(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】マルチガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/26 20060101AFI20220512BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
G01N27/26 391Z
G01N27/416 376
G01N27/416 331
(21)【出願番号】P 2018100250
(22)【出願日】2018-05-25
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 聡
(72)【発明者】
【氏名】原田 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 健介
(72)【発明者】
【氏名】寺西 真哉
(72)【発明者】
【氏名】世登 裕明
(72)【発明者】
【氏名】前田 恵里子
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223445(JP,A)
【文献】特開2014-224504(JP,A)
【文献】特開2011-075546(JP,A)
【文献】特開2010-038806(JP,A)
【文献】特開2018-066336(JP,A)
【文献】特開2018-040746(JP,A)
【文献】特開2001-133447(JP,A)
【文献】特表2002-540400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
NOxを還元する触媒(72)及び前記触媒へアンモニアを含む還元剤(K)を供給する還元剤供給装置(73)が配置された、内燃機関(7)の排気管(71)において、前記触媒から流出するアンモニア及びNOxの濃度を検出するマルチガスセンサであって、
酸素イオンの伝導性を有する第1固体電解質体(21)、及び前記第1固体電解質体を介して配置されたアンモニア電極(22)及び第1基準電極(23)を有し、前記アンモニア電極と前記第1基準電極との間に生じる電位差(ΔV)を検出し、前記電位差に基づいて測定ガス(G)におけるアンモニア濃度を算出するよう構成されたアンモニアセンサ部(11)と、
酸素イオンの伝導性を有する第2固体電解質体(31)、前記第2固体電解質体を介して配置されたNOx電極(32)及び第2基準電極(34A)、及び前記NOx電極を収容するとともに拡散抵抗部(351)を介して測定ガスが導入される測定ガス室(35)を有し、前記NOx電極と前記第2基準電極との間に電圧が印加された状態において、前記NOx電極と前記第2基準電極との間に生じる電流を検出し、前記電流に基づいて測定ガスにおける補正前NOx濃度を算出し、前記補正前NOx濃度から前記アンモニア濃度を差し引いてNOx濃度を算出するよう構成されたNOxセンサ部(12)と、
前記アンモニアセンサ部による
前記アンモニア濃度が前記NOxセンサ部による
前記NOx濃度よりも
高く、かつ前記アンモニア濃度と前記NOx濃度との差が第2濃度差(Δn2)以上となって、前記触媒からアンモニアが所定量以上流出する場合を、認定時として認定する認定部(61)と、
前記認定部が前記認定時を認定した場合において、前記NOxセンサ部による
前記補正前NOx濃度が、前記NOx電極に接触するアンモニアの濃度である推定アンモニア濃度を示すとして、前記推定アンモニア濃度と前記アンモニアセンサ部による
前記アンモニア濃度とを比較して、前記アンモニアセンサ部の性能劣化の有無又は度合いを判定する劣化判定部(62)と、を備えるマルチガスセンサ(1)。
【請求項2】
NOxを還元する触媒(72)及び前記触媒へアンモニアを含む還元剤(K)を供給する還元剤供給装置(73)が配置された、内燃機関(7)の排気管(71)において、前記触媒から流出するアンモニア及びNOxの濃度を検出するマルチガスセンサであって、
酸素イオンの伝導性を有する第1固体電解質体(21)、及び前記第1固体電解質体を介して配置されたアンモニア電極(22)及び第1基準電極(23)を有し、前記アンモニア電極と前記第1基準電極との間に生じる電位差(ΔV)を検出し、前記電位差に基づいて測定ガス(G)におけるアンモニア濃度を算出するよう構成されたアンモニアセンサ部(11)と、
酸素イオンの伝導性を有する第2固体電解質体(31)、前記第2固体電解質体を介して配置されたNOx電極(32)及び第2基準電極(34A)、及び前記NOx電極を収容するとともに拡散抵抗部(351)を介して測定ガスが導入される測定ガス室(35)を有し、前記NOx電極と前記第2基準電極との間に電圧が印加された状態において、前記NOx電極と前記第2基準電極との間に生じる電流を検出し、前記電流に基づいて測定ガスにおける補正前NOx濃度を算出し、前記補正前NOx濃度から前記アンモニア濃度を差し引いてNOx濃度を算出するよう構成されたNOxセンサ部(12)と、
前記アンモニアセンサ部による
前記アンモニア濃度が前記NOxセンサ部による
前記NOx濃度よりも
高く、かつ前記アンモニア濃度と前記NOx濃度との差が第2濃度差(Δn2)以上となって、前記触媒からアンモニアが所定量以上流出する場合を、認定時として認定する認定部(61)と、
前記認定部が前記認定時を認定した場合において、前記NOxセンサ部による
前記補正前NOx濃度が、前記NOx電極に接触するアンモニアの濃度である推定アンモニア濃度を示すとし、前記推定アンモニア濃度と前記アンモニアセンサ部による
前記アンモニア濃度との差に基づいて、前記アンモニアセンサ部の性能劣化量(R)を算出する劣化量算出部(63)と、
前記性能劣化量に基づいて、前記アンモニアセンサ部による
前記アンモニア濃度を補正するアンモニア濃度補正部(64)と、を備えるマルチガスセンサ(1)。
【請求項3】
前記NOxセンサ部は、
前記第2固体電解質体を介して配置されたポンプ電極(33)及び第3基準電極(34B)を更に有し、前記ポンプ電極と前記第3基準電極との間に電圧を印加して、前記ポンプ電極が収容された前記測定ガス室における酸素を汲み出すとともに、前記ポンプ電極と前記第3基準電極との間に流れる電流に基づいて測定ガスにおける酸素濃度を検出するようにも構成されており、
前記アンモニアセンサ部は、
前記アンモニア電極における、酸素の還元反応とアンモニアの酸化反応とが等しくなるときに生じる、前記アンモニア電極と前記第1基準電極との間の電位差を検出するよう構成されており、かつ、前記NOxセンサ部による酸素濃度に応じた補正を行って
前記アンモニア濃度を算出するよう構成されている、請求項1又は2に記載のマルチガスセンサ。
【請求項4】
前記第1固体電解質体と前記第2固体電解質体とは、基準ガス(A)が導入される基準ガスダクト(24)を介して積層されており、
前記第1基準電極、前記第2基準電極及び前記第3基準電極は、前記基準ガスダクト内に収容されており、
前記第2固体電解質体に対して前記第1固体電解質体が積層された側とは反対側には、前記第2固体電解質体及び前記第1固体電解質体を加熱するヒータ部(4)が積層されている、請求項3に記載のマルチガスセンサ。
【請求項5】
前記認定部は、
前記アンモニアセンサ部による
前記アンモニア濃度が前記NOxセンサ部による
前記NOx濃度よりも
高く、かつ前記アンモニア濃度と前記NOx濃度との差が第2濃度差(Δn2)以上である場合であって、かつ前記内燃機関がフューエルカット運転を行うとともに前記還元剤供給装置が前記触媒へ前記還元剤を供給している場合を、前記認定時として認定するよう構成されている、請求項
1~4のいずれか1項に記載のマルチガスセンサ。
【請求項6】
前記マルチガスセンサは、
前記アンモニアセンサ部によるアンモニア濃度と前記NOxセンサ部によるNOx濃度との関係を示す濃度領域を、前記NOx濃度が前記アンモニア濃度よりも
高く、かつ前記NOx濃度と前記アンモニア濃度との差が第1濃度差(Δn1)以上となって、前記触媒からNOxが所定量以上流出することを示す第1濃度領域(N1)、前記アンモニア濃度が前記NOx濃度よりも
高く、かつ前記アンモニア濃度と前記NOx濃度との差が第2濃度差(Δn2)以上となって、前記触媒からアンモニアが所定量以上流出することを示す第3濃度領域(N3)、及び前記第1濃度領域と前記第3濃度領域との間の第2濃度領域(N2)に区分したとき、
前記アンモニアセンサ部による
前記アンモニア濃度と前記NOxセンサ部による
前記NOx濃度とが前記第2濃度領域内になるよう、前記還元剤供給装置が前記触媒への前記還元剤の供給量を調整するために用いられるものである、請求項
1~5のいずれか1項に記載のマルチガスセンサ。
【請求項7】
前記拡散抵抗部、前記第2固体電解質体の表面又は前記第2固体電解質体に積層された絶縁体(25,36,42)の表面には、アンモニアを酸化させてNOxに変換させる酸化触媒が設けられている、請求項1~
6のいずれか1項に記載のマルチガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア濃度及びNOx濃度を検出可能なマルチガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両においては、内燃機関としてのディーゼルエンジン等から排気される排ガス中のNO、NO2等のNOx(窒素酸化物)を浄化するための触媒が、排気管内に配置される。触媒の一つとしての選択式還元触媒(SCR)においては、NOxを還元するために、尿素水等に含まれるアンモニア(NH3)が触媒担体に付着され、触媒担体においてアンモニアとNOxとを化学反応させて、NOxを窒素(N2)及び水(H2O)に還元することが行われている。
【0003】
また、排気管内における、選択式還元触媒よりも排ガスの流れの上流側位置には、還元剤としてのアンモニアを、選択式還元触媒へ供給する還元剤供給装置が配置される。また、例えば、排気管内における、選択式還元触媒の排ガスの流れの下流側位置には、排ガスにおけるNOx濃度を検出するNOxセンサと、排ガスにおけるアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサとが配置される。そして、NOxセンサ及びアンモニアセンサを用いることにより、選択式還元触媒からのアンモニアの流出を抑えつつ、アンモニアによるNOxの浄化率を向上させる工夫がなされている。
【0004】
また、アンモニアを検出するためのアンモニアセンサ部とNOxを検出するためのNOxセンサ部とを一つのガスセンサにおいて複合的に形成して、マルチガスセンサとすることもある。
【0005】
また、アンモニアセンサに経年劣化が生じるとアンモニア濃度を精度良く検出することができなくなる。そのため、例えば、特許文献1の診断装置においては、アンモニアセンサの経年劣化を、排気浄化装置における窒素酸化物センサ(NOxセンサ)を利用して診断することが行われている。具体的には、エンジンが燃料無噴射状態にある場合に、窒素酸化物センサの検出値とアンモニアセンサの検出値とを比較することによって、アンモニアセンサの検出値の妥当性を診断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の診断装置においては、窒素酸化物センサの検出値が第1規定値よりも大きく、かつアンモニアセンサの検出値が第2規定値よりも大きい場合であって、かつこれらの検出値の差分が第3規定値よりも大きい場合に、アンモニアセンサの検出値が妥当でないと判定している。しかし、燃料無噴射状態においては、エンジンの排気管に排気される排ガスの組成が大気に近い状態になり、窒素酸化物センサ及びアンモニアセンサへNOx及びアンモニアがほとんど供給されなくなると考えられる。
【0008】
また、窒素酸化物センサにおいては、NOx及びアンモニアの両方が反応し、NOx及びアンモニアの両方による検出値が検出されると考えられる。そのため、NOx及びアンモニアがある程度検出される状態においては、窒素酸化物センサの検出値がアンモニアの検出量を示しているとは限らない。従って、マルチガスセンサ等におけるアンモニアセンサ部の性能劣化の有無もしくは度合いを適切に判定するため、又はアンモニアセンサ部の性能劣化量を加味してアンモニア濃度を補正するためには、更なる工夫が必要とされる。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、アンモニアセンサ部の性能劣化の有無もしくは度合いを適切に判定することができる、又はアンモニアセンサ部の性能劣化量を加味してアンモニア濃度を補正することができるマルチガスセンサを提供しようとして得られたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、NOxを還元する触媒(72)及び前記触媒へアンモニアを含む還元剤(K)を供給する還元剤供給装置(73)が配置された、内燃機関(7)の排気管(71)において、前記触媒から流出するアンモニア及びNOxの濃度を検出するマルチガスセンサであって、
酸素イオンの伝導性を有する第1固体電解質体(21)、及び前記第1固体電解質体を介して配置されたアンモニア電極(22)及び第1基準電極(23)を有し、前記アンモニア電極と前記第1基準電極との間に生じる電位差(ΔV)を検出し、前記電位差に基づいて測定ガス(G)におけるアンモニア濃度を算出するよう構成されたアンモニアセンサ部(11)と、
酸素イオンの伝導性を有する第2固体電解質体(31)、前記第2固体電解質体を介して配置されたNOx電極(32)及び第2基準電極(34A)、及び前記NOx電極を収容するとともに拡散抵抗部(351)を介して測定ガスが導入される測定ガス室(35)を有し、前記NOx電極と前記第2基準電極との間に電圧が印加された状態において、前記NOx電極と前記第2基準電極との間に生じる電流を検出し、前記電流に基づいて測定ガスにおける補正前NOx濃度を算出し、前記補正前NOx濃度から前記アンモニア濃度を差し引いてNOx濃度を算出するよう構成されたNOxセンサ部(12)と、
前記アンモニアセンサ部による前記アンモニア濃度が前記NOxセンサ部による前記NOx濃度よりも高く、かつ前記アンモニア濃度と前記NOx濃度との差が第2濃度差(Δn2)以上となって、前記触媒からアンモニアが所定量以上流出する場合を、認定時として認定する認定部(61)と、
前記認定部が前記認定時を認定した場合において、前記NOxセンサ部による前記補正前NOx濃度が、前記NOx電極に接触するアンモニアの濃度である推定アンモニア濃度を示すとして、前記推定アンモニア濃度と前記アンモニアセンサ部による前記アンモニア濃度とを比較して、前記アンモニアセンサ部の性能劣化の有無又は度合いを判定する劣化判定部(62)と、を備えるマルチガスセンサ(1)にある。
【0011】
本発明の他の態様は、NOxを還元する触媒(72)及び前記触媒へアンモニアを含む還元剤(K)を供給する還元剤供給装置(73)が配置された、内燃機関(7)の排気管(71)において、前記触媒から流出するアンモニア及びNOxの濃度を検出するマルチガスセンサであって、
酸素イオンの伝導性を有する第1固体電解質体(21)、及び前記第1固体電解質体を介して配置されたアンモニア電極(22)及び第1基準電極(23)を有し、前記アンモニア電極と前記第1基準電極との間に生じる電位差(ΔV)を検出し、前記電位差に基づいて測定ガス(G)におけるアンモニア濃度を算出するよう構成されたアンモニアセンサ部(11)と、
酸素イオンの伝導性を有する第2固体電解質体(31)、前記第2固体電解質体を介して配置されたNOx電極(32)及び第2基準電極(34A)、及び前記NOx電極を収容するとともに拡散抵抗部(351)を介して測定ガスが導入される測定ガス室(35)を有し、前記NOx電極と前記第2基準電極との間に電圧が印加された状態において、前記NOx電極と前記第2基準電極との間に生じる電流を検出し、前記電流に基づいて測定ガスにおける補正前NOx濃度を算出し、前記補正前NOx濃度から前記アンモニア濃度を差し引いてNOx濃度を算出するよう構成されたNOxセンサ部(12)と、
前記アンモニアセンサ部による前記アンモニア濃度が前記NOxセンサ部による前記NOx濃度よりも高く、かつ前記アンモニア濃度と前記NOx濃度との差が第2濃度差(Δn2)以上となって、前記触媒からアンモニアが所定量以上流出する場合を、認定時として認定する認定部(61)と、
前記認定部が前記認定時を認定した場合において、前記NOxセンサ部による前記補正前NOx濃度が、前記NOx電極に接触するアンモニアの濃度である推定アンモニア濃度を示すとし、前記推定アンモニア濃度と前記アンモニアセンサ部による前記アンモニア濃度との差に基づいて、前記アンモニアセンサ部の性能劣化量(R)を算出する劣化量算出部(63)と、
前記性能劣化量に基づいて、前記アンモニアセンサ部による前記アンモニア濃度を補正するアンモニア濃度補正部(64)と、を備えるマルチガスセンサ(1)にある。
【発明の効果】
【0012】
(一態様のマルチガスセンサ)
前記一態様のマルチガスセンサは、アンモニア濃度を検出可能なアンモニアセンサ部と、NOx濃度を検出可能なNOxセンサ部とを備え、NOxセンサ部による補正前NOx濃度を利用して、アンモニアセンサ部の性能劣化の有無又は度合いを判定するものである。また、マルチガスセンサは、性能劣化の有無又は度合いを判定するために、認定部及び劣化判定部を備える。認定部においては、アンモニアセンサ部によるアンモニア濃度とNOxセンサ部によるNOx濃度とを比較し、アンモニア濃度がNOx濃度よりも所定濃度以上高い場合を特定条件として認定する。
【0013】
アンモニア濃度とNOx濃度とを比較する知見は、本願発明者らによって初めて見出されたものである。マルチガスセンサによってアンモニア濃度及びNOx濃度の検出が行われる環境下においては、アンモニアは、選択式還元触媒等におけるNOxを還元するために用いられる。そして、本願発明者らは、この環境下においては、アンモニアセンサ部によって検出されるアンモニア濃度が、NOxセンサ部によって検出されるNOx濃度(補正後NOx濃度)よりも、低くなる場合と高くなる場合とが異なるタイミングで生じることに着目している。そして、アンモニア濃度がNOx濃度よりも所定濃度以上高い場合を特定条件として認定する。
【0014】
この特定条件において、NOxセンサ部のNOx電極においては、測定ガス中のNOxはほとんど検出されず、測定ガス中のアンモニアがNOxに酸化されてNOx濃度として検出される。アンモニアは、アンモニアセンサ部に比べて高い温度に加熱されるNOxセンサ部の付近に存在するとき、NOxに酸化されやすくなる。そのため、特定条件においては、NOxセンサ部による補正前NOx濃度を推定アンモニア濃度とする。この推定アンモニア濃度は、測定ガス中のアンモニア濃度に近い値を示すと考えられる。
【0015】
そして、アンモニアセンサ部のアンモニア電極に性能劣化がない場合には、アンモニアセンサ部によるアンモニア濃度と、NOxセンサ部による推定アンモニア濃度とに大きな違いは生じない。換言すれば、これらのアンモニア濃度の差が所定の誤差範囲内になる。一方、アンモニアセンサ部のアンモニア電極に性能劣化が生じた場合には、アンモニアセンサ部によるアンモニア濃度が、NOxセンサ部による推定アンモニア濃度よりも所定の誤差範囲を超えて低くなる。従って、この場合には、アンモニアセンサ部に性能劣化が生じたと判定することができる。
【0016】
これにより、マルチガスセンサにおいては、測定ガスにおけるアンモニアが占める割合が、測定ガスにおけるNOxが占める割合よりも多く、NOxがアンモニアの検出にあまり影響を与えない条件下において、アンモニアセンサ部の性能劣化の有無又は度合いを判定することができる。
【0017】
それ故、前記一態様のマルチガスセンサによれば、アンモニアセンサ部の性能劣化の有無又は度合いを適切に判定することができる。
【0018】
なお、認定時における推定アンモニア濃度を示す補正前NOx濃度は、純粋なアンモニア濃度を示すのではなく、NOx濃度が加算されたアンモニア濃度を示すことになる。しかし、認定時における補正前NOx濃度は、アンモニア濃度がNOx濃度よりも所定濃度以上高い場合のものであり、認定時における実際のNOx濃度は、低くかつ推定アンモニア濃度の誤差範囲内に含まれる。
【0019】
(他の態様のマルチガスセンサ)
前記他の態様のマルチガスセンサにおいては、アンモニアセンサ部の性能劣化の有無又は度合いを判定する代わりに、アンモニアセンサ部に生じた性能劣化量に応じて、アンモニアセンサ部によって算出されるアンモニア濃度を補正する。
【0020】
前記他の態様のマルチガスセンサによれば、前記一態様のマルチガスセンサの場合と同様にして、NOxがアンモニアの検出にあまり影響を与えない条件下において、アンモニアセンサ部の性能劣化量を加味してアンモニア濃度を補正することができる。
【0021】
なお、本発明の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態1にかかる、マルチガスセンサの構成を示す説明図。
【
図2】実施形態1にかかる、マルチガスセンサのセンサ素子を示す、
図1のII-II断面図。
【
図3】実施形態1にかかる、マルチガスセンサのセンサ素子を示す、
図1のIII-III断面図。
【
図4】実施形態1にかかる、マルチガスセンサのセンサ素子を示す、
図1のIV-IV断面図。
【
図5】実施形態1にかかる、マルチガスセンサのセンサ制御ユニットにおける電気的構成の一部を示す説明図。
【
図6】実施形態1にかかる、マルチガスセンサが配置された内燃機関の排気管を示す説明図。
【
図7】実施形態1にかかる、アンモニア濃度とNOx濃度との関係による濃度領域を示す説明図。
【
図8】実施形態1にかかる、アンモニア電極において生じる混成電位を示す説明図。
【
図9】実施形態1にかかる、アンモニア濃度が変化したときにアンモニア電極において生じる混成電位を示す説明図。
【
図10】実施形態1にかかる、酸素濃度が変化したときにアンモニア電極において生じる混成電位を示す説明図。
【
図11】実施形態1にかかる、酸素濃度が変化したときの、アンモニア濃度と電位差との関係を示すグラフ。
【
図12】実施形態1にかかる、酸素濃度が変化したときの、電位差と酸素補正後のアンモニア濃度との関係を示すグラフ。
【
図13】実施形態1にかかる、劣化判定を行う際に生じ得る誤差範囲について示すグラフ。
【
図14】実施形態1にかかる、酸化触媒が設けられた、マルチガスセンサのセンサ素子を示す断面図。
【
図15】実施形態1にかかる、酸化触媒が設けられた、マルチガスセンサの他のセンサ素子を示す断面図。
【
図16】実施形態1にかかる、マルチガスセンサの劣化判定方法を示すフローチャート。
【
図17】実施形態2にかかる、マルチガスセンサのセンサ制御ユニットにおける電気的構成の一部を示す説明図。
【
図18】実施形態2にかかる、マルチガスセンサの制御方法を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
前述したマルチガスセンサにかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態のマルチガスセンサ1は、
図1~
図4に示すように、アンモニアセンサ部11、NOxセンサ部12、認定部61及び劣化判定部62を備える。アンモニアセンサ部11は、酸素イオンの伝導性を有する第1固体電解質体21と、第1固体電解質体21を介して配置されたアンモニア電極(検出電極)22及び第1基準電極23とを有する。アンモニアセンサ部11は、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に生じる電位差ΔVを検出し、電位差ΔVに基づいて測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出するよう構成されている。
【0024】
NOxセンサ部12は、酸素イオンの伝導性を有する第2固体電解質体31と、第2固体電解質体31を介して配置されたNOx電極32及び第2基準電極34Aと、NOx電極32を収容するとともに拡散抵抗部351を介して測定ガスGが導入される測定ガス室35とを有する。NOxセンサ部12は、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に電圧が印加された状態において、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に生じる電流を検出し、この電流に基づいて測定ガスGにおける補正前NOx濃度を算出し、補正前NOx濃度からアンモニア濃度を差し引いてNOx濃度(補正後NOx濃度)を算出するよう構成されている。
【0025】
図5に示すように、認定部61は、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度がNOxセンサ部12による補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高い場合を、認定時として認定するよう構成されている。劣化判定部62は、認定部61が認定時を認定した場合において、NOxセンサ部12による補正前NOx濃度が、NOx電極32に接触するアンモニアの濃度である推定アンモニア濃度を示すとして、推定アンモニア濃度とアンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度とを比較して、アンモニアセンサ部11の性能劣化の有無又は度合いを判定するよう構成されている。
【0026】
NOxセンサ部12によるNOx濃度は、2種類あるものとする。NOxセンサ部12に生じる電流に基づくNOx濃度を補正前NOx濃度とする。補正前NOx濃度においては、NOx電極32において反応するアンモニアによるアンモニア濃度が含まれる。一方、NOxセンサ部12による補正前NOx濃度からアンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度を差し引いた濃度を、補正後NOx濃度とする。補正後NOx濃度は、アンモニアによる影響が除外されたNOx濃度を示す。アンモニア濃度とNOx濃度とが比較される場合には、補正後NOx濃度が用いられる。
【0027】
以下に、本形態のマルチガスセンサ1について詳説する。
(マルチガスセンサ1)
図1に示すように、本形態のマルチガスセンサ1は、電位差式としての混成電位式のものである。このマルチガスセンサ1においては、酸素及びアンモニアが含まれる状態の測定ガスGにおけるアンモニアの濃度を検出する。本形態のアンモニアセンサ部11は、アンモニア電極22における、酸素の電気化学的還元反応(以下、単に還元反応という。)による還元電流とアンモニアの電気化学的酸化反応(以下、単に酸化反応という。)による酸化電流とが等しくなるときに生じる、アンモニア電極22と第1基準電極23との間の電位差ΔVを検出するよう構成されている。
【0028】
図6に示すように、マルチガスセンサ1は、車両の内燃機関(エンジン)7の排気管71において、NOxを還元する触媒72から流出するアンモニアの濃度を検出するものである。測定ガスGは、内燃機関7から排気管71へ排気された排ガスである。排ガスの組成は、内燃機関7における燃焼状態によって変化する。内燃機関7における、空気と燃料との質量比である空燃比が、理論空燃比に比べて燃料リッチな状態にあるときには、排ガスの組成においては、未燃ガスに含まれるHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)、H
2(水素)等の割合が多くなる一方、NOxの割合が少なくなる。内燃機関7における空燃比が、理論空燃比に比べて燃料リーンな状態にあるときには、排ガスの組成においては、HC、CO等の割合が少なくなる一方、NOxの割合が多くなる。また、燃料リッチな状態においては、測定ガスGに酸素(空気)がほとんど含まれず、燃料リーンな状態においては、測定ガスGに酸素(空気)がより多く含まれる。
【0029】
(触媒72)
同図に示すように、排気管71には、NOxを還元するための触媒72と、触媒72へアンモニアを含む還元剤Kを供給する還元剤供給装置73とが配置されている。触媒72は、触媒担体に、NOxの還元剤Kとしてのアンモニアが付着されるものである。触媒72の触媒担体におけるアンモニアの付着量は、NOxの還元反応に伴って減少する。そして、触媒担体におけるアンモニアの付着量が少なくなったときには、還元剤供給装置73から触媒担体へ新たにアンモニアが補充される。還元剤供給装置73は、排気管71における、触媒72よりも排ガスの流れの上流側位置に配置されており、尿素水を噴射して発生するアンモニアガスを排気管71へ供給するものである。アンモニアガスは、尿素水が加水分解されて生成される。還元剤供給装置73には、尿素水のタンク731が接続されている。
【0030】
本形態の内燃機関7は、軽油の自己着火を利用して燃焼運転を行うディーゼルエンジンである。また、触媒72は、NOx(窒素酸化物)をアンモニア(NH3)と化学反応させて窒素(N2)及び水(H2O)に還元する選択式還元触媒(SCR)である。
【0031】
なお、図示は省略するが、排気管71における、触媒72の上流側位置には、NOのNO2への変換(酸化)、CO、HC(炭化水素)等の低減を行う酸化触媒(DOC)、微粒子を捕集するフィルタ(DPF)等が配置されていてもよい。
【0032】
(マルチガスセンサ1)
図6に示すように、本形態のマルチガスセンサ1は、排気管71における、触媒72よりも下流側位置に配置される。なお、排気管71に配置されるのは、厳密には、マルチガスセンサ1のセンサ素子10及びセンサ素子10を保持するセンサ本体である。便宜上、本形態においては、センサ本体のことをマルチガスセンサ1ということがある。
【0033】
本形態のマルチガスセンサ1は、アンモニア濃度の検出だけでなく、酸素濃度及びNOx濃度の検出も可能なマルチガスセンサ1(複合センサ)として形成されている。そして、酸素濃度は、アンモニア濃度を補正するために使用される。また、マルチガスセンサ1によるアンモニア濃度及びNOx濃度は、内燃機関7の制御装置としてのエンジン制御ユニット(ECU)50によって、還元剤供給装置73から排気管71へ還元剤Kとしてのアンモニアを供給する時期を決定するために使用される。
【0034】
なお、制御装置には、エンジンを制御するエンジン制御ユニット(ECU)50、マルチガスセンサ1を制御するセンサ制御ユニット(SCU)5の他、種々の電子制御ユニットがある。制御装置とは、種々のコンピュータ(処理装置)のことをいう。
【0035】
エンジン制御ユニット50は、マルチガスセンサ1によって、測定ガスG中にNOxが存在することが検出されるときには、触媒72においてアンモニアが不足していると検知し、還元剤供給装置73から尿素水を噴射し、触媒72へアンモニアを供給するよう構成されている。一方、エンジン制御ユニット50は、マルチガスセンサ1によって、測定ガスG中にアンモニアが存在することが検出されるときには、触媒72においてアンモニアが過剰に存在していると検知し、還元剤供給装置73からの尿素水の噴射を停止し、触媒72へのアンモニアの供給を停止するよう構成されている。触媒72においては、NOxを還元するためのアンモニアが過不足なく供給されることが好ましい。
【0036】
(触媒出口721のアンモニア濃度とNOx濃度との関係)
エンジン制御ユニット50によるアンモニアの供給制御が行われることにより、触媒72の下流側位置(触媒出口721)及びマルチガスセンサ1の配置位置に存在する測定ガスGのNOx及びアンモニアの濃度領域においては、NOxがアンモニアによって適切に還元される状態と、NOxの流出量が多くなる状態と、アンモニアの流出量が多くなる状態とが、時間を変えて生じることになる。
【0037】
より具体的には、
図7に示すように、エンジン制御ユニット50においては、アンモニア(NH
3)濃度とNOx濃度との関係を示す濃度領域は、NOx濃度がアンモニア濃度よりも所定濃度(第1濃度差Δn1)以上高い第1濃度領域N1と、アンモニア濃度がNOx濃度よりも所定濃度(第2濃度差Δn2)以上高い第3濃度領域N3と、第1濃度領域N1と第3濃度領域N3との間の第2濃度領域N2とに区分される。この濃度領域は、マルチガスセンサ1によって検出されるNOx濃度(補正後NOx濃度)とアンモニア濃度とを比較し、測定ガスGにおいていずれの濃度が高いかを示すものである。
【0038】
ここで、NOx濃度がアンモニア濃度よりも所定濃度以上高い場合とは、NOx濃度がアンモニア濃度よりも高く、かつNOx濃度とアンモニア濃度との差が第1濃度差Δn1以上である場合を示す。また、アンモニア濃度がNOx濃度よりも所定濃度以上高い場合とは、アンモニア濃度がNOx濃度よりも高く、かつアンモニア濃度とNOx濃度との差が第2濃度差Δn2以上である場合を示す。
【0039】
同図において、NOx濃度が高い第1濃度領域N1においては、測定ガスG中にアンモニアが少量存在し、アンモニア濃度が高い第3濃度領域N3においては、測定ガスG中にNOxが少量存在すると仮定している。触媒72におけるNOxの還元反応がより適切に行われる場合には、第1濃度領域N1においては、アンモニアがほとんど存在せず、第3濃度領域N3においては、NOxがほとんど存在しなくなる状態が形成されると考えられる。
【0040】
濃度領域の区分において、アンモニア濃度及びNOx濃度は、いずれも体積%(ppm)で表されることとする。濃度領域を区分する際のアンモニア濃度は、酸素濃度に応じて補正したアンモニア濃度とすることができる。エンジン制御ユニット50は、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が、第2濃度領域N2内になるよう、還元剤供給装置73から触媒72へ供給する還元剤Kの量を調整するよう構成することができる。
【0041】
第1濃度領域N1と第2濃度領域N2とを区分する所定濃度としての、NOx濃度とアンモニア濃度との第1濃度差Δn1は、10~50ppmとすることができる。そして、NOx濃度がアンモニア濃度よりも10~50ppm以上高い場合に、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が第1濃度領域N1にあると判定することができる。第1濃度差Δn1は、マルチガスセンサ1の仕様、搭載環境等に応じて、適宜変更することができる。
【0042】
また、第2濃度領域N2と第3濃度領域N3とを区分する所定濃度としての、アンモニア濃度とNOx濃度との第2濃度差Δn2は、50~100ppmとすることができる。そして、アンモニア濃度がNOx濃度よりも50~100ppm以上高い場合に、アンモニア濃度とNOx濃度との関係が第3濃度領域N3にあると判定することができる。第2濃度差Δn2は、マルチガスセンサ1の仕様、搭載環境等に応じて、適宜変更することができる。
【0043】
マルチガスセンサ1は、還元剤供給装置73が、後述するアンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度と後述するNOx濃度算出部57によるNOx濃度(補正後NOx濃度)とが第2濃度領域N2内になるよう、触媒72への還元剤Kの供給量を調整するために用いられる。エンジン制御ユニット50は、マルチガスセンサ1によるアンモニア濃度とNOx濃度との関係が、第2濃度領域N2内になるよう、還元剤供給装置73から触媒72への還元剤Kの供給量を調整するよう構成されている。マルチガスセンサ1を用いることにより、アンモニア濃度とNOx濃度とを監視して触媒72への還元剤Kの供給量を決定することができ、触媒72におけるNOxの還元反応を、アンモニアの流出を抑えつつ、より最適に行うことができる。
【0044】
図示は省略するが、マルチガスセンサ1は、アンモニア濃度及びNOx濃度を検出するためのセンサ素子10と、センサ素子10を保持して排気管71に取り付けるためのハウジングと、ハウジングの先端側に取り付けられてセンサ素子10を保護する先端側カバーと、ハウジングの基端側に取り付けられてセンサ素子10の電気配線部分を保護する基端側カバーとを備える。
図1及び
図2に示すように、センサ素子10は、後述するアンモニア素子部2及び後述するNOx素子部3に対して、後述するヒータ部4を積層して形成されている。
【0045】
(アンモニアセンサ部11)
アンモニアセンサ部11は、機械的構成部位であるアンモニア素子部2と、電気的構成部位である電位差検出部51及びアンモニア濃度算出部52とによって構成されている。アンモニア素子部2は、第1固体電解質体21、アンモニア電極22及び第1基準電極23を有する。
【0046】
(アンモニア素子部2)
第1固体電解質体21は、板状に形成されており、所定の温度において酸素イオンを伝導させる性質を有するジルコニア材料を用いて構成されている。ジルコニア材料は、ジルコニアを主成分とする種々の材料によって構成することができる。ジルコニア材料には、イットリア(酸化イットリウム)等の希土類金属元素もしくはアルカリ土類金属元素によってジルコニアの一部を置換させた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアを用いることができる。
【0047】
アンモニア電極22は、第1固体電解質体21における、酸素及びアンモニアが含まれる測定ガスGに晒される第1表面211に設けられている。第1基準電極23は、第1固体電解質体21における、第1表面211とは反対側の第2表面212に設けられている。第2表面212及び第2表面212に設けられた第1基準電極23は、基準ガスAとしての大気に晒されている。第1固体電解質体21の第2表面212には、大気が導入される基準ガスダクト24が隣接して形成されている。
【0048】
アンモニア電極22は、アンモニア及び酸素に対する触媒活性を有する金(Au)、白金-金合金、白金-パラジウム合金、パラジウム-金合金等の貴金属材料を用いて構成されている。第1基準電極23は、酸素に対する触媒活性を有する白金(Pt)等の貴金属材料を用いて構成されている。また、アンモニア電極22及び第1基準電極23は、第1固体電解質体21と焼結する際の共材となるジルコニア材料を含有していてもよい。
【0049】
図1及び
図2に示すように、第1固体電解質体21の、測定ガスGに晒される第1表面211は、マルチガスセンサ1のセンサ素子10における最も外側の表面を形成する。そして、第1表面211に設けられたアンモニア電極22には、測定ガスGが接触しやすい状態が形成されている。本形態のアンモニア電極22の表面には、セラミックスの多孔質体等による保護層が設けられていない。そして、アンモニア電極22には、測定ガスGが拡散律速されずに接触する。なお、アンモニア電極22の表面には、測定ガスGの流速を極力低下させない保護層を設けることも可能である。
【0050】
第1固体電解質体21の第2表面212及び第2表面212に設けられた第1基準電極23は、基準ガスAとしての大気に晒されている。第1固体電解質体21の第2表面212には、大気が導入される基準ガスダクト(大気ダクト)24が隣接して形成されている。
【0051】
(電位差検出部51)
図1に示すように、本形態の電位差検出部51は、アンモニア電極22に混成電位が生じたときのアンモニア電極22と第1基準電極23との間の電位差ΔVを検出する。アンモニア電極22においては、アンモニア電極22に接触する測定ガスG中にアンモニアと酸素とが存在する場合に、アンモニアの酸化反応と、酸素の還元反応とが同時に進行する。アンモニアの酸化反応は、代表的には、2NH
3+3O
2-→N
2+3H
2O+6e
-によって表される。酸素の還元反応は、代表的には、O
2+4e
-→2O
2-によって表される。そして、アンモニア電極22における、アンモニアと酸素とによる混成電位は、アンモニア電極22における、アンモニアの酸化反応(速度)と酸素の還元反応(速度)とが等しくなるときの電位として生じる。
【0052】
図8は、アンモニア電極22において生じる混成電位を説明するための図である。同図においては、横軸に、第1基準電極23に対するアンモニア電極22の電位(電位差ΔV)をとり、縦軸に、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に流れる電流をとって、混成電位の変化の仕方を示す。また、同図においては、アンモニア電極22においてアンモニアの酸化反応が行われる際の電位と電流の関係を示す第1ラインL1と、アンモニア電極22において酸素の還元反応が行われる際の電位と電流の関係を示す第2ラインL2とを示す。第1ラインL1及び第2ラインL2は、いずれも右肩上がりのラインによって示す。
【0053】
電位(電位差ΔV)が0(ゼロ)の場合は、アンモニア電極22の電位が第1基準電極23の電位と同じであることを示す。混成電位は、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1上のプラス側の電流と、酸素の還元反応を示す第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合ったときの電位となる。そして、アンモニア電極22における混成電位は、第1基準電極23に対してマイナス側の電位として検出される。
【0054】
また、
図9に示すように、測定ガスGにおけるアンモニア濃度が高くなるときには、アンモニアの酸化反応を示す第1ラインL1の傾きθaが急になる。このとき、第1ラインL1上のプラス側の電流と、第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合う電位が、よりマイナス側へシフトする。これにより、アンモニア濃度が高くなるほど、第1基準電極23に対するアンモニア電極22の電位がマイナス側に大きくなる。言い換えれば、アンモニア濃度が高くなるほど、アンモニア電極22と第1基準電極23との電位差(混成電位)ΔVが大きくなる。そのため、アンモニア濃度が高くなるほど電位差ΔVが大きくなり、電位差ΔVを検出することにより、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を検出することが可能になる。
【0055】
また、
図10に示すように、測定ガスGにおける酸素濃度が高くなるときには、酸素の還元反応を示す第2ラインL2の傾きθsが急になる。このとき、第1ラインL1上のプラス側の電流と、第2ラインL2上のマイナス側の電流とが釣り合う電位が、よりマイナス側におけるゼロに近い位置へシフトする。これにより、酸素濃度が高くなるほど、第1基準電極23に対するアンモニア電極22のマイナス側の電位が小さくなる。言い換えれば、酸素濃度が高くなるほど、アンモニア電極22と第1基準電極23との電位差(混成電位)ΔVが小さくなる。そのため、酸素濃度が高くなるほど、電位差ΔV又はアンモニア濃度を高くする補正を行うことにより、アンモニア濃度の検出精度を高めることができる。
【0056】
(アンモニア濃度算出部52)
図1に示すように、アンモニア濃度算出部52は、電位差検出部51による電位差ΔVに基づいて、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出するよう構成されている。アンモニア濃度算出部52は、測定ガスGにおけるアンモニア濃度を算出するに当たり、後述する酸素濃度算出部55によって酸素濃度を算出し、算出した酸素濃度における電位差ΔVを、電位差ΔVと酸素補正後のアンモニア濃度との関係マップM1に照合して、酸素補正後のアンモニア濃度C1を算出するように構成されている。
【0057】
図11は、混成電位式のアンモニア素子部2において、測定ガスGにおけるアンモニア濃度の変化に応じて検出される、電位差検出部51によるアンモニア電極22と第1基準電極23との間の電位差(混成電位)ΔVが、酸素濃度の影響を受けて変化することを示す。同図に示すように、電位差検出部51によって検出される電位差(混成電位)ΔVは、酸素濃度が高くなるほど小さく検出される(マイナス側のゼロに近い位置で検出される)。この理由は、
図10における傾きθsによって説明したとおりである。
【0058】
図12に示すように、本形態のアンモニア濃度算出部52においては、測定ガスGにおける酸素濃度をパラメータとして、電位差検出部51による電位差ΔVと、酸素濃度に応じた補正が行われた酸素補正後のアンモニア濃度C1との関係を示す関係マップM1が設定されている。この関係マップM1は、酸素濃度が所定の値にあるときの電位差ΔVと酸素補正後のアンモニア濃度C1との関係として作成されている。アンモニア濃度算出部52は、測定ガスGにおける酸素濃度及び電位差検出部51による電位差ΔVを関係マップM1に照合して、測定ガスGにおける酸素補正後のアンモニア濃度C1を算出するよう構成されている。
【0059】
より具体的には、アンモニア濃度算出部52は、酸素濃度算出部55による酸素濃度と、電位差検出部51による電位差ΔVとを、関係マップM1の酸素濃度及び電位差ΔVにそれぞれ照合する。そして、関係マップM1から、電位差ΔVのときの酸素補正後のアンモニア濃度C1を読み取る。そして、アンモニア濃度算出部52は、酸素濃度が高いほど、酸素補正後のアンモニア濃度C1が高くなるように補正する。こうして、酸素補正後のアンモニア濃度C1は、酸素濃度に応じて補正された、マルチガスセンサ1から出力されるアンモニア出力濃度となる。なお、関係マップM1においては、電位差ΔVを、酸素補正前のアンモニア濃度C0としてもよい。
【0060】
同図においては、測定ガスG中の酸素濃度が、例えば、5[体積%]、10[体積%]、20[体積%]である場合の関係マップM1を示す。この関係マップM1を用いることにより、酸素濃度に応じたアンモニア濃度C1又は電位差ΔVの補正を容易にすることができる。電位差ΔVと酸素補正後のアンモニア濃度C1との関係マップM1は、マルチガスセンサ1の試作・実験時等において求めておくことができる。
【0061】
また、
図12の関係マップM1は、アンモニア電極22の温度ごとに設定することができる。そして、アンモニア電極22の温度の違いを反映して、酸素濃度に応じた酸素補正後のアンモニア濃度C1を算出することができる。また、関係マップM1から算出された酸素補正後のアンモニア濃度C1を、アンモニア電極22の温度に応じて定められた温度補正係数を用いて補正することもできる。
【0062】
なお、アンモニア濃度算出部52は、酸素濃度及びNOx濃度に基づいてアンモニア濃度を算出するよう構成することもできる。後述するNOx素子部3におけるNOx電極32は、NOxに対する触媒活性を有するだけでなく、アンモニアに対する触媒活性も有する。そのため、アンモニア濃度は、NOx電極32において、NOx濃度として検出することが可能である。これにより、アンモニア濃度算出部52においては、アンモニア濃度とNOx濃度とを比較して、アンモニア濃度がより正しい値を示すよう補正することができる。
【0063】
電位差検出部51及びアンモニア濃度算出部52は、マルチガスセンサ1に電気接続されたセンサ制御ユニット5(SCU)内に形成されている。電位差検出部51は、アンモニア電極22と第1基準電極23との電位差ΔVを測定するアンプ等を用いて形成されている。アンモニア濃度算出部52は、コンピュータ等を用いて形成されている。また、センサ制御ユニット5は、内燃機関7のエンジン制御ユニット(ECU)50に接続されており、エンジン制御ユニット50による、内燃機関7、還元剤供給装置73等の動作の制御に利用される。
【0064】
(NOxセンサ部12)
図1に示すように、NOxセンサ部12は、機械的構成部位であるNOx素子部3と、電気的構成部位であるポンピング部53、ポンプ電流検出部54、酸素濃度算出部55、NOx検出部56及びNOx濃度算出部57とによって構成されている。NOx素子部3は、第2固体電解質体31、NOx電極32、第2基準電極34A、ポンプ電極33及び第3基準電極34Bを有する。NOx素子部3は、第2固体電解質体31、NOx電極32及び第2基準電極34A、測定ガス室35の他に、第2固体電解質体31を介して配置されたポンプ電極33及び第3基準電極34Bを更に有する。
【0065】
NOx素子部3には、NOx素子部3及びアンモニア素子部2を加熱するヒータ部4が積層されている。NOxセンサ部12は、NOx濃度を検出する機能の他に、酸素濃度を検出する機能も備える。具体的には、NOxセンサ部12は、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に電圧を印加して、ポンプ電極33が収容された測定ガス室35における酸素を汲み出すとともに、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に流れる電流に基づいて測定ガスGにおける酸素濃度を算出するようにも構成されている。
【0066】
(NOx素子部3)
NOx素子部3は、第2固体電解質体31、測定ガス室35、拡散抵抗部351、ポンプ電極33、NOx電極32、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bを有する。第2固体電解質体31は、第1固体電解質体21に対向して配置されている。第2固体電解質体31は、板状に形成されており、所定の温度において酸素イオンを伝導させる性質を有するジルコニア材料を用いて構成されている。このジルコニア材料は、第1固体電解質体21の場合と同様である。
【0067】
図1、
図2及び
図4に示すように、測定ガス室35は、第2固体電解質体31の第3表面311に接して形成されている。測定ガス室35は、ガス室用絶縁体36によって形成されている。ガス室用絶縁体36は、アルミナ等のセラミックス材料からなる。拡散抵抗部351は、多孔質のセラミックス層として形成されており、測定ガス室35へ拡散速度を制限して測定ガスGを導入するための部分である。
【0068】
ポンプ電極33は、第3表面311における測定ガス室35内に収容されており、測定ガス室35内の測定ガスGに晒される。NOx電極32は、第3表面311における測定ガス室35内に収容されており、ポンプ電極33によって酸素濃度が調整された後の測定ガスGに晒される。第3基準電極34Bは、第2固体電解質体31における、第3表面311とは反対側の第4表面312に設けられている。
【0069】
ポンプ電極33は、酸素に対する触媒活性を有する白金-金合金等の貴金属材料を用いて構成されている。NOx電極32は、NOx及び酸素に対する触媒活性を有する白金-ロジウム合金等の貴金属材料を用いて構成されている。第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、酸素に対する触媒活性を有する白金等の貴金属材料を用いて構成されている。また、ポンプ電極33、NOx電極32、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、第2固体電解質体31と焼結する際の共材となるジルコニア材料を含有していてもよい。
【0070】
本形態の第2基準電極34Aは、第2固体電解質体31を介してNOx電極32と対向する位置に設けられており、本形態の第3基準電極34Bは、第2固体電解質体31を介してポンプ電極33と対向する位置に設けられている。なお、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、ポンプ電極33及びNOx電極32と対向する位置の全体に1つ設けられていてもよい。
【0071】
図1~
図3に示すように、第2固体電解質体31の第4表面312及び第4表面312に設けられた第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、基準ガスAとしての大気に晒されている。第1固体電解質体21と第2固体電解質体31とは、基準ガスダクト24を形成するダクト用絶縁体25を介して積層されている。ダクト用絶縁体25は、アルミナ等のセラミックス材料からなる。
【0072】
基準ガスダクト24は、第1固体電解質体21の第2表面212及び第1基準電極23と、第2固体電解質体31の第4表面312、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bとに大気を接触させる状態で形成されている。第1基準電極23、第2基準電極34A及び第3基準電極34Bは、基準ガスダクト24内に収容されている。基準ガスダクト24は、センサ素子10の基端から測定ガス室35に対向する位置まで形成されている。
【0073】
マルチガスセンサ1の基端側カバー内に導入された基準ガスAは、基準ガスダクト24の基端側の開口部から基準ガスダクト24内に導入される。本形態のセンサ素子10は、第1固体電解質体21と第2固体電解質体31との間に基準ガスダクト24を有することにより、第1~第3基準電極23,34A,34Bの全体をまとめて大気に接触させることができる。
【0074】
(ヒータ部4)
図1及び
図2に示すように、第2固体電解質体31の、第1固体電解質体21が積層された側とは反対側には、NOx素子部3及びアンモニア素子部2を加熱するヒータ部4が積層されている。ヒータ部4は、通電によって発熱する発熱体41と、発熱体41を埋設するヒータ用絶縁体42とによって形成されている。ヒータ用絶縁体42は、アルミナ等のセラミックス材料からなる。
【0075】
発熱体41は、発熱部と、発熱部に繋がるリード部とによって形成されており、発熱部が各電極22,23,32,33,34A,34Bに対向する位置に形成されている。発熱体41には、発熱体41に通電を行うための通電制御部58が接続されている。通電制御部58は、発熱体41に、PWM(パルス幅変調)制御等を行った電圧を印加するドライブ回路等を用いて形成されている。通電制御部58は、センサ制御ユニット5内に形成されている。
【0076】
通電制御部58による発熱体41の通電量を制御する際には、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に交流電圧を印加したときのインピーダンスを測定し、このインピーダンスが目標とする値になるように通電量を調整することができる。これにより、アンモニア素子部2及びNOx素子部3の温度が目標とする温度になるようにする。なお、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間のインピーダンスと、アンモニア電極22等の温度との関係は、関係マップとして求めておく。また、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間のインピーダンスを測定する代わりに、発熱体41のインピーダンス又はアンモニア電極22と基準電極との間のインピーダンスを測定することもできる。
【0077】
アンモニア素子部2及びNOx素子部3は、通電制御部58によるインピーダンス制御が行われる、同じ発熱体41によって加熱される。そのため、仮に、アンモニア電極22の温度及びNOx電極32の温度に、通電制御部58によるインピーダンス制御を行う際の変動が生じた場合であっても、アンモニア電極22の温度及びNOx電極32の温度が同様の変動を受ける。そのため、NOx濃度算出部57による推定アンモニア濃度と、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度との間に、温度の変動に伴う濃度誤差が生じにくくすることができる。
【0078】
アンモニア素子部2とヒータ部4との距離は、NOx素子部3とヒータ部4との距離よりも大きい。そして、ヒータ部4によってNOx素子部3を加熱する温度に比べて、ヒータ部4によってアンモニア素子部2を加熱する温度は低い。NOx素子部3のポンプ電極33及びNOx電極32は、600~900℃の温度において使用され、アンモニア素子部2のアンモニア電極22は、400~600℃の温度において使用される。アンモニア電極22の温度は、ヒータ部4の加熱によって、400~600℃の温度範囲内のいずれかの温度を目標として制御される。
【0079】
また、NOx素子部3とアンモニア素子部2との間に基準ガスダクト24が形成されていることにより、ヒータ部4によってNOx素子部3及びアンモニア素子部2を加熱する際に、基準ガスダクト24を断熱層として作用させることができる。これにより、NOx素子部3のポンプ電極33及びNOx電極32の温度に比べて、アンモニア素子部2のアンモニア電極22の温度を容易に低くすることができる。また、通電制御部58による通電制御を行うことにより、NOx素子部3及びアンモニア素子部2の温度を目標とする温度に制御する。
【0080】
(ポンピング部53、ポンプ電流検出部54及び酸素濃度算出部55)
図1に示すように、ポンピング部53は、第3基準電極34Bをプラス側として、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に直流電圧を印加して、測定ガス室35内の測定ガスGにおける酸素を汲み出すよう構成されている。ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に直流電圧が印加されるときには、ポンプ電極33に接触する、測定ガス室35内の測定ガスGにおける酸素が、酸素イオンとなって第2固体電解質体31を第3基準電極34Bに向けて通過し、第3基準電極34Bから基準ガスダクト24へと排出される。これにより、測定ガス室35内の酸素濃度が、NOxの検出に適した濃度に調整される。
【0081】
ポンプ電流検出部54は、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に流れる直流電流を検出するよう構成されている。酸素濃度算出部55は、ポンプ電流検出部54によって検出された直流電流に基づいて、測定ガスGにおける酸素濃度を算出するよう構成されている。ポンプ電流検出部54においては、ポンピング部53によって測定ガス室35内から基準ガスダクト24へ排出される酸素の量に比例した直流電流が検出される。
【0082】
また、ポンピング部53は、測定ガス室35内の測定ガスGにおける酸素濃度が所定の濃度になるまで、測定ガス室35内から基準ガスダクト24へ酸素を排出する。そのため、酸素濃度算出部55は、ポンプ電流検出部54によって検出される直流電流を監視することにより、アンモニア素子部2及びNOx素子部3に到達する測定ガスGにおける酸素濃度を算出することができる。
【0083】
酸素濃度算出部55によって算出される酸素濃度は、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度を補正するための酸素濃度として利用される。
【0084】
(NOx検出部56及びNOx濃度算出部57)
図1に示すように、NOx検出部56は、第2基準電極34Aをプラス側としてNOx電極32と第2基準電極34Aとの間に直流電圧を印加して、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に流れる直流電流を検出するよう構成されている。NOx濃度算出部57は、NOx検出部56によって検出される直流電流に基づいて、測定ガスGにおける補正前NOx濃度を算出し、補正前NOx濃度からアンモニア濃度を差し引いて補正後NOx濃度を算出するよう構成されている。NOx検出部56においては、NOxだけでなくアンモニアも検出される。そのため、NOx濃度算出部57においては、アンモニアの検出量を差し引くことにより実際のNOxの検出量が得られる。
【0085】
NOx電極32には、ポンプ電極33によって酸素濃度が調整された後の測定ガスGが接触する。そして、NOx検出部56においては、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に直流電圧が印加されるときには、NOx電極32に接触する、測定ガス室35内の測定ガスGにおけるNOxが窒素と酸素に分解され、酸素が酸素イオンとなって第2固体電解質体31を第2基準電極34Aに向けて通過し、第2基準電極34Aから基準ガスダクト24へと排出される。また、NOx検出部56にアンモニアが到達するときには、アンモニアが酸化されて生成されたNOxも同様に窒素と酸素に分解される。そして、NOx濃度算出部57は、NOx検出部56によって検出される直流電流を監視することにより、NOx素子部3に到達する測定ガスGにおける補正前NOx濃度を算出し、補正前NOx濃度からアンモニア濃度を差し引いて補正後NOx濃度を算出する。
【0086】
また、マルチガスセンサ1におけるNOxセンサ部12は、いわゆる限界電流式のセンサとして機能する。すなわち、NOxセンサ部12は、拡散抵抗部351によって測定ガス室35への測定ガスGの流れが制限される際に、限界電流特性を示すための直流電圧を印加したときに、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に生じる直流電流を検出するものである。
【0087】
ポンピング部53、ポンプ電流検出部54及びNOx検出部56は、アンプ等を用いてセンサ制御ユニット5内に形成されている。酸素濃度算出部55及びNOx濃度算出部57は、コンピュータ等を用いてセンサ制御ユニット5内に形成されている。
【0088】
なお、
図1においては、便宜的に、電位差検出部51、ポンピング部53、ポンプ電流検出部54及びNOx検出部56を、センサ制御ユニット5と区別して記載する。実際には、これらは、センサ制御ユニット5内に構築されている。
【0089】
図7において、触媒出口721のアンモニア濃度とNOx濃度との関係を示す濃度領域におけるNOx濃度は、NOx濃度算出部57によって算出される補正後NOx濃度とすることができる。また、この濃度領域におけるアンモニア濃度は、アンモニア濃度算出部52によって算出されるアンモニア濃度とすることができる。
【0090】
マルチガスセンサ1によれば、アンモニア濃度及びNOx濃度を検出するためのガスセンサの使用数を減らすことができる。また、NOx濃度を検出するために使用されるポンプ電極33及びポンピング部53を利用して、ポンプ電流検出部54及び酸素濃度算出部55によって酸素濃度を検出することができる。
【0091】
(認定部61)
図5及び
図7に示すように、認定部61は、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度と、NOxセンサ部12による補正後NOx濃度とを比較して、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度がNOxセンサ部12による補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高い場合を、認定時として認定する。この場合において、アンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度は、酸素濃度算出部55による酸素濃度に応じて補正を行った、酸素補正後のアンモニア濃度C1とすることができる。
【0092】
認定時における推定アンモニア濃度を示す補正前NOx濃度は、純粋なアンモニア濃度を示すのではなく、NOx濃度が加算されたアンモニア濃度を示すことになる。しかし、認定時における補正前NOx濃度は、アンモニア濃度がNOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高い場合のものであり、認定時における実際のNOx濃度は、低くかつ推定アンモニア濃度の誤差範囲内に含まれる。
【0093】
(劣化判定部62)
劣化判定部62は、認定部61が認定時を認定した場合を条件として、アンモニアセンサ部11の性能劣化の有無又は度合いを判定する判定時期を決定することができる。判定時期は、例えば、車両の走行距離が所定の設定距離以上になり、かつ認定時が認定された場合とすることができる。そして、車両の走行距離が設定距離になるごとに、判定時期が決定される。
【0094】
劣化判定部62は、NOxセンサ部12による推定アンモニア濃度からアンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度を差し引いた差分値が、所定値を超えたときに、アンモニアセンサ部11に性能劣化が生じたと判定することができる。この所定値は、アンモニアセンサ部11及びNOxセンサ部12における検出精度を考慮して、決定することができる。
【0095】
劣化判定部62は、アンモニアセンサ部11の性能劣化の度合いである性能劣化量を算出するよう構成することもできる。NOxセンサ部12による推定アンモニア濃度からアンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度を差し引いた差分値に基づいて性能劣化量を求めることができる。性能劣化量Rは、推定アンモニア濃度をD、酸素補正後のアンモニア濃度をC1としたとき、R=(D-C1)/D×100[%]として求めることができる。
【0096】
混成電位式のマルチガスセンサ1のアンモニア素子部2においては、アンモニア電極22が測定ガスGに直接晒されており、アンモニア電極22が被毒物質によって被毒しやすい環境にある。そして、アンモニア電極22が被毒すると、特に、アンモニア電極22におけるアンモニアの酸化反応を示す触媒性能が劣化する。また、アンモニア電極22の被毒によって、アンモニア電極22における酸素の還元反応を示す触媒性能も劣化する。アンモニアセンサ部11の性能劣化の多くはアンモニア電極22の性能劣化であると考えられる。
【0097】
(アンモニア出力濃度及びNOx出力濃度)
マルチガスセンサ1から出力するアンモニア出力濃度は、酸素濃度算出部55の酸素濃度を用いて補正された、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度とする。また、アンモニア出力濃度は、酸素濃度を用いて補正するだけでなく、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度を用いて補正することもできる。
【0098】
マルチガスセンサ1から出力するNOx出力濃度は、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度とする。また、NOx出力濃度は、アンモニア濃度算出部52のアンモニア濃度を用いて補正された、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度とすることもできる。
【0099】
(認定時)
劣化判定部62は、アンモニア濃度がNOx濃度に比べて所定濃度Δn2以上高い場合に、劣化の判定を行う。そして、マルチガスセンサ1においてアンモニアがある程度検出される場合に、アンモニア素子部2の劣化の有無又は度合いを判定する。また、認定時を普遍的に決定するためには、認定部61は、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度がNOx濃度算出部57による補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高い場合であって、かつ内燃機関がフューエルカット運転を行うとともに還元剤供給装置が触媒へ還元剤Kを供給している場合を、認定時として認定することができる。
【0100】
フューエルカット運転時には、内燃機関7における燃料の燃焼が停止され、内燃機関7か排気管71へのNOxの排出がほとんどなくなる。そして、触媒72には大気中の酸素が充満する。この状況において、還元剤供給装置73から触媒72へ還元剤Kとしてのアンモニアが供給されると、触媒72からマルチガスセンサ1へアンモニアが到達しやすくなる。この場合には、マルチガスセンサ1にNOxがほとんど到達せず、NOxセンサ部12による推定アンモニア濃度の検出精度を高めることができる。これに伴い、マルチガスセンサ1の劣化判定の精度を高めることができる。
【0101】
また、認定時は、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度[ppm]が、NOxセンサ部12によるNOxの検出精度[ppm]の少なくとも2倍以上検出されていることを条件として決定することもできる。また、認定時を決定する際のアンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度[ppm]は、より高い方が判定精度の観点から好ましい。
【0102】
図13においては、NOxセンサ部12による推定アンモニア濃度[ppm]が算出される際に、推定アンモニア濃度とアンモニアセンサ部11によるアンモニア濃度とを比較して劣化判定を行う際に生じ得る誤差範囲について示す。アンモニアセンサ部11及びNOxセンサ部12の検出精度は、±10ppmであるとする。
【0103】
この場合において、例えば、推定アンモニア濃度が10ppmであるときには、誤差範囲は、アンモニアセンサ部11及びNOxセンサ部12の検出精度が影響して、最大で0~30ppmの範囲内で変動するおそれがある。また、例えば、推定アンモニア濃度が100ppmであるときには、誤差範囲は、アンモニアセンサ部11及びNOxセンサ部12の検出精度が影響して、最大で80~120ppmの範囲内で変動するおそれがある。
【0104】
つまり、推定アンモニア濃度が10ppmであるときには、最大で300%の誤差が生じる可能性がある。一方、推定アンモニア濃度が100ppmであるときには、最大で20%の誤差が生じる可能性がある。そのため、アンモニア濃度がより高い場合には、劣化判定を行う際に生じ得る誤差範囲が狭くなり、劣化判定を行う精度が向上することが分かる。
【0105】
(他ガスの影響)
測定ガスGとしての排ガスには、酸素、アンモニア、NOxの他に、未燃ガス成分としてのCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)等が混在する場合もある。アンモニア電極22において検出される混成電位は、アンモニア濃度及び酸素濃度によって変化するだけでなく、他ガスとしてのNOx、CO、HC等の濃度によっても変化することが確認された。ただし、この他ガスによる混成電位の変化は、測定ガスG中にアンモニアが含まれている場合には、あまり生じないことが確認された。
【0106】
本形態の劣化判定部62は、測定ガスGにアンモニアが含まれる場合に、アンモニア素子部2における性能劣化の判定を行う。これにより、他ガスが性能劣化量の算出に与える影響を少なくすることができる。
【0107】
(センサ素子10の酸化触媒)
センサ素子10には、
図14及び
図15に示すように、NOx検出部56によるアンモニアの検出を容易にするために、アンモニアを酸化させてNOxに変換させる酸化触媒37を設けることができる。酸化触媒37は、アンモニア電極22の近くに配置すると、アンモニア電極22及び電位差検出部51によって検出されるべきアンモニアの濃度が低下してしまう。そのため、酸化触媒37は、アンモニア電極22からできるだけ離れた位置に配置することが望ましい。
【0108】
また、酸化触媒37は、アンモニアから変換されたNOxを、NOx電極32に接触させるために、センサ素子10の周囲から、NOx電極32が配置された測定ガス室35までの測定ガスGの流れの経路に配置する。酸化触媒37は、
図14に示すように、測定ガス室35における測定ガスGの入口に配置された拡散抵抗部351に設けることができる。酸化触媒37は、例えば、NiO(酸化ニッケル)等とすることができる。酸化触媒37は、拡散抵抗部351を形成するアルミナ等の多孔質の金属酸化物に担持させることができる。
【0109】
また、酸化触媒37は、
図15に示すように、センサ素子10における、各電極22,23、32,33,34A,34B及び発熱体41が設けられた先端部の外側面に設けることもできる。この場合には、酸化触媒37は、センサ素子10の先端部に設ける、アルミナ等の金属酸化物による多孔質の保護層38に担持させることができる。この場合には、酸化触媒37は、第2固体電解質体31に積層された各絶縁体25,36,42の表面に配置されることになる。
【0110】
また、酸化触媒37は、保護層38における、拡散抵抗部351の周囲に位置する部分にのみ担持させることもできる。また、酸化触媒37は、測定ガス室35内における、第2固体電解質体31の表面又は各絶縁体36,42の表面に配置することもできる。
【0111】
本形態のマルチガスセンサ1においては、測定ガスGにおけるアンモニア濃度とNOx濃度との関係が第3濃度領域N3にある場合において、NOx電極32に接触するアンモニアをNOxに積極的に変換することができる。そのため、劣化判定部62が、第3濃度領域N3において、NOxセンサ部12による補正前NOx濃度によって、測定ガスGにおける推定アンモニア濃度が算出される場合に、この推定アンモニア濃度の算出精度を高めることができる。
【0112】
(劣化判定方法)
次に、マルチガスセンサ1を用いた劣化判定方法の一例について、
図16のフローチャートを参照して説明する。
内燃機関7の燃焼運転が開始されたときには、マルチガスセンサ1、還元剤供給装置73、センサ制御ユニット5、エンジン制御ユニット50等が動作する。マルチガスセンサ1においては、電位差検出部51によって、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に生じる電位差ΔVが検出される(
図16のステップS101)。また、ポンプ電流検出部54によって、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に流れる直流電流(ポンプ電流)が検出される(ステップS101)。また、NOx検出部56によって、NOx電極32と第2基準電極34Aとの間に流れる直流電流(センサ電流)が検出される(ステップS101)。
【0113】
そして、酸素濃度算出部55によって、ポンプ電流検出部54による直流電流に基づいて測定ガスGにおける酸素濃度が算出される(ステップS102)。また、アンモニア濃度算出部52によって、電位差検出部51による電位差ΔVと酸素濃度とが関係マップM1に照合され、測定ガスGにおける、酸素補正後のアンモニア濃度C1が算出される(ステップS102)。また、NOx濃度算出部57によって、NOx検出部56による直流電流に基づいて測定ガスGにおける補正前NOx濃度が算出され、補正前NOx濃度からアンモニア濃度C1が差し引かれて補正後NOx濃度が算出される(ステップS102)。
【0114】
また、マルチガスセンサ1からは、酸素濃度に応じて補正されたアンモニア濃度がアンモニア出力濃度として出力され(ステップS103)、補正後NOx濃度がNOx出力濃度として出力される(ステップS103)。次いで、マルチガスセンサ1の使用が開始されてからの経過期間が、劣化の判定を行うための所定の設定期間を経過したか否かを判定する(ステップS104)。この所定の設定期間の経過の有無は、車両の走行距離が所定の距離に達したか否かによって判定することができる。所定の設定期間が経過するまでは、ステップS101~S104が繰り返し実行される。
【0115】
一方、ステップS104において所定の設定期間が経過したときには、認定部61は、アンモニアセンサ部11においてアンモニアがある程度検出される場合を選定するために、酸素補正後のアンモニア濃度C1がNOx濃度算出部57による補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高いか否かを判定する(ステップS105)。アンモニア濃度C1が補正後NOx濃度よりも低い場合、又はアンモニア濃度C1と補正後NOx濃度との差が所定濃度Δn2未満である場合には、ステップS101に戻る。
【0116】
アンモニア濃度C1が補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高い場合には、認定部61は、劣化判定を行うための認定時を認定する(ステップS106)。この場合には、劣化判定部62は、NOx濃度算出部57によって算出された補正前NOx濃度が推定アンモニア濃度を示すこととし、推定アンモニア濃度からアンモニア濃度C1を差し引いた差分値を求める(ステップS107)。そして、劣化判定部62は、差分値が、所定の故障検出値以上であるか否かを判定する(ステップS108)。
【0117】
差分値が故障検出値未満である場合には、劣化判定部62は、アンモニアセンサ部11が故障を検知するまでは性能劣化していないと特定し(ステップS109)、ステップS101に戻る。また、このときには、ステップS104における経過期間をゼロにリセットし(ステップS110)、再び、経過期間が所定の設定期間を経過するまでステップS101~S104が繰り返し実行される。また、差分値が故障検出値以上となるまで、ステップS101~S109が繰り返し実行される。
【0118】
一方、ステップS109において差分値が故障検出値以上となった場合には、劣化判定部62は、アンモニアセンサ部11が故障していると検知されるまで性能劣化したと特定し、マルチガスセンサ1の故障が認定される(ステップS110)。こうして、アンモニアセンサ部11の劣化によって、マルチガスセンサ1の故障が認定されたときには、センサ制御ユニット5においては、マルチガスセンサ1の交換を促すための信号を発することができる。
【0119】
(作用効果)
本形態のマルチガスセンサ1においては、認定部61は、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度C1とNOx濃度算出部57による補正後NOx濃度とを比較し、アンモニア濃度C1が補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高い場合を特定条件として認定する。マルチガスセンサ1によってアンモニア濃度及びNOx濃度の検出が行われる環境下においては、アンモニアはNOxを還元するために用いられる。そして、本願発明者らは、この環境下においては、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度C1が、NOx濃度算出部57による補正後NOx濃度よりも、低くなる場合と高くなる場合とが異なるタイミングで生じることに着目している。そして、アンモニア濃度C1が補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高い場合を特定条件として認定する。
【0120】
この特定条件において、NOx濃度算出部57のNOx電極32においては、測定ガスG中のNOxはほとんど検出されず、測定ガスG中のアンモニアがNOxに酸化されてNOx濃度として検出される。アンモニアは、アンモニア素子部2に比べて高い温度に加熱されるNOx素子部3の付近に存在するとき、NOxに酸化されやすくなる。このアンモニアがNOxに酸化される反応式は、代表的には、4NH3+5O2→4NO+6H2Oによって表される。そのため、特定条件においては、NOx濃度算出部57による補正前NOx濃度を推定アンモニア濃度とする。この推定アンモニア濃度は、測定ガスG中のアンモニア濃度に近い値を示すと考える。
【0121】
そして、アンモニア素子部2のアンモニア電極22に性能劣化がない場合には、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度C1と、NOx濃度算出部57による推定アンモニア濃度とに大きな違いは生じない。換言すれば、これらのアンモニア濃度の差が所定の誤差範囲内になる。一方、アンモニア素子部2のアンモニア電極22に性能劣化が生じた場合には、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度C1が、NOx濃度算出部57による推定アンモニア濃度よりも所定の誤差範囲を超えて低くなる。従って、この場合には、アンモニア素子部2に性能劣化が生じたと判定することができる。
【0122】
これにより、マルチガスセンサ1においては、測定ガスGにおけるアンモニアが占める割合が、測定ガスGにおけるNOxが占める割合よりも多く、NOxがアンモニアの検出にあまり影響を与えない条件下において、アンモニア素子部2の性能劣化の有無又は度合いを判定することができる。
【0123】
それ故、本形態のマルチガスセンサ1によれば、アンモニア素子部2の性能劣化の有無又は度合いを適切に判定することができる。
【0124】
<実施形態2>
本形態のマルチガスセンサ1は、アンモニア素子部2に生じた性能劣化量に応じてアンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度を補正するよう構成されている。
具体的には、
図17に示すように、本形態のマルチガスセンサ1は、実施形態1の劣化判定部62の代わりに、劣化量算出部63及びアンモニア濃度補正部64を備える。劣化量算出部63は、認定部61が認定時を認定した場合において、NOxセンサ部12(NOx濃度算出部57)による補正前NOx濃度が、NOx電極32に接触するアンモニアの濃度である推定アンモニア濃度を示すとし、推定アンモニア濃度とアンモニアセンサ部11(アンモニア濃度算出部52)によるアンモニア濃度との差に基づいて、アンモニア素子部2の性能劣化量を算出するよう構成されている。アンモニア濃度補正部64は、性能劣化量に基づいて、アンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度を補正するよう構成されている。
【0125】
劣化量算出部63による性能劣化量は、実施形態1に示した性能劣化量Rと同様にして求めることができる。また、アンモニア濃度補正部64は、例えば、性能劣化量R[%]が算出され、酸素補正後のアンモニア濃度C1[ppm]が算出されたとき、酸素・劣化補正後のアンモニア濃度C2[ppm]を、C2=C1×100/(100-R)として求めることができる。
【0126】
(制御方法)
本形態のマルチガスセンサ1の制御方法の一例を、
図18のフローチャートを参照して説明する。
内燃機関7の燃焼運転が開始されたときには、マルチガスセンサ1、還元剤供給装置73、センサ制御ユニット5、エンジン制御ユニット50等が動作する。また、本形態においては、マルチガスセンサ1の使用初期において、アンモニア素子部2の性能劣化量Rを0(ゼロ)にする(ステップS201)。次いで、実施形態1のステップS101と同様にして、アンモニア電極22と第1基準電極23との間に生じる電位差ΔV、ポンプ電極33と第3基準電極34Bとの間に流れるポンプ電流、及びNOx電極32と第2基準電極34Aとの間に流れるセンサ電流が検出される(ステップS202)。
【0127】
また、実施形態1のステップS102と同様にして、測定ガスGにおける酸素濃度、測定ガスGにおける、酸素補正後のアンモニア濃度C1、及び測定ガスGにおける補正前NOx濃度が算出され、補正前NOx濃度からアンモニア濃度C1が差し引かれて補正後NOx濃度が算出される(ステップS203)。また、アンモニア素子部2の性能劣化量Rがゼロである状態においては、酸素・劣化補正後のアンモニア濃度C2は、酸素補正後のアンモニア濃度C1となる(ステップS204)。
【0128】
次いで、また、マルチガスセンサ1からは、酸素補正後のアンモニア濃度C1がアンモニア出力濃度として出力され(ステップS205)、NOx濃度がNOx出力濃度として出力される(ステップS205)。また、ステップS205の後には、マルチガスセンサ1の制御を終了する信号があるか否かを判定する(ステップS206)。制御を終了する信号がある場合には、マルチガスセンサ1の制御を終了する。一方、制御を終了する信号がない場合には、マルチガスセンサ1の使用が開始されてからの経過期間が、劣化の判定を行うための所定の設定期間を経過したか否かを判定する(ステップS207)。この所定の設定期間の経過の有無は、車両の走行距離が所定の距離に達したか否かによって判定することができる。所定の設定期間が経過するまでは、ステップS202~S207が繰り返し実行される。
【0129】
一方、ステップS207において所定の設定期間が経過したときには、認定部61は、酸素補正後のアンモニア濃度C1がNOx濃度算出部57による補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高いか否かを判定する(ステップS208)。アンモニア濃度C1が補正後NOx濃度よりも低い場合、又はアンモニア濃度C1と補正後NOx濃度との差が所定濃度Δn2未満である場合には、ステップS202に戻る。
【0130】
アンモニア濃度C1が補正後NOx濃度よりも所定濃度Δn2以上高い場合には、認定部61は、性能劣化量Rを算出するための認定時を認定する(ステップS209)。次いで、劣化量算出部63は、NOx濃度算出部57によって算出された補正前NOx濃度が推定アンモニア濃度Dを示すこととし、アンモニア素子部2の性能劣化量Rを、推定アンモニア濃度D及び酸素補正後のアンモニア濃度C1を用いて、R=(D-C1)/D×100[%]として求める(ステップS210)。そして、性能劣化量Rを初期時のゼロから、算出した性能劣化量Rに変更する(ステップS211)。また、ステップS207における経過時間をゼロにリセットする(ステップS212)。
【0131】
その後、性能劣化量Rが変更された後に、ステップS204が実行されるときには、アンモニア濃度補正部64は、性能劣化量R[%]及び酸素補正後のアンモニア濃度C1[ppm]を用いて、酸素・劣化補正後のアンモニア濃度C2[ppm]を、C2=C1×100/(100-R)として求める(ステップS204)。そして、マルチガスセンサ1からは、酸素・劣化補正後のアンモニア濃度C2がアンモニア出力濃度として出力され(ステップS205)。
【0132】
こうして、ステップS202~S212が繰り返し実行され、性能劣化量Rが所定の設定期間が経過するごとに変更(更新)されて、酸素・劣化補正後のアンモニア濃度C2がアンモニア出力濃度として出力される。
【0133】
本形態のマルチガスセンサ1においては、劣化量算出部63によって、アンモニア素子部2における性能劣化量を算出し、アンモニア濃度補正部64によって、性能劣化量に応じてアンモニア濃度算出部52によるアンモニア濃度C1を補正する。これにより、NOxがアンモニアの検出にあまり影響を与えない条件下において、アンモニア素子部2の性能劣化量を加味してアンモニア濃度を補正することができる。
【0134】
本形態のマルチガスセンサ1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の場合と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の場合と同様である。
【0135】
本発明は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本発明は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。
【符号の説明】
【0136】
1 マルチガスセンサ
11 アンモニアセンサ部
12 NOxセンサ部
61 認定部
62 劣化判定部
63 劣化量算出部
64 アンモニア濃度補正部