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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20220512BHJP
   H05H 7/04 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H05H7/04
H02M3/155 U
H02M3/155 J
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019027316
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020137244
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【弁理士】
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100172188
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】久保田 健介
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 長治
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-166406(JP,A)
【文献】特開平05-036523(JP,A)
【文献】特開昭63-114574(JP,A)
【文献】特開平01-100897(JP,A)
【文献】特開平01-133120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M3/155,7/48,7/12
H05H7/04,3/04
H01F7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1信号値と前記第1信号値と異なる第2信号値との間を遷移する基準電流信号に応じて出力電流を電磁石に供給する電源装置であって、
第1直流電圧を入力して、前記電磁石に電力を供給する電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記第1信号値に対応する第1出力電流値から前記第2信号値に対応する第2出力電流値への遷移期間である第1期間にわたって、前記電力変換器に前記第1直流電圧に応じた第1一定電圧を出力させる第1動作モードと、
前記第1期間以外の第2期間では、前記電力変換器に前記第1信号値および前記第2信号値のそれぞれにもとづいて制御された前記出力電流を前記電力変換器に出力させる第2動作モードと、を有し、
前記基準電流信号の大きさおよび前記出力電流に応じて生成された出力電流信号の大きさにもとづいて前記第1期間を検出し、
前記基準電流信号の大きさが前記出力電流信号の大きさ以上の場合に、前記第1動作モードで動作し、
前記基準電流信号の大きさが前記出力電流信号の大きさよりも小さい場合に、前記第2動作モードで動作する電源装置。
【請求項2】
前記電力変換器の出力に直列に接続され、第2一定電圧を出力できる一定電圧出力用電力変換器
をさらに備え、
前記制御装置は、
前記第1期間に、前記一定電圧出力用電力変換器に前記第2一定電圧を出力させ、
前記第2期間では前記一定電圧出力用電力変換器の出力をバイパスさせる請求項1記載の電源装置。
【請求項3】
前記第2一定電圧の大きさは、前記第1一定電圧の大きさと等しい請求項記載の電源装置。
【請求項4】
前記第1期間において、前記第1一定電圧の大きさは、前記電磁石の両端に印加された電圧の大きさに等しい請求項1記載の電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電磁石を駆動する電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加速された荷電粒子ビームを利用するさまざまな応用装置が開発されている。このような応用装置では、荷電粒子ビームを偏向走査して対象領域に照射する必要がある。荷電粒子が電磁石を通過するときに、電磁石に流す電流を制御することによって、荷電粒子ビームを走査することができる。
【0003】
電磁石に流す電流を正確に制御する電源装置がある。このような電源装置は、荷電粒子ビームの走査範囲および照射位置を正確にするために、高精度に電流値を制御する必要がある。また、走査時間短縮を短縮するには、高速に電流値を切り替える必要がある。
【0004】
電磁石は、インダクタンスを含むため、基準電流値をステップ状に切り替えても、インダクタンス値および電磁石への印加電圧によって決定される電流の変化率は有限である。電磁石に流れる電流を高速に遷移させるためには、電流の変化率を大きくする必要がある。インダクタンス値は電磁石に固有の値であるため、電源装置によって電磁石の両端に印加する電圧を高くする必要がある。電磁石駆動用の電源装置では、電磁石に流れる電流を所望の値に制御するチョッパユニットのほかに、電磁石に流れる電流を遷移させる期間に高い電圧を出力するチョッパユニットが直列に接続されている。
【0005】
近年では、照射領域を走査する時間を短縮したいとする要求が強まっており、より高い電圧を電磁石に印加する必要がある。そのため、複数台のチョッパユニットを直列に接続することとなり、電源装置の構成が複雑になって、占有面積やコストが上昇する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3580254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
実施形態は、簡素な構成で出力電流を高速に遷移させる電源装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る電源装置は、第1信号値と前記第1信号値と異なる第2信号値との間を遷移する基準電流信号に応じて出力電流を電磁石に供給する。この電源装置は、第1直流電圧を入力して、前記電磁石に電力を供給する電力変換器と、前記電力変換器を制御する制御装置と、を備える。前記制御装置は、前記第1信号値に対応する第1出力電流値から前記第2信号値に対応する第2出力電流値への遷移期間である第1期間にわたって、前記電力変換器に前記第1直流電圧に応じた第1一定電圧を出力させる第1動作モードと、前記第1期間以外の第2期間では、前記電力変換器に前記第1信号値および前記第2信号値のそれぞれにもとづいて制御された前記出力電流を前記電力変換器に出力させる第2動作モードと、を有する。前記制御装置は、前記基準電流信号の大きさおよび前記出力電流に応じて生成された出力電流信号の大きさにもとづいて前記第1期間を検出する。前記制御装置は、前記基準電流信号の大きさが前記出力電流信号の大きさ以上の場合に、前記第1動作モードで動作し、前記基準電流信号の大きさが前記出力電流信号の大きさよりも小さい場合に、前記第2動作モードで動作する。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態では、簡素な構成で出力電流を高速に遷移させる電源装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る電源装置を例示するブロック図である。
図2】第1の実施形態の電源装置の一部を例示するブロック図である。
図3図3(a)は、実施形態の電源装置の動作を表す動作波形の例である。図3(b)は、図3(a)のA部の拡大図である。
図4】第1の実施形態の電源装置の動作を説明するためのタイミングチャートの例である。
図5】比較例の電源装置を例示するブロック図である。
図6】比較例の電源装置の動作を表す動作波形の例である。
図7】第2の実施形態に係る電源装置を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して詳細な説明を適宜省略する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る電源装置を例示するブロック図である。
図1に示すように、本実施形態の電源装置10は、電源1に接続される。電源1は、交流電源である。交流電源は、好ましくは三相交流である。電源装置10は、出力端子2a,2bを含む。出力端子2a,2b間には、負荷である電磁石4が接続される。電磁石4は、加速器等から射出される荷電粒子ビームを偏向して、設定された照射領域を走査する。電源装置10は、図示しない上位制御システムから基準電流信号Irefを受け取る。電源装置10は、電源1によって動作し、基準電流信号Irefに追従する出力電流を電磁石4に供給する。
【0013】
電源装置10は、第1チョッパユニット14と、第2チョッパユニット24と、制御装置30と、を備える。第2チョッパユニット24の出力には、電流検出器28が設けられている。電流検出器28は、電磁石4に供給している出力電流を検出して出力電流信号Ioutとして制御装置30に供給する。電流検出器28は、第1チョッパユニット14の出力に設けられていてもよいし、電源装置10の出力端子と電磁石4との間に設けられていてもよい。制御装置30は、上位制御システムから基準電流信号Irefおよび電流検出器28から出力電流信号Ioutをそれぞれ入力して、第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24のスイッチング素子を駆動するためのゲート信号Vgを生成し、第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24にそれぞれ供給する。
【0014】
第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24は、いずれも入出力非絶縁のDC-DCコンバータ回路を含む。この例では、第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24は、負荷の電磁石に正負両方向の出力電流を供給するために、正負の出力電流を供給できるフルブリッジ形式の回路構成を有する。電磁石に供給する出力電流の方向が単一方向である場合には、たとえば降圧チョッパ方式等の回路構成であってもよく、入出力の条件等に応じて適切な回路形式とすることができる。
【0015】
第1チョッパユニット(一定電圧出力用電力変換器)14は、入力端子15a,15bと出力端子16a,16bとを含む。電源1は、変圧器11を介して整流器12の入力に接続される。整流器12の出力は、フィルタ13を介して、第1チョッパユニット14の入力端子15a,15bに接続される。
【0016】
チョッパユニット14では、入力端子15a,15bを介してフルブリッジ回路に入力された整流器12の出力電圧に応じた電圧(第2一定電圧)を出力端子16a,16bに供給する場合と、出力端子16a,16bをバイパスする場合とを切り替える。フルブリッジ回路に入力された整流器12の出力電圧に応じた電圧を出力端子16a,16bに供給する場合には、フルブリッジ回路の一方のレグのハイサイド側のスイッチング素子をオンさせるとともに、他方のレグのローサイド側のスイッチング素子をオンさせる。出力端子16a,16bをバイパスする場合には、たとえば、フルブリッジ回路のハイサイド側のスイッチング素子をオンからオフに切り替えて、フルブリッジ回路を還流動作させる。
【0017】
第2チョッパユニット(電力変換器)24は、入力端子25a,25bと出力端子26a,26bとを含む。電源1は、変圧器21を介して整流器22の入力に接続される。整流器22の出力は、フィルタ23を介して、第2チョッパユニット24の入力端子25a,25bに接続される。
【0018】
第2チョッパユニット24では、入力端子25a,25bを介してフルブリッジ回路に入力された整流器22の出力電圧(第1直流電圧)に応じた電圧を出力端子26a,26bから出力する。
【0019】
第1チョッパユニット14の一方の出力端子16aには、電源装置10の出力端子2aを介して、電磁石4の一方の端子に接続される。第1チョッパユニット14の他方の出力端子16bには、第2チョッパユニット24の一方の出力端子26aが接続されている。第2チョッパユニット24の他方の出力端子26bには、電源装置10の出力端子2bを介して、電磁石4の他方の端子に接続される。
【0020】
整流器12,22には、変圧器11,21によって絶縁された交流電圧が供給され、整流器12,22およびフィルタ13,23でそれぞれ整流平滑された直流電圧に変換される。つまり、第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24には、電気的に絶縁された直流電圧がそれぞれ入力され、出力側で直列に接続されて電磁石4に電力を供給する。
【0021】
好ましくは、変圧器11,21は、同じ変圧比を有している。変圧器11,21の二次側の電圧は、第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24は、それぞれほぼ等しい大きさの直流電圧を入力し、ほぼ等しい大きさの電圧を出力し得る。第1チョッパユニット14の出力と第2チョッパユニット24の出力とが直列に接続されているので、電源装置10は、第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24のそれぞれが出力し得る電圧の2倍の大きさの電圧を出力することができる。
【0022】
制御装置30は、第1チョッパユニット14が出力する電圧の値を切り替えて出力するように第1チョッパユニット14を制御する。基準電流信号Irefは、1つの基準電流値(第1信号値)から次の基準電流値(第2信号値)に遷移する。このとき、出力電流信号Ioutは、1つの基準電流値に応じた値(第1出力電流値)から、次の基準電流値に応じた値(第2出力電流値)に遷移する期間を有する。この遷移期間では、第1チョッパユニット14では、フルブリッジ回路は、入力端子15a,15bに入力された直流電圧に応じた電圧を出力端子16a,16bに出力する。
【0023】
出力電流信号Ioutの遷移期間以外の期間では、第1チョッパユニット14は、フルブリッジ回路を還流動作させて出力端子16a,16bに0Vを出力する。なお、第1チョッパユニット14は、出力電流信号Ioutの遷移期間以外の期間では、0Vに限らず、十分低い電圧を出力すればよい。十分低い電圧は、たとえば出力電流信号Ioutの遷移期間において、第2チョッパユニット24が出力する電圧よりも低い値である。
【0024】
制御装置30は、第2チョッパユニット24に関して、2つの動作モードを有する。動作モードの1つは一定電圧出力モード(第1動作モード)であり、他の1つは定電流制御モード(第2動作モード)である。制御装置30は、一定電圧出力モードおよび定電流制御モードを切り替えて第2チョッパユニット24を動作させる。
【0025】
制御装置30は、出力電流信号Ioutの遷移期間(第1期間)では、第2チョッパユニット24がPWM制御を停止するとともに、遷移期間中でほぼ一定の電圧である一定電圧(第1一定電圧)を出力する一定電圧出力モードで動作する。出力電流信号Ioutの遷移期間以外の期間(第2期間)では、第2チョッパユニット24は、PWM制御によって、基準電流信号Irefに追従するように出力電流を定電流制御する定電流制御モードで動作する。
【0026】
図2は、実施形態の電源装置の一部を例示するブロック図である。
図2に示すように、制御装置30は、PI制御器32と、動作期間制御回路38と、動作モード切替スイッチ39と、を含む。図2の構成要素は、第2チョッパユニット24を制御するために用いられる。第1チョッパユニット14の制御は、たとえば後述する動作期間制御回路38の出力によって、一定電圧を出力する状態と出力をバイパスする状態とを切り替える。
【0027】
加減算器31は、基準電流信号Irefおよび出力電流信号Ioutを入力して電流偏差をPI制御器32に供給する。PI制御器32は、入力された電流偏差を比例積分し、制御量として出力する。
【0028】
リミッタ33は、入力される制御量の大きさが上限値ULまたは下限値LLを超過する場合に、制御量の大きさを上限値ULまたは下限値LLに制限する。上限値ULおよび下限値LLはあらかじめ設定されている。
【0029】
リミッタ33から出力された制御量は、加算器34を介してコンパレータ35に入力される。制御量は、コンパレータ35でキャリア信号発生回路36が生成したキャリア信号と比較される。キャリア信号は、たとえば三角波である。コンパレータ35は、制御量およびキャリア信号の比較結果にもとづいて、PWM信号であるゲート信号Vgを生成して出力する。なお、図示しないが、生成されたゲート信号は、ゲート駆動回路等を介して、チョッパユニット24の4つのスイッチング素子をそれぞれ適切に駆動するゲート駆動信号に変換されてチョッパユニット24に供給される。
【0030】
加算器34には、あらかじめ設定されたゲインを有する係数器37の出力が接続されている。係数器37には、基準電流信号Irefが入力される。係数器37は、電磁石4に供給する電流値が目標値に早期に到達するように、PI制御器32から出力される制御量に加算器34によって、電圧フィードフォワードを追加する。
【0031】
コンパレータ35の出力には、動作モード切替スイッチ39の一方の入力端子が接続されている。動作モード切替スイッチ39の他方の入力端子には、係数器40が接続されている。動作モード切替スイッチ39は、動作期間制御回路38の出力によって、2つのうちのいずれかの入力端子に入力された信号をゲート信号Vgとして出力する。
【0032】
動作期間制御回路38は、基準電流信号Irefおよび出力電流信号Ioutを入力する。動作期間制御回路38は、たとえばコンパレータを含んでおり、入力された基準電流信号Irefの大きさと出力電流信号Ioutの大きさとを比較する。動作期間制御回路38は、基準電流信号Irefの大きさが出力電流信号Ioutの大きさ以上の場合にはHレベルを出力する。動作期間制御回路38は、基準電流信号Irefの大きさが出力電流信号Ioutよりも小さい場合には、Lレベルを出力する。
【0033】
なお、実施形態の例では、電磁石4に流す電流は、正負両方向なので、動作期間制御回路38は、基準電流信号Irefの絶対値の大きさと、出力電流信号Ioutの絶対値の大きさとを比較して、信号を出力する。
【0034】
動作モード切替スイッチ39は、Hレベルの信号が入力された場合には、係数器40を出力するように接続する。動作モード切替スイッチ39は、Lレベルの信号が入力された場合には、コンパレータ35が生成するゲート信号Vgを出力するように接続する。係数器40は、係数“1”に設定され、係数“1”の期間ではVgを常時Hレベルに設定する。
【0035】
実施形態の電源装置10の動作について説明する。
まず、電源装置10の第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24を含む全体の動作について説明する。
図3(a)は、実施形態の電源装置の動作を表す動作波形の例である。図3(b)は、図3(a)のA部の拡大図である。
図3(a)および図3(b)には、横軸に時間t、縦軸に基準電流信号Irefおよび出力電流信号Ioutをとり、基準電流信号Irefおよび出力電流信号Ioutの時間変化が同一グラフ中に示されている。図中、実線が出力電流信号Ioutを表し、一点鎖線が基準電流信号Irefを表している。
【0036】
図3(a)に示すように、基準電流信号Irefは、荷電粒子ビームの走査状況に応じて、異なる目標電流値の間を遷移する。図においてほぼ一定の電流値がそれぞれの目標電流値である。出力電流信号Ioutは、基準電流信号Irefに応じて、あるいは基準電流信号Irefに追従するように遷移する。
【0037】
図3(b)に示すように、期間T1は、出力電流信号Ioutが基準電流信号Irefに応じて現在の目標値から次の目標値まで遷移する期間である。つまり、出力電流信号Ioutの目標値間の遷移期間である。期間T2は、第2チョッパユニット24の動作によって、出力電流信号Ioutが基準電流信号Irefに追従して定電流制御される期間である。期間T2は、全期間のうち期間T1を除いた期間である。
【0038】
期間T1では、出力電流信号Ioutは基準電流信号Irefに応じて上昇するが、電磁石4のインダクタンスによって、電流の変化率が抑制される。電磁石4に流れる出力電流の変化率di/dtと電磁石のインダクタンス値Lとの積が電磁石4の両端に印加される電圧Vであり(V=L×di/dt)、電圧Vは、電源装置10によって供給される。したがって、電源装置10が出力する直流電圧を十分高くすることによって、出力電流信号Ioutの目標電流値間の遷移期間である期間T1を短くすることができる。
【0039】
本実施形態では、期間T1において、第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24の両方が高い電圧値を有する一定電圧を出力し、これらの合計値が電磁石4の両端に印加される。期間T2では、第1チョッパユニット14の出力はバイパスされるとともに、第2チョッパユニット24がPWM動作することによって、出力電流は、設定された基準電流値に追従するように定電流制御される。
【0040】
図4は、本実施形態の電源装置の動作を説明するためのタイミングチャートの例である。
図4の最上段の図は、第1チョッパユニット(図では第1チョッパと略記)14のゲート信号のタイミングチャートである。
図4の2段目の図は、第2チョッパユニット(図では第2チョッパと略記)24のゲート信号のタイミングチャートである。
図4の最下段の図は、動作期間制御回路の出力信号のタイミングチャートである。
図4の4つの図は、時間軸を共通にして描かれている。
【0041】
図4に示すように、時刻t1から時刻t2の期間および時刻t3から時刻t4の期間が、出力電流信号Ioutの遷移期間である。その他の期間が、出力電流信号IoutがPWM動作による定電流制御によって基準電流信号Irefに追従する期間である。
【0042】
時刻t1から時刻t2の出力電流信号Ioutの遷移期間では、制御装置30は、第1チョッパユニット14のスイッチング素子Q11,Q14またはQ13,Q12をオンにするようにゲート信号を第1チョッパユニット14に供給する。第1チョッパユニット14は、入力端子15a,15b間の直流電圧にほぼ等しい一定電圧を出力する。
【0043】
制御装置30は、第2チョッパユニット24のスイッチング素子Q21,Q24またはQ23,Q22をオンするようにゲート信号を第2チョッパユニット24に供給する。
【0044】
制御装置30の動作期間制御回路38の出力は、基準電流信号Irefの大きさが出力電流信号Ioutの大きさ以上であるため、Hレベル(“1”)となっている。
【0045】
時刻t2から時刻t3の期間では、制御装置30は、第1チョッパユニット14のフルブリッジ回路を還流動作させるようにゲート信号を第1チョッパユニット14に供給して、出力端子16a,16bの出力をバイパスする。
【0046】
制御装置30は、第2チョッパユニット24の各スイッチング素子を、PWM動作で出力電流信号Ioutが基準電流信号Irefに追従するようにゲート信号を生成して第2チョッパユニット24に供給する。
【0047】
制御装置30の動作期間制御回路38の出力は、基準電流信号Irefの大きさが出力電流信号Ioutの大きさよりも小さいので、Lレベル(“0”)となっている。
【0048】
このようにして、本実施形態の電源装置10では、動作期間制御回路38の出力によって、第2チョッパユニット24の2つの動作モードを切り替えることができる。そのため、電源装置10では、高精度な定電流制御および高速な出力電流の切り替えを両立させることができる。
【0049】
実施形態の電源装置10の効果について、比較例の電源装置の動作と比較しつつ説明する。
図5は、比較例の電源装置を例示するブロック図である。
図5に示すように、比較例の電源装置110は、3つのチョッパユニットを有する点で上述の実施形態の場合と相違し、3つのチョッパユニットを制御するために上述の実施形態の場合と異なる制御装置130を有している。
【0050】
比較例の電源装置110は、第1チョッパユニット14、第2チョッパユニット24のほかに第3チョッパユニット134を有している。第3チョッパユニット134は、第1チョッパユニット14と同様の構成を有し、第1チョッパユニット14と同様の動作をする。
【0051】
なお、この例においては、第2チョッパユニット24の入力端子25a,25b間には、第1チョッパユニット14の入力端子15a,15b間および第3チョッパユニット134の入力端子135a,135b間に印加される直流電圧よりも低い値を有する直流電圧が印加される。したがって、第2チョッパユニット24は、他のチョッパユニットが出力する電圧よりも低い値の電圧しか出力することはできない。
【0052】
第3チョッパユニット134のフルブリッジ回路は、第1チョッパユニット14のフルブリッジ回路と同時かつ同様の動作をする。すなわち、出力電流信号Ioutの遷移期間では、第3チョッパユニット134のフルブリッジ回路は、入力端子135a,135bに入力された直流電圧に応じた電圧を出力端子136a,136bから出力する。それ以外の期間では、フルブリッジ回路は還流動作し、出力端子136a,136bからは0Vが出力される。
【0053】
制御装置130は、出力電流信号Ioutの遷移期間において、第1チョッパユニット14と同様に、第3チョッパユニット134のスイッチング素子をオンさせて、入力端子135a,135b間に印加されている直流電圧にほぼ等しい一定電圧を出力させる。
【0054】
出力電流信号Ioutの遷移期間以外の期間では、第1チョッパユニット14のフルブリッジ回路および第3チョッパユニット134のフルブリッジ回路は還流動作する。制御装置130は、これらのフルブリッジ回路が還流動作するように、ゲート信号を第1チョッパユニット14および第3チョッパユニット134に供給する。
【0055】
図6は、比較例の電源装置の動作を表す動作波形の例である。
図6に示すように、出力電流信号Ioutが遷移する期間T1は、基準電流信号Irefが出力電流信号Iout以上の期間である。期間T1においては、制御装置130は、第1チョッパユニット14および第3チョッパユニット134に一定電圧を出力させる。
【0056】
上述した実施形態と相違するのは第2チョッパユニット24の動作である。制御装置130は、期間T1を含むすべての期間T2において、第2チョッパユニット24をPWM動作によって定電流制御する。したがって、第2チョッパユニット24は、期間T1においても、電磁石に流れる電流の変化率を増大させる高い電圧を出力することができないので、必要な一定電圧を第1チョッパユニット14および第3チョッパユニット134の出力により実現する。
【0057】
これに対して、本実施形態の電源装置10では、制御装置30が、出力電流信号Ioutの遷移期間であるか否かに応じて、第2チョッパユニット24の動作モードを切り替えて第2チョッパユニット24を動作させる。制御装置30は、出力電流信号Ioutの遷移期間では、第2チョッパユニット24を一定電圧出力モードで動作させる。そのため、この期間では、第1チョッパユニット14および第2チョッパユニット24が出力する電圧の加算値が電磁石4の両端に印加される。
【0058】
制御装置30は、出力電流信号Ioutの遷移期間以外の期間では、第2チョッパユニット24を定電流制御モードで動作させる。したがって、別にチョッパユニットを追加することなく、電磁石4への高い電圧印加および定電流制御を両立させることができる。
【0059】
一般に、チョッパユニット等の電力変換回路を構成するスイッチング素子等の回路部品には、印加することができる有限の耐圧規格がある。電磁石4に高い電圧を印加することができれば、電磁石4に流れる電流の変化率を大きくすることができ、出力電流の遷移期間を短縮することができる。しかしながら、回路部品等の制約からチョッパユニットが出力できる電圧が有限であり、より高速化するためには、チョッパユニットを直列に接続して電磁石に印加する電圧を増大させることとなる。
【0060】
荷電粒子ビームの照射装置を医療用等に用いるには、治療時間を最小限とするために、高速での荷電粒子ビームを走査することが求められる。装置の高速化に応じて、チョッパユニットの直列数を増大させるのでは、コストやスペースの増大は避けがたいものとなる。
【0061】
本実施形態の電源装置10では、1つのチョッパユニットを切り替え可能な2つの動作モードを持たせて、出力電流の遷移期間にそのチョッパユニットにも電磁石に印加する電圧の一部を分担させることによって、チョッパユニットを追加することなく、所望の特性を実現することができる。
【0062】
(第2の実施形態)
上述した実施形態では、複数のチョッパユニットを用いて、電磁石への高い電圧の印加および定電流制御を両立させることとしたが、電磁石への供給電圧の大きさによっては、単一のチョッパユニットとすることもできる。
【0063】
図7は、本実施形態に係る電源装置を例示するブロック図である。
図7に示すように、電源装置210は、チョッパユニット24と、制御装置230と、を備える。チョッパユニット24は、上述した他の実施形態の場合と同じものであってもよい。制御装置230は、単一のチョッパユニットを制御する点で上述の他の実施形態の場合と相違するが、基本的な構成要素は、図2において説明したものと同様である。
【0064】
電源装置210は、出力端子202aを介して、電磁石4の一端に接続され、出力端子202bを介して、電磁石4の他端に接続される。
【0065】
制御装置230は、電磁石4に流れる電流を電流検出器28によって検出したものを出力電流信号Ioutとして入力する。基準電流信号Irefは、外部の上位制御システム等から供給される。
【0066】
チョッパユニット24は、制御装置230によって、2つの動作モードを切り替えて動作する。制御装置230は、出力電流信号Ioutが遷移期間の場合には、チョッパユニット24を一定電圧出力モードで動作させる。一定電圧出力モードでは、制御装置30は、スイッチング素子を常時オンさせて入力端子25a,25b間に印加されている直流電圧にほぼ等しい電圧をチョッパユニット24に出力させる。
【0067】
制御装置230は、出力電流信号Ioutの遷移期間以外の期間では、出力電流信号Ioutが基準電流信号Irefに追従するように、チョッパユニット24をPWM動作させる。
【0068】
このように、本実施形態の電源装置210では、制御装置230によって2つの動作モードを切り替えることによって、高い一定電圧印加用のチョッパユニットを追加することなく、単一のチョッパユニットとすることができる。本実施形態では、単一のチョッパユニットとしても、電磁石に高い電圧を印加することを可能にしつつ、PWM動作による定電流制御も可能にする。
【0069】
以上説明した実施形態によれば、簡素な構成で出力電流を高速に遷移させる電源装置を実現することができる。
【0070】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 電源、4 電磁石、10,210 電源装置、11,21 変圧器、12,22 整流器、13,23 フィルタ、14 第1チョッパユニット、24 第2チョッパユニット、28 電流検出器、30,230 制御装置、31 加減算器、32 PI制御器、33 リミッタ、34 加算器、35 コンパレータ、36 キャリア信号発生回路、37 係数器、38 動作期間制御回路、39 動作モード切替スイッチ、40 係数器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7