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特許7071595電解槽用ガスケット及びそれを用いた電解槽
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】電解槽用ガスケット及びそれを用いた電解槽
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/02 20060101AFI20220511BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220511BHJP
   C25B 9/23 20210101ALI20220511BHJP
   C25B 11/03 20210101ALI20220511BHJP
   C25B 9/60 20210101ALI20220511BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20220511BHJP
   F16J 15/12 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C25B13/02 302
C25B9/00 E
C25B9/23
C25B11/03
C25B9/60
F16J15/10 S
F16J15/12 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021533999
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2020027827
(87)【国際公開番号】W WO2021015120
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019133634
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100079614
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 明義
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-196014(JP,A)
【文献】特開平10-121284(JP,A)
【文献】特開2004-285427(JP,A)
【文献】特開昭61-056290(JP,A)
【文献】国際公開第2018/154629(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/02
C25B 15/00
C25B 9/00
C25B 11/03
F16J 15/10
F16J 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、陽極と陰極とを隔離するシート状の隔膜よりなる電解槽に組み込まれた、前記隔膜を保持するための電解槽用ガスケットであって、
前記電解槽は、中央部に陽極室を形成するための開口部を有する額縁状に形成された陽極側金属枠体と、該陽極側金属枠体と同一形状の、中央部に陰極室を形成するための開口部を有する陰極側金属枠体とを有し、前記陽極側金属枠体の開口部に陽極が装着され、前記陰極側金属枠体の開口部に陰極が装着されており、前記電解槽用ガスケットは、前記陽極側金属枠体と前記陰極側金属枠体との間に緊密な状態に挟持されて使用されるものであり、
前記電解槽用ガスケットは、前記陽極側金属枠体及び前記陰極側金属枠体と略同じ形状を有する、一枚の、額縁状の薄板状枠体よりなり、
該額縁状の薄板状枠体は、前記陽極側金属枠体に密接する第一面と、前記陰極側金属枠体に密接する第二面とを有し、前記第一面及び前記第二面のいずれか一方の面上に、前記薄板状枠体の、額縁の内側の縁を含む一部の領域が均一の厚みで薄く削り取られてなる、前記隔膜の厚みと略同じ厚みの段差を有する切欠き部が形成された構造を有し、
前記隔膜の縁部が、前記切欠き部と、前記陽極側金属枠体あるいは前記陰極側金属枠体との間に形成される隙間に収容された状態で保持される構成としたことを特徴とする電解槽用ガスケット。
【請求項2】
その外周面に、絶縁性を有するガスケット押え板が押し付けられた状態で装着されて、前記電解槽に組み込まれている請求項1に記載の電解槽用ガスケット。
【請求項3】
解液及び電解生成ガスに対して耐食性を有する弾性体からなる材料で形成されている請求項1又は2に記載の電解槽用ガスケット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電解槽用ガスケットを備えてなる電解槽であって、
前記陽極の隔膜側に、陽極触媒活性コーティングが施されているか、あるいは、陽極触媒活性コーティングが施されている陽極側ファインメッシュが装着されている、
及び/又は、前記陰極の隔膜側に、陰極触媒活性コーティングが施されているか、あるいは、陰極触媒活性コーティングが施されている陰極側ファインメッシュが装着されていることを特徴とする電解槽。
【請求項5】
前記陽極と前記陰極とのゼロギャップ化を図るため、前記陽極側ファインメッシュと前記陽極との間に、及び/又は、前記陰極側ファインメッシュと前記陰極との間に、スプリング材料が装着されている請求項4に記載の電解槽。
【請求項6】
前記陽極及び前記陰極が、エキスパンデッドメッシュ、打抜き多孔板、金網、及び、これらに類似する形状の、多数の孔を有する導電性電極材料からなる群から、独立して選ばれるいずれかの材料よりなる請求項4又は5に記載の電解槽。
【請求項7】
前記隔膜は、前記隙間に収容されている縁部を除く隔膜の一方の面の全面が、前記陽極又は前記陽極に装着されている陽極側ファインメッシュに接触している状態で、あるいは、前記陰極又は前記陰極に装着されている陰極側ファインメッシュに接触している状態で、保持されている請求項4又は5に記載の電解槽。
【請求項8】
前記陽極側金属枠体の背面に、前記陽極室を形成するための陽極室枠体が接続されているとともに、前記陰極側金属枠体の背面に、前記陰極室を形成するための陰極室枠体が接続されている請求項のいずれか1項に記載の電解槽。
【請求項9】
前記陽極側金属枠体が、前記陽極室枠体の一部として形成されているとともに、前記陰極側金属枠体が、前記陰極室枠体の一部として形成されている請求項に記載の電解槽。
【請求項10】
前記陽極、前記陽極側金属枠体、前記陽極室枠体、前記陰極、前記陰極側金属枠体、及び前記陰極室枠体が、それぞれ、ニッケル、ステンレス、鉄及びそれらの合金よりなる群より選ばれた少なくとも一つを含む材料からなり、
前記隔膜が、水溶液透過性の多孔質隔膜よりなり、
前記陽極室及び前記陰極室に導入される電解液が、共通した組成の苛性アルカリ金属水溶液であり、
前記電解槽が、アルカリ水電解槽である請求項8又は9に記載の電解槽。
【請求項11】
前記陽極、前記陽極側金属枠体及び前記陽極室枠体が、チタン又はチタン合金からなり、
前記陰極、前記陰極側金属枠体及び前記陰極室枠体が、ニッケル、ステンレス、鉄及びそれらの合金よりなる群より選ばれた少なくとも一つを含む材料からなり、
前記隔膜が、陽イオン交換膜よりなり、
前記陽極室及び前記陰極室に導入される電解液が、陰極側電解液と陽極側電解液よりなり、
前記陰極側電解液が、苛性アルカリ金属水溶液よりなり、
前記陽極側電解液が、ハロゲン化アルカリ金属水溶液よりなり、
前記電解槽が、食塩電解槽である請求項8又は9に記載の電解槽。
【請求項12】
更に、電解液を加圧しながら電解を行う構成の請求項10又は11に記載の電解槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解槽用ガスケット及びそれを用いた電解槽に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水電解、純水電解、非精製水の電解、食塩電解、塩化物水溶液電解、臭化物水溶液電解、塩酸水溶液電解、硫酸水溶液電解等に用いる電解槽として、陽極と陰極との間に隔膜を設け、該隔膜により陽極と陰極とを隔離した電解槽が多く用いられている。これら電解槽内に供給される電解液、及び、電解により生成される、水素ガス、酸素ガス、塩素ガス、ハロゲンガス等の電解生成ガス、並びに、電解槽内の電解液は、隔膜の縁部から電解槽外部に漏洩してはならない。電解生成ガスや電解液等が漏洩するとプラントの連続運転ができないことになり、更に、運転管理者や環境への問題を起こしかねない。
【0003】
従来、上記のような電解槽において、電解槽用隔膜の縁部から電解液や電解生成ガス等が漏洩するのを防ぐため、陽極と陰極との間に、2枚の薄板状のガスケット、又は、4枚若しくは2枚のО-リングを配置し、これらの密封用部材により、電解生成ガスや電解液等の漏洩を防ぐとともに、隔膜を挟持させている。
【0004】
上記のような電解槽において、例えば、図6に示した4枚のО-リング5を使用する場合には、電解槽側の2枚のО-リング5で隔膜を挟持し、電解槽の外周側の2枚のО-リング5で電解液が電解槽外部に漏れることを防止している。尚、隔膜としてイオン交換膜を使用する場合には、イオン交換膜はフィルムのようなもので、隔膜のように液の染み出しによる漏れが無いことから、2枚のО-リングだけで密封している。
【0005】
また、上記のような電解槽において、密封用部材に薄板状のガスケットを用いる従来方法を記載した特許文献1及び特許文献2には、図7(A)に示す構造が開示されている。この方法では、陽極1を装着した陽極側金属枠体2に陽極側ガスケット7を設け、陰極3を装着した陰極側金属枠体4に陰極側ガスケット8を設け、この一対(2枚)のガスケット7、8によって隔膜6を挟持している。
【0006】
然るに、本発明者らの検討の結果、上記のような電解槽において、О-リング5を用いる構造や、2枚のガスケット7、8を使用する構造によって隔膜6の挟持をすると、特に、構成する隔膜6が多孔質膜である場合には、次のような欠陥があることが分かった。上記に挙げた構造では、いずれの場合も、隔膜6の保持を、複数の密封用部材を用い、これらの部材で隔膜6の縁部を挟持することで行い、同時に、電解槽からの電解液や電解生成ガスの漏洩を防ぎ、電解槽内の気密性を維持することを行っている。このため、複数のガスケットやО-リングなどの密封用部材が必要となる。そして、特に、電解セルを何枚も重ねて組立てるフィルタープレス式の電解槽では、ガスケットなどの密封用部材の数も多くなる。密封用部材の数が多くなると、例えば、ガスケットの位置ズレに起因して生じるはみ出しや、はみ出しなどによる液漏れ等のトラブルも皆無ではなかった。図7(A)に示したような、隔膜を2枚のガスケットを用いて挟持した構成とする場合は、大型の電解槽を組立てるときに膜をガスケット内に収めることに手間が掛かる。また、隔膜を、2枚のガスケットの間から電解槽の外部に引き出した状態で保持することもできる。しかし、このような2枚のガスケットを用いた構成にした場合、イオン交換膜ではなく隔膜を使用するときには、図7(B)に示したように、2枚のガスケットによって形成される僅かな隙間を通じて、電解液や電解生成ガスが電解槽外部に漏出することがある。
【0007】
また、上記のような電解槽において、ガスケットを用いる他の従来方法としては、特許文献3に開示されている下記の構造がある。具体的には、図8に示すような、一枚のガスケット9によって構成された構造が知られている。該ガスケット9は、陽極側金属枠体2に接する第1面10と、陰極側金属枠体4に接する第2面11とを有するとともに、環状をなしており、電解槽内部に向かって開口するスリット部12が設けられている。より詳しくは、図8に示したように、ガスケット9の縦方向の上端より中間部分までを充填部13とし、該充填部13の下方をスリット形成部14とし、該スリット形成部14の中央部に、該ガスケット9の第1面10及び第2面11と略平行に延び、電極槽内部に向かって開口した構造のスリット部12が設けられている。そして、この例では、該スリット部12内に隔膜6の縁部を収容して、隔膜6を、上記構造を有するガスケット9によって保持している。
【0008】
上記構造を有するガスケット9によれば、一つの部材よりなるので、例えば、図7(B)に示したような、複数枚のガスケットによって隔膜を挟持した場合に生じるガスケットの縁部からの電解液又は電解生成ガスの漏洩の恐れがなくなる。このため、図8に示した構造のガスケットを用いた場合、図7(A)に示した構造のガスケットを用いた場合と比較して、電解液又は電解生成ガスの漏洩率を低減できる。
【0009】
然るに、本発明者らの検討の結果、図8に示した構造のガスケットを用いた場合には、下記の課題があることが分かった。図8に示すような構造のガスケットによって隔膜を保持させる場合、薄板状(シート状)のガスケット9の内部に、スリット部12を、ガスケット9の第1面10及び第2面11と平行に延びるように形成する必要がある。これに対し、電解液又は電解生成ガスの漏洩率をより低減させるためには、形成するスリット部12の長さ及び厚さの正確さが要求されるので、製造に高い技巧が必要になる。また、図8に示した構造のガスケットに隔膜を保持させる場合、薄板状の隔膜6の縁部をスリット部12内の奥まで、隙間のないようにしっかりと収容する必要があるが、容易なことではない。このため、隔膜の取付に手間がかかり、製造の困難性に加えて、作業性にも劣るという課題もある。
【0010】
先に挙げた特許文献3には、上記した不具合を解消するため、下記の構造とすることが記載されている。ガスケットを、第1面と第1部分において、スリット部を画成する面とに連続して第1部分を分断する分断部、又は、第2面と第2部分においてスリット部を画成する面とに連続して第2部分を分断する分断部、を備えた構造が開示されている。そして、この分断部によって、隔膜をスリット部に収容するときに、第1部分又は第2部分をめくり上げて、隔膜をスリット部に収容している。しかし、このようにしてガスケットに隔膜を取り付けできるようにするためには、スリット部に分断部を形成しなければならず、ガスケットの構造は、かなり複雑になる。従って、上記したような構造にする場合は、ガスケットへの隔膜の取り付けの作業性を向上させるためにする手段が製造の困難性を増し、作業をより煩雑にしており、しかも、ガスケットの製造コストが高くなる。更に、上記の構成において、隔膜の厚さとスリット部の差が小さい場合は、隔膜をガスケットのスリット部の奥まで強固に保持させることは極めて困難である。
【0011】
更に、先に挙げた特許文献2に記載の構造のガスケットでは、上記したような問題はないものの、本発明者らの検討によれば、下記のような別の重大な技術課題がある。特許文献2に記載された構造のガスケットでは、図7(A)に示したように、ガスケットに取り付けた場合に、隔膜が、陽極と陰極とが対向して形成する間隔の中央部に配置される。このように、上記のガスケットを用いて隔膜を保持した場合、構造上、隔膜は、陽極及び陰極の何れにも接していない状態になる。このため、電解運転中に、薄いシート状の隔膜が確りと固定され難く左右に折り曲げられる不安定な状態が続き、隔膜は、陽極及び陰極と常に接触擦れ現象を起こし、隔膜の早期破損を防ぐことができない。すなわち、上記した従来技術では、先に挙げた課題に加えて、保持させた隔膜の耐久性に関する欠陥がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2002-332586号公報
【文献】特開2011-6767号公報
【文献】国際公開第2014/178317号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、構造がシンプルで製造が容易にできる電解槽用ガスケットであって、該ガスケットを用い、極めて容易な操作(動作)で簡便に隔膜を装着することができ、しかも、電解運転中に隔膜が折り曲げられることがなく、安定に隔膜を保持することができるため、電解運転中における隔膜の耐久性に優れ、ガスケットの基本的な機能である、電解槽から電解液や電解生成ガスが漏れるのを効果的に防ぐことができる、実用価値の高い電解槽用ガスケット及びそれを用いた電解槽を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。
本発明は、第1の解決手段として、下記の電解槽用ガスケットを提供する。
[1]陽極と陰極と、陽極と陰極とを隔離するシート状の隔膜よりなる電解槽に組み込まれた、前記隔膜を保持するための電解槽用ガスケットであって、
前記電解槽は、中央部に陽極室を形成するための開口部を有する額縁状に形成された陽極側金属枠体と、該陽極側金属枠体と同一形状の、中央部に陰極室を形成するための開口部を有する陰極側金属枠体とを有し、前記陽極側金属枠体の開口部に陽極が装着され、前記陰極側金属枠体の開口部に陰極が装着され、かつ、前記陽極側金属枠体と前記陰極側金属枠体との間に、前記電解槽用ガスケットが緊密な状態に挟持されており、
前記電解槽用ガスケットは、前記陽極側金属枠体及び前記陰極側金属枠体と略同じ形状を有する、一枚の、額縁状の薄板状枠体よりなり、
該額縁状の薄板状枠体は、前記陽極側金属枠体に密接する第一面と、前記陰極側金属枠体に密接する第二面とを有し、前記第一面及び前記第二面のいずれか一方の面上に、前記薄板状枠体の、前記陽極側又は前記陰極側の縁を含む一部の領域が均一の厚みで薄く削り取られてなる、前記隔膜の厚みと略同じ厚みの段差を有する切欠き部が形成された構造を有し、
前記隔膜の縁部が、前記切欠き部と、前記陽極側金属枠体あるいは前記陰極側金属枠体との間に形成される隙間に収容されて、前記隔膜が、前記陽極の表面あるいは前記陰極の表面のいずれかに、より近接した状態で保持されていることを特徴とする電解槽用ガスケット。
【0015】
本発明は、上記の電解槽用ガスケットの好ましい形態として下記の電解槽用ガスケットを提供する。
[2]更に、前記電解槽用ガスケットの外周面に押し付けられた状態で、絶縁性を有するガスケット押え板が装着されている上記[1]に記載の電解槽用ガスケット。
[3]前記電解槽用ガスケットが、電解液及び電解生成ガスに対して耐食性を有する弾性体からなる材料で形成されている上記[1]又は[2]に記載の電解槽用ガスケット。
【0016】
[4]前記陽極の隔膜側に、陽極触媒活性コーティングが施されているか、あるいは、陽極触媒活性コーティングが施されている陽極側ファインメッシュが装着されている、及び/又は、前記陰極の隔膜側に、陰極触媒活性コーティングが施されているか、あるいは、陰極触媒活性コーティングが施されている陰極側ファインメッシュが装着されている上記[1]~[3]のいずれかに記載の電解槽用ガスケット。
[5]前記陽極と前記陰極とのゼロギャップ化を図るため、前記陽極側ファインメッシュと前記陽極との間に、及び/又は、前記陰極側ファインメッシュと前記陰極との間に、スプリング材料が装着されている上記[4]に記載の電解槽用ガスケット。
【0017】
[6]前記陽極及び前記陰極が、エキスパンデッドメッシュ、打抜き多孔板、金網、及び、これらに類似する形状の、多数の孔を有する導電性電極材料からなる群から、独立して選ばれるいずれかの材料よりなる上記[1]~[5]のいずれかに記載の電解槽用ガスケット。
【0018】
[7]前記陽極側金属枠体の背面に、前記陽極室を形成するための陽極室枠体が接続されているとともに、前記陰極側金属枠体の背面に、前記陰極室を形成するための陰極室枠体が接続されている上記[1]~[6]のいずれかに記載の電解槽用ガスケット。
[8]前記陽極側金属枠体が、前記陽極室枠体の一部として形成されているとともに、前記陰極側金属枠体が、前記陰極室枠体の一部として形成されている上記[7]記載の電解槽用ガスケット。
【0019】
[9]前記隔膜は、前記隙間に収容されている縁部を除く隔膜の一方の面の全面が、前記陽極又は前記陽極に装着されている陽極側ファインメッシュに接触している状態で、あるいは、前記陰極又は前記陰極に装着されている陰極側ファインメッシュに接触している状態で、保持されている上記[1]~[8]のいずれかに記載の電解槽用ガスケット。
【0020】
[10]前記陽極、前記陽極側金属枠体、前記陽極室枠体、前記陰極、前記陰極側金属枠体、及び前記陰極室枠体が、それぞれ、ニッケル、ステンレス、鉄及びそれらの合金よりなる群より選ばれた少なくとも一つを含む材料からなり、
前記隔膜が、水溶液透過性の多孔質隔膜よりなり、
前記陽極室及び前記陰極室に導入される電解液が、共通した組成の苛性アルカリ金属水溶液であり、
前記電解槽が、アルカリ水電解槽である上記[1]~[9]のいずれかに記載の電解槽用ガスケット。
【0021】
[11]前記陽極、前記陽極側金属枠体及び前記陽極室枠体が、チタン又はチタン合金からなり、
前記陰極、前記陰極側金属枠体及び前記陰極室枠体が、ニッケル、ステンレス、鉄及びそれらの合金よりなる群より選ばれた少なくとも一つを含む材料からなり、
前記隔膜が、陽イオン交換膜よりなり、
前記陽極室及び前記陰極室に導入される電解液が、陰極側電解液と陽極側電解液よりなり、
前記陰極側電解液が、苛性アルカリ金属水溶液よりなり、
前記陽極側電解液が、ハロゲン化アルカリ金属水溶液よりなり、
前記電解槽が、食塩電解槽である上記[1]~[9]のいずれかに記載の電解槽用ガスケット。
【0022】
本発明は、別の実施形態として下記の電解槽を提供する。
[12]上記[1]~[11]のいずれかに記載の電解槽用ガスケットを備えてなることを特徴とする電解槽。
[13]更に、電解液を加圧しながら電解を行う構成の上記[12]に記載の電解槽。
【0023】
[14]上記[1]~[11]のいずれかに記載の電解槽用ガスケットを備えてなり、該ガスケットを構成する、前記第一面又は前記第二面が、それぞれが接する前記陽極側枠体又は前記陰極側枠体に接着剤で接着されていることを特徴とする電解槽。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、構造がシンプルで製造が容易にできる電解槽用ガスケットであって、該ガスケットを用い、極めて容易な操作(動作)で簡便に隔膜を装着することができ、しかも、電解運転中に隔膜が折り曲げられることがなく、安定に隔膜を保持することができるため、電解運転中における隔膜の耐久性に優れ、ガスケットの基本的な機能である、電解槽から電解液や電解生成ガスが漏れるのを効果的に防ぐことができる、実用価値の高い電解槽用ガスケット及びそれを用いた電解槽の提供が実現できる。
【0025】
詳しくは、本発明によれば、電解槽用ガスケットの構造を、下記のような特有の切欠き部を有するものにしたことで、該切欠き部に隔膜の縁部(端部)を所望の状態に収容して、隔膜を安定に保持させることができ、また、隔膜の保持のために要する操作が容易で、簡単に隔膜を装着できる、作業性に優れ、製作費が安価な電解槽用ガスケットの提供が可能になる。すなわち、陽極側金属枠体及び陰極側金属枠体と略同じ形状を有する、一枚の、額縁状の薄板状枠体よりなるガスケットを、電解槽に組み込まれた際に、陽極側金属枠体又は陰極側金属枠体と接する第一面又は第二面のいずれか一方の面上に、前記薄板状枠体の、前記陽極側又は前記陰極側の縁を含む一部の領域が均一の厚みで薄く削り取られてなる、前記隔膜の厚みと略同じ厚みの段差を有する切欠き部が形成された構造としたことで、上記効果が得られる。
【0026】
本発明によれば、上記特有の構造の切欠き部を有する電解槽用ガスケットを電解槽に適用することで、隔膜の縁部が、前記切欠き部と、前記陽極側金属枠体あるいは前記陰極側金属枠体との間に形成される隙間に収容されるため、収容した隔膜の中央部が、前記陽極の表面あるいは前記陰極の表面のいずれかに、より近接した状態で保持されるので、隔膜に撓みや皺、ねじれが生じることが少なく、無理な負荷がかかることも、隔膜に損傷を起こすこともなく、隔膜を長期間安定的に正常な状態で保持することが可能となる。
【0027】
更に、本発明の電解槽用ガスケットを電解槽に適用すると、前記隙間に収容されている縁部を除く隔膜の一方の面の全面が、前記陽極又は前記陽極に装着されている陽極側ファインメッシュに接触している状態で、あるいは、前記陰極又は前記陰極に装着されている陰極側ファインメッシュに接触している状態で、保持され、従来のガスケットを用いた場合のように、陽極と陰極の中間部に不安定な状態で保持されることはない。このため、本発明の電解槽用ガスケットを電解槽に適用することで、保持した隔膜に撓みや皺、ねじれが生じることが少なく、無理な負荷がかかることも、隔膜に損傷を起こすこともなく、隔膜を長期間安定的に正常な状態で保持するという上記効果が助長される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の電解槽用ガスケットの一例の構成を説明するための模式図である。
図2】本発明の電解槽用ガスケットを用いた電解槽の一例を説明するための模式図である。
図3】本発明の電解槽用ガスケットを使用して隔膜を保持させることを説明するための模式図である。
図4】本発明の電解槽用ガスケットを用いた電解槽の他の例を説明するための模式図である。
図5】本発明の電解槽用ガスケットに隔膜を保持させ方の一例を説明する模式図である。
図6】従来の電解槽用Oリングの一例の構成を示す模式図である。
図7(A)】従来の電解槽用ガスケットの一例の構成を示す模式図である。
図7(B)】従来の電解槽用ガスケットの別の一例の構成と、電解液が電解槽外部に漏出する状況を示す模式図である。
図8】従来の電解槽用ガスケットの他の一例の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明を詳細に説明するに当たり、先ず、本発明の電解槽用ガスケットを、その構造を模式的に示した一例の図1を参照して説明する。
【0030】
本発明の電解槽用ガスケット17は、図1に示すように、陽極側金属枠体2に接する第一面18と、陰極側金属枠体4に接する第二面19を有しており、電解槽用ガスケット17、陽極側金属枠体2、陰極側金属枠体4は、何れも、中央部に開口部を有し、額縁状に形成された角型又は円形等の形状をなしている。図1に例示した本発明の電解槽用ガスケットは、額縁状の薄板状枠体からなる電解槽用ガスケット17の、第一面18の面上に、前記薄板状枠体の中央近傍から前記陽極室側の縁に至るまでの、陽極側の縁を含む一部の領域が均一の厚みで薄く削り取られており、隔膜6の厚みと略同じ厚みの段差を有する切欠き部20が形成された構造を有してなる。その結果、図1及び図5に示したように、本発明の電解槽用ガスケットを電解槽に用いると、隔膜6の縁部が、切欠き部20の内部(段差部分)に容易に収容されて、電解槽用ガスケット17と陽極側金属枠体2との隙間に強固に保持される状態になる。図1の例では、陽極側金属枠体2に接する第一面18上に切欠き部20を設けているが、これに替えて、陰極側金属枠体4に接する第二面19上に切欠き部20を設けた構造としてもよい。
【0031】
図1中の21は、隔膜6を保持した際に電解槽用ガスケット17の上下動を防ぎ、ガスケットが金属枠体からはみ出すのを防止するための部材の、絶縁性の押え板である。該押え板は、図1に示したように、電解槽用ガスケット17の外周面に密着した状態で装着させる。押さえ板21の形状は、電解セルの形状に則したもので、円形状又は角形状の枠構造となる。押え板21は、ガスケットのズレを防止することで、電解槽24(図2等参照)内の気密性を向上させることができるため、多数のセルを積層させる大容量の電解槽や加圧運転を行う場合に効果的な処置である。なお、図2は、陽極室、陰極室の一対で組み立てられた例を記載しているが、複数積層される電解槽についても同一のことが適用される。
【0032】
陽極側金属枠体2の、中央部に形成される開口部には、エキスパンデッドメッシュ、打抜き多孔板、金網、及び、これらに類似する形状の、多数の孔を有する導電性電極材料からなる群から選ばれるいずれかの材料よりなる、板状又はメッシュ状の陽極1が装着されている。また、陰極側金属枠体4の、中央部に形成される開口部には、エキスパンデッドメッシュ、打抜き多孔板、金網、及び、これらに類似する形状の、多数の孔を有する導電性電極材料からなる群から選ばれるいずれかの材料よりなる、板状又はメッシュ状の陰極3が装着されている。そして、隔膜6は、その縁部分(端部)が、先に説明した電解槽用ガスケット17の切欠き部20内に保持されており、保持されている部分以外の隔膜6の一方の面が、全面にわたって陽極1に接触している状態になるように設置される。
【0033】
図3は、本発明の電解槽用ガスケット17に、隔膜6を保持させる構成を説明するための模式図である。図3に示した例の電解装用ガスケット17は、一枚の、額縁状の薄板状枠体よりなり、該枠体の一方の面(陽極側の面)上に、枠体の中央近傍から、前記陽極室側の縁に向かって該縁に至るまでの一部の領域が、均一の厚みで薄く削り取られてなる状態の、切欠き部20が形成されている。該切欠き部20は、隔膜6の厚みと略同じ厚み(段差)を有する構造を有している。そして、図3に示したように、前記隔膜6の外周部が、陽極側金属枠体2と切欠き部20との間に形成される隙間に収容され、上記切欠き部20内に収容される状態になる。電解槽用ガスケット17を構成する額縁状のシート状の枠体は、陽極側金属枠体及び前記陰極側金属枠体と略同じ形状を有するものであればよく、その外観形状が、例えば、角型や円形(環)であることが挙げられる。
【0034】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
図2は、電解槽としてアルカリ水電解槽24に用いた、本発明の電解装用ガスケットの第1実施態様を説明するための、模式的な断面図である。アルカリ水電解槽24を用いて行うアルカリ水電解では、25質量%~35質量%のKOH水溶液又はNaOH水溶液が電解液として用いられる。この電解液が、陽極室15及び陰極室16に供給されて電解が行われると、陽極室15より電解液及び酸素ガスを系外に排出し、陰極室16より電解液及び水素ガスを系外に排出する。排出された電解液は、系外において混合されて、陽極室15及び陰極室16に循環して、連続電解が行われる。
【0035】
本発明のアルカリ水電解槽24は、図2に例示したように、陽極側金属枠体2と、該陽極側金属枠体2に装着した陽極1と、該陽極1を含む陽極室15と、陽極側金属枠体2と同一形状の陰極側金属枠体4と、該陰極側金属枠体4に装着したる陰極3と、陽極1と陰極3とを隔離するための、陽極1と陰極3との間に設けられた隔膜6とを有してなる。上記アルカリ水電解槽24の特徴は、陽極側金属枠体2と陰極側金属枠体4との間に挟持させた特有の形状を有する電解槽用ガスケット17によって、隔膜6を、図2に示した状態で保持させるようにした点にある。すなわち、図2に示したように、本発明の切欠き部20を有する電解槽用ガスケット17を用いたことで、該電解槽用ガスケット17と陽極側金属枠体2との間に形成される隙間に、隔膜6の縁部を、緊密な状態に容易に収容させることができる。その結果、隔膜6の陽極側の面が、略全面にわたって、陽極1に、より近接した状態に保持された構成になる。上記の説明は、図2に示した、陽極1側に寄せて隔膜6を保持させるように構成した例で行ったが、上記と同様にして、陰極側2に寄せて隔膜6を保持するように構成することもでき、この場合も、同様に本発明の効果が得られる。
【0036】
陽極側金属枠体2は、中央部に陽極室を形成するための開口部を有する、例えば、外観形状が、角型又は円形(環)等である、額縁状の形状をしている。該陽極側金属枠体2の開口部には、陽極1が装着される。陽極1は、エキスパンデッドメッシュ、打抜き多孔板、金網、或いは、これらに類似する形状の、多数の孔を有する導電性電極材料よりなる。陰極側金属枠体4は、上記陽極側金属枠体と同一形状をしており、中央部に陰極室を形成するための開口部を有する、角型又は円形等の額縁状の形状をしている。該陰極側金属枠体4の開口部には、陰極3が装着される。陰極3は、エキスパンデッドメッシュ、打抜き多孔板、金網、或いは、これらに類似する形状の、多数の孔を有する導電性電極材料よりなる。
【0037】
第1実施形態のアルカリ水電解槽では、導電性電極材料からなる陽極1及び陰極3に、何れも、ニッケルメッキした鉄板、ニッケル又はニッケル合金が使用されている。陽極側金属枠体2と陰極側金属枠体4も、陽極1及び陰極3と同一の、ニッケルメッキした鉄板、ニッケル又はニッケル合金によって形成することができる。これらを同一の材料で形成した場合、陽極1及び陰極3は、それぞれ、陽極側金属枠体2、陰極側金属枠体4の、隔膜6側に位置する面に、溶接等の手段により装着することができる。
【0038】
本発明を特徴づける電解槽用ガスケット17は、前記陽極側金属枠体2及び前記陰極側金属枠体4と略同じ形状を有する、一枚の、額縁状の薄板状枠体よりなる。そして、図2に示したように、前記陽極側金属枠体2と、前記陰極側金属枠体3との間に、緊密な状態に挟持される。電解槽用ガスケット17は、図1に示したように、前記陽極側金属枠体2に密接する第一面18と、前記陰極側金属枠体4に密接する第二面19とを有する。本発明の電解槽用ガスケット17は、前記第一面18及び前記第二面19のいずれか一方の面上に、特有の形状の切欠き部20が形成されていることを特徴とする。
【0039】
以下、図1図3及び図5を参照して、第一面18上に設けられた切欠き部20の詳細について説明する。切欠き部20は、電解槽用ガスケット17の、額縁状の薄板状枠体の中央近傍から、前記陽極室15側の縁に至るまでの縁を含む一部の領域が、均一の厚みで薄く削り取られた形状をしており、切欠き部20により、前記第一面18上に、該第一面18と特定の厚みの段差を有する凹面が形成される。
【0040】
図3に示したように、切欠き部20によって形成される段差(厚さ)Wは、隔膜6の厚みMと略同じ厚みを有する。本発明の電解槽用ガスケットは、上記特有の形状の切欠き部20が形成された構造を有するため、図1に示したように、隔膜6の縁部が、前記切欠き部20と、前記陽極側金属枠体2との間に形成される隙間に容易に収容できるとともに、隔膜6が保持された部分を緊密な状態にできる。そして、図2に示したように、上記特有の形状の切欠き部20を有する本発明の電解槽用ガスケット17を電解槽に用いることで、隔膜6は、陽極1と対向する全面が、陽極1の表面に、より近接した状態で保持されることになる。すなわち、本発明の電解槽用ガスケットを用いることで、従来技術のガスケットを用いた場合のように、隔膜6が、陽極1と陰極3の中間部に保持されることはなく、陽極1の表面に接触して、陽極1側に安定な状態で保持される。
【0041】
上記したように、電解槽において、本発明の電解槽用ガスケット17を用いて隔膜6を保持すると、図2に示したように、隔膜6の、切欠き部20内に収容されている縁部を除く隔膜6の一方の面の全面が、陽極1の表面近傍に固定されているような状態で安定に保持されるため、隔膜に、撓みや皺、ねじれが生じることが少なく、無理な負荷がかかることも抑制される。このため、隔膜に損傷を起こすことが抑制されるので、電解槽内の隔膜を長期間安定的に正常な状態で保持することが実現できる。先に述べたように、上記の説明は、陽極1側に寄せて隔膜6を保持させるように構成した例で行った。尚、上記と同様にして、陰極側2に寄せて隔膜6を保持する構成とした場合も同様に、上記した本発明の効果が得られる。
【0042】
上記に例示したアルカリ水電解槽24において、使用する電解液の種類や、発生するガスの性状にも因るが、陽極側金属枠体2又は陰極側金属枠体4と、緊密な状態に挟持させた電解槽用ガスケット17の間で生じる隙間腐食を防止するため、陽極側金属枠体2又は陰極側金属枠体4の表面に耐食性コーティングを施してもよい。
【0043】
また、電解槽用ガスケット17の形成材料には、電解液及び電解生成ガスに対して耐食性を有する弾性体が使用することが好ましい。例えば、次にあげるような弾性体を適宜に選択して用いることができる。天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム(SR)、エチレン-プロピレンゴム(EPT)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、ウレタンゴム(UR)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)等を用いることができる。
【0044】
隔膜6の形成材料としては、水溶液透過性の隔膜であればよく、特に限定されない。例えば、アスベスト隔膜、PPS(ポリフェニレンサルファイド)の不織布、PTFE(ポリテトラフルオルエチレン)やPSF(ポリサルフォン又はポリスルホン)などのポリマーを含浸させた化学的耐性のある不織布等が、好適に使用される。隔膜の厚みは、100μm~650μm程度であり、特に限定されない。
【0045】
本発明の電解槽用ガスケット17は、図3に示したように、切欠き部が形成されない上部(薄板状枠体の外周側)の充填部26と、下部(薄板状枠体の中央側)の切欠き形成部27よりなる。また、電解槽に設置された場合に、陽極側金属枠体2に密接する第一面18と、陰極側金属枠体4に密接する第二面19を有している。そして、先に説明したように、電解槽用ガスケット17の第一面18上には、切欠き形成部27に、上記した充填部26との境目から、切欠き形成部27の縁までの領域に、隔膜6の厚みとほぼ同じ厚み(段差)を有するように設計した切欠き部20が設けられている。電解槽用ガスケット17を構成する第一面18の、切欠き形成部27の領域より上方(外周側)の充填部26は、電解槽に設置された場合に、陽極側金属枠体2に面接触した状態になる。
【0046】
図3に、本発明の電解槽用ガスケット17の各部についての寸法を示すための符号を示した。具体的な寸法は、個々の電解槽のサイズによって適宜設定される。また、図3は、電解槽に、電解槽用ガスケット17を組み入れて設置する際における設置前の、各構成要素が密着していない状態で示してある。以下、図3を参照して説明する。
【0047】
切欠き部20の長さLは、隔膜6を保持できる程度の長さに、電解槽のサイズや、電極反応面積に合わせ適宜設計すればよく、例えば、5~30mm程度、好ましくは10mm~20mmである。切欠き部20の深さ(段差或いは厚みとも呼ぶ)Wは、隔膜の厚みに応じて適宜に設定すればよく、例えば、0.1~1.0mm程度である。本実施形態では、切欠き部20の深さWは、隔膜の厚みMと略同等であり、例えば、0.5mm程度である。電解槽用ガスケット17の長さC(枠体の幅C)は、20mm~50mm程度であり、充填部26の長さAは、10mm~40mm程度、切欠き形成部27の長さBは、5mm~30mm程度、隔膜の厚みMは、100μm~650μm程度である。本発明者らの検討によれば、充填部26の長さAと、切欠き形成部27の長さBとの比は、A:B=1:1~2:1程度であることが、隔膜6を緊密な状態に挟持し、より液漏れを発生させないようにするためには好ましい。但し、この関係も、使用するガスケットの特性(強度、弾性、延伸性等)に影響を受けるため、この限りではない。
【0048】
一方、図2に示した電解槽用ガスケット17の第二面19は、その全面が陰極側金属枠体4に面接触しており、電解槽用ガスケット17と陽極側金属枠体2及び陰極側金属枠体4とに隙間は全くなく、これらの接触面から電解槽24内の電解液及び電解生成ガスが、外部に漏えいすることはない。
【0049】
隔膜6の上下の両端の縁部は、電解槽用ガスケット17(以下、単に「ガスケット」とも呼ぶ。)の切欠き部20内に挿入した後、陽極側金属枠体2及び陰極側金属枠体4の両側からタイロッド25(図2図4参照)、又は油圧手段(不図示)等その他の締付手段により締め付けることが好ましい。このように構成することにより、隔膜6の外周部は、ガスケット17の切欠き部20内に緊密な状態で収容されて、ガスケット17の切欠き部20の内部の各辺により強固に保持されるとともに、ガスケット17の第一面18上部及び第二面19の全面と、陽極側金属枠体2及び陰極側金属枠体4によって緊密な状態になり、密閉される。このため、電解槽24内から、電解液及び電解生成ガスが外部に漏れることを、より確実に防止できるようになる。
【0050】
電解槽に電解槽用ガスケット17を用いた場合、隔膜6の一方の面の電極に対向する全面が、陽極1と陽極側金属枠体2、あるいは、前記陰極3と前記陰極側金属枠体4に接触している状態になる。すなわち、図2に示した例では、電解槽用ガスケット17の切欠き部20内に、外周部(縁部)が収容保持された隔膜6の陽極側の面は、その全面が、陽極側金属枠体2及び陽極1にそれぞれ接触した状態になる。このため、接触した部分の断面形状が、図2に示したように、陽極側金属枠体2とガスケット17との接触部と、電解槽用ガスケット17内の隔膜6の陽極側の面と陽極側金属枠体2との接触部と、陽極1と隔膜6との接触部の、いずれもが一直線上に配置されて保持された状態になる。
【0051】
従って、隔膜6は、陽極1と陰極3の中間部に不安定に保持されることはなく、陽極1の表面に沿った状態(積層されているような状態)で、固定された一平面の状態で保持される。このため、電解運転中に隔膜6に、撓みや皺、ねじれが生じることがなく、しかも、無理な負荷がかかることもなく、隔膜6に損傷を起こすことが格段に抑制される。その結果、隔膜6を長期間安定的に使用することが可能となるので、資源の有効利用及び経済的な効果も期待できる。尚、隔膜6が保持された際の配置を、上記に挙げた複数の接触部が一直線上に保持された状態にすることにより、隔膜6に屈曲する箇所の発生率が低下し、隔膜損傷率が低減できる。しかし、陽極1又は陰極3の取り付け位置によっては、必ずしも、隔膜6の一方の面の、保持された部分を除いた全面と、陽極1又は陰極3が接触した状態でなくてもよく、その間隔が狭ければよい。
【0052】
図2に示したように、陽極側金属枠体2の背面には、陽極室15を形成する陽極室枠体22が接続されており、陰極側金属枠体4の背面には、陰極室16を形成する陰極室枠体23が接続されている。陽極室枠体22及び陰極室枠体23は、陽極側金属枠体2及び陰極側金属枠体4と同一の材料で形成することができる。また、陽極1、陽極側金属枠体2、陽極室枠体22、陰極3、陰極側金属枠体4、陰極側金属枠体23は、全て、ニッケルメッキした鉄板、ニッケル又はニッケル合金等の同一の材料で形成することもできる。尚、電解槽用ガスケットの第一面18又は第二面19は、それぞれが接する陽極側金属枠体2又は陰極側金属枠体4に接着剤により接着してもよい。大型実機の場合、セル組立を現場で立てたまま実施する場合があるので、接着剤の利用はこのような時に有効である。一方、小型の場合は、横にしたまま組み立てる場合が多く、この場合、接着剤は不用である。
【0053】
〔第2実施形態〕
第1の実施態様においては、陽極側金属枠体2に接するガスケット17の第一面18の切欠き形成部27に切欠き部20を設けた例について説明した。第2実施形態では、これとは逆側の、陰極側金属枠体4に接するガスケット17の第二面19に、切欠き形成部27を設けて、切欠き部20を形成した(不図示)。この例では、ガスケット17の第二面19の中央より上方の充填部26を、陰極側金属枠体4に面接触させ、一方、ガスケット17の第一面18は、その全面を陽極側金属枠体2に面接触させる。この場合、陰極側金属枠体4及び陰極3は、同一の平面状に配置された構成になる。このため、ガスケット17の陰極側に設けられた切欠き部20内に、縁部が収容保持された隔膜6は、隔膜6の全面が、陰極側金属枠体4及び陰極3に接触した状態となり、隔膜6が、陰極3の表面に沿った状態(積層されているような状態)で、固定された一平面の状態に保持されることになる。
【0054】
従って、第2実施形態の場合も前記第1実施形態と同様に、隔膜6の中央の部分は、図6~8に示した従来のガスケットを用いた場合のように、陽極1と陰極3の中間部に不安定な状態に保持されることはなく、陰極3の表面に沿って接触した状態で直線的に保持される。このため、隔膜6にねじれが生じることがなく、しかも、無理な負荷がかかることもなく、隔膜6に損傷を起こすこともなく、隔膜6を長期間安定的に使用することが可能となる。
【0055】
〔第3実施形態〕
第3実施形態では、第1実施形態又は第2実施形態の構成に加えて、陽極1に、隔膜6側の表面に陽極活性化触媒を被覆したものを用い、陰極3に、隔膜6側の表面に陰極活性化触媒を被覆したものを用いる。このように構成することによって、電解槽の高性能化を図ることが可能となる。更に、本発明の電解槽を高性能化するためには、陽極1の隔膜6側の表面に、陽極触媒活性コーティングを施した陽極側ファインメッシュ28を装着し、及び/又は、陰極3の隔膜6側表面に、陰極触媒活性コーティングを施した陰極側ファインメッシュ29を装着することが好ましい。
【0056】
電解槽の更なる高性能化を図るためには、陽極側ファインメッシュ28と陽極1、及び/又は、陰極側ファインメッシュ29と陰極3との間に、スプリング材料30を装着し、陽極1と陰極3とのゼロギャップ化を図ることが好ましい。スプリング材料としては、ニッケル基材のクッションコイルが好適に使用できる。図4に、陰極側ファインメッシュ29と陰極3との間に、スプリング材料30を装着した電解槽の例を示した。図4のような構成とすることによって、陽極1と陰極3とのゼロギャップ化が図られ、電解槽の更なる高性能化が図られる。
【0057】
〔第4実施形態〕
本発明の電解槽用ガスケットは、アルカリ水電解槽に好適であるが、食塩電解の電解槽や、その他の電解槽、例えば、純水電解、非精製水の電解、臭化物水溶液電解、塩酸水溶液電解、硫酸水溶液電解等の電解槽にも適用することができる。本発明を食塩電解槽に適用するためには、隔膜6として、陽イオン交換膜を使用し、電解槽の陽極室15及び陰極室16を、前記陽イオン交換膜により隔離し、陽極側電解液として食塩水を使用し、陰極側電解液として、苛性アルカリ金属水溶液とする。
【0058】
〔第5実施形態〕
更に、本発明の電解槽用ガスケット及び電解槽は、加圧システムにおいても適用することができる。尚、加圧システムの場合は、陽極室、陰極室がともに加圧される。このとき陽極側より陰極側の圧力を少し高め、陰極加圧の制御をすることで陰極側から集められる水素純度は高くなる傾向があり、運転管理としては陰極加圧が好ましい。一方、隔膜の種類にもより、電解液が透過し易い隔膜では、その陰極加圧も水柱10cm-HO程度の小さなもの、又は同圧を採用することになる。
【0059】
〔第6実施形態〕
更に、本発明の電解槽用ガスケット及び電解槽は、単極式の電解槽だけでなく複極式電解槽にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、一枚のガスケットにより、簡単な装着操作により、隔膜を電解槽内部に収容保持することができ、しかも、電解液や電解生成ガスが電解槽の内部から漏れるのを確実に防ぐことができる。更に、特有の形態の切欠き部を有する構成としたことで、隔膜を、電極に接触する電極に沿った位置に保持することができるため、電解運転中に、隔膜が左右に屈曲して、隔膜に損傷を起こすことなく、隔膜を長期間安定的に使用することが可能になる。本発明の電解槽用ガスケットは、様々な電解槽に適用できるため、幅広い分野においての利用が期待される。
【符号の説明】
【0061】
1:陽極
2:陽極側金属枠体
3:陰極
4:陰極側金属枠体
5:О-リング
6:隔膜
7:陽極側ガスケット
8:陰極側ガスケット
9:電解槽用ガスケット(従来技術)
10:第一面(従来技術)
11:第二面(従来技術)
12:スリット部
13:充填部
14:スリット形成部
15:陽極室
16:陰極室
17:電解槽用ガスケット
18:第一面
19:第二面
20:切欠き部
21:押え板
22:陽極室枠体
23:陰極室枠体
24:アルカリ水電解槽
25:タイロッド
26:充填部
27:切欠き形成部
28:陽極側ファインメッシュ
29:陰極側ファインメッシュ
30:スプリング材料

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7(A)】
図7(B)】
図8