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特許7071813ハードコートフィルムの製造方法及び反射防止フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】ハードコートフィルムの製造方法及び反射防止フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20220512BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20220512BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20220512BHJP
   C08J 7/046 20200101ALI20220512BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20220512BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20220512BHJP
【FI】
G02B1/14
B32B9/00 A
B32B27/20 Z
C08J7/046 A
G02B1/00
G02B1/111
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017200464
(22)【出願日】2017-10-16
(65)【公開番号】P2019074643
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】314017635
【氏名又は名称】株式会社トッパンTOMOEGAWAオプティカルフィルム
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】特許業務法人 小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 泰佑
(72)【発明者】
【氏名】井上 塁
(72)【発明者】
【氏名】緒方 啓介
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-148376(JP,A)
【文献】特開2007-086764(JP,A)
【文献】特開2007-272131(JP,A)
【文献】特開2010-217873(JP,A)
【文献】特開2011-039332(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0197550(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0209068(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0142056(US,A1)
【文献】特開2006-235198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/14
B32B 9/00
B32B 27/20
C08J 7/04
G02B 1/00
G02B 1/111
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上にハードコート層が積層されたハードコートフィルムの製造方法であって、
前記透明基材上に、金属酸化物微粒子、バインダー、光重合開始剤及び溶剤を含有するハードコート組成物を塗布し、塗膜を乾燥させ、前記塗膜中の空気界面側に前記金属酸化物微粒子を偏在させた状態で紫外線を照射することにより前記塗膜を硬化させて、表面に前記金属酸化物微粒子が偏在した金属酸化物含有層を有する前記ハードコート層を形成し、
前記金属酸化物微粒子が、シリカ(SiO )、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、リンドープ酸化スズ(PTO)、ガリウムドープ酸化スズ(GTO)、ジルコニア(ZrO )及びチタニア(TiO )からなる群から選ばれる1種類以上であり、
前記金属酸化物微粒子は、前記ハードコート組成物の全固形成分を100質量%としたとき、0.2~10質量%の割合で含有されており、
前記金属酸化物微粒子の表面には、アルキル基、ビニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれる1種類以上の有機鎖を持つシランカップリング剤が結合しており、
前記バインダーの硬化前の粘度が100mPa・s以下、かつ、表面張力が40mN/m以上であり、
前記溶剤の20℃における蒸気圧が10kPa以下である、ハードコートフィルムの製造方法
【請求項2】
前記溶剤がポリエチレングリコールモノメチルエーテルであることを特徴とする、請求項記載のハードコートフィルムの製造方法
【請求項3】
反射防止フィルムの製造方法であって、
請求項1または2に記載のハードコートフィルムの製造方法により得られたハードコートフィルムの前記ハードコート層上に、前記金属酸化物含有層より屈折率が低い低屈折率層を形成する、反射防止フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層に金属酸化物微粒子を含有するハードコートフィルムの製造方法及びこれを用いた反射防止フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明基材上に光学機能層を積層した光学フィルムにおいて、光学機能層に金属酸化物微粒子を添加し、金属酸化物微粒子が持つ特性により、光学透明層の屈折率を調整したり、光学透明層に帯電防止性や硬度を付与したりすることが行われている。しかしながら、金属酸化物微粒子を光学機能層中に分散させた光学フィルムにおいて、金属酸化物微粒子の特性を十分に発現させるためには、光学透明層に金属酸化物微粒子を多量に添加する必要があり、この場合、光学機能層の透明性が悪化したり光学機能層が着色したりするという問題があった。
【0003】
この問題を解決する方法として、透明基材上に積層した光学機能層上に金属酸化物微粒子を含有する層を別途積層して、金属酸化物微粒子の使用量を低減することにより透明性や着色を改善する方法が考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5075333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光学機能層上に金属酸化物微粒子を含有する層を別途積層する方法では、積層工程が増えることにより、製造コストが増加し、生産性が低下するという問題が発生する。
【0006】
それ故に、本発明は、積層工程を増やすことなく製造可能な層構成を有しつつ、ハードコート層の表面に金属酸化物微粒子を偏在させたハードコートフィルム及びこれを用いた反射防止フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハードコートフィルムの製造方法は、透明基材上に、金属酸化物微粒子、バインダー、光重合開始剤及び溶剤を含有するハードコート組成物を塗布し、塗膜を乾燥させ、塗膜中の空気界面側に金属酸化物微粒子を偏在させた状態で紫外線を照射することにより塗膜を硬化させて、表面に金属酸化物微粒子が偏在した金属酸化物含有層を有するハードコート層を形成し、金属酸化物微粒子が、シリカ(SiO )、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、リンドープ酸化スズ(PTO)、ガリウムドープ酸化スズ(GTO)、ジルコニア(ZrO )及びチタニア(TiO )からなる群から選ばれる1種類以上であり、金属酸化物微粒子は、ハードコート組成物の全固形成分を100質量%としたとき、0.2~10質量%の割合で含有されており、金属酸化物微粒子の表面には、アルキル基、ビニル基、アクリロイル基及びメタクリロイル基からなる群から選ばれる1種類以上の有機鎖を持つシランカップリング剤が結合しており、バインダーの硬化前の粘度が100mPa・s以下、かつ、表面張力が40mN/m以上であり、溶剤の20℃における蒸気圧が10kPa以下であるものである。
【0008】
また、本発明に係る反射防止フィルムの製造方法は、上記のハードコートフィルムの製造方法により得られたハードコートフィルムの前記ハードコート層上に、前記金属酸化物含有層より屈折率が低い低屈折率層を形成するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、積層工程を増やすことなく製造可能な層構成を有しつつ、ハードコート層の表面に金属酸化物微粒子を偏在させたハードコートフィルム及びこれを用いた反射防止フィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係るハードコートフィルムの模式断面図
図2】第2の実施形態に係る反射防止フィルムの模式断面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るハードコートフィルムの模式断面図である。
【0012】
ハードコートフィルム10は、透明基材1の一方面にハードコート層2を積層したものである。
【0013】
<透明基材>
透明基材1は、ハードコートフィルム10の基体となるフィルムであり、透明性及び可視光線の透過性に優れた材料により形成される。透明基材の形成材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド、トリアセチルセルロース、ポリイミド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエーテルサルフォン、ポリサルフォン等の透明樹脂や無機ガラスを利用できる。透明基材の厚みは、特に限定されないが、10~200μmとすることが好ましい。
【0014】
<ハードコート層>
ハードコート層2は、金属酸化物微粒子、バインダー、光重合開始剤及び溶剤を含有するハードコート組成物の硬化膜よりなる。ハードコート層2の表面(空気との界面側の表面)には、金属酸化物微粒子が偏在した金属酸化物含有層3が形成されている。金属酸化物含有層3は、透明基材1にハードコート組成物を塗布して形成した塗膜の乾燥過程において、金属酸化物微粒子を塗膜表面に偏析させ、金属酸化物微粒子を偏析させた状態でバインダーを硬化させることにより形成される。ここで、本明細書において、ハードコート層2に金属酸化物微粒子が偏在している状態とは、金属酸化物微粒子がハードコート層2の膜厚の0.6~20%の範囲の厚みに局在し、かつ、金属酸化物含有層3に含まれる金属酸化物微粒子に由来する金属元素Aの存在量が、ハードコート層2のうち金属酸化物含有層3以外の部分に含まれる金属酸化物微粒子に由来する金属元素Aの存在量の50倍以上である状態をいう。金属酸化物含有層3の膜厚がハードコート層2の膜厚の0.6%未満の場合、金属酸化物微粒子の特性を発現させることができなくなり、金属酸化物含有層3の膜厚がハードコート層2の膜厚の20%を超える場合、ハードコートフィルム10の透明性が低下する。また、金属酸化物含有層3に含まれる金属酸化物微粒子に由来する金属元素Aの存在量が、ハードコート層2のうち金属酸化物含有層3以外の部分に含まれる金属酸化物微粒子に由来する金属元素Aの存在量の50倍未満の場合、金属酸化物微粒子が十分に偏在した状態が得られず、金属酸化物微粒子の特性を発現させることができない。
【0015】
金属酸化物微粒子としては、シリカ(SiO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、リンドープ酸化スズ(PTO)、ガリウムドープ酸化スズ(GTO)、ジルコニア(ZrO)及びチタニア(TiO)のうちの1種類を単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。上述した1種類以上の金属酸化物微粒子をハードコート層2に含有させて金属酸化物含有層3に偏在させることにより、ハードコート層2の表面硬度を向上させたり、金属酸化物含有層3を他の部分より相対的に屈折率が高い高屈折率層として機能させたりすることができる。金属酸化物微粒子をハードコート層の全体に分散させる場合、金属酸化物微粒子の特性を発揮させるためには、金属酸化物微粒子の配合量を多くする必要があり、この場合、ハードコートフィルム10の透明性を損なう、あるいは、ハードコート層2が着色するという問題が生じる。しかしながら、本実施形態のように、ハードコート層2の表面にハードコート層2の膜厚の0.6~20%の厚みの範囲で金属酸化物微粒子を偏在させると、金属酸化物微粒子の配合量を増やすことなく、ハードコート層2に金属酸化物微粒子の特性を付与することができるので、ハードコートフィルム10の透明性や色相を損なうことがない。
【0016】
金属酸化物微粒子には、シランカップリング剤を結合させることにより表面修飾を施す。シランカップリング剤としては、アルキル基、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基の1種類以上を官能基として有するものを使用することができる。これらの官能基を有するシランカップリング剤で金属酸化物微粒子を表面修飾すると、シランカップリング剤と後述するバインダーとの表面張力に差が生じる。シランカップリング剤とバインダーとに表面張力差を生じさせることにより、ハードコート組成物の塗膜中において、金属酸化物微粒子を塗膜表面に偏析させることができる。
【0017】
金属酸化物微粒子(シランカップリング剤を結合させたもの)の配合量は、ハードコート組成物の全固形成分を100質量%としたとき、0.2~10質量%とする。金属酸化物微粒子の配合量がハードコート組成物の全固形成分の0.2質量%未満の場合、金属酸化物微粒子が少なくなり過ぎ、金属酸化物微粒子の特性を発現させることができない。一方、金属酸化物微粒子の配合量がハードコート組成物の全固形成分の10質量を超える場合、金属酸化物微粒子が過剰となり、金属酸化物含有層の厚みがハードコート層2の膜厚の20%を超えてしまい、ハードコートフィルム10の透明性を損なう。
【0018】
バインダーとしては、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射により重合して硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂を使用することができる。バインダーの硬化前の粘度は、100Pa・s以下であることが好ましい。硬化前の粘度が100Pa・s以下であるバインダーを使用すると、金属微粒子の偏析速度を速くすることができ、ハードコートフィルム10の製造効率を向上できる。また、バインダーの表面張力は、40mN/m以上であることが好ましい。表面張力が40mN/m以上のバインダーを使用すると、上述したシランカップリング剤との表面張力差が大きくなるため、ハードコート組成物の塗膜の乾燥過程において金属酸化物微粒子を塗膜表面に偏析させることができる。
【0019】
具体的に、バインダーとしては、例えば、単官能、2官能または3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーを使用できる。尚、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートの両方の総称であり、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルとメタクリロイルの両方の総称である。
【0020】
単官能の(メタ)アクリレート化合物の例としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタン、アダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレート等のアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0021】
2官能の(メタ)アクリレート化合物の例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0022】
3官能以上の(メタ)アクリレート化合物の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0023】
また、活性エネルギー線硬化性樹脂として、ウレタン(メタ)アクリレートも使用できる。ウレタン(メタ)アクリレートとしては、例えば、ポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、もしくはプレポリマーを反応させて得られた生成物に水酸基を有する(メタ)アクリレートモノマーを反応させることによって得られるものを挙げることができる。
【0024】
ウレタン(メタ)アクリレートの例としては、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートトルエンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ペンタエリスリトールトリアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー等が挙げられる。
【0025】
上述した活性エネルギー線硬化性樹脂の中でも、2官能以上の(メタ)アクリレートを使用することが好ましい。2以上の(メタ)アクリロイル基を有する樹脂をバインダーとして使用することにより、ハードコート層2の硬度を向上させることができる。
【0026】
尚、上述した活性エネルギー線硬化性樹脂は1種を用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、上述した活性エネルギー線硬化性樹脂、ハードコート層形成用組成物中でモノマーであっても良いし、一部が重合したオリゴマーであっても良い。
【0027】
ハードコート組成物に添加する光重合開始剤は特に限定されず、例えば、2,2-エトキシアセトフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジベンゾイル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、p-クロロベンゾフェノン、p-メトキシベンゾフェノン、ミヒラーケトン、アセトフェノン、2-クロロチオキサントン等を使用できる。これらのうち1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を組み合わせて使用して良い。
【0028】
また、ハードコート組成物には、溶剤を配合することが好ましい。ハードコート組成物に溶剤を配合して粘度を低下させることにより、金属酸化物微粒子の偏析速度を速くすることができる。20℃における蒸気圧が10kPa以下である溶剤を使用することが好ましく、20℃における蒸気圧が5kPa以下である溶剤を使用することがより好ましい。20℃における蒸気圧が10kPa以下、より好ましくは5kPa以下の溶剤を使用することにより、ハードコート組成物の塗膜の乾燥工程において、塗膜の粘度上昇を抑制できるため、金属酸化物微粒子の偏析速度を速くすることができる。
【0029】
溶剤の例としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1,4-ジオキサン、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸n-ペンチル等のエステル類が挙げられる。これらのうち1種類を単独で使用しても良いし、2種類以上を混合して使用して良い。これらの中でも、溶剤としてポリエチレングリコールモノメチルエーテル(PGME)を使用することが好ましい。PGMEを溶剤として使用すると、他の溶剤を使用した場合と比べて、金属酸化物微粒子の偏析を促進することができる。
【0030】
また、その他の添加剤として、ハードコート組成物に、防汚剤、表面調製剤、レベリング剤、屈折率調製剤、光増感剤、導電材料等を加えても良い。
【0031】
本実施形態に係るハードコートフィルム10は、透明基材1の少なくとも一方面に上述したハードコート組成物を塗布し、塗膜を乾燥させた後、紫外線照射により塗膜を硬化させることにより製造することができる。上述したように、ハードコート組成物の塗膜を乾燥させる工程において、金属酸化物微粒子に結合したシランカップリング剤とバインダーとの表面張力差により、金属酸化物微粒子が塗膜表面に偏析する。この状態でバインダーを硬化させることにより、金属酸化物微粒子が偏在した金属酸化物含有層が形成される。尚、塗工液の塗工方法は特に限定されず、公知のウェットコーティング法を採用することができる。塗工液の塗膜を硬化させる方法としては、例えば、紫外線照射や電子線照射を利用することができる。紫外線照射の場合、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フュージョンランプ等を使用することができる。紫外線照射量は、通常100~800mJ/cm程度である。
【0032】
以上説明したように、本実施形態においては、ハードコート層2の表面に金属酸化物微粒子がハードコート層2の0.6~20%の厚みに偏在した金属酸化物含有層3が形成されるため、金属酸化物微粒子の特性を発現させつつ、透明性にも優れたハードコートフィルム10を得ることができる。また、金属酸化物含有層3は、ハードコート組成物を透明基材1に塗布して乾燥及び硬化させるという1回のハードコート層形成工程で形成できるため、金属酸化物含有層3を別途形成する工程を必要とせず、製造コスト及び製造効率の点でも有利である。
【0033】
(第2の実施形態)
図2は、第2の実施形態に係る反射防止フィルムの模式断面図である。
【0034】
反射防止フィルム20は、第1の実施形態に係るハードコートフィルム10のハードコート層2上に、更に低屈折率層4を積層したものである。反射防止フィルム20の正反射率は0.1%以下であり、反射色相a、bがいずれも-4以上+4以下である。ここで、a及びbは、L表色系における反射光の色座標a及びbである。したがって、本実施形態に係る反射防止フィルム20では、正反射が十分に抑制され、色味もニュートラルである。
【0035】
低屈折率層4は、活性エネルギー線硬化性樹脂等のバインダーと、必要に応じて添加される無機微粒子とを含有する塗工液をハードコート層2に塗布し、塗膜を光重合により硬化させることによって形成することができる。この塗工液に使用するバインダーや添加剤は特に限定されず、公知の材料を適宜使用できる。塗工液の塗工方法は特に限定されず、公知のウェットコーティング法を採用することができる。塗工液の塗膜を硬化させる方法としては、例えば、紫外線照射や電子線照射を利用することができる。紫外線照射の場合、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、フュージョンランプ等を使用することができる。紫外線照射量は、通常100~800mJ/cm程度である。
【0036】
本実施形態に係る反射防止フィルム20は、ハードコート層2の表面に形成された金属酸化物含有層3を高屈折率層として利用し、この金属酸化物含有層3の上に金属酸化物含有層より低屈折の材料からなる低屈折率層を形成することにより構成されている。第1の実施形態で説明した通り、ハードコート層2の表面に金属酸化物微粒子を偏在させて金属酸化物含有層3を形成しているため、ハードコート層2は透明性に優れる。したがって、本実施形態によれば、反射光を十分に抑制し、色味及び透明性に優れた反射防止フィルム20を得ることができる。
【実施例
【0037】
以下、本発明に係るハードコートフィルム及び反射防止フィルムを具体的に実施した実施例を説明する。
【0038】
(実施例1~12、14、比較例1~6)
透明基材として、厚み60μmのトリアセチルセルロースフィルムを使用した。透明基材の一方面に、下記の表1~3に示す組成のハードコート組成物を塗布し、表1~3に記載の温度で乾燥させた。その後、紫外線照射装置を用いて照射線量150mJ/cmで紫外線照射を行うことにより塗膜を硬化させて、ハードコート層を形成し、ハードコートフィルムを得た。尚、ハードコート組成物の塗工量は、硬化後の膜厚が5.0μmになるようにした。
【0039】
(実施例13)
実施例1と同様に、透明基材の一方面に表2に示す組成のハードコート組成物を塗布し、下記の表2に記載の温度で乾燥させた。その後、実施例1と同様に、紫外線照射装置を用いて照塗膜を硬化させて、ハードコート層を形成した。
【0040】
次に、得られたハードコートフィルムのハードコート層上に、下記組成の低屈折率層形成用組成物を塗布し、乾燥させた。その後、紫外線照射装置を用いて照射線量200mJ/cmで紫外線照射を行うことにより塗膜を硬化させて、低屈折率層を形成し、反射防止フィルムを得た。尚、低屈折率層形成用組成物の塗工量は、硬化後の膜厚が100nmになるようにした。
[低屈折率層形成用組成物]
・多孔質シリカ微粒子分散液(平均粒子径75nm、固形分20%、溶剤メチルイソブチルケトン) 8.5重量部
・ダイキン工業製オプツールAR-110(固形分15%、溶剤メチルイソブチルケトン) 5.6重量部
・ペンタエリスリトールトリアクリレート 0.4重量部
・重合開始剤(イルガキュア184、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製) 0.07重量部、
・レベリング剤(RS-77、DIC(株)製) 1.7重量部
・メチルイソブチルケトン 83.73重量部
【0041】
各実施例及び各比較例で得られたハードコートフィルムまたは反射防止フィルムについて、ハードコート層の厚みに占める金属酸化物含有層の厚みの割合、金属酸化物含有層の金属元素の存在比、透明性、マルテンス硬度及び鉛筆硬度を下記方法により評価した。
【0042】
<ハードコート層の厚みに占める金属酸化物含有層の厚みの割合>
走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、各実施例及び各比較例で得られたハードコートフィルムまたは反射防止フィルムの断面像を取得し、取得した断面像から、金属酸化物含有層及びハードコート層の膜厚を測定した。より詳細には、まず、フィルムの断面像をSTEMで取得し、取得した断面像上において、金属酸化物微粒子が含まれる層と含まれない層とを特定し、透明基材上にハードコート組成物により形成された層の厚み(金属酸化物微粒子が含まれる層と含まれない層の厚みの合計)と、金属酸化物含有層の厚みとを測定した。そして、透明基材上にハードコート組成物により形成された層の膜厚のうち、金属酸化物含有層の膜厚が占める割合を算出した。
【0043】
<金属酸化物含有層の金属元素の存在比>
走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、各実施例及び各比較例で得られたハードコートフィルムまたは反射防止フィルムの断面像を取得し、取得した断面像上において、取得した断面像上において、金属酸化物微粒子が含まれる層と含まれない層とを特定した。得られたハードコートフィルムまたは反射防止フィルムにおいて特定した金属酸化物微粒子が含まれる層と含まれない層のそれぞれに対して、エネルギー分散型X線分析を行い、金属酸化物含有層以外のハードコート層に含まれる金属元素(金属酸化物微粒子由来の金属元素)の存在量に対する、金属酸化物含有層に含まれる金属元素(金属酸化物微粒子由来の金属元素)の存在量の比を算出した。
【0044】
<透明性>
各実施例及び各比較例で得られたハードコートフィルムまたは反射防止フィルムの透明性を目視で観察し、透明性が良好であるか否かを評価した。表中の「○」は、透明性が良好であることを表す。
【0045】
<マルテンス硬度>
マルテンス硬度は、フィッシャー・インストルメンツ製PICODENTOR(登録商標) HM500を用いて測定した。
【0046】
<鉛筆硬度>
2Hの三菱ユニ鉛筆(三菱鉛筆株式会社製)及びクレメンス型引掻き試験機(HA-301、テスター産業株式会社製)を用いて、500g荷重で引っ掻き試験を行い、キズによる外観の変化を目視で観察した。引っ掻き試験を5回行い、キズが観察されなかった回数を鉛筆硬度の評価値とした。
【0047】
更に、実施例13に係る反射防止フィルムについては、正反射率と反射色相を測定した。正反射率は、日東電工製脱鉛タイプビニールテープ NO.21を反射防止フィルムの塗工裏面側に貼合後、分光光度計(U-4100;株式会社日立製作所製)を用いて測定した。また、反射色相は、分光光度計(U-4100;株式会社日立製作所製)を用いて表面側(ハードコート層側または低屈折率層側)から入射角5°で光を照射し、L表色系における反射光の色座標a及びbにより評価した。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
実施例1~14では、金属酸化物含有層の膜厚がハードコート層の膜厚の0.6~20%の範囲内であり、かつ、金属酸化物含有層に含まれる金属酸化物微粒子由来の金属元素の存在量が、ハードコート層のうち金属酸化物含有層以外の部分に含まれる金属酸化物微粒子由来の金属元素の存在量の50倍以上であるため、金属酸化物微粒子がハードコート層の表面側に局在した状態となっており、透明性も良好であった。また、実施例13に係る反射防止フィルムでは、正反射率が十分に抑制され、色味もニュートラルであった。
【0052】
これに対して、比較例1~4では、シランカップリング剤の官能基、バインダーの表面張力、バインダーの硬化前粘度、溶剤の20℃での蒸気圧のいずれかが本願発明の条件を満たさないため、ハードコート層の膜厚の50~90%の厚みの範囲に金属酸化物微粒子が分散して存在し、実施例1~14のような金属酸化物含有層が形成されなかった。すなわち、金属酸化物微粒子を添加したにもかかわらず、ハードコート層の内部に、金属酸化物微粒子の作用により相対的に屈折率を高くした高屈折率層を形成することができなかった。
【0053】
また、比較例5では、金属酸化物微粒子がハードコート層表面に偏在したが、金属酸化物微粒子の添加量が多すぎるために、金属酸化物含有層の厚みがハードコート層の厚みの20%を超え、ハードコート層全体が白化し、透明性が著しく損なわれた。
【0054】
また、比較例6では、金属酸化物微粒子がハードコート層表面に偏在したが、金属酸化物微粒子の添加量が少なすぎるために、金属酸化物含有層の厚みがハードコート層の厚みの0.6%未満となり、金属酸化物微粒子の作用により相対的に屈折率を高くした高屈折率層を形成することができなかった。
【0055】
以上より、本発明によれば、ハードコート層の表面に金属酸化物微粒子を偏在させることにより、金属酸化物微粒子の特性を付与した光学機能層(高屈折率層)を備え、かつ、透明性に優れたハードコートフィルムを得られることが確認された。また、本発明によれば、ハードコート層上に金属酸化物含有層よりも屈折率が低い低屈折率層を積層することに、正反射が十分に抑制され、透明性及び色味が良好な反射防止フィルムを得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、画像表示装置等に使用されるハードコートフィルムや反射防止フィルムといった光学フィルムとして利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 透明基材
2 ハードコート層
3 金属酸化物含有層
4 低屈折率層
10 ハードコートフィルム
20 反射防止フィルム
図1
図2