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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】フェノール樹脂発泡体
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/14 20060101AFI20220512BHJP
【FI】
C08J9/14 CEZ
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017237237
(22)【出願日】2017-12-11
(65)【公開番号】P2018095866
(43)【公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2016239943
(32)【優先日】2016-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】寺西 健
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/118793(WO,A1)
【文献】特開2016-180103(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152988(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂と、界面活性剤と、ハロゲン化炭化水素及び飽和炭化水素を含む発泡剤と、を含み、
前記発泡剤100質量部に対して前記ハロゲン化炭化水素の含有量が30質量部以上であり、
前記界面活性剤のHLBが10~14であり、
密度が15~50kg/m、平均気泡径が50~150μm、独立気泡率が90%以上であり、温度23℃、相対湿度50%における平衡含水率が6質量%以下であり、温度23℃、相対湿度90%における湿潤含水率と、温度23℃、相対湿度50%における平衡含水率との差が2質量%以下である、フェノール樹脂発泡体。
【請求項2】
前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化飽和炭化水素としてイソプロピルクロライドを含む、請求項に記載のフェノール樹脂発泡体。
【請求項3】
前記ハロゲン化炭化水素が、ハロゲン化不飽和炭化水素として1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンおよび1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの一方または両方を含む、請求項1または2に記載のフェノール樹脂発泡体。
【請求項4】
前記飽和炭化水素の炭素数が3~7である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフェノール樹脂発泡体
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェノール樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂発泡体は、難燃性、耐熱性、耐薬品性、耐腐食性等に優れることから、断熱材として種々の分野で採用されている。例えば建築分野では、合成樹脂建材、特に壁板内装材として、フェノール樹脂発泡体製壁板が採用されている。
フェノール樹脂発泡体は通常、フェノール樹脂、発泡剤、酸触媒(硬化剤)等を含む発泡性フェノール樹脂組成物を発泡、硬化させることによって製造される。このようにして製造されたフェノール樹脂発泡体は独立気泡を有し、独立気泡中には発泡剤から発生したガスが含まれる。
フェノール樹脂発泡体の発泡剤として、塩素化脂肪族炭化水素である2-クロロプロパンと、脂肪族炭化水素であるイソペンタンとの混合物を用いることが提案されている。かかる混合物を発泡剤として用いたフェノール樹脂発泡体は、本質的に気泡欠陥が無く、安定かつ低い熱伝導率を示すとされている(特許文献1参照)。
また、フェノール樹脂発泡体の発泡剤として、オゾン層破壊係数がゼロで温暖化係数も小さく、さらに熱伝導率も低いハロゲン化不飽和炭化水素を用いることも提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4939784号公報
【文献】特許第5688487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フェノール樹脂発泡体からなる断熱材は、例えば建物の基礎部など多湿になりやすい環境下に施工されることもあり、雰囲気湿度が上昇しても断熱材の吸水量の増加が少なく、性能が安定していることが求められる。
本発明は、雰囲気湿度が上昇したときの吸水が少ないフェノール樹脂発泡体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、発泡剤として脂肪族炭化水素(アルカン)を用いる場合よりも、ハロゲン原子を有する飽和炭化水素または不飽和炭化水素を用いたときに、フェノール樹脂発泡体の吸水量が増加しやすいことを知見した。
そしてフェノール樹脂発泡体の常温における平衡含水率に着目し、該平衡含水率が低いと、フェノール樹脂発泡体における水分の出入り(吸放湿)が少ないことを見出して本発明に至った。
【0006】
本発明は以下の態様を有する。
<1> フェノール樹脂と、ハロゲン化炭化水素を含み、密度が15~50kg/m、平均気泡径が50~200μm、独立気泡率が85%以上であり、温度23℃、相対湿度50%における平衡含水率が6質量%以下である、フェノール樹脂発泡体。
<2> 温度23℃、相対湿度90%における湿潤含水率と、温度23℃、相対湿度50%における平衡含水率との差が2質量%以下である、<1>のフェノール樹脂発泡体。
<3> 前記ハロゲン化飽和炭化水素としてイソプロピルクロライドを含む、<1>または<2>のフェノール樹脂発泡体。
<4> 前記ハロゲン化不飽和炭化水素として1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテンおよび1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペンの一方または両方を含む、<1>~<3>のいずれかのフェノール樹脂発泡体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、雰囲気湿度が上昇したときの吸水が少ないフェノール樹脂発泡体が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のフェノール樹脂発泡体は、硬化したフェノール樹脂と、発泡剤とを含む。発泡剤は、ハロゲン化炭化水素を含む。
本発明のフェノール樹脂発泡体は、フェノール樹脂と、発泡剤と、酸触媒とを含む発泡性フェノール樹脂組成物を発泡及び硬化させることを含む方法により得ることができる。
建物の基礎の内部に断熱材を設置するいわゆる基礎内断熱の場合、湿気を排出するための通気口等を備えないため、基礎から発生する湿気がとりわけ断熱性能の低下の問題となるが、本発明のフェノール樹脂発泡体は、平衡含水率が低く、吸放湿が少ないため、建物の基礎部のような湿気の多い環境下でも熱伝導率が低下しにくい。
本発明のフェノール樹脂発泡体を建物の基礎に設置する場合、断面が略L字状の基礎の屋内側の垂直部と水平部の両方に設けることができ、基礎の内面とフェノール樹脂発泡体の面材とが接触するように設置される。
【0009】
<フェノール樹脂>
フェノール樹脂としては、レゾール型のものが好ましい。
レゾール型フェノール樹脂は、フェノール化合物とアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させて得られるフェノール樹脂である。
フェノール化合物としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、パラアルキルフェノール、パラフェニルフェノール、レゾルシノールおよびこれらの変性物等が挙げられる。アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、フルフラール、アセトアルデヒド等が挙げられる。
アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、脂肪族アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)等が挙げられる。
ただしフェノール化合物、アルデヒド、アルカリ触媒はそれぞれ上記のものに限定されるものではない。
フェノール化合物とアルデヒドとの使用割合は特に限定されない。好ましくは、フェノール化合物:アルデヒドのモル比で、1:1~1:3であり、より好ましくは1:1.3~1:2.5である。
【0010】
フェノール樹脂のゲル浸透クロマトグラフィーによって求められる重量平均分子量Mwは、通常400~3000、好ましくは700~2000である。重量平均分子量Mwが400より小さいと、独立気泡率が低下し、それにより圧縮強度の低下、及び熱伝導率の長期性能の低下を招く傾向がある。また、ボイドが多く、平均気泡径が大きな発泡体が形成され易い。重量平均分子量Mwが3000より大きいと、フェノール樹脂原料及びフェノール樹脂組成物の粘度が高くなりすぎることから、必要な発泡倍率を得るために多くの発泡剤が必要となる。発泡剤が多いと、経済的でない。
【0011】
<発泡剤>
発泡剤はハロゲン化炭化水素を含む。さらに飽和炭化水素を含んでもよい。ハロゲン化炭化水素は、ハロゲン化飽和炭化水素とハロゲン化不飽和炭化水素とに大別できる。
[ハロゲン化不飽和炭化水素]
ハロゲン化不飽和炭化水素としては、フッ素化不飽和炭化水素、塩素化不飽和炭化水素、塩素化フッ素化不飽和炭化水素、臭素化フッ素化不飽和炭化水素、ヨウ素化フッ素化不飽和炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化不飽和炭化水素は、水素原子の全てがハロゲン原子で置換されたものでもよいし、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたものでもよい。
ハロゲン化不飽和炭化水素としては、フッ素化不飽和炭化水素、塩素化フッ素化不飽和炭化水素等、フッ素原子を有するものが好ましい。
これらのハロゲン化不飽和炭化水素は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0012】
塩素化フッ素化不飽和炭化水素としては、分子内に塩素原子とフッ素原子と炭素-炭素2重結合を含むものが挙げられ、例えば、1,2-ジクロロ-1,2-ジフルオロエテン(E及びZ異性体)、1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zd)(E及びZ異性体)(例えば、HoneyWell社製、商品名:SOLSTICE LBA)、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yd)(E及びZ異性体)、1-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233zb)(E及びZ異性体)、2-クロロ-1,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xe)(E及びZ異性体)、2-クロロ-2,2,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xc)、2-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233xf)(例えば、SynQuest Laboratories社製、製品番号:1300-7-09)、3-クロロ-1,2,3-トリフルオロプロペン(HCFO-1233ye)(E及びZ異性体)、3-クロロ-1,1,2-トリフルオロプロペン(HCFO-1233yc)、3,3-ジクロロ-3-フルオロプロペン、1,2-ジクロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1223xd)(E及びZ異性体)、2-クロロ-1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(E及びZ異性体)、及び2-クロロ-1,1,1,3,4,4,4-ヘプタフルオロ-2-ブテン(E及びZ異体)等が挙げられる。
分子内に水素原子と塩素原子とフッ素原子と炭素-炭素2重結合を含むもの(HCFO)がより好ましい。
【0013】
フッ素化不飽和炭化水素としては、分子内に水素原子とフッ素原子と炭素-炭素2重結合を含むヒドロフルオロオレフィン(以下、「HFO」ともいう。)が挙げられ、例えば、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)(E及びZ異性体)、1,1,1,4,4,4-ヘキサフルオロ-2-ブテン(HFO1336mzz)(E及びZ異性体)(例えば、SynQuest Laboratories社製、製品番号:1300-3-Z6)等の特表2009-513812号公報等に開示されるものが挙げられる。
【0014】
前記発泡剤に含まれるハロゲン化不飽和炭化水素は、オゾン破壊係数(ODP)および地球温暖化係数(GWP)が小さく、環境に与える影響が小さい点で有利である。ハロゲン化不飽和炭化水素としては、塩素化フッ素化不飽和炭化水素またはフッ素化不飽和炭化水素が好ましい。
【0015】
[ハロゲン化飽和炭化水素]
ハロゲン化飽和炭化水素としては、発泡剤として公知のものを用いることができ、例えばフッ素化飽和炭化水素、塩素化飽和炭化水素等が挙げられる。ハロゲン化飽和炭化水素は、水素原子の全てがハロゲン原子で置換されたものでもよいし、水素原子の一部がハロゲン原子で置換されたものでもよい。
ハロゲン化飽和炭化水素は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0016】
塩素化飽和炭化水素としては、炭素数が2~5であるものが好ましい。塩素化脂肪族炭化水素がより好ましい。例えばジクロロエタン、プロピルクロライド、イソプロピルクロライド、ブチルクロライド、イソブチルクロライド、ペンチルクロライド、イソペンチルクロライド等が挙げられる。
上記の中でも、オゾン層破壊係数が低く、環境適合性に優れる点で、イソプロピルクロライド(別名:2-クロロプロパン)が好ましい。
【0017】
フッ素化飽和炭化水素としては、炭素数が1~5であるものが好ましい。例えば、ジフルオロメタン(HFC32)、1,1,1,2,2-ペンタフルオロエタン(HFC125)、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC143a)、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC134)、1,1,1,2-テトラフルオロエタン(HFC134a)、1,1-ジフルオロエタン(HFC152a)、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(HFC227ea)、1,1,1,3,3-ペンタフルオプロパン(HFC245fa)、1,1,1,3,3-ペンタフルオブタン(HFC365mfc)及び1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロペンタン(HFC4310mee)等のハイドロフルオロカーボンが挙げられる。
【0018】
[飽和炭化水素]
飽和炭化水素としては、炭素数が3~7であるものが好ましい。例えばブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。
【0019】
発泡剤は必要に応じて、上記ハロゲン化不飽和炭化水素、ハロゲン化飽和炭化水素、および飽和炭化水素以外の他の発泡剤をさらに含んでもよい。他の発泡剤としては、窒素、アルゴン、炭酸ガス、空気等の低沸点ガス;炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アゾジカルボン酸アミド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾジカルボン酸バリウム、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、p,p’-オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジド、トリヒドラジノトリアジン等の化学発泡剤;多孔質固体材料等が挙げられる。
【0020】
フェノール樹脂発泡体(又は発泡性フェノール樹脂組成物)中の発泡剤の含有量は、フェノール樹脂100質量部当り、1~25質量部が好ましく、3~15質量部がより好ましく、5~11質量部がさらに好ましい。
発泡剤100質量部のうちハロゲン化炭化水素の割合は、例えば20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましい。100質量部でもよい。
【0021】
発泡剤が2種類以上の発泡剤の混合物である場合、発泡性フェノール樹脂組成物に含まれる発泡剤の組成(質量比)は、発泡硬化されたフェノール樹脂発泡体に含まれる発泡剤の組成と略一致している。フェノール樹脂発泡体に含まれる2種以上の発泡剤の組成は、たとえば、以下の溶媒抽出法により確認できる。
溶媒抽出法:
予めハロゲン化不飽和炭化水素、ハロゲン化飽和炭化水素、または飽和炭化水素の標準ガスを用いて、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC/MS)での以下の測定条件における保持時間を求める。次に、上下の面材を剥がしたフェノール樹脂発泡体のサンプル1.6gを粉砕用ガラス容器に分取し、テトラヒドロフラン(THF)80mLを添加する。サンプルが溶媒に浸る程度に押しつぶした後、ホモジナイザーで1分30秒間粉砕抽出し、この抽出液を孔径0.45μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液をGC/MSに供する。炭化水素の種類は、事前に求めた保持時間とマススペクトルから同定を行う。発泡剤成分の検出感度を各々標準ガスによって測定し、上記GC/MSで得られた各ガス成分の検出エリア面積と検出感度より、組成(質量比)を算出する。
・GC/MS測定条件
使用カラム:DB-5ms(アジレントテクノロジー社)60m、内径0.25mm、膜厚1μm
カラム温度:40℃(10分)-10℃/分-200℃
注入口温度:200℃
インターフェイス温度:230℃
キャリアガス:He 1.0mL/分
スプリット比:20:1
測定方法:走査法 m/Z=11~550
【0022】
<添加剤>
(酸触媒)
酸触媒は、フェノール樹脂を硬化させるために発泡性フェノール樹脂組成物に含有させる。
酸触媒としては、ベンゼンスルホン酸、エチルベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の有機酸、硫酸、リン酸等の無機酸等が挙げられる。これらの酸触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
発泡性フェノール樹脂組成物中の酸触媒の含有量は、フェノール樹脂100質量部当り、5~30質量部が好ましく、8~25質量部がより好ましく、10~20質量部がさらに好ましい。
【0023】
(界面活性剤)
発泡性フェノール樹脂組成物に界面活性剤を含有させることが好ましい。界面活性剤は、気泡径(セル径)の微細化に寄与する。
界面活性剤としては、特に限定されず、整泡剤等として公知のものを使用できる。例えば、ひまし油アルキレンオキシド付加物、シリコーン系界面活性剤、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。これらの界面活性剤は、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
界面活性剤は、HLBが8~18のものを用いることが好ましい。界面活性剤のHLBが上記の範囲内であると、雰囲気湿度が上昇したときの吸水が少ないフェノール樹脂発泡体が得られやすい。界面活性剤のHLBは10~14がより好ましい。界面活性剤を複数種類混合して用いる場合のHLBは各成分のHLBの加重平均となる。
フェノール樹脂発泡体が界面活性剤を含む場合、発泡性フェノール樹脂組成物中の界面活性剤の含有量は、フェノール樹脂100質量部当り、1~8質量部が好ましく、3~5質量部がより好ましい。界面活性剤の含有量が前記範囲の下限値以上であれば、気泡径が均一に小さくなりやすく、上限値以下であれば、雰囲気湿度が上昇したときの吸水が少ないフェノール樹脂発泡体が得られやすい。
【0024】
本発明で使用する界面活性剤は、以下に挙げる測定装置による分析で、フェノール樹脂発泡体中の含有量を比較的低濃度から高濃度まで検出及び定量することが可能である。
【0025】
まず挙げられる測定装置は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析計(MALDI-TOF/MS)である。この装置による分析は、マトリックスと測定試料の混合物にレーザー光を照射し、マトリックスを介して試料分子をイオン化するソフトなイオン化のため、試料分子を分解することなくイオン化することが可能で、分子量の高い分子も測定できるのが特長である。
【0026】
次に挙げられる測定装置は、NMRである。この装置は、核磁気共鳴を利用した測定装置で、核種の化学的な環境によって測定されるピーク(化学シフト)の位置が異なることから、測定物質の構造を特定できる。また、ピークの積分値からモル比を定量できるため、内部標準法を用いて本発明にて使用される界面活性剤の定量が可能である。
【0027】
フェノール樹脂発泡体中の界面活性剤を分析するためには、まず、フェノール樹脂発泡体中から界面活性剤を抽出する必要がある。例えば、フェノール樹脂発泡体をある程度の大きさで切取り、それを乳棒、乳鉢ですり潰し、微粉末として、ソックスレー抽出装置を用い、約1グラムの微粉末を約8時間かけて、溶媒をクロロホルムにて抽出する。抽出したものを乾固させ、重量を測定すると、抽出物の量が確定できる。乾固したものをMALDI-TOF/MSにて測定する。このとき、イオン化助剤にヨウ化ナトリウム/アセトン溶液、マトリックスにジスラノール/クロロホルム溶液を使用することができる。
例えば、HLB=17.6のアルキル基C18のポリオキシエチレンステアリルエーテルを測定する場合には、最頻ピークが2010付近に現れ、ピーク間隔が約44で検出される。この検出状態により、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの存在と、ピークの高さ(強さ)で存在量を推定できる。
【0028】
また、上記と同じ乾固したサンプルを使い、重水素クロロホルム溶媒で溶解して、NMRにてジメチルスルホキシドを内部標準物質として、例えば、400MHzで、2.6PPMと3.6PPMに現れるピーク強度から、乾固サンプル中のポリオキシエチレンアルキルエーテルの量を特定する。前述した、HLB=17.6のアルキル基C18のポリオキシエチレンステアリルエーテルをフェノール樹脂発泡体中から測定する場合、ソックスレー抽出においては、界面活性剤以外の成分も抽出するため、既知のサンプルにて、界面活性剤の添加量とソックスレー抽出物中の界面活性剤量を検量線を用いて、フォーム中の量を求める。このように測定することで、サンプル中の含有量が極微量であっても、高い精度でフェノール樹脂発泡体中に存在する界面活性剤の量を測定することができる。
【0029】
(他の成分)
他の成分としては、フェノール樹脂発泡体の添加剤として公知のものを発泡性フェノール樹脂組成物に加えることができ、例えば尿素、可塑剤、充填剤、難燃剤(例えばリン系難燃剤等)、架橋剤、有機溶媒、アミノ基含有有機化合物、着色剤等が挙げられる。
【0030】
<製造方法>
発泡性フェノール樹脂組成物は、上記の各成分を混合することにより調製できる。
各成分の混合順序は特に限定されないが、例えばフェノール樹脂に、必要に応じて界面活性剤や他の成分を加えて全体を混合し、この混合物に発泡剤、酸触媒を添加し、この組成物をミキサーに供給して攪拌することにより発泡性フェノール樹脂組成物を調製できる。
【0031】
上記発泡性フェノール樹脂組成物を発泡、硬化させることにより、本発明のフェノール樹脂発泡体を製造できる。
フェノール樹脂発泡体の製造は、公知の方法により実施できる。例えば発泡性フェノール樹脂組成物を加熱炉内で加熱して発泡、硬化させ(発泡・硬化工程)、さらに乾燥器内で硬化、乾燥させる(硬化・乾燥工程)ことにより、フェノール樹脂発泡体を製造する方法が挙げられ、吐出装置と、吐出装置の下流側に配置されて発泡・硬化工程を行う発泡成形装置と、発泡成形装置の下流側に配置された切断装置と、硬化・乾燥工程を行う養生庫とを備える製造システムを用いる。
吐出装置は、フェノール樹脂等の原料を混合する混合部と、混合された原料(発泡性フェノール樹脂組成物)を吐出するための、流れ方向と直交する方向に沿って配置された複数のノズルとを備える。
発泡成形装置は、フレーム部および加熱手段を備える。フレーム部は、フェノール樹脂発泡体の断面形状に対応した空間が形成されるように上下左右に配置されたコンベア(下部コンベア、上部コンベア、左側コンベア、右側コンベア)を備える。下部コンベアおよび上部コンベアによって、上下方向の発泡が規制され、左側コンベアおよび右側コンベアによって、左右方向の発泡が規制される。加熱手段によって、フレーム部を通過する発泡性フェノール樹脂組成物が加熱され、発泡、硬化される。かかる発泡成形装置としては、例えば、特開2000-218635号公報に記載のものが挙げられる。
なお、各コンベアに貫通孔を開け、硬化中に発生する水分を外部に放出できる水分の抜け道としてもよい。
【0032】
この製造システムにおいて、まず、吐出装置と発泡成形装置との間に第一の面材を連続的に供給する。吐出装置にて、発泡性フェノール樹脂組成物を複数のノズルから第一の面材上に吐出する。その上に第二の面材を載せ発泡成形装置のフレーム部に導入し、30~95℃で加熱する。これにより、第一の面材と第二の面材との間で発泡性フェノール樹脂組成物が発泡、硬化して、フェノール樹脂発泡体が形成される。このフェノール樹脂発泡体を発泡成形装置から導出し、切断装置で任意の長さに切断する。これにより、一方の面に第一の面材が設けられ、他方の面に第二の面材が設けられたフェノール樹脂発泡体が得られる。
【0033】
続いて、切断されたフェノール樹脂発泡体を養生庫に収納し、硬化・乾燥工程を行う。
硬化・乾燥工程は、養生庫中の温度と時間を調整して行う。加熱温度が80℃以上90℃以下の範囲では、4.5時間以上12時間以下行うことが好ましい。また、加熱温度が91℃以上120℃以下の範囲では1時間以上4.5時間未満行うことが好ましい。
上記の温度と時間の範囲で硬化・乾燥を行うことで、気泡径の粗大化や独立気泡率の低下を防ぎ、平衡含水率を低くすることができる。
【0034】
<面材>
発泡成形してフェノール樹脂発泡体を製造する際、面材を設けてもよい。面材と発泡層とは接着層を介すことなく貼り合されており、発泡層を構成するフェノール樹脂自身の接合力によって直接面材と接合している。
面材としては、特に制限されず、ガラスペーパー、ガラス繊維織布、ガラス繊維不織布、ガラス繊維混抄紙、クラフト紙、合成繊維不織布、スパンボンド不織布、アルミニウム箔張不織布、アルミニウム箔張クラフト紙、金属板、金属箔、合板、珪酸カルシウム板、石膏ボードおよび木質系セメント板の中から選ばれる少なくとも1種が好適であり、特に、ガラス繊維混抄紙、ガラス繊維不織布、合成繊維不織布が工業的に流通量が多いため入手しやすく好ましい。なかでも合成繊維不織布は、製造上のエンボス加熱ロールにより繊維間の熱融着点パターンを変えることで不織布表層の風合いや毛羽立ちをコントロールすることも可能であり、取り回しがし易い点で好ましい。また、面材が合成繊維不織布であると、発泡性フェノール樹脂組成物中の水分や、フェノール樹脂の縮合の際に生じる水によって、面材が収縮等してシワが発生するのを抑制できる。さらに、セルロース繊維などを含む面材よりも合成繊維不織布からなる面材はそれ自体の吸水性が低いため、フェノール樹脂発泡体の吸水量をより低減することができる。
【0035】
面材は、フェノール樹脂発泡体の片面に設けてもよく、両面に設けてもよい。両面に設ける場合、各面材は、同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。
フェノール樹脂発泡体を製造する際に面材を設ける方法としては、例えば、連続走行するコンベアベルト上に面材を配置し、該面材上に発泡性フェノール樹脂組成物を吐出し、その上に他の面材を積層した後、加熱炉を通過させて発泡成形する方法が挙げられる。これにより、シート状のフェノール樹脂発泡体の両面に面材が積層した面材付きフェノール樹脂発泡体が得られる。
なお、面材は、発泡成形の後、接着剤を用いてフェノール樹脂発泡体に貼り合わせて設けてもよい。
【0036】
面材の目付は、特に限定されないが、合成繊維不織布を用いる場合には、目付は15g/m以上200g/m以下であることが好ましく、15g/m以上150g/m以下であることがより好ましく、15g/m以上100g/m以下であることがさらに好ましく、20g/m以上80g/m以下であることが特に好ましく、20g/m以上60g/m以下であることが最も好ましい。
ガラス繊維混抄紙を用いる場合には、目付は30g/m以上300g/m以下であることが好ましく、50g/m以上250g/m以下であることがより好ましく、60g/m以上200g/m以下であることがさらに好ましく、70g/m以上150g/m以下であることが特に好ましい。
ガラス繊維不織布を用いる場合には、目付は15g/m以上300g/m以下であることが好ましく、20g/m以上200g/m以下であることがより好ましく、30g/m以上150g/m以下であることがさらに好ましい。
目付が上記下限値以上であれば、発泡性フェノール樹脂組成物が面材の表面にしみ出しにくい。目付が上記上限値以下であれば、発泡体と面材との接着性を高められる。これにより、面材が発泡体から剥がれにくくなり表面をより美麗にできる。加えて、コンベア等の搬送機器に追従させやすくなり、フェノール樹脂発泡体の生産性を高めやすい。特に、発泡剤がハロゲン化炭化水素を含む場合、発泡剤を含有することで発泡性フェノール樹脂組成物の粘度が低くなる。前記組成物の粘度が低くなると、面材に対して前記組成物が滲み込みやすくなり、面材の表面に前記組成物が滲み出しやすくなるため、面材の目付は上記下限値以上とすることで前記組成物が滲み出すのを防ぐことができる。
【0037】
面材の厚さは、特に限定されないが、0.06~1.00mmが好ましく、0.10~0.50mmがより好ましい。面材の厚さが前記下限値以上であると、面材の表面への滲み出しが抑制されやすくなる。面材の厚さが前記上限値以下であると、面材の取り扱い性により優れる。
【0038】
面材が合成繊維不織布である場合には、合成繊維不織布の材質としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレン等の合成樹脂が挙げられる。ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロンが好ましい。これらの合成樹脂は、1種が単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
また、合成繊維不織布の合成繊維の繊維径は、0.5~4.0デニールが好ましく、1.5~3.0デニールがより好ましい。
合成繊維の繊維径が前記上限値以下であると、面材の表面への滲み出しを抑制しやすい。
合成繊維の繊維径が前記下限値以上であると、合成繊維の取り扱い性が高められ不織布を製造しやすい。
【0039】
面材が合成繊維不織布である場合には、凹凸形状のいわゆるエンボス(熱圧着固定部分)が形成されることが好ましい。エンボスが形成された面材を用いることで、面材と発泡性樹脂組成物の接着性がより高められる。
エンボスのパターン(柄)としては、特に限定されないが、例えば、マイナス柄、ポイント柄、織り目柄等が挙げられる。エンボスによる凹凸形状が大きく、発泡層との接着性をより高められる点から織り目柄またはマイナス柄が好ましい。
合成繊維不織布にエンボス加工を施すには、例えば、公知のスパンボンド法で、紡口直下の冷却条件により発現させた捲縮長繊維ウェブを熱エンボスロールで部分熱圧着させることにより、または潜在捲縮長繊維ウェブを熱処理により捲縮させて熱エンボスロールで部分熱圧着させることにより製造される。
【0040】
エンボス加工の際に形成された熱圧着固定部分において、熱圧着固定部分1箇所当たりの面積は0.05mm以上5.0mm以下が好ましく、0.07mm以上3.0mm以下がより好ましい。この範囲内の面材を用いることで、熱圧着固定部分により発泡性樹脂組成物の滲み出しを抑えつつ、発泡性樹脂組成物と面材との接着性を向上させることができる。上記面積が0.05mm未満である場合、繊維同士の結合が少なく、摩擦強度等の物理強度が低く発泡性樹脂組成物が滲み出しやすい傾向があり、5.0mmを超える場合、熱圧着固定部分の面積が多く、風合いが硬く、発泡樹脂層と面材の繊維との接着性が悪くなる。さらに、通気度が低くなり、養生時間が長くなったり、独立気泡率が低下するおそれがある。
【0041】
熱圧着固定部分同士の最小間隔は0.05mm以上5mm以下が好ましく、0.08mm以上2mm以下がより好ましい。この範囲内の面材を用いることで、フェノール樹脂の滲み出しを抑えつつ、発泡樹脂層と面材との接着性を向上させることができる。上記最小間隔が0.05mm未満である場合、熱圧着固定部分が多く、風合いが硬く、発泡層と面材の繊維との接着性が悪い傾向がある。5mmを超える場合、繊維同士の結合が少なく、摩擦強度等の物理強度が低く、発泡性樹脂組成物が滲み出しやすい。また熱圧着固定部分は、不織布表面の全面に均等に分布させることが好ましい。
【0042】
熱圧着固定部分密度は5個/cm以上150個/cm以下であり、5個/cm以上50個/cm以下がより好ましく、5個/cm以上30個/cm以下がさらに好ましい。熱圧着固定部分密度は単位面積あたりの熱圧着固定部分の個数を意味しており、次式(s)で表される。
熱圧着固定部分密度(個/cm)=[熱圧着固定部分の数(個)]/」[面材の表面積(cm)]・・・(s)
熱圧着固定部分密度が上記下限値以上であれば、発泡性樹脂組成物の滲み出しを良好に抑制できる。熱圧着固定部分密度が上記上限値以下であれば、発泡樹脂層と面材との接着性をより向上させることができ、吸水量を低くすることができる。また、熱圧着固定部分密度が上記上限値以下であれば、通気度を高くでき、養生時間を短縮できる。また、より長期にわたって低い熱伝導率を維持できる。
【0043】
<物性>
[密度]
本発明のフェノール樹脂発泡体の密度は、15~50kg/mであり、20~40kg/mが好ましく、25~35kg/mがより好ましい。上記下限値以上であれば、フェノール樹脂発泡体の圧縮強度のさらなる向上を図りやすく、上記上限値以下であれば、フェノール樹脂発泡体の断熱性のさらなる向上を図りやすい。
該密度は、発泡剤の種類および組成、界面活性剤の種類、発泡条件(加熱温度、加熱時間等)等により調整される。
該密度の測定方法は後述する。
【0044】
[平均気泡径(セル径)]
本発明のフェノール樹脂発泡体の平均気泡径は、50~200μmであり、50~150μmが好ましく、50μm~100μmがより好ましい。平均気泡径が上記範囲内であれば、フェノール樹脂発泡体の断熱性をより高められる。
該平均気泡径は、発泡剤の種類又は組成、界面活性剤の種類、発泡条件(加熱温度、加熱時間等)等の組み合わせにより調節される。
該平均気泡径の測定方法は後述する。
【0045】
[独立気泡率]
本発明のフェノール樹脂発泡体の独立気泡率は、例えば、85%以上であり、90%以上が好ましく、95%以上がより好ましく、100%でもよい。独立気泡率が上記下限値以上であれば、フェノール樹脂発泡体の断熱性をより高められる。
該独立気泡率は、発泡剤の種類又は組成、界面活性剤の種類、発泡条件(加熱温度、加熱時間等)等の組み合わせにより調節される。
該独立気泡率の測定方法は後述する。
【0046】
[平衡含水率]
本発明のフェノール樹脂発泡体の、温度23℃、相対湿度50%における平衡含水率は6質量%以下であり、5.5質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。該平衡含水率が低いほど、フェノール樹脂発泡体における吸放湿がより少なく、雰囲気湿度が上昇したときの吸水がより少ないフェノール樹脂発泡体が得られる。
硬化・乾燥工程の条件が一定である場合、該平衡含水率は、界面活性剤の種類と添加量によって調整できる。
該平衡含水率の測定方法は後述する。
【0047】
[湿潤含水率・含水率差]
雰囲気湿度が上昇したときの、フェノール樹脂発泡体の吸水量の指標として、温度23℃、相対湿度90%における湿潤含水率と、温度23℃、相対湿度50%における平衡含水率との差(本明細書では、単に「含水率差」ともいう。)を用いることができる。該含水率差が小さいほど、雰囲気湿度の上昇による吸水量が少ないことを意味する。
該湿潤含水率の測定方法は後述する。
本発明のフェノール樹脂発泡体の、湿潤含水率は8質量%以下が好ましく、7.5質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。該湿潤含水率が低いほど、湿度が上昇したときの吸水がより少なく、性能の安定性により優れる。
本発明のフェノール樹脂発泡体の含水率差は、湿潤含水率から平衡含水率を差し引いた値である。該含水率差は2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。該湿潤含水率が低いほど、湿度が上昇したときの吸水がより少なく、性能の安定性により優れる。
【0048】
<作用機序>
本発明によれば、発泡剤がハロゲン化炭化水素を含んでいても、雰囲気湿度が上昇したときの吸水が少ないフェノール樹脂発泡体が得られる。発泡剤として脂肪族炭化水素(アルカン)を用いる場合よりも、ハロゲン化炭化水素を用いたときに、フェノール樹脂発泡体の吸水量が増加しやすい理由としては以下のように考えられる。
ハロゲン化炭化水素は極性が高く、フェノール樹脂との相溶性が高いため、発泡剤がハロゲン化炭化水素を含んでいるとフェノール樹脂が可塑化されやすい。フェノール樹脂が可塑化されると、フェノール樹脂発泡体において強固な気泡壁が形成されにくいため、気泡中の発泡剤が空気置換しやすくなる傾向がある。このようなフェノール樹脂発泡体は湿潤条件下では水分を含みやすく、発泡体の吸水量が増加し性能低下の原因となる。
また、後述の実施例に示されるように、界面活性剤の種類を変更することにより、常温における平衡含水率を低くすることができ、雰囲気湿度が上昇したときの吸水量(含水率差)を小さくすることができる。その理由としては、発泡性フェノール樹脂組成物中の界面活性剤の作用によって、フェノール樹脂へのハロゲン化炭化水素の溶けやすさが変わり、フェノール樹脂の可塑化を抑制できるためと考えられる。
【実施例
【0049】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<測定方法>
フェノール樹脂発泡体の物性の測定方法は以下の通りである。
[密度]
密度は、JIS A 9511:2009に従い、フェノール樹脂発泡体の密度を測定する。
【0050】
[平均気泡径(セル径)]
フェノール樹脂発泡体の厚さ方向のほぼ中央から試験片を切出す。試験片の厚さ方向の切断面を50倍拡大で撮影する。撮影された画像に、長さ9cmの直線を4本引く。この際、ボイド(2mm以上の空隙)を避けるように直線を引く。各直線が横切った気泡の数(JIS K6400-1:2004に準じて測定したセル数)を直線毎に計数し、直線1本当たりの平均値を求める。気泡の数の平均値で1800μmを除し、求められた値を平均気泡径とする。
[独立気泡率]
JIS K7138-2006に従い、フェノール樹脂発泡体の独立気泡率を測定する。
【0051】
[平衡含水率]
得られた面材付きフェノール樹脂発泡体を、幅方向200mm、長さ方向200mmにカットした後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で7日間放置したフェノール樹脂発泡体の質量を初期質量mとする。該フェノール樹脂発泡体を104℃のオーブンに投入して48時間後の質量をmとし、下式(1)で平衡含水率(単位:質量%)を求める。
平衡含水率=(m-m)/m×100 …(1)
【0052】
[湿潤含水率]
得られた面材付きフェノール樹脂発泡体を、幅方向200mm、長さ方向200mmにカットした後、温度23℃、相対湿度50%の雰囲気中で7日間放置した後、温度23℃、相対湿度90%の雰囲気中で7日間放置したフェノール樹脂発泡体の質量を初期質量kとする。該フェノール樹脂発泡体を104℃のオーブンに投入して48時間後の質量をkとし、下式(2)で湿潤含水率(単位:質量%)を求める。
湿潤含水率=(k-k)/k×100 …(2)
【0053】
以下の実施例、比較例で用いた発泡剤を表1に示す。界面活性剤は以下のものを用いた。
界面活性剤(1):ヒマシ油脂肪酸PEGエステル(伊藤製油社「SURFRIC AQ-250」)、HLB=11。
界面活性剤(2):シリコーン系界面活性剤(信越シリコーン社「KF-615A」)、HLB=10。
界面活性剤(3):シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング社「SF-2945F」)、HLB=13。
界面活性剤(4):フッ素系界面活性剤(AGCセイミケミカル社「サーフロンs-243」)、HLB=15。
界面活性剤(5):アルキルエーテル系界面活性剤(日光ケミカルズ社「NIKKOL BB-20」)、HLB=16.5
界面活性剤(6):脂肪酸エステル系界面活性剤(日光ケミカルズ社「NIKKOL MYS-40MV」)、HLB=17.5
界面活性剤(7):シリコーン系界面活性剤(東レダウコーニング社「SH-193」)、HLB=19。
<例1~8、11、12>
1、3~5は実施例、例2、6~8は参考例、例11、12は比較例である。各例で使用した発泡剤の種類(表1のA~H)および界面活性剤の種類(上記(1)~(7))と添加量を表2に示す(以下、同様)。
【0054】
以下の方法でフェノール樹脂発泡体を製造した。
液状レゾール型フェノール樹脂(旭有機材工業株式会社製、商品名:PF-339)100質量部に、界面活性剤を加え、さらにホルムアルデヒドキャッチャー剤として尿素4質量部を加えて混合し、20℃で8時間放置した。
このようにして得られた混合物に対し、発泡剤を加え、酸触媒としてパラトルエンスルホン酸とキシレンスルホン酸との混合物16質量部を加え、攪拌、混合して発泡性フェノール樹脂組成物を調製した。
この発泡性フェノール樹脂組成物を、連続的に走行する第一の面材(材質:ガラス繊維混抄紙、目付:80g/m)上に、該第一の面材の走行方向(以下、長さ方向ともいう。)に対して垂直方向(以下、幅方向ともいう。)に等間隔に18本配置されているノズルから吐出した。その上に第一の面材と同じ材質の第二の面材を重ねた。第一の面材の上面と第二の面材の下面とで発泡性フェノール樹脂組成物層が挟持された状態の未硬化物をスラット型ダブルコンベアに導入し、70℃で300秒間加熱して発泡成形し(発泡・硬化工程)、養生庫で80℃で5時間乾燥させた(硬化、乾燥工程)後、幅方向1820mm、長さ方向910mmに切断し、厚さ45mmの面材付きフェノール樹脂発泡体を製造した。
上記の方法で、密度、平均気泡径、独立気泡率、平衡含水率、湿潤含水率をそれぞれ測定し、含水率差を求めた。結果を表2に示す(以下、同様)。
【0055】
<例9>
例9は参考例である。以下の方法でフェノール樹脂発泡体を製造した。
例1と同様の方法で発泡性フェノール樹脂組成物を調製した。
この発泡性フェノール樹脂組成物を、連続的に走行する第一の面材(材質:ポリエステル不織布、目付:20g/m、熱圧着固定部分密度:8個/cm)上に、該第一の面材の幅方向に等間隔に18本配置されているノズルから吐出した。その上に第一の面材と同じ材質の第二の面材を重ねた。第一の面材の上面と第二の面材の下面とで発泡性フェノール樹脂組成物層が挟持された状態の未硬化物をスラット型ダブルコンベアに導入し、70℃で300秒間加熱して発泡成形し(発泡・硬化工程)、養生庫で95℃で2時間乾燥させた(硬化、乾燥工程)後、幅方向1820mm、長さ方向910mmに切断し、厚さ45mmの面材付きフェノール樹脂発泡体を製造した。
【0056】
<例10>
例10は参考例である。以下の方法でフェノール樹脂発泡体を製造した。
例10は、硬化、乾燥工程を110℃で3時間乾燥させたこと以外は例9と同様の方法で面材付きフェノール樹脂発泡体を製造した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表2の結果に示されるように、平衡含水率を6質量%以下とした例1~10では、含水率差が小さくて、雰囲気の湿度上昇による吸水が少ないフェノール樹脂発泡体が得られた。フェノール樹脂発泡体の物性も良好であった。
一方、平衡含水率が6質量%を超える例11、12で得られたフェノール樹脂発泡体は、含水率差が大きく、雰囲気の湿度上昇による吸水が多いものであった。