(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】色素増感太陽電池
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20220512BHJP
【FI】
H01G9/20 119
H01G9/20 109
H01G9/20 111B
H01G9/20 203B
H01G9/20 305
(21)【出願番号】P 2021020473
(22)【出願日】2021-02-12
【審査請求日】2021-11-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512076221
【氏名又は名称】株式会社プロセシオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(74)【代理人】
【識別番号】100171941
【氏名又は名称】辻 忠行
(74)【代理人】
【識別番号】100150762
【氏名又は名称】阿野 清孝
(72)【発明者】
【氏名】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉川 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】田邊 功二
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 寛敏
【審査官】菊地 リチャード平八郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-238472(JP,A)
【文献】特開2011-044357(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129608(WO,A1)
【文献】特開2002-280085(JP,A)
【文献】特開2003-142171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明電極層を有する透光性の基板の前記透明電極層上に多孔質半導体層が積層され、前記多孔質半導体層は色素吸着され、前記多孔質半導体層と背面電極層との間が電解液で接続されて成る色素増感太陽電池において、
前記多孔質半導体層と背面電極層との間に多孔質絶縁層を備え、
前記電解液は、該色素増感太陽電池の内部空間で、満充填よりも少なく充填され
て、
前記内部空間を形成する封止材から離間して、前記多孔質絶縁層に浸透していることを特徴とする色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感太陽電池(DSC)は、シリコン太陽電池に比べて、低照度で効率良く発電でき、また、低コスト、低エネルギーで生産できるので、低消費電力な独立型(スタンドアローン)の機器の電源などとして利用が始まっている。一例として、1枚の基板上に印刷パターンで形成でき、コストと量産性に優れたモノリシック型の色素増感太陽電池が、特許文献1で提案されている。
【0003】
図5は典型的な従来技術のモノリシック型の色素増感太陽電池9のセル構造を模式的に示す縦断面図であり、
図6は水平断面図である。
図5では、理解し易くするために、図の厚み方向を強調している。この色素増感太陽電池9は、前記モノリシック型で、大略的に、以下のようにして作成される。先ず、予めガラスメーカーで、太陽電池の波長に対する透光性を有する平板のガラス基板91上に、透明電極層が形成されている。そのような基板は、市販のFTO(フッソドープ酸化スズ)やITO(インジウムドープ酸化スズ)等をスパッタしたガラスで実現することができる。
【0004】
次に、太陽電池メーカーでは、その透明電極層がレーザートリミング等でパターンニングされ、少なくともプラスマイナスの透明電極層92,93に形成される。その透明電極層92,93上に、チタニアなどから成る多孔質(ポーラス状の)半導体層(作用極層)94、多孔質絶縁層95および背面電極(対極)層96が、印刷および焼成が適宜繰返されて、所望の厚さで順次積層された後、それが色素溶液に浸漬されて、前記多孔質半導体層94に色素吸着される。その後、塗布機あるいは印刷機によって、周囲に接着性合成樹脂などによる封止材97が形成され、さらに平板のカバーガラス98で封止された後、内部空間90内に電解液99が充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように構成される色素増感太陽電池9において、電解液99には、たとえばアセトニトリルやプロピレンカーボネート、ガンマブチロラクタム(GBL)という溶媒が使用されるが、概ね、1℃上昇すると、5~10気圧程度、内圧が上昇(体積膨張)する。一方、ガラス基板91やカバーガラス98は、体積膨張率は小さいので、温度が上昇してもほとんど膨張せず、内部容積は殆ど大きくならない。そして、電解液99は満充填されているので、温度が上がり、該電解液99が膨張することで、ダムのような機能を発揮している封止材97が破れ、該電解液99の漏洩が生じることがある。
【0007】
ここで、電解液99には、ヨウ素等の侵食性の強い化学物質が含まれている。また、漏洩すると、逆に外部から電解液99に水分が侵入することもあり、そうなると発電効率が低下する。そのため、封止材97による確実な封止を実現するために、ガラス基板91とカバーガラス98との隙間に対する封止幅のアスペクト比は、少なくとも100倍以上必要になり、開口率(発電に寄与する面積)も低下してしまう。また、樹脂封止に加えて、周縁部を金属でかしめた製品も登場している。しかしながら、そのかしめによっても開口率が低下するとともに、コストが嵩んでしまうという問題がある。また、漏洩を避けるために、近年、固体電解質やゲル状の電解質が開発されているが、導電度が低く、太陽電池としての発電効率は低い。
【0008】
一方、従来の電解液99の充填工程は、非常に煩雑な作業となる。詳しくは、カバーガラス98を重ね、封止材97を固化させて接合した後、たとえば特開2009-129651号公報のように、封止材97の一部を切欠いていた部分から、内部空間90の真空引きを行い、該切欠いていた部分を電解液99に漬し、常圧に戻すことで、前記内部空間90に電解液99を吸込ませる。その後、前記切欠いていた部分をエンドシールで塞ぎ、該切欠いていた部分の周縁に付着した電解液99を拭取る。
【0009】
したがって、真空引きや拭取り等、煩雑でコストの掛るこのような充填方法は、特にガラス基板が大型化すると、製造設備や製造時間の面で、大きな負担になる。そこで、このような課題を解決できる充填方法として、ディスペンサーによる塗布(ODF:one drop filling)工法と呼ばれる、電解液を先入れできる工法がある。それによれば、封止材97を切欠きの無い連続した堤に形成し、カバーガラス98を貼合せる前に、電解液99を前記ディスペンサーで内部空間90に滴下するだけで充填を行うことができる。
【0010】
しかしながら、その電解液99を滴下したガラス基板91にはカバーガラス98が真空チャンバーで貼合わせられるが、封止材97は未硬化の状態のため強度が弱く、電解液99の量が、多過ぎると貼合わせの際に該封止材97が決壊してしまう。一方、色素増感太陽電池は、チタニア等の多孔質半導体層94の積層の際には、500℃もの高温で焼成され、しかもその焼成と塗布とが繰返されるので、基板91のガラスが変形し易い。そのため、上述のように電解液を滴下する場合、最適な電解液量は基板毎にばらつき、歩留まりが悪く、また非常に高度な電解液射出精度が要求される。したがって、一般的には、封止材97の硬化(カバーガラス98の貼合せ)後に電解液99を充填する、前述のような後入れ・エンドシール工法が主流であるが、設備や工数が増えるという問題がある。
【0011】
本発明の目的は、電解液の漏洩を確実に防止し、製造工程を大幅に簡略化し、コストを低下し、歩留りも向上することができる色素増感太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の色素増感太陽電池は、透明電極層を有する透光性の基板の前記透明電極層上に多孔質半導体層が積層され、前記多孔質半導体層は色素吸着され、前記多孔質半導体層と背面電極層との間が電解液で接続されて成る色素増感太陽電池において、前記多孔質半導体層と背面電極層との間に多孔質絶縁層を備え、前記電解液は、該色素増感太陽電池の内部空間で、満充填よりも少なく充填されて、前記内部空間を形成する封止材から離間して、前記多孔質絶縁層に浸透していることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、太陽電池の波長に対する透光性を有する基板上には、たとえばガラスメーカーなどで予め透明電極層が形成され、その基板の前記透明電極層は、太陽電池メーカーで、レーザートリミング等でパターニングされた後、チタニア等の多孔質(ポーラス状の)半導体層(作用極層)が積層され、さらにその多孔質半導体層は色素吸着され、さらに前記多孔質半導体層と背面電極層との間に電解液を介在して、それらの間を電気的に接続して成る色素増感太陽電池およびその製造方法において、従来のように、一対の基板とそれらの間の周縁部に形成する封止材の壁とによって形成される内部空間の全体に電解液を封止して、前記多孔質半導体層や背面電極層を電解液に浸漬した状態とするのではなく、本発明では、それらの多孔質半導体層と背面電極層との間に多孔質絶縁層を設け、この多孔質絶縁層の微細な孔に、前記多孔質半導体層と背面電極層との間を電気的に接続できる程度に、電解液を染込ませるだけとする。すなわち、従来では、電解液を内部空間にジャブジャブに満充填していたのに対して、本発明では、それより少なく、かつ前記背面電極層から多孔質絶縁層および多孔質半導体層にまで浸透するように充填する。そうして、外周縁の封止材から前記電解液を離間して保持する。
【0014】
したがって、元々、電解液の漏洩が無い固体・ゲル電解質に比べて、導電度が高く、太陽電池としての発電効率の高い液状電解質を用いつつも、電解液の漏洩を無くすことができる。また、浸透された電解液は、多孔質絶縁層を通り抜けて、背面電極層から多孔質半導体層(作用極層)を電気的に接続するので、電解液を用いる色素増感太陽電池としての通常の機能を実現(高い発電能力を発揮)することができる。一方、外周縁の封止材が、多孔質絶縁層から一定の距離をおいて(離間して)いることで、ヨウ素等の侵食性の強い化学物質が含まれる電解液と該封止材との直接の接触を回避することができるとともに、内部空間には真空あるいは気体の空間が存在することになり、電解液の熱膨張は前記空間が吸収し、封止材へのストレスを防止することができる。これによって、該色素増感太陽電池の信頼性を向上し、寿命も延ばすことができる。さらにまた、製造時には、電解液量がある程度ばらついてもよく、そのため電解液の射出精度が低くて済み、また或る程度の基板の反りも許容でき、電解液を塗布(滴下)するだけで容易に、先入れで充填することができる(すなわち、電解液の後入れ・エンドシール工程を省略できる)。これによって、製造工程を大幅に簡略化し、コストを低下し、歩留りも向上することができる。
【0015】
好ましくは、前記多孔質半導体層と多孔質絶縁層との間に多孔質反射膜が形成されることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、透光性の基板側から入射した光で、多孔質半導体層(作用極層)を透過してしまった光を、チタニア等の反射膜で前記多孔質半導体層(作用極層)に戻すことができ、発電効率を、より高めることができる。また、反射膜も多孔質であるので、上述のように多孔質絶縁層から多孔質半導体層へ染込んでゆく電解液が通過することもできる。
【0017】
また好ましくは、モノリシック型の色素増感太陽電池であり、前記背面電極層は、前記多孔質絶縁層に積層される多孔質カーボン層から成ることを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、背面電極層が、多孔質絶縁層に積層された多孔質(ポーラス状の)カーボン層から成ることで、前記電解液を該背面電極層上に塗布(滴下)することで、該背面電極層から前記多孔質絶縁層および多孔質半導体層にまで染込ませることができる。
【0019】
これによって、透明電極層、チタニア等の多孔質半導体層(作用極層)、多孔質絶縁層および背面電極層(対極層)を、それぞれ1または複数回の印刷および焼成で、順次積層してゆくことができる。
【0020】
さらにまた好ましくは、Z型の色素増感太陽電池であり、前記背面電極層は裏面側の基板に形成されており、該背面電極層は接続層を介して表面側の基板の前記透明電極層と電気的に接続されていることを特徴とする。
【0021】
上記の構成によれば、透明電極層を有する表(光入射)側の基板に背面電極層まで形成される前記モノリシック型ではなく、前記背面電極層が裏面側の基板に形成されて、パネル側で素子(セル)を直列に接続して高電圧を得易いZ型の色素増感太陽電池においても、電解液を保持する多孔質絶縁層を設けることで、該電解液を満充填することによる不具合を防止することができるとともに、塗布(滴下)するだけで容易に、先入れで充填することができる。
【0022】
また好ましくは、前記背面電極層を、光透過性導電膜で形成したことを特徴とする。
【0023】
上記の構成によれば、色素増感太陽電池の場合には、背面電極は、4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(通称PEDOT/PSS)等の光透過性導電性ポリマーや、微粉末の導電性酸化インジウムスズ、カーボンナノファイバーを透明樹脂に分散した光透過性導電性インキを、パターン塗布して用いることができる。背面電極をこのような光透過性導電性電極で構成することにより、色素増感太陽電池にデザイン性を付与することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の色素増感太陽電池およびその製造方法は、以上のように、透明電極層が形成された透光性を有する基板上に、多孔質半導体層が積層され、前記多孔質半導体層は色素吸着され、さらに前記多孔質半導体層と背面電極層との間に電解液を介在して成る色素増感太陽電池において、電解液を内部空間に満充填するのではなく、前記多孔質半導体層と背面電極層との間に設けた多孔質絶縁層の微細な孔に、前記電解液を溢れない程度に浸透させ、外周縁の封止材から前記電解液を離間して保持する。
【0025】
それゆえ、元々、電解液の漏洩が無い固体・ゲル電解質に比べて、導電度が高く、太陽電池としての発電効率の高い液状電解質を用いつつも、電解液の漏洩を無くすことができる。また、製造時には、電解液を塗布(滴下)するだけで容易に、先入れで充填することが可能になり、厳密な電解液の充填作業は無くなり、製造工程を大幅に簡略化し、コストを低下し、歩留りも向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施の一形態に係る色素増感太陽電池のセル構造を模式的に示す縦断面図である。
【
図3】本発明の実施の他の形態に係る色素増感太陽電池のセル構造を模式的に示す縦断面図である。
【
図4】
図3の色素増感太陽電池の組立て工程を示す縦断面図である。
【
図5】典型的な従来技術の色素増感太陽電池のセル構造を模式的に示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施の形態1)
図1は本発明の実施の一形態に係る色素増感太陽電池1のセル構造を模式的に示す縦断面図であり、
図2は水平断面図である。
図1では、
図5と同様に、理解し易くするために、図の厚み方向を強調している。この色素増感太陽電池1は、モノリシック型で、大略的に、以下のようにして作成される。先ず、予めガラスメーカーで、太陽電池の波長に対する透光性を有する平板のガラス基板11上に、透明電極層が形成されている。そのような基板は、市販のFTO(フッソドープ酸化スズ)やITO(インジウムドープ酸化スズ)等をスパッタしたガラスで実現することができる。
【0028】
次に、太陽電池メーカーでは、その透明電極層がレーザートリミング等でパターンニングされ、少なくともプラスマイナスの透明電極層12,13に形成される。その透明電極層12,13上に、多孔質(ポーラス状の)半導体層(作用極層)14、多孔質絶縁層15および背面電極(対極)層16が、印刷および焼成が適宜繰返されて、所望の厚さで順次積層形成される。詳しくは、微粒子酸化チタンペースト等により多孔質半導体層14のスクリーン印刷・焼成が、必要な厚さとなるように1または複数回行われる。次に、微粒子ジルコニアペースト等により多孔質絶縁層15のスクリーン印刷・焼成が、必要な厚さとなるように1または複数回行われる。続いて、導電性カーボンペースト等により背面電極層16のスクリーン印刷・焼成が、必要な厚さとなるように1または複数回行われる。多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16の間は、添加物によりずれが防止されている。さらに、その積層体が色素溶液に浸漬されて前記多孔質半導体層14に色素吸着される。このとき、色素が結合するのはチタニア(多孔質半導体)層14のみで(エステル結合でチタニア表面に単一層で化学固定される)、浸漬後色素液を洗い流すことで、多孔質絶縁層15および背面電極層16には色素液はほとんど残らない。以上の工程は、
図5および
図6で示す色素増感太陽電池9と同様である。
【0029】
注目すべきは、本実施形態の色素増感太陽電池1およびその製造方法によれば、続いて、塗布機あるいは印刷機によって、周囲に接着性合成樹脂やガラスフリット等の封止材17が形成され、さらにディスペンサーによる塗布(滴下)によって電解液19が充填された後、平板のカバーガラス18で封止されることである。そのため、封止材17を連続した堤に形成し、カバーガラス18を貼合せる前に、電解液19を前記ディスペンサーで背面電極層16上に滴下するだけでよい。封止材17は、紫外線、加熱、レーザ等で固化されることで、ガラス基板11とカバーガラス18とを接合する。
【0030】
これは、該色素増感太陽電池1が、透明電極層12,13上に、多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16が順次積層されるモノリシック型の色素増感太陽電池であり、前記背面電極層16は、多孔質絶縁層15に積層される多孔質カーボン層から成るためである。詳しくは、電解液19を保持して、多孔質半導体層14と背面電極層16との間を電気的に接続する多孔質絶縁層15に前記電解液19を充填するにあたって、背面電極層16が多孔質カーボン層から成ることで、該背面電極層16上に滴下された電解液19が、そのまま該背面電極層16から多孔質絶縁層15および多孔質半導体層14に染込む(含浸する)ためである。
【0031】
以上のように本実施形態の色素増感太陽電池
1では、透光性の基板11上に、透明電極層12,13、多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16が順次積層され、前記多孔質半導体層14は色素吸着され、前記多孔質半導体層14と背面電極層16との間が多孔質絶縁層15に保持される電解液19で電気的に接続されて成るモノリシック型の色素増感太陽電池
1において、
図5や
図6の従来の色素増感太陽電池9のように、内部空間90の全体に電解液99をジャブジャブに満充填するのではなく、それより少なく充填、具体的には、塗布(滴下)して、毛細管現象で、多孔質絶縁層15の微細な孔に電解液19を、溢れることなく、表面張力で保持させられる(外には出ないようにする)程度に染込ませ(含浸させ)、前記多孔質半導体層14と背面電極層16との間を電気的に接続させる。なお、残余の内部空間10は、真空から低圧、もしくは不揮発性(乾燥)ガスが充填されてもよい。そのような構成は、カバーガラス18を貼合せる際、そのような雰囲気中で行うことで実現することができる。
【0032】
したがって、元々、電解液の漏洩が無い固体・ゲル電解質に比べて、導電度が高く、太陽電池としての発電効率の高い液状電解質を用いつつも、染み込んだ電解液19は、表面張力のため自力では多孔質絶縁層15の外には出ないので、電解液19の漏洩の無い色素増感太陽電池を実現することができる。また、染込ませられた(含浸された)電解液19は、多孔質絶縁層15を通り抜けて、背面電極層16から多孔質半導体層(作用極層)14を電気的に接続するので、電解液19を用いる色素増感太陽電池としての通常の機能を実現(高い発電能力を発揮)することができる。一方、外周縁の封止材17が、多孔質絶縁層15から一定の距離をおいて(離間して)いることで、ヨウ素等の侵食性の強い化学物質が含まれる電解液19と該封止材17との直接の接触を回避することができるとともに、内部空間10には真空あるいは気体の空間が存在することになるので、電解液19の熱膨張は前記空間が吸収し、封止材17へのストレスを防止することができる。これによって、該色素増感太陽電池1の信頼性を向上し、寿命も延ばすことができる。さらにまた、製造時には、電解液量がある程度ばらついてもよく、そのため電解液19の射出精度が低くて済み、またガラス基板11の或る程度の反りも許容でき、電解液19を塗布(滴下)するだけで容易に、先入れで充填することができる(すなわち、電解液の後入れ・エンドシール工程を省略できる)。これによって、製造工程を大幅に簡略化し、コストを低下し、歩留りも向上することができる。
【0033】
なお、該色素増感太陽電池1の内部において、前記封止材17の近傍に空間が生じても(内部空間10に何も充填されていなくても)、電解液19の溶媒に高沸点のものを使用することで、該電解液19が蒸散することもない(導電率が下がって発電効率が低下することはない)。
【0034】
また、本実施形態の色素増感太陽電池1では、モノリシック型の色素増感太陽電池において、背面電極層16を多孔質(ポーラス状の)カーボン層で形成するので、電解液19を該背面電極層16上に塗布(滴下)することで、該背面電極層16から前記多孔質絶縁層15および多孔質半導体層14にまで染込ませることができる。これによって、透明電極層12,13、多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15および背面電極層16を、それぞれ1または複数回のスクリーン印刷および焼成で、順次積層してゆくことができる。
【0035】
前記封止材17による封止は、光硬化性のアクリレート樹脂、UV、熱併用硬化性のエポキシ変性アクリレート樹脂を硬化させ、あるいは低融点ガラスフリットを塗布してレーザ融着させることで実現することができる。前記色素吸着は、カルボキシル基を有するN719やN749ブラック色素などのルテニウム系色素、クマリン系色素、ポリフィン色素等を、ジメチルホルムアミドやメタノールなどの有機溶媒に溶解させた溶液に浸漬・乾燥して、微粒子チタニア表面にそれらの色素を吸着させて行うことができる。電解液19には、アセトニトリルやメトキシプロピオニトリル等の溶媒に、ヨウ化カリウムやジメチルプロピオイミダゾリウムヨウ素等を溶解し、さらにターシャリーブチルアミン等を添加したものを用いることができる。
【0036】
好ましくは、多孔質半導体層14と多孔質絶縁層15との間に、多孔質反射膜を形成することである。詳しくは、前記多孔質半導体層14の微粒子酸化チタンよりも粒子の大きい酸化チタンやジルコニア等は、光反射性の粒子であり、それらのペーストをスクリーン印刷・焼成し、5μm程度積層することで行うことができる。このように構成することで、透光性のガラス基板11側から入射した光で、多孔質半導体層(作用極層)14を透過してしまった光を、前記反射膜で前記多孔質半導体層14に戻すことができ、発電効率を、より高めることができる。また、反射膜も多孔質であるので、上述のように多孔質絶縁層15から多孔質半導体層14へ染込んでゆく電解液19が通過することもできる。
【0037】
また、色素増感太陽電池の場合には、背面電極層16は、4-スチレンスルホン酸をドープしたポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(通称PEDOT/PSS)等の光透過性導電性ポリマーや、微粉末の導電性酸化インジウムスズ、カーボンナノファイバーを透明樹脂に分散した光透過性導電性インキを、パターン塗布して用いることができる。背面電極をこのような光透過性導電性電極で構成することにより、発電効率は多少低下するが、色素増感太陽電池にデザイン性を付与することができる。
【0038】
(実施の形態2)
図3は本発明の実施の他の形態に係る色素増感太陽電池3のセル構造を模式的に示す縦断面図であり、
図4は組立て工程を示す縦断面図である。
図3では、
図1および
図5と同様に、理解し易くするために、図の厚み方向を強調している。この色素増感太陽電池3は、上述の色素増感太陽電池1に類似し、対応する部分には同一の参照符号を付して、その説明を省略する。注目すべきは、上述の色素増感太陽電池1は背面電極層16が、光入射側のガラス基板11上に形成されるモノリシック型であるのに対して、この色素増感太陽電池3は、背面側のガラス基板18aに形成されるZ型であることである。
【0039】
詳しくは、表裏2枚のガラス基板11,18aが使用され、
図3および
図4の例では、光入射側のガラス基板11には、該色素増感太陽電池3のパネルの引出しのプラス電極となる透明電極層12が形成されるとともに、透明電極層13はセル毎のマイナス電極として作用し、背面側のガラス基板18aには、セル毎のプラス電極となる背面電極層16aおよびそれに積層される白金対電極層16bが形成されるとともに、該色素増感太陽電池3の引出しのマイナス電極となる背面電極層16cが形成される。引出しのマイナス電極は、光入射側のガラス基板11に形成される場合もある。そして、ガラス基板11側の透明電極層12,13と、ガラス基板18a側の背面電極層16a,16cとの間は、適宜、それぞれのガラス基板11,18aから形成された接続銀層31,32が、
図3から
図4で示すような該ガラス基板11,18aの貼合せによって相互に接続されることで、電気的に導通する。
【0040】
前記背面電極層16a,16cは前記FTOの印刷・焼成などで形成され、白金対電極層16bおよび接続銀層31,32も印刷・焼成で形成される。前述のように、ガラス基板11では、背面電極層16は形成されないが、前記接続銀層31が形成されるとともに、封止材は、参照符号171で示す該色素増感太陽電池3の外周側の部分と、参照符号172で示すセル間の部分との2段構成となるが、外周側の封止材171は、あくまで、最外周の接続銀層31,32を外部から気密に封止することを主目的としたものであり、電解液19の漏洩防止は、主として、セル間の封止材172によって実現される。
【0041】
作成工程としては、ガラス基板11側では、透明電極層12,13がトリミング形成された該ガラス基板11上に、接続銀層31が形成される。続いて、多孔質半導体層14および多孔質絶縁層15が順次積層形成され、色素溶液に浸漬、洗浄されて多孔質半導体層14に色素吸着された後、封止材171,172が積層される。一方、ガラス基板18a側でも、予め背面電極層16a,16cがトリミング形成された該ガラス基板18aに、白金対電極層16bおよび接続銀層32が形成される。そして、貼合わせの前に、多孔質絶縁層15に電解液19が塗布(滴下)された後、貼合わせが行われる。この貼合せの際、多孔質絶縁層15は、白金対電極層16bに押圧されて多少潰れる可能性もあるが、そうなっても、電解液19は該多孔質絶縁層15から滲み出る程度であり、内部空間10の一杯にはならない。したがって、熱膨張しても、該電解液19の漏出を防止することができる。
【0042】
このように構成することで、本実施形態の色素増感太陽電池3では、背面電極層(16b)が裏面側の基板(18a)に形成され、パネル側で素子(セル)を直列に接続して高電圧を得易いZ型の色素増感太陽電池においても、電解液19を保持する多孔質絶縁層15を設けることで、電解液19を満充填した場合等に生じ易い封止材171,172の決壊などの不具合を防止することができるとともに、電解液19を塗布(滴下)するだけで、容易に、先入れで充填することができる。すなわち、本実施形態の色素増感太陽電池3は、たとえば国際公開第2018/016569号公報における短絡防止の絶縁スペーサー粒を、多孔質絶縁層15に置換え、そこに前記の表面張力で保持できる量の電解液19を充填したものと考えることができる。
【0043】
なお、引出し電極や背面電極層16a,16cのパターンによっては、ガラス基板18a側に封止材が形成されることもある。ガラス基板11,18aおよびカバーガラス18は、ガラスに限らず、プラスチックやフィルムなどの透明絶縁基材で実現されてもよい。
【0044】
ここで、色素増感太陽電池について説明する。色素増感太陽電池は、グレッツェルが発明し、その構造としては、透明基材に形成された透明電極にチタニアなどの多孔質半導体層を積層して色素を吸着させ、対極との間をヨウ素系電解液で満たすことで太陽光発電ができるというもので、現在のZ型(
図3および
図4のタイプ)やW型の基本構成である。その後、多孔質半導体上に多孔質絶縁層を形成し、さらにカーボン印刷などで対極(背面電極)を形成した、いわゆるモノリシック型(
図1および
図2のタイプ)が考案された。しかしながら、従来のモノリシック型では、
図5および
図6で示すように、その基本構成は、Z型の流れを汲んで、封止内部は電解液が満充填された構造であった。したがって、封止材の破損による電解液の漏洩や、満充填する作業に困難があった。
【0045】
これに対して、本件発明者らは、先ずモノリシック型で、
図1および
図2で示すように、多孔質半導体層14、多孔質絶縁層15、対極(背面電極16)であるカーボン層の細孔に表面張力で保持し得る量の電解液を含侵させれば、満充填と全く遜色のない効率を発現することを見出した。そして、電解液19は、それらの表面張力で保持されているので、封止材17にストレスを加えて剥がしたりすることが無く、また、例え封止材17が破損しても、電解液19が漏出することはない。Z型については、同様の考え方で、離間している多孔質半導体層14と対極(背面電極16)との間に、電解液19を担持する多孔質絶縁層15を介在させることで、同様の作用効果を発揮できるようにしたものである。
【符号の説明】
【0046】
1,3 色素増感太陽電池
10 内部空間
11,18a ガラス基板
12,13 透明電極層
14 多孔質半導体層
15 多孔質絶縁層
16,16a 背面電極層
16b 白金対電極層
16c 背面電極層
17;171,172 封止材
18 カバーガラス
19 電解液
31,32 接続銀層
【要約】
【課題】色素増感太陽電池の信頼性および生産性を向上する。
【解決手段】プラスマイナスの透明電極層12,13が形成された透光性を有するガラス基板11上に、多孔質半導体層14および多孔質絶縁層15ならびに背面電極層16が順次積層されて、前記多孔質半導体層14は色素吸着されるモノリシック型の色素増感太陽電池1において、従来のように、カバーガラス18および封止材17によって形成された内部空間10に電解液19を満充填するのではなく、多孔質絶縁層15の微細な孔に溢れない程度に染込ませ、表面張力で保持させ、外周縁の封止材17から前記電解液19を離間して保持する。したがって、導電度が高く発電効率の高い液状電解質を用いつつも、電解液の漏洩を無くすことができる。また、封止材17を固める前に電解液を塗布(滴下)することができ、厳密な充填作業は無くなり、製造工程を大幅に簡略化できる。
【選択図】
図1