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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】積層板パックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 5/02 20060101AFI20220512BHJP
   C09J 4/04 20060101ALI20220512BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220512BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20220512BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
C09J5/02
C09J4/04
B32B15/08 K
B05D7/24 301P
B05D3/12 D
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2018530106
(86)(22)【出願日】2016-12-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2016002018
(87)【国際公開番号】W WO2017097404
(87)【国際公開日】2017-06-15
【審査請求日】2019-06-21
(31)【優先権主張番号】102015016338.8
(32)【優先日】2015-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】514013875
【氏名又は名称】キーンレ ウント シュピース ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100154612
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 秀樹
(74)【代理人】
【識別番号】100091867
【氏名又は名称】藤田 アキラ
(72)【発明者】
【氏名】ビョルン ベーカー
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】特許第4843162(JP,B2)
【文献】特開2016-097403(JP,A)
【文献】特開2005-171061(JP,A)
【文献】特開2001-009532(JP,A)
【文献】特開2003-264962(JP,A)
【文献】特表2015-519721(JP,A)
【文献】特開2006-111625(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0101926(US,A1)
【文献】特開昭60-018560(JP,A)
【文献】特開2006-334648(JP,A)
【文献】特開平05-304037(JP,A)
【文献】特開2005-161834(JP,A)
【文献】特開平08-012946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
B05D
H02K1/00-1/34;15/00-15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層板パックの製造方法であって、複数の積層板を平坦な出発生産物から切り出し、積層して前記積層板パックを形成させ、該積層板パック内で前記積層板を接着剤により互いに結合させるようにした前記方法において、
前記接着剤が耐高温性のシアノアクリレート接着剤であり、該シアノアクリレート接着剤を該接着剤のための湿潤層(14)上に塗布し、該湿潤層は、そのpH値が7より大きい範囲にあるように調整されており、前記耐高温性のシアノアクリレート接着剤が、少なくとも130℃の高い耐熱性を有していることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記湿潤層(14)が、ジプロピレングリコールと、蒸留水および/または脱ミネラル水および/または脱イオン水と、場合によっては少なくとも1つの添加物とから成っていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの添加物が、ダイヤモンドおよび/またはポリグリコールオイルおよび/または腐食防止剤および/またはアルカリ性添加物であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記湿潤層(14)が、30ないし75重量%の蒸留水および/または脱ミネラル水および/または脱イオン水と、25ないし70重量%のジプロピレングリコールとを含んでいることを特徴とする、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの添加物の割合が前記湿潤層(14)の0と20重量%の間にあることを特徴とする、請求項2から4までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記湿潤層(14)を前記出発生産物(1)上へ吹き付けることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記湿潤層(14)を刷毛塗りによって前記出発生産物(1)上へ塗布することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記湿潤層(14)を研磨により前記出発生産物(1)上へ塗布することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
前記湿潤層(14)を前記出発生産物(1)の片側全面に塗布することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
前記湿潤層(14)を前記出発生産物(1)の両側に塗布することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記湿潤層(14)を、前記出発生産物(1)の送り方向において前記積層板の切り出し工程として前記積層板を打ち抜くための打ち抜き装置(11)の手前で前記出発生産物(1)上へ塗布することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記湿潤層(14)を、前記積層板の切り出し工程として前記積層板を打ち抜くための打ち抜き工具に設けられた少なくとも1つの塗布ユニット(15)を用いて前記出発生産物(1)上へ塗布することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記耐高温性のシアノアクリレート接着剤のための塗布ユニット(12)が、前記積層板の切り出し工程として前記積層板を打ち抜くための打ち抜き工具に設けられていることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
前記耐高温性のシアノアクリレート接着剤と前記湿潤層(14)とを、前記積層板の切り出し工程としての打ち抜きの直前に前記出発生産物(1)上へまたは前記積層板の切り出し工程としての打ち抜きの直後に前記積層板(2)上へ塗布することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
前記出発生産物(1)が帯状である場合、前記湿潤層(14)を、前記出発生産物(1)の送り方向において被覆部(13)の前記出発生産物(1)へのコーティングの後であって巻取機(10)に巻き取る前に前記出発生産物(1)上へ塗布することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項16】
前記出発生産物(1)が帯状である場合、前記湿潤層(14)を、前記出発生産物(1)の送り方向において帯材を分割する前に前記出発生産物(1)に塗布し、その後前記積層板の切り出し工程として前記積層板を前記出発生産物(1)から打ち抜くことを特徴とする、請求項1から10までのいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念部に記載の積層板パックの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機械では、積層板を積層させた薄板パックを使用することが多い。積層板は、切り出した電気薄板または電気帯板から形成されている。通常、積層板の切り出しのために、工具を備えた打ち抜きプレスまたはレーザー切断機が使用される。出発生産物としての電気薄板/帯板は、通常、薄い電気絶縁層で被覆されており、その厚さはμmの範囲である。これらの絶縁層は、有機材料または無機材料から成っている。有機成分と無機成分とから成るハイブリッド被覆部も使用される。電気絶縁層のために塗料が使用されるが、塗料は、それぞれ切断方法およびパッケージ方法に対し好影響を与えるように調整されている。
【0003】
積層板パックは、電動機または発電機のような電気機械のステータおよびロータのために使用される。積層板パックの内部で互いに重なり合っている積層板が互いに固定結合されているようにするため、互いに重なり合っている積層板を接着剤を用いて互いに結合させることは知られている。電気絶縁層は、互いに重なり合っている積層板の確実な接着を保証しないことがある。接着剤の反応時間を延長させることもある。これは、たとえば打ち抜き装置の場合、打ち抜き装置は接着剤の解離後に方向調整されるので、工程数に影響する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、積層板パック内部での積層板間の確実な接着結合が保証され、接着剤の反応時間が積層板のために使用される出発生産物の影響をできるだけ受けないように、この種の方法を構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、この種の方法において、本発明によれば、請求項1の特徴部分によって解決される。
【0006】
本発明による方法では、電気帯板または電気薄板である平坦な出発生産物の上に湿潤層が塗布される。湿潤層は、耐高温性のシアノアクリレート接着剤が該湿潤層上で拡がって、好適な湿潤が生じるようにするためのものである。湿潤層は、積層板相互の確実で迅速な結合を可能にする用をも成す。湿潤層は、そのpH値が7よりも大きいように、すなわちアルカリ性範囲にあるように、且つ湿潤層のHO 割合が十分高いように調整される。これにより、接着剤の硬化時間または反応時間を短くすることができる。積層板の切り出しのためにたとえば打ち抜き装置が使用される場合には、接着剤の反応時間が短いために、非常に高い工程数を達成でき、その結果打ち抜き装置を高パワーで作動させることができる。耐高温性のシアノアクリレート接着剤は、特にエチルシアノアクリレートまたはアリルシアノアクリレートである。
【0007】
有利には、湿潤層は、ジプロピレングリコールと、蒸留水および/または脱ミネラル水および/または脱イオン水と、場合によっては少なくとも1つの添加物、たとえばポリグリコールオイルとから成っている。湿潤層のこのような組成には、湿潤層を切断工程の際の潤滑剤として用いることができるという更なる利点がある。また、打ち抜き工具に対し摩耗を減少させるように作用するので、打ち抜き工具は長い使用期間を有するに至る。
【0008】
さらに、このような湿潤層は、出発生産物を腐食から保護するという付加的な利点を持っている。
【0009】
有利な実施態様では、添加物として、たとえば人造多結晶ダイヤモンドおよび/またはポリグリコールオイルおよび/または腐食防止剤および/またはアルカリ性添加物を使用する。
【0010】
湿潤層は、ほぼ30と75重量%の間の蒸留水および/または脱ミネラル水および/または脱イオン水と、ほぼ25ないしほぼ70重量%のジプロピレングリコールおよび/または0ないし20重量%の添加物とを含んでいる。水の割合により湿潤装置のpH値を非常に簡単にそれぞれの使用例に適合させることができ、その結果接着剤が非常に短時間でプロセス的に確実に申し分なく反応するよう常に保証することができる。
【0011】
更なる有利な実施態様では、アルカリ性添加物はpH値の特定またはその調整およびその安定化を支援する。ハイブリッドイオンOHの濃度がオキソニウムイオンHの濃度を上回っていれば、水溶液はアルカリ性である。このとき、pH値は7よりも大きい。
【0012】
有利には、蒸留水のみ、または、脱ミネラル水のみ、または、脱イオン水のみを湿潤層のために使用する。すべての種類の水を湿潤層のために使用すれば、その全割合はほぼ30ないしほぼ75重量%の記載した範囲内にある。
【0013】
湿潤層内での1つの添加物または複数の添加物の割合は、0とほぼ20重量%の間であってよい。1つの添加物のみを使用する場合には、この添加物の割合に対応して水の割合および/またはジプロピレングリコールの割合または他の添加物の割合を対応的に減らすことができる。
【0014】
有利な実施態様では、湿潤層は出発生産物上への吹き付け方式で塗布される。これにより、湿潤層が出発生産物上へ一様に塗布されることが保証されている。この場合、出発生産物自体に対する要求は課されない。
【0015】
湿潤層は刷毛塗りによっても出発生産物上へ塗布することができる。刷毛塗りにより、出発生産物の表面がある程度クリーニングされ、その結果湿潤装置接着剤との間での確実な反応が保証されている。
【0016】
最後に、湿潤層は研磨によっても出発生産物上へ塗布することができる。
【0017】
液体中の固形添加物、たとえばダイヤモンドを用いて、研磨または刷毛塗りによって表面を滑らかにすることができる。有利な方法では、絶縁層のマイクロ範囲の表面先端部のみを削り取る。絶縁層の絶縁作用は維持される。
【0018】
湿潤層を出発生産物の全面に塗布するのが有利である。この場合、出発生産物全体が湿潤層によって覆われ、これにより最適な防蝕、打ち抜きプロセス時の優れた潤滑、接着剤による最適な湿潤が保証されている。
【0019】
湿潤層を平坦な出発生産物の両側に塗布すれば、出発生産物の防蝕は最適である。さらに、これにより、接着剤を出発生産物の両側のうちの一方の側に塗布することが可能である。
【0020】
有利な実施態様では、湿潤層を、出発生産物の送り方向において打ち抜き装置または適当な切断装置の手前で出発生産物上へ塗布する。この場合、次の接着剤の塗布は簡単に、しかも湿潤層の塗布による阻害なしに行うことができる。特に、湿潤層のための塗布ユニットと接着剤のための塗布ユニットとは、位置的に互いに切り離して配置されているので、構造的に簡潔に構成することができる。
【0021】
湿潤層を、打ち抜き工具に設けられた少なくとも1つの塗布ユニットを用いて出発生産物上へ塗布することも可能である。このケースでは、本発明による方法を実施するために使用するプラントを比較的コンパクトに構成することができる。この場合も、まず湿潤層を塗布し、その後で接着剤を湿潤層に塗布する。
【0022】
接着剤のために設けられている塗布ユニットは、有利には、打ち抜き工具に設けられていてよい。これには、接着剤の短い反応時間の点で利点がある。というのは、接着剤の塗布と、積層板の切り出しと、積層板パック上への配置との間にわずかな時間しか要しないからである。これによって、接着剤を塗布した積層板が積層板パックに対し押圧されるときにはじめて接着剤が反応するよう保証されている。
【0023】
積層板を製造する際のタクト数の点では、接着剤と湿潤層とを、出発生産物から切り出す直前または直後に積層板上へ塗布するならば、さらに有利である。
【0024】
出発生産物が帯状である場合、有利な方法態様は、湿潤層を、出発生産物の送り方向においてコーティングの後にして巻取機に巻き取る前に出発生産物上へ塗布することにある。これには、切り出し工程または打ち抜き工程の際に少量の接着剤を塗布すればよいという利点がある。
【0025】
他の有利な方法態様では、帯状の出発生産物を使用する場合、湿潤層を、出発生産物の送り方向において帯材をクラッキングする前に塗布する。
【0026】
本出願の対象は、個々の請求項の対象から明らかになるばかりでなく、図面および本明細書に開示したすべての記載および構成要件によっても明らかである。これらの記載および構成要件は、請求の範囲の対象ではなくても、個々にまたは組み合わせで技術水準に比べて新規なものである限りは、本発明にとって重要なものとして権利を主張する。
【0027】
本発明の更なる構成は、他の請求項、以下の説明および図面から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
本発明を、図面に図示した実施形態を用いて詳細に説明する。
【0029】
図1】本発明による方法を実施するためのプラントの概略構成図である。
図2】本発明による方法を実施するためのプラントの概略構成図である。
図3】本発明による方法を実施するためのプラントの概略構成図である。
図4】打ち抜き装置の制動ユニット内にある積層板パックの概略拡大断面図である。
図5】制動ユニットの領域における打ち抜き装置の断面図である。
図6】両側に湿潤層を備えている電気帯板または電気薄板の拡大断面図および拡大平面図である。
図7】電気帯板または電気薄板の第2実施形態の図6に対応する図である。
図8】電気帯板または電気薄板の第2実施形態の図6に対応する図である。
図9】工具上部部分が出発位置を占めている打ち抜き工具内にある図7および図8の電気帯板または電気薄板の概略図である。
図10】工具上部部分をその終端位置で示した図9に対応する図であり、湿潤層と工具下部部分との間の接触領域を拡大した図である。
図11】被覆部と湿潤層とを電気帯板上に塗布するための装置の概略構成図である。
図12】湿潤層を電気帯板上に塗布するための第2実施形態の図11に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1は、電気帯板1または電気薄板から公知の態様で積層板2を切り出す(図5)装置の概略構成図である。図5は、電気帯板1から積層板2を切り出す、打ち抜き装置11の雄型3を例示したものである。積層板は、打ち抜き装置11の竪穴4内で積層されて積層板パック5を形成する。竪穴4は打ち抜き装置11の雌型6を貫通して延びている。竪穴4内には公知の態様で制動ユニット7が設けられ、該制動ユニット7はリング状に形成され、積層板2または積層板パック5に対し半径方向から制動力8を公知の態様で作用させる。この制動力8は、雄型3が打ち抜かれるそれぞれの積層板2を十分な圧力で竪穴4内にある積層板パック5を押圧できる程度の大きさであり、その結果互いに重なり合っている積層板2を後述する態様で互いに固定結合させることができる。図5には、積層板パック5内部で互いに隣接しあっている積層板2の間に接着点9があり、これら接着点9を介して、互いに隣接しあっている積層板2を互いに固定結合させる構成が例示してある。
【0031】
接着結合に加えて、互いに重なり合っている積層板2は形状拘束的に互いに結合されていてもよく、このためたとえば積層板から押し出された隆起部または部分的に打ち抜かれた舌片が使用され、これら隆起部または舌片は、それぞれ隣り合っている積層板の対応する凹部または繰り抜き部に係合する。
【0032】
積層板パック5は、電動機および発電機のロータおよび/またはステータを製造するために使用される。
【0033】
図1から明らかなように、電気帯板1は、自らの軸線のまわりに回転可能な巻取機10に巻回されている。巻取機10から巻き戻された電気帯板1は矯正機(図示せず)によって案内され、矯正機により電気帯板1は次の打ち抜きプロセスのために方向を矯正される。矯正機を通過した後、電気帯板1は打ち抜き装置11内へ到達し、該打ち抜き装置11内で前述した態様で電気帯板1から複数の積層板2が打ち抜かれる。
【0034】
打ち抜き装置11内へは、2つまたはそれ以上の電気帯板1を互いに横に並べて誘導することもでき、その結果個々の電気帯板1から複数の積層板2を同時に打ち抜くことができる。さらに、電気帯板1において複数の積層板2を1つの軌道で打ち抜くことができるばかりでなく、たとえば2つの軌道で打ち抜くこともできる。
【0035】
打ち抜き装置11は、1つまたは複数の対応する打ち抜き工具を雄型3の形態で備えている。打ち抜き工具によって打ち抜かれた積層板2は前述のように竪穴4内へ到達し、打ち抜き直後に雄型3によって積層板2がこの竪穴4内へ押し込められる。竪穴4は積層板パック5のための受容部を形成している。制動ユニット7は、積層板2がそのエッジでもって摩擦で竪穴4の内壁に当接するようにするために用いられ、その結果積層板が竪穴4から落下することはない。各打ち抜き工程では、それぞれ打ち抜かれた積層板2が下方へ押されて、すでに竪穴4内にある積層板の上に載置される。竪穴4内へは(図示していない)支持雄型が突出し、支持雄型上に積層板2が積層されて積層板パック5が形成される。各打ち抜き工程により支持雄型は歩進的に下方へ移動し、その結果それぞれ打ち抜かれた積層板2は、次に打ち抜かれる積層板2を確実に竪穴4内へ押し込めることができる程度の距離で下方へ竪穴4内へ移動する。
【0036】
複数の電気帯板1を打ち抜き装置11を通じて同時に誘導する場合、それぞれの電気帯板1に1つの竪穴4が付設されているのが有利であり、その結果打ち抜き装置11内で複数の積層板パックを互いに横に並べて同時に打ち抜くことができる。しかし、打ち抜き装置11内に1つの竪穴4だけを設け、この竪穴に、異なる電気帯板1から打ち抜かれた積層板2を、搬送機構を用いて、たとえば回転ユニットを用いて、竪穴4の上方の領域へ誘導し、その後竪穴4内へ押し込める可能性もある。このような搬送機構は、特に、互いに横に並んでいる複数の軌道で1つの電気帯板1から複数の積層板2を打ち抜く場合に有利である。この場合には、互いに横に並んでいる積層板2を、このような搬送機構を用いてただ1つの竪穴4内へ搬入することができる。
【0037】
積層板パック5内部では、互いに重なり合っている積層板2を接着剤によって互いに固定結合させる。図1に例示した実施形態の場合、接着剤は塗布ユニット12を用いて積層板2を打ち抜く前に公知の態様で電気帯板1上に塗布される。接着剤は種々の態様で電気帯板1上へ塗布することができる。たとえば吹き付けにより非接触式に、或いは、ローラ、ロール等を用いて被着させることによって塗布することができる。この場合、接着剤は平面状に、しかし点状または帯状に電気帯板1上に塗布することができる。積層板2のサイズによっては、積層板パック5内部で積層板2を互いに固定結合させるには異なる量の接着剤が必要である。有利には、接着剤は点状に電気帯板1上へ塗布される。
【0038】
接着剤として、耐高温性のシアノアクリレート接着剤を使用する。このような接着剤としては、エチルシアノアクリレートまたはアリルシアノアクリレートが考えられる。これらの接着剤は、迅速に重合し、短時間で硬化する、無溶媒型の、自然乾燥性の1成分接着剤である。これらのシアノアクリレート接着剤は、少なくとも130℃の、好ましくはほぼ150℃以下およびこれ以上の高い耐熱性を有している。
【0039】
アリルシアノアクリレートは、小さな負荷で比較的高い温度に短時間曝すことができる。接着部は、ほぼ2時間後に250℃以下の温度抵抗に達する。エチルシアノアクリレートも、負荷が比較的小さければ、比較的高温度で短時間使用することができる。
【0040】
電気帯板、または、積層板2の製造のために使用される電気薄板も、被覆部13を備えている(図6)。被覆部13は電気絶縁層を形成し、電気帯板1の両側に設けられている。電気絶縁層13は、μm範囲の非常に薄い厚さしか有していない。絶縁層13は、好ましくは、純有機材料または純無機材料から成っている。有機成分と無機成分とから成るハイブリッド被覆部も使用することができる。電気帯板1または電気薄板のためのこのような絶縁層は公知であり、したがってこれ以上詳細に説明しない。電気帯板1上には、この絶縁層13を形成させるため、積層板2の切断方法およびパッキングまたは積層に好影響を与える種々の特性を有することができる塗料が塗布される。
【0041】
シアノアクリレート接着剤が積層板パック5内で互いに重なり合っている積層板2の確実な結合を保証するようにするため、絶縁層13上に湿潤層14が塗布される。湿潤層は、シアノアクリレート接着剤を用いて好適な湿潤が達成されるように、表面上のpH値が>7であるように、水のOH 割合が優勢になるように、形成されている。湿潤層14の好適な湿潤性により、接着剤の滴は個別の滴を形成せずに、湿潤層14上に平面的に拡がる。これにより、積層板パック5内部で積層板2が確実に互いに固定結合されるよう保証されている。
【0042】
図1の実施形態の場合、湿潤層14は、巻取機10と打ち抜き装置11との間の領域において適当な塗布ユニット15を用いて電気帯板1の両側に塗布される。この塗布は、適当な媒体を用いた吹き付け、刷毛塗り、または研磨によって行うことができる。
【0043】
湿潤層14の形成のため、潤滑剤を援用する。潤滑剤は、ジプロピレングリコールおよび蒸留水および/または脱ミネラル水および/または脱イオン水を含んでいる。潤滑剤の有利な組成は、
30ないし75重量%の蒸留水および/または脱ミネラル水および/または脱イオン水
25ないし70重量%のジプロピレングリコール
である。
【0044】
使用例によっては、潤滑剤は付加的にポリグリコールオイルを含んでいてよく、その割合は0と20重量%の間でよい。ポリグリコールオイルが潤滑剤に含まれていれば、ジプロピレングリコールおよび/または蒸留水および/または脱ミネラル水および/または脱イオン水の割合を対応的に減らしてよい。
【0045】
ポリグリコールオイルとしては、特にポリエチレングリコール(PEG)、ポリアルケングリコール(PAG)、ポリプロピレングリコール(PPG)が考えられる。ポリグリコール値のpH値はアルカリ範囲にあり、すなわち7よりも上の範囲にある。湿潤層14のpH値がアルカリ範囲にあるので、好適な湿潤性とともに、隣接しあっている積層板2の申し分のない接着が達成できるばかりでなく、硬化時間が非常に短くなる。これにより、積層板2または積層板パック5の形成時に高い連続生産量を達成できる。湿潤層14を使用することにより、ほぼ1秒の硬化時間を達成できる。
【0046】
さらに、付加的な潤滑剤は更なる有利な特性を持っている。すなわち潤滑剤は打ち抜きプロセスで工具寿命を向上させるために使用できる。加えて、潤滑剤は打ち抜きプロセスの冷却にも用いられる。
【0047】
したがって、上述の潤滑剤を使用して組み合わせることで、打ち抜き工具の効率的な摩耗減少、冷却作用による打ち抜きプロセスでの省エネの改善が得られる。
【0048】
上述した潤滑剤は水溶性であり、その結果処理が容易である。また、湿潤層14は腐食防止剤として作用する。電気帯板1または電気薄板も、数週間後も腐食を示さない。
【0049】
さらに、上述した潤滑剤は優れた粘度指数を有している。潤滑剤の粘度は、温度が上昇してもわずかしか低下せず、その結果比較的高温でも不変の特性を保証する。
【0050】
潤滑剤は、前述のように脱イオン水または脱ミネラル水も含んでいる。完全脱塩水も使用できる。脱ミネラル水は、通常の水道水からイオン交換器を用いて非常に簡単に得ることができる。
【0051】
完全脱塩水をポリグリコールオイルに対する添加物として使用する場合、伝導性の測定によって純度が測定される。このために必要な伝導性測定器は公知である。S/cmまたはμS/cmで測定した伝導性が少なければ少ないほど、水に含まれる不純物は少ない。
【0052】
最適な耐腐食性および優れた潤滑特性を達成するため、電気帯板1はその上面および下面の全体にわたって湿潤層14によって覆われる。打ち抜き装置11の打ち抜き工具は、平面的な塗布により湿潤層14によって潤滑され、冷却される。湿潤層14は、打ち抜き工程の際に適当な打ち抜き工具によって断面にわたって電気帯板1内または電気薄板内で分割され、これによって断面は腐食から保護されている。
【0053】
図7図8は、摩耗作用のある充填物または固形物16(たとえばダイヤモンド粒子)を有する湿潤層14の概略構成図である。充填物16は湿潤層14内に配分して設けられている。充填物16の添加により、上述した湿潤層14の利点に加えて、積層板2の表面粗さの最適化、すなわち粗さの低減が得られる。この最適化または低減化は、図9ないし図10を用いて説明するような打ち抜きプロセスの際に生じる。図7の実施形態では、充填物16は湿潤層14からわずかに突出し、他方図8の実施形態では、湿潤層14内に完全に埋設されている。
【0054】
図9は、打ち抜き装置11の工具上部部分17の案内板と工具下部部分18との概略構成図である。両工具部分17,18はそれぞれ平坦な押圧側面19,20を有している。
【0055】
両側面に設けられた湿潤層14と、その中にある充填物16とを備えた電気帯板1または電気薄板も、工具下部部分18の押圧側面20上に載置されている。工具上部部分17は電気帯板1から感覚を有している。工具上部部分は、矢印方向21(打ち抜き方向)において下方へ、工具下部部分18の方向へ移動する。湿潤層14内の充填物16は、打ち抜きプロセスの間、電気帯板1を固持する。これは、図10に工具下部部分18の拡大図で示したように、湿潤層14の上面から部分的に突出している充填物16が押圧側面20の粗さのために工具下部部分18の該押圧側面20に掛止されるためである。同様に、充填物16は工具上部部分17の押圧側面19の粗い先端部にも掛止される。
【0056】
工具上部部分17の上述した案内板は、打ち抜き工具自体の中に設けられていてよい。しかし、基本的には、案内板を打ち抜き工具から切り離して打ち抜き装置11内に設ける可能性もある。
【0057】
方法に関わる図1の実施態様では、接着剤を塗布する前に湿潤層14を塗布ユニット15を用いて電気帯板の両側に塗布する。湿潤層14の付加的な潤滑剤であるポリグリコールオイルは、すべての打ち抜き操作において好適な潤滑特性が発揮されるようにするためのものである。さらに、電気帯板1の両側に湿潤層14を設けることにより、該湿潤層14が塩基性であるために、再現可能な、プロセスを確実にする、シアノアクリレート接着剤の反応が保証される。打ち抜き工程の際に電気帯板1に生じる断面は、前述のように湿潤剤によって覆われ、その結果これら断面は腐食から保護されている。
【0058】
図1の実施形態では、接着剤のための塗布ユニット12は打ち抜き工具に設けられているが、図2の実施形態では、湿潤層14のための塗布ユニット15も接着剤のための塗布ユニット12と一緒に打ち抜き工具に設けられている。塗布ユニット15により、湿潤層14は、巻取機10によって巻き戻される電気帯板1の両側に塗布される。これにより、シアノアクリレート接着剤が確実に反応できるよう保証されている。
【0059】
図3は、湿潤媒体と接着剤との塗布を打ち抜き装置11の制動ユニット7の内部で行うようにした他の実施形態を示している。この実施形態では、打ち抜かれた積層板2に対しまず湿潤層14を塗布し、次に接着剤を塗布する。湿潤層14は、打ち抜きによって積層板に発生する断面にも高い耐腐食性を提供する。湿潤層14上では、シアノアクリレート接着剤を再現可能に且つプロセス安定に反応させることができる。図3でも、接着剤用の塗布ユニット12と湿潤剤用の塗布ユニット15とは概略的にしか図示されていない。電気帯板1は巻取機10によって巻き戻される。
【0060】
図4は、制動ユニット7の内部にある積層板パック5の概略図である。制動ユニット7内には少なくとも1つの冷却循環系22が収納されており、該冷却循環系を介して冷却媒体23が搬送されて、積層板パック5を冷却するようになっている。冷却媒体はタンク24内にある。制動ユニット7内で積層板パック5は前述の態様で形成されるので、積層板2または積層板パック5を冷却し、さらにシアノアクリレート接着剤を活性化させるために十分な時間が提供される。積層板2は、積層板パック5が制動ユニット7から取り出されるときには、互いに確実に固定結合されている。
【0061】
図11は、湿潤層14を電気帯板1上へ塗布するのを可能にする装置の概略構成図である。電気帯板1は、巻取機10’に巻回されて供給される。電気帯板1は、概略を図示した矯正機25によって案内され、該矯正機25により電気帯板1は公知の態様で方向を矯正される。次に、電気帯板1はコーティング機構26内へ到達し、該コーティング機構26内で電気帯板1上に被覆部13(図6)が両側に塗布される。電気帯板1の送り方向においてコーティング機構26の後方には、少なくとも1つの塗布ユニット15があり、該塗布ユニット15を用いて被覆部13上に前述の態様で湿潤層14が塗布される。塗布ユニット15は、電気帯板1の両側に湿潤層14を塗布するように設けられている。次に、被覆部13と湿潤層14とを備えた電気帯板1を巻取機10へ巻き取る。その後電気帯板を打ち抜き装置11へもたらし、該打ち抜き装置11を用いて前述の態様で積層板2を打ち抜き、積層して積層板パック5を形成させる。
【0062】
図12は、電気帯板1を巻取機10’から巻き戻し、クラッキング機構27によって案内する。図11の実施形態とは異なり、電気帯板1はすでに被覆部13を備えている。クラッキング機構27内で電気帯板1は公知の態様でその長さにわたり分割される。このようにして生じた複数の電気帯板1は両側をコーティングされており、湿潤層14を備え、それぞれ巻取機10へ巻き取られる。巻取機10を打ち抜き装置11のほうへもたらし、該打ち抜き装置11を用いて前述の態様で積層板2を打ち抜き、積層板パック5を形成させる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12