(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】バルブシートリング
(51)【国際特許分類】
B22F 7/00 20060101AFI20220512BHJP
B22F 7/06 20060101ALI20220512BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20220512BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20220512BHJP
B22F 3/15 20060101ALI20220512BHJP
C22C 1/05 20060101ALI20220512BHJP
C22C 32/00 20060101ALI20220512BHJP
C22C 1/10 20060101ALI20220512BHJP
F01L 3/02 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
B22F7/00 Z
B22F7/06 A
B22F3/24 F
B22F3/24 C
B22F1/14 500
B22F3/15 M
C22C1/05 E
C22C32/00 B
C22C1/10 J
F01L3/02 F
(21)【出願番号】P 2018558729
(86)(22)【出願日】2017-05-24
(86)【国際出願番号】 EP2017062681
(87)【国際公開番号】W WO2017202998
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-03-04
(31)【優先権主張番号】102016109539.7
(32)【優先日】2016-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517434910
【氏名又は名称】ブライシュタール-プロダクションズ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー
【氏名又は名称原語表記】Bleistahl-Produktions GmbH & Co KG.
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】ケーラー,エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】エムデ,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ヒュンシェ,イングヴァル
(72)【発明者】
【氏名】ハメルマン,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】ブレッキンク,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】セイファース,アンナ
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-528053(JP,A)
【文献】特表2001-500567(JP,A)
【文献】特開2015-127520(JP,A)
【文献】特開2012-251177(JP,A)
【文献】特開平07-317512(JP,A)
【文献】特開平10-266816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-8/00
F01L 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア層(2)と機能性層(3)とを有するバルブシートリング(1)であって、
前記キャリア層(2)は、0.10~20重量%の固化用成分を含む固化された第1の銅マトリックスからなり、ここで重量%は該第1の銅マトリックスを基準とし、
前記機能性層(3)は、0.10~20重量%の固化用成分と5~35重量%の1つ以上の硬質相とを含む固化された第2の銅マトリックスからなり、ここで重量%は該第2の銅マトリックスを基準とし、
前記固化用成分は、Al
2
O
3
、Y
2
O
3
、およびTiO
2
から選択される酸化物、またはCr
2
Nb、Cu
5
Zr、Cr
2
Zr、Ni
2
Si、Ni
3
Si、Ni
31
Si
12
、およびCuZrから選択される金属間相である、バルブシートリング。
【請求項2】
前記
固化用成分が、Al
2O
3、Y
2O
3、およびTiO
2から選択される
酸化物である、請求項1に記載のバルブシートリング。
【請求項3】
前記固化用成分がAl
2O
3
である、請求項1に記載のバルブシートリング。
【請求項4】
前記硬質相が、鉄、コバルト、またはニッケル
ベースの合金化粉末から形成されたもの、
あるいは炭化タングステン、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化クロム、窒化チタン、窒化クロムおよび立方晶窒化ホウ素から選択されるセラミック材料から形成されたものである、請求項1から
3のいずれか一項に記載のバルブシートリング。
【請求項5】
前記硬質相が、
モリブデン、ケイ素およびクロムを含むコバルトベースの合金化粉末から形成されたものである、請求項
4に記載のバルブシートリング。
【請求項6】
前記機能性層が、0.1~5重量%の固体潤滑剤を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載のバルブシートリング。
【請求項7】
前記固体潤滑剤が、MnS、MoS
2、WS
2、CaF
2、または六方晶BNである、請求項
6に記載のバルブシートリング。
【請求項8】
前記キャリア層(2)と前記機能性層(3)との間の境界線が、水平に対して0°~65°の角度で延在しており、前記キャリア層(2)が、該リングの外側に向かって拡張している、請求項1から
7のいずれか一項に記載のバルブシートリング。
【請求項9】
前記境界線が、水平に対して35°と65°との間の角度で延在している、請求項
8に記載のバルブシートリング。
【請求項10】
前記キャリア層(2)の熱伝導率が、500℃において120W/mK以上である、請求項1から
9のいずれか一項に記載のバルブシートリング。
【請求項11】
前記キャリア層(2)の熱伝導率が、500℃において220W/mK以上である、請求項
10に記載のバルブシートリング。
【請求項12】
前記機能性層(3)の熱伝導率が、500℃において70W/mK以上である、請求項1から
11のいずれか一項に記載のバルブシートリング。
【請求項13】
請求項1から
12のいずれか一項に記載のバルブシートリングの製造方法であって、
(a)キャリア層用の粉末および機能性層用の粉末をそれぞれ別々に混合する工程、
(b)前記混合したキャリア層用の粉末を、成形ダイに充填する工程、
(c)前記工程(b)の後に、前記混合した機能性層用の粉末を、前記成形ダイに充填する工程、
(d)前記工程(c)の後に、前記ダイの中の粉末を圧縮する工程、
(e)前記工程(d)の後に、前記圧縮された粉末を焼結する工程、および
(f)焼結されたリングに、熱的もしくは機械的な後処理を施す工程、
を含む、方法。
【請求項14】
前記工程(c)の前に、前記充填されたキャリア層(2)の粉末を予備圧縮する工程をさらに含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(e)が、熱間静水圧処理(HIP)を含む、請求項
13または
14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程(e)の後に、前記粉末が事後圧縮および/または事後焼結される、請求項
13から
15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記焼結する工程が、850℃以上の温度で行われる、請求項
13から
16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記工程(d)における圧縮が、冷間静水圧プレス(CIP)によって行われる、請求項
13から
17のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャリア層および機能性層であって、それぞれが非常に高い熱伝導率を呈する各層を有する、バルブシートリングに関するものである。キャリア層および機能性層はそれぞれ、銅ベースを有する。本発明は、特に、粉末冶金法により作製されたバルブシートリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記で最初に述べた種類のバルブシートリングは、たとえば、特許文献1から知られている。この特許文献1には、内燃機関のための、CoおよびMo構成成分を伴う銅含浸多層バルブシートリングが記載されている。
【0003】
原理上、この先行技術に係るバルブシートリングは、優れた強度を呈するという点において利点を有する。この利点は、とりわけ2つの異なる材料層が設けられていることに起因しており、その場合におけるキャリア材料は、十分な強度値を有し、一方、機能性材料は、耐摩耗性等の封止機能に欠かせない特性を有する。
【0004】
しかしながら、そのような上記に述べた種類の先行技術に係るバルブシートリングは、その熱伝導率特性の貧弱さのため、ますます増大する内燃機関の要求にもはや応えることができないという点において不利である。従来型のキャリア材料の熱伝導率は、一般に、45W/mK未満である。高い熱伝導率は、バルブ温度を下げるのに役立ち、環境に優しい動作に寄与する。
【0005】
バルブシートリングの熱伝導率を改善するために、粉末冶金法により作製されたリングに、銅を含浸させることが知られている。銅の含有は熱伝導率を増大させるが、材料の細孔が銅を吸収する収容量は限られている。
【0006】
特許文献2より、バルブシートリングが、熱伝導率に関して著しく改善されたことが知られている。それらのリングは、キャリア材料内において増大させられた銅含有量を有し、かかる増大させられた銅含有量は、キャリアマトリックス内に銅を合金化することにより、焼結された銅粉末を導入することにより、および含浸させられた銅により、実現される。銅の含有量は、キャリアマトリックスの最大40% w/wまでを占め得る。この材料によれば、最大80W/mKまでの熱伝導率が実現され得る。機能性層内では、増大させられた銅含有量のために、約50W/mKの最大熱伝導率を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-145720号公報
【文献】独国特許出願公開第102012013226号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の材料および方法では、熱伝導率のさらなる増大をもたらすことは、もはや不可能である。とりわけキャリア材料について、より高い熱伝導率を有する材料への変更がされなくてはならない。
【0009】
従来のバルブシートリングに係る別の1つの問題は、シリンダーヘッド内への熱放散に関する問題である。この問題は、熱流の最適化を必要とし、それは一方では、シリンダーヘッド上におけるバルブシートリングの接触面、とりわけシリンダーヘッドに対するキャリア材料の接触に依存し、他方では、材料の構造にも依存する。材料構造における障害のみならず、高い多孔性も、良好な熱流に対しては悪影響を与える。
【0010】
しかしながら、原則としては、キャリアマトリックスと機能性層とを含むバルブシートリングの二層構造は、その価値を示してきた。とりわけ、かかる二層構造は、高い熱伝導率を有するキャリアマトリックスを介して、熱が適切に放散されることを可能とする。しかしながら、機能性コーティングに使用される従来の材料をそのまま用いたのでは、改善可能性は出し尽くされていた。
【0011】
ここで生じている問題は、機能性層からシリンダーヘッド内への熱放散である。機能性層自体は、シリンダーヘッドとの接触面として限られた接触面しか有さず、そのため、この点において熱が累積し得る。この理由のため、キャリア層を介したシリンダーヘッド内への熱放散を許容する必要、すなわち、一方では機能性層とキャリア層との間の接触面を、さらに他方ではキャリア層とシリンダーヘッドとの間の接触面を、熱の伝達に利用する必要がある。この点において、材料の熱伝導率に関し、それらの材料を互いに整合させることに意義がある。
【0012】
機能性層は通常、硬質相を含有し、この硬質相は、熱伝導率を著しく減少させる。一般的には、50W/mK以下の熱伝導率が実現される。
【0013】
かかるバルブシートリングの個々の層に対しては、銅は、高い熱伝導率を有する材料として提供される。しかしながら、純粋な銅自体は、その延性および低い強度のため、目的に合っていない。
【0014】
必要な硬度および強度を有する銅合金は、多くの量のベリリウムを含んでいる。ベリリウムは、有毒性の高い金属であり、モーターレース等の特殊な用途を除いては、可能であれば使用されるべきでない金属である。加えて、酸化アルミニウムが、固化用/強度向上用の添加物として知られている。
【0015】
本発明の目的は、上記で述べた種類のバルブシートリングであって、その材料を通じて顕著に高められた熱伝導率特性をもたらすバルブシートリングを、提供することである。同時に、この材料は、高い熱流量を許容するべきである。さらに、バルブシートリングは、密閉性、寸法精度および強度に関する通例的な要求も、満足するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的は、粉末冶金法により作製される上記で述べたタイプのバルブシートリングであって、そのバルブシートリング中のキャリア層が、0.10から20% w/wの固化用/強度向上用成分を含む固化された銅マトリックスからなり、さらに機能性層も、5から35% w/wの硬質相(好ましくは5から25% w/wの硬質相)を含む固化された銅マトリックスからなるような、バルブシートリングを提供することにより達成される。
【0017】
キャリア層は、基本的には、シリンダーヘッドに用いられる材料の熱伝導率を上回る熱伝導率、とりわけ500℃において120W/mKを超える熱伝導率を有する。機能性層は、シリンダーヘッド材料の熱伝導率、すなわち500℃において50W/mKを超える(好ましくは70W/mKを超える)熱伝導率に、可能な限り近くなる熱伝導率を有するべきである。しかしながら、本発明により提案されるように、このことは他の材料を用いても実現することができる。
【0018】
キャリア層と機能性層とに使用される固化用成分は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0019】
本発明により提案されるバルブシートリングは、ベースを形成するキャリア層に、機能性層が重畳されている、いわゆる二層バルブシートリングである。本発明によれば、キャリア層は、1つ以上の固化用成分を0.10から20% w/w、好ましくは0.25から15% w/w含む、固化された銅マトリックスからなる。固化用成分としては、酸化物および金属間相が特に適している。
【0020】
たとえば、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、および酸化イットリウムが、固化用酸化物として使用され得る。加えて、希土類金属の酸化物や、二酸化チタンも、目的に適している。
【0021】
好ましい固化用成分は、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、および酸化チタン(TiO2)であり、これらは、0.1% w/wと2.5% w/wとの間の範囲であることが好ましい量において、銅に添加され得る。そのような少量の添加でも、銅の高温強度を増大させるには既に十分であり、そして同時に、熱伝導率をわずかしか低下させない。金属間相は、特に、Cu、Cr、Nb、Ni、ZrおよびSiに基づくものとされる。これに関連する例としては、Cr2Nb、Cu5Zr、Cr2Zr、Ni2Si、Ni3Si、Ni31Si12、およびCuZrが挙げられる。そのような金属間相は、冷却中において、過飽和マトリックスからの沈殿によって、微細分散した形態で形成される。
【0022】
好適なのは、クロムおよびニオブの金属間相、たとえばCr2Nbであって、これはたとえば、2% w/wと15% w/wとの間の範囲の量で使用することができる。0.5% w/wと5% w/wとの間の量のクロムおよびジルコンも、類似の利点をもたらす。
【0023】
別の好適な成分は、Ni2Si、Ni3SiまたはNi31Si12のようなニッケル-ケイ素相であり、これはたとえば、0.5から5% w/wの量とされる。
【0024】
最後に、Cu5ZrまたはCuZrのような銅-ジルコニウム相を、5% w/wまでの量で用いることも、所望の固化をもたらす目的に資する。いずれの場合においても、銀も添加されてもよく、かかる銀の添加は、熱伝導率にプラスに寄与するという利点を有する。銀は、10% w/wまでの量で添加され得る。
【0025】
上記で述べたような固化された銅マトリックスは、機能性層にも採用されるが、このマトリックスにはさらに、5から35% w/w、好ましくは5から25% w/wの量で、硬質相が付与される。かかる硬質相は、たとえば合金化粉末として銅粉末と混合され、それにより、合金化粉末は金属間相を形成し得る。硬質相の割合は、機能性層の固化された銅マトリックスの重量を基準としたものである。
【0026】
硬質相は、特に、鉄、ニッケルまたはコバルトに基づくものであってもよい。炭化物、酸化物セラミック、または窒化物セラミックも採用され得る。必須の点として、硬質相は、固化された銅マトリックス内に包含されており、必要な耐摩耗性を付与する。
【0027】
たとえば、既知の鉄ベースの硬質相が、コバルト、炭素、モリブデン、バナジウムおよびタングステンと共に、硬質相として使用され得る。あるいは、コバルト硬質相が、モリブデン、ケイ素およびクロムと共に、さらに必要であればニッケルとも共に、使用され得る。
【0028】
以下の炭化物材料は特に適している:炭化タングステン、炭化ケイ素、炭化チタンおよび炭化クロム。たとえば、酸化アルミニウムが、酸化物セラミックとして採用されてもよいし、窒化チタン、窒化クロムおよび立方晶窒化ホウ素が、窒化物セラミック材料として採用されてもよい。
【0029】
機能性層は、慣用される固体潤滑剤を含んでいてもよく、たとえば、MnS、MoS2、WS2、CaF2または六方晶窒化ホウ素を、固化された銅マトリックスを基準として通常0.1% w/wと5% w/wとの間の範囲の量において、含んでいてもよい。
【0030】
使用される材料の概要は、表1(キャリア材料)および表2(機能性材料のための硬質相)において見て取れる。
【表1】
【表2】
【0031】
銅マトリックスを固化するための好ましい材料はAl2O3であり、それにより、少量の使用でさえも、所望の固化を実現することができる。
【0032】
好ましい硬質相は、鉄、ニッケルまたはコバルトに基づくものであり、とりわけ、T400およびT800のようなトリバロイ(Tribaloy)型のものである。
【0033】
いずれの場合においても、本発明により提案されるバルブシートリングは、二層構造を有する。層間の境界線は、多かれ少なかれ水平な構成、すなわち、2つの層が互いに寄り添い、圧力および温度の影響下において接触領域内で結び付いている構成とされてもよい。しかしながら、最大65°までの角度、特に35°から65°までの角度を有する、境界層の傾斜構成であって、キャリア層が外側に向かって拡張し、したがって機能性層に対してのみならずシリンダーヘッドに対しても広い接触面を生成しているような構成が好ましい。特に好ましいのは、40°と55°との間の範囲の角度である。
【0034】
本発明のバルブシートリングのキャリア層は、500℃において120W/mK以上、好ましくは500℃において220W/mK以上の熱伝導率を有する。従来実現可能であった熱伝導率の3~4倍に匹敵する、500℃において300W/mKを超える熱伝導率も実現可能である。
【0035】
機能性層では、500℃において、70から250W/mKを超える熱伝導率を実現することができ、これもまた、これまで実現可能であった値よりもはるかに高いものである。
【0036】
熱伝導率を増大させるため、本発明に係るバルブシートリングでは、キャリア層内と機能性層内との両方において含浸が行われていてもよい。機能性層はさらに、その機能を促進するための他の添加物、たとえば、硫化モリブデン等の潤滑剤、またはモリブデンもしくはニオブ等の金属添加物を、含んでいてもよい。そのような添加物は、機能性層の重量を基準として、最大15% w/wまでの大きさのオーダで存在し得る。焼結される未処理圧縮体に対して粉末の形態で添加されるモリブデンおよびニオブは、表面酸化し、摩擦の低減を促進する。
【0037】
含浸には、たとえば銅合金が使用され得るが、銀および銀合金も使用され得る。
【0038】
本発明に係るバルブシートリングは、とりわけ、粉末冶金法により製造される。本発明により提案されるバルブシートリングは、いくつかの工程による関連粉末の圧縮および焼結を包含するプロセスに従って製造することができ、それらいくつかの工程とは、すなわち以下である:
- 粉末を混合する工程、
- キャリア層の粉末を、成形ダイに充填する工程、
- 必要であれば、キャリア層の粉末を予備圧縮する工程、
- 機能性層の粉末を、成形ダイに充填する工程、
- ダイの中の粉末を圧縮する工程、
- 粉末を焼結する工程、および
- 焼結されたリングに、熱的および/または機械的な後処理を施す工程。
【0039】
粉末の圧縮には、一軸加圧成形が適用されてもよいが、たとえば冷間静水圧プレス(CIP;cold isostatic pressing)も、代替策として可能である。
【0040】
焼結に続いて、熱間静水圧処理(HIP;hot isostatic process)が行われてもよいし、あるいはこの工程が置き換えられてもよい。焼結工程は、たとえば850℃以上の温度で行われる。
【0041】
最初の焼結工程後に粉末を再度圧縮して、必要であれば焼結を繰り返すことが推奨されるかもしれない。
【0042】
別途述べない限り、すべての重量の数値表示は、それぞれの層の重量に基づいている。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】本発明に係る1つのバルブシートリングの断面図
【
図2】本発明に係る別の1つのバルブシートリングの断面図
【
図3】本発明の範囲内にある異なる複数の材料の熱伝導率を示したグラフ
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【0045】
図1は、本発明により提案されるバルブシートリング1を断面図で示しており、このバルブシートリング1は、下側のキャリア層2と、その上に配された機能性層3とを有している。2つの層の間の境界線は、基本的に水平である。
【0046】
図2は、本発明に係るバルブシートリング1であって、キャリア層2と機能性層3との間に傾斜した境界線が存在するバルブシートリング1の、断面図である。したがって、キャリア層2は外側エッジの方向に拡張し、そうすることにより、周囲を囲むシリンダーヘッドとの接触面を増大させる。この結果、冷却されたシリンダーヘッド内への改善された熱流量が実現される。層同士の間には移行領域4が存在し、その移行領域4内において、キャリア層2と機能性層3との間に境界線が走っている。
【0047】
図3には、本発明の範囲内にある異なる複数の材料の熱伝導率の値が、異なる複数の温度において示されている。材料は、以下のとおりである:
1.酸化物により強化された銅からなるキャリア材料;
2.20%の硬質相を有する機能性材料;
3.30%の硬質相を有する機能性材料;
4.40%の硬質相を有する機能性材料。
【0048】
すべての機能性材料につき、キャリアマトリックスは、キャリア材料中のものと同様である。
他の実施形態
1. キャリア層(2)と機能性層(3)とを含むバルブシートリング(1)であって、
前記キャリア層(2)が、0.10から20% w/wの固化用/強度向上用成分を含む固化された銅マトリックスからなり、
前記機能性層(3)が、固化された銅マトリックスであって、該銅マトリックスを基準として5から35% w/wの1つ以上の硬質相をさらに含む固化された銅マトリックスからなる、
ことを特徴とするバルブシートリング。
2. 前記銅マトリックスの前記固化用成分が、酸化物、とりわけAl
2
O
3
またはY
2
O
3
であることを特徴とする、実施形態1に記載のバルブシートリング。
3. 前記銅マトリックスの前記固化用成分が、金属間相、とりわけ、Cu、Cr、Zr、Nb、Ni、および/またはSiを含む金属間相であることを特徴とする、実施形態1に記載のバルブシートリング。
4. 前記固化用成分が、Al
2
O
3
またはCr
2
Nbであることを特徴とする、実施形態1に記載のバルブシートリング。
5. 前記機能性層の前記硬質相が、鉄、コバルト、ニッケル、炭化物、酸化物、および/または窒化物に基づく硬質相であることを特徴とする、実施形態1から4のいずれかに記載のバルブシートリング。
6. 前記硬質相が、鉄、ニッケル、またはコバルトに基づく硬質相であることを特徴とする、実施形態5に記載のバルブシートリング。
7. 前記機能性層が、0.1から5% w/wの固体潤滑剤を含むことを特徴とする、実施形態1から6のいずれかに記載のバルブシートリング。
8. 前記固体潤滑剤が、MnS、MoS
2
、WS
2
、CaF
2
、または六方晶BNであることを特徴とする、実施形態7に記載のバルブシートリング。
9. 前記キャリア層(2)と前記機能性層(3)との間の境界線が、0°から65°の角度で延在しており、前記キャリア層(2)が、外側に向かって拡張していることを特徴とする、実施形態1から8のいずれかに記載のバルブシートリング。
10. 前記境界線が、35°と65°との間の角度で延在していることを特徴とする、実施形態9に記載のバルブシートリング。
11. 前記キャリア層(2)の熱伝導率として、500℃において120W/mK以上の熱伝導率を有することを特徴とする、実施形態1から10のいずれかに記載のバルブシートリング。
12. 前記キャリア層(2)の前記熱伝導率が、500℃において220W/mK以上であることを特徴とする、実施形態11に記載のバルブシートリング。
13. 前記機能性層(3)の熱伝導率が、500℃において70W/mK以上であることを特徴とする、実施形態1から12のいずれかに記載のバルブシートリング。
14. 粉末冶金法により製造されることを特徴とする、実施形態1から13のいずれかに記載のバルブシートリング。
15.
実施形態1から14のいずれかに記載のバルブシートリングの製造方法であって、
- 粉末を混合する工程、
- 前記キャリア層(2)の前記粉末を、成形ダイに充填する工程、
- 必要であれば、前記キャリア層の前記粉末を予備圧縮する工程、
- 前記機能性層(3)の前記粉末を、成形ダイに充填する工程、
- 前記ダイの中の前記粉末を圧縮する工程、
- 前記粉末を焼結する、もしくは前記粉末をHIPに供する工程、および
- 焼結されたリングに、熱的もしくは機械的な後処理を施す工程、
を特徴とする製造方法。
16. 前記粉末が、第1の前記焼結する工程の後に、事後圧縮および/または事後焼結されることを特徴とする、実施形態15に記載の製造方法。
17. 前記焼結する工程が、850℃以上の温度で行われることを特徴とする、実施形態15または16に記載の製造方法。
18. 前記圧縮が、CIPによって行われることを特徴とする、実施形態15から17のいずれかに記載の製造方法。
19. コーティングが設けられていることを特徴とする、実施形態1から14のいずれかに記載のバルブシートリング。
【符号の説明】
【0049】
1 バルブシートリング
2 キャリア層
3 機能性層
4 移行領域