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特許7071825制御破壊時におけるレーザー照明による膜でのナノポア作製の局所化
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】制御破壊時におけるレーザー照明による膜でのナノポア作製の局所化
(51)【国際特許分類】
   B01J 19/12 20060101AFI20220512BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20220512BHJP
   B23K 26/55 20140101ALI20220512BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220512BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220512BHJP
【FI】
B01J19/12 G
B01J19/08 F
B23K26/55
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2017544630
(86)(22)【出願日】2016-02-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-05-31
(86)【国際出願番号】 IB2016051017
(87)【国際公開番号】W WO2016135656
(87)【国際公開日】2016-09-01
【審査請求日】2018-01-19
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-04
(31)【優先権主張番号】62/120,054
(32)【優先日】2015-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514283249
【氏名又は名称】ジ ユニバーシティ オブ オタワ
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブスタマンテ,ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ブリッグス,カイル
(72)【発明者】
【氏名】タバール-コッサ,ヴィンセント
【合議体】
【審判長】亀ヶ谷 明久
【審判官】木村 敏康
【審判官】川端 修
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-525114(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの誘電材料からなる膜(近接場光発光素子が載置された膜を除く)の特定の位置にナノポアを作製するための方法であって、
前記膜に電圧をかけるか、または電流を流しながら、前記膜上の前記特定の位置で、レーザービームを前記膜上の前記特定の位置に向け、前記特定の位置に光を照射することにより、前記膜の導電性が高くなるように絶縁耐力を制御し、
前記膜を横切って電圧をかけるか、または電流を流しながら、前記膜を横切る電気特性をモニターし、
前記膜に電圧をかけるか、または電流を流している時、前記膜を横切る記電気特性の急激な変化を検出し、
前記電気特性の前記急激な変化の検出に応答して、前記電圧または前記電流を前記膜から消失させることを含む、方法。
【請求項2】
前記膜における前記電気特性の前記急激な変化の検出に応答して、前記膜上の前記特定の位置から前記レーザービームをなくすことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記レーザービームを前記膜上の前記特定の位置に向けた後に、前記電圧をかけるか、または前記電流を流す、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電圧をかけるか、または前記電流を流した後に、前記レーザービームを前記膜上の前記特定の位置に向ける、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記レーザービームを、前記特定の位置とは異なる前記膜上の第2の位置に向けることで、前記膜に第2のナノポアを形成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記膜に電圧をかけた状態で、モニターしている前記電気特性はリーク電流であり、前記電気特性の前記急激な変化を検出することは、前記膜を流れる前記リーク電流の急激な増加を検出することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記リーク電流の前記急激な増加を前記検出することは、前記リーク電流の変化率を決定し、前記変化率を閾値と比較することをさらに含み、前記リーク電流の前記変化率が前記閾値より大きくなったときに前記電圧をかけるのをやめることで、ナノポアの前記作製を停止する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記リーク電流の前記急激な増加を検出することは、前記リーク電流の値を閾値と比較することをさらに含み、前記リーク電流の前記値が前記閾値より大きくなったときに前記電圧をかけるのをやめることで、ナノポアの前記作製を停止する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
電流を前記膜に流した状態で、モニターしている前記電気特性は前記膜の両側の電位差であり、前記電気特性の前記急激な変化を前記検出することは、前記膜の両側の前記電位差の急激な低下を検出することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
イオンを含む流体が充填された2つのリザーバ間に、前記膜が前記2つのリザーバを隔てて前記流体が前記2つのリザーバ間を行き来しないように前記膜を配置し、
前記2つのリザーバの各々に電極を配置し、
前記電極を用いて前記電圧をかけるか前記電流を流すことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
イオンを含む流体が充填された2つのリザーバ間に、前記膜が前記2つのリザーバを隔てて前記流体が前記2つのリザーバ間を行き来しないように前記膜を配置し、
前記膜と直接接触させて電極を配置し、
前記電極を用いて前記電圧をかけるか、前記電流を流すことをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの誘電材料からなる膜(近接場光発光素子が載置された膜を除く)の特定の位置にナノポアを作製するための方法であって、
光源からのレーザービームを前記膜上の前記特定の位置における前記膜の表面に向け、前記特定の位置に光を照射することにより、前記膜の導電性が高くなるように絶縁耐力を制御し、
前記膜に対して電圧をかけるか、または電流を流し、
前記膜に対して電圧をかけるか、または電流を流して前記レーザービームを前記特定の位置に向けながら、電圧およびリーク電流のうちの少なくとも1つを含む前記膜の電気特性を測定し、
前記測定された電気特性を閾値と比較し、
前記測定された電気特性の値が前記閾値よりも大きくなったことに応答して、前記電圧をかけるのをやめるか前記電流を流すのをやめ、前記レーザービームを前記膜上の前記特定の位置から逸らすことを含む方法。
【請求項13】
前記膜の材料組成に基づいて、前記レーザービームの波長を選択することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記レーザービームを前記膜上の前記特定の位置に向けた後に、前記電圧をかけるか、または前記電流を流す、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記電圧をかけるか、または前記電流を流した後に、前記レーザービームを前記膜上の前記特定の位置に向ける、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記電気特性は、前記膜に前記電圧をかけたときに前記膜を流れる前記リーク電流を含み、前記測定された電気特性の比較値は、前記リーク電流の変化率を決定し、前記変化率を前記値として前記閾値と比較することをさらに含み、前記リーク電流の前記変化率が前記閾値より大きくなったときに前記電圧および前記レーザービームを止めることで、ナノポアの前記作製を停止する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記電気特性は、前記膜に電圧をかけたときに前記膜を流れる前記リーク電流を含み、前記リーク電流の前記値が前記閾値より大きくなったときに前記電圧および前記レーザービームを止めることで、ナノポアの前記作製を停止する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記電気特性は、電流を前記膜に流すときに前記膜を挟んで生じる前記電圧を含み、前記電圧の前記値が前記閾値未満になったときに前記電流および前記レーザービームを消失させることで、ナノポアの前記作製を停止する、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
イオンを含む流体が充填された2つのリザーバ間に、前記膜が前記2つのリザーバを隔てて前記流体が前記2つのリザーバ間を行き来しないように前記膜を配置し、
前記2つのリザーバの各々に電極を配置し、
前記電極を用いて前記電圧をかけるか、または前記電流を流すことをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
イオンを含む流体が充填された2つのリザーバ間に、前記膜が前記2つのリザーバを隔てて前記流体が前記2つのリザーバ間を行き来しないように前記膜を配置し、
前記膜と直接接触させて電極を配置し、
前記電極を用いて前記電圧をかけるか、または前記電流を流すことをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
前記膜上のあらかじめ定められた複数の位置に複数の前記ナノポアを形成するために、前記あらかじめ定められた位置の各々で、前記レーザービームを前記膜の前記あらかじめ定められた位置で前記膜の前記表面に向け、前記電圧をかけるか、または前記電流を流し、前記膜に前記電圧をかけるか、または前記電流を流して前記レーザービームを前記あらかじめ定められた位置に向けながら、前記膜を挟んだ前記電気特性を測定し、前記測定された電気特性を閾値と比較し、前記測定された電気特性の前記値が前記閾値よりも大きくなったことに応答して、前記電圧または前記電流および前記レーザービームを消失させる、請求項12に記載の方法。
【請求項22】
前記レーザービームを向けることは、
前記レーザービームの光学方向を制御することで、前記膜と前記レーザービームとの位置的な整列を制御し、
前記光源を起動して、前記膜上の前記特定の位置で前記膜の前記表面に向けて前記レーザービームを放射させることをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
前記レーザービームを向けることは、
前記光源に対する前記膜の位置を調節することで、前記膜と前記レーザービームとの位置的な整列を制御し、
前記光源を起動して、前記膜上の前記特定の位置で前記膜の前記表面に向けて前記レーザービームを放射させることをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも1つの誘電材料からなる膜(近接場光発光素子が載置された膜を除く)にナノポアを作製するための装置であって、
イオンを含む流体を保持する2つのリザーバと、電源に電気的に接続され、電圧をかけるか、または電流を流すように動作可能な少なくとも2つの電極と、前記2つのリザーバから前記流体に含浸された前記膜を保持するように構成され、前記膜への光学的なアクセスを提供するウィンドウを含むホルダーと、を含む流体デバイスと、
前記ホルダーの前記ウィンドウを通過して、前記膜の特定の位置に向けられる集光レーザービームであって、前記電極によって前記膜に前記電圧をかけるか、または前記電流を流しているときに、前記膜の前記特定の位置を照らすことにより、前記膜の導電性が高くなるように絶縁耐力を制御する前記集光レーザービームを放射するように動作可能な光学デバイスと、
前記電極のうちの一方に電気的に接続され、前記膜を挟んだ電気特性を測定するように動作可能なセンサと、
前記センサとの間をインタフェースするコントローラと、を備え、
前記膜は、前記2つのリザーバ間を隔てて前記流体が前記2つのリザーバ間を行き来しないようにし、
前記電気特性は、電圧およびリーク電流のうちの少なくとも1つを含み、
前記コントローラは、前記測定された電気特性の急激な変化を検出し、前記測定された電気特性の前記急激な変化の検出に応答して、前記膜に前記電圧をかけるのをやめるかまたは前記電流を流すのをやめるとともに、前記集光レーザービームを前記膜上の前記特定の位置からなくす、装置。
【請求項25】
前記集光レーザービームの波長は、前記膜の前記誘電材料の材料組成に基づいている、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記光学デバイスは、倒立光学顕微鏡である、請求項24に記載の装置。
【請求項27】
前記少なくとも2つの電極のうちの一方の電極は、前記2つのリザーバの各々に配置される、請求項24に記載の装置。
【請求項28】
前記少なくとも2つの電極は、前記膜と直接接触している、請求項24に記載の装置。
【請求項29】
前記電極は、前記膜に電流を流し、
前記センサは、前記膜を挟んだ電圧を前記電気特性として測定し、
前記コントローラは、前記測定された電圧を閾値と比較して、前記電圧が前記閾値未満になったことに応答して、前記膜への前記電流と前記集光レーザービームを前記膜上の前記特定の位置から消失させる、請求項24に記載の装置。
【請求項30】
前記電極は前記膜に電圧をかけ、
前記センサは、前記膜を通って流れるリーク電流を前記電気特性として測定し、
前記コントローラは、前記測定されたリーク電流を閾値と比較して、前記測定されたリーク電流が前記閾値よりも大きくなったことに応答して、前記膜への前記電圧および前記集光レーザービームを前記膜上の前記特定の位置から消失させる、請求項24に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
【0002】
本出願は、2015年2月24日にファイルされた米国特許仮出願第62/120,054号の優先権の利益を主張する。上記出願の開示内容全体を、本明細書に援用する。
【0003】
本開示は、膜表面でのナノポアの作製に関する。
【背景技術】
【0004】
膜にナノスケールでナノポアを形成するために、ナノファブリケーション技術に固体薄膜の制御破壊(CBD)が含まれることがある。この技術では、電解質溶液の中に浸漬した膜を挟んで高電界(たとえば、約1V/nm)を発生させて利用する。この高電界によって誘導されて膜を流れるトンネル電流の存在がゆえ、膜表面のホットスポットで局所的に導電性になる欠陥が生じ、このような欠陥の接続経路が膜を横切ると、ブレークダウンが引き起こされる。ブレークダウン反応の副産物は、流体によって容易に除去され、膜を流れて測定される電流レベルの急激な増加すなわち、低電界強度(たとえば、約0.01V/nm、膜の残りが絶縁される値)でのイオン電流の出現によって、それぞれのナノポアが形成されたことがわかる。
【0005】
CBDベースの技術を使用して、直径1nmほどの小さなナノポアを作ることができ、適度な電界を用いて、これをさらに1ナノメートル未満の精度で拡大することができる。電界は、作製時に連続して発生させてもよいし、高値と低値の交互に発生させてもよい。CBD技術に関するさらなる詳細については、Kwok,H.;Briggs,K.; and Tabard-Cossa,V.;“Nanopore Fabrication by Controlled Dielectric Breakdown”-PLoS ONE 9(3):e92880(2014)ならびに、発明の名称が「Fabrication of Nanopores using High Electric Fields」である米国特許出願第14/399,071号(その内容全体を本明細書に援用する)にも、見いだせる。ナノポアの拡大に関する詳細については、Beamish,E.;Kwok,H.;Tabard-Cossa,V.; and Godin,M.;“Precise control of the size and noise of solid-state nanopores using high electric fields”-Nanotechnology 23, 405301, 7 pages(2012)ならびに、発明の名称が「Method for controlling the size of solid-state nanopores」である米国特許出願第14/399,091号(その内容を本明細書に援用する)に見いだすことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
CBD技術を用いた作製プロセスは、時間対ブレークダウンと膜表面でのナノポアの位置の両方に関して、確率に依存する面がある。たとえば、ポア作製後に電界がすぐに消失してしまうかぎり、ナノポアが1つしか形成されず、膜上のナノポアの位置が定まらない可能性がある。横方向のトンネル電流を測定するナノ電極を必要とするものなど用途によっては、生体分子の捕捉および/または通過を制御する膜表面のナノ構造が重要な場合があり、光学検出を伴う実験であれば、ナノポアの厳密な局在化が重要な場合がある。よって、CBD技術は、実施が困難なことがある。
【0007】
このセクションは、必ずしも先行技術ではない本開示に関連する形成の背景を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このセクションは、本開示の概要を提供するものであり、その完全な範囲またはその特徴のすべての包括的な開示ではない。
本開示は、広義には、膜の特定の位置にナノポアを作製するための方法に関する。この方法は、膜に電圧をかけるか電流を流しながら、膜上の特定の位置で、膜の絶縁耐力を制御し、膜に電圧をかけるか電流を流しながら、膜の電気特性をモニターし、膜に電圧をかけるか電流を流しながら、膜での電気特性の急激な変化を検出し、電気特性の急激な変化の検出に応答して、膜に電圧をかけるのをやめるか、または電流を流すのをやめることを含む。
【0009】
本開示の一態様では、膜の絶縁耐力を制御することは、レーザービームを膜上の特定の位置に向けることをさらに含んでもよい。
【0010】
本開示の別の態様では、この方法は、膜における電気特性の急激な変化の検出に応答して、膜上の特定の位置からレーザービームをなくすことをさらに含んでもよい。
【0011】
本開示のさらに別の態様では、レーザービームを膜上の特定の位置に向けた後に、膜に電圧をかけるか電流を流してもよい。
【0012】
本開示の一態様では、電圧をかけるか電流を流した後に、レーザービームを膜上の特定の位置に向けてもよい。
【0013】
本開示の別の態様では、この方法は、レーザービームを、特定の位置とは異なる膜上の第2の位置に向けることで、膜に第2のナノポアを形成することをさらに含んでもよい。
【0014】
本開示のさらに別の態様では、膜に電圧をかけた状態で、モニターしている電気特性はリーク電流であり、電気特性の急激な変化を検出することは、膜を流れるリーク電流の急激な増加を検出することをさらに含んでもよい。
【0015】
本開示の一態様では、リーク電流の急激な増加を検出する際に、この方法は、リーク電流の変化率を決定し、変化率を閾値と比較することをさらに含んでもよい。リーク電流の変化率が閾値より大きくなったときに電圧をかけるのをやめることで、ナノポアの作製を停止する。
【0016】
本開示の別の態様では、リーク電流の急激な増加を検出する際に、この方法は、リーク電流の値を閾値と比較することをさらに含んでもよい。リーク電流の値が閾値より大きくなったときに電圧をかけるのをやめることで、ナノポアの作製を停止する。
【0017】
本開示のさらに別の態様では、電流を膜に流した状態で、モニターしている電気特性は膜の両側の電位差であり、電気特性の急激な変化を検出することは、膜の両側の電位差の急激な低下を検出することをさらに含んでもよい。
【0018】
本開示の一態様では、この方法は、イオンを含む流体が充填された2つのリザーバ間に、膜が2つのリザーバを隔てて流体が2つのリザーバ間を行き来しないように膜を配置し、2つのリザーバの各々に電極を配置し、電極を用いて電圧をかけるかまたは電流を流すことをさらに含んでもよい。
【0019】
本開示の別の態様では、この方法は、イオンを含む流体が充填された2つのリザーバ間に、膜が2つのリザーバを隔てて流体が2つのリザーバ間を行き来しないように膜を配置し、膜と直接接触させて電極を配置し、電極を用いて電圧をかけるかまたは電流を流すことをさらに含んでもよい。
【0020】
本開示の一態様では、本開示は、広義には膜の特定の位置にナノポアを作製するための方法に関し、ここで、この方法は、光源からのレーザービームを膜上の特定の位置における膜の表面に向け、膜に電圧をかけるかまたは電流を流し、膜に電圧をかけるかまたは電流を流しながらレーザービームを特定の位置に向けたまま、膜の電気特性を測定し、測定された電気特性を閾値と比較し、測定された電気特性の値が閾値よりも大きくなったことに応答して、膜に電圧をかけるのをやめるかまたは電流を流すのをやめ、レーザービームを膜上の特定の位置からなくすことを含み、膜は、少なくとも1つの誘電材料からなり、電気特性は、電圧およびリーク電流のうちの少なくとも1つを含む。
【0021】
本開示の一態様では、この方法は、膜の材料組成に基づいて、レーザービームの波長を選択することをさらに含んでもよい。
【0022】
本開示の一態様では、電気特性は、膜に電圧をかけたときに膜を流れるリーク電流を含み、測定された電気特性の比較値は、リーク電流の変化率を決定し、変化率を値として閾値と比較することをさらに含む。リーク電流の変化率が閾値より大きくなったときに電圧をかけるのをやめ、レーザービームをなくすことで、ナノポアの作製を停止する。
【0023】
本開示の別の態様では、電気特性は、膜に電圧をかけたときに膜を流れるリーク電流を含み、リーク電流の値が閾値より大きくなったときに電圧をかけるのをやめ、レーザービームをなくすことで、ナノポアの作製を停止する。
【0024】
本開示のさらに別の態様では、電気特性は、電流を膜に流すときに膜を挟んで印加される電圧を含み、電圧の値が閾値未満になったときに電流を流すのをやめ、レーザービームをなくすことで、ナノポアの作製を停止する。
【0025】
本開示の一態様では、膜上のあらかじめ定められた複数の位置に複数のナノポアを形成するために、あらかじめ定められた位置の各々で、レーザービームを膜のあらかじめ定められた位置で膜の表面に向け、膜に電圧をかけるかまたは電流を流し、膜に電圧をかけるかまたは電流を流してレーザービームをあらかじめ定められた位置に向けたまま、膜を挟んだ電気特性を測定し、測定された電気特性を閾値と比較し、測定された電気特性の値が閾値よりも大きくなったことに応答して、電圧をかけるのをやめるかまたは電流を流すのをやめ、レーザービームをなくす。
【0026】
本開示の別の態様では、レーザービームを向ける際に、この方法は、レーザービームの光学方向を制御することで、膜とレーザービームとの位置的な整列を制御し、光源を起動して、膜上の特定の位置で膜の表面に向けてレーザービームを放射させることをさらに含んでもよい。
【0027】
本開示のさらに別の態様では、レーザービームを向ける際に、この方法は、光源に対する膜の位置を調節することで、膜とレーザービームとの位置的な整列を制御し、光源を起動して、膜上の特定の位置で膜の表面に向けてレーザービームを放射させることをさらに含んでもよい。
【0028】
本開示の一態様では、本開示は、広義には少なくとも1つの誘電材料からなる膜にナノポアを作製するための装置に向けられている。この装置は、流体デバイスと、光学デバイスと、センサと、コントローラと、を含んでもよい。流体デバイスは、2つのリザーバと、少なくとも2つの電極と、ホルダーと、を含んでもよい。リザーバは、イオンを含む流体を保持し、膜は、2つのリザーバ間を隔てて流体が2つのリザーバ間を行き来しないようにする。電極は、電源に電気的に接続され、膜に電圧をかけるかまたは電流を流すように動作可能である。ホルダーは、2つのリザーバから流体に含浸された膜を保持するように構成され、膜への光学的なアクセスを提供するウィンドウを含む。
【0029】
光学デバイスは、ホルダーのウィンドウを通過して、膜の特定の位置に向けられる集光レーザービームを放射するように動作可能であってもよい。集光レーザービームは、電極によって膜に電圧をかけるかまたは電流を流しているときに、膜の特定の位置を照らす。
【0030】
センサは、電極のうちの一方に電気的に接続されてもよく、膜を挟んだ電気特性を測定するように動作可能であってもよい。電気特性は、電圧およびリーク電流のうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0031】
コントローラは、センサとの間をインタフェースして、測定された電気特性の急激な変化を検出してもよい。測定された電気特性の急激な変化の検出に応答して、コントローラは、膜にかけた電圧または膜に流した電流のうちの一方を止めてもよく、集光レーザービームを膜上の特定の位置からなくしてもよい。
【0032】
本開示の別の態様では、光学デバイスは、倒立光学顕微鏡である。
【0033】
本開示のさらに別の態様では、少なくとも2つの電極のうちの一方の電極は、2つのリザーバの各々に配置される。
【0034】
本開示の一態様では、少なくとも2つの電極は、膜と直接接触している。
【0035】
本開示の別の態様では、電極は、膜に電流を流してもよく、センサは、膜を挟んだ電圧を電気特性として測定してもよく、コントローラは、測定された電圧を閾値と比較して、電圧が閾値未満になったことに応答して、膜への電流と集光レーザービームを膜上の特定の位置からなくしてもよい。
【0036】
本開示のさらに別の態様では、電極は膜に電圧をかけてもよく、センサは、膜を通って流れるリーク電流を電気特性として測定してもよく、コントローラは、測定されたリーク電流を閾値と比較して、測定されたリーク電流が閾値よりも大きくなったことに応答して、膜に電圧をかけるのをやめ、集光レーザービームを膜上の特定の位置からなくしてもよい。
【0037】
本開示の一態様では、本開示は、広義には少なくとも1つの誘電材料を含む膜に設けられたナノポアの大きさを拡大する方法に関し、この方法は、電圧をかけるかまたは電流を流しながら、レーザービームを膜のナノポアに向け、膜を通って流れるリーク電流を測定し、測定されたリーク電流に基づいて、ナノポアの大きさの増加を決定し、ナノポアの大きさの増加を検出したことに応答して、膜に対する電圧をかけるのをやめるか電流を流すことをやめることを含む。
【0038】
本開示の一態様では、膜は、複数のナノポアを含み、レーザービームは、第1のナノポアに向けられる。
【0039】
本開示の別の態様では、この方法は、レーザービームを第2のナノポアに向けることをさらに含んでもよい。
【0040】
さらに応用可能な領域は、本明細書に記載の説明から明らかになるであろう。本開示の説明および具体例は、例示を目的とすることを意図したものにすぎず、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本明細書で説明する図面は、選択された実施形態の例示を目的とするものにすぎず、可能なすべての実施形態ではなく、本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
図1図1は、本開示のレーザー促進制御破壊技術を用いてナノポアを作製するためのセットアップ例を示す図である。
図2図2は、図1のセットアップの流体デバイスの拡大図である。
図3図3は、レーザー促進制御破壊技術を用いてナノポアを作製するための方法を示すフローチャートである。
図4図4は、複数の膜材料と、これに付随する、膜に照射される光線の波長を列挙した表である。
図5図5Aおよび図5Bは、光線のスポットサイズを示すデジタル画像である。
図6図6は、SiN膜を流れるリーク電流に対する作用を示すグラフである。
図7図7Aから図7Fは、レーザー促進制御破壊技術を用いたナノポア作製を示す光学画像である。
【0042】
図面の複数の図で、同一の参照符号は同一の要素を示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本開示は、レーザー促進制御破壊(LECBD)技術を用いてあらかじめ定められた位置にナノポアを作製するための方法および/または装置について説明するものである。LECBD技術では、膜上の正確な位置にナノポアを作製できる可能性を大幅に高めるために、膜材料の絶縁耐力を制御する。LECBDを使用する場合、集光光線(たとえば、レーザービーム)を膜の特定の位置のほうに向け、その特定の位置に光を照射する。特定の位置に光が当たった状態で、膜を挟んで電圧をかける。集光ビームによって、特定の位置で導電性が高くなる。こうして導電性が増すと、リーク電流が局所的に大きくなり、膜の光が照射された部分でのナノポア作製に極めて有利に作用する。
【0044】
以下、添付の図面を参照し、本開示をさらに詳細に説明する。
【0045】
図1および図2は、LECBDを用いてナノポアを作製するためのナノポア作製装置の一例を示す。ナノポア作製装置100は、流体デバイス102と、フォーカスビームデバイス104(すなわち、光学デバイス)と、コントローラ106と、を含む。流体デバイス102および/または装置全体を、接地したファラデーケージ107の中に配置して、電気ノイズを遮断することが可能である。このLECBDによるナノポア作製の局在化を実証するのに用いたセットアップは、生体分子がナノポアを通るのを光学的および電気的に同時に測定するように設計されているが、これよりも単純な実施形態を構築して、LECBDを実施してもよい。
【0046】
図2に示されるように、流体デバイス102は、流体セル110と、電流増幅器回路(CAC)114に電気的に接続された一対の電極112と、を含む。流体セル110は、ケイ素チップ118内に配置された膜116を保持し、フォーカスビームデバイス104が膜116に光学的にアクセスできるようにしている。
【0047】
いくつかの実施形態では、膜116は、窒化ケイ素(SiN)などの誘電材料からなる。膜は、好ましくは厚さ10nmまたは30nmと薄いが、これ以外の厚さの膜も本開示で企図される。トランジスタ用のゲート材料として一般に用いられている、他の酸化物および窒化物などの他の誘電材料からなる膜も、本開示の範囲内に包含される。同様に、原子薄膜が、グラフェン、窒化ホウ素などの他の材料からなることもある。また、膜が誘電材料および/または導電性材料を含む材料の多層からなる場合も企図される。
【0048】
流体セル110は、リザーバ120およびホルダー122を含む。リザーバ120は、イオンを含む流体(すなわち、電解質溶液)で満たされている。流体は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)管124によってリザーバ120から膜116に供給される。電極112は、それぞれのリザーバ120に挿入され、リザーバ120からPTFE管124を通って流れる電解質溶液によって、膜116と電気的に接続されている。リザーバ120からの電解質溶液の流れについては、リザーバ120に設けられたニードルハブ部材126にシリンジポンプ(図示せず)を接続することで制御しても構わない。
【0049】
流体デバイス102は、電極と電解質溶液とのさまざまな好適な組み合わせを含み得る。たとえば、流体デバイス102は、塩化物ベースの塩溶液とAg/AgCl電極または硫化銅溶液と銅電極を有するものであってもよい。また、流体を、1M LiClのエタノール溶液などの非水性溶媒とすることもできよう。流体は、両方のリザーバ120で同一であってもよく、膜材料に対するアクティブなエッチング作用を持つ必要がない。マイクロ流体封入およびナノ流体封入など、他のタイプの流体および2つのリザーバ間に膜を配置するための手段も企図されている。
【0050】
ホルダー122は、膜116を収容し、リザーバ120からの流体に膜116を浸漬させる。ホルダー122は、アルミニウム製であってもよいし、他の好適な材料で作られたものであってもよい。また、ホルダー122は、フォーカスビームデバイス104に光学アクセスを提供するためのウィンドウ128も含む。特に、ナノポアが形成されることになる膜116の特定の位置は、ウィンドウ128内に配置され、ここにフォーカスビームデバイス104からのフォーカスビームが当てられる。
【0051】
流体デバイス102は、フォーカスビームデバイス104の上にあるステージ140に配置される。ステージ140は、固定式のステージであっても可動式のステージであってもよい。フォーカスビームデバイス104は、倒立光学顕微鏡であってもよく、光源142、顕微鏡144、カメラ146を含む。光源142は、光源142を起動および停止するおよび/またはフォーカスビームデバイス104によって放射されるビームを遮断するシャッター部材(図示せず)を制御するためのコントローラ106によって動作可能であってもよい。例としての一実施形態では、光源142は、所望の波長でレーザービームを放射するレーザーダイオードであってもよい。光源142は、水銀ランプなどの他の好適な光源を含んでもよく、本明細書に記載の例に限定されるものではない。
【0052】
光源142によって発生光は、顕微鏡144を通るように向けられ、2つのレンズ(図示せず)間の距離を調節することによって顕微鏡で集光されて、膜116のほうに向けられる。具体的には、顕微鏡144の対物レンズ148が、流体デバイス102のウィンドウ128と整列される。光線は、膜116の、ナノポアが形成される特定の位置に向けられる。たとえば、コントローラ106は、フォーカスビームデバイス104を制御して光線の方向を調節し、この光線を膜116に沿った特定の位置と整列させてもよい。別の例として、ステージ140が可動式であれば、コントローラ106は、ステージ140を制御することによって、光線に対する膜116の位置を調節してもよい。フォーカスビームデバイスと膜の位置の両方を制御することなど、特定の位置で光線と膜とを整列させるための他の方法も企図されるため、本開示は本明細書に記載の例に限定されるべきものではない。
【0053】
顕微鏡144から放射される光線は、膜116の特定の位置を照らすが、フルオロフォア(たとえば、YOYO染色DNAまたはCa2+感受性染料)を照らしてもよい。この放射は、顕微鏡144内の特定のフィルターキューブ(たとえば、FITC)によって濾波され、カメラ146に集められる。
【0054】
特定の位置で膜116に光が当たった状態で、コントローラ106は、電流増幅器回路114を制御して、この回路114によって、電極112に電圧をかけてもよい。例としての一実施形態では、コントローラ106を、パーソナルコンピュータ152または別のタイプのコンピューティングデバイスに接続されたデータ収集(DAQ)回路150として実施してもよい。
【0055】
電流増幅器回路114は、電圧および電流を読み取って制御する単純なオペアンプ回路であってもよい。オペアンプは、たとえば、±20ボルトの電圧源から電力を供給されてもよい。動作時、回路114は、コントローラ106からのコマンド電圧(たとえば、±10ボルトの間)を取り入れ、このコマンド電圧を、たとえば±20ボルトに増幅し、電極112によって膜116を挟んで電圧を設定する。また、こうして印加された電圧を電流増幅器回路114によって測定することも可能である。たとえば、2つの電極112間を流れる電流は、pA単位の感度で、一方または両方の電極112で測定される。具体的には、電流は、トランスインピーダンス増幅器の接続形態を用いて測定される。測定された電流信号は、データ取得回路150によってデジタル化され、コンピュータ152に連続供給される。このようにして、電流は、コントローラ106によって(たとえば、周波数10Hzで)リアルタイムにモニターされる。電圧をかけ、電流を測定するための他の回路構成も、本開示の範囲に包含される。
【0056】
コントローラ106は、電極112間の電流をモニターし、電流がいつ電流閾値に達したのかを決定する。例としての実施形態では、ナノポアの最小サイズを1nmのオーダーに設定するために、電流の急激な増加と一致するように電流閾値を設定する。他の実施形態では、膜を挟んで電圧をかけ続けることで、ナノポアの大きさをもっと大きく設定してもよい。すなわち、モニターしている電流が大きくなるにつれて、ナノポアも大きくなりつづける。電流閾値をリーク電流の急激な増加と一致するように設定するのではなく、電流閾値の値を異なる値に設定し、さまざまな大きさのナノポアを達成してもよい。
【0057】
例としての実施形態では、一定の電圧を印加し、電流をモニターすることによって、ナノポアの形成をモニターする。あるいは、一定レベルの電流を流して、膜116の両側の電位差をモニターするように、ナノポア作製装置100を構成してもよい。たとえば、一定の電流を膜116に流した状態で、コントローラ106は、膜の両側の電位差をモニターして、ナノポア形成時に生じる急激な降圧を検出してもよい。この急激な降圧は、それ自体、新たに形成されるポアの拡大を制限する。コントローラ106は、最小のナノポアを設定するために、検出された電圧を、急激な降圧に一致する電圧閾値と比較してもよい。このため、例としての一実施形態では、電流増幅器回路は、電流および/または電圧などの電気特性を測定するためのセンサとして動作することができる。コントローラは、電気特性をモニターするために膜を挟んで測定される電気特性を示す、電流増幅器回路からの電気信号を受信してもよい。
【0058】
図3を参照すると、LECBDを用いて特定の位置でナノポアを形成するための例示的な方法が提供される。この方法では、膜の絶縁耐力を制御して、膜の特定の位置にナノポアを形成する。絶縁耐力を制御するために、200で、フォーカスビームデバイス104によって放射される光線が膜116の特定の位置を照らすように、膜116とフォーカスビームデバイス104とを整列させる。フォーカスビームデバイス104は、202で、膜116の特定の位置を照らすための光線を放射する。
【0059】
この方法では、特定の位置で膜116に光を照射した状態で、204で膜116を挟んで電圧を印加し、膜116にリーク電流を誘導できるだけの高電界を発生させる。206で、電界を発生させたまま、かつ膜116を照らしたままで、膜を貫通して流れる電流をモニターする。膜の絶縁耐力の10分の1より大きな値になるような電界あるいは、1ナノメートルあたり0.1ボルトの値になるような電界を膜に誘導するのに電圧が選択される。
【0060】
単一のナノポア(すなわち、膜を通る流体チャネル)が作製されたことは、リーク電流が急激に不可逆的に大きくなることでわかる。ナノポアの作製を検出するために、208で、モニターしている電流をあらかじめ定められた閾値と比較する。モニターしている電流が閾値より大きくなったら、210で、膜116への電圧印加と、特定の位置での膜116の照明を終了する。なお、ここではナノポアの形成について言及しているが、本明細書に記載の技術は、より汎用的に、さまざまな大きさの穴の形成にも応用可能である。
【0061】
例としての実施形態では、膜に電圧をかけ、膜の電気特性としてのリーク電流をモニターする。あるいは、膜に電流を流してもよく、膜の電気特性としての電圧レベルをモニターしてもよい。また、例としての実施形態では、電圧をかける/電流を流す前に、レーザービームを膜と整列させてもよい。あるいは、レーザービームを膜の特定の位置に向けて当該位置を照らす前に、膜に電圧をかけ/電流を流してもよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、リーク電流が急激に増加する前(すなわち、ポア形成前)に、膜116に電圧をかけるのをやめる。たとえば、モニターされる電流があらかじめ規定された閾値を超えた後あるいは、指定された長さの時間の経過後ではあるがリーク電流の急激な増加前に、電圧をかけるのをやめる。このようにして、膜にポアを部分的に穿孔または形成してもよい。そして、それ以後に、同一のプロセスまたは異なるプロセスを使用して、ポア形成を完了することができる。
【0063】
膜の選択された領域を集光ビーム(たとえば、レーザービーム)で照らすと、正孔対が発生し、光の当たった領域の導電性が効果的に高められる。使用する特定波長の光をチューニングして、特定の材料の光導電性を最大にすることができる。たとえば、図4は、バンドギャップより上で電子を直接励起させるための、さまざまな材料に対する最適な波長を表にしたものである。本発明者らは、バンドギャップよりエネルギーの小さいレーザー源は、バンドギャップを貫通して電子を直接励起できるだけの十分なエネルギーを持つわけではないが、それでもバンドギャップ内にあるトラップまでと、トラップから伝導バンドまで電子を進める場合があるため、このようなレーザー源も使用できることを添えておく。すなわち、正孔対の発生が複数の工程で生じる場合がある。導電性が高くなると、リーク電流が局所的に大きくなり、CBDプロセスで膜のレーザーで照らした部分にナノポアを形成するのに非常に好ましい状態になる。
【0064】
さらに説明すると、光導電性として知られるプロセスすなわち、材料によるレーザー光の吸収など電磁波の吸収によって、そのバンドギャップを貫通して電子が励起され、これによって正孔対が発生する。自由電子と正孔の数が増えると、材料の電気特性が変化し、その導電性が局所的に効果的に高められ、リーク電流に好ましい経路が形成される。レーザーで照らした領域を流れるリーク電流が大きくなっているため、電流によって膜に欠陥が生じる率が局所的に高くなり、膜表面のレーザースポットでナノポアを形成するための極めて望ましい条件が提供される。このように、レーザーの集光ビームを使用してポアを設けると望ましい特定の位置を照らし、膜表面の特定の位置にナノポアを形成することができる。本発明者らは、誘電膜を照らすことで、トラップ密度またはネイティブトラップの電荷に準安定の変化を引き起こし、光導電性の増大につなげることができる点にも言及しておく。
【0065】
通常、膜の表面でナノポアを局在化できる精度は、レーザービームをいかに厳密に集束させられるかに依存し、使用する集光光学系と光の波長にもよるが、大ざっぱにいえば約500nmの範囲の回折限界点に依存する。しかしながら、ガウシアンレーザービームは強度の極大が中央にあるため、回折限界未満の精度でナノポアの位置を定めることができる。これは、強度が最大になるビームのまさに中央で、光導電性作用が最も強くなるためである。
【0066】
【数1】
【0067】
レーザーによる照明を使用しなければ、ナノポアは、どこにでも同じ確率で形成され得るため、以下の式(2)で示されるように、電圧ごとにバックグラウンド電流密度が存在すると仮定できる。
【数2】
【0068】
【数3】
【数4】
【0069】
膜のいずれかの点で欠陥の臨界密度に達すると、ブレークダウンが生じる。α、β、ρ 0 は、レーザー強度とは関係のない材料のパラメータであるため、十分に高いレーザー強度を用いて、その点がレーザースポット内に存在する可能性を、膜表面のそれ以外の場所に形成される可能性よりも高くすることが、常に可能である。さらに、欠陥密度生成率は、レーザースポットの中央からの距離に敏感に依存するため、原理上は、ナノポア形成を回折精度未満で局在化することが可能である。
【0070】
特定のレーザー強度について、光電流は最終的に電圧(電界)が増す際の作製(すなわち飽和)時の電圧または電界の強さとは無関係なものとなるべきであるが、バックグラウンドのリーク電流密度は増加しつづけることになるため、さらに高い電圧(またはさらに高い電界)でナノポア形成位置に有意な影響をおよぼすには、さらに高い強度が必要である。さらに、ρ 0 は印加電圧の増加する関数であるため、より低い電圧(または電界)を使うと局在化の信頼性が高まることが想定される。
【0071】
一例として、図5Aおよび図5Bは、局所的なポア形成の分解能を高めるために、レーザースポットサイズを小さくした状態を示したデジタル画像である。特に、上述した装置を使用して、照明領域が小さくなるように顕微鏡の2つのレンズ間の距離を調節して488nmのレーザービームを集束させ、これによって、回折限界スポットを形成する。光学顕微鏡で得られるデジタル画像から、集光レーザービームのスポットサイズが効果的に縮小されていることがわかる。図5Aは、強度が0~1000a.u.の範囲にある画像であり、図5Bは、50×50μmの膜を可視化できるように強度を0~20a.u.の範囲に調節した同じ画像である。レーザーの出力は、画像を取得したときで0.1mWであった。
【0072】
図6を参照すると、SiN膜を流れるリーク(トンネル)電流に膜照明が及ぼす影響が劇的である。グラフの左側は、次第に大きくなる(1V、2V、3V、4V)4通りの電圧パルスに対するSiN膜の電流応答を示す。グラフの右側は、30mWのフォーカスレーザービームを用いた照明時の同じ電圧パルスに対する同じ膜の電流応答を示す。
【0073】
膜を挟んで印加される電圧と、そのリーク電流応答を、最初にレーザー照明なしでプロットする。その後、同時にSiN膜の直径約1μmの領域にレーザーを当てながら、同じ電圧パルスを繰り返す。印加電圧を高くすると(たとえば、>2V)、レーザー照明時にリーク電流が大幅に大きくなる。レーザー照明によって実測電流値が顕著に増加することから、制御破壊時の局在化されたポア形成とレーザービームの光導電性作用との間に関連性があることがわかり、リーク電流に対する優勢な寄与がレーザー照明領域から来ることが示される。また、この増加は、リーク電流密度がレーザースポットで局所的に極めて高くなることも示している。なぜなら、レーザーなしのバックグラウンド電流も、ナノポアが出現できないサポートチップからの寄与を含むからである。回折限界領域を全体の電流に非常に強く寄与させるには、レーザー照明によって局所的な電流密度を劇的に高めなければならない。
【0074】
散乱したレーザー光がSiN膜の50μm×50μmの領域のほぼ全体を照明した事実にもかかわらず、ビーム強度のガウシアンプロファイルは、ビームの中央に光強度が最大の(大きさのオーダーが高い)点を生じ、光導電性の増大が最大限になる。図7A図7Fに示されるように、LECBD時に膜を挟んで電圧を印加すると、このレーザー照明スポットでリーク電流が最大になり、その後、厳密に同じ位置にナノポアが形成される。図7Aおよび図7Dは、ハロゲンランプを用いて、ワイドフィールド顕微鏡で得られた光学画像である。図7Bおよび図7Cは、488nmのレーザーを用いて、ワイドフィールド顕微鏡で得られた光学画像である。図7Eおよび図7Fは、蛍光顕微鏡で得られた光学画像である。
【0075】
図7Aは、ポア形成前に1MのKClに浸漬した未処理のSiN膜を示す。図7Bは、いくぶん大きなスポット(約10μm)に集束させた488nmのレーザービームスポットで照明した同じ膜を示す。図7Cは、レーザー照明をSiN膜に限定するのに用いた絞りの影響を示す。図7Dは、高レーザー出力(約30mW)でのLECBDポア形成後の膜を示す。図7Aに対して、作製手順7Dの後に膜の特徴が観察される点に注意されたい。YOYO-1蛍光染料で標識したDNAはナノポアをふさぎ、レーザー照明下でその位置を明らかにする(他のすべての明るいスポットは、時間の経過とともに移動することが観察され、ナノポアサイトでのDNA捕捉が観察されている)。図7Fでは、図7Dのナノポアの光学顕微鏡画像に、図7Eのポア位置の蛍光画像を重ねて、レーザー促進CBD後の膜の特徴と確認されたポア局在化との相関をはっきりと示している。
【0076】
図7A図7Fのデモンストレーションでは、30mWのレーザー強度を使用した。これによって、ナノポア作製後に膜に特徴が作られた。LECBDによるナノポア作製は、低めのレーザー出力(たとえば、2mW)でも行った。これによって、LECBDによる作製後に、膜に観察可能な特徴は生成されなかった。YOYO-1蛍光染料で染色されたラムダDNAの捕捉と移動を光学的に観察することで確認されたナノポアの位置は、LECBDによるナノポア作製時に、レーザー照明スポットの中央に対応することが確認される。
【0077】
本開示のレーザー促進制御破壊技術を使用して、CBDによって膜表面でのナノポア形成を局在化することができる。上述したように、電解質溶液に浸漬かつ高電界に曝露された膜に当たるフォーカスレーザービームは、局所的なリーク電流の増大を誘導し、膜におけるレーザースポットでの欠陥形成率を高める。レーザービームは、膜のその位置にナノポアが作製される可能性を大幅に高める。膜に当たるレーザースポットの中央でナノポアが作製される単位面積あたりの可能性は、レーザー強度が増すにつれて高くなる。作製に用いる高電界の値を小さくすると、適切なレーザー照明下で局在化の信頼性を高めることにつながると想定される。膜の光電流が、全体のリーク電流に優勢で寄与することになるためである。
【0078】
低電界状態(たとえば、中性の1M KCl中、SiN膜では<0.5V/nmまたは10nmのSiN膜では<5V)下、膜表面での集光ビームの位置を制御することによって、ナノポアのアレイを作製できる。最初のブレークダウンが起きた位置から離して集光ビームを移動させて、その位置でのナノポアの作製と成長を終了するとともに、新たなレーザービーム位置で第2のナノポアの作製をトリガーする。このプロセスは、所望のアレイサイズが得られるまで繰り返すことができる。「高電界」および「低電界」という用語は、材料依存性である。通常、「低電界」は、絶縁耐力の10分の1未満の電界をいうことがあり、「高電界」は、ほぼ材料の絶縁耐力の電界をいうことがある。
【0079】
一例として、1つのナノポアを第1の位置に形成後、フォーカスビームデバイスは、光源を切るおよび/またはシャッター部材で光線を遮断することによって、第1の位置の照明を停止する。次に、ビームデバイスから放射される光が第2の位置を照らすように、フォーカスビームデバイスと膜を整列させる。フォーカスビームデバイスおよび膜の位置は、膜が配置される可動式ステージの位置を調節することおよび/または顕微鏡によって光線の光学方向を調節することを含むがこれらに限定されるものではない、さまざまな好適な方法で調整できる。第2の位置をフォーカスビームデバイスと整列させた状態で、第2の位置を集光ビームで照らし、膜を挟んで電圧を印加する。第2の位置での第2のナノポアの形成については、上述したように、膜を流れる電流に基づいてモニターする。このように、膜のあらかじめ定められた位置に複数のナノポアを形成できる。
【0080】
同じ原理で、アレイの特定のナノポアの照明を使用して、特定のナノポアを、アレイに含まれる他のナノポアの大きさに影響を及ぼすことなく、所望の大きさまで拡大することも可能である。たとえば、多数のナノポアを有する膜を特定のナノポアのある位置で照明すればよい。膜を挟んで電圧をかけると、特定のナノポアの大きさを、他のナノポアを変化させずに拡大できる。
【0081】
LECBDによるナノポア作製は、照明下にある場合、電解質/膜界面での電荷移動率、よってリーク電流の大きさを調整することによって、膜表面の表面電荷密度の変化に影響されることもある。
【0082】
LECBDによるナノポア作製には、膜材料の絶縁耐力に影響する集光ビームによる膜の局所的な加熱によって、さらに影響を与えることができる。パルスレーザーの反復率のチューニングを用いて、局所的な加熱を誘導するか、反対に、膜の加熱を回避することもできよう。
【0083】
実施形態についての上記の説明は、例示および説明目的で提供されているものである。これは、包括的であること、あるいは、本開示を限定することを意図したものではない。特定の実施形態の個々の要素または特徴は通常、その特定の実施形態に限定されるものではなく、具体的に図示または説明されていなくても、該当するのであれば入れ替え可能であって、選択された実施形態で使用できる。また、同じものが多くの方法で変更されてもよい。このような変更は、本開示から逸脱するものとはみなされず、そのような改変はいずれも本開示の範囲に包含されることを意図している。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7