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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】魚介類の麻酔維持装置
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/02 20060101AFI20220512BHJP
   A01K 63/04 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
A01K63/02 A
A01K63/04 E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018138510
(22)【出願日】2018-07-24
(65)【公開番号】P2020014396
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】高田 諒一
(72)【発明者】
【氏名】中村 三樹彦
【審査官】磯田 真美
(56)【参考文献】
【文献】特許第6236575(JP,B2)
【文献】特開2004-305035(JP,A)
【文献】特開2007-268321(JP,A)
【文献】特開2006-043636(JP,A)
【文献】特開平01-144916(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102669030(CN,A)
【文献】米国特許第4807615(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/00 - 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マダイ類を水または海水とともに収容する水槽と、
ガス分離膜モジュールを有し前記水または海水に酸素富化空気を供給する酸素富化空気供給手段と、を備えた魚介類の麻酔維持装置であって、
前記酸素富化空気供給手段は、前記水槽中の前記水または海水に、酸素濃度が40%O以上、50%O以下の前記酸素富化空気を、NL/min以上10NL/min以下で供給することにより、
前記水または海水中の溶存酸素濃度が60%以上であり、かつ、溶存二酸化炭素濃度が10ppm以上を維持するように制御すること、を特徴とする魚介類の麻酔維持装置。
【請求項2】
前記ガス分離膜モジュールは、ガス分離膜を搭載しており、
前記ガス分離膜は、25℃における酸素透過係数が1GPU以上、2000GPU以下であり、かつ、酸素透過係数を窒素透過係数で除した値が2以上、20以下である、請求項に記載の麻酔維持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類の麻酔維持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに、魚介類を生きたまま水槽ごと輸送する手段は知られているが、輸送中に魚介類が水槽内で動くことにより、魚介類の体が、水槽の壁や、魚介類同志で接触することによって損傷を受けてしまい、商品価値が下がる結果が生じていた。
そこで、生きている魚介類を、商品価値を下げることなく輸送し消費者に提供することが要求されている。
【0003】
活魚の輸送において、魚を死なせることなく代謝の低い状態で輸送するために、二酸化炭素及び酸素を混入した水により、活魚などの魚介類に対して麻酔を行う技術が知られている。
たとえば特許文献1には、気液が旋回可能な気液旋回室内へ液体を圧送するとともに気液旋回室内へ空気を流入させることにより気液旋回室内に気液旋回流を発生させることにより、液中の溶存酸素濃度を高めるとともに、高めた溶存酸素濃度を比較的長時間維持できる微細気泡発生装置が開示されている。
また特許文献2には、魚介類を麻酔させるための工程と、麻酔された魚介類の麻酔状態を維持するための工程とにおいて、水中環境を各工程に適したものに設定することで、魚介類のガス病を防止し、魚介類の覚醒が可能な麻酔状態をより長く維持できる麻酔方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-43636号公報
【文献】特許第6236575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、輸送中において、酸素濃度が足りずに魚介類が斃死したり、一方で二酸化炭素濃度が足りずに麻酔状態を維持できず、覚醒し動くことにより個体が損傷を負ったりすることがあり、いまだ改善の余地が残されている。
【0006】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、本発明の目的は、魚介類を斃死させることなく麻酔状態を維持し、商品価値を損なうことなく輸送することか可能な麻酔維持装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討を続けた結果、水槽に導入する酸素富化空気の流量、酸素および二酸化炭素の濃度を常時一定に保つことで、魚介類を斃死させることなく、かつ、麻酔状態を維持し、個体に損傷を負わせることなく輸送が可能な麻酔維持装置を実現できることに想到し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
マダイ類を水または海水とともに収容する水槽と、
ガス分離膜モジュールを有し前記水または海水に酸素富化空気を供給する酸素富化空気供給手段と、を備えた魚介類の麻酔維持装置であって、
前記酸素富化空気供給手段は、前記水槽中の前記水または海水に、酸素濃度が40%O以上、50%O以下の前記酸素富化空気を、NL/min以上10NL/min以下で供給することにより、
前記水または海水中の溶存酸素濃度が60%以上であり、かつ、溶存二酸化炭素濃度が10ppm以上を維持するように制御すること、を特徴とする魚介類の麻酔維持装置。
[2]
前記ガス分離膜モジュールは、ガス分離膜を搭載しており、
前記ガス分離膜は、25℃における酸素透過係数が1GPU以上、2000GPU以下であり、かつ、酸素透過係数を窒素透過係数で除した値が2以上、20以下である、[1]に記載の麻酔維持装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、水槽に導入する酸素富化空気の流量・濃度を制御することで、水槽中の水または海水中の溶存酸素濃度および溶存二酸化炭素濃度を常時一定に保つことができる。これにより魚介類を斃死させることなく、かつ、麻酔状態を維持し、個体に損傷を負わせることなく輸送が可能な麻酔維持装置を提供することができる。
本発明に係る麻酔維持装置を利用することで、活魚を生きた状態で、かつ、麻酔状態で、個体に損傷を与えることなく輸送することが可能となり、新鮮な魚介類を商品価値を下げることなく消費者に提供することが可能となった。
[発明の詳細な説明]
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る麻酔維持装置の一構成例を模式的に示す図。
図2】実施例および比較例において、酸素富化空気の濃度および供給量と結果との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための例示の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る麻酔維持装置の一構成例を模式的に示す図である。
本発明の魚介類の麻酔維持装置1は、魚介類2を水または海水3とともに収容する水槽10と、ガス分離膜モジュール21を有し水または海水3に酸素富化空気4を供給する酸素富化空気供給手段20と、を備えた魚介類の麻酔維持装置であって、
酸素富化空気供給手段20は、水槽10中の水または海水3に、酸素濃度が30%Oより大きく、60%O未満の酸素富化空気4を、0.5NL/minより大きく、150NL/min未満で供給することにより、水または海水3中の溶存酸素濃度が60%以上であり、かつ溶存二酸化炭素濃度が10ppm以上であるように制御すること、を特徴とする。
【0011】
本発明では、水槽10に導入する酸素富化空気4の流量・濃度を特定の範囲に保つことで、水槽10中の水または海水3中の溶存酸素濃度および溶存二酸化炭素濃度を常時一定に保つことができる。これにより魚介類2を斃死させることなく、かつ、麻酔状態を維持できるため、個体に損傷を負わせることなく輸送が可能な麻酔維持装置1を提供することができる。
本発明に係る麻酔維持装置1を利用することで、新鮮な魚介類2を、商品価値を下げることなく消費者に提供することが可能となった。
なお、本発明において、魚介類2とは、魚類の他に、頭足類および甲殻類等の、鰓呼吸によって酸素を摂取する遊泳性を持った水生生物を含む概念である。
【0012】
<水槽>
水槽10は、直方体、多角形筒若しくは円筒状の容器であり、内部に水または海水3を満たして、対象となる魚介類2を収容する。
本実施形態において、水槽10は、活魚(魚介類2)を輸送するための水槽である。活魚を輸送するための水槽10は、単数もしくは複数の活魚を輸送するために必要な容量であって、車や船等の輸送手段に搭載可能な容量を備える。
水槽10に収容される水または海水3は、酸素富化空気供給手段20から得られる酸素富化空気4が気泡発生装置28を経て水中に導入されることにより、所定の水中環境下(溶存酸素濃度および溶存二酸化炭素濃度)に調整される。気泡発生装置28としては、気泡を発生させる装置であればよく、その気泡のサイズは特に限定されず、粗大気泡、ファインバブル、ウルトラファインバブルなどいずれでもよい。
【0013】
<酸素富化空気供給手段>
酸素富化空気供給手段20は、ガス分離膜モジュール21と空気圧縮機25とを備え、水槽10中の水または海水3に、特定の酸素濃度を有する酸素富化空気4を特定の流量で供給する。
具体的には、酸素富化空気供給手段20は、水槽10中の水または海水3に、酸素濃度が30%Oより大きく、60%O未満の酸素富化空気4を、0.5NL/minより大きく、150NL/min未満で供給する。
【0014】
(ガス分離膜モジュール)
ガス分離膜モジュール21は、ガス分離膜22を搭載し、酸素富化空気4を生成する。
ガス分離膜22を用いたガス分離法は、ガス分子が高分子膜(ガス分離膜22)を透過する際に、ガス種によって透過性が異なるという選択的透過性を利用している。
空気圧縮機25を用いて加圧された空気6をガス分離膜22の第1の表面に接触させ、第1の表面と反対側の第2の表面を透過した酸素富化空気4を取り出す。
【0015】
ガス分離膜モジュール21の形態としては、特に限定されるものではないが、使用環境や使用条件等を考慮して適宜好適な条件を採用することができる。ガス分離膜モジュール21の具体例としては、例えば、平膜を用いたプレート・アンド・フレーム型、スパイラル型、プリーツ型、中空糸型、チューブラー型等の膜モジュールが挙げられる。例えば、プリーツ型には、箱型にプリーツを重ねた形状のものや、円筒にプリーツを巻き付けたもの等が挙げられる。
【0016】
ガス分離膜22としては、酸素透過率が窒素透過率よりも高い膜であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、有機系高分子材料のガス分離膜、無機系材料のガス分離膜、有機-無機複合材料のガス分離膜等が挙げられる。
有機系高分子材料のガス分離膜としては、例えば、シリコーン樹脂、ポリブタジエン樹脂などのゴム状ポリマー材料や、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、セルロース、主鎖に含フッ素脂環構造を有する重合体などのガラス状ポリマー材料などから成るガス分離膜が挙げられる。
無機系材料のガス分離膜としては、例えば、LTA(A型)、MFI(ZSM-5型)、MOR、FER、FAU(X型、Y型)などの結晶性アルミノケイ酸塩や、金属塩と有機配位子とを合成することによって得られる金属有機構造体(MOF:Metal Organic Framework)などから成るガス分離膜が挙げられる。
有機-無機複合材料のガス分離膜としては、上記の素材を複合化した材料から成るガス分離膜が挙げられる。
【0017】
また、ガス分離膜22は、支持層を有していてもよい。これによって、膜の機械的強度を向上させることができる。支持層の材質は、膜が酸素富化機能を発揮できるものであれば特に限定されず、様々なものを用いることができる。例えば、織布、不織布、微多孔膜等を用いることができる。支持層として用いられる微多孔膜としては、ポリイミド微多孔膜、PVDF微多孔膜、PTFE微多孔膜、ポリオレフィン微多孔膜、限外ろ過膜(UF膜)として使用されるポリスルホン微多孔膜やポリエーテルスルホン微多孔膜等が挙げられる。平膜の場合、支持層の上に膜が形成された形態等が挙げられる。中空糸膜の場合、支持層である中空糸膜の内側の表面又は外側の表面に、膜が形成された形態等が挙げられる。
【0018】
支持層を有する膜のその他の例としては、ポリイミド系の膜である場合、膜そのものを湿式で製膜した非対象構造の膜が挙げられる。さらに、無機系の気体透過膜である場合、支持層であるセラミック膜の上に気体透過膜を水熱合成で形成したものや、化学蒸着(CVD)により薄膜形成したものが挙げられる。
【0019】
ガス分離膜22としての必要な特性は、高い酸素透過係数、高い分離係数(酸素透過係数を窒素透過係数で除した値)を兼ね備えていることであり、高い透過係数で高い選択係数を有する。
ガス分離膜22は、25℃における酸素透過係数が1GPU以上、2000GPU以下であることが好ましい。
酸素透過係数が前記下限値未満であると、所定の酸素濃度を有する酸素富化空気4を得ることが困難になる。一方、酸素透過係数が前記上限値を超えると、酸素富化空気4を得るのに多量の圧縮空気が必要となり、多数の空気圧縮機が必要となる。酸素透過係数が前記範囲であることにより、現実的な装置構成で、所定の酸素濃度を有する酸素富化空気4を得ることができる。
【0020】
ガス分離膜22は、酸素透過係数を窒素透過係数で除した値(分離係数)が2以上、20以下であることが好ましい。
酸素透過係数を窒素透過係数で除した値が前記下限値未満であると、高濃度の所望のガスを得るには多くの工程が必要になり、実用的ではない。一方、前記値が前記上限値を超えると、得られる酸素富化空気4の酸素濃度が所定の濃度を超えてしまう。前記値が前記範囲であることにより、現実的な装置構成で、所定の酸素濃度を有する酸素富化空気4を得ることができる。
【0021】
(空気圧縮機)
空気圧縮機25(コンンプレッサー)は、空気を加圧できるものであればよく、その種類等は特に限定されず、公知の装置を用いることもできる。例えば、ターボ型圧縮機等が挙げられる。
空気圧縮機25の動力としては、電気、エンジンの軸動力等のエネルギーを使用できる。またこの空気圧縮機25は空気加圧の能力が適宜選択され、低圧のブロアーから高圧のコンプレッサーまで幅広く選択が可能である。
【0022】
酸素富化空気供給手段20は、酸素濃度が30%Oより大きく、60%O未満の酸素富化空気4を、ガス分離膜モジュール21と空気圧縮機25を用いて、大気5(空気)から製造する。
【0023】
このような酸素富化空気供給手段20において、まず、空気圧縮機25(コンンプレッサー)によって大気5(空気)を加圧する。加圧された空気6は、空気配管26を通じて、ガス分離膜モジュール21に送り込まれる。ガス分離膜モジュール21に格納されたガス分離膜22は、酸素透過率が窒素透過率よりも高い膜である。ガス分離膜22のいずれか一方の表面(第1の表面)に加圧された空気6を送りこむ。ガス分離膜22を通過した空気は酸素富化空気4となる。
【0024】
そして、泡沫処理用の空気をエアポンプ(図示略)で通気させながら、発生させた所定の濃度の酸素富化空気4を、空気配管27を通じて、所定の流量で気泡発生装置28に導入する。気泡発生装置28は、酸素富化空気4を多数の気泡とし、水槽10中の水または海水3中に酸素富化空気4の気泡を噴出させて、各ガス(酸素、二酸化炭素)を水または海水3中に溶存させる。
【0025】
酸素富化空気供給手段20は、ガス分離膜モジュール21への加圧された空気6の供給圧力および/または供給流量を調整する、あるいは、窒素富化空気の流量を調整することにより、酸素富化空気4の流量と濃度とを制御する。
酸素富化空気供給手段20は、水槽10中の水または海水3に、酸素濃度が30%Oより大きく、60%O未満の酸素富化空気4を、0.5NL/minより大きく、150NL/min未満で供給する。
【0026】
酸素富化空気4の酸素濃度は、30%Oより大きく、60%O未満であることが好ましい。
酸素富化空気4の酸素濃度が前記下限値よりも低いと、水または海水3中の酸素濃度が保てなくなり、魚介類2が鰓から吸収される酸素量が不足し、各個体の酸素需要量を充分には満たすことができず、魚介類2が呼吸不全を起こして短時間で斃死してしまう。一方、酸素濃度が前記上限値よりも大きいと、水または海水3中の酸素濃度が高くなりすぎ、麻酔状態を維持できず、覚醒した魚介類2が水槽10内で動くことにより個体損傷の原因となってしまう。酸素富化空気4の酸素濃度を前記範囲とすることで、魚介類2の斃死を防止しつつ麻酔状態を維持することができる。
【0027】
酸素富化空気4の供給量としては、0.5NL/minより大きく、150NL/min未満であることが好ましい。2NL/minより大きく、20NL/min未満であることがより好ましい。
酸素富化空気4の供給量が前記下限値よりも低いと、水または海水3中の酸素濃度が保てなくなり、魚介類2が斃死してしまう。一方、供給量が前記上限値よりも大きいと、水または海水3中の酸素濃度が高くなりすぎ、麻酔状態を維持できなくなる。酸素富化空気4の供給量を前記範囲とすることで、魚介類2の斃死を防止しつつ麻酔状態を維持することができる。
【0028】
酸素富化空気4の供給量の下限値としては、4NL/minより大きいことがさらに好ましく、6NL/minより大きいことが最も好ましい。また酸素富化空気4の供給量の上限値としては、18NL/min未満であることがさらに好ましく、16NL/min未満であることが最も好ましい。
【0029】
水または海水3中の溶存酸素濃度は、60%以上であることが好ましい。水または海水3中の溶存酸素濃度が60%未満であると、魚介類2が斃死してしまう。水または海水3中の溶存酸素濃度は、70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが最も好ましい。
水または海水3中の溶存二酸化炭素濃度は、10ppm以上であることが好ましい。水または海水3中の溶存二酸化炭素濃度が10ppm未満であると、二酸化炭素濃度が足りずに麻酔状態を維持できず、覚醒した魚介類2が動くことにより個体が損傷を負ったりする場合がある。水または海水3中の溶存二酸化炭素濃度は、15ppm以上であることがより好ましく、20ppm以上であることが最も好ましい。溶存二酸化炭素濃度の上限としては、40ppm未満であることが好ましく、35ppm未満であることがより好ましい。
【0030】
以上説明してきたように、本発明の魚介類の麻酔維持装置では、水槽に導入する酸素富化空気の流量・濃度を制御することで、水槽中の水または海水中の溶存酸素濃度および溶存二酸化炭素濃度を常時一定に保っている。
具体的には、酸素富化空気供給手段は、水槽中の水または海水に、酸素濃度が30%Oより大きく、60%O未満の酸素富化空気を、0.5NL/minより大きく、150NL/min未満で供給することにより、水または海水中の溶存酸素濃度が60%以上であり、かつ溶存二酸化炭素濃度が10ppm以上を維持するように制御する。これにより、魚介類を斃死させることなく、かつ、麻酔状態を維持し、個体に損傷を負わせることなく輸送を可能とすることができる。
そして本発明に係る麻酔維持装置を利用することで、活魚を生きた状態で、かつ、個体に損傷を与えることなく輸送することが可能となり、新鮮な魚介類を商品価値を下げることなく消費者に提供することが可能となる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0032】
例えば本発明の麻酔維持装置は、上述した要素以外にも、水槽内の不純物を取り除く泡沫処理用のプロテインスキマー、水槽内の酸素濃度を均一にするための水流ポンプ、二酸化炭素ガスや酸素ガスの、水または海水中への溶存量を計測するガス濃度測定装置、水または海水の水温を計測する水温測定装置、水または海水の水温を所定の温度に維持する温度調節装置、および、ガス濃度測定装置および水温測定装置の計測結果に応じて、酸素富化空気供給手段および温度調節装置の運転状況をそれぞれ制御する制御装置などをさらに備えていてもよい。
【実施例
【0033】
次に、本発明の効果を確認するために行った実施例及び比較例について挙げ、本実施の形態をより具体的に説明する。しかしながら、本実施の形態は、その要旨から逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例中の物性は以下の方法により測定した。
【0034】
実験用1200L水槽に海水を入れ、通常、魚介類を取り扱う水温(20℃前後)に水温を調整した。この水槽に二酸化炭素によって麻酔処置を施したマダイ(体重約550g)を200匹入れた。
泡沫処理用の空気をエアポンプで通気させながら、ガス分離膜とコンプレッサーを用いて発生させた所定の濃度の酸素富化空気を、所定の流量で微細気泡発生装置に導入し、生じた微細気泡を水槽内の海水に導入した。
【0035】
24時間経過したのち、200匹のマダイの状態を観察し、「斃死状態(×)」、「生存かつ麻酔状態(〇)」、「生存かつ覚醒状態(△)」の3つに分類し、最も数の多い状態をその実験条件における結果とした。
なお、実験は、水槽内に溶存酸素濃度計(YSI社製ProODO)と溶存二酸化炭素計(ケー・エンジニアリング社製OxyGuard CO)を入れ、溶存ガス濃度を測定しながら実施した。
【0036】
<実施例1>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、40%Oの酸素富化空気を10NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度と二酸化炭素濃度はそれぞれ60%以上、10ppm以上で維持されていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ麻酔状態(〇)であった。
【0037】
<実施例2>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、50%Oの酸素富化空気を10NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度と二酸化炭素濃度はそれぞれ60%以上、10ppm以上で維持されていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ麻酔状態(〇)であった。
【0038】
<実施例3>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、40%Oの酸素富化空気を5NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度と二酸化炭素濃度はそれぞれ60%以上、10ppm以上で維持されていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ麻酔状態(〇)であった。
【0039】
<実施例4>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、50%Oの酸素富化空気を5NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度と二酸化炭素濃度はそれぞれ60%以上、10ppm以上で維持されていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ麻酔状態(〇)であった。
【0040】
<比較例1>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、20%Oの酸素富化空気を20NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度は60%以上で維持されていたが、二酸化炭素濃度はある時間においては10ppmを下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ覚醒状態(△)であった。
【0041】
<比較例2>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、40%Oの酸素富化空気を20NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度は60%以上で維持されていたが、二酸化炭素濃度はある時間においては10ppmを下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ覚醒状態(△)であった。
【0042】
<比較例3>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、50%Oの酸素富化空気を20NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度は60%以上で維持されていたが、二酸化炭素濃度はある時間においては10ppmを下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ覚醒状態(△)であった。
【0043】
<比較例4>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、60%Oの酸素富化空気を20NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度は60%以上で維持されていたが、二酸化炭素濃度はある時間においては10ppmを下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ覚醒状態(△)であった。
【0044】
<比較例5>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、60%Oの酸素富化空気を10NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度は60%以上で維持されていたが、二酸化炭素濃度はある時間においては10ppmを下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ覚醒状態(△)であった。
【0045】
<比較例6>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、60%Oの酸素富化空気を5NL/minで用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の溶存酸素濃度は60%以上で維持されていたが、二酸化炭素濃度はある時間においては10ppmを下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、生存かつ覚醒状態(△)であった。
【0046】
<比較例7>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、30%Oの酸素富化空気を10NL/min用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の二酸化炭素濃度は10ppm以上で維持されていたが、溶存酸素濃度は、ある時間においては60%を下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、斃死状態(×)であった。
【0047】
<比較例8>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、30%Oの酸素富化空気を5NL/min用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の二酸化炭素濃度は10ppm以上で維持されていたが、溶存酸素濃度は、ある時間においては60%を下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、斃死状態(×)であった。
【0048】
<比較例9>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、40%Oの酸素富化空気を2NL/min用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の二酸化炭素濃度は10ppm以上で維持されていたが、溶存酸素濃度は、ある時間においては60%を下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、斃死状態(×)であった。
【0049】
<比較例10>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、60%Oの酸素富化空気を2NL/min用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の二酸化炭素濃度は10ppm以上で維持されていたが、溶存酸素濃度は、ある時間においては60%を下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、斃死状態(×)であった。
【0050】
<比較例11>
マダイをいれた水槽において、泡沫処理用空気120L/minを通気させながら、80%Oの酸素富化空気を2NL/min用いた微細気泡を流通させた。
24時間の間、水槽内の二酸化炭素濃度は10ppm以上で維持されていたが、溶存酸素濃度は、ある時間においては60%を下回っていた。
24時間後のマダイの状態を観察したところ、最も数の多い状態は、斃死状態(×)であった。
【0051】
実施例および比較例の結果を表1にまとめて示す。また、酸素富化空気の濃度および供給量と結果との関係を図2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
以上の結果より、水槽中の水または海水に、酸素濃度が30%Oより大きく、60%O未満の酸素富化空気を、0.5NL/minより大きく、150NL/min未満で供給することにより魚介類(マダイ)を斃死させることなく麻酔状態を維持できることがわかった。
すなわち本発明によれば、個体に損傷を与えることなく輸送することが可能となるため、新鮮な魚介類を、商品価値を下げることなく消費者に提供することが可能となると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明による麻酔維持装置を用いることで、魚介類を斃死させることなく、かつ、麻酔状態を維持できるものとなり、魚介類を生きたまま輸送する際の麻酔維持装置として広く利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1:麻酔維持装置
2:魚介類
3:水または海水
4:酸素富化空気
5:大気
6:加圧された空気
10:水槽
20:酸素富化空気供給手段
21:ガス分離膜モジュール
22:ガス分離膜
25:空気圧縮機
26:空気配管
27:空気配管
28:気泡発生装置
図1
図2