転送プロセス中にキャピラリーの低部に自動的に分布され、液滴を含むキャピラリーをテストチューブまたは遠心分離管の壁に接触させるだけで液滴を導出することができるので、転送プロセスのより成功率がより高く、方法がより簡単になる。
【0036】
キャピラリー中の単一細胞の液滴を遠心分離して別の遠心チューブに導入し、DNA増幅のために増幅基質を添加し、増幅状況は図6に示したとおりである。この実験では、大腸菌(図6Aおよび図6B)および酵母(図6Cおよび図6D)をそれぞれモデル細胞として使用し、いくつかの空の液滴(E1およびE2は大腸菌サンプルコントロールの空の液滴、E3、E4、E5は酵母対照の空の液滴)を除去して比較し、空の液滴には増幅産物が見られず、単一細胞を包んだ液滴はうまく増幅され、この方法で分離された細胞は、単一細胞シーケンシングなどのダウンストリーム分析に正常に使用でき、単一細胞のスクリーニングプロセスは汚染をうまく回避することができることが証明された。
【0037】
本発明で言及されるすべての文書は、あたかも各文書が個々に参照により組み込まれたかのように、本出願に参照により組み込まれている。さらに、本発明の上記の教示内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も本願に添付された特許請求の範囲によって定義される範囲内にあることを理解されたい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6