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特許7072096樹脂成形金型、樹脂成形装置及びフィルム吸着方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-11
(45)【発行日】2022-05-19
(54)【発明の名称】樹脂成形金型、樹脂成形装置及びフィルム吸着方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/38 20060101AFI20220512BHJP
   H01L 21/56 20060101ALI20220512BHJP
【FI】
B29C33/38
H01L21/56 T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021028755
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520157093
【氏名又は名称】株式会社カナック
(73)【特許権者】
【識別番号】000146179
【氏名又は名称】エムテックスマツムラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】弁理士法人きさらぎ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 直一郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 正博
(72)【発明者】
【氏名】舩山 玄也
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-208868(JP,A)
【文献】特開平07-173507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形用のキャビティを形成するためのキャビティ凹部を型面に有する樹脂成形金型であって、
前記キャビティ凹部は、該キャビティ凹部の底部を構成する底面部と、該底面部を取り囲む側面部とを有し、
前記底面部は、リリースフィルムを吸着させることが可能な多孔質金属により形成されており、該リリースフィルムを該底面部上において面方向にスライドさせることができるよう、中央部における吸着力が周縁部における吸着力よりも弱くなるよう構成されている
ことを特徴とする樹脂成形金型。
【請求項2】
前記中央部における吸着力は、前記周縁部における吸着力の30%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形金型。
【請求項3】
前記底面部は、前記中央部に吸引率を低下させる吸引阻害加工が施されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形金型。
【請求項4】
前記吸引阻害加工は、前記底面部の前記中央部に施す放電加工である
ことを特徴とする請求項3に記載の樹脂成形金型。
【請求項5】
前記底面部は、前記中央部における開口率が前記周縁部における開口率よりも低い
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の樹脂成形金型。
【請求項6】
前記側面部は、リリースフィルムを吸着させることが可能な多孔質金属により形成されている
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の樹脂成形金型。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂成形金型と、
前記樹脂成形金型の前記型面に対してリリースフィルムを供給するフィルム供給機構と
を備えることを特徴とする樹脂成形装置。
【請求項8】
樹脂成形用のキャビティを形成するためのキャビティ凹部を型面に有する樹脂成形金型に対してリリースフィルムを吸着させるフィルム吸着方法であって、
前記キャビティ凹部の底部を構成する底面部を、リリースフィルムを吸着させることが可能な多孔質金属により形成し、
前記底面部の中央部における吸着力を、該リリースフィルムを該底面部上において面方向にスライドさせることができるよう、該底面部の周縁部における吸着力よりも弱めた状態において、前記型面にリリースフィルムを吸着させる
ことを特徴とするフィルム吸着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の成形に用いられる樹脂成形金型、樹脂成形装置及びフィルム吸着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リードフレームや電子部品基板等に実装された半導体チップ等の電子部品の周囲をトランスファ成形によって絶縁性の熱硬化性樹脂でモールドすることにより、樹脂封止型の半導体製品(樹脂成形品)を製造する樹脂成形装置が知られている。また、このような樹脂成形装置の一種として、金型の型面にリリースフィルムを予め吸着支持させた状態で成形樹脂を注入して熱硬化させることで、成形樹脂が金型の型面に直接触れることなく樹脂成形を行う樹脂成形装置が知られている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
例えば特許文献1には、上型及び下型のクランプ面にリリースフィルムを吸着する吸着孔を設けると共に、キャビティの底面の周縁(角部)に沿ってキャビティ吸着孔を設け、クランプ面の吸着孔によってリリースフィルムを吸着支持させた状態で、キャビティ吸着孔によりリリースフィルムを吸引することにより、キャビティの内面形状に沿ってリリースフィルムを吸着させるよう構成された樹脂成形装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、キャビティを形成する成型部を多孔質材により形成し、この多孔質成型部を介してリリースフィルムを吸引することにより、キャビティの内面形状に沿ってリリースフィルムを吸着させるよう構成された樹脂成形装置が開示されている。
【0005】
これら特許文献1及び2の樹脂成形装置によれば、金型の型面に成形樹脂が直接触れないため、金型に対する樹脂成形品の離型性を向上させることができると共に、金型の摩耗を低減することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平8-142105号公報
【文献】特開平7-283260号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の樹脂成形装置では、キャビティの底面の周縁(角部)に沿ってキャビティ吸着孔を設ける必要があるため、キャビティ吸着孔の平面形状、断面形状、溝幅及び深さ等に自ずと制約が生じ、これに起因して、パッケージ角部(樹脂成形品におけるモールド部分の角部)の成形形状等にも制約が生じるという問題がある。
【0008】
一方、特許文献2の樹脂成形装置は、多孔質成型部の全面にリリースフィルムを吸着させるものであるため、特許文献1の樹脂成形装置と比較して、パッケージ角部の成形形状の自由度は高い。しかしながら、特許文献2の樹脂成形装置では、多孔質成型部の全面から一斉に均一の吸引力を発生させてリリースフィルムを吸着させるものであるため、リリースフィルムに厚みムラが発生するおそれがあり、これにより、パッケージ表面(樹脂成形品におけるモールド部分の表面)の成形形状にムラが生じるおそれがあると共に、リリースフィルムが破れるおそれがあるという問題がある。
【0009】
すなわち、特許文献2の樹脂成形装置において、多孔質成型部の全面から一斉に均一の吸引力を発生させると、図12(a)に示すように、リリースフィルムRFが弧状に撓みはじめ、リリースフィルムRFの中央部(弧の頂点)が最初に多孔質成型部100に接触し、吸着される。この状態において、リリースフィルムRFは、その中央部が強い吸引力により多孔質成型部100に完全に吸着されているため、多孔質成型部100に対する相対移動(横スライド)が実質的に不能な状態となっている。そして、このようにリリースフィルムRFの中央部が多孔質成型部100に固定された状態から、図12(b)に示すように、リリースフィルムRFの中央部から周縁部に向けて徐々に多孔質成型部100との接触範囲(吸着範囲)が拡がり、最終的に、図12(c)に示すように、多孔質成型部100の内面全体にリリースフィルムRFが吸着される。
【0010】
このような一連の吸着フローにおいて、リリースフィルムRFは、その中央部が多孔質成型部100に固定された状態で、多孔質成型部100の熱により伸張されながら徐々に吸着範囲を広げることとなるため、必然的に、最初に吸着される中央部よりも、より伸張された状態で吸着される周縁部の方が、フィルム厚さが薄くなる。このため、このような状態で成形された樹脂成形品では、モールド部分の中央部と周縁部とで厚み方向の寸法にばらつきが生じ、成形不良となるおそれがある。また、充填する成形樹脂の圧力によって、厚みの薄い周縁部に破れが生じるおそれがある。このようなリリースフィルムRFの破れは、成形樹脂が多孔質成型部100上に漏れ出し、該多孔質成型部100の気孔を埋めてしまう等の不具合を引き起こし、金型復旧に多大な費用と手間がかかるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、パッケージ角部の成形形状の自由度を確保しつつ、リリースフィルムの厚みムラの発生を抑制することが可能な樹脂成形金型、樹脂成形装置及びフィルム吸着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明に係る樹脂成形金型は、樹脂成形用のキャビティを形成するためのキャビティ凹部を型面に有する樹脂成形金型であって、前記キャビティ凹部は、該キャビティ凹部の底部を構成する底面部と、該底面部を取り囲む側面部とを有し、前記底面部は、リリースフィルムを吸着させることが可能な多孔質金属により形成されており、中央部における吸着力が周縁部における吸着力よりも弱くなるよう構成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る樹脂成形金型において、前記底面部において、前記中央部の吸着力を前記周縁部の吸着力よりも低下させるよう構成されることが好ましい。
【0014】
本発明に係る樹脂成形金型において、前記底面部は、前記中央部に吸引率を低下させる吸引阻害加工が施されても良い。
【0015】
本発明に係る樹脂成形金型において、前記吸引阻害加工は、前記底面部の前記中央部に施す放電加工であっても良い。
【0016】
本発明に係る樹脂成形金型において、前記底面部は、前記中央部における開口率が前記周縁部における開口率よりも低くても良い。
【0017】
本発明に係る樹脂成形金型において、前記側面部は、リリースフィルムを吸着させることが可能な多孔質金属により形成されても良い。
【0018】
本発明に係る樹脂成形装置は、上述した樹脂成形金型と、前記樹脂成形金型の前記型面に対してリリースフィルムを供給するフィルム供給機構とを備えることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るフィルム吸着方法は、樹脂成形用のキャビティを形成するためのキャビティ凹部を型面に有する樹脂成形金型に対してリリースフィルムを吸着させるフィルム吸着方法であって、前記キャビティ凹部の底部を構成する底面部を、リリースフィルムを吸着させることが可能な多孔質金属により形成し、前記底面部の中央部における吸着力を、該底面部の周縁部における吸着力よりも弱めた状態において、前記型面にリリースフィルムを吸着させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、パッケージ角部の成形形状の自由度を確保しつつ、リリースフィルムの厚みムラの発生を抑制することが可能な樹脂成形金型、樹脂成形装置及びフィルム吸着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る樹脂成形装置を概略的に示す図である。
図2】上型の型面を概略的に示す図である。
図3】樹脂成形金型、リリースフィルム及びトランスファ機構を概略的に示す図である。
図4】樹脂成形方法におけるフィルム吸着工程を示す図である。
図5】樹脂成形方法におけるフィルム吸着工程を示す図である。
図6】実施形態に係る樹脂成形金型によりフィルム吸着を行う場合のフローを示す図である。
図7】樹脂成形方法における樹脂成形工程を示す図である。
図8】樹脂成形方法における樹脂成形工程を示す図である。
図9】樹脂成形方法における樹脂成形工程を示す図である。
図10】樹脂成形方法におけるフィルム剥離工程及び樹脂成形品取出工程を示す図である。
図11】変形例に係る樹脂成形金型を概略的に示す図である。
図12】従来の多孔質成型部によりフィルム吸着を行う場合のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の縮尺や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0023】
[樹脂成形装置の全体構成]
まず、第1実施形態に係る樹脂成形装置10について、図1図3を用いて説明する。
【0024】
第1実施形態に係る樹脂成形装置10は、図1に示すように、床面上に載置された矩形板状の下プラテン12と、下プラテン12の四隅から上方に向けて延びる4本のタイバー14と、4本のタイバー14の上端部に四隅が連結された矩形板状の上プラテン16と、4本のタイバー14が四隅を貫通し、下プラテン12及び上プラテン16の間においてタイバー14に沿って昇降可能に設けられた矩形板状の移動プラテン18と、下プラテン12と移動プラテン18との間に設けられ、移動プラテン18を昇降させる昇降型締機構20と、移動プラテン18の上面に設けられたトランスファ機構50と、樹脂成形装置10の各種制御を実行する制御部(図示せず)とを備えている。なお、本実施形態に係る樹脂成形装置10において、これら下プラテン12、タイバー14、上プラテン16、移動プラテン18、昇降型締機構20及び制御部は、種々の公知の構成を採用することが可能であるため、その詳細な説明を省略する。
【0025】
また、第1実施形態に係る樹脂成形装置10は、図1に示すように、上プラテン16とトランスファ機構50との間に設けられた樹脂成形金型26と、樹脂成形金型26の型面に対してリリースフィルムRFを供給するフィルム供給機構70A,70Bとを備えている。
【0026】
[樹脂成形金型の構成]
樹脂成形金型26は、マルチポット式の成形金型であり、図1に示すように、上プラテン16の下面に取り付けられた上型30と、上型30と対向するようトランスファ機構50に取り付けられ、上型30と共にキャビティC(図8参照)を形成可能な下型60とを備えている。
【0027】
上型30は、図2及び図3に示すように、下型60と対向して配置され、下型60との間において樹脂成形用のキャビティCを形成可能な型面32を有している。上型30の型面32には、プランジャ52毎に形成されたカル部33aと、被封止対象となる電子部品と整合する位置に樹脂成型用のキャビティCを形成可能なキャビティ凹部33dと、カル部33aからキャビティ凹部33dに向けて溶融樹脂を流動させるランナ部33bと、ランナ部33bを流動する溶融樹脂をキャビティ凹部33d内に流入させるゲート部33cとが、それぞれプランジャ52と同数(本実施形態では3つ)ずつ形成されている。なお、カル部33aとは、収容ポット形成孔部51及びプランジャ52と整合する位置に形成された略円形状の領域をいうものとする。また、ランナ部33bは、キャビティ凹部33dに向けて樹脂を流動させる経路のうち、カル部33aからゲート部33cまでの領域をいうものとする。さらに、ゲート部33cは、溶融樹脂がキャビティ凹部33dに流入される流入口であって、ランナ部33bからキャビティ凹部33dまでの領域をいうものとする。
【0028】
上型30は、型面32に設けられた複数の吸着孔(外縁吸着孔40及びカル部吸着孔42)と、キャビティ凹部33dの後述する底面部34とからそれぞれ発生される吸着力により、型面32に対してリリースフィルムRFを吸着させることが可能に構成されている。
【0029】
具体的には、上型30は、図2及び図3に示すように、型面32のうち、下型60の後述する型面62との間においてクランプ面を構成する部分に、複数の外縁吸着孔40が形成されている。複数の外縁吸着孔40は、図2に示すように、カル部33a、ランナ部33b及びキャビティ凹部33dの外側にそれぞれ配されており、好適には、各キャビティ凹部33dの外側全域を取り囲むように配置されている。複数の外縁吸着孔40は、上型30の裏面側(型面32とは反対側の面側)において、共通の第1吸引路(図示せず)に連通しており、該第1吸引路には、第1真空装置(図示せず)が接続されている。そして、複数の外縁吸着孔40は、第1真空装置による吸引力により、互いに協働して、型面32にリリースフィルムRFを吸着させるよう構成されている。
【0030】
また、上型30のキャビティ凹部33dは、図3に示すように、それぞれ、キャビティ凹部33dの底部を構成する底面部34と、該底面部34を取り囲む側面部35とを有する凹状に形成されており、各底面部34は、リリースフィルムRFを吸着させることが可能な多孔質金属により形成されている。さらに、上型30は、図2及び図3に示すように、各カル部33aにカル部吸着孔42が形成されている。各キャビティ凹部33dの底面部34と各カル部吸着孔42とは、上型30の裏面側(型面32とは反対側の面側)において、共通の第2吸引路(図示せず)に連通しており、該第2吸引路には、第2真空装置(図示せず)が接続されている。ここで、第2吸引路は、上述した第1吸引路とは流体的に分離された流路であり、第2真空装置は、上述した第1真空装置とは別体として設けられた吸引手段である。そして、各底面部34及び各カル部吸着孔42は、第2真空装置による吸引力により、互いに協働して、各カル部33a、各ランナ部33b、各ゲート部33c及び各キャビティ凹部33dの内面形状に沿ってリリースフィルムRFを吸着させるよう構成されている。
【0031】
複数の外縁吸着孔40に接続される第1真空装置と、各底面部34及び各カル部吸着孔42に接続される第2真空装置とは、互いに異なるタイミングで吸引力を発生させることが可能に構成されている。具体的には、第1真空装置は、第2真空装置よりも先行して吸引力を発生させることで、上型30のクランプ面にリリースフィルムRFを吸着支持させることが可能に構成されている。また、第2真空装置は、第1真空装置の動作により上型30のクランプ面にリリースフィルムRFが吸着支持された後に吸引力を発生させることで、各カル部33a、各ランナ部33b、各ゲート部33c及び各キャビティ凹部33dの内面形状に沿ってリリースフィルムRFを吸着させることが可能に構成されている。なお、これら第1真空装置及び第2真空装置は、リリースフィルムRFを型面32から剥離させる際に正のエア圧を発生可能な構成であっても良い。
【0032】
底面部34は、裏面側(型面32とは反対側の面側)から表面側(型面32側)に亘って通気可能な通気性を有しており、第2真空装置から付与される吸引力により、該底面部34の表面に、リリースフィルムRFを吸着させる吸着力を発生させることが可能に構成されている。底面部34を構成する多孔質金属としては、ポーラス超硬金属を好適に用いることが可能であるが、これに限定されるものではない。本実施形態に係る上型30において、側面部35は、多孔質金属により形成されておらず、底面部34とは別体として構成されている。
【0033】
底面部34は、その中央部における吸着力が周縁部における吸着力よりも弱くなるよう構成されている。換言すれば、底面部34は、その中央部に設けられた低吸着領域36と、該低吸着領域36の周囲に設けられた高吸着領域37とを備えている。
【0034】
底面部34の中央部における吸着力を周縁部における吸着力よりも弱める方法としては、例えば、以下の(1)及び(2)に示す方法が例示されるが、これらに限定されるものではない。また、これら(1)及び(2)の方法は、択一的に採用されても良いし、双方ともに採用されても良い。
(1) 底面部34において、中央部の吸着力を周縁部の吸着力よりも低下させる方法。
(2) 底面部34の中央部に付与される吸引力自体を、周縁部に付与される吸引力よりも低下させる方法
【0035】
上記(1)の方法としては、底面部34の中央部に対し、吸引率を低下させる吸引阻害加工を施す方法が挙げられる。吸引阻害加工としては、例えば、多孔質金属からなる底面部34内の気孔(微細な穴)を埋める又は塞ぐ加工が拳げられる。
【0036】
具体的には、上記(1)の吸引阻害加工としては、底面部34の中央部に施す放電加工が例示される。すなわち、底面部34を構成するキャビティブロックは、ブロック状の多孔質金属材料から切り出し、切削加工、研削加工及び穴あけ加工等の各種加工工程を経てキャビティ部品となるが、これらの加工工程中に中央部に所定条件の放電加工を施し、当該加工箇所の気孔の全部又は一部を封じる加工が挙げられる。この場合には、底面部34の中央部(低吸着領域36)は、気孔が埋められた孔埋め部となる。このような放電加工においては、所望の低吸着領域36の形状を有する電極を用いて底面部34に対して放電を行っても良いし、任意の形状の電極を用いて所望の低吸着領域36の形状となるまで放電を繰り返しても良い。
【0037】
このような吸引阻害加工が施されることにより、底面部34は、中央部(低吸着領域36)における開口率が周縁部(高吸着領域37)における開口率(底面部34が本来有する開口率)よりも低くなり、これにより、底面部34の中央部における吸着力(吸引率)を周縁部における吸着力(吸引率)よりも弱める(低下させる)ことが可能となる。
【0038】
なお、吸引阻害加工は、上述した放電加工に限定されず、例えば、通気性を低下させるシートを貼り付ける加工や、樹脂を浸透させて気孔を埋める加工等の種々の加工を採用することも可能である。また、吸引阻害加工は、上型30の型面32側に施しても良いし、上型30の裏面(型面32とは反対側の面)における底面部34の中央部と対応する部位に施しても良いし、両面に施しても良い。更には、一旦放電加工により吸引阻害加工を施した面を切削や研削で更に加工を進め、加工面の見た目の粗さを揃えることも可能である。
【0039】
上記(2)の方法としては、例えば、上型30の裏面側(型面32とは反対側の面側)において、底面部34の中央部に相当する部位を閉塞する方法が挙げられる。このような方法としては、例えば、底面部34を構成するキャビティブロックを支持する支持部材(図示せず)により、支持面(上型30の裏面、型面32とは反対側の面)の気孔を塞ぐ方法が挙げられる。この場合において、支持部材により底面部34の中央部に相当する部位のみを閉塞する構成としても良いし、底面部34の中央部に相当する部位と周縁部に相当する部位との双方を閉塞しつつ、これら両部位の閉塞面積に差を設ける構成としても良い。後者の場合においては、具体的には、底面部34の中央部に相当する部位の閉塞面積を、周縁部に相当する部位の閉塞面積よりも広くする構成としても良い。
【0040】
また、上記(2)に関するその他の方法として、上型30の裏面側(型面32とは反対側の面側)に形成された第2吸引路のうち、底面部34の中央部と対応する部位の流路を閉塞する方法や、該流路を絞って流量を低下させる方法や、該流路自体を形成しない方法等が挙げられる。流路を閉塞する又は該流路を絞る方法においては、例えば、上述した支持部材(図示せず)を閉塞部材として転用することができる。
【0041】
さらに、上記(2)に関するその他の方法として、底面部34の中央部に吸引力を付与する真空装置と、底面部34の周縁部に吸引力を付与する真空装置とを別々に設け、中央部用の真空装置の吸引力を周縁部用の真空装置の吸引力よりも弱める方法等も挙げられる。この場合においては、底面部34の内部に、中央部と周縁部との間の通気を阻害する防通気壁(仕切り壁)等が形成されることが好ましい。
【0042】
低吸着領域36における吸着力は、高吸着領域37の吸着力の30%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。また、低吸着領域36における吸着力をゼロとしても良い。
【0043】
本実施形態に係る上型30は、上述のとおり、底面部34の中央部における吸着力が周縁部における吸着力よりも弱くなるよう構成されている。これにより、本実施形態に係る上型30は、キャビティ凹部33dの中で最初にリリースフィルムRFと接触する底面部34の中央部において、過度にリリースフィルムRFが吸着せず、底面部34に対するリリースフィルムRFの吸着初期において、リリースフィルムRFを底面部34上において横方向(面方向)にスライドさせることが可能に構成されている。
【0044】
下型60は、図3に示すように、上型30と対向して配置され、上型30との間において樹脂成形用のキャビティCを形成可能な型面62を有している。下型60の型面62には、上型30のキャビティ凹部33dと整合する位置に、上型30のキャビティ凹部33dと共にキャビティCを形成するキャビティ凹部63が形成されている。
【0045】
下型60においても、上型30と同様に、型面62に設けられた複数の外縁吸着孔68と、キャビティ凹部63の後述する底面部64とからそれぞれ発生される吸着力により、型面62に対してリリースフィルムRFを吸着させることが可能に構成されている。
【0046】
具体的には、下型60は、図3に示すように、型面62のうち、上型30の型面32との間においてクランプ面を構成する部分に、複数の外縁吸着孔68が形成されている。複数の外縁吸着孔68は、キャビティ凹部63の外側全域を取り囲むように配置されている。複数の外縁吸着孔68は、下型60の裏面側(型面62とは反対側の面側)において、共通の第3吸引路(図示せず)に連通しており、該第3吸引路には、第3真空装置(図示せず)が接続されている。そして、複数の外縁吸着孔68は、第3真空装置による吸引力により、互いに協働して、型面62にリリースフィルムRFを吸着させるよう構成されている。なお、複数の外縁吸着孔68は、第3真空装置ではなく、上型30と共通の第1真空装置に接続されても良い。
【0047】
また、下型60の各キャビティ凹部63は、上型30のキャビティ凹部33dと同様に、図3に示すように、各キャビティ凹部63の底部を構成する底面部64と、該底面部64を取り囲む側面部65とを有する凹状に形成されている。各底面部64は、上型30の底面部34と同様に、リリースフィルムRFを吸着させることが可能な多孔質金属により形成されており、下型60の裏面側(型面62とは反対側の面側)において、共通の第4吸引路(図示せず)に連通しており、該第4吸引路には、第4真空装置(図示せず)が接続されている。そして、各底面部64は、第4真空装置による吸引力により、互いに協働して、キャビティ凹部63の内面形状に沿ってリリースフィルムRFを吸着させるよう構成されている。なお、各底面部64は、第4真空装置ではなく、上型30と共通の第2真空装置に接続されても良い。
【0048】
下型60の底面部64は、上型30の底面部34と同様に、裏面側(型面62とは反対側の面側)から表面側(型面62側)に亘って通気可能な通気性を有しており、第4真空装置(又は第2真空装置)から付与される吸引力により、該底面部64の表面に、リリースフィルムRFを吸着させる吸着力を発生させることが可能に構成されている。また、下型60の底面部64は、上型30の底面部34と同様に、その中央部における吸着力が周縁部における吸着力よりも弱くなるよう構成されている。換言すれば、底面部64は、その中央部に設けられた低吸着領域66と、該低吸着領域66の周囲に設けられた高吸着領域67とを備えている。なお、下型60において、底面部64の構成材料や、底面部64の中央部における吸着力を周縁部における吸着力よりも弱める方法等は、上型30の底面部34の場合と同様であるため、その説明を省略する。
【0049】
本実施形態に係る下型60においても、上型30と同様に、底面部64の中央部における吸着力が周縁部における吸着力よりも弱くなるよう構成されていることにより、キャビティ凹部63の中で最初にリリースフィルムRFと接触する底面部64の中央部において、過度にリリースフィルムRFが吸着せず、底面部64に対するリリースフィルムRFの吸着初期において、リリースフィルムRFを底面部64上において横方向(面方向)にスライドさせることが可能に構成されている。
【0050】
[フィルム供給機構の構成]
フィルム供給機構70A,70Bは、図1に示すように、上型30の型面32に対してリリースフィルムRFを供給する上型用フィルム供給機構70Aと、下型60の型面62に対してリリースフィルムRFを供給する下型用フィルム供給機構70Bとを備えている。
【0051】
上型用フィルム供給機構70A及び下型用フィルム供給機構70Bは、図1に示すように、それぞれ、型面32,62に対してリリースフィルムRFを送り出すフィルム供給部72と、フィルム供給部72から送り出されたリリースフィルムRFを巻き取って回収するフィルム巻取部74とを備えている。
【0052】
フィルム供給部72は、ロール状に巻かれたリリースフィルムRFを保持可能に構成されると共に、該リリースフィルムRFを連続的に繰り出すことが可能に構成されている。フィルム巻取部74は、樹脂成形金型26を境とした場合におけるフィルム供給部72とは反対側に設置されており、フィルム供給部72から連続的に繰り出されたリリースフィルムRFをロール状に巻き取ることが可能に構成されている。これにより、フィルム供給部72から繰り出され、フィルム巻取部74により巻き取られる前のリリースフィルムRFの領域(フィルム供給部72とフィルム巻取部74との間に掛け渡された領域)が、型面32,62とそれぞれ対向して配置されることとなる。
【0053】
フィルム供給部72及びフィルム巻取部74は、型開閉方向に沿って可動となっており、これにより、リリースフィルムRFが型面32,62とそれぞれ対向して配置された状態において、該リリースフィルムRFを型面32,62に対して接近又は離間させることが可能に構成されている。具体的には、上型用フィルム供給機構70Aのフィルム供給部72及びフィルム巻取部74は、上型30の型面32に対してリリースフィルムRFを接近させることにより、該型面32にリリースフィルムRFを吸着させることが可能に構成されていると共に、上型30の型面32に対してリリースフィルムRFを離間させることにより、該型面32からリリースフィルムRFを剥離させることが可能に構成されている。また、下型用フィルム供給機構70Bも同様に、下型60の型面62に対してリリースフィルムRFを接近又は離間させることが可能に構成されている。
【0054】
上型用フィルム供給機構70A及び下型用フィルム供給機構70Bは、上述したフィルム供給部72からフィルム巻取部74へのリリースフィルムRFの送り出し動作や、型面32,62に対するリリースフィルムRFの接近・離間動作が、制御部により、樹脂成形制御と連動して自動的に実行されるよう構成されている。
【0055】
リリースフィルムRFは、型面32,62のキャビティ凹部33d,63に倣って変形可能な可撓性を有すると共に、少なくとも成形樹脂に接触する面が、該成形樹脂に対する低密着性を有している。リリースフィルムRFは、このような可撓性及び低密着性を有するものであれば、この種のリリースフィルム(離型フィルム)として通常使用可能なものを任意に採用することが可能である。例えば、リリースフィルムRFは、耐熱性、離型性、柔軟性及び伸張性(伸展性)等の特性を有する樹脂材料により形成することが可能であり、具体的には、PTFE、ETFE、PET、FEP、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン等の樹脂材料を用途に応じて使用することができる。
【0056】
なお、本実施形態においては、フィルム供給部72からフィルム巻取部74まで連続して供給される長尺状のリリースフィルムRFを例示しているが、これに限定されず、短冊状にカットされ枚葉状のリリースフィルムであっても良い。
【0057】
[トランスファ機構の構成]
トランスファ機構50は、図3に示すように、複数(本実施形態では3本)のプランジャ52を有するマルチポット式(マルチプランジャ式)トランスファ機構である。具体的には、トランスファ機構50は、樹脂成形金型26のキャビティCと連通し、タブレット状のモールド材料(図示せず)を収容可能な複数(本実施形態では3つ)の収容ポット形成孔部51と、収容ポット形成孔部51毎に配され、収容ポット形成孔部51内に収容されたモールド材料をキャビティCに向けて押し出すプランジャ52と、複数(本実施形態では3本)のプランジャ52を支持するプランジャホルダ(図示せず)と、プランジャホルダを昇降させる駆動手段(図示せず)と、樹脂成形金型26及び収容ポット形成孔部51を加熱する加熱手段(図示せず)とを備えている。なお、本実施形態に係る樹脂成形装置10において、トランスファ機構50は、種々の公知の構成を採用することが可能であるため、その詳細な説明を省略する。
【0058】
[樹脂成形装置の動作]
次に、以上の構成を備える樹脂成形装置10を用いて行う樹脂成形方法について、図4図10を用いて説明する。本実施形態に係る樹脂成形方法は、概略的には、樹脂成形金型26に対してリリースフィルムRFを吸着させるフィルム吸着工程(フィルム吸着方法)(図4図6)と、ワーク(リードフレームや電子部品基板等)に対する樹脂成形を実行する樹脂成形工程(図7図9)と、樹脂成形金型26からリリースフィルムRFを剥離させると共に樹脂成形品を取り出すフィルム剥離工程及び樹脂成形品取出工程(図10)とを含んでいる。
【0059】
本実施形態に係る樹脂成形方法では、樹脂成形工程に先立ち、樹脂成形金型26に対してリリースフィルムRFを吸着させるフィルム吸着工程(フィルム吸着方法)を実行する。フィルム吸着工程は、概略的には、キャビティ凹部33d,63の底部を構成する底面部34,64を、上述のとおりリリースフィルムRFを吸着させることが可能な多孔質金属により形成し、底面部34,64の中央部における吸着力を、該底面部34,64の周縁部における吸着力よりも弱めた状態において、型面32,62にリリースフィルムRFを吸着させる工程である。以下、当該フィルム吸着工程について、詳述する。
【0060】
フィルム吸着工程では、まず、図4に示すように、上型用フィルム供給機構70Aにより供給されるリリースフィルムRFを所定の張力で張ったまま、上型30の型面32に当接させる。また、これと同時又はその前後に、下型用フィルム供給機構70Bにより供給されるリリースフィルムRFを所定の張力で張ったまま、下型60の型面62に当接させる。そして、第1真空装置を駆動させ、上型30の複数の外縁吸着孔40に吸着力を発生させることより、上型用フィルム供給機構70Aにより供給されるリリースフィルムRFを上型30の型面32のクランプ面に吸着させる。また、同様に、第3真空装置(又は第1真空装置)を駆動させ、下型60の複数の外縁吸着孔68に吸着力を発生させることより、下型用フィルム供給機構70Bにより供給されるリリースフィルムRFを下型60の型面62のクランプ面に吸着させる。なお、この状態において、樹脂成形金型26は、成形表面が所定の温度(例えば120℃~180℃)になるよう温度調節されている。
【0061】
フィルム吸着工程では、次に、図5に示すように、上型30の型面32のクランプ面にリリースフィルムRFを吸着支持させた状態で、第2真空装置を駆動させ、上型30の各底面部34及び各カル部吸着孔42に吸着力を発生させることにより、上型用フィルム供給機構70Aにより供給されるリリースフィルムRFを各カル部33a、各ランナ部33b、各ゲート部33c及び各キャビティ凹部33dの内面形状に沿って吸着させる。また、同様に、第4真空装置(又は第2真空装置)を駆動させ、下型60の各底面部64に吸着力を発生させることより、下型用フィルム供給機構70Bにより供給されるリリースフィルムRFを各キャビティ凹部63の内面形状に沿って吸着させる。
【0062】
ここで、リリースフィルムRFが各キャビティ凹部33d,63の内面形状に沿って吸着する過程を、図6を用いて説明する。図6においては、下型60を例示するが、上型30においても同様である。
【0063】
各キャビティ凹部33d,63の底面部34,64に吸着力を発生させると、まず図6(a)に示すように、リリースフィルムRFが弧状に撓みはじめ、図6(b)に示すように、リリースフィルムRFの中央部(弧の頂点)が最初に底面部34,64の中央部(低吸着領域36,66)に接触する。
【0064】
この状態において、底面部34,64の中央部(低吸着領域36,66)は、吸着力が弱められている又は吸着力がないため、リリースフィルムRFは、底面部34,64に過度に吸着せず、底面部34,64上において横方向(面方向)にスライドさせることが可能である。このため、従来の樹脂成形装置(図12(b)参照)とは異なり、底面部34,64の中央部(低吸着領域36,66)において、リリースフィルムRFを均一な厚さで伸張させることができる。
【0065】
そして、この状態から、リリースフィルムRFの中央部から周縁部に向けて徐々に底面部34,64との接触範囲(吸着範囲)が拡がり、最終的に、図6(c)に示すように、各キャビティ凹部33d,63の内面全体にリリースフィルムRFが吸着される。このような接触範囲が拡がる過程において、底面部34,64の周縁部(高吸着領域37,67)においても、フィルム厚さがほぼ均等なままリリースフィルムRFを吸着させることが可能となる。これにより、底面部34,64の中央部と周縁部との間における厚み方向の寸法をほぼ均一にすることができ、成形精度を向上させることができると共に、最後に密着する隅部(底面部34,64と側面部35,65との境界部分)の厚さを破れない程度にコントロールすることができる。
【0066】
以上のフィルム吸着工程により上型30及び下型60の型面32,62にリリースフィルムRFが完全に吸着されると、樹脂成形工程へ移行する。樹脂成形工程では、まず、図7に示すように、図示しない搬送装置により樹脂成形金型26内にワークW(リードフレームや電子部品基板等)及びタブレット状のモールド材料Mを搬入し、下型60の型面62上にワークWを載置させると共に、収容ポット形成孔部51内にモールド材料Mを投入する。その後、図8に示すように、昇降型締機構20により上型30及び下型60を型閉じし、上型30及び下型60によってワークWを挟み込む。これにより、上型30の型面32と下型60の型面62との間に、所定数のカル部33a、ランナ部33b、ゲート部33c及びキャビティ凹部33d,63が形成される。また、上型30の各キャビティ凹部33dと下型60の各キャビティ凹部63との間に、樹脂成形用のキャビティCが形成される。
【0067】
その後、樹脂成形工程では、図9に示すように、トランスファ機構50を作動させ、プランジャ52を所定圧力で上昇させる。これにより、溶融したモールド材料M(成形樹脂)が加圧され、カル部33a→ランナ部33b→ゲート部33c→キャビティ凹部33d,63の順で流動し、これらの空間に充填される。なお、この際、上型30及び下型60の型面32,62はリリースフィルムRFにより覆われているため、成形樹脂は上型30及び下型60の型面32,62に直接的には接触しない。その後、所定のキュア時間(例えば30秒~120秒程度)保圧状態とすることにより、成形樹脂を熱硬化させる。なお、成形樹脂がキャビティCに充填され、保圧状態となった時点で、リリースフィルムRFを吸着させるための各真空装置は停止しても良い。
【0068】
以上の樹脂成形工程により樹脂成形金型26にて樹脂成形品Pが成形されると、フィルム剥離工程及び樹脂成形品取出工程へ移行する。フィルム剥離工程及び樹脂成形品取出工程では、まず、トランスファ機構50を作動させ、保圧状態を解除すると共に、プランジャ52を下降させる。また、昇降型締機構20を作動させ、上型30及び下型60を開きさせる。この際、上型用フィルム供給機構70Aにより供給されるリリースフィルムRFと、下型用フィルム供給機構70Bにより供給されるリリースフィルムRFとは、所定の張力で張られているため、上型30及び下型60の型開きに伴い、図10に示すように、上型30の型面32及び下型60の型面62からそれぞれ剥離(リリース)される(フィルム剥離工程)。
【0069】
そして、図示しない製品取り出し装置により、樹脂成形金型26にて成形された樹脂成形品Pが取り出され、該樹脂成形品Pに付着した不要樹脂を排除するゲートブレーク装置等の下流システムへ搬送される(樹脂成形品取出工程)。この際、リリースフィルムRFは、成形樹脂に対する低密着性を有しているため、樹脂成形品PをリリースフィルムRFから容易に剥離させることができる。
【0070】
以上の工程を経た後、上型用フィルム供給機構70Aにより供給されるリリースフィルムRFと、下型用フィルム供給機構70Bにより供給されるリリースフィルムRFとは、次回成形のために使用済み部分が各フィルム巻取部74により巻き取られ、これと同時に、各フィルム供給部72から未使用部分が新たに供給される。そして、以上の工程を1サイクルとして、これを繰り返し実施することにより、樹脂成形品Pを連続して成形することができる。
【0071】
[本実施形態に係る樹脂成形装置の利点]
以上説明したとおり、本実施形態に係る樹脂成形装置10は、樹脂成形用のキャビティCを形成するためのキャビティ凹部33d,63が、該キャビティ凹部33d,63の底部を構成する底面部34,64と、該底面部34,64を取り囲む側面部35,65とを有し、該底面部34,64が、リリースフィルムRFを吸着させることが可能な多孔質金属により形成され、かつ、中央部における吸着力が周縁部における吸着力よりも弱くなるよう構成されている。
【0072】
このような構成を備えることにより、本実施形態に係る樹脂成形装置10は、キャビティ凹部33d,63の中で最初にリリースフィルムRFと接触する底面部34,64の中央部において、リリースフィルムRFが過度に吸着することを抑制でき、これにより、底面部34,64に対するリリースフィルムRFの吸着初期において、リリースフィルムRFを底面部34,64上において横方向(面方向)にスライドさせることが可能となる。
【0073】
そして、その結果、既述のとおり、底面部34,64の中央部(低吸着領域36,66)において、リリースフィルムRFを均一な厚さで吸着させることができる。また、中央部(低吸着領域36,66)よりも遅れて吸着される周縁部(高吸着領域37)においても、フィルム厚さがほぼ均等なままリリースフィルムRFを吸着させることが可能となる。
【0074】
このように、本実施形態に係る樹脂成形装置10によれば、底面部34,64の中央部と周縁部との間における厚み方向の寸法をほぼ均一にすることができるため、成形精度を向上させることができると共に、最後に密着する隅部(底面部34,64と側面部35,65との境界部分)の厚さを破れない程度にコントロールすることができる。また、リリースフィルムRFの破れを防止することにより、成形樹脂の漏れ出しによって底面部34,64の気孔を埋めてしまう等の不具合がなくなるため、金型復旧に必要な多大な費用及び手間を削減することが可能となる。
【0075】
[変形例]
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の範囲には限定されない。上記各実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0076】
例えば、上述した実施形態では、上型30及び下型60の側面部35,65が、多孔質金属により形成されておらず、底面部34,64とは別体として構成されるものとして説明したが、これに限定されるものではない。例えば図11に示すように、底面部34,64に加えて側面部35´,65´も、リリースフィルムRFを吸着させることが可能な多孔質金属により形成されても良い。また、この場合において、底面部34,64と側面部35´,65´は、一体として形成されても良い。このように、側面部35´,65´も多孔質金属により形成される場合には、側面部35´,65´におけるリリースフィルムRFの密着性を向上させることが可能となるため、成形精度を向上させることが可能となる。また、底面部34,64と側面部35´,65´とが一体として形成される場合には、部品点数が減少するため、樹脂成形金型26の組み立て効率が向上するという利点がある。なお、当該変形例に係る樹脂成形装置において、上述した実施形態と同じ構成については、図11において同じ符号を付すことによりそれらの説明を省略する。
【0077】
上述した実施形態では、底面部34,64が、低吸着領域36と高吸着領域37とに二分される構成(中心から周縁に向けて2段階的に吸着力が弱くなる構成)であるものとして説明したが、これに限定されず、3段階以上の段数をもって段階的に吸着力が弱くなる構成としても良いし、底面部34,64の中心から周縁に向けて徐々に吸着力が弱くなる構成(吸着力に勾配を持たせる構成)であっても良い。また、中央部(低吸着領域36)内のみにおいて、このような段階的に吸着力が弱くなる構成や、吸着力に勾配を持たせる構成を採用しても良い。
【0078】
上述した実施形態では、上型30の型面32と下型60の型面62との双方にリリースフィルムRFを吸着させるものとして説明したが、これに限定されず、上型30の型面32のみにリリースフィルムRFを吸着させる構成としても良いし、下型60の型面62のみにリリースフィルムRFを吸着させる構成としても良い。
【0079】
上述した実施形態では、樹脂成形装置が熱硬化性樹脂を用いたトランスファ樹脂封止成形を行う樹脂封止装置であるものとして説明したが、これに限定されず、例えば熱可塑性樹脂を用いた射出形成装置であるとしても良い。
【0080】
上記のような変形例が本発明の範囲に含まれることは、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0081】
10 :樹脂成形装置
26 :樹脂成形金型
30 :上型
32 :型面
33a :カル部
33b :ランナ部
33c :ゲート部
33d :キャビティ凹部
34 :底面部
35,35´ :側面部
36 :低吸着領域
37 :高吸着領域
40 :外縁吸着孔
42 :カル部吸着孔
60 :下型
62 :型面
63 :キャビティ凹部
64 :底面部
65,65´ :側面部
66 :低吸着領域
67 :高吸着領域
68 :外縁吸着孔
70A :上型用フィルム供給機構
70B :下型用フィルム供給機構
72 :フィルム供給部
74 :フィルム巻取部
C :キャビティ
RF :リリースフィルム
【要約】
【課題】パッケージ角部の成形形状の自由度を確保しつつ、リリースフィルムの厚みムラの発生を抑制することが可能な樹脂成形金型、樹脂成形装置及びフィルム吸着方法を提供する。
【解決手段】樹脂成形用のキャビティを形成するためのキャビティ凹部を型面に有する樹脂成形金型である。キャビティ凹部は、該キャビティ凹部の底部を構成する底面部と、該底面部を取り囲む側面部とを有している。底面部は、リリースフィルムを吸着させることが可能な多孔質金属により形成されており、中央部における吸着力が周縁部における吸着力よりも弱くなるよう構成されている。
【選択図】図6
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12