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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-10
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】連続鋳造用の耐火物及び耐火物部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/101 20060101AFI20220511BHJP
   B22D 41/54 20060101ALI20220511BHJP
【FI】
C04B35/101
B22D41/54
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022032063
(22)【出願日】2022-03-02
【審査請求日】2022-03-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 玲
(72)【発明者】
【氏名】森川 勝美
(72)【発明者】
【氏名】松本 成史
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平1-176266(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0277951(US,A1)
【文献】特開昭60-96567(JP,A)
【文献】特許第6027676(JP,B2)
【文献】特開2013-35040(JP,A)
【文献】特開2017-127886(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/10 - 35/119
B22D 41/54
B22D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フリーの炭素成分を10質量%以上30質量%以下含み、残部の主鉱物相がコランダム、スピネル及びペリクレースから選択される1種又は2種以上からなり、前記ペリクレースの含有量は40質量%未満であり、かつ、シリカ成分及び炭化珪素成分の含有量が合計で15質量%未満である連続鋳造用の耐火物において、
当該耐火物の構成物からフリーの炭素成分からなる構成物を除いた部分を100体積%としたときに、粒径0.3mm超の耐火物粒子が20体積%以上、粒径0.045mm以下の耐火物粒子が3体積%以上30体積%以下であり、
当該耐火物中の耐火物粒子のうち、少なくとも最大粒子サイズの粗大粒子の周りに当該粗大粒子の形状に相似したほぼ連続した空隙層が存在し、このほぼ連続した空隙層のうち両端に存在する炭素を含有するマトリックス組織と当該粗大粒子との界面における空隙層の合計厚みが、当該粗大粒子の粒子サイズに対して0.3%以上3.0%以下であり、
更に、見掛気孔率が16%以下であり、かつ1500℃までの最大の熱膨張率が0.6%以下である、連続鋳造用の耐火物。
【請求項2】
前記粒径0.3mm超の耐火物粒子が30体積%以上、前記粒径0.045mm以下の耐火物粒子が5体積%以上15体積%以下である、請求項1に記載の連続鋳造用の耐火物。
【請求項3】
ホウ素成分をB換算値で0.1質量%以上3.0質量%以下含む、請求項1又は2に記載の連続鋳造用の耐火物。
【請求項4】
マトリックス組織中にアスペクト比が15以上200以下の炭素繊維を含み、前記炭素繊維の含有量は5質量%以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の連続鋳造用の耐火物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の連続鋳造用の耐火物が、溶鋼と接触する部位の一部又は全部に配置されている、連続鋳造用の耐火物部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用の耐火物、及びその耐火物を使用した連続鋳造用のノズル等の耐火物部材に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは特許文献1において、優れた耐食性と耐熱衝撃性とを兼ね備えた連続鋳造用の耐火物を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6027676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが、特許文献1に開示した耐火物を使用した耐火物部材を試作して試験を重ねたところ、耐食性及び耐熱衝撃性の更なる向上が望まれることがわかった。
すなわち、特許文献1に開示した耐火物はマグネシア(ペリクレース)を40質量%以上含有することから、CaO、MnO等の塩基性の介在物を含む鋼種に対しては優れた耐食性を示す反面、SiO等の酸性の介在物を含む鋼種に対しては耐食性が十分ではないことがわかった。また、特許文献1に開示した耐火物では、使用時にマグネシア-カーボン反応(下記(1)の反応)が起こり、特に繰り返し使用すると組織が変質すると共に高弾性率化して耐熱衝撃性が低下することもわかった。
MgO(固体) + C(固体)→ Mg(ガス)+ CO(ガス) (1)
近年、連続鋳造用のノズル等、連続鋳造用の耐火物部材においては、予熱が十分でない状態、又は無予熱状態で使用される場合も多くなってきていることから、耐熱衝撃性の更なる向上が望まれるところである。
【0005】
本発明が解決しようする課題は、連続鋳造用の耐火物及び耐火物部材の耐食性及び耐熱衝撃性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、マグネシア(ペリクレース)を多く含有することによる上述のデメリットを踏まえ、マグネシア(ペリクレース)の含有量を40質量%未満に制限することとし、そのうえで耐食性及び耐熱衝撃性を向上させるために試験及び検討を重ねたところ、耐火物の緻密化を図りつつ耐火物内部の気孔形態を制御することが肝要であることを知見した。そして、そのためには耐火物中の耐火物粒子の粒度構成(体積割合)が重要な制御因子の一つであることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の連続鋳造用の耐火物が提供される。
フリーの炭素成分を10質量%以上30質量%以下含み、残部の主鉱物相がコランダム、スピネル及びペリクレースから選択される1種又は2種以上からなり、前記ペリクレースの含有量は40質量%未満であり、かつ、シリカ成分及び炭化珪素成分の含有量が合計で15質量%未満である連続鋳造用の耐火物において、
当該耐火物の構成物からフリーの炭素成分からなる構成物を除いた部分を100体積%としたときに、粒径0.3mm超の耐火物粒子が20体積%以上、粒径0.045mm以下の耐火物粒子が3体積%以上30体積%以下であり、
当該耐火物中の耐火物粒子のうち、少なくとも最大粒子サイズの粗大粒子の周りに当該粗大粒子の形状に相似したほぼ連続した空隙層が存在し、このほぼ連続した空隙層のうち両端に存在する炭素を含有するマトリックス組織と当該粗大粒子との界面における空隙層の合計厚みが、当該粗大粒子の粒子サイズに対して0.3%以上3.0%以下であり、
更に、見掛気孔率が16%以下であり、かつ1500℃までの最大の熱膨張率が0.6%以下である、連続鋳造用の耐火物。
【0008】
また、本発明の他の観点によれば、上記本発明の連続鋳造用の耐火物が、溶鋼と接触する部位の一部又は全部に配置されている連続鋳造用の耐火物部材が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、連続鋳造用の耐火物及び耐火物部材の耐食性及び耐熱衝撃性を向上させることができる。これにより、無予熱状態で使用される使用環境においても優れた耐用性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の耐火物において骨材としての耐火物粒子及びその周辺の構造を示すイメージ図であり、(a)は周りに粒子アウトラインと相似形の空隙層を有し、粒子がほぼ中心に位置する場合(本発明の典型例)、(b)は耐火物粒子周りに粒子アウトラインと相似形の空隙層を有し、粒子が空隙層の内壁面のどちらか一方に偏って位置する場合(顕微鏡観察用試料作製時に発生する偏在等の例)である。
図2】本発明の耐火物を適用した耐火物部材の一形態である浸漬ノズルの一例を示す断面図。
図3】本発明の耐火物を適用した耐火物部材の一形態である浸漬ノズルの他の例を示す断面図。
図4】鋼の連続鋳造設備の例で、連続鋳造用の耐火物部材の設置例を示す説明図。
図5】本発明の耐火物を適用した耐火物部材の一形態であるロングノズルの一例を示す断面図。
図6】本発明の耐火物を適用した耐火物部材の一形態である下部ノズルの一例を示す断面図。
図7】本発明の耐火物を適用した耐火物部材の一形態であるロングノズルの他の例を示す断面図。
図8】本発明の耐火物を適用した耐火物部材の一形態であるロングストッパーの一例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記課題を解決するためには上述の通り、耐火物の緻密化を図りつつ耐火物内部の気孔形態を制御することが肝要である。そこで、本発明者らは、3次元的に連続した炭素を含有するマトリックス組織(以下「炭素質マトリックス」という。)中に、骨材となる粒径0.3mm超の耐火物粒子がそれぞれ連続しないように独立して存在すると共に、これら耐火物粒子のうち少なくとも最大粒子サイズの粗大粒子の周りに当該粗大粒子の形状に相似したほぼ連続した空隙層が存在する耐火物組織を志向した。すなわち、このような耐火物組織とすることで、耐火物の熱膨張に大きく寄与する粗大粒子の熱膨張がその粒子周りのほぼ連続した空隙層で吸収され、結果として粗大粒子の熱膨張が見かけ上消失してしまう効果が得られる。すなわち、受熱過程において粗大粒子の周りに空隙層が存在する間は、耐火物の熱膨張量は、主に3次元的に連続した炭素質マトリックス部分の熱膨張量が主体となり、耐火物の熱膨張を低減することが可能となる。
更に本発明では、粒径0.3mm超の耐火物粒子(以下「粗粒の耐火物粒子」という。)及び粒径0.045mm以下の耐火物粒子(以下「微粒の耐火物粒子」という。)の体積割合を限定することにより、耐火物の緻密化を図りつつ上述のような耐火物内部の気孔形態の制御を実現し、もって連続鋳造用の耐火物及び耐火物部材の耐食性及び耐熱衝撃性の向上を実現した。以下、具体的に説明する。
【0012】
本発明の耐火物は、フリーの炭素成分を10質量%以上30質量%以下含有する。ここで「フリーの炭素成分」とは、BC、SiCなどの炭化物等の化合物以外の、不可避の不純物を除く炭素成分単体からなる炭素成分を指し、各種の有機系結合剤、ピッチ、タール、カーボンブラックが加熱を受けることにより生成した、非晶質か黒鉛など結晶質かにかかわらず、また、粒子状(繊維状を含む)か、特定の形状をなしていない連続的又は断続的状態で耐火物組織中に存在する等の、形状・構造にかかわらず耐火物組織中に存在する炭素成分全てを指す。
フリーの炭素成分の含有量が10質量%未満であると、耐火物組織内で3次元的に連続した炭素質マトリックスが形成されず、十分な低膨張化効果が得られない。また、30質量%を超えると、溶鋼、スラグ等による炭素質マトリックスの損傷が激しくなり、耐火物の溶損量が増加して耐食性が低下する。また、フリーの炭素成分源として黒鉛等を多く使用した場合、成形性が低下して耐火物の緻密性が損なわれ、この点からも耐食性が低下する。フリーの炭素成分の含有量は15質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の耐火物の主鉱物相は、コランダム、スピネル及びペリクレースから選択される1種又は2種以上からなる。ただし、ペリクレースの含有量は40質量%未満に制限する。ペリクレース(マグネシア)の含有量が40質量%以上であると、上述のようなデメリットが生じるからである。なお、ペリクレースの含有量は35質量%以下が好ましい。
ここで、本発明において「主鉱物相」とは、耐火物中の鉱物相のうち最も多い鉱物相のことをいい、最も多い鉱物相が2種以上存在する場合はいずれも主鉱物相とするものとする。また、複数の鉱物相を含む耐火物粒子が含まれる場合は、その耐火物粒子に含まれる複数の鉱物相のそれぞれを、他の耐火物粒子に含まれる同種の鉱物相と合算して「主鉱物相」を決定するものとする。
【0014】
本発明の耐火物において、シリカ成分及び炭化珪素成分の含有量は合計で15質量%未満に制限する。シリカ成分及び炭化珪素成分の含有量が合計で15質量%以上になると、耐食性の低下が顕著になるからである。なお、炭化珪素成分にはフリーの炭素成分等の酸化を抑制する機能があるので15質量%未満の範囲内で適宜含有させることができ、例えば5質量%以下であれば、耐食性を実質的に低下させることなく酸化抑制機能を発揮させることができる。
【0015】
次に、本発明の特徴の一つである耐火物中の耐火物粒子の粒度構成(体積割合)について説明する。
本発明において耐火物中の耐火物粒子の粒度構成(体積割合)は、耐火物の構成物からフリーの炭素成分からなる構成物を除いた部分を100体積%としたときに、粗粒の耐火物粒子が20体積%以上、微粒の耐火物粒子が3体積%以上30体積%以下であることを特徴とする。
粗粒の耐火物粒子が20体積%未満では、相対的に微粒又は後述する中粒の耐火物粒子の体積割合が増加するから、耐火物中の耐火物粒子の個数が増加する。その結果、耐火物粒子が連続して存在する耐火物組織となり高膨張となる。そのため耐熱衝撃性が低下する。粗粒の耐火物粒子の体積割合の上限は特に限定されないが、連続鋳造用の耐火物として求められる強度や耐食性などの所要特性を安定的に確保する観点からは、例えば60体積%以下とすることができる。粗粒の耐火物粒子の体積割合は30体積%以上であることが好ましく、40体積%以上60体積%以下であることがより好ましい。また、粗粒の耐火物粒子の粒径の上限も特に限定されないが、同じく連続鋳造用の耐火物として求められる強度や耐食性などの所要特性を安定的に確保する観点からは、3mm以下とすることが好ましく、1mm以下とすることがより好ましい。すなわち、本発明の耐火物は、粗粒の耐火物粒子として粒径0.3mm超1mm以下に加えて粒径1mm超3mm以下も含み得るが、粒径1mm超3mm以下の体積割合は、耐火物の構成物からフリーの炭素成分からなる構成物を除いた部分を100体積%としたときに、15体積%以下であることが好ましく、0体積%である、すなわち粒径1mm超3mm以下の耐火物粒子を含まないことがより好ましい。
【0016】
また、微粒の耐火物粒子の体積割合が3体積%未満では、緻密な耐火物が得られず耐食性が低下する。一方、微粒の耐火物粒子の体積割合が30体積%を超えると耐火物中の耐火物粒子の個数が増加することから、耐火物粒子が連続して存在する耐火物組織となり高膨張となる。そのため耐熱衝撃性が低下する。微粒の耐火物粒子の体積割合は5体積%以上15体積%以下であることが好ましい。なお、本発明の耐火物において微粒の耐火物粒子は基本的に炭素質マトリックス中に存在する。
【0017】
以上、粗粒(粒径0.3mm超)及び微粒(粒径0.045mm以下)の耐火物粒子の体積割合について説明したが、本発明の耐火物は中粒(粒径0.045mm超0.3mm以下)の耐火物粒子を適宜含む。その体積割合は、耐火物の構成物からフリーの炭素成分からなる構成物を除いた部分を100体積%としたときに、粗粒の耐火物粒子の体積割合及び微粒の耐火物粒子の体積割合の残部であり、具体的には10体積%以上77体積%以下であることが好ましく、30体積%以上70体積%以下であることがより好ましい。
【0018】
ここで、本発明において耐火物粒子の粒径とは、耐火物粒子を篩いで篩って分離したときの篩い目の大きさのことであり、例えば粒径0.045mm以下の耐火物粒子とは、篩い目が0.045mmの篩いを通過する耐火物粒子のことで、粒径0.3mm超の耐火物粒子とは、篩い目が0.3mmの篩い目を通過しない耐火物粒子のことである。
【0019】
次に、本発明の耐火物の組織について詳細に説明する。本発明の耐火物の基本的な組織形態は、上述の通り3次元的に連続した炭素質マトリックス中に、骨材となる粒径0.3mm超の耐火物粒子がそれぞれ連続しないように独立して存在すると共に、これら耐火物粒子のうち少なくとも最大粒子サイズの粗大粒子の周りに当該粗大粒子の形状に相似したほぼ連続した空隙層が存在する耐火物組織である。具体的には、このほぼ連続した空隙層のうち両端に存在する炭素質マトリックスと当該粗大粒子との界面における空隙層の合計厚みが、当該粗大粒子の粒子サイズに対して0.3%以上3.0%以下である耐火物組織である。
【0020】
ここで「ほぼ連続した空隙層」とは、骨材としての耐火物粒子の周りの顕微鏡による断面観察において、粒子断面形状のアウトラインとほぼ相似形に拡大した空隙アウトラインを有し、空隙部の内部に粒子が鈴玉のように存在することを意味する(図1(a)参照)。すなわち、空隙層内に耐火物粒子の熱膨張の妨げとなる炭素等の構造物が存在する構造ではなく、かつ空隙層が不均一であるか又は空隙が存在しないで耐火物粒子相互又は耐火物粒子と炭素質マトリックスが直接接触している部分がランダムに存在することがないことを意味する。
なお、本発明の耐火物では骨材としての耐火物粒子の周り全体に、すなわち「連続した状態」で空隙層が存在するが、これを顕微鏡観察で検証しようとすると、いわば空間内に固定されずに浮いたように耐火物粒子が存在しているので、耐火物から試料を作製する際に、耐火物粒子表面の一部では周囲の他の耐火物粒子や炭素質マトリックスと接触する部分も生じ得る。(図1(b)参照)。そこで、検証での実態を考慮して「ほぼ連続した」との表現を用いている。実際には耐火物粒子周り全体に空隙層が存在しているものの、例えば顕微鏡観察試料での検証時に、一部に他の耐火物粒子や炭素質マトリックスと接触している部分があっても、その部分は耐火物粒子を固定する程度の「結合又は接着」された状態ではない。すなわち、このような「ほぼ連続した空隙層」によって耐火物粒子の熱膨張を吸収し、これにより耐火物の低膨張化を実現することが可能となる。
【0021】
耐火物の熱膨張量を低減する観点からは、耐火物粒子周りの空隙層の厚さは厚いほどよく、また、骨材としての全ての耐火物粒子周りに空隙層が存在することが好ましい。しかし、耐火物粒子周りの空隙層は耐火物の強度を低下させる原因となるため、熱膨張量と強度、損傷等とのバランスをとりながら空隙層の厚みを調整する必要がある。
【0022】
空隙層厚みと粒子サイズとの比率(粒子当たりの空隙層厚さ率:MS値(マイクロスペース値))は、大きな粒子ほどその比率は小さく、小さな粒子ほどその比率は大きくなることになる。したがって、耐火物粒子のうち最大粒子サイズの粗大粒子のMS値を特定することは、耐火物組織での粒子1個当たりの空隙層厚さ率の下限値を特定することになり、大凡の耐火物の耐熱衝撃性を評価することが可能となる。
【0023】
ここで、MS値とは、粗大粒子径Dに対する当該粗大粒子と炭素質マトリックスとの間の空隙層厚さL(粒子両サイドでの空隙層厚さの合計をLとする)の比率であり、以下の式より求めるものである。
MS値=(L/D)×100(%)
【0024】
具体的に、本発明においてMS値(%)は、以下の方法によって算出するものとする。
耐火物の顕微鏡組織観察において、粒径の大きい順に粗大粒子を10個選定し、個々の粒子の面中に、その輪郭に接して内包する最も大きい円を描き、その中心を通る任意線を引く。更に、その線を基準として上記円の中心を通る45°ピッチの線を更に3本引き、計4本の線を粒子1個につき引く。その後、粒子の上記各線上で粒子の両端の輪郭点間の長さをD1、D2、D3、D4として、更に、各線上での両端部での粒子界面に存在する空隙層厚さの合計をそれぞれ、L1、L2、L3、L4として計測する。これら4つの線で得られた数値を用いて、上記式で算出したMS1、MS2、MS3、MS4をそれぞれ算出し、それらの数値の平均値を1つの粗大粒子の空隙層厚さ率すなわちMS値として算出する。予め選んでおいた10個の粗大粒子のMS値をそれぞれ上記の方法で算出し、それらを平均化して、当該耐火物組織のMS値とする。
【0025】
なお、耐火物組織のMS値を最大粒子サイズの粗大粒子、すなわち耐火物の顕微鏡組織観察において粒径の大きい順に選定した10個の粗大粒子で評価する理由は、粒径が大きいほどその膨張による体積及び長さの変化も大きく、耐火物の耐熱衝撃性に及ぼす影響が大きいからである。したがって、耐熱衝撃性を調整・評価するための指標としてのMS値は、耐火物組織中の最大粒子サイズの粗大粒子について算出することが必要となる。また、同様の観点から、本発明において上述の「ほぼ連続した空隙層」は、少なくとも最大粒子サイズの粗大粒子、すなわち耐火物の顕微鏡組織観察において粒径の大きい順に選定した10個の粗大粒子の周りに存在することが必要となる。
【0026】
本発明者らは、主鉱物相がコランダム、スピネル及びペリクレースから選択される1種又は2種以上からなり、かつペリクレースの含有量が40質量%未満である耐火物において、低膨張化効果があり、強度面や耐食性面、耐摩耗性面でバランスのとれた耐火物粒子周りの空隙層の厚さは、最大粒子サイズの粗大粒子について算出したMS値で0.3%以上3.0%以下であることを確認している。すなわち、上記MS値が0.3%未満では十分な低膨張化効果が得られない。また、上記MS値が3.0%を超えると強度が低下して耐食性及び耐摩耗性も低下する。このように本発明では、耐火物中の耐火物粒子のうち少なくとも最大粒子サイズの粗大粒子の周りに当該粗大粒子の形状に相似したほぼ連続した空隙層が存在し、このほぼ連続した空隙層のうち両端に存在する炭素を含有するマトリックス組織と当該粗大粒子との界面における空隙層の合計厚みが、当該粗大粒子の粒子サイズに対して0.3%以上3.0%以下であるような耐火物組織とすることで、耐熱衝撃性を顕著に向上させることができると共に、強度面や耐食性面、耐摩耗性面でバランスのとれた耐火物を提供することができる。
【0027】
このようなMS値の制御方法、すなわち耐火物中の耐火物粒子のうち、少なくとも最大粒子サイズの粗大粒子の周りに当該の形状に相似したほぼ連続した空隙層を形成し、かつその空隙層の厚さを制御する方法は、例えば以下の通りである。
MS値の制御は、熱膨張率の制御と同義であるが、熱処理の過程で、大きな耐火物粒子(粗大粒子)ほど熱膨張量が大きくなり、炭素質マトリックスとの熱膨張差が顕著となるため、当該粗大粒子の周りにはその形状に相似したほぼ連続した空隙層(以下「MS」ともいう。)が生成しやすく、小さい耐火物粒子ほど熱膨張量が小さくなり明確なMSは生成し難くなる。このことから、耐火物中の耐火物粒子の粒度構成(体積割合)を制御することでMS値の制御、すなわち熱膨張率の制御が可能となる。本発明では、フリーの炭素成分からなる構成物を除いた部分を100体積%としたときに、粒径0.3mm超の耐火物粒子が20体積%以上、粒径0.045mm以下の耐火物粒子が3体積%以上30体積%以下とすることで低膨張化とその制御が実現可能となる。例えば、より低膨張にしたい場合は、上記の粒度構成(体積割合)の範囲内で粒径0.045mm以下の耐火物粒子の体積割合を減じて耐火物組織中の耐火物粒子の連続性を絶ち、同時に粒径0.3mm超の耐火物粒子の体積割合を増やすことで、MSの生成を促進するようにすればよい。
【0028】
本発明の耐火物は以上のような構成(化学成分、主鉱物相、耐火物粒子の粒度構成(体積割合)及び耐火物組織)を兼ね備えることで、見掛気孔率が16%以下という緻密性と、1500℃までの最大の熱膨張率が0.6%以下という低膨張性とを安定して両立させることができる。これにより、連続鋳造用の耐火物及び耐火物部材の耐食性及び耐熱衝撃性を向上させることができ、無予熱状態で使用される使用環境においても優れた耐用性を発揮することができる。
【0029】
ここで、本発明において耐火物の化学成分、耐火物組織、見掛気孔率、熱膨張率等は、基本的には「1000℃の非酸化雰囲気で加熱後」の試料について評価する。その理由は、耐火物中の水分、有機物、水和物、炭酸化合物等の成分の除去、及び有機系結合剤成分の炭素化による耐火物化学成分の安定化による分析精度の向上を図るためである。この点から、加熱時間は加熱による重量変化がなくなるまでの間とする。ただし、耐火物の製造工程で既に1000℃以上の温度で熱処理を経ている場合、又は揮発性の成分の種類によっては800℃以上の温度で熱処理を経ている場合は、その製造後の製品状態で化学成分、耐火物組織、見掛気孔率、熱膨張率等の評価を行うことが可能である。
【0030】
本発明の耐火物は、ホウ素成分をB換算値で0.1質量%以上3.0質量%以下含むことが好ましい。ホウ素成分は、耐火物の加熱時に炭素質マトリックス中に繊維状のホウ酸アルミナ等を生成する。これにより、炭素質マトリックスの緻密化と強化が図られ耐火物の強度が向上する。
【0031】
また、本発明の耐火物は、炭素質マトリックス中に炭素繊維を含むこともできる。炭素繊維は、耐火物の加熱時の有機系結合剤成分の炭素化等による炭素質マトリックスの収縮に伴い発生する亀裂等の欠陥部分を充填する。これにより、炭素質マトリックスの緻密化と強化が図られ耐火物の強度が向上する。このような耐火物の強度向上効果を十分に発揮する観点から、炭素繊維のアスペクト比は15以上200以下であることが好ましく、その含有量は5質量%以下であることが好ましい。
【0032】
本発明の耐火物は、後述する実施例の試料の作製と同様に、コランダム、スピネル及びペリクレースから選択される1種又は2種以上を主鉱物相とする一般的な耐火物の製造方法と同様の方法で製造することができる。
例えば、主鉱物相を構成する耐火物粒子を含む原料配合に結合剤を添加し、混練後の坏土を成形に適した状態に調整し、その坏土をCIP(Cold Isostatic Pressing)により成形し、約300℃以下の温度で乾燥処理を行った後、約800℃以上約1200℃以下程度の非酸化雰囲気中での熱処理を行う。
【0033】
次に、本発明の耐火物を使用した連続鋳造用の耐火物部材について説明する。図2に、連続鋳造用の耐火物部材の一形態である浸漬ノズルを縦断面で示している。
図2(a)には、本発明の耐火物20を、溶鋼と接触する部位の一部の領域に、溶鋼と接触する面から背面側に単層として配置した浸漬ノズルの例を示している。図2(a)において、パウダーライン材質21部分にも本発明の耐火物20を配置すれば、本発明の耐火物を、溶鋼と接触する部位の全部の領域に、溶鋼と接触する面から背面側に単層として配置した浸漬ノズルとなる。単層構造のノズルの場合は、押し割り等の危険性を小さくすることができ、また、製造上も簡便な方法を採りうる。このような単層構造のノズルの製造では、上述の製造方法を基本としつつ、CIP成形用モールド内の対象領域に、本発明の耐火物用坏土を単層として充填すればよい。
なお、図2(a)には円筒状の例を示したが、本発明の耐火物を適用する浸漬ノズル等のノズルはこのような円筒状に限らず、例えば図2(b)に示すような、主として薄スラブの鋳造に使用される扁平状、楕円状、ファンネル形(上部が拡径した漏斗状)等、ノズルの形状に制限されることなく、さまざまな形状のノズルに適用することができる。
また、図2(c)には、図2(a)の浸漬ノズルの内孔部(内孔壁面)の一部から溶鋼中にガスを吹き出す機能を備えた浸漬ノズルの例を示す。この例では内孔部の一部に通気性が高い耐火物(以下「通気用耐火物」という。)20Gを配置している。この通気用耐火物20Gの材質は、一般的なアルミナ-黒鉛質の通気用耐火物とすることもできるほか、本発明の耐火物組成を維持しつつ気孔率や通気率等を高めた材質とすることもできる。なお、図2(c)中の符号20Sは空間で、ガスの通過経路であり、ガスの蓄圧室でもある。
【0034】
図3には、本発明の耐火物20が溶鋼に接触する部位の一部又は全部に配置され、その内側には本発明の耐火物20とは異なる組成の耐火物(難付着材質22)からなる層が配置された複数の層をなしており、前記複数の層が相互に直接接触した状態で一体構造とされている浸漬ノズルの例を示している。このような複数層からなるノズルの製造では、上述の製造方法を基本としつつ、CIP成形用モールド内の対象領域に、溶鋼と接触する面から半径方向の所定の厚さの位置で坏土投入用の空隙を仕切り、その内側(芯棒側)に本発明の耐火物とは異なる耐火物用の坏土を充填し、背面側に本発明の耐火物用の坏土等を充填すればよい。その後成形前にこの仕切りに使用した板等の治具を取り除いて加圧成形すればよい。
【0035】
本発明の耐火物を適用できる、又は適用することが好適な連続鋳造用のノズルとしては浸漬ノズル以外にも、タンディッシュノズル(上ノズル、オープンノズル等を含む)、中間ノズル、流量制御用ノズル(特に内孔等)が挙げられる。
図4には鋼の連続鋳造設備の構成例を示しており、同図の左側には溶鋼容器内から溶鋼を排出する際の溶鋼流通経路としてのノズル部が、複数のノズルからなる構造体のうち、浸漬ノズルFが外装式の例を示している。本発明の耐火物20は、浸漬ノズルFだけでなく、このような複数の連続鋳造用のノズルからなる構造体の上部ノズルA、スライディングノズルプレートB、下部ノズルC、ロングノズルD等の諸々のノズルの溶鋼に接触する部位の一部又は全部に配置して適用することができる。また、排出経路としてのノズル部が一体化された構造の、いわゆる内挿式浸漬ノズル(図4の右側)、溶鋼中に浸漬されない、いわゆるオープンノズル等にも適用することができる。更には、ノズル部の上方に位置して溶鋼流量制御又は開閉を行うストッパーEや溶鋼容器の内張り用耐火物Gとしても適用することができる。
【0036】
図5及び図6には、それぞれ本発明の耐火物20が溶鋼に接触する部位の一部又は全部に配置されたロングノズル及び下部ノズルの例を示している。図5及び図6において内側の耐火物層及び背面側の耐火物層のいずれか一方又は両方を本発明の耐火物20とすることができる。
また、図7には、パウダーライン材質21部分以外を本発明の耐火物20で構成したロングノズルの例を示している。なお、図7においてパウダーライン材質21部分にも本発明の耐火物20を配置することもできる。
【0037】
図8には、本発明の耐火物20が溶鋼に接触する部位の一部又は全部に配置されたロングストッパーの例を示している。図8においてロングストッパーの先端部及び先端部以外の基端部のいずれか一方又は両方を本発明の耐火物20とすることができる。
【実施例
【0038】
下記の表1~表6に、本発明の実施例及び比較例の原料配合と評価結果を示している。なお、各表において「耐火物粒子の体積割合」は、原料配合に基づいて算出した体積割合であるが、この体積割合は作製された耐火物中でも維持されることになる。すなわち、各表に示している「耐火物粒子の体積割合」は、耐火物の構成物からフリーの炭素成分からなる構成物を除いた部分を100体積%としたときの、各粒度の耐火物粒子の体積割合と同じである。また、各表において「鉱物相」は原料配合中の耐火原料として示しているが、これら耐火原料を構成する鉱物相は作製された耐火物中でも維持されることになる。更に、各表において、「添加物」とはホウ素成分源であり、その添加量は「添加物」以外の原料配合100質量%に対する外掛けの添加量として示している。
【0039】
各表に示す各例の原料配合に有機系結合剤であるフェノールレジンを添加し、混練後の坏土を成形に適した状態に調整した。その坏土をCIPにより成形後、300℃までの硬化・乾燥処理を行った後、1000℃非酸化雰囲気での熱処理を行い各例の耐火物を得た。
【0040】
得られた耐火物の化学成分を分析し、組織状態を観察すると共に評価試験に供した。
化学成分の分析は、JISR2216に準じた方法で行った。
組織状態の観察では、耐火物組織に樹脂を含浸した後に機械研磨により鏡面を出し、顕微鏡観察により上述した方法でMS値を求めると共に、空隙層の連続性を観察した。
耐火物の評価としては、見掛気孔率、1500℃までの最大の熱膨張率、耐食性、及び耐熱衝撃性の評価を行い、これらの評価結果より総合評価を行った。
【0041】
見掛気孔率は、JISR2205に準じた方法で測定した。
熱膨張率は、JISR2207-3に準じた方法で1500℃までの熱膨張率を測定し、1500℃までの最大の熱膨張率を評価した。
【0042】
耐食性の評価は、1550℃で溶解した低炭素鋼の表面にCaO/SiO質量比を1.0に調整した合成スラグを約30mm浮かべたルツボ中に、各例の耐火物の角柱試料(20×20×180mm)を60分間浸漬し、引き上げた後に、溶鋼-溶融スラグ界面位置の溶損量を測定し、その程度を比較する方法にて行った。具体的には各例の耐火物の溶損量を、比較例2の溶損量を100とする溶損指数に変換し、その溶損指数が100未満の場合を課題解決の効果が認められるものとした。より具体的には、溶損指数が90以下の場合を〇(優良)、90超100未満の場合を△(良好)、100以上の場合を×(不良)として評価した。
【0043】
耐熱衝撃性の評価は、筒状のサンプル(外径/内径(内孔径)/高さ=130/55/300mm)を、常温で1600℃の溶銑をサンプルの内孔に注湯する方法によりサンプルの耐火物に熱衝撃を与える試験にて行った。試験後に水平断面を50mmピッチでカットし亀裂の有無をチェックした。そして、亀裂が全く観察されない場合を○(優良)、微亀裂が確認された場合を△(良好)、亀裂が確認された場合を×(不良)として評価した。
【0044】
総合評価は、組織状態においてMS値が本発明の範囲内(0.3%以上3.0%以下)、空隙層の連続性がほぼ連続、見掛気孔率が本発明の範囲内(16%以下)及び1500℃までの最大熱膨張率が本発明の範囲内(0.6%以下)、耐食性の評価が〇及び耐熱衝撃性の評価が〇の場合を○(優良)、組織状態においてMS値が本発明の範囲内(0.3%以上3.0%以下)、空隙層の連続性がほぼ連続、見掛気孔率が本発明の範囲内(16%以下)及び1500℃までの最大熱膨張率が本発明の範囲内(0.6%以下)であり、かつ、耐食性又は耐熱衝撃性のいずれかの評価が△の場合を△(良好)、組織状態において空隙層の連続性が部分連続、見掛気孔率が16%超、1500℃までの最大熱膨張率が0.6%超、耐食性の評価が×、又は耐熱衝撃性の評価が×の場合を×(不良)とした。
【0045】
【表1】
【0046】
表1中、実施例1から実施例5は、耐火物中のフリーの炭素成分(以下「FC」という。)の含有量が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、低見掛気孔率で耐食性にも優れ、かつ耐熱衝撃性にも優れ、総合評価は○(優)又は△(良)と良好な結果が得られた。なかでもFCの含有量が15質量%以上25質量%以下と好ましい範囲内にある実施例2から実施例4は総合評価が○(優)となり、特に良好な結果が得られた。
これに対して比較例1は、FCの含有量が本発明の下限値を下回る例であり、耐火物組織内で3次元的に連続した炭素質マトリックスが形成されず、粗大粒子の周りの空隙層の連続性が損なわれて「部分連続」となった。そのため、十分な低膨張化効果が得られず高膨張となり、耐熱衝撃性が低下した。一方、比較例2はFCの含有量が本発明の上限値を上回る例であり、耐食性が低下した。
【0047】
【表2】
【0048】
表2中、実施例6から実施例9は、粗粒の耐火物粒子の体積割合が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、総合評価は○(優)又は△(良)となり良好な結果が得られた。なお、実施例6は粗粒の耐火物粒子の体積割合が本発明の下限値である20体積%の例であり、粗粒の耐火物粒子の体積割合が30体積%である実施例7と比べると、高膨張となり耐熱衝撃性に劣る結果となった。また、実施例8は粗粒の耐火物粒子の粒径の上限値が3mmの例であるが、粗粒の耐火物粒子の粒径の上限値が1mmである実施例9と比べると、見掛気孔率が高くなり耐食性に劣る結果となった。
一方、比較例3は、粗粒の耐火物粒子の体積割合が本発明の下限値を下回る例であり、耐火物中の耐火物粒子の個数が増加した結果、耐火物粒子が連続して存在する耐火物組織となった。そのため、高膨張となり耐熱衝撃性が低下した。
【0049】
同じく表2中、実施例10、実施例11、実施例3、実施例12及び実施例13は、微粒の耐火物粒子の体積割合が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、総合評価は○(優)又は△(良)となり良好な結果が得られた。なかでも微粒の耐火物粒子の体積割合が5質量%以上15質量%以下と好ましい範囲内にある実施例11、実施例3及び実施例12は総合評価が○(優)となり、特に良好な結果が得られた。
これに対して比較例4は、微粒の耐火物粒子の体積割合が本発明の下限値を下回る例であり、緻密な耐火物が得られず耐食性が低下した。一方、比較例5は微粒の耐火物粒子の体積割合が本発明の上限値を上回る例であり、耐火物中の耐火物粒子の個数が増加した結果、耐火物粒子が連続して存在する耐火物組織となった。そのため、高膨張となり耐熱衝撃性が低下した。
【0050】
【表3】
【0051】
表3中、実施例3及び実施例14から実施例19は、主鉱物相が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、良好な結果が得られた。なお、実施例15では最も多い鉱物相がコランダムとスピネルの2種であり、主鉱物相はコランダムとスピネルの2種ということになる。また、実施例17では最も多い鉱物相がコランダム、スピネル及びペリクレースの3種であり、主鉱物相はコランダム、スピネル及びペリクレースの3種ということになる。
一方、比較例6は、主鉱物相がペリクレースであるが、そのペリクレースの含有量が本発明の上限値を上回る例であり、耐食性が低下した。
【0052】
同じく表3中、実施例20から実施例22は、複数の鉱物相を含む耐火原料(耐火物粒子)を使用した例であるが、本発明の範囲内であり、良好な結果が得られた。なお、表3において複数の鉱物相を含む耐火原料としては、アルミナジルコニア原料、ジルコニアムライト原料及びムライト原料を使用したが、各原料の鉱物相の含有量は以下の通りである。
・アルミナジルコニア原料:コランダム60質量%、ジルコニア40質量%
・ジルコニアムライト原料:ジルコニア50質量%、コランダム35質量%、シリカ15質量%
・ムライト原料:コランダム60質量%、シリカ40質量%
上述の通り、本発明では、複数の鉱物相を含む耐火物粒子が含まれる場合は、その耐火物粒子に含まれる複数の鉱物相のそれぞれを、他の耐火物粒子に含まれる同種の鉱物相と合算して「主鉱物相」を決定する。例えば、実施例21ではジルコニアムライト原料65質量%中にコランダムが65×0.35=22.75質量%含まれており、これをコランダム原料中のコランダム11.2質量%と合算すると原料配合中において33.95質量%となる。なお、ジルコニアムライト原料65質量%中にはジルコニアが65×0.5=32.5質量%含まれているが、この原料配合中のジルコニアの含有量は上記コランダムの含有量より少ないから、実施例21の主鉱物相はコランダムということになる。
【0053】
一方、表3中、比較例7の主鉱物相はジルコニアムライト原料に含まれるジルコニアであり、本発明の範囲外となる。また、比較例7では、耐火物中のシリカ成分及び炭化珪素成分の含有量(合計)が本発明の上限値を超えている。そのため、耐食性が低下した。
また、比較例8の主鉱物相はコランダムであり本発明の範囲内であるが、耐火物中のシリカ成分及び炭化珪素成分の含有量(合計)が本発明の上限値を超えている。そのため、耐食性が低下した。
【0054】
【表4】
【0055】
表4中、実施例3、実施例23及び実施例24は、耐火物中のシリカ成分及び炭化珪素成分の含有量(合計)が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、総合評価は○(優)又は△(良)となり良好な結果が得られた。一方、比較例9は、耐火物中のシリカ成分及び炭化珪素成分の含有量(合計)が本発明の上限値を上回る例であり、耐食性が低下した。
なお、実施例3と実施例23及び実施例24との対比より、耐火物中のシリカ成分及び炭化珪素成分の含有量(合計)は5質量%以下とすることが好ましく、特にシリカ成分の含有量を低減することが好ましいことがわかる。
【0056】
【表5】
【0057】
表5に示している各実施例は、添加物の添加量及び種類が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、総合評価は○(優)又は△(良)となり良好な結果が得られた。なかでもホウ素成分をB換算値で0.1質量%以上3.0質量%以下含む実施例26、実施例3及び実施例27から実施例30は、総合評価が○(優)となり、特に良好な結果が得られた。
【0058】
【表6】
【0059】
表6に示している各実施例は、炭素繊維のアスペクト比及び含有量が異なる例であるが、本発明の範囲内であり、総合評価は○(優)又は△(良)となり良好な結果が得られた。なかでも炭素繊維のアスペクト比が15以上200以下であって、その含有率を5質量%以下に制限している実施例32、実施例3及び実施例33は、総合評価が○(優)となり、特に良好な結果が得られた。
【符号の説明】
【0060】
20 本発明の耐火物
21 パウダーライン材質(背面側の耐火物)
22 難付着材質
22G 通気用耐火物
22S 空間(ガスの通過経路、蓄圧室)
A:上部ノズル
B:スライディングノズルプレート
C:下部ノズル
D:ロングノズル
E:ロングストッパー
F:浸漬ノズル
G:内張り用耐火物
【要約】
【課題】連続鋳造用の耐火物及び耐火物部材の耐食性及び耐熱衝撃性を向上させる。
【解決手段】フリーの炭素成分を10質量%以上30質量%以下含み、残部の主鉱物相がコランダム、スピネル及びペリクレースから選択される1種又は2種以上からなり、前記ペリクレースの含有量は40質量%未満であり、かつ、シリカ成分及び炭化珪素成分の含有量が合計で15質量%未満である連続鋳造用の耐火物である。当該耐火物の構成物からフリーの炭素成分からなる構成物を除いた部分を100体積%としたときに、粒径0.3mm超の耐火物粒子が20体積%以上、粒径0.045mm以下の耐火物粒子が3体積%以上30体積%以下であり、当該耐火物中の耐火物粒子のうち、少なくとも最大粒子サイズの粗大粒子の周りに当該粗大粒子の形状に相似したほぼ連続した空隙層が存在する。当該耐火物の見掛気孔率は16%以下であり、1500℃までの最大の熱膨張率は0.6%以下である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8