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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】工作機械および工作機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/00 20060101AFI20220512BHJP
【FI】
B23Q17/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017249033
(22)【出願日】2017-12-26
(65)【公開番号】P2019111632
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000107642
【氏名又は名称】スター精密株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 俊之
(74)【代理人】
【識別番号】100124958
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 建志
(74)【代理人】
【識別番号】100126077
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 亮平
(72)【発明者】
【氏名】賀来 則夫
【審査官】村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/129131(WO,A1)
【文献】特開2016-025777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械であって、
所定の検出処理を実行可能なセンサと、
前記センサによる検出信号を無線で送信する無線通信部と、
特定周波数で振動することにより発電して前記センサおよび前記無線通信部に電力を供給する発電部と、
前記発電部が設置されている被設置部に前記特定周波数の振動を与える駆動部と、を備え
前記駆動部は、前記工作機械においてワークの加工が行われない非加工時間に、前記被設置部に前記特定周波数の振動を与える、ことを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記被設置部としての主軸台を有し、
前記駆動部は、前記主軸台に振動を与えることが可能なアクチュエータであることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記センサは温度センサであり、
前記温度センサは、前記非加工時間に温度検出を実行することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
前記センサは加速度センサであり、
前記加速度センサは、前記ワークの加工が行われる加工時間に加速度検出を実行することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の工作機械。
【請求項5】
特定周波数で振動することにより発電して所定のセンサおよび無線通信部に電力を供給する発電部が設置された、工作機械の被設置部に、前記工作機械においてワークの加工が行われない非加工時間に前記特定周波数の振動を与える加振工程を含むことを特徴とする工作機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械および工作機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周囲の信号を検出するセンサモジュールと、センサモジュールで検出された信号を無線電波として発信する無線モジュールと、センサモジュールおよび無線モジュールに電力を供給する発電モジュールとを一つの筐体に収め、測定対象物に固定されるセンサーユニットの構成において、発電モジュールの発電方法として振動を用いることが開示されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017‐3555号公報
【文献】特開2017‐96836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記文献1,2には、発電モジュールを振動を用いて発電させる旨記載されているが、単に発電モジュールを振動させれば適切な発電が得られる訳ではない。前記文献1,2においては、センサーユニットが固定される転がり軸受や直動案内装置は、それらが通常動作するときに何らかの振動を伴って動作しているにしても、そのような振動は、発電モジュールによる発電に適した振動とは言えない。発電モジュールによる発電に適した特定の振動を与えなければ、動作させる対象(センサモジュールや無線モジュール)に安定して電力を供給することはできなかった。
【0005】
本発明は少なくとも上述の課題に対して有用な工作機械および工作機械の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様の1つは、工作機械は、所定の検出処理を実行可能なセンサと、前記センサによる検出信号を無線で送信する無線通信部と、特定周波数で振動することにより発電して前記センサおよび前記無線通信部に電力を供給する発電部と、前記発電部が設置されている被設置部に前記特定周波数の振動を与える駆動部と、を備える。
当該構成によれば、駆動部は、発電部が設置されている被設置部に任意のタイミングで前記特定周波数の振動を与えることができる。これにより、確実に発電部に発電させて、発電部からセンサおよび無線通信部に必要な電力を供給させることができる。
【0007】
本発明の態様の1つは、前記駆動部は、前記工作機械においてワークの加工が行われない非加工時間に、前記被設置部に前記特定周波数の振動を与えるとしてもよい。
当該構成によれば、非加工時間を利用して被設置部に前記特定周波数の振動を与えることにより、確実に発電部に発電させることができる。
【0008】
本発明の態様の1つは、前記センサは温度センサであり、前記温度センサは、前記非加工時間に温度検出を実行するとしてもよい。
当該構成によれば、非加工時間を利用して、発電部による発電と、当該発電された電力による温度センサの動作(温度検出)とを行うことができる。
【0009】
本発明の態様の1つは、前記センサは加速度センサであり、前記加速度センサは、前記ワークの加工が行われる加工時間に加速度検出を実行するとしてもよい。
当該構成によれば、発電部による発電を行いつつ、当該発電された電力を利用して加工時間中に加速度センサによる加速度検出を行うことができる。
【0010】
本発明の技術的思想は、工作機械という物以外によっても実現される。
例えば、特定周波数で振動することにより発電して所定のセンサおよび無線通信部に電力を供給する発電部が設置された、工作機械の被設置部に、前記特定周波数の振動を与える加振工程を含む工作機械の制御方法を、一つの発明として把握することができる。
また、前記駆動部を制御するためのプログラムや、当該プログラムを記憶したコンピューター読み取り可能な記憶媒体や、前記方法を実現するためのシステム等も、夫々に発明として成り立つ。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】旋盤の構成を簡易的に示す図。
図2】NC装置および旋盤における電気的な接続関係を簡易的に示すブロック図。
図3】センサーユニットの構成例を示すブロック図。
図4】加工プログラムに従った制御処理を示すフローチャート。
図5】センサーユニットの他の構成例を示すブロック図。
図6】実施例2におけるセンサーユニット側の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお各図は、本実施形態を説明するための例示に過ぎない。
【0013】
1.装置構成の説明:
図1は、本実施形態にかかる旋盤10の一例を簡易的に示している。旋盤10は工作機械の一種である。ただし本発明の思想は、旋盤に限定されず、切削、研削あるいはその他の加工を行う工作機械全般に適用可能である。旋盤10は、コンピューターとしてのNC(Numerical Control)装置11に数値制御されることにより、ワークWに対する加工を実施する。NC装置11と旋盤10とを含めた構成を、NC旋盤と呼ぶことが出来る。また、NC旋盤により、後述する加振処理(加振工程)を含む工作機械の制御方法が実現される。
【0014】
旋盤10は、例えば、主軸52を搭載した主軸台53や、刃物台43を含む。主軸台53は、テーブル65に固定されており、主軸52の軸方向(Z軸方向)に、主軸52とともに移動可能である。Z軸は、図1においては左右方向を向いている。便宜上、Z軸方向のプラス側(図1においては右側)を「前」、Z軸方向のマイナス側(図1においては左側)を「後」として説明を行う。主軸52は、主軸台53の後方からZ軸上に供給される棒状のワークWを解放可能に把持するコレット52aを前端部に備える。
【0015】
刃物台43には、主軸52から前方に突出したワークWの加工に用いられる工具43aが装着される。刃物台43には、正面加工用のバイト、突っ切り加工用のバイト等を含む複数種類の工具が同時に取り付けられても良いし、これらの工具が交換可能に取り付けられてもよい。刃物台43が移動するX軸方向は、Z軸方向に対して垂直であり、図1においては上下方向を向いている。また、刃物台43が移動するY軸方向は、X軸方向およびZ軸方向に対して垂直な方向(図1の紙面に対して垂直な方向)である。
【0016】
図1の例では、アクチュエータ61が、ボールねじ機構62を動作させることで、ボールねじ機構62のZ軸方向と平行なねじ軸63に沿って直進移動体64を移動させる。ボールねじ機構62の直進移動体64とテーブル65とが固定されているため、直進移動体64とともにテーブル65が移動し、これにより、テーブル65に固定された主軸台53および主軸台53に搭載された主軸52がZ軸方向に沿って前後に移動する。アクチュエータ61は、ボールねじ機構62の動力源となるモータ(サーボモータ、リニアモータ等)である。ただし、ボールねじ機構62は、テーブル65にZ軸方向と平行な直線運動をさせるための一手段に過ぎない。例えば、アクチュエータ61は、油圧や電動で直線運動を行うシリンダーを動作させることにより、テーブル65をZ軸方向と平行に移動させるとしてもよい。
【0017】
図2は、NC装置11および旋盤10における各部の電気的な接続関係を、ブロック図により簡易的に示している。NC装置11は、例えば、コントローラーとしてのCPU11a、RAM11b、ROM11cを有する。また、NC装置11に対しては、サーボアンプ40、主軸用アンプ50、サーボアンプ60等が、バス11dによって通信可能に接続されている。サーボアンプ40は、X軸モータ41、Y軸モータ42とそれぞれ接続しており、接続する各モータ41,42に対して電力を供給する。X軸モータ41およびY軸モータ42は刃物台43と接続しており、供給された電力を刃物台43を移動させるための動力に変換し、刃物台43をX軸方向、Y軸方向それぞれへ移動させる。
【0018】
サーボアンプ60は、アクチュエータ61と接続し、アクチュエータ61に対して電力を供給する。主軸用アンプ50は、主軸モータ51と接続し、主軸モータ51に電力を供給する。主軸モータ51は主軸52と接続している。主軸モータ51は、供給された電力を主軸52を回転させるための動力に変換し、主軸52を回転させる。その他、主軸52が備えるコレット52aに開閉動作をさせるアクチュエータ(不図示)等も、NC装置11によって制御される。
【0019】
NC装置11においては、CPU11aが、RAM11bをワークエリアとして加工プログラムPに従った処理を実行し、各アンプ40,50,60による電力供給等を数値制御する。その結果、旋盤10によるワークWに対する加工が実現され、製品が製造される。また、NC装置11は、無線通信部12や、操作受付部20や、表示部30等を備える。無線通信部12は、所定の無線通信規格に従って、外部や後述の無線通信部73との無線通信を実行する。無線通信部12,73が採用する無線通信規格は特に問わない。操作受付部20は、ユーザーの入力操作を受付ける複数のボタンやキー等からなり、表示部30上のタッチパネルを含むものであってもよい。表示部30は、ユーザーが操作受付部20を介して入力した各種数値や設定の内容や、NC旋盤に関する各種情報を画面に表示するディスプレイである。
【0020】
言うまでもなく、旋盤10の構成は上述した内容に限られない。例えば、刃物台43が移動可能な方向は上述した方向に限定されない。また、旋盤10は、主軸52から前方に突出するワークWを、当該ワークWがZ軸方向に摺動可能な状態で支持するガイドブッシュや、ワークWの前端部を把持して回転可能な背面主軸や、刃物台43以外の刃物台や各種工具等を有するとしてもよい。
【0021】
図3は、センサーユニット70の構成をブロック図により示している。センサーユニット70は、所定の検出処理を実行可能なセンサ72と、センサ72による検出信号を無線で送信する無線通信部73と、特定周波数で振動することにより発電してセンサ72および無線通信部73に電力を供給する発電部71と、を備える。発電部71を、振動発電素子等とも呼ぶ。
【0022】
発電部71は、例えば、コイルと、コイル内側に揺動可能に保持された磁石とを含み、外部から振動を与えられることにより磁石が揺動することで、コイルに誘導電流を流して電力を発生させる。発電部71は、予め決められた範囲の周波数(特定周波数)で振動したときに安定して発電するように設計されている。なお、発電部71の構成は上述した内容に限られない。例えば、磁石に対してコイルが揺動してもよい。また、発電部71は、磁石とコイルによる電磁誘導素子ではなく、圧電素子や磁歪素子、静電誘導素子を利用して発電してもよい。
【0023】
センサ72および無線通信部73は、発電部71から電力供給を受けて動作する。センサ72の具体例としては、温度センサ、加速度センサ、音響センサ、ひずみセンサ(ひずみゲージ)等、様々である。無線通信部73は、前記所定の無線通信規格に従って無線通信を実行する。なお、無線通信部73が採用する無線通信規格は、省電力無線通信規格であることが望ましい。
【0024】
図1の例では、センサーユニット70は、主軸台53の、主軸52近傍の端部に取り付けられている。従って図1の例では、主軸台53が、発電部71が設置されている「被設置部」に該当する。ただし、工作機械におけるセンサーユニット70の取り付け位置は、主軸台53に限定されず、ユーザーは、センサーユニット70を、工作機械における所望の位置に取り付け可能である。本実施形態では、発電部71、センサ72および無線通信部73を含む構成を、センサーユニット70と称するが、これらは実態的なユニット(例えば、共通の筐体内に収められた構成)であっても無くても、どちらでもよい。結果的に、発電部71、センサ72、無線通信部73等のセンサーユニット70に含まれる各部が工作機械におけるユーザー所望の位置に取り付けられ、それらの間に必要な接続が確保されていればよい。例えば、センサ72および無線通信部73は、発電部71が設置されている被設置部とは別の位置に取り付けられていてもよい。
【0025】
2.加振処理による発電:
本実施形態では、旋盤10(工作機械)は、発電部71が設置されている被設置部に特定周波数の振動を与える「駆動部」を備える。図1の例では、主軸台53が被設置部に該当するため、主軸台53に振動を与えることが可能なアクチュエータ61が駆動部の具体例に該当する。旋盤10においては、通常動作中、つまりワークWの加工中には、各モータ41,42,51等の稼働の影響により振動が自然と発生する。しかし、そのような振動は、基本的には特定周波数の振動に該当しない。そのため、本実施形態では、発電部71に発電させるために、つまりセンサーユニット70を稼働させるために、意図的に特定周波数の振動を被設置部に与える必要がある。
【0026】
図4は、本実施形態においてNC装置11(CPU11a)が加工プログラムPに従って実行する旋盤10に対する制御処理をフローチャートにより示している。NC装置11は、操作受付部20を介してユーザーから入力された所定の開始指示に応じて加工プログラムPを起動させ、当該フローチャートを開始する。
【0027】
加工プログラムPの起動後、NC装置11は、旋盤10による1サイクルの加工を開始させる(ステップS100)。ここで言う1サイクルの加工とは、例えば、ワークWから切り出す1個分の製品の加工に必要なサイクル(旋盤10による一連の動作)を指す。ステップS100における開始後、NC装置11は、加工プログラムPが定める1サイクル分の複数の指令に順次従って、アクチュエータ61、主軸52、コレット52a、刃物台43等に所定の動作を実行させてワークWを加工させる(ステップS110)。
【0028】
NC装置11は、1サイクルの加工が終了したか否かを判定する(ステップS120)。具体的には、NC装置11は、加工プログラムPが定める1サイクル分の複数の指令を順次読み込む際、読み込んだ指令が1サイクルの終了を意味する指令であれば、1サイクル終了と判定し(ステップS120において“Yes”)、ステップS130へ進む。つまり、NC装置11は、1サイクル終了と判定できるまで、加工プログラムPが定める1サイクル分の複数の指令に順次従ってワークWの加工(ステップS110)を行う。ステップS100で1サイクルの加工を開始してからステップS120で“Yes”と判定するまでが、旋盤10におけるワークWの加工時間であり、それ以外の時間が旋盤10における非加工時間である。
【0029】
ステップS120で“Yes”と判定した時点では、旋盤10においては、ワークWの前端部から加工後の1個の製品が工具43aによりワークWから分断された(突っ切りにより落下した)状態であるとする。このような状況で、NC装置11は、旋盤10の各部の原点復帰を開始させる(ステップS130)。原点復帰とは、主軸52(および主軸台53)や、刃物台43等の各部を、各部について予め定められている1サイクルの加工開始前に在るべき位置(原点位置)へ戻す処理である。主軸52および主軸台53の原点復帰であれば、NC装置11は、コレット52aによるワークWの把持を解除した上で、アクチュエータ61を制御して、主軸52および主軸台53を載せたテーブル65を、1サイクルの加工終了時点の位置(加工終了時位置)よりも所定距離だけ後方の位置(テーブル原点位置)まで移動させる。テーブル65がテーブル原点位置に在るということは、主軸52および主軸台53がそれらの原点位置に在ることを意味する。
【0030】
ステップS130における開始後、NC装置11は、主軸52および主軸台53や、刃物台43等の各部についての原点復帰を、それぞれ並行して、あるいは所定の順番で実行させる(ステップS140)。ただしステップS140では、NC装置11は、アクチュエータ61による主軸52および主軸台53の原点復帰の過程で、アクチュエータ61に加振処理を実行させる。
【0031】
ここで、加振処理を伴わない主軸52および主軸台53の原点復帰は、テーブル65の加工終了時位置からテーブル原点位置までの単純な後方への移動であり、当該移動の途中でテーブル65の移動を一時停止させたりテーブル65を前方へ移動させたりしない。一方、加振処理を伴う主軸52および主軸台53の原点復帰は、テーブル65を加工終了時位置からテーブル原点位置まで移動させる過程で、テーブル65を繰り返し瞬間的に一時停止させたり或いは一定時間毎にテーブル65を前方へ微小距離移動させたりしながら、最終的にテーブル65をテーブル原点位置まで戻す。つまり、ステップS140では、テーブル65は加振処理により前後に揺れながら(振動しながら)、テーブル原点位置へ向かうこととなる。
【0032】
NC装置11は、テーブル65(テーブル65およびテーブル65に載っている主軸台53、主軸52の全体)が特定周波数で振動するように、アクチュエータ61に前記加振処理を実行させる。すなわち、アクチュエータ61がボールねじ機構62を介してテーブル65全体を特定周波数で振動させるように、NC装置11は、サーボアンプ60を介してアクチュエータ61(モータ)の回転や停止を制御する。より詳しくは、加工プログラムPには、テーブル65の原点復帰の過程でアクチュエータ61がボールねじ機構62を介してテーブル65全体を特定周波数で振動させるために必要なサーボアンプ60に対する制御コマンドやパラメータが予め組み込まれており、NC装置11が、このような加工プログラムPを実行することで、上述のステップS140が実現される。
【0033】
NC装置11は、原点復帰が完了したか否かを判定する(ステップS150)。この場合、NC装置11は、主軸52および主軸台53や、刃物台43等の、原点復帰すべき各部全てが、それぞれの原点位置へ戻った場合に、原点復帰完了と判定し(ステップS150において“Yes”)、再びステップS100以降を開始する。NC装置11は、原点復帰完了と判定できるまでは、ステップS140を実行する。
【0034】
図4の制御処理によれば、旋盤10では、ワークWの加工時間と非加工時間とが交互に発生し、非加工時間中に実行する原点復帰の過程で、併せて上述のような加振処理を行う。そして、加振処理によりテーブル65(テーブル65およびテーブル65に載っている主軸台53、主軸52の全体)が特定周波数で振動することにより、発電部71が発電を開始し、発電部71が発電した電力の供給を受けてセンサ72および無線通信部73が動作可能となる。上述のようにアクチュエータ61によりテーブル65を前後に振動させて発電部71に特定周波数の振動を与える構成においては、特定周波数は、例えば、数十Hz程度が想定される。
【0035】
図4では特に表現していないが、NC装置11は、例えば、ワークWから予定されていた数の製品の加工が終了した場合には、ステップS150において“Yes”の判定をした後、ステップS100に戻らずに、図4のフローチャートを終了させる。また、NC装置11は、旋盤10における何らかのエラーの発生を検知した場合に、図4のフローチャートを強制的に停止させたり終了させたりすることが可能である。
【0036】
3.実施例:
以上の説明により本発明の実施形態は基本的に説明されたと言えるが、更に、本実施形態に含まれる実施例を幾つか説明する。
[実施例1]
センサ72は、温度センサであるとする。上述したように非加工時間における加振処理により、発電部71が発電を開始すると、当該発電に伴い発電部71から温度センサ72および無線通信部73へ電力が供給される。発電部71から電力の供給を受けた温度センサ72は、周囲(例えば、主軸52や主軸52の近傍)の温度検出を行う。そして、温度センサ72は、温度検出の結果である温度検出信号を、無線通信部73へ出力する。無線通信部73は、温度センサ72から入力した温度検出信号を、無線電波により所定の送信先(例えば、NC装置11)へ送信する。このような実施例1によれば、旋盤10の非加工時間に発電部71が発電し、これに伴い、当該非加工時間に、温度センサ72が温度検出を実行し、無線通信部73が温度センサ72による温度検出信号を無線で送信する。
【0037】
NC装置11は、センサーユニット70(無線通信部73)から送信された温度検出信号を、無線通信部12を介して受信する。そして、NC装置11は、受信した温度検出信号に基づいて旋盤10の状態を検査、診断したり、当該受信した温度検出信号に基づいて熱変位補正を実行したりする。詳細は省くが、熱変位補正とは、旋盤10内の熱の影響によるワークWに対する加工誤差(熱変位)を減らすための補正(例えば、刃物台43の移動量の補正)である。
【0038】
旋盤10内における温度変化の実情を鑑みたとき、温度センサ72による温度検出は、それほど高頻度である必要はなく、例えば、数分間に1回程度の頻度でも問題無い。そのため、NC装置11は、図4のフローチャートにおいて、1サイクルの加工が終わる度の、毎回のステップS140で加振処理を実行する必要は無い。そこで、NC装置11は、ステップS130で開始してからステップS150で完了と判定するまでの原点復帰を1回の原点復帰としたとき、連続する複数回の原点復帰のうちの1回の原点復帰を、加振処理を伴う原点復帰とし、それ以外の原点復帰は加振処理を伴わない原点復帰としてもよい。このような構成とすれば、加振処理を伴う原点復帰の頻度を減らして、複数個の製品に関するトータルの加工時間を短縮することができる。
【0039】
[実施例2]
センサ72は、加速度センサであるとする。上述したように非加工時間における加振処理により、発電部71は発電を開始する。一方、加速度センサ72は、旋盤10によるワークWの加工に際して旋盤10に発生する振動を加速度として検出する。つまり、加速度センサ72は、非加工時間に発電部71が発電した電力により、加工時間に加速度検出を実行する。このような実施例2を実現するための構成として、センサーユニット70は、図5に例示するように蓄電部74を備える。つまり図5の例では、センサーユニット70は、センサ72と、無線通信部73と、センサ72および無線通信部73に電力を供給する蓄電部74と、特定周波数で振動することにより発電して蓄電部74に電力を供給する発電部71と、を備える。発電部71は、蓄電部74を介してセンサ72および無線通信部73に電力を供給する、とも言える。蓄電部74の具体例としては、コンデンサー、スーパーキャパシター、二次電池等、様々である。
【0040】
発電部71は、発電した電気を蓄電部74に蓄電する。そして、蓄電部74から加速度センサ72および無線通信部73へ電力が供給される。発電部71と加速度センサ72および無線通信部73との間に蓄電部74が介在することで、加速度センサ72および無線通信部73は、発電部71が発電する非加工時間だけでなく加工時間においても、それぞれ動作することができる。
【0041】
図6は、実施例2におけるセンサーユニット70側の処理をフローチャートにより示している。少なくとも実施例2においては、センサーユニット70は、図6に示す処理を実行可能な程度の演算機能(プロセッサ等)を備えているものとする。例えば、図5に示すように、センサーユニット70は制御部75を含んでおり、制御部75が前記演算機能を実現する。また、このような処理も、センサーユニット70は、蓄電部74に蓄電された電力により実行する。
【0042】
センサーユニット70(制御部75)は、蓄電部74に蓄電された電力量(蓄電量)が所定量以上であるか否かを判定する(ステップS200)。そして、所定量以上であると判定した場合に(ステップS200において“Yes”)、ステップS210へ進む。一方、蓄電部74に蓄電された電力量が所定量に満たないと判定した場合は(ステップS200において“No”)、ステップS200の判定を繰り返す。蓄電部74に所定量以上の電力が蓄電されると、蓄電部74から加速度センサ72および無線通信部73へ電力が供給される。
【0043】
センサーユニット70は、現在が加工時間であるか否かを判定する(ステップS210)。そして、加工時間であると判定した場合に(ステップS210において“Yes”)、ステップS220へ進む。一方、加工時間ではない(非加工時間である)と判定した場合は(ステップS210において“No”)、ステップS200とステップS210の判定を繰り返す。
【0044】
センサーユニット70は、現在が加工時間であるか否かの判定を、例えば、無線通信部73が受信する信号に基づいて行うことができる。この場合、NC装置11は、実行中の加工プログラムPの進捗状況に従って、現在が加工時間と非加工時間との何れであるかを示す信号を、無線通信部12からセンサーユニット70(無線通信部73)に向けて送信する。センサーユニット70は、無線通信部73がNC装置11(無線通信部12)から受信した信号が、加工時間である旨を示している場合に、現在が加工時間であると判定する。
【0045】
あるいは、センサーユニット70は、現在が加工時間であるか否かの判定を、第2の特定周波数の振動の検知に応じて行うとしてもよい。この場合、NC装置11は、加工プログラムPの進捗状況に従って非加工時間から加工時間に切り替わったと判断した場合に、アクチュエータ61を制御して、これまで説明した特定周波数とは全く異なる第2の特定周波数の振動を、一時的にテーブル65に発生させる。センサーユニット70では、加速度センサ72により第2の特定周波数の振動を検出できたときに、現在が加工時間であると判定する。
【0046】
ステップS220では、センサーユニット70では、加速度センサ72が加速度検出(センシング)を実行する。そして、加速度センサ72は、ステップS220で所定時間加速度検出した結果である加速度検出信号を、無線通信部73へ出力する。ステップS230では、無線通信部73は、加速度センサ72から入力した加速度検出信号、つまり加工時間に検出された加速度検出信号を、無線電波により所定の送信先(例えば、NC装置11)へ送信する。このような実施例2によれば、旋盤10の非加工時間に発電部71が発電し、その後、加工時間に、加速度センサ72が加速度検出を実行し(ステップS220)、無線通信部73が加速度センサ72による加速度検出信号を無線で送信する。
【0047】
NC装置11は、センサーユニット70(無線通信部73)から送信された加速度検出信号を、無線通信部12を介して受信する。そして、NC装置11は、受信した加速度検出信号に基づいて、旋盤10におけるワーク加工中の振動の程度を検査、診断したり、当該振動の程度に基づいて加工に関する補正を実行したりする。詳細は省くが、ワーク加工中に旋盤10に発生する振動は、加工精度に影響を与える。そこで、NC装置11は、このような振動の影響によるワークWに対する加工誤差を減らすための補正を、現在のワークWの加工にフィードバックする。この結果、ワークWの加工精度を、より高めることが可能となる。
【0048】
4.まとめ、及び、その他の説明:
このように本実施形態によれば、旋盤10(工作機械)は、所定の検出処理を実行可能なセンサ72と、センサ72による検出信号を無線で送信する無線通信部73と、特定周波数で振動することにより発電してセンサ72および無線通信部73に電力を供給する発電部71と、発電部71が設置されている被設置部に特定周波数の振動を与える駆動部(61)と、を備える。当該構成によれば、駆動部は、被設置部に対して任意のタイミングで特定周波数の振動を与えることができる。これにより、確実に発電部71に発電させて、発電部71からセンサ72および無線通信部73に必要な電力を供給させることができる。
【0049】
また本実施形態によれば、駆動部は、旋盤10においてワークWの加工が行われない非加工時間に、被設置部に特定周波数の振動を与える。当該構成によれば、加工時間中は、特定周波数の振動を生じさせることは加工自体に影響を与えるため避けるべきという事情を考慮しつつ、非加工時間を利用して被設置部に特定周波数の振動を与えることにより、確実に発電部71に発電させることができる。
【0050】
上述の実施例1においても、センサーユニット70は、図5に例示したように蓄電部74を含む構成であってもよい。蓄電部74は、発電部71の一部分であってもよい。この場合の実施例1では、非加工時間における加振処理により発電部71が発電を開始すると、当該発電に伴い発電部71から蓄電部74へ電力が供給され、蓄電部74から温度センサ72および無線通信部73へ電力が供給される。そして、蓄電部74から電力の供給を受けた温度センサ72は、非加工時間に周囲の温度検出を行う。また、蓄電部74から電力の供給を受けた無線通信部73は、非加工時間に温度センサ72から入力した温度検出信号を、無線電波により所定の送信先(例えば、NC装置11)へ送信する。
【0051】
発電部71に発電させるために被設置部を特定周波数で振動させる加振処理を実行するタイミングは、上述したような原点復帰の過程に限られない。旋盤10は、例えば、所定のエラーが発生した後、ワークWの加工を停止してワークWの加工再開に至っていない時間や、ワークWを加工に使い切って新たなワークWが補充されるまでの時間(材料交換中の時間)といった様々な非加工時間において、加振処理を実行し、発電部71に発電させることが可能である。
【0052】
センサーユニット70の無線通信部73がセンサ72による検出信号を無線送信する相手先は、NC装置11に限られない。例えば、無線通信部73は、NC装置11ではない別のPCやサーバー、スマートフォン等の無線通信端末へセンサ72による検出信号を無線送信するとしてもよい。
【0053】
被設置部に特定周波数の振動を与える駆動部の例は、図1のアクチュエータ61に限定されない。旋盤10は、このような駆動部として、例えば、電気を振動に変換する圧電素子(圧電アクチュエータ)を採用することができる。この場合、旋盤10は、発電部71が設置された被設置部(例えば、主軸台53)に加振可能な位置に圧電アクチュエータを有する。そして、NC装置11は、任意のタイミングで(例えば、ワークWの非加工時間に)圧電アクチュエータを稼働させ、圧電アクチュエータにより被設置部に特定周波数の振動を与えさせる。
【0054】
さらに本実施形態によれば、センサーユニット70は、それらの外部との配線が一切不要であるため取り付け位置を選ばない。そのため、工作機械における、ユーザーが所望する位置や、これまでは配線が困難でセンサ類を事実上取り付けられなかった位置(例えば、機械の末端部や、主軸などの回転体等)にも、容易に取り付けることができる。むろん、市場へ新規に販売される工作機械だけでなく、センサ72による検出を必要としている既存の工作機械にも、センサーユニット70を取り付け(後付け)可能である。また、センサーユニット70は、バッテリーで動作するタイプのセンサとは異なり、自己発電型であるため、バッテリー交換等のメンテナンスが不要となり、ユーザーの管理負担が少ない。さらに、アクチュエータ61のような工作機械が元々有している駆動部を、発電部71に特定周波数の振動を与える駆動部としても用いることにより、特定周波数の振動を与えるための専用の駆動部の増設に要するコストを排し、かつ、既存の工作機械への前記後付けをより容易化させる。
【符号の説明】
【0055】
10…旋盤、11…NC装置、11a…CPU、11b…RAM、11c…ROM、12…無線通信部、20…操作受付部、30…表示部、43…刃物台、52…主軸、53…主軸台、61…アクチュエータ、62…ボールねじ機構、65…テーブル、70…センサーユニット、71…発電部、72…センサ、73…無線通信部、74…蓄電部、75…制御部、P…加工プログラム、W…ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6