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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】車両の制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/348 20060101AFI20220512BHJP
   B60K 23/08 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
B60K17/348 B
B60K17/348 Z
B60K23/08 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019102414
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020196298
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2021-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519196405
【氏名又は名称】株式会社IJTT
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【弁理士】
【氏名又は名称】柱山 啓之
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】濱中 好久
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 正幸
【審査官】畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-275031(JP,A)
【文献】特開平03-295445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/348
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前輪及び後輪を駆動する全輪駆動と後輪駆動とを切り替えると共に、後輪側に伝達される駆動力の一部を前輪側に可変分配する多板クラッチを有するトランスファーと、
前後輪の速度差に応じて前記多板クラッチの締結力を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、全輪駆動での車両走行中に、前記前輪の回転速度が低下し、これにより速度差が増加し、かつ、前記前輪の角加速度が所定の負の閾値以下になったとき、前記多板クラッチの締結力の増加を抑制するように前記多板クラッチを制御する
ことを特徴とする車両の制御システム。
【請求項2】
前記制御装置は、車両走行中に、前記前輪の角加速度が前記閾値以下になったとき、前記多板クラッチの締結力をゼロにするように前記多板クラッチを制御する
請求項1記載の車両の制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制御システムとしては、全輪駆動と後輪駆動とを切り替えると共に、後輪側に伝達される駆動力の一部を前輪側に可変分配する多板クラッチを有するトランスファーと、多板クラッチの締結力を制御する制御装置と、を備えたものが知られている。
【0003】
一般的に、制御装置は、前後輪の速度差に応じて多板クラッチの締結力を制御するように構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再公表WO2008/096438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の制御システムでは、低μ路での車両走行中に、例えば、前輪のみが先に低μ路から高μ路に進入した際に、前輪に伝達される駆動トルクが急激に増加して、前輪の車軸等の駆動系部品に負荷(ショックトルク)が発生する虞がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、前輪の駆動系部品に発生するショックトルクを抑制できる車両の制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様によれば、前輪及び後輪を駆動する全輪駆動と後輪駆動とを切り替えると共に、後輪側に伝達される駆動力の一部を前輪側に可変分配する多板クラッチを有するトランスファーと、前後輪の速度差に応じて前記多板クラッチの締結力を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、車両走行中に、前記前輪の角加速度が所定の閾値以下になったとき、前記多板クラッチの締結力の増加を抑制するように前記多板クラッチを制御することを特徴とする車両の制御システムが提供される。
【0008】
好ましくは、前記制御装置は、車両走行中に、前記前輪の角加速度が前記閾値以下になったとき、前記多板クラッチの締結力をゼロにするように前記多板クラッチを制御する。
【0009】
好ましくは、前記閾値は、負の値に設定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る車両の制御システムによれば、前輪の駆動系部品に発生するショックトルクを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】低μ路走行中の車両の左側面図である。
図2】低μ路から高μ路に進入したときの車両の左側面図である。
図3】車両の制御システムの全体構成図である。
図4】トランスファーの断面図である。
図5図4のA-A断面図である。
図6】制御装置の制御状況の一例を示すタイムチャートであり、(a)は前後輪の回転速度、(b)は前後輪の速度差、(c)は多板クラッチの締結力、(d)は前輪に伝達される駆動トルクを表す。
図7】制御装置の制御状況の一例を示すタイムチャートであり、(a)は図6のVII部の拡大図であり、(b)は(a)に示した前輪の回転速度に対応する角加速度を表す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。なお、後述する実施形態における各方向は、本実施の形態に係る車両の各方向に一致する。
【0013】
図1及び図2に示すように、車両1には、キャブオーバ型トラックが用いられる。但し、車両1は、キャブオーバ型トラック以外の車両であっても良い。符号2は、車両1の前輪を示し、符号3は、車両1の後輪を示す。また、符号RLowは、前後輪2,3との摩擦係数(μ)が低い低μ路を示し、符号RHiは、前後輪2,3との摩擦係数が高い高μ路を示す。
【0014】
図3に示すように、車両1は、FR車(フロントエンジン・リアドライブ車)ベースの4WD車(四輪駆動車)またはAWD車(全輪駆動車)である。車両前部に搭載されたエンジンEからの回転駆動力は、トランスミッションT/M及びトランスファー10(後述)を介して、プロペラシャフト4に伝達される。プロペラシャフト4に伝達された回転駆動力は、デフケース5内に収容されるデファレンシャルギア(図示せず)を介して、後輪3に伝達される。また、トランスミッションT/Mからの回転駆動力は、トランスファー10を介して、前輪駆動用のデファレンシャルギアの入力軸6に選択的に伝達される。
【0015】
前輪2及び後輪3には、それぞれの回転速度(単位時間当たりの回転数)を検出するための車輪速センサSが設けられる。車輪速センサSには、既存のアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の車輪速センサが用いられる。但し、車輪速センサSは、ABSの車輪速センサに限定されなくて良い。
【0016】
車両1の制御システム100は、多板クラッチ11を有するトランスファー10と、多板クラッチ11の締結力を制御する制御装置としての電子制御ユニット(ECU)50と、を備える。
【0017】
多板クラッチ11は、前輪2及び後輪3を駆動する全輪駆動と、後輪3のみを駆動する後輪駆動とを切り替えると共に、後輪3側に伝達される駆動力の一部を前輪2側に可変分配するように構成される。
【0018】
本実施形態では、前輪2側と後輪3側との駆動力分配比は、全輪駆動時に前輪2側に駆動力を最大に分配したときに、前輪2側と後輪3側の駆動力が同じ大きさになるように設定される(前輪側:後輪側=5:5)。また、後輪駆動のときには、前輪2側の駆動力がゼロ(前輪側:後輪側=0:10)になるように設定される。但し、駆動力分配比は、任意であって良く、例えば、全輪駆動時に前輪2側に駆動力を最大に分配したときに、前輪2側よりも後輪3側の駆動力が大きくなるように設定されても良い(例えば、前輪側:後輪側=4:6)。
【0019】
図4に示すように、トランスファー10は、トランスミッションT/Mに設けられるハウジング12と、ハウジング12内に回転自在に設けられる第1シャフト13と、第1シャフト13に設けられる内側回転部材14と、を備える。また、トランスファー10は、第1シャフト13に回転自在に設けられる第1スプロケット15と、第1スプロケット15に設けられる外側回転部材16と、内側回転部材14を外側回転部材16に隣接可能に接続する多板クラッチ11と、多板クラッチ11を駆動させるアクチュエータ17と、を備える。また、トランスファー10は、ハウジング12内に回転自在に設けられる第2シャフト18と、第2シャフト18に設けられる第2スプロケット19と、第1スプロケット15及び第2スプロケット19に掛け回されるチェーン20と、を更に備える。
【0020】
第1シャフト13の前端部は、トランスミッションT/Mの出力軸(図示せず)に接続される。また、第1シャフト13の後端部は、プロペラシャフト4(図3を参照)に接続される。一方、第2シャフト18の前端部は、前輪駆動用のデファレンシャルギアの入力軸6(図3を参照)に接続される。
【0021】
アクチュエータ17は、ハウジング12に固定されたカム機構21と、カム機構21を駆動する駆動装置22と、カム機構21と多板クラッチ11の間に介在される押圧部材23と、を備える。
【0022】
図4及び図5に示すように、カム機構21は、第1シャフト13の中心軸Cを中心として回動するセクターギア(扇型歯車)24を有する。カム機構21は、セクターギア24による回動を軸方向の運動に変えて、押圧部材23を前後方向に移動させるように構成される。
【0023】
駆動装置22は、エンコーダ付きのDCモータで構成される。駆動装置22の駆動軸22aには、ウォームギア25が設けられる。ウォームギア25は、カム機構21のセクターギア24に噛合される。すなわち、駆動装置22は、駆動軸22aの回転角度(位相)を変化させることで、セクターギア24を回動させる。これにより、カム機構21を介して押圧部材23が前後方向に移動されることで、多板クラッチ11の締結力が増減される。
【0024】
なお、アクチュエータ17は、任意の種類であって良く、例えば、駆動装置22として、エンコーダ無しのDCモータ、サーボモータ、ステッピングモータ、油圧モータ、電磁石が用いられても良い。
【0025】
ECU50は、CPU、ROM、RAM、記憶装置および入出力ポート等を備える。ECU50には、駆動装置22及び車輪速センサSが電気的に接続されている。なお、図示しないが、ECU50には、車両1の速度を検出するための車速センサ、アクセル開度を検出するためのアクセル開度センサ、エンジン回転数を検出するためのエンジン回転センサ等の各種センサ類が電気的に接続される。
【0026】
ECU50は、駆動装置22の駆動軸22aの回転角度(位相)を制御することで、アクチュエータ17を通じて多板クラッチ11の締結力を制御する。
【0027】
詳細は後述するが、本実施形態のECU50は、前後輪2,3(図1を参照)の速度差に応じて多板クラッチ11の締結力を制御する。また、ECU50は、車両走行中に、前輪2の角加速度が所定の閾値以下になったとき、多板クラッチ11の締結力の増加を抑制するように、具体的にはゼロにするように多板クラッチ11を制御する。閾値は、前輪2が低μ路RLowから高μ路RHiに進入したとき(図2を参照)に発生する角加速度の負の値に設定される。
【0028】
ECU50の詳しい制御内容について、図6及び図7に基づいて説明する。図6及び図7は、ECU50の制御状況の一例を示すタイムチャートである。
【0029】
図6(a)は、前後輪2,3の回転速度n(rpm)を表し、図6(b)は、前後輪2,3の速度差Δn(rpm)を表し、図6(c)は、多板クラッチ11の締結力F(N)を表し、図6(d)は、前輪2に伝達される駆動トルクT(N・m)を表す。なお、図6(a)中、実線nFは、前輪2の回転速度を表し、点線nLは、後輪3の回転速度を表す。
【0030】
一方、図7(a)は、図6(a)のVII部に示した前輪2の回転速度nFの拡大図であり、図7(b)は、図7(a)に示した前輪2の回転速度nFに対応する角加速度αを表す。
【0031】
また、これら図中において、時刻t1は、前輪2が低μ路RLowから高μ路RHiに進入した時点(図2を参照)を表す。また、時刻t1よりも前の期間は、前輪2が低μ路RLowから高μ路RHiに進入する前の低μ路走行中の期間(図1を参照)を表す。また、時刻t1よりも後の期間は、前輪2が高μ路RHiに進入した後、後輪3が高μ路RHiに進入する前の期間を表す。
【0032】
図6(a)及び図6(b)に示すように、ECU50は、車両1の走行中、車輪速センサSから送信された前輪2の回転速度nF及び後輪3の回転速度nLに基づいて、前後輪2,3の速度差Δn(Δn=nL-nF)を算出する。
【0033】
また、ECU50は、算出した前後輪2,3の速度差Δnに応じて多板クラッチ11の締結力Fを制御する。本実施形態では、ECU50は、前後輪2,3の速度差Δnが大きいほど、多板クラッチ11の締結力Fが大きくなるように多板クラッチ11を制御する。
【0034】
また、図7(a)及び図7(b)に示すように、本実施形態のECU50は、車両1の走行中、前輪2の回転速度nFに基づいて、前輪2の角加速度αを算出する。前輪2の角加速度αは、前輪2の回転速度nFの微分値として算出される。
【0035】
さて、図示例における時刻t1よりも前の低μ路走行中は、前後輪2,3が低μ路RLowで滑って、多板クラッチ11が締結(ON)される。ECU50は、前後輪2,3の速度差Δnがゼロになるように多板クラッチ11の締結力Fを制御して、全輪駆動により低μ路RLowを走行させる。
【0036】
一方、時刻t1において、前輪2が低μ路RLowから高μ路RHiに進入した時は、低μ路RLowで滑って空転された前輪2が高μ路RHiで急激にグリップし、前輪2の回転速度NFが急激に低下する。これにより、前後輪2,3の速度差Δnが増加すると共に、前輪2の角加速度αが負の閾値αT以下に低下する。
【0037】
このとき、ECU50は、前輪2が高μ路RHiに進入したと判断して、速度差Δnによる多板クラッチ11の制御を中断すると共に、多板クラッチ11の締結力Fをゼロにする制御を実行する。これにより、全輪駆動から後輪駆動に切り替わる。
【0038】
なお、図示例における時刻t1よりも後の期間では、後輪3がまだ低μ路RLowから高μ路RHiに進入していないので、後輪3の回転速度NLは殆ど低下しない。よって、ECU50は、多板クラッチ11の締結力Fをゼロにする制御を継続し、後輪駆動により車両1を走行させる。
【0039】
ところで、一般的なECUでは、図6(c)に一点鎖線F’で示すように、全輪駆動による低μ路走行中、前輪2のみが先に低μ路RLowから高μ路RHiに進入したときでも、依然として、速度差Δnによる多板クラッチ11の制御が継続される。
【0040】
しかしながら、この制御では、図6(d)の一点鎖線T’で示すように、前輪2への駆動トルクT’が急激に増加する可能性がある。その結果、前輪2の車軸やドライブシャフト等の駆動系部品にイナーシャによる負荷(ショックトルク)が発生する虞がある。
【0041】
一般的に、このショックトルクに対しては、例えば、駆動系部品の疲労強度を高くする対策がとられる。しかし、車幅や車高の関係上、駆動系部品の疲労強度を高くできない場合がある。
【0042】
また、その他の対策としては、全輪駆動のときに前輪側に最大に分配される駆動力が小さくなるように(例えば、前輪側:後輪側=2:8)、駆動力分配比を設定する手法が考えられる。しかし、この手法では、全輪駆動時の車両の走破性が低下するという問題がある。
【0043】
これに対して、本実施形態では、図7に示すように、前輪2が低μ路RLowから高μ路RHiに進入したことを、前輪2の角加速度αにより検知して、多板クラッチ11の締結力Fをゼロに制御する。これにより、全輪駆動から後輪駆動に瞬時に切り替えることができ、前輪2への駆動トルクTをなくすことができる。
【0044】
よって、本実施形態であれば、前輪2への駆動トルクTが急激に増加するのを抑えて、前輪2の車軸等の駆動系部品に発生するショックトルクを抑制できる。
【0045】
また、本実施形態によれば、前輪2の車軸等の駆動系部品の疲労強度を高くしなくても、部品の疲労を抑制できる。そのため、車幅や車高の関係上、駆動系部品の疲労強度を高くできない場合に、特に有利である。
【0046】
また、本実施形態によれば、全輪駆動のときに前輪2側に最大に分配される駆動力が小さくなるように、駆動力分配比を設定(例えば、前輪側:後輪側=2:8)しなくても、駆動系部品のショックトルクを抑制できる。そのため、前輪2側の駆動力分配比を高く(例えば、前輪側:後輪側=5:5)設定して、全輪駆動による車両1の走破性を向上できる。
【0047】
他方、上述した基本実施形態は、以下のような変形例またはその組合せとすることができる。下記の説明においては、上記の実施形態と同一の構成要素に同じ符号を用い、それらの詳細な説明は省略する。
【0048】
(第1変形例)
図示しないが、ECU50は、車両走行中、前輪2の角加速度αが閾値αT以下になったとき、多板クラッチ11の締結力の増加を抑制できれば、締結力Fがゼロよりも大きな値になるように制御しても良い。
【0049】
(第2変形例)
ECU50は、前輪2の回転速度に基づいて前輪2の角加速度を算出せずに、ABS等に搭載された角加速度センサから前輪2の角加速度を取得しても良い。
【0050】
(第3変形例)
第3変形例では、ECU50は、前輪2及び後輪3のブレーキが作動しているとき、或いは、後輪3の角加速度が所定の閾値以下のときは、前輪2の角加速度が閾値以下になったときでも、多板クラッチ11の締結力を減少する制御を実行しない。第3変形例によれば、ブレーキの作動により前輪2の角加速度が減少した場合に、前輪2が低μ路RLowから高μ路RHiに進入したと誤認するのを防止できる。
【符号の説明】
【0051】
1 車両
2 前輪
3 後輪
10 トランスファー
11 多板クラッチ
50 ECU(制御装置)
100 制御システム
F 多板クラッチの締結力
α 前輪の角加速度
αT 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7