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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】シリンジ用外筒およびシリンジ
(51)【国際特許分類】
   A61J 1/05 20060101AFI20220512BHJP
【FI】
A61J1/05 311
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018507161
(86)(22)【出願日】2017-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2017007542
(87)【国際公開番号】W WO2017163773
(87)【国際公開日】2017-09-28
【審査請求日】2019-09-10
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2016060396
(32)【優先日】2016-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003111
【氏名又は名称】あいそう特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】丸山 さやか
(72)【発明者】
【氏名】阿部 吉彦
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】栗山 卓也
【審判官】千壽 哲郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-99767(JP,A)
【文献】特開2006-321902(JP,A)
【文献】特開平9-208731(JP,A)
【文献】特開2010-155134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質溶液製剤を充填するために使用される環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂製のシリンジ用外筒であって、
前記熱可塑性樹脂は、滑剤として、金属石鹸系化合物、有機脂肪酸エステル系化合物及び脂肪酸アミド系化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有し、かつ、前記熱可塑性樹脂における前記滑剤の含有量は、0.3~2.0μg/gであり、かつ、前記シリンジ用外筒は、高圧蒸気滅菌されている(ただし、タンパク質溶液製剤を充填して高圧蒸気滅菌されているものを除く)ことを特徴とするシリンジ用外筒。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂における滑剤の含有量は、0.5~1.5μg/gである請求項1に記載のシリンジ用外筒。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、前記金属石鹸系化合物を含有し、前記金属石鹸系化合物は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛のいずれかである請求項1または2に記載のシリンジ用外筒。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、前記有機脂肪酸エステル系化合物を含有し、前記有機脂肪酸エステル系化合物は、モンタン酸部分ケン化エステルまたは高分子複合エステルである請求項1ないし3のいずれかに記載のシリンジ用外筒。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、前記脂肪酸アミド系化合物を含有し、前記脂肪酸アミド系化合物は、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドから選ばれた少なくとも1種の化合物である請求項1ないし4のいずれかに記載のシリンジ用外筒。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂は、滑剤として、少なくとも金属石鹸系化合物または脂肪酸アミド系化合物を含有し、かつ、前記滑剤中の前記金属石鹸系化合物または脂肪酸アミド系化合物の含有量は、前記滑剤の全量の30~90重量%である請求項1または2に記載のシリンジ用外筒。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載のシリンジ用外筒と、前記シリンジ用外筒内に収納されたガスケットと、前記シリンジ用外筒の先端部を封止する封止部材とを備えるシリンジ。
【請求項8】
前記シリンジは、前記シリンジ用外筒内に充填された、タンパク質溶液製剤を有している請求項7に記載のシリンジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂製のシリンジ用外筒およびそれを備えるシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、薬剤容器、シリンジ用外筒としてガラス製のものが多く使用されている。ガラスは重く割れやすいという欠点があった。そして、プラスチック製薬剤容器、プラスチック製シリンジが開発され、普及している。
【0003】
薬剤容器のプラスチック化において、薬剤が容器に吸着する事による力価低下という問題が指摘されている。例えば、既にニトログリセリンやシクロスポリンおよびベンゾジアゼピン系薬物などの脂溶性の高い多くの医薬品は各種医薬品容器や輸液セット中で含量低下をおこすことが報告されており、注射液と医療用具との相互作用が問題となっている(ジャーナル オブ ファーマシューティカル サイエンス 71,55-59 1982、アメリカン ジャーナル オブ ホスピタル ファーマシー 41,142-144 1984、アメリカン ジャーナル オブ ホスピタル ファーマシー 43,94-97 1986、アメリカン ジャーナル オブ ホスピタル ファーマシー 40,417-423 1983、病院薬学 22(2),167-172、1996)。
【0004】
そして、薬剤容器の形成材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、環状オレフィン系重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメタクリレートなどが挙げられる。上記の環状オレフィン系重合物である環状ポリオレフィンは、上記のような薬剤吸着が少なく、薬剤容器の形成材料として有用である。例えば、特開2016-22145(特許文献1)にも、環状ポリオレフィンを用いた医療用器具(具体的には、プレフィルドシリンジ)が開示されている。また、特許公報5555899号(特許文献2)にも環状ポリオレフィン製シリンジが開示されている。
【0005】
また、環状オレフィン系重合体製の容器にタンパク質溶液製剤を収容したものが提案されている。例えば、特開2014-51502(特許文献3)には、環状オレフィン系重合体製容器にタンパク質が糖鎖を有する遺伝子組換えタンパク質を収納したものが開示されている。また、特表2001-506887(特許文献4)には、環状オレフィン系重合体製容器にインスリン、ヒト成長ホルモンなどの活性薬剤を収納したものが開示されている。また、特開2003-113112(特許文献5)には、環状オレフィン系重合体製容器に無菌カルシトニン類を収納したものが開示されている。
【0006】
容器入りタンパク質溶液製剤では、タンパク質溶液製剤を収容する容器は滅菌されている必要がある。タンパク質は加熱により凝固や変性を生ずるため、容器にタンパク質溶液製剤を収容した後に高圧蒸気滅菌などにより加熱滅菌することができない。従って、容器入りタンパク質溶液製剤では、容器を予め滅菌処理し、そこに無菌的に調製したタンパク質溶液製剤を充填することが行われており、充填前の容器の滅菌処理法として、放射線(γ)線や電子線などの放射線照射が通常採用されている。また、最近では、薬剤を充填した状態にて、放射線(γ)線または電子線による滅菌も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-22145
【文献】特許公報5555899号(USP8790312、US公開2010-145284)
【文献】特開2014-51502(USP7253142)
【文献】特表2001-506887(WO98-27925、USP5945187、USP6680091)
【文献】特開2003-113112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1および2などの環状ポリオレフィンを用いて作成される薬剤容器は、射出成形により作成されるため成形性、さらには、製造後の安定性などの観点より、環状ポリオレフィンを主成分とするものの、添加剤を含有することが必要であった。
【0009】
添加剤としては、滑剤とよばれるものがあり、これは射出成形時の離型剤としても機能するため、必須の添加剤であった。滑剤としては、金属石鹸系化合物が一般的であり、具体的には、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛などが使用される。そして、この金属石鹸系化合物は、滑剤としては、有効であるが、充填される薬剤に溶出する場合があり、特に、電子線滅菌後の溶出が多いものであった。そして、溶出した滑剤は、タンパク質溶液製剤のタンパク質に影響を与える可能性が高いものであった。
【0010】
本発明の目的は、環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂製のシリンジ用外筒であって、射出成形による良好な成形性を有し、かつ、内部に収納される薬剤への滑剤の溶出が少ないシリンジ用外筒およびそれを備えるシリンジを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
タンパク質溶液製剤を充填するために使用される環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂製のシリンジ用外筒であって、前記熱可塑性樹脂は、滑剤として、金属石鹸系化合物、有機脂肪酸エステル系化合物及び脂肪酸アミド系化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有し、かつ、前記熱可塑性樹脂における前記滑剤の含有量は、0.3~2.0μg/gであり、かつ、前記シリンジ用外筒は、高圧蒸気滅菌されている(ただし、タンパク質溶液製剤を充填して高圧蒸気滅菌されているものを除く)シリンジ用外筒。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の薬剤容器を応用したシリンジ用合成樹脂製外筒の正面図である。
図2】図は、図1に示したシリンジ用合成樹脂製外筒の縦断面図である。
図3図3は、本発明の薬剤容器を応用したプレフィルドシリンジの正面図である。
図4図4は、図3のA-A断面図である。
図5図5は、本発明の薬剤容器を応用した液体充填及び滅菌済み合成樹脂製容器の正面図である。
図6図6は、図5のB-B線断面図である。
図7図7は、本発明の薬剤容器を応用した他の実施例のプレフィルドシリンジの正面図である。
図8図8は、図7のC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の薬剤容器について、図面に示す実施例を用いて説明する。
本発明の薬剤容器は、環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂製の容器本体を備える。熱可塑性樹脂は、滑剤として、金属石鹸系化合物、有機脂肪酸エステル系化合物及び脂肪酸アミド系化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有し、かつ、熱可塑性樹脂における滑剤の含有量は、0.3~2.0μg/gとなっている。
【0014】
本発明の薬剤容器を応用したシリンジ用合成樹脂製外筒について、図面に示す実施例を用いて説明する。
この実施例のシリンジ1は、本発明の環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂製の薬剤容器である合成樹脂製シリンジ用外筒2と、外筒2内を摺動可能なガスケット4と、ガスケット4に装着されるプランジャ5とを備える。
この実施例のシリンジ用外筒2は、外筒本体部21と、外筒本体部21の先端側に設けられたノズル部22と、外筒本体部21の後端側に設けられた外方に突出するフランジ23とを備える。
【0015】
本発明のシリンジ用合成樹脂製外筒2の形成成材料としては、環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂が用いられている。環状ポリオレフィンとしては、ルボルネンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体、およびテトラシクロドデセンとエチレン等のオレフィンを原料とした共重合体であるシクロオレフィンコポリマー(COC)、また、ノルボルネンを開環重合し、水素添加した重合物であるシクロオレフィンポリマー(COP)等あるいはこれらの混合物等が使用できる。特に、シクロオレフィンコポリマー(COC)、またシクロオレフィンポリマー(COP)などが好ましい。
【0016】
そして、環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂としては、滑剤を含有するものが用いられる。滑剤としては、金属石鹸系化合物、有機脂肪酸エステル系化合物、脂肪酸アミド系化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物が用いられている。
さらに、熱可塑性樹脂における滑剤の含有量は、0.3~2.0μg/gとなっている。特に、熱可塑性樹脂における滑剤の含有量は、0.5~1.5μg/gであることが好ましい。なお、滑剤は、成形体の表面滑りやすさを向上させるとともに、射出成形時においては、離型剤として機能する。0.3μg/g未満の場合は滑剤の添加効果が不充分となる。
【0017】
金属石鹸系化合物としては、脂肪酸金属塩が好ましく、具体的には、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸カルシウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛等の炭素数12~30の脂肪酸金属塩である金属石鹸系滑剤が好適である。特に、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛が好ましく、さらには、ステアリン酸カルシウムが好適である。
【0018】
そして、本発明では、滑剤として、上述した金属石鹸系化合物、有機脂肪酸エステル系化合物、合成ワックス系化合物及び脂肪酸アミド系化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物が用いられている。滑剤としては、1種のみを用いてもよいが、2種以上のものを用いてもよい。なお、2種以上用いる場合において、第1の滑剤として、金属石鹸系化合物または脂肪酸アミド系化合物を選択することが好ましい。そして、2種以上の滑剤を用いる場合において、滑剤中の金属石鹸系化合物または脂肪酸アミド系化合物の含有量は、滑剤の全量の30~90重量%であることが好ましい。
【0019】
有機脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和脂肪酸のグリセリンエステル、ポリグリセリンエステル又はソルビトールエステル、高分子複合エステル等が挙げられる。一価の飽和又は不飽和脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、べヘン酸及びモンタン酸等が挙げられる。二価の飽和又は不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸及びエルカ酸等が挙げられる。具体的には、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、硬化ひまし油、ステアリルステアレート、モンタン酸エチレングリコールエステル、モンタン酸グリセリンエステル、モンタン酸ペンタエリスリトールエステル、カルシウム含有モンタン酸エステル等が挙げられる。特に、有機脂肪酸エステル系化合物としては、モンタン酸部分ケン化エステル、高分子複合エステルなどが好適である。
【0020】
脂肪酸アミド系化合物としては、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、オキシステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、リシノール酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、エチレンビスオレイン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エルカ酸アミド等が挙げられる。これらのうちオレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド等がより好ましい。
【0021】
金属石鹸系化合物以外の滑剤の具体例としては、リコワックスOP(クラリアントジャパン株式会社製 モンタン酸部分ケン化エステル)、ロキシオールG-78(コグニスジャパン株式会社製高分子複合エステル)、リコルブH-4(クラリアントジャパン株式会社製 変性炭化水素系ワックス)、ロキシオールVPN881(コグニスジャパン株式会社製 鉱油系合成ワックス)、脂肪酸アマイドS(花王株式会社製 脂肪酸アミド)、カオーワックスEB-P(花王株式会社製 脂肪酸アミド)、アルフローHT-50(日本油脂株式会社製 脂肪酸アミド)等が揚げられる。
【0022】
また、本発明の薬剤容器の形成材料である合成樹脂は、酸化防止剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、結晶化核剤等の添加剤を含有するものであってもよい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、芳香族アミン系酸化防止剤、ヒンダ-ドアミン系酸化防止剤などが使用できる。
【0023】
外筒2は、外筒本体部21と、外筒本体部21の先端側に設けられたノズル部22と、外筒本体部21の後端側に設けられたフランジ23を備える。そして、外筒は、後述する実施例1~4では、高圧蒸気滅菌されている。
外筒本体部は、ガスケット4を液密かつ摺動可能に収納するほぼ筒状の部分であり、ノズル部は、外筒本体部21より小径の筒状部となっている。また、外筒本体部の先端部はノズル部に向かって縮径するテーパー部となっている。
フランジ23は、図1および図2に示すように外筒本体部21の後端全周より垂直方向に突出するように形成された円弧状外縁を有するものとなっている。言い換えれば、フランジは、内部が欠損したドーナツ盤状のものとなっている。
【0024】
ノズル部22は、図1および図2に示すように、ノズル本体部24と、ノズル本体部24と同心的に形成されたカラー25とを備えている。ノズル本体部24は、外筒2の先端に設けられており、外筒内の薬液等を排出するための先端開口部を備えるとともに先端に向かってテーパー状に縮径するように形成されている。カラー25は、ノズル部22を取り囲むようにノズル部22と同心的に円筒状に形成されている。また、カラー25は、先端が開口しており、カラー25の内径および外径は基端から先端までほぼ同一径となっている。また、カラー25の先端開口からはノズル本体部24の先端部が突出しており、ノズル本体部24およびカラー25の先端部は、ノズル本体部24およびカラー25を封止部材(シールキャップ)3内に収納しやすくするため面取り加工されている。
【0025】
カラー25の内周面には、後述する封止部材(シールキャップ)3のノズル収納部に形成されたリブおよび使用時に接続される注射針のハブ(図示せず)と係合するためのネジ溝(外筒側螺合部)26が形成されている。これにより、外筒2とシールキャップ3はカラー内周面とノズル収納部外周面との間で係合する。また、ネジ溝(外筒側螺合部)26は、シールキャップ3を外筒から取り外した後注射針(注射針のハブ)を取り付ける部分となる。
【0026】
ガスケット4は、図3および図4に示すように、ほぼ同一外径にて延びる筒状本体部と、本体部より先端方向に延びるテーパ状閉塞部とを備える。そして、本体部の外側面には、複数の環状リブ(この実施例では3つ、2つ以上であれば、液密性と摺動性を満足できれば適宜数としてもよい)が形成されている。これらのリブは、外筒2の内面に液密に接触する。また、ガスケット4の閉塞部は、外筒2の先端内面に当接した時に、両者間に極力隙間を形成しないように、外筒2の先端内面形状に対応した形状となっている。
【0027】
そして、ガスケット4は、筒状本体部の内部であり、かつ、後端開口部より先端方向に延びる凹部を備える。この凹部は、プランジャ5の装着用先端部52を収納可能である。さらに、凹部の内面(筒状本体部の内面)には、ガスケット側螺合部が形成されている。ガスケット側螺合部は、プランジャ5の先端部に形成された装着用先端部52の外面に形成されたプランジャ側螺合部と螺合可能である。両者が螺合することにより、プランジャ5は、ガスケット4より離脱しない。なお、プランジャ5は、取り外しておき、使用時に取り付けるようにしてもよい。また、ガスケット4は、筒状本体部の下端面に、複数のリブが設けられている。
【0028】
ガスケット4の形成材料としては、弾性を有するゴム(例えば、ブチルゴム、ラテックスゴム、シリコーンゴムなど)、合成樹脂(例えば、SBSエラストマー、SEBSエラストマー等のスチレン系エラストマー、エチレン-αオレフィン共重合体エラストマー等のオレフィン系エラストマーなど)等を使用することが好ましい。
【0029】
プランジャ5は、プランジャ本体部50と、プランジャ本体部50より先端方向に突出するガスケット4への装着用先端部52とを備える。プランジャ本体部50は、断面十字状に形成されたシャフト部とその後端に設けられた押圧部53を備えている。
プランジャ本体部50のシャフト部は、4つの平板部により形成されている。そして、本体部50(シャフト部)の先端には、フランジが設けられ、後端部には、円盤状のプランジャ押圧部53が設けられている。
【0030】
装着用先端部52は、 プランジャ5の先端部に設けられた突出部である。装着用先端部52は、フランジの中央付近から前方(先端方向)に突出している。装着用先端部52は、柱状、筒状であることが望ましい。
【0031】
そして、装着用先端部52の外面には、ガスケット4のガスケット側螺合部と螺合するプランジャ側螺合部が設けられている。プランジャ側螺合部は、螺旋状リブにより形成されている。ガスケット4の螺旋状螺合部に対応するように、二条(二本)の螺旋状リブを備えている。螺旋状リブは、一条(一本)のみであってもよい。そして、この実施例の注射器では、後述するガスケット4とプランジャ5は、プランジャ5を回転させることにより両者が装着状態となる。
【0032】
プランジャ5の構成材料としては、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の硬質もしくは半硬質樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
本発明のプレフィルドシリンジ1は、開口先端部もしくは先端部を形成する注射針を備える合成樹脂製外筒2と、外筒2内を摺動可能なガスケット4と、ガスケット4に装着されるプランジャ5と、合成樹脂製外筒2の開口先端部もしくは注射針を封止する封止部材3と、外筒内に充填された医療用液体とからなり、かつ高圧蒸気滅菌されている。そして、合成樹脂製外筒2は、上述したものと同様に環状ポリオレフィンを主成分とし、上述の滑剤を含有する熱可塑性樹脂により形成されている。
【0034】
外筒2、ガスケット4,プランジャ5としては、上述したものが用いられる。
そして、本発明のプレフィルドシリンジ1では、充填されている医療用液体8は、変性を受けやすい医療用物質を含有している。変性を受けやすい医療用物質を含有する医療用液体としては、タンパク質溶液製剤が代表例である。
容器入りタンパク質溶液製剤では、タンパク質溶液製剤を収容する容器は滅菌されている必要がある。タンパク質は加熱により凝固や変性を生ずるため、容器にタンパク質溶液製剤を収容した後に高圧蒸気滅菌などにより加熱滅菌することができない。従って、容器入りタンパク質溶液製剤では、容器を予め滅菌処理し、そこに無菌的に調製したタンパク質溶液製剤を充填することが行われている。
【0035】
タンパク質溶液製剤としては、生理活性のあるタンパク質であって、医療分野で用いられるタンパク質の溶液製剤が好ましく用いられる。タンパク質溶液製剤の具体例としては、エリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、トロンボポエチンなどの造血因子、サイトカイン、モノクローナル抗体などの分子標的薬、血清アルブミン、組織プラスミノーゲン活性化因子、幹細胞成長因子、インターフェロンおよびインターロイキンなどのタンパク質を含む溶液製剤を挙げることができる。
【0036】
さらに、モノクローナル抗体などのタンパク質からなる分子標的薬では、その高次構造が薬剤として効果を発揮する上の特に重要である。このため、本発明の医療用容器は、アバタセプト、エタネルセプト、アダリムマブ、リツキシマブ、トラスツズマブ、パリビズマブなどのアミノ酸配列中にメチオニン残基またはシステイン残基を有するタンパク質からなる分子標的薬を含む溶液製剤を収容するための容器として特に適している。
【0037】
本発明の医療用容器に収容するタンパク質溶液製剤の配合内容、pHやその他の物性は特に制限されず、タンパク質溶液製剤の種類などに応じて、それぞれのタンパク質溶液製剤において従来から採用されている配合内容や物性にすることができる。
本発明の医療用容器に収容するタンパク質溶液製剤は、安定化剤、緩衝剤、溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、無痛化剤、還元剤、酸化防止剤やその他の成分の1種または2種以上を必要に応じて含有してもよい。
【0038】
タンパク質溶液製剤が含有し得る安定化剤としては、例えば、非イオン界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンラノリン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、レシチン、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、ショ糖脂肪酸エステルなど)、陰イオン界面活性剤(アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホコハク酸エステル塩など)などの界面活性剤、アミノ酸などを挙げることができる。
【0039】
そのうちでも、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、特にポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)および/またはポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)がより好ましい。
【0040】
また、安定化剤として用い得るアミノ酸の具体例としては、ロイシン、トリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジン、リジン、メチオニン、フェニルアラニンおよびアセチルトリプトファン、それらの塩などを挙げることができ、アミノ酸はL-体、D-体、DL-体のいずれであってもよい。
そのうちでも、L-ロイシン、L-トリプトファン、L-グルタミン酸、L-アルギニン、L-ヒスチジン、L-リジン、これらの塩が好ましく用いられる。
【0041】
緩衝剤としては、例えば、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなどのリン酸塩、クエン酸ナトリウムなどのクエン酸塩などを挙げることができる。
溶解補助剤としては、例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80)および/またはポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(ポリソルベート20)、クレモフォール、エタノール、ドデシリベンゼンスルホン酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0042】
等張化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、グルコース、フラクトース、ラクトース、キシロース、マンノース、マルトース、シュークロース、ラフィノースなどの糖類などを挙げることができる。
【0043】
本発明の医療用容器に収容するタンパク質溶液製剤中のタンパク質含量は特に制限されず、タンパク質の種類、タンパク質溶液製剤の用途、使用形態などに応じて調整することができる。
また、変性を受けやすい医療用物質を含有する医療用液体としては、特にタンパク質溶液製剤に限定されるものではなく、例えばバイオ医薬などが挙げられる。バイオ医薬としては、例えば、細胞培養技術や遺伝子組換え技術といったバイオテクノロジー技術を用いて作り出された医薬であり、タンパク医薬品、核酸医薬品、ペプチド医薬品等が挙げられる。
【0044】
より具体的には、各種モノクローナル抗体、各種ワクチン、インターフェロン、インスリン、成長ホルモン、エリスロポエチン、コロニー刺激因子、TPA、インターロイキン、血液凝固第VIII因子、血液凝固第IX因子、ナトリウム利尿ホルモン、ソマトメジン、グルカゴン、血清アルブミン、カルシトニン、成長ホルモン放出因子、消化酵素剤、炎酵素剤、抗生物質、アンチセンス核酸、アンチジーン核酸、デコイ核酸、アプタマー、siRNA、microRNA、及びこれらのバイオシミラー(バイオ後続品)等が挙げられるが、これらに特に限定されない。
【0045】
この実施例のプレフィルドシリンジ1では、外筒2は、開口先端部を有しており、この開口先端部は、着脱可能に装着された封止部材(シールキャップ)3により封止されている。封止部材(シールキャップ)3は、図3および図4に示すように、閉塞端と、筒状本体部と、筒状部内に形成されたノズル収納部とを有している。さらに、ノズル収納部は、ノズル本体部24の先端部を収納するノズル先端部収納部と、カラー25の先端部を収納するカラー先端部収納部とを備えている。
【0046】
そして、筒状本体部は、上端が閉塞し、下端が開放開口した円筒部である。ノズル収納部は、ノズル部22のほぼ全体を収納するものとなっている。ノズル収納部には、閉塞端の内側より、下方(開口部方向)に、かつ、筒状本体部と同心的に形成された短筒部を備えている。そして、短筒部の下端部には、カラー25の内面に形成された螺合部26と係合可能なリブが形成されている。
【0047】
また、キャップの外側面には、すべり止め用の突出部が、閉塞端の上面には、複数のリブが、筒状本体部の下面にも複数のリブが形成されている。
封止部材(シールキャップ)の形成材料としては、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等の合成ゴム、オレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー等の弾性材料が好ましい。
【0048】
上述したすべての実施例では、外筒2が先端開口部を有するものであったが、外筒は、このようなものに限定されるものではない。外筒、シリンジおよびプレフィルドシリンジとしては、図7および図8に示すような針付きタイプの外筒30を用いるものであってもよい。
【0049】
図7および図8に示すプレフィルドシリンジ20は、針管33を備える針付き外筒30と、外筒30の先端部(針部)に装着された封止部材(キャップ)40と、外筒30内に収納され、かつ外筒内を摺動可能なガスケット45と、ガスケット45に装着されたプランジャー80と、外筒30内に充填された上述した医療用液体8を備える。
【0050】
針管33は、外径:φ0.41~0.18mmのものを使用する。針管33は、先端から基端まで貫通する内腔を備える。また、針管33は、先端に、生体に穿刺される針先を備えている。針先は刃面を備えた鋭角に形成されている。針管33は、その針先を含む先端側部分が、外筒30の先端部38の先端から突出し、針管33の基端は、針挿入孔を貫通し、外筒30の内部に到達している。
【0051】
金属製針管33の材料としては、例えば、ステンレス鋼が好ましい。しかし、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管33は、上述のようなISOの規格に合致するストレート針だけでなく、一部がテーパー状となっているテーパー針を用いることができる。
【0052】
外筒30は、薬剤が充填される本体部31と、針挿入孔を有する先端部38を備えている。本体部31は、内部収納部を有する略円筒形に形成されている。本体部31の軸方向の後端側にはフランジ39が形成されている。
【0053】
先端部38は、先端膨出部と、先端膨出部と本体部31の先端間を繋ぐ筒状部を備えている。また、先端部38は、内部を貫通する針挿入孔を有している。針挿入孔には、針管33の基端が備わっていて、インサート成形等の手段で外筒と一体に形成されている。
【0054】
そして、キャップ40は、円筒状に形成され、軸方向の基部側が開口し、軸方向の先端が閉じている。このキャップ40は、例えば、ゴムやエラストマー等の弾性部材から形成される。 キャップ40は、針管33の針先及び外筒30の先端部38を覆うように外筒30の先端部38に取り付けられる。そして、図8に示すように、針管33及び先端部38は、キャップ40の内腔部42内に挿入される。
【0055】
なお、キャップ40の内腔部の内径は、先端部の先端膨出部の外径とほぼ等しく形成されているか、または先端膨出部よりも若干小さく形成されている。よって、キャップ40を先端部38に取り付けると、先端膨出部の外周面がキャップ40の内周面に密着する。したがって、外筒30から突出する針管33を覆う空間は、先端膨出部とキャップ40の内周面によって密閉される。このように構成することにより、針先に菌が付着することを防止することができる。
【0056】
キャップ40の内周面に設けられた環状リブ41は、その弾性力によって先端部38における先端膨出部とテーパー嵌合部との境界におけるくびれ部を締め付ける。このように、キャップ40の内周面と先端部38のくびれ部が係合し、搬送時にキャップ40が先端部38から外れることを防止することができる。
【0057】
プランジャー80は、本体部81と本体部81の先端に形成されたガスケット装着部82と、基端部に設けられた押圧部83とを備える。また、ガスケットは、プランジャー80のガスケット装着部82を受入れ、かつ係合するプランジャー装着部を備えている。
そして、この実施例においても、金属製針管33を除く外筒30は、上述した合成樹脂により形成されている。
【0058】
次に、本発明の薬剤容器を応用した液体充填および滅菌済み合成樹脂製容器10について、図5および図6を用いて説明する。この実施例の液体充填および滅菌済み合成樹脂製容器10は、合成樹脂製容器本体6と、容器本体の開口部を封止する封止部材7と、容器本体内に収納された医療用液体8とからなる。そして、本発明の液体充填および滅菌済み合成樹脂製容器10は、高圧蒸気滅菌済みであることが好ましい。
【0059】
合成樹脂製容器10は、合成樹脂製容器本体6と、容器本体6の開口部を封止する封止部材7と、容器本体内に収納された医療用液体8とからなる。
容器本体6の形成材料は、上述した合成樹脂製外筒2と同様に環状ポリオレフィンを主成分とし、上述の滑剤を含有する熱可塑性樹脂により形成されている。具体的には、合成樹脂製外筒2にて説明したものが好適に使用できる。また、収納されている医療用液体8は、上述したプレフィルドシリンジにて説明した医療用液体8が好適に使用される。
【0060】
また、本発明の薬剤収納済薬剤容器10は、開口部を有する薬剤容器本体6と、薬剤容器本体6の開口部に装着され、開口部を封止する封止部材(この実施例では、ゴム栓)7と、薬剤容器本体6内に収納された医療用液体8とを備えている。
薬剤容器本体6の形状は、開口部を有し、内部に医療用液体8を収納可能なものであれば、どのようなものであってもよい。なお、この実施例の容器本体6は、下端が閉塞した円筒状の本体部61と、肉厚のフランジを有する開口部62と、開口部62と本体部61間に形成された他の部位より小計の首部63を備えている。そして、薬剤容器本体6の開口部62から首部63は同一内径にて延びるゴム栓7の容器内進入部72を収納する収納部となっている。
【0061】
容器本体6の形成材料は、合成樹脂製外筒2にて説明したものが好適に使用できる。また、収納される医療用液体8としては、上述したプレフィルドシリンジにて説明した医療用液体8が好適に使用される。
【0062】
封止部材であるゴム栓7は、図5および図6に示すように、円盤状の本体部71と、本体部71の下面の中心より、本体部71の外径より小さい外径にて、下方に延びる容器内進入部72とを備える。本体部71の下面周縁部は、容器本体6の開口部の上面に接触する環状接触部を構成している。容器内進入部72は、ほぼ同一外径にて延びる筒状部と、筒状部の先端に設けられた縮径するテーパー部を備えている。進入部72の外周面は、薬剤容器本体6の開口部62の内周面と接触し、液密状態を形成する。また、本体部71の上面には、環状リブと、環状リブ内に形成された凹部73を備えている。
【0063】
なお、ゴム栓の形状は、例示であり、薬剤容器6の開口部62を液密にシール可能なものであればどのようなものでもよい。例えば、上述のものでは、容器内進入部72を備えているが、容器内進入部72を備えず、容器本体6の開口部62の外側を被覆する筒状部を有するものであってもよい。
【0064】
ゴム栓7の構成材料としては、弾性材料であることが好ましい。弾性材料としては、特に限定されないが、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、ニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、シリコーンゴム等の各種ゴム材料(特に、加硫処理したもの)が挙げられる。特に、弾性特性を有し、γ線滅菌、電子線滅菌、高圧蒸気滅菌が可能などの観点からジエン系ゴムが好ましい。
【0065】
また、この実施例の薬剤収納済薬剤容器10は、ゴム栓7が装着され薬剤容器本体6の開口部62の周縁部およびゴム栓7の周縁部を被覆する被覆部材9を備えている。被覆部材9としては、アルミ、熱収縮性フィルムなどにより形成され、ゴム栓、薬剤容器本体に密着していることが好ましい。被覆部材9としては、注射針等の穿刺針が穿刺可能なものであれば、ゴム栓7の上面全体を覆うものであってもよい。なお、この実施例では、被覆部材9は、環状部92と、薄い円盤状の上面部91を備え、環状部92の下端部は、容器本体61の開口フランジ部62の環状下面を被覆している。
また、薬剤容器10としては、内部が減圧されているものであってもよい。
【実施例
【0066】
(実施例1)
環状ポリオレフィンである商品名ゼオネックス480[日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度139℃、MFR20g/10分(280℃、荷重21N)]に、滑剤として、脂肪酸アミド系化合物であるエルカ酸アミドを添加して作成した環状ポリオレフィン組成物を用いて、図1および図2に示すような形状の外筒を金型を用いた射出成形により作成した。環状ポリオレフィン組成物における全滑剤含有は、1.0μg/gであった。作成した外筒に高圧蒸気滅菌を123℃、85分間行った。
【0067】
(実施例2)
環状ポリオレフィンである商品名ゼオネックス480[日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度139℃、MFR20g/10分(280℃、荷重21N)]に、滑剤として、脂肪酸アミド系化合物であるエルカ酸アミドを添加して作成した環状ポリオレフィン組成物を用いて、図1および図2に示すような形状の外筒を金型を用いた射出成形により作成した。環状ポリオレフィン組成物における全滑剤含有は、0.5μg/gであった。作成した外筒に高圧蒸気滅菌を123℃、85分間行った。
【0068】
(実施例3)
環状ポリオレフィンである商品名ゼオネックス480[日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度139℃、MFR20g/10分(280℃、荷重21N)]に、滑剤として、脂肪酸アミド系化合物であるエルカ酸アミドを添加して作成した環状ポリオレフィン組成物を用いて、図1および図2に示すような形状の外筒を金型を用いた射出成形により作成した。環状ポリオレフィン組成物における全滑剤含有は、1.5μg/gであった。作成した外筒に高圧蒸気滅菌を123℃、85分間行った。
【0069】
(実施例4)
環状ポリオレフィンである商品名ゼオネックス480[日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度139℃、MFR20g/10分(280℃、荷重21N)]に、滑剤として、金属石鹸系化合物であるステアリン酸カルシウムを添加して作成した環状ポリオレフィン組成物を用いて、図1および図2に示すような形状の外筒を金型を用いた射出成形により作成した。環状ポリオレフィン組成物における全滑剤含有は、1.0μg/gであった。作成した外筒に高圧蒸気滅菌を123℃、85分間行った。
【0070】
(比較例1)
環状ポリオレフィンである商品名ゼオネックス480[日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度139℃、MFR20g/10分(280℃、荷重21N)]に、滑剤として、脂肪酸アミド系化合物であるエルカ酸アミドを添加して作成した環状ポリオレフィン組成物を用いて、図1および図2に示すような形状の外筒を金型を用いた射出成形により作成した。環状ポリオレフィン組成物における全滑剤含有は、5.0μg/gであった。作成した外筒に高圧蒸気滅菌を123℃、85分間行った。
【0071】
(比較例2)
環状ポリオレフィンである商品名ゼオネックス480[日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度139℃、MFR20g/10分(280℃、荷重21N)]に、滑剤として、脂肪酸アミド系化合物であるエルカ酸アミドを添加して作成した環状ポリオレフィン組成物を用いて、図1および図2に示すような形状の外筒を金型を用いた射出成形により作成した。環状ポリオレフィン組成物における全滑剤含有は、0.1μg/gであった。作成した外筒に高圧蒸気滅菌を123℃、85分間行った。
【0072】
(参考例1)
環状ポリオレフィンである商品名ゼオネックス480[日本ゼオン株式会社製、ガラス転移温度139℃、MFR20g/10分(280℃、荷重21N)]に、滑剤として、脂肪酸アミド系化合物であるエルカ酸アミドを添加して作成した環状ポリオレフィン組成物を用いて、図1および図2に示すような形状の外筒を金型を用いた射出成形により作成した。環状ポリオレフィン組成物における全滑剤含有は、1.0μg/gであった。作成した外筒に25kGyの放射線照射滅菌を行った。
【0073】
(実験1)
ISO10993に準拠した方法にて不揮発性有機化合物の溶出試験を行った。具体的には、蒸留水100mLに実施例1ないし4、比較例1および2、および参考例1のそれぞれの外筒を10g浸漬し、高圧蒸気滅菌器に入れ、121℃にて1時間加熱した。そして、浸漬したRO水中の不揮発性有機化合物の総量を測定し、外筒1gあたり0.5μg以下であるかどうか確認した。0.5μg以下のものを適合、0.5μgを越えたものを不適合と判定した。結果は、表1に示す通りであった。
【0074】
【表1】
【0075】
(実験2)
実施例1ないし4、比較例1、2および参考例1について、射出成形時における金型キャビティからの脱型性が良好であるかどうか確認した。脱型時に、金型キャビティに残留樹脂があったものを不適とし、残留樹脂がなかったものを適合とした。結果は、表2に示す通りであった。
【0076】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のシリンジ用外筒は、以下のものである。
(1) タンパク質溶液製剤を充填するために使用される環状ポリオレフィンを主成分とする熱可塑性樹脂製のシリンジ用外筒であって、前記熱可塑性樹脂は、滑剤として、金属石鹸系化合物、有機脂肪酸エステル系化合物及び脂肪酸アミド系化合物の中から選ばれた少なくとも1種の化合物を含有し、かつ、前記熱可塑性樹脂における前記滑剤の含有量は、0.3~2.0μg/gであり、かつ、前記シリンジ用外筒は、高圧蒸気滅菌されている(ただし、タンパク質溶液製剤を充填して高圧蒸気滅菌されているものを除く)シリンジ用外筒。
【0078】
このシリンジ用外筒では、滑剤を含有するものの滑剤の含有量を熱可塑性樹脂における0.3~2.0μg/gとしている。このため、射出成形による良好な成形性を有し、かつ、内部に収納される薬剤への滑剤の溶出が少なく、また、内部にタンパク質溶液製剤を収納しても、滑剤の溶出物に起因するタンパク質への影響が少ない。
【0079】
また、上記の実施態様は、以下のものであってもよい。
(2) 前記熱可塑性樹脂における滑剤の含有量は、0.5~1.5μg/gである上記(1)に記載のシリンジ用外筒。
(3) 前記熱可塑性樹脂は、前記金属石鹸系化合物を含有し、前記金属石鹸系化合物は、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ミリスチン酸亜鉛のいずれかである上記(1)または(2)に記載のシリンジ用外筒
(4) 前記熱可塑性樹脂は、前記有機脂肪酸エステル系化合物を含有し、前記有機脂肪酸エステル系化合物は、モンタン酸部分ケン化エステルまたは高分子複合エステルである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のシリンジ用外筒
(5) 前記熱可塑性樹脂は、前記脂肪酸アミド系化合物を含有し、前記脂肪酸アミド系化合物は、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミドから選ばれた少なくとも1種の化合物である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載のシリンジ用外筒
(6) 前記熱可塑性樹脂は、滑剤として、少なくとも金属石鹸系化合物または脂肪酸アミド系化合物を含有し、かつ、前記滑剤中の前記金属石鹸系化合物または脂肪酸アミド系化合物の含有量は、前記滑剤の全量の30~90重量%である上記(1)または(2)に記載のシリンジ用外筒
(7) 上記(1)ないし(6)のいずれかに記載のシリンジ用外筒と、前記シリンジ用外筒内に収納されたガスケットと、前記シリンジ用外筒の先端部を封止する封止部材とを備えるシリンジ
(8) 前記シリンジは、前記シリンジ用外筒内に充填された医療用液体を有している上記(7)に記載のシリンジ
(9) 前記医療用液体は、薬剤である上記(8)に記載のシリンジ
(10)前記薬剤は、タンパク質溶液製剤である上記(9)に記載のシリンジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8