(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】抗体可変領域の多様化を促進する方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0781 20100101AFI20220512BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220512BHJP
C12N 9/99 20060101ALI20220512BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20220512BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220512BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220512BHJP
【FI】
C12N5/0781 ZNA
C12N5/10
C12N9/99
C07K16/18
C07K16/46
C12Q1/6869 Z
(21)【出願番号】P 2018567520
(86)(22)【出願日】2018-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2018004697
(87)【国際公開番号】W WO2018147432
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2017023001
(32)【優先日】2017-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505368531
【氏名又は名称】株式会社カイオム・バイオサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【氏名又は名称】奥原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100178571
【氏名又は名称】関本 澄人
(72)【発明者】
【氏名】新倉 啓介
(72)【発明者】
【氏名】神村 洋介
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-507241(JP,A)
【文献】特表2010-528626(JP,A)
【文献】Biochemical and Biophysical Research Communications, 2010, Vol.396, pp.353-358
【文献】Current Topics in Microbiology and Immunology, 2015.09.09, Vol.393, pp.123-142
【文献】The Journal of Immunology, 2015, Vol.195, pp.5461-5471
【文献】Molecular Immunology, 2008, Vol.45, pp.1799-1806
【文献】Clinical Immunology, 2017.01.17, Vol.176, pp.77-86
【文献】Phil. Trans. R. Soc. B, 2009, Vol.364, pp.639-644
【文献】Frontiers in Immunology, 2015, Vol.6, No.126, pp.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリB細胞集団が産生する抗体の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する方法であって、抗体を発現するトリB細胞集団に含まれる各トリB細胞のPI3Kα活性を抑制することを含む前記方法。
【請求項2】
前記トリB細胞が、ニワトリB細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ニワトリB細胞が、DT40細胞であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗体可変領域が抗体重鎖可変領域であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記抗体可変領域が抗体軽鎖可変領域であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記PI3Kα活性の抑制が、PI3Kα特異的な阻害剤を前記トリB細胞に接触させることにより誘導されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記PI3Kα特異的な阻害剤が、PI3Kα Inhibitor 2、A66のいずれかであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記トリB細胞が発現する抗体がIgMまたはIgGであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記トリB細胞が発現する抗体がトリ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
トリB細胞集団の製造方法であって、請求項1ないし9のいずれかに記載の方法によって抗体の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することを含む、前記方法。
【請求項11】
抗体を取得する方法であって、請求項10に記載の方法によって製造されたトリB細胞集団由来のトリB細胞から抗体を取得することを含む、前記方法。
【請求項12】
抗体を作製する方法であって、請求項1ないし9のいずれかに記載の方法によって抗体の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することを含む、前記方法。
【請求項13】
トリB細胞が産生する抗体の可変領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸配列の取得方法であって、請求項1ないし9のいずれかに記載の方法によって当該抗体の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進し、当該抗体の可変領域を含むアミノ 酸配列をコードする核酸配列を取得することを含む、前記方法。
【請求項14】
トリB細胞が産生する抗体の可変領域を含むアミノ酸配列をコードする核酸配列の配列情報の取得方法であって、請求項1ないし9のいずれかに記載の方法によって当該抗体の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進し、当該抗体の可変領域を含むアミノ 酸配列をコードする核酸配列の配列情報を取得することを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の可変領域の多様化を促進する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は生体内において特定の抗原と結合し、様々な生体内防御反応を惹起する。このような抗体の特性を利用して、様々な抗体医薬が開発されている。抗体医薬の開発のためには、様々な抗原に対して、所望の親和性で結合する、多くの種類の抗体を作製する技術が必要となる。
【0003】
一般に、抗体作製方法は、動物免疫を利用するものと、そうでないものに分類される。動物免疫を利用する方法としては、抗原を動物に免疫し、得られたB細胞とミエローマを融合するハイブリドーマ法が挙げられる。しかしながらこの方法では、動物を利用するため抗体取得まで時間と労力が掛かる、免疫寛容により抗体が得られない、などの問題がある。動物免疫を利用しない方法としては、ファージディスプレイ法が挙げられる。ファージ粒子に抗体の可変領域からなる1本鎖抗体(single chain variable fragment:scFv)を提示し、標的抗原に結合するクローンを取得する方法であるが、ライブラリの質はscFvの多様性に依存することや、scFvから完全長抗体にする過程で特異性や親和性に変化が生じることが課題となっている。
【0004】
上記の抗体作製技術に加え、ニワトリB細胞由来細胞株DT40細胞を利用した抗体作製技術ADLib(登録商標)システムが開発され、さらに遺伝子導入によりヒト抗体を産生できるライブラリが利用できるようになった(特許文献1、2、3および非特許文献1)。抗原に特異的に結合する抗体を持つクローンをライブラリから選択できるため、免疫寛容を回避し、迅速に完全長抗体を得ることができる。加えて、抗原の認識において重要な抗体可変領域の多様化のメカニズムが、マウスやヒトでのV(D)J遺伝子再構成とは異なり、遺伝子変換(gene conversion:GC)であるため、マウスやヒトの生体内で作られる抗体とは異なるメカニズムによる抗体遺伝子配列の変化が期待できるという利点がある。
【0005】
抗体の可変領域遺伝子の配列を多様化する方法は、これまでにもいくつか報告されている。例えば、通常の野生型マウスと比較して、胚中心B細胞の抗体可変領域に多くの体細胞突然変異が誘発されるGANPマウス(登録商標)を使用した動物免疫(特許文献4)や、XRCC3遺伝子を不活性化したトリB細胞(特許文献5)、AID遺伝子の発現を制御したトリB細胞(特許文献6)、または変異導入に関与するAIDの活性を高めた変異AIDを導入したDT40-SWΔC細胞株(非特許文献2)を利用する方法などが挙げられる。
【0006】
なかでも、AID(activation-induced deaminase)タンパク質は、抗体の多様性や親和性の成熟に関わる体細胞高頻度突然変異(somatic hypermutation:SHM)、抗体の定常領域のクラスが変化するクラススイッチ組換え(class switch recombination:CSR)および遺伝子変換(GC)を引き起こす上で重要な機能を果たしており、AIDに関する研究は数多く行われてきた。AIDが、体細胞高頻度突然変異やクラススイッチ組換えなどの異なる現象に関与する上で、どのような機構によってその機能が制御されているのかは、非常に興味深い問題である。AIDの変異体による実験により、AIDのC末端はクラススイッチ組換えにおいては重要であるが、体細胞高頻度突然変異や遺伝子変換(GC)には必要ではないことが報告されている(非特許文献3)。またAIDにより異なる因子がリクルートされ、クラススイッチ組換や体細胞高頻度突然変異などの異なる現象を誘導していることが示唆されている(非特許文献4)。
【0007】
AIDの上流において機能している因子として、PI3キナーゼ(phosphoinositide 3-kinase:PI3K)が知られている。PI3キナーゼは、イノシトールリン脂質のイノシトール環3位をリン酸化し、細胞の生存、細胞増殖、細胞の移動および細胞内オルガネラの輸送など、様々な細胞機能に重要な役割を果たしている。PI3キナーゼは、構造により3つのクラス(クラスI、IIおよびIII)に分類される。クラスIはさらにクラスIAとIBに分けられ、このうちクラスIAは、触媒サブユニットとして、3つのアイソタイプp110α、p110βおよびp110δが知られている。
AIDとの関係においては、マウスB細胞におけるPI3K阻害剤を用いた研究から、p110δシグナリングが抑制されるとAIDの発現が上昇し、クラススイッチ組換えが促進されることが示されている(非特許文献5および非特許文献6)。
【0008】
以上のように、抗体の可変領域遺伝子の多様化には、様々な因子が複雑に関与しており、その制御機構には依然として不明な点が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許4214234号
【文献】WO2008/047480
【文献】WO2015/167011
【文献】特許4478577号
【文献】特開2009-060850
【文献】特開2006-109711
【0010】
【文献】Seoら, Nature Biotechnol. 23, 731-735 2005
【文献】金広優一ら:日本生物工学会大会講演要旨集,p.109, 2008
【文献】Barretoら, Mol. Cell 12, 501-508 2003
【文献】Heltemes-Harrisら, Mol Immuno. 45, 1799-1806 2008
【文献】Omoriら, Immunity 25, 545-557 2006
【文献】Zhangら, J Immunol. 191, 1692-1703 2013
【文献】Backer, Curr Top Microbiol Immunol. 346, 87-114 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、トリB細胞集団が産生する抗体可変領域アミノ酸配列および/または抗体可変領域遺伝子配列の多様化を促進する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、抗体可変領域(重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖))のアミノ酸配列(相補性決定領域(complementarity-determining region:CDR1~3)およびフレームワーク領域(framework region:FR)を多様化させる薬剤のスクリーニングを行った。その結果、PI3キナーゼ触媒サブユニットのp110αアイソタイプ(以下、PI3Kαとする)に対する特異的な阻害剤が、抗体可変領域のアミノ酸配列の多様化に有効であることを見いだした。前述の通り、マウスB細胞においては、p110δアイソタイプ(以下、PI3Kδとする)に対する特異的な阻害剤がクラススイッチ組換を促進するとの報告があるが、本発明者らは、PI3Kδに対する阻害剤は、トリB細胞の抗体可変領域のアミノ酸配列の多様化にほとんど影響を与えなかったことを確認している。
従って、PIK3αとPIK3δからのシグナルは、各々、異なるパスウェイにおいて、もしくは、異なる因子と協働して、抗体可変領域の多様化と、抗体定常領域におけるクラススイッチ組換えに関与している可能性、または、マウスとトリではB細胞の抗体配列に変化を誘導するパスウェイが異なる可能性が示唆された。
本発明は以上の知見に基づいて完成されたものである。
【0013】
すなわち、本発明は以下の(1)~(9)である。
(1)トリB細胞集団が産生する抗体の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する方法であって、抗体を発現するトリB細胞集団に含まれる各トリB細胞のPI3Kα活性を抑制することを含む前記方法。
(2)前記トリB細胞が、ニワトリB細胞であることを特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3)前記ニワトリB細胞が、DT40細胞であることを特徴とする上記(2)に記載の方法。
(4)前記抗体可変領域が抗体重鎖可変領域であることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記抗体可変領域が抗体軽鎖可変領域であることを特徴とする上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の方法。
(6)前記PI3Kα活性の抑制が、PI3Kα特異的な阻害剤を前記トリB細胞に接触させることにより誘導されることを特徴とする上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記PI3Kα特異的な阻害剤が、PI3Kα Inhibitor 2、A66のいずれかであることを特徴とする上記(6)に記載の方法。
(8)前記トリB細胞が発現する抗体がIgMまたはIgGであることを特徴とする上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記トリB細胞が発現する抗体がトリ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であることを特徴とする上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法により、トリB細胞集団が産生する抗体の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進することが可能となり、所望の抗原に対する抗体の調製を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】フローサイトメトリーによる抗体可変領域の多様化を評価する方法の概要。
【
図2】PI3K阻害剤のWortmanninによる抗体可変領域の解析例。CS(-)は薬剤非添加条件で解析を行った例である。
【
図3】特異性の異なるPI3K阻害剤の抗体可変領域の多様化に対する効果の比較(1)。阻害剤として、Pan-inhibitor(PI3Kα、β、δおよびγの全てに阻害効果を示す)、PI3Kα特異的阻害剤、PI3Kδ特異的阻害剤およびPI3Kγ特異的阻害剤を使用した。縦軸は、cIgM+_Sema3A-細胞の割合を示す。
【
図4】特異性の異なるPI3K阻害剤の抗体可変領域の多様化に対する効果の比較(2)。阻害剤として、PI3Kα特異的阻害剤、PI3Kδ特異的阻害剤およびPI3Kβ特異的阻害剤を使用した。縦軸は、cIgM+_Sema3A-細胞の割合を示す。
【
図5】PI3Kα阻害剤の抗体可変領域の多様化に対する効果の比較。阻害剤として、PI3Kα特異的阻害剤およびPI3Kα阻害活性を持つ薬剤を使用した。縦軸は、cIgM+_Sema3A-細胞の割合を示す。
【
図6】Reversion assayによる軽鎖GCの検証結果。CS(-)は、薬剤非添加のコントロール。CAL-101:PI3Kδ特的阻害剤、CZC 24832:PI3Kγ特異的阻害剤、AS 604850:PI3Kγ特異的阻害剤、A66:PI3Kα特異的阻害剤、PI3Kai2(PI3Kα Inhibitor 2):PI3Kα特異的阻害剤。
【
図7】NGS解析による抗体重鎖可変領域アミノ酸配列の多様性解析結果。
【
図8】NGS解析による抗体軽鎖可変領域アミノ酸配列の多様性解析結果。
【
図9】Affinity Maturationにより抗原結合性が向上した細胞群の解析例。-:薬剤非添加条件、A66:PI3Kα特異的阻害剤A66を含む条件、PI3Kai2:PI3Kα特異的阻害剤PI3Kα Inhibitor 2を含む条件。
【
図10】Affinity Maturationにより抗原結合性が向上した細胞の割合。-:薬剤非添加条件、A66:PI3Kα特異的阻害剤A66を含む条件、PI3Kai2:PI3Kα特異的阻害剤PI3Kα Inhibitor 2を含む条件。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態は、抗体を発現するトリB細胞集団に含まれる各トリB細胞のPI3Kα活性を抑制することにより、該トリB細胞集団が産生する抗体(抗体群)の可変領域のアミノ酸配列の多様化を促進する方法である。
本実施形態で使用する「トリB細胞集団(複数のトリB細胞)」における「トリB細胞」とは、抗体を産生するトリB細胞のことで、特に限定はしないが、例えば、ニワトリB細胞由来細胞株であるDT40細胞を挙げることができる。また、当該トリB細胞には、多様な変異を導入する処理が施されたトリB細胞、例えば、XRCC3遺伝子を不活性化したトリB細胞(特開2009-060850)、AID遺伝子の発現を制御したトリB細胞(特開2006-109711)、TSA(trichostatin A)を含むHDAC(histone deacetylase)阻害剤を用いて抗体配列を多様化したトリB細胞、外来性の遺伝子配列またはその一部を染色体上に導入したトリB細胞(例えば、任意の抗体遺伝子配列等を導入したB細胞)なども含まれる。
本実施形態で使用する「トリB細胞」の培養条件等は、当業者において周知の方法によって容易に行うことができ、特に限定はしないが、例えば、トリB細胞がDT40細胞である場合は、IMDM培地(Invitrogen)などを用い、5 %程度のCO2存在下、39.5℃程度で培養してもよい。
また、上記「トリB細胞集団」は、抗原と接触する前に、あらかじめ、カルシニューリン阻害剤(例えば、FK506など)およびトリ血清の存在下で培養してもよい。また、Affinity Maturation(本明細書においては、抗原に対する結合性が増強するのみならず、物性の向上等を含め、抗体の特性を向上させるような変化を伴ったクローンおよびクローン群を作りだす方法を意味する)を行った後に、トリB細胞集団を抗原と接触させる際に、カルシニューリン阻害剤(例えば、FK506など)およびトリ血清の存在下で培養してもよい。
本実施形態で使用する「抗体を産生するトリB細胞集団」とは、膜型抗体および分泌型抗体を産生するトリB細胞や、膜型抗体又は分泌型抗体を産生するトリB細胞なども含まれる。
【0017】
本実施形態において「トリB細胞が産生する抗体」は、トリ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体またはヒト抗体であってもよい。抗体の形状としては、全長抗体、抗体断片(例えばF(ab’)2, Fab’, Fab, Fv, scFv, Fcなど)、および抗体の重鎖および/または軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を含むタンパク質があるが、これに限定されない。また抗体は、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)およびその抗体断片などであってもよい。
本明細書においてキメラ抗体とは、互いに由来の異なる領域同士を連結させた抗体であり、例えば由来の異なる可変領域と定常領域とを連結させた抗体や、由来の異なるFab領域とFc領域とを連結させた抗体が含まれるが、これらに限定されない。例えば、トリ-マウスキメラ抗体は、トリ遺伝子由来の抗体のアミノ酸配列とマウス遺伝子由来の抗体のアミノ酸配列とを連結させた抗体のことである。それ以外にトリ遺伝子由来の抗体のアミノ酸配列とヒト遺伝子由来の抗体のアミノ酸配列とを連結させたトリ-ヒトキメラ抗体、トリ遺伝子由来の抗体のアミノ酸配列とウサギ遺伝子由来の抗体のアミノ酸配列とを連結させたトリ-ウサギキメラ抗体、トリ遺伝子由来の抗体のアミノ酸配列とヤギ遺伝子由来の抗体のアミノ酸配列とを連結させたトリ-ヤギキメラ抗体などが挙げられる。
ヒト化抗体とは、産生される抗体の重鎖または軽鎖のアミノ酸配列のうち、一部がトリ遺伝子由来の配列であり、それ以外がヒト遺伝子由来の配列である抗体のことである。また、ヒト抗体とは、産生される抗体の重鎖または軽鎖のアミノ酸配列がすべてヒト遺伝子由来の配列である抗体のことである。
また、本実施形態において、「トリB細胞が産生する抗体」には、トリ以外の動物種由来の抗体のアミノ酸配列の全てまたは一部を含む抗体も含まれる。具体的には、マウス、ラット、ウサギ、ウシまたはヤギなどから得られる抗体のアミノ酸配列の全てまたは一部を含む抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
本実施形態において「トリB細胞が産生する抗体」のアイソタイプは、特に限定はしないが、例えばIgM、IgG、IgAまたはIgYなどが挙げられる。
【0018】
本実施形態において、「抗体の可変領域」は、抗体重鎖(H鎖)の可変領域および抗体軽鎖(L鎖)の可変領域のいずれであってもよく、相補性決定領域(CDR1~3)およびフレームワーク領域(FR)からなる領域である。
本実施形態において、抗体の可変領域のアミノ酸配列の「多様化」とは、トリB細胞集団を構成する各トリB細胞が産生する抗体の可変領域のアミノ酸配列同士を比較した場合、同一の配列の割合が減少し、異なる配列(特に、互いに類似度の低い配列)の割合が増大することである。可変領域のアミノ酸配列の「多様化」の指標としては、特に限定しないが、例えば対象のトリB細胞集団が産生する抗体の抗原特異性、抗原結合性や物性等の変化、抗体可変領域アミノ酸配列の種類の数および配列間の同一性(identity)や相同性(homology)などを指標とすることができる。また抗体可変領域のアミノ酸配列はそのDNA配列によって一義的に決まるため、その多様性は、同様に対象のトリB細胞集団が産生する抗体の抗体可変領域のDNA配列の種類の数、配列間の同一性や相同性などを指標とすることができる。
トリB細胞集団を構成する各細胞の抗体可変領域のアミノ酸配列が多様化することで、各トリB細胞が産生する抗体の抗原特異性や親和性、物性等に変化が生じることとなり、該トリB細胞集団から得られる抗体の多様化を達成することが可能となる。
【0019】
本実施形態における「PI3Kα」とは、 PI3キナーゼ触媒サブユニットαアイソタイプの(p110α)のことである(非特許文献7)。ここで、PI3Kαの活性を抑制する方法としては、限定はしないが、例えば、PI3Kα特異的な活性阻害剤を用いる方法、PI3KαをコードするPI3KCA遺伝子の機能を低下または喪失させる方法などをあげることができる。
【0020】
PI3Kα特異的な活性阻害剤を用いる方法は、例えば、PI3Kα Inhibitor 2、A66、PF-4989216、INK1117、GSK1059615、GDC-0941、BYL719、PI-103、PIK-90、PIK-75、HS-173などのPI3Kα特異的阻害剤をトリB細胞に接触させて処理することで実施することができる。PI3Kα特異的阻害剤をトリB細胞に接触させる方法は、当業者であれば公知技術から容易に選択することができるが、例えば、培地中にPI3Kα特異的阻害剤が存在している状態でトリB細胞を培養する方法を例示することができる。PI3Kα特異的阻害剤の培地中の濃度は、使用する阻害剤によって異なるが、当業者であれば、トリB細胞に障害を生じさせない範囲内で有効な濃度を予備的な実験などを行うことで容易に決定することが可能である。PI3Kα特異的阻害剤として、例えば、PI3Kα Inhibitor 2を使用する場合は、500 nM~5 nM程度の濃度、A66を使用する場合は、10 μM~100 nM程度の濃度、PF-4989216を使用する場合は、500 nM~50 nM程度の濃度、INK1117を使用する場合は、2.5 μM~25 nM程度の濃度、GSK1059615を使用する場合は、500 nM~5 nM程度の濃度、GDC-0941を使用する場合は、500 nM~5 nM程度の濃度、BYL719を使用する場合は、500 nM~5 nM程度の濃度、PI-103を使用する場合は、50 nM~5 nM程度の濃度、PIK-90を使用する場合は、100 nM~10 nM程度の濃度、PIK-75を使用する場合は、5 nM~0.5 nM程度の濃度、HS-173を使用する場合は、50 nM~5 nM程度の濃度となるように培地に添加してもよい。
また、PI3Kα特異的阻害剤は、PI3Kαの活性を特異的に阻害するものであればいかなるものであってもよく、低分子化合物の他、タンパク質やペプチドであってもよく、市販品を購入して使用することも可能である。
PI3Kα特異的阻害剤をトリB細胞に接触させて処理する時間は、用いる阻害剤の種類や用いる濃度によっても異なるが、例えば、上記のPI3Kα特異的阻害剤を用いる場合、24~72時間程度としてもよい。
【0021】
PI3KCA遺伝子の機能を低下または喪失させる方法としては、PI3KCA遺伝子に遺伝子操作(点変異、欠失、挿入または付加などの突然変異の導入、ノックイン、ノックアウト、CRISPER/Casシステム等によるゲノム編集)により、PI3Kαの活性を低下もしくは喪失させる方法、または、PI3Kαの発現を低下または喪失させる方法、あるいは、shRNAなど(RNAi法)を用いてPI3Kαの発現を低下または喪失させる方法などが挙げられる。
【0022】
本明細書において引用されたすべての文献の開示内容は、全体として明細書に参照により組み込まれる。また、本明細書全体において、単数形の「a」、「an」、および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものを含むものとする。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0023】
1.材料および方法
1-1.被検物質・サンプル・使用材料
1-1-1.細胞株
本実施例においては、ニワトリ由来B細胞株DT40細胞のBMAA4-2細胞株(WO2014/123186)、CL18_M-株 (本実施例で使用したCL18株;Buersteddeら, EMBO J. 9, 921-927 1990)、hVEGF-A#33株およびhVEGF-A#44株を使用した。BMAA4-2細胞株は、抗Sema3A抗体(chicken IgM:cIgM)を、hVEGF-A#33細胞株とhVEGF-A#44細胞株は、抗hVEGF抗体(human IgG:hIgG)を産生する細胞であり、CL18_M-株はcIgM抗体遺伝子領域にフレームシフトが生じており通常cIgMを産生しない細胞である。
BMAA4-2細胞株は、WO2014/123186に記載の方法により作製された。また、hVEGF-A#33細胞株およびhVEGF-A#44細胞株は、ヒトVEGF-A(以下、hVEGF-Aとする)を抗原とし、ヒトADLibライブラリ(WO2015/167011に記載された方法に準じて改良を加えたライブラリ)から選択され、それぞれhVEGF-Aに特異的に結合するクローンとして単離された。hVEGF-A#33株は軽鎖λ鎖、hVEGF-A#44株は軽鎖κ鎖を持ち、異なる抗体遺伝子配列由来の抗体を産生する株である。
1-1-2.培地、血清および抗生物質など
DT40細胞の培養には、培地としてIscove's Modified Dulbecco's Medium(IMDM, Gibco, 12440079)、血清として Fetal Bovine Serum(FBS, Biosera, FB1280/500, lot. 11824)および Chicken Serum(CS, Gibco, 16110082, lot. 1383279)を使用し、抗生物質として Penicillin-Streptomycin Mixed Solution(Stabilized)(P/S, Nacalai tesque, 09367-34)を使用した。またAffinity Maturation後にはFK-506(Cayman, 10007965)を添加し、使用した。
【0024】
1-1-3. 抗原および抗体
抗体の多様化を解析するための抗原として、HisタグとAPタグを融合させたカニクイザルSema3Aタンパク質(His-AP-cySema3A, NCBI Reference Sequence: XP_005550410.1)とFLAGタグを融合させたhVEGF-Aタンパク質(27-191アミノ酸配列、UniProt# P15692-4)を調製した。解析に用いた抗体は、Mouse Anti-Chicken IgM-PE (SouthernBiotech, 8310-09)、Goat anti-Chicken IgM Antibody FITC Conjugated (Bethyl, A30-102F)、およびGoat Anti-Human IgG-PE(SouthernBiotech, 2040-09)である。
【0025】
1-1-4.次世代シーケンシング(Next-Generation Sequencing:NGS)解析に使用したプライマー
抗体重鎖可変領域DNA配列の解析
BHcF1;
5’-CTATGCGCCTTGCCAGCCCGCTCAGCGCTCTCTGCCCTTCC-3’
(配列番号1)
A001HcR;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGACGAGTGCGTCGATGACTTCGGTCCCGTG-3’
(配列番号2)
A002HcR;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGACGCTCGACACGATGACTTCGGTCCCGTG-3’
(配列番号3)
A003HcR;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGAGACGCACTCGATGACTTCGGTCCCGTG-3’
(配列番号4)
A004HcR;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGAGCACTGTAGCGATGACTTCGGTCCCGTG-3’
(配列番号5)
A005HcR;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGATCAGACACGCGATGACTTCGGTCCCGTG-3’
(配列番号6)
A006HcR;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGATATCGCGAGCGATGACTTCGGTCCCGTG-3’
(配列番号7)
A007HcR;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGCGTGTCTCTACGATGACTTCGGTCCCGTG-3’
(配列番号8)
【0026】
抗体軽鎖可変領域DNA配列の解析
A001NGSLCF;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGACGAGTGCGTCAGGTTCCCTGGTGCAGGC-3’
(配列番号9)
A002NGSLCF;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGACGCTCGACACAGGTTCCCTGGTGCAGGC-3’
(配列番号10)
A003NGSLCF;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGAGACGCACTCAGGTTCCCTGGTGCAGGC-3’
(配列番号11)
A005NGSLCF;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGATCAGACACGCAGGTTCCCTGGTGCAGGC-3’
(配列番号12)
A006NGSLCF;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGATATCGCGAGCAGGTTCCCTGGTGCAGGC-3’
(配列番号13)
A007NGSLCF;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGCGTGTCTCTACAGGTTCCCTGGTGCAGGC-3’
(配列番号14)
A012NGSLCF;
5’-CGTATCGCCTCCCTCGCGCCATCAGCGAGAGATACAGGTTCCCTGGTGCAGGC-3’
(配列番号15)
cmNGSLcR-3B;
5’-CTATGCGCCTTGCCAGCCCGCTCAGATGTCACAATTTCACGATGG-3’
(配列番号16)
【0027】
1-1-5.試薬等
本実施例においては、表1~表3の試薬を使用した。
【表1】
【表2】
【表3】
【0028】
1-2.実験方法
1-2-1.培地およびバッファーの組成
(i)CS(-)培地
IMDM;1,000 mL
FBS ; 90 mL
P/S ; 10 mL
(ii)CS(+)培地
IMDM;1,000 mL
FBS ; 90 mL
P/S ; 10 mL
CS ; 10 mL
(iii)FACSバッファー
BSA ;5 g
0.5M EDTA, pH 8.0 ;4 mL
Phosphate Buffered Saline Powder;1 unit
dH2O ;1,000 mL
0.22 μm Filter System(Corning, 431098)を使用。
【0029】
1-2-2.抗原のAlexa Fluor 647 (AF647) 標識
His-AP-cySema3Aを、Alexa Fluor 647 Microscale Protein Labeling kit(Molecular probes, A30009)を用いてAF647で標識した。今回用いたHis-AP-cySema3Aはタンパク質濃度が0.626 mg/mLと1 mg/mL未満であったため、dye:molar ratios (MR) を25に設定してdye量を計算した。その他の点については使用説明書に従った。NanoDrop 2000c(ThermoFisher Scientific)を用いてA280およびA650を測定し、蛍光標識サンプルのタンパク質濃度を決定した。作製したAF647標識Sema3Aを以降の実験に用いた。
【0030】
1-2-3.BMAA4-2細胞株を用いたフローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)による配列変化解析
BMAA4-2細胞株の凍結ストック(3.0×106 cells)をCS(-)培地10 mLで25 cm2 Flask(Corning, 430639)を用いて起眠し、CO2インキュベータで培養した(SANYO CO2 Incubator MCO-20AIC 、39.5℃、5% CO2)。翌日、48 well dish(Nunc, 150687)に各薬剤を添加したCS(-)培地を500 μLずつそれぞれのwellに加え、6.0×104 cells/mLとなるように細胞を播種した(細胞濃度および生存率はCASY cell counter(Nepa Gene)を用いて測定)。2日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で1.0×104 cells/mLとなるように継代した。3日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で6.0×104 cells/mLとなるように継代した。2日間培養後(培養7日目)、各サンプルそれぞれ2.0×105 cellsを96 well plate(Nunc, 249662)の各wellに移し、300×gで5 min遠心して上清を除去した。各wellにFACS bufferを200 μLずつ添加し、細胞を洗浄して再び遠心(300×g、3 min) して上清を除去した。この洗浄工程を2回繰り返した後、AF647標識Sema3A(5 nM)および200倍希釈Mouse Anti-Chicken IgM-PEを含むFACSバッファー 50 μLで各サンプルを懸濁し、遮光して4℃で30 min反応させた。染色後、FACSバッファーによる洗浄を2回行い、1,000倍希釈7-AAD(BD Pharmingen, 559925)を含むFACSバッファー 100 μLで各サンプルを懸濁し、FACS Canto II Flow Cytometerを用いて測定した。FSC-SSC plotでの死細胞除去、doublet除去、および7-AAD陽性細胞除去を行った後、横軸にAPC(AF647標識Sema3A)、縦軸にPE(Mouse Anti-Chicken IgM-PE)を設定したplotを展開し、PE+ (cIgM+)_APC- (Sema3A-) の細胞の割合を算出した。
【0031】
1-2-4.Reversion assayによる軽鎖GC(gene conversion)解析
CL18_M-細胞株の凍結ストック(3.0×106 cells)をCS(-)培地 10 mLで25 cm2 Flaskを用いて起眠し、CO2インキュベータで培養した(39.5℃、5% CO2)。翌日、24 deep well plate(ThermoFisher Scientific, 95040480)に各薬剤を添加したCS(-)培地を2 mLずつそれぞれのwellに加え、6.0×104 cells/mLとなるように細胞を播種した(細胞濃度および生存率はCASY cell counterを用いて測定)。2日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で1.0×104 cells/mLとなるように継代した。3日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で6.0×104 cells/mLとなるように継代し、さらに2日間培養して計7日間同じ条件で培養した。この7日目の時点で、各サンプルそれぞれ2.0×105 cellsを96 well plate(Nunc, 249662)の各wellに移し、300×gで5 min遠心して上清を除去した。各wellにFACSバッファーを200 μLずつ添加し、細胞を洗浄して再び遠心 (300×g、3 min) して上清を除去した。この洗浄工程を2回繰り返した後、1,000倍希釈Goat anti-Chicken IgM Antibody FITC Conjugatedを含むFACS バッファー 50 μLで各サンプルを懸濁し、遮光して4℃で30 min反応させた。染色後、FACSバッファーによる洗浄を2回行い、1,000倍希釈7-AADを含むFACSバッファー 100 μLで各サンプルを懸濁し、FACS Canto II Flow Cytometerを用いて測定した。FSC-SSC plotでの死細胞除去、doublet除去、および7-AAD陽性細胞除去を行った後、横軸にFITC (Goat anti-Chicken IgM Antibody FITC Conjugated)、縦軸にPE (なし) を設定したplotを展開し、PE-_FITC+ (cIgM+) の細胞の割合を算出した。
また、7日間培養後、さらに各サンプルをそれぞれ同じ条件で6.0×104 cells/mLとなるように継代した。2日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で1.0×104 cells/mLとなるように継代した。3日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で6.0×104 cells/mLとなるように継代し、さらに2日間培養して計14日間同じ条件で培養した。この14日目の時点で、7日目と同様にFACS Canto II Flow Cytometerを用いて各サンプルの測定を行った。
【0032】
1-2-5.NGSによる配列変化解析
(重鎖)
BMAA4-2細胞株の凍結ストック(3.0 x 106 cells)をCS(-)培地10 mLで25 cm2 Flaskを用いて起眠し、CO2インキュベータで培養した(39.5℃, 5% CO2)。翌日、12 well dish(Nunc, 150628)に各薬剤を添加したCS(-)培地を2 mLずつそれぞれのwellに加え、6.0×104 cells/mLとなるように細胞を播種した(細胞濃度および生存率はCASY cell counterを用いて測定)。2日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で1.0×104 cells/mLとなるように継代した。3日間培養後、各サンプルをそれぞれ25 cm2 Flaskに同じ条件の培地10 mLに対し6.0×104 cells/mLとなるように継代した。2日間培養後(培養7日目)、各サンプルそれぞれ2.0×106 cellsを1.5 mLチューブに回収し、1,000×gで5 min遠心して上清を除去した。D-PBS(-)(Nacalai tesque, 14249-24) 1 mLで再懸濁し、1,000×gで5 min遠心して上清を除去した後、-80℃で保存した。また、残りの細胞から各サンプルそれぞれ12 well dishに同じ条件の培地2 mLに対し、6.0×104 cells/mLとなるように継代した。2日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で1.0×104 cells/mLとなるように継代した。3日間培養後、各サンプルをそれぞれ25 cm2 Flaskに同じ条件の培地10 mLに対し6.0×104 cells/mLとなるように継代した。2日間培養後(培養14日目)、各サンプルそれぞれ2.0×106 cellsを1.5 mLチューブに回収し、1,000×gで5 min遠心して上清を除去した。D-PBS(-) 1 mLで再懸濁し、1,000×gで5 min遠心して上清を除去した後、-80℃で保存した。
(軽鎖)
BMAA4-2細胞株の凍結ストック(3.0 x 106 cells)をCS(-)培地10 mLで25 cm2 Flaskを用いて起眠し、CO2インキュベータで培養した (39.5℃, 5% CO2)。翌日、24 well dishに各薬剤を添加したCS(-)培地を1 mLずつそれぞれのwellに加え、3.0 x 105 cells/mLとなるように細胞を播種した (細胞濃度および生存率はCASY cell counterを用いて測定)。翌日、各サンプルをそれぞれ同じ条件で1.0 x 104 cells/mLとなるように継代した。3日間培養後、各サンプルをそれぞれ6 well dishに同じ条件の培地5 mLに対し3.0 x 105 cells/mLとなるように継代した。翌日、各サンプルそれぞれ50 mL tube(TPP, 87050)に同じ条件の培地 10 mLに対し3.0 x 105 cells/mLとなるように継代した。翌日、再び各サンプルそれぞれ50 mL tubeに同じ条件の培地 10 mLに対し3.0 x 105 cells/mLとなるように継代した。翌日(培養7日目)、各サンプルそれぞれ24 well dishに同じ条件の培地1 mLに対し、3.0 x 105 cells/mLとなるように継代した。翌日、各サンプルそれぞれ同じ条件で1.0 x 104 cells/mLとなるように継代した。3日間培養後、各サンプルをそれぞれ50 mL tubeに同じ条件の培地 10 mLに対し6.0 x 104 cells/mLとなるように継代した。2日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で3.0 x 105 cells/mLとなるように継代した。翌日(培養14日目)、各サンプルそれぞれ2.0 x 106 cellsを1.5 mLチューブに回収し、1,000 x gで5 min遠心して上清を除去した。D-PBS(-) 1 mLで再懸濁し、1,000 x gで5 min遠心して上清を除去した後、-80℃で保存した。
【0033】
-80℃で保存した細胞ペレットからWizard Genomic DNA Purification Kit(Promega、A2361)を用いてゲノムDNAを抽出および精製し、これを鋳型に重鎖の解析にはBHcF1, A001HcR-A007HcRの各プライマーおよびPrimeSTAR GXL DNA Polymerase(Takara bio、R050B)を用いて、変性98℃ 1 minの後、変性98℃ 10 sec、アニーリング58℃ 15 sec、伸長反応68℃ 1 minのサイクルを35回繰り返し、最後に伸長反応68℃ 5 minのプロトコルでPCRを行った。軽鎖の解析にはA001NGSLCF-A003NGSLCF, A005NGSLCF-A007NGSLCF, A012NGSLCF, cmNGSLcR-3Bの各プライマーおよびPrimeSTAR GXL DNA Polymeraseを用いて、変性98℃ 1 minの後、変性98℃ 10 sec、アニーリング60℃ 15 sec、伸長反応68℃ 1 minのサイクルを35回繰り返し、最後に伸長反応68℃ 5 minのプロトコルでPCRを行った。QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen, 28106)もしくはQIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen, 28706)を用いて各PCR産物を精製し、NanoDropを用いて濃度を測定した。各サンプルそれぞれ400 ngずつ混合した後、1%アガロースゲルで電気泳動を行い、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて精製した。このとき、PE bufferによるWashおよびその後の乾燥操作をチューブの向きを変えて2回行った。精製したDNA Mixサンプルの濃度はQuant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(ThermoFisher scientific, P7589)を用いて正確に測定した。GS Junior Titanium emPCR Kit (Lib-A) (Roche, Cat. No. 05 996 520 001)を使用説明書に従って用いてエマルジョンPCRを行い、GS Junior Titanium Sequencing Kit(Roche、Cat. No. 05 996 554 001) およびGS Junior Titanium PicoTiterPlate Kit(Roche、Cat. No. 996 619 001)を使用説明書に従って用い、GS junior(Roche Life science)を用いてシーケンスを行った。シーケンス後、アンプリコンモードでベースコールを行い、rawデータ(リード配列)を得た。
【0034】
GS Juniorから出力されたリード配列はフィルタリングを行い、次の3条件を満たさない場合は除外した。
(1)QV15以上の連続した塩基が250bp以上含まれているリード配列、
(2)領域推定により全てのフレームワークが認識可能なリード配列、および
(3)CDR1からCDR3の翻訳フレームに終止コドンや塩基余り(フレームシフト)が出現しないリード配列
領域推定はHMMERプログラム(3.1b2, Johnsonら, BMC Bioinformatics. 11, 431. 2010)を用いてKabatの定義によるFW1, FW2, FW3およびFW4のそれぞれの領域推定プロファイルをヒットさせ判別した。いずれかのFWが認識されなかったリード配列は除外し、残ったリード配列は推定されたFW領域に基づきCDR1, CDR2, CDR3を規定した。フィルタリング後、239のリード配列をランダムに非復元抽出し、CDR1からCDR3までのアミノ酸配列を対象として、NUS(Number of Unique Sequence)とSBL(Sum of Branch Length)を計算した。NUSは239配列中のユニークなアミノ酸配列種数を表し、SBLはそれらのアミノ酸配列群から得られた系統樹の枝の長さの総和を表している。系統樹の作成はまずmafftプログラム(v7.221, Katoh&Standley, Mol. Biol. Evol. 4, 772-780. 2013)によってマルチプルアライメントを行い、更にマルチプルアライメント結果に基づくp距離行列を入力データとし、clearcutプログラム(1.0.9, Savolainenら, Syst. Biol. 49, 306-362. 2000)で近隣結合法による系統樹を作成した。なお239配列のサンプリングは独立して10回行い、各試行におけるNUS・SBL値の平均値を最終的な出力値とした。
【0035】
1-2-6.抗hVEGF-A抗体産生細胞株におけるAffinity Maturationおよびフローサイトメトリー(flow cytometry:FCM)による配列変化解析
hVEGF-A#33細胞株およびhVEGF-A#44細胞株の凍結ストック(3.0×106 cells)をCS(-)培地で25 cm2 Flask(Corning, 430639)を用いて起眠し、CO2インキュベータで培養した(SANYO CO2 Incubator MCO-20AIC 、39.5℃、5% CO2)。翌日、6 well dish(Nunc, 140675)に1.0×104 cells/mLとなるように細胞を播種した(細胞濃度および生存率はCASY cell counter(Nepa Gene)を用いて測定)。細胞は、CS(+)培地を用いて、PI3Kα阻害剤の存在(A66;10 μM、PI3Kα Inhibitor 2;500 nM)または非存在の条件で培養を行った。また、細胞は、2日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で、1.0×104 cells/mLとなるように細胞を継代した。さらに3日間培養後、各サンプルをそれぞれ同じ条件で6.0×104 cells/mLとなるように継代し、培養を継続した。2日間培養後(培養7日目)、各サンプルを遠心して上清を除去し、1 μM FK-506を含むCS(+)培地(以下、CS/FK培地とする)を用いて懸濁、再び遠心して上清を除去した。この洗浄工程を2回繰り返した後、AF647標識hVEGF-A(10 nM)および2,000倍希釈Goat Anti-Human IgG-PEを含むCS/FK培地で各サンプルを懸濁し、遮光して4℃で30 min反応させた。染色後、CS/FK培地による洗浄を2回行い、CS/FK培地で各サンプルを懸濁し、FACS Aria Fusion(BD)を用いてFCMおよびsingle cell sortを実施した。FSC-SSC plotでの死細胞除去を行った後、横軸にAF647(AF647標識hVEGF-A)、縦軸にPE(Goat Anti-Human IgG-PE)を設定したplotを展開し、PE+ (hIgG+)/AF647-(hVEGF-A-)の細胞の割合を算出した。各条件下でのAffinity Maturationにおいて抗原結合性が向上した細胞数を比較するため、Affinity Maturation Gateは、次のような基準に従って設定した。まずFCM解析において等高線プロットに変換し、最も多くの細胞が集まっている集団(以下、メイン集団とする)の等高線と平行になるような傾きを持つ台形ゲートを設定する。次に、メイン集団の等高線プロットより、抗原に対する結合性の指標である蛍光強度(mean fluorescence intensity:MFI)の平均値を算出し、その値の5倍以上のMFIを示す細胞がゲートに入るように設定した。その際、台形ゲートの頂点がメイン集団のMFI平均値に重なるように設定し、抗原結合性が低い細胞集団および抗体発現量の低い細胞集団がゲートに入らないようにした。抗原結合性が向上したクローンの割合は、このAffinity Maturation Gate内に存在する細胞数を数え、解析総細胞数で割ることで百分率として算出した。
【0036】
1-2-7.Affinity Maturationにより抗原結合性が向上したクローンの抗体可変領域遺伝子配列の取得および配列解析
Affinity Maturation後に抗原結合性が向上している細胞集団の上位0.2%にあたる細胞集団から192個をsingle cell sortし、96 well plateのCS/FK培地の中で8日間培養させた。培養生育したクローンの中から無作為に24個のクローンをピックアップし、各抗体可変領域の遺伝子配列を解析し、重鎖・軽鎖を含めて、可変領域で同一核酸配列をコードしているものを1つのグループとする方法でグループ分けを行い、グループ数より配列種類数を算出し、アミノ酸配列の変化について確認した。また配列変化数は、各細胞株のオリジナルクローンとAffinity Maturation後に得られたクローンの抗体可変領域遺伝子の核酸配列を比べて、異なる塩基配列が1つ以上ある場合を配列変化として数えた。
【0037】
1-2-8.Affinity Maturationにより抗原結合性が向上したクローンの抗体親和性測定
1-2-7においてグループ分けを行った各グループの代表クローンについて、培養上清を調製し、SPR法(Biacore T200、GE Healthcare)を用いて、抗原との親和性を測定した。Human Antibody Capture Kit(BR100839、GE Healthcare)を用いてCM5センサーチップ(BR100530、GE Healthcare)にanti-human IgG(Fc)抗体を固定した後、培養上清中の抗体をキャプチャーした。25 nM hVEGF-Aを240秒反応させ、その後500秒解離させた。再生溶液として3 M MgCl2を30秒間反応させて、1サイクルを完了させた。バッファーはHBS-EP+(10 mM HEPES、150 mM NaCl、3 mM EDTA、0.05 % (v/v) surfactant P20(pH 7.4)(BR100669、GE Healthcare))を使用し、流速は30 μL/minで測定した。各SPRセンサーグラムに対しBiacore T200 Evaluation Software によるLangmuir 1:1 binding modelによるフィッティングを行い、結合速度定数kon, 解離速度定数koffを算出し、KD=koff/kon の式よりKD値を決定した。
【0038】
1-3.結果
1-3-1.BMAA4-2細胞株を用いた抗体可変領域アミノ酸配列の多様化促進化合物のスクリーニング
BMAA4-2細胞株を用いて、多様化促進化合物のスクリーニング系を構築した(
図1)。BMAA4-2細胞株は、抗Sema3A抗体(cIgM)を発現するDT40細胞クローンであるが、遺伝子変換(GC)や体細胞高頻度突然変異が誘導される条件で培養すると、抗原であるSema3Aへの親和性が低下した細胞集団が出現する。このような細胞集団は、可変領域のアミノ酸配列変化によって抗原への親和性が低下したと考えられることから、各培養条件におけるcIgM+_Sema3A-の集団の割合をFCMによって測定し比較することで、アミノ酸配列の変化を促進する(すなわち、アミノ酸配列の多様化を促進する)効果を評価することができる。
まず、細胞増殖やB細胞の分化・活性化、遺伝子変換(GC)や体細胞高頻度突然変異などに関与することが知られている化合物から、表1に記載した化合物を選択し、これらの化合物を培地中に添加し、培養1週間の時点におけるFCMのcIgM+_Sema3A-集団の増大を指標として、可変領域のアミノ酸配列変化を促進する化合物のスクリーニングを行った。その結果、PI3Kを阻害するWortmanninを添加した場合、cIgM+_Sema3A-の集団の割合が、陰性対照(CS(-))と比較して増大しており、Wortmanninが抗体可変領域のアミノ酸配列変化を促進することがわかった(
図2)。
【0039】
1-3-2.BMAA4-2細胞株の抗体可変領域のアミノ酸配列変化に対するPI3K阻害剤の作用の比較
PI3K阻害剤が、抗体可変領域アミノ酸配列の多様化を促進する作用を有することが見出されたため、次に、アイソタイプ特異性が異なる様々なPI3K阻害剤の中から表2に示す物を選択し、これらの化合物の配列変化に対する作用を比較した。各阻害剤の濃度は、作用分子に対するIC
50を基準とし、予備実験によりアイソタイプ特異性および細胞毒性の有無を指標として決定した。BMAA4-2細胞株を用いて、FCMによってcIgM+_Sema3A-集団の変化を各阻害剤で比較した結果、PI3Kα特異的な阻害剤であるA66やPI3Kα Inhibitor 2による配列変化促進作用が最も高く、PI3Kβ特異的阻害剤、PI3Kδ特異的阻害剤およびPI3Kγ特異的阻害剤による配列変化の促進作用はA66やPI3Kα Inhibitor 2より低い、もしくは陰性対照(CS(-))とほぼ同程度であった(
図3および4)。
さらにPI3Kα特異的な阻害剤およびPI3Kαに阻害活性を持つ薬剤を用いて、同様な実験を行ったところ、PI3Kα活性を阻害する薬剤は、陰性対照(CS(-))と比べて、配列変化の促進作用を持つことが確認された(
図5)。このことから、PI3Kα活性を阻害する薬剤が配列変化を促進することが明らかになった。
【0040】
1-3-3.Reversion assayによるPI3Kα阻害剤の軽鎖遺伝子変換(GC)における作用の検証
PI3Kα阻害剤であるA66やPI3Kα Inhibitor 2が新規多様化促進化合物として有望であることがわかったため、従来GCの誘起活性を検証するために広く用いられているReversion assayを用いて、これらの阻害剤の作用を検証した。Reversion assayは、抗体軽鎖可変領域にフレームシフトが生じている株CL18が、GCによってIgMを発現するようになること(Reversion活性)を利用してGCの頻度を検証する系である(Buersteddeら, EMBO J. 9, 921-927. 1990)。すなわち、Reversion assayにおいて、IgMを発現する細胞の割合が上昇した場合には、抗体軽鎖可変遺伝子領域におけるGCが惹起され、当該領域のアミノ酸配列の多様化が促進されていると判断することができる。本アッセイで用いたCL18_M-株は、PI3K阻害剤による毒性が出やすい性質を有していたため、この実験ではPI3Kα Inhibitor 2を200 nMの濃度で使用した。各条件において培養1週間後および2週間後のIgM発現陽性の細胞の割合を算出した結果、PI3Kα阻害剤であるA66およびPI3Kα Inhibitor 2がPI3Kδ特異的阻害剤(CAL-101)およびPI3Kγ特異的阻害剤(CZC 24832、AS 604850)、陰性対照(CS(-))と比較して高いReversion活性を示した(
図6)。
【0041】
1-3-4.PI3Kα阻害剤処理サンプルのNGSによる抗体可変領域アミノ酸配列解析
最後にNGSを用いて、A66およびPI3Kα Inhibitor 2処理サンプルの抗体重鎖可変領域遺伝子を解読し、得られた抗体のアミノ酸配列の大規模解析を行い、BMAA4-2細胞集団において抗体の多様性が向上しているかを確認した。配列の種類数に関連するNUS、配列間の類似度に関連するSBLいずれの指標においても、A66およびPI3Kα Inhibitor 2処理サンプルでは陰性対照サンプルと比較して高い値を示した(
図7)。
また、同様に、A66処理サンプルの抗体軽鎖可変領域遺伝子配列についても解読し、得られた抗体のアミノ酸配列の大規模解析を行ったところ、NUSおよびSBLともに陰性対照サンプルと比較して高い値を示した(
図8)。
【0042】
1-3-5. hVEGF-A-#33細胞株を用いた抗体可変領域アミノ酸配列の多様化促進化合物のスクリーニング
ヒト抗体(hIgG)を発現するDT40細胞に有効な多様化促進化合物を選定するため、抗hVEGF-A抗体(hIgG)を発現するDT40細胞株(hVEGF-A-#33細胞株)を用いて、抗原であるhVEGF-Aへの親和性が低下した細胞集団(hIgG+_hVEGF-A-)の割合を指標に、1-3-1と同様、化合物をスクリーニングした(表3)。その結果、Wortmannin, A66, PI3Kα Inhibitor 2, PF-4989216, GSK1059615, PI-103, PIK-90の存在下において、陰性対象(CS(-))と比較してhIgG+_hVEGF-A-の割合が増大していたことがわかった。抗Sema3A抗体(cIgM)を発現する細胞株だけでなく、Sema3Aと異なる抗原であるVEGF-Aに対する抗体(hIgG)を発現する細胞株においても、PI3Kα阻害剤により配列変化が促進されることが明らかとなった。
【0043】
1-3-6.ヒト抗体産生細胞株を用いたAffinity MaturationにおけるPI3Kα阻害剤による多様化促進効果
次に、1-3-5で最も多様化促進効果が高かったA66, PI3Kα Inhibitor 2を用い、hVEGF-A-#33細胞株およびhVEGF-A-#44細胞株の両株において、Affinity Maturationが促進する培養条件を検討した。hVEGF-A-#44細胞株は、hVEGF-A-#33細胞株と同様に抗hVEGF-A抗体(hIgG)を発現するDT40細胞クローンである。1-2-6に記載したとおり、細胞はPI3Kα阻害剤の存在(A66;10 μM、PI3Kα Inhibitor 2;500 nM)または非存在の条件で培養を行った。各培養条件において培養後、AF647標識hVEGF-AおよびGoat Anti-Human IgG-PEにより染色を行い、FCM解析を行った。hIgG+_hVEGF-A+の細胞集団の中で、抗原hVEGF-Aへの結合性(MFIにおいて5倍以上上昇)が向上した細胞が含まれるようにゲート(Affinity Maturation Gate)を設定し(
図9)、ゲート内の細胞の割合を比較した。その結果、薬剤を含まない条件に比べて、A66およびPI3Kα Inhibitor 2を含む条件において、抗原結合性が向上した細胞の割合が増加していた(
図10)。これは、hVEGF-Aに対するヒトIgGの抗体可変領域の配列変化がPI3Kα阻害剤により促進されることで、抗原に対する結合性が向上したクローン数が増加したことを示唆している。つまり、A66およびPI3Kα Inhibitor 2を含む条件でAffinity Maturationを行うことで抗体可変領域の配列変化が促進され、抗原結合性が向上した陽性クローンを効率よく取得できることが明らかとなった。
【0044】
1-3-7.Affinity Maturationにより抗原結合性が向上したクローンの抗体可変領域遺伝子配列解析および抗体親和性測定
さらに、1-2-6に記載した各培養条件で培養したhVEGF-A-#33細胞株およびhVEGF-A-#44細胞株から抗原結合性が向上した細胞集団の上位0.2%の細胞をFACSにより単離した。生育した各クローンの抗体可変領域遺伝子配列を解読し、得られた核酸配列を解析した。その結果、得られたクローンの95%以上のクローンにおいて多種の配列変化が起こっており、それに伴うアミノ酸配列の変化も起こっていることがわかった。また、その中にはオリジナルクローンの抗体と比較して、親和性(KD値)が向上しているクローンが含まれていることも確認された。
以上のことから、抗原結合性が向上したクローンにおいては、抗体可変領域遺伝子の配列変化が起こっており、かつそれに伴いアミノ酸配列変化および親和性の向上が起こっていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、トリB細胞集団から産生される抗体の可変領域アミノ酸配列の多様化を促進する方法である。従って、抗体医薬に関連する医薬、薬学の分野、あるいは、抗体を用いて研究用試薬として扱う分野において、本発明の利用が期待される。
【配列表】