(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】有機繊維強化樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/02 20060101AFI20220512BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20220512BHJP
C08L 23/06 20060101ALI20220512BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20220512BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20220512BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
C08L23/02
C08K7/02
C08L23/06
C08L23/12
C08L23/16
C08J5/04 CES
(21)【出願番号】P 2018036270
(22)【出願日】2018-03-01
【審査請求日】2021-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】片桐 好秀
(72)【発明者】
【氏名】納谷 藍子
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-231237(JP,A)
【文献】特開2015-183140(JP,A)
【文献】特開2011-137077(JP,A)
【文献】特開2014-118525(JP,A)
【文献】特開2010-053341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/02
C08K 7/02
C08L 23/06
C08L 23/12
C08L 23/16
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトマスフローレートが10~200g/10minの第一のオレフィン系樹脂と、メルトマスフローレートが0.2~5g/10min
であり、エチレンの単独重合体及びプロピレンの単独重合体からなる群から選択される少なくとも1種の第二のオレフィン系樹脂と、有機繊維とを含有し、
前記第一のオレフィン系樹脂と前記第二のオレフィン系樹脂の質量比が20:80~80:20であり、
前記有機繊維の含有量が、前記第一のオレフィン系樹脂と前記第二のオレフィン系樹脂との合計量100質量部に対して、5~100質量部である、
ことを特徴とする有機繊維強化樹脂組成物。
【請求項2】
前記第一のオレフィン系樹脂がエチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体及びエチレンとプロピレンとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の有機繊維強化樹脂組成物。
【請求項3】
前記第二のオレフィン系樹脂が
プロピレンの単独重合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機繊維強化樹脂組成物。
【請求項4】
前記有機繊維が植物繊維であることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の有機繊維強化樹脂組成物。
【請求項5】
メルトマスフローレートが10~200g/10minの第一のオレフィン系樹脂と有機繊維とを混合した後、メルトマスフローレートが0.2~5g/10min
であり、エチレンの単独重合体及びプロピレンの単独重合体からなる群から選択される少なくとも1種の第二のオレフィン系樹脂を更に混合することを特徴とする有機繊維強化樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維強化樹脂組成物及びその製造方法に関し、より詳しくは、オレフィン系樹脂を含有する有機繊維強化樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オレフィン系樹脂は汎用性が高く、安価でかつ機械的特性に優れているため、自動車の内装部品や外装部品等、様々な分野で幅広く用いられている。このようなオレフィン系樹脂においては、機械的特性を向上させるために、木粉、セルロース繊維、ポリエステル系繊維等の有機繊維やガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維が配合されている。例えば、特開平7-62167号公報(特許文献1)には、メルトフローレートが0.2g/10分以上100g/10分以下の結晶性プロピレン重合体(A)100質量部と無機系充填剤含有ポリエチレンテレフタレート繊維等のポリエステル系繊維(B)10~100質量部とを含有する、耐熱性、剛性、成形性に優れた有機繊維系プロピレン樹脂組成物が記載されている。しかしながら、オレフィン系樹脂に有機繊維や無機繊維を配合した従来の繊維強化樹脂組成物は、脆性的な挙動を示し、引張荷重下において成形体が破断するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、引張荷重下において延性的な挙動を示し、成形体の破断が防止されたオレフィン系樹脂組成物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、オレフィン系樹脂と有機繊維とを含有する有機繊維強化樹脂組成物において、前記オレフィン系樹脂として特定の大きいメルトマスフローレート(MFR)を有するオレフィン系樹脂と特定の小さいメルトマスフローレート(MFR)を有するオレフィン系樹脂とを組合せて用いることによって、引張荷重下において延性的な挙動が発現し、成形体の破断が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明の有機繊維強化樹脂組成物は、メルトマスフローレートが10~200g/10minの第一のオレフィン系樹脂と、メルトマスフローレートが0.2~5g/10minであり、エチレンの単独重合体及びプロピレンの単独重合体からなる群から選択される少なくとも1種の第二のオレフィン系樹脂と、有機繊維とを含有し、
前記第一のオレフィン系樹脂と前記第二のオレフィン系樹脂の質量比が20:80~80:20であり、
前記有機繊維の含有量が、前記第一のオレフィン系樹脂と前記第二のオレフィン系樹脂との合計量100質量部に対して、5~100質量部である、
ことを特徴とするものである。
【0007】
このような本発明の有機繊維強化樹脂組成物において、前記第一のオレフィン系樹脂はエチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体及びエチレンとプロピレンとの共重合体からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、また、前記第二のオレフィン系樹脂はプロピレンの単独重合体であることが好ましい。さらに、有機繊維は植物繊維であることが好ましい。
【0008】
本発明の有機繊維強化樹脂組成物の製造方法は、メルトマスフローレートが10~200g/10minの第一のオレフィン系樹脂と有機繊維とを混合した後、メルトマスフローレートが0.2~5g/10minであり、エチレンの単独重合体及びプロピレンの単独重合体からなる群から選択される少なくとも1種の第二のオレフィン系樹脂を更に混合することを特徴とするものである。
【0009】
なお、本発明において、オレフィン系樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、JIS K7210に準拠して樹脂毎に設定された標準条件で測定される値である。前記標準条件としては、通常、ポリエチレンについては、温度:190℃、荷重:21.2Nに、ポリプロピレンについては、温度:230℃、荷重:21.2Nに、エチレン-プロピレン共重合体については、温度:230℃、荷重:21.2Nに、その他のエチレン系共重合体については、温度:190℃、荷重:21.2Nに、その他のプロピレン系共重合体については、温度:230℃、荷重:21.2Nに設定される。
【0010】
また、本発明の有機繊維強化樹脂組成物が引張荷重下において延性的な挙動を示し、成形体の破断が抑制される理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の有機繊維強化樹脂組成物を製造する場合には、先ず、特定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂と有機繊維とを混合する。特定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂を用いることによって、混合時の有機繊維の破断や異常発熱が抑制され、有機繊維の劣化を防止することができる。次に、このようにして得られた混合物に特定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂を混合する。特定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂は分子量が大きいため、分子鎖同士が絡み合い、この絡み合いによって引張荷重下での前記第一のオレフィン系樹脂の亀裂の進展が抑制されるとともに、延性が付与され、成形体の破断が抑制されると推察される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引張荷重下において延性的な挙動を示し、成形体の破断が防止されたオレフィン系樹脂組成物を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1及び比較例1~2で得られた有機繊維強化樹脂組成物の応力-ひずみ曲線(代表値)を示すグラフである。
【
図2】実施例2及び比較例3~4で得られた有機繊維強化樹脂組成物の応力-ひずみ曲線(代表値)を示すグラフである。
【
図3】比較例5で得られた炭素繊維強化樹脂組成物の応力-ひずみ曲線(代表値)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0014】
先ず、本発明の有機繊維強化樹脂組成物について説明する。本発明の有機繊維強化樹脂組成物は、メルトマスフローレート(MFR)が10~200g/10minの第一のオレフィン系樹脂と、メルトマスフローレート(MFR)が0.2~5g/10minの第二のオレフィン系樹脂と、有機繊維とを含有ものである。
【0015】
(第一のオレフィン系樹脂)
本発明に用いられる第一のオレフィン系樹脂は、MFRが10~200g/10minの範囲内にあるオレフィン系樹脂である。このようなMFRが大きいオレフィン樹脂を用いることによって、樹脂組成物の良好な成形加工性を確保しつつ、有機繊維との混合時における有機繊維の破断や異常発熱を抑制し、有機繊維の劣化を防止することができる。一方、第一のオレフィン系樹脂のMFRが前記下限未満になると、流動性が低いため、樹脂組成物の成形加工性が低下するとともに、有機繊維との混合時における有機繊維の破断や異常発熱が発生しやすくなり、他方、前記上限を超えると、成形体の機械的強度が低下する。このような第一のオレフィン系樹脂のMFRとしては、樹脂組成物の成形加工性が向上するとともに、有機繊維との混合時における有機繊維の破断や異常発熱が十分に抑制されるという観点から、15g/10min以上が好ましく、20g/10min以上がより好ましく、また、成形体の機械的強度が向上するという観点から、100g/10min以下が好ましく、75g/10min以下がより好ましい。
【0016】
このような第一のオレフィン系樹脂としては、MFRが前記範囲内にあるものであれば特に制限はなく、例えば、エチレンの単独重合体(ポリエチレン)、プロピレンの単独重合体(ポリプロピレン)、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。前記炭素数4以上のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる。これらの第一のオレフィン系樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような第一のオレフィン系樹脂の中でも、成形性及び成形体の安定性の観点から、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体、エチレンとプロピレンとの共重合体、及びこれらの混合物が好ましい。
【0017】
(第二のオレフィン系樹脂)
本発明に用いられる第二のオレフィン系樹脂は、MFRが0.5~5g/10minの範囲内にあるオレフィン系樹脂である。このようなMFRが小さいオレフィン樹脂を用いることによって、引張荷重下での前記第一のオレフィン系樹脂の亀裂の進展が抑制されるとともに、延性が付与されるため、成形体の破断を抑制することができる。一方、第二のオレフィン系樹脂のMFRが前記下限未満になると、流動性が低いため、樹脂組成物の成形加工性が低下し、他方、前記上限を超えると、引張荷重下での前記第一のオレフィン系樹脂の亀裂の進展が抑制されず、延性も付与されないため、成形体の破断が発生する。このような第二のオレフィン系樹脂のMFRとしては、引張荷重下での前記第一のオレフィン系樹脂の亀裂の進展が十分に抑制されるとともに、延性も十分に付与され、成形体の破断を十分に防止できるという観点から、3g/10min以下が好ましく、1.5g/10min以下がより好ましい。
【0018】
このような第二のオレフィン系樹脂としては、MFRが前記範囲内にあるものであれば特に制限はなく、例えば、エチレンの単独重合体(ポリエチレン)、プロピレンの単独重合体(ポリプロピレン)、エチレンとプロピレンとの共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、プロピレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体等が挙げられる。前記炭素数4以上のα-オレフィンとしては、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン等が挙げられる。これらの第二のオレフィン系樹脂は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような第二のオレフィン系樹脂の中でも、成形性及び成形体の安定性の観点から、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体、エチレンとプロピレンとの共重合体、及びこれらの混合物が好ましい。
【0019】
(有機繊維)
本発明においては、強化繊維として有機繊維が用いられる。これにより、機械的強度が向上するとともに、前記第一及び第二のオレフィン系樹脂との組合せによって、成形体の破断を防止することが可能となる。一方、強化繊維としてガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維を用いた場合には、前記第一及び第二のオレフィン系樹脂との組合せによっても、成形体の破断を防止することは困難である。
【0020】
このような有機繊維としては、例えば、木粉、パルプ、セルロースナノファイバー(パルプを微細化したもの)等の植物繊維;ポリエステル繊維、ポリアミド繊維等の合成繊維が挙げられる。これらの有機繊維は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このような有機繊維の中でも、繊維の柔軟性の観点から、植物繊維が好ましく、特に、セルロースナノファイバーを用いた場合には、前記第二のオレフィン系樹脂を配合することによって、成形体の破断が防止されるだけでなく、引張強度及び引張弾性率が向上する傾向にある。
【0021】
また、このような有機繊維の平均直径としては、10nm~100μmが好ましい。有機繊維の平均直径が前記下限未満になると、補強効果が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、成形体が脆化する傾向にある。また、平均繊維長としては1μm~50mmが好ましい。有機繊維の平均繊維長が前記下限未満になると、補強効果が得られにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、繊維同士の絡み合いによる粘度上昇や外観不良が発生する傾向にある。
【0022】
(その他の成分)
本発明の有機繊維強化樹脂組成物においては、本発明の効果を損なわない範囲において、難燃剤、帯電防止剤、造核剤、可塑剤、着色剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0023】
<有機繊維強化樹脂組成物>
本発明の有機繊維強化樹脂組成物は、前記第一のオレフィン系樹脂と前記第二のオレフィン系樹脂とを、第一:第二=20:80~80:20の質量比で含有するものである。前記第一のオレフィン系樹脂と前記第二のオレフィン系樹脂との質量比が前記下限未満になると、樹脂組成物の流動性が低下するため、樹脂組成物の良好な成形加工性を確保できず、他方、前記上限を超えると、引張荷重下での前記第一のオレフィン系樹脂の亀裂の進展が抑制されず、延性も付与されないため、成形体の破断が発生する。また、このようなオレフィン系樹脂の質量比としては、樹脂組成物の良好な成形加工性を確保し、引張荷重下での前記第一のオレフィン系樹脂の亀裂の進展が十分に抑制されるとともに、延性も十分に付与され、成形体の破断を十分に防止できるという観点から、第一:第二=30:70~70:30が好ましく、35:65~65:35がより好ましい。
【0024】
また、本発明の有機繊維強化樹脂組成物は、前記有機繊維を、前記第一のオレフィン系樹脂と前記第二のオレフィン系樹脂との合計量100質量部に対して5~100質量部含有するものである。有機繊維の含有量が前記下限未満になると、機械的強度が低下し、他方、前記上限を超えると、粘度上昇による成形性の悪化と成形体の破断が発生する。また、このような有機繊維の含有量としては、成形性と成形体の力学物性を両立するという観点から、5~50質量部が好ましく、10~25質量部がより好ましい。
【0025】
<有機繊維強化樹脂組成物の製造方法>
次に、本発明の有機繊維強化樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の有機繊維強化樹脂組成物の製造方法においては、先ず、前記第一のオレフィン系樹脂と有機繊維とを混合し、次に、得られた混合物と前記第二のオレフィン系樹脂とを混合する。前記第一のオレフィン系樹脂と有機繊維とを先に混合することによって、混合時における有機繊維の破断や異常発熱が抑制され、有機繊維の劣化を防止することができる。一方、前記第二のオレフィン系樹脂と有機繊維とを先に混合したり、前記第一のオレフィン系樹脂と前記第二のオレフィン系樹脂と有機繊維とを同時に混合したりした場合には、混合時における有機繊維の破断や異常発熱が十分に抑制されず、有機繊維が劣化し、有機繊維による強化効果が十分に得られない。
【0026】
前記第一のオレフィン系樹脂と有機繊維との混合方法としては特に制限はなく、例えば、湿式混合(溶液混合)、乾式混合、溶融混合等の公知の混合方法を採用することができる。また、前記第一のオレフィン系樹脂と有機繊維との混合物と前記第二のオレフィン系樹脂との混合方法についても特に制限はなく、例えば、湿式混合(溶液混合)、乾式混合、溶融混合等の公知の混合方法を採用することができる。
【0027】
このようにして製造された本発明の有機繊維強化樹脂組成物は、用途に応じて所望の形状に成形される。成形方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を採用することができる。このようにして成形された有機繊維強化樹脂成形体は、機械的強度に優れているだけでなく、引張荷重下においても破断が発生しない。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
先ず、JIS K7210に準拠して温度:230℃、荷重:21.2Nで測定したMFRが33g/10minのブロックポリプロピレン(bPP)(住友化学株式会社製「ノーブレンAZ864」)とスギ微細繊維(スギ木材をハンマーミルで物理的に粉砕したもの。平均直径:数μm~数十μm)とを二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX30」)を用いて質量比(bPP:スギ微細繊維)=70:30で溶融混練してスギ繊維強化ブロックポリプロピレン(bPP-スギ繊維)を調製した。
【0030】
次に、得られたbPP-スギ繊維とJIS K7210に準拠して温度:230℃、荷重:21.2Nで測定したMFRが0.5g/10minのポリプロピレン(PP)(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロE111G」)とを質量比(bPP-スギ繊維:PP)=50:50でドライブレンドした後、射出成形機(株式会社新興セルビック製「Mobile0813」)を用いてシリンダー温度220℃、金型温度50℃の条件で射出成形を行い、JIS 1BA形のダンベル状試験片(JIS K7162「附属書A 小形試験片」に記載のもの)を作製した。
【0031】
(実施例2)
MFRが33g/10minの前記bPPの代わりにJIS K7210に準拠して温度:230℃、荷重:21.2Nで測定したMFRが45g/10minのポリプロピレン(PP)(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロJ108M」)を用い、前記スギ微細繊維の代わりに針葉樹パルプ(針葉樹クラフトパルプを叩解処理したもの)を用い、質量比をPP:針葉樹パルプ=80:20に変更した以外は、実施例1と同様にして針葉樹パルプ強化ポリプロピレン(PP-パルプ)を調製した。
【0032】
前記bPP-スギ繊維の代わりに前記PP-パルプを、MFR(230℃、21.2N荷重)が0.5g/10minのポリプロピレン(PP)(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロE111G」)とドライブレンドした以外は実施例1と同様にしてJIS1AB型のダンベル状試験片を作製した。
【0033】
(比較例1)
MFRが0.5g/10minの前記PPの代わりにMFR(230℃、21.2N荷重)が33g/10minのブロックポリプロピレン(bPP)(住友化学株式会社製「ノーブレンAZ864」)を、前記bPP-スギ繊維とドライブレンドした以外は、実施例1と同様にしてJIS 1BA形のダンベル状試験片を作製した。
【0034】
(比較例2)
MFRが0.5g/10minの前記PPの代わりにJIS K7210に準拠して温度:230℃、荷重:21.2Nで測定したMFRが11g/10minのポリプロピレン(PP)(日本ポリプロ株式会社製「ノバテックMA3」)を、前記bPP-スギ繊維とドライブレンドした以外は、実施例1と同様にしてJIS 1BA形のダンベル状試験片を作製した。
【0035】
(比較例3)
MFRが0.5g/10minの前記PPの代わりにMFR(230℃、21.2N荷重)が45g/10minのポリプロピレン(PP)(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロJ108M」)を、前記PP-パルプとドライブレンドした以外は、実施例2と同様にしてJIS 1BA形のダンベル状試験片を作製した。
【0036】
(比較例4)
MFRが0.5g/10minの前記PPの代わりにMFR(230℃、21.2N荷重)が11g/10minのポリプロピレン(PP)(日本ポリプロ株式会社製「ノバテックMA3」)を、前記PP-パルプとドライブレンドした以外は、実施例2と同様にしてJIS 1BA形のダンベル状試験片を作製した。
【0037】
(比較例5)
前記bPP-スギ繊維の代わりに炭素繊維強化ポリプロピレン(PP-CF)(ダイセルポリマー株式会社製「プラストロンPP-CF20」、繊維濃度:20質量%)を、MFR(230℃、21.2N荷重)が0.5g/10minのポリプロピレン(PP)(株式会社プライムポリマー製「プライムポリプロE111G」)とドライブレンドした以外は実施例1と同様にしてJIS 1BA形のダンベル状試験片を作製した。
【0038】
<引張試験>
実施例及び比較例で得られた各ダンベル状試験片を、温度23℃、相対湿度50%に設定した恒温恒湿の部屋に48時間静置した後、万能試験機(インストロン社製「4302」)を用いて変位速度2mm/minで引張試験を行い、引張強度(最大引張応力)及び破断伸びを測定した。その結果(試験片数n=3の平均値)を表1に示す。また、
図1~
図3には、実施例1~2及び比較例1~5で得られた各ダンベル状試験片の応力-ひずみ曲線(代表値)を示す。
【0039】
【0040】
図1及び表1に示した結果から明らかなように、所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂と所定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂とスギ微細繊維とを含有する本発明の有機繊維強化樹脂組成物(実施例1)は、破断することなく伸び続け、優れた延性を示すことが確認された。一方、オレフィン系樹脂として所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂を1種又は2種含有し、所定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂を含有しない有機繊維強化樹脂組成物(比較例1~2)は、実施例1の有機繊維強化樹脂組成物に比べて低い応力で降伏を開始し、延性を示すことなく、破断することがわかった。また、実施例1の有機繊維強化樹脂組成物は、比較例1~2の有機繊維強化樹脂組成物に比べて引張強度に優れており、特に、オレフィン系樹脂として1種類の所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂のみを含有する有機繊維強化樹脂組成物(比較例1)に比べて引張強度が極めて優れており、さらに引張弾性率にも優れていることがわかった。以上の結果から、オレフィン系樹脂とスギ微細繊維とを含有する有機繊維強化樹脂組成物において、前記オレフィン系樹脂として所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂と所定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂とを組合せて用いることによって、延性が付与されるとともに、前記オレフィン系樹脂として1種又は2種以上の所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂のみを用いた場合に比べて引張強度が向上し、さらに、前記オレフィン系樹脂として1種類の所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂のみを用いた場合に比べて引張弾性率が向上することがわかった。
【0041】
また、
図2及び表1に示した結果から明らかなように、所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂と所定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂と針葉樹パルプとを含有する本発明の有機繊維強化樹脂組成物(実施例2)は、破断することなく伸び続け、優れた延性を示すことが確認された。一方、オレフィン系樹脂として所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂を1種又は2種含有し、所定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂を含有しない有機繊維強化樹脂組成物(比較例3~4)は、延性を示すことなく、破断し、特に、オレフィン系樹脂として2種類の所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂のみを含有する有機繊維強化樹脂組成物(比較例4)は、実施例2の有機繊維強化樹脂組成物に比べて低い応力で降伏を開始することがわかった。また、実施例2の有機繊維強化樹脂組成物は、比較例4の有機繊維強化樹脂組成物に比べて引張強度に優れていることがわかった。以上の結果から、オレフィン系樹脂と針葉樹パルプとを含有する有機繊維強化樹脂組成物において、前記オレフィン系樹脂として所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂と所定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂とを組合せて用いることによって、延性が付与されるとともに、前記オレフィン系樹脂として2種以上の所定の大きいMFRを有する第一のオレフィン系樹脂のみを用いた場合に比べて引張強度が向上することがわかった。
【0042】
さらに、
図3及び表1に示した結果から明らかなように、強化繊維として炭素繊維を用いた場合(比較例5)には、所定の小さいMFRを有する第二のオレフィン系樹脂を配合しても、炭素繊維強化樹脂組成物は破断し、延性を付与することは困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように、本発明によれば、オレフィン系樹脂と有機繊維とを含有する有機繊維強化樹脂組成物に、延性を付与することが可能となる。
【0044】
したがって、本発明の有機繊維強化樹脂組成物は、機械的強度に優れるだけでなく、引張荷重下においても成形体の破断が発生しないため、例えば、自動車の内装部品や外装部品等の各種用途における樹脂成形品の材料として有用である。