(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】透析後のドライウェイトの決定の方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20220512BHJP
【FI】
A61M1/16 117
A61M1/16 111
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017157633
(22)【出願日】2017-08-17
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】10 2016 115 496.2
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515143739
【氏名又は名称】ビー.ブラウン アビタム アーゲー
【氏名又は名称原語表記】B. BRAUN AVITUM AG
【住所又は居所原語表記】Schwarzenberger Weg 73-79, 34212 Melsungen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リチャード アタラー
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン バウアー
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-530669(JP,A)
【文献】特開2007-130300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00 - 1/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析療法
中、及び、限外濾過を停止後
に、患者のドライウェイト
値を決定するためのシステムであって、
前記患者の血液量を測定して血液量値を出力するように構成/適合された量測定手段と、
前記透析療法中、及び、前記限外濾過を停止後に、前記患者に対して予め定められた限外濾過量に到達した後に所定時間に亘って前記血液量値を記録するように構成/適合された記録手段と、
前記透析療法中、及び、前記限外濾過を停止後に、前記記録された血液量値を評価して、前記所定時間における前記血液量の
リバウンド値に基づいて前記患者の前記ドライウェイト
値を決定するように構成/適合された学習手段と、
を含
み、
前記学習手段は、ニューラルネットワークを含む/有する、システム。
【請求項2】
前記学習手段が、前記患者に対して予め規定されたドライウェイト
値に到達したときに、前記透析療法を停止するように構成/適合される、請求項
1に記載のシステム。
【請求項3】
前記学習手段が、所定の療法期間の終了後に予め規定されたドライウェイト
値に到達していない場合に、前記透析療法を停止するように構成/適合される、請求項1から
2のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項4】
前記学習手段が、所定の療法期間の終了前に予め規定されたドライウェイト
値に到達する場合に、前記所定の療法期間の終了まで限外濾過をすることなく、前記透析療法を継続するように構成/適合される、請求項1から
3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記学習手段が、前記記録された血液量値に基づいて前記患者の水たまり状態についての情報を構築するように構成/適合される、請求項1から
4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記学習手段が、前記患者の血液量過多又は血液量減少を計算するように構成/適合される、請求項
5に記載のシステム。
【請求項7】
前記学習手段が、前記患者の血液量過多が算定される場合に、限外濾過での前記透析療法の継続を促し、前記患者の血液量減少が算定される場合に、急速静注として生理食塩水の注入を促すように構成/適合される、請求項
6に記載のシステム。
【請求項8】
前記学習手段が、
前記血液量の前記
リバウンド値と他の患者の限外濾過量からのデータ対に基づいて訓練されるように構成/適合される、請求項1から
7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
透析療法
中、及び、限外濾過を停止後
に、患者のドライウェイト
値を自動決定するための方法であって、
前記患者の血液量を測定して血液量値を出力するステップと、
前記透析療法中、及び、前記限外濾過を停止後に、前記患者に対して予め定められた限外濾過量に到達した後に所定時間に亘って前記血液量値を記録するステップと、
前記透析療法中、及び、前記限外濾過を停止後に、前記記録された血液量値を評価して、前記所定時間における前記血液量の
リバウンド値に基づいて前記ドライウェイト
値を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項10】
コンピュータシステム上で動作しているときに請求項
9に記載のステップを作成するコード媒体を備える、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析での一連の作業における患者のドライウェイトを決定する測定システムのための方法及びシステム(及びそれぞれの装置)に関する。特に、本発明は、透析療法中に得られるドライウェイトを評価することに関する。
【背景技術】
【0002】
透析療法の血液の解毒とは別の目的は、体内の透析の原因である腎不全によって集まる過剰な水を体内から除去することにある。これは、ダイアライザによって体液が血液から除去される、いわゆる限外濾過によって行われる。いわゆる透析期間では、水分の64%が細胞内空間に存在し、水分の28%が間質に存在し、水分の8%のみが血液中に存在する。
【0003】
限外濾過中に、血漿が血液から除去されると、浸透作用により、水分が細胞内空間から血管内腔に移動する。このプロセスは、「リフィリング」と呼ばれる。これは、特に、血液量過多にならず、しかも一切の合併症を伴わずに患者が当初の体重を取り戻すために患者の体から余分な水分を除去することが目的である。この当初の体重は、ドライウェイトとも呼ばれる。ドライウェイトの誤った決定は、主要な合併症をもたらし得る。例えば、過剰に低く決定されたドライウェイトは、重度の脱水、即ち低血圧につながる血液量減少をもたらし、過剰に高く決定されたドライウェイトは、持続性の血液量過多をもたらす。患者の血液量過多及び血液量減少の両方は、高い死亡率に関連している。
【0004】
透析での一連の作業におけるドライウェイトの決定は、通常は、病院スタッフの経験と既定の方法に基づいており、例えば、療法の血圧及び血液量の経過を評価し、これに従って適切なドライウェイトが決定される。
【0005】
近年の技術によると、ドライウェイトの決定又は判定のために、生体インピーダンスの測定、血液量の監視、大静脈の直径の測定、及び、生化学マーカーのアプローチは区別され、これを以下に簡単に説明する。
【0006】
生体インピーダンスの測定中には、2個の電極が患者に接続され、それらの間に、異なる周波数(1kHz~1MHz)の低電流(1mA)が流される。高い周波数のみが浸透する組織内の細胞膜及び体液の性質により、細胞内及び細胞外の空間の体液を、測定されたインピーダンスに基づいて非常に正確に決定することができる。この方法は、透析前の状態、透析中の状態、及び透析後の状態における様々なタンクの水の残量のスナップショット(snap-shot)を提供する。そして、その値により、潜在的な血液量過多又は血液量減少についての情報を提供する体液の推移及び透析後の最終段階を決定することができる。
【0007】
大静脈の直径の測定では、下大静脈の直径が、超音波によって決定される。透析期間の体液貯留により、静脈は、通常に水素化される人よりも拡張される。次いで、静脈の決定された直径が、特定の基準値と比較される。例えば、11mm/m2の直径は、血液量過多を示唆し、8mm/m2の直径は、血液量減少を示唆する。
【0008】
血液量の監視中には、(血液中の赤血球の占有率に一致する)血液のヘマトクリット含有量(Hct含有量)が決定され、この含有量から、血液中の水分含有量を調べ出すことができる。規定量に関連した高いHct含有量/値は、低い体液レベルを示唆する。これとは対照的に、低いHct値は、血液量過多を示唆する。血液量は、療法中にHctセンサーによって連続的に読み取られ、作成される曲線によって、患者の水分平衡についての記述が作成され得る。従って、血液量の曲線の推移は、限外濾過量の内部リフィリングに対する比率に大きく依存する。リフィリングが多く、それに応じて平坦な血液量曲線が得られる場合には、血液量過多が起こり得ると結論付けることができる。これらのデータは、ドライウェイトに到達することについての経験的及び所定の値による評価を行うために医師及び職員によって使用される。
【0009】
生化学マーカーを用いる方法では、例えば、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)のマーカーを利用することができる。経壁圧(例えば、血管の内圧と外圧との差)の変動によって、ANPが産生され、細胞組織に放出される。ANPは、水-塩恒常性において決定的な役割を果たし、かつ、(腎クリアランスは、血漿からの物質の排出(「除去」)を示唆する)非常に低い透析クリアランスを有する。このことから、このマーカーは、透析前後の内部の体液平衡の決定において十分な可能性を提供する。ANP濃度は、透析療法中に例外なく変動し、そして血圧との良好な相関を示すことが見出された。
【0010】
しかしながら、上述のアプローチは、ドライウェイトの評価の手掛かりしか提供しないため、透析での一連の作業において全く又は一部にしか受け入れられるようにならない。従って、ドライウェイトは、通常は、透析スタッフのみの経験的な値によって引き続き決定されている。
【0011】
更に、上述のアプローチは、以下の欠点がある。
【0012】
生体インピーダンスの測定では、特定の電極及び生体インピーダンス機器が必要であり、更なるコストがかかる。更に、療法の最中及び後のそれぞれでの電極の固定及び結果の評価には、透析センターの職員の追加作業が必要となる。加えて、血液量過多及び血液量減少の正確な量についての正確な記述が作成されず、タンク間の水交換及びその補充レベルについての記述のみ作成される。従って、医師は、いわゆる変位ベクトルが評価に役立ち得るけれども、結果を解釈する必要がある。
【0013】
大静脈直径法では、静脈の直径が、特定の時点(例えば、療法の前、最中、又は後)でのみ決定される。静脈の直径に対して影響を有する血管収縮又は他の疾患のような影響因子は考慮されない。更に、異なる患者間の静脈の直径の変動には、大きいばらつきがあり得る。この方法は、追加の超音波装置及び解釈を行う医師を更に必要とし、これにより雇用が増加して、スタッフのコストが増加する。
【0014】
血液量の監視は、ドライウェイトを決定する非直接法である。この方法は、医師の個人的な推定のため、医師によって考慮される手掛かりのみを医師に提供する。システムは、提供される療法の開始に関連した血液中の現在の水分含有量についての正確な値を提供するが、起こり得る血液量過多又は血液量減少について、又は他のタンク内の水の量のいずれについても記述を作成しない。担当医は、医師自身で血液量値を評価しなければならず、自身の経験に基づいて、ドライウェイトが維持されるべきか又は更なる療法で変更するべきかどうかを決定しなければならない。従って、これは、医師が血液量の挙動を考慮し、限外濾過の量について決定する、ある種の試行錯誤法である。このことから、この方法は、過剰に高く又は過剰に低く選択されたドライウェイトについての正確な情報を一切提供しない。
【0015】
最後に、生化学マーカーを用いる方法は、療法後に血液量過多の検出を可能にする。しかしながら、血液量減少は、この方法によって決定することができない。更に、血液量過多の結果は、患者の心機能が補充レベル、即ち経壁圧にも決定的に影響を与えるため、この心機能に依存する。マーカー濃度と血圧との良好な相間にもかかわらず、この方法の結果は、現行基準による不安定な評価である。別の欠点は、この方法が、研究室での分析及び追加の機器、並びに上記の追加の機器を操作する職員が必要であるため、大量適用では極めて複雑であり、かつ時間がかかるということである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、特に、既存のシステムでのドライウェイトの自動的な自動評価/判断及び容易な実施を可能にする、患者のドライウェイトを決定するシステム/装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
この目的は、請求項1に記載のシステム/装置、請求項10に記載の方法、及び請求項11に記載のコンピュータプログラム/制御方法によって達成される。
【0018】
従って、本発明によると、いわゆる血液量のリバウンドの変化率又は増加率が、設定/所定の限外濾過量の到達時に決定され、患者の予め規定されたドライウェイトに到達しているか否か、及び、到達していない場合に、どの程度まで限外濾過量を適合させることができるか、について学習手段(例えば、ニューラルネットワーク)を用いてチェックされる。従って、ドライウェイトの自動評価は、次の通りであり、担当の職員が評価して解釈しなければならない数学的又は測定プロセスの従来のアプローチとは対照的である。従って、ドライウェイトを決定するための、提案されたシステム/装置及び方法はそれぞれ、(従来のシステムが血液量の監視装置を含む場合に)既存のシステムで容易に実施することができ、かつ学習手段及び学習ステップのそれぞれによって完全に自動的に自己訓練する。
【0019】
更に、システム/装置及び方法はそれぞれ、個々の患者に適合させることができ、かつ各療法の最後に、ドライウェイトへの到達及び限外濾過量の可能な適合についての明確な記述を提供する。
【0020】
従って、学習手段(例えば、ニューラルネットワーク)によって血液量のリバウンドによるドライウェイトの正確な決定を有利に行うことができ、既存のシステムでの容易な実施が可能である。統合学習手段及び統合学習ステップはそれぞれ、ドライウェイト決定の独立した学習及び独立した最適化を可能にする。独立した最適化は、完全に自動化することができ、しかも追加の測定機器を必要としないので、患者及び職員の特別経費を一切伴わない。
【0021】
結果として、患者に対して個別に調整することができ、そしてドライウェイトの正確な決定により合併症が起きにくい迅速かつ直接的な方法が提供される。また、水たまり状態に対する血液量とリバウンドとの間の比率が、たとえドライウェイトが変化した場合でも影響を受けずに維持されるという利点もある。
【0022】
本発明の特に有利な実施形態は、従属項に記載される。
【0023】
本発明の以降の好ましい実施形態は、同封の図面を参照して詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、第1の実施形態によるドライウェイトを決定するための方法のフローチャート図を示している。
【
図2】
図2は、本発明に使用されるニューラルネットワークの概略アーキテクチャを示している。
【
図3】
図3は、ニューラルネットワークの様々なサイクルの例示的な結果を含む表を示している。
【
図4】
図4は、異なる入力レベル及び隠れレベルを有する異なるニューラルネットワークの様々なサイクルの例示的な結果を含む別の表を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
下記において、本発明の好ましい実施形態は、患者のドライウェイトを決定/判定するための適応測定システムの例によって説明される。
【0026】
従って、透析の最中及び後に収集される血液量値によってドライウェイトについての可能な限り正確な記述を作成することを目的とする。血液量のリバウンド、即ち、療法の終了後の血液量の増加を使用して、ドライウェイトへの到達、及び、起こり得る血液量過多又は血液量減少の程度についての記述が作成される。一般に、療法の結果としての血液量の増加が多ければ多いほど、患者の血液量過多の程度が大きく、さらに許容され得る限外濾過量/許容され得る限外濾過の質が高いと言える。
【0027】
血液量値の適切な処理によって、療法の終了時に血液量の増加を自動的に評価することができ、かつドライウェイトへの到達についての正確な記述を作成することができる。このため、所与/所定の限外濾過値に到達した後の血液量値が、一定期間に亘って記録され、例えば、アルゴリズムに基づいた学習手段(例えば、ニューラルネットワーク)を用いて評価される。次いで、学習手段は、医師が自身の次の療法に適切に対応できるように、さらに不足している又は余分な限外濾過量を計算/確定する。
【0028】
以下に記載される実施形態によると、ドライウェイトに到達するために必要な限外濾過量を決定するために、ニューラルネットワークが、リバウンドにおける増加を評価する学習手段の一例として提供される。ニューラルネットワークは、例えば、(以前に行われた)臨床研究のデータ又は他の所定の訓練データを用いて訓練することができる。従って、訓練は、ドライウェイトを決定又は判定するために確立されたニューラルネットワークの定義の必要条件を構成する。患者が既知のドライウェイトを有する安定した透析の場合のデータでは、限外濾過は、既知の残り限外濾過量で療法終了前の特定の時点で停止され、(例えば、ヘマトクリット、毒素、超音波、又は透析装置に組み込まれた又は外部の物質濃度センサーを用いて)血液量のリバウンドが15分間記録される。このようにして得られたデータ対が、訓練のためにネットワークに送信される。ニューラルネットワークは、どの血液量のリバウンドがどの体積量に対応するかの訓練から学習する。学習後に、訓練されたニューラルネットワークが、透析装置に実装される。
【0029】
図1は、第1実施形態によるドライウェイトを決定するための(制御)方法のフローチャート図を例示している。この方法は、例えば、コンピュータプログラムとして実施することができ、このプログラムのコード媒体(命令など)は、このプラグラムがコンピュータシステム上で動作しているときに以下のステップを作成する。
【0030】
ステップ101では、血液量の監視を含む透析療法が行われる。この療法のパラメータ(例えば、療法の時間)は、必要な限外濾過量が療法の実際の終了前の所定時間(例えば、15分間)で到達するように適合されている。ステップ102では、療法の時間から所定時間を差し引いた時間に既に到達したのか否かをチェックする。療法の時間から所定時間を差し引いた時間に到達している場合に、サイクルは、YESの枝(J)に沿ってステップ103に進む。そうでない場合に、サイクルが、NOの枝(N)に沿ってステップ101に戻る。
【0031】
ステップ103では、所望の限外濾過量に到達したのか否かをチェックする。限外濾過量に到達していない場合に、サイクルは、NOの枝(N)に沿ってステップ104に進み、療法が限外濾過量に達するまで続けられる、又は終了され、過剰な量が次の療法中に除去される。
【0032】
一方、ステップ103で限外濾過量に到達していると決定されると、サイクルは、YESの枝(J)に沿ってステップ105に進み、療法時間の最後まで限外濾過なしで療法が行われる。所定時間(例えば、15分間)の残り時間、血液量の監視が続けられる。
【0033】
次のステップ106で、療法時間に到達したかをチェックする。療法時間に到達していない場合に、サイクルは、NOの枝(N)に沿ってステップ105に戻る。療法時間に到達している場合に、サイクルは、YESの枝(J)に沿ってステップ107に進み、そこで、血液量値、より正確に言えば血液量のリバウンドが、ドライウェイトの評価のために保存され、ニューラルネットワークによって評価される。この評価後に、ニューラルネットワークが、続くステップ108で、ドライウェイトに到達したかをチェックする。ステップ108で、訓練によって学習されたニューラルネットワークの経験値に基づいて、ドライウェイトにまだ到達していないと決定されると、サイクルは、NOの枝(N)に沿ってステップ109に進み、そこで、患者の血液量過多又は血液量減少がもたらされたのかチェックする。更に、ニューラルネットワークは、水たまり条件の体積量についての正確な情報を確立する。ステップ109で、血液量過多と計算されると、サイクルは、YESの枝(J)に沿ってステップ110に進み、患者の限外濾過が自動的に続けられる、又は医師(システムの使用者)が血液量過多について知らされる。
【0034】
一方、ステップ109で、血液量減少と計算されると、サイクルは、NOの枝(N)に沿ってステップ111に進み、例えば、生理食塩水の注入が急速静注として自動的に開始される、又は医師(システムの使用者)が血液量減少について知らされる。
【0035】
ステップ108で、ドライウェイトに到達したと決定されると、サイクルは、YESの枝(J)に沿ってステップ112に進み、プロセスを終了する。従って、この療法を終了することができる。
【0036】
実施形態によると、各患者に個別に適合することができる各患者の個人用のニューラルネットワークが提供される。上述の同じ訓練の原理によると、リバウンド限外濾過量のデータ対を、それぞれの患者について確定することができ、そしてこれを、訓練のためにニューラルネットワークに送信することができる。しかしながら、これは、患者が既に安定した状態に到達し、ドライウェイトが概ね既知である場合にのみ可能である。なぜなら、そうでない場合は、残りの限外濾過量についての記述を作成できないからである。この場合には、前述の研究でのように、限外濾過を特定の時点で停止することができ、血液量のリバウンドを、療法の最後まで記録することができる。このようにして得られた個々の患者のデータ対は、ニューラルネットワークがそれぞれの患者の体液平衡についての正確な記述を連続的に提供できるように訓練用のシステムに入力される。
【0037】
各患者の個人用のニューラルネットワークの別の変形は、医療スタッフからの入力情報を必要とする連続的な訓練である。職員は、限外濾過量を調整し、療法の最後での血液量のリバウンドを待つ。以前に、システムは、臨床試験のデータによって訓練された。血液量のリバウンドが、前述のニューラルネットワークを用いて評価され、操作者が、表示される記述が正しいかどうかを判断するように要求される。そうでない場合は、操作者は、患者の水たまり状態について、及び患者が適応可能な限外濾過量についてシステムに知らせることが要求される。データは、再び保存され、そして訓練のために別のニューラルネットワーク、個人用ニューラルネットワークで利用可能にされる。このようにして、個人用ニューラルネットワークは、時間が経つと操作者の助けでそれぞれの患者に対して自動的に調整される。
【0038】
更に、たとえネットワークを利用しているときであっても、操作者は、結果をチェックすることが要求され続け得るので、ネットワークを新たに適合して、いつでも訓練することができる。
【0039】
上述の解決策は、個々の訓練データにより高い精度を約束する。たとえ体重が変動したとしても、血液量のリバウンドの水たまり状態に対する比率は、影響を受けずに維持される。
【0040】
以下、実施形態の適用性が詳細に論じられる。このことから、血液量値を評価し、この評価に基づいてドライウェイトを計算するニューラルネットワークが選択された。
【0041】
図2は、実施形態に使用されるニューラルネットワークの概略アーキテクチャを例示している。
【0042】
ニューラルネットワークは、パターン及び経過の識別、曲線の適合、及び更なる問題に適用されるソフトウェアソリューションとして実施することができる。ニューラルネットワークは、任意の数の入力パラメータ20を含み得る入力相201からなる。この層には、様々な活性化関数(例えば、シグモイド関数)によって互いに連結される1つ以上の隠れ層202が続く。それぞれの隠れ層202は、可変の数のニューロン23を有し得る。最終的に、最後の隠れ層202は、1つ以上の出力パラメータ24を出力する外層203に続いている。隠れ層202及びニューロン23の選択された数によって、予想される結果及び(計算された出力と実際の出力との間の平均平方誤差(MSE)を利用して決定することができる)ネットワークの能力が大きく異なり得ることに言及することが重要である。多数の層及び多数のニューロンのそれぞれでは、過剰適合が容易に起こり得、少数の層及び少数のニューロンでは、出力を正確に重み付けするための十分な空間が提供されない。
【0043】
各ニューラルネットワークは、2つのステップ、即ち訓練及び検証を経る。訓練では、様々な訓練アルゴリズム、例えば、逆伝播プロセスが存在するが、本明細書では詳細に論じない。訓練では、既知の入力-出力対がネットワークに送信される。ネットワークは、ニューロンが連結される様々な活性化関数によって予想出力を達成しようとする。これにより、ニューラルネットワークは、ある誤差許容範囲又は訓練サイクルの最大数に達するまで、異なる層のニューロン23間の異なる接続部22を異なる強力な方法で重み付けする。訓練後に検証が行われ、この検証では、既知の入力-出力対が同様に、ネットワークに送信され、このネットワークが、修正出力を、それ自体が計算した出力と比較する。
【0044】
療法データを用いたアプローチ検証では、ニューラルネットワークは、48個の療法データを用いて作成され、訓練され、検証された。療法データは、匿名の透析患者の血液量、限外濾過、及び血圧の値を含んでいた。訓練では、ニューラルネットワークは、療法データに欠けている血液量のリバウンドの値を必要とする。このことから、血液量のリバウンドは、以下の個々の療法データから処理された。
【0045】
血液量の変化は、限外濾過とリフィリングの差から主に生じる。この簡易化された考察により、療法の血液量及び限外濾過のデータに基づいてリフィリングの戻りを計算することができる。ただし、この計算は、詳細には本明細書で論じられない。次いで、計算されたリフィリングは、文献から既知の血液量のリバウンド挙動を考慮する療法後の所望の期間に適合された(合わせられた)。次いで、適合された補充曲線を用いて、血液量のリバウンドを計算することができた。
【0046】
上述の48個の療法データのうちの30個の療法データで訓練が行われた。続いて、処理された血液量のリバウンドの評価のために考えられる最良のネットワークパラメータが決定された。このことから、入力パラメータが、異なるネットワーク構成に送信され、訓練され、検証された。この際に、3つの異なるそれぞれの入力パラメータ(血液量のリバウンド、血液量のリバウンドと療法の最後の血液量値、完全療法の血液量値)が、それぞれ3~10個のニューロンを有する1~3個のそれぞれの隠れ層に遭遇する。各構成は、10回訓練された。訓練サイクルの完了後、例えば、11970回の個々の訓練からよりよいの性能のニューラルネットワークが得られた。
【0047】
処理された療法データでは、合計で71820回の個々の訓練が行われるように、合計6回の上述の訓練サイクルが行われた。
【0048】
図3は、ニューラルネットワークの異なるサイクルのよりよいの出力の例示的な結果を含む表を例示している。
【0049】
図3によると、6つのサイクルのうちの5つのサイクルが、入力パラメータである血液量のリバウンドと、3個の隠れ層と、に遭遇し、1つのサイクルのみが、入力パラメータである血液量のリバウンド及び最後の血液量値でよりよいの性能を達成したことがわかる。このサイクルは、27.5ml
2のよいよいの出力も示した。しかしながら、30.6ml
2~41.5ml
2の出力のニューラルネットワークも非常に良好な結果を提供することも明らかである。従って、41.5ml
2の最も低いの出力のニューラルネットワークにおける性能の差(
図3には不図示)は、27.5ml
2のよりよいの出力のネットワークの性能よりも1ml高いだけである。このことから、血液量のリバウンドのみを、入力パラメータとしてニューラルネットワークに含めることができる。
【0050】
図4は、異なる入力レベル及び隠れレベルを有する様々なニューラルネットワークの異なるサイクルの例示的な結果を含む別の表を示している。
【0051】
入力パラメータである血液量のリバウンドと3つの隠れ層とを有する第1のニューラルネットワーク1、入力パラメータである血液量のリバウンドと3つの隠れ層とを有する第4のニューラルネットワーク4、入力パラメータである血液量のリバウンド及び最後の血液量値と3つの隠れ層とを有する第5のニューラルネットワーク5、及び、入力パラメータである血液量のリバウンドと3つの隠れ層とを有する第6のニューラルネットワーク6が、よりよいの性能を有するニューラルネットワークを提供し、入力パラメータである血液量のリバウンドと1つの隠れ層とを有する第2のニューラルネットワーク2、及び、入力パラメータである全療法の血液量値と3つの隠れ層とを有する第3のニューラルネットワーク3が、低い性能のニューラルネットワークの一例を提供する。第2のニューラルネットワーク2及び第3のニューラルネットワーク3の結果の表示は、特定の数の隠れ層と入力パラメータとを有するニューラルネットワークが必ずしも常に良好な性能を示すものではないという例示に役立つ。
【0052】
前述の発明の実施では、開始時に、患者のデータが必要である。これらのデータは、様々な透析センターから収集することができ、かつ(以前に行われた)臨床研究の範囲内で処理することができる。その研究の範囲内には、既知のドライウェイトを有する安定した患者が含まれる。その患者では、療法は、既知の残存限外濾過量でこの療法の終了前に停止され、血液量のリバウンドが、特定の期間に亘って記録される。また、可能であれば、限外濾過量が既定の要領でたとえ増加されるデータでも検出される。
【0053】
このようにして、血液量過多及び血液量減少の様々なケースを、訓練データに含めることができ、そしてネットワークの訓練は、極端なケースに対してさえも良好な結果を提供することができる。ここで、このようにして得られるデータ(血液量のリバウンド及び限外濾過量)が、ニューラルネットワーク、主ネットワークに送信される。
【0054】
次いで、これらの結果は、ニューラルネットワークを用いたドライウェイトの決定の基礎をなす。
【0055】
要約すると、患者の血液量が監視されて血液量値が出力される、透析療法後に患者のドライウェイトを決定するためのシステム/装置及び(制御)方法が説明される。血液量値は、患者に対して適切に予め定められた限外濾過量に到達した後に所定時間に亘って記録及び評価され、次いで、患者のドライウェイトが、所定時間中の血液量の変化率に基づいて決定される。
以下の項目は、本出願時の特許請求の範囲に記載の要素である
(項目1)
透析療法の後の患者のドライウェイトを決定するためのシステムであって、
前記患者の血液量を測定して血液量値を出力するように構成/適合された量測定手段と、
前記患者に対して予め定められた限外濾過量に到達した後に所定時間に亘って前記血液量値を記録するように構成/適合された記録手段と、
前記記録された血液量値を評価して、前記所定時間における前記血液量の変化率に基づいて前記患者の前記ドライウェイトを決定するように構成/適合された学習手段と、
を含む、システム。
(項目2)
前記学習手段が、ニューラルネットワークを含む/有する、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記学習手段が、前記患者に対して予め規定されたドライウェイトに到達したときに、前記透析療法を停止するように構成/適合される、項目1又は2に記載のシステム。
(項目4)
前記学習手段が、所定の療法期間の終了後に予め規定されたドライウェイトに到達していない場合に、前記透析療法を停止するように構成/適合される、項目1から3のいずれか一項に記載のシステム。
(項目5)
前記学習手段が、所定の療法期間の終了前に予め規定されたドライウェイトに到達する場合に、前記所定の療法期間の終了まで限外濾過をすることなく、前記透析療法を継続するように構成/適合される、項目1から4のいずれか一項に記載のシステム。
(項目6)
前記学習手段が、前記記録された血液量値に基づいて前記患者の水たまり状態についての情報を構築するように構成/適合される、項目1から5のいずれか一項に記載のシステム。
(項目7)
前記学習手段が、前記患者の血液量過多又は血液量減少を計算するように構成/適合される、項目6に記載のシステム。
(項目8)
前記学習手段が、前記患者の血液量過多が算定される場合に、限外濾過での前記透析療法の継続を促し、前記患者の血液量減少が算定される場合に、急速静注として生理食塩水の注入を促すように構成/適合される、項目7に記載のシステム。
(項目9)
前記学習手段が、血液量の変化率と他の患者の限外濾過量からのデータ対に基づいて訓練されるように構成/適合される、項目1から8のいずれか一項に記載のシステム。
(項目10)
透析療法後の患者のドライウェイトを自動決定するための方法であって、
前記患者の血液量を測定して血液量値を出力するステップと、
前記患者に対して予め定められた限外濾過量に到達した後に所定時間に亘って前記血液量値を記録するステップと、
前記記録された血液量値を評価して、前記所定時間における前記血液量の変化率に基づいて前記ドライウェイトを決定するステップと、
を含む、方法。
(項目11)
コンピュータシステム上で動作しているときに項目10に記載のステップを作成するコード媒体を備える、コンピュータプログラム。